説明

ポンプユニット及びこれを具備した遠心式の微細流動システム

【課題】ポンプユニット及びこれを具備した遠心式の微細流動システムを提供する。
【解決手段】静止した流体Fの上流側に配置されたチャンバと、チャンバに収容され、複数の微細発熱粒子を含むガス発生剤32と、を具備し、ガス発生剤32にエネルギーが供給されれば、ガス発生剤32が気圧を上昇させ、流体Fを下流側に移動させることを特徴とするポンプユニット30及びポンプユニット30を具備した遠心式の微細流動システムとである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細流体工学(microfludics)に係り、さらに詳細には、流体が微細チャンネルに沿って流動するように、流体をポンピングするポンプユニット及びこれを具備した遠心式の微細流動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
微細流体工学分野において、流体を分離または混合したり、流体を利用して生化学反応を行ったり、生化学反応結果を検出したりするなど、流体を利用した多様な機能を行える微細流動システムが利用されている。前記微細流動システムは、例えば、ラボ・オン・チップ(lab−on−a−chip)のような基板形態の素子を含むことができる。このような微細流体処理のための素子には、流体の流路を形成する微細チャンネルと、流体を収容するためのチャンバとが備わり、前記微細流動システムは、前記微細チャンネルに沿って流体が流動するように、流体をポンピングする手段を具備する。
【0003】
図1は、微細チャンネル上の流体をポンピングするための従来のポンプユニットの一例であり、特許文献1に開示されたマイクロポンプを示す平面図である。
【0004】
図1を参照すれば、従来のポンプユニット10は、基板1に形成されたメインチャンネル11と、メインチャンネル11の一端11aに形成された推進剤チャンバ13と、推進剤チャンバ13と隣接し、メインチャンネル11と連結された流体注入チャンネル14とを具備する。推進剤チャンバ13には、推進剤15が充填される。推進剤15は、アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)と、テフロン(登録商標)という商品名で周知のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との混合物であり、前記AIBNは、およそ70℃以上に加熱されれば、窒素ガス(N)を生成する。
【0005】
ポンプユニット10は、推進剤15を加熱するためのヒータ20をさらに具備する。ヒータ20は、電気エネルギーにより発熱し、基板1に形成されるか、または基板1の外部に形成されて基板1と接触されるように位置する。流体注入チャンネル14を介してメインチャンネル11に流体Fを注入させ、ヒータ20に電気エネルギーを供給すれば、推進剤15が加熱されて窒素ガス(N)が生成される。このように生成された窒素ガスの圧力により、流体Fは、メインチャンネル11の一端11aから他端11bに向けて流動し、仮想線で図示された位置から実線で図示された位置に移動する。ところで、ポンプユニット10は、基板1に形成されたり、基板1と接触されるように位置されたりするヒータ20を具備するので、基板1を小型化、集積化し難いという問題点がある。
【0006】
一方、円盤状(Compact Disk形状)の基板を具備し、前記円盤状の基板を回転させることにより、遠心力を利用して流体を前記円盤状の基板の中心部から外周部に向かってポンピングできる遠心式の微細流動システムが、微細流体工学分野で知られている。このような微細流動システムは、円盤状の基板の集積化が容易であるという長所があるが、流体を基板の回転中心から外周部に向かった方向にしかポンピングできないという短所がある。図1に示されたポンプユニット10は、電気エネルギーの供給により発熱するヒータ20を具備しなければならないので、ポンプユニット10を前記遠心式の微細流動システムに適用し難い。従って、流体を前記円盤状の基板の外周部から回転中心に向かった方向にポンピングできなかった。このため、比較的複雑な生化学反応とその結果の検出とを含む微細流体処理プロセスを1枚の円盤状の基板で行える遠心式の微細流動システムを設計することが容易ではないという問題点もある。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0232817号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためのものであり、非接触方式で、ガス発生剤にエネルギーを供給して流体をポンピングする加圧力を形成するポンプ及びこれを具備した遠心式の微細流動システムを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題を達成するために本発明は、静止した流体の上流側に配置されたチャンバと、前記チャンバに収容され、複数の微細発熱粒子を含むガス発生剤と、を具備し、前記ガス発生剤にエネルギーが供給されれば、前記ガス発生剤が気圧を上昇させ、前記流体を下流側に移動させることを特徴とするポンプユニットを提供する。
【0009】
また、本発明は、流体の流路を形成するチャンネルが形成された基板と、静止した流体を前記チャンネルに沿って移動させるためのポンプユニットと、を具備し、前記ポンプユニットは、静止した流体の上流側に配置されたチャンバと、前記チャンバに収容され、複数の微細発熱粒子を含むガス発生剤と、を具備し、前記ガス発生剤にエネルギーが供給されれば、前記ガス発生剤が気圧を上昇させ、前記流体を下流側に移動させることを特徴とする遠心式の微細流動システムを提供する。
【0010】
望ましくは、前記遠心式の微細流動システムは、前記基板を回転させる駆動手段をさらに具備できる。
【0011】
望ましくは、前記遠心式の微細流動システムは、前記ガス発生剤に電磁波を照射する外部エネルギー源をさらに具備できる。
【0012】
望ましくは、前記ガス発生剤は、昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物からなる群から選択された少なくとも一つをさらに含むことができる。
【0013】
望ましくは、前記昇華性物質は、ナフタレン、ドライアイス、ヨード、ショウノウ、及びパラジクロロベンゼンからなる群から選択された少なくとも一つでありうる。
【0014】
望ましくは、前記アジドは、無機アジド、アルキルアジド、及びアリールアジドからなる群から選択された少なくとも一つでありうる。
【0015】
望ましくは、前記アゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、1,1’−アゾビス−(4−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)(ACCN)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(ABAH)、及び1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)(ACVA)からなる群から選択された少なくとも一つでありうる。
【0016】
望ましくは、前記外部エネルギー源は、前記ガス発生剤の一端から他端に電磁波を走査できるように構成されうる。
【0017】
望ましくは、前記ポンプユニットは、前記流体が前記ガス発生剤側に移動することを防止するように、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路を閉鎖し、前記ガス発生剤にエネルギーが供給されるとき、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路を開放する弁をさらに具備できる。
【0018】
望ましくは、前記弁は、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路に充填され、常温で固相である相転移物質を含む弁充填物を具備し、前記弁充填物にエネルギーが供給されれば、前記弁充填物が溶融され、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路が開放されるように構成されうる。
【0019】
望ましくは、前記相転移物質は、ワックス、ゲル、及び熱可塑性樹脂からなる群から選択された少なくとも一つでありうる。
【0020】
望ましくは、前記弁充填物は、前記相転移物質に分散され、エネルギーを吸収して発熱する複数の微細発熱粒子をさらに含むことができる。
【0021】
望ましくは、前記微細発熱粒子は、強磁性物質でありうる。
【0022】
望ましくは、前記微細発熱粒子は、金属酸化物粒子でありうる。
【0023】
望ましくは、前記昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物は、粉末状でありうる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポンプユニットは、ヒータを具備しないので、微細流体工学用の流体処理素子を小型化、集積化しやすい。また、円盤状の基板を具備した遠心式の微細流動システムにも容易に適用可能である。
【0025】
上記ポンプユニットを具備した遠心式の微細流動システムは、円盤状の基板の外周部から回転中心に向かった方向に流体をポンピングでき、比較的複雑な生化学反応とその結果の検出とを含む微細流体処理プロセスを1枚の円盤状の基板で行える遠心式の微細流動システムを容易に設計できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付された図面を参照しつつ、本発明の望ましい実施形態によるポンプユニット及びこれを具備した遠心式の微細流動システムについて詳細に説明する。
【0027】
図2は、本発明のポンプユニットを説明するための図である。
【0028】
図2を参照すれば、本発明のポンプユニット30は、静止している流体Fに隣接した一端に備えられたガス発生剤32と、外部からガス発生剤32にエネルギーを供給する外部エネルギー源35とを具備する。ガス発生剤32と流体Fは、ラボ・オン・チップのような流体処理用基板40の内部に設けられうる。外部エネルギー源35は、基板40及びガス発生剤32に接触していない非接触方式で、ガス発生剤32にエネルギーを供給する。外部エネルギー源35は、ガス発生剤32に電磁波を照射し、エネルギーを供給するものでありうる。具体的に、外部エネルギー源35は、レーザビームLを照射する、例えば、レーザダイオード(LD)のようなレーザ光源を含むことができる。外部エネルギー源35から照射されたレーザビームLがガス発生剤32に入射されるとき、エネルギー損失が最小化されるように、基板40は透明である。
【0029】
ガス発生剤32は、エネルギーを吸収して発熱する多数の微細発熱粒子と昇華性物質パウダーとの混合物でありうる。昇華性物質は、大気圧条件で温度が上昇するにつれて、液相を経ずに固相から直ちにガス相に相変化する物質を指す。具体的に、前記昇華性物質は、ナフタレン、ドライアイス、ヨード、ショウノウ、及びパラジクロロベンゼンからなる群から選択された一つでありうる。
【0030】
前記微細発熱粒子は、数十〜数百nmの粒径を有する。前記微細発熱粒子は、例えば、レーザビーム照射のような方法でエネルギーが供給されれば、そのエネルギーにより温度が急激に上昇して発熱する性質を有する。前記微細発熱粒子は、強磁性の微細な金属酸化物粒子でありうる。具体的に、前記金属酸化物には、Al、TiO、Ta、Fe、Fe、またはHfOが含まれうる。
【0031】
前記昇華性物質は、温度が高いほど蒸気圧が高まる性質を有する。外部エネルギー源35によりガス発生剤32にレーザビームLが照射されれば、ガス発生剤32に含まれた微細発熱粒子がレーザビームLのエネルギーを吸収して急激に発熱し、この発熱によって昇華性物質が気化されつつ、ガス発生剤32と、仮想線で図示された静止した流体Fとの間の気圧が上昇する。この上昇された気圧により加圧され、流体Fは実線で図示されたように、ガス発生剤32から遠ざかる方向に流動する。少なくとも、10mWの出力を有する連続波動レーザビームLであれば、ガス発生剤32を発熱させることができ、1.5W〜2.0Wほどの出力を有する連続波動レーザビームLであれば、速い流体ポンピングを期待することができる。
【0032】
ポンプユニット30のガス発生剤は、多数の微細発熱粒子と、アジドまたはアゾ化合物パウダーとの混合物でもありうる。アジドまたはアゾ化合物は、加熱されれば分解され、窒素(N)ガスが発生する。外部エネルギー源35によりガス発生剤にレーザビームLが照射されれば、ガス発生剤に含まれた微細発熱粒子がレーザビームLのエネルギーを吸収して急激に発熱し、この発熱によってアジドまたはアゾ化合物が加熱されて窒素(N)ガスが発生し、ガス発生剤と、仮想線で図示された静止した流体Fとの間の気圧が上昇する。この上昇された気圧により加圧され、流体Fは、実線で図示されたように、ガス発生剤から遠ざかる方向に流動する。
【0033】
前記アジドは、無機アジド、アルキルアジド、及びアリールアジドからなる群から選択された一つであり、無機アジドは、例えば、アジ化ナトリウム(NaN)でありうる。また、アゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、1,1’−アゾビス−(4−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)(ACCN)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(ABAH)、及び1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)(ACVA)からなる群から選択される一つでありうる。
【0034】
一方、ポンプユニット30は、昇華性物質、アジド、またはアゾ化合物を含まずに、微細発熱粒子のみを含んでなる発熱剤33を含むことも可能である。発熱剤33にレーザビームLが照射されれば、微細発熱粒子が急激に発熱し、発熱剤33と、仮想線で図示された静止した流体Fとの間の空気の温度が上昇し、これによって気圧が上昇する。この上昇された気圧により、流体Fは、発熱剤33から遠ざかる方向に流動する。しかし、微細発熱粒子のみを含んでなる発熱剤33は、ガス発生剤32に比べ、流体Fをポンピングする性能は低下する。
【0035】
図3は、本発明の望ましい実施形態によるポンプユニットを具備した遠心式の微細流動システムを示した斜視図であり、図4は、図3のIV−IVに沿った断面図である。
【0036】
図3及び図4を参照すれば、本発明の望ましい実施形態による遠心式の微細流動システム100は、円盤状の基板102と、基板102を回転させるためのスピンドルモータ145と、基板102に向けてレーザビームLを照射する外部エネルギー源140とを具備する。基板102は、互いにボンディングされた上部プレート103と下部プレート104とを具備する。上部プレート103と下部プレート104とは、両面接着テープ(図示せず)によりボンディングされ、あるいは、超音波融着のような他の方法によりボンディングされる。レーザビームLのエネルギー損失を減らすために、少なくとも上部プレート103は透明である。
【0037】
基板102には、流体Fの流路を形成するメインチャンネル105と、メインチャンネル105の両端に連結された第1流体チャンバ107及び第2流体チャンバ112と、第1流体チャンバ107に隣接した収容チャンバ115と、第1流体チャンバ107と収容チャンバ115とを連結するポンプチャンネル117とが形成されている。流体Fの収容される第1流体チャンバ107は、第2流体チャンバ112に比べて相対的に基板102の中心、すなわち、スピンドルモータ145からさらに離隔されて位置する。また、基板102には、第1流体チャンバ107に流体Fを注入するための流体注入孔108と、第1流体チャンバ107のための通気孔(vent hole)109と、第2流体チャンバ112のための通気孔113とが設けられている。
【0038】
収容チャンバ115には、ガス発生剤120または発熱剤121が充填される。図2を参照して説明したように、ガス発生剤120は、微細発熱粒子と昇華性物質パウダーとを含むものであるか、微細発熱粒子と、アジドまたはアゾ化合物とを含む混合物でありうる。また、発熱剤121は、昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物を含まずに、微細発熱粒子のみを含むものである。基板102には、収容チャンバ115にガス発生剤120または発熱剤121を注入するための注入孔116が設けられている。
【0039】
微細流動システム100は、収容チャンバ115と第1流体チャンバ107との間のポンプチャンネル117を介して、第1流体チャンバ107に収容された流体Fがガス発生剤120または発熱剤121側に流動しないように、ポンプチャンネル117を閉鎖する弁125をさらに具備する。弁125は、ポンプチャンネル117に充填される弁充填物130を含む。弁充填物130は、相転移物質と、相転移物質に分散され、外部から供給されるエネルギーを吸収して発熱する多数の微細発熱粒子とを含む。
【0040】
相転移物質は、ワックス、ゲル、または熱可塑性樹脂でありうる。ワックスとしては、例えば、パラフィンワックスが採用され、ゲルとしては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、またはポリビニルアミドなどが採用され、熱可塑性樹脂としては、例えば、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリオキシメチレン(POM)、パーフルオロオキシ(PFA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリスルホン(PSU)、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが採用されうる。
【0041】
前記微細発熱粒子は、ガス発生剤120に含まれる微細発熱粒子と同種のものであり、重複された説明は省略する。ただし、弁充填物130を製造するのに使われる微細発熱粒子は、疎水性キャリアオイルに分散されていることが可能である。微細発熱粒子が分散された疎水性キャリアオイルと、溶融された相転移物質とを混合して弁充填物130を製造することができる。
【0042】
下部プレート104には、溶融された弁充填物130を収容することができるドレイン128が形成され、上部プレート103には、溶融された弁充填物130をポンプチャンネル117上に注入できるように弁充填物注入孔126が形成されている。注入孔126は、ドレイン128と重ならないように位置する。注入孔126を介してポンプチャンネル117に、溶融された状態の弁充填物130を注入すれば、一部は、ポンプチャンネル117に沿ってドレイン128に流れ込んで収容され、一部は、注入孔126とドレイン128との間のポンプチャンネル117上に残る。このようにポンプチャンネル117上に残った弁充填物130は、常温で凝固されてポンプチャンネル117を閉鎖する。注入孔126に弁充填物130を注入した後には、テープ132などで注入孔126を閉鎖し、通気を遮断する。
【0043】
円盤状の基板102をスピンドルモータ145に装着し、スピンドルモータ145を駆動して基板102を高速回転させれば、基板102内部に注入された流体は、遠心力により基板102の回転中心から外周部に向かってポンピングされる。従って、メインチャンネル105上に流体が存在すれば、その流体は、基板102の外周部に向かって流動する。
【0044】
一方、基板102が回転しない状態で、第1流体チャンバ107と収容チャンバ115とに、流体Fとガス発生剤120または発熱剤121とをそれぞれ注入し、流体注入孔108、通気孔109、及び注入孔116をテープ(図示せず)などで閉鎖した後、外部エネルギー源140を利用して、ガス発生剤120または発熱剤121と、ポンプチャンネル117上の弁充填物130とにレーザビームLを照射すれば、ポンプチャンネル117上の弁充填物130が溶融されてドレイン128に流れ込み、ポンプチャンネル117が開放され、ガス発生剤120または発熱剤121に含まれた微細発熱粒子が急激に発熱してポンプチャンネル117の気圧が上昇する。第1流体チャンバ107に静止している流体Fは、このように上昇された気圧により、ガス発生剤120または発熱剤121から遠ざかる方向に加圧され、メインチャンネル105に沿って基板102の回転中心に向かって流動する。
【0045】
本発明者は、ガス発生剤120を具備したポンプユニットと、発熱剤121を具備したポンプユニットとの流体ポンピング性能を比較するための試験を行った。その結果を撮影した写真が図5A〜図5Cに示されている。各試験で、外部エネルギー源140は、ガス発生剤120または発熱剤121、及び弁充填物130に、1.5W出力の連続波動レーザビームLを15秒間照射した。
【0046】
図5Aは、微細発熱流体の一種である酸化鉄パウダーと、昇華性物質の一種であるナフタレンパウダーとの混合物からなるガス発生剤P1を適用した場合であり、第1流体チャンバ107に収容されていた流体Fがメインチャンネル105に沿ってポンピングされ、ほぼ第2流体チャンバ112に至っていることを示している。この結果により、微細発熱流体と昇華性物質とからなるガス発生剤P1は、すぐれた流体ポンピング性能を有しているということを確認することができる。
【0047】
図5Bは、酸化鉄パウダーのみからなる発熱剤P2を適用した場合であり、第1流体チャンバ107に収容されていた流体Fがメインチャンネル105の中間部ほどまで至っているということを示している。この結果により、発熱剤P2は、ガス発生剤P1(図5A)よりは劣るものの、相当な流体ポンピング性能を有しているということを確認することができる。
【0048】
図5Cは、ナフタレンパウダーのみからなるガス発生剤P3を適用した場合であり、第1流体チャンバ107に収容されていた流体Fの移動程度が大きくないということを示している。これは、レーザビームLのように非接触方式で供給されたエネルギーによっては、ナフタレンのような昇華性物質の温度を気化が活発になるほどに十分に上昇させ難いということを示している。従って、微細発熱粒子なしに昇華性物質のみからなるガス発生剤P3は、本発明のポンプユニット30(図2)や微細流動システム100(図3)に適用されえない。
【0049】
図6及び図7は、本発明の望ましい他の実施形態によるポンプユニットを図示した平面図である。
【0050】
図6を参照すれば、本発明の望ましい他の実施形態によるポンプユニット150は、流体の流路を形成するメインチャンネル152と、メインチャンネル152の一端に連結される流体流入チャンネル153と、ポンプチャンネル163によりメインチャンネル152の一端に連結されるガス発生剤160と、メインチャンネル152の他端に連結される流体チャンバ155とを具備する。また、ポンプユニット150は、ガス発生剤160にレーザビームL2を照射するための外部エネルギー源35(図2)と、ポンプチャンネル163を閉鎖して適時に開放するための弁とを具備する。
【0051】
ガス発生剤160は、微細発熱粒子、昇華性物質、アジド、またはアゾ化合物パウダーの混合物であり、図2を参照して説明したポンプユニット30のガス発生剤32と同一であるので、重複される説明は省略する。一方、ガス発生剤160の代わりとして、微細発熱粒子のみからなる発熱剤161が備えられることもある。発熱剤161は、図2を参照して説明したポンプユニット30の発熱剤33と同一であるので、重複される説明は省略する。
【0052】
弁は、ポンプチャンネル163に充填される弁充填物166を含む。弁充填物166及びこれを含む弁は、図3及び図4を参照して説明した微細流動システム100の弁充填物130及び弁125と同一であるので、重複される説明は省略する。弁充填物166に照射されるレーザビームL1は、ガス発生剤160にレーザビームL2を照射するための外部エネルギー源35(図2)により照射され、あるいは、これと別個の外部エネルギー源により照射されることもある。
【0053】
流体流入チャンネル153を介してメインチャンネル152に流体Fを注入し、弁充填物166にレーザビームL1を照射してポンプチャンネル163を開放した後、ガス発生剤160にレーザビームL2を照射すれば、ガス発生剤160に含まれた微細発熱粒子が急激に発熱して昇華性物質が活発に気化し、これによってポンプチャンネル163の気圧が上昇する。メインチャンネル152の一端に静止した流体Fは、このように上昇された気圧により、ガス発生剤160から遠ざかる方向に加圧され、メインチャンネル152に沿って流体チャンバ155側に流動する。
【0054】
一方、ガス発生剤160の量が多いほどポンプユニット150の流体ポンピング性能は、さらに向上する。しかし、広範囲にわたって分布されたガス発生剤160に、レーザビームを同時に照射するためには、複数個のレーザダイオード(LD)を具備した外部エネルギー源が必要であり、消耗される電力量も大きくなってコストの上昇を引き起こしてしまう。従って、小さな範囲にレーザビームL2を照射することができる外部エネルギー源35(図2)を利用して、外部エネルギー源35を水平移動させて広範囲に分布されたガス発生剤160の一端側から他端に、矢印に沿ってレーザビームL2を走査すれば、コスト上昇を抑制しつつも、流体ポンピング性能を向上させることができる。
【0055】
図7を参照すれば、本発明のさらに他の望ましい実施形態によるポンプユニット170は、流体の流路を形成するメインチャンネル172と、メインチャンネル172の一端に連結された第1流体チャンバ173と、メインチャンネル172の他端に連結される第2流体チャンバ175とを具備する。また、ポンプチャンネル182,183,184によって第1流体チャンバ173の一端に連結されるガス発生剤180と、ガス発生剤180にレーザビームL2を照射するための外部エネルギー源35(図2)と、ポンプチャンネル182,183,184を閉鎖して適時に開放するための弁とを具備する。
【0056】
第1流体チャンバ173は、第1流体チャンバ173に収容された流体Fが収束してメインチャンネル172に投入されるように三角形形態を有しており、ポンプチャンネル182,183,184に連結される第1流体チャンバ173の端部がメインチャンネル172に連結される第1流体チャンバ173の端部よりも拡張されている。このように拡張された端部の一部分に流体Fをポンピングする力が偏重しないように、ポンプチャンネル182,183,184が3つ備わり、これに対応して弁も3つ備わる。3個の弁は、3個のポンプチャンネル182,183,184にそれぞれ充填される弁充填物187,188,189を具備する。弁充填物187,188,189及びこれを含む弁は、図3を参照して説明した微細流動システム100の弁充填物130及び弁125と同一であるので、重複される説明は省略する。
【0057】
ガス発生剤180は、微細発熱粒子、昇華性物質、アジド、またはアゾ化合物パウダーの混合物であり、図2を参照して説明したポンプユニット30のガス発生剤32と同一であるので、重複される説明は省略する。一方、ガス発生剤180の代わりとして、微細発熱粒子のみからなる発熱剤181が備わることもある。発熱剤181は、図2を参照して説明したポンプユニット30の発熱剤33と同一であるので、重複される説明は省略する。
【0058】
弁充填物187,188,189に照射されるレーザビームL1は、ガス発生剤180にレーザビームL2を照射するための外部エネルギー源35(図2)により照射され、あるいは、これと別個の外部エネルギー源により照射されることもある。
【0059】
第1流体チャンバ173に流体Fを注入し、弁充填物187,188,189にレーザビームL1を照射して3個のポンプチャンネル182,183,184を開放した後、ガス発生剤180にレーザビームL2を照射すれば、ガス発生剤180に含まれた微細発熱粒子が急激に発熱して昇華性物質が活発に気化し、これによってポンプチャンネル182,183,184の気圧が上昇する。第1流体チャンバ173に収容された流体Fは、このように上昇された気圧によりガス発生剤180から遠ざかる方向に加圧され、メインチャンネル172に沿って第2流体チャンバ175に向かって流動する。図6に図示されたポンプユニット150と同様に、図7のポンプユニット170も広範囲に分布されたガス発生剤180の一端から他端に、矢印に沿ってレーザビームL2を走査できる外部エネルギー源を具備できる。
【0060】
本発明は、図面に図示された実施形態を参考に説明したが、それらは例示的なものにすぎず、当業者ならば、これらから多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるということを理解することができるであろう。よって、本発明の真の保護範囲は、特許請求の範囲によってのみ決まる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポンプユニット及びこれを具備した遠心式の微細流動システムは、例えば、生化学反応関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】従来のポンプユニットの一例を図示した平面図である。
【図2】本発明のポンプユニットを説明するための図である。
【図3】本発明の望ましい実施形態によるポンプユニットを具備した遠心式の微細流動システムを図示した斜視図である。
【図4】図3のIV−IVに沿った断面図である。
【図5A】酸化鉄パウダーとナフタレンパウダーとの混合物であるガス発生剤を具備したポンプユニットのポンピング性能試験の結果を撮影した写真である。
【図5B】酸化鉄パウダーのみからなる発熱剤を具備したポンプユニットのポンピング性能試験の結果を撮影した写真である。
【図5C】ナフタレンパウダーのみからなるガス発生剤を具備したポンプユニットのポンピング性能試験の結果を撮影した写真である。
【図6】本発明の望ましい他の実施形態によるポンプユニットを図示した平面図である。
【図7】本発明の望ましいさらに他の実施形態によるポンプユニットを図示した平面図である。
【符号の説明】
【0063】
1,40 基板、
11,105,152,172 メインチャンネル、
11a メインチャンネルの一端、
11b メインチャンネルの他端、
13 推進剤チャンバ、
14 流体注入チャンネル、
15 推進剤、
20 ヒータ、
10,30,150,170 ポンプユニット、
32,120,160,180,P1,P3 ガス発生剤、
33,121,161,181,P2 発熱剤、
35,140 外部エネルギー源、
100 微細流動システム、
102 基板、
103 上部ブレード、
104 下部ブレード、
107,173 第1流体チャンバ、
108 流体注入孔、
112,175 第2流体チャンバ、
113 第2流体チャンバの通気孔、
115 収容チャンバ、
116,126 注入孔、
117 ポンプチャンネル、
125 弁、
128 ドレイン、
130,166,187,188,189 弁充填物、
132 テープ、
145 スピンドルモータ、
153 流体流入チャンネル、
155 流体チャンバ、
163,182,183,184 ポンプチャンネル、
F 流体、
L,L1,L2 レーザビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止した流体の上流側に配置されたチャンバと、前記チャンバに収容され、複数の微細発熱粒子を含むガス発生剤と、を具備し、
前記ガス発生剤にエネルギーが供給されれば、前記ガス発生剤が気圧を上昇させ、前記流体を下流側に移動させることを特徴とするポンプユニット。
【請求項2】
前記ガス発生剤は、昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物からなる群から選択された少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のポンプユニット。
【請求項3】
前記昇華性物質は、ナフタレン、ドライアイス、ヨード、ショウノウ、及びパラジクロロベンゼンからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2に記載のポンプユニット。
【請求項4】
前記アジドは、無機アジド、アルキルアジド、及びアリールアジドからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2に記載のポンプユニット。
【請求項5】
前記アゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス−(4−シクロヘキサンカルボニトリル)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、及び1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2に記載のポンプユニット。
【請求項6】
前記流体が前記ガス発生剤側に移動することを抑制するように、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路を閉鎖し、前記ガス発生剤にエネルギーが供給されるとき、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路を開放する弁をさらに具備したことを特徴とする請求項1に記載のポンプユニット。
【請求項7】
前記弁は、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路に充填され、常温で固相である相転移物質を含む弁充填物を具備し、前記弁充填物にエネルギーが供給されれば、前記弁充填物が溶融され、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路が開放されるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のポンプユニット。
【請求項8】
前記相転移物質は、ワックス、ゲル、及び熱可塑性樹脂からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7に記載のポンプユニット。
【請求項9】
前記弁充填物は、前記相転移物質に分散され、エネルギーを吸収して発熱する複数の微細発熱粒子をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のポンプユニット。
【請求項10】
前記微細発熱粒子は、強磁性物質であることを特徴とする請求項1または請求項9に記載のポンプユニット。
【請求項11】
前記微細発熱粒子は、金属酸化物粒子であることを特徴とする請求項1または請求項9に記載のポンプユニット。
【請求項12】
前記昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物は、粉末状であることを特徴とする請求項2に記載のポンプユニット。
【請求項13】
流体の流路を形成するチャンネルが形成された基板と、静止した流体を前記チャンネルに沿って移動させるためのポンプユニットと、を具備した遠心式の微細流動システムであって、
前記ポンプユニットは、
静止した流体の上流側に配置されたチャンバと、前記チャンバに収容され、複数の微細発熱粒子を含むガス発生剤と、を具備し、
前記ガス発生剤にエネルギーが供給されれば、前記ガス発生剤が気圧を上昇させ、前記流体を下流側に移動させることを特徴とする遠心式の微細流動システム。
【請求項14】
前記基板を回転させる駆動手段をさらに具備したことを特徴とする請求項13に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項15】
前記ガス発生剤に電磁波を照射する外部エネルギー源をさらに具備したことを特徴とする請求項13に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項16】
前記ガス発生剤は、昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物からなる群から選択された少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項17】
前記昇華性物質は、ナフタレン、ドライアイス、ヨード、ショウノウ、及びパラジクロロベンゼンからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項16に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項18】
前記アジドは、無機アジド、アルキルアジド、及びアリールアジドからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項16に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項19】
前記アゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス−(4−シクロヘキサンカルボニトリル)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、及び1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項16に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項20】
前記外部エネルギー源は、前記ガス発生剤の一端から他端に電磁波を走査できるように構成されていることを特徴とする請求項15に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項21】
前記ポンプユニットは、前記流体が前記ガス発生剤側に移動することを防止するように、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路を閉鎖し、前記ガス発生剤にエネルギーが供給されるとき、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路を開放する弁をさらに具備したことを特徴とする請求項13に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項22】
前記弁は、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路に充填され、常温で固相である相転移物質を含む弁充填物を具備し、前記弁充填物にエネルギーが供給されれば、前記弁充填物が溶融され、前記ガス発生剤と前記流体との間の流路が開放されるように構成されていることを特徴とする請求項21に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項23】
前記相転移物質は、ワックス、ゲル、及び熱可塑性樹脂からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項22に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項24】
前記弁充填物は、前記相転移物質に分散され、エネルギーを吸収して発熱する複数の微細発熱粒子をさらに含むことを特徴とする請求項22に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項25】
前記微細発熱粒子は、強磁性物質であることを特徴とする請求項13または請求項24に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項26】
前記微細発熱粒子は、金属酸化物粒子であることを特徴とする請求項13または請求項24に記載の遠心式の微細流動システム。
【請求項27】
前記昇華性物質、アジド、及びアゾ化合物は、粉末状であることを特徴とする請求項16に記載の遠心式の微細流動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−224662(P2008−224662A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35539(P2008−35539)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】