説明

マイクロバルブ

【課題】 容易に、かつ安価に製造することができ、申し分のない開閉動作を行うことができるマイクロバルブを有するマイクロ化学チップを提供する。
【解決手段】 第1の基板と、該第1の基板の一方の面側に接着される第2の基板とからなり、前記第1の基板又は第2の基板の少なくも何れか一方にマイクロチャネルが形成されているマイクロ化学チップにおいて、
前記第1の基板は、前記マイクロチャネルに連通する、上部が大気に開口した吐出室を有し、
前記第1の基板上面には、型枠と弁膜とからなるマイクロバルブが配設されており、
前記弁膜は前記吐出室を覆うように前記第1の基板上面に配設されており、
前記型枠は前記弁膜の外周縁に該弁膜と一体化されて配設されており、
前記弁膜は、前記吐出室の位置に対応する以外の位置に貫通孔を有し、
前記貫通孔の下部は前記第1の基板面により遮蔽されていて、貫通孔の上部には送入チューブが固着されていることを特徴とするマイクロ化学チップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロバルブに関する。更に詳細には、本発明は、マイクロ流体デバイス内で流体制御素子として使用可能なマイクロバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は遺伝子解析などの化学/生化学分析などに広く使用されるマイクロ流体デバイスに関する。更に詳細には、本発明はマイクロ流体デバイスの基板内に形成された微細流路(マイクロチャネル)や反応容器内における流体の移送を制御するための逆止弁及び/又は開閉弁として機能するマイクロバルブに関する。
【0003】
最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内にマイクロチャネルや反応容器及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うように構成されたマイクロデバイスが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル、ポート及び反応容器などの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロ流体デバイス」又は「マイクロチップ」と呼ばれる。マイクロ流体デバイスは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニングなどの化学、生化学、薬学、医学、獣医学分野のみならず、化学工業、環境計測などの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロ流体デバイスは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
従来のマイクロ流体デバイス100は、例えば、図7A及びBに示されるように、第1の基板101に少なくとも1本の微細流路(マイクロチャネル)102が形成されており、このマイクロチャネル102の少なくとも一端には入出力ポート103,104が形成されており、基板101の下面側に対面基板105が接着されている。この対面基板105の存在により、ポート103,104及びマイクロチャネル102の底部が封止される。入出力ポート103,104の主な用途は、(a)試薬や検体サンプルの注入(分注)、(b)廃液や生成物の取り出し、(c)気体圧力の供給(主に、送液のための正圧や負圧の印加)、(d)大気開放(送液時に発生する内圧の分散や、反応で生じたガスの解放)及び(e)密閉(液体の蒸発防止や故意に内圧を発生させる目的のため)などである。
【0005】
このようなマイクロ流体デバイスには連続的な流体(例えば、液体又は気体)の流れや、微小液滴の移送を制御する目的で、マイクロチャネルの途中にマイクロバルブが配設されることがある。このようなマイクロバルブは例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されている。
【0006】
特許文献1の図1に記載されているマイクロバルブは、太い第1の導管と、この第1の導管より細径に形成されると共に、一方の端部が第1の導管と連通するように連接された複数本の細管と、この細管より大径に形成されると共に、細管の他方の端部と連通するように連接された第2の導管を有し、細管の内壁面は疎水性に形成されていることからなる。このマイクロバルブによれば、第1の導管内に液体を導入した際に、この液体を境界とした第1の導管側の圧力と第2の導管側の圧力との圧力差に応じて第1の導管内の液体に位置を任意に制御することができる。しかし、特許文献1のマイクロバルブでは、複数本の細管を形成するのが非常に困難であるばかりか、圧力差が大きすぎると細管が破損される危険性がある。また、この細管部分だけを特異的に疎水性にする処理も非常に困難である。更に、特許文献1のマイクロバルブの細管は、逆止弁としての機能は発揮できず、しかもポンプを使用しなければ圧力差を発生させることができない。
【0007】
特許文献2の図3に記載されているマイクロバルブは、2つのポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロ流路チップと1枚のメンブレンからなり、バルブ領域において変位するメンブレンが弁座に離着して作動流体通路を開閉する弁機構を有する。更に、このマイクロバルブでは、バルブ領域において駆動流体の圧力が作用する圧力室を有する駆動流体通路が前記メンブレンに接着して形成されており、圧力室に駆動流体の圧力を給排することによってメンブレンを変位させて弁座と離着させて一方弁として開閉するように構成されている。しかし、特許文献2に記載されているマイクロバルブは、弁座に離着するメンブランが圧力室に向かって片方向に変位するだけなので、バルブ開時のメンブランと弁座との隙間が不十分であり、流体の流動性が低く脈流が発生する原因となっていた。また、駆動流体の圧力はガラスパイプを介して真空ポンプから供給されるので、装置全体が複雑かつ高価となる。
【0008】
特許文献3の図1には、構成要素として含む2つの部材の少なくとも一方が、少なくとも部材の一方の表面に達し、かつ、流体の流路をなす欠損部を有し、両部材が欠損部形成面を接触面として接着され、かつ、前記部材の一方の非欠損部の一部に対して前記部材の他方が非接着部とされ、常態において、前記非接着部が前記非欠損部の一部に当接して前記流路を遮断し、前記非接着部を変形させたときに、該流路が導通する構成とされているマイクロ流体デバイスが図示されている。しかし、このような、非接着部が非欠損部の一部に当接して流路を遮断する構造のバルブは、2つの平板部材の“貼り合わせ”の行為を行うため、非接着部と非欠損部との当接箇所では流体の流れを完全に遮断することが困難であった。特に、流体が気体の場合には、当接箇所の微小な隙間から漏出が発生してしまう。
【0009】
【特許文献1】特開2000−27813号公報
【特許文献2】特許第3418727号明細書
【特許文献3】特開2003−139660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、容易に、かつ安価に製造することができ、申し分のない開閉動作を行うことができるマイクロバルブを有するマイクロ化学チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として請求項1に係る発明は、第1の基板と、該第1の基板の一方の面側に接着される第2の基板とからなり、前記第1の基板又は第2の基板の少なくも何れか一方にマイクロチャネルが形成されているマイクロ化学チップにおいて、
前記第1の基板は、前記マイクロチャネルに連通する、上部が大気に開口した吐出室を有し、
前記第1の基板上面には、型枠と弁膜とからなるマイクロバルブが配設されており、
前記弁膜は前記吐出室を覆うように前記第1の基板上面に配設されており、
前記型枠は前記弁膜の外周縁に該弁膜と一体化されて配設されており、
前記弁膜は、前記吐出室の位置に対応する以外の位置に貫通孔を有し、
前記貫通孔の下部は前記第1の基板面により遮蔽されていて、貫通孔の上部には送入チューブが固着されていることを特徴とするマイクロ化学チップである。
【0012】
このマイクロ化学チップによれば、第1の基板の吐出室とマイクロバルブの弁膜の送入チューブ固着貫通孔との位置が偏心されているため、この“ずれ”た第1の基板上面部分が弁座となり、弁膜のバルブ動作を可能にする。
【0013】
前記課題を解決するための手段として請求項2に係る発明は、前記第1の基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)又はガラスから形成されており、前記型枠及び弁膜がPDMSから形成されており、前記型枠が第1の基板と恒久接着しており、前記弁膜が前記第1の基板と自己吸着していることを特徴とする請求項1記載のマイクロ化学チップである。
【0014】
このマイクロ化学チップによれば、マイクロバルブを構成する型枠が第1の基板と恒久接着し、弁膜が弁座となる第1の基板に自己吸着している。そのため、弁膜を第1の基板上に安定的に位置させることができるばかりか、送入チューブから圧力を印加することにより弁膜を第1の基板上面から剥離させたり、圧力印加を止めることにより元の自己吸着状態に戻したりすることができる。その結果、マイクロバルブとしてスムーズに動作させることができる。
【0015】
前記課題を解決するための手段として請求項3に係る発明は、前記弁膜は均一な厚さを有し、かつ、前記吐出室部分及び前記貫通孔配設部分以外の箇所に少なくとも1個の空気抜き穴が配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ化学チップである。
【0016】
このマイクロ化学チップによれば、弁膜が均一な厚さを有するので製造が容易である。また、貫通孔に固着された送入チューブ内に空気が残っている場合、液体を加圧送入すると、最初にチューブ内の空気が吐出室からマイクロチャネルに送り込まれ、気泡となって液体の流れを遮断する可能性がある。ところが、空気抜き穴が配設されていると、チューブ内に残留していた空気が加圧送入されても、空気抜き穴から外部に除去され、吐出室からマイクロチャネル内に気泡が進入することが阻止される。
【0017】
前記課題を解決するための手段として請求項4に係る発明は、前記弁膜は厚さの厚い部分と厚さの薄い部分に2分されており、前記貫通孔及び送入チューブは前記厚さの厚い部分に配設され、前記吐出室は前記厚さの薄い部分により覆われており、前記厚さの薄い部分の前記吐出室部分以外の箇所に少なくとも1個の空気抜き穴が配設されているいることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ化学チップである。
【0018】
このマイクロ化学チップによれば、加圧送入チューブを厚さの厚い部分の弁膜に安定的に固着させることができ、厚さの薄い部分の弁膜により弁開閉動作をスムーズに行わせることができる。また、貫通孔に固着された送入チューブ内に空気が残っている場合、液体を加圧送入すると、最初にチューブ内の空気が吐出室からマイクロチャネルに送り込まれ、気泡となって液体の流れを遮断する可能性がある。ところが、空気抜き穴が配設されていると、チューブ内に残留していた空気が加圧送入されても、空気抜き穴から外部に除去され、吐出室からマイクロチャネル内に気泡が進入することが阻止される。
【0019】
前記課題を解決するための手段として請求項5に係る発明は、前記マイクロバルブを2個以上有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のマイクロ化学チップである。
【0020】
このマイクロ化学チップによれば、複数個のマイクロバルブを共通のマイクロチャネルで相互に連通させることにより、送入試料を分配したり、混合したり、或いは秤量したりすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロ化学チップでは、従来のような微細なマイクロチャネル内に配設されるマイクロバルブ機構に比べて、第1の基板上面に配設されるばかりか、マイクロバルブ自体も型枠と弁膜から構成され極めて構造が平易であり、製造が容易であるばかりか、コスト的にも安価である。更に、本発明のマイクロ化学チップでは、第1の基板上にマイクロバルブを配設するので、マイクロチャネル内に送入された液体又は気体などが供給源側に逆流することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明のマイクロバルブを集積化したマイクロ化学チップについて具体的に説明する。図1は本発明のマイクロバルブを集積化したマイクロ化学チップの一例の概要平面図である。図2は図1におけるII-II線に沿った断面図である。本発明のマイクロ化学チップ1は、第1の基板3とこの第1の基板3の下面側に接着される、第2の基板5とからなる。第1の基板3の上面にマイクロバルブ20が接着されている。第1の基板3には、液体又は気体の出口となるべきポート9と、このポート9と吐出室19を連通させるマイクロチャネル15が配設されている。マイクロバルブ20は、前記吐出室19を遮蔽する弁膜21と、この弁膜21の外周を囲う型枠23を有する。弁膜21の前記吐出室19に対応する位置と異なる位置に、気体又は液体を送るための送入チューブ7が接着剤11などで固着されている。従って、送入チューブ7と吐出室19との間の第1の基板3部分が弁座17となる。図2ではマイクロチャネル15が第1の基板3側に形成されているが、第2の基板5側に形成することもできる。
【0023】
本発明のマイクロバルブ20はポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーン樹脂から形成されており、型枠23が第1の基板3と恒久接着しており、弁膜21が第1の基板3と自己吸着していることが特徴である。恒久接着部分は強力な外力を受けても第1の基板3から剥離することはなく、剥離する前に裂けたりして破壊されてしまう。これに対して、自己吸着部分は外力を受けると第1の基板から剥離することができ、外力を除くと元通りに第1の基板に自己吸着する。従って、自己吸着部分に外力を加えたり除いたりすれば、弁膜21をバルブのように開いたり閉じたりさせることができる。
【0024】
図3は図2に示されたマイクロバルブ20の動作を示す概要断面図である。送入チューブ7から液体又は気体を高圧で送入すると、自己吸着している弁膜21が第1の基板3から剥離されて浮き上がり、その結果、弁膜21と第1の基板3との間に隙間27が発生し、この隙間27を通して気体又は液体が吐出室19に吐き出され、最終的にマイクロチャネル15を経由して出口ポート9からチップ1の外部に取り出される。PDMS製の型枠23が下部の第1の基板3と恒久接着しているので、型枠23と一体成型された弁膜21は、ずれたりすることなくスムーズに伸縮動作することができる。
【0025】
第1の基板3の形成材料はPDMS(ポリジメチルシロキサン)などのシリコーン樹脂又はガラス(例えば、石英ガラス)からなり、第2の基板5の形成材料はガラス(例えば、石英ガラス)又はシリコンからなることが好ましい。第1の基板3の形成材料がPDMS又はガラスであれば、PDMS製のマイクロバルブ20は第1の基板3に対して、型枠23を恒久接着させ、弁膜21を自己吸着させることができる。第1の基板3及び第2の基板5がガラス同士の場合、フッ化水素接合させることにより基板同士を恒久接着させることができ、第1の基板3がガラスで、第2の基板5がシリコンの場合、陽極接合させることにより基板同士を恒久接着させることができ、第1の基板3がPDMSであり、第2の基板がPDMS又はガラスの場合、接着面をOプラズマ処理することにより基板同士を恒久接着させることができる。
【0026】
図4は本発明のマイクロバルブの別の概要断面図である。図5は図4におけるV−V線に沿った断面図である。図4及び図5に示される本発明のマイクロ化学チップ1Aでは、マイクロバルブ20Aは、第1の基板3に恒久接着している型枠23と、この型枠23の内側に配置された弁膜21Aを有する。図1及び図2に示されたマイクロバルブ20の弁膜21と異なり、弁膜21Aは厚さの厚い部分30と厚さの薄い部分32とから構成されている。厚さの厚い部分30には気体又は液体を送るための送入チューブ7が接着剤11などで固着されている。厚さの薄い部分32は吐出室19を覆うように配置されている。厚さの薄い部分32には空気抜き穴34が開設されている。空気抜き穴34は複数個設けることもできる。空気抜き穴34は図1〜図3に示される均一な厚さを有する弁膜21にも配設することができる。弁膜21に空気抜き穴を配設する場合、その位置は吐出室部分及び前記貫通孔配設部分以外の箇所であることが好ましい。
【0027】
図6は図5に示されたマイクロバルブ20Aの動作を示す概要断面図である。送入チューブ7から液体又は気体を高圧で送入すると、自己吸着している弁膜21Aが第1の基板3から剥離されて浮き上がり、その結果、弁膜21Aと第1の基板3との間に隙間27が発生し、この隙間27を通して気体又は液体が吐出室19に吐き出され、最終的にマイクロチャネル15を経由して出口ポート9からチップ1の外部に取り出される。送入チューブ7内に空気が残っている場合、液体を加圧送入すると、最初にチューブ内の空気が吐出室19からマイクロチャネル15に送り込まれ、気泡となって液体の流れを遮断する可能性がある。ところが、空気抜き穴34が配設されていると、チューブ内に残留していた空気が加圧送入されても、空気抜き穴34から外部に除去され、吐出室19からマイクロチャネル15内に進入することが阻止される。
【0028】
図7は図1及び図2に示される本発明のマイクロ化学チップ1の製造方法の一例を説明する工程図である。ステップ(A)において、第1の基板3と第2の基板5とを予め接合させた接合体の第1の基板3の上面の弁膜積層位置をマスク40で遮蔽しながらエキシマUV光で表面改質処理すると共に、マイクロバルブの型枠23の接着面をエキシマUV光などで表面処理する。ステップ(B)において、表面改質処理された型枠23の処理面側を、表面改質処理された第1の基板3の処理面側に載置し、型枠23を第1の基板3に恒久接着させる。ステップ(C)において、型枠23の内側に弁膜21を載置し、自己吸着させる。ステップ(D)において、型枠23と弁膜21との隙間にPDMSプレポリマー混合液47を注入器49で注入し、注入後、オーブン中で65℃で4時間加熱するか若しくは100℃で1時間加熱して硬化させ、型枠23と弁膜21とを完全に一体化させる。その後、ステップ(E)において、弁膜21の開口部に送入チューブ7を接着剤11で固着し、マイクロ化学チップ1を完成させる。
【0029】
図8は本発明のマイクロ化学チップ1Aの製造方法の一例を説明する工程図である。図7におけるステップ(A)〜(C)と同様な処理により、第1の基板3の上面に、型枠を恒久接着させ、弁膜21Aを自己吸着させる(ステップI)。ステップ(II)において、弁膜21Aの厚さの薄い部分32と厚さの厚い部分30との高さを一致させるためのマスク51を、厚さの薄い部分32の上面に自己吸着させる。マスク51は例えば、ガラスなどで形成することができる。ステップ(III)において、型枠23と弁膜21Aとの隙間にPDMSプレポリマー混合液47を注入器49で注入し、注入後、オーブン中で65℃で4時間加熱するか若しくは100℃で1時間加熱して硬化させ、型枠23と弁膜21Aとを完全に一体化させる。その後、ステップ(IV)において、マスク51を取り除き、弁膜21Aの厚さの厚い部分30の開口部に送入チューブ7を接着剤11で固着し、マイクロ化学チップ1Aを完成させる。
【0030】
図9は本発明のマイクロバルブを複数個配設したマイクロ化学チップ1Bの一例の概要平面図である。マイクロ化学チップ1Bの第1の基板3の上面には3個のマイクロバルブ20−1、20−2及び20−3が配設されている。このマイクロ化学チップ1Bで2種類の液体試料を混合使用とする場合、先ず、マイクロバルブ20−1を閉じた状態に維持しながら、マイクロバルブ20−2で第1の液体試料を吐出室19−2に送出し、同時に、マイクロバルブ20−3で第2の液体試料を吐出室19−3に送出しておく。次いで、マイクロバルブ20−1から気体(例えば、空気)を加圧してマイクロチャネル15に送入すると、吐出室19−2内の第1の液体試料と吐出室19−3内の第2の液体試料は混合状態で出口ポート9に送り出される。
マイクロバルブ20−1、20−2及び20−3をそれぞれ開状態又は閉状態で様々に組み合わせて動作させることにより逆止弁機能や秤量機能などの各種の操作を実施することができる。
【0031】
マイクロチャネル15の幅及び高さは数百ミクロン程度であり、ポート9の内径は数ミリ程度である。吐出室19の容積は用途や使用目的に応じて適宜決定することができる。弁膜21の厚さは数十ミクロン〜数十ミリ程度であることが好ましい。弁膜21が薄いとバルブ動作はスムーズになるが、薄すぎると簡単に破けてしまい、一方、厚すぎると柔軟性に欠け、バルブ動作をスムーズに行うことが困難となる。弁膜21が図4及び図5に示されるような厚さの異なる膜である場合、厚さの厚い部分30の厚さ対厚さの薄い部分32の厚さの比率が4:1程度であることが好ましい。型枠23の幅及び高さは数ミリ〜数十ミリ程度であることが好ましい。型枠23が十分な幅及び高さを有しないと弁膜21を保護することが困難となる。
【実施例1】
【0032】
(1)第1の基板の製造
先ず、4インチウエハ基板を準備した。プロセスの信頼性を得るために、レジストを使用する前にウエハ基板を洗浄・乾燥する必要があり、本実施例では、ピラニア・エッチング/クリーン(HSOおよびH)処理後、蒸留水でリンスした。その後、シリコンの表面酸化膜を除去するため、BHF(バッファード弗酸)に15分間浸し、蒸留水でリンスした。その後、表面の脱水のため、対流式のオーブン中で60℃、30分間程度ベークした。この表面処理済ウエハ上にSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、所定のパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。その後、レジスト膜の露光された部分の架橋を行うため65℃で15分間(STEP1)、95℃で25分間(STEP2)加温し、クーリング後、1−メトキシ−2−プロピル酢酸現像液で現像し、現像後、基板は短時間イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。その後、65℃で30分間乾燥後、150℃で5分間かけてハードベークし、マスターを完成させた。
このマスターの表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF剥離膜を形成した。マスターの剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを流し込み、脱気、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、図2に示されるようなPDMS製の第1の基板3をマスターから剥離した。得られた第1の基板3の厚さは2mmであり、ポート9の内径は何れも2mmであり、マイクロチャネル15の幅は200μm、高さは200μm、長さは30mmであり、吐出室19は内径2mmの円柱状であった。
(2)型枠及び弁膜の製造
先ず、4インチウエハ基板を準備した。プロセスの信頼性を得るために、レジストを使用する前にウエハ基板を洗浄・乾燥する必要があり、本実施例では、ピラニア・エッチング/クリーン(HSOおよびH)処理後、蒸留水でリンスした。その後、シリコンの表面酸化膜を除去するため、BHF(バッファード弗酸)に15分間浸し、蒸留水でリンスした。その後、表面の脱水のため、対流式のオーブン中で60℃、30分間程度ベークした。この表面処理済ウエハ上にSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、所定のパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。その後、レジスト膜の露光された部分の架橋を行うため65℃で15分間(STEP1)、95℃で25分間(STEP2)加温し、クーリング後、1−メトキシ−2−プロピル酢酸現像液で現像し、現像後、基板は短時間イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。その後、65℃で30分間乾燥後、150℃で5分間かけてハードベークし、マスターを完成させた。
このマスターの表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF剥離膜を形成した。マスターの剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを流し込み、脱気、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、型枠23及び弁膜21をマスターから剥離した。型枠23の幅は2mm、高さは4mm、枠の内側の横は34mm、縦は24mmであった。弁膜21の高さは4mm、横30mm、縦20mmであった。弁膜21の所定箇所に内径2mmの穴を機械的に穿設した。
(3)マイクロ化学チップの製造
前記第1の基板3よりも若干大きいサイズのガラス板を準備した。ガラス板の接着面をエチルアルコールで洗浄し、蒸留水でリンスした。その後、エキシマUV光を照射し、ガラス板接着面の表面酸化物を除去した。このガラス板に前記PDMS製の第1の基板を恒久接着させた。PDMS製の第1の基板にマスクを被せてエキシマUV光を照射して所定箇所を表面改質処理し、同時に、型枠の接着面をエキシマUV光を照射して表面改質処理した。次いで、第1の基板の上面の所定箇所に型枠を載置し、恒久接着させ、次いで、型枠23の内側に弁膜21を配置し、第1の基板に自己吸着させた。型枠23と弁膜21との隙間に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを流し込み、脱気、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、型枠23及び弁膜21を一体化させた。弁膜21の穴に外径2mmのテフロン製送入チューブ7を、接着剤セメダインPPX(セメダイン(株)製)で固着させた。
(4)送液テスト
送入チューブ7から赤色に着色された水を圧力50kPaで送入したところ、弁膜21が膨隆して赤色水が吐出室19からマイクロチャネル15を経てポート9に出てくるのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のマイクロバルブはマイクロ化学チップに限らず、その他のマイクロ流体デバイスにおける流体制御素子としても利用することができる。
本発明のマイクロバルブを有するマイクロ化学チップは、液体の他に、気体、懸濁液、分散液、微粒子粉体なども移動物体として移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のマイクロバルブを有するマイクロ化学チップの一例の概要平面図である。
【図2】図1におけるII-II線に沿った断面図である。
【図3】図2におけるマイクロバルブの動作を説明する概念図である。
【図4】本発明のマイクロバルブを有するマイクロ化学チップの別の例の概要平面図である。
【図5】図4におけるV-V線に沿った断面図である。
【図6】図5におけるマイクロバルブの動作を説明する概念図である。
【図7】本発明のマイクロ化学チップの製造方法の一例を説明する工程図である。
【図8】本発明のマイクロ化学チップの製造方法の別の例を説明する工程図である。
【図9】本発明のマイクロバルブを複数個有するマイクロ化学チップの一例の概要平面図である。
【図10】従来のマイクロ化学チップの一例の部分概要斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1,1A,1B 本発明のマイクロ化学チップ
3 第1の基板
5 第2の基板
7 送入チューブ
9 出力ポート
11 接着剤
15 マイクロチャネル
17 弁座
19 吐出室
20,20A マイクロバルブ
21,21A 弁膜
23 型枠
27 弁膜と弁座との間に生じる隙間
30 弁膜の膜厚の厚い部分
32 弁膜の膜厚の薄い部分
34 空気抜き穴
40 マスク
47 PDMSプレポリマー混合液
49 注入器
51 マスク
100 従来のマイクロ化学チップ
101 シリコン基板
102 マイクロチャネル
103,104 入出力ポート
105 対面基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、該第1の基板の一方の面側に接着される第2の基板とからなり、前記第1の基板又は第2の基板の少なくも何れか一方にマイクロチャネルが形成されているマイクロ化学チップにおいて、
前記第1の基板は、前記マイクロチャネルに連通する、上部が大気に開口した吐出室を有し、
前記第1の基板上面には、型枠と弁膜とからなるマイクロバルブが配設されており、
前記弁膜は前記吐出室を覆うように前記第1の基板上面に配設されており、
前記型枠は前記弁膜の外周縁に該弁膜と一体化されて配設されており、
前記弁膜は、前記吐出室の位置に対応する以外の位置に貫通孔を有し、
前記貫通孔の下部は前記第1の基板面により遮蔽されていて、貫通孔の上部には送入チューブが固着されていることを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項2】
前記第1の基板がポリジメチルシロキサン(PDMS)又はガラスから形成されており、前記型枠及び弁膜がPDMSから形成されており、前記型枠が第1の基板と恒久接着しており、前記弁膜が前記第1の基板と自己吸着していることを特徴とする請求項1記載のマイクロ化学チップ。
【請求項3】
前記弁膜は均一な厚さを有し、かつ、前記吐出室部分及び前記貫通孔配設部分以外の箇所に少なくとも1個の空気抜き穴が配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ化学チップ。
【請求項4】
前記弁膜は厚さの厚い部分と厚さの薄い部分に2分されており、前記貫通孔及び送入チューブは前記厚さの厚い部分に配設され、前記吐出室は前記厚さの薄い部分により覆われており、前記厚さの薄い部分の前記吐出室部分以外の箇所に少なくとも1個の空気抜き穴が配設されているいることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記マイクロバルブを2個以上有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のマイクロ化学チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−224011(P2006−224011A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42148(P2005−42148)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【出願人】(502338454)フルイドウェアテクノロジーズ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】