説明

ポンプ駆動制御装置

【課題】実ポンプの性能に応じたシステム効率の高い運転が可能なポンプ駆動制御装置を提供する。
【解決手段】実ポンプの回転数を一定に制御した場合の実ポンプの仕事量(消費電力)を検知し、検知した実ポンプの消費電力と回転数に基づいてポンプの体積効率を算出する。算出した体積効率ηvを運転管理マップMにプロットし、基準となる体積効率ηvのラインl1を補正することで、実ラインl11を得る。得られた実ラインl11を利用して実ポンプの運転を制御することで、製造バラツキなどによる実ポンプの性能を考慮することなく、最低ポンプを使用したときに得られる下限ラインl01を常に利用していた従来例と比較して、システム効率の高い運転制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに適用されるポンプ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素を含む燃料ガスを電気化学プロセスによって酸化させることにより酸化反応に伴って放出されるエネルギーを電気エネルギーに直接変換する発電システムであり、水素イオンを選択的に輸送するための電解質膜の両側面を多孔質材料から成る一対の電極によって挟持して成る膜−電極アッセンブリを複数積層して成るスタック構造を有している。なかでも、固体高分子膜を電解質として用いる固体高分子電解質型燃料電池は、低コストでコンパクト化が容易であり、しかも高い出力密度を有することから、車載電力源としての用途が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、燃料電池システムの燃料ガス供給系の概略構成を示す図である。
燃料ガス供給系100は、水素を含む燃料ガスを燃料電池200に供給するためのインジェクタ400と、燃料電池200のアノード極に供給される燃料ガスが流れる燃料ガス通路110と、燃料電池20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路110に帰還させるための循環通路120と、循環通路120内の燃料オフガスを燃料ガス通路43に圧送する水素循環ポンプ300と、循環通路47に分岐接続される排気通路130と、燃料オフガスの排気量を調整するためのパージ弁500とを有している。
【0004】
従来技術の水素循環ポンプ300の特徴としては、製造時に許容される漏れ量の公差が大きい点が挙げられる。これは燃料ガスに含まれる水素の分子量が小さく、ポンプの隙間から漏れる水素のガス量が、ポンプの隙間から漏れる他の気体のガス量に対して多いことに起因する。このため、従来においては、各ポンプ間での漏れ量のバラツキを抑制することができないという問題があった。
【0005】
一方、燃料電池200に供給する燃料ガス(すなわち水素)が不足すると、触媒が劣化してしまうため、どのような水素循環ポンプ300が適用されたとしても(別言すれば、漏れ量に大きなバラツキがあるいずれの水素循環ポンプ300が適用されたとしても)、最低限必要な水素が燃料電池に供給されるように、多めに燃料ガスを供給する必要がある。
【0006】
図5は、水素循環ポンプを利用する場合に利用される駆動マップを例示した図であり、縦軸に仕事量、横軸に回転数を示す。
従来は、最低限必要な水素を確保するために、最も性能の低い(漏れ量が最も大きい)水素循環ポンプ(以下、最低ポンプ)を使用したときに得られる回転数と仕事量の関係をあらわす下限ライン(図5では、実線で示す)を利用して水素循環ポンプを運転していた。
【特許文献1】特開2003−81603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際にシステムで利用される水素循環ポンプは、最低ポンプよりも性能が高いため、実際に利用される水素循環ポンプ(以下、実ポンプ)を使用したときに得られる回転数と仕事量の関係をあらわす実ラインは(図5では、点線で示す)、下限ラインよりも傾きが大きくなる。
【0008】
よって、最低ポンプを使用したときに得られる下限ラインを利用して実ポンプを運転すると、余分な仕事をする必要があり(図5に示すΔW1〜ΔW3参照)、システム効率が低下してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、実ポンプの性能に応じたシステム効率の高い運転が可能なポンプ駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係るポンプ駆動制御装置は、燃料電池システムのガス供給経路に水素を含む燃料ガスを送り出すポンプと、前記ポンプの回転数と消費電力との関係を対応づけたポンプ制御情報を記憶する記憶手段と、検知した前記ポンプの回転数と消費電力に基づき、該ポンプの体積効率を算出する算出手段と、算出された前記体積効率に基づき、前記ポンプ制御情報を補正する補正手段と、前記ポンプ制御情報を用いて前記ポンプの駆動を制御する駆動制御手段とを具備する。
【0011】
かかる構成によれば、検知した実ポンプの消費電力と回転数に基づいてポンプの体積効率を算出し、算出した体積効率に基づき、実ポンプの運転を制御する。これにより、実ポンプの性能が反映した状態で運転が制御されるため、製造バラツキなどによる実ポンプの性能を考慮することなく、最低ポンプを使用したときに得られるデータを利用して実ポンプを運転していた従来例と比較して、システム効率の高い運転制御が可能となり、さらには実ポンプの流量誤差を抑制することが可能となる。
【0012】
上記構成にあっては、前記算出手段は、ポンプの回転数を一定に制御した場合の該ポンプの消費電力を求め、求めたポンプの消費電力とポンプの回転数とに基づき、前記体積効率を算出する態様が好ましい。
【0013】
また、上記構成にあっては、前記ポンプは、燃料電池から出力される燃料オフガスの一部を前記ガス供給路に戻す循環ポンプであり、前記燃料オフガスには水分が含まれる態様がさらに好ましい。
【0014】
また、上記構成にあっては、前記算出手段は、前記ポンプの最初の始動時に、前記体積効率を算出する態様も好ましい。
【0015】
また、上記構成にあっては、前記算出手段は、前記燃料電池の発電を停止した後に、前記体積効率を算出する態様も好ましい。
【0016】
また、上記構成にあっては、前記燃料電池の電解質膜の乾燥度合いを検知する検知手段をさらに備え、前記算出手段は、前記電解質膜の乾燥度合いが設定値以上となった場合に、前記体積効率を算出する態様も好ましい。
【0017】
また、上記構成にあっては、前記算出手段は、前記燃料電池の発電を停止した後、前記燃料ガスの循環系を掃気した後に前記体積効率を算出する態様も好ましい。
【0018】
また、上記構成にあっては、前記算出手段は、前記ポンプの回転数を、設定された最高回転数近傍で一定に制御した場合の該ポンプの消費電力を求め、求めたポンプの消費電力とポンプの回転数とに基づき、前記体積効率を算出する態様も好ましい。
【0019】
また、上記構成にあっては、前記ポンプに接続されたインバータと、前記インバータの出力電流、出力電圧を検知する電流・電圧検知手段とをさらに備え、前記算出手段は、検知された前記インバータの出力電流、出力電圧に基づき、前記ポンプの消費電力を求める態様が好ましい。
【0020】
また、上記構成にあっては、前記ポンプに流入される燃料ガスの流入圧力を検知する第1圧力検知手段と、前記ポンプから流出される燃料ガスの流出圧力を検知する第2圧力検知手段とをさらに備え、
前記算出手段は、ポンプの回転数を一定に制御した場合の該ポンプの消費電力を求め、求めたポンプの消費電力と、ポンプの回転数と、検知される流入圧力と、検知される流出圧力とに基づき、前記体積効率を算出する態様が好ましい。
【0021】
また、上記構成にあっては、前記算出手段は、設定された電力で前記ポンプを駆動した場合の該ポンプの回転数を検知し、検知したポンプの回転数とポンプの消費電力とに基づき、前記体積効率を算出する態様が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、実ポンプの性能に応じたシステム効率の高い運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
A.本実施形態
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係る車両に搭載された燃料電池システム10のシステム構成を示す。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、実ポンプの性能に応じたシステム効率の高い運転を可能とするために、所定のタイミングで実ポンプの体積効率を算出し、算出した体積効率に基づき実ポンプの運転を制御する点に特徴がある。ここで、実ポンプの体積効率とは、実ポンプに漏れがないと仮定した場合のガス流量を基準として、実ポンプから実際に流出されるガス流量の割合をいう(詳細は後述)。
【0024】
なお、以下の説明では車両の一例として燃料電池自動車(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)を想定するが、電気自動車やハイブリッド自動車にも適用可能である。また、車両のみならず各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型電源、さらには携帯型の燃料電池システムにも適用可能である。
【0025】
燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載される車載電源システムとして機能するものであり、反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)の供給を受けて発電する燃料電池20と、酸化ガスとしての空気を燃料電池20に供給するための酸化ガス供給系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池20に供給するための燃料ガス供給系40と、電力の充放電を制御するための電力系50と、燃料電池20を冷却するための冷却系60と、システム全体を制御するコントローラ70とを備えている。
【0026】
燃料電池20は、複数のセルを直列に積層してなる固体高分子電解質型セルスタックである。燃料電池20では、アノード極において(1)式の酸化反応が生じ、カソード極において(2)式の還元反応が生じる。燃料電池20全体としては(3)式の起電反応が生じる。
【0027】
2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
2+(1/2)O2 → H2O …(3)
【0028】
燃料電池20には、燃料電池20の出力電圧を検出するための電圧センサ71、及び発電電流を検出するための電流センサ72が取り付けられている。
【0029】
酸化ガス供給系30は、燃料電池20のカソード極に供給される酸化ガスが流れる酸化ガス通路34と、燃料電池20から排出される酸化オフガスが流れる酸化オフガス通路36とを有している。酸化ガス通路34には、フィルタ31を介して大気中から酸化ガスを取り込むエアコンプレッサ32と、燃料電池20のカソード極へ供給される酸化ガスを加湿するための加湿器33と、酸化ガス供給量を調整するための絞り弁35とが設けられている。酸化オフガス通路36には、酸化ガス供給圧を調整するための背圧調整弁37と、酸化ガス(ドライガス)と酸化オフガス(ウェットガス)との間で水分交換するための加湿器33とが設けられている。
【0030】
酸化ガス通路34と酸化オフガス通路36との間には、燃料電池20をバイパスして両者間を接続するバイパス通路38と、バイパス通路38を流れる酸化ガス流量を調整するバイパス弁39とが配設されている。バイパス弁39は、通常時には閉弁しており、後述する電圧降下処理時に開弁される。バイパス通路38とバイパス弁39とは、バイパスエア流量を調整するためのバイパス手段として機能する。
【0031】
燃料ガス供給系40は、燃料ガス供給源41と、燃料ガス供給源41から燃料電池20のアノード極に供給される燃料ガスが流れる燃料ガス通路45と、燃料電池20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路45に帰還させるための循環通路46と、循環通路46内の燃料オフガスを燃料ガス通路(ガス供給経路)45に圧送する循環ポンプ(ポンプ)47と、循環通路46に分岐接続される排気排水通路48とを有している。
【0032】
燃料ガス供給源41は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、高圧(例えば、35MPa〜70MPa)の水素ガスを貯留する。遮断弁42を開くと、燃料ガス供給源41から燃料ガス通路45に燃料ガスが流出する。燃料ガスは、レギュレータ43やインジェクタ44により、例えば、200kPa程度まで減圧されて、燃料電池20に供給される。
【0033】
尚、燃料ガス供給源41は、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクとから構成してもよい。
【0034】
レギュレータ43は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置であり、例えば、一次圧を減圧する機械式の減圧弁などで構成される。機械式の減圧弁は、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする構成を有する。
【0035】
インジェクタ44は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ44は、燃料ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体とを備えている。
【0036】
循環通路46に分岐接続された排気排水通路48には、排気排水弁49が配設されている。排気排水弁49は、コントローラ70からの指令によって作動することにより、循環通路46内の不純物を含む燃料オフガスと水分とを外部に排出する。排気排水弁49の開弁により、循環通路46内の燃料オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環系内を循環する燃料オフガス中の水素濃度を上げることができる。
【0037】
排気排水弁49を介して排出される燃料オフガスは、酸化オフガス通路34を流れる酸化オフガスと混合され、希釈器(図示せず)によって希釈される。循環通路46には、循環通路46内の燃料オフガスを燃料ガス通路45に圧送する循環ポンプ46を有する。供給通路22に戻される燃料オフガス量の調整は、コントローラによる制御指令に基づき循環ポンプ46の回転数を制御することで実現される。また、循環通路46には、循環ポンプ46に流入される燃料オフガスの圧力(上流圧力)を検知する圧力センサP1と、循環ポンプ46から流出される燃料オフガスの圧力(下流圧力)を検知する圧力センサP2が設けられている。
【0038】
電力系50は、DC/DCコンバータ51、バッテリ52、トラクションインバータ53、トラクションモータ54、及び補機類55を備えている。DC/DCコンバータ51は、バッテリ52から供給される直流電圧を昇圧してトラクションインバータ53に出力する機能と、燃料電池20が発電した直流電力、又は回生制動によりトラクションモータ54が回収した回生電力を降圧してバッテリ52に充電する機能とを有する。DC/DCコンバータ51のこれらの機能により、バッテリ52の充放電が制御される。また、DC/DCコンバータ51による電圧変換制御により、燃料電池20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)が制御される。
【0039】
バッテリ52は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギー貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ52としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適である。
【0040】
トラクションインバータ53は、例えば、パルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータであり、コントローラ70からの制御指令に従って、燃料電池20又はバッテリ52から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、トラクションモータ54の回転トルクを制御する。トラクションモータ54は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
【0041】
補機類55は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モータ(例えば、ポンプ類などの動力源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、更には各種の車載補機類(例えば、エアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータなど)を総称するものである。
【0042】
コントローラ70は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、通常運転の制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0043】
コントローラ70は、各圧力センサPs、Pdや温度センサ、イグニッションスイッチから出力される起動信号IG、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACCや、車速センサから出力される車速信号VCなどを基に、各構成要素(コンプレッサ32、水素循環ポンプ47など)に制御信号を出力する。
【0044】
以下、本実施形態の特徴である所定のタイミングで実ポンプ(実際の水素循環ポンプ47)の体積効率を算出し、算出した体積効率に基づき実ポンプの運転を制御する点について詳細に説明する。
従来技術の項において説明したように、従来技術の水素循環ポンプ47の特徴としては、製造時に許容される漏れ量の公差が大きい点が挙げられる。これは燃料ガスに含まれる水素の分子量が小さく、ポンプの隙間から漏れる水素のガス量が、ポンプの隙間から漏れる他の気体のガス量に対して多いことに起因する。このため、従来においては、各ポンプ間での漏れ量のバラツキを抑制することができないという問題があった。また、水素循環ポンプ47が圧送する燃料オフガスには、水分(燃料電池の発電時に生成された水)が含まれるが、現在の技術では、水分を蒸発させることなしに(すなわち加熱することなしに)、水分を含んだガスの流量を正確に測定することは難しい。
【0045】
かかる事情に鑑み、本実施形態では、実ポンプの回転数を一定に制御した場合の実ポンプの仕事量(消費電力)を検知し、検知した実ポンプの消費電力と回転数に基づいてポンプの体積効率を算出し、算出した体積効率に基づき、実ポンプの運転を制御する。
【0046】
図2及び図3は、メモリ(記憶手段)60に格納されている実ポンプの運転管理マップ(ポンプ制御情報)M1を例示した図である。
図2に示すように、運転管理マップM1には、各体積効率ηv=0.5(50%)、ηv=0.6(60%)、ηv=0.7(70%)での回転数と仕事量の関係を表すラインl01〜l03が示されている。このうち、体積効率ηv=0.5(50%)での回転数と仕事量の関係を表すラインl01は、基準ラインとなる。
【0047】
また、便宜上、図2ではηvが3種類示されている場合を示しているが、体積効率ηv=1(100%)での回転数と仕事量の関係を表すラインも登録されている。もちろん、他の体積効率ηvでの回転数と仕事量の関係を表すラインが登録されていても良い。なお、運転管理マップM1に予め登録される各体積効率ηvでの回転数と仕事量の関係は、例えば実験などによって求めておくことができる。実験で利用するポンプは、当該車両に搭載される実ポンプ47であっても良いが、公差範囲内で許容される他のポンプであっても良い。
【0048】
<製造直後に実ポンプの体積効率を求める場合>
本実施形態では、まず、燃料電池システム10を組み立てた後、水素循環ポンプ47を初めて駆動する場合に体積効率を求める。このように、実ポンプ47を初めて駆動する場合に体積効率を求める理由は、実ポンプの体積効率は個体差に依存する度合いが大きく、耐久性の劣化に依存する度合いが小さいためである。
【0049】
コントローラ(算出手段)70は、燃料電池システム10の組み立て終了後に、実ポンプ47に対して一定の回転数で回転を行うべき指示を送る。設定する回転数については、最高回転数近傍の回転数N(図2に示す回転数N1)が望ましい。この理由は、図2に示すように、回転数が高ければ高いほど、圧力損失は安定し、体積効率の差も大きくなり、精度良く体積効率が求められるからである。
【0050】
コントローラ70は、回転数を一定に設定すると、この回転数で体積効率ηv=1(100%)と仮定した場合の仕事量(以下、理論値の仕事量)Qをメモリ60から読み出す。理論値の仕事量Qは、下記式(1)に示すように、回転数N(rpm)に比例する。なお、理論値の仕事量Qは、予め計算などして導出し、これをメモリ60に登録しておけば良い。
Q ∝ N ・・・(1)
【0051】
さらに、コントローラ(算出手段)70は、圧力センサ(第1圧力検知手段)P1より実ポンプ47に流入される燃料オフガスの圧力(流入圧力)Psを受け取るとともに、圧力センサ(第2圧力検知手段)P2より実ポンプ47から流出される燃料オフガスの圧力(流出圧力)Pdを受け取る。また、コントローラ(算出主だsン)70は、メモリ60に格納されている実ポンプ47の機械的な損失(いわゆる機械損失)Wmを取得するとともに、実ポンプ47を駆動するモータ46aのインバータに接続された電流計、電圧計(電流・電圧検知手段)に示される電流値i、電圧値vから仕事量W(=i*v;図3に示す仕事量W1)を求める。なお、機械損失Wmの変動は、比較的小さいため、固定値としてメモリ60に格納しておけば良い。コントローラ70は、これらの値を下記式(2)に代入することにより、当該時点での実ポンプ47の体積効率ηvを算出する。
W = (Pb−Ps)*Q/ηv+Wm ・・・(2)
【0052】
その後、コントローラ(補正手段)70は、メモリ60に登録されている実ポンプ47の運転管理マップM1を参照し、設定した回転数N(ここでは回転数N1)と得られた仕事量W(ここでは仕事量W1)を、運転管理マップM1にプロットし、基準となる体積効率ηvのラインl1を補正することで、図3に示す実ラインl11を得る。
【0053】
そして、コントローラ(駆動制御手段)70は、得られた実ラインl11を利用して実ポンプ(水素循環ポンプ)47の運転を制御する。得られた実ラインl11は、実ポンプ47の性能が反映されているため、製造バラツキなどによる実ポンプ47の性能を考慮することなく、最低ポンプを使用したときに得られる下限ライン(例えば、図3に示す基準ラインl01)を常に利用していた従来例と比較して、システム効率の高い運転制御が可能となり、さらには実ポンプ47の流量誤差を抑制することが可能となる。
【0054】
B.変形例
<変形例1>
上述した本実施形態では、製造直後に実ポンプ47の体積効率ηvを求める場合について説明したが、体積効率ηvを求めるタイミングはシステム等に応じて適宜設定・変更可能である。具体的には、コントローラ(算出手段)が、(1)燃料電池の発電停止直後に行う、(2)燃料電池の電解質膜の乾燥度合いが所定値以上の場合に行う、(3)燃料電池の発電開始前、あるいは発電停止後の掃気処理直後(加圧処理直後)に行うようにしても良い。(1)によれば、発電停止直後(すなわち、シャットダウン直後)は水素循環系の濃度が安定しているため、圧力損失(ポンプの入口、出口での圧力差)も安定し、精度良く測定することが可能となる。また、(2)によれば、燃料電池20の残水量が管理しやすく、圧力損失も安定し、精度良く測定することが可能となる。なお、燃料電池の電解質膜の乾燥度合いを測定する方法としては、コントローラ(検知手段、算出手段)70が周知の交流インピーダンス法によって燃料電池20のインピーダンスを測定し、測定結果に基づき電解質膜の乾燥度合いを求めれば良い。また、(3)によれば、水素循環系の濃度が安定しているため、圧力損失も安定し、精度良く測定することが可能となる。もちろん、これらのタイミングに限定する趣旨ではなく、一定期間毎(例えば1ヶ月毎など)に体積効率ηvを求めるようにしても良い。
【0055】
<変形例2>
上述した本実施形態では、実ポンプ47に流入される燃料オフガスの圧力(上流圧力)Psを検知する圧力センサP1、実ポンプ47から流出される燃料オフガスの圧力(下流圧力)Pdを検出する圧力センサP2が設けられている場合について説明したが、いずれか一方の圧力センサ(例えば、下流圧力Pdを検出する圧力センサP2)のみが設けられている場合にも適用可能である。この場合、実際に測定されない圧力(たとえば上流圧力)については推定値を用いれば良い。このように、圧力について推定値を用いることができるのは、圧力損失のバラツキは個体差として大きくないため、推定値を利用したとしても誤差は小さいからである。なお、上流圧力Ps、下流圧力Pdの両方について推定値を用いても良い。
【0056】
<変形例3>
上述した本実施形態では、機械損失Wmが常に一定としたが、変動する機械損失を考慮して体積効率ηvを算出しても良い。一般に、実ポンプはトータル運転時間(生涯回転数)が増加するにつれ、シール付近の部材が磨耗するなどして機械損失は徐々に減少していく傾向にある。そこで、水素循環ポンプについて生涯回転数と機械損失の関係を予め実験などによって求め、これを機械損失管理マップM2としてメモリ60に登録しておく。コントローラ70は、体積効率ηvを求める際、当該時点での回転数Nを検知した後、メモリ60に登録されている機械損失管理マップM2を参照し、この回転数Nに対応する機械損失Wmを取得する。そして、コントローラ70は、取得した機械損失Wmを上記式(2)に代入することで、体積効率ηvを求める。かかる構成によれば、より精度良く体積効率ηvを算出することが可能となる。
【0057】
<変形例4>
上述した本実施形態及び変形例では、回転数を一定に制御し、この場合に得られる仕事量(消費電力)Wと該回転数Nとに基づき体積効率ηvを求めたが、回転数ではなく仕事量(消費電力)を予め決定し(別言すれば設定された電力で)、この場合に得られる回転数Nと該仕事量Wとに基づき体積効率ηvを求めても良い。
【0058】
体積効率ηvを求める際には、バッテリ52などから供給される電力を利用して水素循環ポンプ46を駆動することになるが、回転数を一定に制御する方法では、バッテリ52に十分な電力が残っていないために、当該制御が行えず、体積効率ηvを求めることができないことが懸念される。
そこで、予め水素循環ポンプ47の消費電力(仕事量)を決めておき、決められた消費電力でコントローラ(算出手段)70が回転数Nを求め、求めた回転数Nと消費電力とに基づき、体積効率を算出するようにしても良い。さらに、コントローラ70が水素循環ポンプ47のトルク値を用いて体積効率ηvを算出するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムのシステム構成図である。
【図2】メモリに格納されている実ポンプの運転管理マップを例示した図である。
【図3】メモリに格納されている実ポンプの運転管理マップを例示した図である。
【図4】燃料電池システムの燃料ガス供給系の概略構成を示す図である。
【図5】水素循環ポンプを利用する場合に利用される駆動マップを例示した図である。
【符号の説明】
【0060】
10・・・燃料電池システム、20・・・燃料電池、30・・・酸化ガス供給系、40・・・燃料ガス供給系、47・・・水素循環ポンプ、50・・・電力系、60・・・メモリ、70・・・コントローラ、P1,P2・・・圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムのガス供給経路に水素を含む燃料ガスを送り出すポンプと、
前記ポンプの回転数と消費電力との関係を対応づけたポンプ制御情報を記憶する記憶手段と、
検知した前記ポンプの回転数と消費電力に基づき、該ポンプの体積効率を算出する算出手段と、
算出された前記体積効率に基づき、前記ポンプ制御情報を補正する補正手段と、
前記ポンプ制御情報を用いて前記ポンプの駆動を制御する駆動制御手段と
を具備するポンプ駆動制御装置。
【請求項2】
前記算出手段は、ポンプの回転数を一定に制御した場合の該ポンプの消費電力を求め、求めたポンプの消費電力とポンプの回転数とに基づき、前記体積効率を算出する、請求項1に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項3】
前記ポンプは、燃料電池から出力される燃料オフガスの一部を前記ガス供給路に戻す循環ポンプであり、前記燃料オフガスには水分が含まれる、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記ポンプの最初の始動時に、前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記燃料電池の発電を停止した後に、前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項6】
前記燃料電池の電解質膜の乾燥度合いを検知する検知手段をさらに備え、
前記算出手段は、前記電解質膜の乾燥度合いが設定値以上となった場合に、前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項7】
前記算出手段は、前記燃料電池の発電を停止した後、前記燃料ガスの循環系を掃気した後に前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項8】
前記算出手段は、前記ポンプの回転数を、設定された最高回転数近傍で一定に制御した場合の該ポンプの消費電力を求め、求めたポンプの消費電力とポンプの回転数とに基づき、前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項9】
前記ポンプに接続されたインバータと、
前記インバータの出力電流、出力電圧を検知する電流・電圧検知手段とをさらに備え、
前記算出手段は、検知された前記インバータの出力電流、出力電圧に基づき、前記ポンプの消費電力を求める、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項10】
前記ポンプに流入される燃料ガスの流入圧力を検知する第1圧力検知手段と、
前記ポンプから流出される燃料ガスの流出圧力を検知する第2圧力検知手段とをさらに備え、
前記算出手段は、ポンプの回転数を一定に制御した場合の該ポンプの消費電力を求め、求めたポンプの消費電力と、ポンプの回転数と、検知される流入圧力と、検知される流出圧力とに基づき、前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。
【請求項11】
前記算出手段は、設定された電力で前記ポンプを駆動した場合の該ポンプの回転数を検知し、検知したポンプの回転数とポンプの消費電力とに基づき、前記体積効率を算出する、請求項2に記載のポンプ駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299480(P2009−299480A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151487(P2008−151487)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】