説明

ペースト組成物およびそれを用いた誘電体組成物

【課題】フォトリソグラフィーによる微細パターン加工に対応でき、さらには急性毒性を有しない分散媒を用いて、高屈折率の透明複合膜が得られるペースト組成物を提供する。
【解決手段】(A)酸化ジルコニウム粒子あるいは希土類酸化物粒子および(C)有機溶媒の存在下で(B)シクロ環、ベンゼン環を含む環状6員環に、重合性基を有する1価の基と末端に−(−CH−)−OH(mは1〜3の整数)を有するエステル基が結合した化合物を重合・硬化してなるペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜などの高屈折率を必要とする光学用やハードコート用に用いることができる膜を形成するためのペースト組成物やそれを硬化させた誘電体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂と酸化ジルコニウムなどの硬く屈折率が大きい金属酸化物粒子の複合膜がガラスやプラスチックの表面に、反射防止やハードコート目的として形成され用いられる。リン酸エステル系の分散剤を用いてトルエン分散媒中に粒径7nmのジルコニア粒子を分散させた分散液を得る技術および、さらにこの分散液をアクリルモノマー、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂と混合し脱溶剤化した樹脂組成物、透明複合体を得る技術が知られている(特許文献1参照)。また、シランカップリング剤を用いてトルエン分散媒中に粒径8nmのジルコニア粒子を分散させた分散液を得る技術および、さらにこの分散液をアクリルモノマー、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂と混合し脱溶剤化した樹脂組成物、透明複合体を得る技術が知られている(特許文献2参照)。
【0003】
これらの従来技術によると、屈折率が大きい透明複合体を得ることはできるが、これのフォトリソグラフィーによる任意パターン加工ができないことや急性毒性のあるトルエンを用いる必要があるといった問題があった。
【特許文献1】特開2007−99931(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−119617号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の従来技術では材料が感光性を有していないため、フォトリソグラフィーによる微細なパターン加工により、任意の場所にのみ高屈折率の透明複合膜を設けるということが困難であった。また、従来技術では急性毒性を有するとトルエンを用いているために人体への被爆を避ける大掛かりな製造環境を設ける必要があった。
【0005】
これに対し本発明では、フォトリソグラフィーによる微細パターン加工に対応でき、さらには急性毒性を有しない分散媒を用いて、高屈折率の透明複合膜が得られるペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、酸化ジルコニウム粒子あるいは希土類酸化物粒子、(B)下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物、および(C)有機溶媒を含むペースト組成物である。
【0007】
【化1】

【0008】
(上記一般式(1)〜(4)中、Rは重合性基を有する1価の基を示す。Rは水素原子または下記一般式(5)で表される1価の基を示す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(上記一般式(5)中、mは1〜3の整数である。)
また本発明は、該ペースト組成物を硬化させてなる誘電体組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペースト組成物は、フォトリソグラフィーにより任意パターン加工が可能であり、硬化させることにより、高屈折率および高硬度の誘電体組成物を製造することができ、高温高湿試験でも剥がれが発生しない耐久性のある膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のペースト組成物は、(A)酸化ジルコニウム粒子あるいは希土類酸化物粒子(以下、単に「無機粒子」と言う)、(B)下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物、および(C)有機溶媒を含む。
【0013】
【化3】

【0014】
(上記一般式(1)〜(4)中、Rは重合性基を有する1価の基を示す。Rは水素原子または下記一般式(5)で表される1価の基を示す。)
【0015】
【化4】

【0016】
(上記一般式(5)中、mは1〜3の整数である。)
以下、特に断らないかぎり、上記(B)の化合物を「化合物A」とし、酸化ジルコニウム粒子あるいは希土類酸化物粒子を無機粒子とする。
【0017】
本発明のペースト組成物において、化合物Aは無機粒子を分散させる働きを有する。化合物Aの構造を表す一般式(1)〜(4)における、RとRで挟まれた部位が無機粒子と相互作用して、化合物Aが無機粒子の表面を覆うと考えられる。また、無機粒子表面を覆う化合物Aの重合性基は無機粒子の外側に向き、ペースト組成物中にある有機溶媒や他の化合物などと親和して、無機粒子を安定に分散させると考えられる。
【0018】
化合物A中の重合性基は、光または熱により、重付加反応やラジカル反応等によって重合を進めることができる有機基である。本発明のペースト組成物は、化合物Aが重合に関与するため、硬化が速やかにかつ確実に進行する。
【0019】
本発明においては、化合物A自体が光や熱によって重合し、誘電体組成物中のマトリックス樹脂となる。したがって、本発明で用いる化合物Aは無機粒子の分散剤としての機能と、マトリックス樹脂としての機能を併せ持つものである。重合性基を持たない分散剤により、無機粒子をマトリックス樹脂中に分散させた場合は、有機溶媒の脱離やマトリックス樹脂の重合によりマトリックス樹脂が硬化収縮する際に、無機粒子が移動して集まり、樹脂と粒子の間に空隙が生じることが考えられる。これに対し、本発明のペースト組成物においては、化合物Aが無機粒子を捕捉した状態で重合するため、誘電体組成物中においても無機粒子の分散性を良好に保つことができる。したがって、誘電体組成物中に存在する粒子凝集に起因する空隙が少なくなる。さらに、化合物Aは重合することで耐熱性が向上するため、誘電体組成物製造時や製造後プロセスにおける加熱処理によって分解、脱離しにくくなるため、誘電体組成物中の空隙をより低減することができる。したがって、膜の強度を大きいものすることができたり、絶縁層などの用途で用いる場合にリーク電流が極めて小さく良好な絶縁信頼性を実現することができる。特に、高温高湿環境において誘電体組成物中の空隙を通って水が組成物内部に浸入することによるイオンマイグレーションの発生を低減することができるので、良好な絶縁信頼性を得ることができる。
【0020】
さらに、ペースト組成物中の化合物Aを光により硬化させることで、フォトリソグラフィー法によるパターン加工を行うことができる。この場合、露光部では化合物Aが無機粒子を捕捉した状態で重合するため、無機粒子を起点とした強固なネットワークが形成され、現像時の露光部の膨潤や溶解が抑えられるので、明瞭なパターン形状を実現できる。また、未露光部においては、化合物Aと無機粒子との親和性が良好であり、現像時に無機粒子が凝集することなく高い分散性を保つために、未露光部の現像液への溶出が速やかであり、現像時の残渣を低減することができる。また、現像液としてアルカリ水溶液を用いた場合は、化合物A自体のアルカリ水溶液に対する溶解性が良好であるため、未露光部が速やかに溶解して明瞭なパターンを形成することができる。
【0021】
一般式(1)〜(4)におけるRが水素原子であると末端がカルボキシル基となり、無機粒子の分散性がより良好となり、絶縁信頼性がより向上するので好ましい。
【0022】
化合物Aの重合性基は、無機粒子を良好に分散させる目的から、ペースト組成物に含まれる有機溶媒や他の化合物との親和性が良好なものが好ましい。これらのものとしては、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、エポキシアクリレート基、エポキシメタクリレート基、エポキシ基などが挙げられる。特に、化合物Aの構造を表す一般式(1)〜(4)におけるRは下記一般式(6)で示されるものが好ましい。
【0023】
【化5】

【0024】
(上記一般式(6)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。また、nは1〜3の整数である。)
一般式(6)中の重合性基は、Rが水素原子の場合はアクリレート基であり、Rがメチル基の場合はメタクリレート基である。アクリレート基またはメタクリレート基は不飽和結合を有し、光照射や加熱によりラジカル重合をさせることが可能である。光によりラジカル重合をさせる際に、フォトマスクを介して光を照射するフォトリソグラフィー法を適用して、配線パターンなどを形成することができる。Rが水素原子であるアクリレート基の方が、重合性がより良好となり好ましい。
【0025】
一般式(1)〜(4)で表される化合物の中でも、Rが水素原子でありRが一般式(6)で表される1価の基であり、nが2である化合物が好ましい。この化合物を用いると無機粒子の分散性がより良好となる。また、ペースト組成物を硬化させる際に分散した無機粒子が凝集せずに分散状態を保つので、光の散乱源となる無機粒子の光学的に実効的なサイズが小さくなるので得られる誘電体組成物の透明性が高いものとなる。
【0026】
本発明に用いられる一般式(1)〜(4)で表される化合物Aの具体例としては、下記に表されるような、共栄社化学(株)製の“HOA−HH”(商品名、一般式(1)で表され、Rが水素原子であり、Rが一般式(6)で表されるものであり、nが2であり、Rが水素原子である。)、“HOA−MPL”(商品名、一般式(4)で表され、Rが水素原子であり、Rが一般式(6)で表されるものであり、nが2であり、Rが水素原子である。)、“HOA−MPE”(商品名、一般式(4)で表され、Rが一般式(5)で表されるものであり、mが2である。また、Rが一般式(6)で表されるものであり、Rが水素原子であり、nは2である。)が挙げられる。
【0027】
【化6】

【0028】
特に、“HOA−MPL”は無機粒子を極めて良好に分散することができ、絶縁信頼性がより向上する。本発明で用いる化合物Aは1種類でもよく、また複数種用いてもよい。
【0029】
本発明のペースト組成物において、化合物Aの含有量は、無機粒子100重量部に対して1重量部以上20重量部以下であることが好ましい。化合物Aの無機粒子100重量部に対する含有量が1重量部以上であると、無機粒子の分散性が良好となり、ペースト組成物から得られる誘電体組成物の透明性が高くなり、絶縁信頼性や現像性が向上する。一方、化合物Aの無機粒子100重量部に対する含有量が20重量部以下であると、化合物A自体の特性により誘電体組成物の耐熱性や誘電率が低下することを抑えることができる。
【0030】
上述したように、本発明のペースト組成物は、化合物Aが重合して誘電体組成物中のマトリックスを形成するが、その他にもマトリックスを形成する樹脂を含有してもよい。このとき用いられる樹脂として、ポリアミック酸、ビニル樹脂、ノルボルネン樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、エポキシメタクリレート樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、シロキサン樹脂などの、重合性基を有する熱硬化型あるいは光硬化型の樹脂が挙げられる。また、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂など重合性基を持たない樹脂が挙げられる。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、複数種を適当な比にて用いてもよい。
【0031】
プロセス中で耐熱性などが要求される用途では、上記樹脂の中でも、熱硬化型樹脂や光硬化型樹脂など重合性基を有する樹脂や、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂が好ましい。また、光硬化型の樹脂を選定すると、誘電体膜のフォトリソグラフィー法によるパターニングが実現でき好ましい。ただし、エポキシ樹脂などをカチオン重合させる場合、カチオン活性種が無機粒子に吸着し、重合反応が遅くなることがある。したがって、ラジカル重合に適したアクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、エポキシメタクリレート樹脂が好ましい。エポキシアクリレートの中では、式(7)で表されるものが、アルカリ現像可能でかつ透明性に優れる点から特に好ましく用いることができる
【0032】
【化7】

【0033】
本発明のペースト組成物において、化合物Aと樹脂の混合比は任意に設定できるが、ペースト組成物中の有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して、化合物Aと樹脂の含有量の和は10重量%以上30重量%以下であることが好ましい。化合物Aと樹脂の含有量の和が、ペースト組成物中の有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して10重量%以上であると、得られる誘電体組成物のフォトリソグラフィーにおける現像性が向上する。また、耐クラック性や基板などの被着体との接着性も向上する。化合物Aと樹脂の含有量の和が、ペースト組成物中の有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して15重量%以上であると、これら効果がより高まりさらに好ましい。化合物Aと樹脂の含有量の和が、ペースト組成物中の有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して30重量%以下であると、得られる誘電体組成物の屈折率を大きくすることができ、また、低線膨張率および高弾性率を実現できる。化合物Aと樹脂の含有量の和が、ペースト組成物中の有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して20重量%以下であると、これら効果がより高まりさらに好ましい。
【0034】
本発明のペースト組成物は、化合物Aや樹脂の重合を促進するために、ラジカルやカチオン、アニオンなどの活性種を発生する重合促進剤を含有してもよい。重合促進剤としては、光照射や加熱処理により活性化するものがあり、用途に応じて使い分けることが可能である。ペースト組成物を膜状に形成し、フォトリソグラフィー法によりパターン加工をする場合は、光照射により活性化する重合促進剤を用いる。UV光照射によりラジカルを発生する重合促進剤としては、オキシム系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系などが挙げられる。また、UV光照射によりカチオンを発生する重合促進剤としては、ホスフォニウム系、スルフォニウム系、ヨードニウム系などが挙げられる。
【0035】
本発明のペースト組成物は、酸化ジルコニウム粒子あるいは希土類酸化物粒子を含有する。これら無機粒子は、要求される屈折率、光学特性や硬度などの特性に応じて、酸化ジルコニウム、希土類酸化物およびそれらの固溶体から適宜選択して用いることができ、2種類以上のものを混合して用いても良い。本発明の酸化ジルコニウム粒子としては、ZrO単体やZrOを母材として、CaO、MgO、CeO、Yやその他の希土類酸化物が固溶したものを用いることができる。希土類酸化物としては、Y、CeO、Ce、Pr、PrO,Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luや、これらを母材とする固溶体を用いることができる。
【0036】
無機粒子の製造方法は、固相反応法、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法、しゅう酸塩法、アルコキシド法などの方法が挙げられる。
【0037】
無機粒子の形状は、球状、略球状、楕円球状、針状、板状、鱗片状、棒状などが挙げられるが、特に、球状あるいは略球状であることが好ましい。球状あるいは略球状の無機粒子は、最も比表面積が少ないために混合時に無機粒子の凝集や樹脂流動性低下などを生じにくいからである。これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0038】
本発明では、ペースト組成物中の無機粒子の含有量は、有機溶媒などの揮発成分を除いた固形成分に対して、30重量%以上90重量%以下であることが好ましい。ペースト組成物中の固形成分に対する無機粒子の含有量が30重量%以上であると、得られる誘電体組成物の硬度を大きくすることができ、また、低線膨張率および高弾性率を実現でき、50重量%以上であると効果がより顕著となため、より好ましい。ペースト組成物中の固形成分に対する無機粒子の含有量は、より好ましくはペースト組成物中の固形成分に対する無機粒子の含有量が90重量%以下であると、得られる誘電体組成物の透明性が高くなり、80重量%以下であると、より効果が顕著となりより好ましい。
【0039】
本発明の無機粒子の平均粒子径は0.002μm以上0.06μm以下であることが好ましい。なお、ここでいう平均粒子径とは、数平均粒子径を指す。ペースト組成物中の無機粒子は、凝集が完全にほぐれた1次粒子の状態にあるものと、複数個の1次粒子が凝集した状態(2次粒子)にあるものが存在する。ここで、ペースト組成物中の無機粒子の粒子径とは、凝集していない1次粒子はその粒子の粒子径であり、1次粒子が凝集したものはその凝集体の粒子径である。ペースト組成物中の無機粒子の平均粒子径を測定する方法としては、SEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)により直接粒子を観察し、粒子径の数平均を計算する方法が挙げられる。無機粒子の平均粒子径は0.002μm以上であると粒子の結晶性が高くなり、粒子の屈折率が大きくなるためこれを含有する誘電体組成物の屈折率が大きくなる。0.06μm以下であると無機粒子により起こるレーリー散乱が大きく抑制されるために、誘電体組成物の透過率を大きくしやすくなる。
【0040】
また、無機粒子の表面処理を行ってもよく、シラン系、チタン系、アルミニウム系などの各種カップリング剤、脂肪酸などによる処理のほか、ロジン処理、酸性処理、塩基性処理などが挙げられる。
【0041】
本発明のペースト組成物は有機溶媒を含有する。有機溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジアセトンアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。有機溶媒は1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。
【0042】
本発明のペースト組成物はシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤を含有することにより、フォトリソグラフィー法によるパターン加工において露光部のパターンの細りや剥がれを低減し、クラックの発生を抑制できるため、明瞭なパターン形状を実現できる。また、未露光部の残渣をより低減することもできる。一般に、シランカップリング剤には無機材料と有機材料との接着性を向上させる効果があることが知られている。本発明においても、組成物中の樹脂成分と無機成分との接着性や、組成物中の樹脂成分とシリコンウエハーなどの無機基板との接着性を向上させ、フォトリソグラフィー法によるパターン加工において露光部のパターンの細りや剥がれを低減し、クラックの発生を抑制するという効果が期待できる。一方、フォトリソグラフィー法によるパターン加工における未露光部の残渣を低減する効果に関しては、以下のような理由が考えられる。未露光部に現像液が接触すると、樹脂や化合物Aなどが溶出し、また、化合物Aに捕捉された無機粒子も溶出する。現像時に化合物Aが無機粒子から脱離すると、表面がむき出しになった無機粒子が互いに凝集し、その近傍の樹脂なども凝着し、現像残渣となる。しかし、シランカップリング剤が存在すると、シランカップリング剤が無機成分である無機粒子と有機成分である化合物Aの結合力をより強固にするため、現像時の無機粒子の分散性が保たれ、組成物が速やかに溶出し、残渣が生じにくくなる。
【0043】
シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが好ましい。
【0044】
シランカップリング剤の含有量は、無機粒子100重量部に対して、0.1重量部以上5重量部以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が無機粒子100重量部に対して0.1重量部以上であれば、上記のようなフォトリソグラフィー法における現像性の向上の効果が大きくなる。また、シランカップリング剤の含有量が無機粒子100重量部に対して5重量部以下であれば、シランカップリング剤自体の特性により誘電体組成物の誘電率が低下することを抑えることができる。
【0045】
また、本発明のペースト組成物は、化合物A以外の分散剤を含有してもよい。化合物A以外の分散剤の含有量は、無機粒子100重量部に対して、1重量部以上20重量部以下であることが好ましい。化合物A以外の分散剤の含有量が、1重量部以上であれば、無機粒子の分散性を向上させる効果が顕著であり、20重量部以下であれば、ペースト組成物から得られる誘電体組成物の耐熱性や誘電率が低下することを抑えることができる。
【0046】
その他、本発明のペースト組成物には、pH調整剤、界面活性剤、湿潤剤、重合促進剤、重合禁止剤、可塑剤、酸化防止剤などを含有してもよい。
【0047】
次に、本発明のペースト組成物の製造方法について詳細に説明する。無機粒子(2次粒子、凝集状態のものを含む)、化合物A、有機溶媒、および必要に応じて他の樹脂やシランカップリング剤などを所定の分量で混合し、攪拌する。混合直後は、無機粒子の表面を空気の層が覆っているため、無機粒子と有機溶媒との濡れが十分でなく、粘度が増加する場合がある。その場合は、無機粒子と有機溶媒が完全に濡れるまで、回転羽根などで時間をかけて攪拌することが好ましい。
【0048】
化合物Aや、必要に応じて加える樹脂、シランカップリング剤などは、無機粒子との混合の際に、当初から全量を加えておいてもよいし、当初は一部のみを加えておき、後で残りの量を加えてもよい。分散処理前にこれらの物質を加えておくと、分散処理後に加える場合と比較して、ペースト組成物中の物質を均一に混合することができる。一方で、ペースト組成物の粘度が上がり分散処理の効率が悪くなる、あるいは分散処理後のペースト組成物の保存安定性が悪くなるなどのことが生じる場合がある。また、後から残りの量を加える場合は、分散処理後にその全量を加えてもよいし、分散処理中のペースト組成物の粘度などの性状を測定しながら、徐々に加えることもできる。重合促進剤などは、ペースト組成物の保存安定性の観点から、誘電体組成物を製造する直前に添加することが好ましい。
【0049】
混合、攪拌後、分散メディアを加えて無機粒子の分散処理を行う。本発明で用いられる無機粒子は平均粒子径が小さいため、粒子間の凝集をほぐして均一な分散を達成するため、分散メディアに微小ビーズを用いる。ペースト組成物中での無機粒子の平均粒子径は0.002μm以上0.06μm以下であるため、分散メディアにはビーズの平均粒子径が0.03mm以上0.5mm以下のものを用いる。ビーズの平均粒子径が0.5mm以下である場合、ビーズの間をペースト組成物が通過する際に、無機粒子がビーズと接触する頻度が高く、十分な分散効果が得られる。ビーズの平均粒子径が0.03mm以上である場合、個々のビーズの持つ運動量が十分大きく、無機粒子の凝集をほぐすのに十分なせん断応力が得られる。この方法を用いて製造したペースト組成物を硬化させて得られる誘電体組成物は、無機粒子を樹脂中により密に充填することができ、この誘電体組成物を層間絶縁膜に用いたキャパシタはリーク電流が小さく、耐電圧が大きい。
【0050】
微小ビーズを分散メディアとして用いた、ペースト組成物中の無機粒子の分散方法としては、ボールミル、ホモジナイザー、ビーズミルなどを用いる方法が挙げられる。用いることができるホモジナイザーとしては(株)日本精機製作所製“エクセルオート”(商品名)などが挙げられる。ホモジナイザーによる分散処理は、例えば、回転刃の先端の周速を1〜10m/sにして、1時間程度処理する。ホモジナイザー処理中は熱が発生するため、氷浴中で処理することが好ましい。また、ビーズミルとしては、例えば、寿工業(株)製の“ウルトラアペックスミル”(商品名)やアシザワ・ファインテック(株)製の“スターミル”(商品名)などが挙げられる。ビーズミルで使用するビーズの平均粒子径は0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0051】
分散メディアであるビーズとしては、金属製、セラミック製、ガラス製のものを好ましく使用できる。これらの具体的な材質としては、ステンレス、鉄、銅、クロム、ニッケル、チタニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、ケイ酸ガラス、石英などが挙げられる。特に、硬度が高いジルコニア製ビーズが好適に使用できる。ジルコニアとしては強度が大きいことからイットリア安定化ジルコニアを用いることが好ましい。
【0052】
分散処理は小さいビーズを用いた一度の処理で実施してもよく、段階的にビーズの大きさを変えて実施してもよい。例えば、まず粒子径が0.5mmのビーズを用いて無機粒子の平均粒子径が数百nm程度になるまで分散処理を行ってから、次に、より微小なビーズを用いて分散処理を施してもよい。
【0053】
分散処理に費やす時間は無機粒子や、化合物A、有機溶媒などのペースト組成物を構成する物質の種類や組成比により適宜設定する。また、一定時間ごとにペースト組成物をサンプリングし、ペースト組成物中での無機粒子の平均粒子径を測定することは、分散状態の経時変化を把握でき、分散処理の終了を判断することができるので好ましい。ペースト組成物中の無機粒子の粒子径の測定装置としては、動的光散乱方式であるシスメックス(株)製の“ゼータサイザーナノZS”(商品名)が挙げられる。
【0054】
分散処理後のペースト組成物からビーズを分離する方法としては、ビーズ径よりも細かい目のふるいを通す方法や、遠心分離による方法などが挙げられる。
【0055】
無機粒子の分散処理が終了したペースト組成物に、さらに樹脂などの物質を混合する場合は、所定量の物質を混合後、ペースト組成物が均質になるようにするために、ボールミルやロールミルを用いた処理を行うことができる。また、混合処理によりペースト組成物中に気泡が混入した場合は、静置する、減圧下に置く、あるいは攪拌脱泡機を用いるなどして気泡を除去すると、ペースト組成物を用いて製造する誘電体組成物中への気泡の混入を避けることができる。
【0056】
ペースト組成物の粘度を調整するために、さらに有機溶媒を添加したり、加熱や減圧により有機溶媒を適量除去してもよい。また、加熱処理や光照射により化合物Aや樹脂の重合反応を適度に進行させてもよい。
【0057】
上記のようにして製造したペースト組成物を硬化させて、重合体中に無機粒子が分散した誘電体組成物を製造することができる。例えば、ペースト組成物をある被着体(例えば基板)に塗布し、有機溶媒を除去し、加熱処理や光照射などによりペースト組成物を硬化させ、誘電体組成物を製造することができる。また、光照射により硬化するペースト組成物を用いた場合は、フォトリソグラフィー法により、所望のパターン形状を有する誘電体組成物を製造することができる。ただし、本発明の誘電体組成物は焼結体ではないので、樹脂を完全に分解、除去する必要はなく、電子部品の耐熱温度範囲内(例えば、500℃以下の温度)で加熱することが好ましい。
【0058】
シリコンウエハーなどの被着体とペースト組成物との接着性を高めるために、被着体表面にシランカップリング剤などによる表面処理を施すことができる。例えば、シランカップリング剤などをイソプロパノール、エタノール、メタノール、水、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルなどの有機溶媒に0.5から20重量%溶解させた溶液を、回転塗布、浸漬、スプレー塗布、蒸気処理などにより被着体へ塗布する。場合によっては、その後50℃から300℃までの温度で加熱することで、基板とシランカップリング剤との反応を進行させる。また、被着体を高温で加熱し、被着体表面の吸着水などを取り除くことも表面処理方法として有効である。この場合、例えば80℃から400℃の温度にて行うことができる。
【0059】
ペースト組成物を塗布する被着体は、例えば、シリコンウエハー、セラミックス類、ガリウムヒ素、有機系回路基板、無機系回路基板、およびこれらの基板に回路の構成材料が配置されたものから選択できるが、これらに限定されない。有機系回路基板の例としては、ガラス布・エポキシ銅張積層板などのガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板などのコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板などの耐熱・熱可塑性基板、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板などのフレキシブル基板が挙げられる。
【0060】
また、無機系回路基板の例は、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板などのセラミック基板、アルミニウムベース基板、鉄ベース基板などの金属系基板が挙げられる。回路の構成材料の例は、銀、金、銅などの金属を含有する導体、無機系酸化物などを含有する抵抗体、ガラス系材料および/または樹脂などを含有する低誘電体、樹脂や高誘電率無機粒子などを含有する高誘電体、ガラス系材料などを含有する絶縁体などが挙げられる。
【0061】
ペースト組成物を被着体に塗布する方法としてはスピナーを用いた回転塗布、スプレー塗布、ロールコーティング、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、カレンダーコーター、メニスカスコーター、バーコーターなどの方法がある。また、塗布膜厚は、塗布手法、組成物の固形分濃度、粘度などによって異なるが、通常、乾燥後の膜厚が、0.1から150μmになるように塗布される。
【0062】
次に基板上に塗布したペースト組成物膜から有機溶媒を除去する。有機溶媒を除去する方法としては、オーブン、ホットプレート、赤外線などによる加熱乾燥や真空乾燥などが挙げられる。
【0063】
有機溶媒を除去した後に、用いたペースト組成物中の化合物Aあるいは樹脂の硬化機構に応じて、加熱処理や光照射などによりペースト組成物の硬化反応を進行させる。この場合、光照射後に加熱処理をするなど硬化を完全に進めるために複数の処理を組み合わせてもよい。加熱処理温度は120℃から400℃の範囲内で、一定温度あるいは段階的に昇温し、処理時間は5分から5時間の範囲で実施することができる。また、加熱処理を100℃以上で行う場合は、窒素などの不活性雰囲気下での処理とすると、重合体の酸化を抑制するので好ましい。また、酸素により活性が失われるラジカルを発生させる重合促進剤を用いた組成で硬化を行う場合も、窒素などの不活性雰囲気下での処理とすると、重合を阻害しないので好ましい。
【0064】
有機溶媒除去後のペースト組成物膜上に、フォトリソグラフィー法によりパターン加工を行う場合は、所望のパターンを有するマスクを通して露光する。露光に用いられる光源としては水銀灯のi線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を用いるのが好ましい。
【0065】
露光後、現像液を用いて未露光部を除去することによって所望のパターン形状を有する誘電体組成物が得られる。アルカリ現像を行う場合の現像液としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、ジエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、酢酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエチルメタクリレート、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルカリ性を示す化合物の水溶液が好ましい。また場合によっては、これらのアルカリ水溶液にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンなどの極性溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などを単独あるいは複数種添加してもよい。また、これらのアルカリ水溶液に界面活性剤を添加したものを現像液として使用することもできる。界面活性剤を添加した現像液を用いると、現像時に未露光部のペースト組成物が基板上に残渣として残ることを低減することができ好ましい。界面活性剤としては、エーテル型非イオン性界面活性剤“エマルゲンA60”(商品名、花王(株)製)などが挙げられる。
【0066】
有機現像を行う場合の現像液としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの極性溶媒を単独あるいは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、キシレン、水、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどと組み合わせた混合溶液が使用できる。
【0067】
現像は、基板を静置または回転させながら上記の現像液を塗膜面にスプレーする、基板を現像液中に浸漬する、あるいは浸漬しながら超音波をかけるなどの方法によって行うことができる。
【0068】
現像後、水によるリンス処理を施してもよい。ここでもエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類などを水に加えてリンス処理をしてもよい。また、現像後に露光部の硬化を完全に進めるために加熱処理を行ってもよい。
【0069】
誘電体組成物の空隙率は、小さいほど好ましい。空隙率が小さいと膜体積中に占める無機粒子の割合が大きくなり、屈折率が大きい誘電体組成物が得られやすい。
【0070】
本発明の誘電体組成物の形態は特に限定されず、膜状、棒状、球状など、用途に合わせて選択することができるが、特に膜状であることが好ましい。ここでいう膜とは、フィルム、シート、板、ペレットなども含まれる。もちろん、穴開けなど用途にあわせた加工を行うこともできる。
【0071】
本発明のペースト組成物および誘電体組成物の用途は特に限定されないが、反射防止コート、ハードコート材料としてディプレイ、レンズやめがねの光学部品へのなどの適用が可能である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中のペースト組成物および誘電体組成物の評価は以下の方法により行った。
【0073】
<ペースト組成物中の無機粒子の平均粒子径の測定方法>
カーボン蒸着したコロジオン膜上に、ペースト組成物を滴下し、有機溶媒を乾燥除去後、透過型電子顕微鏡“H−7100FA”(商品名、日立製作所(株)製)にて無機粒子を観察した。加速電圧は100kVとした。観察像はデジタル画像としてコンピューターに取り込み、画像処理ソフト“FlvFs”(商品名、(株)フローベル製)にて、観察された任意の100個の粒子に対し、球形近似したときの粒子径を求め、数平均粒子径を算出した。なお、1次粒子が凝集して存在する場合は、凝集体としての粒子径を測定した。
【0074】
<誘電体組成物の膜厚の測定方法>
触針式段差計“サーフコム1400”(商品名、(株)東京精密製)を用いて測定を行った。膜厚の測定はランダムに3箇所の位置にて測り、その3点の平均値を膜厚とした。測長は1mm、走査速度は0.3mm/sとした。
【0075】
<誘電体組成物のパターン加工性の評価方法>
基板上に、一定のラインアンドスペース(L/S)で配列する直線群を1つのユニットとし、ラインアンドスペースの値が異なる9種類のユニットにパターン加工された誘電体組成物からなる膜を得た。各ユニットのラインアンドスペースの値は500/500、250/250、100/100、50/50、40/40、30/30、25/25、20/20、15/15μmとした。誘電体組成物のパターンを光学顕微鏡を用いて観察し、パターン間に残渣がなく、かつパターン剥がれのない最小のラインアンドスペースを持つパターンを確認し、この最小のラインアンドスペースの値を現像可能なL/Sとした。
【0076】
<屈折率の測定方法>
メトリコン社製のプリズムカップラー装置2010と専用のP−1プリズムを用いて波長633nmの屈折率を測定した。
【0077】
<硬度の測定方法>
引っかき硬度(鉛筆法)JIS-K5600−5−4:1999に従い評価し、2H以上を○、2H未満を×とした。
【0078】
<透明性(光線透過率)>
顕微分光装置 MCPD−2000(大塚電子(株)製)を用いて、(A)ガラス基板の波長400〜700nmの光線透過率、(B)石英基板上に誘電体組成物を形成したサンプルの波長400〜700nmの光線透過率を測定した。本発明の誘電体組成物の光線透過率は(B)の光線透過率から(A)の光線透過率を差し引いた差スペクトルとした。ガラス基板には、ソーダライムガラスを用いた。本発明の誘電体組成物の透過光スペクトルにおいて、本発明の実施例における光線透過率は波長700nmの値を代表値として用いた。
【0079】
<高温高湿試験評価>
石英基板上に形成した厚さ5μmの誘電体組成物膜の温度85℃、相対湿度85%環境下で500時間保管後に剥離が生じなかった場合を○、剥離が生じた場合を×とした。
【0080】
実施例1
テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)140g、化合物A“HOA−MPL”(商品名、共栄社化学(株)製、上記一般式(4)で表され、Rが水素原子であり、Rが上記一般式(6)で表されるものであり、nが2であり、Rが水素原子である。)20g、無機粒子としてCeO粒子(BET法での測定比表面積230m/g、球形近似での粒径3.7nm)400gを混合した。
【0081】
次いで、ビーズミル“ウルトラアペックスミルUAM−015”(商品名、寿工業(株)製)のベッセル内にジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、YTZボール、寸法φ0.05mm)を400g充填し、ローターを回転させながら、上記混合液をベッセル内に送液、循環させた。ローターの周速を9.5m/sとして2時間分散し、分散液を得た。
【0082】
140gの分散液と前記式(7)で表される樹脂35g、オキシム系のUV活性型重合促進剤OXE02(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.7gをボールミルを用いて混合し、ペースト組成物を得た。ペースト組成物中のCeO粒子の平均粒子径は21nmであった。
【0083】
上記ペースト組成物をスピンコーターを用いて、石英基板上に塗布し、大気中でオーブンを用いて80℃で20分間乾燥した後、ペースト組成物の硬化処理として超高圧水銀灯露光装置(ユニオン光学(株)製、PEM−6M)を用いて、50mJ/cmの紫外線を露光し、厚さ10μmの膜状の硬化物を製造した。波長850nm、温度25℃における該膜状の硬化物の屈折率は1.74であった。波長700nmの光線透過率は96%であった。また膜の硬度は2H以上であった。また、この硬化物中のCeO粒子の含有率(無機粒子含有率)は71.1重量%であった。硬化物中のCeO粒子の含有率の評価は、熱重量分析により、加熱前室温での硬化物の重量と、硬化物を大気中800℃まで加熱し有機成分を完全に分解蒸発させた後の重量から算出した。
【0084】
次に、4インチ径シリコンウエハー上に、上記ペースト組成物をスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレートを用いて80℃で20分間乾燥した。露光装置“PEM−6M”(商品名、ユニオン光学(株)製)にラインアンドスペース(L/S)パターンが形成されたマスクをセットし、サンプルとマスクの間を密着させて、露光量500mJ/cm(波長365nm換算)で全線露光を行った。現像には、スプレー型現像装置“AD−2000”(商品名、滝沢産業(株)製)を用いた。現像液には、水酸化テトラメチルアンモニウムの2.38%水溶液を使用した。パターン加工された誘電体組成物の膜厚は5μmであった。誘電体組成物のラインアンドスペース(L/S)パターンを光学顕微鏡を用いて確認したところ、L/Sが20/20μmまでパターン間残渣、パターン剥がれがなく、良好にパターン加工されていることを確認した。
【0085】
実施例2〜10
表1に示す組成のペースト組成物を実施例1と同様の方法で製造し、これを用いて評価用誘電体組成物を得た。評価結果を表1に示した。
【0086】
比較例1〜3
表1に示す組成のペースト組成物を実施例1と同様の方法で製造し、これを用いて評価用誘電体組成物を得た。評価結果を表1に示した。
【0087】
比較例4
化合物Aの代わりに、重合性基を有しないリン酸化合物(リン酸エステル骨格を有する酸基を持つコポリマー、ビックケミー・ジャパン(株)製、BYK−W9010)を用いた以外は表1に示す組成のペースト組成物を実施例1と同様の方法で製造し、これを用いて評価用誘電体組成物を得た。評価結果を表1に示した。
【0088】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸化ジルコニウム粒子あるいは希土類酸化物粒子、(B)下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物、および(C)有機溶媒を含むペースト組成物。
【化1】

(上記一般式(1)〜(4)中、Rは重合性基を有する1価の基を示す。Rは水素原子または下記一般式(5)で表される1価の基を示す。)
【化2】

(上記一般式(5)中、mは1〜3の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)〜(4)におけるRが下記一般式(6)で表される1価の基である請求項1記載のペースト組成物。
【化3】

(上記一般式(6)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。また、nは1〜3の整数である。)
【請求項3】
(B)の化合物が前記一般式(4)で表され、一般式(4)中、Rが水素原子であり、Rが前記一般式(6)で表される1価の基であり、一般式(6)中、nが2である請求項2記載のペースト組成物。
【請求項4】
(A)の粒子の平均粒径が0.002μm以上0.06μm以下である請求項1〜3のいずれか記載のペースト組成物。
【請求項5】
さらに、樹脂を含む請求項1〜4のいずれか記載のペースト組成物。
【請求項6】
樹脂が熱硬化性あるいは光硬化性樹脂である請求項5記載のペースト組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のペースト組成物を硬化させてなる誘電体組成物。

【公開番号】特開2009−249411(P2009−249411A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95752(P2008−95752)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】