説明

ポリイミドフィルム、その製造方法およびこれを基材とした金属配線板

【課題】表面に金属配線を施してなる可撓性の印刷回路,CSP,COF、BGAまたはテープ自動化接合テープ(TABテープ)用の金属配線板基材に適用した場合に、走行性、高弾性率、柔軟性、低湿度膨張係数、熱寸法安定性および製膜性にも優れたポリイミドフィルム、その製造方法及びそれを基材としてなる金属配線板を提供する。
【解決手段】酸二無水物を基準に10〜90モル%のナフタレンテトラカルボン酸二無水物及び90〜10モル%のビフェニルテトラカルボン酸二無水物、並びにジアミンを基準に5〜50モル%のパラフェニレンジアミン及び50〜95モル%の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから得られるポリアミド酸から製造されるポリイミドフィルムにおいて、一次粒子径が1μm未満の硫酸バリウムまたはリン酸水素カルシウムを0.01〜1重量%含み、摩擦係数が0.5未満であることを特徴とするポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その表面に金属配線を施してなる可撓性の印刷回路、40μmピッチ以下の高精細配線が構成されるCOF(Chip on Film)回路、CSP(Chip Size Package)またはテープ自動化接合(Tape Automated Bonding)テープ(TABテープ)用の金属配線板基材として使用される場合に、微細粒子を添加することにより、表面に微細な突起を発生させ、表面粗大突起を少なくし、フィルムの走行性、高弾性率、低湿度膨張係数、さらに製膜性に優れたポリイミドフィルム、その製造方法及び前記ポリイミドフィルムを基材とする可撓性の印刷回路、COF、CSPまたはテープ自動化接合テープ用の金属配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
TABテープは、基材である耐熱性フィルムの表面上に極細い金属配線を施し、基材に集積回路チップ(IC)を搭載するための「窓」が開口されており、更にTABテープの両端近傍にはTABテープを精密に送るためのスプロケットが設けられて構成されている。
【0003】
上記TABテープは、ICをTABテープに開口された「窓」に填め込み、TABテープの表面に施された金属配線と接合した後、ICを搭載したTABテープを電子機器配線用の印刷回路に接合することによって、ICを電子回路に実装する工程を自動化し、工程を簡素化するとともに、生産性を向上させ、ICを実装された電子機器の電気特性を改良するために使用されている。
【0004】
ポリイミドフィルムがFPC用途に用いられる際の重要な実用特性の一つは走行性(易滑性)である。様々なフィルム加工工程において、フィルム支持体(例えば回転ロール)とフィルムの易滑性、またはフィルム同士の易滑性が確保されることにより、各工程における操作性、取り扱い性を向上させ、更にはフィルムの巻き時の皺などの発生が抑制できる。
【0005】
そこで従来は1μm以上の無機系微細粒子が使用されてきた。これらの問題点として、ポリイミドフィルムは溶媒を乾燥させると共に自己収縮に抗した延伸操作が行われるため、粒子に起因する突起面積は粒子直径の数倍〜10倍になる場合が多かった。このためフィルム中に添加した場合、粗大突起が生じやすかった。
【0006】
一方、ポリイミドフィルムの主要用途であるFPCにおいて、近年急速に成長しているプリント基板製品に高密度フレキシブル基板がある(非特許文献1、2)。これは配線幅・配線間距離(以下配線間距離と略)が25〜40μm以下となり、従来の100ミクロンに比べて著しく回路密度(配線間距離の逆数で配線ピッチが小さいほど回路密度が高い)が高まっている。2004年までに高密度フレキシブル基板の市場は50〜60億ドルの規模になる(非特許文献3)ことが予想されている。
【0007】
一般に絶縁帯幅と導電線幅は等しくなるように印刷・加工されるので、配線間距離が30ミクロン幅の高密度フレキシブル基板の線幅は15ミクロンとなる。従って、配線間距離が30μ以下の基板に粗大突起があると蒸着金属の薄化より起因する導通不良となる場合があった。
【0008】
そして、TABテープには、耐熱性基材フィルムの表面に、ポリエステルベース、アクリルベース、エポキシベース或いはポリイミドベース等の接着剤を介して導電性の金属箔を積層する三層構造のものと、耐熱性基材フィルムの表面に、接着剤を介することなく、導電性の金属層を直接積層する二層構造のものとが使用されている。
【0009】
したがって、TABテープの基材フィルムには、耐熱性が要求され、特にICとTABテープ上の金属配線との接合や、ICを搭載したTABテープと電子機器配線用の印刷回路との接合の時に基材フィルムにかかるハンダ溶接等の高温に耐えられるように、従来からポリイミドフィルムが使用されてきた。 近年、家電製品などに含まれるプリント基板上の半田は、鉛を約40%含み、廃棄されたプリント基板から著しい鉛が溶出する可能性が指摘されている。2001年には家電リサイクル法が施行され、鉛フリー半田の使用機運が高まっている。代表的鉛フリー半田の種類としては、錫/銅合金、錫/銀合金、錫/ビスマス合金、錫/銀/銅合金などがあり、半田浴温度としては従来から20℃以上の高温の260〜300℃近い温度である。従って、熱変形開始温度が350℃以上のポリイミドフィルムが望まれている。
【0010】
しかるに、ポリイミドフィルムと金属箔または金属層とを積層し、金属箔または金属層をケミカルエッチングして金属配線を形成する際に、受ける熱によるポリイミドフィルムと金属との寸法変化の違いに起因するTABテープの変形が大きい場合には、ICを搭載する時やICを搭載したTABテープを電子機器配線用の印刷回路に接合する時に、作業性を著しく阻害したり、時にはその作業を不能ならしめることになるため、ポリイミドフィルムの熱膨張係数を金属と近似せしめて、TABテープの変形を小さくすることが要求される。
【0011】
又、金属箔はケミカルエッチング工程および洗浄工程で、水と接触または浸漬されるため、低湿度膨張性も基材に要求される。
【0012】
さらに、ICを搭載し、電子機器配線用の印刷回路に接合されたTABテープにかかる引張力や圧縮力による寸法変化を小さくすることも、金属配線の細密化、金属配線への歪み負荷軽減および搭載されたICの歪み負荷軽減のためには重要であり、基材であるポリイミドフィルムには更なる高弾性率が要求される。特に近年の高精度寸法安定性が要求される、PDP用途に使用される用途には、ヤング率だけでなく更に高温でより低い熱収縮率が望まれている。
【0013】
更にFPC、CSPおよびCOFにも使用されるためには、柔軟性も必要である。このためのヤング率は高すぎないことも必要である。
【0014】
以上の理由により、高ヤング率程良い考えられていたのとは異なり、適度なヤング率の物が要求されるに至っている。
【0015】
ポリイミドフィルムとしては多くの文献が知られているが(例えば特許文献1、2)、特許文献1はビフェニルテトラカルボン酸を主として使用するため高温での寸法安定性が不良であった。逆にビフェニルテトラカルボン酸共重合量を少なくすると吸水率が高かった。すなわち高剛性、湿度膨張係数が低く、金属銅箔との張り合わせ後に平面性の良好なポリイミドフィルムへの要望が高まっている。
【0016】
しかしながら、上記の従来方法では、金属配線板基材として使用される場合に、高弾性率、低湿度膨張係数、平面性および等方性を同時に満たすポリイミドフィルムを得ることができず、さらなる改良が求められていた。
【非特許文献1】http://www2.hitachi-cable.co.jp/H_cable/news/970821/microbga.htm
【非特許文献2】http://www2.hitachi-http://www.dnp.co.jp/jis/news99/991012.html
【非特許文献3】エレクトロニクス実装技術、2001年10月、Vol.17、No.10
【特許文献1】特開平03−264332号公報
【特許文献2】特開平03−264333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたもので、製膜時の延伸倍率を大きくすることによりフィルムのヤング率、平面性および等方性が改良される。このため高倍率延伸の可能なフィルム組成で、所望のヤング率を持つフィルムを提供する。また、粗大突起の少ない表面を有する高密度FPC基板用ベースフィルムが得られることを見いだした。
【0018】
その表面に金属配線を施してなる可撓性の印刷回路、CSP、COF、BGAまたはテープ自動化接合(Tape Automated Bonding)テープ(TABテープ)用の金属配線板基材に適用した場合に、高弾性率、低湿度膨張係数、銅の熱膨張係数と同程度の熱膨張係数であり、および製膜性に優れたポリイミドフィルム、その製造方法及びそれを基材としてなる金属配線板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のポリイミドフィルムは、酸二無水物を基準に10モル%以上90モル%未満のナフタレンテトラカルボン酸二無水物(以下NTCDAと称することもある)及び90モル%未満10モル%以下のビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下BPDAと称することもある)、並びにジアミンを基準に5モル%以上50モル%未満のパラフェニレンジアミン(以下PPDと称することもある)及び50モル%以上95モル%未満の4,4’−1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下RODAと称することもある)からなるポリアミド酸から製造されるポリイミドフィルムにおいて、一次粒子径が1μm未満の硫酸バリウムまたはリン酸水素カルシウムを0.01〜1wt%未満含み、摩擦係数が0.5未満であることを特徴とするポリイミドフィルムである。
【0020】
また、ポリアミド酸が、ブロック成分または混交ポリマー成分を有するポリイミドフィルムも好ましい。
【0021】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、酸二無水物を基準に10モル%以上90モル%未満のナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)及び90モル%未満10モル%以下のビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、並びにジアミンを基準に5モル%以上50モル%未満のPPD及び50モル%以上95モル%未満のRODAから得られるポリアミド酸溶液から膜を形成し、次いで、互いに直行する2軸方向に面積倍率1.1〜4倍に延伸する2軸延伸ポリイミドフィルムの製造方法である。
【0022】
イミド化後のフィルムを300〜500℃の温度範囲で少なくとも1軸に延伸することも好ましい。
【0023】
さらに、本発明の可撓性の印刷回路、CSP、COFまたはテープ自動化接合テープ用の金属配線板は、上記のポリイミドフィルムを基材として、その表面に金属配線を施してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリイミドフィルムは、高弾性率、柔軟性、低湿度膨張係数、熱寸法安定性および優れた走行性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の構成及び効果について詳述する。
【0026】
本発明のフィルムを構成するポリイミドは、ブロックポリマーか又はランダムポリマーか又は混交ポリマーのいずれかであり得る。
【0027】
ポリアミド酸を形成する好ましい反応は少なくとも2回に分割して実行され、ブロック成分または混交ポリマー成分または混交ポリマー成分を含有するポリアミド酸を形成し、イミド転化することによりポリイミドポリマに組み込まれる。
【0028】
本発明のポリイミドポリマにより、可撓性の印刷回路、CSP、COF、BGAまたはテープ自動化接合(Tape Automated Bonding)テープ(TABテープ)用の金属配線板基材に適用した場合に、適当な高弾性率、製膜性および等方性を均衡して高度に満たすポリイミドフィルムを実現することができる。
【0029】
そして、延伸操作および/またはポリイミドポリマにさらにブロック成分または混交ポリマー成分を組み込むことにより、上記各特性をより好ましい範囲にすることができる。
【0030】
本発明において使用される酸二無水物は、主としてナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)である。NTCDAは酸二無水物の全モル量基準で10モル%以上90モル%未満であり、BPDAは90モル%未満10モル%以上である。NTCDAは剛直性および耐熱性を高め、BPDAは吸水率を低くする。本発明の目的を阻害しない添加量の範囲で他の酸二無水物を併用できる。
【0031】
本発明において使用されるジアミンは、主としてPPDおよびRODAである。本発明の目的を阻害しない添加量の範囲で他のジアミンを併用できる。本発明に於いてPPDは剛性を高める。RODAは吸水率を低くし、柔軟性を付与する作用をする。ポリイミドはジアミンの全モル量基準で5モル%以上ないし50モル%未満、好ましくは10モル%ないし40モル%のPPD、および50モル%以上95モル%未満、好ましくは60モル%以上90モル%未満のRODAを使用して得られるポリアミド酸をイミド転化して製造される。PPDが5モル%未満では剛性不足となる。
【0032】
また、PPDが50モル%以上では、伸度が20%未満となったり、剛直性が高く成りすぎたりする。
【0033】
近年、家電製品などに含まれるプリント基板上の半田は、鉛を約40%含み、廃棄されたプリント基板から著しい鉛が溶出する可能性が指摘されている。2001年には家電リサイクル法が施行され、鉛フリー半田の使用機運が高まっている。代表的鉛フリー半田の種類としては、錫/銅合金、錫/銀合金、錫/ビスマス合金、錫/銀/銅合金などがあり、半田浴温度としては従来より20℃以上の高温の260〜300℃近い温度である。従って、熱変形開始温度が350℃以上のポリイミドフィルムが望まれている。
【0034】
本発明において使用されるテトラカルボン酸二無水物は、NTCDAおよびBPDAであるが、本発明の目的を阻害しない添加量の範囲でテトラカルボン酸二無水物他を併用できる。例えばビフェニルテトラカルボン酸二無水物またはベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などを50モル%未満添加することが出来る。
【0035】
得られたポリアミド酸をイミド転化して製造される。
【0036】
ポリイミドフィルムの弾性率は、ポリアミド酸を製造する際に使用するジアミン成分におけるPPDの使用比率およびフィルム延伸倍率によって調整できる。PPDを多く使用すると、高弾性率及び寸法安定性が向上する反面、伸度が低下するという欠点がある。極端には高弾性率化されすぎ、柔軟性に欠けることもある。
【0037】
したがって、それぞれの特性値をバランスするために、各成分のモル比を注意深く調製する必要がある。
【0038】
本発明のポリアミド酸は、175℃以下、好ましくは90℃以下の温度で、上記全テトラカルボン酸二無水物成分と全ジアミン成分について、モル比を約0.90から1.10、好ましくは0.95から1.05、更に好ましくは0.98から1.02とし、それぞれの成分と非反応性の有機溶剤中で反応させることにより製造される。
【0039】
上記それぞれの成分は、単独で順次有機溶剤中に供給してもよいし、同時に供給してもよく、また混合した成分に有機溶剤を供給してもよいが、均一な反応を行わせるためには、有機溶剤中に各成分を順次添加することが好ましい。
【0040】
それぞれの成分を順次供給する場合の供給順序は、ブロック成分または混交ポリマー成分となるジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを優先して供給することが好ましい。すなわち、ブロック成分または混交ポリマー成分を含有するポリアミド酸を製造するために、その反応を少なくとも2回に分割して実行させ、まずブロック成分または混交ポリマー成分を含有するポリアミド酸を得てから、これをイミド転化することにより、得られるポリイミドにブロック成分または混交ポリマー成分を組み込ませるのである。
【0041】
ポリアミド酸のブロック成分または混交ポリマー成分を生成するために必要な時間は、反応温度とブロック成分または混交ポリマー成分のポリアミド酸中における比率で決定すればよいが、経験的には約1分から約20時間程度が適当である。
【0042】
このとき後述するようにブロック成分を含有するポリマーを形成するためには(A)反応工程中で反応させるジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とは実質的に非等モルである。
【0043】
また混交ポリマー成分を形成させるためには(A)反応工程中でのジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とは実質的に等モルであること、またはジアミン過剰の反応工程を経る場合はジカルボン酸無水物で末端を封鎖することが好ましい。ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とが実質的に等モルであること、またはジアミン過剰の反応工程でジカルボン酸無水物で末端を封鎖することは、これらの反応工程で形成された混交ポリマー成分が化学的に不活性で後工程の反応で形成されるポリイミド分子の末端に組み込まれないことを意味する。しかるに混交ポリマー成分の反応とその後のポリイミドを形成する反応とが同一反応槽で行われることにより、モレキューラーコンポジット(異なる分子同士の複合体)が形成され易くなり混交ポリマー成分の特徴がより発現できるのである。
【0044】
重合前、途中または終了後に一次粒径が1μm未満の無機粒子をポリマー固形分に対して0.01〜1wt%となるように添加する。また添加は口金直前に混合することも好ましい。無機粒子として硫酸バリウムまたはリン酸水素カルシウムである。
【0045】
硫酸バリウムはレントゲン造影剤にも用いられるほど人体に優しく、極性溶媒中でイオン解離しにくく、また金属不純物の少ない物が得られやすい。またリン酸水素カルシウムも人体に優しい無機粒子である。本願の組成物はガスバリアー性が良いためか、製膜中に発泡に起因するブリスターが生じることがある。因果関係は明らかになっていないが、他の粒子に比べこれらの無機粒子を用いると、製膜中にブリスターまたはフィルム伸度の低下を生じにくい。
【0046】
これらの粒子は、平均粒子径が1μm未満であり、好ましくは0.1μm以上0.8μm以下であり、粒径比(長径/短径)が1.0〜2.0である。含有量は0.01〜1wt%である。平均粒径1μm以上では最大突起の直径が10μmを超えるようになり、25〜40μm以下の高密度印刷回路基板に用いられる用途には不適である。
【0047】
本発明に於ける粒子はフィルムの滑り性の観点から、好ましい粒径比(長径/短径)は1.0〜1.5である。粒径比が2を超えた粒子は、扁平または棒状であり、そのためフィルム中では長軸方向が平面方向と一致するように粒子が配向するため、高さは低いが突起面積の大きい粗大突起となり易い。この様な粗大突起は高密度印刷回路基板用途には好ましくない。
【0048】
好ましい添加量は0.01〜1wt%である。0.01wt%以下では滑り性の効果が十分でなく、1wt%を超えると製膜後の各種工程の走行時に表面が削れて異物となり、高密度印刷回路の絶縁性または導通性に悪影響を及ぼす。
【0049】
摩擦係数は0.5未満である。好ましくは、動摩擦係数が0.4未満で、静止摩擦係数が0.45未満である。摩擦係数が0.5以上では走行性が不良で採り扱い性が悪い。また表面が傷つきやすい。
【0050】
好ましい表面粗さは、Rmaxが1μmである。Rmaxが1μm以上であると、ポリイミドフィルムは溶媒を乾燥させると共に自己収縮に抗した延伸操作が行われるため、粒子に起因する突起面積は粒子直径の数倍〜10倍になる。従って、配線間距離が30μ以下の基板にこのような粗大突起があると蒸着金属の薄化より起因する導通不良となる。
【0051】
これらから得られるポリアミド酸から製造されるゲルフィルムは、二軸延伸する際の延伸性が良く、従って高倍率での二軸延伸ができる。イミド化には閉環触媒を用い更に加熱を行う化学閉環法、及び閉環触媒を用いないで加熱のみで閉環する熱閉環法とがある。この内化学閉環法が安定した延伸が可能であるため好ましい。該ゲルフィルムはスリット付口金から加熱された支持体上に流延されてフィルム上に成型され、ポリアミド酸は支持体上で閉環反応をし、自己支持性を有するゲルフィルムとなって支持体から剥離される。支持体は金属製の回転ドラムやエンドレスベルトであって良く、その温度は熱媒、または電気ヒータ等の輻射熱により制御される。
【0052】
次いでゲルフィルムは50〜500℃の温度で、面積倍率1.1〜4倍に延伸されるが、延伸される状態はポリアミド酸ゲルフィルム、ポリアミド酸/ポリイミド共存ゲルフィルムまたはポリイミドフィルムのいずれかまたは2段階以上の工程を組み合わせて延伸しても良い。イミド化率が高いほど、または溶媒含有量が少ないほど、延伸による配向効果は高くなるが、逆にフィルム破断が起こりやすくなるのでイミド化率または溶媒含有量が異なる工程で2段階以上に分割されて延伸操作が施される。もちろん、ポリアミド酸ゲルフィルム、ポリアミド酸/ポリイミド共存ゲルフィルムまたはポリイミドフィルムの状態で、特にポリイミドフィルムの状態で同時2軸で延伸されることも他の工程と組み合わせて好ましく行われる。
【0053】
2段階以上の工程を組み合わせて延伸される場合は、互いに直交する2軸方向に延伸されるが、異なる温度で延伸されることも好ましく用いられる。
【0054】
ゲルフィルムは支持体からの受熱または外側の熱風や電気ヒータ等の熱源からの受熱により30℃から200℃、好ましくは40〜150℃に加熱されてイミド閉環反応が進行し、有機溶媒などの揮発分を乾燥させることにより自己支持性を有するようになり、支持体から剥離される。閉環反応の進んでいないポリアミド酸のフィルムを急激に加熱すると平滑な表面のゲルフィルムを得られないため加熱温度は適宜管理する必要がある。
【0055】
好ましい方法として、支持体から剥離されたゲルフィルムは回転ロールにより走行速度を規制しながら走行方向(MD)に延伸される。延伸は50℃以上200℃以下の温度で1.1〜2倍、好ましくは1.1〜1.6倍の倍率で実施される。回転ロールはゲルフィルムの走行速度を規制する必要な把持力が必要であり、金属ロールとゴムロールを組み合わせて成るニップロールまたは減圧吸引方式のサクションロールを使用する。ゲルフィルムのMD方向への延伸倍率が1.1倍未満では延伸効果が小さく、高強度化が不十分な場合がある。延伸倍率が大きくなると、MD方向の力学的性質や寸法安定性の改善効果は大きくなるが、ゲルフィルムが破断しやすくなるため後続する幅方向の選定範囲が狭くなる。このため、MD延伸倍率は1.1〜1.9倍、好ましくは1.1〜1.6倍の範囲である。
【0056】
走行方向に延伸されたゲルフィルムはテンタ装置に導入され、テンタクリップに幅方向両端部を把持されて、テンタクリップに幅方向両端部を把持されて、テンタクリップと共に走行しながら幅方向(TD)へ延伸され、有機溶媒等の揮発分成分を乾燥された後熱処理されて二軸配向ポリイミドフィルムとなる。幅方向への延伸は200℃以上500℃以下、好ましくは450℃以下の温度で次の式(i)で定義される延伸倍率比が0.9〜1.3、好ましくは1.0〜1.3となる幅方向の延伸倍率で実施される。
(TD方向の延伸倍率)/(MD方向の延伸倍率)=延伸倍率比・・・(i)
【0057】
延伸倍率比は本発明の目的の一つである高剛性および面内等方性の改善のため重要である。延伸倍率比が0.9未満ではMD方向への配向効果が強くなり、1.3倍を超えるTD方向への配向効果が強くなるため、平面性または面内等方性が好適な範囲を外れてしまう場合がある。またゲルフィルムが乾燥オーブンに導入される前に幅方向の延伸はその延伸倍率の50%以上を実施するのが好ましい。このゲルフィルムのMD方向およびTD方向の延伸はこの順序か、逆の順序で逐次的に行っても、また同時に行っても良い。
【0058】
ゲルフィルムの延伸性はその固形分濃度に影響され、ゲルフィルムの乾燥が進んで固形分濃度が60重量%になると延伸が困難になり、高速の延伸時にゲルフィルムの破断が生じる場合がある。そのため、成型されて支持体から剥離されたゲルフィルムの固形分濃度は50重量%以下が好ましい。またゲルフィルムの自己支持性を保持するためには固形分濃度は5重量%以上である。
【0059】
テンタオーブンにおけるゲルフィルムの乾燥および熱処理は熱風または電気ヒータ等による輻射熱を使用して実施され、乾燥温度は200〜400℃、熱処理温度は350〜500℃であるが、急激に加熱するとゲルフィルムに含有される揮発分成分の発泡により空隙が発生するため加熱方法を制御する方法がある。
【0060】
このようにして製造された二軸延伸ポリイミドフィルムは、分子鎖がフィルム面方向に配向され、分子鎖の面方向への配向の程度を示す次の式(ii)で定義される面配向係数が0.11以上となり、寸法安定性の代表値である平均面内熱膨張係数(CTEave)が未延伸フィルムよりも次の式(iii)で計算して少なくとも10%小さくなり、更に面内等方性を示す次の式(iv)で定義される面内異方性指数が20以下である力学的性質を有し、面内等方性に優れており、更に改良された寸法安定性をも有する二軸延伸ポリイミドフィルムとすることが好ましい。
【0061】
(面内最大屈折率+面内最小屈折率)/2−厚さ方向屈折率
=面配向係数・・・(ii)
(α−β)/α ・・・・・・・・・・・・・(iii)
但し、α・・・未延伸フィルムのCTE
β・・・二軸延伸フィルムのCTE
(γ−δ)/(γ+δ)×200=面内異方性指数(AI値)・・・(iv)
但し、γ・・・最大配向角方向の音波伝播速度
δ・・・最小配向角方向の音波伝播速度
【0062】
具体的に、テトラカルボン酸二無水物成分としてNTCDAおよびBPDAA、ジアミン成分として、PPDとRODAを使用し、NTCDAとPPDとからなるブロック成分または混交ポリマー成分を含有するポリイミドフィルムの製造例を以下に説明する。
【0063】
まず、有機溶剤としてのジメチルアセトアミド(DMAc)に、PPDを溶解し、NTCDAを加え、第一段目のブロック成分または混交ポリマー成分の反応を完了させる。
【0064】
次いで、溶液にRODAを加え溶解した後、溶液にNTCDAおよびBPDAを加えて反応させることにより、PPDとNTCDAとのブロック成分または混交ポリマー成分を含有するポリアミド酸溶液が得られる。
【0065】
ポリアミド酸の製造は、その溶液のポリアミド酸濃度と溶液の粘度とでその終了点を決定される。終了点の溶液の粘度を精度良く決定するためには、最後に供給する成分の一部を、反応に使用する有機溶剤の溶液として添加することは有効であるが、ポリアミド酸濃度をあまり低下させないような調節が必要である。
【0066】
溶液中のポリアミド酸濃度は、5ないし40重量%、好ましくは10ないし30重量%である。
【0067】
上記有機溶剤としては、それぞれの成分および重合生成物であるポリアミド酸と非反応性であり、成分の1つから全てを溶解でき、ポリアミド酸を溶解するものから選択するのが好ましい。
【0068】
望ましい有機溶剤としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられ、これらは単独でまたは混合使用することができ、場合によってはベンゼン等の貧溶媒と併用することも可能である。
【0069】
本発明のポリイミドフィルムを製造するに際しては、かくして得られたポリアミド酸溶液を押出機やギヤポンプで加圧して、ポリアミド酸フィルムの製造工程に送液する。
【0070】
ポリアミド酸溶液は、原料に混入していたり、重合工程で生成した異物、固形物及び高粘度の不純物等を除去するためにフィルターされ、フィルム成形用の口金やコーチングヘッドを通してフィルム状に成形され、回転または移動する支持体上に押出され、支持体から加熱されて、ポリアミド酸が一部イミド転化したポリアミド酸−ポリイミドゲルフィルムが生成され、このゲルフィルムが自己支持性となり、支持体から剥離可能となった時に支持体から剥離され、乾燥機に導入され、乾燥機で加熱されて、溶剤を乾燥し、イミド転化を完了することにより、ポリイミドフィルムが製造される。
【0071】
このとき、20μmカットの金属繊維焼結フィルター用いることは、途中で生成されたゲル物の除去に効果的である。更に好ましくは10μmカットの金属繊維焼結フィルターである。
【0072】
重合前、途中または終了後に一次粒径が1μm未満の無機粒子をポリマー固形分に対して0.01〜1wt%となるように添加することも好ましい。また添加は口金直前に混合することも好ましい。好ましい無機粒子として硫酸バリウムまたはリン酸水素カルシウムである。
【0073】
ポリアミド酸のイミド転化の方法は、加熱のみによる熱転化法と、イミド転化薬剤を混合したポリアミド酸を加熱処理したり、またはポリアミド酸をイミド転化薬剤の浴に浸漬する化学転化法のいずれも採用することができるが、本発明においては、化学転化法が熱転化法に比べて、可撓性の印刷回路、CSP、BGAまたはテープ自動化接合(Tape Automated Bonding)テープ(TABテープ)用の金属配線板基材に適用した場合に、高弾性率、平面性および製膜性を均衡して高度に実現するのに好適である。
【0074】
しかも、化学転化法によってポリアミド酸にイミド転化薬剤を混合し、フィルム状に成形後加熱処理する方法は、イミド転化に要する時間が短く、均一にイミド転化が行える等の利点に加え、支持体からの剥離が容易であり、さらには、臭気が強く、隔離を必要とするイミド転化用薬剤を密閉系で取り扱える等の利点を有することから、ポリアミド酸フィルム成形後に転化用薬剤や脱水剤の浴に浸漬する方法に比べて好ましく採用される。
【0075】
本発明においては、イミド転化用薬剤として、イミド転化を促進する3級アミン類と、イミド転化で生成する水分を吸収する脱水剤とを併用する。3級アミン類は、ポリアミド酸とほぼ等モルないしやや過剰に添加混合され、脱水剤は、ポリアミド酸の約2倍モル量ないしやや過剰に添加されるが、支持体からの剥離点を調整するために適当に調整される。
【0076】
そして、イミド転化用薬剤は、ポリアミド酸を重合完了した時点から、ポリアミド酸溶液がフィルム成形用口金やコーチングヘッドに達するいかなる時点で添加してもよいが、送液途中におけるイミド転化を防止する意味では、フィルム成形用口金またはコーチングヘッドに到達する少し前に添加し、混合機で混合するのが好ましい。
【0077】
3級アミンとしては、ピリジンまたはβ−ピコリンが好適であるが、α−ピコリン、4−メチルピリジン、イソキノリン、トリエチルアミン等も使用することができる。使用量は、それぞれの活性によって調整する。
【0078】
脱水剤としては、無水酢酸が最も一般的に使用されるが、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、安息香酸、蟻酸無水物等も使用することができる。
【0079】
イミド転化薬剤を含有するポリアミド酸フィルムは、支持体上で支持体および反対面空間から受ける熱により、イミド転化が進み、一部イミド転化したポリアミド酸−ポリイミドゲルフィルムとなり、支持体から剥離される。
【0080】
この場合に、支持体および反対面空間から与える熱量は多いほどイミド転化が促進されて、速く剥離するが、熱量が多すぎると支持体とゲルフィルムの間の有機溶剤のガスがゲルフィルムを変形させ、フィルムの欠点となるので、剥離点の位置とフィルム欠点を勘案して、熱量を決定することが望ましい。
【0081】
支持体から剥離されたゲルフィルムは、乾燥機に導入され、溶剤の乾燥およびイミド転化の完了がなされる。
【0082】
このゲルフィルムは、多量の有機溶剤を含有しており、その乾燥過程において体積が大幅に減少する。したがって、この体積減少による寸法収縮を厚さ方向に集中させるために、ゲルフィルムの両端をテンタークリップで把持し、このテンタークリップの移動によりゲルフィルムを乾燥機(テンター)に導入し、テンター内で加熱して、溶剤の乾燥とイミド転化とを一貫して実施するのが一般的である。このゲルフィルムを、回転ロールにより走行速度を規制しながら走行方向に1.1〜2倍延伸し、この延伸されたゲルフィルムの端部をテンタクリップにより把持し、このゲルフィルムを幅方向に走行方向の延伸倍率の0.8〜1.3倍の倍率で延伸する。なお、テンター内において、フィルム両端のテンタークリップの距離を拡大または縮小して、延伸またはリラックスをおこなうことができる。
【0083】
特に幅方向の延伸操作においてイミド化率、雰囲気温度または溶媒含有量が異なる状態で2段階以上に分割されて延伸操作が施されることは、フィルム破断を生じさせずに高延伸倍率が得られるので好ましい。
【0084】
熱収縮率を低くするためには、高温領域での冷却は低張力で徐冷することが好ましい。徐冷条件は500〜300℃の温度範囲の冷却速度が500℃/分以下、好ましくは100℃/分以下で冷却することが好ましい。
【0085】
この乾燥及びイミド転化は、50℃ないし500℃の温度で行われる。乾燥温度とイミド転化温度は同一温度でもよいし、異なる温度でもよいが、溶剤を大量に乾燥する段階では、低めの温度、具体的には50〜200℃、で溶剤の突沸を防ぎ、溶剤の突沸のおそれがなくなったら、高温、具体的には200〜500℃、にしてイミド転化を促進するように、段階的に高温にすることが好ましい。
【0086】
好ましくはブロック成分または混交ポリマー成分を含有し、化学転化法によりイミド転化して得られるカットシート状のポリイミドフィルムは、上記のように製造した連続したフィルムから切り取って製造することができるが、少量のフィルムを製造するには、後述の実施例で示しているように、樹脂製やガラス製のフラスコ内で、好ましくはブロック成分または混交ポリマー成分を含有するポリアミド酸を製造し、このポリアミド酸溶液に化学転化薬剤を混合して得られる混合溶液を、ガラス板等の支持体上にキャストし、加熱して、一部イミド転化した自己支持性のポリアミド酸−ポリイミドゲルフィルムとして、支持体から剥離し、金属製の固定枠等に固定して寸法変化を防止しながら加熱して、溶剤の乾燥およびイミド転化する方法により製造することができる。
【0087】
このようにして、化学転化法によりイミド転化して得られる本発明のポリイミドフィルムは、熱転化法により得られるポリイミドフィルムに比しても、可撓性の印刷回路、CSP、COF、BGAまたはテープ自動化接合(Tape Automated Bonding)テープ(TABテープ)用の金属配線板基材に適用した場合に、高弾性率を有するものである。
【0088】
したがって、本発明のポリイミドフィルムを基材として、その表面に金属配線を施してなる可撓性の印刷回路、CSP、COF、BGAまたはテープ自動化接合テープ用の金属配線板は、高弾性率、および製膜性を同時に満たすというバランスのとれた特性を発現するものである。
【0089】
なお、本発明のポリイミドフィルムにおいては、弾性率としては4〜10GPaが好ましく、さらには4〜7GPaが好ましい。弾性率が小さいとフィルム走行性が悪く取り扱いにくく、高いと可とう性が乏しくなる。フィルムの伸度は110%以上が好ましい。10%未満では取り扱いが難しく、更には製膜の際フィルム破断しやすい。
【0090】
線膨張係数が大きすぎても小さすぎても、金属、好ましくは銅箔と積層された場合カールが大きくなりすぎ、熱膨張係数としては10〜25ppm/℃が好ましく、14〜22ppm/℃が更に好ましい。湿度膨張係数は30[ppm/%RH]以下が好ましく、更には28[ppm/%RH]以下、より好ましくは26[ppm/%RH]以下、最も好ましくは20[ppm/%RH]以下である。小さい程良いが、下限は製造可能という意味で0[ppm/%RH]であろう。
【0091】
半田浴工程を経る際300℃近い高温にフィルムが晒されるため、熱収縮率は小さい方がよい。熱収縮率が1%を超えると使用しにくい場合がある。好ましくは1%以下で、より好ましくは0.1%以下である。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお各フィルム特性値は、下記の方法で測定したものである。
【0093】
また、下記の実施例中で、略号DMAcはジメチルアセトアミドを、NTCDAはナフタレンテトラカルボン酸二無水物を、BPDAはビフェニルテトラカルボン酸二無水物、PMDAはピロメリット酸二無水物を、PPDはパラフェニレンジアミンを、ODAは4,4’−オキシジアニリンを、また、RODAは1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを示す略記である。
【0094】
(1)弾性率および破断伸度
弾性率は、JISK7113に準じて、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度300mm/分にて得られる張力−歪み曲線の初期立ち上がり部の勾配から求めた。破断伸度は試料が破断するときの伸度を取った。
【0095】
(2)熱膨張係数(CTE)、ガラス転移温度(Tg)および熱変形開始温度
装置は理学電機(株)社製 微少定荷重熱膨張計で、窒素気流中にて測定
【0096】
A.熱膨張係数(CTE)
20mm長さ×約5mm幅の切片を切り出し、これを長さ方向に引っ張りモードで測定する。0.5gの付加荷重で行った。
CTEは10℃/分の昇温速度、5℃/分の降温速度、最大温度250℃で2回目の昇(降)温時の50℃から200℃の間の寸法変化から求めた。
平均面内熱膨張係数(CTEave)は面内異方性指数測定時に求めた最大配向角方向と最小配向角方向の熱膨張係数から次の式(v)により計算した。
(最大配向角方向のCTE+最小配向角方向のCTE)/2・・・(v)
【0097】
B.ガラス転移温度(Tg)
10mm長さ×約15mm幅の切片を切り出し、これを円筒状にして10mmの長さ方向に圧縮モードで測定する。0.5gの付加荷重で行った。
2℃/分の昇温速度で、室温から400℃までの1回目の昇温で測定した。寸法変化試料長L0とその長さの変化量ΔLから、長さ変化率ΔL/L0とする。ΔLは10℃毎に読みとり、横軸に温度、縦軸に長さ変化率ΔL/L0を取り、200〜400℃で観測される屈曲温度をTgとした。
【0098】
C.熱変形開始温度
10mm長さ×約15mm幅の切片を切り出し、これを円筒状にして10mmの長さ方向に圧縮モードで測定する。
5gの付加荷重で行った。
2℃/分の昇温速度で、室温から400℃までの1回目の昇温で測定した。寸法変化試料長L0とその長さの変化量ΔLから、長さ変化率ΔL/L0とする。ΔLは10℃毎に読みとり、横軸に温度、縦軸に長さ変化率ΔL/L0を取り、200〜400℃で屈曲が開始する温度を熱変形開始温度とした。350℃未満の熱変形開始温度のものは、鉛フリー半田浴(260〜300℃)で寸法変化が生じ本発明の主用途には不適である。
○;400以上
△;350℃以上、400℃未満
×;350℃未満
【0099】
(3)金属積層板の反り量評価
ポリイミドフィルムにポリイミドベースの接着剤を塗布し、この上に銅箔を250℃の温度で貼り合わせた。その後最高温度300℃まで昇温し接着剤を硬化させ、得られた金属積層板を35mm×120mmのサンプルサイズにカットし、25℃、60RH%雰囲気中で24時間放置した後、それぞれのサンプルの反りを測定した。反りはサンプルをガラス平板に置き、四隅の高さを測定平均化した。評価基準は反り量に応じて以下のように判定した。×レベルは金属配線回路板として用いる場合、後工程の搬送時に取り扱いが困難となるレベルである。
○ 反り量 1mm未満
△ 反り量 1mm以上3mm未満
× 反り量 3mm以上
【0100】
(4)吸水率
吸水率は、25℃で、95%RHに調湿した恒温恒湿機(STPH101、タバイエスペック(株)社製)中に、48時間置いた後、乾燥状態との重量差を百分率で求めた。
【0101】
(5)粒子の含有量
粒子配合量から計算するか、あるいは得られたフィルムの断面積の電子顕微鏡で観察し、画像あるいは写真像から式(2)で体積%を計算する。
体積含有量=(粒子相当断面積/フィルム断面積)1.5×100(%)
SEM−XMAなどで粒子の組成および結晶形態を特定し、相当する比重を文献より調べ重量%を計算する。
【0102】
(6)表面粗さ
走査型レーザー顕微鏡(型式1LM15、レーザーテック(株)社製)で測定した。He-Neレーザー(波長:632.8nm、CW:0.1mW)、顕微鏡倍率200倍、測定長0.6mm、断面曲線から粗さ曲線作成のカットオフ値0.025mm、断面曲線からろ波うねり曲線作成のカットオフ値0.25μm、ろ波うねり曲線からろ波中心線うねり曲線を作成するカットオフ値0.8μm、測定回数5回を平均した値を言う。
RaおよびRmax(Ryとも記述される)の定義は例えば、奈良治郎著「表面粗さ評価法」(総合技術センター、1983)に示されているものである。
【0103】
(7)摩擦係数
TECHNO NEEDS Co., Ltd社製摩擦測定器(スリップテスター)を使用し動摩擦係数および静止摩擦係数を、ASTM D−1894−63に順じ測定した。
フィルムより、長さ100mm、幅70mmのサンプルを2枚切り出し、表面と裏面とが平行に重なるように置き、荷重(6.5cm角、重さ200g)を掛けn=5で測定し平均値を取る。
【0104】
[実施例1]
1000ccのガラス製フラスコに、DMAc460mlを入れ、4.33gのPPDをDMAc中に供給して溶解させ、続いて9.77gのNTCDA及び46.77gのRODA、46.75gのBPDAを順次供給し、室温で、約1時間攪拌する。最終的にテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分が約100モル%化学量論で表1に示す組成の成分からなるポリアミド酸濃度20重量%の溶液を調製した。更にリン酸水素カルシウム(品名B、一次粒径0.7μm、ラサ工業社製)をポリマー固形分に対して0.3wt%となるように添加し撹拌分散化させた。
【0105】
この粒子分散ポリアミド酸溶液30gを、12.7mlのDMAc、3.6mlの無水酢酸及び3.6mlのβ−ピコリンと混合した混合溶液を調製し、この混合溶液をガラス板上にキャストした後150℃に加熱したホットプレート上で約4分間加熱して、自己支持性のポリアミド酸−ポリイミドゲルフィルムを形成し、これをガラス板から剥離した。
【0106】
このゲルフィルムを、多数のピンを備えた金属製の固定枠に固定し、250℃から330℃に昇温しながら30分間加熱した。さらに450℃で1分熱処理後徐冷し厚さ約25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの特性値評価結果を表1に示した。
【0107】
[実施例2]
1000ccのガラス製フラスコに、DMAc422mlを入れ、6.49gのPPDをDMAc中に供給して溶解させ、続いて14.65gのNTCDAを供給し、室温で、約1時間攪拌する。引き続き40.93gのRODA及び11.51gのBPDA、24.42gのNTCDAを順次供給し、室温で、約1時間攪拌する。引き続きジアミン成分に対して0.5モル%の無水酢酸を添加し更に約1時間攪拌し、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分が約100モル%化学量論で表1に示す組成の成分からなるポリアミド酸濃度20重量%の溶液を調製した。更に硫酸バリウム(品名B−55、一次粒径0.66μm、堺化学工業社製)をポリマー固形分に対して0.35wt%となるように添加し撹拌分散化させた。
【0108】
この粒子分散ポリアミド酸濃度20重量%の溶液を実施例1と同じ方法で処理して、厚さ約25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの特性値評価結果を表1に併せて示した。
【0109】
[比較例1]
1000ccのガラス製フラスコに、DMAc422mlを入れ、6.49gのPPDをDMAc中に供給して溶解させ、続いて14.65gのNTCDAを供給し、室温で、約1時間攪拌する。引き続き40.93gのRODA及び11.51gのBPDA、24.42gのNTCDAを順次供給し、室温で、約1時間攪拌する。引き続きジアミン成分に対して0.5モル%の無水酢酸を添加し更に約1時間攪拌し、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分が約100モル%化学量論で表1に示す組成の成分からなるポリアミド酸濃度20重量%の溶液を調製した。
【0110】
このポリアミド酸濃度20重量%の溶液を実施例1と同じ方法で処理して、厚さ約25μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの特性値評価結果を表1に併せて示した。
【0111】
【表1】

【0112】
表1に記載された結果から明らかなように、NTCDA、BPDA、RODAおよびPPDからなる化学転化法で得られた本発明のランダムポリイミドフィルムおよびブロックポリイミドフィルムにおいて、微粒子を添加すると優れた走行性のフィルムが得られ、可撓性の印刷回路,CSP,COF,BGAまたはテープ自動化接合(Tape Automated Bonding)テープ(TABテープ)用の金属配線板基材としての好適な性能を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のポリイミドフィルムは、高弾性率、柔軟性、低湿度膨張係数、熱寸法安定性および優れた走行性を有するので、このポリイミドフィルムを基材として、その表面に金属配線を施してなる金属配線板、特に可撓性の印刷回路,CSP,COF、BGAまたはテープ自動化接合テープ用として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物を基準に10モル%以上90モル%未満のナフタレンテトラカルボン酸二無水物及び90モル%未満10モル%以上のビフェニルテトラカルボン酸二無水物、並びにジアミンを基準に5モル%以上50モル%未満のパラフェニレンジアミン及び50モル%以上95モル%未満の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから得られるポリアミド酸から製造されるポリイミドフィルムにおいて、一次粒子径が1μm未満の硫酸バリウムまたはリン酸水素カルシウムを0.01〜1wt%未満含み、摩擦係数が0.5未満であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
ポリアミド酸が、ブロック成分または混交ポリマー成分を有することを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、並びにジアミンを基準に5モル%以上50モル%未満のパラフェニレンジアミン及び50モル%以上95モル%未満の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを反応させて得られるポリアミド酸溶液から膜を形成し、次いで、イミド化と同時にまたはイミド化後に、互いに直行する2軸方向に面積倍率1.1〜4倍に延伸することを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
イミド化後のフィルムを300〜500℃の温度範囲で少なくとも1軸に延伸することを特徴とする請求項3記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリイミドフィルム、または請求項3または4記載の製造方法によって得られるポリイミドフィルムを基材として、その表面に金属配線を施してなることを特徴とする金属配線板。
【請求項6】
可撓性の印刷回路、高精細COF(Chip On Film)、CSP(Chip Size Package)、テープ自動化接合テープのいずれかの用途に用いられることを特徴とする請求項5記載の金属配線板。

【公開番号】特開2006−83207(P2006−83207A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266532(P2004−266532)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】