説明

ポリプロピレンのナノスケールのβ−核形成剤

本発明は、ナノスケールのジカルボン酸塩の分散液を製造する方法、コンパウンドを製造するためのこれらの分散液の使用、およびフィルムを製造するための使用に関する。本発明はさらにフィルムの製造のためのコンパウンドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明はポリプロピレンのナノスケールのβ−核形成剤、およびポリプロピレンにおけるβ−結晶変態の分量を増加させる方法、および多孔質フィルムに関する。
【0002】
アモルファス相に加えて、3つの異なる結晶相、即ちα−、β−、γ−相がポリプロピレンで知られている。ポリプロピレンの融液を冷却すると、通常はα−結晶PPが主に形成される。ポリプロピレン融液の冷却期間中のある種の温度制御によって、増加した分量のβ−結晶相を生成させることができる。このようにして生成したβ−結晶PPの分量は10%未満(第1の加熱)になる。単斜α−変態と比較して、PPの六方β−変態はより良好な機械的特性、例えばより良好な衝撃強度および応力クラック抵抗により特徴付けられる。それに加えて、140乃至155℃では、少なくとも160℃の溶融点を有するα−変態と比較して、ポリプロピレンのβ−変態は明らかにより低い溶融点を有する。それ故、多くの用途において、増加した分量のβ−結晶PPはポリプロピレンのある種の性能特性に有益な効果を有する。この理由で、過去に、融液を冷却すると、高い分量のβ−変態にあるポリプロピレンをもたらす添加剤、いわゆるβ−核形成剤またはβ−核形成体が開発された。
【0003】
独国特許第1188278号に、顔料γ−キナグリドンが高活性のβ−核形成体として記載されている。しかしこの核形成剤の欠点は強い赤色着色であり、熱安定性がないことである。米国特許第3,540,979号に、フタル酸のカルシウム塩が熱安定性のある核形成剤として記載されている。この核形成剤の欠点はその低活性である。それにより実現されるβ−結晶PPの分量は最大で70%(K〜0.5−0.7)になる。
【0004】
炭酸カルシウムおよび有機ジカルボン酸の二成分の核形成系がDE 3 610 644に記載されている。しかし実際にはこの核形成系は可変の活性を示す。DE 3 610 644に記載されたジカルボン酸のカルシウム塩の直接使用がDE 44 420 989に記載されている。種々のジカルボキサミド、特にN,N−ジクロヘキシル−2,6−ナフタレン−ジカルボキサミドの核形成効果がEP 0557721に記載されている。この核形成体の欠点は高い抽出費用と、製造期間中の複雑な合成工程である。
【0005】
本発明の目的は改善されたβ−核形成剤、およびβ−結晶ポリプロピレンの製造方法、および高いガス透過率を有するフィルムを製造するための改善された方法を提供することである。この方法を使用すれば、再現可能で信頼性のあるやる方で、高いβ−分量を実現することが可能である。この方法は簡単で効率的に実行可能である。β−核形成剤による変態はポリプロピレンの通常の重要な性能特性を損ねてはならない。多孔質フィルムを製造するときの操作上の信頼性は改善される。
【0006】
この目的は、脂肪族ジカルボン酸を水溶液中の二価金属塩と反応させてジカルボン酸塩を生成させ、次に前記ジカルボン酸塩を分離して乾燥させる、非水の液相の分散したアルカリ土類ジカルボン酸塩の安定な分散液を製造する方法であって、乾燥したジカルボン酸塩を浄化して、安定な分散液が形成されるまで非水の液相中で崩壊させる方法によって解決される。
【0007】
本発明に関して、分散液は異種混合物を意味し、ここでジカルボン酸塩は分散相として細かく分布された連続的な液相中の固体として存在し、ここでは塩は液相に溶解しないかまたはほとんど溶解しない。2つの相はコンパウンドも形成しない。
【0008】
分散液は個々の相が相互に分離される事実、即ち相互に溶解されない事実によっても特徴付けられ、物理的方法、例えば濾過、遠心分離で再度、相互から分離することができる。安定な分散液は実質的にはそれ自体で、例えば沈殿によりこれ以上分離されない。
【0009】
本発明に関して、非水相は有機コンパウンドを意味し、これは室温では液体であり、その含水量は1重量%未満であり、例えばアルコール、より低量のアルカン、ケトン、および類似の液体である。
【0010】
乾燥は、所定の文脈にしたがって、本発明に関しては水または湿気の除去と非水性の液相の分離を意味している。
【0011】
この目的も、ポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸塩とのコンパウンドを製造する方法であって、請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法により製造した前記分散液から前記非水の液相を除去し、残留したジカルボン酸塩の粉末をポリプロピレンと混合し、次にこのようにして得た予備混合物を溶融して押し出して粒状のコンパウンドにする方法によって解決される。
【0012】
本発明に関して、コンパウンドは添加物として少なくとも1つのポリプロピレンとジカルボン酸塩との均一混合物を意味している。
【0013】
この目的は、同様に、ポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸塩とのコンパウンドを製造する方法であって、請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法により製造された分散液をポリプロピレンと混合し、この混合物から前記非水の液相を除去し、次にこのようにして得た予備混合物を溶融して押し出して粒状のコンパウンドにする方法によって解決される。
【0014】
最後にこの目的は、増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するポリプロピレンの製造方法であって、請求項7または8記載の方法に従って製造したコンパウンドを、必要ならばポリプロピレンおよび/または別のポリマーと混合し、少なくとも150℃の温度で溶融し、次に冷却して、前記冷却したポリプロピレン融液が増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するようにする方法によって解決され、同様にこの目的は、少なくとも1つの多孔質層を有する二軸延伸ポリプロピレンの製造方法であって、請求項7または8記載の方法に従って製造したコンパウンドを、必要ならばポリプロピレンおよび/または別のポリオレフィンおよび/または別の添加物と混合し、少なくとも150℃の温度で溶融し、フラットノズルを通して押し出し、冷却ローラーで冷却して、前記冷却したプレフィルムが増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有し、次に前記プレフィルムを加熱して縦方向および横方向に延伸し、延伸期間中の温度を選択して前記プレフィルムの前記β−結晶ポリプロピレンがポリプロピレンのα−変態へ変換するようにする方法によって解決される。
【0015】
従属請求項は本発明の好ましい実施形態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】多孔質フィルムに凝集体がなく、Ca−ピメリン酸塩の均一な分布を示すREM像の図である。
【図2】5μmまたはそれ以上に及ぶサイズを有する凝集形成された粒子を示すREM像の図である。
【0017】
本発明はナノスケールのジカルボン酸塩が、これらのナノスケールのジカルボン酸塩を含むポリプロピレン融液の冷却時に高い分量のβ−結晶ポリプロピレン(以後β−分量とする)の形成を生じるという発見に基づいている。高いβ−分量を有する冷却融液は、ナノスケールのジカルボン酸塩の粒径が可視光の波長よりもかなり小さいので、透明なPPマトリックスを形成する。ナノスケールのジカルボン酸塩は通常、1乃至500nm、好ましくは5乃至300nmの粒径を有し、ここで同時に1μmよりも大きい粒径を有する粒子または凝集体が3%未満、好ましくは0より大きく1%未満含まれる。したがって、ナノスケールのジカルボン酸塩の平均粒径も1乃至500nm、好ましくは5乃至300nmの前記範囲内にある。
【0018】
本発明に関して、ナノスケールのジカルボン酸塩は塩を含み、これらがベースとしているα−ジカルボン酸は少なくとも4乃至15のC原子、特に5乃至10のC原子を有する。ピメリン酸またはスベリン酸の塩、例えばCa−ピメリン酸塩またはCa−スベリン酸塩が特に好ましい。種々のジカルボン酸塩の混合物を使用することもできる。通常、アルカリ土類塩が好ましいが、原理上、例えば二価鉄、ニッケル、亜鉛等をベースとする他の二価金属塩も使用することができる。
【0019】
ナノスケールのジカルボン酸塩の合成は、例えばピメリン酸またはスベリン酸のようなα−ジカルボン酸と、例えば塩化物、炭酸塩、水酸化物のような二価金属塩、好ましくは例えばアルカリ土類塩化物、アルカリ土類炭酸塩またはアルカリ土類水酸化物のようなアルカリ土類塩との本質的に知られた沈殿反応により水溶液で行われる。副産物としての塩酸またはCOの形成が避けられるので、例えばCa(OH)のようなアルカリ土類水酸化物が好ましい。反応において、通常、脂肪族ジカルボン酸の水溶液が使用される。脂肪族ジカルボン酸を水に入れ、脂肪族ジカルボン酸が溶解するまで、例えば70乃至95℃の温度で、好ましくは75乃至90℃の温度で攪拌下に加熱する。次に、金属塩水溶液、好ましくはアルカリ土類塩溶液、特にCa(OH)溶液を攪拌下で加える。ここで反応剤を化学量論的量で使用する。ここで、ジカルボン酸塩は微細な沈殿物として沈殿する。この沈殿物を分離し、適切な方法で乾燥し、例えば100乃至120℃で乾燥キャビネットにおいて予備乾燥する。次に、例えば真空下で、例えば真空乾燥キャビネットにおいて約150乃至200℃で、ジカルボン酸塩の残りの湿気含有量をさらに減少させる。好ましくは、乾燥ジカルボン酸塩の含水量が0乃至2重量%になり、好ましくは0より大きい値から1重量%までの範囲である。このようにして、乾燥粉末状のジカルボン酸塩を得る。乾燥後、この粉末は1から100μmを超える粒径を有する凝集体を含み、ここで、主な分量のこれらの凝集体は約10μmの粒径を有する。これらの凝集体の分量は通常5%を超える。
【0020】
本発明によれば、次の工程で、ジカルボン酸塩を非水の液相に懸濁する。液相の含水量は通常、1重量%未満、好ましくは0より大きく0.8重量%未満である。液相は例えば低級アルカンであり、これは例えばヘキサン、ヘプタンのような室温で液体であり、または例えばエタノール、ブタノールまたはイソプロパノールのようなアルコール、あるいは例えばアセトンのような液体ケトンである。これらの液相の混合物も使用することができる。通常、液相の重量に関して、ジカルボン酸塩の少なくとも5乃至60重量%まで、好ましくは10乃至50重量%、特に15乃至40重量%を液相に懸濁する。液相における塩の懸濁に続いて、スラッジを粉末にする。崩壊のために、例えば通常の粉砕機、超音波またはボールミルあるいは他の通常の湿式粉砕または崩壊プロセスが役に立つ。ここで、ジカルボン酸塩を好ましくは1未満乃至500nm、特に5乃至200nmの粒径に粉砕する。液相における粉砕後、ナノスケールのジカルボン酸塩は安定な分散液を形成し、ここで1000nmを超える凝集体は低量でのみ存在するか、もはや全く存在しない。ナノスケールの分散相への転移は、液相における懸濁後の粉砕前に、懸濁したジカルボン酸塩が最初に2から3分以内に再度直接的に沈殿するが、次の粉砕が安定で乳状の混濁した分散液を形成し、ここで粒子はもはや沈殿しないという事実も示す。この分散液はしたがって、処理までの通常の時間期間、例えば少なくとも1時間または数時間の期間にわたって実質的に安定である。必要ならば、依然として粉砕後に存在する可能性があるこのような凝集体を分離するためにスラッジを追加で濾過することができる。濾過媒体を1μmよりも大きいサイズの全ての粒子が分離されるように選択し、次にスラッジにはこのサイズの粒子がないか、その粒子を少なくとも1%未満含む。
【0021】
この安定な分散液を例えば粉末または粒の形態でポリプロピレンと混合し直接的に乾燥することができる。代わりに、分散液の液相を分離し、したがって得られたナノスケールのジカルボン酸塩の粉末を粉末または粒の形態のポリプロピレンと混合する。これらの2つの可能なプロセスの変形により、ナノスケールのジカルボン酸塩とポリプロピレンとの予備混合物を得る。両方法では、非水で液相の分離を、通常の適切な手段の使用、例えば蒸発、真空における吸出し、蒸留、或いはフィルタプレスの使用により行う。予備混合物は通常0乃至2重量%、好ましくは0よりも大きく1重量%までの液相を含んでいる。
【0022】
必要ならば、ナノスケールのジカルボン酸塩の凝集をさらに良好に防止するため、およびポリプロピレンマトリックスにおけるジカルボン酸塩の分散性を改善するため、分散液を製造するときまたはジカルボン酸塩とポリプロピレンとを混合するとき、例えば高級カルボン酸、シラン、アミンまたはスルホン酸塩のような界面活性剤を追加で加えることができる。これらの目的に特に好ましいのは、オレイン酸またはステアリン酸のような長鎖の脂肪酸である。驚くことに、しかし本発明による分散液はこのような補助物質なしでも非常に安定である。
【0023】
したがって、ポリプロピレンとジカルボン酸塩とのこれらの予備混合物を直接的に処理して製品にすることができ、ここで必要ならば、別のポリオレフィンおよび/または別の添加物を加えることができる。好ましい変形では、さらに別のプロセス工程において、これらの予備混合物をコンパウンドしてナノスケールのジカルボン酸塩を有する粒にする。コンパウンドの製造は通常、適切な温度、例えば160乃至300℃の範囲で予備混合物を溶融することにより行われる。溶融を適切な押出機、例えば二軸押出機で行うことが好ましく、これは同時にポリプロピレンにおけるナノスケールのジカルボン酸塩の良好な混合物を保証する。溶融された混合物を押し出して顆粒にし、これらを適切な温度で冷却する。コンパウンド期間中、ポリプロピレンに加えて、別の添加物および/またはポリエチレンのような他のポリオレフィンを同様に加えることができる。これらのコンパウンドを次に、例えば射出成形部品、フィルム、多孔質フィルム、繊維等の製品の製造に使用することができる。
【0024】
通常、予備混合物またはそこから粒状化したコンパウンドはそれぞれ0.0001乃至5重量%、好ましくは0.001乃至3重量%のナノスケールの脂肪族ジカルボン酸塩を含んでいる。特にフィルムの用途では、それぞれコンパウンドまたは予備混合物中のジカルボン酸塩の含有量は0.001乃至1重量%であることが好ましい。重量%での詳細はそれぞれ混合物またはコンパウンドの重量をさしている。必要ならば種々のジカルボン酸塩を混合し、次に、使用することもできる。
【0025】
製品の製造に使用される少なくとも1つのポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸塩とのコンパウンドの予備混合物は通常、ポリプロピレンの少なくとも50乃至100重量%未満、好ましくは60乃至99重量%、特に70乃至99重量%と、必要ならば例えばポリエチレンのような別のポリオレフィンおよび/または別の添加物を含む。重量%での詳細はそれぞれ混合物の重量をさしている。
【0026】
適切なポリプロピレンは例えば、140乃至170℃の融点、好ましくは155乃至168℃の融点と、1.0乃至50g/10分のメルト・フロー・インデックス(21.6Nの荷重および230℃におけるDIN 53 735による測定)を有するアイソタクチックポリプロピレンホモポリマーである。ポリマーのn−ヘプタンの可溶分量は初期のポリマーに対して1乃至10重量%、好ましくは2乃至5重量%になる。ポリプロピレンポリマーの分子量分布は変化しうる。
【0027】
重量平均Mと数平均Mとの比は通常、1乃至15、好ましくは2乃至10、特に好ましくは2乃至6である。このようなプロピレンホモポリマーの近接した分子量分布は例えばその過酸化物減成によって、または適切なメタロセン触媒を使用したポリプロピレンの製造によって実現される。
【0028】
さらに別の実施形態では、使用するプロピレンホモポリマーは高度にアイソタクチックである。このような高度にアイソタクチックなポリプロピレンでは、13C−NMR分光法を使用して決定されたn−ヘプタンの不溶分量の連鎖アイソタクチック指数は少なくとも95%、好ましくは96乃至99%になる。
【0029】
さらに、混合プロピレンポリマーはポリプロピレンとして適切であり、これは通常、プロピレンユニットの少なくとも80重量%、好ましくは90乃至100重量%未満、特に95乃至99重量%を含む。それぞれ多くても20重量%または0より大きい値から10重量%あるいは1乃至5重量%のそれぞれのコモノマー含有物は通常、存在するならばエチレンおよび/またはブチレンからなる。重量%での詳細はそれぞれプロピレンポリマーをさしている。例えばコモノマーとしてエチレンおよび/またはブチレンを含む適切な混合ポリマーはスタティスティック混合ポリメリセイトまたはブロックコポリマーであることが好ましい。
【0030】
増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するポリプロピレンの本発明による製造方法によれば、ポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸塩の予備混合物またはコンパウンドを適切な温度で溶融する。通常、この温度は160乃至300℃の範囲にある。溶融を適切な押出機、例えば二軸押出機で行うことが好ましく、これは同時にポリプロピレン中のナノスケールのジカルボン酸塩の良好な混合物を保証する。溶融された混合物を押し出し、適切な温度で冷却する。
【0031】
予備混合物およびコンパウンドは、核形成剤なしで別のポリプロピレンと共に、および/または必要ならば別のポリオレフィンおよび/または添加物と共に本発明による方法で使用することができる。次に、全ての成分を押出し器具または混練機中で共に溶融し、相互に混合し、押し出して、ある分量のβ−結晶ポリプロピレンを有する製品にする。
【0032】
全プロセスの変形について、不可欠なことは、押出しに続いて、ナノスケールのジカルボン酸塩を含む融液の冷却を、ナノスケールのジカルボン酸塩のβ−核形成効果が開始するように行うことである。そのため、60乃至135℃、好ましくは80乃至130℃の範囲の温度で融液をゆっくりと冷却することが好ましい。この温度がβ−結晶ポリプロピレンの結晶化温度に近づくほど、β−結晶変態の形成の条件は好ましくなる。このようにして、冷却時の温度の選択によって、多かれ少なかれ高い分量のβ−ポリプロピレンを製造することができる。加えて、それぞれの温度での融液の冷却の保持期間は実現したβ分量に影響する。最高の可能なβ−分量を実現するため、融液をより高い温度で非常にゆっくりと冷却すべきであり、ここで個々のケースで所定の温度における必要な保持期間は押出時の成形物に基づいている。
【0033】
実際の用途によっては、ポリプロピレンにおける低いβ−分量も十分でありうる。β−核形成ジカルボン酸塩は冷却速度を増加させることができ、即ちより高速度の線速度または押出速度を使用することができるので、これらのケースでは正の効果を有する。したがって、この方法により製造されるポリプロピレンのβ−分量(第1の加熱)は用途に応じて、10乃至95%、好ましくは20乃至80%、特に50乃至90%の範囲で変化しうる。
【0034】
本発明による方法を使用して、それぞれの冷却条件下で、80%を超える、好ましくは85乃至95%のβ−ポリプロピレンの含有物を実現することが可能である(DSC方法、第1の加熱)。例えばナノスケールのジカルボン酸塩の0.1重量%を有するアイソタクチックプロピレンホモポリマーにおけるDSC測定(第1の加熱)により、92%のβ−結晶ポリプロピレンの分量が測定された。
【0035】
本発明による方法はフィルム、成形物、特にチューブ及びホース、繊維、およびその他の押出し製品の製造に有効に適用することができる。例えば押出し温度を低下することができ、或いは保持期間を短縮することができるので、ナノスケールのβ−ジカルボン酸の高い効率は最も多くの異なる押出用途で有益な効果を有する。幾つかの用途では、ポリプロピレンの性能特性が改善され、例えばポリプロピレンのより高い衝撃強度と応力クラック抵抗が実現されるので、増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンは好都合である。さらに別の用途では、ポリプロピレンの特に高いβ−分量を、フィルムを延伸するときβ−変態をα−変態へ変換することによって多孔質フィルムを製造するために、または延伸フィルムの粗い表面を作るために使用する。
【0036】
ナノスケールのジカルボン酸塩は、多孔質の二軸延伸フィルム、または1または幾つかの多孔質層を有する延伸フィルムを製造する方法で使用するには驚くべき利点を与えることが発見されている。一方で、β−ポリプロピレンの高い含有物はそれぞれこのフィルムまたは多孔質層の気孔率と、そのガス透過率とに正の効果を有する。しかし、他のβ−核形成剤がプレフィルムで比較的高いβ−含有物、例えばジカルボン酸塩を生成できることも発見され、これは製造時にスラッジの追加の粉砕を受けない。しかし、これを使用するとき、ポリプロピレンを同じ方法で高い気孔率を有するフィルムまたは層にそれぞれ延伸できないことが分かる。本発明によるナノスケールのジカルボン酸を使用するとき、延伸条件、特に高い延伸係数を適用することができ、これは特にそれぞれフィルムまたは層の高い気孔率を生じ、ここでフィルムの驚異的に良好な操作上の信頼性が得られる。
【0037】
本発明は単層および多層の多孔質フィルムを製造するのに好都合である。メンブランフィルムはそれが1つの多孔質フィルムのみを含み、または幾つかの層の場合には多孔質層のみを有し、高いガス透過率を有する事実により特徴付けられる。必要ならば、本発明は多層フィルムにも使用することができ、これは1または幾つかの多孔質層に加えて、さらに1つのまたは幾つかの実質的にガス不透過性の層を含む。多孔質フィルムに関するこの明細書の詳細はしたがって同じ方法でまたは同様に、多孔質層または多層フィルムの多孔質層にもあてはまる。
【0038】
特に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造するとき、1つの多孔質層または複数の多孔質層の成分、即ち必要ならば別のポリプロピレンおよび/または別のポリマーおよび/または別の添加物と混合したナノ−ジカルボン酸塩とポリプロピレンとの混合物またはコンパウンドを少なくとも160℃の温度で押出機において溶融する。単層または多層重合体の融液を、フラットノズルを通して共押出/押出して、受けローラーにより取り上げ、受けローラー上で冷却し、それによって融液を固化してプレフィルムにし、所望分量のβ−結晶ポリプロピレンを形成する。この融液の冷却を既に前述したように好ましくは80乃至130℃の温度範囲で行い、ここでこの温度における長い保持期間によって、増加した分量のβ−ポリプロピレンを得る。多孔質フィルムまたは層のそれぞれの製造では、通常、プレフィルムのβ−ポリプロピレンの少なくとも40%、好ましくは60乃至95%の分量(DSCにより測定、第1の加熱)が目標とされているのに対して、表面粗さの生成では、例えば10乃至40%のより低い分量が十分であろう。したがって、プレフィルムを本質的に知られている方法で好ましくは140℃未満の温度、特に80乃至125℃の温度で加熱し、縦方向に2.5:1乃至6:1の延伸係数で延伸する。縦方向の延伸の後、縦方向に延伸したフィルムを好ましくは110℃を超える温度、特に120乃至145℃の温度で再度加熱し、3:1乃至8:1の延伸比で横方向に延伸する。延伸時の選択温度により、プレフィルムのβ−結晶ポリプロピレンをポリプロピレンのα−変態へ変換し、手順条件とプレフィルムのβ−分量に基づいて、フィルムまたは多孔質層に連続的な多孔のネットワーク状構造をそれぞれ生成し、またはクレーター上の窪みを有する少なくとも表面の粗さを生成し、これらを変換プロセス期間に形成する。このような粗い表面構造は例えば紙状の性質を有するフィルムで、またはキャパシタで誘電体として使用されるキャパシタフィルムで望ましい。このようなキャパシタフィルムの電気特性を損なわないように、カバー層のみにナノスケールのジカルボン酸塩を使用することが好ましく、これは表面の粗さを有する。ナノスケールのジカルボン酸塩はキャパシタフィルムの電気特性を損なわないか、または僅かに損なうだけであることが発見されている。
【0039】
驚くことに、本発明によるナノスケールのジカルボン酸塩を有して製造されるフィルムまたは層はそれぞれ非常に高く均一な気孔率と、良好な機械的安定性を有する。孔径の均一な分布はREM像で非常に良好に顕著である。平均的な孔径(気泡点)は50乃至350nmの範囲、好ましくは60乃至300nmの範囲にある。多孔質フィルムまたは多孔質層を有するフィルムをそれぞれ製造するとき、非常に稀に引裂があるにすぎず、即ちこの方法は高い操作上の信頼性を有する。フィルムを非常に高い係数で延伸することができ、それによって並外れた高い気孔率を実現することができる。原理的に、フィルムの種々の実施形態のガーレー値は広範囲で変化することができる。多孔質層のみを含み、例えばメンブランフィルムとして使用されるこのようなフィルムでは、ガーレー値は通常100乃至5000sの範囲、好ましくは100乃至2000sの範囲にある。驚くことに、本発明によれば、高い延伸係数により、10乃至100s未満、好ましくは10乃至80s、特に15乃至50sの非常に低いガーレー値を有する多孔質フィルムも依然として確実に製造することができる。50sを下回るこのような低いガーレー値は最新技術によれば任意の既知の方法で実現することはできない。600s未満のガーレー値と、30μmを下回る厚さ、好ましくは10乃至25μm、特に12乃至20μmの厚さを有する50%を超える気孔率とを有する多孔質フィルムも依然として操作上の信頼性をもって製造することができる。
【0040】
さらに別の実施形態では、フィルムの1つの多孔質フィルムまたは複数の多孔質層はそれぞれ、前述したナノスケールのジカルボン酸塩およびポリプロピレンに加えて、追加の成分としてプロピレンブロックコポリマーと、必要ならば別のポリオレフィンを含んでおり、これらは多孔質を損なわない。これらの実施形態では、フィルムまたは多孔質層は、それぞれ多孔質層の重量に対して、またはフィルムの重量に対して、それぞれ通常、50乃至85重量%、好ましくは60乃至75重量%のプロピレンホモポリマーと、15乃至50重量%、好ましくは25乃至40重量%のプロピレンブロックコポリマーと、0.001乃至5重量%、好ましくは50乃至10,000ppmのβ−核形成剤としてのナノスケールのジカルボン酸塩を含んでいる。必要ならば、さらに通常の添加物、例えば安定剤及び中和剤を、2重量%を下回る低量で含む。さらにポリオレフィンを含む場合、プロピレンホモポリマーまたはブロックコポリマーの分量をそれぞれ減少させる。通常、追加のポリマーの量は、これらをさらに含むならば、0乃至50重量%未満、好ましくは0.5乃至40重量%、特に1乃至30重量%である。これらの場合、前述のポリプロピレンまたはプロピレンブロックコポリマーの分量をそれぞれ下げる。同じ方法を適用して、2重量%までのさらに高い量の核形成剤を使用するならば、前記プロピレンポリマーまたはプロピレンブロックコポリマー分量を減少させる。
【0041】
多孔質フィルムは単層または多層であいうる。多孔質フィルムの厚さは通常、10乃至200μm、好ましくは15乃至150μm、特に15乃至100μmの範囲にある。多孔質フィルムの密度は通常、0.1乃至0.6g/cm、好ましくは0.2乃至0.5g/cmの範囲にある。多孔質フィルムには電解液による充填を改善するためコロナ、フレームまたはプラズマ処置を行う。必要な場合、微孔フィルムはスイッチオフ層を含み、これは高温でフィルムの透過性を減少させる。
【0042】
多孔質フィルムを電池、二次電池、スーパーキャパシタまたは類似の用途でメンブランフィルムとして有効に使用することができる。
【0043】
原料及びフィルムを特性評価するため、以下の測定方法を使用した。
【0044】
メルト・フロー・インデックス
プロピレンポリマーのメルト・フロー・インデックスを2.16kgの荷重および230℃でDIN53 735に従って測定し、ポリエチレンでは2.16kgおよび190℃で測定した。
【0045】
融点
DSC測定では、規定の加熱速度と、温度に対して適用される熱流で、ポリマーに単位時間当たりの熱量を与えた。本発明に関する融点はDSC曲線の最大値である。融点の決定のため、DSC曲線を20乃至200℃の範囲で10K/1分の加熱及び冷却速度で記録した。ポリマーの融点の決定のため、第2の加熱曲線を通常通り評価する。
【0046】
密度
密度ρをDIN 53 479、方法Aに従って決定する。
【0047】
気孔率
気孔率を、以下のように、多孔質フィルムで決定された密度ρと、初期原料のポリプロピレンの密度から計算する。
P[%]=100×(1−ρ)/ρPP
ここで、ポリプロピレンでは0.92g/cmの密度を呈した。
【0048】
透過率(ガーレー値)
フィルムの透過率を、ASTM D 726−58により、ガーレーテスター4110で測定した。ここで、100cmの空気が1平方インチ(6.452cm)のラベル面積を透過するのに必要とする時間(秒)を測定した。ここで、フィルムを横切る圧力の差は12.4cmの高さの水柱の圧力に対応する。必要とされる時間はガーレー値に対応する。
【0049】
β−分量
β−結晶ポリプロピレンの分量を、DSCを使用して測定する。この特性評価はVarga(J. o. Appl. Polymer Science、74巻、2357〜2368頁、1999年)に記載されており、以下のように行った。DSCにおいて、追加のβ−核形成体を有するサンプルを最初に20℃/分の加熱速度で220℃まで加熱し溶解する(第1の加熱)。次に、サンプルを10℃/分の加熱速度で再度溶融する(第2の加熱)前に10℃/分の冷却率で100℃まで冷却する。
【0050】
第1の加熱のDSC曲線から、β−結晶相の溶融エンタルピー(Hβ)と、β−およびα−結晶相の溶融エンタルピーの和(Hβ+Hα)との比から、結晶化度Kβ,DSC(β−結晶ポリプロピレンの分量)を決定し、これは測定されるサンプル(無配向フィルム、射出成形部)に存在する。パーセンテージ値を以下のように計算する。
β,DSC[%]=100×(Hβ)/(Hβ+Hα
第2の加熱のDSC曲線から、β−結晶相の溶解エンタルピー(Hβ)と、β−およびα−結晶相の溶解エンタルピーの和(Hβ+Hα)との比から、結晶化度Kβ,DSC(第2の加熱)を決定し、これはそれぞれのポリプロピレンサンプルのβ−分量を示し、これは最大限に実現されうる。
【0051】
凝集体および粒径
ジカルボン酸塩の粒径と、凝集体の存在をサンプルのラスター電子顕微鏡(REM)像で決定する。
【0052】
フィルムサンプルでREM像を撮影するため、5×5mmの切片を二軸延伸フィルムから切り取り、サンプルキャリアに接着する。次に、スパッタユニットで、数ナノメートルの厚さの貴金属(Pt、Au、Pd)の層をフィルムの表面に施す。
【0053】
次に、スパッタを行ったサンプルを、ロックを介してREMへ導入し、そこで数kVの加速電圧により高い真空下で走査する。加速電圧を、熱負荷によるフィルムのマトリックス変形なく、はっきりした画像を生じるように選択する。粒子は画像中ではっきりしているので、個々の粒子のサイズを、定規を使用して測定することができる。
【0054】
コンパウンド中のジカルボン酸塩の粒径のそれぞれの決定を、試験サンプルとしてキャストフィルムで行う。ここで、約120乃至150μmの無配向キャストフィルムをコンパウンドから製造する。このキャストフィルムによる試験を前述したように行う。
【0055】
フィルムまたはコンパウンドはそれぞれ、本発明に関しては、フィルムサンプルのREM像に1μmを超えるサイズの粒子が発見されないとき、または1μmよりも大きい粒子が最大で1つ存在するとき凝集体がない。平均の粒径は統計的に十分な数の粒子の粒径を測定することにより得ることができる。したがって、1μmよりも大きい凝集体の分量もREM像を基礎として決定することができる。
【0056】
分散したジカルボン酸塩の粒径を決定するため、少量の分散液を被写体スライドに加え、乾燥し、同様にスパッタを行う。このスパッタしたサンプルについて、REM像を撮影して粒径を決定することができる。このようにして準備されたこのサンプルで、凝集体の存在を同様に調べる。
【0057】
以下の例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0058】
例1:
水1000ml中の40gのピメリン酸の水溶液を調製し、ピメリン酸が完全に溶解するまで83℃に加熱した。この溶液に対して、含水水酸化カルシウム乳液(水200ml中に18.4gのCa(OH))を攪拌下で加え、それによってカルシウムピメリン酸塩が白色の沈殿物として沈殿した。沈殿した沈殿物を吸出し、乾燥キャビネットにおいて130℃で予備乾燥した。結果として、残留した湿気および結晶水を200℃で24時間、真空乾燥キャビネットで除去した。このようにしてカルシウムピメリン酸塩の粗粒の乾燥粉末を得た。
【0059】
100gのこの乾燥されたカルシウムピメリン酸塩を無水(含水量1重量%未満)イソプロパノール500ml中に懸濁し、スラリーをボールミルに入れ、粉砕した。ここで、安定な乳状の分散液を形成した。REM像は75nmの範囲の分散液中の粒子の粒径を示す。サンプル中で、0.8μmを超える粒径の凝集体は発見されなかった。
【0060】
例1a:
例1による乳状の分散液を排気乾燥器において90℃で10時間、湿気の排除下で乾燥した。ナノスケールのカルシウムピメリン酸塩の白色粉末を得た。ポリプロピレンに対して0.4重量%の濃度で、この粉末をアイソタクチックポリプロピレンホモポリマー(融点162℃、MFI 3g/10分)の粒子とミキサー中で混合した。この混合物を二軸押出機(240℃のハウジング温度で200/分)で溶融し、粒状にすると、棒状の粒になった。
【0061】
粒状の粒(試験サンプルキャストフィルム)のREM像はPPマトリックスにおいて細かく分布した凝集体がないカルシウムピメリン酸塩を示す。REM像では、1μmよりも大きいサイズの粒子は発見されなかった。DSC解析を使用すると、ポリプロピレンとナノスケールのカルシウムピメリン酸塩とのコンパウンドは第2の加熱において97%のβ−値を示す。
【0062】
例1b
例1による粒状の分散液を直接タンブルし、アイソタクチックポリプロピレンホモポリマーの粒にし、この混合物をタンブリング期間中に(または次に)乾燥した。乾燥後、粒状の粒がナノスケールのカルシウムピメリン酸塩の層を被覆して乳白色を示す。
【0063】
これらの粒状の粒(試験サンプルキャストフィルム)の画像は粒状の粒の表面上に細かく分布した凝集体のないカルシウムピメリン酸塩を示す。これらの被覆した粒状の粒を二軸押出機で溶融し(240℃のハウジング温度で200/分)、粒状にすると、棒状の粒になった。DSC解析を使用すると、ポリプロピレンとナノスケールのカルシウムピメリン酸塩とのコンパウンドは同様に第2の加熱で97%のβ−値を示す。これらの粒状の粒のREM像は100nm未満のサイズで細かく分布されたCa−ピメリン酸塩粒子を示す。REM像では、1μmよりも大きいサイズの粒子は発見されなかった。
【0064】
比較例1
水1000ml中に40gのピメリン酸を有する水溶液を調製し、ピメリン酸が完全に溶解するまで83℃に加熱した。この水溶液に対して、含水水酸化カルシウム溶液(水200ml中に18.4gのCa(OH))を攪拌下で加え、それによってカルシウムピメリン酸塩が白色の沈殿物として沈殿した。沈殿した沈殿物を吸出し、乾燥キャビネットにおいて130℃で予備乾燥した。結果として、残留した湿気および結晶水を200℃で24時間、真空乾燥キャビネットで除去した。このようにしてカルシウムピメリン酸塩の粗粒の乾燥粉末を得た。
【0065】
100gのこの乾燥カルシウムピメリン酸塩をボールミルに入れ、乾燥状態で粉砕した。カルシウムピメリン酸塩の白色粉末を得た。REM像は凝集体を有する500nmの範囲の粉末の粒サイズを示し、その粒径は2μm以下である。
【0066】
比較例1a:
比較例1による粉末を0.4重量%の濃度で、アイソタクチックポリプロピレンホモポリマー(融点162℃、MFI 3g/10分)の粒とミキサー中で混合した。この混合物を二軸押出機(240℃のハウジング温度で200/分)で溶融し、粒状にすると、棒状の粒になった。
【0067】
粒状の粒(試験サンプルキャストフィルム)のREM像はPPマトリックスにおいて細かく分布された凝集体がないカルシウムピメリン酸塩を示しているが、1乃至10μmの粒径を有する凝集体も存在する。DPC解析を使用すると、ポリプロピレンとナノスケールのカルシウムピメリン酸塩との混合物は第2の加熱において97%のβ−値を示す。
【0068】
フィルムの例1
ミキサーで、例1aによるコンパウンドをプロピレンホモポリマーおよびプロピレンブロックコポリマーと混合した。この混合物を押出機で溶融し、さらにホモジナイズした。押出し工程の後、融液を押出し温度245℃でフラットなフィルムダイから押し出し、単層フィルムにした。このフィルムは以下の組成を有していた。
(100% PPに対して)4.5重量%のn−ヘプタンの可溶分量と165℃の融点を有し、230℃および2.16kgの荷重において3.2g/10分のメルト・フロー・インデックス(DIN53 735)を有する約50重量%のポリプロピレンホモポリマー(PP)と、
ブロックコポリマーに対して約5重量%のエチレン分量を有し、6g/10分のメルト・フロー・インデックス(230℃および2.16kg)を有する約49.96重量%のプロピレンエチレンブロックコポリマーと、
β核形成剤として0.04重量%のナノCa−ピメリン酸塩。
【0069】
フィルムは、追加で通常の量で安定剤と中和剤を含んでいた。
【0070】
押出し後、ポリマー混合物を第1のフィードローラー、さらにローラートリプレット上に導き、冷却し、固化し、次に縦方向に延伸し、横方向に延伸し、固定し、ここで詳細には以下の条件を選択した。
押出し:押出し温度245℃、
冷却ローラー:温度125℃、
線速度:1.5m/分(フィードローラー上での保持期間:55秒間)、
縦方向の延伸:延伸ローラーT=90℃、
縦方向の延伸:係数4
横方向の延伸:加熱フィールドT=145℃、
延伸フィールド:T=145℃、
横方向の延伸:係数4。
【0071】
こうして製造した多孔質フィルムは厚さ約30μm、密度0.30g/cm、均一な白色−不透明の外観であった。気孔率は66%になり、ガーレー値は340sであった。フィルムの製造では、数時間にわたって引裂はなかった。REM像(図1)は多孔質フィルムに凝集体がなく、Ca−ピメリン酸塩の均一な分布を示している。ジカルボン酸塩はポリプロピレンネットワークのポリマーストランド上の明るい点として良好に認識可能である。
【0072】
フィルムの例2
フィルムをフィルムの例1で説明したように製造した。フィルムの例1とは異なって、例1bによるコンパウンドを使用した。例1による特性と同じ特性を有するフィルムを得た。同様に、製造期間中に引裂はなかった。
【0073】
フィルムの例3
フィルムをフィルムの例2で説明したように製造した。組成は変化しないままであった。製造時に、延伸を縦方向の延伸係数4.8および横方向の延伸係数5.8で行った。こうして製造した多孔質フィルムは厚さ約20μm、密度0.25g/cm、均一な白色−不透明の外観であった。気孔率は60%になり、ガーレー値は200sであった。同様に、製造期間中に引裂はなかった。
【0074】
フィルムの例4
フィルムをフィルムの例3で説明したように製造した。組成は変化しないままであった。フィルムの例1と異なり、製造時に、1m/分の低い線速度(フィードローラー上での保持期間:80秒)を選択した。残りの手順条件は変更しなかった。こうして製造した多孔質フィルムは厚さ約25μm、密度0.25g/cm、均一な白色−不透明の外観であった。気孔率は70%になり、ガーレー値は60sであった。このフィルムの製造も驚異的に信頼性があった。
【0075】
比較例1(フィルム)
フィルムをフィルムの例1で説明したように製造した。しかし例1と異なり、比較例1aにより製造したコンパウンドを使用した。類似の特性プロファイルを有するフィルムを得た。しかし4時間の製造時間の間に、5つの引裂があった。二軸延伸フィルムのREM像は5μmに及ぶサイズを有する凝集粒子を示している。
【0076】
比較例2:
フィルムをフィルムの例3で説明したように製造した。しかしフィルムの例3と異なり、比較例1aにより製造したコンパウンドを使用した。フィルムの例3によるのと同様な類似の特性プロファイルを有するフィルムを得た。しかし4時間の製造時間の間に、10の引裂があった。事実上、フィルムを確実に製造することができず、経済的ではなかった。REM像(図2)は5μmまたはそれ以上に及ぶサイズを有する凝集粒子を示している。図2では、延伸時に凝集体が引裂を起こし、次に製造期間に引裂を生じるかが特によくわかる。
【0077】
比較例3:
フィルムの例4のようなフィルムの製造を試みた。しかしフィルムの例4と異なり、比較例1aにより製造したコンパウンドを使用した。これらの手順条件を使用すると、永久的な引裂により、フィルムを製造することができなかった。
【0078】
例2:
水1000ml中に40gのスベリン酸の水溶液を調製し、スベリン酸が完全に溶解するまで85℃に加熱した。この溶液に対して、含水水酸化カルシウム乳液(水200ml中に17.02gのCa(OH))を攪拌下で加え、それによってカルシウムスベリン酸塩が白色の沈殿物として沈殿した。沈殿した沈殿物を吸出し、乾燥キャビネットにおいて130℃で予備乾燥した。結果として、残留した湿気および結晶水を200℃で24時間、真空乾燥キャビネットで除去した。このようにしてカルシウムスベリン酸塩の粗粒の乾燥粉末を得た。
【0079】
100gのこの乾燥カルシウムスベリン酸塩を無水イソプロパノール300ml中に懸濁し、スラリーをボールミルに入れ、粉砕した。ここで、安定な乳状の分散液が形成された。REM像は75nmの範囲の分散液中の粒子の粒径を示している。サンプル中で、1μmを超える粒径の凝集体は発見されなかった。
【0080】
例2a:粉末
例2による乳状の分散液を、排気乾燥器において90℃で10時間、湿気の排除下で乾燥した。ナノスケールのカルシウムスベリン酸塩の白色粉末を得た。
【0081】
ポリプロピレンに対して0.4重量%の濃度で、この粉末をアイソタクチックポリプロピレンホモポリマー(融点162℃;MFI 3g/10分)の粒とミキサーで混合した。この混合物を二軸押出機(240℃のハウジング温度で200/分)で溶融し、粒状にすると、棒状の粒になった。
【0082】
粒状の粒(試験サンプルキャストフィルム)のREM像はPPマトリックスにおいて細かく分布された凝集体がないカルシウムスベリン酸塩を示している。DSC解析を使用すると、ポリプロピレンとナノスケールのカルシウムスベリン酸塩の混合物は第2の加熱において99%のβ−値を示している。
【0083】
例2b
例2による乳状の分散液を直接タンブルし、アイソタクチックポリプロピレンホモポリマーの粒にし、この混合物はタンブリング期間中に(または次に)乾燥した。乾燥後、粒状の粒はナノスケールのカルシウムスベリン酸塩の層で被覆され、乳白色を示す。
【0084】
これらの粒状の粒(試験サンプルキャストフィルム)のREM像は粒状の粒の表面上に細かく分布された凝集体のないカルシウムスベリン酸塩を示す。これらの被覆された粒状の粒を二軸押出機で溶融し(240℃のハウジング温度で200/分)、粒状にすると、棒状の粒になった。DSC解析を使用して、ポリプロピレンとナノスケールのカルシウムスベリン酸塩とのこのコンパウンドは同様に第2の加熱で99%のβ−値を示す。粒状の粒(試験サンプルキャストフィルム)のREM像は100nm未満のサイズで細かく分布されたCa−スベリン酸塩粒子を示す。1μmよりも大きいサイズの粒子を有する凝集体は存在しない。
【0085】
フィルムの例5
ミキサーで例2aによるコンパウンドをプロピレンホモポリマーおよびプロピレンブロックコポリマーと混合した。この混合物を押出機で溶融し、さらにホモジナイズした。押出しプロセスの後、融液を押出し温度245℃でフラットなフィルムダイから押し出し、単層フィルムにした。このフィルムは以下の組成を有していた。
(100% PPに対して)4.5重量%のn−ヘプタンの可溶分量と165℃の融点を有し、230℃および2.16kgの荷重において3.2g/10分のメルト・フロー・インデックス(DIN53 735)を有する約50重量%のポリプロピレンホモポリマー(PP)と、
ブロックコポリマーに対して約5重量%のエチレン分量を有し、6g/10分のメルト・フロー・インデックス(230℃および2.16kg)を有する約49.96重量%のプロピレンエチレンブロックコポリマーと、
β核形成剤として0.04重量%のナノCa−スベリン酸塩。
【0086】
フィルムは追加で、通常の量で安定剤と中和剤とを含んでいた。
【0087】
押出しの後、ポリマー混合物を第1のフィードローラー、さらにローラートリプレット上に導き、冷却し、固化し、次に縦方向に延伸し、横方向に延伸し、固定し、ここで詳細には以下の条件を選択した。
押出し:押出し温度245℃、
冷却ローラー:温度125℃、
線速度:1.5m/分(フィードローラー上での保持期間:55秒間)、
縦方向の延伸:延伸ローラーT=90℃、
縦方向の延伸:係数4
横方向の延伸:加熱フィールドT=145℃、
延伸フィールド:T=145℃、
横方向の延伸:係数4。
【0088】
こうして製造した多孔質フィルムは厚さ約30μm、密度0.30g/cm、均一な白色−不透明の外観であった。気孔率は66%になり、ガーレー値は340sであった。フィルムの製造では、数時間にわたって引裂はなかった。
【0089】
フィルムの例6
フィルムをフィルムの例5で説明したように製造した。フィルムの例5と異なり、例2bによるコンパウンドを使用した。フィルムの例5による特性と同じ特性を有するフィルムを得た。同様に、製造期間中に引裂はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水の液相の分散したジカルボン酸塩の安定な分散液を製造する方法であって、脂肪族ジカルボン酸を水溶液中の二価金属塩と反応させてジカルボン酸塩を生成させ、次に前記ジカルボン酸塩を分離して乾燥させ、
次に乾燥したジカルボン酸塩を浄化して、安定な分散液が形成されるまで非水の液相中で崩壊させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ジカルボン酸塩は4乃至15のC原子を有する脂肪族ジカルボン酸であり、前記非水の液相はアルコール、好ましくはエタノール、ブタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸塩はピメリン酸またはスベリン酸であることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記金属塩はアルカリ土類塩、好ましくはカルシウム塩であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記金属塩は水酸化物、炭酸塩又は塩化物、好ましくは水酸化カルシウムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
乾燥後に前記ジカルボン酸塩の含水量は1重量%以下になることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記非水の液相の含水量は1重量%以下になることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記非水の液相の重量に対してジカルボン酸塩の10乃至50重量%が懸濁していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記分散液は1μmよりも大きい粒径を有するジカルボン酸塩を1%未満含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸塩とのコンパウンドを製造する方法であって、請求項1乃至9のいずれか1項記載の方法により製造した前記分散液から前記非水の液相を除去し、残留したジカルボン酸塩の粉末をポリプロピレンと混合し、次にこのようにして得た予備混合物を溶融して押し出して粒状のコンパウンドにすることを特徴とする方法。
【請求項11】
ポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸塩とのコンパウンドを製造する方法であって、請求項1乃至9のいずれか1項記載の方法により製造された分散液をポリプロピレンと混合し、この混合物から前記非水の液相を除去し、次にこのようにして得た予備混合物を溶融して押し出して粒状のコンパウンドにすることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記コンパウンド中の前記ジカルボン酸塩の平均粒径は1乃至500nmであることを特徴とする請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
前記コンパウンド中に、1000nmよりも大きい粒径を有する前記ジカルボン酸塩の粒子または凝集体が1%未満存在する、好ましくは存在しないことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記コンパウンドは0.001乃至5重量%のジカルボン酸塩を含むことを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記プロピレンポリマーはアイソタクチックプロピレンホモポリマーおよび/またはプロピレンブロックコポリマーであることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
コンパウンドするとき、別の添加物および/または別のプロピレンを混合することを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するポリプロピレンの製造方法であって、ナノスケールのジカルボン酸塩とポリプロピレンが混合され少なくとも150℃の温度で溶融され、次に前記冷却されたポリプロピレン融液が増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するように冷却されることを特徴とする方法。
【請求項18】
増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するポリプロピレンの製造方法であって、請求項10乃至16のいずれか1項記載の方法に従って製造したコンパウンドを、必要ならばポリプロピレンおよび/または別のポリマーと混合し、少なくとも150℃の温度で溶融し、次に冷却して、前記冷却したポリプロピレン融液が増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有するようにすることを特徴とする方法。
【請求項19】
少なくとも1つの多孔質層を有する二軸延伸ポリプロピレンの製造方法であって、請求項10乃至16のいずれか1項記載の方法に従って製造したコンパウンドを、必要ならばポリプロピレンおよび/または別のポリオレフィンおよび/または別の添加物と混合し、少なくとも150℃の温度で溶融し、フラットノズルを通して押し出し、冷却ローラーで冷却して、前記冷却したプレフィルムが増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有し、次に前記プレフィルムを加熱して縦方向および横方向に延伸し、延伸期間中の温度を選択して前記プレフィルムの前記β−結晶ポリプロピレンがポリプロピレンのα−変態へ変換するようにすることを特徴とする方法。
【請求項20】
前記プレフィルム中のβ−結晶ポリプロピレンの前記分量が60乃至95%になる(第1の加熱)ことを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記プレフィルムの前記冷却を100乃至140℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
前記混合物の前記ポリプロピレンは140乃至170℃の範囲の融点を有するアイソタクチックポリプロピレンであることを特徴とする請求項19乃至21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記ポリプロピレンは20重量%以下のエチレンおよび/またはブチレンのコモノマー分量を有する混合ポリマーであることを特徴とする請求項19乃至21のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記ポリプロピレンはプロピレンホモポリマーとプロピレンブロックコポリマーとの混合物であることを特徴とする請求項19乃至23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記多孔質フィルム中の前記ナノスケールのジカルボン酸塩は100nm未満、好ましくは1乃至50nmの粒径を有し、1μmよりも大きい粒径の凝集体が存在しないことを特徴とする請求項19乃至24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
前記フィルムは500s未満のガーレー値を有することを特徴とする請求項19乃至25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記フィルムは100s未満のガーレー値を有することを特徴とする請求項19乃至25のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
前記フィルムは100s未満のガーレー値を有することを特徴とするポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸アルカリ土類塩との多孔質の二軸延伸フィルム。
【請求項29】
前記フィルムの厚さは25μm未満であることを特徴とするポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸アルカリ土類塩との多孔質の二軸延伸フィルム。
【請求項30】
前記ガーレー値は300s未満であることを特徴とする請求項29記載のフィルム。
【請求項31】
前記フィルムの気孔率は50%を超えることを特徴とするポリプロピレンとナノスケールのジカルボン酸アルカリ土類塩との多孔質の二軸延伸フィルム。
【請求項32】
少なくとも1つの層を有する二軸延伸ポリプロピレンの製造方法であって、前記層について、請求項10乃至16のいずれか1項記載の方法に従って製造したコンパウンドを、必要ならばポリプロピレンおよび/または1または幾つかの別のポリオレフィンおよび/または別の添加物と混合し、少なくとも150℃の温度で溶融し、フラットノズルを通して押し出し、冷却ローラーで冷却して、前記層において前記冷却したプレフィルムが増加した分量のβ−結晶ポリプロピレンを有し、次に前記プレフィルムを加熱して縦方向および横方向に延伸し、前記層が前記フィルムの外部層を形成し、この層が外部表面上で増加した表面粗さを有するようにすることを特徴とする方法。
【請求項33】
キャパシタ中の誘電体としての、請求項32記載の方法に従って製造したフィルムの使用。
【請求項34】
紙状の特性を有するフィルムとしての、請求項32記載の方法に従って製造したフィルムの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−508483(P2013−508483A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534571(P2012−534571)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006240
【国際公開番号】WO2011/047797
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504422379)トレオファン・ジャーマニー・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カーゲー (17)
【Fターム(参考)】