説明

モータの過負荷保護装置

【課題】 特定位置、位相で過負荷が発生するような場合でも、温度検出手段を多数設けることなく過負荷検出が行え、かつ過負荷保護設定値の余裕を少なくできて、モータ性能を十分に利用できるモータの過負荷保護装置を提供する。
【解決手段】 電源スイッチ6をオフとしたときの絶対時刻による稼働停止時刻とこの時のベース部温度とを稼働停止時温度記憶手段13に記憶しておく。再稼働開始時温度算出手段13により、稼働停止時の間の冷却温度を計算して、再稼働開始時のベース部温度を算出する。熱発生源現在温度算出手段15により、再稼働開始時のベース部温度を用いて、各極コイル2aのモータ電流で発熱する各熱発生源の現在温度を算出する。過負荷判定手段16は、各熱発生源の現在温度を、各熱発生源毎に定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リニアモータや回転形モータとなる同期モータ,誘導モータ等の交流モータ、あるいは直流モータに適用され、モータを過負荷から保護するモータの過負荷保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ制御装置またはモータに温度検出器を取付け、過負荷保護設定値を超えたときにインバータを停止し、モータ電流を遮断することにより過負荷保護を行うものが一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−320125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータは、例えば工作機械に付設するローダ等に用いた場合、可動体の停止位置が定まっていて同じ動作を繰り返すため、モータの特定位置、特定位相で過負荷が発生する場合がある。このような場合、モータ全体としての温度を測定しただけでは適切な過負荷検出が行えず、インバータの素子またはモータの各相・各極に温度検出器を取付けることが必要となる。そのため、部品点数が増え、取付けが困難で、かつ高価なものとなっている。また、過負荷保護によりモータ停止した後の再稼働において、モータ巻線やインバータのスイッチング素子等の熱発生源の温度は、温度検出器の温度よりも高温になっているため、過負荷保護設定値に余裕を持って下げざるを得ない。そのため、実際は過負荷となっていなくても、過負荷と見なして停止させる場合が発生し、モータ性能を最大限に利用することができない。
【0005】
この発明の目的は、特定位置、位相で過負荷が発生するような場合でも、温度検出手段を多数設けることなく過負荷検出が行え、かつ過負荷保護設定値の余裕を少なくしても、過負荷検出による停止後に誤った過負荷検出が行われることがなく、モータ性能を十分に利用できるモータの過負荷保護装置を提供することでる。
この発明の他の目的は、温度検出手段をできるだけ少なくすることである。
この発明のさらに他の目的は、リニアモータにおいて適用可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のモータの過負荷保護装置は、
モータ(1)の周囲温度を検出する周囲温度検出手段(12)と、
絶対時刻を検出する絶対時刻検出手段(11)と、
モータ(1)の電源スイッチ(6)をオフとしたときの絶対時刻による稼働停止時刻とこの時のモータを設置した部位であるベース部(4)の温度となるベース部温度とを記憶する稼働停止時温度記憶手段(13)と、
前記電源スイッチ(6)をオンとした時の絶対時刻である再稼働開始時時刻と前回の稼働停止時刻との差となる経過時間からこの経過時間における前記ベース部(4)の冷却温度を計算し、この計算結果と前回の稼働停止時のベース部温度とから再稼働開始時のベース部温度を算出する再稼働開始時温度算出手段(14)と、
再稼働開始時の周囲温度とベース部温度を初期値として、再稼働開始時から現在までのモータ(1)の各極コイル(2a)毎のモータ電流による熱損失を計算することにより、前記各極コイル(2a)のモータ電流で発熱する各熱発生源の現在温度を算出する熱発生源現在温度算出手段(15)と、各熱発生源の現在温度が、各熱発生源毎に定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する過負荷判定手段(16)、
とを備える。
前記モータ(1)の各極コイル(2a)は、モータ(1)の各相の各極のコイルである。また、過負荷判定手段(16)は、過負荷保護設定値を超えた場合に過負荷と判定するようにしても、また過負荷保護設定値以上となった場合に過負荷と判定するようにしても良い。
【0007】
この構成によると、電源スイッチ(6)をオフとしたときの絶対時刻による稼働停止時刻とこの時のベース部温度とを稼働停止時温度記憶手段(13)に記憶しておき、再稼働開始時温度算出手段(14)により、稼働停止時の間の冷却温度を計算して、再稼働開始時のベース部温度を算出する。また、熱発生源現在温度算出手段(15)により、再稼働開始時のベース部温度を用いて、各極コイル(2a)のモータ電流で発熱する各熱発生源の現在温度を算出する。過負荷判定手段(16)は、このように算出された各熱発生源の現在温度を、各熱発生源毎に定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する。
このように、絶対時刻を用いて、再稼働開始時の熱発生源の温度初期値を推定できるため、過負荷保護設定値に不要な余裕を持たすことなく、適切に過負荷保護を行うことができる。これにより、モータ性能を最大限に利用できる過負荷保護機能を得ることができる。また、モータ電流から計算により熱損失を計算し、かつ各極コイル(2a)毎に計算するため、特定位置、位相で過負荷が発生するような場合でも、温度検出手段を多数設けることなく過負荷検出が行える。
【0008】
この発明において、前記熱発生源現在温度算出手段(15)の計算結果を用いて前記ベース部(4)の現在温度を計算するベース部現在温度算出手段(18)を設け、前記稼働停止時温度記憶手段(13)は、モータ(1)の電源スイッチ(6)をオフとしたときのベース部温度として、前記ベース部現在温度算出手段(18)で計算されたベース部温度を記憶するようにしても良い。
稼働停止時のベース部温度は、温度検出手段を設けて検出しても良いが、熱発生源現在温度算出手段(15)の計算結果を用いて計算したベース部温度を用いることにより、ベース部用の温度検出手段を設けることが不要となる。なお、稼働停止時温度記憶手段(13)に記憶する最初のベース部温度は、ベース部現在温度算出手段(18)による計算ができないため、例えば別途の温度測定器等で測定した結果等を適宜入力設定する。
【0009】
この発明において、前記モータ(1)が、一次側に、それぞれ各相のコイル(2a)を有するコイルユニット(2A)を可動子(3)の移動方向(a)に沿って複数有するリニアモータであっても良い。このリニアモータは、例えば同期形リニアモータであっても良い。このように、このモータの過負荷保護装置は、リニアモータに適用することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明のモータの過負荷保護装置は、モータの周囲温度を検出する周囲温度検出手段と、絶対時刻を検出する絶対時刻検出手段と、モータの電源スイッチをオフとしたときの絶対時刻である稼働停止時刻とこの時のモータを設置した部位であるベース部の温度となるベース部温度とを記憶する稼働停止時温度記憶手段と、前記電源スイッチをオンとした時の絶対時刻による再稼働開始時時刻と前回の稼働停止時刻との差となる経過時間からこの経過時間における前記ベース部の冷却温度を計算し、この計算結果と前回の稼働停止時のベース部温度とから再稼働開始時のベース部温度を算出する再稼働開始時温度算出手段と、再稼働開始時の周囲温度とベース部温度を初期値として、再稼働開始時から現在までのモータの各極コイル毎のモータ電流による熱損失を計算することにより、前記各極コイルのモータ電流で発熱する各熱発生源の現在温度を算出する熱発生源現在温度算出手段と、各熱発生源の現在温度が、各熱発生源毎に定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する過負荷判定手段とを備えるため、特定位置、位相で過負荷が発生するような場合でも、温度検出手段を多数設けることなく過負荷検出が行え、かつ過負荷保護設定値の余裕を少なくしても、過負荷検出による停止後に誤った過負荷検出が行われることがなく、モータ性能を十分に利用することができる。
【0011】
前記熱発生源現在温度算出手段の計算結果を用いて前記ベース部の現在温度を計算するベース部現在温度算出手段を設け、前記稼働停止時温度記憶手段は、モータの電源スイッチをオフとしたときのベース部温度として、前記ベース部現在温度算出手段で計算されたベース部温度を記憶する場合は、温度検出手段をできるだけ少なくすることができる。
また、この発明は、前記モータが、一次側に、それぞれ各相のコイルを有するコイルユニットを可動子の移動方向に沿って複数有するリニアモータである場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態に掛かるモータの過負荷保護装置を備えたモータ駆動装置の概念構成を示すブロック図である。
【図2】同モータの過負荷保護装置の処理を示す流れ図である。
【図3】モータの温度上昇モデルの熱回路図である。
【図4】保護対象となるモータの他の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1は、このモータの過負荷保護装置を備えたモータ駆動装置の概念構成を示すブロック図である。モータ1は、リニアモータと回転形モータのいずれでも良く、また同期モータ,誘導モータ等の交流モータでも、直流モータであっても良いが、図示の例では、3相の同期モータからなるリニアモータであり、固定子2と可動子3とでなる。可動子2は永久磁石からなる。固定子2は、固定子コイル、すなわち1次側のコイルとして、各相(U相,V相,W相)の磁極となるコイル2aが2個ずつ設けられた3相,6極とされている。なお、モータ1は、図4に示すように、一次側に、それぞれ各相(U相,V相,W相)のコイル2aを有するコイルユニット2Aを可動子の移動方向aに沿って複数有するリニアモータであっても良い。
【0014】
図1において、モータ1はベース部4に設置されている。ベース部4は、モータを設置した部位のことである。ベース部4については、具体的には、モータ1が例えば工作機械のローダ(図示せず)等に用いられてその固定子2がローダの走行体を案内するフレームに設置されている場合、そのフレームにおけるモータ1を設置した部位がベース部である。また、モータ1が、例えば工作機械のベッド(図示せず)に設置されている場合は、そのベッドにおけるモータ1を設置した部位がベース部である。
【0015】
モータ1の駆動電流は、交流電源5から、電源スイッチ6、直流電源7、およびインバータ8を介して与えられる。交流電源5は、例えば3相商用交流電源である。電源スイッチ6は電磁接触器具等からなる。電源スイッチ6の開閉の制御は、例えば、モータ1を搭載した機器(図示せず)の全体を制御するシーケンス制御装置等の制御装置10によって行われる。制御装置10は、例えばコンピュータとそれに実行されるプログラムとからなる。直流電源7は、交流電源5の交流電力を直流電力に変換する整流回路および平滑回路からなる。インバータ8は、直流電源7の電力を交流電力に変換する回路であって、複数のスイッチング素子(図示せず)を有し、モータ1の各極のコイル2aに接続される出力配線8aを有している。インバータ8は、交流電力に変換する機能の他に、モータ制御回路9の制御命令に従って、モータ1をPWM(パルス幅変調)制御等によって制御する機能、および出力をオンオフする機能を備える。モータ制御回路9は、インバータ8の各スイッチング素子のオンオフ指令を与える回路である。モータ制御回路9は、前記制御装置10の一部として設けられたものであっても、また制御装置10とは独立して設けられたものであっても良い。
【0016】
このモータの過負荷保護装置は、上記構成のモータ駆動装置において、上記制御装置10の一部の機能として、または上記制御装置10とは独立して設けられたものであり、次の絶対時刻検出手段11、周囲温度検出手段12、稼働停止時温度記憶手段13、再稼働開始時温度算出手段14、熱発生源現在温度算出手段15、過負荷判定手段16、過負荷対応制御手段17、およびベース部現在温度算出手段18を備える。これらの各手段11〜18のうち、絶対時刻検出手段11および周囲温度検出手段12を除く各手段13〜17は、例えば、コンピュータとこれに実行されるプログラムとによって構成される。
【0017】
絶対時刻検出手段11は、西暦等で何年、何月、何日の、何時、何分、何秒等で示される時刻である絶対時刻を検出する手段であり、例えばコンピュータが通常に備える時計機能部からなる。
周囲温度検出手段12は、モータ1の周囲の雰囲気温度を検出する手段であり、温度計等からなる。周囲温度検出手段12は、モータ1の設置場所との温度差が少ない場所であれば、例えばモータ1が設置された部屋内の温度を検出する手段であっても良い。
【0018】
稼働停止時温度記憶手段13は、モータ1の電源スイッチ6をオフとしたときの絶対時刻である稼働停止時刻と、この時のモータ1を設置した部位であるベース部の温度となるベース部温度とを記憶する手段である。電源スイッチ6をオフとしたことの認識は、例えば制御装置10から電源スイッチ6に与えられるオフ指令の信号を、稼働停止時温度記憶手段13に入力することによって得られる。ベース部温度は、後に具体的に説明するベース部現在温度算出手段18の現在温度とするが、ベース部現在温度算出手段18は、ベース部温度の初期値が定まっていないと計算できないため、最初の装置設置時などに、ベース部現在温度算出手段18または稼働停止時温度記憶手段13に、ベース部温度の初期値を、入力手段(図示せず)やプログラムによって適宜定める。なお、ベース部4の温度を計測するベース部温度計測手段(図示せず)を設け、この計測手段の電源スイッチオフ時の計測値を稼働停止時温度記憶手段13に記憶するようにしても良い。
【0019】
再稼働開始時温度算出手段14は、前記電源スイッチ6をオンとした時の絶対時刻による再稼働開始時時刻と前回の稼働停止時刻との差となる経過時間から、設定計算規則に従い、この経過時間における前記ベース部4の冷却温度を計算し、この計算結果と前回の稼働停止時のベース部温度とから再稼働開始時のベース部温度を算出する手段である。電源スイッチ6をオンとしたことの認識は、例えば制御装置10から電源スイッチ6に与えられるオン指令の信号を、再稼働開始時温度算出手段14に入力することによって得られる。前記経過時間におけるベース部4の冷却温度は、試験またはシミュレーション等によって、時間と冷却温度との関係式を求めて設定しておき、その関係式に時間を代入することで得る。
【0020】
熱発生源現在温度算出手段15は、再稼働開始時の周囲温度とベース部温度を初期値として、再稼働開始時から現在までのモータ1の各極コイル2a毎のモータ電流による熱損失を設定計算規則によって計算することにより、前記各極コイル2aのモータ電流で発熱する各熱発生源毎にその現在温度を算出する手段である。前記モータ1の各極コイル2aは、モータ1の各相の各極のコイル2aである。各極コイル2aの電流は、各極コイル2a毎に設けた電流検出器21により検出される。前記「設定計算規則」は、適宜定められる規則である。熱損失計算部15aは、熱発生源現在温度算出手段15のうち、熱損失を計算する部分である。
熱発生源現在温度算出手段15の初期値とする周囲温度は、周囲温度検出手段12から得た温度であり、初期値とするベース部温度は、再稼働開始時温度算出手段14で計算した再稼働開始時のベース部温度である。前記「各熱発生源」は、各極コイル2aのコイルまたはコア、またはその両方であっても良く、インバータ8における各極コイル2aと対応するスイッチング素子(図示せず)であっても良い。熱発生源がコイル2aの場合、モータ電流による熱損失は、例えばそのコイル2aの銅損、またはこの銅損が大部分となり、これに適宜定められる補正値等を加えた値となる。
【0021】
過負荷判定手段16は、各熱発生源の現在温度が、各熱発生源毎に定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する手段である。過負荷判定手段16は、いずれか一つの熱発生源の現在温度が、その熱発生源に対して定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する。
【0022】
過負荷対応制御手段17は、過負荷判定手段16により過負荷であると判定されたときに、その判定信号に応答して、モータ1を備えた機器の制御を行わせる手段である。過負荷対応制御手段17は、例えば、モータ制御回路9にインバータ8の出力を停止させる制御を行う。
【0023】
ベース部現在温度算出手段18は、熱発生源現在温度算出手段15の各熱発生源の現在温度の計算結果を用いて、適宜定められた規則に従い、ベース部4の現在温度を計算する手段である。ベース部4の温度は、全ての熱発生源の発熱によって変わるが、これら熱発生源の温度変化とベース部4の温度変化との関係を試験やシミュレーションによって得ることで、前記規則として適切な関係式を定めることができる。このベース部現在温度算出手段18を設けた場合、前記ように、稼働停止時温度記憶手段13は、モータ1の電源スイッチ6をオフとしたときのベース部温度として、前記ベース部現在温度算出手段18で計算されたベース部温度を記憶する。
【0024】
図3はモータ1の一つのコイル2aにおける簡略化した熱回路図を示す。同図に示すように、熱発生源であるコイル2aのコア部の温度Tcore(=Tcoil(コイル温度))は、ベース部4の温度Tbに、コア部で発生する温度Ta(=熱損失)を加えた値となる。すなわち、次式(1)で示される関係にある。
コア部で発生する温度Taは次式(2)の関係にある。ただし、Rはコイル抵抗、Rcはコイル2aのコア部の熱抵抗、Ccはコア部の熱容量、i(t)はコイル電流である。 図1の熱発生源現在温度算出手段15は、熱発生源である各コイル2aの現在の温度を、これらの式(1),(2)を用いて、各熱発生源の現在温度を計算する。
【0025】
【数1】

【0026】
次に、上記構成による保護動作を、図2の流れ図と共に説明する。ステップS1で示すように、図1の稼働停止時温度記憶手段13は、電源スイッチ6がオフに切り換わることを監視し、オフになると、そのオフになった絶対時刻である稼働停止時刻と、そのときのベース部温度とを記憶する(S2)。
【0027】
この後、電源スイッチ6が再度オンになると、再稼働開始時温度算出手段14は、再稼働開始時のベース部温度を算出する(S3)。具体的には、電源スイッチ6をオンとした時の再稼働開始時時刻と前回の稼働停止時刻との差となる経過時間から、この経過時間におけるベース部4の冷却温度を計算し、この計算結果と、稼働停止時温度記憶手段13に記憶されている前回の稼働停止時のベース部温度とから、再稼働開始時のベース部温度を算出する。
【0028】
この後、熱発生源現在温度算出手段15は、再稼働開始時の周囲温度とベース部温度を初期値として、再稼働開始時から現在までのモータ1の各極コイル2a毎のモータ電流による熱損失を計算することにより、前記各極コイル2aのモータ電流で発熱する各熱発生源の現在温度を算出する(S5)。
【0029】
計算された各熱発生源の現在温度は、過負荷判定手段16により過負荷保護設定値に達したか否かが判定される(S6)。この熱発生源現在温度算出手段15による各熱発生源の現在温度を算出と、その算出結果の過負荷判定手段16による判定は、過負荷と判定されるまで繰り返される。
【0030】
過負荷と判定されると、過負荷対応制御手段17により、インバータ8を停止させる等の保護のための制御が成される(S7)。
【0031】
この構成のモータの過負荷保護装置によると、このように、絶対時刻を用いて、再稼働開始時の熱発生源の温度初期値を推定できるため、過負荷保護設定値に余分な余裕を持たすことなく、適切に過負荷保護を行うことができる。これにより、モータ性能を最大限に利用できる過負荷保護機能を得ることができる。また、モータ電流から計算により熱損失を計算し、かつ各極コイル2a毎に計算するため、特定位置、位相で過負荷が発生するような場合でも、温度検出手段を多数設けることなく過負荷検出が行える。
また、稼働停止時のベース部温度は、温度検出手段を設けて検出しても良いが、熱発生源現在温度算出手段15の計算結果を用いてベース部現在温度算出手段18で計算されたベース部温度を用いることにより、ベース部用の温度検出手段を設けることが不要となり、より一層構成が簡素となる。
【符号の説明】
【0032】
1…モータ
2…固定子
2a…コイル(熱発生源)
3…可動子
4…ベース部
8…インバータ
9…モータ制御回路
10…制御装置
11…絶対時刻検出手段
12…周囲温度検出手段
13…稼働停止時温度記憶手段
14…再稼働開始時温度算出手段
15…熱発生源現在温度算出手段
16…過負荷判定手段
17…過負荷対応制御手段
18…ベース部現在温度算出手段
21…電流検出手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの周囲温度を検出する周囲温度検出手段と、
絶対時刻を検出する絶対時刻検出手段と、
モータの電源スイッチをオフとしたときの絶対時刻である稼働停止時刻とこの時のモータを設置した部位であるベース部の温度となるベース部温度とを記憶する稼働停止時温度記憶手段と、
前記電源スイッチをオンとした時の絶対時刻による再稼働開始時時刻と前回の稼働停止時刻との差となる経過時間からこの経過時間における前記ベース部の冷却温度を計算し、この計算結果と前回の稼働停止時のベース部温度とから再稼働開始時のベース部温度を算出する再稼働開始時温度算出手段と、
再稼働開始時の周囲温度とベース部温度を初期値として、再稼働開始時から現在までのモータの各極コイル毎のモータ電流による熱損失を計算することにより、前記各極コイルのモータ電流で発熱する各熱発生源の現在温度を算出する熱発生源現在温度算出手段と、 各熱発生源の現在温度が、各熱発生源毎に定められた過負荷保護設定値に達すると過負荷であると判定する過負荷判定手段、
とを備えるモータの過負荷保護装置。
【請求項2】
前記熱発生源現在温度算出手段の計算結果を用いて前記ベース部の現在温度を計算するベース部現在温度算出手段を設け、前記稼働停止時温度記憶手段は、モータの電源スイッチをオフとしたときのベース部温度として、前記ベース部現在温度算出手段で計算されたベース部温度を記憶する請求項1記載のモータの過負荷保護装置。
【請求項3】
前記モータが、一次側に、それぞれ各相のコイルを有するコイルユニットを可動子の移動方向に沿って複数有するリニアモータである請求項1または請求項2記載のモータの過負荷保護装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95415(P2012−95415A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239599(P2010−239599)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】