説明

マンコンベア用移動手摺の検査装置

【課題】
マンコンベア用移動手摺の検査装置において、移動手摺の稼働による移動手摺の裏面の摩滅と、移動手摺の稼働以外の要因による移動手摺の裏面の傷の発生とを判別することが可能なマンコンベア用移動手摺の検査装置を提供する。
【解決手段】
移動手摺1の裏面形状を測定し、裏面形状測定値を出力する形状取得手段6と、前記の裏面形状測定値より前記移動手摺の損傷部位を抽出する損傷部位抽出手段8と、前記損傷部位抽出結果より損傷度を判定する損傷度判定手段9とを備え、前記損傷部位抽出手段8は、前記移動手摺の裏面形状測定値に対して2次微分を行い、2次微分値を出力する2次微分手段を含み、前記損傷度判定手段9は、前記2次微分値に対してあらかじめ定めた閾値を超える前記2次微分値が出力された場合、当該移動手摺部位が損傷していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンコンベア用移動手摺の検査装置に係り、特にエスカレータや移動歩道の移動手摺の損傷検査に好適なマンコンベア用移動手摺の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや移動歩道(動く歩道)などのマンコンベアにおいては、エンドレスになって踏段(ステップ)と共に移動する移動手摺(ハンドレール)が設けられている。この移動手摺において、長期稼働により現れる損傷の態様は、主として表面の化粧ゴム面に現れる損傷と、裏面の帆布面に現れる損傷の二種に大別して分類できる。これらの損傷においては、裏面の帆布面の損傷の方が発生頻度が高く、しかも放置しておくと、損傷の進展により移動手摺を構成する抗張体(スチールワイヤー等)などの飛び出し、移動手摺の停止などの大事故につながり易い。従って、マンコンベアの保守点検に際しては、この移動手摺の裏面の点検が欠かせない事項となっているが、この移動手摺は、欄干上の往路部分では表面の化粧ゴム面だけが見えているだけで、その裏面は、復路部分でしか見ることができない。ここで、この移動手摺の復路側はマンコンベアの装置内部に隠れており、従って、裏面の帆布面の点検を行う際には、マンコンベアの左右の欄干の裾部のカバーを取り外して作った狭い開口部分から保守員が内部を覗き込み、目視により点検する方法が、従来から採用されている。しかしながら、このとき移動手摺の全長にわたる点検には、マンコンベアを運転したまま、すなわちステップが動いている状態で、そのすぐ脇で、片手に持った懐中電灯を狭い開口部から内部に差し伸べながら、他方では、うつ伏せになった姿勢の体重を、残りの片手で支えながら内部を覗き込んで移動手摺の帆布面の観察を行う必要があり、従って、この点検はかなり苦しく、大きな危険が伴う作業になっていることが問題になる。また、この肉眼による点検法では、狭い開口部から覗き込む作業になるため、視野が狭く、広い範囲にわたる観察ができない。そして、このように視野が狭い状態の中で、0.5m/秒という比較的速い速度で動いている移動手摺を、目で追い掛けながら観察するのであるから、微細な損傷の発見は困難であり、早期発見には高度の熟練が必要である。これらの課題を解決するための診断方法の一手法としては、特許文献1や、特許文献2において、光学的測定手段により、移動手摺の帆布面の診断を実施する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平7−277657号公報(段落0028〜0031、第1図)
【特許文献2】特許2582165号(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術は、移動手摺の状態を把握する上で、以下において説明する移動手摺の種々の損傷状況を正確に把握する点について、充分に配慮がされているとは言えず、その損傷の状態を客観的に判定して、交換や修理の可否を判断する上で問題があった。
【0004】
まず、移動手摺の裏面の帆布面の損傷形態としては、マンコンベアの稼働に伴い、移動手摺の裏面と移動手摺の欄干上の往路部分に設置された移動手摺ガイドとが摺動すること等による摩滅の発生と、移動手摺の周回路上において正常稼働時には発生し得ない種々の損傷発生要因(たとえば、移動手摺ガイドへの段差の発生や、移動手摺ガイドの摩滅に伴う固定ビスや金具などの突出、移動手摺の裏面と移動手摺ガイドとの間への異物混入等)による傷の発生がある。
【0005】
前者の摩滅による損傷は、マンコンベアの長期間にわたる稼働により発生するものであり、移動手摺への早急な処置や、移動手摺の交換を必要とするものではない。
【0006】
一方、周回路上の損傷発生要因による傷は、移動手摺の裏面の帆布面に対して、局所的かつ深い形状の傷として発生する。このような形状の傷の発生が進行し、傷が移動手摺を構成する抗張体(スチールワイヤー等)に達した場合、抗張体と移動手摺ガイドおよび移動手摺ガイドの固定具とが接触し、抗張体の損傷や飛び出し、移動手摺の停止という大事故が発生する可能性がある。このため、移動手摺の状態を正確に把握するためには、摩滅による損傷と、傷の発生による損傷とを明確に判別する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、
マンコンベアの移動手摺の裏面の形状を非接触で測定して前記移動手摺の損傷状況を検査する方式のマンコンベア用移動手摺の検査装置において、
前記移動手摺の裏面形状を進行方向と直角の方向に測定し、裏面形状測定値を出力する光学的形状測定手段と、前記の裏面形状測定値より前記移動手摺の損傷部位を抽出する損傷部位抽出手段と、前記損傷部位抽出結果より損傷度を判定する損傷度判定手段とを備え、前記損傷部位抽出手段は、前記移動手摺の進行方向と直角の方向の裏面形状測定値に対して2次微分を行い、2次微分値を出力する2次微分手段を含み、
前記損傷度判定手段は、前記2次微分値に対してあらかじめ定めた閾値を超える前記2次微分値が出力された場合、当該移動手摺部位が損傷していると判定することを特徴とした。
【0008】
また、前記マンコンベア用移動手摺の検査装置において、一定速度で進行する前記移動手摺に対して、前記移動手摺の裏面形状を進行方向と直角の方向に測定し、裏面形状測定値を出力する光学的形状測定手段と、前記移動手摺の少なくとも一周分の裏面形状測定値を記憶する裏面形状測定値記憶手段と、前記裏面形状測定値記憶手段を参照して前記移動手摺の進行方向の裏面形状測定値を出力する進行方向裏面形状測定値出力手段とを備え、前記損傷部位抽出手段は、前記移動手摺の進行方向裏面形状測定値に対して2次微分を行い、2次微分値を出力する2次微分手段を含むことを特徴とした。
【0009】
また、前記マンコンベア用移動手摺の検査装置において、光学的形状測定手段はマンコンベアのスカートガードに装備され、スカートガードにあらかじめ設置された穴および鏡を使用して移動手摺の裏面形状を測定することを特徴とした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1による効果としては、移動手摺の裏面形状の診断において、
裏面形状測定値に対して2次微分を行うことにより、通常稼働によって発生した一様かつ平坦な形状の摩耗と、周回路上の損傷発生要因により発生した凹型やV型の溝状に発生した傷とを明確に判別して診断を行うことを可能とする。
【0011】
請求項2による効果としては、前記の移動手摺の裏面形状の診断を、移動手摺の進行方向においても実施できるため、移動手摺の全周の裏面について、通常稼働によって発生した一様かつ平坦な形状の摩耗と、周回路上の損傷発生要因により発生した凹型やV型の溝状に発生した傷とを明確に判別して診断を行うことを可能とする。
【0012】
請求項3による効果としては、請求項1および請求項2による移動手摺の裏面形状の診断を実施するにあたって、マンコンベアの左右の欄干の裾部のカバー等を取り外すことなく、かつマンコンベアが稼働している状態で実施可能となるため、診断を実施するためのマンコンベアの分解所要時間および診断に要する所要時間の低減が可能となり、ひいてはマンコンベアの利用者に対して、診断のための停止時間の低減という利便性の向上をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下に、本発明に係るマンコンベア用移動手摺の検査装置の一実施形態を、図を使用して説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態であるマンコンベア用移動手摺の検査装置の構成を示すブロック図である。図1において、1は検査対象となる移動手摺であり、移動手摺1の内部には、スチールコードなどで構成される抗張体11、移動手摺の裏面に設置される帆布12が配置されている。ここで、マンコンベア用移動手摺の検査装置は、移動手摺1の裏面の帆布12に対して、レーザー光などの平面形状の平面光3を照射する機能を有する平面光発生手段2、前記平面光3が移動手摺の裏面の帆布12に照射された領域4を光学的に検知する画像取得装置5、前記画像取得装置5からの画像により、帆布12の形状測定値を算出する形状取得手段6、前記形状取得手段6からの形状測定値を順次記録する機能を持つ裏面形状測定値記憶手段7、前記形状取得手段6により得られた帆布12の形状測定値に対して、2次微分を行い、損傷部位の抽出を行う損傷部位抽出手段8と、前記損傷部位抽出手段8の出力を参照して移動手摺1の帆布12の損傷度を算出する機能を有する損傷度判定手段9とで構成する。以下、本構成のマンコンベア用移動手摺の検査装置の動作について詳説する。
【0015】
一般に、マンコンベア用移動手摺1は、移動手摺1の欄干上の往路部分、特にマンコンベアの乗客が移動手摺1を把持する位置においては、移動手摺1を所定の周回位置に位置するように拘束する移動手摺ガイド14が移動手摺1内に設置されている。このことにより、移動手摺1の帆布12においては、移動手摺1が移動手摺ガイド14と摺動することにより、図2の15に示すように、移動手摺ガイド14との摺動部位に、摩滅による損傷が生じる。一方、前記移動手摺1と移動手摺ガイド14とが摺動した結果発生する摩滅の他に、移動手摺ガイド14が極度に摩滅した結果、移動手摺ガイド14を固定するために用いる固定ビスや固定金具と帆布12とが摺動した結果、帆布12に鋭利な傷が発生する場合がある。これらの傷の特徴を、図3を用いて説明する。
【0016】
図3は、帆布12に対して発生し得る損傷の形状を示す図である。20は、移動手摺1が移動手摺ガイド14と摺動することにより発生する損傷の例である。この損傷の形態は、損傷部位の形状変化について着目すると、形状変化が鈍角、つまり、急激な形状変化ではない状況であると言える。よって、このような形態の損傷においては、形状測定値の2次微分値は、図3の21に示すように、あらかじめ定めた閾値55、56の範囲内となる。一方、移動手摺の周回路上において正常稼働時には発生し得ない種々の損傷発生要因(たとえば、移動手摺ガイドへの段差の発生や、移動手摺ガイドの摩滅に伴う固定ビスや金具などの突出、移動手摺の裏面と移動手摺ガイドとの間への異物混入等)により発生した凹型やV型の溝状に発生した傷は、図3の30のような凹型形状や、V溝型の形状となる。このような形態の損傷においては、形状測定値の2次微分値は、図3の31や41に示すように、あらかじめ定めた閾値55、56の範囲を超える値となる。
【0017】
よって、損傷度判定手段9においては、前記形状取得手段5により得られた帆布12の形状測定値の2次微分値に対して、あらかじめ定めた閾値55、56を適用することにより、通常稼働によって発生した一様且つ平坦な形状の摩耗と、周回路上の損傷発生要因により発生した凹型やV型の溝状に発生した傷とを明確に判別して診断を行うことを可能とする。
【0018】
〔実施形態2〕
次に、本発明に係るマンコンベア用移動手摺の検査装置の実施形態1とは異なる実施形態について説明する。実施形態1においては、移動手摺1の進行方向とは直角方向の帆布12の形状を測定し、損傷状況の診断を行うものであるが、本実施形態においては、移動手摺1の進行方向の帆布12の形状を測定し、損傷状況の診断を行うものである。本実施形態においては、帆布12の形状測定値を算出する形状取得手段6の出力は、前記形状取得手段6からの形状測定値を順次記録する機能を持つ裏面形状測定値記憶手段7に送られる。ここで、マンコンベアを通常の稼働状態で稼働した状態で測定した場合、形状取得手段6からの出力は、移動手摺1の移動に伴い、移動手摺1上の各位置の裏面の帆布12の形状を順次出力する。よって、移動手摺1が一周する期間測定を行った場合、裏面形状測定値記憶手段7には、移動手摺1の全周分の裏面の帆布12の形状が記憶されていることとなる。前記測定期間の終了後、裏面形状測定値記憶手段7は、移動手摺1の全周分の裏面の帆布12の形状を順次損傷部位抽出手段8に出力する。よって、損傷部位抽出手段8は、移動手摺1の進行方向の帆布12の形状について、損傷部位の抽出を行うこととなり、実施形態1の診断手順では測定することができなかった、移動手摺1の進行方向に対する損傷状況の診断を行うことが可能となる。特に、本実施形態は、移動手摺1の帆布12において、局部的に穴のような形状の損傷が発生している場合、これを検出するために有効な手順である。
【0019】
〔実施形態3〕
実施形態3は、前記実施形態1、2を実施するにあたって、マンコンベアの左右の欄干の裾部のカバー等を取り外すことなく、かつマンコンベアが稼働している状態で実施可能となるための構造を示すものである。本実施形態は、図4に示すマンコンベアにおいて、光学的に検知する形状取得手段6を、マンコンベア上部のスカートガード61上に設置し、スカートガード61にあらかじめ設置された移動手摺検査用穴62、63を使用して、移動手摺1の裏面形状の診断を行うための構成について説明するものである。
【0020】
まず、本実施形態においては、図5に示すようにスカートガード61にあらかじめ設置された移動手摺検査用穴62、63と移動手摺の裏面帆布との間に、鏡64、65を設けている。ここで、鏡64は、平面光発生手段2より発生した平面光3を、移動手摺1の裏面に導くような角度で設置しており、鏡65は、移動手摺1の裏面帆布への平面光照射領域を、画像取得装置5に導くような角度で設置している。このような構成とすることにより、マンコンベアの左右の欄干の裾部のカバー等を取り外すことなく、移動手摺1の裏面帆布の形状測定が可能となり、かつマンコンベアが稼働している状態において裏面帆布の形状測定が実施可能となる。
【0021】
総じて、実施形態1、2、3により、マンコンベアの移動手摺1の裏面帆布の損傷状況の診断を、マンコンベアの構成部品の分解や測定に要する長時間の停止を伴わずに実施可能となり、かつ通常の稼働による摩滅と、回路上の損傷発生要因により発生した凹型やV型の溝状に発生した傷とを明確に判別して診断を行うことを可能とし、ひいてはマンコンベアの移動手摺1の修理や交換の要否を明確に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態であるマンコンベア用移動手摺の検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】移動手摺の裏面において一般に発生し得る摩滅の発生状況を示す図である。
【図3】摩滅および傷の形状と、その形状測定値の2次微分値を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態であるマンコンベア用移動手摺の検査装置の設置方法を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態であるマンコンベア用移動手摺の検査装置の設置方法およびマンコンベア内部の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 移動手摺
11 移動手摺の抗張体
12 移動手摺の裏面帆布
14 移動手摺ガイド
15 移動手摺の裏面に発生した損傷の例
2 平面光発生手段
3 平面光
4 移動手摺の裏面帆布への平面光照射領域
5 画像取得装置
6 形状取得手段
7 裏面形状測定値記憶手段
8 損傷部位抽出手段
9 損傷度判定手段
20、30、40 移動手摺の裏面に発生した損傷形状の例
21、31、41 移動手摺の裏面に発生した損傷形状の裏面形状測定値の2次微分値の例
55、56 損傷度判定用の閾値
61 マンコンベアのスカートガード
62、63 移動手摺検査用穴
64、65 鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンコンベアの移動手摺の裏面の形状を非接触で測定して前記移動手摺の損傷状況を検査する方式のマンコンベア用移動手摺の検査装置において、
前記移動手摺の裏面形状を進行方向と直角の方向に測定し、裏面形状測定値を出力する光学的形状測定手段と、前記の裏面形状測定値より前記移動手摺の損傷部位を抽出する損傷部位抽出手段と、前記損傷部位抽出結果より損傷度を判定する損傷度判定手段とを備え、前記損傷部位抽出手段は、前記移動手摺の進行方向と直角の方向の裏面形状測定値に対して2次微分を行い、2次微分値を出力する2次微分手段を含み、
前記損傷度判定手段は、前記2次微分値に対してあらかじめ定めた閾値を超える前記2次微分値が出力された場合、当該移動手摺部位が損傷していると判定することを特徴とするマンコンベア用移動手摺の検査装置。
【請求項2】
前記マンコンベア用移動手摺の検査装置において、
一定速度で進行する前記移動手摺に対して、前記移動手摺の裏面形状を進行方向と直角の方向に測定し、裏面形状測定値を出力する光学的形状測定手段と、前記移動手摺の少なくとも一周分の裏面形状測定値を記憶する裏面形状測定値記憶手段と、前記裏面形状測定値記憶手段を参照して前記移動手摺の進行方向の裏面形状測定値を出力する進行方向裏面形状測定値出力手段とを備え、前記損傷部位抽出手段は、前記移動手摺の進行方向裏面形状測定値に対して2次微分を行い、2次微分値を出力する2次微分手段を含むことを特徴とするマンコンベア用移動手摺の検査装置。
【請求項3】
前記マンコンベア用移動手摺の検査装置において、光学的形状測定手段はマンコンベアのスカートガードに装備され、スカートガードにあらかじめ設置された穴および鏡を使用して移動手摺の裏面形状を測定することを特徴とするマンコンベア用移動手摺の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−27889(P2006−27889A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213262(P2004−213262)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】