説明

マイクロ流体デバイス

【課題】形成した平面脂質二重膜を長時間にわたり保持できるマイクロ流体デバイス10を提供する。
【解決手段】マイクロ流体デバイス10は、送液口12と、送液口12から延設された主流路13と、主流路13の側面に設けられ、80nm以上120μm以下の面積の開口部に平面脂質二重膜が形成される複数の微少憩室14と、主流路13から延設された貯液槽17と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー、バイオチップ、膜タンパク質分析、創薬スクリーニング、バイオセンサーなどの分野に用いられる脂質二重膜が形成されるマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜の内外で物質輸送/情報伝達に関与する膜タンパク質の機能を、1分子計測によって理解し工学的に応用するためには、単離膜タンパク質が組み込まれた人工脂質二重膜モデル実験系を構築する必要がある。しかし、かかる実験系を構築するには熟練した技術を要する。このため、構築された実験系は、再現性が良くはなく、また、構築のスループットも高くはないことがあった。
【0003】
発明者らは、特開2009−128206号公報において、PDMS(ポリメチルシロキサン)を用いてMEMS技術により作製した平面脂質二重膜を有するマイクロ流体デバイス(マイクロフルイディックデバイス)を開示している。このマイクロ流体デバイスは、構築のスループット向上、小型化、分析時間の短縮化、必要な試薬の少量化、および高い再現性等を提供した。
【0004】
しかし、このマイクロ流体デバイスは、形成した平面脂質二重膜が短時間で破裂してしまうことがあり、安定した実験が容易ではないことがあった。
【0005】
なお、マイクロ流体デバイスの作製に用いることのできるMEMS技術としては、光リソグラフィまたはエッチング等の微細加工技術だけでなく、押印転写法等も用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−128206号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】EE Text センサ・マイクロマシン工学、藤田博之編著、オーム社(2005)
【非特許文献2】Onoe, H.ら、Journal of Micromechanics and Microengineering, 17: 1818-1827 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、形成した平面脂質二重膜を長時間にわたり保持できるマイクロ流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のマイクロ流体デバイスは、送液口と、前記送液口から延設された主流路と、前記主流路の壁面に設けられ、80nm以上120μm以下の面積の開口部に平面脂質二重膜が形成される複数の微少憩室と、前記主流路から延設された貯液槽と、を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、形成した平面脂質二重膜を長時間にわたり保持できるマイクロ流体デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態のマイクロ流体デバイスの構造を示す説明図である。
【図2】実施形態のマイクロ流体デバイスの構造を説明するための分解図である。
【図3】実施形態のマイクロ流体デバイスを有する分析システムを説明するための構成図である。
【図4】実施形態のマイクロ流体デバイスにおける平面脂質二重膜の作製を説明するための説明図である。図3(A)は第1液注入工程を、図3(B)は第2液注入工程を、図3(C)は第3液注入工程を示している。
【図5】実施形態のマイクロ流体デバイスの、膜タンパク質が組み込まれた脂質二重膜を説明するための説明図である。
【図6】マイクロ流体デバイスの開口部形状を説明するための説明図である。
【図7】マイクロ流体デバイスの開口部形状を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は実施形態のマイクロ流体デバイスの構造を示す説明図であり、図2は流体デバイスの構造を説明するための分解図である。なお、図示の都合上、図2は上下を逆に表示している。
【0013】
図1および図2に示すように、流体デバイス(以下「流体デバイス」という)10は、送液口12と、2本の主流路(マイクロチャネル)13A、13Bと、複数の微少憩室(マイクロチャンバー)14と、貯液槽接続部16と、貯液槽17と、を具備する。送液口12から流体デバイス10の流路に注入された液体は、主流路13A、3B/微少憩室14、および貯液槽接続部16を介して貯液槽17に達する。
【0014】
送液口12からの流路は、2分岐して並列に配置された2本の主流路13A、13Bに延設している。以下、主流路13A、13Bのそれぞれをいうときは主流路13という。主流路13の壁面(側面)には、主流路13への開口部を有する複数の微少憩室14が設けられている。言い換えれば、主流路13の側面に形成されている凹部を微少憩室14という。微少憩室14は主流路13の相対する側面に交互に設けられており、主流路13とともにアレイ部15を構成している。
【0015】
主流路13の側面と微少憩室14の側面とが、主流路13および微少憩室14の、天面と底面との間を柱として支えている。このため、天面と底面との間隔、すなわち、流路の深さ(D)は一定に保たれている。
【0016】
図2に示すように、流体デバイス10は2枚のパイレックス(登録商標)ガラスからなる平板を接合して作製されている。流路は、第1の平板21に形成された凹部21Vと第2の平板22と、により形成されている。すなわち、第1の平板21の凹部21Vが流路の天面および2つの側面を構成し、第2の平板22が流路の底面を構成している。
【0017】
また、流体デバイス10の流路の壁面には、ジシラザン剤による疎水化処理が行われている。すなわち、流体デバイス10は、流路に、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)溶液が流し込まれ、70℃〜80℃でベーキング処理されている。
【0018】
なお、流体デバイス10は、第1の平板21および第2の平板22がガラスからなるため、アレイ部15を外部から観察できる。
【0019】
また、ガラスに替えてシリコンを用いて流路の凹部を形成してもよい。シリコンは光透過性を有しないが、MEMS技術による微細加工がガラスよりも容易である。そしてシリコン基板とガラス基板とを接合して流体デバイスを作製すると、ガラス基板側から主流路13および微少憩室14が、外部から観察可能である。
【0020】
さらに、流路の形の貫通部を有するシリコンの両面に、それぞれガラス基板を接合して流体デバイスを作製してもよい。この場合には流体デバイスは3枚の平板により構成される。
【0021】
2本の主流路13は、貯液槽接続部16を介して貯液槽17に接続されている。貯液槽接続部16は、幅が主流路13の幅(W)の6倍以上の流路と、幅が主流路13の幅(W)の30倍以上まで広がる流路と、により構成されている。第1の平板21の送液口12には貫通孔12Hがあり、貫通孔12Hに接続された送液チューブ3(図3参照)を介して、流体デバイス10の外部から流路に流体、例えば液体が供給される。一方、第1の平板21の貯液槽17にも貫通孔17Hがあり、流体デバイス10の流路に供給された流体は貫通孔17Hを介して、外部に排出される。
【0022】
以上の説明のように、流体デバイス10は、送液口12を有する送液口構成部材12P1、12P2と、主流路13を有する主流路構成部材13P1、13P2と、微少憩室14を有する微少憩室構成部材14P1、14P2と、貯液槽接続部16および貯液槽17を有する貯液槽構成部材16P1、16P2と、からなる。流体デバイスの作製には、それぞれの前記構成部材を組み合わせてもよいが、図2に示すように、流体デバイス10では、第1の平板21と第2の平板22とが、複数の前記構成部材機能を有する。
【0023】
図3に示すように、流体デバイス10は、アレイ部15を外部から観察するための顕微鏡2と、送液チューブ3を介して流路に液体を供給するシリンジポンプ等のポンプ4と、供給する液体を切り替えるためのバルブ5と、温度制御装置6と、これらの動作を制御する中央演算装置7等と、ともに分析システム1を構成している。
【0024】
分析システム1では、中央演算装置7が、流路に流す液体の種類および流速を制御する。さらに、中央演算装置7は、均一流、脈流、または、不均一流のように流体の流し方を制御することができる。
【0025】
なお、微少憩室14は主流路13の側面以外の壁面、すなわち天面および底面に交互に設けられていてもよい。この場合には、主流路13の天面または底面と、天面または底面に設けられた隣接する微少憩室14とで画定される部分が、梁として主流路13の両側面の間を支えるため、両側面の間隔(幅:W)を一定に保持する。
【0026】
次に、流体デバイス10の平面脂質二重膜の形成方法について説明する。流体デバイス10の平面脂質二重膜形成には、第1液注入工程と、第2液注入工程と、第3液注入工程とが、途中で流路に空気が入ることなく、順に行われる。
【0027】
図4(A)に示すように、第1液注入工程では、第1液である第1の水溶液W1が送液口12から、注入され、主流路内および複数の微少憩室内が第1の水溶液W1で満たされる。なお、以下の図において矢印は溶液の流れを示している。
【0028】
pH緩衝生理食塩水等からなる第1の水溶液W1には、平面脂質二重膜の形成に影響がない各種成分を含む。例えば、後述するように、第1の水溶液W1には、平面脂質二重膜に組み込む膜タンパク質Pが含まれる。さらに、膜タンパク質Pがイオンチャンネルのように特定のイオンの輸送に関与する場合には、第1の水溶液W1は前記イオンの変動を検出するのに適した塩組成物、例えば蛍光物質Fを含むことが好ましい。
【0029】
第2液注入工程では、第2液である脂質Lを溶解した油性溶液W2が送液口12から注入される。すると、主流路内の第1の水溶液W1は押し流され、主流路内は油性溶液W2で置換される。
【0030】
油性溶液W2の脂質Lは、脂質二重膜形成成分であり、親水基(親水性原子団)と疎水基(疎水性原子団)とを有する。脂質Lとしては、例えば、リン脂質、糖脂質、コレステロール、または、その他の化合物から、形成する脂質二重膜に応じて適宜選択される。リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン等である。糖脂質は、セレブロシド、ガングリオシド等である。
【0031】
一方、脂質Lを溶解する油性溶媒は、各種の有機溶媒、例えば、ヘキサデカン、スクアレン等から選択される。
【0032】
図4(B)に示すように、第2液注入工程において、主流路内の第1の水溶液W1は、油性溶液W2で置換されるが、微少憩室内の第1の水溶液W1は残留する。このため、微少憩室14の開口部に第1の水溶液W1と油性溶液W2との界面が形成される。すると、油性溶液W2に溶解されている脂質Lの一部は、界面において、親水基を第1の水溶液側に向けて配列した単分子膜状態となる。
【0033】
第3液注入工程では、第3液である第2の水溶液W3が送液口12から注入される。すると、主流路内の油性溶液W2は押し流され、主流路内は第2の水溶液W3で置換される。第2の水溶液W3は第1の水溶液W1と同じpH緩衝生理食塩水等である。
【0034】
図4(C)に示すように、第3液注入工程において、主流路内の油性溶液W2が第2の水溶液W3で置換されるときに、微少憩室14の開口部に配列していた単分子脂質膜の疎水基に、油性溶液中の脂質Lの疎水基が配列し、微少憩室14の開口部を封止する脂質二重膜L2が形成される。すなわち、脂質二重膜L2は、脂質2分子がテール・ツー・テール式に疎水基どうしが向き合うように配向した構造である。
【0035】
ここで、第1液(第1の水溶液W1)として、精製膜タンパク質であるα−ヘモリシン(P)と蛍光物質であるカルセイン(F)とを含む溶液を用いた場合には、第2液注入工程において、α−ヘモリシンPが第2液(油性溶液W2)に溶解される。そして、図5の断面模式図に示すように、第3液注入工程において、脂質Lが脂質二重膜L2になると、α−ヘモリシンPは自己集合してカルセインFが通過できる、脂質二重膜L2を貫通した微細貫通孔を有する7量体を形成する。すなわち、膜タンパク質Pが組み込まれた脂質二重膜L2が形成される。すると、カルセインFが微細貫通孔を介して微少憩室14から主流路13に流出する。このため、脂質二重膜L2を形成するときに微少憩室内の蛍光強度を測定していると、蛍光強度の低下により膜タンパク質が組み込まれた脂質二重膜の形成を検出できる。
【0036】
次に、実施形態の流体デバイス10に脂質二重膜L2を形成し、その保持時間を測定した結果等について説明する。
【0037】
流体デバイス10の脂質二重膜L2を形成には、第1液(第1の水溶液W1)として、Dulbeccoリン酸緩衝生理食塩水(以下、「DPBS」という。インビトロジェン株式会社)にカルセイン(C0875−5G、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を50μM添加して用いた。第2液(油性溶液W2)として、ヘキサデカンにホスファチジルコリン(DPhPc、850356C、Avanti Polar Lipids INC、フナコシ株式会社)を5−20mg/mL添加して用いた。第3液(第2の水溶液W3)として、DPBSを用いた。第1液の流速は1μL/分、第2液の流速は0.3−0.6μL/分、第3液の流速は最大0.15μL/分とした。
【0038】
流体デバイス10の寸法は、主流路13が、幅(W)=60μm、深さ(D)=8μmであり、微少憩室14が、開口部幅(w)=9μm、奥行き(t)=19μm、深さ(d)=8μmである。図6(A)に示すように、開口部20とは、主流路13と微少憩室14とをつなぐ流路の最小面積部分である。
【0039】
ここで、比較のため、流体デバイス10よりも、開口部20Aの面積、特に開口部幅が大きい、流体デバイス10Aを作製した。図6(B)に示すように、流体デバイス10Aは、微少憩室14Aが、開口部幅(w)=17μm、奥行き(t)=19μm、深さ(d)=8μmである。
【0040】
すなわち、流体デバイス10の開口部面積Sは、72μmであり、流体デバイス10Aの開口部面積Sは、136μmである。
【0041】
そして、脂質二重膜保持時間は、流体デバイス10Aでは、110分であったのに対して、流体デバイス10では、1470分(24.5時間)であった。
【0042】
微少憩室の開口部面積Sは脂質二重膜の形成面積である。すでに説明したように、脂質二重膜を形成後も第3液が常に流路内に流れている。このため、第3液の流れによる圧力のために、開口部面積Sが広い場合には、脂質二重膜が破壊され易いためと考えた。すなわち、脂質二重膜の保持時間を長くするためには、脂質二重膜の形成面積、すなわち、脂質二重膜を形成する微小憩室の開口部面積を狭く、適切に設定することが重要であることが判明した。
【0043】
そして、分析に必要な脂質二重膜保持時間を得るためには、開口部面積Sが、120μm以下であればよく、好ましくは、100μm以下であり、特に好ましくは80μm以下であった。開口部面積Sが、80μm以下では、脂質二重膜保持時間が24時間以上であった。
【0044】
開口部面積Sの下限値は、脂質二重膜に膜タンパク質を組み込むことが可能な面積であればよい。例えば、図5の断面模式図に示した、α−ヘモリシンPが自己集合した膜貫通細孔を有する7量体を脂質二重膜L2に組み込むために必要な、開口部面積Sは80nm以上である。
【0045】
また、図6(A)に示したように、流体デバイス10では、微少憩室14が、開口部20と平行な断面の面積が、開口部20の前記面積よりも大きい形状である。言い換えれば、微少憩室14は、入り口である開口部20よりも奥の空間の方が断面積が大きい、いわゆる蛸壺形状である。すなわち、微少憩室14の体積(V)が、「開口部面積(S)×奥行き(t)」より大きい。微少憩室14の体積(V)とは開口部20よりも奥の体積である。流体デバイス10では、開口部20が略略矩形のため、開口部面積(S)×奥行き(t)=開口部幅(w)×深さ(d)×奥行き(t)≦微少憩室の体積(V)、である。
【0046】
これに対して、図6(B)に示したように、流体デバイス10Aでは、微少憩室14Aが、開口部20Aと平行な断面の面積が、開口部20Aの前記面積と同じ、直方体形状である。すなわち、開口部面積(S)×奥行き(t)=開口部幅(w)×深さ(d)×奥行き(t)=微少憩室の体積(V)、である。
【0047】
同じ開口部面積Sであっても、開口部と平行な断面の面積が、開口部の前記面積よりも大きい形状の微少憩室を有する流体デバイスは、略直方体の微少憩室を有する流体デバイスよりも脂質二重膜保持時間が長いことが判明した。
【0048】
そして、流体デバイス10では、微少憩室14の体積(V)が、開口部面積(S)×奥行き(t)の約2倍であったが、1.5倍以上であれば効果が容易に確認でき、2倍以上であれば効果が顕著に確認できる。なお、前記倍率の上限は流体デバイスの小型化の観点からは、例えば10倍である。
【0049】
脂質二重膜によって封止される微少憩室内の第1液の体積Vが、小さい流体デバイスは送液によって主流路13を通過する液体の圧力が変動しても、微少憩室内の第1液W1の体積変動が小さいため、脂質二重膜が破裂しにくいものと考えた。
【0050】
また、流体デバイス10および流体デバイス10Aの開口部形状は略矩形であるが、開口部形状により、脂質二重膜保持時間は変化する。例えば、流体デバイス10と類似の構成かつ略同一の開口部面積であっても、図7(A)に示す略円形形状の開口部20Bの流体デバイス10Bでは、脂質二重膜保持時間が大幅に増加した。また図8(B)に示す略楕円形形状の開口部20Cの流体デバイス10Cでも、開口部形状が略矩形の流体デバイスと比較すると、脂質二重膜保持時間が増加した。これは、送液によって主流路13を通過する液体の圧力が変動したときに、脂質二重膜に生じる応力が均一化するためと考えられる。
【0051】
すなわち、流体デバイスは同じ開口部面積Sの場合には、開口部外周長が短いほど、脂質二重膜が破裂しにくい。さらに開口部外周に鋭角〜直角の角部がない方が、脂質二重膜が破裂しにくい。このため、開口部の形状は、略円形または略楕円形であることが、より好ましい。
【0052】
なお、主流路13がPDMSからなる流体デバイスでは、脂質二重膜の溶媒成分(油性溶液)が、耐有機溶剤性のないPDMSからなる壁面から吸収されるため、脂質二重膜が破壊されてしまうことがあった。これに対して、流路の壁面が、耐有機溶剤性のあるガラスからなる流体デバイス10は脂質二重膜の溶媒成分が壁面に吸収されることがないため、長時間、保持できる。
【0053】
さらに、主流路13の表面が親水性の流体デバイスでは、第2液(油性溶液)W2を注入したとき、微少憩室内だけでなく、主流路13の側面にも第1液(第1の水溶液)W1が残留することがある。このため、続いて第3液(第2の水溶液)W1を注入しても、アレイ部15に脂質二重膜は形成されないことがある。
【0054】
流路の壁面を構成する材料の、水に対する接触角は、40度以上、好ましくは60度以上、特に好ましくは90度以上であった。前記範囲以上であればアレイ部15に脂質二重膜が形成可能であり、接触角が大きいほど、アレイ部15の多くの微少憩室14の開口部に脂質二重膜が形成された。接触角の上限は特にないが、第1液注入工程において、効率良く、微少憩室内を第1の水溶液で満たすためには130度以下が好ましい。
【0055】
以上の説明のように、80nm以上120μm以下の面積の開口部に平面脂質二重膜が形成される微少憩室を具備するマイクロ流体デバイスは、平面脂質二重膜を長時間にわたり保持できる。特に、耐有機溶剤性かつ疎水性の材料からなる壁面を有する主流路13からなる本実施形態の流体デバイス10は微少憩室14の開口部に確実に平面脂質二重膜が形成可能である。
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等ができる。
【符号の説明】
【0057】
1…分析システム
3…送液チューブ
4…ポンプ
5…バルブ
6…温度制御装置
7…中央演算装置
10、10A〜10C…マイクロ流体デバイス
12…送液口
12H…貫通孔
12P…送液口構成部材
13…主流路
13P…主流路構成部材
14…微少憩室
14P…微少憩室構成部材
15…アレイ部
16…貯液槽接続部
16P…貯液槽構成部材
17…貯液槽
17H…貫通孔
20…開口部
21…第1の平板
21V…凹部
22…第2の平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液口と、
前記送液口から延設された主流路と、
前記主流路の壁面に設けられ、80nm以上120μm以下の面積の開口部に平面脂質二重膜が形成される複数の微少憩室と、
前記主流路から延設された貯液槽と、を具備することを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記主流路が、耐有機溶剤性かつ疎水性の材料からなる壁面を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記微少憩室が、前記開口部と平行な断面の面積が、前記開口部の前記面積よりも大きい形状であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記開口部の形状が、円形または楕円形であることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記主流路の壁面が、耐有機溶剤性を有する親水性材料からなり、壁面が疎水化処理されていることを特徴とする請求項2または請求項4に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記疎水化処理が、シランカップリング剤またはジシラザン剤によることを特徴とする請求項5に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記親水性材料が、ガラスまたはシリコンの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−205537(P2012−205537A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73313(P2011−73313)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託業務「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】