説明

ボタン型アルカリ電池

【課題】耐漏液特性の向上されたボタン型アルカリ電池を提供する。
【解決手段】負極端子を兼ねる負極ケース8と、前記負極ケース8にかしめ固定された正極端子を兼ねる正極ケース1と、前記負極ケース8と前記正極ケース1との間に介在され、前記負極ケース8の周囲を囲むように環状に溝が形成された絶縁ガスケット9と、前記負極ケース8の内面と接し、亜鉛を含む負極作用物質を含有するゲル状負極10とを具備することを特徴とするボタン型アルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタン型アルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛を負極に用いるボタン型アルカリ電池の正極活物質には、用途に応じて二酸化マンガン、酸化銀あるいは空気中の酸素が使用される。ボタン型アルカリ電池の耐漏液特性を向上させるために、負極ケースと絶縁ガスケットとの間にシール剤を介在させ、正極ケースの周縁を内方にかしめることで、負極ケース及び正極ケースの絶縁ガスケットに与える圧迫力により、相方との密着を図り、界面からの電解液の流出を防止することが知られている。また、特許文献1には、絶縁ガスケットの材料として結晶化度が40〜45%のナイロン66を使用することにより、絶縁ガスケットの正極ケース及び負極ケースとの密着性を高めることが開示されている。このように今までは、正極ケースと負極ケースと絶縁ガスケットとをいかに隙間なく密着させるかが考えられてきた。
【0003】
負極ケース、絶縁ガスケット、正極ケースの密着性を高めると、たとえば絶縁ガスケットについた傷等が耐漏液特性に与える影響が大きくなる。また、密着性を高めるためにかしめ固定時に加える力を強くすると、絶縁ガスケットにひずみが生じ、その部位から漏液が発生しやすくなる。これらの問題は、ガスケットの材質やシール剤の成分を変更することによりある程度改善されるが、充分な耐漏液特性を得られるものではない。
【0004】
特許文献2には、U字断面形状のガスケットの底部(1a)内周部に環状突起部(1d)を設けることにより、ボタン型電池の漏液を改善することが開示されている。また、特許文献3は、予めガスケットが取り付けられた内缶を外缶内に挿入し、外缶をかしめることで封口する扁平型電池に関するものであって、ガスケットの内缶外周の折り返し部頂点と隣接する部位に三角柱状の突起を内面に設けることによって、内缶を外缶に正規な位置で取り付けることを開示している。
【特許文献1】特公昭61−55220号
【特許文献2】特開平8−124545号
【特許文献3】特開2002−48241号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐漏液特性の向上されたボタン型アルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るボタン型アルカリ電池は、負極端子を兼ねる負極ケースと、
前記負極ケースにかしめ固定された正極端子を兼ねる正極ケースと、
前記負極ケースと前記正極ケースとの間に介在され、前記負極ケースの周囲を囲むように環状に溝が形成された絶縁ガスケットと、
前記負極ケースの内面と接し、亜鉛を含む負極作用物質を含有するゲル状負極と
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐漏液特性の向上されたボタン型アルカリ電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、正極ケースの内面と負極ケースの表面との間に介在される環状の絶縁ガスケットに、負極ケースの周囲を囲むように環状に溝を形成することにより、ボタン型アルカリ電池の漏液が低減されることを見出したことに基づくものである。その明確な作用機構は明らかでないが、次のように推察される。負極ケースに接するガスケットの内周面に環状溝を設けることによって、封口時に締めつける際にかかる無理な力が分散され、ガスケットに生じるひずみが緩和される。また、溝以外の部分では負極ケースとの密着性が向上し、さらに溝と負極ケースとの間に形成された空間がバッファの役目をすることで内部からの電解液が外部に染み出しを防ぐことができる。
【0009】
本発明の実施形態に係るボタン型アルカリ電池を図1を参照して説明する。
【0010】
図1に示すように、有底円筒形をなす正極ケース1は、例えばステンレス鋼などの金属から形成されており、正極端子を兼ねているものである。正極ケース1は、底部に空気孔2を有する。空気孔2は、未使用時の無駄な放電を防ぐため、正極ケース1の底面に貼られたシールテープ(図示しない)で一時的に塞がれる。正極触媒層に空気を均一に拡散させるための拡散紙3は、正極ケース1の底部内面に配置されている。拡散紙3には、例えば、クラフト紙を使用することができる。拡散紙3の厚さは50〜100μmの範囲にすることが望ましい。酸素透過性を有する撥水膜4は、拡散紙3上に配置されている。この撥水膜4は、アルカリ電解液が正極ケース1の空気孔2から外部に漏れ出すのを防止するためのものである。撥水膜4は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルムのようなフッ素樹脂フィルムから形成することができる。なお、撥水膜4は、1枚に限らず、2枚以上重ねて使用することも可能である。
【0011】
正極触媒層5は、正極ケース1内に撥水膜4と対向するように収納されている。正極触媒層5は、酸素還元触媒を含む。酸素還元触媒としては、例えば、活性炭と、助触媒としてのマンガン酸化物(例えば二酸化マンガン)とを含むものを挙げることができる。正極触媒層5は、例えば、酸素還元触媒と導電性材料と結着剤とを混合し、得られた混合物を正極集電体6に圧着充填することにより得られる。結着剤には、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂を使用することができる。また、導電性材料としては、例えば、膨張化黒鉛のような炭素材料を用いることができる。正極集電体6としては、例えば、ニッケルメッキされたステンレスネットなどの導電性多孔質板を使用することができる。
【0012】
セパレータ7は、正極触媒層5上に配置されている。セパレータ7は、例えば、ポリプロピレンのようなポリオレフィン製の微多孔膜と不織布とから形成されている。
【0013】
負極ケース8は、有底円筒形をなし、負極集電体及び負極端子を兼ねている。負極ケース8は、例えば、ニッケル層と、ステンレス層と、銅層とから構成された三層クラッド材を、内面が銅層となるように絞り加工により有底円筒形に成型することによって得られる。負極ケース8には、三層クラッド材の銅面に錫メッキを施した基材等から形成したものも使用できる。クラッド材のニッケル層は、ニッケル合金層に変更することができる。また、銅層の代わりに銅合金層を使用しても良い。
【0014】
負極ケース8は、正極ケース1の開口部に挿入されている。正極ケース1の開口部上端部分を内方に折り曲げ、負極ケース8に正極ケース1をかしめ固定することにより、電池の封口がなされている。環状の絶縁ガスケット9は、正極ケース1の内周面1aと負極ケース8の外周面8aの間に介在されている。絶縁ガスケット9は、例えば、耐アルカリ性樹脂から形成される。耐アルカリ性樹脂としては、例えば、表面がポリアミドでコーティングされたナイロンや、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0015】
ゲル状の負極10は、負極ケース8とセパレータ7で囲まれた空間内に充填されており、その一部が負極ケース8の内面と接している。ゲル状負極は、負極作用物質及びアルカリ電解液を含むものである。
【0016】
負極作用物質としては、例えば亜鉛などが安価なために望ましいが、こればかりに限らず他の金属も使用できる。またIn,Bi,Ga,Pb,Sn,Cd,Al及びCoよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素を含ませた無汞化亜鉛合金は、水素ガスの発生が抑えられるため、好ましい。
【0017】
アルカリ電解液としては、例えば、水酸化カリウムと酸化亜鉛を含むアルカリ水溶液等を挙げることができる。
【0018】
ゲル状負極には、アルカリ電解液の粘性を増加させてゲル化させる機能を有する増粘剤を添加することができる。このような増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸のような吸水性高分子を挙げることができる。
【0019】
ゲル状負極には、水素ガスの発生を抑制するためのインヒビターを添加することが望ましい。インヒビターには、酸化インジウム、水酸化インジウム、酸化ビスマス等の化合物が、放電休止状態での水素ガス発生を抑えることができるため、望ましい。
【0020】
絶縁ガスケット9を図2を参照して説明する。図2は、電池に組み込まれていない状態の絶縁ガスケットを示している。図2に示すように、絶縁ガスケット9は、円筒形状で、一方の端部(図2では下端部分)が直角に折り曲げられて円環状の底部9aが形成されている。底部9aの端部は、上方に折り曲げられ、負極ケース8の開口端が絶縁ガスケット9の底部9aに固定されるようになっている。円環状の溝11a,11bは、絶縁ガスケット9の内周面9bに、負極ケース8の外周面8aの周囲を囲むように形成されている。溝11aの幅L1と溝11bの幅L2は、その合計ΔLが、絶縁ガスケット9の内周面9bの高さHの1%以上、50%以下となる大きさにすることが望ましい。
【0021】
溝11a,11bの幅L1,L2と絶縁ガスケット9の内周面9bの高さHは、以下に説明する方法で測定される。ボタン型アルカリ電池をその中心を通過するように切断し、得られた断面において、絶縁ガスケット9の任意の1箇所での総高さ及び底部9aの厚さtを工具顕微鏡で測定し、総高さから底部9aの厚さtを除いた値を、絶縁ガスケット9の内周面9bの高さHとする。なお、底部9aの厚さtは、絶縁ガスケット9の底面と底部9aの上面との距離とする。また、同じ断面において、絶縁ガスケット9の溝11a,11bそれぞれについて任意の1箇所の幅(絶縁ガスケット9の総高さと平行な幅)を工具顕微鏡で測定し、溝11a,11bの幅L1,L2を得る。
【0022】
耐漏液特性向上の効果を十分に得るには、合計ΔLを高さHの1%以上にすることが望ましい。但し、合計ΔLを大きくすると、かしめ固定により絶縁ガスケットに加わる力が溝に分散されやすいため、絶縁ガスケットの圧縮強度が低下する傾向がある。よって、十分な耐漏液特性を得るために、合計ΔLを高さHの1%以上、50%以下にすることが望ましい。より好ましい範囲は、5%以上、25%以下である。なお、溝の本数を1本にする場合、この溝の幅を高さHの1%以上、50%以下にすることにより、耐漏液特性を向上することができる。
【0023】
前述した図2では、溝の数を2本にしたが、1本にすることも、あるいは3本以上にすることも可能である。より好ましい範囲は、1本以上、6本以下である。
【0024】
前述した図2では、リバース部を持たない負極ケースを用いる形態を説明したが、負極ケースの開口端が外周面側に折り返されたリバース部を有するものであっても良い。この場合、溝は、リバース部を囲むように形成することが望ましい。
【0025】
[実施例]
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0026】
(実施例1)
ニッケル−ステンレス−銅の3層クラッド材からPR536型空気亜鉛電池用の負極集電体を兼ねた負極ケースを作製した。負極ケースの外周面(開口端付近)を囲む環状の溝を下記表1に示す本数と合計幅ΔLで設けたポリアミド製の絶縁ガスケットを用意した。なお、絶縁ガスケットの内周面の高さHは2.3mmとした。
【0027】
In、Bi及びAlを含む無汞化亜鉛合金粉末、35重量%水酸化カリウム水溶液、ポリアクリル酸を攪拌混合してゲル状亜鉛負極を調製した。
【0028】
活性炭と、二酸化マンガンと、導電性材料として膨張化黒鉛と、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン粉末とを混合し、得られた混合物をニッケルメッキされたステンレス製ネット(正極集電体)に圧着充填することにより、正極集電体の両面に正極触媒層を形成した。
【0029】
上記負極ケース、絶縁ガスケット、ゲル状亜鉛負極及び正極触媒層を用いて、前述した図1に示すようなPR536型空気亜鉛電池を作製した。
【0030】
(実施例2〜15)
溝の本数、溝の幅の合計ΔLを下記表1に示すように設定すること以外は、実施例1と同様にしてPR536型空気亜鉛電池を作製した。
【0031】
(比較例)
溝を設けない絶縁ガスケットを使用した以外は実施例1と同様な方法でPR536型空気亜鉛電池を作製した。
【0032】
以上のように作製した空気亜鉛電池をシールテープを貼り付けた状態で60℃−93%RHで30日間貯蔵し、ガスケットと負極ケースの隙間からの漏液を目視調査した。表1にこれらの試験結果を示す。
【表1】

【0033】
表1から明らかな通りに、負極ケースの外周面を囲むように環状に溝が形成された絶縁ガスケットを用いた実施例1〜15の電池は、溝が設けられていない絶縁ガスケットを用いた比較例の電池に比して、漏液発生率が低いことがわかる。特に、溝幅の合計ΔLが5%以上、25%以下の実施例1〜6,10〜12の電池では、漏液発生が皆無であった。
【0034】
なお、本発明は上記実施例により限定されるものではなく、本発明に直接影響を及ぼさない、亜鉛合金、ゲル化剤、電解液濃度、正極触媒、負極ケース素材等の要素については本発明の範囲を逸脱しない限り、変更して差し支えない。また、実施例、比較例に使用した電池は空気亜鉛電池であるが、負極集電体を兼ねた負極ケースを使用したようなボタン型の電池すべてに該当する技術である。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、電池内部からの電解液の漏れを抑制し、貯蔵中の性能劣化を防止した高性能なボタン型アルカリ電池を提供することができる。
【0036】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係るボタン型アルカリ電池を示す模式的な断面図。
【図2】図1のボタン型アルカリ電池に用いられる絶縁ガスケットの模式的な断面図。
【符号の説明】
【0038】
1…正極ケース、2…空気孔、3…空気拡散紙、4…撥水膜、5…正極触媒層、6…正極集電体、7…セパレータ、8…負極ケース、9…絶縁ガスケット、10…ゲル状亜鉛負極、11a,11b…環状溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極端子を兼ねる負極ケースと、
前記負極ケースにかしめ固定された正極端子を兼ねる正極ケースと、
前記負極ケースと前記正極ケースとの間に介在され、前記負極ケースの周囲を囲むように環状に溝が形成された絶縁ガスケットと、
前記負極ケースの内面と接し、亜鉛を含む負極作用物質を含有するゲル状負極と
を具備することを特徴とするボタン型アルカリ電池。
【請求項2】
前記溝の幅は、前記絶縁ガスケットの内周面の高さの1%以上、50%以下であることを特徴とする請求項1記載のボタン型アルカリ電池。
【請求項3】
前記溝の本数は、1本以上、6本以下であることを特徴とする請求項1または2記載のボタン型アルカリ電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−317531(P2007−317531A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146465(P2006−146465)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】