説明

マイクロチップおよび培養条件探索方法

【課題】効率よく、かつ信頼性の高い培養条件の探索を低コストで実現できるマイクロチップを提供する。
【解決手段】複数のチャンバー部4が、複数の行および複数の列からなる行列をなすように配列されたマイクロチップ1。列10A、10Bに属するチャンバー部4の内面が、細胞の接着を促す第1の足場因子8Aで修飾され、列10C、10Dに属するチャンバー部4の内面が、第2の足場因子8Bで修飾されている。行9A、9Bに属するチャンバー部には、第1の液性因子6aを含む液を導入する第1導入流路12Aが接続され、行9C、9Dに属するチャンバー部には、第2の液性因子6bを含む液を導入する第2導入流路12Bが接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養や生化学分析、化学反応などを効率良く行うために用いられる生化学試験用のマイクロチップおよびこれを用いた培養条件探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプレートを用いて行われてきた従来型の細胞アッセイ法は自動化が進められ、それに対応する384ウェルや1,536ウェルプレートも市販されている。
しかしながら、1,536ウェルプレートでは微量液体のハンドリングや、表面からの蒸発の制御が難しく、信頼できる分析を行うためには1プレートあたり384ウェルが集積化の限界と言われており、より効率的で信頼性の高い細胞アッセイ法が求められている。
一方、近年の微細加工技術やLab on a Chip関連の技術の発展に伴い、1枚のチップ上にアレイ状に構成された微細構造の中で細胞を培養、解析、操作することで、様々な細胞アッセイや細胞操作を効率的に行う方法が報告されている。例えば、本発明者による非特許文献1やアメリカのグループによる非特許文献2では、複数の薬剤の細胞毒性を一度に試験することのできるマイクロチップが記載されている。
一方、既報の細胞アッセイ用マイクロチップの多くはポリジメチルシロキサン(PDMS)で製作されているが、PDMSからなる表面上で培養できる細胞は限られている。様々な細胞に対するアッセイをオンチップで実現するには、個々の細胞に適切な培養環境をマイクロスケールで構築する技術が必要である。
また、生体内における細胞機能の発現には、多くの場合、足場因子や液性因子によって構成される複数の分化誘導因子が協調して働いていることが知られている(非特許文献3、非特許文献4参照)。
一般的に、生体より採取した初代培養細胞を生体外で培養するためには、適切な足場因子や液性因子によって構成される培養環境の中で培養する必要がある。
また、生体外で幹細胞を特定の細胞に分化誘導するには、多数の分化誘導因子を複合的なシステムとして作用させる必要がある。
さらに、ES細胞の分化誘導能は、細胞株ごとに大きく異なることが報告されている(非特許文献5参照)。
このように、幹細胞の分化誘導プロセスは複雑かつ多様であり、幹細胞を特定の細胞に分化させる最適な培養環境を細胞株ごとに網羅的に探索する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sugiura S., Edahiro J., Kikuchi K., Sumaru K., and Kanamori T.:Cell Culture Microchamber Array with Independent Perfusion Channel for Parallel Drug Toxicity Assay, The proceedings of microTAS 2007, Chemical and Biological Microsystems Society, pp1321-1323 (2007).
【非特許文献2】Wang Z., Kim M.-C., Marquez M. and Thorsen T.: High-Density Microfluidic Arrays for Cell Cytotoxicity Analysis, Lab Chip, 7, 740-745 (2007).
【非特許文献3】M. A. Schwartz and M. H. Ginsberg, Nat. Cell Biol., 4, E65-E68 (2002).
【非特許文献4】K. M. Yamada and S. Even-Ram, Nat. Cell Biol., 4, E75-E76 (2002).
【非特許文献5】K. Osafune, et al.,Nat. Biotechnol., 26, pp. 313-315, (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、多くの培養細胞では足場因子と液性因子によって構成される培養環境を探索する必要があるが、従来の培養技術を用いて適切な培養環境を網羅的に探索するには、非常に煩雑な手作業や高価なロボットが必要となる。また、煩雑で複数回にわたる試験が必要となることにより信頼性が低下しやすいという問題もある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、効率よく、かつ信頼性の高い培養条件の探索を低コストで実現できるマイクロチップおよび培養条件探索方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
本発明は、細胞培養用の複数のチャンバー部が形成されたマイクロチップにおいて、前記複数のチャンバー部が、複数の行および複数の列からなる行列をなすように配列され、前記複数の列のうち一部の列に属するチャンバー部の内面が、細胞の接着を促す第1の足場因子で修飾され、それ以外の列のうち少なくとも一部の列に属するチャンバー部の内面が、細胞の接着を促す第2の足場因子で修飾され、前記複数の行のうち一部の行に属するチャンバー部には、第1の液性因子を含む液を導入する第1導入流路が接続され、それ以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部には、第2の液性因子を含む液を導入する第2導入流路が接続されているマイクロチップを提供する。
本発明のマイクロチップは、前記チャンバー部となるチャンバー凹部を有する主板部と、前記チャンバー凹部に臨む部分が前記足場因子で修飾される基板部とが重ね合わされることによって構成される構成とすることができる。
本発明では、前記第1および第2導入流路が接続されたチャンバー部を含む行以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部には、前記第1導入流路から分岐された第1分岐流路と、前記第2導入流路から分岐された第2分岐流路とによって供給された前記第1および第2の液性因子を含む液を導入可能である構成を採用できる。
本発明では、前記第1および第2の液性因子を含む液が導入可能となるチャンバー部を含む行以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部に、前記第1および第2の液性因子を含まない液が導入可能なブランク用流路が接続されている構成を採用できる。
前記足場因子としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、およびポリリジンから選択されたものが使用できる。
前記液性因子としては、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、およびサイトカインから選択されたものが使用できる。
本発明のマイクロチップは、少なくとも前記足場因子で修飾される面がポリジメチルシロキサンまたはガラスからなることが好ましい。
本発明のマイクロチップは、少なくとも前記チャンバー部内面の一部がポリジメチルシロキサンからなることが好ましい。
【0006】
本発明の培養条件探索方法は、前記マイクロチップを用いて培養条件を探索する方法であって、前記第1および第2の足場因子で修飾された列に属するチャンバー部に、対象となる細胞を接着させ、前記第1および第2の導入流路が接続された行に属するチャンバー部に、それぞれ前記第1および第2の液性因子を含む液を導入し、各チャンバー部における細胞の状態を比較する培養条件探索方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、行列をなすように配列されたチャンバー部が、列ごとに所定の足場因子で修飾され、これらチャンバー部には行ごとに所定の液性因子を導入する導入流路が接続されているので、足場因子と液性因子の多数の組み合わせを一度に試験することができる。
このため、対象となる細胞の培養条件を網羅的に試験することができる。例えば幹細胞を特定の細胞に分化誘導するために最適な環境条件を探索することができる。
多数の組み合わせを一度に実現できるため、効率よく、かつ信頼性の高い条件探索を低コストで実現できる。
細胞の機能は、足場因子と液性因子により構成される外部環境に依存する複雑な細胞内シグナル伝達を経て決定されているため、環境が細胞に及ぼす影響を一元的に把握するのは難しく、足場因子、液性因子の組み合わせについて網羅的な試験が必要となる。
一般に、多数の組み合わせについて網羅的な試験を行うのは手間がかかり、しかも複数の試験が必要となることなどにより信頼性が低下しやすいが、本発明では、多数の組み合わせについて一度に試験ができるため、高効率で信頼性の高い試験が可能となることから、細胞の最適な培養条件の探索における技術的意義は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の例のマイクロチップの全体を示す平面図である。
【図2】マイクロチップの要部を拡大した平面図である。
【図3】マイクロチップの要部を拡大した断面図である。
【図4】マイクロチップの要部を示す平面図である。
【図5】足場因子の修飾部位を示す平面図である。
【図6】足場因子で修飾されたマイクロチップの要部を示す断面図である。
【図7】足場因子で修飾されたマイクロチップを示す平面図である。
【図8】足場因子で修飾されたマイクロチップを示す平面図である。
【図9】本発明の第2の例のマイクロチップの要部を示す平面図である。
【図10】マイクロチップの要部を拡大した断面図である。
【図11】マイクロチップの要部を拡大した断面図である。
【図12】本発明の第3の例のマイクロチップの要部を示す平面図である。
【図13】本発明の第4の例のマイクロチップの要部を示す平面図である。
【図14】試験結果を示す写真である。
【図15】試験結果を示す写真である。
【図16】試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第1の例であるマイクロチップ1について、図面を参照して説明する。
図1は、マイクロチップ1の全体を示す平面図であり、図2はマイクロチップ1の要部を拡大した平面図であり、図3はマイクロチップ1の要部を拡大した断面図である。
以下の説明において、マイクロチップ1の長手方向(図1における左右方向)を第1方向といい、マイクロチップ1の短手方向(図1における上下方向)を第2方向ということがある。
【0010】
図2および図3に示すように、マイクロチップ1は、平板状の主板部2と、これに重ね合わされる平板状の基板部3とによって構成することができる。
主板部2の、基板部3に対向する面2a(表面2a)には、試料液が導入されるチャンバー部4となるチャンバー凹部5が形成されている。
チャンバー凹部5は、平面視円形の主空間凹部5aと、主空間凹部5aの外周側に、これを囲んで形成された外周空間凹部5bとからなる。外周空間凹部5bは、主空間凹部5aより浅く形成されている。
図3に示すように、チャンバー部4は、主空間凹部5a内の空間(主空間部4a)と、外周空間凹部5b内の空間(外周空間部4b)とからなる。
【0011】
図1および図2に示すように、チャンバー部4は、複数の行および複数の列からなる行列をなすように2次元的に配列される。
図示例では、合計64のチャンバー部4が、8行および8列からなる行列をなすようアレイ状に配列されている。行を構成するチャンバー部4は、第1方向(図1における左右方向)に沿って並び、列を構成するチャンバー部4は、第2方向(図1における上下方向)に沿って並んでいる。各チャンバー部4は、互いに間隔をおいて配列されている。
符号9A〜9Hはそれぞれチャンバー部4がなす8つの行を示し、符号10A〜10Hはそれぞれチャンバー部4がなす8つの列を示す。
なお、図示例では、行と列の形成方向は互いにほぼ垂直であるが、これに限らず、互いに交差する方向であればよい。
【0012】
主板部2の表面2aには、チャンバー凹部5(チャンバー部4)に連通する入口流路7と出口流路15とが形成されている。
入口流路7は、第1方向(図1における左右方向)に沿って形成された送液流路11と、送液流路11から分岐して各チャンバー部4に連通する複数の導入流路12とを有し、これら導入流路12はそれぞれチャンバー部4に接続されているため、貯留部21からの試料液を、送液流路11から導入流路12を経てチャンバー部4に導入することができる。
【0013】
図1および図4に示すように、入口流路7は4つ形成され(入口流路7A〜7Dという)、それぞれが異なる貯留部21(貯留部21A〜21Dという)に接続されている。
入口流路7Aの送液流路11Aは第1行9Aと第2行9Bの間に延在し、入口流路7Bの送液流路11Bは第3行9Cと第4行9Dの間に延在し、入口流路7Cの送液流路11Cは第5行9Eと第6行9Fの間に延在し、入口流路7Dの送液流路11Dは第7行9Gと第8行9Hの間に延在している。
入口流路7Aの送液流路11Aから分岐した第1導入流路12Aは第1行9Aと第2行9Bの各チャンバー部4に接続され、入口流路7Bの送液流路11Bから分岐した第2導入流路12Bは第3行9Cと第4行9Dの各チャンバー部4に接続され、入口流路7Cの送液流路11Cから分岐した第3導入流路12Cは第5行9Eと第6行9Fの各チャンバー部4に接続され、入口流路7Dの送液流路11Dから分岐した第4導入流路12Dは第7行9Gと第8行9Hの各チャンバー部4に接続されている。
【0014】
図4に示すように、マイクロチップ1では、入口流路7A〜7Dが上記構成であるため、貯留部21Aからの試料液6Aを入口流路7Aから第1行9Aおよび第2行9Bのチャンバー部4に導入でき、貯留部21Bからの試料液6Bを入口流路7Bから第3行9Cおよび第4行9Dのチャンバー部4に導入でき、貯留部21Cからの試料液6Cを第5行9Eと第6行9Fのチャンバー部4に導入でき、貯留部21Dからの試料液6Dを第7行9Gと第8行9Hのチャンバー部4に導入できる。
なお、本発明では、複数の行のうち一部の行に属するチャンバー部に一の導入流路が接続され、それ以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部に他の導入流路が接続されていればよい。
【0015】
図1および図4に示すように、出口流路15は、各チャンバー部4に連通する複数の導出流路13と、これら複数の導出流路13が接続される排出流路14とを有し、チャンバー部4内の液を導出流路13から排出流路14を経て排出部22に排出することができる。排出流路14は第1方向(図1における左右方向)に沿って形成されている。
図4に示すように、出口流路15は、5つ形成され(出口流路15A〜15Eという)、出口流路15Aの排出流路14Aは第1行9Aの外側(図4における上方)に形成され、出口流路15Bの排出流路14Bは第2行9Bと第3行9Cの間に延在し、出口流路15Cの排出流路14Cは第4行9Dと第5行9Eの間に延在し、出口流路15Dの排出流路14Dは第6行9Fと第7行9Gの間に延在し、出口流路15Eの排出流路14Eは第8行9Hの外側(図4における下方)に形成されている。
【0016】
図4に示すように、出口流路15Aの導出流路13Aは第1行9Aのチャンバー部4に接続され、出口流路15Bの導出流路13Bは第2行9Bと第3行9Cのチャンバー部4に接続され、出口流路15Cの導出流路13Cは第4行9Dと第5行9Eのチャンバー部4に接続され、出口流路15Dの導出流路13Dは第6行9Fと第7行9Gのチャンバー部4に接続され、出口流路15Eの導出流路13Eは第8行9Hのチャンバー部4に接続されている。
【0017】
導出流路13は、導入流路12に比べて断面積を大きくするか導入流路12より短く形成することによって導入流路12に比べて流通抵抗を小さくすると、チャンバー部4内の圧力が過度に上昇するのを防ぐことができる。
図示例では、導入流路12と導出流路13はチャンバー凹部5の外周空間凹部5bに連通している。導入流路12と導出流路13の連通箇所は主空間凹部5aを挟んで向かい合う位置とするのが好ましい。
基板部3の、主板部2に対向する面3a(上面3a)は平坦であってよい。
【0018】
主板部2は、レプリカモールディング法によって形成することができる。また、RIE(Reactive Ion Etching)、レーザー加工、NC加工、光造形加工、射出成型加工、ナノインプリント加工などによりチャンバー凹部5、流路7、8等を形成することもできる。
【0019】
主板部2および基板部3の材料としては、シリコーン系樹脂(例えばポリジメチルシロキサン(PDMS))、アクリル系樹脂(例えばポリメタクリル酸メチル)などの樹脂材料、ガラス(例えば石英ガラス)が好適である。
マイクロチップ1は、少なくとも基板部3の上面3aがPDMSまたはガラスからなることが好ましい。
本発明のマイクロチップは、少なくともチャンバー部内面の一部がPDMSからなることが好ましい。例えば主板部2と基板部3の両方がPDMSで構成されていてもよいし、主板部2がPDMS製で基板部3がガラス製であってもよい。
【0020】
次に、マイクロチップ1の作製および使用方法を説明する。
図5に示すように、チャンバー部4の内面に相当する部分(チャンバー凹部5に臨む部分)の基板部3の上面3aを、複数種の足場因子8で修飾する。
足場因子8とは、基板部3に対する細胞の接着を促すものであり、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、およびポリリジンから1または2以上を選択することができる。足場因子8には、細胞を上面3aに接着させるだけでなく、目的に応じた生理活性が得られる状態にすることも要求される。
【0021】
図示例では、足場因子8による修飾部位は円形とされ、8行および8列からなる行列をなすように2次元的に配列されている。この修飾部位は、所定のチャンバー部4内面に相当する部分全体であってもよいし、その一部であってもよい。
この例では、第1列10Aおよび第2列10Bのチャンバー部4に相当する部分が第1の足場因子8Aで修飾され、第3列10Cおよび第4列10Dに相当する部分が第2の足場因子8Bで修飾され、第5列10Eおよび第6列10Fに相当する部分が第3の足場因子8Cで修飾され、第7列10Gおよび第8列10Hに相当する部分が第4の足場因子8Dで修飾されている(図1を参照)。足場因子8A〜8Dによる修飾部位をそれぞれ符号8a〜8dで示す。
第1〜第4足場因子8A〜8Dは、互いに異なるものである。
なお、本発明では、複数の列のうち一部の列に属するチャンバー部の内面が第1の足場因子で修飾され、それ以外の列のうち少なくとも一部の列に属するチャンバー部の内面が第2の足場因子で修飾されていればよい。
【0022】
基板部3の上面3aを足場因子8で修飾する方法としては、例えば基板部3の上面3aに高分子材料をグラフト結合し、この高分子材料を介して足場因子8を上面3aに結合させる方法が可能である。
具体的には、例えばアクリル酸を含む液を上面3aに塗布し、修飾部位8a〜8dに相当する部位のアクリル酸を、フォトリソグラフィー技術を利用して光重合させることによってこの部位の上面3aにポリアクリル酸をグラフト結合し、次いでこの部位に足場因子8A〜8Dを接触させて足場因子8A〜8Dのアミノ基とポリアクリル酸のカルボキシル基とを脱水縮合により結合させる方法を採用できる。
【0023】
図6および図7に示すように、第1〜第4足場因子8A〜8Dで修飾された基板部3と、主板部2とを重ね合わせて接合することによって、マイクロチップ1を得る。
マイクロチップ1は、8つの列10A〜10Hのうち、第1および第2列10A、10Bが第1の足場因子8Aで修飾され、第3および第4列10C、10Dが第2の足場因子8Bで修飾され、第5および第6列10E、10Fが第3の足場因子8Cで修飾され、第7および第8列10G、10Hが第4の足場因子8Dで修飾されたものとなる。
【0024】
足場因子8A〜8Dの修飾部位8a〜8dには、対象細胞を含む培養液を接触させることにより当該細胞を接着し固定化する。
対象となる細胞は、特に限定されず、目的に応じて、動物由来の細胞(例えばヒト細胞)、植物由来の細胞、微生物由来の細胞等を使用できる。
具体例としては、例えば、造血幹細胞、骨髄系幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞などの体性幹細胞や胚性幹細胞、人工多能性幹細胞がある。また、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球(T細胞、NK細胞、B細胞等)等の白血球や、血小板、赤血球、血管内皮細胞、リンパ系幹細胞、赤芽球、骨髄芽球、単芽球、巨核芽球および巨核球等の血液細胞、内皮系細胞、上皮系細胞、肝実質細胞、膵ラ島細胞等が使用できる。
【0025】
細胞を修飾部位8a〜8dに接触させるには、例えば出口流路15の排出流路14から導出流路13を通してチャンバー部4に上記培養液を通す方法を採ることができる。
足場因子8A〜8Dによって細胞を固定化できるのは、細胞表面の膜タンパク等が足場因子8A〜8Dのリガンドに強固に結合するためであると推測することができる。
【0026】
図8に示すように、4つの貯留部21A〜21Dには、それぞれ試料液6A〜6Dが導入される。
試料液6A〜6Dは、それぞれ第1〜第4の液性因子6a〜6dを含むものである。すなわち、試料液6Aは第1の液性因子6aを含み、試料液6Bは第2の液性因子6bを含み、試料液6Cは第3の液性因子6cを含み、試料液6Dは第4の液性因子6dを含む。これら液性因子6a〜6dは互いに異なるものである。
液性因子6a〜6dは、例えば活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、サイトカインから1または2以上を選択することができる。
液性因子の具体例としては、リン脂質、ステロイド、アリール酢酸系非ステロイド化合物、有機酸を挙げることができ、これらから1または2以上を選択使用することができる。
【0027】
貯留部21Aからの試料液6Aを入口流路7Aから第1行9Aおよび第2行9Bのチャンバー部4に導入し、貯留部21Bからの試料液6Bを入口流路7Bから第3行9Cおよび第4行9Dのチャンバー部4に導入し、貯留部21Cからの試料液6Cを第5行9Eと第6行9Fのチャンバー部4に導入し、貯留部21Dからの試料液6Dを第7行9Gと第8行9Hのチャンバー部4に導入する。
【0028】
このように、チャンバー部4には、列ごとに足場因子8A〜8Dについて4つの条件のいずれかが与えられ、行ごとに液性因子6a〜6dについて4つの条件のいずれかが与えられる。
すなわち、第1および第2行9A、9Bかつ第1および第2列10A、10Bのチャンバー部4は、第1足場因子8Aで修飾され、第1液性因子6aが導入される。第3および第4行9C、9Dかつ第1および第2列10A、10Bのチャンバー部4は、第1足場因子8Aで修飾され、第2液性因子6bが導入される。第1および第2行9A、9Bかつ第3および第4列10C、10Dのチャンバー部4は、第2足場因子8Bで修飾され、第1液性因子6aが導入される。第3および第4行9C、9Dかつ第3および第4列10C、10Dのチャンバー部4は、第2足場因子8Bで修飾され、第2液性因子6bが導入される。
同様にして、4つのチャンバー部4ごとに1通りの足場因子と液性因子の組み合わせが得られ、全体で16通りの足場因子と液性因子の組み合わせが実現される。
このため、各チャンバー部4における細胞の状態を比較することによって、これら16通りの足場因子と液性因子の組み合わせが対象細胞に及ぼす影響を互いに比較することができる。
【0029】
具体的には、例えば幹細胞を特定の細胞に分化誘導するための最適な環境条件の探索を行うことができる。
すなわち、上記16通りの条件が対象細胞に及ぼす影響を互いに比較することによって、特定の細胞への分化誘導に最も適した足場因子と液性因子の組み合わせを知ることができる。
【0030】
マイクロチップ1では、行列をなすように2次元的に配列されたチャンバー部4が、列ごとに所定の足場因子8で修飾され、これらチャンバー部4には行ごとに所定の液性因子を導入する導入流路12が接続されているので、足場因子と液性因子の多数の組み合わせを一度に試験することができる。
このため、対象となる細胞の培養条件を網羅的に試験することができる。例えば幹細胞を特定の細胞に分化誘導するために最適な環境条件を探索することができる。
多数の組み合わせを一度に実現できるため、効率よく、かつ信頼性の高い条件探索を低コストで実現できる。
【0031】
細胞の機能は、足場因子と液性因子により構成される外部環境に依存する複雑な細胞内シグナル伝達を経て決定されている。
このため、環境が細胞に及ぼす影響を一元的に把握するのは難しく、足場因子、液性因子が単独で細胞に及ぼす影響を調べただけでは最適な組み合わせが明らかになるとは限らず、組み合わせについて網羅的な試験が必要となる。
一般に、多数の組み合わせについて網羅的な試験を行うのは手間がかかり、しかも複数の試験が必要となることなどにより信頼性が低下しやすいが、本発明では、多数の組み合わせについて一度に試験ができるため、高効率で信頼性の高い試験が可能となることから、細胞の最適な培養条件の探索における技術的意義は極めて高い。
【0032】
次に、本発明の第2の例であるマイクロチップ31について説明する。
図9は、マイクロチップ31の要部を示す平面図であり、図10はマイクロチップ31の図9におけるX−X’断面を示す図である。図11はマイクロチップ31の図9におけるY−Y’断面を示す図である。
図9に示すように、マイクロチップ31には、複数の行および複数の列からなる行列をなすように2次元的に配列されたチャンバー部34が形成されている。図示例では、チャンバー部34は4行および4列からなる行列をなす。
符号32A〜32Dはそれぞれチャンバー部34がなす4つの行を示し、符号33A〜33Dはそれぞれチャンバー部34がなす4つの列を示す。
【0033】
第2および第3行32B、32Cのチャンバー部34には、液性因子用の入口流路35A、35Bと、出口流路(図示略)とが連通されている。
第1入口流路35A(第1導入流路)は第2行32Bに属する各チャンバー部34に接続され、第2入口流路35B(第2導入流路)は第3行32Cに属する各チャンバー部34に接続されている。
このため、貯留部37Aからの試料液36Aを第1入口流路35Aから第2行32Bのチャンバー部34に導入でき、貯留部37Bからの試料液36Bを第2入口流路35Bから第3行32Cのチャンバー部34に導入できる。
試料液36Aは第1の液性因子36aを含み、試料液36Bは第1の液性因子36aとは異なる第2の液性因子36bを含む。
【0034】
第1行32Aのチャンバー部34には、液性因子用の混合流路35C(混合液導入流路)が接続されている。
混合流路35Cには、第1入口流路35Aから分岐された第1分岐流路38Aと、第2入口流路35Bから分岐された第2分岐流路38Bとが接続されている。
このため、試料液36Aと試料液36Bの混合液を第1行32Aのチャンバー部34に導入できる。
【0035】
図9〜図11に示すように、分岐流路38A、38Bは、混合流路35Cとは異なる高さ位置に形成されており、それぞれ連絡流路39A、39Bを介して混合流路35Cと連通している。
第4行32Dのチャンバー部34にはブランク用流路35Dが接続されている。ブランク用流路35Dはブランク用貯留部37Dに接続されている。
なお、本発明では、第1および第2の分岐流路38A、38Bを、直接第1行32Aのチャンバー部34に接続することもできる。
【0036】
次いで、マイクロチップ31の使用方法を説明する。
上述の方法に従って、チャンバー部34の内面を足場因子で修飾する。
例えば、第1列33Aのチャンバー部34内面を第1および第2の足場因子で修飾し、第2列33Bのチャンバー部34内面を第1の足場因子のみで修飾し、第3列33Cのチャンバー部34内面を第2の足場因子のみで修飾し、第4列33Dのチャンバー部34には、足場因子の修飾を行わない。
これによって、第1〜第4列33A〜33Dのチャンバー部34の修飾のされ方は、列ごとに互いに異なる4通りとなる。
【0037】
次いで、これらチャンバー部34に、次のように試料液を導入する。
貯留部37Aからの試料液36Aを、入口流路35Aを通して第2行32Bのチャンバー部34に導入するとともに、貯留部37Bからの試料液36Bを、入口流路35Bを通して第3行32Cのチャンバー部34に導入する。
同様に、試料液36Aと試料液36Bの混合液を、混合流路35Cを通して第1行32Aのチャンバー部34に導入する。
ブランク用流路35Dが接続された第4行32Dのチャンバー部34には、液性因子を含まない試料液が導入される。
第4行32Dかつ第4列33Dであるチャンバー部34には足場因子および液性因子が導入されないため、足場因子および液性因子のない条件でのブランク試験が可能である。
【0038】
第1〜第4行32A〜32Dのチャンバー部34への液性因子の導入され方は、行ごとに互いに異なる4通りとなる。
すなわち、第1行32Aのチャンバー部34には2つの液性因子36a、36bが導入され、第2行32Bのチャンバー部34には第1の液性因子36aのみが導入され、第3行32Cのチャンバー部34は第2の液性因子36bが導入され、第4行32Dのチャンバー部34には液性因子は導入されない。
このように、チャンバー部34には、列ごとに足場因子について異なる条件が与えられ、行ごとに液性因子について異なる条件が与えられるため、全体で16通りの足場因子と液性因子の組み合わせが実現される。
【0039】
マイクロチップ31では、複数の試料液の混合液を導入できる混合流路35Cが形成されているため、流路の構成を複雑化させることなく、液性因子が複数である場合を含む、より多くの組み合わせを試験することができる。
従って、効率よく、かつ信頼性の高い条件探索を低コストで実現できる。
【0040】
次に、本発明の第3の例であるマイクロチップ51について説明する。
図12は、マイクロチップ51の要部を示す平面図である。マイクロチップ51は、足場因子用の流路45A〜45D、48A、48Bおよび貯留部47A、47B、47Dが設けられている点で、図9に示すマイクロチップ31と異なる。
【0041】
第2および第3列33B、33Cのチャンバー部34には、足場因子用の入口流路45A、45B(導入流路)が連通されている。
第1の入口流路45Aは第2列33Bのチャンバー部34に接続され、第2の入口流路45Bは第3列33Cのチャンバー部34に接続されている。
このため、貯留部47Aからの試料液46Aを入口流路45Aから第2列33Bのチャンバー部34に導入でき、貯留部47Bからの試料液46Bを入口流路45Bから第3列33Cのチャンバー部34に導入できる。
試料液46Aは第1の足場因子46aを含み、試料液46Bは第1の足場因子46aとは異なる第2の足場因子46bを含む。
【0042】
第1列33Aのチャンバー部34には、足場因子用の混合流路45C(混合液導入流路)が接続されている。
混合流路45Cには、第1入口流路45Aから分岐された第1分岐流路48Aと、第2入口流路45Bから分岐された第2分岐流路48Bとが接続されている。
このため、試料液46Aと試料液46Bの混合液を第1列33Aのチャンバー部34に導入できる。
【0043】
分岐流路48A、48Bは、混合流路45Cとは異なる高さ位置に形成されており、それぞれ連絡流路49A、49Bを介して混合流路45Cと連通している。
第4列33Dのチャンバー部34にはブランク用流路45Dが接続されている。ブランク用流路45Dはブランク用貯留部47Dに接続されている。
【0044】
次に、マイクロチップ51の使用方法を説明する。
貯留部47Aからの試料液46Aを、入口流路45Aを通して第2列33Bのチャンバー部34に導入し、その内面を第1の足場因子46aで修飾するとともに、貯留部47Bからの試料液46Bを入口流路45Bを通して第3列33Cのチャンバー部34に導入し、その内面を第2の足場因子46bで修飾する。
同様に、試料液46Aと試料液46Bの混合液を、混合流路45Cを通して第1列33Aのチャンバー部34に導入し、その内面を2つの足場因子46a、46bで修飾する。
ブランク用流路45Dが接続された第4列33Dのチャンバー部34には、足場因子を含まない試料液が導入されるため、足場因子による修飾はされない。
このように、第1〜第4列33A〜33Dのチャンバー部34の修飾のされ方は、列ごとに互いに異なる4通りとなる。
【0045】
次いで、第2の例のマイクロチップ31と同様にして、液性因子用の流路35A〜35D、38A、38Bおよび貯留部37A、37B、37Dを用いて、液性因子を含む試料液(または液性因子を含まない試料液)をチャンバー部34に導入する。
チャンバー部34には、列ごとに足場因子について異なる条件が与えられ、行ごとに液性因子について異なる条件が与えられるため、全体で16通りの足場因子と液性因子の組み合わせが実現される。
【0046】
マイクロチップ51では、複数の試料液の混合液を導入できる混合流路35C、45Cが形成されているため、流路の構成を複雑化させることなく、液性因子および足場因子が各々複数である場合を含む、より多くの組み合わせを試験することができる。
従って、効率よく、かつ信頼性の高い条件探索を低コストで実現できる。
【0047】
図13は、さらに多くの組み合わせを実現するべく、第3の例のマイクロチップ51に比べ流路の数を多くした第4の例のマイクロチップ61の要部を示す平面図である。以下、マイクロチップ61の使用方法を説明する。
まず、次のようにして各チャンバー部34内面を足場因子66a〜66dで修飾する。
貯留部67Aからの試料液66Aを、入口流路65A(第1導入流路)を通して第8列33Hのチャンバー部34に導入し、その内面を第1の足場因子66aで修飾する。
貯留部67Bからの試料液66Bを、入口流路65B(第2導入流路)を通して第12列33Lのチャンバー部34に導入し、その内面を第2の足場因子66bで修飾する。
貯留部67Cからの試料液66Cを、入口流路65C(第3導入流路)を通して第14列33Nのチャンバー部34に導入し、その内面を第3の足場因子66cで修飾する。
貯留部67Dからの試料液66Dを、入口流路65D(第4導入流路)を通して第15列33Oのチャンバー部34に導入し、その内面を第4の足場因子66dで修飾する。
【0048】
試料液66A、66B、66C、66Dを、第1〜第4分岐流路68A、68B、68C、68D、混合流路69A(混合液導入流路)を通して第1列33Aのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66b、66c、66dで修飾する。
試料液66A、66B、66Cを、分岐流路68A、68B、68C、混合流路69Bを通して第2列33Bのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66b、66cで修飾する。
試料液66A、66B、66Dを、分岐流路68A、68B、68D、混合流路69Cを通して第3列33Cのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66b、66dで修飾する。
試料液66A、66Bを、分岐流路68A、68B、混合流路69Dを通して第4列33Dのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66bで修飾する。
試料液66A、66C、66Dを、分岐流路68A、68C、68D、混合流路69Eを通して第5列33Eのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66c、66dで修飾する。
試料液66A、66Cを、分岐流路68A、68C、混合流路69Fを通して第6列33Fのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66cで修飾する。
試料液66A、66Dを、分岐流路68A、68D、混合流路69Gを通して第7列33Gのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66a、66dで修飾する。
試料液66B、66C、66Dを、分岐流路68B、68C、68D、混合流路69Iを通して第9列33Iのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66b、66c、66dで修飾する。
試料液66B、66Cを、分岐流路68B、68C、混合流路69Jを通して第10列33Jのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66b、66cで修飾する。
試料液66B、66Dを、分岐流路68B、68D、混合流路69Kを通して第11列33Kのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66b、66dで修飾する。
試料液66C、66Dを、分岐流路68C、68D、混合流路69Mを通して第13列33Mのチャンバー部34に導入し、その内面を足場因子66c、66dで修飾する。
第16列33Pのチャンバー部34には、ブランク用貯留部67Eからブランク用流路65Eを通して、足場因子を含まない試料液が導入されるため、足場因子による修飾はされない。
第1〜第16列33A〜33Pのチャンバー部34の修飾のされ方は、列ごとに互いに異なる16通りとなる。
【0049】
次に、液性因子を含む試料液(または液性因子を含まない試料液)を、チャンバー部34に以下のように導入する。
貯留部57Aからの試料液56A(液性因子56a)を、入口流路55A(第1導入流路)を通して第8行32Hのチャンバー部34に導入する。
貯留部57Bからの試料液56B(液性因子56b)を、入口流路55B(第2導入流路)を通して第12行32Lのチャンバー部34に導入する。
貯留部57Cからの試料液56C(液性因子56c)を、入口流路55C(第3導入流路)を通して第14行32Nのチャンバー部34に導入する。
貯留部57Dからの試料液56D(液性因子56d)を、入口流路55D(第4導入流路)を通して第15行32Oのチャンバー部34に導入する。
【0050】
試料液56A、56B、56C、56Dを、第1〜第4分岐流路58A、58B、58C、58D、混合流路59A(混合液導入流路)を通して第1行32Aのチャンバー部34に導入する。
試料液56A、56B、56Cを、分岐流路58A、58B、58C、混合流路59Bを通して第2行32Bのチャンバー部34に導入する。
試料液56A、56B、56Dを、分岐流路58A、58B、58D、混合流路59Cを通して第3行32Cのチャンバー部34に導入する。
試料液56A、56Bを、分岐流路58A、58B、混合流路59Dを通して第4行32Dのチャンバー部34に導入する。
試料液56A、56C、56Dを、分岐流路58A、58C、58D、混合流路59Eを通して第5行32Eのチャンバー部34に導入する。
試料液56A、56Cを、分岐流路58A、58C、混合流路59Fを通して第6行32Fのチャンバー部34に導入する。
試料液56A、56Dを、分岐流路58A、58D、混合流路59Gを通して第7行32Gのチャンバー部34に導入する。
試料液56B、56C、56Dを、分岐流路58B、58C、58D、混合流路59Iを通して第9行32Iのチャンバー部34に導入する。
試料液56B、56Cを、分岐流路58B、58C、混合流路59Jを通して第10行32Jのチャンバー部34に導入する。
試料液56B、56Dを、分岐流路58B、58D、混合流路59Kを通して第11行32Kのチャンバー部34に導入する。
試料液56C、56Dを、分岐流路58C、58D、混合流路59Mを通して第13行32Mのチャンバー部34に導入する。
第16行32Pのチャンバー部34には、ブランク用貯留部57Eからブランク用流路55Eを通して、液性因子を含まない試料液が導入される。
第1〜第16行32A〜32Pのチャンバー部34への液性因子の導入され方は、行ごとに互いに異なる16通りとなる。
第16行32Pかつ第16列33Pであるチャンバー部34には足場因子および液性因子が導入されないため、足場因子および液性因子のない条件でのブランク試験が可能である。
【0051】
このように、チャンバー部34には、列ごとに足場因子について16通りの異なる条件が与えられ、行ごとに液性因子について16通りの異なる条件が与えられるため、全体で256通りの足場因子と液性因子の組み合わせが実現される。
【0052】
マイクロチップ61では、流路の構成を複雑化させることなく、液性因子および足場因子が各々複数である場合を含む、より多くの組み合わせを試験することができる。
従って、効率よく、かつ信頼性の高い条件探索を低コストで実現できる。
【0053】
図14〜図16は、PDMSからなるマイクロチップを用い、チャンバー部内で24時間CHO細胞の灌流培養を行った結果を示すものである。
図14は、チャンバー部内面をコラーゲンで修飾した場合のチャンバー部を示す写真であり、図15は、チャンバー部内面をフィブロネクチンで修飾した場合のチャンバー部を示す写真である。図16は、足場因子の修飾を行わないこと以外は同様にしてCHO細胞の灌流培養を行った場合のチャンバー部を示す写真である。
これらの結果より、足場因子によってCHO細胞の接着性、増殖性について異なる結果が得られ、足場因子としてフィブロネクチンを用いた場合には、CHO細胞の接着、増殖が促されたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、培養環境を網羅的に解析することで、細胞株ごとに異なる性質を有する幹細胞の分化誘導条件を個別に効率的に探索することが可能となる。
従って、患者由来のiPS細胞を特定の組織に分化させ、疾患モデル細胞を作成する際の分化誘導プロセスが劇的に効率化する。将来的には、患者ごとに最適な条件で分化誘導された細胞や組織を用いるテーラーメード再生医療の実現につながると考えられる。
また、幹細胞に限らず細胞の機能等は、液性因子と足場因子によって構成される外部環境に依存する複雑な細胞内シグナル伝達を経て決定されている。本発明は、このような複雑な生命システムの動作原理の解明に貢献し得る。
【符号の説明】
【0055】
1、31、51、61・・・マイクロチップ、4・・・チャンバー部、8A〜8D、46a、46b、66a〜66d・・・足場因子、6a〜6d、36a、36b、56a〜56d・・・液性因子、4a・・・主空間部、4b・・・外周空間部、12A、35A、55A・・・第1導入流路、12B、35B、55B・・・第2導入流路、35C、59A〜59G、59I〜59K、59M・・・混合流路(混合液導入流路)、35D、55E・・・ブランク用流路、38A、58A・・・第1分岐流路、38B、58B・・・第2分岐流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養用の複数のチャンバー部が形成されたマイクロチップにおいて、
前記複数のチャンバー部が、複数の行および複数の列からなる行列をなすように配列され、
前記複数の列のうち一部の列に属するチャンバー部の内面が、細胞の接着を促す第1の足場因子で修飾され、
それ以外の列のうち少なくとも一部の列に属するチャンバー部の内面が、細胞の接着を促す第2の足場因子で修飾され、
前記複数の行のうち一部の行に属するチャンバー部には、第1の液性因子を含む液を導入する第1導入流路が接続され、
それ以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部には、第2の液性因子を含む液を導入する第2導入流路が接続されていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記チャンバー部となるチャンバー凹部を有する主板部と、前記チャンバー凹部に臨む部分が前記足場因子で修飾される基板部とが重ね合わされることによって構成されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第1および第2導入流路が接続されたチャンバー部を含む行以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部には、前記第1導入流路から分岐された第1分岐流路と、前記第2導入流路から分岐された第2分岐流路とによって供給された前記第1および第2の液性因子を含む液を導入可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第1および第2の液性因子を含む液が導入可能となるチャンバー部を含む行以外の行のうち少なくとも一部の行に属するチャンバー部に、前記第1および第2の液性因子を含まない液が導入可能なブランク用流路が接続されていることを特徴とする請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記足場因子は、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、およびポリリジンから選択されたものであることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記液性因子は、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、およびサイトカインから選択されたものであることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
少なくとも前記足場因子で修飾される面がポリジメチルシロキサンまたはガラスからなることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
少なくとも前記チャンバー部内面の一部がポリジメチルシロキサンからなることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載のマイクロチップを用いて培養条件を探索する方法であって、
前記第1および第2の足場因子で修飾された列に属するチャンバー部に、対象となる細胞を接着させ、
前記第1および第2の導入流路が接続された行に属するチャンバー部に、それぞれ前記第1および第2の液性因子を含む液を導入し、各チャンバー部における細胞の状態を比較することを特徴とする培養条件探索方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−30445(P2011−30445A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176952(P2009−176952)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人化学工学会第74年会研究発表講演要旨集 〔刊行物等〕 第19回化学とマイクロ・ナノシステム研究会講演要旨集
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】