説明

マルチビームアンテナ装置

【課題】1つのアンテナユニットで2つの独立したマルチビーム特性を実現し利得を向上するマルチビームアンテナ装置を提供する。
【解決手段】第1のアンテナ部と第2のアンテナ部と第1のロトマンレンズ部と第2のロトマンレンズ部とをこの順に積層した平面アンテナモジュールであって、第1のアンテナ部と第1のロトマンレンズ部とで、1つのマルチビーム特性を実現し、第2のアンテナ部と第2のロトマンレンズ部とで、もう一つの独立したマルチビーム特性を実現する。その際のロトマンレンズ設計において、ビーム形成角度をβとし、交点S2と複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(208)とがなす角度をαとしたとき、β<αであり、さらに、η=(β/α)・(Ln/F)<1の関係式を満たし、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくするようロトマンレンズの形状を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の車載レーダ等に利用されるマルチビームアンテナ装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、ロトマンレンズを用いた従来のマルチビームアンテナ装置の分解斜視図を図11に示す。図において(31)はロトマンレンズパターンであり、詳細は図12に示す。図12において(221),(222),・・・(22m)はロトマンレンズ(1)に電力を供給する入力端子、(231),(232),・・・(23n)はロトマンレンズ(201)内の電力を取り出す出力端子、(241),(242),・・・(24n)は空間に電波を放射するアンテナ素子、(205)は複数個のアンテナ素子(241),(242),・・・(24n)が直線状に配列されたアレーアンテナ、(261),(262),・・・(26n)は上記出力端子と上記アンテナ素子を結ぶ給電線路、(207)は長さの異なった給電線路(261),(262),・・・(26n)からなる線路部、(208)は中心線であり、このアンテナ装置は、中心線(208)に対して線対称である。(209)は入力端子(221)の位置を表すための補助線であり、入力端子(221)は、座標系(X、Y)の原点となるS2から見て、中心線(208)から仰角αの方向にある。(210)は入力端子(221)を励振したときの空間でのビーム方向を示す直線であり、上記アレーアンテナの正面方向から角度βの方向に向いているが、基本設計では、通常β=αを条件に設計される。
【0003】
以上のように構成された従来のアンテナ装置では、入力端子(221),(222),・・・(22m)のうちの1つの入力端子を励振したとき、電力はロトマンレンズ(201)内に供給される。ロトマンレンズ(201)内の電力は出力端子(231),(232),・・・(23n)で取り出され、給電線路(261),(262),・・・(26n)を通ってアンテナ素子(241),(242),・・・(24n)に至る。アレーアンテナ(205)の励振振幅、励振位相は、入力端子(221),(222),・・・(22m)のどの端子を励振するかによって決定され、アレーアンテナ(205)の励振位相に応じて空間でのビーム方向が決まる。
【0004】
ここで、図12の従来ロトマンレンズパターンでは、入力端子(221),(222),・・・(22m)は、ロトマンレンズ焦点S1位置を中心とする半径Rの円弧上に配置される。S2は、出力端子(231),(232),・・・(23n)の配置される部分曲線と中心線(208)との交点で示し、座標系(X、Y)の原点である。S3は、入力端子(221),(222),・・・(22m)の配置される部分曲線と中心線(208)との交点を示す。なお、出力端子(231),(232),・・・(23n)のx座標、y座標、及び給電線路(261),(262),・・・(26n)の電気長wは、それぞれ次式で表される。
【0005】





【0006】
ここで、







である。
【0007】
また、半径Rは次式で表される。

【0008】
ここで、GはS2とS3との距離でロトマンレンズの大きさであり、Fは入力端子(221)とS2との距離であり、2Lnはアレーアンテナ(205)の開口長である。通常、基本設計では、β=αの限定条件で設計され、0.8<η<1程度、すなわち、FがLnの1から1.25倍程度で、gは、1.137程度として設計することが、出力端子(231),(232),・・・(23n)の励振位相誤差が小さく設計でき、良好とされる。
【0009】
一方、一つのアンテナで2つの直交する偏波のペンシルビームアンテナの実現手段としては、図13に示すように、2層のトリプレートアンテナを電磁結合させた構造が、有効であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭57−93701号公報
【特許文献2】特開2000−124727号公報
【特許文献3】特開平5−152843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、車載レーダ等に用いられるマルチビームアンテナ装置では、遠方は狭い範囲で細いビーム走査が必要とされ、近距離では、広い範囲のビーム走査が必要であり、それぞれ独立に動作させる必要性が高まっているが、異なるマルチビーム特性のレーダ装置を2つ取り付ける場合、高価であると共に、搭載スペースの確保が困難であると言った問題があった。
【0012】
また、図13には、一つのアンテナで2つの直交する偏波のペンシルビームアンテナの実現手段が示されているものの、マルチビーム特性の実現方法は示されておらず、実現された事例も見当たらない。
【0013】
さらに、図12の従来のマルチビームアンテナ装置において、線路部(207)が構成できるためには、第3式における平方根内が正あるいは零である必要がある。すなわち、次式となる。
【0014】

【0015】
この第5式が成立するためには、η=Ln/F≦1である必要があるが、このことから、アンテナ素子(241),(242),・・・(24n)の数が増えてアレーアンテナ(205)の開口2Lnが大きくなった場合は、入力端子(221)とS2との距離Fもアレーアンテナ(205)の開口2Lnに比例して大きくする必要があり、結果としてロトマンレンズの大きさGが大きくなってしまう。従って、アンテナ素子(241),(242),・・・(24n)の数が増えた場合、アンテナ素子の増加比率に合せてロトマンレンズの大きさGを大きくする必要があり、Gの拡大に伴って損失も増加してしまうため、アンテナ素子数を増やしても、その分の利得向上効果が得られないという問題があった。
【0016】
本発明は、1つのアンテナユニットで、2つの独立したマルチビーム特性を実現すると共に、空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向をβとしたとき、出力端子(231),(232),・・・(23n)の配置される部分曲線及び中心線(208)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(208)とがなす角度αに対して、β<αの条件において、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさにすることができ、これによって、ロトマンレンズの損失増加を抑制し、利得を向上することが可能となる低損失マルチビームアンテナ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置においては、第1のアンテナ部(101)と第2のアンテナ部(102)と第1のロトマンレンズ部(103)と第2のロトマンレンズ部(104)とをこの順に積層した平面アンテナモジュールであって、第1のアンテナ部(101)には、第2のアンテナ部の第2の放射素子(16)の位置に相当する箇所に、第1の放射素子(1)と第1の無給電素子(67)を有し、かつ、第1の放射素子(1)と接続された第1の給電線路(2)と第2のロトマンレンズ部(104)に電磁結合した第1の接続部(3)を組とするアンテナ群を複数形成した第1のアンテナ基板(4)と、第1の放射素子(1)及び、第1の無給電素子(67)の位置に相当する箇所に第1のスロット(5)を有する第1の地導体(6)と、第1のアンテナ基板(4)と第1の地導体(6)との間に第1の誘電体(7)と、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第1の結合口形成部(8)を有する第2の地導体(9)と、第1のアンテナ基板(4)と第4の地導体(10)との間に第2の誘電体(11)と、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第2の結合口形成部(12)を有する第3の地導体(13)と、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第1のスリット(14)を有し、かつ、第1の放射素子(1)及び、第1の無給電素子(67)の位置に相当する箇所に第2のスリット(15)を有する第4の地導体(10)を備え、第2のアンテナ部(102)には、第2の放射素子(16)と接続された第2の給電線路(17)と第1のロトマンレンズ部(103)に電磁結合した第2の接続部(18)を組とするアンテナ群を複数形成した第2のアンテナ基板(19)と、第4の地導体(10)と、第2のアンテナ基板(19)と第4の地導体(10)との間に第3の誘電体(20)と、第2の接続部(18)の位置に相当する箇所に第3の結合口形成部(21)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第3のスリット(22)を有する第5の地導体(23)と、第2のアンテナ基板(19)と第7の地導体(24)との間に第4の誘電体(25)と、第2の接続部(18)の位置に相当する箇所に第4の結合口形成部(26)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第4のスリット(27)を有する第6の地導体(28)と、第2の接続部(18)の位置に相当する箇所に第5のスリット(29)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第6のスリット(30)を有する第7の地導体(24)を備え、第1のロトマンレンズ部(103)には、第1のロトマンレンズ(31)及び、第3の給電線路(32)と第2のアンテナ部(102)の第2の接続部(18)に電磁結合した第3の接続部(33)及び、第10の地導体(34)の第1の導波管開口部(35)と電磁結合した第4の接続部(36)を有する第1のロトマンレンズ基板(37)と、第7の地導体(24)と、第1のロトマンレンズ基板(37)と第7の地導体(24)との間に第5の誘電体(38)と、第3の接続部(33)の位置に相当する箇所に第5の結合口形成部(39)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第6の結合口形成部(40)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第7のスリット(41)を有する第8の地導体(42)と、第1のロトマンレンズ基板(37)と第10の地導体(34)との間に第6の誘電体(43)と、第3の接続部(33)の位置に相当する箇所に第7の結合口形成部(44)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第8の結合口形成部(45)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第8のスリット(46)を有する第9の地導体(47)と、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第1の導波管開口部(35)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第9のスリット(48)を有する第10の地導体(34)を備え、第2のロトマンレンズ部(104)には、第2のロトマンレンズ(49)及び、第4の給電線路(50)と第1のアンテナ部(101)の第1の接続部(3)に電磁結合した第5の接続部(51)及び、第13の地導体(52)の第2の導波管開口部(53)と電磁結合した第6の接続部(54)を有する第2のロトマンレンズ基板(55)と、第10の地導体(34)と、第2のロトマンレンズ基板(55)と第10の地導体(34)との間に第7の誘電体(56)と、第5の接続部(51)の位置に相当する箇所に第9の結合口形成部(57)を有し、かつ、第6の接続部(54)の位置に相当する箇所に第10の結合口形成部(58)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第3の導波管開口部(59)を有する第11の地導体(60)と、第2のロトマンレンズ基板(55)と第13の地導体(52)との間に第8の誘電体(61)と、第5の接続部(51)の位置に相当する箇所に第11の結合口形成部(62)を有し、かつ、第6の接続部(54)の位置に相当する箇所に第12の結合口形成部(63)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第4の導波管開口部(64)を有する第12の地導体(65)と、第6の接続部(54)の位置に相当する箇所に第2の導波管開口部(53)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第5の導波管開口部(66)を有する第13の地導体(52)を備え、第1の地導体(6)、第2の地導体(9)と第1の誘電体(7)、第1のアンテナ基板(4)、第3の地導体(13)と第2の誘電体(11)、第4の地導体(10)、第5の地導体(23)と第3の誘電体(20)、第2のアンテナ基板(19)、第6の地導体(28)と第4の誘電体(25)、第7の地導体(24)、第8の地導体(42)と第5の誘電体(38)、第1のロトマンレンズ基板(37)、第9の地導体(47)と第6の誘電体(43)、第10の地導体(34)、第11の地導体(60)と第7の誘電体(56)、第2のロトマンレンズ基板(55)、第12の地導体(65)と第8の誘電体(61)、第13の地導体(52)の順に積層して構成したことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置においては、前記構成のスリットをスロットに変えて構成したことを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明にかかるロトマンレンズ設計においては、図7に示すように、空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向βが、出力端子(231),(232),・・・(23n)の配置される部分曲線及び中心線(208)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(208)との角度αに対して、β<αの条件において、S3は、入力端子(221),(222),・・・(22m)の配置される部分曲線と中心線(208)との交点とし、Fは入力端子(221)とS2との距離、GはS2とS3との距離でロトマンレンズの大きさ、2Lnはアレーアンテナ(205)の開口長としたとき

の関係式を満足するようにロトマンレンズの形状を決定して、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置によれば、1つのアンテナユニットで、2つの独立したマルチビーム特性を実現すると共に、空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向βが、出力端子(231),(232),・・・(23n)の配置される部分曲線及び中心線(208)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(208)とがなす角度αに対して、β<αの条件において、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさにすることができ、ロトマンレンズの損失増加を抑制し、利得を向上することが可能となる低損失マルチビームアンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成を説明する説明図である。
【図2】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の構成を説明する第2説明図である。
【図3】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における第1のアンテナ部の構成を説明する説明図である。
【図4】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における第2のアンテナ部の構成を説明する説明図である。
【図5】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における第1のロトマンレンズ部の構成を説明する説明図である。
【図6】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における第2のロトマンレンズ部の構成を説明する説明図である。
【図7】本発明にかかるロトマンレンズパターンを説明する説明図である。
【図8】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の第1の指向特性を説明する説明図である。
【図9】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の所定の入力端子に応じたアレーアンテナ開口面の位相傾斜を説明する説明図である。
【図10】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の第2の指向特性を説明する説明図である。
【図11】従来例のマルチビームアンテナ装置の構成を示す斜視図である。
【図12】従来例のロトマンレンズパターンを説明する説明図ある。
【図13】従来例の2層トリプレートアンテナの構成を示す斜視図である。
【図14】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の他の構成(実施例3)を説明する説明図である。
【図15】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の他の構成(実施例3)を説明する第2説明図である。
【図16】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の他の構成(実施例3)における第1のアンテナ部の構成を説明する説明図である。
【図17】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の他の構成(実施例3)における第2のアンテナ部の構成を説明する説明図である。
【図18】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の他の構成(実施例3)における第1のロトマンレンズ部の構成を説明する説明図である。
【図19】本発明にかかるマルチビームアンテナ装置の他の構成(実施例3)における第2のロトマンレンズ部の構成を説明する説明図である。
【実施例1】
【0022】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において、1つのアンテナユニットで、2つの独立したマルチビーム特性を実現すると共に、空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向βが、出力端子(231),(232),・・・(23n)の配置される部分曲線及び中心線(208)の交点S2と入力端子とを結ぶ線と、中心線(208)とがなす仰角αに対して、β<αの条件において、S3は、入力端子(221),(222),・・・(22m)の配置される部分曲線と中心線(208)との交点とし、Fは入力端子(221)とS2との距離、GはS2とS3との距離でロトマンレンズの大きさ、2Lnはアレーアンテナ(205)の開口長としたとき、第6式の関係式を満足するようにロトマンレンズの形状を決定して、ロトマンレンズの大きさGをβ=αの限定条件で設計した基本設計寸法未満の大きさとしたことを特徴とする。
【0023】
すなわち、β=αの限定条件でロトマンレンズを設計した場合、第5式が成立するためには、η=Ln/F≦1である必要がある。さらに、0.8<η<1程度、すなわち、FがLnの1から1.25倍程度で、gは、1.137程度として設計すると、出力端子(231),(232),・・・(23n)の励振位相誤差が小さく設計でき、良好とされる。したがって、F及びGは、Lnに対して、それぞれ

の範囲が望ましい。また、アンテナ素子(241),(242),・・・(24n)の数が増えてアレーアンテナ(205)の開口2Lnが大きくなった場合は、入力端子(221)とS2との距離Fは、2Lnに比例して大きくなり、結果としてロトマンレンズの基本設計寸法Gは大きくなる。
【0024】
一方、本発明によれば、例えばβ=α/2の場合を考えると、第5式が成立するためには、η=Ln/2F≦1である必要があり、FがLnの0.5から0.625倍程度で、gは、1.137程度として設計すると、出力端子(231),(232),・・・(23n)の励振位相誤差が小さく設計でき、良好となる。したがって、F及びGは、Lnに対して、それぞれ

の範囲で望ましい設計が可能となる。この場合、β=αの限定条件で設計したロトマンレンズの基本設計寸法Gに対して、1/2倍の寸法で設計できる。
【0025】
また、この時、第1式〜第4式で求められた出力端子(231),(232),・・・(23n)のx座標及びy座標と、給電線路(261),(262),・・・(26n)の電気長wとに基づいて設計された本発明のマルチビームアンテナ装置において、入力端子とS2との角度αの端子から給電した場合、アレーアンテナ(205)の開口中心の位相を基準としたアンテナ素子(241),(242),・・・(24n)における励振位相は、図9の直線2に示すように、β=αの限定条件で設計した基本設計マルチビームアンテナ装置のアンテナ素子(241),(242),・・・(24n)における励振位相を示す図9の直線1と比較して半分の位相傾斜となり、空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向βが、β=αの限定条件で設計した基本設計マルチビームアンテナ装置の空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向αの半分となる。
【0026】
従って、本発明によれば、β<αの条件において、第6式の関係式を満足するようにロトマンレンズの形状を決定することで、β=αの限定条件で設計したロトマンレンズの基本設計寸法Gに対して、β/α倍の大きさの小型のロトマンレンズが設計できる。これにより、ロトマンレンズの大きさに比例した損失の増加を抑制できると共に、アンテナ素子(241),(242),・・・(24n)の数が増えてアレーアンテナ(205)の開口2Lnが大きくなった場合は、入力端子(221)とS2との距離Fは、2Lnに比例して大きくなっても、ロトマンレンズの大きさを、β=αの限定条件で設計したロトマンレンズの基本設計寸法Gに対して、β/α倍に抑制した小型のロトマンレンズが設計でき、空間でのアレーアンテナ(205)のビーム形成方向βのマルチビームアンテナ装置を構成できる。
【0027】
また、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置では、図1〜図6に示すように、ロトマンレンズをトリプレート構成とすることにより、複雑な入力端子部や出力端子部のテーパ形状や位相調整の給電線路(32)および(50)を、エッチング等の技術で容易に構成することができ、第7の地導体(24)に設けた第6のスリット(30)を介して、第1のアンテナ基板(4)の第1の接続部(3)と給電線路(50)の第5の接続部(51)を電磁結合させることができ、第10図に示すような第2の指向特性を有するマルチビームアンテナ装置が実現でき、同様に、第7の地導体(24)に設けた第5のスリット(29)を介して、第2のアンテナ基板(19)の第2の接続部(18)と給電線路(32)の第3の接続部(33)を電磁結合させることで、第8図に示すような第1の指向特性を有するマルチビームアンテナ装置が実現でき、それぞれ独立して機能させることができる。さらに、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置では、全ての部品の単純積層構成で低損失のマルチビームアンテナ装置が構成できる。
【0028】
なお、ここまでの説明は、一般的な中空の平行平板ロトマンレンズや、ロトマンレンズ基板(37)や(55)を、ほぼ空気と同じ低εの誘電体で支持したトリプレート構成の場合を前提に説明したが、比誘電率εrの誘電体による平行平板やトリプレート構成の場合、本発明の第6式を、次式として扱えばよいことは、自明である。
【0029】

【0030】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において、図3、図4に示す第1のアンテナ基板(4)に形成された放射素子(1)と第2のアンテナ基板(19)に形成された放射素子(16)とは互いに90度直交する方向から給電され、かつ、第4の地導体(10)に形成されたスロット(15)によって電磁結合して機能し、所望の周波数の直交する偏波を独立に放射することができる。また、このアンテナ素子を複数配置することで、全体としてアレーアンテナ(205)を形成している。
【0031】
その際、図3〜図6に示すように、第1のアンテナ基板(4)の上下に配置される第2の地導体(9)と第3の地導体(13)及び第2のアンテナ基板(19)の上下に配置される第5の地導体(23)と第6の地導体(28)及び第1のロトマンレンズ基板(37)の上下に配置された第8の地導体(42)と第9の地導体(47) 及び第2のロトマンレンズ基板(55)の上下に配置された第11の地導体(60)と第12の地導体(65)が、アンテナ基板(4)(19)及びロトマンレンズ基板(37)(55)を中空に保持し、かつ、前記アンテナ基板(4)に形成された第1の接続部(3)とアンテナ基板(19)に形成された第2の接続部(18)とロトマンレンズ基板(37)に形成された第3の接続部(33)とロトマンレンズ基板(55)に形成された第5の接続部(51)の周囲に金属壁を形成し、電力を周囲に漏洩させずに、効率よく伝達されることに寄与し、高周波でも低損失特性が実現できる。
【0032】
なお、アンテナ基板(4)(19)及びロトマンレンズ基板(37)(55)を安定に保持するため、誘電体(7、11、20、25、38、43、56、61)を充填してもよい。
【0033】
また、アンテナ装置の入力端子部である第4の接続部(36)、第6の接続部(54)は、第8の地導体(42)の第6の結合口形成部(40) と第9の地導体(47)の第8の結合口形成部(45)および第11の地導体(60)の第10の結合口形成部(58) と第12の地導体(65)の第12の結合口形成部(63)で周囲に金属壁を形成し、第13の地導体(52)に形成した第5の導波管開口部(66)と第2の導波管開口部(53)を介して、電力を周囲に漏洩させずに、効率よく高周波回路に伝達されることに寄与し、高周波でも低損失特性が実現できる。
【0034】
また、各構成部品を積層構成するのみでよく、送受信電力が電磁結合によって伝達されるため、組立時の位置精度も、従来の組立精度ほど、高精度でなくともよい。
【0035】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において用いるアンテナ基板(4)(19)及びロトマンレンズ基板(37)(55)は、ポリイミドフィルムに銅箔を貼り合わせたフレキシブル基板を用い、不要な銅箔をエッチングで除去して放射素子(1)(16)、給電線路(2)(17)、接続部(3)(18)及びロトマンレンズ(31)(49)、給電線路(32)(50)、接続部(33)(51)、接続部(36)(54))を形成することが好ましい。
【0036】
また、フレキシブル基板は、フィルムを基材とし、その上に銅箔等の金属箔を張り合わせた基板の不要な銅箔(金属箔)をエッチング除去することにより複数の放射素子やそれらを接続する給電線路が形成される。また、フレキシブル基板には、ガラスクロスに樹脂を含浸させた薄い樹脂板に銅箔を張り合わせた銅張り積層板でも構成できる。フィルムとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレンポリプロピレンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリメチルペンテンなどのフィルムが挙げられ、フィルムと金属箔との積層には接着剤を用いてもよい。耐熱性、誘電特性と汎用性からポリイミドフィルムに銅箔を積層したフレキシブル基板が好ましい。誘電特性からフッ素系フィルムが好ましく用いられる。
【0037】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において用いる地導体または金属スペーサには、金属板あるいはプラスチックにメッキした板を用いることができるが、特にアルミニウム板を用いれば、軽量で安価に製造でき好ましい。また、それらは、フィルムを基材とし、その上に銅箔を張り合わせたフレキシブル基板、さらにガラスクロスに樹脂を含浸させた薄い樹脂板に銅箔を張り合わせた銅張り積層板でも構成することができる。地導体に形成するスロットや結合口形成部は、機械プレスで打ち抜き加工するか、あるいはエッチングにより形成することができる。簡便性、生産性等から機械プレスでの打ち抜き加工が好ましい。
【0038】
本発明にかかるマルチビームアンテナ装置において用いる誘電体(7)(11)(20)(25)(38)(43)(56)(61)は、対空気比誘電率の小さい発泡体などを用いるのが好ましい。発泡体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系発泡体、ポリスチレン系発泡体、ポリウレタン系発泡体、ポリシリコーン系発泡体、ゴム系発泡体などが挙げられ、ポリオレフィン系発泡体が、対空気比誘電率がより小さいので好ましい。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における各部材の寸法等からみた実施例を、図3〜図6に沿って説明する。第1〜第13の地導体(6)(9)(13)(10)(23)(28)(24)(42)(47)(34)(60)(65)(52)は、厚さ0.3mmのアルミ板を用いた。また、誘電体(7)(11)(20)(25)(38)(43)(56)(61)は、厚さ0.3mmで比誘電率約1.1の発泡ポリエチレンフォームを用いた。アンテナ基板(4)(19)及びロトマンレンズ基板(37)(55)は、ポリイミドフィルム(例えば、厚み25μm)に銅箔(例えば、厚み25μm)を貼り合わせたフレキシブル基板を用い、不要な銅箔をエッチングで除去して放射素子(1)(16)、給電線路(2)(17)、接続部(3)(18)及びロトマンレンズ(31)(49)、給電線路(32)(50)、接続部(33)(51)、接続部(36)(54))を形成した。地導体は、すべてアルミ板に機械プレスで打ち抜き加工したものを用いた。
【0040】
ここで、放射素子(1)(16)は、周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.38倍となる1.5mm角の正方形とした。また、第1の地導体(6)に形成したスロット(5)と第4の地導体(10)に形成したスリット(15)は、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.58倍となる2.3mm角の正方形(又は,長辺が2.3mmとなる長方形としてもよい。以下,スリット(15)について同じ。)とし、第4の地導体(10)に形成したスリット(14) と第5の地導体(23)に形成したスリット(22)と第6の地導体(28)に形成したスリット(27)と第7の地導体(24)に形成したスリット(30)と第8の地導体(42)に形成したスリット(41)と第9の地導体(47)に形成したスリット(46)と第10の地導体(34)に形成したスリット(48)(35)は、縦1.25mm×横2.53mmの導波管開口とした。図3に示すアンテナ基板(4)に形成された放射素子(1)と第4の地導体(10)と第1の地導体(6)に形成されたスロット(5)と給電線路(2)とで形成されたアンテナ素子列を、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.77倍となる3.0mmピッチで8個配置することで、全体としてアンテナ開口2Lnが8×0.77λoのアレーアンテナ(205)を形成した。一つのアンテナ素子列には、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.89倍となる3.5mmピッチに放射素子(1)を16個配置し、16個全ての放射素子(1)を同じ位相での励振給電とした。図4に示すアンテナ基板(19)に形成された放射素子(16)と第7の地導体(24)と第4の地導体(10)に形成されたスリット(15)と給電線路 (17)とで形成されたアンテナ素子列を、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.77倍となる3.0mmピッチで24個配置することで、全体としてアンテナ開口2Lnが24×0.77λoのアレーアンテナ(205)を形成した。また、一つのアンテナ素子列には、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.89倍となる3.5mmピッチに放射素子(16)を16個配置し、16個全ての放射素子(16)を同じ位相での励振給電とした。さらに、放射素子(16)の真上の第1のアンテナ基板(4)の放射素子(1)の無い領域には、無給電素子(67)を配置した。
【0041】
ここで、図6に示すロトマンレンズ基板(55)に形成するロトマンレンズ(49)の大きさGを、第6式にてβ=α/2、すなわち、η=(1/2)・(Ln/F)<1の条件を満たすように0.568Ln<G<0.71Lnの範囲で、F=3.5λo、G=4.1λoとして、第1式〜第4式で求められた出力端子のx座標及びy座標と、給電線路の電気長wとに基づいて8個の出力端子を有するロトマンレンズ(1)を設計した。ロトマンレンズ(49)の大きさGは、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約4.1倍、すなわち16mmとした。
【0042】
以上の各部材を図1、図2に示すように順次重ねてマルチビームアンテナ装置を構成し、計測器を接続して特性を測定した結果、8個の各入力端子に対応する導波管開口部(53)の反射損失は、−15dB以下で、図10に示したように8個の各入力端子に対応した利得指向性が得られ、表1に示すように入力端子の角度αに対して、アレーアンテナ(205)のビーム方向βが、約半分の角度方向に形成できることが確認できた。また、このときの大きさG=16mmのロトマンレンズ(49)の挿入損失は、約2.5dBが得られた。
【表1】

【0043】
さらに、図5に示すロトマンレンズ基板(37)に形成するロトマンレンズ(31)の大きさGを、第6式にてβ=α/2、すなわち、η=(1/2)・(Ln/F)<1の条件を満たすように0.568Ln<G<0.71Lnの範囲で、F=5λo、G=5.7λoとして、第1式〜第4式で求められた出力端子のx座標及びy座標と、給電線路の電気長wとに基づいて24個の出力端子を有するロトマンレンズ(31)を設計した。ロトマンレンズ(31)の大きさGは、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約5.7倍、すなわち22.5mmとした。
【0044】
以上の各部材を図2に示すように順次重ねてマルチビームアンテナ装置を構成し、計測器を接続して特性を測定した結果、6個の各入力端子に対応する導波管開口部(66)の反射損失は、−15dB以下で、図8に示したように6個の各入力端子に対応した利得指向性が得られ、表2に示すように入力端子の角度αに対して、アレーアンテナ(205)のビーム方向βが、約半分の角度方向に形成できることが確認できた。また、このときの大きさG=22.5mmのロトマンレンズ(31)の挿入損失は、約2.5dBが得られた。
【表2】

【0045】
一方、β=αの限定条件、すなわち、η=Ln/F<1で、第5式の条件を満たすように1.137Ln<G<1.42Lnの範囲で設計した従来設計のロトマンレンズの大きさGが、少なくともG=1.137、Ln=10.5λoが必要であり、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約10.5倍、すなわち41.5mmとなり、このときのロトマンレンズ(1)の挿入損失は、約5dBとなった。
【0046】
以上、本実施例のマルチビームアンテナ装置は、従来設計で構成した時の損失を基準とした場合に比べて、相対利得で2.5dB以上改善され、良好な特性が実現できた。
【実施例3】
【0047】
次に、本発明にかかるマルチビームアンテナ装置における他の実施例を、図16〜図19に沿って説明する。アンテナ基板(4)上の放射素子(1)(不図示)及びアンテナ基板(19)上の放射素子(16)(不図示)は、周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.38倍となる1.5mm角の正方形とした。また、第1の地導体(6)に形成したスロット(5)と第4の地導体(10)に形成したスリット(15)は、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.58倍となる2.3mm角の正方形とし、第4の地導体(10)に形成したスリット(14) と第5の地導体(23)に形成したスリット(22)と第6の地導体(28)に形成したスリット(27)と第7の地導体(24)に形成したスリット(30)と第8の地導体(42)に形成したスリット(41)と第9の地導体(47)に形成したスリット(46)と第10の地導体(34)に形成したスリット(48)(35)は、縦1.25mm×横2.53mmの導波管開口とした。図16に示すアンテナ基板(4)に形成された放射素子(1)と第4の地導体(10)と第1の地導体(6)に形成されたスロット(5)と給電線路(2)(不図示)とで形成されたアンテナ素子列を、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.77倍となる3.0mmピッチで24個配置することで、全体としてアンテナ開口2Lnが24×0.77λoのアレーアンテナ(205)を形成した。一つのアンテナ素子列には、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.89倍となる3.5mmピッチに放射素子(1)を16個配置し、16個全ての放射素子(1)を同じ位相での励振給電とした。図17に示すアンテナ基板(19)に形成された放射素子(16)と第4の地導体(24)と第1の地導体(10)に形成されたスリット(15)と給電線路 (17)とで形成されたアンテナ素子列を、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.77倍となる3.0mmピッチで24個配置することで、全体としてアンテナ開口2Lnが24×0.77λoのアレーアンテナ(205)を形成した。また、一つのアンテナ素子列には、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約0.89倍となる3.5mmピッチに放射素子(16)を16個配置し、16個全ての放射素子(16)を同じ位相での励振給電とした。
【0048】
ここで、図18に示すロトマンレンズ基板(37)に形成するロトマンレンズ(31)の大きさGと、図19に示すロトマンレンズ基板(55)に形成するロトマンレンズ(49)の大きさGは、同じ寸法とし、第6式にてβ=α/2、すなわち、η=(1/2)・(Ln/F)<1の条件を満たすように0.568Ln<G<0.71Lnの範囲で、F=5λo、G=5.7λoとして、第1式〜第4式で求められた出力端子のx座標及びy座標と、給電線路の電気長wとに基づいて24個の出力端子を有するロトマンレンズ(31) (49)を設計した。ロトマンレンズ(31) (49)の大きさGは、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約5.7倍、すなわち22.5mmとした。
【0049】
以上の各部材を図14、図15に示すように順次重ねてマルチビームアンテナ装置を構成し、計測器を接続して特性を測定した結果、図19に示す6個の各入力端子に対応する導波管開口部(66)(53)の反射損失は、−15dB以下で、図8に示したのと同様の利得指向性が得られ、表3に示すように入力端子の角度αに対して、アレーアンテナ(205)のビーム方向βが、約半分の角度方向に形成できることが確認できた。このとき、大きさG=22.5mmのロトマンレンズ(31) (49)の挿入損失は、約2.5dBが得られた。
【表3】

【0050】
一方、β=αの限定条件、すなわち、η=Ln/F<1で、第5式の条件を満たすように1.137Ln<G<1.42Lnの範囲で設計した従来設計のロトマンレンズの大きさGが、少なくともG=1.137、Ln=10.5λoが必要であり、所望の周波数76GHzの自由空間波長(λo=3.95mm)の約10.5倍、すなわち41.5mmとなり、このときのロトマンレンズ(1)の挿入損失は、約5dBとなった。
【0051】
以上、実施例3のマルチビームアンテナ装置は、従来設計で構成した時の損失を基準とした場合に比べて、実施例1〜2と同様に相対利得で2.5dB以上改善され、良好な特性が実現できた。
【0052】
なお、図1及び図2においては、第1のアンテナ基板4上の第1の接続部と、第2のロトマンレンズ基板55上の第5の接続部とが電磁結合し、第2のアンテナ基板19上の第2の接続部と、第1のロトマンレンズ基板37上の第3の接続部とが電磁結合するよう配置されている。しかしながら、設計上,第1のアンテナ基板4上の第1の接続部と、第1のロトマンレンズ基板37上の第3の接続部とが電磁結合し、第2のロトマンレンズ基板55上の第5の接続部と、第2のアンテナ基板19上の第2の接続部とが電磁結合するよう配置することもできる。
同様に、図14及び図15においては、第1のアンテナ基板4上の第1の接続部と、第2のロトマンレンズ基板55上の第5の接続部とが電磁結合し、第2のアンテナ基板19上の第2の接続部と、第1のロトマンレンズ基板37上の第3の接続部とが電磁結合するよう配置されている。しかしながら、設計上、第1のアンテナ基板4上の第1の接続部と、第1のロトマンレンズ基板37上の第3の接続部とが電磁結合し、第2のロトマンレンズ基板55上の第5の接続部と、第2のアンテナ基板19上の第2の接続部とが電磁結合するよう配置することもできる。
【0053】
また、実施例2は、車載レーダ用アンテナとして有用であり、実施例3は、送信用アンテナ及び受信用アンテナを1つのアンテナとして備えた屋内無線LAN用送受信アンテナとして使用することができる。
【0054】
さらに、念のために付言しておくと、図1から図2にかけて、図4から図5にかけて、図14から図15にかけて、及び図17から図18にかけて、第7の地導体24が重複されて記載されているが、同じ部材が2層になっているのではない。説明の便宜上重複して記載したためであり、図1の第7の地導体24及び図2の第7の地導体24は同一である。同様に図4の第7の地導体24及び図5の第7の地導体24は同一である。同様に図14の第7の地導体24及び図15の第7の地導体24は同一である。同様に図17の第7の地導体24及び図18の第7の地導体24は同一である。
また、図3から図4にかけて、及び図16から図17にかけて、第4の地導体10が重複して記載されているが、同じ部材が2層になっているのではない。説明の便宜上重複して記載したためであり、図3の第4の地導体10及び図4の第4の地導体10は同一である。また、同じ理由から図16の第4の地導体10及び図17の第4の地導体10も同一である。
また、図5から図6にかけて、及び図18から図19にかけて、第10の地導体34が重複して記載されているが、同じ部材が2層になっているのではない。説明の便宜上重複して記載したためであり、図5の第10の地導体34及び図6の第10の地導体34は同一である。また、同じ理由から図18の第10の地導体34及び図19の第10の地導体34は同一である。
【符号の説明】
【0055】
1 第1の放射素子
2 第1の給電線路
3 第1の接続部
4 第1のアンテナ基板
5 第1のスロット
6 第1の地導体
7 第1の誘電体
8 第1の結合口形成部
9 第2の地導体
10 第4の地導体
11 第2の誘電体
12 第2の結合口形成部
13 第3の地導体
14 第1のスリット
15 第2のスリット
16 第2の放射素子
17 第2の給電線路
18 第2の接続部
19 第2のアンテナ基板
20 第3の誘電体
21 第3の結合口形成部
22 第3のスリット
23 第5の地導体
24 第7の地導体
25 第4の誘電体
26 第4の結合口形成部
27 第4のスリット
28 第6の地導体
29 第5のスリット
30 第6のスリット
31 第1のロトマンレンズ
32 第3の給電線路
33 第3の接続部
34 第10の地導体
35 第1の導波管開口部
36 第4の接続部
37 第1のロトマンレンズ基板
38 第5の誘電体
39 第5の結合口形成部
40 第6の結合口形成部
41 第7のスリット
42 第8の地導体
43 第6の誘電体
44 第7の結合口形成部
45 第8の結合口形成部
46 第8のスリット
47 第9の地導体
48 第9のスリット
49 第2のロトマンレンズ
50 第4の給電線路
51 第5の接続部
52 第13の地導体
53 第2の導波管開口部
54 第6の接続部
55 第2のロトマンレンズ基板
56 第7の誘電体
57 第9の結合口形成部
58 第10の結合口形成部
59 第3の導波管開口部
60 第11の地導体
61 第8の誘電体
62 第11の結合口形成部
63 第12の結合口形成部
64 第4の導波管開口部
65 第12の地導体
66 第5の導波管開口部
67 無給電素子
91 第6の接続部
92 接続基板
93 システムとの接続線路
94 第13の地導体
101 第1のアンテナ部
102 第2のアンテナ部
103 第1のロトマンレンズ部
104 第2のロトマンレンズ部
105 システムとの接続部
205 アレーアンテナ
207 給電線路部
208 ロトマンレンズの中心線
209 入力端子の位置を表す補助線
210 アレーアンテナの正面方向から見たビームの方向
221、222、・・・22m ロトマンレンズ入力端子
231、232、・・・23n ロトマンレンズ出力端子
241、242、・・・24n アンテナ素子
261、261、・・・26n 出力端子とアンテナ素子とを結ぶ給電線路
701、702、703、704、705、706 誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアンテナ部(101)と第2のアンテナ部(102)と第1のロトマンレンズ部(103)と第2のロトマンレンズ部(104)とをこの順に積層した平面アンテナモジュールであって、
第1のアンテナ部(101)には、
第2のアンテナ部の第2の放射素子(16)の位置に相当する箇所に、第1の放射素子(1)と第1の無給電素子(67)とを有し、かつ、第1の放射素子(1)と接続された第1の給電線路(2)と第2のロトマンレンズ部(104)に電磁結合した第1の接続部(3)とを組とするアンテナ群を複数形成した第1のアンテナ基板(4)と、
第1の放射素子(1)及び、第1の無給電素子(67)の位置に相当する箇所に第1のスロット(5)を有する第1の地導体(6)と、
第1のアンテナ基板(4)と第1の地導体(6)との間に第1の誘電体(7)と、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第1の結合口形成部(8)とを有する第2の地導体(9)と、
第1のアンテナ基板(4)と第4の地導体(10)との間に第2の誘電体(11)と、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第2の結合口形成部(12)とを有する第3の地導体(13)と、
第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第1のスリット(14)を有し、かつ、第1の放射素子(1)及び、第1の無給電素子(67)の位置に相当する箇所に第2のスリット(15)を有する第4の地導体(10)とを備え、
第2のアンテナ部(102)には、
第2の放射素子(16)と接続された第2の給電線路(17)と第1のロトマンレンズ部(103)に電磁結合した第2の接続部(18)とを組とするアンテナ群を複数形成した第2のアンテナ基板(19)と、
第4の地導体(10)と、
第2のアンテナ基板(19)と第4の地導体(10)との間に第3の誘電体(20)と、第2の接続部(18)の位置に相当する箇所に第3の結合口形成部(21)とを有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第3のスリット(22)を有する第5の地導体(23)と、
第2のアンテナ基板(19)と第7の地導体(24)との間に第4の誘電体(25)と、第2の接続部(18)の位置に相当する箇所に第4の結合口形成部(26)とを有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第4のスリット(27)を有する第6の地導体(28)と、
第2の接続部(18)の位置に相当する箇所に第5のスリット(29)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第6のスリット(30)を有する第7の地導体(24)とを備え、
第1のロトマンレンズ部(103)には、
第1のロトマンレンズ(31)及び、第3の給電線路(32)と第2のアンテナ部(102)の第2の接続部(18)に電磁結合した第3の接続部(33)及び、第10の地導体(34)の第1の導波管開口部(35)と電磁結合した第4の接続部(36)を有する第1のロトマンレンズ基板(37)と、
第7の地導体(24)と、
第1のロトマンレンズ基板(37)と第7の地導体(24)との間に第5の誘電体(38)と、第3の接続部(33)の位置に相当する箇所に第5の結合口形成部(39)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第6の結合口形成部(40)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第7のスリット(41)を有する第8の地導体(42)と、
第1のロトマンレンズ基板(37)と第10の地導体(34)との間に第6の誘電体(43)と、第3の接続部(33)の位置に相当する箇所に第7の結合口形成部(44)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第8の結合口形成部(45)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第8のスリット(46)を有する第9の地導体(47)と、
第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第1の導波管開口部(35)を有し、かつ、第1の接続部(3)の位置に相当する箇所に第9のスリット(48)を有する第10の地導体(34)とを備え、
第2のロトマンレンズ部(104)には、
第2のロトマンレンズ(49)及び、第4の給電線路(50)と第1のアンテナ部(101)の第1の接続部(3)に電磁結合した第5の接続部(51)及び、第13の地導体(52)の第2の導波管開口部(53)と電磁結合した第6の接続部(54)を有する第2のロトマンレンズ基板(55)と、
第10の地導体(34)と、
第2のロトマンレンズ基板(55)と第10の地導体(34)との間に第7の誘電体(56)と、第5の接続部(51)の位置に相当する箇所に第9の結合口形成部(57)を有し、かつ、第6の接続部(54)の位置に相当する箇所に第10の結合口形成部(58)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第3の導波管開口部(59)を有する第11の地導体(60)と、
第2のロトマンレンズ基板(55)と第13の地導体(52)との間に第8の誘電体(61)と、第5の接続部(51)の位置に相当する箇所に第11の結合口形成部(62)を有し、かつ、第6の接続部(54)の位置に相当する箇所に第12の結合口形成部(63)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第4の導波管開口部(64)を有する第12の地導体(65)と、
第6の接続部(54)の位置に相当する箇所に第2の導波管開口部(53)を有し、かつ、第4の接続部(36)の位置に相当する箇所に第5の導波管開口部(66)を有する第13の地導体(52)とを備え、
第1の地導体(6)、第2の地導体(9)と第1の誘電体(7)、第1のアンテナ基板(4)、第3の地導体(13)と第2の誘電体(11)、第4の地導体(10)、第5の地導体(23)と第3の誘電体(20)、第2のアンテナ基板(19)、第6の地導体(28)と第4の誘電体(25)、第7の地導体(24)、第8の地導体(42)と第5の誘電体(38)、第1のロトマンレンズ基板(37)、第9の地導体(47)と第6の誘電体(43)、第10の地導体(34)、第11の地導体(60)と第7の誘電体(56)、第2のロトマンレンズ基板(55)、第12の地導体(65)と第8の誘電体(61)、第13の地導体(52)の順に積層したことを特徴とするマルチビームアンテナ装置。
【請求項2】
前記構成のスリットをスロットに変えたことを特徴とする請求項1に記載のマルチビームアンテナ装置。
【請求項3】
前記ロトマンレンズについて、電力を供給する複数の入力端子(221),(222),・・・(22m)及び前記複数の入力端子の電力を取り出すための複数の出力端子(231),(232),・・・(23n)から形成されるロトマンレンズと、複数のアンテナ素子で構成され空間に電波を放射するアレーアンテナと、前記出力端子と前記アンテナ素子とを結ぶ給電線路からなり、前記複数の出力端子が配列される曲線及び前記給電線路の長さを決定して、所定の入力端子を励振したとき当該入力端子に対応した角度方向にビームが形成されるマルチビームアンテナ装置において、
空間における前記アレーアンテナのビーム形成角度を前記アレーアンテナ正面からみてβとし、かつ前記出力端子(231),(232),・・・(23n)の配置される部分曲線及び前記ロトマンレンズの中心線(208)の交点S2と前記複数の入力端子の1つとを結ぶ線と、中心線(208)とがなす角度をαとしたとき、β<αであり、さらに
Fを入力端子(221)とS2との距離とし、2Lnをアレーアンテナの開口長とし、S3を、入力端子(221),(222),・・・(22m)の配置される部分曲線と中心線(208)との交点とし、ロトマンレンズの大きさGをS2とS3との距離とし、2Lnを前記アレーアンテナの開口長としたき、

の関係式を満たし、Gをβ=αの条件で設計した場合のロトマンレンズの大きさよりも小さくするよう前記ロトマンレンズの形状を決定したことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のマルチビームアンテナ装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−200316(P2010−200316A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18219(P2010−18219)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】