説明

モータおよびモータの製造方法

【課題】コイルからティースへ効率よく熱を伝導させて、モータの伝導効率を高める。
【解決手段】モータ1Aの静止部2Aは、内側樹脂部71Aと外側樹脂部72Aとを含む樹脂体234Aを、有している。内側樹脂部71Aは、ティース42Aとコイル233Aとの間、およびティース42Aとインシュレータ232Aとの間に、介在する。外側樹脂部72Aは、コイル233Aの周方向外側および軸方向外側を覆う。また、内側樹脂部71Aと外側樹脂部72Aとは、コイル233Aの径方向外側またはコイル233Aの径方向内側に配置された連続樹脂部73Aを介して、連続している。また、インシュレータ232Aは、ティースの周方向の側面に沿って広がる開口部66Aを、有している。当該開口部66Aにおいて、内側樹脂部71Aは、ティース42Aの周方向の側面と導線との双方に、接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータおよびモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータにおいて、ステータのティースに、樹脂製のインシュレータを装着し、当該インシュレータに導線を巻き付けて、コイルを形成する構造が、知られている。インシュレータは、ティースとコイルとの間に介在することで、両部材を電気的に絶縁する。インシュレータを有する従来のモータについては、例えば、特開2005−012861号公報に記載されている。
【特許文献1】特開2005−012861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モータの駆動時には、駆動電流によって、コイルが発熱する。コイルに発生した熱は、例えば、インシュレータやティースを介して、モータの外部へ放出させることが好ましい。しかしながら、ティースとコイルとの間には、多くの微小な空隙が存在する。これらの空隙が、コイルからティースへの熱伝導を阻害する要因となっている。コイルからの放熱が不十分であると、モータが過熱状態となりやすい。
【0004】
この点について、特開2005−012861号公報には、絶縁部材に形成された複数の穴に、樹脂を注入することが、記載されている(段落0020)。当該公報では、穴に充填された樹脂を介して、固定子巻線から磁極ティースへ、熱を伝達させている(段落0021)。
【0005】
しかしながら、特開2005−012861号公報では、絶縁部材に形成された複数の穴に、個別に樹脂を注入している。このため、複数の穴に注入された樹脂は、互いに繋がっていないと考えられる。したがって、特開2005−012861号公報の構造では、コイルからティースへの熱伝導経路が制限されており、モータの放熱効率をさらに高めることが、困難と考えられる。
【0006】
特に、近年では、小型でかつ高出力のモータに対する要求が、高まっている。このため、従来よりさらに効率よく、モータから熱を逃がすことができる構造が、求められている。
【0007】
本発明の目的は、コイルからティースへ効率よく熱を伝導させて、モータの放熱効率を高めることができる技術を、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の例示的な第1発明は、静止部と回転部とを有し、前記静止部は、上下に延びる中心軸に対して径方向に延び、径方向に垂直な断面が略四角形である複数のティースと、前記ティースの表面を部分的に覆うインシュレータと、前記インシュレータに巻かれた導線により構成されるコイルと、を有し、前記回転部は、前記ティース、前記インシュレータ、および前記コイルの径方向内側に配置されるとともに、前記静止部に対して、前記中心軸を中心として回転可能に支持され、前記インシュレータは、前記ティースの上部において、径方向に延びる一対の角部を覆う上枠部と、前記ティースの下部において、径方向に延びる一対の角部を覆う下枠部と、前記上枠部の下方かつ前記下枠部の上方において、前記ティースの周方向の側面に沿って広がる開口部と、を有し、前記静止部は、前記ティースと前記コイルとの間、およびティースと前記インシュレータとの間に介在する内側樹脂部と、前記コイルの周方向外側および軸方向外側を覆う外側樹脂部と、前記コイルの径方向外側または前記コイルの径方向内側に配置された連続樹脂部と、を含む樹脂体をさらに有し、前記内側樹脂部と前記外側樹脂部とが、前記連続樹脂部を介して連続し、前記内側樹脂部が、前記開口部において、前記ティースの周方向の側面と前記導線との双方に接触しているモータである。
【発明の効果】
【0009】
本願の例示的な第1発明によれば、コイルに発生した熱を、樹脂体を介して、ティースへ伝導させることができる。特に、内側樹脂部は、ティースとコイルとの間およびティースとインシュレータとの間に、介在している。また、コイルは、外側樹脂部にも接触している。これにより、コイルからティースへの熱伝導経路が、広く確保されている。したがって、モータの放熱が促進される。また、内側樹脂部と外側樹脂部とが、連続樹脂部を介して連続している。このため、樹脂体の成型が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、モータの部分斜視図である。
【図2】図2は、モータの縦断面図である。
【図3】図3は、ステータコアの上面図である。
【図4】図4は、ストレートコアの部分斜視図である。
【図5】図5は、インシュレータの斜視図である。
【図6】図6は、上枠部の部分上面図である。
【図7】図7は、ティース付近の縦断面図である。
【図8】図8は、ティースの上端部付近の縦断面図である。
【図9】図9は、ティース付近の縦断面図である。
【図10】図10は、ティース付近の横断面図である。
【図11】図11は、モータの製造工程の一部分を示したフローチャートである。
【図12】図12は、インシュレータをティースに取り付けるときの様子を示した斜視図である。
【図13】図13は、インシュレータの部分斜視図である。
【図14】図14は、ティース付近の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では、モータの中心軸に沿う方向を上下方向として、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、これは、あくまで説明の便宜のために上下方向を定義したものであって、本発明に係るモータの、使用時の向きを限定するものではない。
【0012】
<1.一実施形態に係るモータ>
図1は、一実施形態に係るモータ1Aの部分斜視図である。図1に示すように、モータ1Aは、静止部2Aと回転部3Aとを有している。回転部3Aは、静止部2Aに対して、中心軸を中心として回転可能に、支持されている。
【0013】
静止部2Aは、複数のティース42Aと、インシュレータ232Aと、コイル233Aとを有している。複数のティース42Aは、中心軸に対して径方向に延びている。各ティース42Aの径方向に垂直な断面は、略四角形となっている。インシュレータ232Aは、ティース42Aの表面を、部分的に覆っている。コイル233Aは、インシュレータ232Aに巻かれた導線により、構成されている。回転部3Aは、ティース42A、インシュレータ232A、およびコイル233Aの、径方向内側に配置されている。
【0014】
インシュレータ232Aは、上枠部61Aおよび下枠部62Aを、有している。上枠部61Aは、ティース42Aの上部において、径方向に延びる一対の角部を、覆っている。下枠部62Aは、ティース42Aの下部において、径方向に延びる一対の角部を、覆っている。また、インシュレータ232Aは、上枠部61Aの下方かつ下枠部62Aの上方に、開口部66Aを有している。開口部66Aは、ティース42Aの周方向の側面に沿って、広がっている。
【0015】
また、静止部2Aは、内側樹脂部71A、外側樹脂部72A、および連続樹脂部73Aを含む樹脂体234Aを、さらに有している。内側樹脂部71Aは、ティース42Aとコイル233Aとの間、およびティース42Aとインシュレータ232Aとの間に、介在している。外側樹脂部72Aは、コイル233Aの周方向外側および軸方向外側を覆っている。連続樹脂部73Aは、コイル233Aの径方向外側またはコイル233Aの径方向内側に、配置されている。
【0016】
内側樹脂部71Aと外側樹脂部72Aとは、連続樹脂部73Aを介して連続している。また、内側樹脂部71Aは、インシュレータ232Aの開口部66Aにおいて、ティース42Aの周方向の側面と、コイル233Aを構成する導線との、双方に接触している。
【0017】
このモータ1Aでは、コイル233Aに発生した熱を、樹脂体234Aを介して、ティース42Aへ伝導させることができる。特に、内側樹脂部71Aは、ティース42Aとコイル233Aとの間およびティース42Aとインシュレータ232Aとの間に、介在している。また、コイル233Aは、外側樹脂部72Aにも接触している。これにより、コイル233Aからティース42Aへの熱伝導経路が、広く確保されている。したがって、モータ1Aの放熱が促進される。また、内側樹脂部71Aと外側樹脂部72Aとが、連続樹脂部73Aを介して連続している。このため、樹脂体234Aの成型が容易となる。
【0018】
<2.より具体的な実施形態>
<2−1.モータの全体構成>
続いて、本発明のより具体的な実施形態について説明する。
【0019】
本実施形態のモータ1は、例えば、自動車に搭載され、操舵装置の駆動力を発生させるために使用される。ただし、本発明のモータは、他の既知の用途に使用されるものであってもよい。例えば、本発明のモータは、自動車の他の部位、例えばエンジン放熱用ファンの駆動源として使用されるものであってもよい。また、本発明のモータは、家電製品、OA機器、医療機器等に搭載され、各種の駆動力を発生させるものであってもよい。
【0020】
図2は、本実施形態に係るモータ1の縦断面図である。図2に示すように、モータ1は、静止部2と回転部3とを、有している。静止部2は、駆動対象となる装置の枠体に、固定される。回転部3は、静止部2に対して、中心軸9の周りに、回転可能に支持される。
【0021】
本実施形態の静止部2は、ハウジング21、蓋部22、ステータユニット23、下軸受部24、および上軸受部25を、有している。
【0022】
ハウジング21は、有底略円筒状の部材である。蓋部22は、ハウジング21の上部の開口を覆う略板状の部材である。ステータユニット23、下軸受部24、後述するロータコア32、および後述する複数のマグネット33は、ハウジング21と蓋部22とに囲まれた内部空間に、収容されている。ハウジング21の下面の中央には、下軸受部24を保持するための凹部211が、設けられている。蓋部22の中央には、上軸受部25を保持するための円孔221が、設けられている。
【0023】
ステータユニット23は、駆動電流に応じて磁束を発生させる電機子として、機能する。ステータユニット23は、ステータコア231、インシュレータ232、コイル233、および樹脂体234を有する。
【0024】
図3は、ステータコア231の上面図である。ステータコア231は、例えば、複数の電磁鋼板を軸方向(中心軸9に沿う方向。以下同じ)に積層させた積層鋼板からなる。図3に示すように、ステータコア231は、円環状のコアバック41と、コアバック41から径方向(中心軸9に直交する方向。以下同じ)内側へ向けて突出した複数本のティース42と、を有する。
【0025】
複数本のティース42は、それぞれ周方向に略等間隔に配列されている。各ティース42は、径方向に略四角柱状に延びている。すなわち、各ティース42の径方向に垂直な断面は、略四角形となっている。コアバック41は、複数のティース42の径方向外側の端部を、繋いでいる。図2に示すように、コアバック41は、ハウジング21の側壁の内周面に、固定されている。
【0026】
インシュレータ232は、ティース42とコイル233との間に介在する樹脂製の部材である。インシュレータ232は、複数のティース42のそれぞれに、取り付けられている。各ティース42の表面は、インシュレータ232に、部分的に覆われている。コイル233は、インシュレータ232の周囲に巻かれた導線により、構成されている。
【0027】
樹脂体234は、インサート成型によって、各ティース42の周囲に形成されている。樹脂体234は、ティース42の径方向内側の端面を除いて、ティース42、インシュレータ232、およびコイル233を覆っている。また、樹脂体234は、ティース42と、インシュレータ232およびコイル233との隙間にも、介在している。
【0028】
ステータユニット23のより詳細な構造については、後述する。
【0029】
下軸受部24および上軸受部25は、回転部3側のシャフト31を回転可能に支持する機構である。本実施形態の下軸受部24および上軸受部25には、球体を介して外輪と内輪とを相対回転させるボールベアリングが、それぞれ使用されている。ただし、ボールベアリングに代えて、すべり軸受や流体軸受等の他方式の軸受が、使用されていてもよい。
【0030】
下軸受部24の外輪241は、ハウジング21の凹部211に、固定されている。また、上軸受部25の外輪251は、蓋部22の円孔221の縁に、固定されている。一方、下軸受部24および上軸受部25の内輪242,252は、シャフト31に固定されている。これにより、シャフト31は、ハウジング21および蓋部22に対して、回転可能に支持されている。
【0031】
本実施形態の回転部3は、シャフト31、ロータコア32、および複数のマグネット33を有している。
【0032】
シャフト31は、中心軸9に沿って上下に延びる略円柱状の部材である。シャフト31は、上述した下軸受部24および上軸受部25に支持されつつ、中心軸9を中心として回転する。また、シャフト31は、蓋部22より上方に突出した頭部311を有する。頭部311は、ギア等の動力伝達機構を介して、自動車の操舵装置等に連結される。
【0033】
ロータコア32および複数のマグネット33は、ステータユニット23の径方向内側に配置されて、シャフト31とともに回転する。ロータコア32は、シャフト31に固定された、略円筒状の部材である。複数のマグネット33は、ロータコア32の外周面に、例えば接着剤で、固定されている。各マグネット33の径方向外側の面は、ティース42の径方向内側の端面に対向する磁極面となっている。複数のマグネット33は、N極の磁極面とS極の磁極面とが交互に並ぶように、周方向に等間隔に配列されている。
【0034】
なお、複数のマグネット33に代えて、N極とS極とが周方向に交互に着磁された1つの円環状のマグネットが、使用されていてもよい。
【0035】
このようなモータ1において、静止部2のコイル233に駆動電流が与えられると、ステータコア231の複数のティース42に、径方向の磁束が生じる。そして、ティース42とマグネット33との間の磁束の作用により、周方向のトルクが発生する。その結果、静止部2に対して回転部3が、中心軸9を中心として回転する。
【0036】
<2−2.ステータユニットのより詳細な構造>
続いて、上記のステータユニット23のより詳細な構造について、説明する。
【0037】
(1)ステータコアについて
図4は、ステータコア231を展開した、いわゆるストレートコア4の部分斜視図である。本実施形態のステータコア231は、図4のストレートコア4を、環状に曲げることにより、得られる。図4に示すように、ステータコア231のコアバック41は、複数のティース42の各々に対応する複数のサブコア40に、区分されている。また、複数のサブコア40は、可撓性を有する繋ぎ部43を介して、帯状に連続している。ステータユニット23の製造時には、このようなストレートコア4の繋ぎ部43を撓ませて、互いに隣り合うサブコア40の端面44同士を、接触させる。これにより、環状のコアバック41が形成される。
【0038】
(2)インシュレータについて
図5は、インシュレータ232の斜視図である。図5に示すように、インシュレータ232は、上枠部61、下枠部62、上連結部63、下連結部64、およびエンド連結部65を有している。
【0039】
上枠部61は、一対の上角カバー611,612を有している。一対の上角カバー611,612は、ティース42の上部において、径方向に延びる一対の角部を、それぞれ覆う。また、下枠部62は、一対の下角カバー621,622を有している。一対の下角カバー621,622は、ティース42の下部において、径方向に延びる一対の角部を、それぞれ覆う。一対の上角カバー611,612および一対の下角カバー621,622は、エンド連結部65から径方向内側へ向けて、互いに略平行に延びている。
【0040】
上角カバー611の下方かつ下角カバー621の上方には、開口部661が設けられている。また、同様に、上角カバー612の下方かつ下角カバー622の上方には、開口部662が設けられている。本実施形態では、上角カバー611,612と下角カバー621,622との間に、インシュレータ232の他の部位が配置されていない。これにより、開口部661,662が、広く確保されている。インシュレータ232をティース42に取り付けたときには、ティース42の周方向の端面に沿って、開口部661,662が広がる。
【0041】
一対の上角カバー611,612は、上連結部63を介して、周方向に繋がっている。上連結部63の軸方向の厚みは、一対の上角カバー611,612のそれぞれの軸方向の厚みより、薄い。また、上連結部63の径方向内側の端部は、一対の上角カバー611,612の径方向内側の端部より、径方向外側に位置している。したがって、後述する製造工程において、樹脂体234を成型するときには、上連結部63の上面側、下面側、および径方向内側の隙間を通って、融解した樹脂を流動させることができる。
【0042】
一対の下角カバー621,622は、下連結部64を介して、周方向に繋がっている。下連結部64の軸方向の厚みは、一対の下角カバー621,622のそれぞれの軸方向の厚みより、薄い。また、下連結部64の径方向内側の端部は、一対の下角カバー621,622の径方向内側の端部より、径方向外側に位置している。したがって、後述する製造工程において、樹脂体234を成型するときには、下連結部64の上面側、下面側、および径方向内側の隙間を通って、融解した樹脂を流動させることができる。
【0043】
上連結部63は、一対の上角カバー611,612を繋ぐことによって、一対の上角カバー611,612の剛性を高めている。また、下連結部64は、一対の下角カバー621,622を繋ぐことによって、一対の下角カバー621,622の剛性を高めている。上角カバー611,612および下角カバー621,622の剛性が高まれば、ティース42に対するインシュレータ232の取り付けや、インシュレータ232に対するコイル233の取り付けの作業が、より容易となる。また、射出成型時の射出圧による上角カバー611,612および下角カバー621,622の変形が、抑制される。このため、上角カバー611,612および下角カバー621,622に沿うように、融解した樹脂を流すことが、容易となる。その結果、樹脂体234の形状に、ばらつきが生じにくくなる。
【0044】
エンド連結部65は、一対の上角カバー611,612および一対の下角カバー621,622の、径方向外側の端部同士を繋いでいる。すなわち、インシュレータ232が、連続した単一の部材となっている。ステータコア231にインシュレータ232を取り付けたときには、エンド連結部65が、コアバック41の上面および内周面に、部分的に接触する。
【0045】
図6は、上枠部61の部分上面図である。図5および図6に示すように、上角カバー611,612の径方向内側の端部には、テーパ部613が設けられている。すなわち、上角カバー611,612の周方向外側または軸方向外側の面が、径方向内端部から径方向外側へ向かうにつれて、ティース42から離れる方向へ広がるように、傾斜している。また、図5に示すように、下角カバー621,622にも、同様のテーパ部623が、設けられている。後述する製造工程では、これらのテーパ部613,623を利用して、コイル233の内側に、上角カバー611,612および下角カバー621,622を、容易に挿入できる。
【0046】
(3)樹脂体について
図7は、図2中のA−A位置から見たティース42付近の縦断面図である。図8は、図7の断面図のティース42の上端部付近を、拡大して示した図である。図9は、図2中のB−B位置から見たティース42付近の縦断面図である。また、図10は、図2中のC−C位置から見たティース42付近の横断面図である。図7〜図10に示すように、ティース42、インシュレータ232、およびコイル233は、樹脂体234にモールドされている。
【0047】
樹脂体234は、コイル233より内側に形成された内側樹脂部71と、コイル233より外側に形成された外側樹脂部72とを、有している。内側樹脂部71は、ティース42とコイル233との間、およびティース42とインシュレータ232との間に、介在している。外側樹脂部72は、コイル233の周方向外側および軸方向外側を覆っている。
【0048】
図7および図8に示すように、内側樹脂部71は、上面樹脂部711、下面樹脂部712、および一対の側面樹脂部713,714を含んでいる。上面樹脂部711は、一対の上角カバー611,612の間に、形成されている。また、上面樹脂部711は、ティース42の上面と、コイル233を構成する導線51との、双方に接触している。下面樹脂部712は、一対の下角カバー621,622の間に形成されている。また、下面樹脂部712は、ティース42の下面と、コイル233を構成する導線51との、双方に接触している。
【0049】
側面樹脂部713は、上角カバー611と下角カバー621との間の開口部661に、形成されている。また、側面樹脂部714は、上角カバー612と下角カバー622との間の開口部662に、形成されている。側面樹脂部713,714は、ティース42の周方向の側面と、コイル233を構成する導線51との、双方に接触している。
【0050】
導線51に駆動電流が与えられると、コイル233が発熱する。しかしながら、このモータ1では、ティース42とコイル233との間の空隙を埋めるように、内側樹脂部71が形成されている。このため、コイル233に発生した熱は、内側樹脂部71を介してティース42へ、効率よく伝導する。ティース42に伝導した熱は、コアバック41およびハウジング21を経由して、モータ1の外部へ放出される。これにより、モータ1が冷却される。
【0051】
特に、本実施形態では、上角カバー611,612と下角カバー621,622との間に、全面的に開口部661,662が形成されている。そして、当該開口部661,662に側面樹脂部713,714が形成されている。これにより、導線51からティース42への熱伝導経路が、より広く確保されている。したがって、モータ1の放熱が、より促進される。
【0052】
また、図8に示すように、内側樹脂部71は、ティース42とコイル233との間だけではなく、ティース42と上角カバー611,612との間にも、介在している。また、同じように、内側樹脂部71は、ティース42と下角カバー621,622との間にも、介在している。これにより、内側樹脂部71からティース42への熱伝導経路が、さらに広く確保されている。したがって、モータ1の放熱が、さらに促進される。
【0053】
また、コイル233は、内側樹脂部71だけではなく、外側樹脂部72にも接触している。このため、コイル233に発生した熱の一部は、外側樹脂部72に伝導する。図9および図10に示すように、外側樹脂部72は、コイル233の径方向内側に位置する連続樹脂部73を介して、内側樹脂部71と繋がっている。このため、外側樹脂部72に伝導した熱の一部は、連続樹脂部73を介して、内側樹脂部71へ伝導し、ステータコア231およびハウジング21を経由して、モータ1の外部へ放出される。
【0054】
なお、連続樹脂部73により、コイル233の径方向内端部または外端部の巻き崩れ、腐食、および破損が、防止される。また、内側樹脂部71と外側樹脂部72とは、連続樹脂部73を介して連続している。このため、樹脂体234を一度に成型できる。
【0055】
また、図2に示すように、本実施形態では、樹脂体234が、ステータコア231のコアバック41にも、接触している。このため、外側樹脂部72に伝導した熱の他の一部は、内側樹脂部71を経由することなく、直接的に、コアバック41へ伝導する。このように、このモータ1では、コイル233から樹脂体234を介してステータコア231へ向かう熱伝導経路が、複数用意されている。これにより、モータ1の放熱が、より促進されるようになっている。
【0056】
樹脂体234には、熱伝導率の高い樹脂を使用することが、好ましい。一般的には、熱可塑性樹脂より、熱硬化性樹脂の方が、熱伝導率が高い。したがって、樹脂体234は、熱硬化性樹脂製であることが、好ましい。樹脂体234に熱硬化性樹脂を使用すれば、導線51からステータコア231へ、より効率よく熱を伝導させることができる。
【0057】
コイル233は、後述する製造工程のステップS2において、周方向または軸方向に圧縮される。その結果、図10のように、導線51の断面が、少なくとも部分的に、略六角形状となっている。コイル233内の導線51の隙間が縮小されると、導線51間の熱伝導性が向上する。そうすると、導線51のうち、樹脂体234に直接接触していない部分に発生した熱も、内側樹脂部71および外側樹脂部72へ効率よく伝導される。したがって、モータ1の放熱が、より促進される。また、導線51の隙間が縮小されると、導線51の巻数を増加させることができる。すなわち、コイル233の占積率を高めることができる。
【0058】
同じ大きさのモータ1において、コイル233の占積率が高まると、モータ1の出力が向上する。または、同じ出力のモータ1において、コイル233の占積率が高まると、モータ1を小型化できる。また、本実施形態のモータ1では、コイル233に発生した熱を、効率よく外部へ放出できる。すなわち、本実施形態の構造を採用すれば、小型で出力が高く、かつ、放熱効率のよいモータを、得ることができる。
【0059】
<2−3.ステータユニットの製造手順>
図11は、上記のモータ1の製造工程の一部分を示した、フローチャートである。以下では、図11を参照しつつ、モータ1のステータユニット23を製造する手順について、説明する。
【0060】
ステータユニット23を製造するときには、まず、巻枠(図示省略)を用意する。そして、巻枠に導線51を巻き付けて、コイル233を形成する(ステップS1)。巻枠には、例えば、インシュレータ232より剛性の高い金属製の治具が、使用される。
【0061】
次に、コイル233を少なくとも部分的に圧縮する(ステップS2)。例えば、巻枠に巻き付けられた導線51に対して、周方向または軸方向に圧力をかける。これにより、コイル233内の導線51の隙間を縮小させて、コイル233の熱伝導率および占積率を高める。
【0062】
続いて、コイル233がインシュレータ232に取り付けられる(ステップS3)。ここでは、環状に形成されたコイル233が、巻枠から取り外され、当該コイル233の内側に、インシュレータ232が挿入される。これにより、インシュレータ232がコイル233を保持する。
【0063】
さらに、コイル233を保持したインシュレータ232を、ティース42に取り付ける(ステップS4)。図12は、インシュレータ232をティース42に取り付けるときの様子を示した斜視図である。図12に示すように、本実施形態では、展開状態のストレートコア4の複数のティース42に対して、それぞれインシュレータ232を取り付ける。
【0064】
インシュレータ232は、径方向内側から、すなわち、ティース42の先端側から、取り付けられる。本実施形態のティース42は、径方向内側の端部が、周方向に広がっていない。すなわち、ティース42の径方向内側の端部の周方向幅と、ティース42の他の部分の周方向幅とが、略同一となっている。このため、コイル233およびインシュレータ232の内側に、ティース42を容易に挿入できる。
【0065】
その後、ストレートコア41を環状に曲げる(ステップS5)。具体的には、ストレートコア4の繋ぎ部43を撓ませることにより、複数のサブコア40の端面44同士を接触させる。これにより、環状のステータコア231が得られる。
【0066】
最後に、インサート成型により、樹脂体234を形成する(ステップS6)。ここでは、まず、一対の金型によって形成される空洞に、ステータコア231、インシュレータ232、およびコイル233を含むアセンブリを、配置する。そして、金型内の当該空洞に、溶融樹脂を流入させる。溶融樹脂は、ティース42とコイル233との間や、コイル233の外側に、充填されて硬化する。これにより、内側樹脂部71、外側樹脂部72、および連続樹脂部73を有する樹脂体234が、成型される。
【0067】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0068】
図13は、一変形例に係るインシュレータ232Bの部分斜視図である。図13の例では、下角カバー622Bのティースに対向する面に、凹凸が設けられている。すなわち、下枠部622Bの表面に、ティースに接触する接触領域624Bと、接触領域624Bより凹んだ凹領域625Bとが、設けられている。他の下角カバー621Bや、一対の上枠部にも、同様の凹凸が設けられている。このようにすれば、ティースの表面と凹領域625Bとを、離間した状態に維持することができる。したがって、樹脂体の成型時に、凹領域625Bを介して、融解した樹脂を流動させることができる。その結果、側面樹脂部と、上面樹脂部または下面樹脂部とが、凹領域625Bを介して繋がるように、樹脂体を成型できる。
【0069】
図14は、他の変形例に係るモータの、ティース42C付近の横断面図である。図14の例では、ティース42Cの径方向内側の端部に、周方向に広がるフランジ部421Cが、設けられている。また、図14の例では、コアバック41Cとティース42Cとが、別部材となっている。そして、ティース42Cの径方向外側の端部が、コアバック41Cに、固定されている。また、ティース42C、インシュレータ232C、およびコイル233Cが、樹脂体234Cにモールドされている。
【0070】
図14の構造では、ティース42Cをコアバック41Cに固定する前に、インシュレータ232Cと、予め成形されたコイル233Cとを、ティース42Cに対して、径方向外側から取り付けることができる。このため、上記の実施形態と同様に、巻枠を利用してコイル233Cを圧縮し、コイル233Cの熱伝導率および占積率を、高めることができる。
【0071】
図14の構造では、インシュレータ232Cのエンド連結部を、上枠部および下枠部の径方向外側に、配置すればよい。例えば、インシュレータ232Cのうち、ティース42Cのフランジ部421Cに接触する部分を、エンド連結部とすればよい。また、図14の構造では、上枠部および下枠部の径方向外側の端部に、図6と同様のテーパ部を設けるとよい。テーパ部があると、インシュレータ232Cに対するコイル233Cの取り付けが、より容易となる。
【0072】
図14のステータユニットも、概ね図11に準じた手順で製造できる。ただし、ステップS4では、コイル233Cおよびインシュレータ232Cを、ティース42Cに対して、径方向外側から取り付けることとなる。また、ステップS4の後に、ティース42Cの径方向外側の端部を、コアバックに固定する工程が、追加される。
【0073】
ステータコアは、上記の実施形態のように、ストレートコア4を環状に曲げたものであってもよく、複数のピースを組み合わせて、環状のコアバックを形成するものであってもよい。また、ステータコアは、継ぎ目の無い環状のコアバックを有するものであってもよい。
【0074】
インシュレータの開口部は、上記の実施形態のように、上枠部と下枠部との間に全面的に設けられていてもよいし、部分的に設けられていてもよい。例えば、インシュレータは、上枠部と下枠部との間に、補強のためのリブを有していてもよい。
【0075】
また、連続樹脂部は、上記の実施形態のように、コイルの径方向内側に配置されていてもよいし、コイルの径方向外側に配置されていてもよい。また、連続樹脂部が、コイルの径方向内側と径方向外側との、双方に設けられていてもよい。
【0076】
インシュレータに対するコイルの取り付けは、ティースにインシュレータを取り付ける前後のいずれに行ってもよい。例えば、ティースにインシュレータを取り付けた後、インシュレータに対して、コイルを取り付けてもよい。
【0077】
また、ティースの周方向幅は、ティースの径方向内側の端部において、収束していてもよい。すなわち、ティースの径方向内端部の周方向幅が、ティースの他の部分の周方向幅より小さくてもよい。
【0078】
また、コアバックの外周面は、上面視において、円形であってもよく、多角形であってもよい。
【0079】
その他、各部材の細部の形状については、本願の各図に示された形状と、相違していてもよい。
【0080】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、モータおよびモータの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
1,1A モータ
2,2A 静止部
3,3A 回転部
4 ストレートコア
9 中心軸
21 ハウジング
22 蓋部
23 ステータユニット
24 下軸受部
25 上軸受部
31 シャフト
32 ロータコア
33 マグネット
41,41C コアバック
42,42A,42C ティース
51 導線
61,61A 上枠部
62,62A 下枠部
63 上連結部
64 下連結部
65 エンド連結部
66A 開口部
71,71A 内側樹脂部
72,72A 外側樹脂部
73,73A 連続樹脂部
231 ステータコア
232,232A,232B,232C インシュレータ
233,233A,233C コイル
234,234A,234C 樹脂体
421C フランジ部
611,612 上角カバー
613,623 テーパ部
621,622 下角カバー
624B 接触領域
625B 凹領域
661,662 開口部
711 上面樹脂部
712 下面樹脂部
713,714 側面樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止部と回転部とを有し、
前記静止部は、
上下に延びる中心軸に対して径方向に延び、径方向に垂直な断面が略四角形である複数のティースと、
前記ティースの表面を部分的に覆うインシュレータと、
前記インシュレータに巻かれた導線により構成されるコイルと、
を有し、
前記回転部は、前記ティース、前記インシュレータ、および前記コイルの径方向内側に配置されるとともに、前記静止部に対して、前記中心軸を中心として回転可能に支持され、
前記インシュレータは、
前記ティースの上部において、径方向に延びる一対の角部を覆う上枠部と、
前記ティースの下部において、径方向に延びる一対の角部を覆う下枠部と、
前記上枠部の下方かつ前記下枠部の上方において、前記ティースの周方向の側面に沿って広がる開口部と、
を有し、
前記静止部は、
前記ティースと前記コイルとの間、およびティースと前記インシュレータとの間に介在する内側樹脂部と、
前記コイルの周方向外側および軸方向外側を覆う外側樹脂部と、
前記コイルの径方向外側または前記コイルの径方向内側に配置された連続樹脂部と、
を含む樹脂体をさらに有し、
前記内側樹脂部と前記外側樹脂部とが、前記連続樹脂部を介して連続し、
前記内側樹脂部が、前記開口部において、前記ティースの周方向の側面と前記導線との双方に接触しているモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、
前記上枠部は、径方向に延びる一対の上角カバーを有し、
前記下枠部は、径方向に延びる一対の下角カバーを有し、
前記インシュレータは、
前記一対の上角カバーを周方向に繋ぐ上連結部と、
前記一対の下角カバーを周方向に繋ぐ下連結部と、
をさらに有するモータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータにおいて、
前記インシュレータは、前記上枠部および前記下枠部の径方向外側または径方向内側の端部同士を繋ぐエンド連結部をさらに有するモータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のモータにおいて、
前記内側樹脂部は、
前記開口部に形成された側面樹脂部と、
前記ティースの上面と前記導線との双方に接触する上面樹脂部と、
前記ティースの下面と前記導線との双方に接触する下面樹脂部と、
を有し、
前記上枠部または前記下枠部は、
前記ティースに接触する接触領域と、
前記接触領域より凹んだ凹領域と、
を有し、
前記側面樹脂部と、前記上面樹脂部または前記下面樹脂部とが、前記凹領域を介して連続しているモータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のモータにおいて、
前記樹脂体は、熱硬化性樹脂製であるモータ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のモータにおいて、
前記ティースの径方向内端部の周方向幅が、前記ティースの他の部分の周方向幅と、略同一またはそれより小さいモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のモータにおいて、
前記上枠部または前記下枠部は、径方向内側の端部に、テーパ部を有しているモータ。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載のモータにおいて、
前記静止部は、前記複数のティースの径方向外側の端部を繋ぐ環状のコアバックをさらに有し、
前記樹脂体と前記コアバックとが、接触しているモータ。
【請求項9】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のモータにおいて、
前記ティースは、径方向内側の端部に、周方向に広がるフランジ部を有し、
前記静止部は、前記ティースとは別部材である環状のコアバックをさらに有し、
前記複数のティースの径方向外側の端部が、前記コアバックに固定されているモータ。
【請求項10】
請求項9に記載のモータにおいて、
前記上枠部または前記下枠部は、径方向外側の端部に、テーパ部を有しているモータ。
【請求項11】
請求項6から請求項8までのいずれかに記載のモータの製造方法において、
a)巻枠を用意し、前記巻枠に前記導線を巻き付けて、前記コイルを形成する工程と、
b)前記コイルを少なくとも部分的に圧縮して、前記導線の隙間を縮小させる工程と、
c)前記コイルおよび前記インシュレータを、前記ティースに対して、径方向内側から取り付ける工程と、
d)前記樹脂体を成型する工程と、
を含む製造方法。
【請求項12】
請求項9または請求項10に記載のモータの製造方法において、
a)巻枠を用意し、前記巻枠に前記導線を巻き付けて、前記コイルを形成する工程と、
b)前記コイルを少なくとも部分的に圧縮して、前記導線の隙間を縮小させる工程と、
c)前記コイルおよび前記インシュレータを、前記ティースに対して、径方向外側から取り付ける工程と、
d)前記ティースの径方向外側の端部を、前記コアバックに固定する固定工程と、
e)前記樹脂体を成型する工程と、
を含む製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−66314(P2013−66314A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203923(P2011−203923)
【出願日】平成23年9月19日(2011.9.19)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】