説明

ポリマー碍子用樹脂組成物及びポリマー碍子

【課題】優れた耐トラッキング性、良好な耐電圧性及び成形性を持ち、かつ難燃性の高いポリマー碍子用樹脂組成物及びそれを用いて得られたポリマー碍子を提供する。
【解決手段】エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)10〜150質量部、アミン変性シリコーン及びフッ素系重合体からなる群から選ばれた1種以上の撥水剤(C)0.1〜5質量部、並びに赤リン(D)3〜10質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物、及びこのポリマー碍子用樹脂組成物を成形してなる外被部分をもつことを特徴とするポリマー碍子などを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のポリマー碍子用樹脂組成物及びそれを成形してなる外被部分をもつポリマー碍子に関し、更に詳しくは、優れた耐トラッキング性、良好な耐電圧性及び成形性を持ち、かつ難燃性の高いポリマー碍子用樹脂組成物及びそれを用いて得られたポリマー碍子に関する。
【背景技術】
【0002】
送電用の碍子としては、磁器碍子が使用されてきたが、省スペース化や軽量化が求められて、ポリマー碍子が開発されている。
ポリマー碍子は、複合碍子とも呼ばれ、大きく分けて中心部の絶縁芯材(ロッド部分)、その周りに設けた胴部と複数の笠からなる外被部分、そして固定するための端部に取り付けられた取り付け部分の3構成部分からなり、外被部分は、エポキシ樹脂、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー共重合体(EPDM)等が、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、スラッシュ成形法等の成形法で形成されている。
【0003】
しかしながら、EPDMを用いると、経時的に成形物の表面にクラックが発生し、これがトラッキング(表面の絶縁性を失い短絡事故につながる現象)の要因になり、シリコーンゴムでは、加工性が悪く、コストも高いという問題があった。
【0004】
このため、例えば、特許文献1では、ベース樹脂として絶縁性と加工性のよいエチレン系樹脂を用い、オルガノポリシロキサン、有機過酸化物、及び水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムからなるポリマー碍子用樹脂組成物が提案されているが、更に耐トラックング性が高く、かつ難燃性も高いものの開発が求められている。
【特許文献1】特開平7−179681号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、優れた耐トラッキング性、良好な耐電圧性及び成形性を持ち、かつ難燃性の高いポリマー碍子用樹脂組成物及びそれを用いて得られたポリマー碍子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)10〜150質量部、アミン変性シリコーン及びフッ素系重合体からなる群から選ばれた1種以上の撥水剤(C)0.1〜5質量部、並びに赤リン(D)3〜10質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、更に、ホウ酸亜鉛(E)5〜30質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、更に、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた1種以上の遮光剤(F)1〜15質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
【0007】
本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、更に、メラミンシアヌレート(G)0.5〜10質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、更に、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定剤からなる群から選ばれた1種以上の安定化剤(H)0.05〜5質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、更に、有機過酸化物(I)0.2〜5質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
【0008】
本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)は、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、アミノシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤で表面処理されていることを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、撥水剤(C)は、パーフルオロポリエーテル、又はパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンの混合物であることを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物が提供される。
【0009】
一方、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明に係るポリマー碍子用樹脂組成物を成形してなる外被部分をもつことを特徴とするポリマー碍子が提供される。
【0010】
本発明は、上記した如く、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)、特定の撥水剤(C)、及び赤リン(D)を特定量配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物などに係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(1)第1の発明において、エチレン系樹脂(A)は、メルトマスフローレートが0.5〜30g/10分の超低密度(密度0.87〜0.94g/cm)エチレン−α−オレフィン共重合体、メルトマスフローレートが0.5〜30g/10分、コモノマー含有量が5〜30質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトマスフローレートが0.5〜30g/10分、コモノマー含有量が5〜30質量%のエチレン−アクリル酸エチル共重合体であることを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
(2)第1の発明において、水酸化アルミニウム(B)と、撥水剤(C)としてフッ素系重合体を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
(3)第2の発明において、ホウ酸亜鉛(E)は、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)の3〜50質量%を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
(4)第2の発明において、ホウ酸亜鉛(E)の平均粒径は、20μm以下であることを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
(5)第3の発明において、遮光剤(F)の平均粒径は、15μm以下であることを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
(6)第5の発明において、安定化剤(H)として、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定剤を組合わせて配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
(7)第1〜6のいずれかの発明において、更に、酸化防止剤を0.001〜5質量部配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
【0011】
上記のように、本発明は、本発明は、エチレン系樹脂に、それぞれ特定量の水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)、アミン変性シリコーン及びフッ素系重合体からなる群から選ばれた撥水剤(C)、及び赤リン(D)を配合したポリマー碍子用樹脂組成物、あるいは、これにホウ酸亜鉛(E)、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた遮光剤(F)、メラミンシアヌレート(G)、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定化剤からなる群から選ばれた安定化剤(H)、並びに有機過酸化物(I)を、個別にあるいは同時に、追加配合したポリマー碍子用樹脂組成物であり、このポリマー碍子用樹脂組成物から成形された外被部分を持つポリマー碍子であるので、絶縁性、加工性及び機械特性が良好で、更に優れた耐トラッキング性を持ち、かつ、難燃性も高められており、屋外で使用したときに、耐候性も長期に良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリマー碍子用樹脂組成物及びポリマー碍子について、各項目毎に詳細に説明する。
【0013】
1.エチレン系樹脂(A)
本発明においてベース樹脂として使用されるエチレン系樹脂(A)は、エチレンの単独重合体、又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、ビニルエステル、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸金属塩等との共重合体であって、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、中・低圧法高密度・中密度・低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−ノネン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体、エチレン−ドデセン−1共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、アイオノマー等を例示することができる。
【0014】
これらの中では、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等、他の構成成分との相溶性に優れ、良好な加工性、絶縁性、機械特性を持つ、それぞれメルトマスフローレートが0.5〜30g/10分、好ましくは1〜10g/10分程度の超低密度(密度0.87〜0.94g/cm)のエチレン−α−オレフィン共重合体、コモノマー含有量が5〜30質量%、好ましくは10〜30質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、及びコモノマー含有量が5〜30質量%、好ましくは10〜30質量%のエチレン−アクリル酸エチル共重合体を、好適に使用することができる。
このエチレン−酢酸ビニル共重合体とエチレン−アクリル酸エチル共重合体の場合、コモノマー含有量が5質量%未満であると、柔軟性や耐衝撃性が不十分となり、一方、30質量%を超えると、剛性が不十分となり望ましくない。
本発明において、エチレン系樹脂は、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
2.水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B
本発明において、耐トラッキング性を付与する機能を有する水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)は、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、シランカップリング剤、アミノシランカップリング剤あるいはチタネートカップリング剤で表面処理されていることが、エチレン系樹脂(A)との相溶性、機械強度及び耐トラッキング性の効果から望ましい。
【0016】
表面処理剤の具体例として、高級脂肪酸としては、飽和及び不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には、炭素数が6〜22の脂肪酸が挙げられるが、特に炭素数18のステアリン酸、オレイン酸が好適に使用される。
高級脂肪酸塩としては、直鎖飽和型、不飽和型を問わず側鎖部分が金属、アミン、アンモニウム等と結合したものでもよいが、特にステアリン酸、オレイン酸等のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が好適に使用される。
【0017】
シランカップリング剤としては、分子内の一方の末端に、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムと反応できる反応基(メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、セロソルブ基等)をもつものであり、一般には3官能基を有するものが多いが、もちろん2官能や1官能を有するものでもよい。また、もう一方の末端には、エチレン系樹脂と化学結合できる基(ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基等)を有するもので、主鎖がアルコキシオリゴマー骨格を持つものが挙げられ、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
アミノシランカップリング剤は、上記シランカップリング剤の構造中にアミノ基又はその誘導体を含むもので、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
チタネートカップリング剤としては、イソプロピル−トリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、チタニウムジ(オクチルホスフェート)オキシアセテート等が挙げられる。
【0018】
表面処理量は、0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.5〜3質量%である。これが0.05質量%未満であると、表面処理が不十分となり、表面処理の効果が得られず、一方、10質量%を超えると、効果が飽和するとともに樹脂組成物の機械特性が低下する。
【0019】
更に、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムの平均粒径は、分散性、耐トラッキング性、絶縁破壊電圧への効果から、15μm以下、好ましくは0.2〜6μm、更に好ましくは0.5〜1.2μmであることが望ましい。
水酸化マグネシウムとしては、海水から製造される合成法によるもの、及び天然鉱物(ブルーサイト等)を粉砕した天然品のどちらも使用することができる。
耐トラッキング性の点からは、水酸化アルミニウムが好適である。
【0020】
本発明において、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)の配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、10〜150質量部、好ましくは30〜120質量部、更に好ましくは50〜100質量部である。これが10質量部未満であると、耐トラッキング性が不十分となり、一方、150質量部を超えると、成形性や機械特性が不十分となるので望ましくない。
本発明において、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムは、1種あるいは2種以上を混合して、又は水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの各々1種以上を混合して使用することができる。
【0021】
3.撥水剤(C)
本発明において使用される撥水剤(C)としては、アミン変性シリコーン及びフッ素系重合体からなる群から選ばれた1種以上であり、そのフッ素系重合体としては、フッ素樹脂及びフッ素系オイルを挙げることができる。
【0022】
アミン変性シリコーンは、アミン基を持つ誘導体で変性されたオルガノポリシロキサンを意味する。そのアミン変性シリコーンとしては、下記一般式(1)で表されるジアミノ基を持つものが好適である。
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基を表し、同一でも異なっていてもよい。mは100〜1,000であり、nは1〜30である。)
【0025】
アミン変性シリコーンのポリシロキサン部分は、撥水性を付与し、一方、アミン変性部分は、エチレン系樹脂との親和力を高め、ブリード(樹脂からアミン変性シリコーンが浸出し表面に出てくる現象)を抑え、よって、耐トラックング効果が長時間保持されると、考えられている。
特に、CNHCNHで変性されたシリコーンが好ましく、具体的には、日本ユニカー製「FZ−3710」、「FZ−3785」等として、入手できる。
【0026】
フッ素樹脂としては、分子量10,000〜200,000程度が好適であり、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等を例示でき、その中でも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ダイキン工業製「L−5」等として入手できる。
【0027】
フッ素系オイルとしては、パーフルオロ基をもつ重合体が挙げられ、具体的にはパーフルオロポリエーテル、ヘキサフルオロプロピレンエポキシド等を例示できる。フッ素系オイルとしては、パーフルオロポリエーテルであるデュポン社製「フルオロガード」を好適に使用することができる。
また、フッ素系重合体としては、上記フッ素樹脂とフッ素系オイルの各々1種以上からなる混合物も、好適に用いることができ、具体的にはパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンの混合物でフッ素系グリースとも呼ばれているデュポン社製「Krytox GPL」を使用することができる。
なお、アミン変性シリコーン及びフッ素系オイルの分子量としては、1,000〜6,000程度を例示でき、粘度は、200〜6,000mm/秒(25℃)程度が好適である。
【0028】
本発明においては、フッ素系オイル、特にパーフルオロポリエーテルあるいはパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンの混合物(フッ素系グリース)が、撥水効果が高く、ブリード現象が少なく、耐トラッキング性が優れていて、特に好適に使用することができる。
【0029】
撥水剤(C)の配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜3質量部、好ましくは0.5〜2質量部、更に好ましくは0.8〜1.5質量部である。配合量が0.1質量部未満では、耐トラッキング性への効果が低下し、一方、3質量部を超えても、耐トラッキング性への効果が飽和し、かつコストも上がるので望ましくない。
撥水剤の配合は、これにより付与される撥水性により、ポリマー碍子の表面のうち濡れる部分が最小となり、これが短絡を抑え、耐トラキング性に効果があると、考えられている。
【0030】
4.赤リン(D)
本発明において、赤リン(D)とは、赤リンを主成分とするもので、難燃剤として作用する。本発明では、耐トラッキング性付与を目的として、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムが配合されていて、これらは難燃作用も有しているが、この目的における配合量では、UL−94規格の難燃性基準を満足しない。UL−94規格を満たすことができる難燃性を付与するために、赤リン(D)が配合される。
【0031】
赤リンは、比較的不安定な化合物であり、発火しやすく、特に粉塵爆発を起こし易く、経時的にエチレン系樹脂を劣化させやすいので、赤リン粒子の表面を安定化剤で被覆した赤リンが、本発明では好ましく使用される。
安定化剤としては、金属、金属酸化物及び熱硬化性樹脂が用いられ、金属としては、アルミニウム、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、マンガン、アンチモン、ジルコニウム、チタン等が挙げられ、また、金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン等が挙げられる。さらに、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。安定化剤は、2種以上を使用して、被覆しても良い。
【0032】
上記赤リン安定化剤の表面被覆量は、赤リン粒子に対して、金属、金属酸化物については、金属として0.5〜15質量%、熱硬化性樹脂としては、固形分として5〜30質量%の範囲に設計することが望ましい。
赤リンの平均粒子径は、エチレン系樹脂への分散性、難燃助剤としての効果から、50μm以下が好ましく、1〜40μmのものが更に好ましい。
【0033】
赤リン(D)の配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、3〜10質量部、好ましくは5〜10質量部、更に好ましくは6〜10質量部である。赤リン(D)の配合量が3質量部未満であると、難燃性が不十分となり、一方、10質量部を超えると、低温脆性、耐候性に影響が出はじめ、加工性が落ちるので、望ましくない。
赤リンとしては、燐化学工業製の「ノーバレッド120」及び「ノーバレッド140」、日本化学工業製の「ヒシガードTP−10」等を好適に使用できる。
なお、赤リンは、1種あるいは2種以上を混合して、使用することができる。
【0034】
5.ホウ酸亜鉛(E)
本発明のポリマー碍子用樹脂組成物において、ホウ酸亜鉛(E)を配合することにより、耐トラッキング性を強めることができる。即ち、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムと組み合わせることにより、その耐トラッキング性への相乗効果が認められる。
この場合、ホウ酸亜鉛は、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムの3〜50質量%程度、好ましくは15〜40質量%程度を配合することが望ましい。
本発明で使用するホウ酸亜鉛の平均粒径は、分散性、耐トラッキング性への効果から、20μm以下、好ましくは0.5〜10μm、更に好ましくは1〜5μmであることが望ましい。
【0035】
ホウ酸亜鉛(E)の配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、5〜30質量部、好ましくは10〜25質量部、更に好ましくは15〜25質量部である。ホウ酸亜鉛(E)の配合量が5質量部未満では、耐トラッキング性への効果が低下し、一方、30質量部を超えると、耐トラッキング性が低下することがあるので、望ましくない。
【0036】
6.遮光剤(F)
本発明において、使用される遮光剤(F)としては、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた1種以上であって、ポリマー碍子が屋外において使用されるとき、太陽光を遮蔽し、太陽光による劣化を防止し、長期に渡り、安定した品質を保持する。
耐候剤として、カーボンブラックを配合し、樹脂組成物を黒色とすることが行われるが、ポリマー碍子の作用は、絶縁であり、導電性を有するカーボンブラックの配合は望ましくないので、本発明においては、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた遮光剤(F)が使用される。
【0037】
本発明で使用する酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた遮光剤の平均粒径は、分散性、耐候性への効果から、15μm以下、好ましくは0.2〜6μm、更に好ましくは0.2〜1.2μmであることが望ましい。
酸化チタンは、アルミナ、シリカ等による耐候性処理がなされているものが好適であり、具体的には、デュポン社製「R−105」及び「R−960」が、効果が高く、好ましく使用することができる。
また、酸化亜鉛は、堺化学工業、ハクスイテック等から、市販されている。
【0038】
酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた遮光剤(F)の配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、1〜15質量部、好ましくは2〜12質量部、更に好ましくは3〜10質量部である。配合量が1質量部未満では、遮光効果が低く、一方、15質量部を超えると、効果が飽和し、加工性等に影響を起こすことがあるので、望ましくない。
【0039】
7.メラミンシアヌレート(G)
本発明においては、メラミンシアヌレート(G)を配合することができる。メラミンシアヌレート(G)は、難燃助剤として作用し、難燃性を更に強めることができる。そのメラミンシアヌレート(G)の配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは1〜10質量部、更に好ましくは2〜8質量部である。配合量が0.5質量部未満では、これからの燃焼不活性ガス(窒素ガス)の発生が有意とならず、難燃助剤としての効果が不十分となり、一方、10質量部を超えても、難燃助剤としての効果はそれほど上がらず、むしろ成型加工性や得られる碍子の機械特性に影響がでることがあるので望ましくない。
【0040】
8.安定化剤(H)
本発明においては、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定剤からなる群から選ばれた1種以上の安定化剤(H)を配合し、ポリマー碍子の使用環境における効果の劣化を防止し、長期間の使用を確実なものとすることができる。この場合、配合する安定化剤は、公知のものを、その有効量配合すればよく、特に制限はないが、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定剤を組み合わせて、配合することが望ましい。
【0041】
本発明において、使用できる紫外線吸収剤としては、サルチル酸系、ベンゾフェノン系、べンゾトリアゾール系、その他の紫外線吸収剤等を挙げることができ、具体的には、サルチル酸系紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート;4−t−ブチルフェニルサリシレート等を例示できる。
【0042】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−硫酸3水和物;2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン;4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン;4−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン;2,2’,4’,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン;2,2’−ジメトキシベンゾフェノン;オクタベンゾン等を例示できる。
【0043】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール;2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール;2,4−ジ−t−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェノール等を例示できる。
【0044】
その他の紫外線吸収剤としては、蓚酸アニリド誘導体;2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−4−ヒドロキシべンゾエート;2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート;1,3−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)−2−プロピルメタクリレート;o−ベンゾイル安息香酸メチル;エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール等を例示できる。
【0045】
紫外線吸収剤の配合量は、その有効量を用いればよいが、一般にエチレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜3質量部、好ましくは0.2〜2質量部程度である。
【0046】
本発明において、使用できるヒンダードアミン光安定剤は、低分子量タイプとしては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロパーオキシド及びオクタンの反応生成物(分子量737)70質量%とポリプロピレン30質量%からなるもの;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート(分子量685);ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート混合物(分子量509);ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(分子量481);テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量791);テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量847);2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900);1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900)等を例示できる。
【0047】
ヒンダードアミン光安定剤の高分子量タイプとしては、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](分子量2,000〜3,100);コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(分子量3,100〜4,000);N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量2,286)と上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物;ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)等を例示できる。
【0048】
ヒンダードアミン光安定剤は、上記の様に、低分子量タイプと高分子量タイプとがあるが、エチレン系樹脂との相溶性がよい、したがってブリードしにくい特徴を持つ高分子量タイプ(分子量が1,900以上のもの)のものを、好適に使用することができる。
ヒンダードアミン光安定剤の配合量は、その有効量を用いればよいが、一般にエチレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜3質量部、好ましくは0.2〜2質量部程度である。
【0049】
安定化剤(H)の総配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜4質量部、更に好ましくは0.5〜2質量部である。配合量が0.05質量部未満では、安定化への効果が低く、一方、5質量部を超えると、効果が飽和し、加工性、他の特性等に影響を起こすことがあるので、望ましくない。
【0050】
9.有機過酸化物(I)
ポリマー碍子は、機械強度、硬度、耐熱変形、耐傷付性等の観点から、通常は架橋される。
架橋方法としては、電子線による架橋も行われるが、成形法によっては化学架橋の方が望ましい。例えば、押出成形法や射出成形法を採用する場合には、予め架橋剤として、有機過酸化物(I)を配合する。
【0051】
有機過酸化物(I)としては、例えば、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)ヘキシン−3等が挙げられ、その配合量は、エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、0.2〜5質量部、好ましくは0.5〜3質量部、更に好ましくは1〜2質量部である。配合量が0.5質量部未満では、架橋度が不十分となる場合があり、一方、5質量部を超えると、機械強度の引張破壊応力は大きくなるが、延性が低下し、ポリマー碍子が割れやすくなるので望ましくない。
また、本発明においては、架橋度や架橋時間を調整するために、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート等の有効量の架橋助剤を配合することもできる。
【0052】
10.その他の配合物(J)
本発明のポリマー碍子用樹脂組成物には、その使用環境に応じて、その他の各種配合物(J)を配合することができる。各種配合物としては、酸化防止剤、帯電防止剤、加工性改良剤、充填剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、核剤、気泡防止剤、着色剤、顔料、染料、水トリー防止剤、電圧安定剤、殺菌剤、防カビ剤などを挙げることができる。
本発明のポリマー碍子用樹脂組成物には、製造時や成形時の熱暴露等に対するために、酸化防止剤を配合することが望ましい。酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、アミン系、イオウ系等を挙げることができ、単独でも2種以上混合して使用してもよく、その配合量は、エチレン系樹脂100質量部に対して、0.001〜5質量部程度である。
【0053】
11.ポリマー碍子用樹脂組成物の調製
本発明のポリマー碍子用樹脂組成物は、それぞれ所定量の上記の成分と使用目的に応じて配合する成分を配合して、一般的な方法、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサー、ロールミルあるいは押出機を用いて、均一に溶融混合(有機過酸化物を配合する場合にあっては、好ましくはその分解温度より少なくとも50℃程度低い温度で)することによって、製造することができる。また、有機過酸化物を配合する場合は、これ以外の成分を溶融混練し得られた、好ましくはペレットに造粒された樹脂組成物を、有機過酸化物と共に密閉容器に入れ、40〜90℃程度で6〜12時間混合し、後から有機過酸化物をソーキングして、本発明のポリマー碍子用樹脂組成物を調製することができ、これは、本発明の好ましい調製方法である。
製造した本発明のポリマー碍子用樹脂組成物は、スラッシュ成形法を採用する場合を除き、粒径2〜7mm程度のペレットに造粒し、これを成形に用いることが望ましい。
【0054】
12.ポリマー碍子の製造
本発明に係るポリマー碍子は、本発明のポリマー碍子用樹脂組成物を、予め準備された中心部の絶縁芯材(ロッド部分)の周囲に外被部分として、公知の押出成形法、射出成形法、プレス成形法、スラッシュ成形法等で成形すればよい。また、直接絶縁芯材上に成形せずに、チューブ状に成形し、これを絶縁芯材に被せ、熱収縮させて形成してもよい。
成形は、有機過酸化物を使用する場合にあっては、その分解温度より50℃以上低い温度(例えば100〜150℃)で行うことが望ましく、成形後、分解温度以上(例えば160〜210℃)に加熱し、架橋すればよい。
【実施例】
【0055】
次に実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書中で用いられた評価は、それぞれ以下の方法によるものである。
【0056】
I.耐トラッキング性
IEC(International Electrotechnical Commission)60587「汚損液傾斜平板法(段階昇圧トラッキング法)」に準拠して、耐トラッキング性の評価を行った。
プレス成形で作成した120×50×6mmの試験片に、電極を2個取り付け、試験片を45°に傾斜させ固定し、上側電極にはろ紙を8枚挟み込み、このろ紙に汚損液としてNHCl0.1質量%水溶液を滴下し、試験電圧2.5kVを1時間印加し、破壊検出電流60mA、2秒間を超えない場合は、2.5kV合格となる(class2.5)。
次に、電圧を250Vごとステップで昇圧させて同様な試験を行い、破壊が検出される電圧を求め評価した。例えば、6kVに耐えればclass6.0と評価される。
【0057】
II.絶縁破壊電圧
JIS C2110「固体電気絶縁材料の絶縁耐力試験方法」に記載されている方法のうち、段階破壊試験を採用し、評価した。試験片の厚みは1mmとし、上部電極に直径20mmの球を、下部電極として直径25mmの円形平板を用いた。試験開始電圧は16kVから始め、20秒間印加しても絶縁破壊が起きなければ次の電圧へ昇圧した。20kVまでは1kVずつ昇圧し、20kV以上では2kVずつ昇圧した。20秒間印加しても絶縁破壊が認められなかった最も高い電圧を、絶縁破壊電圧とした。
【0058】
III.機械特性
III−1.引張破壊応力
JIS K6301に準拠して行った。5試験片を測定し平均値で評価した。
【0059】
III−2.引張破壊歪
引張破壊応力試験と同様にJIS K6301に準拠して行った。5試験片を測定し平均値で評価した。
【0060】
IV.難燃性
難燃性は、UL−94規格に従い、熱ブレス成形で得られた厚み2mmの試料を用いて、垂直燃焼試験により、V−0〜V−2で評価し、燃焼した場合は燃焼とし、不合格とした。
【0061】
[比較例1〜4、実施例1〜5]
メルトマスフローレート2g/10分、酢酸ビニルコモノマー含有量18質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(日本ユニカー製、DQDJ−1868)、水酸化アルミニウム(日本軽金属製、B703、平均粒径2μm、表面未処理)、酸化防止剤として4,4’−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)を加え、更に、アミン変性シリコーン(日本ユニカー製ジアミノ変性シリコーン、FZ−3710)、及び赤リン(隣化学工業製、ノーバレッド120UF、表面未処理品)を、表1に示したように加え、バンバリーミキサーを使用して130℃で10分間混練し、得られた樹脂組成物を粒径約3mmに造粒した。得られたペレットを密閉できる攪拌機中で60℃で30分間攪拌した後、有機過酸化物2,5−ジ(パーオキシベンゾエート)ヘキシン−3を添加し、70℃で10時間攪拌して、これをソーキング(含浸)させ、表1に示した組成からなる樹脂組成物をそれぞれ得た。
【0062】
得られた樹脂組成物を熱プレス成形機に入れ、120℃で5分間加熱し、続いて150kg/cmに加圧すると同時に200℃まで20℃/分の速度で昇温し、200℃で10分間保持後、加圧を保ちながら10℃/分で室温まで冷まし、シートを成形し、評価した。
【0063】
評価結果を表1に示したが、撥水剤と赤リンを配合していない比較例1は、耐トラッキング性と難燃性が劣り、赤リンを配合していない比較例2〜4では、難燃性が劣っていたが、本発明の実施例1〜5は、これらの比較例に比べ、優れた耐トラッキング性、難燃性を持つと共に、良好な絶縁破壊電圧及び機械特性をもつものであった。
【0064】
[比較例5、実施例6〜9]
水酸化アルミニウムをアミノシラン表面処理水酸化アルミニウム(マーチンスベルク製、OL−104/I、平均粒径1.5μm)に替え、メラミンシアヌレートを加えた試験例も行った以外は、上記実施例1と同様にして、表1に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
【0065】
評価結果を表1に示したが、実施例6〜9のものは、耐トラッキング性及び難燃性において、比較例5に比べて優れると共に、メラミンシアヌレートを難燃助剤として加えた実施例7〜9は、さらに優れた難燃性を持ち、同時に実施例6〜9のものは、良好な絶縁破壊電圧及び機械特性をもつものであった。
【0066】
【表1】

【0067】
[比較例6〜8、実施例10〜12]
水酸化アルミニウムとして、ステアリン酸表面処理水酸化アルミニウム(マーチンスベルク製、OL−104/C、平均粒径1.5μm)、ビニルシラン表面処理水酸化アルミニウム(マーチンスベルク製、平均粒径1.2μm)、及びアミノシラン表面処理水酸化アルミニウム(マーチンスベルク製、OL−104/I、平均粒径1.5μm)を、それぞれ用い、ホウ酸亜鉛、遮光剤の酸化チタン、安定化剤の紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ−4−オクチルベンゾフェノン(シプロ化成製、SEESORB 102)及びヒンダードアミン光安定剤としてポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](チバスペシャルティケミカル製、CHIMASSORB 944LD)を追加使用し、上記実施例1と同様にして、表2に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
【0068】
評価結果を表2に示したが、比較例6〜8及び実施例10〜12ものは、耐トラッキング性において顕著に優れるものであった。しかしながら、比較例6〜8のものは、難燃性が劣っていた。実施例10〜12のものは、顕著な難燃性と同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであった。
【0069】
[比較例9〜11、実施例13〜15]
水酸化アルミニウムとしてステアリン酸表面処理水酸化アルミニウム(マーチンスベルク製、OL−104/C、平均粒径1.5μm)、又は(日本軽金属製、B1403S、ステアリン酸表面処理品、平均粒径1.0μm)を用い、撥水剤としてポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、L−5)、又はフッ素系オイルであるフルオロポリエーテル(デュポン社製、フルオロガード)を用いて、実施例10と同様にして、表2に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
【0070】
評価結果を表2に示したが、比較例9〜11及び実施例13〜15ものは、耐トラッキング性において顕著に優れるものであった。しかしながら、比較例9〜11のものは、難燃性が劣っていた。実施例13〜15のものは、顕著な難燃性と同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであった。
【0071】
【表2】

【0072】
[比較例12、実施例16]
エチレン系樹脂の50質量%をメルトマスフローレート1.5g/10分、アクリル酸エチルコモノマー含有量24質量%のエチレン−アクリル酸エチル共重合体(日本ユニカー製、NUC−6520)に替えた以外は、比較例10及び実施例14と同様にして、表3に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
【0073】
評価結果を表3に示したが、実施例16のものは、耐トラッキング性、難燃性において顕著に優れ、同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであったが、比較例12のものは、難燃性が劣っていた。
【0074】
[比較例13、実施例17]
ホウ酸亜鉛の配合量を替えた以外は、比較例10及び実施例14と同様にして、表3に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
【0075】
評価結果を表3に示したが、実施例17のものは、耐トラッキング性に優れ、難燃性においては顕著に優れ、同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであったが、比較例13のものは、難燃性が劣っていた。
【0076】
[比較例14、実施例18]
撥水剤であるフッ素系オイル及びホウ酸亜鉛の配合量を替えた以外は、比較例13及び実施例17と同様にして、表3に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
【0077】
評価結果を表3に示したが、実施例18のものは、耐トラッキング性、難燃性において顕著に優れ、同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであったが、比較例14のものは、難燃性が劣っていた。
【0078】
[実施例19]
遮光剤を酸化亜鉛に替えた以外は、実施例14と同様にして、表3に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
評価結果を表3に示したが、実施例19のものは、耐トラッキング性、難燃性において顕著に優れ、同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであった。
【0079】
[実施例20]
フッ素系オイルをパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンの混合物(フッ素系グリース)であるデュポン社製「Krytox GPL」に替えた以外は実施例19と同様にして、表3に示した組成からなる樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、同様に評価した。
評価結果を表3に示したが、実施例19のものは、耐トラッキング性、難燃性において顕著に優れ、同時に良好な絶縁破壊電圧及び優れた引張破壊歪を持ち機械特性も良好なものであった。
【0080】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリマー碍子用樹脂組成物は、上記のように優れた耐トラッキング性、良好な耐電圧性及び成形性を持ち、かつ高い難燃性と共に、優れた機械特性をもつので、ポリマー引留碍子やポリマー通り碍子等のポリマー碍子の外被部分を構成する材料として、有効に使用することができ、また、これより製造されたポリマー碍子は、難燃性と長期の安定性を持ち、コンパクトで軽量であり、かつ環境負荷も小さい優れた実用価値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系樹脂(A)100質量部に対して、水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)10〜150質量部、アミン変性シリコーン及びフッ素系重合体からなる群から選ばれた1種以上の撥水剤(C)0.1〜5質量部、並びに赤リン(D)3〜10質量部を配合することを特徴とするポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項2】
更に、ホウ酸亜鉛(E)5〜30質量部を配合することを特徴とする請求項1に記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項3】
更に、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれた1種以上の遮光剤(F)1〜15質量部を配合することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項4】
更に、メラミンシアヌレート(G)0.5〜10質量部を配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項5】
更に、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン光安定剤からなる群から選ばれた1種以上の安定化剤(H)0.05〜5質量部を配合することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項6】
更に、有機過酸化物(I)0.2〜5質量部を配合することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項7】
水酸化アルミニウム(B)又は水酸化マグネシウム(B)は、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、アミノシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項8】
撥水剤(C)は、パーフルオロポリエーテル、又はパーフルオロポリエーテルとポリテトラフルオロエチレンの混合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリマー碍子用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリマー碍子用樹脂組成物を成形してなる外被部分をもつことを特徴とするポリマー碍子。

【公開番号】特開2006−143761(P2006−143761A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331640(P2004−331640)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000230331)日本ユニカー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】