説明

メラニン輸送及び/又は放出抑制剤

【課題】メラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの取り込みや角質層へのメラニンの拡散を抑制することにより皮膚の美白効果を得る。
【解決手段】カゼイン加水分解物を有効成分として含有するメラニン輸送及び/又は放出抑制剤を提供する。前記カゼイン加水分解物は、乳カゼインを麹菌由来のタンパク質分解酵素で分解して調製することが好ましい。さらに好ましい実施形態において、前記カゼイン加水分解物は、全窒素量に対するアミノ態窒素量の百分率で示される分解率が少なくとも20%、又は少なくとも40%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン加水分解物を有効成分として含有するメラニン輸送及び/又は放出抑制剤に関し、より詳細には、乳カゼインを麹菌由来のタンパク質分解酵素で分解してなるカゼイン加水分解物からなるメラニン輸送及び/又は放出抑制剤、並びにこれを含有する美白剤、食品及び飲料等に関する。
【背景技術】
【0002】
乳タンパク質の加水分解物は、ペプチドや遊離アミノ酸を含み、消化吸収性や栄養生理の面からも優れた素材として、機能性食品や医薬分野において利用されている。例えば、特許文献1には、獣乳カゼインを麹菌由来の菌体外酵素等で分解して得られる特定のペプチドを含むカゼイン加水分解物が、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下作用をはじめとする様々な機能を発揮し得ることが開示されている。また、特許文献2は、カゼイン等の乳タンパク質を種々の酵素で分解した乳タンパク質加水分解物がチロシナーゼ活性阻害作用を示すことを開示し、その化粧品、食品及び医薬品等への使用について示唆されている。
【0003】
従来から、紫外線による皮膚の黒化や、シミ、ソバカスといった皮膚の色素沈着を防止する手段としてチロシナーゼの働きを阻害したり、酸化を阻害することでメラニンの成熟化を抑制する作用を有する物質、例えば、アスコルビン酸、システイン、コウジ酸及びそれらの誘導体が用いられている。メラニンとは、フェノール類物質が高分子化して色素となったものの総称であるが、ヒトの皮膚に存在するメラニンはチロシンから合成された様々なインドール化合物がヘテロポリマーを形成したものである。チロシナーゼは、メラノソームにおいて、アミノ酸であるチロシンを酸化してドーパ及びドーパキノンを生成する酵素であり、メラニン生成の律速酵素であることが知られている。従って、美白効果を付与した化粧品や皮膚外用剤を開発するために、上記乳タンパク質分解物をはじめとする種々のチロシナーゼ阻害剤が研究されてきた。しかし、効果的な美白を行うためには、このようなメラニン合成を抑制するだけでは必ずしも十分ではなく、メラニンが表皮細胞(ケラチノサイト)へ移動する過程を抑制する美白素材の研究開発も行われている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
メラニン色素は、皮膚の内側や毛髪の付け根にあるメラノサイトという特殊な細胞だけで産生される。メラノサイトの細胞内では、核周辺でつくられたチロシナーゼがメラノソームという小胞に運ばれ、その膜でメラニンを合成し小胞内に貯蔵され、微小管とアクチン線維に沿って細胞膜へと運ばれていく。そして隣接するケラチノサイトという皮膚の細胞や毛髪の毛母細胞にメラニン色素が受け渡されて、初めて皮膚や毛髪が黒くなる。メラノサイト中におけるRab27A/Slac2−a/Slp2−aを介するメラノソーム輸送モデルが福田らにより報告されている(例えば、非特許文献1参照)。一方、このRab27Aの遺伝子は、肌や毛髪の色素が減少するために白くなる色素異常や免疫疾患、神経疾患などを起こす遺伝性のグリセリ(Griscelli)症候群の原因遺伝子であることも知られている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/012542号パンフレット
【特許文献2】特開平9−275997号公報
【特許文献3】特開2006−124355号公報
【非特許文献1】Kuroda, T.S., Ariga, H. and Fukuda, M. Mol. and Cel. Biol., (2003), Vol. 23, pp.5245-5255
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳カゼインの加水分解物は、従来からチロシナーゼ阻害作用を有することが知られているが、このカゼイン加水分解物が、皮膚の美白効果にどの程度寄与するかについては必ずしも明らかではない。上述したように、皮膚の美白効果を得るためにはメラノサイトにおけるメラニン合成を抑制することだけでなく、ケラチノサイトへのメラノソームの取り込みや角層へのメラニンの拡散を抑制することも重要な役割を果たすと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カゼイン加水分解物の種々の生理的作用を研究する中で、特定の条件により調製したカゼイン加水分解物が、培養メラノサイトにおいてメラニンの輸送やその細胞外への放出を抑制するという新規な作用、効果を発見することにより完成した。
【0008】
すなわち、本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤は、カゼイン加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする。前記カゼイン加水分解物は、乳カゼインを麹菌由来のタンパク質分解酵素で分解して調製することが好ましい。さらに好ましい実施形態において、前記カゼイン加水分解物は、全窒素量に対するアミノ態窒素量の百分率で示される分解率が少なくとも20%、又は少なくとも40%であることを特徴とする。さらに好ましい実施形態において、前記分解率は47%〜58%であることを特徴とする。1つの実施形態において、前記分解率が50%〜58%であることが好ましい。このような本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤の製造方法としては、乳カゼインを麹菌由来のタンパク質分解酵素で分解する工程と、当該加水分解物を膜処理、及び活性炭処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の異なる側面において、上記メラニン輸送及び/又は放出抑制剤を含有することを特徴とする哺乳動物の美白剤が提供される。当該美白剤は、その他の有効成分として、アスコルビン酸、コウジ酸、トコフェロール、アルブチン、エラグ酸、ルシノール、システイン、シスチン、グルタチオン、カンゾウフラボノイド、納豆エキス、酵母エキス及びそれらの誘導体並びにそれらの塩から選択される1種以上の成分をさらに含むことが好ましい。
【0010】
本発明のさらに異なる側面において、上記美白剤を含有する化粧料又は、上記メラニン輸送及び/又は放出抑制剤を含有する経口投与用の美容食品及び飲料、機能性食品及び飲料、若しくは健康補助食品及び飲料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤は、単なるチロシナーゼ阻害剤とは異なり、メラノサイト内でのメラニンの輸送及び/又は細胞外への放出を阻害する作用を有する。皮膚組織におけるメラノサイトから他の細胞、例えばケラチノサイトへのメラノソームの転移は、メラニン色素の皮膚組織への沈着にとって重要な過程であるため、これを阻害することは美白剤の開発に有用であるのみならず、皮膚の色素異常症の診断や治療にも役立つと考えられる。
【0012】
また、本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤に用いるカゼイン加水分解物は、食品及び化粧品素材としての安全性に優れ、経口摂取又は経皮摂取のいずれの場合にも優れた生体吸収性を有することから、美白剤として種々の化粧品、機能性食品或いは医薬品としても利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にかかるカゼイン加水分解物は、乳カゼインを種々のタンパク質分解酵素を用いて分解したものである。乳カゼインは、食品等に用いられる安全性が確認されたタンパク質であり、例えば、牛乳、馬乳、ヤギ乳、羊乳由来のカゼインを用いることができ、特に牛乳カゼインが好ましい。乳カゼインを加水分解する際のカゼイン濃度は特に限定されないが、本発明にかかるカゼイン加水分解物を効率よく生産するために、2〜20重量%が好ましい。また、タンパク質分解酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン等の市販のプロテアーゼや、酵母、乳酸菌、枯草菌、麹菌等の微生物由来のプロテアーゼ及びペプチダーゼが利用できる。本発明の一つの実施形態において、乳カゼインを所定の分解率に分解しうるような酵素を用いることが好ましく、例えば、活性中心にセリンを持つセリンプロテアーゼ若しくは、活性中心に金属を持つ金属プロテアーゼを含むことが好ましい。金属プロテアーゼとしては、中性プロテアーゼI、中性プロテアーゼII及びロイシンアミノペプチダーゼ等が挙げられ、これらの少なくとも1種を更に含むことが、所望の加水分解物を効率よく且つ短時間で、更には一段階反応で得ることができる点で好ましい。
【0014】
このような酵素として、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等の麹菌由来の菌体外酵素又はその混合物(以下、これらを総称して「菌体外酵素群」という。)が挙げられる。かかる菌体外酵素群は、適当な培地で菌体を培養し、菌体外に生産される酵素を水抽出した酵素群等が挙げられ、特にアスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素群のうち等電点が酸性域を示す酵素群が好ましく用いられる。
【0015】
上記アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素群としては、市販品を利用することができ、例えば、スミチームFP、LP又はMP(何れも登録商標、新日本化学株式会社製)ウマミザイム(登録商標、天野エンザイム株式会社製)、Sternzyme B11024、PROHIDROXY AMPL(以上、商品名、株式会社樋口商会製)、アリエンターゼONS(登録商標、阪急バイオインダストリー株式会社製)、デナチームAP(登録商標、ナガセ生化学社製)等が挙げられ、中でも、スミチームFPの使用が好ましい。これら市販酵素を用いる場合は、通常、至適条件が設定されているが、特定の分解率が得られるように、酵素使用量や反応時間等の条件を適宜変更して行うことができる。
【0016】
前記酵素による加水分解反応条件は、例えば、乳カゼインを溶解した水溶液に、酵素群/乳カゼインが重量比で1/1000以上、好ましくは1/10〜1/1000、特に好ましくは1/10〜1/100、更に好ましくは1/10〜1/40の割合で添加することができる。反応温度及び反応pHは酵素群に応じて目的とする分解率のカゼイン加水分解物が得られるように適宜選択できるが、通常20〜60℃、好ましくは45〜55℃においてpHを3〜10、好ましくはpH5〜9、特に好ましくはpH6〜8に調整して行うことができる。また、酵素反応時間は、0〜65時間にわたって経時的にサンプリングし、所定の分解率が得られたか否かを検出するが、好ましくは1〜15時間にて行うことができる。
【0017】
前記酵素反応の終了は、酵素を失活させることにより行うことができ、通常60〜110℃で酵素を熱失活させ、反応を停止する。酵素反応を停止した後、必要に応じて沈殿物を遠心分離除去や各種フィルター処理により除去することが好ましい。また、必要に応じて、得られる加水分解物から苦味や臭味を有するペプチドを除去することもできる。このような苦味成分や臭味成分の除去は、活性炭又は疎水性樹脂等を用いて行うことができる。例えば、活性炭を、使用したカゼイン量に対して1〜20重量%得られた加水分解物中に添加し、1〜10時間反応させることによりこれらの成分を吸着させる。使用した活性炭の除去は、遠心分離や膜処理等の公知の方法により行うことができる。このように酵素反応を行った後、膜ろ過及び活性炭処理を行うことにより、不要物を除去したカゼイン加水分解物を得ることができ、本発明に係るメラニン輸送及び/又は放出効果をより一層高めることができる。
【0018】
このような方法で調製されたカゼイン加水分解物は、所定の分解率となるように調整される。ここで、「分解率」とは、カゼインの全窒素量に対するアミノ態窒素量の百分率で示すことができ、少なくとも20%の分解率を有することが好ましい。さらに好ましくは少なくとも40%であり、最も好ましくは50%以上、例えば、45%〜60%、47%〜58%、又は50%〜58%である。「アミノ態窒素」とは、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質中のアミノ基に由来する窒素を意味し、タンパク質分解の程度を表すための一つの指標として用いることができる。アミノ態窒素は、種々の方法によって測定することができ、例えば、亜硝酸との反応を用いるバンスライク法、OPA(o−フタルアルデヒド)法、及びホルモール滴定法などが知られている。なお、カゼインの全窒素量は、例えば、ケルダール法により行うことができる。上記所定の分解率まで分解されたカゼイン加水分解物には、遊離アミノ酸、及び特定範囲のアミノ酸鎖長を有するペプチドが含まれており、これらの中には血圧降下作用等を有するジペプチド又はトリペプチドも含まれる(上掲の特許文献1参照)。ペプチドは塩の形態であっても良い。
【0019】
本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤は、上記カゼイン加水分解物を有効成分とするものである。ここで、用語「メラニン輸送」とは、メラニン産生細胞であるメラノサイト内で合成されたメラニンが、メラノソームという膜で包まれた小器官に貯蔵され、細胞内を微小管やアクチン線維に沿って細胞膜まで運ばれていく過程をいう。細胞膜の近くまで運ばれたメラノソームは、細胞膜と結合し、ケラチノサイトや毛母細胞にメラニン色素を渡し、その結果皮膚や毛髪が黒くなる。「メラニン放出」とは、このようなメラノサイトからメラニン色素が他の細胞に受け渡されることを含む。試験管内の培養細胞では細胞内から培地中に分泌される現象として捉えることもできる。
【0020】
本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤は、種々の形態及び用量、用法にて哺乳動物の美白剤として使用することができる。例えば、上記工程により得られるカゼイン加水分解物を含む反応液を、そのまま飲料等の液体製品に添加利用することができる。また、本発明のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤の汎用性を高めるために、前記反応溶液を濃縮後、乾燥し粉末の形態とすることが好ましい。
【0021】
このような粉末は、各種化粧料、機能性食品、その添加物、医薬又はその有効成分として利用することができる。また、美白剤としての相乗効果を得るために、アスコルビン酸、コウジ酸、トコフェロール、アルブチン、エラグ酸、ルシノール(4−n−ブチルレゾルシノール)、システイン、シスチン、グルタチオン、カンゾウフラボノイド、納豆エキス、酵母エキス及びそれらの誘導体並びにそれらの塩等と併用することが好ましい。アスコルビン酸の誘導体としては、リン酸エステル、グルコシドやマルトシドなどの配糖体若しくはアシル化配糖体などが挙げられる。又、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩やトリエタノールアミン塩などの有機アミン塩、アルギニン塩やリジン塩等の塩基性アミノ酸塩などが好ましい。アルブチンやコウジ酸等の天然物についても種々の誘導体が知られ、例えば、アルブチンエステル化合物(WO2004/033475)等も報告されている。システイン及びその誘導体は、メラニン合成時にドーパキノンと結合し、黄色のフェオメラニンを生成する。
【0022】
本発明の1つの実施形態として、上記美白剤を含有する化粧料又は皮膚外用剤が提供される。化粧料又は皮膚外用剤の処方については特に困難はなく、従来から使用されている技術を用いて種々の成分を混合又は乳化等を行い、目的とした化粧料又は皮膚外用剤を得ることができる。一般に化粧料あるいは皮膚外用剤に使用されている成分としては、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、美白剤、細胞賦活剤、保湿剤、金属キレート剤、油性原料、界面活性剤、溶剤、高分子物質、粉体物質、色素類、香料、経皮吸収促進剤及びステロイドホルモン等を挙げられ、これらの中から適宜選択される1または2以上の成分を含むことができる。
【0023】
本発明の美白剤(カゼイン加水分解物)を化粧料又は皮膚外用剤に配合する場合において、その配合量は目的とする化粧料の性質に応じて任意に選択されるが、化粧料又は皮膚外用剤の全体に対し、0.001〜10重量%程度、好ましくは0.01〜5重量%程度、更に好ましくは0.01〜0.2重量%程度である。
【0024】
化粧料あるいは皮膚外用剤の剤型には特に制限はなく、溶液状、ペースト状、ゲル状、固体状、粉末状等任意の剤型をとることができる。また、本発明の化粧料或いは皮膚外用剤は、オイル、ローション、クリーム、乳液、ゲル、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、エナメル、ファンデーション、リップスティック、おしろい、パック、軟膏、錠剤、注射液、顆粒、カプセル、香水、パウダー、オーデコロン、歯磨、石鹸、エアゾル、クレンジングフォーム等の他、皮膚老化防止改善剤、皮膚炎症防止改善剤、浴用剤、養毛剤、皮膚美容液、日焼け防止剤、色素性乾皮症・日光蕁麻疹等の光線過敏症の防止改善剤、光アレルギーの防止改善剤、光免疫抑制の防止改善剤あるいは、外傷・あかぎれ・ひびわれ等による肌荒れの防止改善剤、消毒剤、抗菌剤、殺虫剤、害虫駆除剤、角質溶解剤、表皮剥離剤、ニキビの防止改善剤、角化症・乾皮症・魚鱗癬・乾癬等の各種皮膚疾患の防止改善剤等に用いることができる。
【0025】
更に化粧料または皮膚外用剤におけるその他の常用成分を、化粧料あるいは皮膚外用剤に本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。化粧料または皮膚外用剤におけるその他の常用成分としては、防腐剤、褪色防止剤、緩衝剤、にきび用薬剤、ふけ・かゆみ防止剤、制汗防臭剤、熱傷用薬剤、抗ダニ・シラミ剤、角質軟化剤、乾皮症用薬剤、抗ウイルス剤、ホルモン類、ビタミン類、アミノ酸・ペプチド類、タンパク質類、収れん剤、清涼・刺激剤、動植物由来成分、抗生物質、抗真菌剤、育毛剤等を挙げることができる。
【0026】
他の実施形態において、本発明の美白剤は、乳カゼインを遊離アミノ酸又は低分子ぺプチドに分解したものであるため優れた生体内吸収性及び生体における各種機能発現が期待され、経口投与用の美容食品及び飲料、機能性食品及び飲料、又は健康補助食品及び飲料の形態であっても良い。例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、シロップ剤、液剤等として、経口的に安全に摂取することができる。サプリメントとするには、公知の方法に従い、有効成分であるカゼイン加水分解物を例えば、賦形剤(例、乳糖、白糖、デンプン等)、崩壊剤(例、デンプン、炭酸カルシウム等)、結合剤(例、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)又は滑沢剤(例、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール 6000等)等を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため公知の方法でコーティングする。あるいは、一般の食品及び飲料の形態として摂取することができ、例えば、清涼飲料、ゼリー、菓子、ジュース等の食品に本発明に係るカゼイン加水分解物を添加することが考えられるがこれらに限定されるものではない。これにより、皮膚の美白や若返りを促進する機能を前記食品に付与することができる。本発明の美白剤(カゼイン加水分解物)を経口投与用の美容食品及び飲料、機能性食品及び飲料、又は健康補助食品及び飲料等に配合する場合において、その配合量は目的とする美容食品及び飲料、機能性食品及び飲料、又は健康補助食品及び飲料の性質に応じて任意に選択されるが、全体に対し、0.01〜100重量%程度、好ましくは0.1〜98重量%程度、さらに好ましくは0.1〜50重量%程度である。前記本発明の食品及び飲料は、1日数回(2〜3回、又はそれ以上)に分けて摂取するのが好ましく、特に日光による紫外線照射の前後等に摂取するとよい。
【実施例】
【0027】
[実施例1]カゼイン加水分解物の調製
カゼイン濃度を4%又は8%になるように市販のカゼインNaを溶解後、それぞれについて水酸化ナトリウムを用いてpHを7.0に調製した。これらの溶液を滅菌後、液温を50℃に保持した状態で酵素(麹菌酵素:新日本化学工業社製)を4wt%添加した。経時的に(0時間〜65時間)サンプリングし、95℃で10分間加熱して酵素を失活させ凍結乾燥し、カゼイン加水分解物を得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率(%)は、バンスライク法による各試料中のアミノ態窒素量及びケルダール法による全窒素量の値から次式により算出した。
分解率(%)=100×(アミノ態窒素量÷全窒素量)
【0028】
カゼイン濃度8%のとき、反応時間1時間で得られたサンプルIの分解率は20.7%、反応時間10時間後に得られたサンプルIIの分解率は40.5%、そして反応時間65時間後に得られたサンプルVの分解率は53.0%であった。一方、カゼイン濃度4%で、反応時間65時間後に得られたサンプルVIの分解率は58.4%であった。
【0029】
カゼイン濃度を4%及び8%の2種類の条件で、上記と同様に10時間加水分解反応を行い、反応後、膜ろ過、活性炭処理及びスプレードライしたサンプルを調製した。カゼイン濃度が8%のときのサンプルIIIの分解率は46.8%であり、カゼイン濃度を4%にしたサンプルIVの分解率は50%であった。これらのサンプルを用いて次にメラノーマ細胞におけるメラニン量に与える影響を調べた。
【0030】
[試験例1]メラニン輸送及び/又は放出抑制効果の測定
B16メラノーマをDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(高グルコース、血清10%含有)にて培養した。コンフルエントになった細胞を、トリプシンにて剥がし、6ウェルプレートに播種した。翌日、細胞がプレートに接着後、サンプルを0.5wt%添加したDMEMに培地を交換し、3日間培養した。3日後、培地をエッペンチューブに採取し、培地中のメラニン量を分光光度計(450nm)にて定量した。細胞はPBS(Phosphate Buffered Saline)にて洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を加え、60℃で2時間加熱後、溶解したメラニン量を同様に分光光度計(450nm)にて定量評価した。評価するカゼイン分解物は、2wt%になるようにDMEMに溶解し、遠心分離後、ろ過し、このろ液を2wt%のサンプル溶液とした。評価はこの2wt%サンプルを、DMEMにて4倍に希釈し0.5wt%に調製し行った。また、メラニン輸送及び/又は放出抑制効果の確認は、培地中、細胞中のメラニン量をそれぞれの6ウェル中の細胞蛋白量で規格化し、単位蛋白量当たりのメラニン量に変換したのち行った。図1に示す様に、カゼイン分解率が高くなるに従い、細胞から培地中に放出されるメラニン量が低下することが判明した。さらに、細胞内に存在するメラニン量と培地中に放出されたメラニン量を足し合わせたメラニン総量についても、カゼイン分解率が高くなると低下することが分かった。
【0031】



【0032】
[試験例2]カゼイン分解物配合処方による三次元培養ヒト皮膚における美白効果
角層、表皮層を持ち表皮層にはケラチノサイトとメラニン合成を行うメラノサイトを含む三次元培養ヒト皮膚モデルを用い、実施例1で調製したサンプルIIIのカゼイン分解物(0.05wt%)、L−アスコルビン酸−2−グルコシド、天然ビタミンE、カンゾウフラボノイド、アミノ酸数種類を配合したクリームAを角層表面に150μl塗布した。コントロールとしてはリン酸バッファー(PBS)を同様に、それぞれ150μl角層表面に塗布した。皮膚モデルの基底膜側(下側)には皮膚モデル用培地を張り、培地は2日に1回、交換した。サンプルを塗布後、皮膚モデルは、5%CO、飽和水蒸気下、37℃のインキュベータにて培養した。サンプル塗布後11日目に、上層のサンプル、下層の培地を取り除き、水でリンス後、皮膚を剥がし、エッペンチューブに移した。トリスEDTAバッファー(1%SLS含有)にて皮膚を浸潤させた後、プロテアーゼKを添加、一晩45℃で処置した。翌日、プロテアーゼKを追加添加し、45℃で4時間処置後、攪拌、遠心処理した。炭酸Na水溶液、30%過酸化水素水を添加後、80℃で30分間加熱処置した。室温まで下がった後、クロロホルム-メチルアルコールを添加し攪拌、上澄み(水層)をマイクロプレートリーダー(405nm)にてメラニン量を評価した。図2に示す様に、クリームA塗布群ではコントロールに比べ、約50%の美白効果を示した。
【0033】
[実施例2]化粧料の製造
以下に示した配合例に従って種々の化粧料を製造した。尚、配合量は重量%で表した。
配合例1 軟膏
(1)カゼイン加水分解物 0.05%
(2)塩化ベンザルコニウム 0.1%
(3)尿素 20.0%
(4)白色ワセリン 15.0%
(5)軽質流動パラフィン 6.0%
(6)セタノール 3.0%
(7)ステアリルアルコール 3.0%
(8)モノステアリン酸グリセリル 5.0%
(9)香料 適量
(10)防腐剤 適量
(11)緩衝剤 1.0%
(12)精製水 残部
【0034】
(製造方法)
上記(4)〜(8)の油相成分を75℃で溶解し、均一に分散させた。得られた油相成分、(1)〜(3)及び(9)〜(12)の水相成分を75℃で溶解して均一化したものを添加し、ホモミキサーで乳化した。更に、得られた乳化物を冷却し、目的とする軟膏を得た。
【0035】
さらに、以下に示した各製品の製造における常法に従って夫々の化粧料を製造した。何れも配合量は重量%で表した。なお、上記試験例2で用いたクリームAの組成は以下の配合例4に基づくものである。
【0036】
配合例2 化粧水
カゼイン加水分解物 0.03%
グリコール酸 5.0%
グリセリン 3.0%
ソルビトール 2.0%
ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル 1.0%
エタノール 15.0%
パラフェノールスルホン酸亜鉛 0.2%
緩衝剤 0.1%
香料 0.2%
防腐剤 適量
精製水 残部
【0037】
配合例3 ローション
カゼイン加水分解物 0.1%
乳酸 0.1%
フルーツ酸 0.1%
グリセリン 4.0%
カオリン 1.0%
カラミン 0.7%
カンフル 0.2%
エタノール 14.0%
香料 適量
精製水 残部
【0038】
配合例4 クリーム
カゼイン加水分解物 0.1%
天然ビタミンE 0.1%
カンゾウフラボノイド 0.005%
固形パラフィン 5.0%
ミツロウ 10.0%
ワセリン 15.0%
流動パラフィン 41.0%
1,3−ブチレングリコール 4.0%
モノステアリン酸グリセリン 2.0%
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20) 2.0%
各種アミノ酸 1.0%
ホウ砂 0.2%
防腐剤 適量
香料 適量
酸化防止剤 適量
精製水 残部
【0039】
配合例5 乳液
カゼイン加水分解物 0.02%
乳酸 2.0%
ステアリルアルコール 0.5%
硬化パーム油 3.0%
流動パラフィン 35.0%
ジプロピレングリコール 6.0%
ポリエチレングリコール(400) 4.0%
セスキオレイン酸ソルビタン 1.6%
ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル2.4%
カルボキシビニルポリマー 1.5%
水酸化カリウム 0.1%
キレート剤 適量
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残部
【0040】
配合例6 美容液
カゼイン加水分解物 0.1%
フルーツ酸 0.5%
ジプロピレングリコール 5.0%
ポリエチレングリコール(400) 5.0%
エタノール 10.0%
カルボキシビニルポリマー 0.5%
アルギン酸ナトリウム 0.5%
水酸化カリウム 0.2%
モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 1.0%
モノオレイン酸ソルビット 0.5%
オレイルアルコール 0.5%
プラセンタエキス 0.2%
酢酸dl−α−トコフェロール 0.2%
香料 適量
防腐剤 適量
褪色防止剤 適量
精製水 残部
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】試験例1におけるメラニン輸送及び/又は放出抑制効果を示す。
【図2】試験例2におけるカゼイン分解物配合処方による三次元培養ヒト皮膚における美白効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン加水分解物を有効成分として含有することを特徴とするメラニン輸送及び/又は放出抑制剤。
【請求項2】
前記カゼイン加水分解物は、乳カゼインを麹菌由来のタンパク質分解酵素で分解してなることを特徴とする請求項1に記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤。
【請求項3】
前記カゼイン加水分解物は、全窒素量に対するアミノ態窒素量の百分率で示される分解率が少なくとも20%、又は少なくとも40%である請求項1又は2に記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤。
【請求項4】
前記分解率が、47%〜58%である請求項3に記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤。
【請求項5】
前記分解率が、50%〜58%である請求項3に記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5何れか記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤を含有することを特徴とする哺乳動物の美白剤。
【請求項7】
アスコルビン酸、コウジ酸、トコフェロール、アルブチン、エラグ酸、ルシノール、システイン、シスチン、グルタチオン、カンゾウフラボノイド、納豆エキス、酵母エキス及びそれらの誘導体並びにそれらの塩から選択される1種以上の成分をさらに含む請求項6に記載の美白剤。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の美白剤を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項9】
請求項1〜5何れか記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤を含有することを特徴とする経口投与用の美容食品及び飲料、機能性食品及び飲料、又は健康補助食品及び飲料。
【請求項10】
乳カゼインを麹菌由来のタンパク質分解酵素で分解する工程と、当該加水分解物を膜処理、及び活性炭処理する工程とを含むことを特徴とする請求項1〜5何れか記載のメラニン輸送及び/又は放出抑制剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−143796(P2008−143796A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329721(P2006−329721)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】