説明

ミシン

【課題】ミシンベッド上又は加工布上に照射された基準マークの照射位置を、ユーザの所望する位置に容易に移動させることができる使い勝手のよいミシンを提供する。
【解決手段】ミシンの制御装置は、撮影手段により基準マークが撮影された画像に対して、ユーザが前記基準マークを指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定する(ステップS23〜S27)。また、制御装置は、特定した移動方向と移動量に対応させて、ミシンベッド上又は加工布上に照射される基準マークの照射位置を移動させるように位置移動手段を制御する(ステップS28、S29)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンベッド上に載置される加工布を縫製する際、加工布の位置決め又は縫製模様の位置決めを行うための基準となる基準マークを照射するマーク照射手段を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ミシンにより加工布を縫製する際、例えば加工布の端縁や加工布に既に形成された縫目から一定の間隔をあけて直線縫い等の縫製模様を形成したい場合がある。そこで、ミシンベッド上又は加工布上に基準マークを照射するマーキングランプをミシンに設け、直線縫い等の縫製模様の位置決め又は加工布の位置決めを、前記基準マークを利用して行うものがある。
【0003】
例えば特許文献1の光マーキング装置は、2個のマーキングランプを用いて、加工布を直線縫いで縫製する際の始点位置と終点位置を示す十字線(基準マーク)加工布上に照射する。具体的には、光マーキング装置は、加工布の送り方向に沿って延びるフレームと、フレームの端部に固定された終点表示用のマーキングランプと、フレームに調整台を介して移動可能に設けられた始点表示用のマーキングランプとを備える。調整台がステップモータにより駆動されて移動することで、始点表示用のマーキングランプが移動する。また、光マーキング装置には、始点表示用のマーキングランプの移動量を入力するカウンタが設けられている。
【0004】
前記カウンタは、始点表示用のマーキングランプの移動量を数値入力する為のボタンを有する入力器と、入力した移動量を表示する表示器とを備える。そして、縫製に際し、ユーザは、始点表示用のマーキングランプの移動量、即ち、始点位置と終点位置との間の距離を入力器のボタン操作で入力する。そして、入力された移動量に応じてステップモータが駆動されて、始点表示用のマーキングランプが移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−24172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の光マーキング装置において、基準マークの位置を変更する、即ちマーキングランプの位置を変更するには、入力器により移動量を数値入力する必要があり、手間がかかり面倒であった。また、基準マークが照射された位置を実際に目視確認する必要もあり、基準マークの照射位置が所望の位置からずれていた場合には、数値の入力作業と実際の基準マークの照射位置の確認作業とを繰返す必要があり煩雑であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ミシンベッド上又は加工布上に照射された基準マークの照射位置を、ユーザの所望する位置に容易に移動させることができる使い勝手のよいミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1のミシンは、ミシンベッド上に載置される加工布を縫製する際、加工布の位置決め又は縫製模様の位置決めを行うための基準となる基準マークを照射するマーク照射手段を備えたものであり、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射された前記基準マークの照射位置を移動させるための位置移動手段と、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射された前記基準マークを含む所定範囲を撮影する撮影手段と、前記撮影手段により前記基準マークが撮影された画像に対して、ユーザが前記基準マークを指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定するための移動特定手段と、前記移動特定手段で特定された移動方向と移動量に対応させて、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射される前記基準マークの照射位置を移動させるように前記位置移動手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記ミシンによれば、基準マークを含む所定範囲を撮影し、その画像に基づきユーザが基準マークを指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定することができる。このため、制御手段によって、当該移動方向と移動量に対応させて基準マークの照射位置を位置移動手段により移動させることができる。これにより、基準マークの照射位置の移動について、数値の入力や移動量の確認といった従来の面倒な作業を省略して、基準マークをユーザの所望する位置に容易に移動させることができる。
【0010】
請求項2のミシンでは、請求項1の発明において、前記撮影手段により撮影された画像を表示するディスプレイを備え、前記移動特定手段は、ユーザが、前記ディスプレイに表示された前記基準マークを指定して、当該ディスプレイ上で所望の方向へ移動させたときの前記移動方向と移動量を特定することを特徴とする。
【0011】
請求項3のミシンでは、請求項2の発明において、前記移動特定手段は、前記ディスプレイ上に設置されたタッチパネルを備え、前記タッチパネルが、前記基準マークの指定と前記移動方向及び移動量を検知することを特徴とする。
請求項4のミシンでは、請求項2の発明において、前記移動特定手段は、ミシンに接続されたポインティングデバイスを備え、前記ポインティングデバイスにより、前記基準マークの指定と前記移動方向及び移動量の指示とを行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5のミシンでは、請求項1の発明において、前記移動特定手段は、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射された前記基準マークをユーザが手指により指定した状態で、手指を所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を前記撮影手段の画像に基づいて算出する算出手段を備え、前記制御手段は、前記算出手段で算出された前記移動方向と移動量に基づいて、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射される前記基準マークの照射位置を、ユーザの手指の移動に対応して移動させるように前記位置移動手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のミシンによれば、基準マークを含む所定範囲を撮影し、その画像に基づきユーザが基準マークを指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定することができる。このため、制御手段によって、当該移動方向と移動量に対応させて基準マークの照射位置を位置移動手段により移動させることができる。これにより、基準マークの照射位置の移動について、数値の入力や移動量の確認といった従来の面倒な作業を省略して、基準マークをユーザの所望する位置に容易に移動させることができる。
【0014】
請求項2のミシンによれば、請求項1の発明の効果に加え、ユーザは、ディスプレイに表示された基準マークを指定して当該ディスプレイ上で所望の方向へ移動させることで、位置移動手段により基準マークの照射位置を移動させることができる。従って、ディスプレイの表示を利用して、基準マークの移動させる為の入力操作を簡単に行ことができる。
【0015】
請求項3のミシンによれば、請求項2の発明の効果に加え、ユーザは、ディスプレイ上のタッチパネルを手指で直接操作することで、基準マークを所望の照射位置に簡単に移動させることができ、利便性を向上させることができる。
請求項4のミシンによれば、請求項2の発明の効果に加え、ポインティングデバイスとして例えばマウスを用いることができ、基準マークの移動指示を入力するための操作を容易に行うことができる。
【0016】
請求項5のミシンによれば、請求項1の発明の効果に加え、ミシンベッド上又は加工布上に照射された基準マークをユーザが手指により直接指定した状態で、手指を所望の方向に移動させたとき、その移動方向と移動量が撮影手段の画像に基づき算出される。これにより、制御手段によって、当該移動方向と移動量に対応させて基準マークの照射位置を位置移動手段により移動させることができる。よって、基準マークの移動指示を、ユーザの手指の移動に対応して直接行うことができ、使い勝手のよいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態を示すミシンの外観斜視図
【図2】アーム部の左端部と共に示す押え足近傍部の拡大斜視図
【図3】ディスプレイの表示画面の一例を示す図
【図4】電気的構成を示すブロック図
【図5】基準マークの照射に係る全体の処理の流れを示すフローチャート
【図6】タッチパネルにおけるタッチ操作に基づいて、基準マークを移動させる場合の処理流れを示すフローチャート
【図7】本発明の第2実施形態を示す図3相当図
【図8】本発明の第3実施形態を示すものであり、ミシンベッド上の基準マークに直接触れるようにして基準マークを移動させる場合の処理流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、本発明を家庭用ミシン(以下、ミシンMと称す)に適用した第1実施形態について、図1〜図6を参照しながら説明する。
図1において、ミシンMは、左右方向に延びるベッド部1と、ベッド部1の右端部から上方に立上がる脚柱部2と、脚柱部2の上部からに左方に延びるアーム部3とを一体に備えて構成されている。アーム部3の先端部は、頭部3aとされている。アーム部3内には、ミシン主軸(図示せず)が左右方向に延びるように設けられている。脚柱部2内には、タイミングベルト(図示せず)を介して、前記ミシン主軸を回転させるミシンモータ4(図4参照)が配設されている。尚、ミシンMに対して使用者(ユーザ)が位置する方向を前方、その反対方向を後方とする。また、脚柱部2が位置する側を右側とし、その反対側を左側とする。
【0019】
図2に示すように、頭部3aには、縫針5を装着した針棒6と、押え足7を備えた押え棒8とが設けられている。また、図示は省略するが、アーム部3内には、前記針棒6をミシン主軸の回転に基づき上下動させる針棒駆動機構、針棒6を布送り方向と直交する方向(左右方向)に揺動させる針棒揺動機構、天秤を針棒6の上下動に同期して上下動させる天秤駆動機構、押え棒8を上下動させる押え棒駆動機構等が配設されている。
アーム部3には、上面側を開閉するカバー11が開閉可能に設けられている。カバー11を開けた状態におけるアーム部3手前側の中央部には、糸駒12を収容するための収容部13が設けられている。糸駒12から延びる上糸12a(図2にのみ図示)は、前記天秤等を含む糸供給経路を経由して縫針5に供給される。
【0020】
アーム部3の前面側には、複数個のキースイッチ9が操作可能に設けられている。詳しい説明は省略するが、このキースイッチ9には、縫製作業の起動と停止を指令する起動・停止キー9a、返し縫いキー、針上下キー、糸切りキー、スピード調整つまみ等が含まれている。上記脚柱部2の前面には、例えば大型で縦長形状をなしフルカラー表示が可能な液晶ディスプレイ10が設けられている。
液晶ディスプレイ10には、種々の縫製模様、縫製作業に必要な各種の機能を実行させる機能名、各種のメッセージ情報等が表示される。前記縫製模様は、例えば直線縫いやジグザグ縫い等の実用模様、草花や図形等の飾り模様等、ミシンMにおいて縫製動作が可能な各種の模様を含む。また、液晶ディスプレイ10には、後述のイメージセンサ20(図2参照)により撮影された画像が表示される。図3は液晶ディスプレイ10における当該表示画像を示す画面30であって、押え足7近傍部における平面視に相当する。尚、同図の符号Pは、針落ち点である。
【0021】
液晶ディスプレイ10の前面側には、座標入力用の透明なマトリクス状のタッチスイッチを有するタッチパネル14が重ねて配設されている。これにより、液晶ディスプレイ10及びタッチパネル14は、同一画面上で画面表示と座標入力とが可能な表示入力装置として構成されている。ここで、前記タッチスイッチは、例えば、抵抗値検出方式を採用しており、縦方向及び横方向に所定間隔で配置されたマトリックス状の抵抗体(図3のXn、Yn参照)で構成している。ユーザが手指でタッチスイッチ上の任意の位置をタッチすると、タッチした位置に対応する抵抗体の交差点がスキャンされることで、タッチ位置が検知される。
【0022】
前記タッチ位置を検出することで、液晶ディスプレイ10の画面における、表示対象の指定、前記縫製模様の選択、各種機能の指示、各種のパラメータの設定等を行う。液晶ディスプレイ10に図3の画像が表示されている場合、その画面上のタッチパネル14における横方向及び縦方向の座標は、上記した左右方向たるX方向及び前後方向たるY方向に対応する。こうして、タッチパネル14において、タッチ位置に対応する抵抗体の抵抗値の変化に基づき座標値(以下、X座標及びY座標とする)が検出される。尚、タッチパネル14は、タッチ位置を座標値で特定する前記の抵抗値検出方式に限定するものではなく、タッチ位置を特定できるものであればよい。
【0023】
脚柱部2の側面に設けられた接続コネクタ(図示略)には、ポインティングデバイスであるマウス15が取外し可能に接続されている。また、マウス15は、無線通信によってミシンMに接続する構成であってもよい。
ミシンベッドたるベッド部1の上面には、針板1aが設けられている。図示は省略するが、ベッド部1内には、針板1aの下側に位置して、送り歯を上下方向や前後方向に移動させる布送り機構、下糸ボビンを収容し縫針5と協働して縫目を形成する水平回転釜、上糸と下糸を切断する糸切り機構等が配設されている。
【0024】
ミシンMでは、ベッド部1上に載置される加工布CL(図3参照)を縫製する際、加工布CLの位置決め又は縫製模様の位置決めを行うための基準となる基準マークを照射するマーク照射手段を備えている。このマーク照射手段について、図2、図3を参照しながら説明する。
【0025】
レーザポインタ17は、頭部3aの正面下端部で、押え足7或は針落ち点Pに対して前方且つ左方の斜め上方に位置に設けられている。レーザポインタ17は、筒状をなす本体部17aと、移動用モータ19に取付けられる取付部17bとを一体に備える。図示は省略するが、本体部17aには、レーザ光を発光する発光部と、当該レーザ光を例えば直線状に拡げるためのレンズ等を内蔵している。こうして、レーザポインタ17は、ベッド部1上又は加工布CL上に基準マーク16を照射するマーキングライト(マーク照射手段)として構成されている。ここで、基準マーク16は、前後方向に指向する直線状の基線として例示しているが、これに限定されるものではない。
【0026】
前記移動用モータ19は例えばステッピングモータからなる。図2に示すように、前記移動用モータ19は、頭部3aの機枠に対して回転軸19aがY方向を指向するように固定されている。この回転軸19aには、レーザポインタ17の取付部17bが取付けられる。これにより、レーザポインタ17は、ベッド部1側へ下方に向かって後方且つ右方へ傾斜する姿勢で、頭部3aの前側に配置される。そして、移動用モータ19は位置移動手段として、その回転駆動によりレーザポインタ17全体の姿勢(傾斜角度)を調整し、基準マーク16の照射位置をX方向に移動させる。
【0027】
前記頭部3aの正面下端部で、押え足7或は針落ち点Pに対して前方且つ右方の斜め上方に位置させて、イメージセンサ20が設けられている。本実施形態では、イメージセンサ20は、例えばCMOS形の小型の撮像素子からなる。イメージセンサ20は、ベッド部1上又は加工布CL上に照射された基準マーク16を含む所定範囲を撮影する撮影手段として構成されている。これにより、イメージセンサ20は、基準マーク16と共に押え足7近傍部を撮影する。撮影された画像は、液晶ディスプレイ10表示される(図3参照)。このように、液晶ディスプレイ10に撮影された画像が表示されている場合、ユーザは、ベッド部1上又は加工布CL上における基準マーク16の位置と押え足7の位置とを容易に把握することができる。
【0028】
続いて、ミシンMの制御系の構成について、図4のブロック図を参照しながら説明する。
ミシンM全体の制御を司る制御装置21は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、内部にCPU22、ROM23、RAM24、EEPROM25等を有する。制御装置21には、起動・停止キー9aを含む各種のキースイッチ9、タッチパネル14、マウス15、イメージセンサ20が接続された画像処理回路22が夫々接続されている。また、制御装置21には、液晶ディスプレイ10、ミシンモータ4、移動用モータ19、レーザポインタ17を夫々駆動する駆動回路26,27,28,29を介して接続されている。
【0029】
ROM23には、縫製動作を制御するための制御プログラム、前記縫製模様の縫製データ、液晶ディスプレイ10を制御する表示制御プログラムが記憶されている。また、ROM23には、ユーザがタッチパネル14を操作して基準マーク16を所望の位置に移動させるための方向や移動量を特定するための特定用プログラム等が記憶されている。
【0030】
さて、制御装置(制御手段)21は、ミシンMのソフトウェア的構成、つまり特定用プログラムの実行によって、ユーザにより入力された基準マーク16の移動方向及び移動量を、以下のようにして特定する。
即ち、制御装置21は、縫製動作の開始に際して、押え足7近傍部における基準マーク16をイメージセンサ20により撮影する。撮影した画像は液晶ディスプレイ10に表示されると共に、画像処理回路22により後述の画像処理を行うことで、制御装置21は基準マーク16の位置を特定する。一方、本実施形態のタッチパネル14及び制御装置21は移動特定手段に相当し、ユーザのタッチパネル14に対するタッチ操作に基づいて、前記の移動方向及び移動量を特定する。ここで、「タッチ操作」は、ユーザの手指をタッチパネル14上に当接させる操作と、手指をタッチパネル14上に当接させたまま移動させる操作と、当接させた手指をタッチパネル14から離す操作とを含む操作の総称である。また、手指が当接しているタッチパネル14上の位置をタッチ位置とする。また、手指の代わりに、タッチペンを用いて操作してもよいことは言うまでもない。
【0031】
制御装置21は、スキャンニングにより前記タッチ位置に該当する抵抗体の抵抗値の変化に基づいてX座標を取得する。そのX座標が、液晶ディスプレイ10に表示された基準マーク16に対応する位置か否かを判断することで、ユーザによる基準マーク16の指定の有無を識別する。また、制御装置21は、前記X座標を記憶手段たるRAM24に記憶させ、次のスキャンニング時のX座標と当該RAM24に記憶されたX座標とを比較する。これにより、タッチパネル14上の手指の移動つまりユーザの移動方向の指示が、右方向か或は左方向かを判断する。また、基準マーク16を指定した時のX座標と、タッチパネル14から手指を離した時のX座標との差に基づいて、指示された基準マーク16の移動量を算出する。
【0032】
ユーザによるタッチパネル14を介した入力操作と、当該操作に対応させた基準マーク16の移動の具体的な処理手順について、図5、図6も参照しながら説明する。ここで、図5、図6のフローチャートは、制御装置21が実行する前記特定用プログラムの処理の流れを示しており、図中の符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップを示している。
ミシンMの主電源投入後におけるレーザポインタ17は、ベッド部1上又は加工布CL上における針落ち点Pから例えば10mm右方の初期設定位置xS(図3参照)に基準マーク16を照射する姿勢に設定されている。ユーザは、液晶ディスプレイ10に表示された各種の設定を行うための設定画面(図示略)にて、タッチパネル14の操作により基準マーク16の照射を開始するように設定する。これにより、レーザポインタ17は、ベッド部1上又は加工布CL上の初期設定位置xSに直線状の基線である基準マーク16を照射する(ステップS11)。また、基準マーク16の照射開始及び照射停止を行う為の専用のスイッチを設けてもよい。
【0033】
ここで、ユーザが、加工布CLの端縁(図3にて破線で示す)から10mmを超える間隔をあけて直線縫いを形成したい場合、即ち、基準マーク16を右方に移動させたい場合を一例として説明する。この場合、所望の位置に基準マーク16を移動させる為、前記設定画面におけるタッチパネル14の操作により「基準マーク16の移動」を選択する(ステップS12にてYES)。これにより、基準マーク16の照射位置の移動処理が実行される(図6参照)。具体的には、ステップS21にて、イメージセンサ20が基準マーク16や押え足7を含む所定範囲を、前方右斜め上方から撮影する。この場合、図3に示すように液晶ディスプレイ10の画面30には、略平面視の撮影画像(前記所定範囲の一部を示す)を表示される(ステップS22)。また、撮影画像を画像処理回路22で二値化し輪郭を抽出する等、周知の画像処理を行う。この画像処理によって、液晶ディスプレイ10上における基準マーク16の位置が求められる(ステップS23)。
【0034】
一方、ユーザは、基準マーク16の照射位置を所望の位置に移動させる為、その入力操作を、タッチパネル14におけるタッチ操作で行う。制御装置21は、スキャンニングによりタッチ位置に該当する抵抗体の抵抗値の変化に基づいて、X座標を取得してRAM24に記憶させる。また、当該X座標が液晶ディスプレイ10に表示された基準マーク16に対応する位置か否か、つまりユーザによる基準マーク16の指定の有無を判断する(ステップS24)。ここで、前記X座標が基準マーク16に対応する位置に無い場合(NO)、当該タッチ操作においてユーザの手指がタッチパネル14から離れるまで、ステップS24,S25が繰り返し実行される。そして、基準マーク16の指定が無いまま(ステップS24にてNO)、タッチパネル14からユーザの手指が離れると(ステップS25にてYES)、基準マーク16の照射位置を移動させることなく、この処理を終了する。尚、液晶ディスプレイ10の表示画面30に終了キーを別途設け、当該終了キーに対応する部位のタッチ操作により、処理を終了するようにしてもよい。
【0035】
図3に実線で示すように、基準マーク16は、ユーザの手指を液晶ディスプレイ10の基準マーク16上に位置させることで指定される(ステップS24にてYES)。その基準マーク16に対応するX座標と、再度スキャンニングを行うことにより取得されたX座標とを比較することで、タッチパネル14上で手指が左方向へ移動したのか或は右方向へ移動したかが判断される(ステップS26)。即ち、前記RAM24には、タッチ操作中にスキャンニングが繰り返し行われることで、複数のX座標が記憶される。そして、例えばタッチパネル14からユーザの手指が離れた時のX座標と、指定時における基準マーク16のX座標(xS)との差に基づいて、ユーザにより指示された基準マーク16の移動方向と移動量を算出する(ステップS27)。
【0036】
具体的には例えば、初期設定位置xSで基準マーク16を指定した後、図3に2点鎖線で示す位置xEでタッチパネル14から手指を離すものとする。この場合、制御装置21は、ステップS26,S27にて右方向への移動を特定すると共に、当該右方向の距離(xE−xS)を移動量として算出する。こうして特定された移動方向と移動量に対応させて、制御装置21は、移動用モータ19の回転方向と回転量を夫々算出する(ステップS28)。そして、移動用モータ19は、当該算出結果に基づく駆動信号が出力されることで、レーザポインタ17全体の傾斜角度を変更するように回転駆動する(ステップS29)。これにより、ベッド部1上又は加工布CL上に照射された実際の基準マーク16の照射位置は、初期設定位置から手指の移動量(xE−xS)に対応した位置に右方向へ移動される。上記したステップS21〜S29は、ユーザが基準マーク16の移動処理を終了する(ステップS25にてYES)まで、繰り返し実行される。
こうして、ユーザは、上記のタッチパネル14を手指で直接操作することで、基準マーク16を所望の照射位置に容易に移動させることができる。
【0037】
以上のように本実施形態のミシンMは、基準マーク16が撮影された画像に対し、ユーザが基準マーク16を指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定するための移動特定手段を備える。そして、制御装置21は、特定された移動方向と移動量に対応させて、ベッド部1上又は加工布CL上に照射される基準マーク16の照射位置を移動させるように移動用モータ19を制御する。これによれば、基準マーク16を含む所定範囲を撮影し、その画像に基づきユーザが基準マーク16を指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定することができる。このため、制御装置21によって、当該移動方向と移動量に対応させて基準マーク16の照射位置を、移動用モータ19の駆動により移動させることができる。これにより、数値の入力や移動量の確認といった面倒な作業が不要となり、基準マーク16の照射位置を、ユーザの所望する位置に容易に移動させることができる。
【0038】
前記移動特定手段は、ユーザが、液晶ディスプレイ10に表示された基準マーク16を指定して、当該ディスプレイ10上で所望の方向へ移動させたときの前記移動方向と移動量を特定する。これによれば、ユーザは、液晶ディスプレイ10の表示を利用して、基準マーク16の移動させる為の入力操作を簡単に行ことができる。
前記タッチパネル14は、液晶ディスプレイ10上に設置され、基準マーク16の指定と前記移動方向及び移動量を検知する。このため、ユーザは、液晶ディスプレイ10上のタッチパネル14を手指で直接操作することで、基準マーク16を所望の照射位置に簡単に移動させることができ、利便性を向上させることができる。
イメージセンサ20は、基準マーク16と共に押え足7近傍部を撮影し、液晶ディスプレイ10は、その撮影画像を表示する。このため、ユーザは、基準マーク16の照射位置と押え足7の位置とを容易に把握することができる。
【0039】
<第2実施形態>
図7は、本発明の第2実施形態を示すものであり、既述の部分と同一部分には同一符号を付す等して説明を省略し、以下異なる点につき説明する。本第2実施形態では、移動特定手段として前記マウス15を用いることにより、基準マーク16の指定と前記移動方向及び移動量の指示とを行う点で第1実施形態と相違する。
【0040】
即ち、制御装置21は、前記ステップS24(図6参照)に代えて、例えばユーザがマウス15の左ボタン15aを押すと、液晶ディスプレイ10上のマウスカーソルの現在位置を読み込む処理を実行する。そして、当該マウスカーソルの位置座標と液晶ディスプレイ10上の基準マーク16の位置座標とが一致するか否か、つまり両者の液晶ディスプレイ10上におけるX方向の座標(図7のxS´参照)が一致する場合に基準マーク16が指定されたと判断する。図7の画面30´では、指定された基準マーク16とマウスカーソル(以下カーソル31と称す)を実線で示している。
【0041】
また、ステップS27に代えて、例えばマウス15について左ボタン15aを押したまま移動させる、所謂ドラッグ操作の有無を判断する。そして、ドラッグ操作の後、ユーザが左ボタン15aの押圧操作を解除する所謂ドロップ操作がなされると、その位置座標(図7のxE´参照)を読み込む。これにより、ドロップ操作時の座標xE´と、指定時における基準マーク16の座標xS´との差に基づいて、ユーザにより指示された基準マーク16の移動方向と移動量を特定することができる(ステップS27)。
【0042】
このように、本第2実施形態では、ポインティングデバイスとして例えばマウス15を用いることで、基準マーク16の指定と前記移動方向及び移動量の指示とを行うように構成した。これによれば、基準マーク16に係る移動指示を入力するための操作を容易に行うことができる。また、液晶ディスプレイ10の表示を利用して、基準マーク16の移動の入力操作を簡単に行ことができる等、第1実施形態と同様の効果を奏する。
尚、ユーザによるマウス15の操作は、上記した一連のドラッグ・アンド・ドロップ操作に限定するものではない。例えば、マウス15の右ボタンも使用する操作であってもよい。また、ホイール付きマウスの場合には、ホイールの回転方向や回転量に応じて、基準マーク16の指定や前記移動方向及び移動量の指示を行うように構成してもよい。
【0043】
<第3実施形態>
図8は本発明の第3実施形態を示すものである。本第3実施形態では、ベッド部1上又は加工布CL上に照射された基準マーク16をユーザが手指により直接指定するようになっており、上記した図5、図6の処理(ステップS11〜S13、S21〜S29)に代えて以下の処理が実行される。
【0044】
即ち、縫製開始に際し、レーザポインタ17は、前記発光部からベッド部1上又は加工布CL上の初期設定位置xSに直線状の基準マーク16を照射する(ステップS31)。次いで、イメージセンサ20により基準マーク16や押え足7を含む所定範囲を、前方右斜め上方から撮影する(ステップS32)。この場合、制御装置21は、その撮影画像に基づいて、ベッド部1上又は加工布CL上の基準マーク16をユーザが直接手指で触れているか否かを判断する(ステップS33)。基準マーク16及びユーザの手指の画像認識には周知の方法を採用することができる。例えば当該画像を画像処理回路22により二値化して輪郭を抽出した後、テンプレートマッチング法による画像処理を行うことで、基準マーク16及び手指を認識する。そして、手指の移動方向及び移動量の検出には、背景差分法による画像処理を行う。
【0045】
前記ステップS33にて、ユーザの手指による基準マーク16の指定が無い場合、即ち撮影された画像に手指が認識されない場合(NO)、基準マーク16の照射位置を移動させることなく、この処理を終了して縫製処理へ移行する(リターンする)。ユーザの手指が認識されて基準マーク16に対する指定が有ると判断した場合(ステップS33にてYES)、手指が左方向へ移動したのか或は右方向へ移動したかを判断する(ステップS34)。即ち、制御装置21は、ベッド部1上又は加工布CL上からユーザの手指が離れた時のX方向の座標と、指定時における基準マーク16の座標(xS)との差に基づいて、ユーザにより指示された基準マーク16の移動方向と移動量を特定する(ステップS35)。こうして特定された移動方向と移動量に対応させて、制御装置21は、移動用モータ19の回転方向と回転量を夫々演算する(ステップS36)。そして、移動用モータ19は、当該演算結果に基づく駆動信号が出力されることで、レーザポインタ17全体の傾斜角度を変更するように回転駆動する(ステップS37)。これにより、基準マーク16の照射位置は、当該基準マーク16に直接触れるようにして指定した手指をベッド部1上又は加工布CL上で左右に移動させた距離に応じて、初期設定位置からX方向へ移動される。上記したステップS32〜S37は、ユーザが基準マーク16の移動処理を終了する(ステップS33にてNO)まで、繰り返し実行される。
こうして、ユーザは、タッチパネル14やマウス15等の入力手段を操作することなく、ベッド部1上又は加工布CLにおける基準マーク16の移動を手指で直接指示することができる。
【0046】
以上説明したように、制御装置21は、ベッド部1上又は加工布CLに照射された基準マーク16をユーザが手指により指定した状態で、手指を所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量をイメージセンサ20の画像に基づいて算出する算出手段に相当する。これにより、当該移動方向と移動量に対応させて、基準マーク16の照射位置を移動用モータ19の駆動により移動させることができる。よって、基準マーク16の移動指示を、ユーザの手指の移動に対応して直接行うことができ、使い勝手のよいものとすることができる。
【0047】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張できる。
マーク照射手段は、前記レーザ光を照射するレーザポインタ17に限定するものではなく、ベッド部1上又は加工布CLに所定の画像を投影する投影手段であってもよい。投影手段は、例えばLEDからなる発光部、光学系レンズ、透光部等を備える小型の投影機とする。そして、透光部に形成するマークを適宜変更することで、投影される基準マークを直線状の基線だけではなく、十字や円形等、各種形状に変更することもできる。
【0048】
上記実施形態では、基準マークの照射位置を、左右方向たるX方向へ移動させるように構成したが、前後方向たるY方向や斜め方向へ移動させるようにしてもよい。即ち、第1〜第3実施形態における、タッチパネル14のタッチ操作、マウス15によるカーソル31の操作、ベッド部1上における直接的な指示操作について、制御装置21は、Y座標、或はX座標とY座標の双方を取得する。これにより、前記移動方向及び移動量についてY方向の座標値についても特定する。そして、位置移動手段によりマーク照射手段を移動させて、基準マークの照射位置をY方向や斜め方向へ移動させるのである。
【0049】
第1実施形態におけるタッチパネル14のタッチ操作、第3実施形態におけるベッド部1上の直接的な指示操作は、何れも手指による操作に限らず、タッチペン等を使用してもよい。また、ポインティングデバイスは、マウスの代わりに、ジョイスティック、トラックボール等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0050】
M ミシン
CL 加工布
1 ミシンベッド
10 ディスプレイ
14 タッチパネル(移動特定手段)
15 ポインティングデバイス(移動特定手段)
16 基準マーク
17 マーク照射手段
19 位置移動手段
20 撮影手段
21 制御手段(移動特定手段、算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンベッド上に載置される加工布を縫製する際、加工布の位置決め又は縫製模様の位置決めを行うための基準となる基準マークを照射するマーク照射手段を備えたミシンであって、
前記ミシンベッド上又は加工布上に照射された前記基準マークの照射位置を移動させるための位置移動手段と、
前記ミシンベッド上又は加工布上に照射された前記基準マークを含む所定範囲を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により前記基準マークが撮影された画像に対して、ユーザが前記基準マークを指定して所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を特定するための移動特定手段と、
前記移動特定手段で特定された移動方向と移動量に対応させて、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射される前記基準マークの照射位置を移動させるように前記位置移動手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記撮影手段により撮影された画像を表示するディスプレイを備え、
前記移動特定手段は、ユーザが、前記ディスプレイに表示された前記基準マークを指定して、当該ディスプレイ上で所望の方向へ移動させたときの前記移動方向と移動量を特定することを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記移動特定手段は、前記ディスプレイ上に設置されたタッチパネルを備え、
前記タッチパネルが、前記基準マークの指定と前記移動方向及び移動量を検知することを特徴とする請求項2記載のミシン。
【請求項4】
前記移動特定手段は、ミシンに接続されたポインティングデバイスを備え、
前記ポインティングデバイスにより、前記基準マークの指定と前記移動方向及び移動量の指示とを行うことを特徴とする請求項2記載のミシン。
【請求項5】
前記移動特定手段は、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射された前記基準マークをユーザが手指により指定した状態で、手指を所望の方向に移動させたときの移動方向と移動量を前記撮影手段の画像に基づいて算出する算出手段を備え、
前記制御手段は、前記算出手段で算出された前記移動方向と移動量に基づいて、前記ミシンベッド上又は加工布上に照射される前記基準マークの照射位置を、ユーザの手指の移動に対応して移動させるように前記位置移動手段を制御することを特徴とする請求項1記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−170470(P2012−170470A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31987(P2011−31987)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】