説明

マニピュレータ移動構造及び手術支援ロボット

【課題】 MRIのガントリ内のように可動高さが制約された空間内でも、マニピュレータのピボット運動を行えるようにすること。
【解決手段】駆動装置11とロボット本体12とを備えて手術支援ロボット10が構成されている。ロボット本体12は、駆動装置11からのベルトVが繋がる下部構造体21と、この下部構造体21に対して起立状態で配置された中間リンク構造体22と、中間リンク構造体22の上側に配置されたアーム構造体23とを備えている。アーム構造体23は、基端側を支点としてほぼ水平回転可能な第1アーム36と、この第1アーム36の先端側を支点としてほぼ水平回転可能に取り付けられ、マニピュレータMの上部を保持するジンバル機構48が先端側に設けられた第2アーム37とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータ移動構造及び手術支援ロボットに係り、更に詳しくは、磁気共鳴画像診断装置のガントリ内等の狭い空間内でのロボットによる手術支援に適したマニピュレータ移動構造及び手術支援ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、大きな切開を要さない低侵襲手術を行うための手術支援ロボットが種々研究開発されている。当該手術支援ロボットは、内視鏡や処置具等の術具を保持するマニピュレータと、このマニピュレータを所定方向に移動させるロボットアームとを備えており、医師の遠隔操作にてロボットアームを動作させることで、患者の体内に挿入されたマニピュレータを動かし、術具による患部の処置等を行えるようになっている。
【0003】
このようなロボットアームの構造として、特許文献1に開示されたマニピュレータ装置のリンク機構が知られている。このリンク機構は、水平方向に延びる上下一対の平行リンクと、これら平行リンク間に掛け渡されて、各平行リンクに回転自在に取り付けられた一対の交差リンクと、これらリンクを動作させるアクチュエータとを備えている。
【0004】
ところで、近時、磁気共鳴画像診断装置(以下、「MRI」と称する。)が広く普及するに至っており、患者の患部を上下方向から挟むガントリ内に外部からアクセス可能な開放型のMRIも出現している。これにより、患部をMRIで撮像しながら、手術支援ロボットによって手術支援を行う態様も考慮されるようになってきた。
【特許文献1】特開平6−261911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1のマニピュレータ装置にあっては、MRIのガントリ内という狭い空間内でロボットアームを動作させることが難しく、MRI内で動作する手術支援ロボットとしては不適切である。すなわち、患者の体表面に空けられた穴にマニピュレータを挿入した状態で、当該穴の形成縁周りにマニピュレータを回転させるピボット運動を行おうとすると、前記マニピュレータ装置では、前記平行リンクの上下動を伴い、400mm程度の高さの狭いガントリの内部では、当該ガントリに前記平行リンクが干渉してしまうという不都合がある。また、マニピュレータを動作させるアクチュエータが、リンク機構に併設されているため、アクチュエータの駆動によりカントリ内の磁場に影響を与えてしまい、MRIによる正確な測定ができないという不都合がある。更に、モータ等のアクチュエータから発生するノイズは、MRIの画像に影響を及ぼし、良好なMRI画像が得られないという不都合もある。
【0006】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、MRIのガントリ内のように可動高さが制約された空間内でも、マニピュレータのピボット運動を難なく行うことができるマニピュレータ移動構造及び手術支援ロボットを提供することにある。
【0007】
また、他の目的は、MRIに対する影響を抑制することができるマニピュレータ移動構造及び手術支援ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、手術支援ロボットに保持されたマニピュレータを移動させるマニピュレータ移動構造において、
ほぼ水平方向に動作可能なアームと、このアームの先端側に設けられ、前記マニピュレータを保持するジンバル機構とを備え、
前記ジンバル機構は、前記アームの動作により、前記マニピュレータの先端側を支点とした当該マニピュレータの回転運動を可能に設けられる、という構成を採っている。
【0009】
(2)ここで、前記ジンバル機構は、前記マニピュレータを軸回転可能に保持する、という構成を採ることが好ましい。
【0010】
(3)更に、本発明は、前記マニピュレータ移動構造を備えた手術支援ロボットにおいて、
前記マニピュレータ移動構造を含むロボット本体と、このロボット本体に対して離間した状態で配置されるとともに、前記マニピュレータ移動構造に動力を付与する駆動装置とを備えたことを特徴とする手術支援ロボット、という構成を採っている。
【0011】
(4)ここで、前記駆動装置からの動力は、非磁性体により形成されたベルトを通じて前記マニピュレータ移動構造に伝達される、という構成を採ることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
前記(1)の構成によれば、アームの動作方向をほぼ水平方向に限定された状態で、ジンバル機構の作用により、患者の体表面に空けられた穴にマニピュレータを挿入した状態で、当該マニピュレータに対しピボット運動を行わせることができる。従って、MRIのガントリ内のように、可動高さが制約された空間内でも、難なくマニピュレータのピボット運動が可能になる。
【0013】
前記(2)のように構成することで、マニピュレータの軸回転を可能にするため、マニピュレータの動作をより多彩にすることができる。
【0014】
前記(3)の構成によれば、前記(1)と同様の効果が得られる他、MRI近傍に設置されたロボット本体に対して、駆動装置を離れて配置することができ、MRIの使用時に発生する磁場に影響を与えず、また、駆動装置を構成するモータ等から発生するノイズの影響を抑制することができる。
【0015】
前記(4)の構成により、MRIの使用時に発生する磁場と、駆動装置を構成するモータ等から発生するノイズとに対するMRIへの影響を最小限とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0017】
図1には、本実施例に係る手術支援ロボットの要部の概略斜視図が示されている。この図において、手術支援ロボット10は、同図中左側の駆動装置11と、同図中右側のロボット本体12とを備えて構成されており、磁気共鳴画像診断装置(以下、「MRI」と称する)で患者の患部を撮像しながら、手術支援を行えるようになっている。
【0018】
前記駆動装置11は、ロボット本体12から離れた位置に設けられており、第1〜第4のモータ14〜17と、これらモータ14〜17が設置されるベース体19とを備えている。
【0019】
前記各モータ14〜17は、超音波モータであり、図示省略した制御装置によってその駆動が制御され、それらの動力がそれぞれベルトVを介してロボット本体12側に伝達される。なお、第1のモータ14は、図1中最も奥行側に配置され、同図中手前側に向かって第2〜第4のモータ15〜17の順で配置されている。
【0020】
前記ロボット本体12は、特に限定されるものではないが、MRIのガントリ内に収容可能なサイズに設けられている。このロボット本体12は、各モータ14〜17からのベルトVが繋がる下部構造体21と、この下部構造体21に対して起立状態で配置された中間リンク構造体22と、当該中間リンク構造体22の上側に配置されたアーム構造体23とを備えて構成されている。このロボット本体12は、各構造体21〜23にそれぞれに設けられた多数のプーリP及びローラRと、当該プーリP及びローラRに掛け回されたベルトVと、プーリP等と一体回転する歯車Gとが適宜配置され、各モータ14〜17を動力源として、後述する各種動作が可能となっている。これらプーリP、ローラR、ベルトV、及び歯車Gは、MRIの使用時に発生する磁場の影響を極力低減する目的で、ゴムや樹脂等の非磁性体により形成されることが好ましい。
【0021】
なお、以下のロボット本体12の説明において、特に明示しない限り、「前」、「後」、「左」、「右」、等の位置的若しくは方向的用語は、図1中、駆動装置11側からロボット本体12を見た状態を基準として用いる。
【0022】
前記下部構造体21は、前記ベース19の端部に取り付けられた二本のシャフト25,25が固定された長尺状の前端プレート26と、この前端プレート26の左右両端側に起立配置された一対の側端プレート27,27と、これら側端プレート27,27間に回転可能に掛け渡された前後二箇所の下部シャフト29,29と、この下部シャフト29,29に設けられたプーリPとを備えている。
【0023】
前記下部シャフト29は、ベルトVを通じて第1のモータ14の駆動によって回転可能となっている。
【0024】
前記中間リンク構造体22は、各下部シャフト29にそれぞれ固定された下部ロッド31と、これら下部ロッド31の上端側に相対回転可能に連結された上部ロッド32とを備えている。
【0025】
前記下部ロッド31及び上部ロッド32は、それらの後側に相互に径の異なるプーリPが固定され、これらプーリP,P間にベルトVが掛け回されている。ここでは、下部ロッド31側のプーリPが上部ロッド32側のプーリPに対し径が約1/2に設定されている。この構成によれば、第1のモータ14の駆動により下部シャフト29が回転すると、それに伴い下部ロッド31は、下部シャフト29を中心として上下方向に回転し、各ロッド31,32間に掛け回されたベルトVにより、上部ロッド32が下部ロッド31に対して回転され、中間リンク構造体22が全体的に昇降するようになっている。
【0026】
前記アーム構造体23は、本発明に係るマニピュレータ移動構造が採用されており、上部ロッド32側に固定された支持ボックス34と、この支持ボックス34の側方に取り付けられた固定用リンク35と、支持ボックス34の上端側を支点としてほぼ水平回転可能に取り付けられた第1アーム36と、この第1アーム36の先端側を支点としてほぼ水平回転可能に取り付けられた第2アーム37とを備えて構成されている。
【0027】
前記アーム構造体23の内部には、外側のカバーを省略した図2に示されるように、中間リンク構造体22側からの動力を第1及び第2アーム36,37に伝達する歯車G、プーリP、ベルトV及びローラR等が適宜配置されている。
【0028】
前記固定用リンク35は、支持ボックス34に対してほぼ水平回転可能に取り付けられた第1ロッド39と、当該第1ロッド39の先端側に対してほぼ水平回転可能に取り付けられた第2ロッド40とにより構成されている。
【0029】
これら第1及び第2ロッド39,40は、それらの回転をねじ摘み41により規制できるようになっており、後述するように患者の患部位置に応じて位置決めされた後は、回転規制がなされた状態で配置される。
【0030】
前記第2ロッド40の先端側には、平面視ほぼコ字状のブラケット43が、第2ロッド40の端面に沿って回転可能に取り付けられている。このブラケット43の先端側の内部には、その両内面を支点として回転可能となるブロック体45が取り付けられている。このブロック体45は、上下方向に貫通する穴部Hが形成されており、当該穴部Hには、棒状に設けられたマニピュレータMが摺動自在に挿入されている。
【0031】
前記第1アーム36は、第3のモータ16の駆動により、下部構造体21、中間リンク構造体22及び支持ボックス34内に適宜配置された歯車G、プーリP、ベルトV、ローラR等の駆動機構を通じ、支持ボックス34の上面側となる基端側を支点として、ほぼ水平方向に回転するようになっている。
【0032】
前記第2アーム37の先端側には、マニピュレータMの上部を保持するジンバル機構48が設けられている。このジンバル機構48は、上側のカバーを省略した図3に示されるように、ほぼ水平面上を回転可能な向きで配置されたジンバルプーリ50と、このジンバルプーリ50の内部に取り付けられたリング部材51と、このリング部材51の内部に取り付けられたブロック体52とにより構成されている。
【0033】
前記ジンバルプーリ50は、第1アーム36側から延びるベルトVが掛け回されており、第2のモータ15の駆動により、下部構造体21、中間リンク構造体22、支持ボックス34及び第1アーム36内に適宜配置された歯車G、プーリP、ベルトV、ローラR等の駆動機構を通じて、回転されるようになっている。
【0034】
前記リング部材51は、その外周面に突出した二箇所のピン54,54により、ジンバルプーリ50の内周面に固定され、当該ジンバルプーリ50に支持されている。これらピン54,54は、周方向二箇所にほぼ180度間隔で設けられており、当該ピン54,54を支点としてリング部材51がジンバルプーリ50内を回転可能となっている。
【0035】
前記ブロック体52は、その外周面に突出した二箇所のピン55,55により、リング部材51の内周面に固定され、当該リング部材51に支持されている。これらピン55,55は、リング部材51の各ピン54,54に対し周方向にほぼ90度離れた周方向二箇所に設けられており、ピン55,55を支点としてリング部材51内をブロック体52が回転するようになっている。このブロック体52には、上下方向に貫通する穴部Hが形成されており、当該穴部Hには、前記マニピュレータMが摺動自在に挿入されている。
【0036】
以上のように構成された第2アーム37は、第4のモータ17の駆動により、下部構造体21、中間リンク構造体22、支持ボックス34及び第1アーム36内に適宜配置された歯車G、プーリP、ベルトV、ローラR等の駆動機構を通じ、第1アーム36の先端側となる基端側を支点としてほぼ水平方向に回転するようになっている。
【0037】
次に、手術支援ロボット10の動作について図1を主として用いながら説明する。
【0038】
先ず、図示しないMRIのガントリの内部に、ロボット本体12を設置し、当該ガントリの外側に駆動装置11を設置する。そして、患者の患部がガントリ内部に位置した状態で、ロボット本体12の高さ調整を行う。この高さ調整は、第1のモータ14を駆動させ、中間リンク構造体22を昇降させることにより行われる。なお、本実施例では、第1のモータ14を使って高さ調整が行われるが、本発明はこれに限らず、モータを使わずに人間の手によって、中間リンク構造体22に昇降力を付与することにより、当該中間リンク構造体22を昇降させるようにしてもよい。
【0039】
次に、固定用リンク35を動かして、患者の体表面に空けられたマニピュレータMの挿入用穴(図示省略)に、第2ロッド41のブロック体45を相対させ、その状態で、第1及び第2ロッド39,40をねじ摘み41で固定する。このとき、マニピュレータMは、前記穴に先端側が挿入された状態で、固定用リンク35及び第2アーム37の各ブロック体45,52に対し、摺動自在に挿通された状態となっている。
【0040】
以上の準備が整った後、医師の操作でロボット本体12を動作させる。図示しない操作具を使って操作を行うことで、第3及び第4のモータ16,17が駆動し、これによって、第1及び第2アーム36,37が相互に水平方向に動作する。このとき、マニピュレータMは、第2アーム37の先端側のジンバル機構48に保持されているため、固定用リンクのブロック体45の部分を支点として、マニピュレータMの上部を周方向に回転させることができ、停止寸前の駒の軸のような動き(ピボット運動)をマニピュレータに付与できる。また、前記操作具による動作指令によって、第2のモータ15が駆動すると、図2及び図3に示されるジンバルプーリ50が回転し、それに伴い、リング部材51及びブロック体52がジンバルプーリ50と一体的に回転し、ブロック体52に挿通されたマニピュレータM自体が軸回転することとなる。
【0041】
従って、このような実施例によれば、第1及び第2アーム36,37の水平方向の動作により、手術の際に必要となるマニピュレータMのピボット運動や軸回転運動が実現可能となる。このため、これら運動を第1及び第2アーム36,37を上下方向に動かさずに行うことができ、可動高さの限られたMRIのガントリ内部での使用を可能にするという効果を得る。
【0042】
また、駆動装置11を前記ガントリの外側に配置することができ、しかも、当該駆動装置11からロボット本体12への駆動力の伝達がゴム製等のベルトV等で行われるため、MRIに磁気やノイズを付与させることなく、MRIを使った手術支援が可能となる。
【0043】
なお、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施例に係る手術支援ロボットの要部概略斜視図。
【図2】図1の上部を拡大して一部を省略した斜視図。
【図3】第2リンクの要部拡大斜視図。
【符号の説明】
【0045】
10 手術支援ロボット
11 駆動装置
12 ロボット本体
36 第1アーム
37 第2アーム
48 ジンバル機構
M マニピュレータ
V ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術支援ロボットに保持されたマニピュレータを移動させるマニピュレータ移動構造において、
ほぼ水平方向に動作可能なアームと、このアームの先端側に設けられ、前記マニピュレータを保持するジンバル機構とを備え、
前記ジンバル機構は、前記アームの動作により、前記マニピュレータの先端側を支点とした当該マニピュレータの回転運動を可能に設けられていることを特徴とするマニピュレータ移動構造。
【請求項2】
前記ジンバル機構は、前記マニピュレータを軸回転可能に保持することを特徴とする請求項1記載のマニピュレータ移動構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマニピュレータ移動構造を備えた手術支援ロボットにおいて、
前記マニピュレータ移動構造を含むロボット本体と、このロボット本体に対して離間した状態で配置されるとともに、前記マニピュレータ移動構造に動力を付与する駆動装置とを備えたことを特徴とする手術支援ロボット。
【請求項4】
前記駆動装置からの動力は、非磁性体により形成されたベルトを通じて前記マニピュレータ移動構造に伝達されることを特徴とする請求項3記載の手術支援ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−271749(P2006−271749A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96762(P2005−96762)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】