説明

マグネットクラッチ付きモータ装置およびこれを備えた機器

【課題】長期間または高頻度でトルクの伝達と遮断が繰り繰り返されても、良好なトルクの伝達性能を維持する。
【解決手段】モータ装置は、ウォーム歯車9と、出力部6aを有してウォーム歯車に噛み合うはすば歯車6と、モータ1の駆動力により回転される第1のマグネット2と、ウォーム歯車と一体回転可能かつ軸方向に一体移動可能な第2のマグネット3とを有する。ウォーム歯車は、第2のマグネットが第1のマグネットに吸着する第1の位置にてはすば歯車と噛み合い、第1の位置にあるウォーム歯車に被駆動機構15側からの外力が軸方向の力として作用することにより、第2のマグネットが第1のマグネットから離脱してウォーム歯車がはすば歯車とのトルク伝達を遮断する第2の位置に移動する。第1および第2のマグネットの吸着面には、各マグネットの回転方向において複数の磁極が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネットクラッチを備えたモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ装置には、モータと、該モータの出力軸に取り付けられたウォーム歯車と、該ウォーム歯車に噛み合って、ウォーム歯車からのモータ駆動力を被駆動機構に伝達するはすば歯車とを有するものがある。モータの駆動力を被駆動機構に伝達することで、様々な機器を動作させることができる。
【0003】
このようなモータ装置を便座・便蓋の開閉駆動に用いた便座便蓋開閉ユニットが、特許文献1にて開示されている。この便座便蓋開閉ユニットに用いられているモータ装置には、開閉駆動されている便座・便蓋にその動きを妨げるような外力が加わった場合に、モータや歯車に衝撃荷重や過大トルクが作用することを防止できるように、トルクリミッタ機構が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−95120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にて開示されているような従来のモータ装置に設けられたトルクリミッタでは、トルクの伝達と遮断を行う箇所に摩擦材や係合部材を用いており、長期間または高頻度でのトルクの伝達と遮断の繰り返しによって摩擦材が摩耗したり係合部材が破損したりすると、トルクの伝達が良好に行えなくなる。
【0006】
本発明は、長期間または高頻度でトルクの伝達と遮断が繰り繰り返されても、良好なトルクの伝達性能を維持することができるようにしたマグネットクラッチ付きモータ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としてのマグネットクラッチ付きモータ装置は、モータと、回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されたウォーム歯車と、モータの駆動力を被駆動機構に伝達するための出力部を有し、ウォーム歯車に噛み合うはすば歯車と、モータの駆動力により回転される第1のマグネットと、ウォーム歯車と一体回転可能であるとともに軸方向に一体移動可能な第2のマグネットとを有する。ウォーム歯車は、第2のマグネットが第1のマグネットに吸着する第1の位置においてはすば歯車と噛み合う。第1の位置にあるウォーム歯車に、被駆動機構側からの外力がはすば歯車を介して軸方向の力として作用することにより、第2のマグネットが第1のマグネットから離脱して該ウォーム歯車がはすば歯車とのトルク伝達を遮断する第2の位置に移動する。そして、第1および第2のマグネットの吸着面には、該各マグネットの回転方向において複数の磁極が形成されていることを特徴とする。
【0008】
なお、上記モータ装置を備え、出力部からのモータの駆動力により駆動される被駆動機構を有する機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ウォーム歯車が第1の位置にてはすば歯車に噛み合っている状態では、モータの駆動力が、磁力により吸着している第1および第2のマグネット(マグネットクラッチ)を介してウォーム歯車に伝達され、さらにはすば歯車を介して被駆動機構に伝達される。一方、被駆動機構側からの外力がはすば歯車を介してウォーム歯車に対して第2のマグネットを第1のマグネットから引き離す軸方向の力として作用すると、ウォーム歯車が軸方向に移動して、ウォーム歯車とはすば歯車とのトルク伝達が遮断される。したがって、過大な外力がはすば歯車を介してウォーム歯車に作用し、はすば歯車やウォーム歯車が破損したり、モータが強制的に停止または逆転されたりすることを防止できる。
【0010】
さらに、ウォーム歯車とはすば歯車とのトルク伝達が遮断されることで、第1のマグネットはモータにより高速で回転されるのに対して第2のマグネットは停止するが、該第1および第2のマグネットの吸着面に複数の磁極が形成されているため、両マグネット間の回転数の差に応じてこれらマグネット間には反発力が発生し、両マグネットが再び吸着することはない。したがって、モータの駆動力(トルク)の伝達と遮断を行う第1および第2のマグネットが擦れ合って摩耗したり破損したりする可能性が少なく、長期間または高頻度でトルクの伝達と遮断が繰り繰り返されても、良好なトルクの伝達性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1であるモータユニットの分解斜視図。
【図2】実施例1のモータユニットの側面図。
【図3】実施例1のモータユニットにおける第1のマグネットの磁極を示す図。
【図4】本発明の実施例2であるモータユニットの側面図。
【図5】本発明の実施例3であるモータユニットの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
図1には、本発明の実施例1であるモータユニット(マグネットクラッチ付きモータ装置)を分解して示している。また、図2には、該モータユニットを側面から見て示している。
【0014】
これらの図において、1はモータ1であり、5はモータ1の出力軸としてのモータ軸である。モータ1としては、DCモータ、ステッピングモータ、振動型モータ等、どのような種類のモータであってもよい。また、以下の説明において、モータ軸5の中心軸が延びる方向をモータ軸方向という。
【0015】
2はモータ軸5に該モータ軸5と一体回転可能に取り付けられた第1のマグネットである。モータ軸5は、第1のマグネット2の中心部に形成された孔部に圧入または挿入および接着されている。また、第1のマグネット2は、モータ軸方向の端面に、後述する第2のマグネット3と相互に吸着する吸着面を有する。吸着面には、図3に示すように、該第1のマグネット2の回転方向(周方向)に複数の磁極(N極およびS極)が形成されている。より具体的には、吸着面において周方向に4分割された領域に、交互にN極とS極とが形成されている。
【0016】
9はモータ軸5上に、該モータ軸5周りで回転可能に、かつモータ軸方向に移動可能に取り付けられたウォーム歯車である。ウォーム歯車9の中心部には、内径がモータ軸5の外径よりも0.1〜0.2mm程度大きい孔が形成されており、該孔にモータ軸5が挿入されることで、ウォーム歯車9は、モータ軸5周りでの回転とモータ軸方向への移動とが可能となるように支持される。以下の説明において、ウォーム歯車9の中心軸が延びる方向をウォーム軸方向という。本実施例では、ウォーム軸方向とモータ軸方向とは一致する。
【0017】
第2のマグネット3は、ウォーム歯車9におけるウォーム軸方向の2つの端面のうち第1のマグネット2に近い側の端面に、該ウォーム歯車9と一体回転可能およびウォーム軸方向に一体移動可能に取り付けられている。第2のマグネット3の中心部にも、内径がモータ軸5の外径よりも0.1〜0.2mm程度大きい孔が形成されており、該孔にモータ軸5が挿入される。また、第2のマグネット3におけるモータ軸方向の端面である吸着面にも、図3に示した第1のマグネット2の吸着面と同様に、周方向に複数(4つ)の磁極が形成されている。第1および第2のマグネット2,3により、マグネットクラッチが構成される。
【0018】
7は固定部材であり、第1のマグネット2、ウォーム歯車9および第2のマグネット3を貫通したモータ軸5の先端に取り付けられる。8はコイルばねにより構成される付勢ばねであり、モータ軸5上における固定部材7とウォーム歯車9との間に配置されている。4は支持板であり、モータ1を固定的に支持するとともに、後述するはすば歯車6をモータ軸方向に直交する方向に延びる軸周りで回転可能に支持する。
【0019】
はすば歯車6は、ウォーム歯車9に対して噛み合い可能な部分と、被駆動機構15にモータ1の駆動力を伝達するための出力歯車部(出力部)6aとを有する。被駆動機構15は、該モータユニットが搭載された機器においてモータ1の駆動力を受けて駆動される機構である。機器としては、便座・便蓋をモータの駆動力を用いて開閉駆動する便座便蓋開閉ユニットや電動で開閉する機構を持つ蓋や窓、サンルーフ等がある。
【0020】
ウォーム歯車9は、ウォーム軸方向において、第2のマグネット3が第1のマグネット2に吸着してウォーム歯車9がはすば歯車6と噛み合う第1の位置と、第2のマグネット3が第1のマグネット2から離脱してウォーム歯車9のはすば歯車6に対する噛み合いが解除される第2の位置との間で移動可能である。前述した付勢ばね8は、ウォーム歯車9および第2のマグネット3を、ウォーム軸方向(モータ軸方向)における第1のマグネット2の側、つまりは第2の位置から第1の位置の方向に付勢する。
【0021】
このように構成されたモータユニットが機器に搭載された場合において、第1の位置にあるウォーム歯車9に、被駆動機構15側からの外力がはすば歯車6を介してウォーム軸方向(モータ軸方向)の力として作用することにより、第2のマグネット3が第1のマグネット2から離脱し、ウォーム歯車9が第2の位置に移動する。言い換えれば、第1および第2のマグネット2,3の吸着力を上回るようなウォーム軸方向の力をはすば歯車6を介してウォーム歯車9に作用させる外力が被駆動機構15側から入力されることにより、ウォーム歯車9が第2の位置に移動する。
【0022】
ウォーム歯車9が第2の位置に移動することで、ウォーム歯車9とはすば歯車6とのトルク伝達が遮断される。これにより、過大な外力がはすば歯車6を介してウォーム歯車9に作用して、はすば歯車6やウォーム歯車9が破損することを防止できる。また、モータ1が強制的に停止されたり逆転されたりするとも回避できる。
【0023】
さらに、ウォーム歯車9とはすば歯車6とのトルク伝達が遮断されると、モータ軸5に一体的に固定されている第1のマグネット2はモータ軸5とともに高速で回転する一方、ウォーム歯車9に一体的に固定されている第2のマグネット3はウォーム歯車9とともに低速で回転したり停止したりする。
【0024】
このように第1および第2のマグネット2,3が回転数差を有する状態において、第1および第2のマグネット2,3の吸着面が前述したように4つ磁極を有することから、モータ1が高速で回転している間は、第1および第2のマグネット2,3間に磁力による反発力が生じ、両マグネット2,3は再び吸着しない。このため、モータ1の駆動力、すなわちトルクの伝達と遮断を行う第1および第2のマグネット2,3が擦れ合って摩耗したり破損したりする可能性を少なくすることができる。したがって、長期間または高頻度でトルクの伝達と遮断(第1および第2のマグネット2,3の吸着と離脱)が繰り繰り返されても、モータユニット内での良好なトルク伝達性能を維持することができる。
【0025】
ウォーム歯車9が第2の位置に移動した状態でモータ1の回転が低速になると、第1および第2のマグネット2,3間の反発力が小さくなり、これを上回る付勢ばね8の付勢力によってウォーム歯車9が第1の位置に復帰移動される。これにより、第2のマグネット3が第1のマグネット2に吸着し、ウォーム歯車9がはすば歯車6に噛み合う。
【0026】
(変形例)
なお、上記実施例では、第1および第2のマグネット2,3の吸着面に4つの磁極を形成した場合について説明したが、各吸着面における磁極の数は、複数であれば、4つに限らない。
【0027】
また、上記実施例では、モータ軸5上に第1のマグネット2、ウォーム歯車9および第2のマグネット3を取り付けた場合について説明したが、必ずしも第1のマグネット、ウォーム歯車および第2のマグネットをモータ軸上に取り付けなくてもよい。
【0028】
例えば、モータ軸にこれと一体回転するモータ歯車を取り付け、モータ軸とは別の軸部材(以下、中間軸という)上に該モータ歯車に噛み合う中間歯車と、第1のマグネット、ウォーム歯車および第2のマグネットを取り付ける。第1のマグネットは中間軸に一体回転可能に取り付け、ウォーム歯車および第2のマグネットは、中間軸に対して、ともに該中間軸周りで回転可能および中間軸の軸方向において第1の位置と第2の位置とに移動可能に取り付ける。そして、第1の位置にあるウォーム歯車と噛み合うはすば歯車を設ける。
【0029】
さらに、上記実施例では、外力によって第2の位置に移動したウォーム歯車9を付勢ばね8の付勢力によって第1の位置に復帰させる復帰機構を用いた場合について説明したが、復帰機構はこれに限らない。例えば、ウォーム歯車9が第2の位置に移動した状態においてモータ1にこれを逆回転させるように通電し、第2のマグネット3が第1のマグネット2に近づく方向(第1の位置の方向)の力をウォーム歯車9に与えて両マグネット2,3を吸着させる電気的な復帰機構を用いてもよい。
【0030】
以上説明した変形例は、後述する他の実施例においても適用することができる。
【実施例2】
【0031】
図4には、本発明の実施例2であるモータユニットを示している。本実施例において、実施例1と共通する構成要素には、実施例1と同じ符号を付して説明に代える。
【0032】
本実施例のモータユニットは、その構成要素は実施例1と同じであるが、第1のマグネット2、第2のマグネット3、ウォーム歯車9、付勢ばね3および固定部材7の配置が実施例1とは異なる。
【0033】
具体的には、実施例1では、モータ軸5上に、モータ1側から、第1のマグネット2、第2のマグネット3、ウォーム歯車9、付勢ばね3および固定部材7の順で配置したが、本実施例では、モータ1側から、固定部材7、付勢ばね3、ウォーム歯車9、第2のマグネット3および第1のマグネット2の順で配置している。本実施例では、被駆動機構側から作用した外力によってウォーム歯車9が第2の位置に移動する方向が実施例1とは逆方向になるが、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0034】
図5には、本発明の実施例3であるモータユニットを示している。本実施例において、実施例1と共通する構成要素には、実施例1と同じ符号を付して説明に代える。
【0035】
本実施例のモータユニットでは、実施例1にて用いられていた付勢ばね8としてのコイルばねに代えて、板ばね10を用いている。板ばね10は、その一端が支持板4に固定され、他端にはモータ軸5の先端が挿入される孔が形成されている。そして、板ばね10の他端は、ウォーム歯車9を第1のマグネット2の方向(第1の位置の方向)に付勢している。
【0036】
本実施例でも、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0037】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
良好なトルクの伝達性能を長期間維持することができるマグネットクラッチ付きモータユニットおよびこれを搭載した機器を提供できる。
【符号の説明】
【0039】
1 モータ
2 第1のマグネット
3 第2のマグネット
4 支持板
5 モータ軸
6 はすば歯車
7 固定部材
8 付勢ばね
9 ウォーム歯車
10 板ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されたウォーム歯車と、
前記モータの駆動力を被駆動機構に伝達するための出力部を有し、前記ウォーム歯車に噛み合うはすば歯車と、
前記モータの駆動力により回転される第1のマグネットと、
前記ウォーム歯車と一体回転可能であるとともに前記軸方向に一体移動可能な第2のマグネットとを有し、
前記ウォーム歯車は、前記第2のマグネットが前記第1のマグネットに吸着する第1の位置において前記はすば歯車と噛み合い、
前記第1の位置にある前記ウォーム歯車に、前記被駆動機構側からの外力が前記はすば歯車を介して前記軸方向の力として作用することにより、前記第2のマグネットが前記第1のマグネットから離脱して該ウォーム歯車が前記はすば歯車とのトルク伝達を遮断する第2の位置に移動し、
前記第1および第2のマグネットの吸着面には、該各マグネットの回転方向において複数の磁極が形成されていることを特徴とするマグネットクラッチ付きモータ装置。
【請求項2】
前記第2の位置に移動した前記ウォーム歯車を前記第1の位置に移動させる復帰機構を有することを特徴とする請求項1に記載のマグネットクラッチ付きモータ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネットクラッチ付きモータ装置と、
前記出力部から前記モータの駆動力を受けて駆動される被駆動機構とを有することを特徴とする機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−167747(P2012−167747A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29567(P2011−29567)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】