説明

ホットスタンピング用潤滑離型剤

【課題】鋼板のホットスタンピング成形において、被加工材と金型との間の摩擦を軽減して、加工及び離型を容易にするとともに被加工材及び金型の損傷を防止することができるホットスタンピング用潤滑離型剤を提供する。
【解決手段】鋼板のホットスタンピング成形に用いられる固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であって、固体潤滑剤、水溶性高分子、カルボン酸塩、界面活性剤及び水を含有するホットスタンピング用潤滑離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板をホットスタンピング成形する際に用いるホットスタンピング用潤滑離型剤に関し、さらに詳細には、炭素鋼、合金鋼、非鉄金属、アルミめっき鋼及び亜鉛めっき鋼のホットスタンピング成形において、優れた潤滑性を発揮して摩擦係数を低くし、金型表面への焼付き及び金型磨耗を防止することで、加工及び離型を容易にするホットスタンピング用潤滑離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に端を発する自動車の軽量化、及び安全性向上といった観点から鋼板の高強度化が図られている。自動車を軽量化するためには、鋼板の高強度化が有効な手段であるが、一般に鋼板を高強度化するほど成形性が劣化し、成形時のわれが問題となる。また、鋼板を高強度化するほど成形後のスプリングバック量が増大し、形状凍結性が劣化することも大きな問題となっている。
【0003】
このような問題点を解決する方法として、注目されているのがホットスタンピング成形である。ホットスタンピング成形は、複雑な形状に加工することが困難な鋼板を熱間でプレス成形して、それとほぼ同時に金型を利用して急冷し、高強度の部品を製造する技術である。ホットスタンピング成形によれば、鋼板を、高温(オーステナイト温度)に加熱することで板材を軟化し、成形荷重を低下させるとともに成形性を向上させ、加えて低温の金型で冷却することで焼入れされ、マルテンサイト組織となることで組織が硬化し高強度の部品が得られる。
【0004】
金属の塑性加工には、例えば、鍛造、押し出し、伸線、プレス等がある。従来このような塑性加工を温間あるいは熱間の温度領域において行う場合には、被加工材と工具、又は被加工材と金型との間の摩擦を軽減して金属の加工を円滑にすること、及び工具又は金型から金属製品の離型を容易にすることを目的として、水溶性潤滑剤が使用されている(特許文献1及び2)。
【0005】
しかしながら、ホットスタンピング成形においては潤滑剤を用いて行われているという報告はない。そのため被加工材と金型との間に高い摩擦が生じ、被加工材及び金型に損傷が生じる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−292565号公報
【特許文献2】特開平3−263497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、鋼板のホットスタンピング成形において、被加工材と金型との間の摩擦を軽減して、加工及び離型を容易にするとともに、被加工材及び金型の損傷を防止することができるホットスタンピング用潤滑離型剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構成の潤滑離型剤が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記のホットスタンピング用潤滑離型剤に係る。
1.鋼板のホットスタンピング成形に用いられる固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であって、固体潤滑剤、水溶性高分子、カルボン酸塩、界面活性剤及び水を含有するホットスタンピング用潤滑離型剤。
2.前記潤滑離型剤の合計質量を100質量%とした場合、前記固体潤滑剤を1〜50質量%、前記水溶性高分子を1〜30質量%、前記カルボン酸塩を1〜30質量%、前記界面活性剤を0.3〜10質量%、及び前記水を40〜90質量%含有する、上記項1に記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
3.前記固体潤滑剤の平均粒径が1〜20μmである、上記項1又は2に記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
4.前記固体潤滑剤が、合成雲母、有機ヘクトライト、メラミン−無水シアヌール酸縮重合物(MCA)、リン酸亜鉛、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、及び粉末セルロースからなる群から選択される1種類または2種類以上である、上記項1〜3のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
5.前記水溶性高分子が、ポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合物、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、イソブチレン−マレイン酸共重合物、及びメチルビニルエーテル−マレイン酸共重合物からなる群から選択される1種類または2種類以上である、上記項1〜4のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
6.前記カルボン酸塩が、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、クエン酸、リンゴ酸、イタコン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸、及びセバシン酸からなる群から選択される1種類または2種類以上のカルボン酸のアルカリ金属塩である、上記項1〜5のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
7.前記界面活性剤が、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・ブロックポリマー型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル型、及びポリオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル型からなる群から選択される1種類または2種類以上の界面活性剤である、上記項1〜6のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホットスタンピング用潤滑離型剤は、耐熱性に優れた固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であるので、高温の金型に塗布すると水が蒸発して金型表面に固形成分による潤滑被膜を形成する。この潤滑被膜は優れた潤滑性を有しているので、被加工材と金型との間の摩擦及び磨耗を軽減することができ、これにより加工が円滑になり、金型から金属部品を容易に離型することができるようになる。また本発明のホットスタンピング用潤滑離型剤は、塗布によって金型温度を低下させることができるため、金型の高温軟化による磨耗及び損傷を防いで金型寿命を向上させることができるとともに、オーステナイト温度まで熱した鋼板を冷却した金型によって急速に焼入れすることができ、これにより鋼板の強度をさらに上げることができる。更に本発明のホットスタンピング用潤滑離型剤は、固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であるので、加工時に熱分解ガスが発生しないことに加え、火災の危険が少なく、設備周りに飛散しても水により容易に洗浄できるため、作業環境を良好な状態に保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のホットスタンピング用潤滑離型剤(以下、「潤滑離型剤」という場合もある)は、鋼板のホットスタンピング成形に用いられる固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であって、(A)固体潤滑剤、(B)水溶性高分子、(C)カルボン酸塩、(D)界面活性剤及び(E)水を含有することを特徴とする。
【0011】
まず、(A)固体潤滑剤について説明する。固体潤滑剤を、高温となるホットスタンピング成形の加工界面に介在させることにより、被加工材と金型との直接接触を防ぎ、耐焼き付き性の向上及び離型性の向上に優れた効果を発揮することができる。
【0012】
(A)固体潤滑剤としては、合成雲母、有機ヘクトライト、メラミン−無水シアヌール酸縮重合物(MCA)、リン酸亜鉛、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、及び粉末セルロース等が挙げられる。これらは、市販品をそのまま使用することができる。例えば、合成雲母の市販品として、ミクロマイカMK−100(コープケミカル株式会社)、有機ヘクトライトの市販品として、BENTONE(登録商標)(エレメンティスジャパン株式会社)、チタン酸カリウムの市販品として、TIBREX(登録商標)(JFEミネラル株式会社)、粉末セルロースとして、KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル株式会社)などを挙げることができる。
【0013】
本発明の潤滑離型剤中の(A)成分の含有量は、潤滑離型剤の合計質量を100質量%とした場合、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%である。
【0014】
固体潤滑剤の含有量が1質量%未満である場合、潤滑効果が充分に発揮されない傾向がある。一方、固体潤滑剤の含有量が50質量%を超える場合には、潤滑離型剤の粘度が上がり、均一な潤滑被膜ができず、潤滑性を失う傾向がある。
【0015】
上記固体潤滑剤の平均粒径は1〜20μmであることが好ましい。平均粒径が1〜20μmの固体潤滑剤を用いることで、ホットスタンピング用潤滑離型剤中に良好に分散することができる。これにより、金型に潤滑離型剤を塗布した際に形成される被膜を均一なものにすることができ、良好な離型性を得ることができる。
【0016】
上記固体潤滑剤の平均粒径が1μm未満の場合、粒子径が小さすぎて加工界面での介在物としての役割を発揮できず、良好な潤滑性能が得られない可能性がある。一方、上記固体潤滑剤の平均粒径が20μmを超える場合、粒子径が大きすぎるため分散性が低下し、金型への塗布が困難になるとともに、均一な潤滑被膜の形成も困難になる。
【0017】
次に、(B)水溶性高分子について説明する。水溶性高分子は付着性の向上に優れた効果を示し、潤滑離型剤中の固形成分を金型表面に付着させ強固な潤滑被膜を形成させることができる。
【0018】
(B)水溶性高分子としては、ポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合物、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、イソブチレン−マレイン酸共重合物、及びメチルビニルエーテル−マレイン酸共重合物等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸の市販品としては、アロン(登録商標)(東亜合成株式会社)、アクリル酸−マレイン酸共重合物の市販品としては、アクアリック(登録商標)(株式会社日本触媒)、ポリビニルピロリドンの市販品としては、エポミン(登録商標)(株式会社日本触媒)、カルボキシメチルセルロースの市販品としては、セロゲン(登録商標)(第一工業製薬株式会社)、ヒドロキシエチルセルロースの市販品としては、HEC(住友精化株式会社)、ヒドロキシプロピルセルロースの市販品としては、メトローズ(登録商標)(信越化学工業株式会社)、イソブチレン−マレイン酸共重合体の市販品としては、イソバン(登録商標)(クラレ株式会社)、メチルビニルエーテル−マレイン酸共重合物の市販品としては、ガントレッツ(登録商標)(アイエスピー・ジャパン株式会社)などを挙げることができる。
【0019】
これら水溶性高分子は、アルカリ金属塩、あるいはアミン塩にして水に可溶化し使用することができる。アルカリ金属塩にする場合、水酸化ナトリウムと反応させてナトリウム塩とするか、水酸化カリウムと反応させてカリウム塩とする。アミン塩にする場合、エタノールアミン類と反応させてエタノールアミン塩として使用する。
【0020】
本発明の潤滑離型剤中の(B)成分の含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0021】
上記水溶性高分子の含有量が1質量%未満である場合、金型への付着効果が充分に発揮されない傾向があり、また30質量%を超えると、潤滑離型剤が流動性を失い、均一な潤滑被膜ができなくなるおそれがある。
【0022】
次に、(C)カルボン酸塩について説明する。カルボン酸塩は、形成した潤滑被膜の潤滑性向上に優れた効果を示し、被加工材と金型との間の摩擦を軽減して良好な成形性を発揮させることができる。
【0023】
(C)カルボン酸塩として、カルボン酸のアルカリ金属塩を用いることができる。カルボン酸としては、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、クエン酸、リンゴ酸、イタコン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0024】
本発明の潤滑離型剤中の(C)成分の含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0025】
上記カルボン酸塩の含有量が1質量%未満である場合、十分な潤滑性を発揮できない可能性があり、また30質量%を超えると、形成した潤滑被膜の金型への密着性が低下し、十分な効果が発揮できないおそれがある。
【0026】
(C)カルボン酸塩は、カルボン酸塩の状態のものを原料として用いてもよいし、又は潤滑剤を製造する段階で、カルボン酸(例えば、アジピン酸)とアルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム)とを反応させてカルボン酸塩(例えば、アジピン酸ナトリウム)を形成してもかまわない。
【0027】
本発明においては、潤滑性を付与する上記(A)成分と上記(C)成分、そして付着性を付与する上記(B)成分とを併用することによって、(A)成分、及び(C)成分を金型へ強く付着させることができ、その結果優れた潤滑性を発揮することができる。
【0028】
次に、(D)界面活性剤について説明する。界面活性剤は、(A)成分である固体潤滑剤を分散させるために使用されるものであり、界面活性剤を含有することによりその分散性を向上させることができる。
【0029】
上記(D)界面活性剤としては、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・ブロックポリマー型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル型、及びポリオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル型からなる群から選択される1種類、又は2種類以上の界面活性剤を用いることができる。
【0030】
本発明の離型剤中の(D)成分の含有量は、好ましくは0.3〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0031】
上記界面活性剤の含有量が0.3質量%未満である場合、十分な分散効果が得られない傾向があり、また10質量%を超えると潤滑離型剤の付着性、潤滑性を著しく低下させるおそれがある。
【0032】
また、(E)水として、工業用水、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水等を使用することができる。本発明の離型剤中の(E)成分の含有量は、好ましくは40〜90質量%、より好ましくは50〜85質量%である。
【0033】
本発明の離型剤には、上記成分に加えて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、ホウ酸化合物等の水溶性潤滑物質、防腐剤等の添加剤を添加しても良い。これにより潤滑性及び離型性を向上させることができる場合がある。添加量は特に制限はないが、1〜30質量%が好ましい。
【0034】
本発明における潤滑離型剤の製造方法の一例を示す。まず(E)成分である水にアルカリ金属の水酸化物を添加し、攪拌機にて攪拌することにより完全溶解させる。そこに(B)成分である水溶性高分子を添加し、攪拌することにより完全溶解させる。更に(C)成分であるカルボン酸を添加し、攪拌することにより完全溶解させる。この時、中和反応による発熱があるので、液の突沸を防ぐため、80℃以下に冷却しながら溶解させることが望ましい。これら成分が完全に溶解した後、(D)成分である界面活性剤を添加し、(A)成分である固体潤滑剤を攪拌しながら添加して均一に分散させる。最後にその他成分(ホウ酸ナトリウム、防腐剤など)を添加し攪拌して製品とする。
【0035】
本発明の潤滑離型剤は、原液または原液を更に水で1〜50質量%程度に希釈した状態で使用される。原液または原液を更に水で希釈した液は、エアスプレー等によって金型に直接塗布される。
【0036】
高温(100〜500℃)の金型に塗布された潤滑離型剤は、水が蒸発し金型表面に固形成分による潤滑被膜を形成する。この潤滑被膜は優れた潤滑性を有しているので、被加工材と金型との間の摩擦及び磨耗を軽減することができ、これにより加工が円滑になり、金型から金属部品を容易に離型することができる。また潤滑離型剤を金型に塗布することにより、金型を冷却することができるため、金型の高温軟化による磨耗及び損傷を防いで金型寿命を向上させることができるとともに、オーステナイト温度まで熱した鋼板を急速に焼入れすることができ、これにより鋼板の強度をさらに上げることができる。さらに、本発明のホットスタンピング用潤滑離型剤は、固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であるので、加工時に熱分解ガスが発生しないことに加えて、火災の危険が少なく、設備周りに飛散しても水により容易に洗浄できるため、作業環境を良好な状態に保つことができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1〜5の潤滑離型剤は以下の手順で製造した。水に50質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し攪拌した。そこへイソブチレン−マレイン酸共重合物、アジピン酸を順に添加し攪拌して完全に溶解させた。次に界面活性剤を添加した後、各種固体潤滑剤を添加し攪拌して均一に分散させ、メタホウ酸ナトリウムを添加してサンプルとした。比較例1については、固体潤滑剤の添加を行わないことを除き、実施例と同様の手順で製造した。
【0039】
実施例1〜5及び比較例1の潤滑離型剤を用い、又は潤滑離型剤を用いないで(比較例2)、以下のように熱間平板引抜き試験を行った。
【0040】
寸法が幅長さ20mm、コーナー半径5mmであり、材質がSKD61である金型を用意した。この金型を200℃に加熱した後、金型表面に実施例1〜5又は比較例1のホットスタンピング用水溶性潤滑離型剤をスプレー塗布して潤滑被膜を形成させ、試験機の圧縮装置の上下に取り付けた。一方、寸法が幅20mm×厚さ2mm×長さ2000mmであり、アルミめっきを施した鋼板試験片を、赤外線イメージ加熱炉にて温度720℃で4分間加熱した。一定速度10mm/sで移動させ、試験片の均一温度になった部分が金型を通過するときに一定の圧縮荷重を加えて引抜き試験を行った。また、比較例2については、金型に潤滑離型剤を塗布しないで上記と同様に試験を行った。
【0041】
一定の圧縮荷重を加えたときの、一定の圧縮荷重Pと引抜き荷重Tを測定し、摩擦係数μをμ=T/2Pにより摩擦係数を求めた。摩擦係数が小さいほど潤滑性がよいと評価する。上記試験の結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
※1) ミクロマイカME−100(コープケミカル株式会社)粒子径1〜5μm
※2) ミクロマイカMK−100(コープケミカル株式会社)粒子径1〜5μm
※3) MCA(三菱化学株式会社) 粒子径1〜5μm
※4) TIBREX(登録商標)−AF(川鉄鉱業株式会社) 粒子径約1μm
※5) NPファイバー(登録商標)W−10MG−2(日本製紙ケミカル株式会社) 粒子径約10μm
※6) イソバン(登録商標)−04(株式会社クラレ)
※7) ノニオン(登録商標)LT−221(日油株式会社)
【0044】
実施例1〜5及び比較例2の結果から、潤滑離型剤を使用した実施例1〜5は、潤滑離型剤を使用しない比較例2に比べて摩擦係数が低下しており、潤滑性が高いことがわかる。
【0045】
実施例1〜5及び比較例1の結果から、固体潤滑剤を含有する潤滑離型剤を使用した実施例1〜5は、固体潤滑剤を含有しない潤滑離型剤を使用した比較例1よりも摩擦係数が低く、潤滑性がより向上していることがわかる。これらのことから、固体潤滑剤、水溶性高分子、カルボン酸塩、界面活性剤及び水を含有する潤滑離型剤を用いると、摩擦係数が十分に小さくなり、潤滑性が良好になることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板のホットスタンピング成形に用いられる固体潤滑剤分散型の水ベース潤滑離型剤であって、固体潤滑剤、水溶性高分子、カルボン酸塩、界面活性剤及び水を含有するホットスタンピング用潤滑離型剤。
【請求項2】
前記潤滑離型剤の合計質量を100質量%とした場合、前記固体潤滑剤を1〜50質量%、前記水溶性高分子を1〜30質量%、前記カルボン酸塩を1〜30質量%、前記界面活性剤を0.3〜10質量%、及び前記水を40〜90質量%含有する、請求項1に記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
【請求項3】
前記固体潤滑剤の平均粒径が1〜20μmである、請求項1又は2に記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
【請求項4】
前記固体潤滑剤が、合成雲母、有機ヘクトライト、メラミン−無水シアヌール酸縮重合物(MCA)、リン酸亜鉛、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、及び粉末セルロースからなる群から選択される1種類または2種類以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、ポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合物、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、イソブチレン−マレイン酸共重合物、及びメチルビニルエーテル−マレイン酸共重合物からなる群から選択される1種類または2種類以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
【請求項6】
前記カルボン酸塩が、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、クエン酸、リンゴ酸、イタコン酸、トリメリット酸、安息香酸、アゼライン酸、及びセバシン酸からなる群から選択される1種類または2種類以上のカルボン酸のアルカリ金属塩である、請求項1〜5のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。
【請求項7】
前記界面活性剤が、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・ブロックポリマー型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル型、及びポリオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル型からなる群から選択される1種類または2種類以上の界面活性剤である、請求項1〜6のいずれかに記載のホットスタンピング用潤滑離型剤。

【公開番号】特開2012−255085(P2012−255085A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128848(P2011−128848)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000207399)大同化学工業株式会社 (22)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】