説明

ポリ乳酸系樹脂組成物およびそれからなるポリ乳酸系樹脂発泡体

【課題】 難燃性、耐熱性に優れた発泡体を成形できる結晶性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる難燃性、耐熱性に優れた発泡体を提供する。
【解決手段】 D体含有量が1.0モル%以下である、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と、難燃剤(C)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、難燃剤として、臭素系難燃剤(C1)、リン系難燃剤(C2)、カンファースルホン酸(C3)、金属酸化物(C4)、金属水酸化物(C5)のうち、少なくとも1種を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、結晶性が向上したポリ乳酸系樹脂組成物および該樹脂組成物を成形して得られるポリ乳酸系樹脂発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(PA6、PA66等)、ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリカーボネート樹脂(PC)等が使用されている。このような樹脂から製造された成形物は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増すうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
そこで、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。中でもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどは、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。特に、ポリ乳酸は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として工業生産が可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、炭素の収支として中立であることから、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
ポリ乳酸は、結晶化を充分進行させることにより耐熱性が向上し、広い用途に適用可能となるが、ポリ乳酸単独ではその結晶化速度は極めて遅いものである。また家電機器や自動車部品といった用途には耐熱性だけでなく難燃性の付与も課題としてあった。そこで、通常、結晶化速度、難燃性を向上させることを目的として、ポリ乳酸に各種結晶核剤の添加や、ポリ乳酸の架橋処理、各種難燃剤の添加がなされてきた。
【0005】
すなわち、上記ポリ乳酸の結晶化を促進するために結晶核剤を添加する手法として、特許文献1には特定分子構造のカルボン酸アミドまたはエステルを添加することが、また特許文献2にはトリシクロヘキシルトリメシン酸アミドを添加することが、さらに特許文献3にはエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドを添加することが開示されている。
【0006】
また、ポリ乳酸の結晶化を促進するための手法として、我々は特許文献4に、メタアクリル酸エステル化合物を配合すること、また、特許文献5には、イソシアネート化合物を配合することをそれぞれ開示してきた。
【0007】
さらに、特許文献6では、通常1〜2%は含まれるD体含有量を0.6%以下に抑えたポリ乳酸樹脂を用い、結晶核剤と併用することにより飛躍的な結晶化速度の増大が図られることが開示されている。しかしながら、特許文献6に記載の発明は、ポリ乳酸樹脂を射出成形により成形体とすることを主に考慮したものであり、その他の成形法や発泡体を得る方法については記載されていない。発泡体を製造する際には、一旦、非晶性一次成形体を作製後、二次成形において成形しながら結晶化させるという複雑な成形法をとる。すなわち、射出成形プロセスでは温度を降下させるときに結晶化させる降温時結晶であるのに対し、発泡体成形プロセスでは、非晶性一次成形体を温度を上げながら、昇温時に結晶化させる昇温時結晶であり、両者は全く異なるプロセスを採るものである。
したがって、特許文献6記載の樹脂組成物を発泡体成形プロセスに用いると、必ずしも良好な発泡体を得ることができなかった。
【0008】
さらに、ポリ乳酸に難燃性を付与するための手法として、我々は特許文献7に、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、カンファースルホン酸の内、少なくとも1種類の難燃剤を配合することを開示し、また特許文献8には、ポリ乳酸に難燃性を付与するために、金属酸化物や金属水酸化物を配合することを開示してきた。しかしながら、特許文献7、8で用いているポリ乳酸は、D体含有量が1%以上と多いものであったため、特許文献7、8に記載されている樹脂組成物は結晶化速度、結晶化度、耐熱性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/137397号公報
【特許文献2】特開2006−328163号公報
【特許文献3】特開2003−226801号公報
【特許文献4】特開2003−128901号公報
【特許文献5】特開2002−3709号公報
【特許文献6】WO2009/004769号公報
【特許文献7】特願2008−284373号
【特許文献8】WO2006/051640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、難燃性、耐熱性に優れた発泡体を成形できる結晶性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる難燃性、耐熱性に優れた発泡体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、D体含有量が低いかもしくは高いポリ乳酸樹脂を用い、これに(メタ)アクリル酸エステル化合物及び過酸化物を配合し、かつ特定の難燃剤を配合することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)D体含有量が1.0モル%以下である、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と、難燃剤(C)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、難燃剤として、臭素系難燃剤(C1)、リン系難燃剤(C2)、カンファースルホン酸(C3)、金属酸化物(C4)、金属水酸化物(C5)のうち、少なくとも1種を用いることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
(2)(1)記載のポリ乳酸系樹脂組成物からなるポリ乳酸系樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶性に優れ、かつ難燃性に優れるものであるため、耐熱性や難燃性に優れた発泡体を生産性よく得ることが可能となる。このように、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
そして、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、耐熱性や難燃性に優れており、食品容器や生活用品、産業資材等の各種の用途に用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と難燃剤(C)を含有するものである。
【0015】
まず、本発明の樹脂組成物を構成するポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下である、または、D体含有量が99.0モル%以上であることが必要である。D体含有量がこの範囲外であるポリ乳酸樹脂を用いた場合、得られる発泡体等の成形体は、結晶化度が低くなり、耐熱性に劣るものとなる。中でも、D体含有量は0.1〜0.6モル%である、または、99.4〜99.9モル%であることが好ましい。
なお、D体含有量が0.1モル%未満であったり、99.9モル%を超えるポリ乳酸樹脂の場合、結晶化速度が非常に速くなるため、得られる発泡体は発泡倍率が低くなる懸念がある。しかしながら、発泡体の発泡倍率が低くてもよい場合は特に限定されるものではない。
【0016】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂(A)の場合、このポリ乳酸樹脂(A)は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0017】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は、後述するように、ポリ乳酸樹脂(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0018】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)として、2種以上のポリ乳酸樹脂を併用してもよい。この場合、D体含有量が本発明で規定する範囲外であるポリ乳酸樹脂、たとえば、D体含有量が1.0モル%を超えるポリ乳酸樹脂を併用してもよく、このようなポリ乳酸樹脂と、本発明で規定するD体含有量を満足するポリ乳酸樹脂とを併用して得られるポリ乳酸樹脂(A)において、そのD体含有量が1.0モル%以下であればよい。同様に、ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリ乳酸樹脂として、D体含有量が99.0%未満のポリ乳酸樹脂を併用してもよく、組み合わせて得られるポリ乳酸樹脂(A)において、そのD体含有量が99.0%以上であればよい。
【0019】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(JIS K−7210(試験条件4)による値)は、0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.2〜20g/10分であることがより好ましく、0.5〜10g/10分であることがさらに好ましい。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて発泡体を得る際に、うまく発泡しなかったり、破泡したり、得られる発泡体の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。また、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は発泡体を製造する際、押出機で押出すことが困難(負荷が高く)になり、操業性が低下したりコストが高くなり好ましくない。
【0020】
ポリ乳酸樹脂(A)のメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が挙げられる。一方、メルトフローレートが小さすぎる場合はメルトフローレートの大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0021】
また、ポリ乳酸樹脂(A)として、重量平均分子量が10万〜20万のものを用いることが好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量が10万未満である場合には溶融粘度が低すぎて、発泡成形時に破泡が生じるなど良好な発泡体を得ることが困難となりやすい。一方、重量平均分子量が20万を超える場合には、樹脂組成物の成形性が低下するので好ましくない。重量平均分子量は、示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置を用い、テトラヒドロフランを溶出液として40℃で標準ポリスチレン換算で求める値である。なお、テトラヒドロフランにサンプルが溶けにくい場合は少量のクロロホルムに溶解後、テトラヒドロフランを加えてサンプル調整する
【0022】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の含有量は、45質量%以上であることが好ましく、中でも80質量%以上であることが好ましい。本発明のポリ乳酸樹脂組成物中には後述するように各種の添加剤や他の樹脂等を添加することが可能であるが、結晶性に優れた樹脂組成物とするためには、ポリ乳酸樹脂(A)の含有量を45質量%以上とすることが好ましい。
【0023】
本発明に用いるポリ乳酸樹脂(A)としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂のうち、D体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸樹脂を用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL-ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD-ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる。
【0024】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)に(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)を配合することにより、ポリ乳酸樹脂(A)に架橋構造を導入するものである。架橋構造を有するポリ乳酸系樹脂組成物とすることにより、結晶性が向上し、結晶化速度が早くなり、得られる発泡体等の成形体の結晶化度が高いものとなる。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)として、ポリ乳酸樹脂(A)との反応性が高く、モノマーが残りにくく、かつ、毒性が少なく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または、1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物を用いるものである。
【0026】
このような(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の具体例としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジアクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートまたは、これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の含有量は、0.01〜20質量%であることが好ましく、中でも0.05〜1質量%であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満では、十分な架橋構造が導入されず、結晶性の向上効果に乏しいものとなる。一方、含有量が20質量%を超えると、架橋の度合いが強すぎて操業性が低下しやすい。
【0028】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)に(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)を添加することにより、ポリ乳酸樹脂(A)に架橋構造を導入する際には、過酸化物(D)を用いることが好ましい。過酸化物(D)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)とポリ乳酸樹脂(A)との反応を促進することを目的として配合されるものである。
過酸化物(D)の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメンなどが挙げられる。
【0029】
過酸化物(D)の添加量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.02〜20質量部であることが好ましく、中でも0.1〜10質量部であることが好ましい。添加量が0.02質量部未満では、目的とする架橋反応の促進効果が得られず、一方、添加量が20質量部を超えると、混練時の操業性が低下する場合がある。
なお、過酸化物(D)はポリ乳酸樹脂(A)に添加して混練する際に分解するため、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中には必ずしも含有されているものではない。
【0030】
次に、難燃剤(C)について説明する。本発明においては、難燃剤(C)として、臭素系難燃剤(C1)、リン系難燃剤(C2)、カンファースルホン酸(C3)、金属酸化物(C4)、金属水酸化物(C5)のうちいずれか1種もしくはこれらを複数種用いるものである。
【0031】
まず、臭素系難燃剤(C1)は、臭素含有率が40重量%以上であり、5%重量減少温度が250〜300℃であるものが好ましい。臭素含有率が40重量%未満では、難燃性の効果が低いため多量の難燃剤を添加する必要があり、それにより発泡成形が困難になりやすい。また、5%重量減少温度が250℃未満では、加工時に難燃剤の分解が起きてしまい、難燃性の低下や樹脂の着色といった問題が発生しやすい。一方、5%重量減少温度が300℃を超えると、燃焼時に分解しにくくなり難燃性が低下する。
なお、5%重量減少温度は、熱重量分析法(TGA)にて窒素雰囲気下、10℃/分昇温条件で測定するものである。
【0032】
臭素系難燃剤(C1)の具体例としては、第一工業製薬製ピロガードSR−720やピロガードSR−130またピロガードSR−600A、日本化成製TAIC−6Bなどを挙げることができる。
【0033】
リン系難燃剤(C2)は、リン含有率が5〜30質量%であるものが好ましく、具体的には芳香族縮合リン酸エステル、リン酸塩、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウムが挙げられる。
【0034】
リン系難燃剤(C2)の具体例としては、ADEKA製FP−2100J、FP−2200、大八化学製PX−200、クラリアント製エクソリットOP−1312、OP−930、AP−462、日産化学工業製PHOSMEL−200などが挙げられる。
【0035】
カンファースルホン酸(C3)は、L体、D体、DL体のいずれでもよい。
【0036】
金属酸化物(C4)、金属水酸化物(C5)としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化珪素、水酸化チタン、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化ナトリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素、水酸化マンガン、水酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化カリウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ナトリウム、酸化ニッケル、酸化ホウ素、酸化マンガン、酸化リチウムなどを挙げることができる。特に、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムが、分子量あたりの水酸基濃度が高いために難燃効果が高く、また毒性が低くしかも安価であるなどの理由から好ましい。
【0037】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の難燃剤(C)の含有量は、それぞれの難燃剤の種類によって異なり、ポリ乳酸系樹脂組成物中の臭素系難燃剤(C1)とリン系難燃剤(C2)の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、中でも2〜15質量%であることが好ましい。含有量が1質量%未満では、十分な難燃性を付与することが困難となる。一方、20質量%を超えると、難燃性は向上するものの、伸長粘度が低下し発泡適正を失う。
【0038】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中のカンファースルホン酸(C3)の含有量は、0.1〜1.0質量%であることが好ましく、中でも0.1〜0.5質量%であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満では、十分な難燃性を付与することが困難となる。一方、1.0質量%を超えると、難燃性は向上するものの、伸長粘度が低下し発泡適正を失う。
【0039】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の金属酸化物(C4)や金属水酸化物(C5)の含有量は、20〜200質量%であることが好ましく、中でも20〜150質量%であることが好ましい。含有量が20質量%未満では、十分な難燃性を付与することが困難となる。一方、200質量%を超えると、得られる発泡体等の成形体の機械的特性や発泡性が低いものとなる。
【0040】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、難燃剤(C1)〜(C5)は複数種用いてもよく、その場合においても、それぞれの難燃剤の含有量は上記の範囲内のものとすることが好ましい。
【0041】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(JIS K−7210(試験条件4)による値)は、0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.2〜20g/10分であることがより好ましく、0.5〜12g/10分であることがさらに好ましい。メルトフローレートが30g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて発泡体を得る際に、うまく発泡しなかったり、破泡したり、得られる発泡体の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。一方、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は、発泡体を製造する際、押出機で押出すことが困難(負荷が高く)になり、操業性が低下したりコストが高くなり好ましくない。
【0042】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物においては、結晶化を促進させ、耐熱性をさらに向上させるために結晶核剤を含有することが好ましい。また、発泡体を得る際には、気泡の大きさや発泡倍率を制御する目的で、発泡核剤、エポキシ基含有鎖延長剤を含有することが好ましい。また、樹脂組成物の耐久性を向上させるために反応性化合物を含有することが好ましい。
【0043】
まず、結晶核剤としては、特に限定されず、種々のものを用いることができる。市販品の結晶核剤としては、例えば、川研ファインケミカル社製WX−1、新日本理化社製TF−1、アデカ社製T−1287N、トヨタ社製マスターバッチKX238Bなどが挙げられる。具体的な化合物としては、その結晶化促進効果の点から、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0044】
このうち、樹脂中への分散性および耐熱性の面から、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジドが好ましく、さらに、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミドが特に好ましい。
【0045】
カルボン酸エステル系化合物としては、種々のものを用いることができるが、例えば、脂肪族ビスヒドロキシカルボン酸エステル等が好ましい。
【0046】
有機スルホン酸塩としては、スルホイソフタル酸塩など、種々のものを用いることができるが、中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩が、結晶化促進効果の点から好ましい。さらに、バリウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、ナトリウム塩などが好ましい。
【0047】
フタロシアニン系化合物としては、種々のものをも用いることができるが、遷移金属錯体を用いることが好ましく、中でも、銅フタロシアニンが結晶化促進効果の点から好ましい。メラミン系化合物としては、種々のものを用いることができるが、結晶化促進効果の点から、メラミンシアヌレートを用いることが好ましい。有機ホスホン酸塩としては、フェニルホスホン酸塩が、結晶化促進効果の点から好ましい。そのうち、特にフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。
なお、これら有機系の結晶核剤に対して、無機系の各種結晶核剤を併用してもよい。
【0048】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の上記のような結晶核剤の含有量は、0.03〜5質量%であることが好ましく、中でも0.1〜4質量%であることが好ましい。結晶核剤の含有量が0.03質量%未満であると、配合することによる上記したような効果が乏しくなる。一方、含有量が5質量%を超えると、結晶核剤としての効果が飽和し、経済的に不利であるだけでなく、生分解後の残渣分が増大するため、環境面でも好ましくない。
【0049】
次に、発泡核剤としては、公知のものが用いられるが、中でも平均粒径が5ミクロン以下の微粉タルクや、ポリテトラフロロエチレンの粒子が好ましい。タルクを用いると結晶化速度がさらに増大する。ポリテトラフロロエチレンの粒子の場合は、結晶化速度にほとんど影響しないため、使い分けることが好ましい。
【0050】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の上記のような発泡核剤の含有量は、0.1〜5質量%であることが好ましく、中でも0.5〜4質量%であることが好ましい。発泡核剤の含有量が0.1質量%未満であると、配合することによる上記したような効果が乏しくなる。一方、含有量が5質量%を超えると、発泡核剤としての効果が飽和し、経済的に不利であるだけでなく、生分解後の残渣分が増大するため、環境面でも好ましくない。
【0051】
エポキシ基含有鎖延長剤としては、平均分子量3000〜15000、エポキシ価が2〜5meq/gのものが好ましい。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中にエポキシ基含有鎖延長剤が含有させることにより、樹脂組成物の樹脂粘度がより向上し、高発泡倍率の発泡体を得ることが可能となる。
【0052】
このようなエポキシ系鎖延長剤の具体例としては、BASF製Joncryl ADR−4300、ADR−4368、ADR−4380、東亞合成製アルフォンUG−4040、UG−4068などが挙げられる。
【0053】
さらに、反応性化合物としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物が好ましく、中でもカルボジイミド化合物を用いることが好ましい。カルボジイミド化合物を用いることにより、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐湿熱性が向上し、得られる発泡体等の成形体は耐久性に優れたものとなる。また、これらの化合物は2種以上を併用してもよい。
【0054】
カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を持つものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、あるいは、芳香族ポリカルボジイミドなど、この範囲の全てのものを用いることができる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは、各種官能基を持つものであっても構わない。
【0055】
カルボジイミド化合物としては、イソシアネート基を分子内に有するカルボジイミド化合物、およびイソシアネート基を分子内に有していないカルボジイミド化合物のどちらも区別無く用いることができる。
【0056】
カルボジイミド化合物のカルボジイミド骨格としては、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなど、多くのカルボジイミド骨格が挙げられる。
【0057】
カルボジイミド化合物の具体例としては、多くのものが挙げられるが、例えば、前記分類の脂環族モノカルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の脂環族ポリカルボジイミドとしては、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の芳香族モノカルボジイミドとしては、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の芳香族ポリカルボジイミドとしては、フェニレン−p−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。
なお、ポリカルボジイミドにおいては、その分子の両端あるいは分子中の任意の部位が、イソシアネート基等の官能基を有する、あるいは、分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造となっていても構わない。
【0058】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の上記のような反応性化合物の含有量は、0.1〜20質量%であることが好ましく、中でも0.2〜15質量%であることが好ましい。反応性化合物の含有量が0.1質量%未満であると、配合することによる上記したような耐久性の向上効果が乏しくなる。一方、含有量が20質量%を超えると、耐熱性が低下し、経済的に不利であるだけでなく、色調が大きく損なわれる場合もある。
【0059】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、無機充填材、植物繊維、強化繊維、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃剤、相溶化剤などを配合することができる。
【0060】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。
無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、マグネシア、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、層状珪酸塩などが例示される。層状珪酸塩を配合することにより、樹脂組成物のガスバリア性を改善することができる。これらは発泡核剤としても効果がある。
可塑剤としては、例えば、脂肪族エステル誘導体または脂肪族ポリエーテル誘導体から選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレートなどが挙げられる。
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を用いることができ、中でも、各種脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。
離型剤としては、各種カルボン酸系化合物、中でも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが、好適に用いられる。
耐衝撃剤としては、特に限定されず、コアシェル型構造を持つ(メタ)アクリル酸エステル系耐衝撃剤など、種々のものを用いることが出来る。具体的な市販の商品としては、例えば、三菱レイヨン社製メタブレンシリーズなどが挙げられる。
【0061】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中は、ポリ乳酸樹脂(A)以外の他の樹脂が含有されていてもよい。このような他の樹脂としては、ポリ乳酸樹脂(A)とのアロイを形成できるものが好ましく、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、などが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6Tなどが挙げられる。
ポリエステルとしては、各種芳香族ポリエステル、各種脂肪族ポリエステルをはじめ多くのものが挙げられる。芳香族ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられ、脂肪族ポリエステルとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート−乳酸)共重合体、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
この他のポリエステル系のものとしては、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリブチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、シクロヘキシレンジメチレンイソフタレートコテレフタレート、p−ヒドロキシ安息香酸残基とエチレンテレフタレート残基からなるコポリエステル、植物由来の原料である1,3−プロパンジオールからなるポリトリメチレンテレフタレート等などが挙げられる。
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中にこれらの樹脂を混合する方法は特に限定されない。
【0062】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、ポリ乳酸樹脂(A)と(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と難燃剤(C1)〜(C5)と過酸化物(D)を溶融混練したり、さらにこれらに前述した結晶核剤や反応性化合物等を混合する際には、一軸あるいは二軸の押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態をよくする意味で二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は〔ポリ乳酸樹脂(A)の融点+5℃〕〜〔ポリ乳酸樹脂(A)の融点+100℃〕の範囲が、また、混練時間は20秒〜30分が好ましい。この範囲より低温や短時間であると、混練や反応が不十分となる場合がある。一方、高温や長時間であると樹脂の分解や着色が生じる場合がある。
本発明で用いる(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)や難燃剤(C1)〜(C5)、過酸化物(D)は、固体状であればドライブレンドや粉体フィーダーを用いて供給する方法が好ましく、液体状の場合は、加圧ポンプを用いて、押出機の途中から注入する方法が好ましい。
特に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)や過酸化物(D)を媒体に溶解又は分散して混練機に注入すると操業性が格段に良くなり好ましい。
【0063】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)や過酸化物(D)を溶解又は分散させる媒体としては一般的なものが用いられ、特に限定されないが、本発明のポリ乳酸樹脂(A)との相溶性に優れた可塑剤が好ましく、また生分解性のものが好ましい。例えば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体などから選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネート、アセチルトリブチルサクシネート(ATBC)等が挙げられる。
【0064】
次に、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、上記したような本発明のポリ乳酸系樹脂組成物からなるものであり、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を発泡成形して得られるものである。
【0065】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物から発泡体を製造する際の発泡方法には、一般的な方法全てを適用することができる。例えば、押出機を用いて、樹脂にあらかじめ樹脂の溶融温度で分解する分解型発泡剤をブレンドしておき、スリット状ノズルから押出してシート状にしたり、丸形ノズルから押出してストランド形状にしたりすることができる。分解型発泡剤の例としては、アゾジカルボンアミドやバリウムアゾジカルボキシレートに代表されるアゾ化合物、N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、4,4′−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)やヒドラジカルボンアミドに代表されるヒドラジン化合物、あるいは炭酸水素ナトリウムなどの無機系の発泡剤などを挙げることが出来る。また、押出機途中から揮発型発泡剤を注入して発泡することも可能である。この場合の発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、水等の無機化合物や、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンなどの各種炭化水素、フロン化合物、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、エタノールやメタノール等の各種アルコール類に代表される有機溶媒などを挙げることが出来る。また、あらかじめ樹脂組成物の微粒子を作製し炭化水素、有機溶媒、水など上記に示した発泡剤を加圧下にて含浸させた後、温度や圧力の変化で発泡させて発泡微粒子を作製する方法も適用できる。
【0066】
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体及び本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体より得られる発泡成形体は、その軽量性、耐熱性、断熱性、耐衝撃性、クッション性、遮音性を活かして包装材、梱包材、緩衝材、断熱材、保温材、保冷材、消音材、吸音材、防音材、制振材、建材、クッション材、資材、容器などに利用することができる。具体例としては、ソファ、ベッドマット、椅子、寝具、マットレス、電灯カバー、ぬいぐるみ、スリッパ、クッション、ヘルメット、カーペット、枕、靴、ポーチ、マット、クラッシュパッド、スポンジ、文具、玩具、DIY用品、パネル、畳芯材、マネキン、自動車内装部材・クッション、カーシート、デッドニング、ドアトリム、サンバイザー、自動車用制振材・吸音材、スポーツ用マット、フィットネス用品、スポーツ用プロテクター、ビート板、グラウンドフェンス、レジャーシート、医療用マットレス、医療用品、介護用品、リハビリ用品、建築用断熱材、建築目地材、面戸材、建築養生材、反射材、工業用トレー、チューブ、パイプカバー、エアコン断熱配管、ガスケット芯材、コンクリート型枠、土木目地、つらら防止パネル、保護材、軽量土、盛土、人工土壌、梱包材・包装資材、梱包資材、ラッピング、生鮮品・野菜・果物等の梱包材・包装材、電子機器等の梱包材・緩衝包装材、生鮮品・野菜・果物等の保温・保冷箱、カップラーメン・弁当箱等の食品容器、食用トレー、飲料容器、農業用資材、発泡模型、スピーカ用振動版などが挙げられる。
【0067】
なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、発泡成形以外にも射出成形、ブロー成形、押出成形等の成形方法により、各種成形体とすることもできる。すなわち、射出成形してなる成形体、あるいは、押出し成形してなるフィルム、シート、および、これらフィルム、シートから加工してなる成形体、あるいは、ブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体などとすることができる。
【0068】
これらの成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文房具用樹脂部品等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例中の各種の物性値の測定及び評価は以下のとおりに行った。
(1)D体含有量
得られたポリ乳酸系樹脂組成物の約0.3gを1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した後、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させた。このサンプル5mL、純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemでGC測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをD体含有量(モル%)とした。
(2)ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸系樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)
JIS K−7210(試験条件4)に従い、190℃、21.2Nの荷重において測定した。
(3)発泡倍率
得られたポリ乳酸系樹脂組成物および発泡体(シート化したもの)の質量を測定し、次いでそれらの見かけ体積を、湿式電子比重計(アルファ・ミラージュ社製「EW−300SG」)を用いて測定した。質量と見かけ体積から見かけ密度を算出した。そして、発泡倍率を以下の式より求めた。
発泡体の発泡倍率=(ポリ乳酸系樹脂組成物の見かけ密度)/(発泡体の見かけ密度)
(4)結晶化速度指数(秒)
得られた発泡体(シート化したもの)を、真空・圧空成形機(浅野研究所製)を用い、シート温度が120度になるよう予熱した後、直ちに金型温度90℃の金型を用いて、金型保持時間を細かく変化させて容器を複数成形した。得られた複数の容器に沸騰した湯を入れ、容器が変形せずに湯を保持可能であった容器のうち、最も金型保持時間が短時間であったものの金型保持時間を結晶化速度指数とした。本指数は値が小さいほど結晶化速度が速いことを示す。
(5)結晶化度(%)
上記と同様に、得られた発泡体(シート化したもの)を、真空・圧空成形機(浅野研究所製)を用い、シート温度が120度になるよう予熱した後、直ちに金型温度90℃の金型を用いて、金型保持時間を15秒にして容器を成形した。容器の底の部分をサンプルとし、このサンプルを、エックス線回折装置(理学電気工業社製RAD-rB)を用いて、WAXD反射フィルム法によって広角X線回折測定を行い、多重ピーク分離法で解析で得られた結晶部面積比率を用いて結晶化度を測定した。
(6)耐熱性
上記の結晶化度を測定するために成形した容器をサンプルとし、120℃のオーブン中で1時間熱処理した後の外観を目視にて観察し、変形の度合いにより以下の5段階で評価した。なお、1が最も優れている。
1:全く変形がない
2:端部のみに僅かに変形がある
3:端部又は全体に変形がある
4:一部大きく変形した箇所がある
5:容器の大部分が変形している
(7)難燃性(射出成形体)
得られたポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製IS−80G型)に供給し、金型表面温度を90℃に調整し、ASTM燃焼試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚み0.8mm)を作製した。この試験片を用い、アンダーライターズラボラトリー社UL−94規格の垂直燃焼試験法に従って燃焼性を評価した。
すなわち、試験片を垂直に保ち、下端にバーナーの火を10秒間接炎させた後でバーナーを取り除き、試験片に着火した火が消えるまでの時間(燃焼時間)を測定した。次に、火が消えると同時に2回目の接炎を10秒間開始し、1回目と同様にして試験片に着火した火が消えるまでの時間(燃焼時間)を測定した。また、落下する火種により試験片の下の綿が着火するか否かについても同時に評価した。
1回目と2回目の燃焼時間、綿の着火の有無などから、上述のUL−94規格の垂直燃焼試験法に従って難燃性のランクをつけた。すなわち、V−0が最高のものであり、以下V−1、V−2となるにつれて難燃性は低下する。燃焼が試験片のクランプ部まで進んだものについては、燃焼時間に応じてA〜Cのランクを付けAランクについてのみ難燃性有りの評価とした。
A:25秒以下、B:60秒以下、C:61秒以上
(8)難燃性(発泡体)
得られた発泡体(発泡シート)を長さ127mm×幅12.7mm×厚み0.5〜2.5mm、質量1.8〜2.1gに切削して試験片を作製し、上記と同様に、アンダーライターズラボラトリー社UL−94規格の垂直燃焼試験法に従って燃焼性を評価した。そして、上記と同様に、燃焼時間に応じてA〜Cのランクを付けAランクについてのみ難燃性有りの評価とした。
A:25秒以下、B:60秒以下、C:61秒以上
【0070】
実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
ポリ乳酸樹脂(A)
・S−06:D体含有量=0.2モル%、MFR=4、重量平均分子量=15万(トヨタ自動車社製)
・S−12:D体含有量=0.1モル%、MFR=8、重量平均分子量=13.5万(トヨタ自動車社製)
・S−17:D体含有量=0.1モル%、MFR=11、重量平均分子量=12万(トヨタ自動車社製)
・A−1:D体含有量=0.6モル%、MFR=2、重量平均分子量=17万(トヨタ自動車社製)
・TE−4000:D体含有量=1.4モル%、MFR=10、重量平均分子量=13万(ユニチカ社製)
(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)
・PDE−50:日本油脂社製ブレンマーPDE−50(エチレングリコールジメタクリレート)
臭素系難燃剤(C1)
・SR−720:第一工業製薬製ピロガードSR−720(臭素化脂肪族芳香族化合物)臭素含有率67%、5%重量減少温度270℃
・TAIC−6B:日本化成製TAIC−6B(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート臭素含有率66%、5%重量減少温度285℃
リン系難燃剤(C2)
・OP−1312:クラリアント製エクソリットOP−1312(有機リン酸化合物)リン含有率19%
・PX−200:大八化学工業製PX−200(芳香族縮合リン酸エステル)リン含有率9%
カンファースルホン酸(C3)
・カンファースルホン酸:CHINA CAMPHOR製 融点195℃、DL体金属水酸化物(C5)
・B103:日本軽金属製B103(水酸化アルミニウム、平均粒子径8μm)
・MGZ−1:堺化学工業製MGZ−1(水酸化マグネシウム、平均粒子径0.8μm)
過酸化物(D)
・パーD:日本油脂社製パーブチルD(ジ−t−ブチルパーオキサイド)
分散媒体
・ATBC:田岡化学製ATBC(アセチルトリブチルサクシネート)
結晶核剤
・238B:トヨタ自動車社製(ポリ乳酸ベースの結晶核剤10%含有マスターバッチ)KX238B
・WX−1:川研ファインケミカル社製WX−1(N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド)
・TLA114:竹本油脂製TLA114(5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム)
反応性化合物
・LA−1:日清紡社製LA−1(イソシアネート基含有率1〜3%、イソシアネート変性カルボジイミド)
・EN−160:松本油脂製薬社製EN−160(N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)
エポキシ基含有鎖延長剤
・ADR−4368:BASF製Joncryl ADR4368(エポキシ基含有アクリルポリマー)
発泡核剤
・MW-HST:林化成社製MW-HST(平均粒径2.6ミクロン 微粉タルク)
【0071】
実施例1
ポリ乳酸樹脂としてS−06を87.5質量部、難燃剤としてTAIC−6Bを5質量部、PX−200を5質量部、カンファースルホン酸を0.3質量部、発泡核剤としてMW-HSTを1.0質量部ドライブレンドして二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)の根元供給口から供給し、バレル温度180℃、スクリュー回転数200rpm、吐出15kg/hの条件で押し出した。混練機のほぼ中央付近より、(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)としてPDE−50と過酸化物(D)としてパーDを用い、これらをATBCに溶解させた溶液(PDE−50/パーD/ATBC=1/2/7 質量比)を1.5質量部添加し、ベントを効かせながら押出し、ポリ乳酸系樹脂組成物を得た。
得られたポリ乳酸系樹脂組成物をペレットとし、70℃×24時間真空乾燥したのち、下記の条件で発泡シートを得た。まず、発泡剤として炭酸ガスを用い、連続押し出し発泡シート化装置(二軸混練機PCM−45(池貝製)、サークルダイのリップ巾0.7mm、ダイ孔径65mm)を用い、押し出し温度200℃、冷却ゾーン温度150℃、ダイ温度160℃、吐出量20Kg/hr、炭酸ガス濃度は変更しながら最大発泡倍率になる条件でシート化を行い、発泡体(発泡シート)を得た。
【0072】
実施例2
ポリ乳酸樹脂としてS−12を用いた以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0073】
実施例3
結晶核剤としてTLA114を0.5質量部用い、ポリ乳酸樹脂と発泡核剤ともにドライブレンドして二軸押出機の根元供給口から供給した以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0074】
実施例4
PDE−50とパーDをATBCに溶解させた溶液の添加量を2.5質量部に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0075】
実施例5〜31、比較例10〜15
表1に示すように、ポリ乳酸樹脂の種類、(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有量、結晶核剤の種類と含有量、難燃剤の種類と含有量、反応性化合物の種類と含有量、エポキシ基含有鎖延長剤の含有量を種々変更した以外は、実施例3と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0076】
比較例1
ポリ乳酸樹脂としてTE−4000を用い、発泡核剤のみを添加(MW−HSTを1.0質量部添加)した以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0077】
比較例2〜3
ポリ乳酸樹脂をS−06、S−17に変更した以外は、比較例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0078】
比較例4
結晶核剤としてTLA114を用い、ポリ乳酸樹脂と発泡核剤ともにドライブレンドして二軸押出機の根元供給口から供給した以外は、比較例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0079】
比較例5
難燃剤としてTAIC−6B、PX−200、カンファースルホン酸を用い、ポリ乳酸樹脂と発泡核剤、結晶核剤とともにドライブレンドして二軸押出機の根元供給口から供給した以外は、比較例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0080】
比較例6〜7
ポリ乳酸樹脂をS−06、S−17に変更した以外は、比較例5と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0081】
比較例8
PDE−50の含有量を変更し、難燃剤を含有しなかった以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0082】
比較例9
ポリ乳酸樹脂をS−17に変更した以外は、比較例8と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得た。そして、実施例1と同様にして発泡体を得た
【0083】
実施例1〜31、比較例1〜15で得られたポリ乳酸系樹脂組成物、発泡体の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1から明らかなように、実施例1〜31で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃性に優れ、操業性よく発泡体を得ることができた。そして、得られた発泡体は、結晶化速度が速いため、結晶化度が高く、かつ発泡倍率も高いものであった。さらに難燃性にも優れていた。
一方、比較例1〜7のポリ乳酸系樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸エステル化合物が含有されていなかったため、得られた発泡体は結晶化速度が遅く、結晶化度の低いものであり、耐熱性にも劣るものであった。また、発泡倍率も低いものであった。比較例8〜9、14〜15のポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃剤が含有されていなかったため、難燃性に劣るものであった。比較例10〜13のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂のD体含有量が高いものであったため、得られた発泡体は、結晶化速度が遅く、結晶化度の低いものであり、耐熱性にも劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体含有量が1.0モル%以下である、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と、難燃剤(C)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、難燃剤として、臭素系難燃剤(C1)、リン系難燃剤(C2)、カンファースルホン酸(C3)、金属酸化物(C4)、金属水酸化物(C5)のうち、少なくとも1種を用いることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(A)中のD体含有量が0.1〜0.6モル%である、または99.4〜99.9モル%である、請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物からなるポリ乳酸系樹脂発泡体。




【公開番号】特開2011−202079(P2011−202079A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72342(P2010−72342)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】