説明

モータ制御装置及びモータ制御方法

【課題】モータパルスに基づいてモータの回転速度や回転方向を制御するモータにおいて、パルスの分解能を上げモータ速度や反転位置の制御精度を向上させる。
【解決手段】ワイパ駆動制御装置は、ホールIC17a,17bと接続されたCPU22を有する。CPU22には、ホールICからブレードの絶対位置信号、ホールIC17a,17bからA相パルス信号Sp1,B相パルス信号Sp2が入力される。CPU22には、パルス信号Sp1に基づいてモータ回転数を算出するモータ回転数検出部41と、モータ回転数の高低を判定する回転数判定部43、モータ回転数に応じて制御に使用する信号を選択する信号選択部44を有する。信号選択部44は、高回転領域ではパルス信号のうち一方のみがモータ回転数検出部41に入力されるように規制し、モータ回転数検出部41は、一方のパルス信号のみを用いてモータ回転数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ回転軸の回転角度に対応して出力されるパルスに基づいてモータの回転速度や回転方向を制御するモータの制御技術に関し、特に、ワイパモータのような決められた角度範囲で正逆作動を行うモータの制御装置・制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に設けられるワイパ装置では、ワイパアームを揺動駆動するための駆動源として、正逆作動を行う特許文献1のようなモータ(ワイパモータ)を使用したシステムが知られている。このようなモータには、モータ回転軸の回転を検出する回転センサが設けられており、回転センサからは回転軸の回転速度に応じた周期のパルス信号が出力される。回転センサは、回転方向を識別するため、90°位相がずれた位置に2個設けられており、両センサからは2つのパルス信号(A相、B相)が出力される。
【0003】
一方、正逆転モータの制御装置は、A相のパルス信号に基づいてモータ回転軸の回転数(回転速度)を認識すると共に、A相の切り替わりエッジでのB相のレベルによって、モータの回転方向を認識している。例えば、A相の信号が立ち上がるときB相がHIの場合は正転、LOの場合は逆転、のような形で回転方向を識別する。また、モータ制御装置側では、A相のパルス信号のカウント値(積算値)に基づいて出力軸の回転角度、つまり、ワイパアームの絶対位置を認識する。そして、これらの認識情報に基づいて、ワイパアームを上反転位置と下反転位置との間で揺動させるように、ワイパモータの正逆転動作を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−160941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、正逆作動するモータを用いたシステムでは、回転センサからのパルス信号(A相,B相)を用途に応じて適宜使い分けてモータの駆動制御を行っている。ところが、近年、このようなシステムでは、モータの反転精度の向上が求められており、モータの回転角度検出においても高い分解能が求められて来ている。例えば、高級車向けのワイパ装置では、ワイパアームが所定の位置で正確かつスムーズに反転するような仕様が求められており、それに対応して、制御系におけるパルス分解能を更に細かくする必要性が生じている。
【0006】
しかしながら、パルス分解能を上げると、制御装置(マイコン)の処理能力や回転検出精度の点で問題が生じるおそれがあり、その対策が求められていた。すなわち、従来のシステムでは、パルス周期の算出には、パルスによるマイコンへの外部割込みを使用しており、パルス分解能を上げると高速回転域にてパルス周期が非常に短くなり、マイコンの処理が間に合わなくなる可能性があるという問題があった。また、分解能向上に伴いパルス間隔が狭くなると、構造的なバラツキの影響を受け易くなり、回転検出精度が低下するおそれがあるという問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、モータ回転軸の回転角度に対応して出力されるパルスに基づいてモータの回転速度や回転方向を制御するモータにおいて、制御装置の処理速度を上げることなくパルスの分解能を上げ、モータ速度や反転位置の制御精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のモータ制御装置は、2つの回転センサを用いてモータ回転軸の回転を検出し、前記回転センサからそれぞれ出力されるパルス信号に基づいて当該モータの動作制御を行うモータ制御装置であって、前記パルス信号に基づいて前記モータの回転数を算出するモータ回転数検出部と、前記モータ回転数検出部にて算出した前記モータの回転数と所定の閾値とを比較してモータ回転数の高低を判定する回転数判定部と、前記回転数判定部にて前記モータが所定の回転数以上で回転していると判定されたとき、前記2つの回転センサのパルス信号のうち一方のみが前記モータ回転数検出部に入力されるように、前記モータ回転数検出部に対する前記パルス信号の入力を規制する信号選択部と、を有し、前記モータ回転数検出部は、前記モータが所定の回転数以上で回転している場合、前記パルス信号のうちの一方のみを用いて前記モータの回転数を算出することを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、モータ高速回転域では、2つのパルス信号のうちの1つを使用し、モータの回転数を算出する。これにより、高速回転域におけるパルスの入力頻度が低くなり、モータ制御装置の負担が軽減される。
【0010】
前記モータ制御装置において、前記信号選択部は、前記回転数判定部にて前記モータが所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記モータ回転数検出部に前記2つの回転センサのパルス信号の両方が入力されるように、前記モータ回転数検出部に対する前記両パルス信号の入力を許容し、前記モータ回転数検出部は、前記モータが所定の回転数未満で回転している場合、前記2つのパルス信号の両方を用いて前記モータの回転数を算出するようにしても良い。これにより、モータ制御装置への負担が少ない低回転領域における回転速度の検出精度が向上する。
【0011】
また、当該モータ制御装置に、前記パルス信号に基づいて前記モータ回転軸を反転させる反転タイミングを検出し、前記モータを反転駆動させる反転タイミング判定部をさらに設け、前記信号選択部は、前記回転数判定部にて前記モータが所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記反転タイミング判定部に前記2つの回転センサのパルス信号の両方が入力されるように、前記反転タイミング判定部に対する前記両パルス信号の入力し、前記反転タイミング判定部は、前記2つのパルス信号の両方を用いて前記反転タイミングを検出するようにしても良い。これにより、パルス信号のうちの1つのみを用いて反転タイミングを検出する場合に比して、反転位置の分解能を上げることが可能となる。
【0012】
本発明のモータモータ制御方法は、2つの回転センサを用いてモータ回転軸の回転を検出し、前記回転センサからそれぞれ出力されるパルス信号に基づいて当該モータの動作制御を行うモータ制御方法であって、前記パルス信号に基づいて前記モータの回転数を算出すると共に、算出した前記モータの回転数と所定の閾値とを比較してモータ回転数の高低を判定し、前記モータが所定の回転数以上で回転していると判定されたとき、前記2つの回転センサのパルス信号のうち一方のみを用いて前記モータの回転数を算出することを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、モータ高速回転域では、2つのパルス信号のうちの1つを使用し、モータの回転数を算出する。これにより、高速回転域におけるパルスの入力頻度が低くなり、モータ制御装置の負担が軽減される。
【0014】
前記モータ制御方法において、前記モータが所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記2つの回転センサのパルス信号の両方を用いて前記モータの回転数を算出するようにしても良い。これにより、モータ制御装置への負担が少ない低回転領域における回転速度の検出精度が向上する。
【0015】
また、前記パルス信号に基づいて前記モータ回転軸を反転させる反転タイミングを検出し、前記モータ本体を反転駆動させると共に、前記モータ回転軸が所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記2つの回転センサのパルス信号の両方を用いて前記反転タイミングを検出するようにしても良い。これにより、パルス信号のうちの1つのみを用いて反転タイミングを検出する場合に比して、反転位置の分解能を上げることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のモータ制御装置によれば、2つの回転センサを用いてモータ回転軸の回転を検出し、各回転センサから出力されるパルス信号に基づいて当該モータの動作制御を行うモータ制御装置にて、パルス信号に基づいてモータ回転数を算出するモータ回転数検出部と、算出したモータ回転数と所定の閾値とを比較してモータ回転数の高低を判定する回転数判定部と、モータが所定回転数以上で回転していると判定されたとき、2つの回転センサのパルス信号のうち一方のみがモータ回転数検出部に入力されるようにパルス信号の入力を規制する信号選択部と、を設け、モータ回転数検出部では、モータが所定の回転数以上で回転している場合は、パルス信号のうちの一方のみを用いてモータの回転数を算出するようにしたので、モータ高速回転域におけるモータ回転数検出部へのパルス入力頻度を抑えることができ、モータ制御装置の負担を軽減することが可能となる。
【0017】
本発明のモータ制御方法によれば、2つの回転センサを用いてモータ回転軸の回転を検出し、各回転センサから出力されるパルス信号に基づいて当該モータの動作制御を行うモータ制御方法にて、パルス信号に基づいてモータ回転数を算出すると共に、算出したモータ回転数と所定の閾値とを比較してモータ回転数の高低を判定し、モータが所定の回転数以上で回転していると判定されたときは、2つの回転センサのパルス信号のうち一方のみを用いてモータの回転数を算出するようにしたので、モータ高速回転域におけるモータ回転数検出部へのパルス入力頻度を抑えることができ、モータ制御装置の負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のモータ制御処理が実施されるモータを備えたモータユニットの構成を示す説明図である。
【図2】多極着磁マグネットとホールICの構成を示す断面図である。
【図3】図2のホールICが出力するパルス信号を示す線図である。
【図4】モータの制御系の構成を示す説明図である。
【図5】CPUにおける信号選択処理系の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の一実施例である制御処理のフローチャートである。
【図7】ホールICの出力パルス信号の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明のモータ制御処理が実施されるモータを備えたモータユニット(ワイパモータ)の構成を示す説明図である。図1のモータユニット1は、例えば、自動車用ワイパ装置など車両用電装部品の駆動源として使用される。モータユニット1は、図示しないリンク機構等を介して、ワイパアームやワイパブレード(以下、ブレードと略記する)と接続され、ブレードが上下反転位置に達すると、正逆回転が切り替えられる。
【0020】
モータユニット1は、モータ本体2と、ギアボックス3とから構成される。モータ本体2の回転軸(モータ回転軸)4の回転は、ギアボックス3内にて減速され、出力軸5に出力される。回転軸4は、有底筒状のヨーク6に回動自在に支持される。回転軸4には、コイルが巻装されたアーマチュアコア7と、コンミテータ8が取り付けられている。ヨーク6の内面には、複数の永久磁石9が固定されている。コンミテータ8には、給電用のブラシ10が摺接している。モータ本体2の速度(回転数)は、ブラシ10に対する供給電流量によって制御される。
【0021】
ヨーク6の開口側端縁部には、ギアボックス3のケースフレーム11が取り付けられている。回転軸4の先端部は、ヨーク6から突出してケースフレーム11内に収納される。回転軸4の先端部には、ウォーム12が形成されている。ウォーム12には、ケースフレーム11に回動自在に支持されたウォーム歯車13が噛合している。ウォーム歯車13には、その同軸上に小径の第1ギア14が一体的に設けられている。第1ギア14には、大径の第2ギア15が噛合している。第2ギア15には、ケースフレーム11に回動自在に支持される出力軸5が一体に取り付けられている。なお、図示されないが、回転軸4には、前記ウォーム12に隣接して、そのねじ方向とは逆向きのもう1つのウォームが形成されている。当該ウォームは、ウォーム歯車13、第1ギア14と同様の減速部材により、第2ギア15に動力伝達される。
【0022】
モータ本体2の駆動力は、ウォーム12、ウォーム歯車13、第1ギア14、第2ギア15を経て減速された状態で出力軸5に出力される。出力軸5には、ワイパ装置のクランクアーム(図示せず)が取り付けられている。モータ本体2が作動すると、出力軸5を介してクランクアームが駆動され、クランクアームと接続されたリンク機構を介してワイパアームが作動する。
【0023】
回転軸4には、多極着磁マグネット16(以下、マグネット16と略記する)が取り付けられている。これに対し、ケースフレーム11内には、マグネット16の外周部と対向するように、回転センサとして、ホールIC17が設けられている。図2は、マグネット16とホールIC17の構成を示す断面図であり、図3は、図2のホールIC17が出力するパルス信号を示す線図である。図2に示すようにマグネット16は環状(リング状)に形成され、その外周には、N極とS極とが周方向に交互に並ぶように10極の磁極が着磁されている。一方、ホールIC17は、回転軸4の中心に対して90度の角度差を持った位置に2個設けられている(17a,17b)。回転軸4が1回転すると、各ホールIC17a,17bからは10周期分のパルス信号が出力され、2個のホールIC17a,17bからは、位相が90°ずれたパルス信号Sp1(A相),Sp2(B相)が出力される。
【0024】
パルス信号Sp1,Sp2の位相は互いに90°ずれており、パルス信号Sp1,Sp2のずれ方向は、回転軸4の回転方向に応じて反転する。従って、パルス信号Sp1,Sp2の出現タイミングを検出することにより、回転軸4の回転方向が判別でき、これによりワイパ動作の往路/復路の判別を行うことができる。また、ホールIC17a,17bの何れか一方のパルス出力の周期から、回転軸4の回転速度も検出できる。回転軸4の回転数とブレードの速度との間には、減速比及びリンク動作比に基づく相関関係が存在しており、回転軸4の回転数からブレードの速度も算出できる。
【0025】
第2ギア15の底面には、絶対位置検出用のマグネット18が取り付けられている。ケースフレーム11には、プリント基板19が取り付けられている。プリント基板19の上には、マグネット18と対向するようにホールIC20が配置されている。マグネット18は、第2ギア15の底面上に1個設けられており、ブレードが下反転位置に来たときホールIC20と対向する。第2ギア15は、前述のようにクランクアームが取り付けられ、ブレードを往復動させるため180度回転する。第2ギア15が回転しブレードが下反転位置に来ると、ホールIC20とマグネット18が対向してパルス信号が出力される。
【0026】
ホールIC17,20からのパルス出力は、ワイパ駆動制御装置(モータ制御装置)21に送られる。図4は、本発明におけるモータ制御系の構成を示す説明図である。ワイパ駆動制御装置21のCPU(制御部)22は、イグニッションスイッチ31を介してバッテリ32と接続されており、ワイパスイッチ33によってワイパ装置の動作形態(OFF,INT,LO,HI)を切り替えられるようになっている。
【0027】
CPU22は、ホールIC20,17a,17bと接続されており、ホールIC20からのパルス出力をブレードの絶対位置信号、ホールIC17a,17bからのパルス信号をブレードの相対位置信号として用いてブレードの位置を認識する。また、CPU22は、ホールIC17aからのパルス信号Sp1をA相、ホールIC17bからのパルス信号Sp2をB相として使用する。CPU22は、絶対位置信号が得られた後のパルス数をカウントすることにより、ブレードの現在位置を認識し、ここでは、ホールIC20からの下反転位置を示す絶対位置信号と、ホールIC17aからのA相パルスの出力数の組み合わせによって、ブレードの現在位置を検出する。
【0028】
また、CPU22は、ホールIC17aのパルス信号Sp1(A相)から、モータ本体2の速度(回転数)を検出する。モータ本体2は、検出された速度に基づいて、フィードバック制御される。モータ本体2にはPWM制御が実行され、CPU22は、制御条件や検出速度に応じて、印加電圧を適宜ON/OFFさせて、ON時間の比率を適宜変更する。すなわち、CPU22は、ホールIC17a,17bのモータパルスに基づいてモータ速度を算出すると共に、その値に応じてPWM制御のON期間の時比率(Duty)を設定する。これにより、モータ本体2に対する印加電圧が実効的に変化し、モータ本体2の速度が所望の値に制御される。なお、CPU22では、モータパルスの周期(Hz)をそのまま速度として処理するが、パルス周期から求めた回転数(rpm)によって制御を行っても良い。
【0029】
CPU22はさらに、パルス信号Sp1,Sp2に基づいて、モータの回転方向を認識する。すなわち、A相の切り替わりエッジでのB相のレベルによって、モータの回転方向を検出する。ここでは、A相の信号が立ち上がるときB相がHIの場合は正転(往路払拭)、LOの場合は逆転(復路払拭)と判定している。このようにしてワイパ駆動制御装置21はブレードの現在位置と速度、移動方向を認識し、これらのデータは、ワイパ駆動制御装置21内のRAM23に適宜格納される。CPU22は、ワイパ駆動制御装置21内のROM24に格納された各種基準値やマップ等を参照しつつ、これらのデータに基づいてモータ本体2を制御する。
【0030】
モータ本体2は、検出されたモータ速度に基づいて、フィードバック制御される。モータ本体2ではPWM制御が実行されており、CPU22は、制御条件や検出速度に応じて、印加電圧を適宜ON/OFFさせて、ON時間の比率を適宜変更する。すなわち、CPU22は、パルス信号Sp1に基づいてモータ速度を算出すると共に、ROM24のマップ等を参照しつつ、その値に応じてPWM制御のON期間の時比率(Duty)を設定する。これにより、モータ本体2に対する印加電圧が実効的に変化し、モータ本体2の速度が所望の値に制御される。なお、CPU22では、モータパルスの周期(Hz)をそのまま速度として処理するが、パルス周期から求めた回転数(rpm)によって制御を行っても良い。
【0031】
ここで、従来のシステムでは、前述のように、パルス分解能を上げると、制御装置の処理能力や回転検出精度の点で問題が生じるおそれがある。特に、高速回転域ではパルス周期が非常に短くなり、制御装置の処理が間に合わなくなる可能性がある。ワイパ装置の場合、ブレードは上下反転位置からスタートし、徐々に速度を上げて上下反転位置の中間地点付近で最も速度が高くなる。その後、ブレードは徐々に速度を落とし、上下反転位置にて停止し、反転動作を行う。すなわち、ワイパ装置では、モータ本体2の速度が遅い領域と速い領域が存在し、中間地点付近ではパルス周期が短くなる一方、反転位置近傍ではパルス周期が長くなる。
【0032】
そこで、本発明による制御処理では、従来、モータ速度(ブレード位置)に関係なく、速度検知や回転方向検知に固定的に使用されていたA相,B相のパルス信号を、モータ速度に応じて取捨選択し、制御装置の処理負担を軽減すると共に、反転位置精度の向上を図っている。図5は、CPU22における信号選択処理系の構成を示すブロック図である。図5に示すように、CPU22には、モータ速度やブレード位置等に基づいてモータ2をフィードバック制御するモータ駆動指令部40に加えて、A相のパルス信号Sp1に基づいてモータ回転数を算出するモータ回転数検出部41と、A相とB相のパルス信号Sp1,Sp2に基づいてモータの回転方向を検知するモータ回転方向検出部42が設けられている。また、CPU22には、モータ回転数の高低を判定する回転数判定部43と、モータ回転数に応じて制御に使用する信号を選択する信号選択部44、反転位置を検出しモータを反転させる反転位置判定部(反転タイミング判定部)45が設けられている。
【0033】
このような装置構成と処理系を備えたモータユニット1では、次のようにしてモータ本体2が駆動制御される。図6は、そのフローチャートである。まず、イグニッションスイッチ31がオンされると、ワイパ駆動制御装置21内のCPU22等に電源が供給される。このときCPU22は、ブレードが下反転位置にある場合、ホールIC20からの絶対位置信号により、ブレードの位置を認識する。そして、この状態からワイパスイッチ33がオンされると、CPU22は、ブレードを上反転位置に向けて移動させるように、選択された作動モードにてモータ本体2を作動させる。
【0034】
モータ本体2が作動すると、ステップS1にて、CPU22は、モータ本体2の回転数(回転速度)を検出する。この回転数検出は、モータ回転数検出部41によって行われ、ホールIC17aからのA相のパルス信号Sp1を用いて回転軸4の回転数を算出する。また、モータ回転方向検出部42は、A相,B相のパルス信号Sp1,Sp2に基づき、モータ本体2の回転方向を検出する。CPU22は、認識した回転速度から、ROM24に格納された目標速度マップを参照して、モータ本体2の速度制御を行う。この速度制御においては、例えば、ブレードが下反転位置から中間位置に向けて移動するときは徐々にその移動速度を増加させ、中間位置から上反転位置に向けて移動するときには徐々にその移動速度を低下させるようにモータ本体2を制御する。
【0035】
ステップS1にてモータ回転数を検出した後、ステップS2に進み、回転数判定部43によって、回転数が高速回転状態か否かが判断される。回転数の判定は、現在の回転数と、ROM24に格納された閾値とを比較することによって行われ、現在の回転数が所定の閾値を超えると「高速」と判定される。S2にて「高速」と判定された場合は、ステップS3に進み、信号選択部44によってB相パルス信号Sp2の割り込みを禁止する。CPU22には、モータ作動中は、ホールIC17a,17bから常にパルス信号Sp1,Sp2が入力されており、従来のシステムでは、これらに基づいて、常に回転数と回転方向が検出されている。しかしながら、ワイパ装置では、モータが高速となった時点、つまり払拭領域の中間位置では、その回転方向は既知であり、かつ、不変である。従って、高速域では回転方向の検出は不要であり、B相パルス信号Sp2も不要となる。そこで、本発明の処理では、S2にて「高速」と判断された場合には、B相パルス信号Sp2の割り込みを禁止し、A相パルス信号Sp1のみによる回転数検出を実行する。これにより、高速域でのパルス入力間隔が広がりCPU22の処理負担が軽減される。
【0036】
S3にてB相の割り込みを規制した後、ステップS4に進み、A相パルス信号Sp1の割り込みの有無が判断される。つまり、次のA相パルス信号Sp1が入ってきたかどうかが判定され、割り込みがない場合(次のA相入力がない場合)は、現時点のA相パルス信号Sp1の周期からモータ回転数を算出する(ステップS5)。その後、CPU22(反転位置判定部45)は、ステップS6にて、絶対位置信号が得られた後のA相パルス信号Sp1のカウント数から、ブレードが反転位置に達したか否かを判定し、反転位置に達している場合はステップS7にて反転出力を行い、ルーチンを抜ける。これに対し、ステップS6にて、ブレードが反転位置に達していないと判定された場合は、モータ本体2のフィードバック制御を継続して(ステップS8)ルーチンを抜ける。また、ステップS4にて、A相パルス信号Sp1の割り込みがあったと判断された場合は、ステップS9に進み、ひとつ前のA相パルス信号Sp1から当該A相割り込みパルスまでの時間をパルス周期とする。その上で、ステップS10にて、パルス信号Sp1分の角度を加算してブレード移動角度を算出し、ステップS5以下の処理を行う。
【0037】
一方、S2にて「高速ではない」と判定された場合はステップS11に進み、B相の割り込みを許可する。そして、ステップS12に進み、B相パルス信号Sp2の割り込みの有無が判断される。つまり、次のB相パルス信号Sp2が入ってきたかどうかが判定され、割り込みがない場合(次のB相入力がない場合)は、ステップS4に進み、A相パルス信号Sp1の割り込みの有無が判断され、S5以下の処理が行われる。これに対し、ステップS12にてB相パルス信号Sp2の割り込みがあったと判断された場合は、ステップS13に進み、ひとつ前のB相パルス信号Sp2から当該B相割り込みパルスまでの時間をパルス周期とする。ここで設定した周期は、ステップS4にてA相パルスの割り込みがない場合には、ステップS5にてそのままモータ回転数の算出に使用される。つまり、高速領域ではない場合(低速領域)では、B相パルス信号Sp2もモータ回転数の検出に使用される。これにより、低速領域にてパルス間隔が広くなった場合でも、モータ回転数の検出頻度が高まり、回転数の検出精度が向上する。
【0038】
また、ステップS13にてパルス周期を設定した後は、ステップS14に進み、「B相反転設定」の有無が判断される。ここで、CPU22は、前述のように、ホールIC20からの絶対位置信号とA相パルス信号Sp1の組み合わせによって、ブレードの現在位置を検出している。すなわち、上下反転位置におけるモータ逆転動作は、A相パルスの積算数が所定値に達しブレードが反転位置に達したことを認識して実施される。従って、モータ反転出力は、A相パルス信号Sp1をトリガとして行われ、B相パルス信号Sp2はこれに関与しない。これに対し、「B相反転設定」とは、B相パルス信号Sp2も反転位置の判定に使用することを認める制御設定である。ステップS14では、この設定が行われているとき、反転位置に対してA相パルス信号Sp1が1エッジ前であるかどうかが判断される。この場合、反転位置に対して1エッジ前とは、図7に示すように、反転位置直前にB相パルス信号Sp2が入力された状態を示している(図7:P点)
【0039】
ステップS14にて、B相反転設定が為されており、反転位置1エッジ前の場合は、ステップS15に進み、B相パルス信号Sp2相当分の角度を加算してブレード移動角度を算出する。つまり、次のA相パルス信号Sp1が入力される以前に、B相パルス信号Sp2を用いてブレード移動角度を算出し、ステップS4以下の処理を行う。従って、A相パルス信号Sp1のみによってブレード移動角度を算出する場合に比して、反転位置の分解能を向上することができ、より正確な位置にてブレードを反転させることが可能となる。
【0040】
図6の処理を行いブレードが上反転位置にまで達すると、CPU22は、ステップS6にてブレードが上反転位置に達したことを認識し、その認識に基づき、モータ本体2の作動方向を反転させ、ブレードを上反転位置から下反転位置に向けて移動させる。そして、この復路行程においても、CPU22は、ホールIC17a,17bからのパルス信号Sp1,Sp2に基づき、モータ本体2の速度制御を行う。ブレードが下反転位置に達すると、CPU22は、ホールIC20からの絶対位置信号により、ブレードが下反転位置に達したことを認識する。そして、CPU22は、モータ本体2の作動方向を再度反転させ、ブレードを下反転位置から上反転位置に向けて移動させるようにモータ本体2を駆動する。以下、同様の行程を繰り返すことにより、モータ本体2によってブレードが所定の角度範囲で揺動する。
【0041】
このように、本発明による制御処理では、高速回転域(ワイパ払拭行程の中間領域)では、割り込み処理の際に、2相のうちの1相(本発明ではA相)を使用し、モータ本体2の回転数を算出する。これにより、パルスの入力頻度が低くなり、CPU22の負担が軽減される。また、所定の回転数よりも小さい回転数領域(低回転領域)では、割り込み処理の際に、A相・B相の両方を用いて回転数を算出する。これにより、A相のみを用いて回転数検出を行う場合に比して、回転速度の検出精度が向上する。さらに、反転出力を行う際に、B相のエッジも反転位置検出に設定可能とする。これにより、A相のみを用いて反転位置検出を行う場合に比して、反転位置の分解能を上げることが可能となる。
【0042】
従って、本発明によれば、CPU22の処理性能を上げることなく、速度制御と反転位置の分解能を上げることができ、コストの増大を招くことなく、モータ制御精度を向上させることが可能となる。このため、本発明をワイパモータに適用すれば、ブレードの速度制御や反転位置の精度を高めることが可能となり、スムーズなブレード動作や、正確な反転動作を実現でき、ワイパ装置の性能向上が図られ、高級車仕様にも対応可能となる。
【0043】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施例では、1個のモータユニット1を駆動源とし、リンク機構によって運転席側と助手席側のワイパアームを連動させる平行払拭型のワイパ装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明の適用対象はこれには限定されず、運転席側と助手席側それぞれにモータユニットを配した対向払拭型のワイパ装置などにも適用可能である。
【0044】
また、本実施例では、ホールIC17aからのA相パルス信号を用いてモータ速度やブレード値を検出しているが、B相パルス信号を用いてこれらを検出しても良い。さらに、本実施例では、ホールIC20による絶対値信号とホールIC17a,17bからのパルス信号を用いてブレード位置の検出を行っているが、磁界の変化を電気抵抗の変化として検出する非接触式の磁気センサを用いてブレード位置検出を行っても良い。この場合、磁気センサからは回転軸の回転に比例する角度検出信号が出力され、その信号値に基づいて回転軸の回転角度検出、すなわち、ブレード位置検出を行うことができる。加えて、本実施例においては、ホールIC17a,17bを回転センサとして用いているが、回転センサの構成はこれに限られず、マグネットの回転速度に応じたパルス信号を出力することができるものであれば、例えば磁気抵抗素子センサ等、他の磁気センサを用いても良い。
【0045】
一方、前述の実施例では、本発明をワイパモータの制御に適用した例を示したが、本発明はワイパモータ以外にも適用可能である。例えば、ワイパモータ以外の車載モータや、機械駆動用のモータなど、モータ回転軸の回転角度に対応して出力されるパルスに基づいてモータの回転速度や回転方向を制御するモータについて広く適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 モータユニット
2 モータ本体
3 ギアボックス
4 回転軸
5 出力軸
6 ヨーク
7 アーマチュアコア
8 コンミテータ
9 永久磁石
10 ブラシ
11 ケースフレーム
12 ウォーム
13 ウォーム歯車
14 第1ギア
15 第2ギア
16 多極着磁マグネット
17 ホールIC
17a,17b ホールIC
18 マグネット
19 プリント基板
20 ホールIC
21 ワイパ駆動制御装置(モータ制御装置)
22 CPU
23 RAM
24 ROM
31 イグニッションスイッチ
32 バッテリ
33 ワイパスイッチ
40 モータ駆動指令部
41 モータ回転数検出部
42 モータ回転方向検出部
43 回転数判定部
44 信号選択部
45 反転位置判定部(反転タイミング判定部)
Sp1 A相パルス信号
Sp2 B相パルス信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの回転センサを用いてモータ回転軸の回転を検出し、前記回転センサからそれぞれ出力されるパルス信号に基づいて当該モータの動作制御を行うモータ制御装置であって、
前記パルス信号に基づいて前記モータの回転数を算出するモータ回転数検出部と、
前記モータ回転数検出部にて算出した前記モータの回転数と所定の閾値とを比較してモータ回転数の高低を判定する回転数判定部と、
前記回転数判定部にて前記モータが所定の回転数以上で回転していると判定されたとき、前記2つの回転センサのパルス信号のうち一方のみが前記モータ回転数検出部に入力されるように、前記モータ回転数検出部に対する前記パルス信号の入力を規制する信号選択部と、を有し、
前記モータ回転数検出部は、前記モータが所定の回転数以上で回転している場合、前記パルス信号のうちの一方のみを用いて前記モータの回転数を算出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ制御装置であって、前記信号選択部は、前記回転数判定部にて前記モータが所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記モータ回転数検出部に前記2つの回転センサのパルス信号の両方が入力されるように、前記モータ回転数検出部に対する前記両パルス信号の入力を許容し、
前記モータ回転数検出部は、前記モータが所定の回転数未満で回転している場合、前記2つのパルス信号の両方を用いて前記モータの回転数を算出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のモータ制御装置であって、当該モータ制御装置は、
前記パルス信号に基づいて前記モータ回転軸を反転させる反転タイミングを検出し、前記モータを反転駆動させる反転タイミング判定部をさらに有し、
前記信号選択部は、前記回転数判定部にて前記モータが所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記反転タイミング判定部に前記2つの回転センサのパルス信号の両方が入力されるように、前記反転タイミング判定部に対する前記両パルス信号の入力し、
前記反転タイミング判定部は、前記2つのパルス信号の両方を用いて前記反転タイミングを検出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
2つの回転センサを用いてモータ回転軸の回転を検出し、前記回転センサからそれぞれ出力されるパルス信号に基づいて当該モータの動作制御を行うモータ制御方法であって、
前記パルス信号に基づいて前記モータの回転数を算出すると共に、算出した前記モータの回転数と所定の閾値とを比較してモータ回転数の高低を判定し、
前記モータが所定の回転数以上で回転していると判定されたとき、前記2つの回転センサのパルス信号のうち一方のみを用いて前記モータの回転数を算出することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項5】
請求項4記載のモータ制御方法であって、前記モータが所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記2つの回転センサのパルス信号の両方を用いて前記モータの回転数を算出することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載のモータ制御方法であって、
前記パルス信号に基づいて前記モータ回転軸を反転させる反転タイミングを検出し、前記モータ本体を反転駆動させると共に、
前記モータ回転軸が所定の回転数未満で回転していると判定されたときは、前記2つの回転センサのパルス信号の両方を用いて前記反転タイミングを検出することを特徴とするモータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−249497(P2012−249497A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121755(P2011−121755)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】