説明

マイクロ流体デバイス

【課題】気泡が発生し難く、熱交換が効率的に実施できる反応チャンバを有し、反応チャンバ配設部品を交換することにより反応チャンバの容量を簡単に変更することができるマイクロ流体デバイスの提供。
【解決手段】上部硬質基板3と、メンブレン層5と、台座基板6と、開口部を有する凹陥部が形成された少なくとも1個の支持カップ基板とからなり、前記上部硬質基板には流体を出し入れするための少なくとも1個の入出力ポートが該基板を貫通して配設されており、かつ、該基板の下面側には、前記入出力ポートに連通する1本の送液流路用の溝が配設されており、前記メンブレン層は前記入出力ポートの底部及び送液流路用の溝の底部を遮蔽するように前記上部硬質基板の下面側に部分的に接着されているマイクロ流体デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ流体デバイスに関する。更に詳細には、本発明はPCR法によりDNA断片を増幅するのに適したマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロ・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロ流体デバイス」と呼ばれる。
【0003】
マイクロ流体デバイスは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロ流体デバイスは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
従来のマイクロ流体デバイス100は、例えば、図15(A)及び(B)に示されるように、合成樹脂などの材料からなる上面基板102に少なくとも1本のマイクロチャネル(送液流路)104が形成されており、このマイクロチャネル104の少なくとも一端には入出力ポートとなるべきポート105,106が形成されており、基板102の下面側に透明又は不透明な素材(例えば、ガラス又は合成樹脂フィルム)からなる下面基板108が接着されている。この下面基板108の存在により、ポート105,106及びマイクロチャネル104の底部が封止される。図15(A)及び(B)に示されるようなマイクロ流体デバイスの材質や構造及び製造方法は例えば、特許文献1及び特許文献2などに提案されている。
【0005】
マイクロ流体デバイスのマイクロチャネルやポートなどの微細構造内で行われる化学的な操作の中には、対象となる物質の温度が重要な要素となる場合があり、必要に応じて加熱や冷却の手段を講じることになる。例えば、化学反応を促進するために、室温より高い温度に加熱したり、あるいは検体溶液や試薬を安定的に一時保存するために、室温より低い温度に冷却することが頻繁に行われる。マイクロ流体デバイスの分野においても、微細構造内に導入した微量流体に対して加熱や冷却を行う必要性があり、各種の加熱冷却方法が検討されている。
【0006】
化学的操作と同時に、マイクロ流体デバイス内の微量流体を移送する必要がある。すなわち、入力ポートに分注したある量の流体を入力ポートから反応室に移送したり、一つの反応室から別の反応室に移送したり、また、反応室から検出部などに移送したりする必要がある。マイクロ流体デバイスを高密度・高集積化し、より複合的で高度な操作を行うようにした場合、多種多様な工程が必要になり、微量流体を適切に移送する必要性がますます高まってくる。よって、加熱冷却の操作と同時に微量流体の移送を十分に考慮した方法が望まれる。
【0007】
流体に対する加熱冷却の操作とその移送の問題を議論する上で、具体的な例の一つとしてPCRを挙げることができる。以下の説明では、PCRを対象とする操作として議論する。
【0008】
PCRとは「Polymerase Chain Reaction」の略であり、「酵素連鎖反応」等と訳され、DNA断片の増幅を行う分子生物学上の重要な技術である。PCRは適切に調合したPCR溶液に3段階の温度サイクルを与えることにより行われる反応である。場合によっては、2段階の温度サイクルで行えるPCR試薬もあるが、以下の説明では、一般的な3段階の温度サイクルを行うことを前提にする。
【0009】
PCR溶液とは、(a)プライマー、(b)酵素、(c)鋳型DNAなどの混合水溶液であるが、ここではその調合方法などに関する説明は省略する。
【0010】
3段階の温度サイクルとは、(i)熱変性、(ii)アニーリング、(iii)伸長と呼ばれる異なった温度の状態を繰り返す操作で、それぞれ95℃近辺、55℃近辺、72℃近辺の温度が用いられる。各温度を維持する時間は、数十秒から数分である。サイクル数は30回前後が一般的である。この他に、サイクルの最初の熱変性を長い時間行ったり(初期熱変性)、サイクルの最後の伸長を長い時間行ったり(最終伸長)する場合がある。
【0011】
特許文献3には、溝構造によるPCR用の微細加工装置が記載されている。図3Aに示されるように、この装置では、基材14の表面に付着した透明なカバー12を有し、その上には注入ポート16とPCR反応チャンバ22に連結されたメソスケールのフロー・チャネル20が形成されており、基材14の下面側であって、PCR反応チャンバ22の位置に対応する位置に加熱要素57が配設されている。加熱要素57は基材14を通してPCR反応チャンバ22の底面側にしか熱を伝えられない。すなわち、伝熱面積が小さいために、熱交換の効率が悪い。また、伝熱面積が小さい場合、反応チャンバ内の温度ムラが生じやすい。すなわち、伝熱面積が小さいほど、加熱要素の近傍が高温になり、離れたところが低温になりやすい。更に、PCR反応チャンバ22を実装する際、加熱要素57に接する基材14の板厚が厚いと、熱交換の効率は更に悪くなるが、射出成型や機械加工において、注入ポート16やPCR反応チャンバ22などの凹部の底面を薄く加工することは技術的困難を伴う。熱交換の効率向上は温度昇降の応答速度を上げるために必要であり、PCR増幅作業時間の短縮と省エネルギーの観点からも解決すべき課題である。また、PCR反応チャンバ22は加工時にサイズ又は容量が決まっており、用途に応じて複数のサイズの反応チャンバが必要な場合は別デザインのマイクロ流体デバイスが必要になる。これは量産品であれば高価な金型が複数必要であることを意味し、コスト上昇をもたらす。量産品は同一形状で多数生産するほど単価が下がるため、同一のマイクロ流体デバイスで複数の用途に対応させることも課題になる。
【0012】
特許文献4の図23Aには、流体を入口マイクロチャネル1906から出口マイクロチャネル1908にポンプ送出するためのポンプ構造体1900が示されている。このポンプ構造体は、実質的に硬い上側メンブレン層1911と、実質的に硬い下側メンブレン層1910、上側基板層1914及び下側基板層1912を有する。しかし、この構造体では、メンブレンが硬質であるため、メンブレンが作動状態から弛緩状態に移行する時間が極めて短く、粘性を有する液体が入口マイクロチャネル1906から弛緩状態のメンブレンと基板間に導入されることにより応答遅延が生じ、一時的に陰圧状態になる。この陰圧状態により、例えば、メンブレン構造に接続されるバルブからのリーク、シリコーンゴム等のガス透過性が大きい基材内部あるいは基材を透過する気体若しくは液体の中に溶け込んでいた空気などが気泡となって発生する。マイクロ流体デバイス中の気泡はデバイスの動作不良の原因となるため、気泡が発生しない構造としなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−157855号公報
【特許文献2】米国特許第5965237号公報
【特許文献3】特許第3558294号公報
【特許文献4】特表2009−510337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、気泡が発生し難い反応チャンバを有し、反応チャンバ配設部品を交換することにより反応チャンバの容積を簡単に増減することができるマイクロ流体デバイスを提供することである。
本発明の別の目的は、気泡が発生し難く、熱交換が効率的に実施できる反応チャンバを有し、反応チャンバ配設部品を交換することにより反応チャンバの容積を簡単に増減することができるマイクロ流体デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は以下に記載する本発明のマイクロ流体デバイスにより解決される。
(1)上部硬質基板と、メンブレン層と、台座基板と、開口部を有する凹陥部が形成された少なくとも1個の支持カップ基板とからなり、
前記上部硬質基板には流体を出し入れするための少なくとも1個の入出力ポートが該基板を貫通して配設されており、かつ、該基板の下面側には、前記入出力ポートに連通する1本の送液流路用の溝が配設されており、
前記メンブレン層は前記入出力ポートの底部及び送液流路用の溝の底部を遮蔽するように前記上部硬質基板の下面側に部分的に接着されており、
前記支持カップ基板は、前記凹陥部の開口部が前記メンブレン層の下面側に密着し、前記送液流路用の溝の端部が前記凹陥部の周縁を越えて半径方向内方に位置し、かつ、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との非接着部が前記凹陥部の開口部に対応する位置に存在するように配置されており、
前記台座基板は前記メンブレン層の下面側に、前記支持カップ基板と分離されて配置されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
(2)前記上部硬質基板には流体を出し入れするための1個の第1の入出力ポートと、流体を出し入れするための1個以上の第2の入出力ポートとが該基板を貫通して配設されており、かつ、該基板の下面側には、前記第1の入出力ポートに連通する送液流路用の1本以上の上流溝と、前記上流溝と同じ本数の、前記各第2の入出力ポートに連通する下流溝が配設されており、前記支持カップ基板は前記上流溝の本数と同じ数の凹陥部を有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(3)前記支持カップ基板の凹陥部の周縁を越えて半径方向内方に位置する前記送液流路用の溝の端部のサイズが溝の他の部分のサイズよりも大きいことを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(4)前記支持カップ基板の凹陥部の開口部に対応する位置に存在する前記メンブレン層と前記上部硬質基板との非接着部の面積が前記凹陥部の開口部の面積以上であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(5)前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記凹陥部の底部には大気に連通する管路が更に配設されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(6)前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記支持カップ基板は多孔質材料から形成されており、部材の多孔性により前記凹陥部は大気に連通していることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(7)前記支持カップ基板は中空円筒状のシリンダと、該シリンダ内に挿入され、上端面が平面状のピストンとからなり、前記ピストンが前記シリンダ内を昇降することにより前記ピストンの上端面と前記シリンダの内壁面とにより凹陥部が画成されることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(8)前記支持カップ基板には加熱冷却装置及び温度センサが更に配設されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
(9)該温度センサは温度制御回路を介して前記加熱冷却装置に接続されていることを特徴とする請求項8記載のマイクロ流体デバイス。
(10)前記支持カップ基板は前記メンブレン層から着脱可能に配置されている請求項1〜9の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
(11)前記送液流路の途中に開閉バルブが更に配設されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
(12)前記開閉バルブは、前記送液流路を中断するように設けられた弁座と、該弁座の位置に対応して前記台座基板の上面に設けられた弁駆動用凹部とからなり、前記弁駆動用凹部の位置に対応する前記上部硬質基板と前記メンブレン層との界面には非接着部が存在することを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
(13)前記弁座の両側に位置する前記送液流路用の溝の端部のサイズが溝の他の部分のサイズよりも大きいことを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
(14)前記台座基板の弁駆動用凹部の開口部に対応する位置に存在する前記メンブレン層と前記上部硬質基板との非接着部の面積が前記弁駆動用凹部の開口部の面積以上であることを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
(15)前記弁駆動用凹部の底部には大気に連通する管路が更に配設されていることを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
(16)前記管路の端部は加圧・吸引手段に接続されていることを特徴とする請求項15記載のマイクロ流体デバイス。
(17)上部硬質基板と、メンブレン層と、表面上に所定の幅と深さと長さを有する1本以上の溝が配設された台座基板と、開口部を有する凹陥部と該凹陥部に連通する所定の幅と深さを有する1本以上の溝が上端面に形成された支持カップ基板とからなり、
前記上部硬質基板には流体を出し入れするための少なくとも1個の入出力ポートが該基板を貫通して配設されており、
前記メンブレン層は前記上部硬質基板の下面側に部分的に接着されており、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との界面には、前記入出力ポートの一端に接続する送液流路形成用の1個以上の第1の非接着部と、該送液流路形成用の非接着部に連続する所定面積を有する第2の非接着部とが存在し、
前記支持カップ基板は、前記凹陥部の開口部が前記メンブレン層の下面側に密着し、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との界面の第2の非接着部が前記凹陥部の開口部に対応する位置に存在し、かつ、支持カップ基板上端面の溝が前記送液流路形成用の第1の非接着部の長手方向位置と同じ位置になるように配置されており、
前記台座基板は、前記台座基板上面の溝の端部が前記入出力ポートの外方端に位置し、かつ、当該溝が前記送液流路形成用の第1の非接着部の長手方向位置と同じ位置になるように前記メンブレン層の下面側に、前記支持カップ基板と分離されて配置されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
(18)前記上部硬質基板には流体を出し入れするための1個の第1の入出力ポートと、流体を出し入れするための1個以上の第2の入出力ポートとが該基板を貫通して配設されており、かつ、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との界面には、前記第1の入出力ポートの一端に接続する上流側送液流路形成用の1個以上の第1の非接着部と、前記上流側送液流路形成用の第1の非接着部と同じ個数の、前記各第2の入出力ポートの一端に接続する下流側送液流路形成用の第3の非接着部が更に存在し、前記支持カップ基板は前記上流側送液流路形成用の第1の非接着部の個数と同じ数の凹陥部を有し、かつ、支持カップ基板上端面には前記第1の非接着部及び第3の非接着部の個数と同じ数の溝が形成されていることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
(19)前記第2の非接着部の面積が前記凹陥部の開口部の面積以上であることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
(20)前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記凹陥部の底部には大気に連通する管路が更に配設されていることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
(21)前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記支持カップ基板は多孔質材料から形成されており、部材の多孔性により前記凹陥部は大気に連通していることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
(22)前記支持カップ基板は中空円筒状のシリンダと、該シリンダ内に挿入され、上端面が平面状のピストンとからなり、前記ピストンが前記シリンダ内を昇降することにより前記ピストンの上端面と前記シリンダの内壁面とにより凹陥部が画成されることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
(23)前記支持カップ基板には加熱冷却装置及び温度センサが更に配設されていることを特徴とする請求項17〜22の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
(24)該温度センサは温度制御回路を介して前記加熱冷却装置に接続されていることを特徴とする請求項23記載のマイクロ流体デバイス。
(25)前記支持カップ基板は前記メンブレン層から着脱可能に配置されている請求項17〜24の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
(26)前記送液流路形成用の非接着部に対応する位置の前記台座基板の箇所に前記台座基板を貫通する貫通孔が穿設されており、該貫通孔内に昇降可能なピンが挿入されており、該ピンは前記送液流路形成用非接着部が膨隆されたときに創出される送液流路を開閉するための開閉装置として機能することを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
(27)PCR増幅用デバイスとして使用されることを特徴とする請求項1〜26の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマイクロ流体デバイスによれば、以下のような顕著な効果が得られる。
(1)メンブレン層が伸縮性を有するので、メンブレン層の開閉動作流体、特に液体を追従させることが容易であり、一時的な陰圧が生じ難いため、気泡が入り難いマイクロ流体デバイスを実現できる。流体の加熱・冷却時に体積変化が大きい気泡が反応チャンバ内に入り込むと分析や実験などの作業に多大な支障を来すので、気泡が入り難いというのは顕著な効果である。
(2)熱交換の効率が非常に優れている。これは送液の内圧はメンブレン層の機械的強度に加えて、メンブレン層と支持カップ基板の凹陥部との間の摩擦力で補強されるため、メンブレン層が薄くても破裂し難いためである。また、メンブレン層が支持カップ基板の凹陥部内壁面に密着し、隙間が無いので内壁面全てを熱交換に使用できる。例えば、凹陥部の形状を半球状に構成して半球面でメンブレン層と接する表面積は、同一の直径を持つ平面的な円で接する場合の2倍となり、より広い面積で接触させることができ、高効率で反応チャンバ内部の流体温度をコントロールできる。メンブレン層が薄く、接触面積も広いために、メンブレン層の熱伝導率が低くてもマイクロ流体デバイスを構成することが可能であり、デバイスを構成する素材に依存しないと言う点でコスト的にも有利である。
(3)支持カップ基板を交換することにより、マイクロ流体デバイスの寸法はそのままで、反応チャンバの容積を簡単に変更できる。これは支持カップ基板の凹陥部の大きさでメンブレン層の膨張体積(即ち、反応チャンバの容積)が規定されるためである。目的及び用途に応じて、所望の容積の凹陥部を有する支持カップ基板に変更すれば、量産品であるマイクロ流体デバイスの寸法自体は一定でも、相対的に生産台数が少ない装置側の部品を一部変更することで、反応チャンバの容積を変えられるマイクロ流体デバイスを実現できる。更に、支持カップ基板をシリンダとピストンから構成することにより、支持カップ基板を交換しなくても、反応チャンバの容積を任意に連続的に変化させることができる。
(4)支持カップ基板の凹陥部に形成される反応チャンバで液体を加熱する際、蒸発による反応チャンバ内の液体の濃縮(即ち、液量減少)が問題になる。入出力ポートから送液流路を介して加圧を継続する方法をとれば、蒸発等で液量が減少しても、液体は送液流路から反応チャンバに補充され、その結果、メンブレン層の膨張体積は変動せず、凹陥部とメンブレン層との間に隙間も生じない。このため、熱交換効率は常に高い値を維持できる。また、入出力ポートから加圧しながら加熱することにより液体の沸点が上昇し、液体の沸騰を防止できる。また、蒸発は気液界面で発生するが、本発明の反応チャンバは気泡が入り難いため、蒸発が発生する部位が少なくなる。更に、メンブレン層にシリコーンゴムのような水蒸気透過性が高い素材を用いたとしても、表面積の多くを支持カップが密着して覆うため、水蒸気が反応チャンバ外に抜け難く、蒸発が一層抑制される。そのため、本発明のマイクロ流体デバイスはDNA断片のPCR増幅用装置として極めて好適である。
(5)入出力ポート、送液流路、開閉バルブ及び反応チャンバ用凹陥部を有するので、本発明のマイクロ流体デバイスは流体制御装置としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの一例の平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った概要断面図である。
【図2】本発明のマイクロ流体デバイスの別の例の概要断面図である
【図3】本発明のマイクロ流体デバイスの使用状態の一例を示す概要断面図である。
【図4】図1〜図3に示された本発明のマイクロ流体デバイス1の動作を説明する部分拡大工程図である。
【図5】(A)は、本発明のマイクロ流体デバイス1で使用できる開閉バルブ23の一例の概要平面図であり、(B)は、図(A)におけるB−B線に沿った概要断面図であり、(C)は開閉バルブ23の開状態を示す概要断面図である。
【図6】(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った概要断面図であり、(C)は支持カップ基板7’の平面図であり、(D)は送液流路が形成された状態を示す概要断面図である。
【図7】図6に示されるマイクロ流体デバイス用の開閉バルブとして機能する昇降ピンが送液流路を閉塞する状態を示す概要断面図である。
【図8】本発明のマイクロ流体デバイスにおける温度制御方法の一例を示す概要ブロック図である。
【図9】(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った断面図である。
【図10】本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図である。
【図11】図10におけるA−A線に沿った断面図である。
【図12】図10におけるB−B線に沿った断面図である。
【図13】図10に示されたマイクロ流体デバイスの更に別の実施態様を示す概要断面図である。
【図14】(A)は支持カップ基板の別の実施態様を示す概要断面図であり、(B)は(A)に示された支持カップ基板の動作状態を示す概要断面図であり、(C)は更に別の実施態様の支持カップ基板の概要断面図である。
【図15】(A)は従来技術によるマイクロ流体デバイスの一例の概要平面図であり、(B)は(A)におけるB−B線に沿った概要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明のマイクロ流体デバイスの好ましい実施態様について詳細に説明する。図1(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの一例の平面図であり、(B)は(A)におけるB−B線に沿った概要断面図である。図2は本発明のマイクロ流体デバイスの別の例の概要断面図である。図3は本発明のマイクロ流体デバイス1の使用状態の一例を示す概要断面図である。図4は図1〜図3に示された本発明のマイクロ流体デバイス1の動作を説明する部分拡大工程図である。図5(A)は、本発明のマイクロ流体デバイス1で使用できる開閉バルブ23の一例の概要平面図であり、(B)は、(A)におけるB−B線に沿った概要断面図であり、(C)は開閉バルブ23の開状態を示す概要断面図である。図6(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った概要断面図であり、(C)は支持カップ基板7’の平面図であり、(D)は送液流路が形成された状態を示す概要断面図である。図7は図6に示されるマイクロ流体デバイス用の開閉バルブとして機能する昇降ピンが送液流路を閉塞する状態を示す概要断面図である。図8は本発明のマイクロ流体デバイスにおける温度制御方法の一例を示す概要ブロック図である。図9(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った断面図である。図10は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図である。図11は図10におけるA−A線に沿った断面図である。図12は図10におけるB−B線に沿った断面図である。図13は図10に示されたマイクロ流体デバイスの更に別の実施態様を示す概要断面図である。図14(A)は支持カップ基板の別の実施態様を示す概要断面図であり、(B)は図(A)に示された支持カップ基板の動作状態を示す概要断面図であり、(C)は更に別の実施態様の支持カップ基板の概要断面図である。
【0019】
図1(A)及び(B)に示されるように、本発明のマイクロ流体デバイス1は基本的に、上部硬質基板3と、伸縮性を有するメンブレン層5と、台座基板6と、支持カップ基板7とから構成されている。上部硬質基板3の所定箇所には液体類を出し入れするための入出力ポート11が配設されており、この入出力ポート11に連通する送液流路13が上部硬質基板3の下面側に配設されている。また、上部硬質基板3の下面側には伸縮性を有するメンブレン層5が接着されている。このメンブレン層5の存在により、入出力ポート11及び送液流路13の下部側は遮蔽され、非漏液構造にされる。支持カップ基板7の上面側には凹陥部15が配設されており、この凹陥部15の底部には管路17が配設されている。管路17の一端は大気に開放されている。しかし、必要に応じて管路17の一端に加圧/吸引手段(図示されていない)を接続することもできる。加圧/吸引手段は例えば、真空ポンプ、シリンジなどである。
【0020】
図2に示されるように、支持カップ基板7には、マイクロ流体デバイス1の使用目的及び用途(例えば、PCR用など)に応じて加熱冷却装置9を配設することもできる。加熱冷却装置9を配設する場合、温度制御用の温度センサ10も併せて配設することが好ましい。加熱冷却装置9としては、公知慣用の加熱冷却装置を使用できる。加熱源としては、電熱ヒータ、外部から加熱流体を導入するブロック、赤外線、電磁波などを使用できる。冷却源としては、冷却ファン、ヒートパイプによる冷却、外部から冷却流体を導入するブロックなどを使用できる。双方向性の加熱冷却装置としてペルチェ素子を使用することもできる。温度センサ自体は当業者に公知である。例えば、熱電対、サーミスタ、測温抵抗体などである。温度センサ10としてはサーミスタが好ましい。支持カップ基板7に加熱冷却装置9を配設する場合、支持カップ基板7における熱交換を阻害しないために、台座基板6と支持カップ基板7との間には隙間8を設けることが好ましい。
【0021】
本発明のマイクロ流体デバイス1では、用途及び目的に応じて凹陥部15の容積を変更することができるように、支持カップ基板7は着脱可能に構成されていることが好ましい。冷却加熱装置9は支持カップ基板7に着脱可能に構成することもできるし、あるいは接合又は内包して一体化することもできる。また、台座基板6はマイクロ流体デバイス1と一体的に接合することもできるし、又は着脱可能に構成することもできる。本発明のマイクロ流体デバイス1において重要なことは、支持カップ基板7の凹陥部15に対応する箇所のメンブレン層5が上部硬質基板3の下面側に対して非接着状態に維持されていること、及び送液流路13の他端が凹陥部15の端部を越えるように形成することである。図1及び2における符号16はメンブレン層5の非接着部分を示す。
【0022】
図3は本発明のマイクロ流体デバイス1の使用状態の一例を示す概要断面図である。本発明のマイクロ流体デバイス1を使用する場合、送液チューブ22が装着されたアダプター24を、上部硬質基板3の入出力ポート11の開口部からポート内に挿入し、液体供給源から所定の圧力で液体を入出力ポート11内に送入する。送液チューブ22は圧力(例えば、空気圧)を印加する目的にも使用できる。アダプター24を使用せず、送液チューブ22を直接入出力ポート11に接続しても液体の加圧送入及び空気圧の印加を実施できる場合もある。また、その他の公知慣用の加圧送入手段も使用できる。
【0023】
図4は図1〜図3に示された本発明のマイクロ流体デバイス1の動作を説明する部分拡大工程図である。先ず、ステップ(1)において、上部硬質基板3と、メンブレン層5とからなる積層体を、上部硬質基板3とメンブレン層5との非接着部16の位置と支持カップ基板7の凹陥部15との位置を合わせるように、適当な機械的手段(例えば、バネ、ネジ、クランプ等)(図示されていない)で支持カップ基板7に装着する。支持カップ基板7の凹陥部15に配設された管路17の端部は大気に開放した状態のままに維持する。その後、ステップ(2)において、入出力ポート11(図示されていない)から液体19を注入し、送液流路13に満たす。ステップ(3)において、入出力ポート11(図示されていない)から空気圧を印加すると、非接着部16のメンブレン層5が伸びて凹陥部15内に進入し、これに伴い液体19もメンブレン層5の非接着部の隙間に流れ込んでいく。ステップ(4)において、入出力ポート11(図示されていない)から空気圧を印加し続けると、流れ込んだ液体が反応チャンバを徐々に創成するようになる。ステップ(5)で、更に入出力ポート11(図示されていない)から空気圧を印加し続ける。ステップ(6)において、凹陥部15の内壁面全体にまでメンブレン層5が密着され、反応チャンバ21が完成された状態を維持しながら、所望の化学反応処理などを行う。図2に示されるような加熱冷却装置9を有する場合、加熱冷却装置で温度コントロールされた支持カップ基板7と反応チャンバ21内の液体19との間で熱交換を行い、液体を所定温度にまで加熱/冷却し、PCR増幅などに必要な熱サイクルを所定回数分だけ繰り返す。所望の化学反応処理又は所定のPCR増幅作業が完了したら、次いで、ステップ(7)において、入出力ポート11(図示されていない)からの空気圧の印加を停止すると、メンブレン層5の自己収縮力により、反応チャンバ21内の液体は送液流路13を介して入出力ポート11(図示されていない)に戻される。必要に応じて、管路17の端部から空気圧を印加し、反応チャンバ21内に残っている液体を強制的に入出力ポート11に戻すこともできる。メンブレン層5を膨張させて反応チャンバ21を形成するために、入出力ポート11から印加される空気圧は、使用されるメンブレン層5の伸び率や厚さに応じて変化するが、一般的に、10kPa〜200kPa程度である。この空気圧の印加により、反応チャンバ21内の液体の沸点が上昇する。例えば、ゲージ圧41.9kPaの沸点は110℃である。このため、加圧しながら熱交換すると、液体の蒸発を抑制でき、その結果、反応チャンバ21内の液体濃度を一定の範囲内に維持することができる。
【0024】
メンブレン層5が伸縮性を有するので、創成される反応チャンバ内の液体は陰圧にならず(すなわち、陽圧を維持できる)、気泡が発生又は混入し難い。また、反応チャンバを形成するメンブレン層5は凹陥部15の内壁面全体で支持されるので、膜厚が薄くても破れる恐れはない。むしろ、メンブレン層5が薄いことにより伝熱が阻害されず、熱交換に有利である。更に、凹陥部15の内壁面全体が熱交換に使用できるので、特許文献3の図3Aに示された従来技術の装置に比べて伝熱面積が著しく大きく、短時間で液体の加熱作業を終えることができ、作業効率が飛躍的に向上する。
【0025】
本発明のマイクロ流体デバイス1の利点は、上部硬質基板3の入出力ポート11及び送液流路13の配設位置のメンブレン層5の殆どが台座基板6によりカバーされるので、入出力ポート11から加圧しながら液体を送液流路13を介して支持カップ基板7の凹陥部15に送液できることである。この場合、凹陥部15の管路17から吸引を行う必要が無くなる。即ち、管路17を大気開放した状態で、入出力ポート11から加圧しながら液体を送液流路13を介して支持カップ基板7の凹陥部15に送液できる。台座基板6を使用せずに、入出力ポート11から加圧しながら液体を送液流路13を介して支持カップ基板7の凹陥部15に送液しようとすると、入出力ポート11及び送液流路13の部分の露出されたメンブレン層5が先に膨張してしまい、この部分のメンブレン層5の膨張を拘束する部材がないためにメンブレン層5の膨張が過剰となり、メンブレン層5が破裂してしまう恐れがある。台座基板6と支持カップ基板7との間に隙間8を設けておくことにより、加熱冷却装置9の熱が台座基板6に奪われることが防止されるので、支持カップ基板7から凹陥部15の反応チャンバ21への伝熱が台座基板6で阻害されることを阻止できる。
【0026】
必要に応じて、送液流路13の途中には開閉バルブを配設することもできる。図5(A)は、本発明のマイクロ流体デバイス1で使用できる開閉バルブ23の一例の概要平面図であり、図5(B)は、B−B線に沿った概要断面図である。開閉バルブ23は弁座25と弁駆動用凹部27と、この弁駆動用凹部27に連通する管路29とから構成されている。弁座25は上部硬質基板3に送液流路13を配設する際に、送液流路13の途中に、送液流路13を中断させるように形成することにより配設できる。弁駆動用凹部27は台座基板6の上面に配設できる。弁駆動用凹部27の開口部に相当するメンブレン層5の上面と上部硬質基板3の下面側との界面には非接着部16aを存在させておくことが必要である。この部分が非接着状態でないとメンブレン層5は開閉弁構成要素として機能することができない。非接着部16aの面積は弁駆動用凹部27の開口部面積以上であることが好ましい。図5(B)は開閉バルブ23の閉状態を示す。弁座25の下面がメンブレン層5の上面に密着することにより送液流路13は左右に中断され、液体は流通できない。本発明のマイクロ流体デバイス1において、バルブ「閉」という状態は、送液流路13に圧力がかかっても強制的に遮断できる状態を目的とする。本発明ではメンブレン層5が柔軟なことを特徴とするので、管路29が大気開放されていても「閉」状態にできるのは、送液流路13の圧力がかなり小さい場合に限定される。従って、開閉バルブ23を確実に閉状態にするには、管路29から圧力を印加し、メンブレン層5を弁座25に圧接させる必要がある。図5(C)は、開閉バルブ23の開状態を示す。送液チューブ22が装着されたアダプター24を入出力ポート11内に挿入し、送液チューブ22から圧力を印加すると非接着部16aのメンブレン層5は弁駆動用凹部27内に押し込まれ、その結果、弁座25の下面がメンブレン層5の上面から剥離されて連通空間31が生じ、矢線で示すように送液流路13が左右連通する。この場合、管路29は大気開放状態に維持することが好ましい。しかし、送液圧力を上げたくない場合には、管路29から真空吸引することもできる。図5(A)に示されるように、弁座25により中断される送液流路13の両端部の幅を通常の流路の幅よりも大きくしておくと一層低い圧力でメンブレン層5を弁駆動用凹部27内に押し込ませることができるという効果が得られる。従って、支持カップ基板7の凹陥部15の上部に延びる送液流路13の端部の幅も同様に通常の流路の幅よりも大きくしておくと一層低い圧力でメンブレン層5を凹陥部15内に押し込ませることができる。開閉バルブの構造は図示された実施態様に限定されない。当業者に公知慣用の開閉バルブを適宜選択して使用することもできる。
【0027】
図6(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図であり、(B)は(A)におけるB−B線に沿った概要断面図である。図6(A)及び(B)に示されたマイクロ流体デバイス1Aでは、図1及び図2に示されたマイクロ流体デバイス1と異なり、上部硬質基板3の下面側に溝状の送液流路13が配設されていない。その代わりに、送液流路13及び支持カップ基板7’の凹陥部15に対応する位置の上部硬質基板3の下面側に非接着薄膜層16’が塗布されている。この非接着薄膜層16’は本願出願人の先願に係る特開2007−309868号公報に記載されるようなフルオロカーボンなどから形成することができる。溝状の送液流路13の代わりに非接着薄膜層16’を使用する場合、図6(B)に示されるように、台座基板6の上面に膨隆したメンブレン層5を収容するための溝33と、支持カップ基板7’の所定箇所に凹陥部15に連通するメンブレン層5のための逃げ溝18を配設する必要がある。図6(C)は支持カップ基板7’の平面図である。逃げ溝18は支持カップ基板7’の上面に凹陥部15の開口部と連通するように配設される。図6(D)に示されるように、入出力ポート11側から加圧すると、非接着薄膜層16’が存在する位置に対応する箇所のメンブレン層5が膨隆し、送液流路13’が創出され、同時に、支持カップ基板7’の凹陥部15の内壁面に沿ってメンブレン層5が密着し、反応チャンバ21が形成される。符号35はこのマイクロ流体デバイス1Aで使用できる開閉バルブ用の昇降ピンを示す。図7に示されるように、ピン35を上昇させると、ピン35によりメンブレン層5が突き上げられ送液流路13が閉塞される。ピン35を下降させれば、図6(D)の状態に戻すことができる。
【0028】
本発明のマイクロ流体デバイス1等を用いてPCR増幅などを自動操作で行う場合、図8に示されるように、支持カップ基板7に温度センサ10を内蔵させ、温度センサ10からの検出信号を温度制御回路39に送信する。温度制御回路39内には温度制御に必要なメモリ、CPU、加熱冷却装置ON/OFF回路など任意の素子が実装されている。温度制御回路39は演算結果に基づき制御信号を加熱冷却装置9に送信し、加熱冷却装置9の動作を制御し、PCR増幅のための温度コントロールを実行する。
【0029】
本発明のマイクロ流体デバイス1における上部硬質基板3は、十分な剛性を有し、反応チャンバ21の内圧で変形する量が少ないことが必要であり、また、使用されるメンブレン層5と接着部及び非接着部を選択して接着可能であり、更に、入出力ポート11及び送液流路13などを機械加工などの公知慣用の手段で形成可能でなければならない。剛性に関しては、ヤング率が100MPa以上、より好ましくは1GPa以上の材料が望ましい。ヤング率の上限値は1000GPa程度である。ヤング率が100MPa未満の材料(例えば、PDMS)を使用した場合、反応チャンバ21に対応する位置の上部硬質基板3の厚みをメンブレン層の厚みの5倍以上、より好ましくは20倍以上にする必要がある。別法として、ヤング率の大きな別の材料で、当該上部硬質基板3を補強することもできる。1000GPa超の材料を使用しても特別な利点は無い。特に限定的な意味ではないが、反応チャンバ21の内圧により上部硬質基板3が変形する量が、反応チャンバ21に充填したい液体の体積に比べて十分に小さく、誤差として許容し得る範囲か否か確認しておくことが望ましい。このような目的に適した材料は例えば、ガラス、シリコン、セラミック類、プラスチック類又は金属類などである。前記プラスチック類は例えば、セルロースエステル基体、ポリエステル基体、ポリカーボネート基体、ポリスチレン基体、ポリオレフィン基体等である。更に具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルローストリアセテート、セルロースナイトレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル、ポリアリレート、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのようなシリコーンゴムなどが挙げられる。これらのプラスチック類は単独で使用することもできるし、あるいは2種類以上を併用することもできる。前記金属類は例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、マグネシウム、チタン、金、銀、タングステン、鉛、亜鉛、クロム、カドミウム、コバルトおよびそれらを含む合金類(例えば、ジュラルミン、ステンレス又は黄銅など)が挙げられる。加工のし易さ、コスト及び必要十分な剛性が得られる点から、上部硬質基板3は、アクリルなどのプラスチック類からなることが好ましい。
【0030】
本発明のマイクロ流体デバイス1におけるメンブレン層5は、前記の選択された上部硬質基板3と、接着部と非接着部とを選択して接着可能であること、支持カップ基板7の凹陥部15の内壁面に沿って隙間無く沿うように膨らむことができる柔軟性や伸縮性を有すこと、及び反応チャンバ21内に液体を導入して伸びたメンブレン層の塑性変形分が小さく、反応チャンバ21内の液体を排出した際にメンブレン層が元通りに復元し、弛みがのこらないことが必要である。
【0031】
メンブレン層5の形成材料としては、メンブレン層を膨らませる力が小さくても動作するため、ヤング率は1GPa未満であればよく、好ましくは50MPa以下が好適である。メンブレン層5のヤング率の下限値は50kPaである。ゴム材の場合、硬さの評価としてJISゴム硬さを使用することが多いが、その場合、JIS硬さ10〜100度程度であることが好ましい。メンブレン層5が支持カップ基板7の凹陥部15の内壁面に沿って隙間無く沿い、排出時にメンブレン層5の弛みを残さないため、伸び率は10%以上であることが好ましい。一層好ましい伸び率は100%以上である。伸び率の上限値は2000%程度である。伸び率の大きなメンブレン層を使用することにより、開口が小さく、深い反応チャンバ21を形成できるので、マイクロ流体デバイスを小型化できるという利点がある。
【0032】
メンブレン層5の厚みは薄いほど好ましく、特に支持カップ基板7の凹陥部15の内壁面を通じて反応チャンバ21内の液体19と熱交換を行うためにも極力薄いことが好ましい。過剰な内圧に対しては、支持カップ基板7とメンブレン層5との間の摩擦でメンブレン層5が補強されるため、薄くしても高い内圧で使用できる。メンブレン層5の厚みは1μm〜1mmの範囲内であるが、10μm〜200μmの範囲内が特に好ましい。
【0033】
メンブレン層5としては例えば、エラストマーが好ましい。使用温度にもよるが、熱可塑性エラストマーを使用できる場合もある。エラストマーとしては例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのようなシリコーンゴムの他、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ノルボルネンゴムなどが挙げられる。ゴム硬さ、伸び率、耐熱性、耐薬品性及び上部硬質基板3との接着性の観点から、メンブレン層5の形成材料としてはシリコーンゴムが特に好ましい。
【0034】
本発明のマイクロ流体デバイス1における支持カップ基板7は、十分な剛性を有し、反応チャンバ21の内圧で変形する量が少なく、凹陥部15及びエアベント用の管路17を配設するための機械加工が可能であるか、又は管路17の代わりに支持カップ基板7に多孔質構造の素材を用いカップ内外で流体の流通が可能であること、及び反応チャンバ21内の液体と熱交換を行う場合には熱伝導率が高いことが必要である。
【0035】
支持カップ基板7の形成材料としては、剛性に関しては、ヤング率が100MPa以上、より好ましくは1GPa以上の材料が望ましい。ヤング率の上限値は1000GPa程度である。特に限定的な意味ではないが、反応チャンバ21の内圧により支持カップ基板7が変形する量が、反応チャンバ21に充填したい液体19の体積に比べて十分に小さく、誤差として許容し得る範囲か否か確認しておくことが望ましい。反応チャンバ21内の液体19と熱交換を行う場合、熱伝導率の大きな材料を用いると、温度制御の効率が向上するので好ましい。熱伝導率は1W/mK以上であれば良く、好ましくは10W/mK以上であれば好適である。熱伝導率の上限値は2000W/mK程度である。支持カップ基板7に適した形成材料は例えば、ガラス、シリコン、セラミック類、プラスチック類又は金属類などである。前記プラスチック類は例えば、セルロースエステル基体、ポリエステル基体、ポリカーボネート基体、ポリスチレン基体、ポリオレフィン基体、等で、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルローストリアセテート、セルロースナイトレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル、ポリアリレート、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらのプラスチック類は単独で使用することもできるし、あるいは2種類以上を併用することもできる。前記金属類は例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、マグネシウム、チタン、金、銀、タングステン、鉛、亜鉛、クロム、カドミウム、コバルトおよびそれらを含む合金類(例えば、ジュラルミン、ステンレス又は黄銅など)が挙げられる。支持カップ基板7は多孔質部材であることもできる。支持カップ基板7が多孔質部材からなる場合、その多孔性により支持カップ基板7全体が大気に開放されていることとなるので、管路17を設けなくてもメンブレン層5を凹陥部15内に膨入させることができる。加工性及び熱伝導率の観点から、支持カップ基板7はジュラルミン等の金属材料からなることが好ましい。
【0036】
台座基板6は任意の材料から形成することができる。所望ならば、台座基板6は上部硬質基板3又は支持カップ基板7の形成材料と同一の材料から形成することもできる。
【0037】
上部硬質基板3の下面側に配設される送液流路13又は13’の寸法は、液体19を反応チャンバ21に導入又は排出している状態で、幅は0.1μm〜5mm、深さは0.1μm〜5mmであればよく、好ましくは、幅は50μm〜500μm、深さは5μm〜300μmの範囲内である。送液流路として上部硬質基板3に加工した溝を用いる場合、溝の内部に残る空気が反応チャンバ21に気泡として入るため、溝幅、溝深さ及び溝長さ共に、加工コストが許す限り、小さいことが好ましい。送液流路の断面形状は矩形、半円形、多角形又はこれらの組合せ形状などであることができる。
【0038】
支持カップ基板7の凹陥部15の開口部の形状は例えば、真円形、楕円形、矩形、多角形など様々な形状を採り得る。凹陥部15の底面は平面状又は曲面状であることができる。凹陥部15の内壁面が角の無い滑らかな連続的な曲面状である場合、メンブレン層5を凹陥部15内に隙間無く均一に膨らませ、かつ凹陥部15の内壁面からメンブレン層5に均一な伝熱が行える。凹陥部15の開口部面積と深さは、形成すべき反応チャンバの容積を考慮して決定することができる。また、凹陥部15の内壁面表面を滑らかにし、メンブレン層5との密着性を高め、熱交換の効率を上げるために、凹陥部15の内壁面表面をスパッタ、蒸着、メッキ等の公知慣用の方法で、金属膜、ガラス質膜、ダイヤモンド膜などをコーティングすることもできる。
【0039】
支持カップ基板7の凹陥部15の位置に対応するメンブレン層5と上部硬質基板3との界面に配設される非接着部16の形状及び台座基板6の弁駆動用凹部27の位置に対応するメンブレン層5と上部硬質基板3との界面に配設される非接着部16aは、メンブレン層5が均一に伸びるために真円形が望ましいが、楕円形、矩形、多角形およびこれらの組合せ形状などから適宜選択できる。非接着部16及び16aの面積は凹陥部15及び弁駆動用凹部27の開口部の面積と同一であるか、又は大きいことが好ましい。非接着部16及び16aの面積が凹陥部15の開口部の面積及び弁駆動用凹部27の開口部の面積よりも大きいと、非接着部と開口部との位置合わせがずれても非接着部のエッジが凹部のエッジを内包している範囲内であればメンブレン層5の膨張体積は一定なため、非接着部16と凹陥部15との位置合わせ及び非接着部16aと弁駆動用凹部27との位置合わせに精度を必要としないばかりか、動作不良が起きる可能性を軽減する。非接着部16及び16aは、例えば、凹陥部15及び弁駆動用凹部27に対応する位置の周辺部分だけ上部硬質基板3の下面側又はメンブレン層5の上面側に接着剤を塗布しないでおくか又はエキシマUV光などにより選択的改質処理を行うか、あるいは本願出願人の先願に係る特開2007−309868号公報に記載されるようなフルオロカーボンなどからなる非接着薄膜層を上部硬質基板3の下面側又はメンブレン層5の上面側に配設することによっても形成できる。上部硬質基板3の形成材料がガラス又はPDMSで、メンブレン層5がPDMSなどのシリコーンゴムである場合、PDMSはガラス又はPDMSに恒久接着するが、エキシマUV光によりPDMS面の所定箇所を選択的に改質処理すると、改質処理された部分とされていない部分に、接着部分と非接着部分とを創り出すことができきる。非接着部分を形成する方法として、前記以外の公知慣用の方法も本発明において全て使用できる。
【0040】
図9(A)は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図であり、(B)は図(A)におけるB−B線に沿った概要断面図である。図1〜図8に示された本発明のマイクロ流体デバイスは1個の入出力ポートから送入された液体は支持カップ基板7の1個の凹陥部により形成される反応チャンバ21から元の入出力ポートに送り返されて取り出されるピストン輸送的使用方法しかできないが、図9に示されたマイクロ流体デバイス1Bは支持カップ基板7の1個の凹陥部15に対して両側に2個の入出力ポート11a及び11bを有する。第1の入出力ポート11aから支持カップ基板7の1個の凹陥部15に連通する第1の送液流路13aの途中には第1の開閉バルブ23aが配設されており、また、第2の入出力ポート11bから支持カップ基板7の1個の凹陥部15に連通する第2の送液流路13bの途中には第2の開閉バルブ23bが配設されている。このような構成によりマイクロ流体デバイス1Bは多種多様な使用方法に適用できる。例えば、第1の入出力ポート11aから検体を送入し、第2の入出力ポート11bから反応試薬を送入し、支持カップ基板7の凹陥部15により形成される反応チャンバ21内で化学反応を行わせ、必要に応じて加熱冷却処理も施し、何れかの入出力ポートから反応生成物を取り出すことができる。又は、第1の入出力ポート11aから検体を送入し、支持カップ基板7の凹陥部15により形成される反応チャンバ21内で所定の加熱・冷却サイクルに従ってPCR増幅処理を行い、第2の入出力ポート11bから増幅産物を取り出すこともできる。
【0041】
図10は本発明のマイクロ流体デバイスの別の実施態様を示す概要平面図である。図11は図10におけるA−A線に沿った断面図である。図12は図10におけるB−B線に沿った断面図である。図10に示されたマイクロ流体デバイス1Cは、入力ポート40を1個だけ有する。入力ポート40に連通する送液流路13は、それぞれ上流側送液流路13−1u,13−2u,及び13−3uの3本に分岐されている。各分岐送液流路13−1u,13−2u,及び13−3uの途中には開閉バルブ23−1u,23−2u及び23−3uがそれぞれ配設されている。開閉バルブ23−1u,23−2u及び23−3uの下流側は支持カップ基板7’の各凹陥部15−1,15−2及び15−3にそれぞれ至る。各凹陥部15−1,15−2及び15−3の出口側には、下流側送液流路13−1d,13−2d,及び13−3dがそれぞれ配設されている。各下流側送液流路13−1d,13−2d,及び13−3dの途中には開閉バルブ23−1d,23−2d及び23−3dがそれぞれ配設されている。各下流側送液流路13−1d,13−2d,及び13−3dの終端部は各出力ポート42−1,42−2及び42−3にそれぞれ接続されている。図10に示されるように、開閉バルブ23−1u,23−2u及び23−3uと23−1d,23−2d及び23−3dは全て図5に示された構造と同一の構造を有する。
【0042】
図12に示されるように、支持カップ基板7’は凹陥部15−1〜15−3を全て同一基板内に有するが、加熱冷却装置9−1,9−2及び9−3はそれぞれ独立的に配設されている。これは各凹陥部に対応する反応チャンバ毎に異なった加熱温度を適用できるようにするためである。各凹陥部に対応する反応チャンバ毎に適用される加熱温度が他の反応チャンバに悪影響を及ぼさないようにするため、支持カップ基板には各隣接する凹陥部の間に断熱用の隙間44が配設されている。支持カップ基板は図示されたような一体的な形態に限定されない。図13に示されるように、各分岐送液流路毎に独立して支持カップ基板7’−1〜7’−3を配設することもできる。
【0043】
図1〜3に示された単独のマイクロ流路デバイス1と異なり、図10〜図13に示される3連式のマイクロ流路デバイス1Cの利点は、同一の検体に対して異なる試薬と化学反応させたり、あるいは異なる温度でPCR増幅を実施させることができることである。そのため、入力ポートは1個であるが、各生成物を取り出すための出力ポートが3個設けてある。しかし、必ずしも出力ポートを配設する必要は無い。開閉バルブ23−1u〜23−3uを操作することにより凹陥部15−1〜15−3に対応する各反応チャンバから各反応生成物などを1個の入力ポートから取り出すこともできるからである。また、別の使用形態として、3つの支持カップ基板の凹陥部15の体積を変えるだけで、異なる体積でも反応させることができる。更に別の使用形態として、3個のポートを逆に3種類の異なる各試薬、検体又は溶液などの入力ポートとして使用し、初めに開閉バルブ23−1d〜23−3d及び23−1u〜23−3uを閉じてからポート40、42−1〜42−3を加圧し、次に先に開閉バルブ23−1d〜23−3dを開けて3個のポート42−1〜42−3から3つの凹陥部15−1〜15−3に対応する各反応チャンバに別々の液体を導入し、それらの液体がメンブレン層を膨らませて反応チャンバを創成するが、支持カップ基板の凹陥部全内壁面にメンブレン層が密着する前に、開閉バルブ23−1d〜23−3dを閉じ、その後開閉バルブ23−1u〜23−3uを開けて、入力ポート40から試薬、検体又は溶液などを3つの凹陥部15−1〜15−3に対応する各反応チャンバに支持カップ基板の凹陥部全内壁面にメンブレン層が密着するまで導入し、各反応チャンバで異なる反応を実施させることもできる。多連式のマイクロ流路デバイスとしては、図示された3連式に限定されず、2連以上の任意の連数の多連式マイクロ流路デバイスを使用することができる。
【0044】
図14(A)は本発明のマイクロ流体デバイス1で使用できる支持カップ基板の別の実施態様の概要断面図であり、図14(B)はその動作状態を示す概要断面図であり、図14(C)は支持カップ基板の更に別の実施態様の部分概要断面図である。図14(A)を参照する。この実施態様における支持カップ基板7’はシリンダ46と、該シリンダ内に挿入されたピストン48とからなる。ピストン48の上端面は平面状である。所望により、ピストン48内に加熱冷却装置9及び温度センサ10を内蔵させることができる。しかし、加熱冷却装置9及び温度センサ10はシリンダ46側に配設することもできる。シリンダ46とピストン48を使用することにより、支持カップ基板自体を交換しなくても、支持カップ基板7’の凹陥部15’の容積を自在に変化させることができる。図14(B)に示されるように、支持カップ基板7’を構成するシリンダ46内に、上端面が平面状のピストン48を挿入し、支持カップ基板7’の上面より下の位置にピストン48の上端が来るように位置を調整すると、シリンダ46の開口部とピストン48の上端面で凹陥部15’を形成できる。このピストン48を上下動させることで凹陥部15’の体積を可変することができ、送液時の反応チャンバ21の体積も可変させられる。更に、図13(A)に示されるように、ピストン48を支持カップ基板7’の上面まで上昇させることで、反応チャンバ21の体積をゼロにする、つまり、反応チャンバからの完全な排液が可能になる。凹陥部体積が固定された支持カップ基板では、反応チャンバ21内の液体を排出する際、排出する液量を制御することが難しいが、図14(A)に示されるような、シリンダ46とピストン48の組合せならば、ピストン48を昇降させれば凹陥部15’の体積を連続的に可変させられるため、可変反応チャンバ21と接続された送液流路13に、可変反応チャンバ21内の液体の一部のみを定量的に排出することが可能になる。ピストン48の昇降には公知慣用のZステージ50を使用することができる。シリンジ46とピストン48の界面に隙間52を設けておけば、凹陥部15’の空気を逃がすことができるのでピストン48に管路を設けなくてもよい。しかし、ピストン48に管路17を設けることもできる。
【0045】
別法として、図14(C)に示されるように、ピストン48の上端面を平面状ではなく、凹曲面状にすることもできる。ピストン48の上端面を凹曲面状にすると、メンブレン層5とピストン48の上端面との接触面積を増大させることが可能であり、熱交換効率が高められる。但し、凹曲面状上端面の場合、凹陥部15’の体積をゼロとすることはできないので、反応チャンバ21内の液体を完全に排出したい場合には、ピストン48に加圧用の管路17を配設し、管路17から空気圧を印加して強制排出させなければならない。
【0046】
メンブレン層5はシリンダ46とピストン48の両方に接触して反応チャンバ21内の液体と熱交換を行う場合、シリンダ46とピストン48の界面の隙間は極力小さいことが望ましい。所望により、シリンダ46とピストン48の界面に熱伝導性グリースを塗布して隙間52を埋め、加熱冷却装置9の熱をシリンダ46とピストン48の両方に効率よく伝熱できるようにすることもできる。この場合、ピストン48に大気開放用の管路17を設けることが好ましい。
【0047】
図14に示されるシリンダ46とピストン48により凹陥部15’の容積を自在に変更することができる支持カップ基板7’は図9及び図10に示されるようなマイクロ流体デバイスで使用するのに好適である。例えば、図9に示されるようなマイクロ流体デバイスの場合、第1の入出力ポート11aから容量5μLの検体を送入する際、初めに開閉バルブ23a,23bを閉じ、入出力ポート11a、11bを加圧した後、凹陥部15’の容積が5μLになるようにピストン48を下降させておき、開閉バルブ23aを開け、検体送入後に、開閉バルブ23aを閉じ、開閉バルブ23bを開け、第2の入出力ポート11bから反応試薬を送入する際、ピストン48を更に下降させて凹陥部15’の容積を例えば10μLに拡大しておけば、容量5μLの反応試薬を、部品交換などの煩雑な操作無く、定量的に凹陥部15’に対応する反応チャンバ21に追加送液することができる。また、反応チャンバ21内の反応生成物を例えば、数μL毎に数回に分けて何れかのポートから取り出すこともできる。
【実施例1】
【0048】
図3に示されるような構成のマイクロ流体デバイス1を使用し、入出力ポート11から支持カップ7の凹陥部15に向けて送液して反応チャンバ21を形成できるか試験した。
(1)マイクロ流体デバイスの構成
上部硬質基板3としては厚さ6mm、ヤング率2500MPaのポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂板を使用した。上部硬質基板3に穿設された入出力ポート11の内径は2.5mm、深さは6mm、内容積は29.4μLであった。上部硬質基板3の下面側に配設された送液流路13の幅は0.3mm、深さは0.15mm、長さは41mm、流路容積は1.8μLであった。メンブレン層5としては、厚さ0.1mm、伸び率200%、ヤング率14.2MPaのシリコーンゴムを使用した。メンブレン層5のシリコーンゴム膜は上部硬質基板3の下面側に接着させたが、支持カップ基板の凹陥部15に対応する箇所は接着させなかった。この選択的接着は、PMMAの接着面をシラン処理し、シリコーンゴム膜の非接着部としたい箇所をマスキングし、接着させたい箇所だけ反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより表面改質処理し、その後、PMMAの処理面側とシリコーンゴム膜の処理面側を貼り合わせることにより行われた。台座基板6としては上部硬質基板3と同じPMMA樹脂板を使用した。支持カップ基板7としてはアルミ合金ANP79を使用し、その上面には開口部直径3.7mm、深さ1.20mm、R2.0の略球面皿状の凹陥部15が形成されていた。凹陥部15の底部には直径0.8mmの管路17が配設されていた。また、支持カップ基板7には温度測定用のサーミスタ10が挿入されていた。支持カップ基板7の下面側に加熱冷却装置9としてペルチェ素子を装着した。サーミスタ10とペルチェ素子9とを温度制御回路39を介して接続した。入出力ポート11に、送液チューブ22が装着されたアダプター24を挿入した。
(2)送液試験
送液チューブ22から青色インクを入出力ポート11に送入し、ポート11と送液流路13を満たした。送液チューブ22から40kPaの圧力で空気圧を印加し続けると、支持カップ基板7の凹陥部15の箇所に対応する非接着部分16のメンブレン層5が徐々に凹陥部15内に膨らみ出し、最後には凹陥部15全体に及ぶまで膨張し、反応チャンバ21が完全に形成されるのが青色インク液体で確認できた。ペルチェ素子を駆動させ、反応チャンバ21内の青色インクを加熱及び冷却した。その後、加圧を停止すると、凹陥部15内に膨張していたメンブレン層5が収縮し、反応チャンバ21内の青色インクが入出力ポートにまで戻されてくるのが確認できた。この後、凹陥部下部の管路17から空気圧を50kPa印加すると、送液流路13内の全ての青色インクがマイクロ流体デバイス外へ排出された。
【実施例2】
【0049】
図5に示されるような構成のマイクロ流体デバイス1を使用し、プラスミドDNAによるPCR増幅試験を行った。
(1)マイクロ流体デバイスの構成
上部硬質基板3としては厚さ6mm、ヤング率2500MPaのポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂板を使用した。上部硬質基板3に穿設された入出力ポート11の内径は2.5mm、深さは6mm、内容積は29.4μLであった。上部硬質基板3の下面側に配設された送液流路13の幅は0.3mm、深さは0.15mm、長さは41mm、流路容積は1.8μLであった。送液流路13の途中に幅0.6mm、長さ0.6mmの拡大部を間隔0.4mmで互いに対峙するように設けることにより弁座25を形成し送液流路13を左右に2分した。台座基板6としては上部硬質基板3と同じPMMA樹脂板を使用した。前記弁座25に対応する位置の台座基板6の上面には直径2mm、深さ0.3mm、R1.5mmの略球面皿状の弁駆動用凹部27が形成されていた。メンブレン層5としては、厚さ0.1mm、伸び率200%、ヤング率14.2MPaのシリコーンゴムを使用した。メンブレン層5のシリコーンゴム膜は上部硬質基板3の下面側に接着させたが、支持カップ基板の凹陥部15に対応する箇所及び台座基板3の弁駆動用凹部27に対応する箇所は接着させなかった。この選択的接着は、PMMAの接着面をシラン処理し、シリコーンゴム膜の非接着部としたい箇所をマスキングし、接着させたい箇所だけ反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより表面改質処理し、その後、PMMAの処理面側とシリコーンゴム膜の処理面側を貼り合わせることにより行われた。支持カップ基板7としてはアルミ合金ANP79を使用し、その上面には開口部直径3.7mm、深さ1.20mm、R2.0の略球面皿状の凹陥部15が形成されていた。凹陥部15の底部には直径0.8mmの管路17が配設されていた。また、支持カップ基板7には温度測定用のサーミスタ10が挿入されていた。支持カップ基板7の下面側に加熱冷却装置9としてペルチェ素子を装着した。サーミスタ10とペルチェ素子9とを温度制御回路39を介して接続した。入出力ポート11に、送液チューブ22が装着されたアダプター24を挿入した。
(2)送液手順
PCR溶液12μLを入出力ポート11に分注した。次に、弁駆動用凹部27と連通する管路29に100kPaの圧力の空気圧を印加し、弁駆動用凹部27上のメンブレン層5を弁座25に押し付けた。支持カップ基板7の凹陥部15と連通する管路17は大気開放とした。この状態で入出力ポート11から50kPaの圧力の空気圧を印加したが、PCR溶液は開閉バルブ23を通過することはなく、開閉バルブ23で送液を遮断できることを確認した。この状態で弁駆動用凹部27と連通する管路29を大気開放したところ、メンブレン層5が弁駆動用凹部27内に押し込まれて開閉バルブ23が開き、PCR溶液は送液流路13から支持カップ基板7の凹陥部15上部のメンブレン層5に至り、このメンブレン層5を徐々に膨張させながら凹陥部15全体に及ぶ反応チャンバ21が形成された。入出力ポート11から50kPaの圧力の空気圧を印加し続けながら、温度制御回路39に予めプログラムされた加熱サイクルに従ってPCR溶液を加熱し、PCR増幅を行った。PCR溶液は2X PrimeSTAR(登録商標)Max25μL、Template(プラスミドDNA pUC18,10μg/mL)2μL、Primer-F(10μM)1μL、Primer-R(10μM)1μLの混合液に滅菌蒸留水を追加混合し、50μLとしたものから12μLを採取して使用した。加熱サイクルは初期熱変性102℃30秒の後、熱変性102℃15秒、アニーリング53℃15秒、伸長72℃15秒の3ステップを30サイクル行った後、30℃30秒でマイクロ流体デバイス1を冷却した。マイクロ流体デバイス1を冷却後、入出力ポート11を大気開放し、支持カップ基板7の管路17から凹陥部15底部に向かって50kPaの圧力の空気圧を印加し、反応チャンバ21内のPCR産物を入出力ポート11に押し戻し、マイクロピペットで回収し、下記の電気泳動試験のために保存した。PCR溶液の分注から回収までの時間は30分52秒であった。回収した液量は全体で10μLであった。送液流路13内部や入出力ポート11に残った液量が1〜2μLあると考えられるため、蒸発による液量は無視できるレベルと考えられる。なお、反応チャンバ21内の体積は約6μLであるため、回収した液体には加熱サイクルを経ていないPCR溶液も含まれているものと思われる。
(3)電気泳動試験
回収したPCR産物から9μLをSV1100(日立電子エンジニアリング株式会社製)で電気泳動し、装置付属のソフトウェアでPCR産物の鎖長と濃度を測定した。PCR増幅産物の鎖長はプライマーの設計と一致し、PCR産物の増幅量も17.6ng/μLと高い濃度が得られた。これにより、本発明のマイクロ流体デバイスでDNA検体を申し分なくPCR増幅できることが裏付けられた。
【実施例3】
【0050】
図5に示されるような構成のマイクロ流体デバイス1を使用し、ヒトDNAによるPCR増幅試験を行った。
(1)マイクロ流体デバイスの構成
上部硬質基板3としては厚さ6mm、ヤング率2500MPaのポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂板を使用した。上部硬質基板3に穿設された入出力ポート11の内径は2.5mm、深さは6mm、内容積は29.4μLであった。上部硬質基板3の下面側に配設された送液流路13の幅は0.3mm、深さは0.15mm、長さは41mm、流路容積は1.8μLであった。送液流路13の途中に幅0.6mm、長さ0.6mmの拡大部を間隔0.4mmで互いに対峙するように設けることにより弁座25を形成し送液流路13を左右に2分した。台座基板6としては上部硬質基板3と同じPMMA樹脂板を使用した。前記弁座25に対応する位置の台座基板6の上面には直径2mm、深さ0.3mm、R1.5mmの略球面皿状の凹部27が形成されていた。メンブレン層5としては、厚さ0.1mm、伸び率200%、ヤング率14.2MPaのシリコーンゴムを使用した。メンブレン層5のシリコーンゴム膜は上部硬質基板3の下面側に接着させたが、支持カップ基板の凹陥部15に対応する箇所及び台座基板3の凹部27に対応する箇所は接着させなかった。この選択的接着は、PMMAの接着面をシラン処理し、シリコーンゴム膜の非接着部としたい箇所をマスキングし、接着させたい箇所だけ反応性イオンエッチング装置内で酸素プラズマにより表面改質処理し、その後、PMMAの処理面側とシリコーンゴム膜の処理面側を貼り合わせることにより行われた。支持カップ基板7としてはアルミ合金ANP79を使用し、その上面には開口部直径3.7mm、深さ1.20mm、R2.0の略球面皿状の凹陥部15が形成されていた。凹陥部15の底部には直径0.8mmの管路17が配設されていた。また、支持カップ基板7には温度測定用のサーミスタ10が挿入されていた。支持カップ基板7の下面側に加熱冷却装置9としてペルチェ素子を装着した。サーミスタ10とペルチェ素子9とを温度制御回路39を介して接続した。入出力ポート11に、送液チューブ22が装着されたアダプター24を挿入した。
(2)送液手順
PCR溶液12μLを入出力ポート11に分注した。入出力ポート11から50kPaの圧力の空気圧を印加すると、メンブレン層5が凹部27内に押し込まれて開閉バルブ23が開き、PCR溶液は送液流路13から支持カップ基板7の凹陥部15上部のメンブレン層5に至り、このメンブレン層5を徐々に膨張させながら凹陥部15全体に及ぶ反応チャンバ21が形成された。入出力ポート11から50kPaの圧力の空気圧を印加し続けながら、温度制御回路39に予めプログラムされた加熱サイクルに従ってPCR溶液を加熱し、PCR増幅を行った。PCR溶液は2X PrimeSTAR(登録商標)Max25μL、Template(ヒトDNA K562,452μg/mL)2μL、Primer-F(10μM)1μL、Primer-R(10μM)1μLの混合液に滅菌蒸留水を追加混合し、50μLとしたものから12μLを採取して使用した。加熱サイクルは初期熱変性102℃120秒の後、熱変性102℃10秒、アニーリング51℃20秒、伸長72℃10秒の3ステップを40サイクル行った後、72℃で300秒維持し、その後30℃30秒でマイクロ流体デバイス1を冷却した。マイクロ流体デバイス1を冷却後、入出力ポート11を大気開放し、支持カップ基板7の管路17から凹陥部15底部に向かって50kPaの圧力の空気圧を印加し、反応チャンバ21内のPCR産物を入出力ポート11に押し戻し、マイクロピペットで回収、下記の電気泳動試験のために保存した。PCR溶液の分注から回収までの時間は54分18秒であった。回収した液量は全体で10μLであった。送液流路13内部や入出力ポート11に残った液量が1〜2μLあると考えられるため、蒸発による液量は無視できるレベルと考えられる。なお、反応チャンバ21内の体積は約6μLであるため、回収した液体には加熱サイクルを経ていないPCR溶液も含まれているものと思われる。
(3)電気泳動試験
前記(2)で回収した液体の全量をSV1100(日立電子エンジニアリング株式会社製)で電気泳動し、装置付属のソフトウェアでPCR産物の鎖長と濃度を測定した。PCR増幅産物の鎖長はプライマーの設計と一致し、PCR産物の濃度も3.88ng/μLと、電気泳動で鎖長を確認するには十分な量であった。これにより、本発明のマイクロ流体デバイスでDNA検体を申し分なくPCR増幅できることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上、本発明のマイクロ流体デバイスの好ましい実施態様について具体的に説明してきたが、本発明は開示された実施態様にのみ限定されず、様々な改変を行うことができる。例えば、上部硬質基板3,メンブレン層5、台座基板6及び支持カップ基板7などを全て光透過性の材料から形成することにより、支持カップ基板7の凹陥部15による反応チャンバ21内の生成物を光学的に観察及び/又は分析することができる。
【0052】
支持カップ基板の凹陥部内壁面全体にメンブレン層が密着することにより創成される反応チャンバには図示された2本の送液流路に限定されず、3本以上の送液流路が接続されるような実施態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0053】
更に、本発明のマイクロ流体デバイスは、その構造から流体制御素子及び/又は送液ポンプとしても機能させることができる。例えば、入出力ポート11から液体を注入し、送液流路13で支持カップ基板7の凹陥部15に液体を送る際、開閉バルブ23は流体制御素子として液体の流動を制御できるし、支持カップ基板7の凹陥部15内にメンブレン層5を膨張させることにより形成された反応チャンバ21はポンプ室となり、ポンプ室に貯留された液体を別の流路に押し出すことにより支持カップ基板7の凹陥部15をポンプとして機能させることができる。
【0054】
本発明のマイクロ流体デバイスは、加熱冷却操作を必要としない分野だけでなく、加熱冷却操作を必要とする様々な分野で使用できる。例えば、本発明のマイクロ流体デバイスは、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産、警察鑑識など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明のマイクロ流体デバイスは、蛍光抗体法、in situ Hybridization等に最適なマイクロ流体デバイスとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。
【符号の説明】
【0055】
1、1A、1B、1C 本発明のマイクロ流体デバイス
3 上部硬質基板
5 メンブレン層
6 台座基板
7、7’ 支持カップ基板
8 隙間
9 加熱冷却装置
10 温度センサ
11、11a、11b 入出力ポート
13 送液流路
15、15’ 凹陥部
16、16a、16b、16’ 非接着部
17 管路
18 メンブレン層用逃げ溝
19 液体
21 反応チャンバ
22 送液チューブ
23 開閉バルブ
24 アダプター
25 弁座
27 弁駆動用凹部
29 弁駆動用管路
31 連通空間
33 メンブレン層用逃げ溝
35 開閉バルブ用昇降ピン
39 温度制御回路
40 入力ポート
42 出力ポート
44 断熱用隙間
46 シリンダ
48 ピストン
100 従来技術のマイクロ流体デバイス
102 上部基板
104 マイクロチャネル
105 入力ポート
106 出力ポート
108 下部基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部硬質基板と、メンブレン層と、台座基板と、開口部を有する凹陥部が形成された少なくとも1個の支持カップ基板とからなり、
前記上部硬質基板には流体を出し入れするための少なくとも1個の入出力ポートが該基板を貫通して配設されており、かつ、該基板の下面側には、前記入出力ポートに連通する1本の送液流路用の溝が配設されており、
前記メンブレン層は前記入出力ポートの底部及び送液流路用の溝の底部を遮蔽するように前記上部硬質基板の下面側に部分的に接着されており、
前記支持カップ基板は、前記凹陥部の開口部が前記メンブレン層の下面側に密着し、前記送液流路用の溝の端部が前記凹陥部の周縁を越えて半径方向内方に位置し、かつ、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との非接着部が前記凹陥部の開口部に対応する位置に存在するように配置されており、
前記台座基板は前記メンブレン層の下面側に、前記支持カップ基板と分離されて配置されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記上部硬質基板には流体を出し入れするための1個の第1の入出力ポートと、流体を出し入れするための1個以上の第2の入出力ポートとが該基板を貫通して配設されており、かつ、該基板の下面側には、前記第1の入出力ポートに連通する送液流路用の1本以上の上流溝と、前記上流溝と同じ本数の、前記各第2の入出力ポートに連通する下流溝が配設されており、前記支持カップ基板は前記上流溝の本数と同じ数の凹陥部を有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記支持カップ基板の凹陥部の周縁を越えて半径方向内方に位置する前記送液流路用の溝の端部のサイズが溝の他の部分のサイズよりも大きいことを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記支持カップ基板の凹陥部の開口部に対応する位置に存在する前記メンブレン層と前記上部硬質基板との非接着部の面積が前記凹陥部の開口部の面積以上であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記凹陥部の底部には大気に連通する管路が更に配設されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記支持カップ基板は多孔質材料から形成されており、部材の多孔性により前記凹陥部は大気に連通していることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記支持カップ基板は中空円筒状のシリンダと、該シリンダ内に挿入され、上端面が平面状のピストンとからなり、前記ピストンが前記シリンダ内を昇降することにより前記ピストンの上端面と前記シリンダの内壁面とにより凹陥部が画成されることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記支持カップ基板には加熱冷却装置及び温度センサが更に配設されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
該温度センサは温度制御回路を介して前記加熱冷却装置に接続されていることを特徴とする請求項8記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記支持カップ基板は前記メンブレン層から着脱可能に配置されている請求項1〜9の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記送液流路の途中に開閉バルブが更に配設されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記開閉バルブは、前記送液流路を中断するように設けられた弁座と、該弁座の位置に対応して前記台座基板の上面に設けられた弁駆動用凹部とからなり、前記弁駆動用凹部の位置に対応する前記上部硬質基板と前記メンブレン層との界面には非接着部が存在することを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記弁座の両側に位置する前記送液流路用の溝の端部のサイズが溝の他の部分のサイズよりも大きいことを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
前記台座基板の弁駆動用凹部の開口部に対応する位置に存在する前記メンブレン層と前記上部硬質基板との非接着部の面積が前記弁駆動用凹部の開口部の面積以上であることを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
前記弁駆動用凹部の底部には大気に連通する管路が更に配設されていることを特徴とする請求項11記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
前記管路の端部は加圧・吸引手段に接続されていることを特徴とする請求項15記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
上部硬質基板と、メンブレン層と、表面上に所定の幅と深さと長さを有する1本以上の溝が配設された台座基板と、開口部を有する凹陥部と該凹陥部に連通する所定の幅と深さを有する1本以上の溝が上端面に形成された支持カップ基板とからなり、
前記上部硬質基板には流体を出し入れするための少なくとも1個の入出力ポートが該基板を貫通して配設されており、
前記メンブレン層は前記上部硬質基板の下面側に部分的に接着されており、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との界面には、前記入出力ポートの一端に接続する送液流路形成用の1個以上の第1の非接着部と、該送液流路形成用の非接着部に連続する所定面積を有する第2の非接着部とが存在し、
前記支持カップ基板は、前記凹陥部の開口部が前記メンブレン層の下面側に密着し、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との界面の第2の非接着部が前記凹陥部の開口部に対応する位置に存在し、かつ、支持カップ基板上端面の溝が前記送液流路形成用の第1の非接着部の長手方向位置と同じ位置になるように配置されており、
前記台座基板は、前記台座基板上面の溝の端部が前記入出力ポートの外方端に位置し、かつ、当該溝が前記送液流路形成用の第1の非接着部の長手方向位置と同じ位置になるように前記メンブレン層の下面側に、前記支持カップ基板と分離されて配置されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
前記上部硬質基板には流体を出し入れするための1個の第1の入出力ポートと、流体を出し入れするための1個以上の第2の入出力ポートとが該基板を貫通して配設されており、かつ、前記メンブレン層と前記上部硬質基板との界面には、前記第1の入出力ポートの一端に接続する上流側送液流路形成用の1個以上の第1の非接着部と、前記上流側送液流路形成用の第1の非接着部と同じ個数の、前記各第2の入出力ポートの一端に接続する下流側送液流路形成用の第3の非接着部が更に存在し、前記支持カップ基板は前記上流側送液流路形成用の第1の非接着部の個数と同じ数の凹陥部を有し、かつ、支持カップ基板上端面には前記第1の非接着部及び第3の非接着部の個数と同じ数の溝が形成されていることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
前記第2の非接着部の面積が前記凹陥部の開口部の面積以上であることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記凹陥部の底部には大気に連通する管路が更に配設されていることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
前記支持カップ基板の凹陥部内壁面は曲面状であり、前記支持カップ基板は多孔質材料から形成されており、部材の多孔性により前記凹陥部は大気に連通していることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
前記支持カップ基板は中空円筒状のシリンダと、該シリンダ内に挿入され、上端面が平面状のピストンとからなり、前記ピストンが前記シリンダ内を昇降することにより前記ピストンの上端面と前記シリンダの内壁面とにより凹陥部が画成されることを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
前記支持カップ基板には加熱冷却装置及び温度センサが更に配設されていることを特徴とする請求項17〜22の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
該温度センサは温度制御回路を介して前記加熱冷却装置に接続されていることを特徴とする請求項23記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項25】
前記支持カップ基板は前記メンブレン層から着脱可能に配置されている請求項17〜24の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項26】
前記送液流路形成用の非接着部に対応する位置の前記台座基板の箇所に前記台座基板を貫通する貫通孔が穿設されており、該貫通孔内に昇降可能なピンが挿入されており、該ピンは前記送液流路形成用非接着部が膨隆されたときに創出される送液流路を開閉するための開閉装置として機能することを特徴とする請求項17記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項27】
PCR増幅用デバイスとして使用されることを特徴とする請求項1〜26の何れかに記載のマイクロ流体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−30522(P2011−30522A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181303(P2009−181303)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】