説明

マイクロ流路チップ及びそれを用いた気液相分離方法

【課題】アンモニア等の液体に可溶性のガスを、再現性良く、高感度に測定する方法及びそれに用いられる気液相分離方法並びにそのためのマイクロ流路チップを提供すること。
【解決手段】マイクロ流路チップは、基板内に設けられたマイクロ流路と、マイクロ流路の下流端に接続され、深さが10μm〜100μmであり、上部が多孔性膜で被覆された気液相分離マイクロ流路とを具備する。マイクロ流路内を流通する気相と液相から成る二相流であって液相流がマイクロ流路の周縁部を流通し、気相流がその内側を流通する二相流から、気相を排除して液相流にする気液相分離方法は、マイクロ流路チップ内のマイクロ流路に二相流を流通させ、気液相分離マイクロ流路に導き、この領域を流通させ、それによって気相流を多孔性膜を介して気液相分離マイクロ流路から外部に排出することを含む、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路内を流れる、気相流と液相流から成る二相流から気相流を排除して液相流にすることが可能なマイクロ流路チップ及びそれを用いた気液相分離方法並びに気体被検物質測定用マイクロ流路チップ及び気体被検物質測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、不良率を下げるため、塵埃等が極めて少ないクリーンルーム内で製造されている。クリーンルーム内の空気は、塵埃を含まないだけではなく、アンモニアを含まないことも要求される。クリーンルーム内の空気中にアンモニアが数ppbの低濃度でも含まれると、超微細加工パターニングの精度が低下し、不良率が増大する。このため、クリーンルーム内の空気中のアンモニア濃度は、常時監視する必要がある。
【0003】
現在、クリーンルーム内の空気中のアンモニア濃度は、ポンプにより所定の流量でクリーンルーム内の空気を約100mL程度の捕集液に通し、空気中のアンモニアを捕集液に捕集し、この捕集液を分析センターに移送して、捕集液内のアンモニアを定量することにより測定されている。
【0004】
しかしながら、この方法では、分析センターまでの搬送時間も含めると、測定開始から分析結果が出るまでに約3日を要し、アンモニア濃度が高くなっても迅速な対応をとることができない。また、この方法によるアンモニアの検出限界は、50ppb程度であり、不十分である。
【0005】
分析センターに搬送することなく、クリーンルーム内でその場で短時間、好ましくは20分程度以内で測定することが可能で、測定感度が1ppbのオーダーである、空気中のアンモニア濃度の測定方法を開発することが望まれる。
【0006】
本願発明者らは、マイクロ流路チップを利用して空気中のアンモニア濃度を測定する方法を開発した(非特許文献1)。この方法では、アンモニアを含む被検試料である空気と、捕集液をマイクロ流路内に導入し、マイクロ流路内において気液二相流を生成させて気相から液相にアンモニアを抽出し、上部に直径2mmの孔を開けたマイクロ流路を通過させて気相を排出して二相流を液相流に変換し、この液相流にアンモニア分析のための発色液と酸化液を導入して発色させ、熱レンズ顕微鏡(TLM)で発色を測定することにより、アンモニア濃度を測定する。
【0007】
この方法によれば、10分間程度の時間で1ppbのオーダーで、その場で空気中のアンモニア濃度を測定することができ、上記要求に応えることができる。
【0008】
しかしながら、この方法では、測定の再現性が低く、測定値の変動係数(CV)が20%である。従って、より再現性の高い測定方法を開発することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】第69回分析化学討論会要旨集、31頁、2008年、日本分析化学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アンモニア等の液体に可溶性のガスを、再現性良く、高感度に測定する方法及びそれに用いられる気液相分離方法並びにそのためのマイクロ流路チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、非特許文献1に記載された方法における再現性の低さは、マイクロ流路における気液相分離が不安定であることに起因することを見出した。そして、再現性良く測定結果が得られる方法を鋭意研究した結果、気液相分離を行うマイクロ流路では、マイクロ流路の深さを特定の範囲内にすると共にマイクロ流路の上部をガスの流通が可能な多孔性膜で被覆することにより十分な気液相分離が行えることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、基板内に設けられたマイクロ流路と、該マイクロ流路の下流端に接続され、深さが10μm〜100μmであり、上部が多孔性膜で被覆された気液相分離マイクロ流路とを具備するマイクロ流路チップを提供する。
【0013】
また、本発明は、マイクロ流路内を流通する気相と液相から成る二相流であって液相流が前記マイクロ流路の周縁部を流通し、気相流がその内側を流通する二相流から、気相を排除して液相流にする気液相分離方法であって、上記本発明のマイクロ流路チップ内の前記マイクロ流路に前記二相流を流通させ、前記気液相分離マイクロ流路に導き、該領域を流通させ、それによって前記気相流を前記多孔性膜を介して前記気液相分離マイクロ流路から外部に排出することを含む、気液相分離方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、
捕集液に可溶性の気体である被検物質を含む試料ガスを導入する試料ガス導入マイクロ流路と、
前記捕集液を導入する捕集液導入マイクロ流路と、
前記試料ガス導入マイクロ流路と前記捕集液導入マイクロ流路との合流部の下流に位置するガス抽出マイクロ流路であって、液相流が前記ガス抽出マイクロ流路の周縁部を流通し、気相流がその内側を流通する二相流が流通するガス抽出マイクロ流路と、
該ガス抽出マイクロ流路の下流端に接続され、深さが10μm〜100μmであり、上部が多孔性膜で被覆された気液相分離マイクロ流路と、
該気液相分離マイクロ流路の下流に接続され、該気液相分離マイクロ流路を通過することによって気相流が前記多孔性膜から排出された残りの液相流が流通し、該液相流中に含まれる前記被検物質を測定する被検物質測定マイクロ流路とを具備する、気体被検物質測定用マイクロ流路チップを提供する。
【0015】
さらに、本発明は、上記本発明のマイクロ流路チップの前記試料ガス導入マイクロ流路に前記試料ガスを導入する工程と、
前記捕集液導入マイクロ流路に前記捕集液を導入する工程と、
前記試料ガスと前記捕集液とにより形成される前記二相流を前記ガス抽出マイクロ流路に流通させ、それによって前記試料ガス中の前記被検物質を前記捕集液中に捕集する工程と、
前記二相流を、前記気液相分離マイクロ流路に流通させ、それによって気相流を前記多孔性膜から外部に排出して液相流にする工程と、
得られた液相流中に含まれる前記被検物質を測定する工程とを含む、気体被検物質の測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マイクロ流路中で十分な気液相分離を安定して行うことができる新規な気液相分離方法及びそのためのマイクロ流路チップが提供された。本発明の気液相分離方法を非特許文献1等に記載されている、マイクロ流路を用いた被検ガスの測定方法に適用することにより、被検ガスを、短時間、高感度に再現性良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】気液相分離マイクロ流路を具備する本発明のマイクロ流路チップの1具体例の模式断面図である。
【図2】マイクロ流路内を流れる二相流を模式的に示す図である。
【図3】液体に可溶性の気体の被検物質の測定のための本発明のマイクロ流路チップを模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施例になるマイクロ流路チップの模式平面図である。
【符号の説明】
【0018】
10 基板
12 マイクロ流路
14 気液相分離マイクロ流路
16 多孔性膜
18 気相流
20 液相流
22 液体に可溶性の気体の被検物質の測定のためのマイクロ流路チップ
24 試料ガス導入マイクロ流路
26 捕集液導入マイクロ流路
28 被検物質
30 被検物質測定マイクロ流路
34 酸化液導入マイクロ流路
36 発色液導入マイクロ流路
【発明を実施するための形態】
【0019】
基板内にマイクロ流路を設けたマイクロ流路チップ自体は、種々の化学反応を行う効率良く行うことができ、既に広く用いられている。マイクロ流路は、多くの場合、ガラス、プラスチック、金属等の基板に溝状に設けられ、その上部をガラス板等の平板で被覆したものであり、その断面形状は、通常、ほぼ半円形又は半楕円形である。もちろん、マイクロ流路の断面形状は半円形又は半楕円形に限定されるものではなく、矩形、円形、楕円形等、他の任意の形状であり得る。マイクロ流路の幅は、通常、10μm〜600μm程度、好ましくは100μm〜500μm程度、深さは、通常、5μm〜300μm程度、好ましくは50μm〜200μm程度である。
【0020】
本発明のマイクロ流路チップにおける気液相分離マイクロ流路は、このような、基板内に設けられたマイクロ流路の下流端に接続され、深さが10μm〜100μm、好ましくは40μm〜90μmであり、上部が多孔性膜で被覆されたマイクロ流路である。
【0021】
以下、図面に基づき、本発明のマイクロ流路チップの好ましい具体例を説明する。気液相分離マイクロ流路を具備する本発明のマイクロ流路チップの1具体例の模式断面図を図1に示す。図1は、マイクロ流路を形成した基板を側面から見た断面図である。基板10内にマイクロ流路12が形成されている。図示の具体例では、マイクロ流路12の深さはd1である。マイクロ流路12の下流端には、気液相分離マイクロ流路14が接続されている。マイクロ流路の深さはd2であり、図示の通り、d2はd1よりも小さい。マイクロ流路の幅(図1の紙面に垂直な方向の幅)は、マイクロ流路12と気液相分離マイクロ流路14とも同じでもよいし、異なっていてもよい。また、気液相分離マイクロ流路14の長さは、特に限定されないが、通常、0.5cm〜5cm程度、好ましくは1cm〜2cm程度である。
【0022】
気液相分離マイクロ流路14の上部は、多孔性膜16で被覆されている。多孔性膜16は、ガスが流通できるものであれば、特に限定されないが、その平均孔径は、通常、0.1μm〜2.0μm程度、好ましくは平均孔径が0.4μm〜1μm程度であり、空孔率は、50%〜90%程度、好ましくは70%〜80%程度である。また、多孔性膜の厚さは、特に限定されないが、通常、10μm〜200μm、好ましくは50μm〜100μm程度である。多孔性膜16の材質としては、ガスが流通できるものであれば、特に限定されないが、疎水性材料から成るものが好ましい。ここで、疎水性材料から成る多孔性膜は、水と接触しても反対側に水が浸潤して来ない程度の疎水性がある多孔性膜を意味する。多孔性膜を形成する好ましい疎水性材料として、ポリテトラフロロエチレン(商品名テフロン(登録商標))、パーフルオロアルコキシエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ナイロン等を挙げることができる。多孔性膜16として好ましく用いることができるテフロン(登録商標)は、市販されている(型番:T080A025A、アドバンテック社製)ので、市販品を好ましく用いることができる。
【0023】
なお、図1に示す具体例のマイクロ流路チップは、2枚の基板、すなわち、下部基板10aと上部基板10bから構成され、下部基板10aの上面にマイクロ流路12が溝状に形成され、上部基板10bの上面に気液相分離マイクロ流路14が溝状に形成されている。上部基板10b内に鉛直方向の孔を形成して気液相分離マイクロ流路14の上流端にマイクロ流路12を接続することによりマイクロ流路12の下流端と気液相分離マイクロ流路14の上流端が接続される。また、上部基板10bの底面により、マイクロ流路12の上部が被覆され、マイクロ流路12は閉じられる。このような構成にすれば、容易に本発明のマイクロ流路チップを作製することができる。もっとも、マイクロ流路12と気液相分離マイクロ流路14を同一の基板内に形成し、マイクロ流路12の上部はガラス板等の平板で被覆し、気液相分離マイクロ流路14の上部のみ上記多孔性膜16で被覆してもよい。
【0024】
本発明のマイクロ流路チップを用いて、マイクロ流路内を流通する、気相と液相から成る二相流の気液分離を行うことができる。すなわち、マイクロ流路内から気相を排出して液相流にすることができる。まず、マイクロ流路12の上流部分で、気相流と液相流をマイクロ流路12にポンプを用いて導入する(後述)。そうすると、図2に模式的に示すように、液相流20は、表面張力によりマイクロ流路12の内面に沿って膜状になって流れ(液膜流)、気相流18は、その内側(中心側)を流れる。図1において、気相流18は白抜きで、液相流20は、濃い灰色で示されている。このような液相流20と、その内側を流れる気相流18を含む二相流がマイクロ流路12内を流通する。この二相流が気液相分離マイクロ流路14に到達すると、気相流18が多孔性膜16を介して外部に排出され(図1中、白抜きの上向き矢印で示す)、二相流は液相流20になる(図1の気液相分離マイクロ流路14の右側半分は、液相流20のみが図示されている)。この際、気液相分離マイクロ流路14の深さd2が、マイクロ流路12の深さd1よりも浅いと、気相がさらに排出されやすくなり好ましい。液相流20は、さらに下流において、任意の化学反応を利用した測定に供される。
【0025】
上記した、本発明の気液相分離方法によれば、気液相分離を24時間以上に亘って安定に行うことができる。これに対し、直径2mmの穴から気相を排出する、非特許文献1記載の方法では、気液相分離はこれまで最大8時間しか連続して行うことができていない。また、非特許文献1記載の方法では、液が溜まる体積が大きくなるため、分離した液をスムーズに下流へ送液できなくなる。これに対し、多孔性膜を用い、好ましくは気液相分離マイクロ流路の深さを浅くすることで液溜まりの体積を低減し、送液がスムーズになる。さらに、非特許文献1記載の方法では、相分離するための圧力条件が狭く、ポンプの乱れや湿度・温度変化によって相分離に失敗する場合がある。本発明の方法によれば、相分離可能なマイクロ流路内の圧力条件が広がり、外乱や周辺環境の変化に対して強い相分離法となる。
【0026】
上記した、本発明の気液相分離方法は、アンモニアのような、液体に可溶性の気体の被検物質の測定に利用することができる。以下、好ましい具体例を図面に基づいて説明する。
【0027】
液体に可溶性の気体の被検物質の測定のためのマイクロ流路チップ22(図3)は、捕集液に可溶性の気体である被検物質を含む試料ガスを導入する試料ガス導入マイクロ流路24と、前記捕集液を導入する捕集液導入マイクロ流路26とを含む。試料ガス導入マイクロ流路24と捕集液導入マイクロ流路26とが合流し、上記したマイクロ流路12となる。マイクロ流路12は、その内部において、図2に模式的に示されるように、気相流18中の気体の被検物質28が、捕集液から成る液相流20に抽出される(図2の矢印)ので、ガス抽出マイクロ流路として機能する。上記の通り、液相流20がマイクロ流路の内面に沿って流れ、気相流18がその内側を流れる二相流が形成される。この二相流状態において、気相流18中の被検物質28は、効率良く捕集液から成る液相流20中に抽出される。ガス抽出マイクロ流路12の長さは、特に限定されないが、通常、1 cm〜60cm程度、好ましくは30cm〜40cm程度である。
【0028】
ガス抽出マイクロ流路12の下流端は、上記のように気液相分離マイクロ流路14に接続され、気液相分離マイクロ流路14内で上記の通り気液相分離が行われ、二相流は液相流になる。
【0029】
気液相分離マイクロ流路14の下流には、気液相分離マイクロ流路14を通過することによって気相流18が多孔性膜16から排出された残りの液相流20が流通し、液相流20中に含まれる被検物質28(図2)を測定する被検物質測定マイクロ流路30(図1)が接続されている。被検物質測定マイクロ流路30のサイズは、マイクロ流路12について述べた通りの通常のサイズでよく、また、マイクロ流路12のサイズと同じでよいが、異なっていてもよい。被検物質測定マイクロ流路30の長さは、その中で行う化学反応に応じて適宜選択されるが、通常1cm〜80cm程度、好ましくは35cm〜55cm程度である。
【0030】
被検物質測定マイクロ流路30には、被検物質の測定に必要な試薬を導入する1個又は2個以上のマイクロ流路が接続されていてもよい。被検物質がアンモニアである場合には、例えば、次亜塩素酸ナトリウムのような次亜塩素酸塩等の酸化液と、フェノールなどの発色液を作用させて青色色素を生成させるインドフェノール法により測定することができる。インドフェノール法の化学反応式は次の通りである。
【0031】
【化1】

【0032】
従って、被検物質がアンモニアであり、インドフェノール法により発色させて比色定量を行う場合には、酸化液を導入するマイクロ流路と、発色液を導入するマイクロ流路とが被検物質測定マイクロ流路30に接続される。
【0033】
被検物質測定マイクロ流路30内で、測定に必要な化学反応を行った後、被検物質測定マイクロ流路30の下流部分又は被検物質測定マイクロ流路30の下流端からチップ外へ液相流20を排出後、被検物質の測定を行う。ここで、「測定」は、検出、定量、半定量のいずれをも包含する意味で用いている。被検物質であるアンモニアを上記したインドフェノール法により比色定量する場合には、例えば、被検物質測定マイクロ流路30の下流部分で、被検物質測定マイクロ流路30を熱レンズ顕微鏡(TLM)で観察することにより、生成した青色色素を定量することができる。熱レンズ顕微鏡は、励起光、プローブ光と呼ばれる2本のレーザー光をマイクロ流路内の物質に照射し、レーザーの照射により生じる液の屈折率の変化(屈折率は液の温度により変化する)を、励起光を変調させてプローブ光の光量変化を同期検出する装置であり、マイクロ流路内の物質を高感度で定量できるものである。熱レンズ顕微鏡は、既に市販されている(マイクロ化学技研株式会社)ので、市販品を好ましく用いることができる。
【0034】
上記したマイクロ流路チップを用いて空気中に含まれるアンモニアの濃度を測定する場合には、試料ガス導入マイクロ流路24にアンモニア濃度を測定する試料空気を注入すると共に、捕集液として水を捕集液導入マイクロ流路26に注入する。試料ガスの注入速度は、特に限定されないが、通常、10mL/分〜1000mL/分程度、好ましくは50mL/分〜150mL/分程度である。水の注入速度は、特に限定されないが、通常、0.5μL/分〜10μL/分程度、好ましくは1μL/分〜5μL/分程度である。試料ガス導入マイクロ流路24と捕集液導入マイクロ流路26とが合流してガス抽出マイクロ流路12となり、ここで、上記した二相流が形成され、試料空気中のアンモニアは捕集液である水に抽出される。アンモニアの水に対する溶解度は極めて大きいので、室内空気中に含まれる程度のアンモニアであれば、100%抽出される。ガス抽出マイクロ流路12に続く気液相分離マイクロ流路14を通過中に、上記の通り空気流は多孔性膜16から外部に排出され、液相流(水流)20になる。気液相分離マイクロ流路14に続く被検物質測定マイクロ流路30には、上記した酸化液導入マイクロ流路と発色液導入マイクロ流路が接続されており、これらのマイクロ流路からそれぞれ上記酸化液及び発色液がそれぞれ導入される(後述の図4参照)。上記したインドフェノール法における化学反応が被検物質測定マイクロ流路30で起き、生成した青色色素を上記熱レンズ顕微鏡で定量する。
【0035】
下記実施例において具体的に説明するように、この方法によれば、アンモニアの検出限界濃度1ppbを達成することができる。また、この方法によれば、空気流の排出が非特許文献1記載の方法に比べてより完全に行われるので、熱レンズ顕微鏡による測定値のばらつきが小さくなり、再現性が高い。
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例1
図1に示す気液相分離マイクロ流路を有するマイクロ流路チップを作製した。その模式平面図を図4に示す。被検物質測定マイクロ流路30には、酸化液導入マイクロ流路34と発色液導入マイクロ流路36を接続した。図4に示すマイクロ流路チップでは、アンモニアガスを溶解した捕集液を、気液相分離部分を通過させた後、一旦チップの外のチューブ(図4中、実線の矢印)に導き、チップ内の流路に再び導入して発色液及び酸化液と合流させ、それよりも下流のマイクロ流路内で反応させている。なお、図4は、マイクロ流路を形成した基板を示しており、「気液相分離部」として長方形で囲まれている部分にあるマイクロ流路はテフロン(登録商標)膜で被覆される。気液相分離マイクロ流路14の断面は、幅400μm、深さ80μmの半楕円形であり、これ以外のマイクロ流路の断面は、全て幅500μm、深さ150μmの半楕円形であった。ガス抽出マイクロ流路12の長さは、35cm、気液相分離マイクロ流路の長さは1cm、被検物質測定マイクロ流路30の長さは50cmであった。マイクロ流路チップは、図1に基づいて上記した通り、2枚のガラス基板の上面に、それぞれマイクロ流路を形成してこれらのガラス基板を積層することにより作製した。
【0038】
このマイクロ流路の上流(図4中、「NH3ガス」と記載)とから、窒素ガスで希釈したNH3ガスを100ml/分、捕集液である水を3μL/分の流速で導入し、気液相分離マイクロ流路の部分を顕微鏡で観察した。その結果、気液相分離を、24時間以上に亘って安定に行うことができ、気液相分離後の液の流れもスムーズであった。
【0039】
比較例1
気液相分離マイクロ流路14に代えて、直径2mmの空気孔をマイクロ流路の上部に設けたこと以外は、実施例1と同様なマイクロ流路チップを作製し、上記と同様に気液相分離の様子を顕微鏡観察した。その結果、気液相分離は、最大で連続8時間しか達成できなかった。また、気液相分離後の液の流れがスムーズでない場合が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板内に設けられたマイクロ流路と、該マイクロ流路の下流端に接続され、深さが10μm〜100μmであり、上部が多孔性膜で被覆された気液相分離マイクロ流路とを具備するマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記気液相分離マイクロ流路の深さが、前記マイクロ流路の深さよりも浅い請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記多孔性膜の平均孔径が0.1μm〜2.0μmである請求項1又は2記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記多孔性膜が疎水性材料から成る請求項1ないし3のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記多孔性膜がポリテトラフロロエチレン膜である請求項4記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記マイクロ流路の幅が10μm〜600μm、深さが5μm〜300μmである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記気液相分離マイクロ流路の長さが0.5cm〜5cmである請求項1ないし6のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
マイクロ流路内を流通する気相と液相から成る二相流であって液相流が前記マイクロ流路の周縁部を流通し、気相流がその内側を流通する二相流から、気相を排除して液相流にする気液相分離方法であって、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ内の前記マイクロ流路に前記二相流を流通させ、前記気液相分離マイクロ流路に導き、該領域を流通させ、それによって前記気相流を前記多孔性膜を介して前記気液相分離マイクロ流路から外部に排出することを含む、気液相分離方法。
【請求項9】
捕集液に可溶性の気体である被検物質を含む試料ガスを導入する試料ガス導入マイクロ流路と、
前記捕集液を導入する捕集液導入マイクロ流路と、
前記試料ガス導入マイクロ流路と前記捕集液導入マイクロ流路との合流部の下流に位置するガス抽出マイクロ流路であって、液相流が前記ガス抽出マイクロ流路の周縁部を流通し、気相流がその内側を流通する二相流が流通するガス抽出マイクロ流路と、
該ガス抽出マイクロ流路の下流端に接続され、その深さが10μm〜100μmであり、上部が多孔性膜で被覆された気液相分離マイクロ流路と、
該気液相分離マイクロ流路の下流に接続され、該気液相分離マイクロ流路を通過することによって気相流が前記多孔性膜から排出された残りの液相流が流通し、該液相流中に含まれる前記被検物質を測定する被検物質測定マイクロ流路とを具備する、気体被検物質測定用マイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記いずれかのマイクロ流路に合流する少なくとも1つのマイクロ流路であって、前記被検物質の測定に必要な試薬を供給する試薬導入マイクロ流路をさらに具備する請求項9記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
請求項9又は10記載のマイクロ流路チップの前記試料ガス導入マイクロ流路に前記試料ガスを導入する工程と、
前記捕集液導入マイクロ流路に前記捕集液を導入する工程と、
前記試料ガスと前記捕集液とにより形成される前記二相流を前記ガス抽出マイクロ流路に流通させ、それによって前記試料ガス中の前記被検物質を前記捕集液中に捕集する工程と、
前記二相流を、前記気液相分離マイクロ流路に流通させ、それによって気相流を前記多孔性膜から外部に排出して液相流にする工程と、
得られた液相流中に含まれる前記被検物質を測定する工程とを含む、気体被検物質の測定方法。
【請求項12】
前記気体被検物質がアンモニアである請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記マイクロ流路チップが、2個の前記試薬導入マイクロ流路をさらに具備する請求項9記載のマイクロ流路チップであり、一方の試薬導入マイクロ流路から発色液を導入し、もう一方の試薬導入マイクロ流路から酸化液を導入する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
アンモニアの測定を、熱レンズ顕微鏡を用いて行う請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−234313(P2010−234313A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86805(P2009−86805)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省が実施する「高度分析機器開発実用化プロジェクト」に基づく「クリーンルーム中の低濃度汚染物質の濃縮検出装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(502100415)マイクロ化学技研株式会社 (8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】