説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と、シリコーンゴムとの接着性を両立させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)コア層がアクリル系ゴムで構成されており、平均粒子径が2μm以上であるコアシェル型ポリマー5〜30重量部、(C)ガラス繊維20〜100重量部を配合してなる、シリコーンゴムとの接着性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムとの接着性に優れ、且つエポキシ接着性の低下がない、自動車部品、電気・電子部品等に用いて有用なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びポリブチレンテレフタレート樹脂とシリコーンゴムの一体成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、電気的性質、その他物理的、化学的性質に優れ、且つ加工性が良好であるがゆえにエンジニアリングプラスチックとして、自動車、電気・電子部品等の広範な用途に使用されている。特に、水分やダスト、外部からの衝撃等からのダメージを保護する目的で、電子部品が搭載された基板を収容するケース材や、センサープローブやコネクター端子等が配置されるインサート成形品等の用途において好ましく用いられる。
【0003】
かかる用途では、基板やセンサー本体に対する水分やダスト等の影響を極力避ける目的で、基板を収めたカバー内にポッティング材を満たして加熱硬化させたり、カバーとケースを接着剤によって接合・シールする場合が多い。近年、二重成形や、熱板溶着、振動溶着、レーザー溶着等、様々な接合工法が実用化されてきているが、基板の保護を目的としたポッティングに関しては、接合工法によらずエポキシ樹脂やシリコーンゴムが広く利用されており、特に耐熱性、耐寒性が必要とされる部品にはシリコーンゴムが使用されることが多い。
【0004】
上記の工法が適用される用途においては、コネクター等の金属端子や、電気回路を構成する金属製のバスバー、各種センサー部品等が圧入やインサート成形によって配置されるのが通例であり、特に自動車に搭載される部品用途においては、高温・高湿環境や冷熱サイクル環境での高度な耐久性が求められることが多く、エラストマーや各種添加剤によって特徴付けられたポリブチレンテレフタレート材料が用いられるのが一般的である。
【0005】
このような要求に鑑み、特許文献1では、ポリブチレンテレフタレートと特定のアクリル系ゴムからなり、金属又は無機固体をインサート成形してなる成形品が提案されている。
【0006】
特許文献1で提案されている材料は、何れもインサート成形品の冷熱サイクル性についいてはある程度優れた特徴を示すが、シリコーンゴムとの接着性に関しては言及がなく、現実には何れも著しく劣る性能を示し、接着のためにはエッチング処理等の接着面の加工が好ましく、代替溶着技術が切望されていた。
【0007】
シリコーンゴムによる接着に関しては、被着材側の物理的な表面状態(粗さ)の影響のみならず、化学組成の影響、例えば滑剤等の添加剤の染み出しによって接着性が阻害される場合や、添加剤によって接着剤の化学反応が抑制される場合等があり、従来、被着材の組成が接着強度を決める要因になりやすかった。
【0008】
耐熱性が要求される電子部品を収容する部品においては、電子部品を水分や化学物質から保護する目的で、電子部品を収容した後にケースにシリコーンゴムを注入し、封止することが必要不可欠であり、ケース材やカバー材の選定によっては、かかるシリコーンゴムが硬化不良や界面密着不良を生じ、部品として十分な機能を発揮できない場合があった。
【0009】
また、かかる電子部品を収容するケースの接合方法として、様々な公知の溶着方法が提案されているが、電子部品へのダメージを避けるため、シリコーンゴムで接合することが通常行われているが、上述のように、硬化不良や界面密着不良を生じ、部品として十分な機能を発揮できない場合があった。
【0010】
更に、特許文献2、3では、付加型シリコーンとの接着強度の改善に関して、特定のポリブチレンテレフタレートと、特定の珪素化合物、フェノール系抗酸化剤及び/又はチオエーテル系抗酸化剤を含む組成物が提案されている。
【0011】
しかしながら、かかる組成では、自動車産業で要求される材料の耐冷熱サイクル性を満たすことができない。また、一般的に、特定の珪素化合物を多量に添加することでシリコーンゴム自体の物性低下を招いたり、硫黄系化合物や三価のリン化合物により、硬化触媒の白金化合物が失活して反応阻害を招くことが知られており、特許文献2、3の組成物は実用性に欠けるものであった。
【0012】
更に、特許文献4では、エポキシ又は付加型シリコーンゴムとの接着性を向上させる手法として、グリシジル基含有のアクリル系エラストマーを使用することが提案されているが、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度が上昇するため、流動性を低下させてしまう場合があった。
【特許文献1】特開昭和63−3055号公報
【特許文献2】特開平9−165503号公報
【特許文献3】特開平10−316844号公報
【特許文献4】特開2007−91842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み案出されたものであり、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と、シリコーンゴムとの接着性を両立させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記目的を達成し得るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得るため鋭意検討を行った結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂を主体とし、これに特定のアクリル系エラストマー及びガラス繊維を併用配合した組成物は、機械的物性の大きな低下なしに、シリコーンゴムとの接着性および耐ヒートショック性に極めて優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち本発明は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)コア層がアクリル系ゴムで構成されており、平均粒子径が2μm以上であるコアシェル型ポリマー5〜30重量部、(C)ガラス繊維20〜100重量部を配合してなる、シリコーンゴムとの接着性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物を成形してなる成形体、特にインサート成形体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷熱サイクル環境での高度な耐久性等の性能と、シリコーンゴムとの接着性を両立させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提供される。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、各種電気・電子部品、特に電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品、金属端子、金属バスバー又はセンサーをインサート成形・圧入加工してなる成形品に有用である。更に、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂成形品は、シリコーンゴムによりポッティング及び/又は接着されてなる電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、順次本発明の樹脂材料の構成成分について詳しく説明する。まず本発明の樹脂組成物の基礎樹脂である(A) ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(低級アルコールエステルなど)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4 −ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート系樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75〜95モル%程度)含有する共重合体であってもよい。
【0018】
ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などの、C6〜C12 アリールジカルボン酸など)、脂肪族ジカルボン酸成分(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC4〜C16 アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのC5〜C10 シクロアルキルジカルボン酸など)、またはそれらのエステル形成誘導体などが例示できる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸などのC6〜C10 アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸成分(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC6〜C12 アルキルジカルボン酸)が含まれる。
【0020】
1,4 −ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分〔例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3 −ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3 −オクタンジオールなどのC2〜C10 アルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリオキシC2〜C4アルキレングリコールなど)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどの脂環式ジオールなど〕、芳香族ジオール成分〔ビスフェノールA、4,4 −ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族アルコール、ビスフェノールAのC2〜C4アルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体など)など〕、またはそれらのエステル形成誘導体などが挙げられる。これらのグリコール成分も単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特に、C2〜C6アルキレングリコール、ジエチレングリコールなどのポリオキシC2〜C3アルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール)が含まれる。
【0022】
前記化合物をモノマー成分とする重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート系重合体は、いずれも本発明の(A) 成分として使用できる。ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体との併用も有用である。
【0023】
本発明においては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、固有粘度が0.65〜1.0、且つ末端カルボキシル基の含有量が10〜40m当量/kgのものであることが好ましい。固有粘度がかかる範囲を超えて低いと、所望の機械的特性が得られず、かかる範囲を超えて高いと、組成物の流動性が著しく低下し、射出成形性が低下する。末端カルボキシル基の含有量がかかる範囲を超えて低いと、ガラス繊維の補強効果が著しく低下し、所望の機械的特性が得られず、かかる範囲を超えて高いと、所望の耐ヒートショック性が得られず、好ましくない。
【0024】
次に、本発明で(B) 成分として用いるコアシェル型ポリマーについて説明する。
【0025】
コアシェル型ポリマー(コアシェル型エラストマー)は、コア層(コア部)と、このコア層(コア層の表面)の一部又は全部を被覆するシェル層で構成された多層構造を有するポリマーである。コアシェル型ポリマーにおいて、コア層およびシェル層のうち、何れか一方がゴム成分(軟質成分)で構成され、他方の成分が硬質成分で構成される。
【0026】
コア層は、通常、ゴム成分で構成されている場合が多く、本発明では特にアクリル系ゴムが用いられる。ゴム成分のガラス転移温度は、例えば、0℃未満(例えば、−10℃以下)、好ましくは−20℃以下(例えば、−180〜−25℃程度)、更に好ましくは−30℃以下(例えば、−150〜−40℃程度)であってもよい。
【0027】
ゴム成分としてのアクリル系ゴムは、アクリル系モノマー[特に、アルキルアクリレート(ブチルアクリレート等のアクリル酸C〜C12アルキルエステル、好ましくはアクリル酸C〜Cアルキルエステル、更に好ましくはアクリル酸C〜Cアルキルエステル)等のアクリル酸エステル]を主成分とするポリマーである。アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独又は共重合体(アクリル系モノマー同士の共重合体、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体等)であってもよく、アクリル系モノマー(および他の不飽和結合含有モノマー)と架橋性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0028】
架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸系単量体{多官能性(メタ)アクリレート[例えば、ブチレンジ(メタ)アクリレート等のアルキレン(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(又はオリゴ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等)、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(ポリ)ヒドロキシアルカンポリ(メタ)アクリレート等]のビニル系単量体(例えば、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等);グリシジル(メタ)アクリレート等}、重合性不飽和結合を有する加水分解縮合性化合物[例えば、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤(3−トリメトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルコキシシラン等)等]、アリル系化合物(例えば、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタニレート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリル(イソ)シアヌレート等)等が挙げられる。これらの架橋性モノマーは、単独又は2種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0029】
アクリル系ゴムにおいて、アクリル酸エステル(特に、アルキルアクリレート)の割合は、アクリル系ゴム全体に対して50〜100重量%、好ましくは70〜99重量%、更に好ましくは80〜98重量%程度であってもよい。また、アクリル系ゴムにおいて、架橋性モノマーの割合は、アクリル酸エステル100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部、更に好ましくは0.3〜5重量部程度であってもよい。
【0030】
尚、コア層は、アクリル系ゴムを主成分として含んでいる限り、非ゴム成分(例えば、後述の硬質樹脂成分)を含んでいてもよい。コア層全体に対するゴム成分の割合は、30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、更に好ましくは70〜100重量%程度であってもよい。また、コア層の構造は、均一な構造であってもよく、不均一な構造(サラミ構造等)であってもよい。
【0031】
コアシェル型ポリマーにおいて、シェル層は、通常、硬質樹脂成分(またはガラス状樹脂成分)で構成されている。硬質樹脂成分のガラス転移温度は、例えば、0℃以上(例えば、20℃以上)の範囲から選択でき、例えば、30℃以上(例えば、30〜300℃程度)、好ましくは50℃以上(例えば、60〜250℃程度)、更に好ましくは70℃以上(例えば、80〜200℃程度)であってもよい。
【0032】
このような硬質樹脂成分は、通常、ビニル系重合体(ビニル系単量体の重合体)で構成されている。ビニル系重合体(樹脂)において、ビニル系単量体(ビニル系モノマー)としては、ビニル系重合体を上記のようなガラス転移温度に調整できる限り特に限定されず、例えば、メタクリル系モノマー[例えば、アルキルメタクリレート(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のC〜C20アルキルメタクリレート、好ましくはC〜C10アルキルメタクリレート、更に好ましくはC〜Cアルキルメタクリレート)、アリールメタクリレート(フェニルメタクリレート等)、シクロアルキルメタクリレート(シクロヘキシルメタクリレート等)等のメタクリル酸エステル等]等の他、前記例示のモノマー[例えば、アクリル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー(例えば、スチレン等)、オレフィン系モノマー、シアン化ビニル系モノマー(例えば(メタ)アクリロニトリル等)]等が挙げられる。これらビニル系単量体は、単独又は2種以上組み合わせて使用されてもよい。ビニル系単量体は、メタクリル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、シアン化ビニル系モノマーから選択された少なくとも1種[特に、少なくともメタクリル酸エステル(メチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート等)]を重合成分とする重合体である場合が多い。
【0033】
シェル層は、コア層の一部又は全部を被覆していれば、単一の層であってもよく、複数の層で形成されていてもよい。
【0034】
コアシェル型ポリマーにおいて、コア層とシェル層の割合は、前者/後者(重量比)=99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95、更に好ましくは90/10〜10/90であってもよく、通常、95/5〜30/70(例えば、85/15〜50/50)であってもよい。
【0035】
本発明において、(B) コアシェル型ポリマーの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し5〜30重量部である。かかる範囲より少ないと耐ヒートショック性の改善効果に乏しい。また、かかる範囲より多いと流動性を低下させる。
【0036】
本発明において、(B) コアシェル型ポリマーの平均粒子径は2μm以上、好ましくは5μm程度が望ましい。コアシェル型ポリマーはポリブチレンテレフタレートよりもシリコーンゴムとの接着強度が低く、平均粒子径が2μmより小さい場合、コアシェル型ポリマーの表面積が大きくなり、その結果、シリコーンゴムとの接着性が低下するものと推測される。
【0037】
また、コアシェル型ポリマーのシェル層はマトリックス樹脂と接触し、マトリックス樹脂と界面を形成する部分である。シェル層のマトリックス樹脂と界面を形成する部位にはグリシジル基をはじめとする、マトリックス樹脂と反応する官能基を含まないことが望ましい。反応性官能基を有することにより、樹脂全体の粘度が上昇してしまい、溶融時の流動性が低下し、成形性に悪影響を与える可能性がある。
【0038】
本発明で用いられる(C)ガラス繊維とは、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられ、ガラス繊維径や、円筒、繭形断面、長円断面等の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法にはよらない。本発明では、ガラスの種類にも限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0039】
また、本発明では、ガラス繊維と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理されたガラス繊維が特に好ましく用いられ、加熱減量値で示される有機処理剤量が1重量%以上であるガラス繊維が特に好ましく用いられる。かかるガラス繊維に用いられるアミノシラン化合物やエポキシ化合物としては公知のものがいずれも好ましく用いることができ、本発明でガラス繊維の表面処理に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物の種類には依存しない。
【0040】
(C)ガラス繊維は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し20〜100重量部が用いられる。かかる範囲より少ないと冷熱サイクルに伴う線膨張変化が大きく、耐ヒートショック性上好ましくない。かかる範囲を超えて配合されると、材料の許容歪量が低下し、耐ヒートショック性上好ましくない。好ましくは20〜80重量部、特に好ましくは30〜60重量部である。
【0041】
本発明組成物には更にその目的に応じ所望の特性を付与するため、本来の目的であるシリコーンゴムとの接着性を損なわない範囲で、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の物質、すなわち酸化防止剤や耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤、加水分解向上剤(エポキシ化合物、カルボジイミド等)、タルク、ガラスフレーク等の無機充填剤等を配合してもよい。
【0042】
尚、本発明で言うシリコーンゴムとは、接着剤として、あるいは電気・電子部品をポッティングするために使用される液状のシリコーンゴムであり、室温または加熱することにより硬化するものである。一般には、付加反応型シリコーンゴムと縮合反応型シリコーンゴムの大きく2種類に分類される。付加反応型シリコーンゴムは白金系触媒による付加反応により硬化が進行し、縮合反応型シリコーンゴムはアセトン、アルコール、水、その他の縮合生成物を生じながら縮合反応により硬化が進行していくものである。
【0043】
更に、成形品の低そり性を付与するために、シリコーンゴムとの接着性に悪影響を及ぼさない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等の樹脂成分を添加してもよい。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、シリコーンゴムとの接着性に優れ、更にエポキシ接着性を低下させることがない。
【0045】
本発明で用いる樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【実施例】
【0046】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1〜2、比較例1〜4
表1に示すように、(A) ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し各成分を表1に示す混合比率でドライブレンド後、30mmφ2軸押出機((株)日本製鋼所製TEX-30)を用いて溶融混練しペレットを作成した(シリンダー温度260℃、吐出量15g/h、スクリュー回転数150rpm)。次いで、このペレットから各試験片を作成し、各種物性を測定した。結果をあわせて表1に示す。
【0047】
また、使用した成分の詳細、物性評価の測定法は以下の通りである。
(A) ポリブチレンテレフタレート樹脂
・(A-1) ウインテックポリマー(株)製、固有粘度0.69
・(A-2) テレフタル酸と1,4 −ブタンジオールとの反応において、テレフタル酸の一部(12.5モル%)に代えて、共重合成分としてのジメチルイソフタル酸12.5モル%を用いた変性ポリブチレンテレフタレート、固有粘度0.74
(B) エラストマー成分
・(B-1) アクリル系コアシェルポリマー;(株)ロームアンドハース製、EXL5136(平均分散径4〜5μm)
・(B'-1) アクリル系コアシェルポリマー;(株)ロームアンドハース製、EXL2311(平均分散径0.3〜0.6μm)
・(B'-2) グリシジルメタクリレート変性アクリル系エラストマー;(株)ロームアンドハース製、EXL2314(平均分散径0.1〜0.3μm)
・(B'-3) アクリル系コアシェルポリマー;(株)ロームアンドハース製、KM336P(平均分散径0.3〜0.6μm)
(C) ガラス繊維
・(C-1) 日本電気硝子(株)製、T127
[接着強度]
ISO3167に準拠した多目的試験片の中央部を切断し、一方の試験片に7mm×7mmの穴を開けたニトフロンテープ(厚み0.18mm)を貼り付け、穴の部分に下記接着剤を塗布した。塗布後、試験片の他方を重ね合わせ、クリップで固定し、所定の硬化条件で接着を行った。接着後の試験片を23℃、50%RHの環境に24時間以上放置し、万能試験機を用いて押剥がし試験速度5mm/minで接着した試験片を押剥がし、そのときの押剥がし強度の最高値を測定した。
【0048】
接着剤の種類と硬化条件は以下の通りである。
・付加反応型シリコーンゴム;東レダウコーニングシリコーン製SE1714
(硬化条件;120℃×1時間)
・縮合反応型シリコーンゴム;モーメンティブ製TSE399
(硬化条件;23℃×7日)
・エポキシ接着剤;ナガセケムテックス製XN1244B
(硬化条件;120℃×30分)
[溶融粘度特性]
ISO11443に準拠しシリンダー温度260℃で測定した。
[コアシェル型ポリマーの平均分散径]
ISO3167に準拠した多目的試験片の中央部を切削し、この切削部を115℃のキシレン中に2.5時間浸漬してエッチング処理した。そして、切削部厚み方向の中央部分を電子顕微鏡で3カ所破面観察し、各観察点についてコアシェル型ポリマーが脱離して形成された孔の径を粒子径(分散径)とし、任意の10個について分散径の測定を行い、平均分散径とした。
[耐ヒートショック性]
ペレットを用いて、樹脂温度260℃、金型温度65℃、射出時間25秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦22mm、横22mm、高さ51mmの角柱内部に縦18mm、横18mm、高さ30mmの鉄芯をインサートする金型)に、一部の樹脂部の最小肉厚が1mmとなるようにインサート射出成形し、インサート成形品を製造した。得られたインサート成形品について、冷熱衝撃試験機を用いて140℃にて1時間30分加熱後、−40℃に降温して1時間30分冷却後、さらに140℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、成形品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)コア層がアクリル系ゴムで構成されており、平均粒子径が2μm以上であるコアシェル型ポリマー5〜30重量部、(C)ガラス繊維20〜100重量部を配合してなる、シリコーンゴムとの接着性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分が、シェル層にグリシジル基を含有しないコアシェル型ポリマーである請求項1ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形して得た成形品の表面に、シリコーンゴムを注入して硬化せしめてなるポリブチレンテレフタレート樹脂とシリコーンゴムの一体成形体。
【請求項4】
一体成形体が、金属端子、金属バスバー又はセンサーをインサート成形・圧入加工してなる電子部品を収容するケース、カバー又はハウジング成形品である請求項3記載の一体成形体。

【公開番号】特開2009−155448(P2009−155448A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334705(P2007−334705)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】