説明

ポテンシャルの測定方法および測定装置

【課題】 物理現象または化学現象を電荷情報に変換することによって優れた応答性を有し微小な変化の定量化を行うことができると同時に、測定対象あるいは測定目的に対応して広い測定範囲と狭い測定範囲の両方を1つの手段で測定可能な、高い測定精度を有する測定方法あるいは測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 センシング部3に対して電荷供給部1から電荷を供給し、供給された電荷をセンシング部3からフローティングディフュージョン5を介して取出し、供給された電荷量を検出することによって該物理現象または化学現象に係るポテンシャルを測定する方法であって、物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定し、移動する電荷のフローティングディフュージョン5への蓄積回数を設定するとともに、設定された測定範囲を基準に蓄積回数を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理現象または化学現象を定量化する測定方法および装置に関し、例えば、溶液のpH、圧力、磁界、あるいは温度の二次元分布など、様々の物理現象または化学現象を定量化する測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物理現象または化学現象には、濃度、温度、磁気、圧力、加速度、速度、音波、超音波、酸化還元電位、反応速度など様々な現象があるが、これらの現象は、様々な電気信号(電流、電圧、抵抗、電荷容量、電位)に変換することができる。
【0003】
また、例えば、フォトダイオードのように、光を照射すると光量に応じた電子正孔対が生成し、光量を電荷量に変化してその電荷量を評価することにより光量を測定する方法などのように、物理現象または化学現象を電荷情報に変換して測定する方法があった。
【0004】
しかしながら、光以外のその他の物理・化学現象においては、ほとんどの場合、電荷量ではなく、電圧値、電流値、抵抗値などの電気信号に変換し、それらの値を読み取るようにしているため、電荷特有の取扱い方法である蓄積および転送を行うことができず、また複数点の情報を同時に取り込んで高速処理したり、測定結果を画像化するといったことが非常に困難であった。
【0005】
近年、環境あるいは医療の分野を含め各種の分野において、こうした物理現象または化学現象の高速処理化あるいは画像化の要請が高まり、例えば、物理的または化学的な量の大きさに対応して深さを変化するように構成されたポテンシャル井戸に電荷を供給して、前記物理的または化学的な量をこのポテンシャル井戸の大きさに応じた電荷に変換することによって、複数点の情報を同時に取り込み、蓄積、転送などを行い、様々な物理現象または化学現象を容易に画像化できるようにした方法および装置などが提案されている(例えば特許文献1参照)。具体的には、デバイスとして、MOS形の電界効果型トランジスタ(MOS形FET)、イオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET)またはいわゆるケミカルCCDなどを用いた測定方法や装置が該当する。
【0006】
例えば、図10に示すように、半導体基板51の表面に、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部52及び浮遊拡散部53と、入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間の絶縁膜55上に固定された入力ゲート56及び出力ゲート57と、その入/出力ゲート間の絶縁膜上に固定されたイオン感応膜からなるセンシング部59と、浮遊拡散部の他の側部に連なる位置の絶縁膜上に固定されたリセットゲート58と、リセットゲートにおける浮遊拡散部と反対側に形成された基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部54とを備え、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化するポテンシャル井戸の深さと汲み出し回数に応じて浮遊拡散部が蓄積する電荷量を検出するFET型センサを用いて、イオン濃度検出及び塩基配列の検出を行うFETセンサが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−332423号公報
【特許文献2】WO2003/042683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、昨今の物理現象または化学現象の測定には、精緻な測定精度や応答の高速化が求められ、上記の方法や装置に対し、より優れた精度面あるいは応答面の改善の要請が強くなってきた。と同時に、幅広い用途への適用に伴い測定装置に対して、広い測定範囲つまりダイナミックレンジの拡大に対する要請が強くなってきた。つまり、非常に微小な変化を検出する感度の高い測定装置である同時に、広い測定範囲を有する測定装置であることが重要な課題となってきた。なお、ここでいう「物理的または化学的な量の変化に応じて設定された測定範囲」とは、いわゆる測定レンジをいい、例えば、水素イオン濃度(pH)の測定において基準値を0(ゼロ)、最大値を14とする場合にはpH0〜14となり、基準値を7.0、最大値を7.1とする場合にはpH7.0−7.1となる。
【0008】
具体的には、例えば、水素イオン濃度(pH)の測定において、通常の測定装置では、基準値を0(ゼロ)とし最大値を14とするpH0〜14を測定範囲とするが、プロセスにおける反応状態を精密に管理する場合などにおいては、基準値を6.8000とし最大0.0001の変化を測定できる測定装置(例えば、測定範囲pH6.8000±0.0001など)が求められている。従来、こうした測定範囲が全く異なる場合には、異なる測定範囲を有する複数の測定装置によって対応していたが、同一プロセスにおいては、立上りには大きなpHの変化がある一方、安定した状態においてはpHの変化のないように管理する必要があることが多く、同一測定装置にて追跡することの要請は従前からも高く、昨今さらに強い要請となってきている。
【0009】
また、従来の方法にあっては、検出感度の高い測定のために、微小な物理現象または化学現象の変化を比較的大きな電荷の変化として捉えることのできる検出器を構成した場合、大きな物理現象または化学現象の変化が生じると過大な電荷を発生することになり、検出器の出力のサチュレーション(飽和現象)あるいは直線性の悪化を誘引することがあった。逆に、大きな物理現象または化学現象の変化を精度よく検出できる条件に検出器を構成した場合には、微小な物理現象または化学現象の変化に対する検出精度が大きく低下するという不都合を回避することが難しかった。
【0010】
その他、検出感度の向上を図る方法として、「ポテンシャル井戸入口調整型センサにおいても、n回転送を行った場合、時間累積を行わない場合と比較してS/N比は√n倍に上昇し、感度が高くなることは明らかである。従って、センシング部の表面電位の変化に基づくセンシング部直下のポテンシャル井戸の深さの変化が微量であってもそれを確実に検出し、検体の固定体との反応若しくは結合に基づくイオン濃度の変化、又は固定体の触媒反応に基づくイオン濃度の変化を高感度に検出することができる。」(特許文献2参照)とあるように、転送回数を増加させることは知られているが、種々の対象に対して任意に測定範囲を設定することが可能な測定装置、あるいは上記のような広いダイナミックレンジを有するような測定装置の実現は非常に困難であった。
【0011】
そこで、この発明の目的は、物理現象または化学現象を電荷情報に変換することによって優れた応答性を有し微小な変化の定量化を行うことができると同時に、測定対象あるいは測定目的に対応して広い測定範囲と狭い測定範囲の両方を1つの手段で測定可能な、高い測定精度を有する測定方法あるいは測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す測定方法あるいは測定装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
本発明は、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部に対して電荷供給部から電荷を供給し、供給された電荷をセンシング部からフローティングディフュージョンを介して取出し、供給された電荷量を検出することによって該物理現象または化学現象に係るポテンシャルを測定する方法であって、物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定し、移動する電荷のフローティングディフュージョンへの蓄積回数を設定するとともに、設定された測定範囲を基準に蓄積回数を制御することを特徴とする。
【0014】
上記のように、通常測定における広い測定範囲と、微小変化の測定における狭い測定範囲の両方を、測定対象あるいは測定目的に対応して1つの手段で測定できることが要請されている。本発明は、ケミカルCCDなど電荷の蓄積を用いる半導体デバイスの特徴を利用し、物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定する手段および移動する電荷の蓄積回数を設定する手段を有し、測定範囲に応じた蓄積回数を制御することによって、広狭が大きく相違する測定範囲を1つの測定手段によってカバーすることが可能であることを見出した。
【0015】
つまり、感度の低い場合(測定範囲が広い場合や高濃度測定の場合)には1回に転送する電荷の最大量が大きくなることから蓄積回数を少なくし、感度の高い場合(測定範囲が狭い場合や低濃度測定の場合)には1回に転送する電荷の最大量が小さくなることから蓄積回数を多くする。このように蓄積回数の制御を測定範囲に対応させることによって、広狭が大きく相違する測定範囲に適用可能な測定方法を提供することが可能となった。
【0016】
なお、ここでいう「フローティングディフュージョンへの蓄積回数」とは、センシング部から転送された電荷を直接フローティングディフュージョンに蓄積する回数だけではなく、広く、例えばセンシング部とフローティングディフュージョンの中間に設けた電荷蓄積部に蓄積する回数(電荷蓄積部に複数回転送され蓄積された後、該複数回分の蓄積電荷を纏めてフローティングディフュージョンに転送する)をも含む。
【0017】
本発明は、上記ポテンシャルの測定方法であって、前記フローティングディフュージョンへの蓄積回数を、所定回数の転送によってフローティングディフュージョンに蓄積された電荷量に連動して変更可能とすることを特徴とする。
【0018】
物理的または化学的な量の測定においては、例えば、化学反応プロセスにおけるpH測定のように予め測定範囲が推測できることが多い場合と、例えば、未知物質の特定イオン濃度測定のように予め測定範囲の推測が困難な場合がある。前者にあっては、予め測定範囲に応じて蓄積回数あるいは制御する蓄積回数の範囲の設定が可能である。本発明は、後者における対応を提案するもので、所定回数の転送によってフローティングディフュージョンに蓄積された電荷量に連動して蓄積回数を制御することによって、最適の蓄積回数あるいは制御する蓄積回数の範囲の設定が可能となる。
【0019】
ここでいう「所定回数の転送」とは、(1)予め検出感度つまり測定範囲を設定し、電荷の蓄積回数を自動的に設定する場合にあっては、その複数回の転送をいう。試料測定前に予め測定を実施して蓄積された電荷量を測定した結果を基に、その回数が設定され、当該予備的な測定は最終測定結果に反映しない。(2)また、試料条件に最適の検出感度つまり測定範囲を設定し、電荷の蓄積回数を自動的に設定する場合にあっては、その複数回の転送をいう。試料測定時の初頭に行った複数回の測定の結果を基に、その回数が設定され、初頭に行った当該測定も最終測定結果に反映する。
【0020】
また、本発明は、電荷をセンシング部に供給する電荷供給部、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部、該センシング部に供給された電荷を取出すフローティングディフュージョンからなる検出部を有するポテンシャルの測定装置であって、物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定する手段、移動する電荷のフローティングディフュージョンへの蓄積回数を設定する手段、および前記センシング部とフローティングディフュージョンの中間に設けられた障壁部の動作を制御することによって、フローティングディフュージョンへの蓄積回数を変更可能とする制御手段を有することを特徴とする。
【0021】
本発明は、ケミカルCCDなど電荷の蓄積を用いる半導体デバイスの特徴を利用したもので、物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定する手段および移動する電荷の蓄積回数を設定する手段を有し、蓄積回数の制御を測定範囲に対応させることによって、広狭が大きく相違する測定範囲に適用可能な測定装置を提供することが可能となった。このとき、制御の対象となる要素あるいは部位は、極力電荷移動の前段であることが好ましい。本発明においては、センシング部とフローティングディフュージョンの中間に設けられた障壁部とリセットゲートの動作を制御することによって、適正な蓄積回数の設定を迅速に行うことが可能となり、好適な制御の効果を得ることができる。例えば、フローティングディフュージョンに蓄積された電荷量を基にフィードバック制御を行う場合などに優位である。
【0022】
本発明は、電荷をセンシング部に供給する電荷供給部、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部、該センシング部から転送された電荷を蓄積するセンシング電荷蓄積部、該センシング電荷蓄積部に供給された電荷を取出すフローティングディフュージョン、からなる検出部を有するポテンシャルの測定装置であって、物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定する手段、移動する電荷のフローティングディフュージョンへの蓄積回数を設定する手段、および前記センシング電荷蓄積部とフローティングディフュージョンの中間に設けられた閾部の動作によって、フローティングディフュージョンへの蓄積回数を変更可能とする制御手段を有することを特徴とする。
【0023】
上記のように、本発明は、測定範囲を設定する手段および移動する電荷の蓄積回数を設定する手段を有し、蓄積回数の制御を測定範囲に対応させることによって、広狭が大きく相違する測定範囲に適用可能な測定装置を提供することが可能となった。このとき、センシング部の電位の変化が微小な場合、隣接する部位の電位が大きく変化するとセンシング部の測定電位に影響を及ぼすことがあり、センシング部とフローティングディフュージョンの中間に設けられたセンシング電荷蓄積部を設けるとともに、そのセンシング電荷蓄積部とフローティングディフュージョンの中間に設けられた閾部の動作を制御することによって、適正な蓄積回数の設定を迅速に行うことができ好適な制御の効果を得るとともに、微小変化の測定をさらに精度よく行うことが可能となった。
【0024】
本発明は、同一の構造の前記電荷供給部、リセットゲート、およびセンシング電荷蓄積部を含む場合には当該センシング電荷蓄積部、からなる検出器を有する少なくとも一対の検出系を有するポテンシャルの測定装置であって、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部を有する前記機能を有する検出系Aと、物理的または化学的な量の変化に感応しないセンシング部を有しセンシング部以外の機能を同じくする検出系Bからなる一対の検出系を構成するとともに、検出系Aにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数と、検出系Bにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数を連動して変更することを特徴とする。
【0025】
物理現象または化学現象を電荷情報に変換する場合において、高い測定精度を得るには検出系における測定成分に関する電荷量以外の成分を少なくすることが有効であると同時に、検出系に影響を及ぼす外部要素(外乱)の低減が必要となる。本発明においては、検出系をデュアルタイプにし、一方の検出系Aにおいて測定に感応する電位を検出し、他方の検出系Bにおける測定に感応しない電位を検出し、両者の電位差を得ることによって、真に検出すべき電位を検出することができる。さらに、検出系Aにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数と、検出系Bにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数を連動することによって、蓄積回数の増加に伴う両者の電位差の拡大を防止することができる。つまり、検出系の内部において差分機能を有することによって、補償時における外乱などの影響を防止し、測定精度の高い検出系を構成することができる。
【0026】
本発明は、上記ポテンシャルの測定装置であって、前記センシング電荷蓄積部とフローティングディフュージョンの中間に電荷転送手段が配設された測定装置であって、前記電荷転送手段が電荷結合素子であり、複数のセンシング電荷蓄積部の電荷を1つのフローティングディフュージョンに転送することを特徴とする。
【0027】
物理現象または化学現象を検出する半導体デバイスにおいては、センシング部からフローティングディフュージョンへの電荷の移動が迅速である程、検出系の応答速度が速い。また、一般に、半導体デバイスにおける電荷転送手段には種々の方法があるが、電荷結合素子(CCD)はS/N比の高さ、転送速度、転送効率および操作性の点で優れた特性を有している。本発明は、こうした特性を活かし、センシング部からフローティングディフュージョンの中間に電荷転送部を設けることによって応答速度の向上を図るとともに、1つのフローティングディフュージョンに対し電荷転送部を介して複数のセンシング部(より具体的にはセンシング電荷蓄積部)からの電荷を順次移動させるCCD機能を有することによって、物理的または化学的な現象の一次元分布または二次元分布を容易に画像化することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明の物理現象または化学現象の測定方法あるいは測定装置によれば、対象となる物理現象または化学現象に伴う電荷あるいはそれによって生じる出力の増幅を可能としつつ、優れた応答性を有し微小な変化の定量化を行うことができると同時に、測定対象あるいは測定目的に対応して広い測定範囲と狭い測定範囲の両方を1つの手段で測定可能な、高い測定精度を確保することができる。
【0029】
特に、検出系をデュアルタイプにし、フローティングディフュージョンへの蓄積回数を連動することによって、フローティングディフュージョンへ転送する電荷量を、真に物理現象または化学現象に対応した電荷情報に変換することによって、さらなる高精度化および迅速化を図ることができる。また、CCDなどを用いることにより物理的または化学的な現象の二次元分布を容易に画像化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
<ポテンシャルの測定装置の基本的な構成>
図1は、この発明に係る物理現象または化学現象の測定装置の基本的な構成(第1構成例)を例示する。
【0032】
図1において、Bは例えばp型Si(シリコン)よりなる半導体基板で、厚さ500μm程度である。半導体基板Bは例えばシリコン酸化膜の絶縁膜Pを有し、それを挟むようにして、電荷供給部1、電荷供給調節部2、センシング部3、障壁部4、フローティングディフュージョン5、リセットゲート6、リセットドレイン7からなる検出系が形成される。そして、半導体基板Bは、樹脂モールドなどを施すことにより溶液試料などに対して耐性をもたせている。フローティングディフュージョン5には例えば出力トランジスタ(図示せず)が形成され、その出力が、制御手段(制御部)8に導入される。
【0033】
検出系の具体的な形成は、例えば、次のようにして行われる。
(1)p型Si基板Bを熱酸化し、酸化膜(SiO2 )を形成する。
(2)その一部分をエッチングし、その部分を選択的に酸化する。その後、その選択的に酸化された部分のSiO2をエッチングし、さらに熱酸化することによりゲート酸化膜Pを形成する。このゲート酸化膜の膜厚は約500Åである。
(3)その上面の電荷供給調節部2や障壁部4にそれぞれ対応する部分にリンドープされた低抵抗のポリシリコンを堆積させて電極を形成する。この電極の膜厚は約3000Åで、堆積させた後、約1000Å程度熱酸化する。
(4)その後、再びリンドープされた低抵抗のポリシリコンを堆積し、センシング電荷蓄積部9の上面に電極を形成する。この電極の膜厚は前記電極のそれと同程度に堆積させた後、約1000Å程度熱酸化する。このように酸化することにより、電極同士の絶縁が保たれる。
(5)その後、Si(TaまたはAlでもよい)を700Å程度堆積してセンシング部3を形成する。
【0034】
測定に際しては、電荷供給部1、障壁部4、リセットゲート6にパルス電圧を印加し、他の部位に直流電圧を印加し、p型半導体を用いたMOS構造において、正の電圧を加えることによって、半導体−絶縁膜界面近傍での電位状態を形成することができる。電荷供給部1、障壁部4、リセットゲート6へのパルス電圧の印加の回数あるいは印加のタイミングは、制御部8によって制御される。
【0035】
センシング部3は、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化する測定部位であり、例えばpH測定の場合には、水溶液や測定対象物などを導入するセルが設けられた電極部を形成し、試料中のpHに対応する電位を発生する。こうした電位あるいは電位の変化を電荷に変換し、検出部における電荷の変化を、MOS構造の出力トランジスタによって出力変換される。
【0036】
ここで、電荷供給部1は、1のセンシング部3に対し1つに限定されるものではなく複数配設されていることが可能である。上述のように、測定対象あるいは用途によって、センシング部3の数量、形状あるいは配置関係が一義的に決定されることがあり、センシング部3全体への電荷の供給を迅速に行う必要がある場合において、センシング部3への電荷供給の負荷を複数の電荷供給部1に分散することが好ましい。
【0037】
また、フローティングディフュージョン5は、センシング部3の電荷が転送されることから、センシング部3との接触部分を基に大きさが設定される。形状は問わないが、その面積を小さくするために、図1のように台形形状などを形成することも可能である。
【0038】
上記のような測定装置における測定方法について、(1)基本的な測定方法、(2)具体的な測定方法としてpHを測定する方法、の順に説明する。
【0039】
(1)基本の測定方法
基本的な測定方法を、図2に示す電位図を参照しながら説明する。
(1−1)初期電位状態
当初は、電荷供給部1の電位は高く(矢印方向が高い)設定されており、センシング部3には電荷は供給されていない。
(1−2)電荷の供給
電荷供給部1の電位を下げることによって、センシング部3に電荷を供給する。
(1−3)電荷の蓄積
電荷供給部1の電位を上げることによって、供給された電荷の一部がオーバーフローし電荷供給調節部2によって制限された量の電荷がセンシング部3に蓄積される。
(1−4)電荷の転送
障壁部4の電位を上げることによって、センシング部3に蓄積された電荷をフローティングディフュージョン5に転送し、障壁部4の電位を下げる。
(1−5)蓄積のサイクル
フローティングディフュージョン5に所定量の電荷が蓄積するまで、上記(1−2)〜(1−4)を繰り返す。こうした繰り返しが本構成例における「蓄積回数」であり、この検出系における実質的な増幅度となり、検出感度が決定される。増幅度の正確な表記は後述する。
(1−6)電荷の測定
この段階で、フローティングディフュージョン5の電位は転送されてきた電荷の量で決まるので、この電位をMOS構造の出力トランジスタなどによって測定する。
(1−7)リセット
フローティングディフュージョン5の電位を読み取った後、リセットゲート6をオンにしてリセットドレイン7から電荷を供出し、フローティングディフュージョン5の電位をリセットドレイン7の電位にリセットする。
(1−8)検出サイクル
上記のリセットにより、再び(1−1)と同じ状態に戻ることになる。つまり、検出サイクルとは、このように、(1−1)〜(1−7)の動作を繰り返すことをいい、これによって、センシング部3での電位の状態に対応した電荷量を順次出力することができる。
【0040】
以上のように、この測定装置においては、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位を変化するように構成されたセンシング部3を半導体基板Bに形成し、このセンシング部3に電荷を供給して、前記物理的または化学的な量をこのセンシング部の大きさに応じた電荷に変換するようにした電荷変換機構を用いている。
【0041】
上記測定における増幅度Aは、正確には下式1で表わすことができる。
[式1]

【0042】
ここで、Q[C] :1回にフローティングディフュージョンに転送される電荷量
n[回] :蓄積回数
FD[F] :フローティングディフュージョンの電荷容量
ΔVs :センシング部の電位変化 。
【0043】
蓄積回数は、検出感度を調整するとともに、予め設定された測定範囲あるいはフローティングディフュージョンに蓄積された電荷に対応して設定される。なお、センシング部3における同一の電位状態での検出を繰り返すことによって、外乱等のノイズの平均化を図ることができ、実質的にランダムノイズを削減することができる。
【0044】
(2)具体的な測定方法
上記の基本的な測定方法に基づき実際の測定例として、pH0〜14を測定する場合およびpH6.8000±0.0001を測定する場合の特徴を説明する。
【0045】
(2−1)pHの測定方法
一般に、pH測定においては、pHの標準溶液(通常pH1.68,4.01,6.86,7.413を用いる。)をセンシング部3に接液し、溶液に浸漬する比較電極によってセンシング部3の基準電位を設定した後、測定操作を行う。このとき、pHの変化による表面電位変化は、Nernstの式より59.16mV/pH(25℃)であることが知られている。従って、例えばpH0〜14を測定する場合には電位の変化は約840mVとなり、センシング部3におけるダイナミックレンジとして約840mVの電位の変化を捉えることが必要となる。一方、pH6.8000±0.0001を測定する場合つまり0.0001pHの分解能を得る場合には、5.9μVの分解能が必要となる。
【0046】
そこで、例えば上記と同等の特性を示す物理化学現象測定センサとして、蓄積回数1回につき検出感度が8倍増幅できると仮定した場合の代表的な特性を図3(A)に示す。溶液pHの変更に代えて模擬的に比較電極の印加電圧を変更し、そのときのセンサ出力を表したもので、比較電極への印加電圧1Vの変化あたり約6.8Vの出力電圧の変化が得られている。ダイナミックレンジは、飽和出力電圧が約6.8Vで感度が8倍なので、6.8V(出力)/8倍(感度)=850mV(入力)となる。
【0047】
ここで、上記Nernstの式から導かれるpH0〜14を測定する場合のセンシング部3におけるダイナミックレンジが約800mVとして、次に、このセンサを用い高感度で測定するために蓄積回数を増加させる。例えば10回蓄積にすると、比較電極への印加電圧100mVあたり8Vの変化が得られ、10μVの変化が0.8mVの変化として捉えることができる。つまり、蓄積回数を10回以上とすることで、0.0001pHの分解能を最大感度で得るためのダイナミックレンジとなる。このように測定精度に応じたダイナミックレンジに、蓄積回数を変えることによって設定することができる。このときの蓄積回数10回の場合のセンサの特性と蓄積回数1回の場合のセンサの特性との相違を図3(B)に示す。
【0048】
(2−2)pH0〜14を測定する場合
図4(A)に示すように、測定範囲がpH0〜14の場合、センシング部3の電位は約840mV変化する。従って、最大840mVに対応する電荷がセンシング部3に注入されるとともに、障壁部4を介してフローティングディフュージョン5に転送される。
【0049】
このとき、電荷供給調節部2の電位はpH0の電位に設定する必要があるが、実際にはセンシング部3の特性のばらつきを考慮して低めに設定することが好ましい。pH0ではセンシング部3に注入される電荷はほとんどゼロに近く、pHの上昇によって電位が高くなる分の電荷が注入され、pH14のときに最も電荷注入量が多くなる。従って、フローティングディフュージョン5はこの最大量を許容しうる電荷容量を必要とし、貯蓄回数は1回で十分な電荷量となる。
【0050】
また、移動する電荷量は大きくセンシング3からの転送時にあるいはフローティングディフュージョン5からリセットドレイン7への転送時の残留分がなくなるまでに所定の移動時間が必要となることから、1回の測定に要する転送速度は所定の値となる。
【0051】
さらに、実際のpH測定においては、pHの標準溶液(通常pH1.68,4.01,6.86,7.413を用いる。)をセンシング部3に接液し、溶液に浸漬する比較電極によって、センシング部3の基準電位を設定するとともに、このときの各液の電位を基にセンサとしての校正を行い、センサのバラツキを補正することができる。
【0052】
(2−3)pH6.8000±0.0001を測定する場合
測定範囲がpHpH6.8000±0.0001の場合、センシング部3の電位は±約5.9μV変化する。このとき、電荷供給調節部2の電位の設定は、測定範囲によって変更することが好ましい。つまり、測定範囲がpH0〜14の場合と同様に電荷供給調節部2の電位をpH0の電位に設定すると、センシング部3の電位の変化量である約400mVに対応する電荷が転送されることになり、その中の5.9μV変化に相当する電荷を検出することは実質的に不可能である。従って、図4(B)に示すように、電荷供給調節部2の電位をpH6.8の電位の近傍に設定(実際には上記同様低めに設定することが好ましい。)することによって、実際の測定範囲のpHの変化幅に近い電荷が注入される。このように、電荷供給調節部2の電位を調整することによって、いわゆるオフセットとなる電荷量を低減することができるとともに、測定範囲に対応した電荷の転送速度を確保することができる。例えば、化学反応プロセスにおけるpH測定を例にとると、プロセスの始動時には強酸域にあり反応の進行に伴い徐々に中性域を経由して弱アルカリ域に到達する場合がある。こうした変化を追跡する場合には、本発明におけるダイナミックレンジの広狭の使い分けとともに、反応の進行にあわせて電荷供給調節部2の電位を調整することによって、従来にない精度の高いプロセス制御を行うことが可能となる。
【0053】
ただし、pH±0.0001を検出する場合、転送される電荷量は微小であり、十分な検出感度を確保することが難しい。つまり、1回の蓄積量では、5.9μVの変化に対応する電荷がセンシング部3に注入されるとともに、障壁部4を介してフローティングディフュージョン5に転送されるだけである。従って、上述のように、蓄積回数を10回以上とすることで、0.0001pHの分解能を得るために必要なダイナミックレンジの分解能が得られることになる。例えば、約6μVの変化が0.5mVの変化として捉えることができる。
【0054】
また、1回の蓄積に要する移動時間は非常に短いが、蓄積回数が多いことからトータルの転送速度は同様に所定の値となる。
【0055】
なお、蓄積回数は、例えば、化学反応プロセスにおけるpH測定のように予め測定範囲が推測できることが多い場合には、その測定範囲に応じて蓄積回数あるいは制御する蓄積回数の範囲を制御部8に設定しておくことによって自動的に制御することが可能である。制御部8には、測定範囲を設定する手段および蓄積回数を設定する手段を内蔵することも可能であり、また、パソコン等に各機能あるいはプログラムを内蔵することもできる。
【0056】
また、例えば、未知物質の特定イオン濃度測定のように予め測定範囲の推測が困難な場合にあっては、所定回数(1回〜数回程度)の転送によってフローティングディフュージョン5に蓄積された電荷量を検出した信号を制御部8に入力し、予め設定された電荷量−蓄積回数の関連表あるいは関数に基づいて蓄積回数を制御することによって、最適の蓄積回数あるいは制御する蓄積回数の範囲の設定が可能となる。このとき、測定開始時点では蓄積回数を設定せずに、随時フローティングディフュージョン5に蓄積された電荷量を検出した信号をフィードバック制御し蓄積回数を任意に設定することによって、未知の試料に対する測定においても精度よく検出することが可能となる。
【0057】
<ポテンシャルの測定装置の他の構成例(第2構成例)>
図5は、この発明に係る物理現象または化学現象の測定装置の他の構成例(第2構成例)を示す。
【0058】
半導体基板Bおよび半導体基板Bの形成は、第1構成例と同様であり、図5に示すように、電荷供給部1、電荷供給調節部2、センシング部3、障壁部4、センシング電荷蓄積部9、堰部10、フローティングディフュージョン5、リセットゲート6およびリセットドレイン7が形成される。
【0059】
測定に際しては、電荷供給部1、障壁部4、堰部10、リセットゲート6にパルス電圧を印加し、他の部位に直流電圧を印加し、p型半導体を用いたMOS構造において、正の電圧を加えることによって、半導体−絶縁膜界面近傍での電位状態を形成する。電荷供給部1、障壁部4、堰部10、リセットゲート6へのパルス電圧の印加の回数あるいは印加のタイミングは、制御部8によって制御される。
【0060】
センシング電荷蓄積部9は、センシング部3の形状あるいはセンシング部3とセンシング電荷蓄積部9との電荷容量比などによって設定されるが、図5では、センシング部との接触部分を大きくするとともに、センシング電荷蓄積部9の面積を小さくするために台形形状を形成している。
【0061】
上記のような測定装置における測定方法について、図6に示す電位図を参照しながら説明する。
(1)初期電位状態
当初は、電荷供給部1の電位は高く設定されており、センシング部3には電荷は供給されていない。
(2)電荷の供給
電荷供給部1の電位を下げることによって、センシング部3に電荷を供給する。
(3)電荷の蓄積
電荷供給部1の電位を上げることによって、供給された電荷の一部がオーバーフローし電荷供給調節部2によって制限された量の電荷がセンシング部3に蓄積される。
(4)電荷の転送1
障壁部4の電位を上げることによって、センシング部3に蓄積された電荷をセンシング電荷蓄積部9に転送する。
(5)電荷の転送2
障壁部4の電位を下げ、堰部10の電位を上げることによって、センシング電荷蓄積部9に蓄積された電荷の一部をフローティングディフュージョン5に転送する。
ただし、堰部10の電位を一定にしておき、所定回数の蓄積を繰り返した後、堰部10の電位を上げることによって、センシング電荷蓄積部9に蓄積された電荷をフローティングディフュージョン5に転送することも可能である。
(6)蓄積のサイクル
フローティングディフュージョン5に所定量の電荷が蓄積するまで、上記(2)〜(5)を繰り返す。こうした繰り返しによって、外乱等のノイズの平均化を図ることができ、いわゆるランダムノイズについては実質的に削減することができる。また、この繰り返しの回数が、この検出系における実質的な増幅度となる。
(7)電荷の測定
フローティングディフュージョン5に所定量の電荷が蓄積したときあるいは(6)蓄積のサイクルが予め設定した回数となったとき、堰部10の電位を下げて閉じ、電荷の流入を止める。この段階で、フローティングディフュージョン5の電位は転送されてきた電荷の量で決まるので、この電位をMOS構造の出力トランジスタ等により測定する。
(8)リセット
フローティングディフュージョン5の電位を読み取った後、リセットゲート6をオンにしてリセットドレイン7から電荷を供出し、フローティングディフュージョン5の電位をリセットドレイン7の電位にリセットする。
(9)検出サイクル
上記のリセットにより、再び(1)と同じ状態に戻ることになる。つまり、検出サイクルとは、このように、(1)〜(8)の動作を繰り返すことをいい、これによって、センシング部3での電位の状態に対応した電荷量を順次出力することができる。
【0062】
以上のように、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位を変化するように構成されたセンシング部3に電荷を供給して、前記物理的または化学的な量をこのセンシング部の大きさに応じた電荷に変換するようにした電荷変換機構を用いている。このとき、センシング電荷蓄積部9を設けることによって、センシング部の測定電位に及ぼす影響を軽減することによって、微小変化の測定をさらに精度よく行うことが可能となった。
【0063】
また、本発明においては、センシング部3の電荷容量がフローティングディフュージョン5の電荷容量を超える大きさを有することが好ましい。例えば、上記の検出サイクルを繰り返し、フローティングディフュージョン5にある程度の電荷量が蓄積されてから電荷を測定するようにすることで、検出感度を上げることが可能であるが、その蓄積時間分だけ応答時間が遅くなる。センシング部3の電荷容量を大きくし蓄積される電荷を多くすることで、小電荷容量のフローティングディフュージョン5に転送された時のフローティングディフュージョン5での電位の変化率を上昇させることができることから、その変化率を検出することで、正確かつ感度の高い測定が可能となる。つまり、センシング部3と電荷転送手段であるフローティングディフュージョン5の間に電荷容量差を設けることによって、センシング部3のおける電位の変化の実質的に増幅機能を有することとなる。
【0064】
具体的にセンシング部3の電荷容量を大きくするには、(1)平面上での面積を大きくする、(2)センシング部3を複数にする、(3)電位を高くする、(4)電荷密度を上げる、などの手段があり、物理的または化学的な現象の対象となる試料の性状や濃度などによって選択することが可能である。
【0065】
<デュアル式の物理現象または化学現象の測定装置の基本的な構成>
次に、上記物理現象または化学現象の基本的な測定装置を応用した、デュアル式の測定装置について、説明する。デュアル式の物理現象または化学現象の測定装置の基本的な構成を(第3構成例)を、図8に例示する。
【0066】
基本的には、上記構成例の検出部を有する2つの並列する検出系を構成し、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部を有する前記機能を有する検出系Aと、物理的または化学的な量の変化に感応しないセンシング部を有しセンシング部以外の機能を同じくする検出系Bからなる一対の検出系を構成するとともに、検出系Aにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数と、検出系Bにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数を連動して変更することができる点に特徴を有している。1つの電荷供給部1および電荷供給調節部2を共用する2つの検出系からなり、一方の検出系Aは、物理現象または化学現象に対応して電位が変化するセンシング部3a、障壁部4a、フローティングディフュージョン5a、リセットゲート6a、およびリセットドレイン7aから構成される。他方の検出系Bは、物理現象または化学現象に感応しないセンシング部3b、障壁部4b、フローティングディフュージョン5b、リセットゲート6b、およびリセットドレイン7bから構成される。
【0067】
電荷供給部1、障壁部4aおよび4b、リセットゲート6aおよび6bへのパルス電圧の印加の回数あるいは印加のタイミングは、制御部8によって制御される。本構成例においては、さらに測定範囲に対応し設定された蓄積回数に即して、検出系Aと検出系Bとを連動して蓄積のサイクルが作動するように制御される。ここでいう連動とは、基本的には障壁部4aおよび4b、リセットゲート6aおよび6bへの電圧印加を同時に行うことをいうが、ダイナミックレンジが大きい場合などにおいて検出系での転送電荷が小さい方が好ましい場合には、検出系AとBの転送速度を変えること、あるいは電荷の転送を交互に行うことによって、センサ全体の安定性を向上させることが可能である。
【0068】
このとき、センシング部3aと3bは、基本的には同様の構造を形成し物理現象または化学現象に対して異なる感応特性を有する膜あるいは部位を設けることが好ましい。オフセット電荷や外乱成分に対して同様の変化を生じることによって、検出系Bの補償機能を高めることができるためである。
【0069】
測定に際して、検出系Aの電荷信号は「検出信号+オフセット信号+外乱信号」に相当し検出系Bの電荷信号は「オフセット信号+外乱信号」に相当する。従って、両者の差を求めることで、検出系Bの補償機能を有効に生かして、真に必要とされる検出信号のみを精度よく取り出すことができる。
【0070】
<ケミカルCCD系の構成例(第4構成例)>
さらに、1つのフローティングディフュージョンに対し電荷転送部を介して複数のセンサ部からの電荷を順次移動させるCCD機能を有することによって、物理的または化学的な現象の一次元分布または二次元分布を容易に画像化することができる。本発明においては、複数のセンサ部における各電荷供給部や障壁部などの動作を制御するだけではなく、電荷転送部を制御することによって、各センサ部における検出信号に対応した蓄積回数の設定を行うことも可能となる。特に、二次元分布の測定において局部的に高い精度を必要とする場合など、センサ毎の蓄積回数の設定を行うことによって、物理的または化学的な現象の重み付けされた二次元情報を得ることが可能となる。
【0071】
具体的には、図8に例示するような第4構成例が可能である。つまり、複数のセンサ部12(a,a)、12(a,b)、・・・と、各センサ部において変換された電荷を矢印方向に転送する電荷転送部13と、転送されてきた電荷をさらに転送する1つのフローティングディフュージョン5と、転送されてきた電荷を出力信号に変換する出力トランジスタ11とからなる。
【0072】
センサ部12(a,a)、12(a,b)、・・・を一次元的あるいは二次元的に配置してアレイ化することにより、複数点の情報を同時に取り込み、電荷転送部13および出力トランジスタ11によって、複数点の信号を秩序よく処理することができる。出力された信号は、そのままCRTなどの画像出力装置(図示せず)に入力して画像出力したり、出力信号をAD変換してコンピュータに入力することができる。
【0073】
つまり、各センサ部12(a,a)、12(a,b)、・・・と電荷転送部13との接合部におけるゲートを順次開として蓄積された電荷を供出し、CCD駆動電位を順にON−OFFすることによって電荷転送部13の転送路を経由して転送される。このとき、電荷転送部13におけるCCDの駆動は、一相駆動、二相駆動あるいは四相駆動など、転送される電荷量に応じて適宜選定することができる。なお、センサ部12の数が多くなるに伴って転送効率が大きな問題となるが、その場合は、転送経路として転送効率の高いバルクチャンネルを用いるのが好ましい。転送されてきた電位は、フローティングディフュージョン5に転送され、このフローティングディフュージョン5の電位を変化させる。この電位の変化を、出力トランジスタ11のゲートに入力し、検出出力とする。
【0074】
CCDは、S/N比の高さ、転送速度、転送効率および操作性の点で優れた特性を有しており、複数の電極を作動させる場合において非常に有用である。つまり、CCDを構成する複数の電極が、上記のセンシング電荷蓄積部9あるいは障壁部4や堰部10の機能を果たすことが可能であり、転送の迅速化が可能である点においても優位である。さらに、各電極に印加する電圧に差を設ける必要がないことからセンシング部3とフローティングディフュージョン5間の電位差を制限したり、電極数を制限する必要がない点においても有用である。また、CCDは、センシング部3に蓄積された電荷量に応じて、電荷転送時に、同時に稼動させる電極数を変更することによって、最適条件で電荷を転送することが可能である。つまり、転送する電荷量が多い場合には複数の電極を稼動することによって、電荷の未転送をなくすことができる。さらに、転送する電荷量が少ない場合には1つの電極を稼動することによって、電極部における残留電荷をなくし、測定誤差要因をなくすことができる。
【0075】
上記では、各請求項に係る発明によって形成される機能を、一部組合せた構成例を挙げて説明したが、むろん、本発明はこれに限定されるものではなく、他の組合せ、あるいは本願に記載の事項との任意の組合せが可能であることはいうまでもない。
<本発明に係る測定装置の応用>
本発明に係る測定方法あるいは測定装置は、実際に図9に例示するような計測装置あるいは評価装置として利用することができる。上記のようなセンサデバイス14を測定手段とする計測装置からの出力を、例えば反応評価を行う評価装置15としてパソコン16に入力し、演算処理することによってデータおよび画像としてソフト画面17に表示することによって、試料の物理現象あるいは化学現象を定量的に把握することができる。また、センサデバイス14としてCCDを利用した場合には、ソフト画面17に表示された二次元画像によって、物理現象あるいは化学現象の二次元的な追跡が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上、この発明は、広く溶液などサンプルのイオン濃度の二次元分布測定に好適に用いることができるほか、以下のような分野にも適用することができる。
(1)化学顕微鏡としての応用分野・化学;イオン濃度計測・電気化学的分野、ガス分布計測分野・滴定の二次元的動的観察および解析
(2)環境計測・環境;バイオリメディエーションへの適用
(3)食品検査・食品、微生物
(4)ME分野・医学・生態組織;組織細胞の表面イオン濃度計測、細胞表面電位計測、DNA計測
(5)バイオ分野
(6)動植物分野・植物;カルスの表面電位分布計測・生物・正面図動物
(7)腐蝕計測分野・金属;金属腐蝕と塗装・コーティング
(8)ゼータ電位等表面解析・粉体、セラミックスのゼータ電位。
【0077】
また、測定対象(サンプル)は、気体、液体、固体、粉体のいずれであってもよく、センサ部の特定感応層により選択的に反応する化学センシングと、物理的接触による界面現象に電荷変動をするあらゆる現象に適用でき、例えば液の流れや一瞬の化学反応の過渡現象の分布を高感度、高画質の化学画像として得ることができる。さらに、滴定現象のリアルタイム画像化から画像ソフトによる他の種類の解析、表示にも有用であり、携帯化カメラにも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る検出部の基本的な構造(第1構成例)を示す説明図。
【図2】本発明の第1構成例に係る1の電位の変化を例示する説明図。
【図3】本発明の第1構成例に係る出力特性を例示する説明図。
【図4】本発明の第1構成例に係る他の電位の変化を例示する説明図。
【図5】本発明に係る第2の構成例を示す説明図。
【図6】第2構成例の測定方法に係る1つの電位の変化を例示する説明図。
【図7】本発明に係る第3の構成例を示す説明図。
【図8】本発明に係る第4の構成例を示す説明図。
【図9】本発明に係る測定装置の概要を例示する説明図。
【図10】従来技術に係る構成例を示す説明図。
【符号の説明】
【0079】
1 電荷供給部
2 電荷供給調整部
3、3a、3b センシング部
4、4a、4b 障壁部
5、5a、5b、フローティングディフュージョン
6、6a、6b リセットゲート
7、7a、7b リセットドレイン
8 制御手段(制御部)
9 センシング電荷蓄積部
10 堰部
13 電荷転送部
B 半導体基板
P 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部に対して電荷供給部から電荷を供給し、供給された電荷をセンシング部からフローティングディフュージョンを介して取出し、供給された電荷量を検出することによって該物理現象または化学現象に係るポテンシャルを測定する方法であって、
物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定し、移動する電荷のフローティングディフュージョンへの蓄積回数を設定するとともに、設定された測定範囲を基準に蓄積回数を制御することを特徴とするポテンシャルの測定方法。
【請求項2】
前記フローティングディフュージョンへの蓄積回数を、所定回数の転送によってフローティングディフュージョンに蓄積された電荷量に連動して変更可能とすることを特徴とする請求項1記載のポテンシャルの測定方法。
【請求項3】
電荷をセンシング部に供給する電荷供給部、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部、該センシング部に供給された電荷を取出すフローティングディフュージョンからなる検出部を有する測定装置であって、
物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定する手段、移動する電荷のフローティングディフュージョンへの蓄積回数を設定する手段、および前記センシング部とフローティングディフュージョンの中間に設けられた障壁部の動作を制御することによって、フローティングディフュージョンへの蓄積回数を変更可能とする制御手段を有することを特徴とするポテンシャルの測定装置。
【請求項4】
電荷をセンシング部に供給する電荷供給部、物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部、該センシング部から転送された電荷を蓄積するセンシング電荷蓄積部、該センシング電荷蓄積部に供給された電荷を取出すフローティングディフュージョン、からなる検出部を有する測定装置であって、
物理的または化学的な量の変化の大きさに応じて測定範囲を設定する手段、移動する電荷のフローティングディフュージョンへの蓄積回数を設定する手段、および前記センシング電荷蓄積部とフローティングディフュージョンの中間に設けられた閾部の動作によって、フローティングディフュージョンへの蓄積回数を変更可能とする制御手段を有することを特徴とするポテンシャルの測定装置。
【請求項5】
同一の構造の前記電荷供給部、リセットゲート、およびセンシング電荷蓄積部を含む場合には当該センシング電荷蓄積部、からなる検出器を有する少なくとも一対の検出系を有する測定装置であって、
物理的または化学的な量の大きさに対応して電位が変化するセンシング部を有する前記機能を有する検出系Aと、物理的または化学的な量の変化に感応しないセンシング部を有しセンシング部以外の機能を同じくする検出系Bからなる一対の検出系を構成するとともに、検出系Aにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数と、検出系Bにおけるフローティングディフュージョンへの蓄積回数を連動して変更することを特徴とする請求項3または4記載のポテンシャルの測定装置。
【請求項6】
前記センシング電荷蓄積部とフローティングディフュージョンの中間に電荷転送手段が配設された測定装置であって、前記電荷転送手段が電荷結合素子であり、複数のセンシング電荷蓄積部の電荷を1つのフローティングディフュージョンに転送することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のポテンシャルの測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−284225(P2006−284225A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101496(P2005−101496)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/遺伝子発現評価の標準化に向けた高感度即時検出型センサーの開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】