説明

マイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法

【課題】マイクロ波を利用して乾燥炉内に装入された塊成化物の下層部位を選択的に加熱すること。
【解決手段】本発明に係るマイクロ波乾燥装置は、被乾燥物をコンベアにより搬送する際に当該被乾燥物に対して熱風を吹き付けることで被乾燥物に含まれる水分を低減させる熱風式の乾燥炉に対して設置され、被乾燥物を乾燥させるために用いられるマイクロ波を発振するマイクロ波発振機と、コンベアの直上に設けられ、マイクロ波を導波する導波管の上面に複数の開口部を有し、当該複数の開口部それぞれから被乾燥物に対してマイクロ波を照射する複数のスリットアンテナとを備え、複数のスリットアンテナの開口部が乾燥炉幅方向の全体を覆うように、複数のスリットアンテナが被乾燥物の搬送方向に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉による鋼材の製造が盛んになるにつれ、その主原料であるスクラップの需要は逼迫し、電気炉での高級鋼製造に対する要請から還元鉄の需要が増大しつつある。
【0003】
還元鉄を製造する方法の一つとして、粉状の鉄鉱石や製鉄ダスト等の酸化鉄原料と、粉状の石炭やコークス等の炭材とを混合して、例えばペレットやブリケットのような塊成化物とし、この塊成化物を回転炉床炉等の還元炉に装入して高温に加熱することで酸化鉄原料を還元し、固体状の金属鉄を得る方法がある。このような方法において、酸化鉄原料と炭材とを含む塊成化物の水分含有率を調整することが、塊成化物の還元率を高める上で重要となる。
【0004】
以上のような還元鉄の製造工程において、塊成化物等の水分含有率を調整するための装置として、金網状のコンベア上に装入された被乾燥物を熱風により乾燥させるトンネル状の炉がある(例えば、以下の特許文献1を参照。)。このような乾燥炉は、炉の上方から下方に向けて熱風を通過させることで、装入された被乾燥物を乾燥させる。
【0005】
上記特許文献1に開示されているような乾燥炉は、熱風を上方に供給することによる熱風乾燥であるため、被乾燥物である小塊原料の下層部分(金網状のコンベアに近い部分)の乾燥が遅れ、下層部分に位置する小塊原料の乾燥が不十分になってしまう。小塊原料の乾燥が不足すると小塊原料の強度が不足し、次工程において小塊原料が粉化することで生産歩留まりの低減が生じてしまう。また、このような生産歩留まりの低減を防止するためには、小塊原料に混合する各種バインダーを余分に添加することが必要となり、製造コストが増加してしまうという問題がある。
【0006】
また、小塊原料は石炭やコークス等の炭材を含有しているため、小塊原料を加熱しすぎると発火の恐れがあり、熱風の温度を上げて乾燥効率の改善を図ることは困難である。従って、発火防止の観点から、十分に乾燥される上層部分ではなく、水分の残留する下層部分を選択的に加熱することが求められている。
【0007】
また、上記のような熱風を利用する乾燥炉以外にも、ヒーターによる乾燥を補助するために被加工物の外部から乾燥室の自由空間内にマイクロ波を照射する乾燥炉が提案されている(例えば、以下の特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−113197号公報
【特許文献2】特開平6−347165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のような還元鉄の製造工程では、被乾燥物である塊成化物の乾燥炉内での層厚は約200mm以上と厚い。そのため、上記特許文献2に記載されているように炉内の自由空間に対してマイクロ波を照射した場合、塊成化物層の上層部位にマイクロ波を作用させることは可能であるが、以下で詳述するように、本発明者らによる検討の結果、塊成化物の下層部位にマイクロ波を作用させることが出来ないことが明らかとなった。
【0010】
また、重量物である塊成化物を搬送するためのコンベアは金属製の金網であるため、コンベアの裏面から塊成化物の下層部位へマイクロ波を照射したとしても、金属製のコンベアによりマイクロ波が反射されてしまい、塊成化物の下層部位へマイクロ波を作用させることができない。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、マイクロ波を利用して乾燥炉内に装入された被乾燥化物の下層部位を選択的に加熱することが可能な、マイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、被乾燥物をコンベアにより搬送する際に当該被乾燥物に対して熱風を吹き付けることで前記被乾燥物に含まれる水分を低減させる熱風式の乾燥炉に対して設置されるマイクロ波乾燥装置であって、前記被乾燥物を乾燥させるために用いられるマイクロ波を発振するマイクロ波発振機と、前記コンベアの直上に設けられ、前記マイクロ波を導波する導波管の上面に複数の開口部を有し、当該複数の開口部それぞれから前記被乾燥物に対して前記マイクロ波を照射する複数のスリットアンテナと、を備え、前記複数のスリットアンテナの前記開口部が前記乾燥炉の炉幅方向全体を覆うように、前記複数のスリットアンテナが前記被乾燥物の搬送方向に配置されるマイクロ波乾燥装置が提供される。
【0013】
前記スリットアンテナは、当該スリットアンテナの直軸方向が前記乾燥炉幅方向に対して平行になるように配置されてもよい。
【0014】
前記スリットアンテナは、当該スリットアンテナの直軸方向が前記乾燥炉幅方向に対して斜めになるように配置されてもよい。
【0015】
前記スリットアンテナの少なくとも前記開口部の部分に、誘電損失係数が0.02未満である無機材料セラミックスで形成されたセラミックスカバーが設けられることが好ましい。
【0016】
前記スリットアンテナに対して、前記被乾燥物の搬送に伴って発生する振動を緩和する振動緩和機構を設けることが好ましい。
【0017】
前記振動緩和機構として、前記スリットアンテナと前記マイクロ波発振機との間に、軸方向のスライドを可能にするスライド機構を有するスライド導波管、又は、金属製の蛇腹部を有するフレキシブル導波管の少なくとも何れか一方を配設することが好ましい。
【0018】
前記振動緩和機構として、前記スリットアンテナを支持する支持体の一部に、弾性部材を設けることが好ましい。
【0019】
前記スリットアンテナを、前記搬送方向に前記加熱範囲が連続するように当該搬送方向に並べて配設することが好ましい。
【0020】
前記スリットアンテナの内部には防塵ガスが導入されており、前記スリットアンテナの内部に正圧がかかった状態となっていることが好ましい。
【0021】
前記スリットアンテナの前記搬送方向上流側の端部に、当該搬送方向上流側に向かうほど高さが低くなるテーパー部が設けられてもよい。
【0022】
前記テーパー部に対し、1又は複数のローラーが更に設けられてもよい。
【0023】
前記マイクロ波乾燥装置は、前記マイクロ波発振機と前記複数のスリットアンテナとの間に、前記マイクロ波発振機から発振された前記マイクロ波のインピーダンスと、前記乾燥炉内で反射し前記マイクロ波発振機に向かう前記マイクロ波のインピーダンスとの整合を行う自動整合器を更に備えることが好ましい。
【0024】
前記無機材料セラミックスは、アルミナ、窒化ケイ素、サイアロン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及びこれらの混合物からなる群より選択されてもよい。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、被乾燥物をコンベアにより搬送する際に当該被乾燥物に対して熱風を吹き付けることで前記被乾燥物に含まれる水分を低減させる熱風式の乾燥炉に対して実施されるマイクロ波乾燥方法であって、前記被乾燥物を乾燥させるために用いられるマイクロ波を発振させ、前記コンベアの直上に設けられ、前記マイクロ波を導波する導波管の上面に複数の開口部を有し、当該複数の開口部から前記マイクロ波を照射する複数のスリットアンテナのそれぞれから、前記被乾燥物に対して前記マイクロ波を照射するものであり、前記複数のスリットアンテナの前記開口部が前記乾燥炉の炉幅方向全体を覆うように、前記複数のスリットアンテナが前記被乾燥物の搬送方向に配置されるマイクロ波乾燥方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、マイクロ波照射部材をコンベアの直上に設け、マイクロ波照射部材から被乾燥化物の下層部位に対してマイクロ波を照射することにより、乾燥炉内に装入された被乾燥物の下層部位を選択的に加熱することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一般的な還元鉄の製造方法の流れについて示した説明図である。
【図2】乾燥炉内における塊成化物の状態について説明するための説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るマイクロ波乾燥方法の概略を示した説明図である。
【図4】マイクロ波を用いた加熱方法に関する検討結果を説明するための説明図である。
【図5】マイクロ波を用いた加熱方法に関する検討結果を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波乾燥装置の構成を示した説明図である。
【図7】同実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【図8】同実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【図9】同実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【図10】同実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【図11】同実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【図12】同実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【図13A】同実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について示した説明図である。
【図13B】同実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について示した説明図である。
【図14A】同実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について示した説明図である。
【図14B】同実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0029】
(還元鉄の製造工程について)
本発明の実施形態に係るマイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法について説明するに先立ち、まず、図1を参照しながら、還元鉄の製造工程について、詳細に説明する。図1は、還元鉄の製造工程を説明するための説明図である。
【0030】
まず、製鉄ダスト(酸化鉄粉)及び鉄鉱石、粉鉱石などの酸化鉄原料と、石炭、コークス、微粒カーボン等の還元材とは、予めホッパー1等に格納されている。酸化鉄原料及び還元材は、予め設定された配合比となるように配合されて、粉砕機2に装入される。
【0031】
ボールミル等の振動ミルに代表される粉砕機2は、装入された酸化鉄原料及び還元材を、混合しながら所定の粒径まで粉砕する。粉砕後の酸化鉄原料及び還元材の粒径は、還元鉄の製造に用いられる回転炉床炉、流動床炉、シャフト炉等の固体還元炉に適した値とすることができる。粉砕後の酸化鉄原料及び還元材からなる混合物は、混練機3に運搬される。
【0032】
混練機3は、粉砕機2により所定の粒径に粉砕された混合物を混練する。また、混練機3は、混合物の混練に際して、還元鉄の製造に用いる固体還元炉に適した水分量となるまで混合物に加水を行う調湿処理を施してもよい。混練機3の一例として、例えば、ミックスマーラー等を挙げることができる。混練機3によって混練された混合物は、成型機4に搬送される。
【0033】
パンペレタイザー(皿型造粒機)、ダブルロール圧縮機(ブリケット製造機)、押し出し成型機等の成型機4は、酸化鉄原料及び還元材を含む混合物を成型し、例えばペレットのような塊成化物とする。ここで、塊成化物とは、ペレット、ブリケット、押し出し成型して裁断した成型品、粒度調整された塊状物等の粒状物・塊状物をいう。成型機4は、後述する乾燥・加熱還元後、例えば熱間にて溶解炉7に装入する際、炉内上昇ガス流で飛散しない程度の粒径以上の大きさとなるように、上記混合物を塊成化する。生成された塊成化物は、乾燥炉5へと装入される。
【0034】
乾燥炉5は、塊成化物を乾燥して、後述する加熱還元工程に適した水分含有率(換言すれば、還元鉄の製造に用いる固体還元炉ごとに適した水分含有率:例えば、1%以下)となるようにする。所定の水分含有率となった塊成化物は、後述する固体還元炉6へと搬送される。
【0035】
例えば回転炉床炉(Rotary Hearth Furnace:RHF)、流動床炉、シャフト炉等のような固体還元炉6は、装入された塊成化物を、LNGバーナーやCOGバーナー等の加熱雰囲気で加熱および還元し、還元鉄とする。固体還元炉は、塊成化物を例えば1000〜1300℃程度まで加熱して塊成化物の還元処理を行い、還元鉄を製造する。製造された還元鉄は、溶解炉7に搬送される。溶解炉7では、固体還元炉6で製造された還元鉄を溶解し、溶銑を生成する。生成された溶銑は、脱硫/脱炭工程、二次精錬工程、連続鋳造工程、圧延工程等を経て、各種鉄鋼製品へと加工されることとなる。
【0036】
(マイクロ波を用いた乾燥方法の概略)
以上のような還元鉄の製造工程において、通常、乾燥炉5は、熱風を用いて塊成化物を乾燥させるトンネル状の炉が用いられる。この乾燥炉5の内部には、通常、ブリケット等の塊成化物が例えば高さ250mm程度となるまで装入され、炉内を網目状の金属コンベアで搬送される。搬送される個々の塊成化物は、還元炉や溶解炉の型式等によって様々な大きさのものがあるが、例えば10φ〜20φ程度の概球形状のものや、30φ〜50φ×厚み25mm程度の大きさであり、高さ250mm程度まで積層されることで、網目状コンベアには、約300kg/mの荷重がかかる。この搬送の過程で、熱風によって塊成化物中の水分が除去され、塊成化物の水分含有率が所望の値となるように制御される。また、先だって説明したように、塊成化物中に含まれる石炭成分の発火を防止するために、使用する熱風は約200℃以下とする制約がある。
【0037】
しかしながら、本発明者らが乾燥炉内の水分の残存状況を調査した結果、図2に模式的に示したように、上方からの熱風による乾燥では、塊成化物層の上層部位は乾燥するものの、下層部位(網目状コンベアに近い部位)では水分の残留量が大きく、下層部位の塊成化物は、乾燥不良となっていることが多いことが明らかとなった。このような要因のために、塊成化物の平均乾燥化率は歩留まりが低下することとなり、乾燥度合いを高めるために、乾燥時間を長くしなければならなくなる。
【0038】
そこで、本発明者らは、塊成化物層の下層部位を選択的に加熱する方法について鋭意検討を行った。かかる検討において懸案事項となった事象は、例えば以下のようなものである。
【0039】
すなわち、乾燥炉の床面は金属を用いた網目状のコンベアとなっているため、単にコンベアの下方からマイクロ波を照射した場合には、照射したマイクロ波がコンベアで反射されてしまい、塊成化物を加熱することはできない。また、コンベアの材質を、例えばテフロン(登録商標)やナイロンのようにマイクロ波の吸収が少ない材質に変更することも考えられるが、このような材質は金属網ベルトに比べて高価であり、設備費用が高額になるとともに、約300kg/mという荷重に耐えることができない。また、マイクロ波を上方から照射する場合であっても、塊成化物層の上下を乾燥炉内で反転させることで以前は下層に位置していた塊成化物を加熱することができるかもしれないが、このような上下反転を実施してしまうと、塊成化物が互いに衝突することにより砕けてしまい、塊成化物が粉化してしまうという問題が生じうる。
【0040】
従って、塊成化物のようなある程度の硬度を有している被乾燥体が炉内を動いている(すなわち、被乾燥体が静止していない)状況下において塊成化物を十分に乾燥させるために、例えばkWクラスの高出力のマイクロ波を、マイクロ波照射部材の耐摩耗性等を維持しながら効率良く塊成化物の下層部位に対して照射することが可能な方法を検討する必要があった。
【0041】
その結果、図3に模式的に示したように、塊成化物層の下層部位に対して網目状コンベアを介さずにマイクロ波を供給することによって、マイクロ波加熱により下層に位置する塊成化物を選択的に加熱することが可能な4種類の方法に想到した。
【0042】
図3に模式的に示したような乾燥方法を用いることにより、塊成化物層の下層部位の乾燥進行を改善し、塊成化物の平均乾燥化率を向上させ、乾燥時間の短縮を図ることが可能となり、ひいては、乾燥工程の生産性を向上させることができる。
【0043】
本発明の実施形態に係るマイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法について説明するに先立ち、本発明者らによるマイクロ波加熱を利用した塊成化物の乾燥方法に対する各種の検討結果について、図4及び図5を参照しながら、具体的に説明する。
【0044】
<マイクロ波による加熱が及ぶ範囲についての検討>
本発明者らは、マイクロ波による加熱が及ぶ範囲について検討するために、以下のような実験を行った。図4は、塊成化物(ブリケット)に対してマイクロ波を上方から照射した場合について、マイクロ波加熱が及ぶ範囲を検証するための実験装置を模式的に示したものである。
【0045】
図4に示したように、本発明者らは、金属製の容器に40φ×20mm程度の未乾燥ブリケット(実際の操業で用いられるもの)を積層し、チャンバー内に配置した。この際、金属製容器の略中央部分に位置するブリケットに熱電対を挿入するとともに、それぞれの層と層との間(例えば、図4下図における層A−層B間、層B−層C間・・・等)にも熱電対を設置し、温度上昇の様子をモニターできるようにした。その上で、2.45GHzのマイクロ波を照射可能な3.0kWマイクロ波発振機と、チャンバーへの入射マイクロ波出力と反射マイクロ波出力とを計測可能なパワーモニタと、反射マイクロ波を低減させるための自動整合器とを導波管で接続し、自動整合器から出力されるマイクロ波を、導波管を介してチャンバーの上方から照射した。この実験において、マイクロ波の入射電力は600Wであり、マイクロ波の照射時間は60秒とした。
【0046】
その結果、図4下図に示した層Aに位置するブリケットに挿入した熱電対、及び、層A−層B間に挿入した熱電対では、明らかな温度上昇が確認され、層Bに位置するブリケットでも、層Aに位置するブリケット程ではないものの温度上昇が確認された。しかしながら、層Cよりも下層に位置するブリケットでは、温度上昇が確認できなかった。この実験結果は、塊成化物の上方からマイクロ波を照射した場合には、マイクロ波による加熱が及ぶ範囲は、せいぜい最表層から2層目までであることを示している。
【0047】
ところで、物質に吸収される単位体積あたりのマイクロ波のエネルギーPabsは、以下の式11のように表される。以下の式11を参照するとわかるように、加熱される物質(被加熱物質)に吸収される単位体積あたりのマイクロ波のエネルギーPabsは、被加熱物質の導電率、誘電率及び透磁率に依存していることがわかる。従って、下記式11で表されるPabsは、被加熱物質のマイクロ波の吸収効率に関係する量であるともいえる。
【0048】
【数1】

【0049】
ここで、上記式11において、
σ :被加熱物質の導電率 [S/m]
f :マイクロ波の周波数 [Hz]
ε:真空中の誘電率 [F/m]
ε”:被加熱物質の比誘電率の虚数部
μ:真空中の透磁率 [H/m]
μ”:被加熱物質の比透磁率の虚数部
E :マイクロ波により形成される電界強度 [V/m]
H :マイクロ波により形成される磁界強度 [A/m]
π :円周率
である。
【0050】
以下に、塊成化物の原料となる酸化鉄及び炭素材(還元材)と、一般的に使用される耐火炉材とについて、比誘電率の虚数部ε”の値をまとめて示す。
【0051】
比誘電率の虚数部ε”
・代表的な耐火炉材であるアルミナ:0.004〜0.01
・粉状の炭素粉:10〜50
・酸化鉄:0.1〜10
【0052】
上記より明らかなように、塊成化物の原料となる酸化鉄及び炭素材は、乾燥炉等において一般的に使用される耐火炉材に対して比誘電率の虚数部ε”の値が大きく、酸化物及び炭素材(還元材)にマイクロ波のエネルギーをより多く吸収させることが可能である。また、酸化鉄及び炭素粉の値に比べ、代表的な耐火炉材であるアルミナの値は、1000分の1程度の小さな値となっており、耐火炉材は、マイクロ波のエネルギーを多く吸収しないことがわかる。従って、塊成化物が挿入された炉内でマイクロ波を照射した場合、耐火炉材で被覆されている炉壁等へのエネルギー供給は少なく、炉内温度の上昇を抑制したまま原料である塊成化物の温度のみを、効率よく上昇させることが可能となる。
【0053】
しかしながら、まさに上記で説明したような特徴により、図4に示したようなマイクロ波を炉内の自由空間に照射するという実験状況では、上方から照射されたマイクロ波が上層部位に位置する塊成化物に非常に良く吸収されてしまい、乾燥促進のために熱供給を必要とする下層部位にマイクロ波が浸透しないと考えられる。従って、本発明者らは、従来のように、炉天井部や側壁や炉底面から炉内の空間に向かってマイクロ波を照射した場合には、下層部位に位置する塊成化物を加熱することはできないと判断した。
【0054】
ところで、マイクロ波が誘電損失により物質に吸収されると、マイクロ波のエネルギーは熱に変換されて、結果的にマイクロ波を吸収した物質が加熱されることとなる。この際、マイクロ波がどのくらいまで物質の内部に浸透するかは、以下の式12で算出することが可能である。
【0055】
【数2】

【0056】
ここで、上記式12において、
δ :マイクロ波の浸透深さ [cm]
λ :自由空間におけるマイクロ波の波長 [cm]
ε’ :物質の比誘電率(実部)
tan δ:物質の誘電正接
である。
また、tan δは、物質の誘電率ε’及び誘電損失係数ε”を用いて、(ε’/ε”)で算出することが可能である。
【0057】
本発明者らによる更なる実験の結果、ブリケットは30φ〜50φ×厚み25mmの塊状であり、各ブリケットの間に空隙を持っていること、及び、搬送中のブリケットでは各ブリケットの間の空隙の状態が変化するため、マイクロ波加熱範囲が拡大し、上記式12で求めた浸透深さδの10倍までの範囲が実効的な加熱範囲(以下、δeffとも表記する。)であることが明らかとなった。ブリケットの物性値から上記浸透深さδを算出すると、その大きさは、約1cm程度となるため、マイクロ波加熱による実効的な加熱範囲δeffは、約10cm程度となる。従って、側面からのマイクロ波照射では、操業で用いられる幅2〜2.5m程度、搬送距離20〜30m程度の乾燥炉の下層部全体を加熱することは出来ないことも明らかとなった。
【0058】
そこで、本発明者らは、上記のような実験により得られた知見に基づいて更なる検討を行った結果、乾燥炉の下層部位全体を加熱することが可能なマイクロ波の照射方法に想到し、以下で説明するようなマイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法に想到したのである。
【0059】
図5は、塊成化物の乾燥後の水分量(%)と塊成化物の圧潰強度との関係を模式的に示したグラフ図である。塊成化物を製造するにあたっては、コーンスターチ等のデンプン系糊剤をバインダーとして使用し、求められる強度を実現するが、デンプン系糊剤は、図5に例示したように乾燥する程強度が高くなる。そのため、以下で説明するような方法により塊成化物全体の乾燥率を向上させることによって、バインダー量を変更することなく、塊成化物の圧潰強度を上昇させることができる。その結果、搬送中に砕けて使用できなくなる塊成化物の量を減少させることができ、歩留まりの向上を図ることができる。また、乾燥率を向上させることで、同じ強度を得るために添加すべきバインダーの量を減少させることが可能であるため、製造コストの削減を図ることも可能となる。
【0060】
(使用するマイクロ波について)
続いて、本発明の実施形態に係るマイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法に用いられるマイクロ波について、簡単に説明する。
【0061】
マイクロ波は、一般的には、波長1mm〜1m、周波数300MHz〜300GHzの電磁波をいう。しかしながら、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法で着目しているように、マイクロ波を加熱手段として用いる(いわゆるマイクロ波加熱を行う)場合には、マイクロ波とは、いわゆるISM(Industry−Science−Medical)バンドに属する周波数帯域の電磁波を指す。
【0062】
以下で説明する本発明の実施形態では、IMSバンドに属する周波数を有する電磁波であれば特に限定されず、例えば、2.45GHz帯(2.40GHz〜2.50GHz)、5.8GHz帯(5.725GHz〜5.875GHz)、及び、24GHz帯(24.0GHz〜24.25GHz)に属する周波数等を適宜選択することが可能である。しかしながら、マイクロ波の被加熱物内部への浸透は、上記式12で表わされるようにマイクロ波の波長に比例するため、上記ISMバンドのマイクロ波では、2.45GHz帯の浸透深さδが一番大きく、したがって数少ない同軸アンテナあるいは導波管の本数、乾燥炉全幅にわたって原料ブリケットの加熱を行うことができる。また、2.45GHzは電子レンジやその他のマイクロ波加熱応用に広く用いられており装置が安価である点や、発振機1台で数十kWまでの大出力の放射が可能である点などから、kWクラスの大出力が求められる本発明の設備コストとしても、他の2種の周波数の装置よりも安価に導入することができる。このため、本発明に用いるISMバンドのマイクロ波装置としては、2.45GHzのマイクロ波を発振可能なものが好ましい。
【0063】
(第1の実施形態)
続いて、図6〜図12を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波乾燥装置及びマイクロ波乾燥方法について、詳細に説明する。
【0064】
<マイクロ波乾燥装置の構成について>
まず、図6を参照しながら、本実施形態に係るマイクロ波乾燥装置の構成について、詳細に説明する。図6は、本実施形態に係るマイクロ波乾燥装置の構成を説明するための説明図である。
【0065】
本実施形態に係るマイクロ波乾燥装置10は、粉体又は小塊状の原料を網目状コンベアで搬送する過程で、この原料の上方から熱風を吹き付けて当該熱風を原料の上方から下方へと通過させることにより、原料中に含まれる水分を低減させる熱風式のトンネル乾燥炉に対して利用されるものである。
【0066】
本実施形態に係るマイクロ波乾燥装置10は、図6に示したように、マイクロ波発振機101と、サーキュレータ103と、自動整合器107と、マイクロ波照射部材109と、を主に備え、これらの機器が導波管111により接続されている。なお、図6では、導マイクロ波照射部材109や導波管111等といった各部材を支持する支持機構は、図示していない。
【0067】
マイクロ波発振機101は、例えばISMバンドに属する周波数を有するマイクロ波を発振する機器である。このマイクロ波発振機101は、kWクラスの出力を有するマイクロ波を発振可能な機器であることが好ましい。このマイクロ波発振機101により、例えば2.45GHz帯に属する周波数のマイクロ波が、後述するサーキュレータ103へと出力されることとなる。このマイクロ波発振機101は、公知のものを適宜選択して使用することが可能である。
【0068】
サーキュレータ103は、例えば磁石を利用したマイクロ波の進行制御を行うことで、サーキュレータ103に入力されるマイクロ波を、マイクロ波発振機101から出力された入射波と、後述する自動整合器107側から戻ってきた反射波とに分離する。サーキュレータ103は、分離した入射マイクロ波を後述する自動整合器107側へと導波するとともに、反射マイクロ波を、アイソレータ105の側へと導波する。これにより、反射マイクロ波は、アイソレータ105内に設けられたダミー負荷(例えば、水など)に吸収され、マイクロ波発振機101側に戻らないようにすることができる。このようなサーキュレータ103を設けることにより、本実施形態に係るマイクロ波乾燥装置10では、安定したマイクロ波の出力を行うことができる。このサーキュレータ103は、公知のものを適宜選択して使用することが可能である。
【0069】
自動整合器107は、入射側のインピーダンスと、負荷側(すなわち、塊成化物からなる原料層側)のインピーダンスとの整合を取ることで負荷側からの反射波を低減し、反射波をほぼゼロとする機器である。この自動整合器107は、反射電界の位相及び強度を測定し、インピーダンス整合を自動で行うことで、上記のような反射波の低減を実現する。
【0070】
本実施形態に係るマイクロ波乾燥装置10の乾燥対象は、乾燥炉5内を搬送されている塊成化物等の小塊原料である。そのため、移動している小塊原料と後述するマイクロ波照射部材109との接触状況は絶えず変化し、負荷側のインピーダンスが変動するため、マイクロ波の照射効率は変動することとなる。自動整合器107を設けて負荷側のインピーダンスにあわせた自動整合処理を実現することで、後述するマイクロ波照射部材109から、マイクロ波エネルギーを、安定して効率良く原料層に照射することが可能となる。
【0071】
マイクロ波照射部材109は、熱風式の乾燥炉5において塊成化物からなる原料層の下層部位を選択的に加熱するために、マイクロ波を原料層の下層部位へと照射する部材である。このマイクロ波照射部材109の構成については、以下で改めて詳細に説明する。
【0072】
導波管111は、マイクロ波を導波して所望の箇所へと導く管である。この導波管111の形状については、マイクロ波の導波特性等を考慮して適宜決定すればよく、導波管111自体についても、使用するマイクロ波の周波数や出力強度等に応じて、公知のものを適宜選択することができる。
【0073】
<マイクロ波照射部材の構成について>
次に、図7〜図12を参照しながら、本実施形態に係るマイクロ波照射部材の構成について、詳細に説明する。図7〜図12は、本実施形態に係るマイクロ波照射部材について示した説明図である。
【0074】
図7に示したように、本実施形態では、マイクロ波照射部材109としてスリットアンテナ(スロットアンテナとも呼ばれる。)131を使用し、このスリットアンテナ131を、図7において紙面奥行き方向に搬送されている塊成化物からなる原料層に対して、網目状コンベアの直上近傍に位置する乾燥炉5の側壁から挿入する。また、図7では、スリットアンテナ131は、乾燥炉5を幅方向に貫通するように挿入した場合について図示しているが、スリットアンテナ131の乾燥炉幅方向の端部は、乾燥炉5を貫通していなくともよい。また、図7では、説明を分かり易くするために、乾燥炉5に挿入されるスリットアンテナ131のうちの1個のみを記載しているが、乾燥炉5には、複数個のスリットアンテナ131が乾燥炉5の側壁から挿入される。
【0075】
図8は、マイクロ波照射部材109として使用されるスリットアンテナ131の構成を説明するための説明図である。図8上段に示した図は、スリットアンテナ131を上方からみた場合の図であり、図8下段に示した図は、上段に示したスリットアンテナ131をA−A切断線で切断した場合の断面を模式的に示したものである。
【0076】
図8に示したように、本実施形態に係るスリットアンテナ131は、矩形状の金属管と、この金属管の上面に設けられた複数の開口部(スリット)133とを有している。開口部133は、互いに隣り合う開口部133との間の距離が金属管内部を伝播するマイクロ波の波長の半分の長さに対応するように、矩形状の金属管の上面に設けられている。金属管に設けられる開口部133の個数は、乾燥炉5の幅に応じて適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。また、開口部133の形状や大きさは、所望の周波数及び強度を有するマイクロ波を導波することが可能な形状及び大きさとなるように決定すればよい。
【0077】
また、スリットアンテナ131の乾燥炉幅方向の端部には、終端反射板(ターミネーション)135が設けられている。この終端反射板135は、マイクロ波帯域に属する電磁波を全反射させる部材である。終端反射板135の乾燥炉幅方向の設置位置を微調整することで、スリットアンテナ131の内部を伝播するマイクロ波の強度分布の山に対応する部分が開口部133の位置に適合するように調整を行うことができる。このような調整を行うことで、開口部133から放射されるマイクロ波の強度を最大化することができる。
【0078】
図7に示したように、スリットアンテナ131の開口部133が設けられた面には、塊成化物からなる原料層の重さが重畳することとなる。従って、スリットアンテナ131は、搬送中の塊成化物から受ける単位面あたりの荷重を考慮して、断面形状が荷重を受けて座屈変形しないような強度を有するように、銅(Cu)やアルミニウム(Al)や非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS)やこれらを含む合金等の各種金属を利用して製造される。
【0079】
乾燥炉5の原料層内部は、下層部位において約80℃以上の温度を有し、約100%に近い湿度を有する高温多湿状態にあり、このような状況下で塊成化物が移動している。そのため、スリットアンテナ131の内部に湿気が侵入することによるアーキングの発生を防止するとともに、スリットアンテナ131の内部への粉塵の侵入を防止するために、乾燥空気や乾燥窒素等の保護ガスをスリットアンテナ131の内部に導入して、スリットアンテナ131に正圧がかかっている状態とすることが好ましい。
【0080】
また、スリットアンテナ131の開口部133を保護するために、少なくとも開口部133の直上には、セラミックスカバー137が設けられることが好ましい。セラミックスカバー137は、スリットアンテナ131自体と同じ平面投影寸法を持ち、開口部133を含めて、スリットアンテナ131の上面全体を覆うものとするのが望ましい。
【0081】
セラミックスカバー137は、加熱源であるマイクロ波の吸収が少なく、高温多湿状態でも利用可能であり、塊成化物との接触に耐えうる強度、耐摩耗性、加工性を備える無機材料セラミックスを用いて形成される。セラミックスカバー137に用いられる無機材料セラミックスは、マイクロ波の吸収特性に関与する誘電損失係数ε”が、0.02未満であることが好ましい。誘電損失係数ε”を0.02未満とすることで、マイクロ波吸収による無機材料セラミックスの自己発熱を抑制することが可能となる。
【0082】
このような無機材料セラミックスの例として、アルミナ(Al)、窒化ケイ素(Si)、サイアロン(SiAlON、化学式:Si・Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)等がある。これらの無機材料セラミックスを単独で使用してセラミックスカバー137を製造してもよく、これらの無機材料セラミックスを混合してセラミックスカバー137を製造してもよい。
【0083】
本実施形態では、このようなスリットアンテナ131を、図9に示したように、スリットアンテナ131の長軸方向が乾燥炉幅方向と略平行となるように、乾燥炉の搬送方向にわたって複数配置する。この際、図9に示したように、各スリットアンテナ131は、網目状コンベアのほぼ直上に位置するように、乾燥炉5の側壁から挿入される。これにより、乾燥炉5中の塊成化物は、スリットアンテナ131を乗り越えるようにして搬送されることとなり、スリットアンテナ131を乗り越える間にマイクロ波によって加熱されることとなる。
【0084】
また、本実施形態では、複数のスリットアンテナ131全体の加熱範囲(すなわち、スリット開口部分)が、乾燥炉5の幅方向の略全体をカバーするように、スリットアンテナ131を設置する。
【0085】
この際、図9に示したように、スリットアンテナ131の開口部133の位置を、搬送方向で互いに隣り合うスリットアンテナ131間でずらして配置して、互いの加熱範囲を補完しあうようにする。
【0086】
複数のスリットアンテナの開口部が乾燥炉5の幅方向の略全体をカバーしない場合は、スリットアンテナから放射されるマイクロ波の加熱範囲が炉全幅に及ばず、炉の幅方向に対して塊成化原料の加熱ムラができるため、原料の乾燥ムラにつながって好ましくない。しかしながら、マイクロ波により加熱が行われた部分については、原料の乾燥が改善されるため、挿入した導波管の本数に応じて、原料全体としてみた平均値としての乾燥は改善される。
【0087】
また、乾燥炉の特性として炉幅方向における熱風乾燥の効率が異なる場合は、乾燥効率が劣位で塊成化原料の乾燥が遅れている部分にのみスリットアンテナの開口部を設け、マイクロ波を照射することも有効である。
【0088】
また、どのように各スリットアンテナ131を配置するかについては、図9に示した例に特に限定されるわけではなく、例えば、乾燥炉5の残留水分の偏り状況に関する知見等に基づき、この偏りを解消可能なようにスリットアンテナ131の配設位置を決定すればよい。
【0089】
ここで、図9では、スリットアンテナ131の長軸方向が乾燥炉5の幅方向と略平行となるようにスリットアンテナ131を配設する場合について示しているが、例えば図10に示したように、スリットアンテナ131を斜めに配設してもよい。このような配置を行うことで、各スリットアンテナ131が加熱可能な炉幅方向範囲を更に広げることが可能となり、より広範囲の塊成化物を加熱することができる。なお、図10では、スリットアンテナ131の長軸方向と乾燥炉幅方向とのなす角度(傾斜角度)が一定である場合について図示しているが、それぞれのスリットアンテナ131の傾斜角度が互いに異なるように、スリットアンテナ131を配設してもよい。
【0090】
乾燥炉5内を搬送される塊成化物がスリットアンテナ131を乗り越えやすくするために、例えば図11に示したように、スリットアンテナ131の側面に対して、テーパー部139aを設けたり、ローラー部139bを設けたりしてもよい。
【0091】
具体的には、図11上段に示したように、スリットアンテナ131の搬送方向上流側の側面に対して、当該搬送方向上流側に行くに従い高さが低くなるようなテーパー部139aを設けてもよい。また、図11下段に示したように、スリットアンテナ131の搬送方向上流側の側面に対して、当該搬送方向上流側に行くに従い高さが低くなるようなテーパー部を設け、このテーパー部に複数のローラーを設けてローラー部139bとしてもよい。このようなテーパー部139a又はローラー部139bを設けることで、塊成化物がスリットアンテナ131を乗り越えやすくなり、スリットアンテナ131による塊成化物の搬送抵抗を更に低減することが可能となる。また、スリットアンテナ131の搬送方向上流側の端部だけでなく、搬送方向下流側の端部に対しても上記テーパー部139aや、テーパー部に更にローラーを有するローラー部139bを設けてもよい。
【0092】
また、図12に示したように、網目状コンベアの直上付近だけでなく、網目状コンベアの上方に、網目状コンベア面から離隔するようなかたちで、スリットアンテナ131を配設してもよい。スリットアンテナ131を乾燥炉5の高さ方向に上下に配置することで、乾燥炉5内を搬送される原料層の様々な部位をマイクロ波により加熱することが可能となる。
【0093】
本実施形態は、マイクロ波を原料層の内部(下層部)で放射することにより、放射したマイクロ波エネルギーの大部分が放射点の周辺の原料に吸収され、原料の加熱に使用されるものであり、加熱のエネルギー効率の高い加熱方法である。
【0094】
以上、図6〜図12を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波乾燥装置10及びマイクロ波乾燥方法について、詳細に説明した。
【0095】
<第1の実施形態の変形例>
次に、図13A〜図14Bを参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について説明する。図13A〜図14Bは、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について説明するための説明図である。
【0096】
[スリットアンテナの原料層搬送方向の配設方法]
次に、図13A及び図13Bを参照しながら、本変形例に係るスリットアンテナの原料層搬送方向の配設方法について説明する。
【0097】
乾燥炉5の内部を搬送されている塊成化物原料が、本変形例に係るスリットアンテナ131一つから照射されるマイクロ波によって加熱される時間tは、スリットアンテナ131の幅(搬送方向の幅)をW[mm]とし、塊成化物の搬送速度をV[mm/sec]とした場合に、おおよそ(W/V)秒となる。
【0098】
一方、スリットアンテナを用いてマイクロ波を導波する場合、スリットアンテナ内部に複数の伝播モードが発生しないようにし、マイクロ波の伝送効率を維持するために、スリットアンテナの幅を導波するマイクロ波の波長未満とすることが多い。例えば、2.45GHzのマイクロ波を用いる場合、スリットアンテナの搬送方向の最大幅は、120mm程度の大きさとなる。従って、スリットアンテナ1本の最大幅が120mm程度である場合、通常の網目状コンベアの搬送速度を考慮すると、上記時間tは極めて短時間となる。
【0099】
このような短時間の間に塊成化物をマイクロ波によって十分に乾燥させるために、方策の一つとして、出力強度の大きなマイクロ波を利用することが考えられる。しかしながら、スリットアンテナの上部に存在し、マイクロ波によって加熱される塊成化物は、塊成化物の位置により加熱の大小に差が生じるため、必ずしも均一に加熱されるわけではない。また、大出力のマイクロ波を用い短時間での乾燥を得ようとする場合には、一部の塊成化物が過剰加熱され、塊成化物に含まれる揮発成分が発火してしまう可能性がある。そのため、塊成化物をマイクロ波によって十分に乾燥させるためには、塊成化物が過剰加熱しない程度の出力を有するマイクロ波を利用し、マイクロ波の作用時間を長くすることで、乾燥の促進を図ることが重要となる。
【0100】
そこで、本変形例では、例えば図13A及び図13Bに示したように、原料層の搬送方向にスリットアンテナ131の加熱範囲が連続するように、スリットアンテナ131を原料層の搬送方向に並べて配設する。このようなスリットアンテナの配設方法を採用することで、マイクロ波が照射されている区間を長くすることができ、ひいては、塊成化物へのマイクロ波の作用時間を長くすることが可能となる。
【0101】
ここで、スリットアンテナ131の搬送方向の配列方法は、搬送方向に隣り合う互いのスリットアンテナ131の加熱範囲が連続するようにすれば、特に限定されるものではなく、隣り合うスリットアンテナ131が互いに接触していてもよいし、離隔していてもよい。なお、隣り合うスリットアンテナ131を離隔して配置する場合には、隣り合うスリットアンテナ131の間の空間に塊成化物が詰らないように、カバー等を設けることが好ましい。
【0102】
また、図13A及び図13Bでは、2つのスリットアンテナ131を搬送方向に連続して配設する場合について図示しているが、搬送方向に3個以上のスリットアンテナ131を連続して配設してもよいことは言うまでもない。
【0103】
[搬送方向の振動緩和機構]
次に、図14A及び図14Bを参照しながら、塊成化物の搬送に伴ってスリットアンテナ131に発生する振動を緩和するための技術について説明する。
【0104】
本発明の第1の実施形態とその変形例に係るマイクロ波乾燥装置10では、塊成化物を網目状コンベア上に積層して原料層とした上で搬送しながら、原料層の上部から下部に向かって熱風を通過させることで塊成化物を乾燥させる乾燥炉に対して、乾燥炉の側壁からスリットアンテナ131を挿入し、原料層下層部に対してマイクロ波を照射することで、該当する部位の乾燥を促進させる装置である。
【0105】
この際、乾燥炉5の側壁から挿入しているスリットアンテナ131には、塊成化物の搬送に伴って変動する応力が働く。スリットアンテナ131に作用する応力が変動する理由としては、網目状コンベアによる搬送速度が一定ではなくわずかながら変動すること、塊成化物の密度が厳密には均一ではないため、スリットアンテナ131に接触する塊成化物の状態が搬送に伴って時々刻々と変化すること、等が考えられる。このような変動する応力がスリットアンテナ131に作用すると、スリットアンテナ131には原料層搬送方向の振動が生じることとなる。このような状況下でスリットアンテナの長期使用を考えた場合、かかる振動が導波管111やスリットアンテナ131の疲労破壊の原因となることが懸念される。
【0106】
そこで、本変形例に係るマイクロ波乾燥装置10では、スリットアンテナ131に接続されている導波管111に対して、塊成化物の搬送に伴って発生する振動を緩和する振動緩和機構を設置する。このような振動緩和機構としては、以下の2種類の機構を挙げることができる。
【0107】
第1の振動緩和機構として、マイクロ波発振機101で発生したマイクロ波を導波する導波管111に、振動を緩和する機構を備える導波管を設けることが挙げられる。
【0108】
振動を緩和する機構を備える導波管としては、例えば、導波管の中心軸方向のスライドを可能にするスライド機構を有する導波管(以下、スライド導波管と称する。)や、マイクロ波を導波可能な金属材(より好ましくは、導波管と同様の金属材)により形成された蛇腹部を有する導波管(以下、フレキシブル導波管と称する。)等を挙げることができる。
【0109】
スライド導波管は、スライド機構を有することで、導波管の中心軸方向の伸縮が可能となるため、導波管の中心軸方向と略平行な振動を緩和することができる。また、フレキシブル導波管は、金属製の蛇腹部を有することで、導波管の中心軸方向に対して略直交する方向に湾曲することが可能となるため、導波管の中心軸方向に対して略直交する方向の振動を緩和することが可能となる。
【0110】
また、第2の振動緩和機構として、マイクロ波照射部材であるスリットアンテナ131を支持する支持体の一部に弾性部材を設けることが挙げられる。バネ機構やゴム製部材等といった弾性部材を支持体の一部に設けることで、支持体が支持するスリットアンテナ131に発生する振動を弾性部材によって緩和することが可能となる。
【0111】
以上説明したような振動緩和機構を設けることで、塊成化物の搬送に伴って発生する振動を緩和することが可能となり、導波管111やスリットアンテナ131が疲労破壊することを防止することができる。
【0112】
図14Aは、導波管111に対して、第1の振動緩和機構としてフレキシブル導波管161を設置した例を示している。
【0113】
図14Aに示した例では、マイクロ波発振機101、サーキュレータ103、自動整合器107等といったマイクロ波発振機構から延設された導波管111のうち、鉛直方向に延びる導波管の一部に、フレキシブル導波管161が設置されている。フレキシブル導波管161は、上記のように、導波管の軸方向に対して略直交する方向の振動を緩和するものであるため、図14Aに示したように、乾燥炉5へと挿入するために略鉛直方向に設けられる導波管111の一部に設置されることが好ましい。
【0114】
図14Bは、図14Aに示したフレキシブル導波管161に代えて、スライド導波管169を設置した例を示している。また、図14Bでは、第2の振動緩和機構として支持体163の一部に例えばバネ機構からなる弾性部材165を設けた例を示している。
【0115】
スライド導波管169は、上記のように、導波管の軸方向の振動を緩和するものであるため、図14Bに示したように、略水平方向に延設される導波管111の一部に設置されることが好ましい。
【0116】
また、図14Bでは、スリットアンテナ131を支持し、水平方向に延設される支持体163の一部に、バネ機構からなる弾性部材165が設けられている。バネ機構は、バネがバネの中心軸方向に伸縮することで応力を緩和する機構である。
【0117】
図14A及び図14Bに示したように、マイクロ波発振機構や支持体163の末端は、壁等の強固な部材に固定されている。その上で、上記のようなフレキシブル導波管161又はスリット導波管169や弾性部材165を設置することで、フレキシブル導波管161又はスリット導波管169より下流側かつ弾性部材165よりも前方に位置するスリットアンテナ131が構造的に分離され、ある程度自由に動くことが可能となる。なお、スリットアンテナ131の乾燥炉5への挿入部分には、スリットアンテナ131のある程度の動きを許容しつつ、乾燥炉5の気密を維持するための埋め込み材を設けておくことが好ましい。
【0118】
なお、図14A及び図14Bでは、一つの導波管111に対してフレキシブル導波管161又はスライド導波管169の一方を配設する場合について図示しているが、フレキシブル導波管161とスライド導波管169を併用しても良い。また、図14A及び図14Bでは、フレキシブル導波管161、弾性部材165、スライド導波管169を一つ用いる場合について図示しているが、これらの部材を一つの導波管111やスリットアンテナ131に対して複数設置してもよい。
【0119】
また、図14Aでは、図示の便宜上、支持体163及び弾性部材165を図示していないが、フレキシブル導波管161に加えて支持体163及び弾性部材165を利用してもよいことは言うまでもない。逆に、図14Bでは、スライド導波管169と、弾性部材165と、を併用する場合について図示しているが、塊成化物の搬送速度等によっては、弾性部材165を用いずに、フレキシブル導波管161又はスライド導波管169のみを配設するようにしてもよい。
【0120】
なお、図14A及び図14Bでは、変動する応力を受けるスリットアンテナを構造的に分離するための機構について説明したが、マイクロ波発振機構を含むスリットアンテナ131全体を可動式にして、振動を緩和するようにすることも考えられる。
【0121】
以上、図13A〜図14Bを参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波照射部材の変形例について説明した。
【0122】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0123】
10 マイクロ波乾燥装置
101 マイクロ波発振機
103 サーキュレータ
105 アイソレータ
107 自動整合器
109 マイクロ波照射部材
131 スリットアンテナ
133 開口部
135 終端反射板
137 セラミックスカバー
139a テーパー部
139b ローラー部
161 フレキシブル導波管
163 支持体
165 弾性部材
167 埋め込み材
169 スライド導波管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被乾燥物をコンベアにより搬送する際に当該被乾燥物に対して熱風を吹き付けることで前記被乾燥物に含まれる水分を低減させる熱風式の乾燥炉に対して設置されるマイクロ波乾燥装置であって、
前記被乾燥物を乾燥させるために用いられるマイクロ波を発振するマイクロ波発振機と、
前記コンベアの直上に設けられ、前記マイクロ波を導波する導波管の上面に複数の開口部を有し、当該複数の開口部それぞれから前記被乾燥物に対して前記マイクロ波を照射する複数のスリットアンテナと、
を備え、
前記複数のスリットアンテナの前記開口部が前記乾燥炉の炉幅方向全体を覆うように、前記複数のスリットアンテナが前記被乾燥物の搬送方向に配置される
ことを特徴とする、マイクロ波乾燥装置。
【請求項2】
前記スリットアンテナは、当該スリットアンテナの直軸方向が前記乾燥炉幅方向に対して平行になるように配置される
ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項3】
前記スリットアンテナは、当該スリットアンテナの直軸方向が前記乾燥炉幅方向に対して斜めになるように配置される
ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項4】
前記スリットアンテナの少なくとも前記開口部の部分に、誘電損失係数が0.02未満である無機材料セラミックスで形成されたセラミックスカバーが設けられる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項5】
前記スリットアンテナに対して、前記被乾燥物の搬送に伴って発生する振動を緩和する振動緩和機構を設ける
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項6】
前記振動緩和機構として、前記スリットアンテナと前記マイクロ波発振機との間に、軸方向のスライドを可能にするスライド機構を有するスライド導波管、又は、金属製の蛇腹部を有するフレキシブル導波管の少なくとも何れか一方を配設する
ことを特徴とする、請求項5に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項7】
前記振動緩和機構として、前記スリットアンテナを支持する支持体の一部に、弾性部材を設ける
ことを特徴とする、請求項5又は6に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項8】
前記スリットアンテナを、前記搬送方向に前記加熱範囲が連続するように当該搬送方向に並べて配設する
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項9】
前記スリットアンテナの内部には防塵ガスが導入されており、前記スリットアンテナの内部に正圧がかかった状態となっている
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項10】
前記スリットアンテナの前記搬送方向上流側の端部に、当該搬送方向上流側に向かうほど高さが低くなるテーパー部が設けられる
ことを特徴とする、請求項1〜9の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項11】
前記テーパー部に対し、1又は複数のローラーが更に設けられる
ことを特徴とする、請求項10の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項12】
前記マイクロ波発振機と前記複数のスリットアンテナとの間に、前記マイクロ波発振機から発振された前記マイクロ波のインピーダンスと、前記乾燥炉内で反射し前記マイクロ波発振機に向かう前記マイクロ波のインピーダンスとの整合を行う自動整合器を更に備える
ことを特徴とする、請求項1〜11の何れか1項に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項13】
前記無機材料セラミックスは、アルミナ、窒化ケイ素、サイアロン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及びこれらの混合物からなる群より選択される
ことを特徴とする、請求項4に記載のマイクロ波乾燥装置。
【請求項14】
被乾燥物をコンベアにより搬送する際に当該被乾燥物に対して熱風を吹き付けることで前記被乾燥物に含まれる水分を低減させる熱風式の乾燥炉に対して実施されるマイクロ波乾燥方法であって、
前記被乾燥物を乾燥させるために用いられるマイクロ波を発振させ、
前記コンベアの直上に設けられ、前記マイクロ波を導波する導波管の上面に複数の開口部を有し、当該複数の開口部から前記マイクロ波を照射する複数のスリットアンテナのそれぞれから、前記被乾燥物に対して前記マイクロ波を照射するものであり、
前記複数のスリットアンテナの前記開口部が前記乾燥炉の炉幅方向全体を覆うように、前記複数のスリットアンテナが前記被乾燥物の搬送方向に配置される
ことを特徴とする、マイクロ波乾燥方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【公開番号】特開2013−76561(P2013−76561A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202810(P2012−202810)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】