説明

マニピュレータ装置

【課題】マニピュレータ装置において、オートクレーブ滅菌を可能としつつ、高帯域の力覚をフィードバックでき、安定性と応答性を向上すること。
【解決手段】マニピュレータ装置は、スレーブマニピュレータ1、マスタマニピュレータ2、制御装置3を備える。スレーブマニピュレータ1及びマスタマニピュレータ2は、ジンバル部に平行リンクを介して結合した並進軸をそれぞれに備える。制御装置3はスレーブエンコーダとマスタエンコーダの検出信号に基づいて生成した広帯域の力覚を術具17からマスタマニピュレータ2の手元操作部27にフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータ装置に係り、特に多自由度のマスタマニピュレータ及びスレーブマニピュレータを有するマスタ・スレーブ式マニピュレータ装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来のマニピュレータ装置としては、特開平9−98978号公報(特許文献1)に示されたものがある。このマニピュレータ装置は、術具である把持鉗子を駆動するスレーブマニピュレータと、前記スレーブマニピュレータを駆動するマスタマニピュレータとを備えている。そして、このマニピュレータ装置は、把持鉗子のグリップに歪みゲージを備え、生体組織を把持したときの歪みゲージによる検出情報を術者に提示する機能を有している。
【0003】
【特許文献1】特開平9−98978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内視鏡下外科手術は、低侵襲外科治療の中心的役割を担う治療技術として社会的に広く認知されている。本手術は、美容上優れる、早期の社会復帰ができるなど多くの利点を有する。一方、術者にとっては難易度の高い手術であり、工学的に手術を支援するマニピュレータ装置の開発が行われている。また、外科手術では術具を介して得られる臓器の感触が重要である。マニピュレータ装置においても同様に、術具からの高い力覚感度を術者へフィードバックすることが望まれている。
【0005】
上述した特許文献1のマニピュレータ装置では、力センサとして歪みゲージが用いられている。しかし、歪ゲージは、高周波ノイズ等の影響を受けやすく、周波数帯域が数十Hzと低いものが用いられるため、高い力覚感度を得ることが難しいという課題がある。また、術具への歪ゲージの取り付けに伴い、電気配線が必要となるため、配線作業が煩雑になると共に、耐久性などの信頼性に課題がある。さらには、歪ゲージは、低温のガス滅菌には対応できるが、簡便な高圧高温蒸気のオートクレーブ滅菌に対応することが難しいという課題がある。
【0006】
また、この種のマニピュレータ装置では、マニピュレータの安定性と応答性の両方が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、簡便な高圧高温蒸気のオートクレーブ滅菌で術具の滅菌を可能としつつ、多自由度マニピュレータにおける高帯域の力覚をフィードバックできると共に、マニピュレータの安定性と応答性を向上できるマスタ・スレーブ制御のマニピュレータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために、本発明は、術具を駆動するスレーブマニピュレータと、前記スレーブマニピュレータを制御装置を介して駆動するマスタマニピュレータと、前記スレーブマニピュレータ及び前記マスタマニピュレータを制御する前記制御装置と、を備えるマニピュレータ装置において、前記スレーブマニピュレータは、スレーブジンバル部に設けたスレーブピッチ軸及びスレーブヨー軸と、前記スレーブジンバル部の動作を伝達するスレーブ平行リンクと、前記スレーブジンバル部に前記スレーブ平行リンクを介して結合され且つ前記術具を並進させるスレーブ並進軸と、前記スレーブ並進軸に結合され且つ前記術具を回転させるスレーブロール軸と、前記スレーブロール軸の先端部に設けた術具駆動機構部と、前記術具駆動機構部に結合され且つオートクレーブ滅菌に対応可能な材料で形成された前記術具と、前記術具駆動機構部に一側端部を接続したスレーブコントロールケーブルと、前記スレーブコントロールケーブルの他側端部を接続したスレーブ直動軸と、前記各スレーブ軸にそれぞれ設けたスレーブアクチュエータと、前記各スレーブアクチュエータにそれぞれ取付けたスレーブエンコーダと、を備えて構成され、前記マスタマニピュレータは、マスタジンバル部に設けたマスタピッチ軸及びマスタヨー軸と、前記マスタジンバル部の動作を伝達するマスタ平行リンクと、前記マスタジンバル部に前記マスタ平行リンクを介して結合されたマスタ並進軸と、前記マスタ並進軸に結合されたマスタロール軸と、前記マスタロール軸の先端部に設けた手元操作部と、前記手元操作部に一側端部を接続したマスタコントロールケーブルと、前記マスタコントロールケーブルの他側端部を接続したマスタ直動軸と、前記各マスタ軸にそれぞれ設けたマスタアクチュエータと、前記各マスタアクチュエータにそれぞれ取付けたマスタエンコーダとを備えて構成され、前記制御装置は前記スレーブエンコーダと前記マスタエンコーダの検出信号に基づいて生成した広帯域の力覚を、前記スレーブマニピュレータ前記マスタマニピュレータの術具からスタマニピュレータの手元操作部にフィードバック制御する構成にしたことにある。
【0009】
係る本発明のより好ましい具体的な構成例は次の通りである。
(1)前記スレーブ平行リンクは第1の平行リンクと第2の平行リンクとを連結して構成し、前記第1の平行リンクの遊端側を前記スレーブジンバル部に結合すると共にその先端部を当該スレーブジンバル部より先に延長して設け、前記第2の平行リンクの遊端側を前記スレーブ並進軸に結合し、前記第1の平行リンクの先端部にスレーブバランスウエイトを装着したこと。
(2)前記スレーブ直動軸に設けたスレーブアクチュエータはリニアモータで構成され、前記スレーブコントロールケーブルはスレーブワイヤとこのスレーブワイヤを収納したスレーブチューブとを有し、前記スレーブワイヤはその一側端部を前記術具駆動機構部に接続すると共にその他側端部を前記スレーブ直動軸に接続し、マスタ直動軸に設けたマスタアクチュエータはリニアモータで構成され、前記マスタコントロールケーブルはマスタワイヤとこのマスタワイヤを収納したマスタチューブとを有し、前記マスタワイヤはその一側端部を前記手元操作部に接続すると共にその他側端部を前記マスタ直動軸に接続したこと。
(3)前記(2)において、前記スレーブアクチュエータにスリーブ電磁ブレーキを備え、前記マスタアクチュエータにマスタ電磁ブレーキを備えたこと。
(4)前記(3)において、前記スリーブアクチュエータ、前記スリーブエンコーダおよび前記スレーブ電磁ブレーキを外置きとし、前記マスタアクチュエータ、前記マスタエンコーダおよび前記マスタ電磁ブレーキを外置きとしたこと。
(5)前記(1)において、前記並進軸にベルトを介して可動バランスウエイトを配置したこと。
【発明の効果】
【0010】
かかる本発明のマニピュレータ装置によれば、簡便な高圧高温蒸気のオートクレーブ滅菌で術具の滅菌を可能としつつ、多自由度マニピュレータにおける高帯域の力覚をフィードバックできると共に、マニピュレータの安定性と応答性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態のマニピュレータ装置について図1から図6を用いて説明する。本実施形態のマニピュレータ装置は、力覚フィードバック機能搭載のマスタ・スレーブ制御ロボットに適用した例である。
【0012】
図1は本発明の一実施形態のマニピュレータ装置におけるスレーブマニピュレータ1の斜視図である。マニピュレータ装置は、術具である鉗子17を駆動するスレーブマニピュレータ1と、このスレーブマニピュレータ1を制御装置3(図6参照)を介して駆動するマスタマニピュレータ2と、スレーブマニピュレータ1及びマスタマニピュレータ2を統括的に制御する制御装置3と、を備えて構成されている。なお、スレーブマニピュレータ1を構成する要素とマスタマニピュレータ2を構成する要素とが共通する場合、それぞれの要素に「スレーブ」、「マスタ」を修飾させて区別すべきであるが、実施形態の説明では簡略のためにそれらを省略することとする。
【0013】
図1において、スレーブマニピュレータ1のスレーブベース10の下側にはスレーブキャスタ100とスレーブアジャスタパッド101が設けられ、スレーブベース10の上側には電動ピラー102が設けられている。スレーブベース10の形状は、幅500mm、奥行き500mmの四角形である。電動ピラー102の昇降範囲は0〜300mmである。スレーブキャスタ100はスレーブベース10を手動で押すことにより回転され、電動ピラー102はコントローラ103を介して接続されたペンダント(図示せず)の操作により昇降動作される。
【0014】
電動ピラー102の上部には、鉗子用及び並進軸用の遠隔直動部11a、11bが設けられている。遠隔直動部11a、11bは、電動ピラー102の上部両側に露出して設置されている。遠隔直動部11a、11bには、鉗子用に3つ、並進用に1つ、合計4つのリニアモータ110a〜110dおよびこれらのリニアモータ110a〜110dに取り付けられたリニアエンコーダ111a〜111dが配置されている。リニアモータ110a〜110dの定格推力と可動範囲は、鉗子用が定格推力20N、可動範囲±50mmであり、並進用が定格推力10N、可動範囲±100mmである、リニアエンコーダ111a〜111dの分解能は、鉗子用と並進用共に、4逓倍後に0.1μmである。
【0015】
遠隔直動部11a、11bの4軸は力覚フィードバックを有するマスタ・スレーブ制御で動作する。各リニアモータ110a〜110dには、安全性を高めるために電磁ブレーキ118a〜118dが設けられている。電磁ブレーキ118a〜118dは、通電時に開放するソレノイド式で、保持力は50Nである。各リニアモータ110a〜110dには、コントロールケーブル112a〜112dの一側が接続されている。
【0016】
図2は遠隔直動部11aの斜視図である。コントロールケーブル112c、112dは、インナーとしてのワイヤ113c、113dと、アウターとしてのチューブ114c、114dとで構成されている。リニアモータ110c、110dの可動部にワイヤ113c、113dの一端が取付けられ、リニアモータ110c、110dの前後動作の動力がワイヤ113c、113dの他端に伝達される。ワイヤ113cとチューブ114cの他端は、後述する図4の鉗子着脱部16に接続されている。
【0017】
ワイヤ113c、113dは外径1.8mmで、素線径0.36mmのステンレス細線を19本撚った構造である。ワイヤ113c、113dは切断強度3500Nの強度を持つ。チューブ114c、114dは、内径2.0mm、外径5.0mmで、平線をコイル状に巻き、内側を滑り性に優れた弗素樹脂、外側を塩化ビニールで被覆している。ワイヤ113c、113dの外径とチューブ114c、114dの内径の差としての空隙は、公差を考慮した0.2mmである。空隙の間隔は、駆動力伝達時のワイヤ座屈に伴う伝達動力と伝達時間のロスに影響するので、できるだけ小さいことが望ましい。また、コントロールケーブル112c〜112dは、複数本束ねて使用しても良い。
【0018】
図3は遠隔直動部11bの斜視図である。コントロールケーブル112a、112bは、インナーとしてのワイヤ113a、113bと、アウターとしてのチューブ114a、114bで構成されている。リニアモータ110a、110bの可動部にワイヤ113a、113bの一端が取付けられ、リニアモータ110a、110bの前後動作の動力がワイヤ113a、113bの他端に伝達される。ワイヤ113a、113bとチューブ114a、114bの他端は、後述する図4の鉗子着脱部16に接続されている。
【0019】
ワイヤ113a、113bの外径、素線径、構造、強度は、ワイヤ113c、113dと同様である、チューブ114a、114bの内径、外径、構造、被覆は、チューブ114c、114dと同様である。ワイヤ113a、113bの外径とチューブ114a、114bの内径の差としての空隙等も同様である。また、コントロールケーブル112a、112bは、複数本束ねて使用しても良い。
【0020】
図1に示すように、遠隔直動部11a、11bの上面には、門型の支柱119を介してジンバル部12が設けられている。ジンバル部12には、ピッチ軸120とヨー軸121の回転モータ122a〜122bおよび回転エンコーダ123a〜123bと、ヨー軸バランスウエイト124が配置されている。回転モータ122a〜122bは、ギアレスのダイレクトドライブモータで構成され、その定格トルクが1.4Nmである。回転エンコーダ123a〜123bの分解能は4逓倍後に324000pprである。
【0021】
ピッチ軸120の回転範囲は±60°、ヨー軸121の回転範囲は±45°である。ピッチ軸120とヨー軸121は力覚フィードバックを有するマスタ・スレーブ制御で動作される。各回転モータ122a〜122bには、安全性を高めるために電磁ブレーキ125a〜125bが設けられている。電磁ブレーキ125a〜125bは、通電時に開放するソレノイド式で構成され、その保持トルクが2Nmである。ヨー軸バランスウエイト124は、対向するヨー軸121の回転モータ122bおよび回転エンコーダ123bと電磁ブレーキ125bの質量を補償する。
【0022】
ジンバル部12のヨー軸121の先には、平行リンク13が設けられている。平行リンク13は、長尺部分130aと短尺部分131a、長尺部分130bと短尺部分131bからなる2対の平行リンクで構成されている。例えば、長尺部分130bの長さは580mm、短尺部分131bの長さは110mmであり、長尺と短尺の比は約5:1である。
【0023】
ジンバル部12の下方にある短尺部分131bの先端には、平行リンク13のバランスをとる固定バランスウエイト132が配置されている。固定バランスウエイト132は、平行リンク13上方の質量と長尺部分130の先端質量を補償する。さらに、ピッチ軸120とヨー軸121の電磁ブレーキ125a、125bを開放して軸が自由回転状態の時、平行リンクが必ず上方に位置するよう、補償質量以上の質量を与えて安全性を高めている。また、固定バランスウエイト132は取り付け位置と重量を細かく変更できる機構を設けてある。
【0024】
平行リンク13の長尺部分130bの先端には、並進軸14が設けられている。並進軸14には、遠隔直動部1laの並進用のリニアモータ110dに繋がるコントロールケーブル112dの他端が配置されている、コントロールケーブル112dのインナーとしてのワイヤ113dは、並進スライド部141に取付けられている。遠隔直動部11aに配置した並進用のリニアモータ110dの動力は、コントロールケーブル112dを介して、並進スライド部141に伝わる。並進スライド部141の動作範囲は、±80mmである。
【0025】
並進軸14の背面には、ベルト142を介して、可動バランスウエイト143が配置されている。可動バランスウエイト143は、並進スライド部141の前面に設けるロール軸15周りの質量を補償する。さらに、可動バランスウエイト143は、並進用のリニアモータl10dの電磁ブレーキ118dを開放して並進軸14が自由スライド状態の時、並進スライド部141が必ず上方に位置するよう、補償質量以上の質量を与えて安全性を高めている。
【0026】
ロール軸15には、回転モータ150および回転エンコーダ151が配置されている。回転モータ150は、ギアレスのダイレクトドライブモータで構成され、その定格トルクが0.2Nmである。回転エンコーダ151の分解能は4逓倍後に324000pprである。ロール軸15の回転範囲は±1800である。ロール軸15は力覚フィードバックを有するマスタ・スレーブ制御で動作される。回転モータ150には、安全性を高めるために電磁ブレーキ152が設けられている。電磁ブレーキ152は、通電時に開放するソレノイド式で構成され、その保持トルクが0.4Nmである。
【0027】
図4はスレーブマニピュレータ装置1の鉗子着脱部16の斜視図である。ロール軸15の先には、鉗子着脱部16が設けられている。鉗子着脱部16には、遠隔直動部11a、11bの鉗子用の3つのリニアモータ110a〜110cに繋がるコントロールケーブル112a〜112cの他端が配置されている。コントロールケーブル112a〜112cのインナーとしてのワイヤ113a〜113cの他端は、鉗子着脱部16に設けられた3つのスライド部160〜162に各々取付けられている。遠隔直動部11a、11bに配置した鉗子用のリニアモータ110a〜110cの動力は、コントロールケーブル112a〜110cを介して、スライド部160〜162に伝わる。スライド部160〜162の動作範囲は、±4mmである。
【0028】
鉗子着脱部16の着脱面には、鉗子17に対する位置合せのピン嵌め部163が一対設けられ、安全機構の磁石164が4箇所設けられている。磁石164は、外径6mm、長さ8mmの耐熱性に優れた希土類サマリウムコバルトで構成され、その吸着力が7Nである。磁石164の吸着力の合計は4倍の28Nとなり、鉗子17の先端に3N以上の外力がかかると着脱面の鉗子17が外れる。ピン嵌め部163は鉗子17のノックピンとの嵌め合いであり、安全機構が働いても体内への鉗子17の脱落はない、
鉗子着脱部16には、鉗子17が接続されている。鉗子17の外径は5mm、長さは350mmで、ジンバル部12のピッチ軸120の延長線上に仮想ピボット点170が設けられている。鉗子17の駆動機構は、鉗子着脱部16に設けたスライド部160〜162の直線運動の動力を伝達する機構であれば、ラック・ピニオン機構やロッド機構など、自由に設計できる。鉗子先端171での動作範囲は、湾曲2方向と開閉1方向の3軸が全て±90°である。鉗子17を構成する材料は、オートクレープ滅菌に対応できるように、金属など耐熱性に優れた部材が用いられる。鉗子着脱部16と着脱する鉗子17の接続面には、同様にサマリウムコバルト磁石が設けられている。鉗子17の磁石は耐熱性に優れており、オートクレープ滅菌可能である。鉗子17以外はドレープで覆い、滅菌性を確保する。
【0029】
スレーブマニピュレータ装置1のベッドサイドの初期位置決め、すなわち鉗子17を挿入する患者腹腔直上のピボット点170決めは、キャスタ100で床面すなわちxy平面内を決め、電動ピラー102で昇降すなわちz軸高さを決める。ピボット点170はジンバル12と平行リンク13で機構的に構成する。力覚フィードバックを有するマスタ・スレーブ制御での動作は、並進軸14、ピッチ軸120、ヨー軸121、ロール軸15、および鉗子17の湾曲2軸、開閉1軸の合計7軸である。可動範囲は、並進軸14が土80mm、ピッチ軸120が±60°、ヨー軸121が±45°、ロール軸15が±180°、鉗子先端171の湾曲2軸と開閉1軸が全て±90°である。鉗子先端171における各軸の定格作用力は、並進軸14が10N、ピッチ軸120とヨー軸121が2.3N、ロール軸15が4N、湾曲2軸が8N、開閉1軸が4Nである。全高は1650〜1850mmである。
【0030】
図5はマスタマニピュレータ装置2の斜視図である。ベース20の下部にはキャスタ200が設けられている。マスタマニピュレータ装置2には、スレーブマニピュレータ装置1にある電動ピラー102とコントローラ103は設けない。
【0031】
ベース20の後方には、手元操作と並進の遠隔直動部21が設けられている。遠隔直動部21の構成は、コントロールケーブル212a〜212dを含め、スレーブマニピュレータ装置1と同様である。
【0032】
ベース20の上面には、門型の支柱219を介してジンバル部22が設けられている。ジンバル部22の構成は、スレーブマニピュレータ装置1と同様である、
ジンバル部22のヨー軸221の先には、平行リンク23が設けられている。平行リンク23は、長尺部分230aと短尺部分231a、長尺部分230bと短尺部分31bからなる2対の平行リンクで構成されている。ジンバル部22の上方にある短尺部分231bの先端には、平行リンク23のバランスをとる固定バランスウエイト232が配置されている。その他の平行リンク23の構成は、長尺部分230の先端に設ける並進軸24と、並進スライド部241上面に設けるロール軸25を含め、スレーブマニピュレータ装置1と同様である。
【0033】
ロール軸25の先には、鉗子着脱部16と同様の着脱部を介して手元操作部27が設けられている。ジンバル部22のピッチ軸220の延長線上に仮想ピボット点270が設けられている。手元操作部27には、遠隔直動部21の手元操作用の3つのリニアモータ210a〜210cに繋がるコントロールケーブル212a〜212cの他端が繋がれている。遠隔直動部21に配置したリニアモータ210a〜210cの動力は、コントロールケーブル212a〜212cを介して伝達される。スライド部の動作範囲は、±6mmである。手元操作部27の機構は、スライド部の直線運動の動力を伝達する機構であれば、ラック・ピニオン機構やロッド機構など、自由に設計できる。ここでは、腹腔外操作塑の形状としているが、腹腔内操作型の形状も可能である。
【0034】
マスタマニピュレータ装置2の初期位置決め、すなわち術者に応じたイニシャルポジション決めは、キャスタ200で床面すなわちxy平面内のみを決める。z軸高さは、術者が座る図示しない椅子の昇降機能で決める。ピッチ軸220を45°回転した時、手元操作部27付け根のロール軸25までの高さは700mmであり、一般的な事務机の高さと同じである。術者は机上でペンを動かす感覚の延長で操作できる。椅子に肘置きを備えると、長時間の操作にも対応できる。
【0035】
マスタ・スレーブ制御での動作は、並進軸24、ピッチ軸220、ヨー軸221、ロール軸25、および手元操作部27の湾曲2軸、開閉1軸の合計7軸である。可動範囲は、並進軸24が±80mm、ピッチ軸220が±60°、ヨー軸221が±45°、ロール軸25が±180°、手元操作部27の湾曲2軸と開閉1軸が全て±30°である。手元操作部27における各軸の定格作用力は、並進軸24が10N、ピッチ軸220とヨー軸221が2.3N、ロール軸25が4N、湾曲2軸が20N、開閉1軸が4Nである。全高は920〜1080mmである。また、制御上で行う手先の震え防止のフィルタリング機能、スレーブマニピュレータ装置1との動作範囲の関係を変化できるスケーリング機能に対応できる機構である、
図6は力覚フィードバックを有するマスタ・スレーブ制御のブロック線図である。制御ブロック線図は、加速度合成部31、位置制御部32、操作力制御部33、マスタマニピュレータ34、スレーブマニピュレータ35、マスタ側反力オブザーバ36、スレーブ側反力オブザーバ37の7ブロックを持つ。また、制御ブロック線図は、マニピュレータ34、35のエンコーダ値から算出されるマスタ位置信号Xmとスレーブ位置信号Xs、反力オブザーバ36、37から各々算出されるマスタ操作力信号Fmとスレーブ操作力信号Fs、位置制御部32から算出されるマスタ側位置の加速度参照値Apmとスレーブ側位置の加速度参照値Aps、操作力制御部33から算出されるマスタ側操作力の加速度参照値Afmとスレーブ側操作力の加速度参照値Afs、加速度合成部から算出され各マニピュレータのモータ駆動信号となるマスタ側の加速度指令信号Am、スレーブ側の加速度指令信号Asの10信号を持つ。
【0036】
マスタマニピュレータ34は、加速度指令信号Amの入力を受け、各軸の動作量として位置信号Xmを出力する。スレーブマニピュレータ35も同様に、加速度指令信号Asの入力を受け、位置信号Xsを出力する。
【0037】
マスタ側の反力オブザーバ36は、位署信号Xmと加速度指令信号Amの入力を受け、マスタマニピュレータに発生する静1ト摩擦と動摩擦、弾性、粘性、慣性を算出し、差として導出される操作力信号Fmを出力する。スレーブ側の反力オブザーバ37も同様に、位置信号Xsと加速度指令信号Asの入力を受け、操作力信号Fsを出力する。
【0038】
位置制御部32は、マスタ位置信号Xmとスレーブ位置信号Xsの入力を受け、各マニピュレータ34、35の位置偏差を縮めるための差信号を算出し、マスタ側位置の加速度参照値Apmとスレーブ側位置の加速度参照値Apsを加速度合成部31に出力する。
【0039】
操作力制御部33は、マスタ操作力信号Fmとスレーブ操作力信号Fsの入力を受け、作用反作用の関係にある各マニピュレータ34、35への外力偏差を縮めるための和信号を算出し、マスタ側操作力の加速度参照値Afmとスレーブ側操作力の加速度参照値Afsを加速度合成部31に出力する。
【0040】
加速度合成部31は、マスタ側について、位置の加速度参照値Apmと操作力の加速度参照値Afmの入力を受け、モータ駆動信号としての加速度指令信号Amを出力する。スレーブ側についても同様に、位置の加速度参照値Apsと操作力の加速度参照値Afsの入力を受け、モータ駆動信号としての加速度指令信号Asを出力する。
【0041】
本制御方式は、マニピュレータ34、35の各軸に対応した双方向性を持つ。マニピュレータ34、35の軸数が増えると、ソフトウエア制御では計算時間が増す。これにより、周波数帯域を上げることが難しい場合は、FPGAを用いてハードウエアによる制御を行うことにより、計算時間を高速化する。これにより、数百Hz帯域の力覚感度を得ることができ、マスタ・スレーブ制御の多自由度マニピュレータを制御できる。
【0042】
本実施形態によれば、簡便な高圧高温蒸気のオートクレーブ滅菌で術具の滅菌を可能としつつ、多自由度マニピュレータにおける高帯域の力覚をフィードバックできるマスタ・スレーブ制御のマニピュレータ装置を提供することができる。すなわち、術具を信頼性の高い機械部品のみで構築し、アクチュエータにマスタマニピュレータの内界センサを用いた制御系で数百Hz帯域の力覚感度を得られる、マスタ・スレーブ制御の多自由度マニピュレータ装置を提供することができる。また、術具と操作部は種々の交換が可能であり、使い勝手が向上すると共に、力フィードバック制御に機構のガタが影響しないので、系の安定性が高い。
【0043】
また、種々の術具と操作部を扱うために、分離結合可能な接合部を設けることで、手技と術者に応じた交換が可能になる。安定性を高めるために、固定バランサと可動バランサを使い分けることで、重心の調贅が容易になる。安全性を高めるために、アクチュエータに電磁ブレーキを備えることで、非常停止時や制御動作時以外の状態保持が可能になる。さらに慣性の低減を行うため、リニアアクチュエータ周りのコンポーネントを全て本体とは別のユニットにして外置きとするスリム化を図ることで、制御の応答性、さらにはメンテナンス性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態のマニピュレータ装置におけるスレーブマニピュレータの斜視図である。
【図2】図1のスレーブマニピュレータの遠隔直動部の斜視図である。
【図3】図1のスレーブマニピュレータの別の遠隔直動部の斜視図である。
【図4】図1のスレーブマニピュレータの鉗子着脱部の斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態のマニピュレータ装置におけるマスタマニピュレータの斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態のマニピュレータ装置における力覚フィードバックを有するマスタ・スレーブ制御のブロック線図である。
【符号の説明】
【0045】
1…スレーブマニピュレータ、2…マスタマニピュレータ、3…制御装置、10…ベース、11a、11b…遠隔直動部、12…ジンバル部、13…平行リンク、14…並進軸、15…ロール軸、16…鉗子着脱部、17…鉗子、20…ベース、21…遠隔直動部、22…ジンバル部、23…平行リンク、24…並進軸、25…ロール軸、27…手元操作部、31…加速度合成部、32…位置制御部、33…操作力制御部、34…マスタマニピュレータ、35…スレーブマニピュレータ、36…マスタ側反力オブザーバ、37…スレーブ側反力オブザーバ、100…キャスタ、101…アジャスタパッド、102…電動ピラー、103…コントローラ、ll0a〜110d…リニアモータ、111a〜111d…リニアエンコーダ、112a〜112d…コントロールケーブル、l13a〜113d…インナーワイヤ、ll4a〜114d…アウターチューブ、ll8a〜118d…リニア型電磁ブレーキ、119…門型のジンバル支柱、120…ピッチ軸、121…ヨー軸、122a〜122b…ジンバル用回転モータ、123a〜123b…ジンバル回転エンコーダ、124…ヨー軸バランスウエイト、125a〜125b…回転型電磁ブレーキ、130…平行リンクの長尺部分、131…平行リンクの短尺部分、132…平行リンクの固定バランスウエイト、141…並進スライド部、142…並進用ベルト、143…並進用可動バランスウエイト、150…ロール軸用の回転モータ、151…ロール軸用の回転エンコーダ、152…ロール軸の回転モータ用電磁ブレーキ、160−162…鉗子駆動のスライド部、163…ピン嵌め部、164…磁石、170…仮想ピボット点、171…鉗子先端、200…キャスタ、201…アジャスタパッド、210a〜210d…リニアモータ、211a〜211d…リニアエンコーダ、212a〜212d…コントロールケーブル、213a〜213d…インナーワイヤ、214a〜214d…アウターチューブ、218a〜218d…リニア型電磁ブレーキ、219…門型のジンバル支柱、220…ピッチ軸、221…ヨー軸、222a〜222b…ジンバル用回転モータ、223a〜223b…ジンバル回転エンコーダ、224…ヨー軸バランスウエイト、225a〜225b…回転型電磁ブレーキ、230…平行リンクの長尺部分、231…平行リンクの短尺部分、232…平行リンクの固定バランスウエイト、241…並進スライド部、242…並進用ベルト、243…並進用可動バランスウエイト、250…ロール軸用の回転モータ、251…ロール軸用の回転エンコーダ、252…ロール軸の回転モータ用電磁ブレーキ、Am…マスタ側の加速度指令信号、As…スレーブ側の加速度指令信号、Apm…マスタ側位置の加速度参照値、Aps…スレーブ側位置の加速度参照値、Afm…マスタ側操作力の加速度参照値、Afs…スレーブ側操作力の加速度参照値、Xm…マスタ位置信号、Xs…スレーブ位置信号、Fm…マスタ操作力信号、Fs…スレーブ操作力信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術具を駆動するスレーブマニピュレータと、前記スレーブマニピュレータを制御装置を介して駆動するマスタマニピュレータと、前記スレーブマニピュレータ及び前記マスタマニピュレータを制御する前記制御装置と、を備えるマニピュレータ装置において、
前記スレーブマニピュレータは、
スレーブジンバル部に設けたスレーブピッチ軸及びスレーブヨー軸と、
前記スレーブジンバル部の動作を伝達するスレーブ平行リンクと、
前記スレーブジンバル部に前記スレーブ平行リンクを介して結合され且つ前記術具を並進させるスレーブ並進軸と、
前記スレーブ並進軸に結合され且つ前記術具を回転させるスレーブロール軸と、
前記スレーブロール軸の先端部に設けた術具駆動機構部と、
前記術具駆動機構部に結合され且つオートクレーブ滅菌に対応可能な材料で形成された前記術具と、
前記術具駆動機構部に一側端部を接続したスレーブコントロールケーブルと、
前記スレーブコントロールケーブルの他側端部を接続したスレーブ直動軸と、
前記各スレーブ軸にそれぞれ設けたスレーブアクチュエータと、
前記各スレーブアクチュエータにそれぞれ取付けたスレーブエンコーダと、を備えて構成され、
前記マスタマニピュレータは、
マスタジンバル部に設けたマスタピッチ軸及びマスタヨー軸と、
前記マスタジンバル部の動作を伝達するマスタ平行リンクと、
前記マスタジンバル部に前記マスタ平行リンクを介して結合されたマスタ並進軸と、
前記マスタ並進軸に結合されたマスタロール軸と、
前記マスタロール軸の先端部に設けた手元操作部と、
前記手元操作部に一側端部を接続したマスタコントロールケーブルと、
前記マスタコントロールケーブルの他側端部を接続したマスタ直動軸と、
前記各マスタ軸にそれぞれ設けたマスタアクチュエータと、
前記各マスタアクチュエータにそれぞれ取付けたマスタエンコーダとを備えて構成され、
前記制御装置は前記スレーブエンコーダと前記マスタエンコーダの検出信号に基づいて生成した広帯域の力覚を、前記スレーブマニピュレータ及び前記マスタマニピュレータの術具からスタマニピュレータの手元操作部にフィードバック制御する
ことを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項2】
請求項1記載のマニピュレータ装置において、前記スレーブ平行リンクは第1の平行リンクと第2の平行リンクとを連結して構成し、前記第1の平行リンクの遊端側を前記スレーブジンバル部に結合すると共にその先端部を当該スレーブジンバル部より先に延長して設け、前記第2の平行リンクの遊端側を前記スレーブ並進軸に結合し、前記第1の平行リンクの先端部にスレーブバランスウエイトを装着したことを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項3】
請求項1において、前記スレーブ直動軸に設けたスレーブアクチュエータはリニアモータで構成され、前記スレーブコントロールケーブルはスレーブワイヤとこのスレーブワイヤを収納したスレーブチューブとを有し、前記スレーブワイヤはその一側端部を前記術具駆動機構部に接続すると共にその他側端部を前記スレーブ直動軸に接続し、マスタ直動軸に設けたマスタアクチュエータはリニアモータで構成され、前記マスタコントロールケーブルはマスタワイヤとこのマスタワイヤを収納したマスタチューブとを有し、前記マスタワイヤはその一側端部を前記手元操作部に接続すると共にその他側端部を前記マスタ直動軸に接続したことを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項4】
請求項3記載のマニピュレータ装置において、前記スレーブアクチュエータにスリーブ電磁ブレーキを備え、前記マスタアクチュエータにマスタ電磁ブレーキを備えたことを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項5】
請求項4記載のマニピュレータ装置において、前記スリーブアクチュエータ、前記スリーブエンコーダおよび前記スレーブ電磁ブレーキを外置きとし、前記マスタアクチュエータ、前記マスタエンコーダおよび前記マスタ電磁ブレーキを外置きとしたことを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項6】
請求項2記載のマニピュレータ装置において、前記並進軸にベルトを介して可動バランスウエイトを配置したことを特徴とするマニピュレータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−259607(P2008−259607A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103550(P2007−103550)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】