説明

マイクロリアクター用反応管及びその製造方法

【課題】常温常圧から高温高圧下における流通反応を安全かつ高速、高効率で行うため、高温高圧と腐食環境に耐えうるマイクロリアクター用の中空金属反応管を提供する。
【解決手段】鉄合金またはニッケル合金チューブ1の内面に、チタンまたはチタン合金層2を有し、最上層として触媒金属層3を積層してなるマイクロリアクター用反応管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄合金若しくはニッケル合金製マイクロチューブの内表面にチタン―触媒貴金属膜を積層してなるマイクロリアクター用反応管とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能性の追求から、物質製造には高効率で廃棄物を最小とするプロセスが求められている。マイクロリアクターは、優れた熱伝導性と拡散による物質移動が速やかで、混合と温度制御性に優れ、また内表面積/内部体積が大きいため、速やかで高効率の界面反応が期待できる化学反応システムとして位置づけられている。マイクロリアクターは、微細流路を備えたフロー反応器、混合器、分離器、熱交換器などの機能を備えたデバイスから構成されるが、これらのうち、反応器はシステムの中核をなし、様々な設計と加工の工夫がなされてきた(例えば非特許文献1)。
【0003】
このような反応器としては、ガラスやシリコンの板に微細な溝を精密加工した基板と、平らな基板を接合することで微細な流路を形成したマイクロ反応器が最も良く知られている。また、金属、ガラス、シリカなどの細管からなるマイクロチューブの反応器も種々開発されている。例えば金属錯体触媒を担持したマイクロキャピラリーとこれを用いた接触水素化反応が提案されている(特許文献1)。これらのマイクロチューブ素材の製造には、高度の微細加工技術を必要としない。また、マイクロチューブは、細管長を長くすること、管を複数本束ねることにより、容易にスケールアップできる利点がある。
1本の管に多数の流通路を持つモノリス型の触媒反応管(特許文献2)や、マイクロチューブ細線の内部表面に、様々な手法で触媒を担持させ、流通式の触媒反応リアクターとして利用することも試みられている(非特許文献2)。
微小空間を利用するという優位な特徴を生かす視点から、マイクロリアクターシステムはこれまで様々な合成化学反応、物質製造、化学分析などに応用されてきた。通常の有機合成反応の条件に加えて、高温高圧、マイクロ波、電位の印加などの条件を付加して形成した特異な反応場を、マイクロリアクターシステムと組み合わせることも近年進められている。とりわけ超臨界流体の利用は、特異な反応場を提供することや反応条件の制御が容易なことなどから、物質製造の新しいプロセスとして近年着目されている。超臨界流体による反応場をマイクロリアクターに導入する試みが特許文献3に記載されている。
【0004】
超臨界流体のひとつである超臨界水は、特異な反応性に加え、安全、安価な反応媒体として着目されているが、374℃、22MPaを超える高温高圧の状態にあり、しかも反応場に酸を添加する反応系、若しくは反応により酸を生じる反応系の場合は腐食性が高い。このため、超臨界水を反応媒体として利用するマイクロリアクターの材質には、耐熱性、耐圧強度、耐腐食性が要求される。市販されているガラスやシリカキャピラリーなどのセラミックス材は、ある程度の耐熱性はあるが耐圧強度に問題がある。金属製のマイクロチューブは耐熱性、耐圧強度共に優れているが、通常の鉄やステンレスでは耐腐食性に課題がある。とりわけ、反応場に酸を添加する、若しくは反応により酸を生じる超臨界水プロセスの場合、金属の腐食環境は厳しくなるため、耐腐食性への配慮が必要である。ハステロイ、インコネルといった耐腐食性のニッケル合金を用いることで、改善が図られているが、これらの合金の耐腐食性には限界がある。金、白金、ロジウムなどの貴金属は耐酸性など腐食に強いが、そのまま反応管として用いるのは強度的にも経済的にも問題がある。
【0005】
そこで耐腐食性向上の観点から、合金素材表面にチタンを内張りにすることが試みられている。例えば、超臨界水酸化処理に用いる管状部材として、ステンレス管内部にチタン管を金属ロウにより密着させる方法が提案されている(特許文献4)。また、ステンレス−チタン二重管の引き抜きにより内表面をチタンで被覆したチューブの作製方法については既に知られている(特許文献5)が、大口径のものであり、マイクロリアクターの部材として用いることのできる内径が1mm以下の2重管ではない。
【0006】
【非特許文献1】「マイクロリアクター」CMC出版、2003年
【非特許文献2】Catalysis Today, 110巻, 2-14ページ, 2005年.
【特許文献1】特開2007−69164号公報
【特許文献2】米国特許公開第2007009426号公報
【特許文献3】特開2006−61903号公報
【特許文献4】特開2002−1424号公報
【特許文献5】特開平3−234314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって本発明は、常温常圧から高温高圧下における流通反応を安全かつ高速、高効率で行うため、高温高圧と腐食環境に耐えうるマイクロリアクター用の中空金属反応管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意研究した結果、チタン内張りの鉄合金またはニッケル合金製中空細管の内表面を酸化し、さらに酸化チタンの表面を触媒貴金属層で被覆することにより、耐熱、耐圧、耐腐食性を有する触媒機能を有したマイクロリアクター用反応管を提供できることを見出した。すなわち、本発明の課題は下記の手段によって解決された。
【0009】
(1)鉄合金またはニッケル合金チューブの内面に、チタンまたはチタン合金層を有し、最上層として触媒貴金属の薄膜を積層してなるマイクロリアクター用反応管。
(2)前記触媒貴金属が、ロジウム、白金、パラジウムまたは金である(1)に記載のマイクロリアクター用反応管。
(3)前記触媒貴金属の薄膜が5μm以下の膜厚である(1)又は(2)に記載のマイクロリアクター用反応管。
(4)中空の内径が1mm以下の細管である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のマイクロリアクター用反応管。
(5)鉄合金またはニッケル合金にチタンまたはチタン合金を内張りした二重管の内表面を酸化して酸化チタン被膜を形成し、最上層として触媒貴金属の薄膜を形成する(1)〜(4)のいずれか1項に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
(6)前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキ法によりロジウム被膜を形成する(5)に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
(7)前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキ法によりパラジウム被膜を形成する(5)に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
(8)前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキ法により白金被膜を形成する(5)に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
(9)前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキにより金被膜を形成する(5)に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロリアクター用反応管(マイクロチューブともいう)は、耐熱性、耐圧強度、耐腐食性を有し、超臨界水などを用いるための高温高圧条件下での使用に耐え、安全に流通反応を遂行することが出来る。しかも高密度の触媒金属を内表面に被膜しているため、常温常圧から高温高圧において高効率の触媒反応を行わせることができ、物質製造に用いるデバイスとして有用である。触媒となる貴金属は、ミクロンオーダーの薄膜であり使用する量はわずかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい一実施の形態を図面を参照して説明する。
マイクロリアクターとは、通常、極小サイズの反応装置をいう。反応管を適用するマイクロリアクターは、特に限定されるものではないが、耐圧、耐熱、耐腐食性の中空管であり、管内部表面を、貴金属触媒薄膜で連続的に被覆したものである。
具体的には、本発明においてマイクロリアクターの反応管として用いる中空細管は、高い[内面積/体積]比率を持ち、細管内部の物質拡散と熱拡散を保障するために、内径1mm以下であることが好ましく、0.5〜0.1mmであることがさらに好ましい。長さは用途に応じ適宜設定できるが、100〜3000mmが好ましい。
本発明のマイクロリアクター用反応管は、鉄合金若しくはニッケル合金製の中空細管を基材とし、該合金製中空細管の内面にチタンまたはチタン合金の内管を有し、好ましくは内管表面にチタン酸化物膜を形成させ、さらにその上に触媒貴金属薄膜を設けてなる。図1は、本発明のマイクロリアクター用反応管の一実施形態について積層構造を断面で模式的に示す説明図である。合金チューブ(外管)1上にチタンまたはチタン合金層(内管)2が設けられ、最上層として、触媒貴金属の薄膜3が形成されている。4は反応場となる中空部である。
【0012】
本発明のマイクロリアクター用反応管の基材5としては、耐薬品性の観点からチタン若しくはチタン合金を内張りした鉄合金若しくはニッケル合金製細管を用いることができる。このような中空細管5は、鉄合金若しくはニッケル合金の外管1と、チタン若しくはチタン合金の内管2の、二重管の引き抜きにより作製できる。
上記外管1としては、耐熱性、耐圧性のある鉄合金若しくはニッケル合金製の中空細管を用いる。鉄合金としては例えば、ステンレスに代表される鉄−クロム系合金を用いることができる。ニッケル合金としては例えば、インコネル(商品名)、ハステロイ(商品名)、ヘンズアロイ(商品名)を用いることができる。該外管1の内面に、チタンまたはチタン合金の内管2を有し、最上層として触媒金属薄膜3を積層してなる。
【0013】
細管の内表面にさらに触媒金属被膜を形成するためには、チタン若しくはチタン合金表面を酸化しておくことが好ましい。これは、1)無電解メッキにより触媒金属薄膜を形成する際に、種となるパラジウムを固定しやすくするため、ならびに2)被覆された触媒金属の原子拡散によるチタンとの合金化や金属間化合物の形成を避けるためである。チタン若しくはチタン合金表面の酸化には、過酸化水素や過マンガン酸カリウム水溶液などの試薬による酸化、高温空気による酸化等が考えられるが、例えば超臨界水中に酸化剤を供給し、超臨界水酸化雰囲気を形成することにより容易にその目的を達成できる。例えば、0.3wt%程度の過酸化水素水を500℃、30MPa、流量数10g/min、時間1hr程度の条件で通液させることでチタン若しくはチタン合金表面に酸化チタンの皮膜を形成することができる。
【0014】
細管内表面にミクロンオーダーの触媒金属箔膜を被覆する手段は特に限定されないが、メッキ溶液を細管内に導入することで簡便に金属被覆が達成できる無電解メッキの手法が最も好ましい。以下に、本発明方法の好ましい一実施態様として、無電解メッキを利用した製造方法について説明する。
無電解メッキ法は、どのような形状の表面にも金属が被膜できること、特殊な装置を必要としないこと、また非導電性材料にも適用できるといった利点が多い。無電解メッキでは、導電性と触媒性を兼ね備えたパラジウムが種核として不可欠である。はじめに基材の表面にパラジウム錯体を均一に保持させたのち、ヒドラジンを用いて還元する公知の方法(Electroless plating: Fundamentals and applications, Published by American Electrolessplaters and Surface Finishers Society, 1990)により達成される。
【0015】
本実施態様においては、先ず、マイクロチューブ内面に存在する酸化チタンの表面に、金属パラジウムからなる微細な種核を均一に析出、分布させる。このチューブ内表面へのパラジウムの保持方法としては、チューブにパラジウム錯体溶液を通液したのちに乾燥する方法、ないしはシランカップリング剤を介してパラジウムを保持させる方法が好ましい。パラジウム含有溶液におけるパラジウム化合物の例としては、好ましくは酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、パラジウムアンミン錯体([Pd(NH3)4]2+)などが挙げられる。還元剤としては、ヒドラジン、グルコース、塩化スズ、次亜リン酸などが挙げられるが、メッキ被膜内へのスズ、リンの残留が好ましくないため、ヒドラジンやグルコースの使用が最適である。
【0016】
このようにして得られたチューブに、錯形成剤と金属錯体、還元剤を含むメッキ水溶液を連続通液し、種核のある表面に金属をメッキする。このメッキ液にはパラジウムや白金、金、銀、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムなどの貴金属錯体や塩の単独もしくは混合物と、これを安定に溶存させる錯形成剤、溶剤を含有する。メッキ液に用いられる金属塩の例としては、酢酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等が、金属錯体としては[Pd(NH3)]Cl2、[RhCl(NH3)5]Cl2、[Pt(NH3)4]Cl2、[Au(CN)4]等が好ましく用いられる。また、錯形成剤の例としては、好ましくはアンモニアとキレート剤との組合せ、特にアンモニアとEDTA(エチレンジアミン四酢酸)との組合せが挙げられる。キレート剤としては、EDTAの他、NTA(ニトリロトリ酢酸)や、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。還元剤としては、ヒドラジン、グルコースなどが挙げられる。また、無電解メッキ液の金属濃度は、0.001M以上0.02M以下、錯形成剤は通常EDTAが0.01M以上0.5M以下、アンモニアが0.1M以上5M以下、ヒドラジン0.005M以上0.05M以下の濃度が選ばれ、溶剤として通常水を用いる。
【0017】
メッキ溶液は、ポンプを使用して細管内に連続送液され、その流速は毎分0.1ml以上5ml以下の範囲で選ばれる。無電解メッキの際のメッキ液の温度は、通常室温から95℃の範囲であるが、メッキする金属の種類により、メッキ速度が異なるため、一定以上の反応速度を維持し、しかもアンモニアの蒸散や薬剤の分解を少なくする観点から40℃以上90℃以下が用いられる。とりわけパラジウムでは50℃以上60℃以下、白金、ロジウムでは50℃以上70℃以下、金では90℃以上が好ましい。メッキ時間はメッキ液温度や膜厚、細管の長さにもよるが、100cmの細管では、1時間以上5時間以内の範囲が好適である。メッキ後にチューブ内を水洗し、利用に供することができる。
【0018】
本発明のマイクロリアクター用反応管において、触媒となる貴金属薄膜の厚さは5μm以下であることが好ましく、4〜0.5μmがより好ましい。本発明の中空金属反応管は、常温常圧から高温高圧下における流通反応、例えば、パラジウム、白金、ロジウム被覆管では、オレフィンなどの不飽和化合物の水素化に、パラジウム、金被覆管では、アルコール、アルデヒドの酸化、パラジウム、白金被覆管では炭素−炭素のカップリング反応などの反応に好適に用いることができる。耐熱性、耐圧強度、耐腐食性を有するので、反応条件を選ばず、超臨界水などの超臨界流体を用いる反応場にも使用できる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
以下のようにして、触媒貴金属がロジウムである中空金属反応管(図1参照)を作製した。
(チタン内張りニッケル合金チューブの製造)
外管1の材料としてインコネル625(商品名)を、内管2の材料としてはチタンを用いた。純チタン管を外管の内側に挿入し、複数回圧延・嵌合することにより、内外管の密着性を向上させて中空部4を有する二重管5を製造した。
【0021】
(チタン表面の酸化処理)
上記二重管5の入口から500℃、30MPa、流量20g/minの条件で、0.3wt%程度の過酸化水素水を供給した。過酸化水素はこの条件では任意の時間保持されると完全に水と酸素に分解される。また、分解された酸素は超臨界水と均一相を形成するため、高温高圧条件化での良好な酸化環境となる。内管2の材質の純チタンは表面が酸化され、酸化チタンの皮膜が均一に形成される。本実施例においてはおよそ100μmの厚さのチタン層が形成された。得られたニッケル合金−チタン−チタン酸化物細管5は、内径0.5mm、外径1.5mm、長さ100cmをコイル状に巻いたもので、内表面積15.7cmである。
図2(a)にチューブ断面、図2(b)にチタン層表面の電子顕微鏡写真を示した。図2(a)より、およそ100μmのチタン層が管内に均一に分布することが観察され、図2(b)より、チタン層表面が高温高圧下で過酸化水素により酸化され、粗い表面を形成してメッキ被膜が密着しやすい状況にあることが伺える。
【0022】
(パラジウム種核の形成)
上記ニッケル合金−チタン−チタン酸化物細管5を、50℃の水浴に浸し、細管の先端からメッキ液として4mM [Pd(NH3)4]Cl2, 0.15MのEDTA、1Mアンモニア、10mMヒドラジンを含む水溶液(50℃)を毎分0.5mlの流速で通液した。200mlのメッキ液を供給した時点で通液を止めた。通液中に細管末端から流出するメッキ液をフラクションコレクターで分取し、流出液に含まれるパラジウム量をICP発光分光法で分析した。消費されたパラジウム量は57mgであり、これが細管の内表面にメッキされた。細管を通過後のパラジウム濃度と、通液時間の関係を図3に示す。初濃度380ppmのパラジウムは、細管内面のメッキにより消費され、10ppm以下に減少して流出した。また、図4(a)にチューブ断面、図4(b)にパラジウムが析出している内表面の電子顕微鏡写真を示した。表面にパラジウムの結晶粒子が析出している。EDX分析によるパラジウム元素の分布を図5に白い点で示す。パラジウム層の厚さは、3.5μmであった。
【0023】
(ロジウムによるメッキ)
上記のようにして作製したチューブの内表面にパラジウム種核をつけた細管5を、60℃の水浴に浸し、メッキ液として3mMの[RhCl(NH3)5]Cl2, 0.15MのEDTA、0.1Mアンモニア、10mMヒドラジンを含む水溶液(60℃)を毎分0.5mlの流速で通液した。160mlのメッキ溶液を供給したところで通液を止めた。通液中に細管末端から流出するメッキ液をフラクションコレクターで分取し、流出液に含まれるロジウム量をICP発光分光法で分析した。細管を通過後のロジウム濃度と、通液体積の関係を図6に示す。初濃度360ppmのロジウムは、細管内面のメッキにより消費され、50ppmに減少して流出した。160mlのメッキ液の通液により消費されたロジウム量は50.5mgであり、これが細管の内表面にメッキされた。ロジウムの薄膜3の厚さは3.4μmであった。
【0024】
実施例2
細管にパラジウム種核をつけるところまでは実施例1と全く同じ手順で行い、ロジウムメッキに代えて以下の手順で金メッキを行って、触媒貴金属が金であるマイクロリアクター用反応管を作製した。
チューブの内表面にパラジウム種核をつけた細管5を、92℃の水浴に浸し、細管の先端からメッキ液として1mMのK[Au(CN)4] 0.8Mの水酸化ナトリウム、0.5Mのヒドラジンを含む水溶液(90℃)を毎分0.5mlの流速で通液した。450mlのメッキ液を供給した時点で通液を止めた。通液中に細管末端から流出するメッキ液をフラクションコレクターで分取し、流出液に含まれる金の量をICP発光分光法で分析した。初濃度227ppmの金は、細管内面のメッキにより消費され、ほぼ150ppmに減少して細管より連続的に流出した。消費された金の量は36.6mgであり、これが細管の内表面にメッキされた。金の薄膜3の厚さは1.2μmであった。
【0025】
実施例3
細管にパラジウム種核をつけるところまでは実施例1と全く同じ手順で行い、ロジウムメッキに代えて以下の手順で白金メッキを行って、触媒貴金属が白金であるマイクロリアクター用反応管を作製した。
チューブの内表面にパラジウム種核をつけた細管5を、50℃の水浴に浸し、細管の先端からメッキ液として10mMの[Pt(NH3)4]Cl2, 0.15MのEDTA、1Mアンモニア、10mMヒドラジンを含む水溶液(70℃)を毎分0.5mlの流速で通液した。100mlのメッキ液を供給した時点で通液を止めた。通液中に細管末端から流出するメッキ液をフラクションコレクターで分取し、流出液に含まれる白金量をICP発光分光法で分析した。消費された白金量は22mgであり、これが細管の内表面にメッキされた。白金の薄膜3の厚さは1.0μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のマイクロリアクター用反応管の一実施形態について積層構造を断面で模式的に示す説明図である。
【図2】実施例1でチタン内管の表面を酸化させた二重管の金属組織を示す電子顕微鏡写真であって、(a)はチューブ断面、(b)にチタン層表面のものである。
【図3】実施例1のパラジウム種核形成処理における、細管を通過後のメッキ液のパラジウム濃度と、通液時間の関係を示すグラフである。
【図4】実施例1でパラジウム種核をつけた細管の金属組織を示す電子顕微鏡写真であって、(a)はチューブ断面、(b)はパラジウムが析出している内表面のものである。
【図5】実施例1でパラジウム種核をつけた細管の金属組織を示す電子顕微鏡写真であって、EDX分析によるパラジウム元素の分布を白い点で表わしたものである。
【図6】実施例1のロジウムメッキ処理における、細管を通過後のロジウム濃度と、通液体積の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 鉄合金若しくはニッケル合金製チューブ(外管)
2 チタンまたはチタン合金層(内管)
3 触媒貴金属薄膜
4 中空部
5 基材(二重管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄合金またはニッケル合金チューブの内面に、チタンまたはチタン合金層を有し、最上層として触媒貴金属の薄膜を積層してなるマイクロリアクター用反応管。
【請求項2】
前記触媒貴金属が、ロジウム、白金、パラジウムまたは金である請求項1に記載のマイクロリアクター用反応管。
【請求項3】
前記触媒貴金属の薄膜が5μm以下の膜厚である請求項1又は2に記載のマイクロリアクター用反応管。
【請求項4】
中空の内径が1mm以下の細管である請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロリアクター用反応管。
【請求項5】
鉄合金またはニッケル合金にチタンまたはチタン合金を内張りした二重管の内表面を酸化して酸化チタン被膜を形成し、最上層として触媒貴金属の薄膜を形成する請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキ法によりロジウム被膜を形成する請求項5に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
【請求項7】
前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキ法によりパラジウム被膜を形成する請求項5に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
【請求項8】
前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキ法により白金被膜を形成する請求項5に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。
【請求項9】
前記酸化チタン被膜にパラジウム種核を担持させ、その上に無電解メッキにより金被膜を形成する請求項5に記載のマイクロリアクター用反応管の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−104928(P2010−104928A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280451(P2008−280451)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】