説明

ペリクル収納容器

【課題】蓋の天面部に加わる外力により内部が減圧状態になることを防止できるペリクル収納容器を提供すること。
【解決手段】面積1000cm以上の大型ペリクルを収納するための、少なくとも蓋と、該ペリクルを載置するペリクル載置台とから構成されるペリクル収納容器において、前記蓋の開封作業時に蓋の変形を防止する変形防止手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、液晶ディスプレイ(LCD)を構成する薄膜トランジスタ(TFT)やカラーフィルター(CF)等を製造する際のリソグラフィー工程で使用されるフォトマスクやレティクルに異物が付着することを防止するために用いられるペリクルの収納容器に関し、特に面積1000cm以上、更には面積10000cm以上の大型ペリクル用のペリクル収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明はペリクルの収納容器に関する技術であるが、先ず、ペリクルについて説明する。
【0003】
従来、半導体装置や液晶ディスプレイ等の回路パターン製造時のリソグラフィー工程においては、一般にペリクルと呼ばれる防塵手段を用いて、フォトマスクやレティクルへの異物の付着を防止することが行われている。ペリクルはフォトマスク或いはレティクルの形状に合わせた形状を有する厚さ数ミリ程度の枠体の上縁面に、厚さ10μm以下のニトロセルロース或いはセルロース誘導体或いはフッ素ポリマーなどの透明な高分子膜(以下、「ペリクル膜」という)を展張して接着し、かつ該枠体の下縁面に粘着材を塗着すると共に、この粘着材上に所定の接着力で保護フィルムを粘着させたものである。
【0004】
前記粘着材は、ペリクルをフォトマスク或いはレティクルに固着するためのものであり、また、保護フィルムは該粘着材がその用に供するまで該粘着材の接着力を維持するために、該粘着材の接着面を保護するものである。
【0005】
このようなペリクルは、一般的には、ペリクルを製造するメーカーから、フォトマスク或いはレティクルを製造するメーカーに供給され、そこで、ペリクルをフォトマスク或いはレティクルに貼付の後、半導体メーカー、パネルメーカー、等のリソグラフィーを行うメーカーに供給される。
【0006】
このペリクルを製造者から使用者に運搬するに当たっては、ペリクル膜等に異物が付着するのを防ぎ、或いはペリクルが損傷するのを防ぐために、該ペリクルをペリクル載置台と蓋とからなるペリクル収納容器に収納し、更に防塵袋等に収納して運搬するのが一般的である。ペリクル収納容器には、ペリクルに塵埃を付着させないための密封性に加えて、ペリクル膜に非接触な状態で確実に保持し得る保持性とが要求される。
【0007】
ペリクル収納容器は樹脂材料を用いて、射出成形や真空成形にて製造するのが一般である。しかし、5インチ、6インチの半導体用のペリクル収納容器は、射出成形で成形することも多いが、面積が1000cm以上ともなる大型ペリクル用の収納容器は、薄肉で大型一体成形品が容易に出来ることから真空成形する場合が多い。また、本出願人が国際公開第2006/080060号パンフレット(特許文献1)に記載したように、金属等の素材を用いたハニカム構造を有する材料にて製造されることもある。
【0008】
ペリクル収納容器は形状が変化しないことを想定しており、ペリクル膜にペリクル収納容器が非接触な状態で確実に保持し得る保持性と、ペリクル収納容器内に異物を侵入させないための密封性とが要求される。
【0009】
密封性をあげる手段としては、シリコーンゴム等の弾力性のある部材を蓋とペリクル載置台の間に挟み込むことも好ましい。
【0010】
そこで、本出願人は特開2005−49765号公報(特許文献2)に記載したように、ペリクル載置台に補強板を取り付けてペリクル収納容器の変形を防止し、マスク用粘着材やペリクルフレームが変形することを防止する技術を提案している。特開2007−25183号公報(特許文献3)にも同様の考えの技術が記載されている。
【0011】
また、特開2007−91296号公報(特許文献4)に記載されているように、マスクブランク収納容器においては、外気との通気孔を形成し、この通気孔の容器内側にフィルター部材を設けることで、通気孔から外気が進入しても、外気に含まれる化学物質等の異物はフィルター部材によって除去されるようにしたことで、収納容器内に異物を侵入させないための密封性を確保している。
【0012】
しかし近年のペリクルの大型化に伴って収納容器も大型化しているため、蓋が重くなり、持ち上げにくいという問題がある。まして大型ペリクル用収納容器は、薄肉で大型一体成形品が容易にできるため真空成形で成形される場合が多いが、金型からの抜き勾配を設けているため、滑りやすくなっている。蓋を開けるときに蓋が滑ってトレイ上のペリクルの上に落下すると、ペリクルは損傷して使用できなくなる。
【0013】
そこで、本出願人は特開2005−107085号公報(特許文献5)に記載したように、フックのような手または治具を掛けることのできる係止部と、吸盤のような蓋に接合することのできる接合部とを備えた蓋開閉治具を用いて、蓋開閉治具の接合部を蓋に接合し、係止部に手または治具を掛けて蓋を持ち上げることにより、該蓋を開封する技術を提案している。
【0014】
また、特開2007−328226号公報(特許文献6)には、蓋体が自重によりたわんでペリクル膜に付着することがないように、蓋体中央部が密閉状態において平坦状又は外方向に凸形状を維持することを特徴とするペリクル収納容器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2006/080060号パンフレット
【特許文献2】特開2005−49765号公報
【特許文献3】特開2007−25183号公報
【特許文献4】特開2007−91296号公報
【特許文献5】特開2005−107085号公報
【特許文献6】特開2007−328226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
すなわち、5インチ、6インチの小型ペリクル用収納容器であれば問題がないが、ペリクルの面積が1000cm、更には10000cmを越えるような大型ペリクル用の収納容器にあっては、確実に蓋を把持して開封するための手段が要請されている。
【0017】
従来、面積1000cm以上、更には面積10000cm以上の大型ペリクルを収納するペリクル収納容器の蓋の開封作業は、人手で行われていた。すなわち、蓋の外周部2箇所を2名の人で持ち、蓋を持ち上げてペリクル載置台からはずしていた。一方、LSIのフォトマスク用途に使用される小型ペリクルの場合は、ペリクル収納容器の蓋の開封作業は機械化されている。すなわち、吸盤を有するロボットハンドで蓋の天面を吸着し、蓋を持ち上げてペリクル載置台からはずしていた。
【0018】
近年、大型ペリクルのさらなる大型化が進んでおり、本発明者においては、面積が35000cmのものも検討している。そのような大型の収納容器においては、大きさと重量のために人手での開封作業自体も困難であるため、大型ペリクルを収納するペリクル収納容器の蓋の開封作業も人手ではなく機械化していくことが望ましいと考えられる。
【0019】
しかしながら、本発明者が、面積1000cm以上、更には面積10000cm以上の大型ペリクルを収納するペリクル収納容器の蓋の開封作業を機械化しようとして、吸盤を有するロボットハンドで蓋の天面部を吸着し蓋を持ち上げてペリクル載置台からはずすことをこころみたところ、容易にはできないことが判明した。
【0020】
ペリクル収納容器の蓋は、ペリクル載置台と接触する外周部、内周の天面部、及び両者をつなぐ接続部からなっている。大型ペリクル収納容器の天面部は、材料の自重により下方にたわんでいる。本発明者が確認したところ、面積1000cm以上の大型ペリクルを収納するペリクル収納容器の蓋の開封作業時において、開封作業にて蓋の天面部に加わる外力により該蓋が上方にたわみ、収納容器の内部容積が密閉状態で増え内圧が減圧することが原因で、蓋が開封しにくくなるものと判明した。面積が10000cm以上の大型ペリクル収納容器ともなると、天面部は、材料の自重が増すことにより、更に下方にたわんでいる。そのため、更に蓋が開封しにくくなるものと判明した。
【0021】
そこで、本発明は、蓋の天面部に加わる外力により内部が減圧状態になることを防止できるペリクル収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するための本発明に係るペリクル収納容器は、以下の構成による。
【0023】
第1の構成は、面積1000cm以上の大型ペリクルを収納するための、少なくとも蓋と、該ペリクルを載置するペリクル載置台とから構成されるペリクル収納容器において、
前記蓋の開封作業時に蓋の変形を防止する変形防止手段を有することを特徴とするペリクル収納容器である。
【0024】
第2の構成は、前記変形防止手段が、蓋の開封作業時にペリクル収納容器の内外で気体を通気できる通気手段であることを特徴とする、第1の構成に記載のペリクル収納容器である。
【0025】
第3の構成は、前記通気手段が、蓋またはペリクル載置台の少なくとも片方に設けた通気用の穴であることを特徴とする、第2の構成に記載のペリクル収納容器である。
【0026】
第4の構成は、前記通気手段が、蓋とペリクル載置台の嵌合面に形成された通気用の隙間であることを特徴とする、第2の構成に記載のペリクル収納容器である。
【0027】
第5の構成は、前記変形防止手段が、蓋の開封時に使用される蓋の把持部材により把持される部分の剛性が、その部分の周囲の剛性よりも高い蓋であることを特徴とする、第1の構成に記載のペリクル収納容器である。
【0028】
第6の構成は、前記変形防止手段が、前記通気手段と、外側に向かって凸型の曲面形状を有する蓋の天面であることを特徴とする、第2〜4のいずれかの構成に記載のペリクル収納容器である。
【0029】
第7の構成は、前記変形防止手段が、前記通気手段と、蓋の天面に設けたリブであることを特徴とする、第2〜4のいずれかの構成に記載のペリクル収納容器である。
【0030】
第8の構成は、前記変形防止手段が、前記通気手段と、蓋の天面に取り付けた剛性を補強するための構造体であることを特徴とする、第2〜4のいずれかの構成に記載のペリクル収納容器である。
【0031】
第9の構成は、前記変形防止手段が、ペリクル載置台と蓋を嵌合させた時にペリクル載置台より外径が大きい部分を有する蓋であることを特徴とする、第1の構成に記載のペリクル収納容器である。
【発明の効果】
【0032】
本発明のペリクル収納容器は、蓋の天面部に加わる外力によって内部が減圧状態になることを防止でき、機械により容易に蓋を開封することができる。本発明の効果は、ペリクルの面積が大きくなればなるほど顕著に現れ、特に1000cm以上の大型ペリクルに対し有効であり、更には面積10000cm以上の大型ペリクルに対しては特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一般のペリクル収納容器の構成を示す斜視説明図である。
【図2】一般のペリクル収納容器の構成を示す断面説明図である。
【図3】ペリクル収納容器の蓋に通気用の穴を設けた様子を示す断面説明図である。
【図4】ペリクル収納容器の蓋に通気用の穴を設けた様子を示す断面説明図である。
【図5】ペリクル収納容器のペリクル載置台に通気用の穴を設けた様子を示す断面説明図である。
【図6】ペリクル収納容器の蓋に通気用の隙間を設けた様子を示す断面説明図である。
【図7】ペリクル収納容器の蓋に通気用の隙間を設けた様子を示す側面説明図である。
【図8】ペリクル収納容器のペリクル載置台に通気用の隙間を設けた様子を示す断面説明図である。
【図9】ペリクル収納容器のペリクル載置台に通気用の隙間を設けた様子を示す側面説明図である。
【図10】蓋の平面形状を折り曲げた部分を、真空による吸着部材にて把持した様子を示す断面説明図である。
【図11】蓋の曲面部分を、真空による吸着部材にて把持した様子を示す断面説明図である。
【図12】蓋のリブ構造部分を、挟み込みによる接触部材にて把持した様子を示す断面説明図である。
【図13】蓋の天面に外側に向かって凸型の曲面形状を設けた様子を示す断面説明図である。
【図14】蓋の天面にリブを設けた様子を示す断面説明図である。
【図15】蓋の天面にリブを設けた様子を示す上面説明図である。
【図16】蓋の天面に剛性を補強するための構造体を設けた様子を示す断面説明図である。
【図17】蓋がペリクル載置台より外径が大きい部分を有する様子を示す断面説明図である。
【図18】蓋がペリクル載置台より外径が大きい部分を有する様子を示す上面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明する。
【0035】
まず、本願を適用するペリクル収納容器1について説明する。ペリクル収納容器1は、図1に示すように、ペリクル2を載置するペリクル載置台3と、ペリクル載置台3の上部を覆う蓋4と、から構成される。
【0036】
ペリクル載置台3や蓋4の材質は特に限定するものではないが、エンジニアリングプラスチック、強化プラスチック、金属、等が挙げられる。軽量化・成型性の観点から、プラスチック素材が選択される場合が多く、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等を用いることが出来る。更に上記樹脂以外に、ポリエチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン樹脂等のポリスチレン系樹脂等を用いることも出来る。上記の樹脂には、制電性を付与しても良い。また、繊維強化プラスチックも用いることが出来る。金属を選択する場合、軽量化の観点から、アルミニウムを用いることができる。
【0037】
ペリクル載置台3や蓋4は、上述の材質の板を用いて、真空成形或いは射出成形、または、貼り合せ等の組立にて製造される。用いられる板の厚さは、1mm〜10mmが望ましい。大型の収納容器の場合は、射出成形で成形することは技術的難易度が高くなるため、真空成形がより好ましい。
【0038】
本発明におけるペリクル載置台3や蓋4の寸法は、ペリクル2が収納されるペリクルフレーム2a(図2参照)の大きさにより決まるものである。
【0039】
ペリクル2は、ペリクル膜2cと、該ペリクル膜2cが貼着されたペリクルフレーム2a、及びペリクルフレーム2aをマスクやレティクルに貼着するためのマスク用粘着材2b等を有して構成されており、マスク用粘着材2bの表面には離型紙等の保護フィルム等からなる離型材2dが貼着されてペリクル載置台3に載置される。
【0040】
ペリクル2のペリクル載置台3への固定方法としては、離型材2dのはみ出し部位を粘着テープによりペリクル載置台3に貼着したり、ペリクルフレーム2aに形成した係止溝にペリクル載置台3に設けた係止部材を係止したり、ペリクル載置台3と蓋4とでペリクルフレーム2aを挟持して固定する等、公知の方法ならば何でも良い。
【0041】
図1及び図2に示すように、ペリクル載置台3のペリクル2の載置面3a上(図2参照)に該ペリクル2を載置した状態で該ペリクル載置台3に蓋4を被せることによってペリクル2を収納する。ペリクル載置台3と蓋4とを合わせた後は、四方の角にクリップ等を差し込んで留めるか、或いは粘着テープを周端辺に張り巡らすことによって密封する等、公知の方法ならば何でも良い。
【0042】
本発明のペリクル収納容器の特徴は、蓋の開封作業時に蓋の変形を防止する変形防止手段を有することである。その特徴について、以下に詳細に説明する。
【0043】
まず、前記変形防止手段が、蓋の開封作業時にペリクル収納容器の内外で気体を通気できる通気手段であることを特徴とする。このようすることで、収納容器が変形し、収納容器内が減圧しても、気体を通気できるようにしておくことで、収納容器内へ給気できることにより、収納容器内が常圧に戻り、収納容器がもとの形状に戻る。
【0044】
ペリクル収納容器の内外での気体の通気に関して、通気量(体積)は、減圧の回復時間を短くするため、多いほうが好ましい。また、通気速度は、ペリクル膜への風圧ダメージを低減させたり、収納容器内への異物侵入リスクを低減させたりするため、遅いほうが望ましい。
【0045】
通気手段は、蓋またはペリクル載置台の少なくとも片方に設けた通気用の穴を設けることで、達成できる。例えば、図3及び図4に示すような、蓋4に設けた通気用の穴5aである。又は図5に示すような、ペリクル載置台3に設けた通気用の穴5bである。
【0046】
通気用の穴の形状は、丸、矩形、等、任意の形状を選択すれば良い。
【0047】
通気用の穴のサイズは、丸形状の場合、1mmφ〜100mmφ、好ましくは、10mmφ〜80mmφ、より好ましくは、20mmφ〜50mmφである。矩形状の場合、幅は、1mm〜500mm、好ましくは、10mm〜300mm、より好ましくは、20mm〜100mmであり、高さは、1mm〜100mm好ましくは、10mm〜80mm、より好ましくは、20mm〜50mmである。穴のサイズは、収納容器の剛性が確保できる程度の範囲で設定することが望ましい。
【0048】
また、通気用の穴を開口させた部分の剛性を保つために、通気用の穴の周辺部の部材を肉厚にして、穴の周囲を補強してもよい。補強する具体的な方法としては、射出成形で収納容器を成形する場合は、金型で通気用の穴の周辺部を局所的に肉厚にすればよい。真空成形で収納容器を成形する場合は、熱等で溶融させることによって穴を形成すると共に該穴の周辺部の部材を肉厚にしたり、穴加工の後に金属やプラスチック等からなる環状の補強部材を穴の周辺部に貼り付けることで補強してもよいが、その他補強することで異物が出ない方法であれば何でもよい。
【0049】
減圧状態からの回復時間を短くするため、通気量(体積)を多くするためには、通気用の穴のサイズは大きいほど望ましい。また、ペリクルへの風圧ダメージを低減させたり、異物侵入リスクを低減させたりするため、通気速度を遅くさせるためには、通気用の穴のサイズは大きいほど望ましい。通気用の穴の数は、任意に設定すれば良い。穴のサイズ面積と数との積で算出される通気総面積は、大きいほど通気量が増え、望ましい。収納容器に収納するペリクルの面積に対する、収納容器の好ましい通気総面積の割合は、0.0001〜0.05である。0.0001以上であれば通気量が大きくなり好ましい。また、0.05以下であれば収納容器の強度低下が少ない。
【0050】
また、この通気用の穴から通気量を増やす方法として、ヘパフィルター等を通した清浄な空気を送り込んで微加圧状態にした後に、蓋の開封作業を行うことも好ましい。
【0051】
通気用の穴の位置は、穴から侵入する気流がペリクル膜に直接当たらない場所に設定することが望ましい。例えば、収納容器の四隅付近が挙げられる。
【0052】
なお、上記通気用の穴は、蓋の開封作業時以外には通気させる必要がない。従って、異物侵入防止の観点から、通気用の穴には、蓋を閉めた状態で開閉可能なように、外側からフィルターを貼り付けたり、テープによる目止めを行ったりすることが望ましい。
【0053】
このような開閉可能な通気用の穴の一態様として、該穴の周囲に開閉可能なバルブ付きのパイプを接続してもよい。この場合は、通常はバルブを閉じておき、蓋を開封する前に清浄な気体を入れた風船をパイプにつないでバルブを開くことで、蓋の開封時の減圧を補償することが可能となる。
【0054】
また、通気手段は、蓋とペリクル載置台の嵌合面に形成された通気用の隙間を設けることで、達成できる。例えば、図6及び図7に示すような、嵌合面のうち蓋4側に設けた通気用の隙間6aである。又は図8及び図9に示すような、嵌合面のうちペリクル載置台3側に設けた通気用の隙間6bである。
【0055】
通気用の隙間は、半円状や矩形状の溝を、蓋とペリクル載置台の嵌合面の、蓋またはペリクル載置台の少なくとも片方に設ければ良い。
【0056】
また、異物混入を防止するために、隙間の内壁側に粘着材等を塗布してもよい。
【0057】
通気用の隙間のサイズは、幅は、1mm〜500mm、好ましくは、10mm〜300mm、より好ましくは、20mm〜100mmであり、高さは、1mm〜30mm好ましくは、3mm〜20mm、より好ましくは、5mm〜10mmである。隙間のサイズは、収納容器の剛性が確保できる程度の範囲で設定することが望ましい。
【0058】
減圧状態からの回復時間を短くするため、通気量(体積)を多くするためには、通気用の隙間のサイズは大きいほど望ましい。また、ペリクルへの風圧ダメージを低減させたり、異物侵入リスクを低減させたりするため、通気速度を遅くさせるためには、通気用の隙間のサイズは大きいほど望ましい。通気用の隙間の数は、任意に設定すれば良い。隙間のサイズ面積と数との積で算出される通気総面積は、大きいほど通気量が増え、望ましい。収納容器に収納するペリクルの面積に対する、収納容器の好ましい通気総面積の割合は、0.0001〜0.05である。0.0001以上であれば通気量が大きくなり好ましい。また、0.05以下であれば収納容器の剛性低下が少ない。
【0059】
通気用の隙間の位置は、隙間から侵入する気流がペリクル膜に直接当たらない場所に設定することが望ましい。例えば、収納容器の四隅付近が挙げられる。
【0060】
なお、上記通気用の隙間は、蓋の開封作業時以外には、通気させる必要がない。従って、異物侵入防止の観点から、通気用の隙間には、蓋を閉めた状態で開閉可能なように、外側からフィルターを貼り付けたり、テープによる目止めを行ったりすることが望ましい。
【0061】
次に、前記変形防止手段が、蓋の開封時に使用される蓋の把持部材により把持される部分の剛性が、その部分の周囲の剛性よりも高い蓋であることを特徴とする。このようにすることで、蓋が把持される部分の剛性が高いために、蓋を把持し持ち上げた時の蓋の変形が抑制され、収納容器の内部容積の変化が抑制されるので、減圧状態になることを抑制できる。
【0062】
ここでいう蓋の把持部材とは、蓋に接触し、蓋を持ち上げることができるものであれば特に限定はしないが、例えば、図10及び図11に示すような真空による吸着部材7a、静電気による吸着部材、電磁気による吸着部材、図12に示すような挟み込みによる接触部材7b、引っ掛けによる接触部材、等が挙げられる。
【0063】
把持される部分の剛性を高める手段としては、図10に示すように蓋の平面形状を折り曲げて該折り曲げ部を把持する、図11に示すように局所的な曲面を設けて該曲面部を把持する、図12に示すようにリブ構造を設けて該リブ部を把持する、剛性を補強するための構造体を局所的に設けて該当部を把持する、蓋の厚みを局所的に厚くした部分を設けて該当部を把持する、等が挙げられる。
【0064】
上述したように、蓋の一部分または複数部分の剛性がその部分の周囲の剛性よりも高い蓋であるペリクル収納容器は、該剛性の高い部分を把持して蓋を開封する方法を好ましく適用することができる。剛性を高くする蓋の一部分としては、図11及び図12に記載のように、天面の外周部が好ましい。
【0065】
剛性を高めた部分を把持部材で把持するために、蓋の剛性を高めた部分には、取っ手、窪み形状、突出形状を設けても良い。
【0066】
次に、前記変形防止手段が、図13に示すように、外側に向かって凸型の曲面形状を有する蓋の天面8であることを特徴とする。このようにすることで、蓋の天面8を把持し持ち上げた時の蓋4の変形が抑制され、収納容器1の内部容積の変化が抑制されるので、減圧状態になることを抑制できる。
【0067】
蓋の天面における凸型の曲面形状の曲率半径は、4000mm〜1000mm、好ましくは、3500mm〜1000mm、より好ましくは、3000〜1000mmである。凸型の曲面形状の曲率半径は、収納容器の高さが不必要に高くならない程度の範囲で、小さいほど蓋の剛性が増し変形が抑制されるので望ましい。
【0068】
次に、前記変形防止手段が、図14及び図15に示すように、蓋4の天面に設けたリブ9であることを特徴とする。このようにすることで、蓋4の天面を把持し持ち上げた時の蓋4の変形が抑制され、収納容器1の内部容積の変化が抑制されるので、減圧状態になることを抑制できる。
【0069】
リブは、蓋の成型時に天面に成型することで設ければ良い。
【0070】
リブの形状は、×の字、十の字、田の字、等、任意の形状を選択すれば良い。
【0071】
リブのサイズは、幅は、5mm〜100mm、好ましくは、10mm〜50mm、より好ましくは、20mm〜30mmであり、高さは、3mm〜50mm、好ましくは、5mm〜30mm、より好ましくは、10mm〜30mmである。
【0072】
次に、前記変形防止手段が、図16に示すように、蓋4の天面に取り付けた剛性を補強するための構造体10であることを特徴とする。このようにすることで、蓋4の天面を把持し持ち上げた時の蓋4の変形が抑制され、収納容器1の内部容積の変化が抑制されるので、減圧状態になることを抑制できる。
【0073】
構造体の材料としては、金属や、エンジニアリングプラスチック、強化プラスチック、セラミックス等、構造体の形状を保つための剛性を持つ素材を使用することが出来る。
【0074】
構造体は、蓋の天面に接着、ネジ止め、等の方法で固定すれば良い。
【0075】
構造体の形状は、×の字、十の字、田の字、等、任意の形状を選択すれば良い。
【0076】
構造体のサイズは、幅は、5mm〜100mm、好ましくは、10mm〜50mm、より好ましくは、20mm〜30mmであり、高さは、3mm〜50mm、好ましくは、5mm〜30mm、より好ましくは、10mm〜30mmである。
【0077】
また、天面の外面に透明な板を貼り合わせたり、コーティング等にしてもよい。その場合、天面の部分を張り合わせまたは、コーティング等にしてもよく、天面の全面を張り合わまたは、コーティング等にしてもよい。張り合わせ又はコーティングの材料には、蓋の材質に使用可能なプラスチック素材が好ましい。張り合わせ又はコーティングの厚みは、蓋の天面厚みの0.1〜2倍が好ましく、0.1〜1倍がより好ましい。該厚みが0.1倍以上であると剛性向上効果が顕著になり、該厚みが2倍以下であると透明性低下や重量増加が少ない。
【0078】
上述の蓋の天面における凸型の曲面形状、蓋の天面に設けたリブ、または蓋の天面に取り付けた剛性を補強するための構造体である場合は、前述した通気用の穴または隙間と組み合わせることでよりすぐれた効果を奏する。
【0079】
次に、前記変形防止手段が、図17及び図18に示すように、ペリクル載置台3と蓋4を嵌合させた時にペリクル載置台3より外径が大きい部分を有する蓋4であることを特徴とする。このようすることで、蓋4のペリクル載置台3より外径が大きい部分11及び該部分と共通の平面に属する部分を吸着等の方法で把持できるようになり、蓋4の天面よりも剛性のある蓋の外径部分を把持することで、蓋4の変形が抑制され、収納容器1の内部容積の変化が抑制されるので、減圧状態になることを抑制できる。
【0080】
蓋のペリクル載置台より外径が大きい部分のサイズは、はみ出し方向の長さは、5mm〜100mm、好ましくは、10mm〜50mm、より好ましくは、20mm〜30mmであり、ペリクル載置台の外径に沿った長さは、5mm〜500mm、好ましくは、10mm〜300mm、より好ましくは、20mm〜100mmである。
【0081】
蓋のペリクル載置台より外径が大きい部分の位置や数は、蓋の開封作業で用いる機械や、冶具に応じて、任意に設定すればよい。
【0082】
以下に具体的な実施例及び比較例を示すと共に、それらの評価について詳細に説明する。
【0083】
〔実施例1〕
ペリクル2のサイズは外径寸法が幅1366mm×1146mm、高さ7mmとし、ペリクル収納容器1のペリクル載置台3は、外径寸法が幅1526mm×1306mm、高さ34mmのハニカム構造を有するアルミニウム製のパネル、ペリクル載置台3の上部を覆う蓋4は、外径寸法が幅1526mm×1306mm、高さ80mmの、3mm厚のアクリル樹脂板の真空成型品を用いた。
【0084】
そして、厚さ1mmのシリコーンゴムをペリクル載置台3が蓋4と接する面に貼り、蓋の開封作業時にペリクル収納容器の内外で気体を通気できる通気手段として、蓋4の四隅近辺に30mmφの丸形状の穴を計4つ設けた後、蓋4をかぶせた。
【0085】
蓋の天面の外周部を正方形の頂点に配置された直径15cmの吸盤4つにより吸着把持し、上方向に持ち上げ、開封作業を行ったが、収納容器内の減圧が起こることで蓋がペリクル載置台に吸着することなく、スムーズに蓋を持ち上げることができた。
【0086】
〔実施例2〕
蓋の開封作業時に蓋の変形を防止する変形防止手段として、蓋の天面を外側に向かって曲率半径が2000mmの凸型の曲面形状とした以外は、実施例1と同様の収納容器を用いた。
【0087】
蓋の天面中央を実施例1と同様の吸盤により吸着把持し、上方向に持ち上げ、開封作業を行ったが、収納容器内の減圧が起こることで蓋がペリクル載置台に吸着することなく、スムーズに蓋を持ち上げることができた。
【0088】
〔実施例3〕
蓋の開封作業時に蓋の変形を防止する変形防止手段として、蓋をペリクル載置台と蓋を嵌合させた時にペリクル載置台より外径が大きい部分のはみ出し方向の長さが30mm、ペリクル載置台の外径に沿った長さが100mmである蓋とした以外は、実施例1と同様の収納容器を用いた。
【0089】
蓋のペリクル載置台より外径が大きい部分を実施例1と同様の吸盤により吸着把持し、上方向に持ち上げ、開封作業を行ったが、収納容器内の減圧が起こることで蓋がペリクル載置台に吸着することなく、スムーズに蓋を持ち上げることができた。
【0090】
〔比較例1〕
穴を開けない収納容器とする以外は実施例1と同様の収納容器を用いた。
【0091】
蓋の天面中央を実施例1と同様の吸盤により吸着把持し、上方向に持ち上げ、開封作業を行ったが、収納容器内の減圧が起こることで蓋がペリクル載置台に吸着してしまい、載置台ごと蓋が持ち上がってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明はペリクル収納容器として利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 …ペリクル収納容器
2 …ペリクル
2a…ペリクルフレーム
2b…マスク用粘着材
2c…ペリクル膜
2d…離型材
3 …ペリクル載置台
3a…載置面
4 …蓋
5a…通気用の穴
5b…通気用の穴
6a…通気用の隙間
6b…通気用の隙間
7a…真空による吸着部材
7b…挟み込みによる接触部材
8 …蓋の天面
9 …リブ
10…構造体
11…蓋のペリクル載置台より外径が大きい部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面積1000cm以上の大型ペリクルを収納するための、少なくとも蓋と、該ペリクルを載置するペリクル載置台とから構成されるペリクル収納容器において、
前記蓋の開封作業時に蓋の変形を防止する変形防止手段を有することを特徴とするペリクル収納容器。
【請求項2】
前記変形防止手段が、蓋の開封作業時にペリクル収納容器の内外で気体を通気できる通気手段であることを特徴とする、請求項1記載のペリクル収納容器。
【請求項3】
前記通気手段が、蓋またはペリクル載置台の少なくとも片方に設けた通気用の穴であることを特徴とする、請求項2に記載のペリクル収納容器。
【請求項4】
前記通気手段が、蓋とペリクル載置台の嵌合面に形成された通気用の隙間であることを特徴とする、請求項2に記載のペリクル収納容器。
【請求項5】
前記変形防止手段が、蓋の開封時に使用される蓋の把持部材により把持される部分の剛性が、その部分の周囲の剛性よりも高い蓋であることを特徴とする、請求項1に記載のペリクル収納容器。
【請求項6】
前記変形防止手段が、前記通気手段と、外側に向かって凸型の曲面形状を有する蓋の天面であることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載のペリクル収納容器。
【請求項7】
前記変形防止手段が、前記通気手段と、蓋の天面に設けたリブであることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載のペリクル収納容器。
【請求項8】
前記変形防止手段が、前記通気手段と、蓋の天面に取り付けた剛性を補強するための構造体であることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載のペリクル収納容器。
【請求項9】
前記変形防止手段が、ペリクル載置台と蓋を嵌合させた時にペリクル載置台より外径が大きい部分を有する蓋であることを特徴とする、請求項1に記載のペリクル収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−205152(P2009−205152A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19598(P2009−19598)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】