説明

ミシン

【課題】標識の画像に基づいて複数の模様間の位置合わせを行うことが可能なミシンにおいて、刺繍枠による縫製対象物の保持位置の変更時に、ユーザが容易に次の保持位置を認識できるミシンを提供する。
【解決手段】刺繍枠による縫製対象物39の保持位置を第一保持位置から第二保持位置に変更して順に縫製される模様151と模様152について、第一保持位置における縫製可能領域86A内の領域110A、110Bに配置された標識と、模様152に対応する最小矩形230Bとが、刺繍枠に対応する縫製可能領域に収まらない場合、縫製可能領域86Aの一部と最小矩形230Bの一部とを少なくとも含み、縫製可能領域と同じ形状、サイズの領域が、第一保持位置と第二保持位置とをつなぐ仮保持位置における縫製可能領域86Cとして設定される。模様151、標識、縫製可能領域86Cの配置関係がディスプレイに表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍枠に保持された縫製対象物に配置された標識の画像を用いて、複数の模様間の位置合わせを行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍縫製が可能なミシンは、通常、縫製対象物を保持する刺繍枠を用い、刺繍枠の種類に応じて刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域内で刺繍縫製を行う。特許文献1には、縫製可能領域よりも大きな刺繍模様を縫製可能領域よりも小さい複数の模様に分割し、複数の模様に対応する縫製データを記憶したミシンが開示されている。このミシンは、縫製データに従って、分割された複数の模様を順次縫製することで、縫製可能領域よりも大きな刺繍模様を縫製する。ユーザは、分割された複数の模様のうち一つが縫製される度に、縫製対象物である加工布を刺繍枠に対して張り替える。上記ミシンは撮影手段を備え、加工布の張り替え前と後に、加工布の表面に配置された標識を撮影する。そして、これらの標識の画像に基づいて、複数の模様間の位置合わせを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−246885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ミシンが複数の模様間の位置合わせを行うためには、ユーザは、標識と次の模様が縫製可能領域に収まるように、刺繍枠による加工布の保持位置を決める必要がある。しかし、縫製済みの前の模様と次に縫製される模様との間が離れている等の理由で、前の模様が縫製された際の縫製可能領域内に配置された標識と次の模様とが縫製可能領域内に収まらない場合が生じうる。この場合、上記ミシンは、ユーザが一回保持位置を変更するだけでは、次の模様を縫製できない。ユーザは、かかる場合、次の模様を縫製可能とするためにはどのように保持位置を変更すればよいのか、容易に認識できない可能性がある。
【0005】
本発明は、標識の画像に基づいて複数の模様間の位置合わせを行うことが可能なミシンにおいて、刺繍枠による縫製対象物の保持位置の変更時に、ユーザが容易に次の保持位置を認識できるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るミシンは、撮影手段と、設定取得手段と、第一配置特定手段と、領域設定手段と、領域報知手段と、第二配置特定手段と、記憶手段と、第二配置更新手段と、第三配置特定手段と、配置決定手段とを備えている。前記撮影手段は、刺繍枠に保持された縫製対象物を撮影可能である。前記設定取得手段は、前記刺繍枠による前記縫製対象物の保持位置が第一保持位置である状態で、前記刺繍枠に応じて設定される縫製可能領域内に縫製される模様を第一模様、前記保持位置が前記第一保持位置とは異なる第二保持位置にある状態で、前記第一模様の次に前記縫製可能領域内に縫製される模様を第二模様とした場合に、前記第一模様に対する前記第二模様の配置に関する設定を取得する。前記第一配置特定手段は、前記第一保持位置において前記撮影手段によって撮影された、前記縫製対象物に配置された標識を含む画像の画像データに基づき、前記第一保持位置における前記第一模様の配置に対する前記標識の配置を、第一配置として特定する。前記領域設定手段は、前記設定取得手段によって取得された前記設定に基づいて、前記第一保持位置における前記縫製可能領域の一部及び前記第二模様の縫製予定範囲の一部を少なくとも含み、前記縫製可能領域に対応する大きさの縫製対象物上の領域を、前記第一保持位置と前記第二保持位置との間の保持位置である仮保持位置における前記縫製可能領域として設定する。前記領域報知手段は、前記領域設定手段によって設定された前記仮保持位置における前記縫製可能領域の位置を報知する。前記第二配置特定手段は、前記領域報知手段によって前記位置が報知され、前記保持位置が前記第一位置から前記仮保持位置に変更された後に前記撮影手段によって撮影された、前記標識を含む画像の画像データと、前記第一配置特定手段によって特定された前記第一配置に基づき、前記仮保持位置における前記第一模様に対する前記標識の配置を、第二配置として特定する。前記記憶手段は、前記第二配置特定手段によって特定された前記第二配置を記憶情報として記憶する。前記第二配置更新手段は、前記第二配置特定手段によって前記第二配置が特定された後に前記仮保持位置において前記撮影手段によって撮影された、前記標識を含む新たな画像の前記画像データと、前記記憶手段に記憶された前記記憶情報とに基づいて前記第二配置を特定し、前記記憶手段に記憶された前記記憶情報を新たに特定された前記第二配置で更新する。前記第三配置特定手段は、前記保持位置が前記仮保持位置から前記第二保持位置に変更された後に前記撮影手段によって撮影された、前記標識を含む画像の画像データと、前記記憶手段に記憶された前記記憶情報とに基づき、前記第二保持位置における前記第一模様に対する前記標識の配置を、第三配置として特定する。前記配置決定手段は、前記設定取得手段によって取得された前記設定と、前記第三配置とに基づいて、前記第二保持位置における前記縫製対象物に対する前記第二模様の配置を決定する。
【0007】
本発明のミシンは、刺繍枠による縫製対象物の保持位置を変更して第一模様と第二模様とが順に縫製される場合、各保持位置で縫製対象物に配置された標識の画像を撮影し、その画像データに基づいて、第二模様の縫製対象物に対する配置を最終的に決定する。ユーザは、第一模様及び第二模様が縫製されるまでの間に、保持位置を適切に変更しなければならない。ユーザは、第一模様、第二模様が特定されているので、夫々に対応する第一保持位置、第二保持位置を認識しやすい。しかし、ユーザは、第一模様と第二模様との間が離れている等の理由で第一保持位置と第二保持位置の間に必要となる仮保持位置については、容易に認識できない場合がある。本発明のミシンは、第一模様に対する第二模様の配置に関する設定に基づき、仮保持位置における縫製可能領域を設定し、その位置を報知することができる。従って、ユーザは、第一保持位置から仮保持位置に保持位置を変更する際、仮保持位置を容易に認識し、保持位置を正しく変更することができる。
【0008】
前記ミシンは、前記第一保持位置において前記撮影手段によって撮影された前記画像の前記画像データに基づいて特定される、前記第一保持位置における前記縫製対象物に対する前記標識の配置と、前記設定取得手段によって取得された前記設定に基づいて特定される、前記第一保持位置における前記縫製対象物に対する前記第二模様の前記縫製予定範囲の配置と、前記縫製可能領域とに基づいて、前記標識と前記第二模様の前記配置予定位置とが前記縫製可能領域に収まらない場合に、前記仮保持位置が必要であると判断する判断手段を更に備えてもよい。前記領域設定手段は、前記判断手段によって前記仮保持位置が必要であると判断された場合にのみ、前記仮保持位置における前記縫製可能領域を設定してもよい。ミシンは、第一模様と第二模様を順に縫製するために仮保持位置が必要な場合にのみ、仮保持位置における縫製可能領域を設定して報知するという効率的な処理を行うことができる。
【0009】
前記ミシンにおいて、前記領域報知手段は、画像を表示する表示手段であってもよく、前記ミシンは、前記表示手段に、少なくとも前記第一模様と前記仮保持位置における前記縫製可能領域との配置関係を特定可能な画像を表示させる表示制御手段を更に備えてもよい。この場合、ユーザは、表示手段に表示された画像から、第一模様との関係で、仮保持位置における縫製可能領域を特定できるので、仮保持位置を更に容易に認識し、保持位置を正しく変更することができる。
【0010】
前記ミシンにおいて、前記領域報知手段は、前記仮保持位置における前記縫製可能領域の前記位置と共に、前記第一配置特定手段によって特定された前記第一配置に基づき、前記第一模様の位置及び前記標識の位置を報知してもよい。この場合、ユーザは、仮保持位置における縫製可能領域と共に、第一模様の位置及び標識の位置を認識できるので、これらの相対的な配置関係から、仮保持位置を更に容易に認識し、保持位置を正しく変更することができる。
【0011】
前記ミシンは、位置設定手段と、位置報知手段とを更に備えてもよい。前記位置設定手段は、前記第二配置特定手段によって前記第二配置が特定された後、前記仮保持位置における前記縫製可能領域内、且つ、前記第二配置及び前記設定取得手段によって取得された前記設定に基づいて特定される、前記仮保持位置における前記縫製対象物に対する前記第二模様の前記縫製予定範囲内にある位置を、標識配置位置として設定する。前記位置報知手段は、前記位置設定手段によって設定された前記標識配置位置を報知する。前記第二配置更新手段は、前記位置報知手段によって前記第二標識配置位置が報知された後に前記撮影手段によって撮影された、前記画像の前記画像データと、前記記憶情報とに基づいて前記第二配置を特定し、前記記憶情報を新たに特定された前記第二配置で更新してもよい。
【0012】
第二配置が特定された後、第二模様を縫製するためには、保持位置が仮保持位置から第二保持位置に変更される必要がある。このとき、標識配置位置が報知されるので、ユーザは、標識配置位置を容易に認識できる。標識配置位置は、仮保持位置における縫製対象物に対する第二模様の縫製予定範囲内にあるので、この位置に標識が配置された後、保持位置が仮保持位置から第二保持位置に変更されても、標識は第二保持位置でも縫製可能領域内に含まれる。つまり、ユーザは、報知された標識配置位置に従って、適切な位置に容易に標識を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】多針ミシン1の斜視図である。
【図2】刺繍枠84を保持する刺繍枠移動機構11の平面図である。
【図3】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】標識110の平面図である。
【図5】メイン処理のフローチャートである。
【図6】選択画面200の説明図である。
【図7】編集画面210の説明図である。
【図8】縫製画面220の説明図である。
【図9】メイン処理で行われる模様つなぎ処理のフローチャートである。
【図10】第一基準設定画面240の説明図である。
【図11】第二基準設定画面250の説明図である。
【図12】標識配置位置の特定方法の説明図である。
【図13】標識配置位置の特定方法の別の説明図である。
【図14】標識配置位置の特定方法の更に別の説明図である。
【図15】標識配置画面270の説明図である。
【図16】模様つなぎ処理で行われる貼り直し処理のフローチャートである。
【図17】仮保持位置指示画面280の説明図である。
【図18】模様つなぎ処理で行われる第二模様配置処理のフローチャートである。
【図19】模様155の説明図である。
【図20】模様155を構成する模様156の説明図である。
【図21】模様155を構成する模様157の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。まず、図1から図3を参照して、実施形態に係る多針ミシン(以下、単にミシンという)1の構成について説明する。以下の説明では、図1の上側、下側、左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側をそれぞれ、ミシン1の上側、下側、正面側、背面側、左側、右側とする。
【0015】
図1に示すように、ミシン1の本体20は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、ミシン1全体を支持する。支持部2の上面には、前後方向に伸びる左右一対のガイド溝25がある。脚柱部3は、支持部2の後端部から上方へ立設されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の内部には、上下方向に伸びる10本の針棒31(図3参照)が左右方向に等間隔で配置されている。10本の針棒31のうち、縫製位置にある1本の針棒が、針棒ケース21の内部に設けられた針棒駆動機構32(図3参照)によって上下方向に摺動される。針棒31の下端には、縫針35(図3参照)が着脱可能である。
【0016】
針棒ケース21の右側面下部には、カバー38が設けられている。カバー38の内側には、イメージセンサ保持機構(図示せず)が取り付けられている。イメージセンサ保持機構は、イメージセンサ50(図3参照)を備える。イメージセンサ50は、周知のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。イメージセンサ50のレンズ(図示せず)は、ミシン1の下方に向けられている。
【0017】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、液晶ディスプレイ(以下、LCDという)7と、タッチパネル8と、スタート/ストップスイッチ41とを備える。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像といった各種情報が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等の位置に対応したタッチパネル8の箇所を、ユーザが、指又はタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」という)によって、縫製される模様及び縫製条件といった各種条件を選択又は設定できる。スタート/ストップスイッチ41は、縫製の開始又は停止を指示するためのスイッチである。
【0018】
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、釜(図示せず)が設けられている。釜は、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する。シリンダベッド10の内部には、釜駆動機構(図示せず)がある。釜駆動機構(図示せず)は、釜を回転駆動する。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形の針板16がある。針板16には、縫針35(図3参照)が挿通される針穴36が設けられている。
【0019】
アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。一対の糸駒台12には、針棒31の数と同じ10個の糸駒13を設置可能である。上糸15は、糸駒台12に設置された糸駒13から供給される。上糸15は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19等を経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の針孔(図示せず)に供給される。
【0020】
アーム部4の下方には、刺繍枠移動機構11(図2参照)のYキャリッジ23が設けられている。刺繍枠移動機構11は、様々な種類の刺繍枠84(図2参照)を着脱可能に支持する。刺繍枠84は、縫製対象物(加工布など)39を保持する。刺繍枠移動機構11は、X軸モータ132(図3参照)及びY軸モータ134(図3参照)を駆動源として、刺繍枠84を前後左右に移動させる。
【0021】
図2を参照して、刺繍枠84と刺繍枠移動機構11とについて説明する。刺繍枠84は、外枠81と、内枠82と、左右1対の連結部89とを備える。刺繍枠84は、外枠81と内枠82とで縫製対象物39を挟持する。ユーザは、外枠81と内枠82とで挟持される縫製対象物39の部分を変えることで、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置を変更することができる。連結部89は、平面視矩形の中央部が矩形に切り抜かれた形状の板部材である。一方の連結部89は、内枠82の右部に螺子95によって固定され、他方の連結部89は、内枠82の左部に螺子94によって固定されている。ミシン1には、図2に例示された刺繍枠84の他、大きさ及び形状が異なる複数種類の他の刺繍枠84を装着可能である。図2に例示された刺繍枠84は、ミシン1で使用可能な刺繍枠84のうち、左右方向の幅(左右の連結部89間の距離)が一番大きな刺繍枠84である。
【0022】
縫製可能領域86は、例えば、図示しない公知の検出器(例えば、特開2004−254987号公報参照)の出力信号に基づき、刺繍枠84の種類に応じて、ミシン1のCPU61(図3参照)により、内枠82の内側に自動的に設定される。又は、ユーザがパネル操作で使用する刺繍枠84を選択し、その刺繍枠84に応じた縫製可能領域86が設定されてもよい。
【0023】
刺繍枠移動機構11は、ホルダ24と、Xキャリッジ22と、X軸駆動機構(図示せず)と、Yキャリッジ23と、Y軸移動機構(図示せず)とを備える。ホルダ24は、刺繍枠84を着脱可能に支持する。ホルダ24は、取付部91と、右腕部92と、左腕部93とを備える。取付部91は、左右方向に長い平面視矩形の板部材である。右腕部92は、前後方向に伸びる板部材であり、取付部91の右端に固定されている。左腕部93は、前後方向に伸びる板部材である。左腕部93は、取付部91の左部において、取付部91に対する左右方向の位置を調整可能に固定される。右腕部92は、刺繍枠84の一方の連結部89と係合し、左腕部93は、他方の連結部89と係合する。
【0024】
Xキャリッジ22は、左右方向に長い板部材であり、一部分がYキャリッジ23の正面から前方に突出している。Xキャリッジ22には、ホルダ24の取付部91が取り付けられる。X軸駆動機構(図示せず)は、直線移動機構(図示せず)を備える。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、X軸モータ132を駆動源として、Xキャリッジ22を左右方向(X軸方向)に移動させる。
【0025】
Yキャリッジ23は、左右方向に長い箱状である。Yキャリッジ23は、Xキャリッジ22を左右方向に移動可能に支持する。Y軸移動機構(図示せず)は、左右一対の移動体(図示せず)と、直線移動機構(図示せず)とを備える。移動体は、Yキャリッジ23の左右両端の下部に連結され、ガイド溝25(図1参照)を上下方向に貫通している。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、Y軸モータ134を駆動源として、移動体をガイド溝25に沿って前後方向(Y軸方向)に移動させる。移動体に連結されたYキャリッジ23と、Yキャリッジ23に支持されたXキャリッジ22とは、これに伴って前後方向(Y軸方向)に移動する。縫製対象物39を保持する刺繍枠84をXキャリッジ22に装着した状態では、縫製対象物39は、針棒31と、針板16(図1参照)との間に配置される。
【0026】
図3を参照して、ミシン1の電気的構成について説明する。図3に示すように、ミシン1は、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部60と、イメージセンサ50とを備える。以下、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部60について順に詳述する。
【0027】
縫針駆動部120は、主軸モータ122と、駆動回路121と、針棒ケース用モータ45と、駆動回路123とを備える。主軸モータ122は、針棒31を上下方向に往復移動させる。駆動回路121は、制御部60からの制御信号に従って主軸モータ122を駆動する。針棒ケース用モータ45は、針棒ケース21を左右方向に移動させる。駆動回路123は、制御部60からの制御信号に従って針棒ケース用モータ45を駆動する。
【0028】
縫製対象駆動部130は、X軸モータ132と、駆動回路131と、Y軸モータ134と、駆動回路133とを備える。X軸モータ132は、刺繍枠移動機構11を駆動させて刺繍枠84(図2参照)を左右方向に移動させる。駆動回路131は、制御部60からの制御信号に従ってX軸モータ132を駆動する。Y軸モータ134は、刺繍枠移動機構11を駆動させて刺繍枠84を前後方向に移動させる。駆動回路133は、制御部60からの制御信号に従ってY軸モータ134を駆動する。
【0029】
操作部6は、タッチパネル8と、駆動回路135と、LCD7と、スタート/ストップスイッチ41とを備える。駆動回路135は、制御部60からの制御信号に従ってLCD7を駆動する。
【0030】
制御部60は、CPU61と、ROM62と、RAM63と、EEPROM64と、入出力インターフェイス(I/O)66とを備え、これらは信号線65によって相互に接続されている。I/O66には、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、イメージセンサ50とがそれぞれ接続されている。以下、CPU61と、ROM62と、RAM63と、EEPROM64とについて詳述する。
【0031】
CPU61は、ミシン1の主制御を司り、ROM62のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶された各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。ROM62は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、模様記憶エリアとを含む複数の記憶エリアを備える。プログラム記憶エリアには、メインプログラムを含む、ミシン1を動作させるための各種プログラムが記憶されている。メインプログラムは、後述するメイン処理を実行するためのプログラムである。模様記憶エリアには、模様(以下、「刺繍模様」ともいう)を縫製するためのデータである縫製データが記憶されている。RAM63には、CPU61が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられる。EEPROM64には、ミシン1が各種処理を実行するための各種パラメータが記憶されている。EEPROM64には、さらに、各針棒31と、各針棒31の下端に装着される縫針35の針孔(図示せず)に供給される上糸15の色とが対応付けて記憶されている。縫製データは、EEPROM64に記憶されていてもよい。
【0032】
図1から図3を参照して、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に縫目を形成するミシン1の動作について説明する。縫製対象物39を保持する刺繍枠84は、刺繍枠移動機構11に支持される。針棒ケース21が左右に移動することで、10本の針棒31のうち1本が選択される。刺繍枠移動機構11によって、刺繍枠84が所定の位置に移動される。主軸モータ122によって主軸(図示せず)が回転駆動されると、針棒駆動機構32及び天秤駆動機構(図示せず)が駆動され、選択された針棒31及びそれに対応する天秤19が上下駆動される。また、主軸モータ122の回転によって釜駆動機構が駆動され、釜が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、縫製対象物39に縫目が形成される。
【0033】
図2を参照して、本実施形態の縫製データについて説明する。本実施形態の縫製データは、図2に示す刺繍座標系100の座標データを含む。刺繍座標系100は、Xキャリッジ22を移動させるX軸モータ132及びY軸モータ134の座標系である。刺繍座標系100の座標データは、基準(例えば、Xキャリッジ22)に対する刺繍模様の位置及び角度を表す。Xキャリッジ22には、縫製対象物39を保持する刺繍枠84が装着される。従って、刺繍座標系100の座標データは、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に対する刺繍模様の位置及び角度を表す。本実施形態では、刺繍座標系100とワールド座標系とを予め対応させている。ワールド座標系は、空間全体を示す座標系である。ワールド座標系は、撮影対象物の重心等の影響を受けることのない座標系である。
【0034】
図2に示すように、刺繍座標系100は、ミシン1の左から右に向かう方向がX軸プラス方向であり、ミシン1の前から後に向かう方向がY軸プラス方向である。本実施形態では、刺繍枠84の初期位置は、刺繍座標系100の原点(X、Y、Z)=(0、0、0)とされている。刺繍枠84の初期位置は、刺繍枠84に対応する縫製可能領域86の中心点が、針落ち点と一致する位置である。針落ち点とは、針穴36(図1参照)の鉛直上方に配置された縫針35(図3参照)が、縫製対象物39の上にある状態から針棒31を下方向に移動させた際に、縫針35が縫製対象物39に刺さる点である。本実施形態の刺繍枠移動機構11は、刺繍枠84をZ方向(ミシン1の上下方向)には移動させないので、縫製対象物39の厚みが無視できる範囲であれば、縫製対象物39の上面のZ座標はゼロとされる。
【0035】
ROM62に記憶されている縫製データの座標データは、刺繍模様の初期配置を規定する。刺繍模様の初期配置は、刺繍模様の中心点が刺繍座標系100の原点、つまり縫製可能領域86の中心点と一致するように設定されている。縫製データの座標データは、縫製対象物39に対する刺繍模様の配置が変更された場合に適宜補正される。本実施形態では、縫製対象物39に対する刺繍模様の配置は、後述するメイン処理に従って設定される。以下の説明では、刺繍模様(より詳細には、刺繍模様の中心点)の位置及び刺繍模様の角度は、刺繍座標系100で表されるデータを用いて、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に対して設定される。
【0036】
図2を参照して、イメージセンサ50(図3参照)の撮影範囲について説明する。イメージセンサ50が撮影位置に配置された場合、イメージセンサ50の刺繍座標系100のXY平面における撮影範囲は、イメージセンサ50のレンズ中心の真下となる点を中心とする、左右方向の長さが約80mmであり前後方向の長さが約60mmの矩形範囲である。本実施形態の撮影位置は、イメージセンサ50のレンズ中心が、針穴36の直上に配置される位置である。図2に示すように、イメージセンサ50が撮影位置に配置され、且つ、刺繍枠84が初期位置に配置された場合の撮影範囲180は、刺繍座標系100の原点を中心とする矩形範囲となる。
【0037】
図4を参照して、標識110について説明する。図4の上側、下側、左側、右側をそれぞれ、標識110に描かれた模様の上側、下側、左側、右側として説明する。標識110は、白色で薄板状の基材シート108の上面に模様が描かれたものである。基材シート108は、例えば、縦が約2.5cm、横が約2.5cmの正方形状である。基材シート108の上面には、第一円101と、第二円102と、第一中心点111と、第二中心点112とが描かれている。第二円102は、第一円101の上方に配置される。第二円102の直径は、第一円101の直径よりも小さい。第一中心点111は、第一円101の中心である。第二中心点112は、第二円102の中心である。基材シート108の上面には、さらに、線分103から106が描かれている。線分103と、線分104とは、第一中心点111と第二中心点112とを通る仮想的な直線(図示せず)と重なる。線分105と、線分106とは、第一円101の第一中心点111を通り、線分103に直交する仮想的な直線(図示せず)と重なる。線分103から106は、それぞれ、基材シート108の外縁端まで描かれている。
【0038】
基材シート108の裏面には透明の粘着剤が塗着されている。従って、基材シート108を縫製対象物39上に貼付することが可能である。通常、基材シート108は剥離紙(図示せず)に貼着された状態になっている。ユーザは、剥離紙から基材シート108を剥がして使用する。
【0039】
図5から図18を参照して、ミシン1において実行されるメイン処理について説明する。本実施形態のメイン処理では、刺繍枠84(図2参照)の内側に設定される縫製可能領域86よりも広い範囲に、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置を変更しながら複数の模様を縫製する場合に、ユーザの指示に従って、模様間の配置が調整され、模様の位置合わせが行われる。なお、以下では、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置が異なる状態で連続して縫製される二つの模様のうち、先に縫製される模様を第一模様、次に縫製される模様を第二模様ともいう。第一模様が縫製される保持位置を第一保持位置、第二模様が縫製される保持位置を第二保持位置という。また、図6に示す模様151及び152が、ユーザによって入力された指示に従って1番目の模様と2番目の模様として配置され、順に縫製される場合を例にして処理を説明する。
【0040】
図5に示すメイン処理は、ユーザがメイン処理を開始する指示を入力した場合に実行される。メイン処理を開始する指示は、例えば、パネル操作によって入力される。メイン処理を実行するためのプログラムは、ROM62(図3参照)に記憶されており、CPU61によって実行される。以下の説明において、イメージセンサ50が生成した画像データによって表される画像を、撮影画像と言う。例示する各種画面及びメッセージは、駆動回路135に制御信号が出力されることによってLCD7に表示される。例示する各種画面において、各図の左右方向及び上下方向を、それぞれ画面の左右方向及び上下方向と言う。
【0041】
図5に示すように、メイン処理ではまず、変数Nに1が設定され、設定された変数NはRAM63に記憶される(S1)。変数Nは、ユーザによって選択された模様の数をカウントするための変数である。変数Nは、選択された模様の縫製順序に対応する。CPU61は、N番目の模様が選択されるまで待機する(S2:NO、S2)。S2では、まず、図6に例示する選択画面200がLCD7に表示される。選択画面200は、例えば、模様表示欄201、模様情報欄202、模様選択欄203、SETキー204を含む。
【0042】
模様表示欄201の大きさは、装着されている刺繍枠84に応じて設定された縫製可能領域86の大きさに対応する。模様表示欄201の上下方向は、刺繍座標系100のX軸方向に対応する。模様表示欄201の左右方向は、刺繍座標系100のY軸方向に対応する。模様表示欄201には、現在選択されている模様が、その模様が縫製される範囲を表す図形とともに表示される。本実施形態では、模様が縫製される範囲を表す図形を矩形161で表す。模様が初期配置にある状態では、模様が縫製される範囲を表す矩形161は、模様表示欄201の左右方向に平行な辺と、模様表示欄201の上下方向に垂直な方向に平行な辺とを備える。模様情報欄202には、例えば、矩形161の大きさと、装着されている刺繍枠84が表示される。
【0043】
模様選択欄203には、ROM62又はEEPROM64に記憶されている縫製データに基づき、ミシン1で縫製可能な複数の模様(図6の例では模様151、152)が表示される。ユーザは、これらの中から、所望の模様(例えば、模様151)をパネル操作によって選択する。その後SETキー204が選択されると、N番目の模様が選択されたと判断される(S2:YES)。この場合、ROM62又はEEPROM64から、選択されたN番目の模様に対応する縫製データが取得され、RAM63に記憶される(S3)。
【0044】
最初の処理では、変数Nは1であるから(S4:YES)、続いて、刺繍座標系100における1番目の模様の配置が決定される(S5)。具体的には、S3で取得された1番目の模様151の縫製データが、ユーザにより指示された模様の編集内容に従って公知の方法により補正されることで、第一保持位置における縫製対象物39に対する1番目の模様151の配置が決定される。S5ではまず、図7に例示する編集画面210が表示される。編集画面210は、例えば、模様表示欄211、模様情報欄212、模様編集欄213を含む。模様表示欄211は、模様表示欄201と同様である。
【0045】
模様編集欄213は、8方向の矢印キーを含む移動キー群214、回転キー215等、模様の編集を指示する各種キーを含む。ユーザは、模様編集欄213に表示されたキーをパネル操作によって選択することによって、模様の編集を指示することができる。例えば、ユーザは、移動キー群214に含まれる8つの方向キーのいずれかをパネル操作することで、模様を初期配置から所望の移動量だけ移動させることができる。また、ユーザは、回転キー215が選択されると表示される画面(図示略)において、模様の中心点を中心として、模様を初期配置から所望の角度だけ回転させることができる。ユーザは、その他、編集画面210を介して、模様の大きさの変更、模様の反転等の編集も可能である。そこで、模様情報欄212には、指示された移動量や回転角度も表示される。
【0046】
模様の編集後、ユーザが模様編集欄213右下のSEWINGキー216を選択すると、それまでに指示された編集内容が確定され、公知の方法でその模様の縫製データが補正され、RAM63に記憶される。そして、図8に例示する縫製画面220が表示される。縫製画面220は、模様表示欄221、模様情報欄222、指示欄223を含む。模様表示欄221には、移動、回転等の編集内容を反映した模様(図8の例では模様151)が、その中心点を示す十字(図8の例では十字153)と共に表示される。模様情報欄222は、模様情報欄212と同様である。図8の例では、模様151が移動及び回転されているので、模様表示欄221、模様情報欄222には、これらの編集が反映された情報が表示されている。指示欄223は、前の画面に戻るためのRETURNキーや、編集した模様を例えばEEPROM64に記憶させるためのMEMORYキー等を含む。
【0047】
ユーザは、縫製画面220の模様表示欄221に表示された編集後の模様を確認し、そのまま縫製を進めたい場合は、スタート/ストップスイッチ41(図1参照)を押下することで、縫製開始指示を入力する。CPU61は、この入力があるまで待機し(S7:NO、S7)、縫製開始指示の入力を検知すると(S7:YES)、N番目の模様の縫製が実行される(S8)。具体的には、S5で必要に応じて補正されたN番目の模様の縫製データに従って、駆動回路131及び駆動回路133に制御信号が出力され、刺繍枠84が移動される。駆動回路121に制御信号が出力され、主軸モータ122が駆動される。これにより、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に模様の縫目が形成される。
【0048】
縫製が終了すると、図示しないが、図8に示す縫製画面220の指示欄223に重ねて、縫製が終了した旨を通知し、次の模様をつなげて縫製するか否かを問合せるメッセージと、OKキー及びキャンセルキーが表示される。ユーザは、縫製が完了したN番目の模様に続けてN+1番目の模様を縫製したい場合であって、N番目の模様及びN+1番目の模様全体が縫製可能領域86に収まらない場合、模様つなぎ処理を行うために、OKキーを選択する。一方、キャンセルキーが選択された場合や、所定時間内(例えば、5分間)にOKキーが選択されない場合、模様つなぎ処理の指示がないと判断され(S9:NO)、メイン処理は終了する。
【0049】
OKキーが選択され、模様つなぎ処理が指示されたと判断された場合(S9:YES)、変数Nは1だけインクリメントされ、インクリメントされた変数NはRAM63に記憶される(S10)。更に、LCD7には、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置を変更しない、つまり、縫製対象物39を刺繍枠84から外さないようにユーザに指示するメッセージと、次の模様(第二模様)を選択するよう促すメッセージとが表示される(図示略)(S11)。そして処理はS2に戻り、図6に示す選択画面200がLCD7に表示される。S2において、例えば、図8に示すように配置された1番目の模様151(第一模様)につなげる2番目の模様(第二模様)として、模様152が選択されると(S2:YES)、模様152の縫製データがRAM63に取得される(S3)。変数Nは1ではないので(S4:NO)、模様つなぎ処理が行われる(S6、図9)。模様つなぎ処理は、ユーザの指定に応じて第一模様と第二模様の配置関係を決定し、保持位置変更前後の標識110を含む画像に基づいて、縫製対象物39に対する第二模様の配置を決定する処理である。
【0050】
図9に示すように、模様つなぎ処理では、まず、図7に示すのと同様の編集画面210がLCD7に表示され、第二模様が必要に応じて編集される。編集内容に応じて、S3で取得された縫製データが補正され、補正後の縫製データがRAM63に記憶される(S31)。
【0051】
続いて、第一基準の指定が受け付けられる(S32)。第一基準とは、第一模様と第二模様の相対的な配置関係を決定する際に使用される、第一模様に関する基準である。S32ではまず、図10に例示する第一基準設定画面240がLCD7に表示される。図10に示すように、第一基準設定画面240は、メッセージ241、模様表示欄242、指示欄243を含む。メッセージ241は、第一基準を設定するように促すものである。第一基準は、例えば、ユーザによって指定された、第一線分171及び第一点172の少なくとも一方を含む。本実施形態の第一基準は、第一線分171及び第一点172の両方を含む。第一線分171は、第一模様(N−1番目の模様)が縫製される範囲を表し、第一模様が収まる最小矩形230Aを構成する四辺のいずれかから選択される。第一点172は、第一線分171の両端の点及び第一線分171の中点のいずれかから選択される。
【0052】
指示欄243は、第一指定キー群244、CANCELキー245、OKキー246を含む。第一指定キー群224に含まれる各第一指定キーは、前述の第一基準を指定するためのキーである。本実施形態では、第一指定キー群244に含まれる12個の第一指定キーの中からユーザによって選択されたキーに対応する第一線分171と第一点172の組み合わせが、第一基準として選択される。模様表示欄242には、第一模様と最小矩形230Aに重ねて、選択された第一指定キーに対応する第一線分171及び第一点172が表示される。図10の例では、第一模様である模様151に対応する第一基準として、最小矩形230Aの右辺が第一線分171として指定され、その中点が第一点172として指定されている。なお、図8に示すように、第一模様が編集により回転されている場合は、第一模様は、模様表示欄242では、0度、90度、180度、270度のうち最も近い角度で配置される。模様151の場合、時計回りに160度回転されているので、時計回りに180度回転された状態で表示されている。
【0053】
指示欄243のCANCELキー245は、第一基準の指定をやり直す際に選択されるキーである。OKキー246は、第一基準の指定を確定する際に選択されるキーである。第一基準設定画面240において、第一基準が指定され、OKキー246の選択によって確定されると、指定された第一基準がRAM63に記憶される。第一模様に対応する最小矩形230Aにおける第一基準(第一線分171及び第一点172)の配置は、第一模様の縫製データ(第一模様が編集され、縫製データが補正された場合は、補正後の縫製データ)に基づき、特定可能である。刺繍座標系100の座標で特定された第一線分171及び第一点172の配置は、RAM63に記憶される。
【0054】
続いて、第二基準の指定が受け付けられる(S33)。第二基準とは、第一模様と第二模様の相対的な配置関係を決定する際に使用される、第二模様に関する基準である。S33ではまず、図11に例示する第二基準設定画面250がLCD7に表示される。図11に示すように、第二基準設定画面250は、メッセージ251、模様表示欄252、指示欄253を含む。メッセージ251は、第二基準を設定するように促すものである。第二基準は、例えば、ユーザによって指定された、第二線分181及び第二点182の少なくとも一方を含む。本実施形態の第二基準は、第二線分181及び第二点182の両方を含む。第二線分181は、第二模様(N番目の模様)が縫製される範囲を表し、第二模様が収まる最小矩形230Bを構成する四辺のいずれかから選択される。第二点182は、第二線分181の両端の点及び第二線分181の中点のいずれかから選択される。
【0055】
指示欄253は、第二指定キー群254、移動キー群257、CANCELキー255、OKキー256を含む。第二指定キー群254に含まれる各第二指定キーは、前述の第二基準を指定するためのキーである。本実施形態では、第二指定キー群254に含まれる12個の第二一指定キーの中からユーザによって選択されたキーに対応する第二線分181と第二点182の組み合わせが、第二基準として選択される。また、矩形枠状に配置された第二指定キー群254の中央部には、次の模様(第二模様)が表示される。なお、第二模様がS31で編集されている場合は、第二模様は編集内容を反映した状態で表示される。また、移動キー群257に含まれるX軸方向キー、Y軸方向キーは、夫々、第一基準に対する第二基準の位置を、X軸方向、Y軸方向に移動させたい場合に選択されるキーである。
【0056】
模様表示欄252には、第一線分171及び第一点172が重ねて表示された第一模様と最小矩形230Aに対して、第二指定キーで指定された第二基準に応じた配置関係で、第二模様と最小矩形230Bと第二基準が表示される。より具体的には、原則、第一模様と第二模様は、第一線分171の延伸方向が第二線分181と重なり、且つ、第一点172が、第二点182と重なるように配置される。ただし、移動キー群257によって、第一基準に対する第二基準の位置をX軸方向、Y軸方向に移動させる指示が入力された場合は、指示された移動量に応じて、第二基準が移動されるので、この場合は、第一模様と第二模様が重なるとは限らない。図11の例では、第二模様である模様152は編集されておらず、第二基準として、最小矩形230Bの下辺が第二線分181として指定され、その中点が第二点182として指定されている。よって、模様表示欄252では、時計回りに180度回転された模様151の最小矩形230Aの右辺(第一線分171)に模様152の最小矩形230Bの下辺(第二線分181)が重なり、最小矩形230Aの右辺の中点(第一点172)に最小矩形230Bの下辺の中点(第二点182)が重なるように配置された模様151、152が表示されている。
【0057】
指示欄253のCANCELキー255は、第二基準の指定をやり直す際に選択されるキーである。OKキー256は、第二基準の指定を確定する際に選択されるキーである。第二基準設定画面250において、第二基準が指定され、OKキー256の選択によって確定されると、指定された第二基準がRAM63に記憶される。第二模様に対応する最小矩形230Bにおける第二基準(第二線分181及び第二点182)の配置は、第二模様の縫製データ(第二模様が編集され、縫製データが補正された場合は、補正後の縫製データ)に基づき、特定可能である。刺繍座標系100の座標で特定された第二線分181及び第二点182の配置は、S32で特定された第一基準と対応付けて、RAM63に記憶される。これにより、第一模様に対する第二模様の配置関係が決定される。この時の刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置は、第一模様が縫製された時の保持位置から変更されていないので、第一保持位置である。
【0058】
続いて、イメージセンサ50が撮影位置に移動され、イメージセンサ50による針穴36(図1参照)付近の撮影が開始された後(S34)、標識配置位置が特定される(S40)。標識配置位置とは、第一保持位置から第二保持位置に保持位置を変更して第二模様を縫製する際、標識110の画像を用いて第一模様に対して第二模様を正確に位置合わせするために、縫製対象物39上に標識110を配置すべき位置である。
【0059】
第一保持位置から第二保持位置への保持位置の変更回数を一回にするために、標識110は、できるだけ、第一保持位置における縫製可能領域86にも第二保持位置における縫製可能領域86にも収まることが望ましい。そこで、本実施形態では、S32、S33で指定され、RAM63に記憶された第一基準及び第二基準、つまり第一模様に対する第二模様の配置関係に基づき、第一保持位置における縫製可能領域86内、且つ、第二模様の縫製予定範囲内にある位置が、標識配置位置として特定される。第二保持位置における縫製可能領域86はユーザが設定するものであるから、その位置は変動するため確定できない。一方、第二模様の縫製予定範囲は第二保持位置における縫製可能領域86に含まれ、しかも、第一模様に対する第二模様の配置関係が決定されていれば、その位置には変動がない。よって、本実施形態では前述の条件で標識配置位置が特定される。
【0060】
例えば、図11に示す例のように第一模様である模様151と第二模様である模様152の配置関係が決定されている場合、図12に示すように、第一保持位置における縫製可能領域86A内で、模様151の第一線分171を含む直線と接し、且つ、模様152に対応する前述の最小矩形230Bの角に内接する2つの矩形領域110A、110Bが、標識配置位置として特定されればよい。矩形領域110A、110Bの大きさは、標識110より大きく(例えば、標識110の大きさの1.5倍)設定されると、標識110を貼り付けやすいので好ましい。前述のように、第一保持位置における刺繍座標系100において、第一線分171を示す座標は特定され、第一模様と第二模様の配置関係も決定されているので、この座標のデータと模様152の縫製データに基づいて、領域110A、110Bを示す座標も特定することができる。この例の場合、標識110が縫製可能領域86Bにも収まるような第二保持位置を確実に設定することができる。なお、第一模様と第二模様が同じ刺繍枠84を使用して縫製される限り、保持位置が変更されても、縫製可能領域86Aと縫製可能領域86Bとは同一サイズである。
【0061】
なお、第一模様と第二模様の配置関係によっては、第一保持位置における縫製可能領域86A内、且つ、第二模様の縫製予定範囲内(第二模様に対応する最小矩形230B内)に、2つの領域110A、110Bを配置できない場合がある。例えば、図13に示すように、模様151と模様152とが、夫々に対応する最小矩形230A、230Bの頂点の1つで接するように斜め方向に並べて配置されている場合、前述の条件を満たす矩形領域は1つしか配置できない(領域110A)。このような場合、例えば、もう1つの矩形領域(領域110B)は、縫製可能領域86A内の第一線分171を含む直線に接する位置に領域110Aに並んで配置されればよい。なお、本実施形態のように2個の標識110が使用される場合、位置合わせの精度向上のためには、ある程度領域110Aから離間した位置に領域110Bを配置するのが好ましい。ただし、第一位置から第二位置への保持位置の変更回数を一回にするためには、模様151に対する模様152の配置と、縫製可能領域86Bの大きさに基づき、縫製可能領域86Bから確実に外れる位置(例えば点線で示す領域110C)には配置しないようにする必要がある。
【0062】
第一保持位置における縫製可能領域86A内で、第二模様の配置予定範囲を考慮せず、第一模様の第一基準のみに基づいて標識110を配置した場合、例えば、図13に示すように、第一線分171の両端を中心とした矩形領域160A、160Bに標識110が配置されうる。この場合、刺繍枠84が同じである限り、領域160A、160B及び模様152がいずれも縫製可能領域86Bに収まる第二保持位置を設定することは不可能であるため、保持位置の変更が1回では済まなくなる。これに対し、前述したように、本実施形態では、模様152の配置予定範囲(最小矩形230B)も考慮して領域110A、110Bに標識配置位置が設定されるので、ユーザは1回の保持位置変更で、適切な第二保持位置を設定できる。
【0063】
更に、S33で第一基準に対する第二基準の位置を移動させる指示が入力された場合等、第一模様と第二模様の配置関係によっては、例えば図14に示す例のように、第一保持位置における縫製可能領域86A内に、第二模様の縫製予定範囲(最小矩形230B)が含まれない場合もある。このような場合は、標識110を貼り付ける位置次第で、第一保持位置から第二保持位置へ至るまでの保持位置の変更回数が2回以上になる貼り直し処理(図9のS54、図16)が必要となる可能性がある。そこで、第一保持位置における縫製可能領域86A内に、第二模様の縫製予定範囲(最小矩形230B)が含まれない場合、S40では、保持位置の変更回数をなるべく少なくできる位置が、標識配置位置として特定されるとよい。
【0064】
例えば、図14に示す例で説明すると、既に決定されている模様151と模様152の配置関係から、第一保持位置における刺繍座標系100において、第二模様である模様152の縫製予定範囲(例えば、模様152に対応する最小矩形230Bを示す座標)は特定できる。保持位置の変更回数をなるべく少なくするためには、標識配置位置は、できるだけ模様152の縫製予定範囲に近い方がよい。そこで、第一保持位置における縫製可能領域86A内、且つ、できるだけ模様152に対応する最小矩形230Bに近い位置にある2つの矩形領域110A、110Bが、標識配置位置として特定されればよい。領域110A、110Bは、位置合わせの精度向上のため、ある程度互いに離間して配置されるのが好ましい。
【0065】
このようにして、S40で標識配置位置が特定されると、第一模様と第二模様の位置合わせを行うために、イメージセンサ50による撮影画像から、前述の標識配置位置である領域110A、110Bに貼り付けられた2個の標識110を検出する処理が行われる。まず、刺繍枠84が、領域110A、110Bのうち一方(例えば、領域110A)がイメージセンサ50の撮影範囲180(図2参照)内に収まる位置に移動され、LCD7に標識配置位置が特定された画像が表示される(S41)。具体的には、図15に例示する標識配置画面270がLCD7に表示される。図15に示すように、標識配置画面270は、メッセージ欄271と、標識位置表示欄272を含む。
【0066】
標識位置表示欄272には、合成画像273、OKキー276が表示される。合成画像273は、イメージセンサ50から出力される針穴36付近の画像に、赤色の矩形274が付与された画像である。1個目の標識110を検出する処理では、赤色の矩形274は、針穴36付近の画像における、標識配置位置を示す領域110A、110Bのうち一方(領域110A)に対応する位置に表示される。矩形274の大きさは、標識110の大きさの約1.5倍である。メッセージ欄271には、標識110を矩形274の内側の領域に配置した後、OKキー276を選択することをユーザに促すメッセージが表示される。ユーザは、標識位置表示欄272を確認しながら、矩形274の内側に標識110を貼り付ける。OKキー276が選択されない間は、イメージセンサ50による撮影画像を用いて合成画像273を更新して表示する処理が繰り返される(S42:NO、S41)。
【0067】
ユーザが矩形274の内側に標識110を貼り付けたことを確認し、OKキー246を選択すると(S42:YES)、イメージセンサ50から出力された画像データが取得され、RAM63に記憶される(S43)。次に、矩形274の内側に対応する部分の画像から標識110を検出する処理が実行される(S44)。S44では、矩形274の内側に対応する部分の画像から標識110が検出された場合、標識110に含まれる第一中心点111及び第二中心点112の刺繍座標系の座標が特定される。
【0068】
標識110の検出及び座標の特定は、公知の方法(例えば、特開2010−246885号公報参照)を用いて実行される。具体的には、標識110の第一中心点111及び第二中心点112について、例えばハフ変換処理を用いて、イメージセンサによって撮像された画像の座標系である画像座標系における二次元座標が算出される。その後、画像座標系の二次元座標がワールド座標系の三次元座標に変換される。前述のように、本実施形態では、刺繍座標系と、ワールド座標系とは対応付けられているので、画像処理によって算出されたワールド座標系の三次元座標に基づき、刺繍座標系100の座標が算出される。
【0069】
S44で標識110が検出されていない場合(S45:NO)、標識110を矩形274内に配置することをユーザに促すメッセージがLCD7に表示され(S46)、処理はS41に戻る。標識110が検出された場合(S45:YES)、検出された標識110が、2個目の標識110であるかが判断される(S47)。本実施形態のミシン1は、領域110A、110Bに対応する位置に貼り付けられた2個の標識110を検出して、標識110の配置と、第一保持位置における第一基準の配置とを対応付ける。よって、検出された標識110が、1個目の標識110である場合(S47:NO)、駆動回路131と、駆動回路133とに制御信号が出力され、2個目の標識110を検出するための位置に刺繍枠84が移動される(S48)。具体的には、領域110A、110Bのうち、1個目の標識110の処理で使用されたのとは別の領域(領域110B)がイメージセンサ50の撮影範囲に収まる位置に、刺繍枠84が移動される。
【0070】
処理はS41に戻り、2個目の標識110を検出するための処理が実行される(S41〜S46)。なお、2個目の標識110の処理のS41では、赤色の矩形274は、領域110Bに対応する位置に表示される。同様にして、2個目の標識110が検出されると(S47:YES)、検出された2個の標識110の座標と第一基準の座標とから、第一保持位置での第一基準に対する標識110の配置が特定され、第一標識配置として、RAM63に記憶される(S51)。
【0071】
標識110の配置は、標識110の位置及び角度の少なくともいずれかを含む。本実施形態のミシン1は、標識110の配置として、2つの標識110の第一中心点111の刺繍座標系の座標に基づき、標識110の位置及び角度を検出する。標識110の位置は、例えば、2つの標識110のうちの一方の第一中心点111の刺繍座標系の座標で表される。標識110の角度は、2つの標識110のうちの一方の標識110の第一中心点111から他方の標識110の第一中心点111に向かうベクトルと、刺繍座標系のX軸とがなす角で表される。2つの標識110の区別は、例えば、各標識110における第一中心点111に対する、第二中心点112の相対位置に基づき判断される。S51では、第一保持位置における2個の標識110の第一中心点111(図4参照)の座標と、S32で特定されRAM63に記憶されている第一保持位置における第一基準(第一線分171及び第一点172)を示す座標とを対応付けることによって、第一保持位置での第一基準に対する標識110の配置(位置及び角度)が特定される。
【0072】
続いて、貼り直し処理が必要か否かが判断される(S53)。貼り直し処理とは、第一保持位置と第二保持位置との間つなぎの保持位置である仮保持位置で標識110を貼り直させ、第一基準と標識110との配置関係を更新する処理である。つまり、S53では、仮保持位置が必要であるか否かが判断される。仮保持位置は、図14の例のように、第一保持位置における縫製可能領域86A内(領域110A、110Bの位置)に貼り付けられた標識110と、第二模様(模様152)の縫製予定範囲(最小矩形230B)とが、刺繍枠84に対応する縫製可能領域86(図2参照)に収まらない場合に、必要であると判断される。
【0073】
より詳細には、2個の標識110の配置は、模様つなぎ処理(図9)のS43で取得された画像データに基づき、S44で第一保持位置における刺繍座標系100(図2参照)の座標で特定されている。また、S32、S33で設定された第一基準と第二基準に基づいて、第一模様に対する第二模様の配置が決定されているので、第一保持位置における刺繍座標系100において、第二模様の縫製予定範囲を示す座標も特定できる。また、縫製可能領域86の形状、サイズは刺繍枠84に応じて特定できる。従って、これらの情報に基づき、標識110と第二模様の縫製予定範囲が縫製可能領域86に収まるか否かは判断できる。
【0074】
仮保持位置が必要である、つまり、貼り直し処理が必要であると判断された場合(S53:YES)、続いて貼り直し処理が行われる(S54、図16)。図16に示すように、貼り直し処理では、まず、仮保持位置における縫製可能領域86Cが設定される(S69)。図14に示すように、仮保持位置における縫製可能領域86Cは、第一保持位置における縫製可能領域86Aの一部及び第二模様(模様152)の縫製予定範囲(最小矩形230B)の一部を少なくとも含む、刺繍枠84に対応する縫製可能領域86と同じ形状、サイズの縫製対象物39上の領域である。縫製可能領域86Cには、第一保持位置における縫製可能領域86Aの一部として、標識110が配置されている位置が含まれることが望ましい。なお、S69では、縫製可能領域86Cの配置は、第一保持位置に対応する刺繍座標系100の座標で特定され、RAM63に記憶される。
【0075】
続いて、LCD7に、図17に例示する仮保持位置指示画面280が表示される(S70)。仮保持位置指示画面280は、S69で設定された縫製可能領域86Cの位置を報知するための画面であり、例えば、メッセージ欄281、仮保持位置表示欄282、OKキー286を含む。
【0076】
仮保持位置表示欄282には、少なくとも、第一模様(図17の例では模様151)と仮保持位置における縫製可能領域86Cとの配置関係を特定可能な画像が表示される。図17の例のように、第一模様(模様151)と縫製可能領域86Cと共に、縫製対象物に貼り付けられている標識110の配置が追加表示されてもよい。さらには、縫製可能領域86Cに対応する刺繍枠84の配置が追加表示されてもよい。メッセージ欄281には、標識110をはがさずに、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置を変更する、つまり、縫製対象物39を刺繍枠84から外して張り替えるようユーザに指示するメッセージが表示される。図17の例のように、仮保持位置表示欄282に第一模様と縫製可能領域86Cと標識110の配置関係が表示されている場合は、標識110が表示された配置関係を満たす位置にくるように保持位置を変更するよう指示するメッセージが表示される。
【0077】
ユーザは、仮保持位置指示画面280を確認しながら縫製対象物を刺繍枠84から外し、指示された仮保持位置に保持位置を変更する。このとき、保持位置の変更は、縫製対象物39上において、S41で指示された標識配置位置(図14に示す領域110A、110B)に対応する位置に標識110が貼り付けられた状態で実行される。すなわち、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置が変更されても、縫製対象物39に対する標識110の配置は変更されない。
【0078】
ユーザによる保持位置変更後にOKキー286が選択されると、仮保持位置における標識110の検出回数を表す変数Mが1に設定され、設定された変数MはRAM63に記憶される(S71)。刺繍枠84(図2参照)の内側の領域全体を撮影対象として、前述のように、図9のS41で指示された標識配置位置に貼り付けられたままの標識110を検出する1回目の処理が行われる。具体的には、イメージセンサ50から出力された画像データが取得され(S72)、取得された画像データによって表される画像全体を検出対象として、標識110の検出処理が実行される(S73)。標識110の検出は、図9のS44と同様に、公知の方法を用いて実行される。標識110が検出された場合には、例えば、標識110の第一中心点111及び第二中心点112の刺繍座標系の座標が算出される。
【0079】
標識110が検出されない場合(S74:NO)、刺繍枠84の内側の全領域が検出対象範囲として設定され、処理が完了したかが判断される(S75)。検出対象範囲として設定されていない領域がある場合(S75:NO)、駆動回路131及び駆動回路133に制御信号が出力され、検出対象範囲として設定されていない領域が、イメージセンサ50の撮影範囲に収まる位置に、刺繍枠84が移動される(S76)。処理はS72に戻り、画像から標識110を検出する処理が行われる。このようにして刺繍枠84の内側の領域が順に処理され、標識110が検出されないまま全領域の処理が完了した場合(S75:YES)、2個の標識110が検出できないことを報知するエラーメッセージがLCD7に表示される(S77)。この場合、ユーザは、2個の標識110が刺繍枠84の内側の領域にあるか否かを確認する。処理はS72に戻り、画像から標識110を検出する処理が行われる。
【0080】
標識110が検出された場合には(S74:YES)、それが2個目の標識110か否かが判断される(S78)。検出されたのが2個目の標識110ではない場合(S78:NO)には、処理はS75に進み、前述のように、標識110が検出されるまで、刺繍枠84を移動させて刺繍枠84の内側の領域内で画像を取得し、2個目の標識110を検出する処理が行われる。処理が繰り返され、2個目の標識が検出された場合(S78:YES)、検出された2個の標識110の座標と第一基準の座標とから、仮保持位置での第一基準に対する貼り替え前の標識110(図14の例では、領域110A、110Bに対応する位置に貼り付けられた標識110)の配置が特定され、仮標識配置としてRAM63に記憶される(S79)。なお、S79では、既にRAM63に記憶されていた第一標識配置は、新たに特定された仮標識配置で更新される。
【0081】
例えば、図14に示す縫製可能領域86Aに対応する第一保持位置において、領域110A、110Bに対応する位置に貼り付けられた標識110の第一基準(第一線分171及び第一点172)に対する配置は既に特定されている。また、縫製対象物39が、縫製可能領域86Cに対応する仮保持位置に張り替えられると、仮保持位置での刺繍座標系100が設定され、原点は既知となる。前述の貼り直し処理のS73で、仮保持位置での標識110の座標が特定される。よって、第一保持位置における第一基準(第一線分171及び第一点172)の座標を仮保持位置における刺繍座標系100の座標に座標変換すれば、仮保持位置における第一基準の座標と標識110との対応ができる。つまり、仮保持位置での第一基準に対する標識110の位置及び角度を含む配置が特定される。
【0082】
次に、変数Mの値が2であるか、つまり、既に検出処理が2回行われたかが判断される(S81)。Mの値が2でない場合(S81:NO)、変数Mが1インクリメントされる(S82)。続いて、仮保持位置における2回目の標識110の検出処理が行われる(S83〜S91)。この検出処理では、仮保持位置から第二保持位置へ移行するのに適切な位置に標識110を貼り直すようユーザに促し、貼り直し後の標識110を検出する処理が行われる。処理の内容は、第一保持位置における標識110の検出処理(図9のS40〜S48)の内容とほぼ同様であるため、ここでは、S40〜S48で行われるのとは異なる処理の内容についてのみ説明する。
【0083】
まず、S83では、次のように標識配置位置が特定される。S79で、仮保持位置での刺繍座標系100において、標識110及び第一基準(第一線分171及び第一点172)を示す座標は特定されているので、既に決定されている第一模様と第二模様の配置関係から、仮保持位置における第二模様の縫製予定範囲の配置が特定できる。標識配置位置として、仮保持位置の縫製可能領域86内、且つ、第二模様の縫製予定範囲内にある位置が特定される。例えば図14の例では、仮保持位置の縫製可能領域86C内、且つ、第二模様(模様152)の縫製予定範囲(最小矩形230B)内にある2つの領域165A、165Bが、標識配置位置として特定されればよい。これらの領域165A、165B内に標識110が配置されれば、縫製可能領域86Cに対応する仮保持位置から、縫製可能領域86Bに対応する第二保持位置に保持位置を変更することで、模様152を縫製することが可能となる。なお、領域165A、165Bは、領域110A、110Bと同様、ある程度互いに離間して配置されるのが好ましい。
【0084】
続いて、前述のS41〜S48の処理(図9参照)と同様、領域165A、165Bに対応する位置に標識110を貼り付けるようユーザに促し、イメージセンサ50による撮影画像から、その位置に貼り付けられた標識110を順に検出する処理が行われる(S84〜S91)。2個目の標識が検出されると(S90:YES)、仮保持位置における第一基準に対する貼り替え後の標識110の配置が特定され、RAM63に既に記憶されている仮標識配置が、特定された配置で更新される(S95)。例えば、図14に示す縫製可能領域86Cに対応する仮保持位置において、第一基準を示す座標と、貼り替え前に領域110A、110Bに対応する位置に貼られた標識110の座標は既に特定されている。よって、これらの情報と、領域165A、165Bに対応する位置に貼り替えられた標識110の座標とから、仮保持位置での第一基準に対する貼り替え後の標識110の位置及び角度を含む配置が特定できる。
【0085】
仮標識配置が更新された後(S95)、処理はS80に戻る。2回目の検出処理が終わり、変数Mは2とされているので(S80:YES)、第一基準に対する標識110の配置が更新された旨を示すメッセージと、OKキー(図示せず)がLCD7に表示される(S96)。OKキーが選択されると、縫製対象物39の保持位置の変更を促すメッセージとOKキー(図示せず)がLCD7に表示される(S97)。
【0086】
メッセージの表示後、ユーザは、縫製対象物39の刺繍枠84(図2参照)に対する保持位置を、例えば、図14に示す縫製可能領域86Cに対応する仮保持位置から、第二保持位置に変更する。第二保持位置は、例えば、領域165A、165Bに対応する位置に配置された2つの標識110と、模様152に対応する最小矩形230Bとが収まる縫製可能領域86Bに対応する保持位置である。保持位置の変更は、縫製対象物39において、領域165A、165Bに対応する位置に標識110が貼り付けられた状態で実行される。すなわち、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置が変更されても、縫製対象物39に対する標識110の配置は変更されない。ユーザによる保持位置変更後にOKキーが選択されると、図16に示す貼り直し処理は終了し、処理は図9に示す模様つなぎ処理に戻る。処理はS56に進む。
【0087】
第一保持位置における縫製可能領域86A内に貼り付けられた標識110と、第二模様(模様152)の縫製予定範囲(最小矩形230B)とが、刺繍枠84に対応する縫製可能領域86に収まる場合、S53では、貼り直し処理は必要ではないと判断される(S53:NO)。この場合、または貼り直し処理(S54)の後、第二模様配置処理が行われる(S56、図18参照)。第二模様配置処理は、第二保持位置での第一基準に対する標識110の配置を特定し、第二模様の配置を決定する処理である。
【0088】
図18に示すように、第二模様配置処理では、まず、LCD7に、次の模様(第二模様)を縫製するために、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置を変更する、つまり、縫製対象物39を刺繍枠84から外して張り替えるようユーザに指示するメッセージとOKキーを含む画面(図示略)が表示される(S100)。この時、保持位置の変更は、縫製対象物39上に標識110が貼り付けられた状態で実行される。すなわち、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置が変更されても、縫製対象物39に対する標識110の配置は変更されない。なお、図12及び図13に示す例のように、貼り直し処理が不要とされた場合は、標識110は、模様つなぎ処理(図9)のS41で指示された領域110A、110Bの位置に貼り付けられた状態である。一方、図14に示す例のように、貼り直し処理が必要とされた場合は、標識110は、貼り直し処理(図16)のS84で指示された領域165A、165Bの位置に貼り付けられた状態である。
【0089】
OKキーが選択された後、標識110の検出処理が行われる(S102〜S107)。この検出処理は、保持位置が異なる以外は、貼り直し処理における1回目(M=1)の検出処理(S72〜S77)と同一であるため、説明を省略する。2個目の標識110が検出されると(S108:YES)、検出された第二保持位置における標識110の刺繍座標系100の座標と、RAM63に記憶されている第一標識配置又は仮標識配置とから、第二持位置での第一基準に対する標識110の配置が特定され、第二標識配置としてRAM63に記憶される(S109)。
【0090】
例えば、図12又は図13に示すように、保持位置が、縫製可能領域86Aに対応する第一保持位置から、仮保持位置を経ることなく、縫製可能領域86Bに対応する第二保持位置に変更された場合、RAM63には第一標識配置が記憶されている。すなわち、この場合は、第一保持位置における刺繍座標系100の座標により第一基準と標識110との対応関係が特定されている。また、保持位置が第二保持位置に変更された時点で、第二保持位置での刺繍座標系100が設定され、第二保持位置での標識110の座標が特定されている。従って、第一保持位置における第一基準(第一線分171及び第一点172)の座標を第二保持位置における座標に座標変換すれば、第二保持位置における第一基準の座標と標識110との対応ができる。つまり、第二保持位置での第一基準に対する標識110の配置が第二標識配置として特定できる。
【0091】
一方、例えば、図14に示すように、保持位置が、縫製可能領域86Aに対応する第一保持位置から、縫製可能領域86Cに対応する仮保持位置を経て、縫製可能領域86Bに対応する第二保持位置に変更された場合には、RAM63には、仮標識配置、つまり、仮保持位置における第一基準と、領域165A、165Bに対応する位置に貼り替えられた標識110との対応関係が記憶されている。この場合も同様に、第二保持位置における貼り替え後の標識110の座標が特定されるので、仮保持位置における第一基準(第一線分171及び第一点172)の座標を第二保持位置における座標に座標変換すれば、第二保持位置における第一基準の座標と標識110との対応ができる。つまり、第二保持位置での第一基準に対する領域165A、165Bに対応する位置にある標識110の配置が第二標識配置として特定できる。
【0092】
次に、特定された第二標識配置と、第一模様に対する第二模様の配置関係とに基づき、第二保持位置における縫製対象物39に対する第二模様(N番目の模様)の配置が決定される(S110)。また、S110では、決定された配置に基づき、N番目の模様の縫製データが補正される。また、決定されたN番目の模様の配置(図示せず)は、LCD7に表示される。その後、「標識をはがしてください。」とのメッセージ(図示せず)がLCD7に表示される(S111)。図18に示す第二模様配置処理は以上で終了し、処理は図9の模様つなぎ処理に戻り、模様つなぎ処理も終了して図5に示すメイン処理に戻る。
【0093】
図5に示すように、メイン処理では、縫製開始キーが選択されると(S7:YES)、第一模様の場合と同様、N番目の模様である第二模様の縫製が実行される(S8)。更に次の模様をつなげて縫製する場合には(S9:YES)、前述と同様の処理が繰り返され、つなげて縫製する次の模様がない場合は(S9:NO)メイン処理は終了する。
【0094】
以上に説明したように、本実施形態のミシン1によれば、刺繍枠84による縫製対象物39の保持位置が第一位置の状態で、第一模様が縫製される。第一模様に対する第二模様の配置に関する設定(第一基準と第二基準)が取得される。イメージセンサ50により撮影された画像の画像データに基づき、第一保持位置における第一基準に対する標識110の配置(第一標識配置)が特定される。第二模様が縫製される第二保持位置に変更される前に、保持位置を仮保持位置とする必要がある場合には、第一保持位置における縫製可能領域86の一部及び第二模様の縫製予定範囲の一部を少なくとも含み、刺繍枠84に対応する縫製可能領域86と同じ形状、サイズの領域が、仮保持位置における縫製可能領域86Cとして設定される。LCD7に表示される画面に、第一模様と縫製可能領域86Cとの配置関係を特定可能な画像が表示される。
【0095】
その後、保持位置が仮保持位置に変更された後でイメージセンサ50により撮影された画像の画像データと第一配置に基づき、仮保持位置における第一基準に対する標識110の配置(仮標識配置)が特定され、RAM63に記憶される。保持位置が仮保持位置のまま、縫製可能領域86C内で第二模様の縫製予定範囲内にある位置が、標識配置位置として設定され、報知される。報知された位置に標識110が貼り替えられた後でイメージセンサ50により撮影された画像の画像データと、RAM63に記憶された仮標識配置に基づき、仮標識配置が更新される。更に、保持位置が第二保持位置に変更された後でイメージセンサ50により撮影された画像の画像データとRAM63に記憶された仮標識配置に基づき、第二保持位置における第一基準に対する標識110の配置(第二標識配置)が特定される。第一模様に対する第二模様の配置と第二標識配置に基づいて、第二保持位置における縫製対象物39に対する第二模様の配置が決定される。
【0096】
ミシン1が縫製対象物39に配置された標識110の画像を用いて第一模様と第二模様の位置合わせを行うためには、第一模様及び第二模様が縫製されるまでの間に、ユーザは、保持位置を適切に変更しなければならない。ユーザは、第一模様、第二模様が特定されているので、夫々に対応する第一保持位置、第二保持位置を認識しやすい。しかし、ユーザは、第一模様と第二模様との間が離れている等の理由で第一保持位置と第二保持位置の間に必要となる仮保持位置については、容易に認識できない場合がある。ミシン1は、第一模様に対する第二模様の配置に関する設定に基づき、仮保持位置における縫製可能領域86Cを設定し、その位置を報知することができる。従って、ユーザは、第一保持位置から仮保持位置に保持位置を変更する際、仮保持位置を容易に認識し、保持位置を正しく変更することができる。
【0097】
特に、本実施形態では、図17に示すように、第一模様と縫製可能領域86Cとの配置関係がLCD7に表示されるので、ユーザは、仮保持位置の位置のみが表示される場合に比べ、仮保持位置における縫製可能領域を更に容易に認識し、保持位置を正しく変更することができる。加えて、標識110が表示されているので、ユーザは仮保持位置における縫製可能領域を更に容易に認識できる。また、本実施形態のミシン1は、仮保持位置が必要な場合と判断した場合にのみ、仮保持位置における縫製可能領域を設定して報知するという効率的な処理を行うことができる。
【0098】
更に、仮保持位置では、ユーザは標識110を貼り替える必要がある。ミシン1では、標識配置位置が報知されるので、ユーザは、標識配置位置を容易に認識できる。標識配置位置は、仮保持位置における縫製対象物に対する第二模様の縫製予定範囲内にあるので、この位置に標識110が配置された後、保持位置が仮保持位置から第二保持位置に変更されても、標識110は第二保持位置でも縫製可能領域内に含まれる。つまり、ユーザは、報知された標識配置位置に従って、適切な位置に容易に標識110を配置することができる。
【0099】
本実施形態において、LCD7は「領域報知手段」、「表示手段」、「位置報知手段」に相当する。イメージセンサ50は、本発明の「撮影手段」に相当する。RAM63は、「記憶手段」に相当する。図9の模様つなぎ処理のS32、S33の処理を行うCPU61は「設定取得手段」に相当する。S53の処理を行うCPU61は、「判断手段」に相当する。S51の処理を行うCPU61は、「第一配置特定手段」に相当する。図16の貼り直しの処理のS69の処理を行うCPU61は「領域設定手段」に相当する。S70の処理を行うCPU61は、「表示制御手段」に相当する。S79の処理を行うCPU61は、「第二配置特定手段」に相当する。S83の処理を行うCPU61は、「位置設定手段」に相当する。S95の処理を行うCPU61は、「第二配置更新手段」に相当する。図18の第二模様配置処理のS109の処理を行うCPU61は、「第三配置特定手段」に相当する。S110の処理を行うCPU61は、「配置決定手段」に相当する。
【0100】
本発明のミシンは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、以下に例示する種々の変更が加えられてもよい。
【0101】
例えば、上記実施形態では、ユーザがパネル操作によって指定した第一基準及び第二基準が、第一模様に対する第二模様の配置に関する設定として取得されている。しかしながら、第一模様に対する第二模様の配置に関する設定は、必ずしもユーザがタッチパネル8を介して入力した情報である必要はない。例えば、縫製可能領域よりも大きな刺繍模様が、縫製可能領域よりも小さい複数の模様に分割され、分割された複数の模様に対応する縫製データがミシン1のROM62又はEEPROM64に記憶されている場合がある。このような場合には、複数の模様間の配置関係は予め決まっているといえるので、複数の模様間の配置関係に関する設定は、予め定められ、分割された複数の模様の縫製データに含まれる形でROM62又はEEPROM64に記憶されていてもよい。なお、ミシン1が外部記憶装置(例えば、メモリカード)と接続可能なコネクタを備える場合、外部記憶装置に記憶された縫製データがミシン1に読み込まれ、使用されてもよい。
【0102】
例えば、図19に示すアルファベット文字Hを示す模様155は、刺繍枠84における最大の縫製可能領域86(図2参照)よりも大きいために、図20に示す文字Hの左半分に対応する模様156と、図21に示す文字Hの右半分に対応する模様157とに分割され、模様156、157に対応する縫製データが、予めROM62又はEEPROM64に記憶されている。文字Hを示す模様155を見栄えよく形成するには、模様156と模様157の境界を正確に位置合わせする必要がある。
【0103】
よって、模様156の縫製データには、予め設定された第一基準である第一線分171と第一点172の初期配置における座標のデータが含まれている。模様157の縫製データには、予め設定された第二基準である第二線分181と第二点182の初期配置における座標のデータが含まれている。そして、これらの座標データによって、第一線分171と第二線分181は同一の線分であり、第一点172と第二点182は同一点であることが規定されている。つまり、第一線分171と第二線分181とが重なり、第一点172と第二点182とが重なるように、模様156と模様157の配置関係が設定され、ROM62又はEEPROM64に記憶されている。
【0104】
このような場合、ミシン1の模様つなぎ処理では、模様156、157をつなげて縫製する際、ユーザが第一基準及び第二基準を指定する模様つなぎ処理(図9)のS32〜S33の処理は不要である。そして、標識配置位置は、予め縫製データに含めて記憶された第一基準及び第二基準の座標データに基づいて特定される。例えば図19に示すように、縫製可能領域86Aに対応する第一保持位置で模様156が縫製された場合、縫製可能領域86A内、且つ、模様157の縫製予定範囲内で標識配置位置が特定される。具体的には、例えば、同一の線分である第一線分171、第二線分181を含む直線に接し、模様157が収まる最小矩形158Bの角に内接する2つの矩形領域110A、110Bが標識配置位置として特定されればよい。
【0105】
あるいは、複数の模様の各々の縫製範囲を同一サイズの最小矩形とし、各模様の縫製データに、針落ち点の位置を示す座標データに加え、対応する最小矩形の位置を、X軸方向の行とY軸方向の列を有するマトリクス上の位置で示す情報を含めることができる。図19に示す例では、模様156、157に対応する最小矩形158A、158Bは、夫々、1行1列目、1行2列目の要素として表される。この場合、二つの最小矩形158A、158Bが同一サイズなので、縫製データに含まれる最小矩形158A、158Bの位置を示す情報に基づいて最小矩形158A、158Bを配置すれば、模様156、157を互いに隣接した位置に正確に配置し、適切な標識配置位置を特定することができる。
【0106】
このように、ミシン1は、縫製データに含まれる模様156と模様157の配置関係に関する設定に従って、適切な標識配置位置を特定して報知することができる。また、この設定に従って、自動的に適切な位置合わせを行い、模様155を縫製することができる。ユーザは、模様156、157を順に縫製する都度、模様156、157をつなげるための第一基準及び第二基準の設定をする必要がない。この場合、メイン処理(図5)で縫製データを取得するCPU61が、「設定取得手段」に相当する。
【0107】
実施形態では、図9に示す模様つなぎ処理のS53で、貼り直し処理が必要であると判断された場合に貼り直し処理(S54)が行われている。しかし、S53の判断処理は必ずしも行われなくてもよい。ミシン1は、例えば、ユーザがパネル操作で貼り直し処理の実行を指示した場合に、貼り直し処理(S54)を行ってもよい。また、S53の判断処理では、ユーザが縫製対象物39を張り替えるときの作業性を考慮して、縫製可能領域86を内側に例えば3cm小さくした領域を設定し、この領域に対して標識110と第二模様の縫製予定範囲が収まるか否かを判断してもよい。ここで、縫製可能領域86を小さくする寸法は、3cmに限定されないことは言うまでもない。
【0108】
なお、標識配置位置は、第一保持位置の縫製可能領域内、且つ、第二模様の縫製予定範囲内にある位置であればよいので、上記実施形態に例示したように領域である必要はなく、例えば点であってもよい。また、標識配置位置として領域を特定する場合、領域の少なくとも一部が第二模様の縫製予定範囲中にあればよい。また、この場合の領域は、実施形態で例示したように第二模様に対応する最小矩形の角に内接していなくてもよいし、第二線分181に接していなくてもよい。更に、標識配置位置の報知方法は適宜変更されてもよい。例えば、標識配置位置が十字や星印等の模様で表示されてもよいし、円、楕円、又は多角形といった領域を囲む輪郭線で表示されてもよい。更に、例えばミシン1にレーザポインタを設け、レーザ光線で標識配置位置を指し示すことで、報知を行ってもよい。ミシン1にプロジェクタを設け、縫製対象物上に標識配置位置を投影してもよい。同様に、プロジェクタで、縫製対象物上に、仮保持位置における縫製可能領域86Cの輪郭線を投影してもよい。
【0109】
第一模様及び第二模様の配置は、いずれも第一模様の位置及び角度の少なくとも一方を含んでいればよい。また、第一模様、第二模様が縫製される範囲(縫製予定範囲)を表す図形は、必ずしも第一模様、第二模様に対応する最小矩形である必要はなく、例えば、第一模様、第二模様が収まる円、楕円、多角形等のうちいずれかであってもよい。第一線分171、第二線分181は、これらの図形の輪郭線の一部であってもよい。第一点172、第二点182は、これらの図形に含まれる点であればよく、第一線分171、第二線分181上の任意の点であってもよいし、第一線分171、第二線分181上にない点であってもよい。
【0110】
実施形態では複数の針棒31を有するミシン1が例示されているが、1本の針棒を有する工業用ミシン又は家庭用ミシンであってもよい。イメージセンサ50の種類、配置は適宜変更されてもよい。例えば、イメージセンサ50は、CCDカメラ等、CMOSイメージセンサ以外の撮影素子であってもよい。
【0111】
標識110の数は、適宜変更可能である。つまり、標識110は、1つでも3以上の複数でもよい。複数の標識110に基づき第一模様の配置が特定される場合、1つの標識110に基づき第一模様、第二模様の配置(位置及び角度)が特定される場合に比べ、特に角度を精度よく特定することができる。画像データに基づき検出される標識110の配置は、標識110の位置及び角度の少なくともいずれかであればよい。標識110の構成は適宜変更されてよい。標識110の構成には、例えば、標識110の大きさと、材質と、デザインと、色とが含まれる。また、標識110の縫製対象物39への配置方法は貼り付けに限らず、ピンで留める等の方法であってもよい。標識110の配置を特定するための基準(上記実施形態では、標識110の第一中心点111)及び算出方法は、標識110の構成等を考慮して、適宜変更されてよい。
【符号の説明】
【0112】
1 ミシン
7 液晶ディスプレイ
39 縫製対象物
50 イメージセンサ
61 CPU
63 RAM
84 刺繍枠
110 標識

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍枠に保持された縫製対象物を撮影可能な撮影手段と、
前記刺繍枠による前記縫製対象物の保持位置が第一保持位置である状態で、前記刺繍枠に応じて設定される縫製可能領域内に縫製される模様を第一模様、前記保持位置が前記第一保持位置とは異なる第二保持位置にある状態で、前記第一模様の次に前記縫製可能領域内に縫製される模様を第二模様とした場合に、前記第一模様に対する前記第二模様の配置に関する設定を取得する設定取得手段と、
前記第一保持位置において前記撮影手段によって撮影された、前記縫製対象物に配置された標識を含む画像の画像データに基づき、前記第一保持位置における前記第一模様の配置に対する前記標識の配置を、第一配置として特定する第一配置特定手段と、
前記設定取得手段によって取得された前記設定に基づいて、前記第一保持位置における前記縫製可能領域の一部及び前記第二模様の縫製予定範囲の一部を少なくとも含み、前記縫製可能領域に対応する大きさの縫製対象物上の領域を、前記第一保持位置と前記第二保持位置との間の保持位置である仮保持位置における前記縫製可能領域として設定する領域設定手段と、
前記領域設定手段によって設定された前記仮保持位置における前記縫製可能領域の位置を報知する領域報知手段と、
前記領域報知手段によって前記位置が報知され、前記保持位置が前記第一位置から前記仮保持位置に変更された後に前記撮影手段によって撮影された、前記標識を含む画像の画像データと、前記第一配置特定手段によって特定された前記第一配置に基づき、前記仮保持位置における前記第一模様に対する前記標識の配置を、第二配置として特定する第二配置特定手段と、
前記第二配置特定手段によって特定された前記第二配置を記憶情報として記憶する記憶手段と、
前記第二配置特定手段によって前記第二配置が特定された後に前記仮保持位置において前記撮影手段によって撮影された、前記標識を含む新たな画像の前記画像データと、前記記憶手段に記憶された前記記憶情報とに基づいて前記第二配置を特定し、前記記憶手段に記憶された前記記憶情報を新たに特定された前記第二配置で更新する第二配置更新手段と、
前記保持位置が前記仮保持位置から前記第二保持位置に変更された後に前記撮影手段によって撮影された、前記標識を含む画像の画像データと、前記記憶手段に記憶された前記記憶情報とに基づき、前記第二保持位置における前記第一模様に対する前記標識の配置を、第三配置として特定する第三配置特定手段と、
前記設定取得手段によって取得された前記設定と、前記第三配置とに基づいて、前記第二保持位置における前記縫製対象物に対する前記第二模様の配置を決定する配置決定手段と
を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記第一保持位置において前記撮影手段によって撮影された前記画像の前記画像データに基づいて特定される、前記第一保持位置における前記縫製対象物に対する前記標識の配置と、前記設定取得手段によって取得された前記設定に基づいて特定される、前記第一保持位置における前記縫製対象物に対する前記第二模様の前記縫製予定範囲の配置と、前記縫製可能領域とに基づいて、前記標識と前記第二模様の前記配置予定位置とが前記縫製可能領域に収まらない場合に、前記仮保持位置が必要であると判断する判断手段を更に備え、
前記領域設定手段は、前記判断手段によって前記仮保持位置が必要であると判断された場合にのみ、前記仮保持位置における前記縫製可能領域を設定することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記領域報知手段は、画像を表示する表示手段であって、
前記表示手段に、少なくとも前記第一模様と前記仮保持位置における前記縫製可能領域との配置関係を特定可能な画像を表示させる表示制御手段を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記領域報知手段は、前記仮保持位置における前記縫製可能領域の前記位置と共に、前記第一配置特定手段によって特定された前記第一配置に基づき、前記第一模様の位置及び前記標識の位置を報知することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のミシン。
【請求項5】
前記第二配置特定手段によって前記第二配置が特定された後、前記仮保持位置における前記縫製可能領域内、且つ、前記第二配置及び前記設定取得手段によって取得された前記設定に基づいて特定される、前記仮保持位置における前記縫製対象物に対する前記第二模様の前記縫製予定範囲内にある位置を、標識配置位置として設定する位置設定手段と、
前記位置設定手段によって設定された前記標識配置位置を報知する位置報知手段とを更に備え、
前記第二配置更新手段は、前記位置報知手段によって前記標識配置位置が報知された後に前記撮影手段によって撮影された、前記画像の前記画像データと、前記記憶情報とに基づいて前記第二配置を特定し、前記記憶情報を新たに特定された前記第二配置で更新することを特徴とする請求項4に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−99456(P2013−99456A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245419(P2011−245419)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】