説明

ベンゼン環を有するπ電子共役系化合物を含有する膜状体の製法、及び該π電子共役系化合物の製法。

【課題】ベンゼン環を含むπ電子共役系化合物及びその薄膜の製造方法、加えて該薄膜の有機電子デバイスへの応用の提供。
【解決手段】π電子共役系化合物前駆体A-(B)mを含む溶媒の塗工液を基材に塗布して形成された塗工膜より、下記式(IIa)及び(IIb)の脱離性置換基を脱離させ、A-(C)mのπ電子共役系化合物の膜状体を製造する。


(Aはπ電子共役系置換基、Bは式(I)の構造を部分構造として有する置換基、mは自然数である。ただし、Bは式(I)中、(X1,X2),(Y1,Y2)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X1,X2),(Y1,Y2)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環し、Cは式(II)の構造を部分構造として有している。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成が容易で、溶解性に富むシクロヘキセン環を含むπ電子共役系化合物前駆体から、特定の置換基を脱離してベンゼン環を含むπ電子共役系化合物を含有する膜状体の製法、及び該化合物を簡便かつ高収率で製造する方法に関し、有機エレクトロニクス分野での応用、例えば、有機エレクトロルミセッセンス(EL)および有機半導体、有機太陽電池などの有機電子デバイス等の製造において有用であり、また有機顔料、有機色素の製膜の製造において有用である。
【背景技術】
【0002】
二重結合と一重結合が交互に並んだ形の部位を有するπ電子共役系化合物は高度に拡張されたπ電子系を有するため、ホール輸送、電子輸送性に優れ、例えば、エレクトロルミセッセンス材料、有機半導体材料(例えば特許文献1の特開平5−055568号公報、特許文献2のWO2006−077888号公報および非特許文献1のAppl.Phys.Lett.72,p1854 (1998)、非特許文献2のJ.Am.Chem.Soc. 128,p12604 <2006))や、有機色素、有機顔料等に広く応用されている。このようにπ電子共役系材料が広く用いられる中で、障害となるのはπ電子共役系化合物の多くは、平面性が高く剛直であるものが多いため、分子間の相互作用が非常に強固であり、水や有機溶媒への溶解性が乏しいことが挙げられる。例えば、有機顔料に関しては顔料の凝集にともない分散が不安定となる。またエレクトロルミネッセンス材料や有機半導体材料を例に取ると、難溶であるため溶液プロセスの適用が難しく、真空蒸着等の気相製膜が必要になるなどの問題があり、製造コスト、製造プロセスが煩雑になるといった問題があげられる。より大面積、高効率を考えると、スピンコート塗布、ブレードコート、グラビア印刷、インクジェット塗布、ディプコーティング塗布などの材料をあらかじめ溶解させることによる塗布によるウェットプロセスへの適応性が求められている。ただし、分子間の相互作用が非常に強固で、分子同士の隣接化、配列化や、凝集乃至結晶化し易いことは、伝導性に寄与するものであるので、概して、塗工製膜容易性と、得られた膜の伝導性とは相容れない場合が多い。この点は、当該技術を難しくしている1つの要因でもある。
【0003】
これに対して、π電子共役系化合物を含む有機化合物を可溶化するような反応性置換基を導入した前駆体に対して、外部刺激を与えることによって置換基を脱離し、目的の化合物を得る方法が提案されている(例えば、特許文献3の特開平7−188234号公報、特許文献4の特開2008−226959号公報、非特許文献3のNature,.388,p131, (1997))。この方法は、例えば、顔料分子中のアミノ基やアルコール性又はフェノール性ヒドロキシ基がt−ブトキシカルボニル基(tBoc基)で修飾された構造の顔料前駆体について、加熱等することでtBoc基を脱離させるものである。しかし、この方法は置換基が窒素原子もしくは酸素原子に連結される必要があるため化合物に制限があった。さらに前駆体の保存性の観点からも改善が求められていた。
【0004】
また、近年レトロディールスアルダー反応を利用して、溶媒可溶性の高い嵩高い置換基を有する前駆体から外部刺激を与えて可溶性付与基を脱離させることによって、ペンタセンやポルフィリン系化合物、フタロシアニン系化合物へと変換する方法が精力的に研究されている。(例えば、特許文献5の特開2007−224019号公報、特許文献6の特開2008−270843号公報、非特許文献4のAdv.Mater.,11,p480 (1999)、非特許文献5のJ.Appl.Phys.100,p034502 (2006)、非特許文献6のAppl.Phys.Lett.84,12, p2085 (2004)、非特許文献7のJ.Am.Chem.Soc.126, p1596 (2004))。
しかし、これらの例のうちペンタセン前駆体からはテトラクロロベンゼン分子等が脱離するが、テトラクロロベンゼンは、沸点が高く反応系外に取り除くことが難しいことに加え、その毒性が懸念される。また、ポルフィリン、フタロシアニンについてはいずれも煩雑な合成を必要とするため適用範囲が狭く、より簡便に合成可能な置換基の開発が必要とされている。
【0005】
またその他にスルホン酸エステル系置換基を有し溶媒溶解性の高い前駆体に外部刺激を与えることで、置換基を脱離し、水素原子に置き換えることで、フタロシアニンへと変換する方法が提案されている(例えば特許文献8の特開2009−84555号公報)。
しかし、この方法はスルホン酸エステルの極性が高いため非極性の有機溶媒への溶解性が十分ではなく、前駆体からの変換に要する温度も250 ℃〜300 ℃と比較的高いことが問題であった。
【0006】
また、オリゴチオフェンの分子末端にアルキル鎖を有するカルボン酸エステルを導入することで可溶化し、これに熱を加えて脱離させることでオレフィン置換オリゴチオフェンを得る方法が提案されている(例えば、特許文献9の特開2006―352143号公報、前記非特許文献7のJ.Am.Chem.Soc.126,p1596(2004))。この方法は150℃〜250℃程度の加熱で脱離が起こるが、変換後の分子末端にオレフィン基 (ビニル基、プロペニル基等) が生成し、これが熱や光によりシスートランスの異性化を伴うため、材料の純度の低下および結晶性が損なわれるという問題があった。また、反応性の高い末端オレフィン基の存在は、酸素や水分に対する安定性が低下すること、加えて高温下においてオレフィン基同士が熱重合反応を起こしてしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、有機溶媒に対する高い溶解性を有し、より合成が簡便である新規なπ電子共役化合物前駆体を用い、該前駆体に対して、熱などの外部刺激を加えることで、化学的に不安定な末端オレフィン基を生成することなく、ベンゼン環を含むπ電子共役系化合物を得る製造方法の提供を目的とする。また、この技術を利用し、難溶性π電子共役系化合物の連続した薄膜の効率的な製造方法の提供、加えて該薄膜の有機電子デバイスへの応用を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記(1)〜(11)によって解決される。
(1)
π電子共役系化合物前駆体A-(B)mを含む溶媒の塗工液を基材に塗布して形成された塗工膜より、下記一般式(IIa)および(IIb)で示される脱離性置換基を脱離させA-(C) mで示されるπ電子共役系化合物を含有する膜状体を生成することを特徴とする膜状体の製造方法。
【0009】
【化1】

(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(I)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。ただし、Bは上記一般式(I)中、(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。Cは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している。
上記一般式(I)および(II)中、(X, X)、(Y, Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともに、ハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X, X)または(Y, Y)の一対のハロゲン原子、前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記アシルオキシ基を形成していても良い。R乃至Rは水素原子、ハロゲン原子または有機基である。
(2)
前記塗工液の塗布が、インクジェット塗布、スピンコート法、溶液キャスト法、ディップコーティング法からなる群から選択される方法により行われることを特徴とする(1)
に記載の膜状体の製造方法。
(3)
前記置換基Aが、(i) 1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環が縮環された化合物、及び、(ii) 前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、からなる群から少なくとも一つ以上選択されるπ電子共役系化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の膜状体の製造方法。
(4)
前記化合物A-(B)mより脱離する成分(X-YおよびX-Y)がハロゲン化水素またはカルボン酸を含むことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の膜状体の製造方法。
(5)
前記化合物A-(B)mが溶媒可溶性であり、前記脱離性置換基の脱離により生成する前記化合物A-(C)mが溶媒不溶性であることを特徴とする(2)乃至(4)のいずれかに記載の膜状体の製造方法。
(6)
前記置換基BおよびCが下記一般式(III)および(IV)に示される部分構造を有していることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の膜状体の製造方法。
【0010】
【化2】

(ここで、X,X,Y,Y及びR〜Rは前記意味の置換基を表わす)
(7)
π電子共役系化合物前駆体A-(B)mより、下記一般式(IIa)および(IIb)で示される脱離性置換基を脱離させA-(C) mで示されるπ電子共役系化合物を生成することを特徴とするπ電子共役系化合物の製造方法。
【0011】
【化3】

(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(I)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。
ただし、Bは上記一般式(I)中、(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。Cは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している。
上記一般式(I)および(II)中、(X, X)、(Y, Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともに、ハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X1, X2)または(Y, Y)の一対のハロゲン原子、前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記アシルオキシ基を形成していても良い。R乃至R4は水素原子、ハロゲン原子または有機基である。
(8)
前記置換基Aが、(i) 1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環が縮環された化合物、及び、(ii)前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、からなる群から少なくとも一つ以上選択されるπ電子共役系化合物であることを特徴とする(7)に記載のπ電子共役系化合物の製造方法。
(9)
前記化合物A-(B)mが溶媒可溶性であり、前記脱離性置換基の脱離により生成する前記化合物A-(C)mが溶媒不溶性であることを特徴とする(7)または(8)に記載のπ電子共役系化合物の製造方法。
(10)
前記置換基BおよびCが下記一般式(III)および(IV)に示される部分構造を有していることを特徴とする(7)乃至(9)のいずれかに記載のπ電子共役系化合物の製造方法。
【0012】
【化4】


(ここで、X,X,Y,Y及びR〜Rは前記意味の置換基を表わす)
(11)
(7)乃至(10)のいずれかに記載の方法で製造されたものであることを特徴とする前記π電子共役化合物系化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、溶媒可溶性のπ電子共役系化合物の前駆体を原料として用いるため、溶液プロセスに好適に対応することが可能であり、加えて熱、光などの外部刺激を与えることにより、溶剤可溶性を付与している置換基を脱離させることで、不安定な末端置換基が存在することなく、ベンゼン環を含むπ電子共役系化合物を簡便かつ高収率で製造することができる。また、この技術を用いて、高純度で優れた特性を有するπ電子共役系化合物を含む薄膜および該化合物を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における化合物11のIRスペクトルである(横軸は波数であり、縦軸は透過率である。)
【図2】本発明における化合物11のTG−DTAスペクトルチャートであり、横軸は温度[℃],縦軸左は重量変化[mg],縦軸右は示差熱[mV]を示す。
【図3】本発明の有機薄膜トランジスタの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について実施の形態を示して、説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0016】
[π電子共役化合物前駆体および本発明の製造方法により得られる膜状体、並びにπ電子共役系化合物]
本発明の膜状体、並びにπ電子共役系化合物の製造方法においては、特定の溶媒可溶性置換基を有する「π電子共役化合物前駆体」に対して、外部刺激を加え特定の置換基を脱離させることにより、目的とする膜状体、並びにπ電子共役系化合物を製造することが特徴である。前記「π電子共役化合物前駆体」はA-(B)mで表される。すなわち、式中Aはπ電子共役系置換基であり、Bは前記一般式(I)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基であり、mは自然数である。ただし、Bは上記一般式(I)中、(X1, X2), (Y1, Y2)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X1, X2), (Y1, Y2)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。
これに外部刺激を加えることにより、溶媒可溶性置換基Bは特定の脱離性置換基(X1, X2)および(Y1, Y2)をX11およびX22の形で脱離し、代わりに一部がベンゼン環に置き換わった置換基Cへと変換されるとともに、前記一般式(II)のπ電子共役系化合物A-(C)mで表される化合物膜状体、並びに該化合物が得られる。
本発明で用いられるπ電子共役化合物前駆体は、π電子共役系置換基であるAに、溶媒可溶性置換基Bが結合した構造をしている。
ここで、溶媒可溶性置換基Bおよび置換基Cは下記一般式(I)および(II)で表される。
【0017】
【化5】

【0018】
上記一般式(I)および(II)中、(X1, X2)、(Y1, Y2)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともに、ハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X1, X2)または(Y1, Y2)の一対のハロゲン原子、前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていてもよく、環状の前記アシルオキシ基を形成していてもよい。R1乃至R4は水素原子、ハロゲン原子または有機基である。
【0019】
(X1, X2)および(Y1, Y2)で示される脱離性置換基の例としては、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上の置換もしくは無置換のアシルオキシ基が挙げられる。好ましくは、水素原子および炭素数1以上の置換もしくは無置換のアシルオキシ基である。
【0020】
置換もしくは無置換のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、炭素数2以上のハロゲン原子を含んでいてもよい直鎖または環状の脂肪族カルボン酸および炭酸ハーフエステル、炭素数4以上の芳香族カルボン酸等のカルボン酸および炭酸ハーフエステル由来のアシルオキシ基が挙げられる。具体的には、例えばホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、クロロアセトキシ基、フルオロアセトキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基、3, 3, 3-トリフルオロプロピオニルオキシ基、ペンタフルオロプロピオニルオキシ基、シクロプロパノイルオキシ基、シクロブタノイルオキシ基、シクロヘキサノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
加えて、上記例示したアシルオキシ基のカルボニル基とアルキル基あるいはアリール基の間に酸素原子を挿入した構造に対応する炭酸ハーフエステル由来の炭酸エステルも挙げることができる。
【0021】
また、前記一般式(I)乃至(IV)においてR1乃至Rで示される置換基の例としては、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基[直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルキル基を表す。これらは、アルキル基(好ましくは置換または無置換の炭素数1以上のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基)、シクロアルキル基(好ましくは置換または無置換の炭素数3以上のアルキル基であり、例えばシクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基)が含まれる。以下に説明する置換基においても、アルキル基は上記概念のアルキル基を示す]、
【0022】
アルケニル基[直鎖または分岐または環状の置換または無置換のアルケニル基を表す。それらは、アルケニル基(好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルケニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素―炭素単結合を1つ以上二重結合としたものがあげられる。例えばエテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、1-ブテニル基、2-ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1―ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、4−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−オクテニル基、3−オクテニル基、4−オクテニル基、1, 1, 1-トリフルオロ-2-ブテニル基)、シクロアルケニル基(上記した炭素数2以上のシクロアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上二重結合としたものがあげられる。例えば、1−シクロアリル基、1−シクロブテニル基、1−シクロペンテニル基、2−シクロペンテニル基、3−シクロペンテニル基、1-シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、1−シクロヘプテニル基、2−シクロヘプテニル基、3−シクロヘプテニル基、4−シクロヘプテニル基、3-フルオロ-1-シクロヘキセニル基等が挙げられる。なお、該アルケニル基はトランス(E)体及びシス(Z)体等の立体異性体が存在する場合は、その何れであってもよく、またそれらの任意の割合の混合物であってもよい。]、
【0023】
アルキニル基(好ましくは置換または無置換の炭素数2以上のアルキニル基であり、上記した炭素数2以上のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合を1つ以上三重結合としたものがあげられる。例えば、エチニル基、プロパギル基、トリメチルシリルエチニル基、トリイソプロピルシリルエチニル基が挙げられる)、
【0024】
アリール基(好ましくは置換または無置換の炭素数6以上のアリール基であり、例えば、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、p-クロロフェニル、p-フルオロフェニル、p-トリフルオロフェニル、ナフチル等が挙げられる)、
【0025】
ヘテロアリール基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族性もしくは非芳香族性のヘテロ環化合物であり、例えば、2−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−チエノチエニル、−2−ベンゾチエニル2−ピリミジル等が挙げられる)、
【0026】
アルコキシル基およびチオアルコキシル基(好ましくは置換または無置換のアルコキシル基およびチオアルコキシル基であり、上記に例示したアルキル基およびアルケニル基およびアルキニル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。)、
【0027】
アリールオキシ基およびチオアリールオキシ基[好ましくは置換または無置換のアリールオキシ基およびアリールチオオキシ基であり、上記に例示したアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアリールオキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる]、
【0028】
ヘテロアリールオキシ基およびヘテロチオアリールオキシ基(好ましくは置換または無置換のヘテロアリールオキシ基およびヘテロアリールチオオキシ基であり、上記に例示したヘテロアリール基の結合部位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してヘテロアリールオキシ基あるいはヘテロアリールチオアリールオキシ基としたものが具体例として挙げられる)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、チオール基、
【0029】
アミノ基[好ましくは、アミノ基、置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)等が挙げられる)]が挙げられる。
【0030】
前記一般式(I)および(III)において、アシルオキシ基(X1, X2)または (Y1, Y2)は下記一般式(V)で表される構造を有することが好ましい。
【0031】
【化6】

n=1の時は下記一般式(V-1)のような構造となり、(X1, X2)または (Y1, Y2)は環を形成しておらず、それぞれ独立している。
【0032】
【化7】

n=2の時は下記一般式(V-2)のような構造となり、(X1, X2)または (Y1, Y2)の位置で置換され、環を形成している。
【0033】
【化8】

前記R5の範囲は前述の通りであるが、その中においても水素原子(一般式(V)でn=2のときは除く)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアルコキシル基、置換または無置換のチオアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基、シアノ基が特に好ましく、より好ましくは水素原子(一般式(V)でn=2の時は除く)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシル基、置換または無置換のチオアルキル基である。最も好ましくは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシル基のときである。
【0034】
脱離成分X1-Y1およびX2-Y2としてはハロゲン原子の他に、前記アシルオキシ基を構成する置換基の-O−結合部位を切断し末端に水素を置換した対応するカルボン酸および炭酸ハーフエステルがあげられる(例えば、ギ酸、酢酸、ピルビン酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、モノクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、2,2-ジフルオロプロピオン酸、トリフルオロ酢酸、3, 3, 3-トリフルオロプロピオン酸、ペンタフルオロプロピオン酸、シクロプロパン酸、シクロブタン酸、シクロヘキサン酸、安息香酸、p−メトキシ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、メチルハイドロゲンカーボネート、エチルハイドロゲンカーボネート、イソプロピルハイドロゲンカーボネート、ヘキシルハイドロゲンカーボネートなどが挙げられる。これら炭酸ハーフエステルは通常不安定であるため、対応するアルコール(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ヘキサノール)と二酸化炭素まで分解されることがある。)
【0035】
上記一般式(V)における置換基R5には特に制限はないが、溶媒可溶性や成膜製という観点からは、置換基としてある程度分子間相互作用を減少し、溶媒との親和性を高めるようなものであることが有利になってくるが、置換基の脱離前後における体積変化があまりに著しいと脱離反応における薄膜の均一性に問題が生じることが懸念されるため、適度な溶解性を維持しつつできるだけ小さい置換基である方が好ましい。また、未だ定かではないが、カルボニル酸素の分極の度合いが大きくなるように、電子吸引性の置換基(たとえばハロゲンを有するアルキル基や、ニトロ基およびシアノ基を有する基)であることが脱離反応の効率化という点好ましいと考えられる。
【0036】
本発明の製造方法に用いられるπ電子共役化合物前駆体A-(B)mは、上述のとおりπ電子共役系置換基Aと溶媒可溶性置換基Bから成り、溶媒可溶性置換基Bは前記一般式(I)中、(X1, X2), (Y1, Y2)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X1, X2), (Y1, Y2)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。
そして本発明のπ電子共役系化合物を含む膜状体、並びに該化合物の製造方法においては、上記前駆体の溶媒可溶性置換基Bから特定の化合物(X11, X22)を脱離させ、ベンゼン環を有する置換基Cへと変換することでπ電子共役系化合物A-(C)mとする。
本発明において、「溶媒可溶性」とは、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.05 wt%以上の溶解度を有することをいう。好ましくは0.1 wt%以上であり、より好ましくは0.5 wt%であり、最も好ましくは1.0 wt%以上である。
また、置換基AおよびBの組合せによっては、π電子共役系化合物A-(C)nの溶媒に対する溶解性が変わってくる。
ここで、「溶媒不溶化」とは、前記溶媒可溶性の状態よりも1桁以上溶解度を低下させることをいう。具体的には、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で、0.05 wt%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.005 wt質量%以下に溶解度を低下させることが好ましく、0.1 wt%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.01 wt%以下に溶解度を低下させることがより好ましく、0.5 wt%以上の溶解度(溶媒可溶性)から0.05 wt%未満に溶解度を低下させることが特に好ましい、さらに最も好ましくは1.0 wt%以上の溶解度から0.1 wt%未満に低下させることが好ましい。そして、「溶媒不溶性」とは、溶媒に対して、溶剤を加熱還流した後に室温まで冷却した状態で0.01 wt%未満の溶解度を有することをいい、0.005 wt%以下であることが好ましく、0.001 wt%以下であることがより好ましい。
上記「溶媒可溶性」及び「溶媒不溶性」の程度を規定するときの溶媒の種類は特に限定されず、実際に用いる溶媒及び温度により定めてもよいが、例えばTHFやトルエンあるいはクロロホルム、メタノールに対する溶解度(25℃)として特定することができる。ただし、本発明に用いられる溶媒がこれによって限定されるものではない。
脱離反応による変換の前後で溶解性が大きく変化することで、続けて異なる膜を積層する際においてもその際に用いる溶媒に侵されにくくなるため、有機トランジスタ、有機EL、有機太陽電池などのような有機電子デバイスの製造工程において有用である。
【0037】
上記π電子共役系置換基Aとしては、π電子共役平面を有するものであればいかなるものであっても良いが、具体的にはベンゼン環、チオフェン環、ピリジン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環が好ましく、より好ましくは、(i) 1つ以上の前記芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、または前記環同士が縮環された化合物、(ii) (i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、 上記(i)および(ii)より形成される群から少なくとも一つ以上選択される組み合わせで選ばれるπ電子共役系化合物が好ましく、それらの芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環がそれぞれ有するπ電子が、縮環及び共有結合を介した連結による相互作用によって縮環または連結環全体に非局在化した構造であることが好ましい。
縮環または共有結合で連結された芳香族炭化水素環または芳香族へテロ環の数は2以上が好ましく、具体的には、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、クリセン、ピレン、ペンタセン、チエノチオフェン、チエノジチオフェン、トリフェニレン、ヘキサベンゾコロネン、ベンゾチオフェン、ベンゾジチオフェン、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(BTBT)、ジナフト[2, 3-b:2’, 3’-f] [3,2−b]チエノチオフェン(DNTT)、ベンゾジチエノチオフェン(TTPTT)などの縮合多環化合物、ビフェニル、ターフェニル、クォーターフェニル、ビチオフェン、ターチオフェン、クォーターチオフェンなどのような芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環のオリゴマー、フタロシアニン類、ポルフィリン類などが挙げられる。
【0038】
前記溶媒可溶性置換基Bとしては、一般式(I)で表したシクロヘキセン環構造を部分的に含むものであれば特に制限はされないが、一例としては下記の様な構造が挙げられる。
【0039】
【表1】

【0040】
これらはR1乃至R4および(X1, X2)、(Y1, Y2)の置換位置の炭素原子以外であればπ電子共役系置換基Aと縮環または共有結合を介して連結され得る。
【0041】
前記したπ電子共役系置換基Aと、溶媒可溶性置換基Bを組み合わせることでできるA-(B)mの具体的な構造として下記の化合物群を例示するが、本発明におけるπ電子共役系化合物前駆体はこれらに限定されるものではない。また、溶媒可溶性置換基Bにはアシルオキシ基の立体配置の異なる異性体が複数存在することが容易に推察でき、下記化合物はそれらの混合物であることも推察される。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
前記前駆体A-(B)mにエネルギーを印加することにより、後述の脱離反応を起こし、特定の置換基を脱離することで、π電子共役系化合物A-(C)mを含む膜状体、並びに該化合物を得ることができる。
以下に、前記具体例に示したA-(B)mから製造されるA-(C)m(特定化合物と称する)の具体例を以下に示すが、本発明におけるπ電子共役系化合物はこれらに限定されるものではない。
【0045】
【表4】

【0046】
[2. π電子共役化合物前駆体の脱離反応によるπ電子共役系化合物の製造方法]
本発明のπ電子共役系化合物を含む膜状体の製法における中核部分は、前記脱離反応による該π電子共役系化合物の製造であるともいえるので、前記脱離反応について詳細に説明する。
本発明の製造方法の場合、プラスチックス、金属、シリコンウエハ、ガラス等の基質(支持体)上に、例えば塗工により形成された前駆体含有膜中に含まれ下記一般式(I)に示すシクロヘキセン環構造を有する化合物(前駆体)は、これから一般式(IIa)および(IIb)で示される脱離成分を脱離し、一般式(II)に示す構造の化合物へと変換する。
【0047】
【化9】

【0048】
一般式(I)で示される化合物には置換基の立体的な配置が異なる立体異性体が複数存在するが、いずれも一般式(II)で示される化合物へと変換され、脱離成分は同一であることに変わりはない。しかし、中でもX1とY1およびX2とYがシクロヘキサン環平面に対して同一の側にある状態すなわちcis構造を取っていることが、脱離反応の効率、変換温度、反応収率の観点からより好ましい。
【0049】
化合物(I)から脱離する基である(X1, X2), (Y1, Y2)は脱離性基と定義され、X1-Y1およびX2-Y2は脱離成分と定義される。脱離成分は固体、液体、気体の3態を取りえるが、系外への除去を考えると、脱離成分が液体または気体であることが好ましく、特に好ましくは常温で気体であることまたは、脱離反応を行う温度において気体となることである。 前記沸点としては大気圧(1013 hPa)において、500℃以下であることが好ましく、系外への除去の容易さと生成するπ電子共役化合物の分解・昇華温度を考えると、400 ℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは300 ℃以下である。 以下に(X1, X2)が同一のアシルオキシ基、 (Y1, Y2)およびR1乃至R4が水素原子、R6が置換又は無置換のアルキル基および置換または無置換のアルコキシ基である場合を好ましい一例として下記に示すが、本発明の製造例は必ずしもこれらに制限されるものではない。
【0050】
【化10】

【0051】
上記の例の場合、一般式(VIII)で示されるシクロヘキセン環構造から、脱離成分として一般式(X)で示されるアルキル鎖を有するカルボン酸が脱離し、一般式(IX)で示されるベンゼン環を含む構造に変換される。また、R6が置換または無置換のアルコキシ基の場合は、炭酸ハーフエステル (X) が不安定であるため、以下に示すようにアルコール(X-1)と二酸化炭素(X-2)にまで分解されることがある。
【0052】
【化11】

上記一般式(VIII)で示される化合物から脱離成分が脱離する機構について以下に概略を示す。
【0053】
【化12】

【0054】
上記一般式(XI)に示すように、六員環状の遷移状態を取ることで、β-炭素上の水素原子がカルボニルの酸素原子上へと 1,5-転位することで協奏的な脱離反応が起こり、カルボン酸が脱離し、シクロヘキセン環構造から一般式(VIII)に示されるようなベンゼン環構造へと変換される。複数の立体異性体が存在する場合においても、前述したように反応の速度は違えど、上記反応は進行する。
しかし、中でもアシルオキシ基と水素原子がシクロヘキサン環平面に対して同一の側にある状態すなわちcis構造を取っていることが、脱離反応の効率、変換温度、反応収率の観点からより好ましい。
【0055】
ここで、β炭素上の水素原子の引き抜きを行えるのは酸素原子に限らず、同じく第16族の元素であるセレン、テルル、ポロニウムなどのカルコゲン原子に置換された化合物においても同様のことが起こり得る。未だ詳細は定かではないが、上記原子のδ−への分極の度合いが大きいほど、水素原子を引き抜く力は大きくなり、それが脱離反応を生じるのに必要なエネルギーを低減するかもしれない。
【0056】
脱離反応を行なうために印加するエネルギーとしては、熱、光、電磁波および酸塩基が挙げられるが、反応性および収率、後処理の観点から、熱エネルギーあるいは光エネルギーが望ましく、特に熱エネルギーが好ましい。また、熱および光を共に用いることも可能である。共に用いる場合、それらは同時であっても、前後して用いてもよい。また、酸または塩基の存在下で上記エネルギーを印加してもよい。
【0057】
通常、上記脱離反応には、官能基の構造に依存するが、加熱が必要となることが多い。脱離反応を行なうための加熱の方法には、支持体上で加熱する方法、オーブン内で加熱する方法、マイクロ波の照射による方法、レーザーを用いて光を熱に変換して加熱する方法、光熱変換層を用いる等種々の方法を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
脱離反応を行なうための加熱温度については、室温(およそ25℃)〜500℃の範囲を用いることが可能であり、下限温度は材料の熱安定性および脱離成分の沸点を考え、上限温度ではエネルギー効率や、未変換分子の存在率、変換後のπ電子共役化合物の分解等を考慮すると、40-500 ℃の範囲が好ましく、さらに前駆体の合成の熱安定性および変換後のπ電子共役化合物の分解および昇華温度を考慮するとより好ましくは80℃〜400℃の範囲であり、特に好ましくは80 ℃〜300 ℃である。
ここで、昇華温度とは、例えばTG-DTAにおいて初期重量から5 %の重量、好ましくは3%、より好ましくは1.0 %の重量減少が観測された温度と定義することが可能である。
上記加熱の時間については、高温であるほど反応時間は短く、低温であるほど脱離反応に必要な時間は長くなる。また、前駆体の反応性、量にもよるが、通常0.5〜120分、好ましくは1〜60分、特に好ましくは1分〜30分である。
【0059】
光を外部刺激として用いる場合は、赤外線ランプや、化合物が吸収する波長の光を照射すること(例えば405nm以下の波長に露光)等を利用してもよい。その際に半導体レーザーを用いてもよい。例えば、近赤外域のレーザー光(通常は780nm付近の波長のレーザー光)、可視レーザー光(通常は、630nm〜680nmの範囲の波長のレーザー光)、波長390〜440nmのレーザー光が挙げられる。特に好ましくは波長390〜440nmのレーザー光であり、440nm以下の範囲の発振波長を有する半導体レーザー光が好適に用いられる。中でも好ましい光源としては、390〜440(更に好ましくは390〜415nm)の範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザー光、中心発振波長850nmの赤外半導体レーザー光を光導波路素子を使って半分の波長にした中心発振波長425nmの青紫色SHGレーザー光を挙げることができる。
【0060】
上記の酸または塩基は脱離反応の触媒として働き、より低温での変換が可能となる。これらの使用方法は特に限定はされないが、そのまま添加しても良いし、任意の溶媒に溶解させ溶液にして添加してもよいし、気化させてその雰囲気中で加熱処理を行っても良いし、光酸発生剤および光塩基発生剤等を添加し、上記した光照射によって系内で酸および塩基を得てもよい。
【0061】
上記、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、蟻酸、リン酸等、2-ブチルオクタン酸を用いることができる。特に好ましくは、揮発性であり、酸性度の高い、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸が挙げられる。
【0062】
また塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等のアミジン類などを用いることができる。
【0063】
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のイオン性発生剤とイオン性光酸発生剤イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジスルホニルジアゾメタン、ニトロベンジルスルホネート等の非イオン性発生剤を挙げることができる。
【0064】
光塩基発生剤としては、カルバマート類、アシルオキシム類、アンモニウム塩等を挙げることができる。
中でも揮発性の酸または塩基の雰囲気中に行うのが、反応後の酸塩基の系外への除去の容易さを考えると好ましい。
【0065】
脱離反応を行なう際の雰囲気については、上記触媒の有無に関わらず大気下においても行なうことが可能であるが、酸化等の副反応および水分の影響を除くため、加えて脱離した成分の系外への排除を促すために、不活性ガス雰囲気下また減圧下で行なうことが望ましい。
上記脱離性基としては、上記例示したカルボン酸エステル以外に、ハロゲン原子、炭酸エステル、キサントゲン酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステルに代表されるエステル類およびβ水素を有するアミンオキシドおよびスルホキシドおよびセレノキシド等も挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0066】
上記した脱離性基の形成方法については、ホスゲンとアルコールを反応させるまたは、アルコールとクロロギ酸アルキルなどの炭酸ハーフエステル類とを反応させることにより、炭酸エステルを得る方法、アルコールとカルボン酸クロライドもしくはカルボン酸無水物を反応させるまたはハロゲン原子とカルボン酸銀もしくはカルボン酸-4級アンモニウム塩の交換反応によってカルボン酸エステルを得る方法、アルコールに二硫化炭素を加えた後、ヨウ化アルキルを反応させキサントゲン酸エステルを得る方法、三級アミンと過酸化水素あるいはカルボン酸を反応させアミンオキシドを得る方法、アルコールにオルトセレノシアノニトロベンゼンを反応させセレノキシドを得る方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
[3. π電子共役系化合物前駆体の製造方法]
【0068】
溶解性置換基Bのシクロヘキセン骨格におけるハロゲン基、アシルオキシ基の形成方法について詳細に述べる。
【0069】
下記一般式(XII)に示すようなシクロヘキセン骨格を有する化合物から誘導が可能であり、これは従来公知の方法で製造し原料として用いることが可能であるが、1, 4位または2, 3位にそれぞれ一つ以上の水素原子を有していることが好ましい。
【0070】
【化13】

(式中R1-R4は前記したものと同一の範囲である。)
【0071】
続けて、一般式(XIII)に示すように、臭素化剤を用いて1,4位または2, 3位を選択的にハロゲン化するが、後の工程の反応性からヨウ素原子、臭素原子、塩素原子が好ましく、特に好ましくは臭素原子である。臭素化剤としては、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミド、N-クロロスクシンイミドなどが挙げられ、これらとアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイルなどのラジカル開始剤を共存して行うことが好ましい。
溶媒は必ずしも必要ではないが、種々の有機溶媒を用いることができ、特にベンゼン、四塩化炭素などが好適である。
【0072】
【化14】

【0073】
続けて、一般式(XIV)に示すように、上記反応で得られたジハロゲン体に、2等量のカルボン酸銀またはカルボン酸四級アンモニウム塩を作用させることで、1, 4位または2, 3位がアシルオキシ化された目的物を得ることができる。
また、異なるカルボン酸銀またはカルボン酸四級アンモニウム塩をそれぞれ1等量ずつ作用させることで非対称の化合物も得ることができる。しかしながら、前記脱離反応における反応速度が大きく異なる可能性もあるため、カルボン酸は同一であることが好ましい。
また、反応条件や用いるカルボン酸の構造によっては、複数の立体配置の異なる立体異性体が生成する可能性がある。具体的にはシクロヘキセン環と結合したアシルオキシ基の立体配置により、ラセミ混合物と、メソ体が任意の割合で得られることがある。これらは再結晶あるいは光学活性な固定層を用いたクロマトグラフィー等で分離することができる。カルボン酸銀塩としては、酢酸銀、トリフルオロ酢酸銀、3, 3, 3-トリフルオロプロピオン酸銀などが挙げられ、カルボン酸4級アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム5水和物と前述のカルボン酸(例えば酢酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸、ピバル酸、カプロン酸、ステアリン酸、トリフルオロ酢酸、3, 3, 3-トリフルオロプロピオン酸)との塩が挙げられる。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジチメルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエンなど種々の有機溶媒を用いることができるが、反応速度、副反応を防ぐために、溶媒は脱水されたものを用いることが好ましい。
【0074】
【化15】

(式中、Acyはアシル基を示す。式中R1〜R4は前記したものと同一の範囲である。)

また、炭酸エステル構造を合成するには、原料の関係上、クロロギ酸アルキル等を用いるのが簡便である。その場合、下記一般式(XV)で示されるように上記アシルオキシ化合物を塩基等で加水分解したジオールへと変換することが好ましい。ここで用いるアシル基は加水分解されやすい酢酸エステルやプロピオン酸エステルなどが好ましい。
【0075】
【化16】

上記、溶媒としては、アルコールやアセトン、ジメチルホルムアミド等が好ましい。塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシドなどの強塩基を用いることが好ましい。反応温度は、副反応を防ぐために、0℃から室温程度が好ましい。

続けて、下記一般式(XVI)に示すように水酸基をアシル化する。
【0076】
【化17】

上記溶媒としては、クロロギ酸アルキルと反応しないもので、基質を良く溶かすものであれば特に限定されないが、例えばテトラヒドロフラン、ピリジン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンなどが挙げられ、十分に脱水されたものが好ましい。また、反応の際に発生する塩化水素を補足するために塩基は添加することが好ましい。塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N, N-ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。これらを溶媒として用いることも可能であり、複数組み合わせて用いても良い。第一選択としては、ピリジンまたはトリエチルアミンと、N, N-ジメチルアミノピリジンの組み合わせが好ましい。
クロロギ酸アルキルとしては、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸プロピル、クロロギ酸イソプロピル、クロロギ酸イソブチルなどが挙げられる。
反応温度は、0℃〜室温程度が反応性、選択性の点で好ましい。
このようにして、炭酸エステル構造を形成することができる。
【0077】
こうして得られた溶解性置換基BとAは種々の従来公知の方法で縮環させることで、π電子共役系化合物前駆体A-(B)mを合成することができる。
例えば、ペンタセンの場合は、J. Am. CHem Soc., 129, 2007, pp.15752に記載の方法に準じて行うことができ、ヘテロアセン類の場合は、J. AM. CHEM. SOC. 2007, 129, 2224-2225等に記載の方法に準じて行うことができる。
また、フタロシアニン類の場合の環形成反応は、白井汪芳,小林長夫編・著「フタロシアニン−化学と機能−」(アイピーシー社,1997年刊)の第1〜62頁、廣橋亮,坂本恵一,奥村映子編「機能性色素としてのフタロシアニン」(アイピーシー社,2004年刊)の第29〜77頁に準じて行うことが可能であり、ポルフィリン類の場合は、特開2009-105336号公報等に記載の方法に準じて行うことが可能である。
【0078】
また、本発明の製造方法で用いられる前駆体A-(B)mにおけるπ電子共役系置換基Aと溶媒可溶性置換基Bの共有結合による連結方法としては、Suzukiカップリング反応による方法、Stilleカップリング反応による方法、Kumadaカップリング反応、Negishiカップリング反応による方法、Hiyamaカップリング反応による方法、Sonogashira反応による方法、Heck反応による方法、Wittig反応による方法、などに代表される種々のカップリング反応を用いて行う、公知の方法が例示される。これらのうち、Suzukiカップリング反応またはStilleカップリング反応を用いる方法が、中間体の誘導体化が容易であるのと、反応性、収率の観点から特に好ましい。炭素-炭素二重結合の形成に置いては、上記に加えHeck反応による方法、Wittig反応なども好ましい。炭素-炭素三重結合の形成においては、上記に加え、Sonogashira反応が特に好ましい。
以下に、炭素-炭素結合をSuzukiカップリング反応およびStilleカップリング反応によって連結する例を以下に挙げる。
下記一般式(XV)、(XVI)で表されるハロゲン体およびトリフルオロトリフラート体またはボロン酸誘導体および有機スズ誘導体の組合せで反応を行う。ただし、一般式(XV)、(XVI)で示される化合物がともにハロゲン体およびトリフラート体またはボロン酸誘導体および有機スズ誘導体である場合はカップリング反応が起こらないため除外する。そして、上記混合物にさらにSuzukiカップリング反応の場合においてのみ塩基を追加し、パラジウム触媒の存在下で、反応させることにより製造される。
【0079】
【化18】

【0080】
(上記式(XV)中、Aは前述のπ電子共役系置換基、Dはハロゲン原子(塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子を表す)、トリフラート(トリフルオロメタンスルホニル)基または、ボロン酸またはそのエステルもしくは有機スズ官能基を示す。lは自然数である。)
【0081】
【化19】

【0082】
(上記式(XVI)中、Bは前述の溶媒可溶性置換基、Dはハロゲン原子(塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子を表す)、トリフラート(トリフルオロメタンスルホニル)基または、ボロン酸またはそのエステルもしくは有機スズ官能基を示す。kは自然数である。)
【0083】
Suzukiカップリング、Stilleカップリング反応による合成方法において、前記一般式(XV)および(XVI)中のハロゲン体またはトリフラート体の中でも、ヨウ素体あるいは臭素体もしくはトリフラート体が反応性の観点から好ましい。
【0084】
前記一般式(XV)および(XVI)中の有機スズ官能基としては、SnMe基やSnBu基などのアルキルスズ基を有する誘導体を用いることができる。また、ボロン酸誘導体としては、ボロン酸のほか、熱的に安定で空気中で容易に扱えるビス(ピナコラト)ジボロンを用いハロゲン化誘導体から合成されるボロン酸エステルを用いてもよい。
【0085】
上述のとおり、置換基AまたはBのどちらがハロゲンおよびトリフラート体またはボロン酸誘導体および有機スズ誘導体であっても構わないが、誘導体化の容易さや副反応を減らすという意味では、置換基Aの方をボロン酸誘導体および有機スズ誘導体とした方が良い場合が多い。
【0086】
Stilleカップリング反応においては、特に塩基は不要であるが、Suzukiカップリング反応においては塩基が必ず必要となり、Na2CO3、NaHCOなどの比較的弱い塩基が良好な結果を与える。立体障害等の影響を受ける場合には、Ba(OH)2やK3PO4、NaOHなどの強塩基が有効である。その他、苛性カリ、金属アルコシド等、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシドなども用いることができる。トリエチルアミン等の有機塩基も用いることができる。
【0087】
パラジウム触媒としては例えばパラジウムブロマイド、パラジウムクロライド、パラジウムヨージド、パラジウムシアニド、パラジウムアセテート、パラジウムトリフルオロアセテート、パラジウムアセチルアセトナト[Pd(acac)2 ]、ジアセテートビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(OAc)2 (PPh3 )2 ]、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3 )4 ]、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム[Pd(CH3 CN)2 Cl2 ]、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム[Pd(PhCN)2 Cl2 ]、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム[Pd(dppe)Cl2 ]、ジクロロ[1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム[Pd(dppf)Cl2]、ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム〔Pd[P(C6 H1 1 )3 ]2 Cl2 〕、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3 )2 Cl2 ]、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム[Pd2 (dba)3 ]、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム[Pd(dba)2 ]、等が挙げられるが、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3 )4 ]、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム[Pd(dppe)Cl2 ]、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3 )2 Cl2 ]等のホスフィン系触媒が好ましい。
【0088】
上記の他にパラジウム触媒として、反応系中においてパラジウム錯体と配位子の反応により合成されるパラジウム触媒を用いることができる。配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリス(n−ブチル)ホスフィン、トリス(tert−ブチル)ホスフィン、ビス(tert−ブチル)メチルホスフィン、トリス(i−プロピル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(o−トリル)ホスフィン、トリス(2−フリル)ホスフィン、2−ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−メチルビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピル−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−ジフェニルホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノ−2’−(N,N’−ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノビフェニル、2−(ジ−tert−ブチル)ホスフィノ−2’−メチルビフェニル、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルホスフィノエチレン、ジフェニルホスフィノフェロセン、エチレンジアミン、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチルエチレンジアミン、2,2’−ビピリジル、1,3−ジフェニルジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ジメチルジヒドロイミダゾリリデン、ジエチルジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデン、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)ジヒドロイミダゾリリデンが挙げられ、これらの配位子のいずれかが配位したパラジウム触媒をクロスカップリング触媒として用いることができる。
【0089】
反応溶媒としては、原料と反応し得るような官能基を有さず、かつ原料を適度に溶解させられることができるようなものが望ましく、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のアルコールおよびエーテル系、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系の他、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等をあげることができる。これらの溶媒は単独で用いても、二種以上適宜組み合わせて用いてもよい。またこれらの溶媒はあらかじめ乾燥、脱気処理を行うことが望ましい。
【0090】
上記反応の温度は、用いる原料の反応性、また、反応溶媒により適宜設定され、通常0℃〜200℃の範囲で行うことが可能であるが、いずれの場合も上限としては溶媒の沸点以下に抑えることが好ましい。加えて脱離反応が起こる温度以下に抑えることが収率の観点から好ましい。
下限としては、溶媒の融点までで行うことができるが、あまりに低温にしすぎても反応速度が著しく低下し好ましくない。以上の観点から具体的には0 ℃〜150℃の範囲が好ましく、特に好ましくは0 ℃〜100 ℃の範囲が好ましく、もっとも好ましくは室温〜80 ℃である。
上記反応における反応時間は、用いる原料の反応性において適宜設定することができ、1〜72時間が好適であり、さらには、1〜24時間がより好ましい。
【0091】
以上のようにして得られた化合物は、反応に使用した触媒、未反応の原料、又反応時に副生するボロン酸塩、有機スズ誘導体等の不純物を除去して使用される。これらの精製は再沈澱法、カラムクロマト法、吸着法、抽出法(ソックスレー抽出法を含む)、限外濾過法、透析法、触媒を除くためのスカベンジャーの使用等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。
【0092】
上記した製造方法により得られる前駆体を薄膜とするには、前駆体が有機溶媒に対して十分な溶解性を有するため、用途に応じて適切な濃度、粘度を選択することで、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、真空蒸着、スパッタ等の公知の製膜方法を用いることができる。これにより、クラックのない、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することが可能である。さらに前記の製膜方法により塗布した本発明の前駆体の膜から溶解性の置換基を脱離し、π電子共役系化合物の膜を形成することも可能であり、有機太陽電池などの光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、有機ELなどの発光素子など種々の機能素子用材料として好適に用いることができる

【0093】
[電子デバイス]
本発明の特定化合物は、例えば、電子デバイスに用いることができる。電子デバイスの例を挙げると、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質等により制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置などが挙げられる。また、例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子などが挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。
現在シリコン等の無機半導体で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。また、光により起電力を生じる太陽電池や、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスター等の光素子も挙げることができる。
【0094】
本発明の特定化合物を適用するのに好適な電子デバイスの例としては、電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。以下、このFETについて詳細に説明する。
【0095】
「トランジスタ構造」
図3の(A)〜(D)は本発明に係わる有機薄膜トランジスタの概略構造である。本発明に係わる有機薄膜トランジスタの有機半導体層(1)は、本発明の特定化合物を含有する。本発明の有機薄膜トランジスタには、空間的に分離されたソース電極(2)、ドレイン電極(3)および図示しない支持体(基質)上にゲート電極(4)が設けられており、
ゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間には絶縁膜(5)が設けられていてもよい。有機薄膜トランジスタはゲート電極(4)への電圧の印加により、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の間の有機半導体層(1)内を流れる電流がコントロールされる。本発明の有機薄膜トランジスタは、支持体上に設けることができ、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用できる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらにはゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできるが、本発明の有機薄膜トランジスタが応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルム等が挙げられる。
【0096】
「製膜方法:有機半導体層」
本発明に係わる有機半導体材料は、真空蒸着法等の気相製膜が可能である。
加えて、有機半導体前駆体を例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びキシレン等の溶剤に溶解して、支持体上に塗布することによって薄膜を形成することができる。すなわち、前記前駆体A-(B)mを含む塗工液のための溶媒は、目的に応じて適宜選択することができるが、除去が容易であることから、沸点が500℃以下であることが好ましい。しかし、揮発性が高ければ高いほどよいという訳ではない。沸点50℃以上のものが好ましい。まだ充分に確認した訳ではないが、伝導性には、前駆体が有する脱離性基の単なる脱離のみでなく、分子相互間の接触のための配置状態変化も重要なためかも知れない。つまり、塗工膜中に存在する前駆体は、それが有する脱離性基が除去されたのち、ランダム状態から、分子の向き又は位置の少なくとも部分的変化により分子同士の隣接化、接触や再配列、凝集、結晶化等が生じるための時間が必要なためかも知れない。
いずれにしても、溶媒としては具体的には、前駆体A-(B)mが有する例えば脱離性基としての極性のカルボエステル基に親和性のあるメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、フエノール、クレゾールのようなフエノール類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、ジメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素有機溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブのようなセロソルブ(登録商標)等の極性(水混和性)溶媒に加えて、本体構造部分と比較的親和性のあるトルエン、キシレン、ベンゼン等の炭化水素、四塩化炭素、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロエチリデン等のハロゲン化炭化水素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等の含窒素有機溶媒等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
中でも、テトラヒドロフラン(THF)等の極性(水混和性)溶媒と、トルエン、キシレン、ベンゼン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチル等のエステル系溶媒のような非水混和性のものとの併用が特に好ましい。
有機溶媒の使用量は、目的に応じて適宜選択することができるが、前駆体A-(B)m材料1重量部に対して、200〜200000重量部であることが好ましい。 また、塗工液には、さらに、本発明の目的達成を損なわない程度の若干量の樹脂成分、カルボエステル基分解促進のための揮発性又は自己分解性の酸、塩基材料を含んでしてもよい。また、トリクロロ酢酸(加熱によりクロロホルムと炭酸ガスに分解)、トリフロロ酢酸(揮発性)のような強酸性の溶媒は、弱いルイス酸であるカルボエステル基の追い出しに効果があるので好ましく用いられる。そして、有機半導体前駆体からなる膜に対してエネルギーを印加し、有機半導体膜に変換することによって形成することができる。
これら有機半導体薄膜の作製方法としては、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンス法、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法などのソフトリソグラフィーの手法等が挙げられ、更にはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。そして、材料に応じて、適した上記製膜方法と、上記溶媒から適切な溶媒が選択される。
【0097】
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。有機半導体薄膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、上記化合物を成分として形成される有機半導体層は、ソース電極、ドレイン電極及び絶縁膜に接して形成される。
【0098】
「製膜方法:有機半導体膜の後処理」
上記した前駆体薄膜より変換した有機半導体膜は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、製膜中に生じた膜中のゆがみを緩和することができ、これが結晶性の向上に繋がり、特性の向上や安定化を図ることができる。また、有機溶媒(例えば、トルエン、クロロホルムなど)雰囲気中に置くことにより、加熱処理と同様に膜中のゆがみを緩和し、さらに結晶性を高めることも可能である。
さらに、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
【0099】
「電極」
本発明の有機薄膜トランジスタに用いられるゲート電極、ソース電極、ゲート電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が挙げられる。
【0100】
ソース電極及びドレイン電極は、上記導電性の中でも半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものが好ましい。
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成しても良い。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けることができる。
【0101】
「絶縁膜」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0102】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。
【0103】
さらに、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0104】
上記材料を用いた絶縁膜層の作製方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0105】
「HMDS等 有機半導体/絶縁膜界面修飾」
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜と有機半導体層の接着性を向上、ゲート電圧の低減、リーク電流低減等の目的で、これら層間に有機薄膜を設けても良い。有機薄膜は有機半導体層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
【0106】
有機分子膜としては、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザン、フェニルトリクロロシラン等を具体的な例としたカップリング剤が挙げられる。また、高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していても良い。
【0107】
「保護層」
本発明の有機トランジスタは、大気中でも安定に駆動するものであるが、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0108】
「応用デバイス」
本発明の有機薄膜トランジスタは、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための素子として利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0109】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
下記、実施例における化合物の同定は、NMRスペクトル(JNM-ECX(商品名) 500MHz、日本電子製), 質量分析 (GCMS-QP2010 Plus(商品名)、島津製作所製)、元素分析 (CHN) (CHNレコーダーMT-2、柳本製作所製)、元素分析(S) (イオンクロマトグラフィー→・アニオン分析システムDX320(商品名)、ダイオネクス製)を用いて行った。化合物の純度測定は、質量分析 (GCMS-QP2010 Plus(商品名)、島津製作所製)または、LCMS (LCT PremireおよびAlliance(商品名)、Waters社製)を用いて、ピーク面積比より算出した。
【0110】
[合成例1]
[特定化合物中間体の合成1]
<化合物2の合成>
【0111】
【化20】

【0112】
500 mLのビーカーに1, 2, 3, 4-tetrahydro-6-iodo naphthalene (上の反応式中の化合物1の10 g, 65.3 mmol)と15 % HCl (60 mL)を入れ、氷冷却下5 ℃以下を維持しながら、亜硝酸ナトリウム水溶液 (5.41 g, 78.36 mmol in Water 23 mL)を徐々に滴下した。滴下終了後、そのままの温度で1時間攪拌し、ヨウ化カリウム水溶液 (13.0 g, 78.36 mmol in Water 50 mL)を一度に加え、氷浴を外し3時間攪拌し、その後60 ℃で窒素の発生が収まるまで1時間加熱した。室温まで冷却した後、反応溶液をジエチルエーテルで3回抽出した。有機層を5 %チオ硫酸ナトリウム水溶液(100 mL x 3回)で洗浄し、さらに飽和食塩水(100 mL x 2回)で洗浄した。さらに、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾液を濃縮することで赤色のオイルを得た。
これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン)にて精製することにより、無色のオイルとして化合物2を得た。(収量12.0 g, 収率71.2 %)
以下に化合物2の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 1.73-1.81(m, 4H), 2.70 (quint, 4H, J =4.85 Hz ), 6.80 (d, 1H, J =8.0 Hz), 7.38 (dd, 1H, J1= 8.0 Hz J2=1.75 Hz), 7.41 (s, 1H)
質量分析:GC-MS m/z = 258 (M+)
【0113】
<化合物3の合成>
J. Org. Chem. 1999, 64, 9365-9373に記載の方法を応用して、目的化合物の合成を行った。
【0114】
【化21】

【0115】
100 mLの丸底フラスコに化合物2 (3.1 g, 12 mmol)、アゾビスイソブチロニトリル (59 mg, 0.36 mmol)、四塩化炭素 (50 mL)、N-ブロモスクシンイミド (4.7 g, 26.4 mmol)を入れ、アルゴンガスで置換を行った後、穏やかに80 ℃に加熱し、そのまま1時間攪拌し、室温まで冷却した。沈殿を濾過し、濾液を減圧下で濃縮することで、薄黄色の固体として化合物3を得た。(収量4.99 g, 収率100 %)
これ以上精製することなく次の反応に用いた。以下に化合物3の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 2.31-2.41(m, 2H), 2.70-2.79 (m, 2H), 5.65 (t
, 2H, J =2.0 Hz), 7.24-7.28 (m, 2H), 7.31-7.34 (m, 2H)質量分析:GC-MS m/z = 413 (M+)
【0116】
<化合物4の合成>
1,4-dibromo-1,2,3,4-tetrahydronaphthaleneは化合物3と同様、J. Org. Chem.1999, 64, 9365-9373に記載の方法で合成したものを原料として用いた。
【0117】
【化22】

【0118】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物 (3.62 g, 20 mmol)、酢酸 (1.21 g, 20 mmol)、ジメチルホルムアミド(以下DMF)(30 mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、1,4-dibromo-1,2,3,4-tetrahydronaphthalene (2.90 g, 10 mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100 mLで希釈し、純水200 mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30 mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、薄い褐色の固体を得た。これをヘキサンで洗浄し、無色の固体として化合物4を得た。(収量1.50 g, 収率60.6 %、ラセミ体とメソ体の5:6の混合物)
ヘキサンから再結晶することで、ラセミ体とメソ体をそれぞれ分離した。
以下に化合物4の分析結果を示す。
ラセミ体
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 1.96-1.99 (m, 2H), 2.07 (s, 6H), 2.27-2.30 (m, 2H), 6.05 (t, 2H, J =2.3 Hz), 7.34 (br, 4H)
メソ体
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 2.09-2.12(m, 4H), 2.13 (s, 6H), 5.96-5.98 (m, 2H), 7.32 (br, 4H)
質量分析:GC-MS m/z = 248 (M+)
【0119】
<化合物5の合成>
【0120】
【化23】

【0121】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物 (3.62 g, 20 mmol)、カプロン酸 (2.51 mL, 20 mmol)、DMF (30 mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3 (4.16 g, 10 mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100 mLで希釈し、純水200 mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30 mLで4回抽出し合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、オレンジ色のオイルを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン→酢酸エチル/トルエン (5/95, v/v))にて精製することにより、無色のオイルとして化合物5を得た。(収量2.44 g, 収率50.2 %) 以下に化合物5の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 0.87-0.90 (m, 6H), 1.24-1.34 (m, 8H), 1.60-1.67 (m, 4H), 1.90-1.94 (m, 2H), 2.23-2.34 (m, 6H), 5.98 (d, 2H, J =3.5 Hz), 7.06 (d, 2H, J =8.0 Hz), 7.63-7.66 (m, 2H)
質量分析:GC-MS m/z = 486 (M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物5の構造と矛盾がないことを確認した。
【0122】
<化合物6の合成>
【0123】
【化24】

【0124】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物 (3.62 g, 20 mmol)、ピバル酸 (2.04 g, 20 mmol)、DMF (30 mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3 (4.16 g, 10 mmol)を加え、さらに室温で16時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100 mLで希釈し、純水200 mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30 mLで4回抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、薄いオレンジ色の固体を得た。これをエタノールから再結晶(2回)することで、薄黄色の結晶として化合物6を得た。(収量1.93 g, 収率42.0 %) 以下に化合物6の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 1.18 (s, 18H), 1.20 (s, 18H), 1.87-1.92 (m, 4H), 2.21-2.24 (m, 4H), 5.94 (d, 4H, J =2.3 Hz), 7.02 (d, 2H, J =8.0 Hz), 7.62-7.63 (m, 2H), 7.64-7.65 (m, 2H)
質量分析:GC-MS m/z = 458 (M+)
融点:114.0-115.5 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物6の構造と矛盾がないことを確認した。
【0125】
<化合物7の合成>
【0126】
【化25】

【0127】
100mLの丸底フラスコにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物 (3.62 g, 20 mmol)、3,3,3-トリフルオロプロパン酸 (2.56 g, 20 mmol)、DMF (30 mL)を入れ、アルゴン置換した後、室温で2.5時間攪拌した。そこへ、化合物3(4.16 g, 10 mmol)を加え、さらに室温で48時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル100 mLで希釈し、純水200 mLを加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチル30 mLで4回抽出し、合わせた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、褐色の液体を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エ/ヘキサン(1/2, v/v) + 2%トリエチルアミン添加)にて精製す
ることにより、淡黄色のオイルを得た。(収量2.44 g)
さらにリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製、LC-9104)にて精製することにより、無色のオイルとして化合物7を得た(収量1.2 g, 収率25 %) 以下に化合物7の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):1.99-2.31 (m, 4H, H2, H3), 3.14-3.30 (m, 4H, -CH2CF3), 5.96-6.08 (m, 2H, H1, H4), 7.05-7.10 (m, 1H, ArH), 7.66-7.71 (m, 2H, ArH)
質量分析:GC-MS m/z = 510(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物7の構造と矛盾がないことを確認した。
【0128】
[合成例2]
[化合物中間体の合成2]
<化合物8の合成>
【0129】
【化26】

【0130】
十分に乾燥させた200 mLの丸底フラスコに、チエノ[3, 2-b]チオフェン(2.81 g, 20.0 mmol)を入れ、アルゴン置換を行った後、脱水テトラヒドロフラン(以下THF) (50 mL)を加え、アセトン-ドライアイス浴で-78 ℃まで冷却し、n-ブチルリチウム(2.2eq, 28.1 mL (1.6 Mヘキサン溶液), 44 mmol)を15分かけて滴下し、反応系内を室温まで昇温し、そのまま16時間攪拌を行った。再び-78℃に冷却し、トリメチルスズクロリド (2.5 eq, 50 mL (1.0 Mヘキサン溶液), 50 mmol)を一度に加え、反応系内を室温まで昇温させ、24時間攪拌を行った。
水(80 mL)を加えて、クエンチし、酢酸エチルを加えて有機層を分離した。有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、さらに硫酸ナトリウムで乾燥を行い、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。これをアセトニトリルから再結晶(繰り返し3回)することにより、無色の結晶として化合物8を得た。(収量5.0 g, 54.1 %)
以下に化合物8の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 0.38 (s, 18H), 7.23 (s, 2H)
質量分析:GC-MS m/z = 466(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物8の構造と矛盾がないことを確認した。
【0131】
<化合物9の合成>
【0132】
【化27】

【0133】
ベンゾ[1,2-b:4,5-b´]ジチオフェンは、特願2009-061749と同様にJ. Org. Chem., 2005, 70 (25), pp 10569-10571およびOrg. Lett., 2009, 11 (11), pp 2473-2475に記載の方法に従って合成したものを原料として用いた。
十分に乾燥させた200 mLの丸底フラスコに、ベンゾ[1,2-b:4,5-b´]ジチオフェン(3.81 g, 20.0 mmol)を入れ、アルゴン置換を行った後、脱水THF (50 mL)を加え、アセトン-ドライアイス浴で-78 ℃まで冷却し、n-ブチルリチウム(2.2eq, 28.1 mL (1.6 Mヘキサン溶液), 44 mmol)を15分かけて滴下し、反応系内を室温まで昇温し、そのまま16時間攪拌を行った。再び-78℃に冷却し、トリメチルスズクロリド (2.5 eq, 50 mL (1.0 Mヘキサン溶液), 50 mmol)を一度に加え、反応系内を室温まで昇温させ、24時間攪拌を行った。水(80 mL)を加えて、クエンチし、酢酸エチルを加えて有機層を分離した。有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、さらに硫酸ナトリウムで乾燥を行い、濾液を濃縮し、褐色の固体を得た。これをアセトニトリルから再結晶(繰り返し3回)することにより、薄黄色の結晶として化合物9を得た。(収量7.48 g, 72.5 %)
以下に化合物9の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 0.44 (s, 18H), 7.41 (s, 2H), 8.27 (s, 2H)
質量分析:GC-MS m/z = 518(M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物9の構造と矛盾がないことを確認した。
【0134】
<化合物10の合成>
【0135】
【化28】

【0136】
2, 7-ジヨード[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンはZh.Org.Khim.,16,2,383(1980)およびJ.Am.Chem.Soc.128,12604(2006)を参考にして合成したものを原料として用いた。 十分に乾燥させた300 mLの丸底フラスコに、2, 7-ジヨード[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(4.92 g, 10.0 mmol)を入れ、アルゴン置換を行った後、脱水THF (150 mL)を加え、アセトン-ドライアイス浴で-78 ℃まで冷却し、n-ブチルリチウム(2.2eq, 14.1 mL (1.6 Mヘキサン溶液), 22 mmol)を15分かけて滴下し、反応系内を室温まで昇温し、そのまま16時間攪拌を行った。再び-78℃に冷却し、トリメチルスズクロリド (2.5 eq, 25 mL (1.0 Mヘキサン溶液), 25 mmol)を一度に加え、反応系内を室温まで昇温させ、24時間攪拌を行った。水(80 mL)を加えて、クエンチし、クロロホルムを加えて有機層を分離した。有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、さらに硫酸ナトリウムで乾燥を行い、濾液を濃縮し褐色の固体を得た。これをトルエン、続けてアセトニトリルから再結晶することにより、薄褐色の結晶として化合物10を得た。(収量3.40 g, 60.0 %)
以下に化合物10の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 0.37 (s, 18H), 7.55 (d, 2H, J =8.6 Hz) , 7.87 (d, 2H, J =7.5 Hz), 8.04 (s, 2H)
質量分析:GC-MS m/z = 566 (M+)
以上の分析結果から、合成したものが、化合物10の構造と矛盾がないことを確認した。
TTPTT-Sn
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 0.51 (s, 18H),7.35 (s, 2H) , 8.25 (d, 2H)
【0137】
[合成例3;前駆体分子の合成]
<化合物11の合成>
【0138】
【化29】

【0139】
100 mLの丸底フラスコに、化合物5 (973 mg, 2.0 mmol)、化合物8 (466 mg, 1 mmol)、DMF (10 mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (18.3 mg, 0.02 mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン (24.4 mg, 0.08 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で20時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで3回抽出を行い、合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾液を濃縮し、赤色の液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10 wt%フッ化カリウム, 溶媒:ヘキサン/酢酸エチル, 9/1→8/2, v/v)にて精製することにより、黄色の固体を得た。これをヘキサン/エタノールから再結晶することにより、黄色の固体として化合物11を得た。(収量680 mg, 収率79.3 %

以下に化合物の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ): 0.87-0.89 (m, 12H), 1.28-1.33 (m, 16H), 1.61-1.69 (m, 8H), 1.96-2.01 (m, 4H), 2.28-2.36 (m, 12H), 6.08 (d, 4H, J =12.1 Hz), 7.37 (d, 2H, J =8.6 Hz), 7.48 (s, 2H), 7.57-7.59 (m, 4H)
融点:113.7-114.7 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物11の構造と矛盾がないことを確認した

元素分析(C50H64O8S2):C, 69.92; H, 7.67; O, 14.85; S, 7.44(実測値)、C, 70.06; H, 7.53; O, 14.93; S, 7.48(理論値)
【0140】
<化合物12の合成>
【0141】
【化30】

【0142】
100 mLの丸底フラスコに、化合物6 (2.0 mmol, 917 mg)、化合物8 (466 mg, 1 mmol)、DMF (10 mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (18.3 mg, 0.02 mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン (24.4 mg, 0.08 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で24時間、続けて50 ℃で3時間攪拌した。反応溶液をトルエンで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はトルエンで抽出を行った。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し得られた固体をヘキサンで洗浄することにより、黄色の固体として化合物12を得た。(収量320 mg, 収率40.0 %)
以下に化合物12の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):1.21 (s, 18H), 1.24 (s, 18H), 1.90-1.96 (m, 4
H), 2.30 (dt, 4H, J1 =9.2 Hz, J2 =2.3 Hz ), 6.03 (d, 4H, J =13.2 Hz), 7.32 (d, 2
H, J =8.0 Hz 7.46 (s, 2H), 7.53 (d, 2H, J =1.7 Hz), 7.58 (dd, 2H, J1 =8.0 Hz, J2
=2.3 Hz)
分解点:275.2 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物12の構造と矛盾がないことを確認した

元素分析(C46H56O8S2):C, 68.87; H, 6.95; O, 16.08; S, 8.10(実測値)、C, 68.97;
H, 7.05; O, 15.98; S, 8.01 (理論値)
【0143】
<化合物13の合成>
【0144】
【化31】

【0145】
100 mLの丸底フラスコに、化合物7 (1020 mg, 2.0 mmol)、化合物8 (466 mg, 1 mmol)、DMF (10 mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (18.3 mg, 0.02 mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン (24.4 mg, 0.08 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で16時間、続けて80 ℃で8時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチルで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層は酢酸エチルで抽出を行った。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10 wt%フッ化カリウム, 溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(2/1, v/v)+ 2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、黄色の固体を得た。
さらにリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製, LC-9104, 溶媒:THF)にて精製するこ
とにより、淡黄色の結晶として化合物13を得た(収量200 mg, 収率22.1 %)
以下に化合物13の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):2.06-2.35 (m, 8H, H2, H3 of Tetralin), 3.16-3.3.33 (m, 8H, -CH2CF3), 6.07-6.18 (m, 4H, H1, H4 of Tetralin), 7.36-7.41 (m, 2H, ArH), 7.50 (d, 2H, J= 6.9 Hz, ArH), 7.57-7.64 (m, 4H, ArH)
分解点:197.5 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物13の構造と矛盾がないことを確認した

元素分析(C38H28F12O8S2):C, 50.65; H, 3.02; O, 14.00; S, 7.19(実測値)、C, 50.45; H, 3.12; O, 14.15; S, 7.09(理論値)
【0146】
<化合物14の合成>
【0147】
【化32】

【0148】
100 mLの丸底フラスコに、化合物7 (1887 mg, 3.7 mmol)、化合物9 (929 mg, 1.8 mmol)、DMF (25 mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (32.9 mg, 0.036 mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン (43.9 mg, 0.144 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下80 ℃で4時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで抽出を行った。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製, LC-9104, 溶媒:THF)にて精製することにより、淡黄色の結晶として化合物14を得た(収量340 mg, 収率20.0 %)
以下に化合物14の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):2.08-2.37 (m, 8H, H2, H3 of Tetralin), 3.20-3.3.34 (m, 8H, -CH2CF3), 6.09-6.6.21 (m, 4H, H1, H4 of Tetralin), 7.40-7.47 (m, 2H, ArH), 7.60 (d, 2H, J= 7.5 Hz, ArH), 7.68-7.75 (m, 4H, ArH), 8.22 (s, 2H)
分解点:231 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物14の構造と矛盾がないことを確認した。
元素分析(C42H30F12O8S2):C, 52.74; H, 3.28; O, 13.70; S, 6.52 (実測値)、C, 52.
83; H, 3.17; O, 13.41; S, 6.72 (理論値)
【0149】
<化合物15の合成>
【0150】
【化33】

【0151】
100 mLの丸底フラスコに、化合物5 (1020 mg, 2.1 mmol)、化合物10 (492 mg, 1.0 mmol)、DMF/トルエン (25 mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (32.9 mg, 0.036 mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン (43.9 mg, 0.144 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下80 ℃で12時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで抽出を行った。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10 wt%フッ化カリウム, 溶媒:ジクロロメタン/酢酸エチル(3/1, v/v)+ 2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、黄色の固体を得た。
続けてリサイクル分取HPLC(日本分析工業社製, LC-9104, 溶媒:THF)にて精製することにより、淡黄色の結晶として化合物15を得た(収量210 mg, 収率42.7 %)
以下に化合物15の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):0.85-0.91 (m, 12H), 1.29-1.33 (m, 16H), 1.63-
1.69 (m, 8H), 1.99-2.04 (m, 4H), 2.32-2.37 (m, 12H), 6.15 (d, 4H, J =18.9 Hz), 7
.46 (d, 2H, J =8.0 Hz), 7.65-7.69 (m, 6H), 7.95 (d, 2H, J =8.0 Hz), 8.11 (d, 2H,
J = 1.2 Hz)
融点:179.0 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物15の構造と矛盾がないことを確認した。
元素分析(C58H68O8S2):C, 72.50; H, 7.43; O, 13.57; S, 6.49(実測値)、C, 72.77
; H, 7.16; O, 13.37; S, 6.70(理論値)
【0152】
<化合物16の合成>
【0153】
【化34】

【0154】
100 mLの丸底フラスコに、化合物7 (1020 mg, 2.1 mmol)、化合物10(492 mg, 1.0 mmol)、DMF/トルエン (25 mL)を入れ、アルゴンガスを30分間バブリングした後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (18.3 mg, 0.02 mmol)、トリ(オルトトリル)ホスフィン (24.4 mg, 0.08 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下80 ℃で8時間攪拌した。反応溶液をクロロホルムで希釈し、セライト濾過で不溶物を除去し、濾液に水を加え、有機層を分離した。水層はクロロホルムで抽出を行った。合わせた有機層を飽和フッ化カリウム水溶液、続けて飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾液を濃縮し、黄色の固体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(固定層:(中性シリカゲル(関東化学製)+10 wt%フッ化カリウム, 溶媒:ジクロロメタン/酢酸エチル(3/1, v/v)+ 2%トリエチルアミン添加)にて精製することにより、黄色の固体を得た。
続けて、リサイクル分取HPLC(日本分析工業社製, LC-9104, 溶媒:THF)にて精製する
ことにより、淡黄色の結晶として化合物16を得た(収量180 mg, 収率 36.5%)
以下に化合物16の分析結果を示す。
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):2.08-2.38 (m, 8H, H2, H3 of Tetralin), 3.19-3
.33 (m, 8H, -CH2CF3),6.12-6.25 (m, 4H, H1, H4 of Tetralin), 7.48-7.50 (m, 2H, Ar
H), 7.65-7.73 (m, 6H, ArH), 7.97 (d, 2H, J=8.6 Hz, ArH), 8.12 (d, 2H, J= 1.2 Hz,
ArH)
分解点:218 ℃
以上の分析結果から、合成したものが、化合物16の構造と矛盾がないことを確認した

元素分析(C46H32F12O8S2):C, 55.17; H, 3.41; O, 12.95; S, 6.07(理論値)、C, 54.98; H, 3.21; O, 12.74; S, 6.38(理論値)
【実施例1】
【0155】
[薄膜の作製例]
以下、本発明の膜状体の製法の実施例を最初にやや詳しく説明し、つぎに本発明の技術的要諦部分につき、理解を容易にするための簡潔な開示として、その中核たる前駆体A-(B)mからの脱離性基の脱離による目的化合物A-(C)mへの変換の内容ついて具体例により詳細に説明し、併せて、前駆体のA-(B)mの有機溶媒への溶解度についても詳細に説明するが、前駆体A-(B)mからの脱離性基の脱離による目的化合物A-(C)mへの変換は、取りも直さず、前駆体A-(B)mからの脱離性基の脱離による目的化合物A-(C)mの製法を直接示すものであることは、理解に難くないものと信じる。
【0156】
合成例3で合成した化合物11,化合物14,化合物15 (各5 mg)をTHFに0.1 wt%の濃度になるように溶解させ、0.2 μmのフィルターで濾過して溶液を調製した。濃硫酸に24時間付けおき洗浄した膜厚300 nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板上に、調製した溶液を100 μL滴下し、シャーレを被せてそのまま溶媒が乾燥するまで静置し、薄膜を作製した。この薄膜を偏光顕微鏡および走査型プローブ顕微鏡(コンタクトモード、Nanopics(商品名)、Seiko Instruments Inc..製)によって行ったところ、平滑な連続したアモルファス膜が得られていることが分かった
。次に前記薄膜を、アルゴン雰囲気下で250 ℃で30分間アニール処理した後に、前記と同様にして膜の観察を行った。アニール処理後は、偏光顕微鏡で色のついたドメインが複数観測され、平滑な結晶質の膜が得られていることが分かった。これは、前駆体である化合物11、化合物14、化合物15が溶解性基であるエステル基を脱離することにより、膜中でより分子間相互作用の強い化合物17,化合物18,化合物19へと変換され、結晶質になったためである。
この薄膜は、25 ℃のクロロホルム、THF, トルエン等に不溶であった。
【実施例2】
【0157】
[化合物11の脱離基の脱離挙動例]
合成例3で合成した化合物11(5 mg)を、シリコンウェハを介して任意の温度(150, 160, 170, 180, 220, 230, 240, 260 ℃)に設定したホットプレート上でそれぞれ30分間加熱し、サンプル調整を行った。
上記サンプルおよび加熱前の化合物前駆体11、および変換後の化合物17のIRスペクトル(KBr法、Spectrum GX(商品名)、Perkin Elmer社製)を測定した。その結果を、図1に示す。
化合物11の240 ℃の加熱条件において、、―O―(1156 cm-1およびC=O(1726 cm-1))の吸収が消失し、新たな吸収(810,738,478 cm-1、芳香族)の存在が確認された。そして、これは化合物17のスペクトルと一致する。
また、化合物11の熱分解挙動を、TG−DTA(リファレンスAl ,窒素気流下(200 mL/min)、EXSTAR6000(商品名) 、Seiko Instruments Inc.製)を用いて25 ℃から500 ℃の範囲を5 ℃/minのレートで昇温し、観察した。その結果を図2に示す。
TG-DTAにおいて160〜290 ℃にかけて、56.7 %の重量減少が見られた。これはカプロン酸4分子(理論値54.2 %)とほぼ一致する。また、357.7 ℃に融点の存在が認められた。これは化合物17の値と一致する。
以上の結果から化合物11が加熱により化合物17へと変換されることが示された。
また、脱離反応の閾値は240 ℃前後であることも示された。
【実施例3】
【0158】
[化合物12の脱離基の脱離挙動例]
実施例2の化合物11を化合物12に換え、加熱条件を170, 180, 200, 220, 240, 250, 260, 280, 300 ℃とした以外は同様にサンプルを作製し、IRスペクトルを測定し、変換温度を見積もった。
化合物12の280 ℃の加熱条件において、、―O―(1156 cm-1およびC=O(1726 m-1))の吸収が消失し、新たな吸収(810,738,478 cm-1、芳香族)の存在が確認された。また、同様にTG-DTAを測定した。TG-DTAにおいて250〜285 ℃にかけて、58.2 %の重量減少が見られた。これはピバル酸4分子(理論値51.0 %)よりも幾分大きい。また、357.2 ℃に融点の存在が認められた。これは化合物17の値と一致する。
以上の結果から化合物12が加熱により化合物17へと変換されることが示された。
また、脱離反応の閾値は280 ℃前後であることも示された。
【実施例4】
【0159】
[化合物15の脱離基の脱離挙動例]
実施例2の化合物11を化合物15に換え、加熱条件を180, 200, 220, 230, 240, 250, 260, 280 ℃とした以外は同様にサンプルを作製し、IRスペクトルを測定しIRスペクトルを測定し変換温度を見積もった。化合物15の250 ℃の加熱条件において、―O―(1156 cm-1およびC=O(1726 cm-1))の吸収が消失し、新たな吸収(810,738,478 cm-1、芳香族)の存在が確認された。そして、これは化合物19のスペクトルと一致する。また、同様にTG-DTAを測定した。TG-DTAにおいて200〜300 ℃にかけて、50.7 %の重量減少が見られた。これはカプロン酸4分子(理論値48.5 %)とほぼ一致する。また、358.2 ℃に融点の存在が認められた。これは化合物19の値と一致する。以上の結果から化合物15が加熱により化合物19へと変換されることが示された。
また、脱離反応の閾値は250 ℃前後であることも示された。
以上の実施例より、脱離の挙動と脱離反応の閾値温度を見積もることができた。また、組み合わせるπ電子共役系コアによる影響はそれほどなく、エステル部位に導入したアルキル鎖の違いにより、脱離反応が起こる温度が変化することが示された。アルキル鎖即ち、脱離成分であるカルボン酸の酸性度(pKaであらわすことができる)が高いほど、脱離温度は低い傾向が見られた。なお、それぞれのpKaはピバル酸(5.0)、カプロン酸(4.6), 3,3,3-トリフルオロプロピオン酸(3.0)である。
本発明における化合物の場合は概ね250 ℃までの加熱により、目的のπ電子共役系化合物を得ることができることが示された。
なお、上記実施例2乃至4において、実測の重量減少が理論値よりも大きいのは、高温かつ窒素気流下であるため化合物17および化合物19の昇華性が比較的高いためであるのと、前駆体の結晶中に溶媒を含んでいるためであると考えられる。
【実施例5】
【0160】
[溶解度例]
合成例3で合成した化合物11乃至化合物19をそれぞれトルエン、THF、アニソール、クロロホルム(各2.0 mg)に溶け残りが出るまで添加し、溶媒還流下で10分間攪拌し、室温まで冷却しさらに1時間攪拌し、16時間静置した後、上澄みを0.2 μmのPTFEフィルターで濾過して、飽和溶液を得た。これを減圧下乾燥させることにより、各溶媒への前駆体の溶解度を算出した。結果を表5に示す。
(表4においては◎とは溶解度が0.5 wt%以上であり、○とは0.1 wt%以上0.5 wt%未満、△は0.005 wt%以上0.1 wt%未満、×は0.005 wt%未満であったことを示す。)
これより、極性の異なる数多くの溶媒に対して概ね0.1 wt%以上の溶解性を有していることが分かり、塗布プロセスにおける溶媒の選択性に富むことが明らかとなった。また変換後の材料である化合物17, 化合物18, 化合物19はこれら全ての溶媒に0.005 wt%以下の溶解性であり、脱離反応により変換された化合物が不溶化することを示唆している。
【0161】
【表5】

【実施例6】
【0162】
[脱離性基の脱離による目的化合物A-(C)mへの変換例1;ベンゼン環を有する化合物の合成例5 (ナフタレンの合成)]
【0163】
【化35】

【0164】
合成例1で合成した化合物4(100 mg)を丸底フラスコに入れ、内温180 ℃のまま1時間攪拌した。続けて、フラスコに氷による冷却部を備えたガラス管を置き、フラスコ内を減圧(40 mmHg)し、内温80℃のまま加熱を続けることにより昇華精製を行い、ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量51.5 mg, 収率99.8 %)
この結晶の下記に示す分析を行ったところ
H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.48 (d, 4H, J1=6.8 Hz), 7.84 (d, 4H, J1=8.3 Hz)
元素分析値:C, 93.46; H, 6.44 (実測値) C, 93.71; H, 6.29 (理論値)
質量分析:GC-MS m/z = 128 (M+)
融点:79.0-80.0 ℃を得た。
化合物純度(LC-MS):≧99.9 %
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶がナフタレンであることが確認された。
【実施例7】
【0165】
[ベンゼン環を有する化合物の合成例6 (2-ヨードナフタレンの合成1)]
【0166】
【化36】

【0167】
合成例1で合成した化合物5(97.28 mg, 0.2 mmol)を丸底フラスコに入れ、内温180 ℃のまま1時間攪拌した。続けて、フラスコに氷による冷却部を備えたガラス管を置き、フラスコ内を減圧(40 mmHg)し、内温50℃のまま加熱を続けることにより昇華精製を行い、ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量50.66 mg, 収率99.7 %)
この結晶の下記に示す分析を行ったところ、
H NMR (400 MHz, CDCl3, TMS, δ):7.46-7.52 (m, 2H) 7.55-7.58 (m, 1H), 7.68-7.74 (m, 2H), 7.76-7.82 (m, 1H), 8.22-8.26 (m, 1H)
元素分析値 (C10H7I):C, 47.11; H, 2.94 (実測値) C, 47.27; H, 2.78 (理論値)
質量分析:GC-MS m/z = 254 (M+)
融点:50.5-52.0℃を得た。
化合物純度(LC-MS):≧99.8 %
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶が2-ヨードナフタレンであることが確認された。
【実施例8】
【0168】
[ベンゼン環を有する化合物の合成例7 (2-ヨードナフタレンの合成2)]
実施例7で用いた化合物5を化合物6 (91.67 mg, 0.2 mmolに換えた以外は同様に反応を行った。
ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量50.46 mg, 収率99.3 %)。
この結晶の下記に示す分析を行ったところ、実施例7と同様の分析結果が得られた。
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶が2-ヨードナフタレンであることが確認された。
【実施例9】
【0169】
[ベンゼン環を有する化合物の合成8(2-ヨードナフタレンの合成3)]
実施例8で用いた化合物6を化合物7 (102.0 mg, 0.2 mmol)に換え、フラスコの内温を160℃にした以外は同様に反応を行った。
ガラス管に付着した無色の結晶を掻き取った(収量50.76 mg, 収率99.9 %)。
この結晶の下記に示す分析を行ったところ、実施例7と同様の分析結果が得られた。
以上の結果から、上記反応で得られた無色の結晶が2-ヨードナフタレンであることが確認された。
実施例5〜8より、ナフタレンおよびその誘導体が180℃以下の比較的低温でかつ99%以上の高収率で得られることが示された。部分的にハロゲン化(フッ素化)されたような電子吸引性の高いアルキル基を有する化合物においてはさらに低温で反応が完了することも示された。
【実施例10】
【0170】
[化合物17の合成例1]
【0171】
【化37】

【0172】
合成例3で合成した化合物11 (200 mg, 0.23 mmol)を丸底フラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、245 ℃(フラスコ内温)で1時間加熱攪拌を行った。
得られた固体をトルエン、続けてメタノールで洗浄し、真空下乾燥することで黄色の結晶として化合物17を得た。(収量86.9 mg, 収率96.3 %)
化合物17の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C26H16S2):C, 79.84; H, 4.00; S, 16.10 (実測値) C, 79.55; H, 4.11; S, 16.34 (理論値) 質量分析:GC-MS m/z = 392 (M+)
融点:357.7 ℃
化合物純度(GCMS):≧99.8 %

以上の分析結果から、合成したものが、化合物17の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例11】
【0173】
[化合物17の合成2]
【0174】
【化38】

【0175】
実施例10で用いた化合物11を化合物12(184.2 mg, 0.23 mmol)に換え、反応温度を270 ℃に変えた以外は実施例10と同様に反応および精製を行った。
同様に黄色の結晶として化合物17を得た。(収量86.3 mg, 収率96.3 %)
この反応で得られた化合物17の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C26H16S2):C, 79.64; H, 4.10; S, 16.20 (実測値) C, 79.55; H, 4.11; S, 16.34 (理論値) 質量分析:GC-MS m/z = 392 (M+)
融点:357.2 ℃
化合物純度(GCMS):≧99.7 %

以上の分析結果から、合成したものが、化合物17の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例12】
【0176】
[化合物17の合成3]
【0177】
【化39】

【0178】
実施例10で用いた化合物11を化合物13 (219.6 mg, 0.23 mmol)に換え、反応温度を200 ℃に変えた以外は実施例10と同様に反応および精製を行った。
同様に黄色の結晶として化合物17を得た。(収量89.2 mg, 収率98.8 %)
この反応で得られた化合物17の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C26H16S2):C, 79.58; H, 4.11; S, 16.32 (実測値) C, 79.55; H, 4.11; S, 16.34 (理論値) 質量分析:GC-MS m/z = 392 (M+)
融点:357.2 ℃
化合物純度(GCMS):≧99.7 %
以上の分析結果から、合成したものが、化合物17の構造と矛盾がないことを確認した

【実施例13】
【0179】
[化合物18の合成]
【0180】
【化40】

【0181】
実施例10で用いた化合物11を化合物14 (208.1 mg, 0.23 mmol)に換え、反応温度を240 ℃に変えた以外は実施例10と同様に反応を行い、得られた固体をクロロホルム、アセトン、メタノールで洗浄し真空下で乾燥することで、黄緑色の結晶として化合物18を得た。(収量100 mg, 収率98.3 %)
この反応で得られた化合物18の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C30H18S2):C, 81.21; H, 4.10; S, 14.59 (実測値) C, 81.41; H, 4.10; S, 14.49 (理論値) 質量分析:GC-MS m/z = 442 (M+)
融点:438.2 ℃
化合物純度(GCMS):≧99.8 %
以上の分析結果から、合成したものが、化合物18の構造と矛盾が無いことを確認した。
【実施例14】
【0182】
[化合物19の合成1]
【0183】
【化41】

【0184】
実施例10で用いた化合物11を化合物15 (208.1 mg, 0.23 mmol)に換え、反応温度を255 ℃に変えた以外は実施例10と同様に反応を行い、クロロホルム、メタノールで洗浄し真空下で乾燥することで、淡黄色の結晶として化合物19を得た。(収量110 mg, 収率97.1 %)
この反応で得られた化合物19の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C34H20S2):C, 82.67; H, 4.10; S, 13.14 (実測値) C, 82.89; H, 4.09; S, 13.02 (理論値) 質量分析:GC-MS m/z = 492 (M+)
融点:378.2 ℃
化合物純度(GCMS):≧99.5 %
以上の分析結果から、合成したものが、化合物19の構造と矛盾がないことを確認した。
【実施例15】
【0185】
[化合物19の合成2]
【0186】
【化42】

【0187】
実施例10で用いた化合物11を化合物16 (208.1 mg, 0.23 mmol)
に換え、反応温度を220 ℃に変えた以外は実施例10と同様に反応を行い、クロロホルム、アセトン、メタノールで洗浄し真空下で乾燥することで、淡黄色の結晶として化合物19を得た。(収量111.8 mg, 収率98.7 %)
この反応で得られた化合物19の分析結果を以下に示す。
元素分析値(C34H20S2):C, 82.52; H, 4.08; S, 13.17 (実測値) C, 82.89; H, 4.09; S, 13.02 (理論値) 質量分析:GC-MS m/z = 492 (M+)
融点:377.9 ℃
化合物純度(GCMS):≧99.4 %

以上の分析結果から、合成したものが、化合物19の構造と矛盾がないことを確認した。
実施例10乃至15の結果より、200―250 ℃程度の加熱および洗浄操作のみで97 %以上の高収率で難溶性のπ電子共役系化合物を高収率かつ、99%以上の高純度で得ることが可能であることが示された。変換に要した温度は概ね各化合物の昇華温度(1 %重量減少温度として定義される)以下であることも分かった。例えば、図2において変換の際に起こる重量減少終了後、300℃から340℃にかけてグラフがほぼ水平の領域が見られ、それ以上の温度で1%以上重量減少が始まっているため、化合物が昇華している考えることができる。
ナフタレンの様な有機溶媒可溶な低分子だけでなく、本来であれば有機溶媒に対して難溶性であるπ電子共役系化合物の製造においても有効な方法であることが示唆された。顔料、有機半導体分子、その他多くの分子においても適用が可能である。
【0188】
〔比較例1〕
比較例1として、実施例15の化合物11,化合物14,化合物15を化合物17,化合物18,化合物19に変え、THFの代わりに150 ℃に加熱したジクロロベンゼンを用いた以外は同様にして溶液の調整、薄膜の作製を行った。
いずれの膜においても、目視で分かるほどに結晶が析出しており、不連続な膜になっているのが確認された。偏光顕微鏡においても、不連続で色のついたドメインが複数観測された。走査型プローブ顕微鏡で確認したところ100 μm以上の表面荒さが認められた。
以上の結果より、一部の高沸点溶媒に僅かしか溶解しないような難溶性の化合物の薄膜化において、本発明の製造方法が有効であることが示された。
【0189】
以下に本発明のπ共役化合物の製造方法の応用例を記載するが、応用例はこれらに限られるものではない。
【実施例16】
【0190】
[応用実施例1]
[溶液プロセスによる電界効果型トランジスタの作製・評価]
実施例1と同様の方法で洗浄した基板上に実施例1と同様に化合物11を含む薄膜をそれぞれ作製した。前記薄膜をアルゴン雰囲気下、250 ℃で30分間アニール処理をすることで、化合物17からなる薄膜(膜厚50 nm)に変換を行った。
この薄膜上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧 〜10−4 Pa, 蒸着レート
1〜2 Å/s、膜厚:50 nm)することによりソース、ドレイン電極(チャネル長33 μm, チャネル幅2 mm)を形成し、図3(D)の構造の電界効果型トランジスタ(FET)素子を作製した。金電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(導電性ペースト、藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。
この部分を用いて、ゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザーB1500Aを用いて(測定条件:ソースドレイン電圧を-100 V固定、ゲート電圧−20 Vから+100 Vまで掃引)評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I―V)特性における飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の計算式(1)を用いた。
Ids=μCinW(Vg−Vth)2/2L 計算式(1)
(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
また、ゲート電圧100 Vにおけるオン電流と同0 Vにおけるオフ電流の比をオンオフ比として算出した。
その結果、飽和移動度4.8 x 10−3 cm2/Vs、オンオフ比3 x10が得られた。
【実施例17】
【0191】
[応用実施例2]
応用実施例1において化合物11を化合物14に換えた以外は以下同様にして有機トランジスタを作製し、評価を行った。
その結果、飽和移動度2.7 x 10−3 cm2/Vs、オンオフ比3 x10が得られた。
【実施例18】
【0192】
[応用実施例3]
応用実施例1において化合物11を化合物15に換えた以外は以下同様にして有機トランジスタを作製し、評価を行った。
その結果、飽和移動度2.7 x 10−2 cm2/Vs、オンオフ比3 x10が得られた。
以上の応用実施例より、本発明の製造方法を用いて作製した電界効果トランジスタはいずれも良好なホール移動度、電流オンオフ比を示し、有機トランジスタとして優れた特性を有していることが明らかとなった。このことより、本発明の製造方法は有機トランジスタのような有機電子デバイス素子の作製においても有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の製造法によれば、各種有機溶剤への溶解性に優れた前駆体からエネルギーの印加による脱離反応を利用して、末端オレフィンを生成することなくベンゼン環を含むπ電子共役系化合物を高収率で合成することが可能であるため、プロセスアビリティーに優れている。
難溶性であるため真空製膜でのみ連続膜が得られる化合物の製膜において、本発明の製造方法を用いることで、湿式プロセスを用いても容易にその連続膜を得ることができるため、この手法の有機電子デバイスへの応用が考えられ、特に半導体などの電子デバイス、EL発光素子などの光学−電子デバイス、薄膜太陽電池、色素増感太陽電池などの光電変換デバイス、電子ペーパー、各種センサー、RFIDs (radio frequency identification)などに応用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0194】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0195】
【特許文献1】特開平5−055568号公報
【特許文献2】WO2006−077888
【特許文献3】特開平7−188234号公報、
【特許文献4】特開2008−226959号公報
【特許文献5】特開2007−224019号公報
【特許文献6】特開2008−270843号公報
【特許文献7】特開2009−105336号公報
【特許文献8】特開2009−84555号公報
【特許文献9】特開2006−352143号公報
【非特許文献】
【0196】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.72,p1854 (1998)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc. 128,p12604 (2006)
【非特許文献3】Nature,.388,p131, (1997)
【非特許文献4】Adv. Mater.,11,p480 (1999),
【非特許文献5】J.Appl.Phys.100, p034502 (2006)
【非特許文献6】Appl.Phys.Lett.84,12, p2085 (2004)
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.126, p1596 (2004)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π電子共役系化合物前駆体A-(B)mを含む溶媒の塗工液を基材に塗布して形成された塗工膜より、下記一般式(IIa)および(IIb)で示される脱離性置換基を脱離させA-(C) mで示されるπ電子共役系化合物を含有する膜状体を生成することを特徴とする膜状体の製造方法。
【化1】

(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(I)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。ただし、Bは上記一般式(I)中、(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。Cは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している。
上記一般式(I)および(II)中、(X, X)、(Y, Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともに、ハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X, X)または(Y, Y)の一対のハロゲン原子、前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記アシルオキシ基を形成していても良い。R乃至Rは水素原子、ハロゲン原子または有機基である。
【請求項2】
前記塗工液の塗布が、インクジェット塗布、スピンコート法、溶液キャスト法、ディップコーティング法からなる群から選択される方法により行われることを特徴とする請求項1に記載の膜状体の製造方法。
【請求項3】
前記置換基Aが、(i) 1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環が縮環された化合物、及び、(ii) 前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、からなる群から少なくとも一つ以上選択されるπ電子共役系化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の膜状体の製造方法。
【請求項4】
前記化合物A-(B)mより脱離する成分(X-YおよびX-Y)がハロゲン化水素またはカルボン酸を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の膜状体の製造方法。
【請求項5】
前記化合物A-(B)mが溶媒可溶性であり、前記脱離性置換基の脱離により生成する前記化合物A-(C)mが溶媒不溶性であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の膜状体の製造方法。
【請求項6】
前記置換基BおよびCが下記一般式(III)および(IV)に示される部分構造を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の膜状体の製造方法。
【化2】

(ここで、X,X,Y,Y及びR〜Rは前記意味の置換基を表わす)
【請求項7】
π電子共役系化合物前駆体A-(B)mより、下記一般式(IIa)および(IIb)で示される脱離性置換基を脱離させA-(C) mで示されるπ電子共役系化合物を生成することを特徴とするπ電子共役系化合物の製造方法。
【化3】

(ここでAはπ電子共役系置換基であり、Bは上記一般式(I)で表される構造を少なくとも部分構造として有している溶媒可溶性置換基である。mは自然数である。
ただし、Bは上記一般式(I)中、(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除くA上の任意の原子と共有結合を介して連結しているか、A上の(X, X), (Y, Y)の置換位置の炭素原子を除く任意の炭素原子と縮環している。Cは上記一般式(II)で表される構造を少なくとも部分構造として有している。
上記一般式(I)および(II)中、(X, X)、(Y, Y)のうち少なくともいずれか一対はともに水素原子であり、残りの一対はともに、ハロゲン原子、置換または無置換の炭素数1以上のアシルオキシ基からなる群から選択される基である。また、(X1, X2)または(Y, Y)の一対のハロゲン原子、前記アシルオキシ基は互いに同一であっても異なっていても良く、環状の前記アシルオキシ基を形成していても良い。R乃至R4は水素原子、ハロゲン原子または有機基である。
【請求項8】
前記置換基Aが、(i) 1つ以上の芳香族炭化水素環および芳香族ヘテロ環、若しくは2つ以上の前記環が縮環された化合物、及び、(ii)前記(i)の環同士が共有結合を介して連結された化合物、からなる群から少なくとも一つ以上選択されるπ電子共役系化合物であることを特徴とする請求項7に記載のπ電子共役系化合物の製造方法。
【請求項9】
前記化合物A-(B)mが溶媒可溶性であり、前記脱離性置換基の脱離により生成する前記化合物A-(C)mが溶媒不溶性であることを特徴とする請求項7または8に記載のπ電子共役系化合物の製造方法。
【請求項10】
前記置換基BおよびCが下記一般式(III)および(IV)に示される部分構造を有していることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載のπ電子共役系化合物の製造方法。
【化4】


(ここで、X,X,Y,Y及びR〜Rは前記意味の置換基を表わす)
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載の方法で製造されたものであることを特徴とする前記π電子共役化合物系化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41327(P2012−41327A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203099(P2010−203099)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】