説明

マイタケ属キノコ由来のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質

【課題】本発明は、現在増加し続けているアトピー性皮膚炎を、副作用なく安全に治療もしくは改善できる医薬品、飲食品、スキンケアー用品またはその他製品を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者等はアトピー性皮膚炎を、副作用なく安全に、治療・改善できる方法を探索研究する中で、マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分、抽出物の主要成分である多糖体・タンパク質複合体が有効であることを知見して本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効なマイタケ(舞茸)属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分に関する。
【背景技術】
【0002】
日本皮膚科学会の診療ガイドラインにおいて、アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、薬物療法としては
(1)炎症に対する外用療法として、ステロイド外用剤、タクロリムス軟膏、
(2)皮膚生理学的異常に対する外用療法としてステロイド、タクロリムスを含まない
外用剤(保湿剤、保護剤)
(3)全身療法として、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤
などが挙げられている。(日本皮膚科学会誌:118(3)325-342(2008):非特許文献1)
【0003】
上記のように、薬物療法が行われているにもかかわらず、有病率は上昇している。そし
て本疾患の解明について種々研究がなされているが、未だ解明が十分に進んだといえる状況になく、新規な治療法がさらに切望されている。本出願人は、1980年代にマイタケの人工栽培に成功し、爾来研究素材として強い関心を持ち長年に亘って研究活動を行ってきており、このマイタケあるいはマイタケ属キノコにおいて新規治療法の開発を行ってきた。
【0004】
マイタケの乾燥粉末あるいはマイタケの抽出エキスを主成分とするアトピー症治療剤については特開平6−72889号(特許文献1)に記載されているが、実施例には、アトピー性皮膚炎で全身が発症した患者に重量比で舞茸粉末:姫マツタケ粉末:椎茸粉末が70:10:20であるきのこ粉末を1日30gずつ1日3回食間に服用させ、約1ケ月で効果が現れ2ケ月後に発赤は半減したとあるが、きのこ粉末1日30g(内舞茸粉末1日21g)の服用は実用的ではないし、安全性の面からも疑問である。加えて、服用量について舞茸粉末0.2〜30g/日、好ましくは1〜20g/日、エキスの場合0.1〜15g好ましくは0.5〜10g/日との記述はあるが、舞茸粉末、舞茸抽出エキス単独について動物、あるいはヒトに対する効果についての記載はない。またエキスについては水、アルコールあるいは炭酸ガスによる抽出エキスとあるが、具体的製法は記載されていない。
【0005】
またマイタケ中の成分β-1,6-glucanにα-1,4側鎖結合をもつMX-Fractionについて、アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた背部塗布試験で症状の増悪を有意に抑制した旨の報告がなされている(日本薬学会 128年会 (2008年)講演要旨集:非特許文献2)が、マイタケの抽出物についての記述はなされていない。
【0006】
また、担子菌の菌糸体培養物から抽出された菌糸体エキスを含む抗アレルギー症状、アトピー性皮膚炎を予防および治療できる保健食品あるいは医薬品について特開2004−67567号(特許文献2)に記載されている。しかしながら担子菌としては、具体的に実施例で記述されているのは、椎茸菌、山伏茸菌、エノキ茸菌等で、しかもこれらの担子菌の菌糸体培養物に関するものであり、一般にキノコといわれる子実体に関するものではない。
【0007】
本出願人は、上述のように、マイタケを研究素材として強い関心を持ち長年に亘って研究活動を行ってきた。マイタケの子実体や菌糸体から抽出した糖‐タンパク複合体に免疫増強作用や抗腫瘍作用があることが判明し特許出願を行っている(特開平9−238697号公報、特許文献3)。
【0008】
一方、マイタケの子実体や菌糸体からの抽出物に免疫抑制効果のある発明(特開平6−312934号公報、特許文献4)やI型およびII型糖尿病の改善効果のある発明(特開平6−312936号公報、特許文献5)についても出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−72889号公報
【特許文献2】特開2004−67567号公報
【特許文献3】特開平9−238697号公報
【特許文献4】特開平6−312934号公報
【特許文献5】特開平6−312936号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本皮膚科学会誌:118(3)325-342(2008)
【非特許文献2】日本薬学会 第128年会 講演要旨集(3)P44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、現在増加し続けているアトピー性皮膚炎を、副作用なく安全に治療もしくは改善できる医薬品、飲食品、スキンケアー用品またはその他製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等はアトピー性皮膚炎を、副作用なく安全に、治療・改善できる方法を探索研究する中で、マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分、糖・たんぱく構成成分が有効であることを知見して本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は
(1)マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分、糖・たんぱく構成成分から選ばれたいずれかの一つまたは二つ以上からなることを特徴とするアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(2)マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出したものであることを特徴とする(1)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(3)マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後適宜乾燥させたものであることを特徴とする(1)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(4)マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後さらにアルコールを最終容量濃度で80〜99%になるように加え放置して沈殿する物質を採取したものであることを特徴とする(1)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(5)マイタケ属キノコ(Grifola)の糖・たんぱく構成成分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後適宜乾燥させたものであることを特徴とする(1)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(6)マイタケ属キノコ(Grifola)の糖・たんぱく構成成分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後さらにアルコールを最終容量濃度で80〜99%になるように加え放置して沈殿する物質を採取したものであることを特徴とする(1)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(7)マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分または糖・たんぱく構成成分における、糖とたんぱく質の比率は60:40〜99:1であることを特徴とする(1)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(8)マイタケ属のキノコがマイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans)、チョレイマイタケ(Grifola umbellata)、トンビマイタケ(Grifola gigantea)のいずれかであることを特徴とする(1)〜(7)記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質、
(9)(1)〜(8)記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有する医薬品、
(10)(1)〜(8)記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有する飲食品、
(11)(1)〜(8)記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有するスキンケアー用品、
(12)(1)〜(8)記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有するペットフード、家畜飼料もしくは家畜飼料添加剤
に関するものである。
【0014】
本発明において、マイタケ属のキノコ(Grifola)としては、マイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)、トンビマイタケ(Grifola gigantean)等いずれも使用することができる。またこれらキノコの子実体を用いることが好ましく、人工栽培されているマイタケ(Grifola frondosa)や白マイタケ(Grifola albicans)を使用するのが、原料確保の面から好ましい。
【0015】
本発明において生マイタケ属キノコとは収穫した状態のものを指し、乾燥マイタケ属キノコとは収穫したマイタケ属キノコを、天日、自然、熱風、赤外線、あるいは凍結等乾燥した物を指し、マイタケ属キノコ乾燥粉末とは乾燥マイタケ属キノコを粉砕機、製粉機等で粉砕あるいは粉末化したものを指す。
【0016】
水抽出の方法は、常温〜135℃で15分〜3時間行う。好ましい抽出方法としては、たとえば100℃以上、圧力釜を用いて1〜2気圧下120℃前後で30分〜1時間で抽出を行う。水としては蒸留水、精製水、イオン交換水、天然水、水道水等いずれも使用しうる。乾燥マイタケ属キノコ1重量に対して水を4〜50倍容量程使用しうる。
【0017】
マイタケ属キノコの水または熱水抽出液に加えるアルコールとしては、メタノール、エタノール等が使用しうるが、エタノールがより好ましい。抽出液にアルコールは最終容量濃度20〜70%、好ましくは40〜60%になるように加え、添加後1〜25℃の温度で1〜20時間放置すると液面もしくは液中に浮遊または容器の壁面に付着する物質が生ずるのでこれら物質を除去する。除去はろ過、網状のもので掬うもしくはピペッティング等により行う。
【0018】
上記のように得られた抽出画分は、(1)そのまま直接に、濃縮した流動エキスあるいは濃縮乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥もしくは凍結乾燥等の乾燥手段により、乾燥抽出エキス末として用いることができるし(2)さらに、抽出画分にアルコールの最終容量濃度が80〜99%、好ましくは80〜90%になるまでアルコールを加え、1〜25℃に放置し析出する沈殿物を採取することもできる。以上、(1)、(2)によって得られた抽出画分は、褐色の吸湿性の高い粉末で、水、アルカリ溶液およびジメチルスルフォキシドに溶解し、アンスロン反応及びニンヒドリン反応が陽性で、糖とたんぱく質より構成されているものと認められる。
【0019】
本発明の糖・たんぱく構成成分とは、1)糖とたんぱく質が化学構造的に結合したもの例えば糖・たんぱく質、糖・たんぱく質複合体など、2)糖とたんぱく質が化学構造的に結合していないもの例えば糖とたんぱく質がそれぞれ含まれているもの、および/または3)上記1)と2)が混在しているものを意味する。マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分または糖・たんぱく構成成分の糖とたんぱく質の比率は60:40〜99:1の範囲で、原料マイタケ属キノコ(Grifola)の種類、品質、抽出・精製の条件等により適宜変動する。
【0020】
マイタケ属(Grifola)の水抽出物もしくは抽出画分や糖・たんぱく構成成分はカラムクロマトグラフィーあるいは電気泳動等によりさらに精製することができる。また、一定のポアサイズの膜を用いて限外ろ過を行うことにより精製することもできる。カラムクロマトグラフィーの具体的な例としては、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。
【0021】
以上のようにして得られた本発明の目的物例えば、マイタケ(Grifola frondosa)抽出画分を、ダニ抗原で発症するアトピー性皮膚炎モデル動物(NC/Ngaマウス)に経口投与し、投与後3週間に亘り、その症状を観察したところ、マイタケ抽出画分投与群では、皮膚の発赤・擦傷・組織欠損などが大いに改善された。また、その組織の電子顕微鏡による観察においても、マイタケ抽出画分投与群は無治療群に比べ、炎症に関与するマスト細胞数の減少ならびに脱顆粒や巨大マスト細胞などの減少等が見られた。
【0022】
本発明のマイタケ(Grifola frondosa)抽出画分は、急性毒性試験の結果より、無毒性量を2000mg/kg体重と考え、安全率を100とみて、外挿すると20mg/kg体重となり、この値はアトピー性皮膚炎モデル動物試験で確認された有効量に一致する。従って、ヒトに対して、好ましくは20mg/kg体重以下、更に好ましくは2〜20mg/kg体重で安全かつ有効に投与できることになる。
【0023】
本発明のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質は医薬品、飲食品、スキンケアー用品、ペットフードや家畜飼料もしくは家畜飼料添加剤等に配合して用いることができる。
【0024】
本発明における医薬品とは、内用、外用の医薬品、動物薬も意味し、種々の剤形にて用いることができる。一例を挙げれば、内服用の錠剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、顆粒剤、粉末剤、丸剤、水液剤、グリセリン添加の水溶液、水溶液アンプル剤、懸濁液剤、エアゾール剤、注射・点滴用の液剤、点眼液、点鼻薬、外皮用のクリーム・軟膏、ローション、テープ剤等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0025】
さらに本発明における飲食品とは一般飲料あるいは一般食品、加工食品、栄養補助食品、サプリメントを含めたいわゆる健康食品、栄養機能食品や特定保健食品を含めた保健機能食品、高齢者や病者用の特別用途食品等すべて包含される。食品形態としてはいわゆる一般食品の形態から、飴、ガム、チョコレート形態、から錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、丸剤、水液剤、グリセリン添加水溶液、懸濁液剤等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明におけるスキンケアー用品とは、皮膚、粘膜を外用により保護、正常化するものはすべて包含し、たとえば化粧品、医薬部外品、石鹸類、浴用剤等が包含されるがこれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0027】
マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分、主要成分である糖・たんぱく構成成分から選ばれたいずれかを一つまたは二つ以上を含有してなる、医薬品、飲食品、スキンケアー用品はアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効でありしかも安全である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】NC/Ngaアトピー性皮膚炎モデルマウス実験におけるマウスの経過写真を示す図。
【図2】NC/Ngaアトピー性皮膚炎モデルマウス実験におけるマウスの各種スコアの経過グラフを示す図。
【図3】NC/Ngaアトピー性皮膚炎モデルマウス実験におけるマウスの総合スコアの経過グラフを示す図。
【図4】NC/Ngaアトピー性皮膚炎モデルマウス実験におけるマウスmast cellの顕微鏡写真を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
1.乾燥マイタケ(Grifola frondosa)粉末1kgを脱イオン水20〜25Lにて、120±1℃で30分間熱抽出処理を行い、その後濾過して、抽出液19〜20Lを得る。該抽出液を減圧加熱濃縮して得られた可溶性画分4〜5Lにエタノ−ルを最終容量濃度40〜60%になるよう添加する。該溶液を4℃で10〜20時間静置すると液面もしくは液中に浮遊または容器の壁面に付着する飴状、茶褐色の物質が生成した。
【0030】
(1)この物質を除去した溶液の半量を減圧加熱濃縮し、アルコールを除く。更に、100±1℃で15分殺菌し、篩で濾過して濃縮液0.5〜0.7Lを得る。該濃縮液を噴霧乾燥し褐色粉末0.15〜0.3kgを得た。
以上得られた褐色粉末の性状は以下の通りであった。
溶解性:水、アルカリ性溶液ジメチルスルフォキシドに溶解
呈色反応:アンスロン反応及びニンヒドリン反応陽性
水溶液の液性:中性〜弱酸性
以上のように得られた褐色粉末を分析したところ主たる成分は糖とたんぱく質でそれらの比率は63:37であった。
【0031】
(2)上記飴状、茶褐色の物質を除去した溶液の残りの半量にエタノールを最終容量濃度が80%以上になるように加え、4℃に静置して、茶褐色の物質3〜5gを得た。
得られた茶褐色の物質をカラムクロマト法で精製し、分析したところ主たる成分は糖とたんぱく質でそれらの比率は96:4であった。
【0032】
[実施例2]
1.試験方法
アトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Ngaマウス)とC57マウス(薬で感作しても、アトピー皮膚炎がおきない正常モデルマウス)を用いた。各群3〜4匹に、実施例1(1)で得た、マイタケ(Grifola frondosa)の抽出画分MDF2mg/kg/day投与群、MDF20mg/kg/day投与群、MDF200mg/kg/day投与群、対象として、非投与群、ベタメタゾン軟膏(ベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩クリーム「リンデロン−VG クリーム0.12%」)外用投与群およびC57マウス群の計6群を設定し、試験開始後3日、7日、10日、14日、17日、21日目に(1)発赤・出血(2)痂皮形成(3)浮腫(4)擦傷・組織欠損を観察してスコア化した。 また非投与群、MDF20mg/kg/day投与群、C57マウス群について、試験終了後の皮膚組織をとり電子顕微鏡により、細胞組織像の観察を行った。
【0033】
2.結果:
(1)図1の写真を見ると明らかなように非投与マウスは7日後にアトピー様症状を呈するが、MDF20mg投与マウスはその症状が非常に軽減していることが分かる。
21日後についても非投与群と比較すると明らかな改善効果が見られる。
(2)図2のグラフはMDF2、MDF20、およびMDF200mg/kgをNC/Ngaアトピー性皮膚炎モデルマウスに経口投与したときの各種スコアを示す。最も有効なのはベタメサゾン軟膏であるが、MDF投与群も対照の未処置群と比較すると改善効果が認められ、特にMDF20mg投与群の良好な効果を示している。
(3)図3は各種スコアを総合したもので、上記のようにC57は健常対照群である。総合スコアにおいてもっとも有効であったのはステロイド軟膏であったが、MDF投与群もアトピー性皮膚炎を改善しており、特にMDF20mg/kg群で改善している。
(4)図4はNC/Ngaアトピー性皮膚炎モデルマウスの皮膚組織の顕微鏡写真である。
無治療群に比べてもっともスコアの良かったMDF20mg/kgは明らかに炎症に関与するマスト細胞の数が減少している(棒グラフ)。さらに脱顆粒や巨大マスト細胞などの減少が見られた。
【0034】
[実施例3]
1.試験方法
アルビノラット5匹(雄3匹:雌2匹)を使用。体重1kgあたり実施例1(1)で得られたマイタケ抽出画分を2000mgの投与レベルで1回経口投与した。投与後、1、3、6、24時間に薬理学的行動ならびに毒性症状を観察した。
【0035】
2.結果:
全ての動物は観察期間中生存した。その後、肉眼的剖検を行ったが、特に異常所見は見られなかった。
【0036】
[実施例4]
1.試験方法
実施例1(1)で得られたマイタケ抽出画分の細菌を用いる復帰突然変異試験を、検定菌としてSalmonella typhimurium TA100、TA1535、TA98、TA1537およびEscherichia coli WP2 uvrAを用い、S9 mix無添加および添加条件で50.0〜5000μg/plateの範囲について、プレインキュベーション法で実施した。
【0037】
2.結果:
用いたすべての検定菌において、S9 mixの添加の有無にかかわらず、陰性対照値の2倍以上となる変異コロニー数の増加が認められなかったことから、マイタケ抽出画分は、用いた試験系において変異原性を有しない(陰性)と判定した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によって得られるマイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分、主要成分である糖・たんぱく構成成分はアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善効果があり、医薬品、飲食品、スキンケアー用品あるいはペットフード、家畜飼料もしくは家畜飼料添加剤として、産業上の利用可能性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物、抽出画分、糖・たんぱく構成成分から選ばれたいずれかの一つまたは二つ以上からなることを特徴とするアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項2】
マイタケ属キノコ(Grifola)の水抽出物が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出したものであることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項3】
マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後適宜乾燥させたものであることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項4】
マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後さらにアルコールを最終容量濃度で80〜99%になる様に加え放置して沈殿する物質を採取したものであることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項5】
マイタケ属キノコ(Grifola)の糖・たんぱく構成成分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後適宜乾燥させたものであることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項6】
マイタケ属キノコ(Grifola)の糖・たんぱく構成成分が、生マイタケ属キノコ(Grifola)、乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)もしくは/および乾燥マイタケ属キノコ(Grifola)の粉末を水ないし熱水で抽出して得られる抽出液に、アルコールを最終容量濃度20〜70%になるように加え、放置後液面もしくは液中あるいは容器の壁中に付着する物質を取り除いた後さらにアルコールを最終容量濃度で80〜99%になる様に加え放置して沈殿する物質を採取したものであることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項7】
マイタケ属キノコ(Grifola)の抽出画分または糖・たんぱく構成成分における、糖とたんぱく質の比率は60:40〜99:1であることを特徴とする請求項1記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項8】
マイタケ属のキノコがマイタケ(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans)、チョレイマイタケ(Grifola umbellata)、トンビマイタケ(Grifola gigantea)のいずれかであることを特徴とする請求項1〜7記載のアトピー性皮膚炎の治療もしくは改善に有効な物質。
【請求項9】
請求項1〜8記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有する医薬品。
【請求項10】
請求項1〜8記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有する飲食品。
【請求項11】
請求項1〜8記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有するスキンケアー用品。
【請求項12】
請求項1〜8記載のアトピー性皮膚炎の治療、改善に有効な物質を含有するペットフード、家畜飼料もしくは家畜飼料添加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63534(P2011−63534A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214649(P2009−214649)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、「民間実用化研究促進事業/まいたけ免疫制御成分の特定と機能性食品としての開発研究」、学校法人新潟科学技術学園新潟薬科大学を再委託先として実施した産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(593084915)株式会社雪国まいたけ (30)
【Fターム(参考)】