説明

ホスファチドの製造と使用

【課題】ホスファチドを高収率、高純度で得ることのできる、工業的な製造法の提供。
【解決手段】ホスファチドを、ストレプトバーテイシリウム・ハチジョウエンスATCC19769株から採取されたホスファチジル基転移活性を有するホスホリパーゼDの存在下、単一水性相において、第1級叉は第2級アルコールと反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、天然ホスファチド(またはリン脂質)の混合物叉はその単一成分(例えば、大豆レシチン、卵レシチン、動物リン脂質など)若しくは合成ホスファチドから出発し、それらを、第1級叉は第2級アルコール基を含有する特定の基質の存在下、水性培地のみの中で、ホスファチジル基転移活性を有するホスホリパーゼDと反応させることにより、純ホスファチドを製造する方法に関する。
本発明はさらに、その方法で用いられるホスホリパーゼDの製造、精製および特性化に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
純ホスファチドの合成、特に工業的規模における製造には、よく知られた問題が存在する。実際、多くの技術文献および特許文献があり、その中には、様々な方法を記載したごく最近のものも幾つか含まれる。一般にそれらの方法は、ホスホリパーゼDのホスファチジル基転移特性を利用して、光学的に活性なホスファチドを得るものである。主な問題の一つは、これらの方法がそれぞれ特定のホスファチドの製造には適しているいるものの、広い種類のホスファチド類の合成には適していないことである。一般に、最も広く研究されているリン脂質は、医薬組成物、リポソーム製剤、補助食品などの製造に広く使用されているように、ホスファチジルセリン(PS)である。スフィンゴリン脂質の合成に関する報告は極めて少ない。
【0003】
技術文献および特許文献の両方で報告されている全ての方法に関する一つの制限は、ホスファチジル基転移反応が二相溶媒系、すなわち水/有機溶媒系で行なわれることである。これは、大量の溶媒の使用に伴う一連の技術的問題を引起こすことになり、特に工業的方法が良質品の取得を目的とする化学的性質のものである場合、そうである。特許出願DE19917249 A1には、水相のみを使用する方法が記載されているが、得られたPSの収率も純度も、更には使用された酵素の種類についても報告がない。さらに、同じ技術を用い、使用した基質から出発して、PS以外のリン脂質が得られるか否か、また記載された条件において他のリン脂質が反応基質として作用し得るか否かについて言及するところがない。特公平5−42917号(特許第2130088号)もまた、水のみ叉は水と有機溶媒の混合物からなる培地を用いる方法を開示している。しかしながら、この特許には、副作用を防止するためには、水含量が10重量%以下であることが好ましいと記載されている。従って、この参考文献は、水性環境のみの使用が好ましくないことを示唆しているように思われる。実際、その文献の実施例には、水とエチルエーテルの二相混合物を用いる方法しか開示されていない。
【0004】
水相単独におけるホスホリパーゼDのホスファチジル基転移反応の適用性に関する上記先行技術に記載された情報の一般的性質叉は教示の欠如に鑑み、当業者は、これが当該問題を解決するものであるとは到底考えることが出来なかった。さらに、食品や医薬品分野において使用する製品の製造方法において、有機溶媒の使用により生ずる不純物を除去することの重要性は、近年のアメリカ薬局方(USP)およびヨーロッパガイドライン(CPMP/CH/283/95)による制限により、漸く注目されるようになったものである。
【0005】
技術文献にも特許文献にも充分に検討されていない別の重要な点は、ホスファチジル基転移反応の間、水/溶媒の異種相エマルジョンを用いることにより生じる生成物の過酸化、採用する反応条件及び高純度の生成物を得るために多くの工程(再沈降、洗浄及びさらに恐らくクロマトグラフィー)を行うことの必要性に関する。異種相におけるこれらの反応のために用いる溶媒の多くは、過酸化反応の開始に典型的なラジカル性前駆物質の不存在を保証するものではない。さらに、異種相において反応を達成するために必要な振盪/攪拌は、大気中の酸素に触れ、その結果、酸化現象を引き起こす可能性を高める。たとえこのような誘因が除去叉は抑制されていても、極く僅かな初期工程が時間をかけて壊滅的な結果をもたらすものであれば、この過酸化は連鎖反応のように作用する。トリグリセリド(油または脂肪)やリン脂質などの脂肪性物質の過酸化は、脂肪酸を変敗させ、その結果不快な臭いと味を形成する。特に重要なことは、その生成物、特にPSが、その含量富化のため、顆粒などの特有の製剤を有する食品補助材(機能性食品(nutraceuticals))叉はいわゆる“機能性食品(functional foods)”の製造に用いられる場合、高度な嗜好性(臭いおよび味)が要求されることである。従って、得られる生成物、特にPSは、脂肪酸の化学組成およびそれらの過酸化とその結果の嗜好性の程度の両方について、化学的用語で明確に特徴づけられることが重要である。
【0006】
最後に、市販のホスホリパーゼD酵素は、主にリン脂質混合物のホスファチジルコリン(PC)・フラクションに対してホスファチジル基転移活性を有することが指摘される。従って、ホスファチジルエタノールアミン(PE)などの他の成分は、加水分解によりホスファチジン酸(PA)となり、このため、最終産物の収率および純度の両方が低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の技術状態に鑑み、本発明者らは、ホスファチジル基転移反応により有用なホスファチドを良好な収率と純度で製造する工業的かつ普遍的方法を開発すべく種々研究を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、ストレプトバーテイシリウム・ハチジョウエンス(Streptoverticillium hachijoense)からのホスホリパーゼDの精製フラクションを用いることにより、100%水性環境において天然ホスファチドの混合物叉はその精製フラクションから出発して、様々なアルコール受容体によりホスファチジル基転移反応を実施し、単一の反応工程と単一の沈降により、高収率、高純度及び過酸化物価(過酸化度)5以下(ヨーロッパ薬局方−Suppl. 2000、41頁(方法A)参照)で生成物を得ることが可能であることを発見した。
【0009】
本発明の要旨は、 一般式(I): R−O−PO(OH)−O−R
(式中、Rはジアシルグリセロール残基、Rはアルコール残基である。)
で示されるホスファチドを製造するにあたり、
一般式(II): R−O−PO(OH)−O−R
(式中、Rは上記の通りであり、RはCH−CH−NHまたはCH−CH−N(CHである。)
で示されるホスファチドを、ストレプトバーテイシリウム・ハチジョーエンス
ATCC 19769 株由来のホスファチジル基転移活性を有するホスホリパーゼDの存在下、単一水性相において、第1級叉は第2級アルコールと反応させることを特徴とする方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記一般式(I)及び(II)で示されるホスファチドは、一般にジアシル型グリセロリン脂質((社)日本生化学会編:「脂質II−リン脂質」102〜156頁(1991))の範疇に属するものである。
Rで示されるジアシルグリセロール残基は、通常、同一叉は異なった、飽和叉は不飽和の、C12〜C24の長さを有する、2個の脂肪酸残基を有する。
また、Rで示されるアルコール残基は、通常、C2叉はC3鎖を有しており、当該鎖はアルコール性ヒドロキシル基に結合し、かつ、任意に1以上の極性基を有し得るものである。なお、当該鎖のいずれかの炭素原子と当該極性基のいずれかの原子との間で付加的な炭素原子が介在するか叉は介在することなく環状基が形成されていることもある。なおまた、上記極性基としては、アミノ、カルボキシ、ヒドロキシルなどを挙げることが出来る。
【0011】
従って、原料物質として使用される式(II)のホスファチドとしては、具体的に精製大豆レシチン、粗大豆レシチン、卵レシチン、合成ホスファチジルコリンなどが例示される。
【0012】
式(II)のホスファチドと反応させるべき第1級叉は第2級アルコールとしては、種々のものを挙げることが出来るが、その代表的なものは、エタノールアミン、セリン、ホモセリン、4−ヒドロキシプロリン、グリセロールなどである。
【0013】
本発明方法によって製造される、式(I)のホスファチドの典型的な例としては、ホスファチジル−L−セリン、ホスファチジル−D−セリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジル−ホモセリン、ホスファチジル−ヒドロキシプロリン、ホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。
【0014】
ホスファチジル基転移反応は、基質の分散性により、様々な温度条件と基質濃度で実施することができ、例えば温度条件20〜60℃、好ましくは45℃±5℃において、基質濃度10〜500mg/ml、好ましくは150mg/mlで行うことが出来る。
【0015】
本発明で使用する、ホスファチジル基転移活性を有するホスホリパーゼDは、ストレプトバーテイシリウム・ハチジョーエンス、特にATCC 19769 株由来のものである。この酵素は、ホスファチジルコリン(レシチン)以外の基質に対しても高い収率でホスファチジル基転移活性を示すものであり、従って、低コスト、非精製の原材料を用いて本発明方法を実施することを可能にする。
【0016】
上記ホスホリパーゼDは、後記実施例1で示されるように、陰イオン交換樹脂及び陽イオン交換樹脂で精製されたものであり、特に陽イオン交換樹脂からpH6.2付近で溶出されたフラクションが好ましく使用される。
【0017】
ホスホリパーゼDおよびその分画の製造に使用される菌株の重要性は、下記の表から理解することが出来る。下記表は、実施例1に従って製造された精製酵素フラクションを、種々の市販酵素製剤と比較して示すものである。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明による酵素製剤及び反応条件の他の利点は、特許第2130088号の二相の水/有機溶媒系において達成された変換率が70%以下であるのと比べて、基質が実質的に完全にPSに変換されることである。
【0020】
本発明の更に他の利点は、上記の方法によって得られるホスファチドの過酸化物価(peroxide value)が例えば5以下のように比較的低く、高度の嗜好性を有する点であって、当該ホスファチドに基づく医薬組成物及び化粧品組成物並びに補助食品や栄養補助食品は、そのような特徴を有していない市販の他の類似生成物よりも好ましい。
【0021】
ホスファチドを含む医薬組成物及び補助食品や栄養補助食品は、しばしば老化に関連する、注意力、集中力および記憶力の欠如に伴う精神物理的ストレスの症状を処置するのに必要とされるが、それらは例えばカプセル、錠剤および顆粒の形態で製造され得る。
【0022】
化粧品用組成物は主に、湿疹および/または炎症タイプの皮膚炎の治療の補助として生理機能障害を有する皮膚の処置に適用され、例えば、クリームまたはゲルの形態で製造され得る。
【0023】
説明を目的として、本発明によるホスホリパーゼDとそれを使用して得られるリン脂質の製造例のいくつかを以下に示す。
【実施例】
【0024】
実施例1:ホスホリパーゼDの製造
ストレプトバーテシリウム・ハチジョウエンス ATCC 19769 株を使用する。
発酵試験において使用する接種の準備は、ペトリ皿の固体培地上のコロニーから始まる。固体培地の組成は次の通りである:21.0g/リットル Y.M., 2%寒天。ペトリ皿から採取した細菌類を用いて、次のようにエルレンマイヤーフラスコで“スケールアップ(scale-up)”システムを開始する:滅菌白金耳で固体培地から細菌類を採取し、次の組成:Y.M.ブロス21.0g/リットルを有する培地20mlを含有する100mlフラスコに接種する;フラスコを30℃、150rpmに調整した振盪培養器中に48時間置く;培養物20mlを上記の組成を有する培地2.5リットルを含有する5.0リットルフラスコに移す;フラスコを30℃、150rpmに調整した振盪培養器に72時間置く。
この段階で培養物は発酵槽で接種される状態にある。培養物がシリコン管と針システムが取りつけてあるフラスコ中にあることにより、この操作は可能となる。使用する発酵槽は50リットルの容量を有する(Braun Biostat U)。培地の組成は次の通りである:Y.M.ブロス21.0gr/lt、pH6.5(培地は消泡剤の添加により発酵槽において直接滅菌する);発酵のパラメーターは:200rpm、温度30℃、空気流0.5vvm(空気容量/反応器容量/分)で振盪。
【0025】
72時間後発酵を中断する。達成される酵素の最大量は、5,000U/リットルであり、酵素活性は文献(K.Shimbo et al., Agric. Biol. Chem. 54(5), 1189-93,(1990))記載の加藤らの修飾方法により決定する。
【0026】
培養物ブロスを濾過してバイオマスを除去し、10,000Dの分子カットオフ能(molecular cut-off)を有する酢酸セルロースのスパイラル・カートリッジを用いて上澄み液を濃縮し、50mM Tris-HCl緩衝液、pH8.0に対して透析する。このようにして得たサンプルを、透析に使用したのと同じ緩衝液でプレバランス(pre-balance)したウオットマン(Whatman) DE−52陰イオン交換樹脂500gを充填したクロマトグラフィー・カラム(内径10cm、高さ50cm)に添加する。酵素は、吸着されずにカラムから溶出し、20mM Na−ホスフェート緩衝液、pH5.4に対して透析され、酵素と同じ緩衝液でプレバランスした陽イオン交換樹脂CM−セファデックス ファルマシア(Sephadex Pharmacia)C−50 50gを充填したクロマトグラフィー・カラム(内径10cm、高さ50cm)に添加する。5.4〜7.0のpH勾配でNa−ホスフェート緩衝液、20mM、pH7.0を用いて酵素を溶出する。pH6.2で溶出するフラクションを採取し、濃縮し、Tris-HCl緩衝液、50mM、pH8.0に対して透析して、濃度100U/mlとし、次いで凍結乾燥する。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例2:PCからのPSの製造
振盪器および還流冷却器を備えたジャケット付(jacketed)反応器において、酢酸ナトリウム三水和物272gおよび塩化カルシウム三水和物59gを水10リットルに溶解する。pHを5.6に調節し(酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M)、pH5.6)、L−セリン5.0kgを添加し、45℃に加熱して溶解する。全工程は窒素下で行う。
【0029】
溶解完了後、次の組成を有する精製大豆レシチン1.5kgを添加する:PC 95%、PA 4%、lyso-PC 1%。10分後、実施例1のホスホリパーゼD 16,100Uを添加し、これを45℃で24時間反応させる。
【0030】
反応が完了したら、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物10リットルを添加する。内容物を反応器から取り出し、かたまりを振盪により溶解させ、振盪を停止してから、二相が分離するまで放置する。
【0031】
下相を採取し、非反応性L−セリンを晶析装置で冷却して回収する。
上相をHCl 1N 6,950ml及びイソプロパノール1,113mlを用いて、5℃で洗浄する。酸性相をヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物10リットルで逆抽出し、その後、2つの有機相を水7リットルとイソプロパノール6リットルの混合物で段階的に洗浄する。
有機相を真空下で濃縮し、エタノール33.2リットル中の4.5M酢酸ナトリウム水溶液450mlをゆっくりと添加することにより沈澱させる。
これを濾過し、乾燥させると、力価95%以上、ホスファチジン酸含量5%以下及び過酸化物指数5以下のホスファチジルセリン1.14kgを得る。結晶化および乾燥の後、L−セリン3.25kgを得る。
【0032】
実施例3:卵レシチンからのPSの製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M)、pH5.6 180mlを振盪器及び還流冷却器を有するジャケット付反応器に入れ、その後、L−セリン90gを添加し、45℃に加熱して溶解させる。全工程は窒素下で行う。
溶解が完了したら、精製卵レシチン27gを添加し(PC含有量95%)、10分後、実施例1のホスホリパーゼD 290Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応が完了したら、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物200mlを添加し、内容物を反応器から取り出し、かたまりを振盪により溶解させ、次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150mlおよびイソプロパノール30mlで5℃で洗浄する。酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物180mlで逆抽出し、二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物で段階的に洗浄する。
有機相を真空下で濃縮し、エタノール600ml中の4.5M酢酸ナトリウム水溶液8mlをゆっくりと添加して沈澱させる。それを濾過し、乾燥させる。
これにより、力価95%以上、ホスファチジン酸含量5%以下及び過酸化物指数5以下のホスファチジルセリン20.8gを得る。
【0033】
実施例4:粗大豆レシチンからのホスファチジルセリンの製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M) 180ml pH5.6を振盪器および還流冷却器を有するジャケット付反応器に入れ、その後L−セリン90gを添加し、45℃に加熱して溶解させる。全工程を窒素下で行う。
溶解が完了したら、粗大豆レシチン27gを添加する(全リン脂質含量75%、組成%PC60.6/PE29.5/PA3.4/lyso-PC2.5/他3.9);10分後、実施例1のホスホリパーゼD 290Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応が完了したら、反応器にn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物200mlを添加し、内容物を反応器から取りだし、かたまりを振盪により溶解させる。次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150mlおよびイソプロパノール30mlを用いて5℃で洗浄する。酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物180mlで逆抽出し、次いで二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物で段階的に洗浄する。
有機相を真空下に濃縮し、エタノール600ml中、4.5M酢酸ナトリウム水溶液8mlをゆっくりと添加して、沈澱させる。沈澱物を濾取し、乾燥させる。
これにより、力価83.5%(PA 7.7%、lyso−PS 2.3%、PE 1.9%、その他 4.5%)及び過酸化物指数5以下のホスファチジルセリン19gを得る。
【0034】
実施例5:ホスファチジル−D−セリンの製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M) 180ml、pH5.6を振盪器および還流冷却器を備えたジャケット付反応器に入れ、その後D−セリン90gを添加し、45℃に加熱して溶解させる。全工程を窒素下で行う。
溶解が完了したら、実施例2の精製大豆レシチン27gを添加し、10分後、実施例1のホスホリパーゼD 290Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応が完了したら、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物200mlを添加し、内容物を反応器を取り出し、かたまりを振盪により溶解させる。次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150ml及びイソプロパノール30mlを用いて5℃で洗浄する。酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物180mlで逆抽出し、次いで二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物で段階的に洗浄する。
有機相を真空下で濃縮し、エタノール600ml中、4.5M酢酸ナトリウム水溶液8mlをゆっくりと添加して、沈澱させる。それを濾取し、乾燥する。
これにより、力価95%以上、ホスファチジン酸含量5%以下及び過酸化物指数5以下のホスファチジル−D−セリン18.7gを得る。
【0035】
実施例6:PCからのホスファチジルエタノールアミン(PE)の製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M) 200ml、pH5.6を振盪器および還流冷却器を備えたジャケット付反応器に入れる。全工程を窒素下で行う。
エタノールアミン58gを添加し、温度30℃で氷酢酸によりpH5.6に調整する。操作の最後に45℃に加熱し、実施例1の精製大豆レシチン30gを添加する。10分後、実施例1のホスホリパーゼD 325Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応が完了したら、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物400mlを添加し、内容物を反応器から取り出し、かたまりを振盪により溶解する。次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150ml及びイソプロパノール30mlを用いて5℃で洗浄する。酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物180mlで逆抽出し、次いで二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物、次いで1Nの酢酸ナトリウム100ml及びイソプロパノール130mlで段階的に洗浄する。
有機相を真空下で濃縮する。クロロホルム/メタノール(80/20)で平衡化された1リットルカラムによる軸圧クロマトグラフを用いてシリカゲルクロマトグラフィーにより有機相を精製する。勾配溶出は、クロロフォルム/メタノール/水(70/30/3)まで行う。
純粋なフラクションを蒸発させ、シクロヘキサン250mlに溶解し、凍結乾燥させて、ホスファチジン酸及びリゾ誘導体(lyso derivatives)を含まない、純度99%以上の淡黄色固体生成物24gを得る。
【0036】
実施例7:PCからのホスファチジル−ホモセリンの製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M) 180ml、pH5.6を振盪器および還流冷却器を備えたジャケット付反応器に入れ、その後ホモセリン102gを添加し、45℃に加熱して溶解させる。全工程は窒素下で行う。
溶解が完了してから、実施例2の精製大豆レシチン27gを添加し、10分後、実施例1のホスホリパーゼD 290Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応完了後、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物200mlを添加し、内容物を反応器から取り出す。かたまりを振盪により溶解させ、次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150ml及びイソプロパノール30mlを用いて5℃で洗浄する。酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)の混合物180mlで逆抽出し、次いで二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物で段階的に洗浄する。
有機相を真空下で濃縮し、エタノール600ml中、4.5M酢酸ナトリウム水溶液8mlをゆっくりと添加して沈澱させる。これを濾過し、乾燥させる。
力価95%以上、ホスファチジン酸含量5%以下、過酸化物指数5以下のホスファチジル−ホモセリン22.6gを得る。
【0037】
実施例8:PCからのホスファチジル−ヒドロキシプロリンの製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M) 180ml、pH5.6を振盪器及び還流冷却器を備えたジャケット付反応器に入れ、その後ヒドロキシプロリン112gを添加し、45℃に加熱して溶解する。全工程は窒素下で行う。
溶解完了後、実施例2の精製大豆レシチン27gを添加する。10分後、実施例1のホスホリパーゼD 290Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応完了後、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)混合物200mlを添加してから、内容物を反応器から取り出す。かたまりを振盪により溶解させ、次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150ml及びイソプロパノール30mlを用いて5℃で洗浄する。
酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)混合物180mlで逆抽出し、次いで二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物で段階的に洗浄する。有機相を真空下で濃縮し、エタノール600ml中、4.5M酢酸ナトリウム水溶液8mlをゆっくりと添加して沈澱させる。それを濾過し、乾燥させる。
これにより、力価95%以上、ホスファチジン酸含量5%以下、過酸化物指数5以下を有するホスファチジル−ヒドロキシプロリン18.4gを得る。
【0038】
実施例9:PCからのホスファチジルグリセロールの製造
酢酸塩緩衝液(0.2M)+塩化カルシウム(0.04M) 200ml、pH5.6を振盪器及び還流冷却器を備えたジャケット付反応器に入れる。全工程は窒素下で行う。
グリセロール80gを添加し、45℃に加熱し、次いで実施例2の精製大豆レシチン30gを添加する。10分後、実施例1のホスホリパーゼD 325Uを添加し、45℃で24時間反応させる。
反応完了後、n−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)混合物400mlを添加してから、内容物を反応器を取り出し、かたまりを振盪して溶解させる。次いで振盪を停止し、二相が分離するまで放置する。
下相を捨てる。上相を1N HCl 150ml及びイソプロパノール30mlを用いて5℃で洗浄する。酸性相をn−ヘキサン/イソプロパノール/水(60/80/15)混合物180mlで逆抽出し、次いで二つの有機相を水100ml及びイソプロパノール130mlの混合物、次いで1N酢酸ナトリウム100mlおよびイソプロパノール130mlで段階的に洗浄する。
有機相を真空下で濃縮する。クロロホルム/メタノール(80/20)で平衡化された1リットルカラムによる軸圧クロマトグラフを用いてシリカゲルクロマトグラフィーにより精製を行う。勾配溶出をクロロフォルム/メタノール/水(70/30/3)まで行う。
純粋なフラクションを蒸発させ、シクロヘキサン250mlに溶解し、凍結乾燥させると、ホスファチジン酸及びリゾ誘導体を含まない、純度95%以上の白色固体生成物22.2gを得る。これを濾過し、乾燥する。
【0039】
実施例10:L−セリンの収集とリサイクル
実施例2の酵素反応の最初の分画からの母液を0℃に24時間保持し、結晶化生成物を濾取する。これをエタノール洗浄し、乾燥させると、最初のものと同一の白色針状の純生成物を得る。量的不足(約20%)を補足することにより、生成物を正常に使用することが出来る。
【0040】
実施例11:医薬組成物の例
(a)各ゼラチンカプセルに以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 100.0mg
植物油 270.0mg
大豆レシチン 30.0mg
(b)各注射用バイアルに以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 50.0mg
マンニトール 100.0mg
大豆レシチン(注射用グレード) 7.5mg
リン酸緩衝液 2.2mg
水 適量を加え、全量 2.0ml とする。
【0041】
実施例12:補助食品および栄養補助食品の例
(a)各ゼラチンカプセルに以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 100.0mg
ビタミンE 5.0mg
植物油 295.0mg
(b)各小包(sachet)に以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 100.0mg
クレアチン 1.5g
ベータ−カロチン 0.6mg
ビタミンE 5.0mg
ビタミンC 30.0mg
ビタミンB1 0.7mg
ビタミンB6 1.0mg
ビタミンB12 0.5mcg
葉酸 0.1mg
(c)各チュアブル錠に以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 75.0mg
ビタミンE 5.0mg
ビタミンC 30.0mg
ビタミンB1 0.7mg
ビタミンB6 1.0mg
ビタミンB12 0.5mcg
葉酸 0.1mg
【0042】
実施例13:化粧品用組成物の例
(a)各ボディクリームチューブに以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 4.0g
マカダミアテルニフォリア(macadamia ternifolia) 2.0g
ヒアルロン酸ナトリウム 10.0mg
セテアリルオクタノエート(cetearyl octanoate) 8.0g
カプリリック/カプリック(caprylic/capric)
トリグリセリド 7.0g
ソルビトール 5.0g
セテアリルアルコール 4.0g
ポリソルベート(polysorbate)20 1.0g
カルボマー(carbomer) 0.8gr
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.4g
二ナトリウムEDTA 0.3gr
抗酸化剤(トコフェロール) 50.0mg
水 適量を加えて、全量 100.0ml とする。
(b)各ボディ軟膏チューブに以下のものを含有させる:
ホスファチジルセリン 3.0g
コレステロール 2.0g
ヒアルロン酸ナトリウム 10.0mg
セテアリルオクタノエート(cetearyl octanoate) 9.0g
カプリリック/カプリック(caprylic/capric)
トリグリセリド 7.0g
ソルビトール 7.0g
セテアリルアルコール 3.5g
ポリソルベート(polysorbate)20 1.0g
カルボマー(carbomer) 0.6g
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.5g
二ナトリウムEDTA 0.3g
抗酸化剤(トコフェロール) 50.0mg
水 適量を加えて、全量 100.0ml とする。
【0043】
上記実施例11および12の組成物は、しばしば老化に関連した、注意力、集中力および記憶力の欠如を伴う精神物理的ストレスの症状を処置するのに使用され、例えば、カプセル、錠剤および顆粒の形態で製造することが出来る。
【0044】
本発明のホスファチド類を含有する錠剤およびカプセルは、経口で、典型的には1日2〜3錠の錠剤またはカプセルを服用してもよい。
【0045】
実施例13に記載の化粧品用組成物およびボディ軟膏は、冒された領域に直接適用してもよく、生理機能障害を有する皮膚の処置および皮膚炎の処置の補助として使用される。
【0046】
上記医薬組成物は、特定の担体を有する特定の物理的形態で記載されているが、本発明の医薬組成物は、既知の他の医薬的に許容される担体、賦形剤および希釈剤と組み合わされた他の標準的物理形態で製剤化され得ることが認識されてよい。
【0047】
本発明は上記記載のとおりであって、これらの方法は様々な態様に変更することが可能である。このような変更は、本発明の精神および目的から逸脱しているものと理解されるべきではなく、叉、当業者にとって明らかであるいかなる変更も請求の範囲内にあるものと認識されるべきである。
【0048】
[発明の効果]
上記したところから明らかなように、本発明は、新しいホスホリパーゼを使用することにより、有用なホスファチドを高収率かつ高純度で提供することが出来るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I): R−O−PO(OH)−O−R
(式中、Rはジアシルグリセロール残基、Rはアルコール残基である。)
で示されるホスファチドを製造するにあたり、
一般式(II): R−O−PO(OH)−O−R
(式中、Rは上記の通りであり、RはCH−CH−NHまたはCH−CH−N(CHである。)
で示されるホスファチドを、ストレプトバーテイシリウム・ハチジョーエンス(Streptoverticillium hachijoense)ATCC 19769 株由来のホスファチジル基転移活性を有するホスホリパーゼDの存在下、単一水性相において、第1級叉は第2級アルコールと反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
アルコール残基が、C2叉はC3鎖を有しており、当該鎖はアルコール性ヒドロキシル基に結合し、かつ、任意に1以上の極性基を有し得るものであり、当該鎖のいずれかの炭素原子と当該極性基のいずれかの原子との間で付加的な炭素原子が介在するか叉は介在することなく環状基が形成されていることもある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
極性基が、アミノ、カルボキシ及びヒドロキシルから選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ジアシルグリセロール残基が、同一叉は異なった、飽和叉は不飽和の、C12〜C24の長さを有する、2個の脂肪酸残基を有するものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
アルコールが、エタノールアミン、セリン、ホモセリン、4−ヒドロキシプロリン及びグリセロールから選択される、請求項1〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
反応温度が、45℃±5℃である、請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
ホスホリパーゼDが、陰イオン交換樹脂及び陽イオン交換樹脂で精製されたものである、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
使用するホスホリパーゼDのフラクションが、陽イオン交換樹脂からpH6.2で溶出されたものである、請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項9】
式(I)のホスファチドがホスファチジル−D−セリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジル−ホモセリン、ホスファチジル−ヒドロキシプロリン叉はホスファチジルグリセロールである、請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
式(I)のホスファチドがホスファチジル−L−セリンであり、式(II)のホスファチドが精製大豆レシチン、粗大豆レシチン叉は卵レシチンである、請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項11】
大豆レシチン叉は卵レシチンのものと同じ脂肪酸組成を有し、過酸化物価が5以下である、請求項1〜8のいずれか記載の方法により製造された、ホスファチジル−L−セリン生成物。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか記載の方法により製造された式(I)のホスファチドを含む医薬品。
【請求項13】
式(I)のホスファチドがホスファチジル−L−セリンである、請求項12記載の医薬品。
【請求項14】
老化に関連する精神物理的ストレス、注意力、集中力叉は記憶力の欠如を処置するために使用する、請求項12叉は13記載の医薬品。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか記載の方法により製造された式(I)のホスファチドを含む化粧品。
【請求項16】
式(I)のホスファチドがホスファチジル−L−セリンである、請求項14記載の化粧品。
【請求項17】
生理機能障害を有する皮膚炎または皮膚の処置に使用する、請求項15叉は16記載の化粧品。
【請求項18】
請求項1〜8のいずれか記載の方法により製造された式(I)のホスファチドを含む補助食品。
【請求項19】
式(I)のホスファチドがホスファチジル−L−セリンである、請求項18記載の補助食品。
【請求項20】
老化に関連する精神物理的ストレス、注意力、集中力叉は記憶力の欠如を処置するために使用する、請求項18叉は19記載の補助食品。
【請求項21】
一般式(II): R−O−PO(OH)−O−R(式中、Rはジアシルグリセロール残基、RはCH−CH−NHまたはCH−CH−N(CHである。)で示されるホスファチドを、第1級叉は第2級アルコールと共に、ホスファチジル基転移反応に付して、一般式(I): R−O−PO(OH)−O−R(式中、Rは上記のとおりであり、Rはアルコール残基である。)で示されるホスファチドを製造するために使用される、ストレプトバーテイシリウム・ハチジョーエンス(Streptoverticillium hachijoense)由来のホスファチジル基転移活性を有するホスホリパーゼD。
【請求項22】
転移反応が、単一水性相において実施される、請求項21記載のホスホリパーゼD。

【公開番号】特開2007−259866(P2007−259866A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176369(P2007−176369)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【分割の表示】特願2001−279612(P2001−279612)の分割
【原出願日】平成13年9月14日(2001.9.14)
【出願人】(591057175)フィディーア・ファルマチェウティチ・ソシエタ・ペル・アチオニ (5)
【氏名又は名称原語表記】FIDIA FARMACEUTICI S.p.A.
【Fターム(参考)】