説明

モータ制御装置

【課題】 動作が制限される機械系のイナーシャを同定するモータ制御装置を提供する。
【解決手段】 動作に制限条件がある機械を駆動するモータのモータ制御装置であって、速度指令とモ−タ速度によりトルク指令を生成する速度制御部(21)と、前記トルク指令からモータを駆動するモータ駆動部(22)とを備えるモータ制御装置において、イナーシャを同定するイナーシャ同定部(24)と、前記制限条件に基づいて同定指令を生成する同定指令部(25)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットや工作機械等に使用されるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加えたトルクに対する機械の加速度の大きさからイナーシャ等の機械定数を求めることは従来から行われている。速度の大きさがゼロでない所定のレベルを超えたことを検出し、時間の経過と共に増大する重みを生成し、それぞれ直流成分を除去することによってトルクから過度トルクを、速度から過度加速度を得て、重み付けした過度トルクと過度加速度とから機械定数を推定している(特許文献1参照)。
トルクと加速度とに基づいてイナーシャ値を推定するものにおいて、加速時に推定したイナーシャ値と、減速時に推定したイナーシャ値との平均を求め、この平均値をイナーシャ値とするように構成している(特許文献2参照)。
一定速で駆動するためのトルクを求め、加減速で駆動するためのトルクを求め、そのふたつのトルクからモータのイナーシャ分を加減速するために必要なトルクを求め、求めたトルクと加減速駆動時の加速度からイナーシャを推定している(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−346738
【特許文献2】特開2004−054838
【特許文献3】特開平08−140386
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、機械の種類によっては、回転方向が一方向のみであったり、可動範囲が短かったり、速度や加速度が制限されたりなど、モータの動作が制限されることがある。従来のモータ制御装置では、動作が制限されるような機械には適用できないか、あるいは動作の制限に合わせた指令生成が必要であった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、動作が制限される機械系のイナーシャを同定するモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、動作に制限条件がある機械を駆動するモータのモータ制御装置であって、速度指令とモ−タ速度によりトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令からモータを駆動するモータ駆動部と、イナーシャを同定するイナーシャ同定部と、前記制限条件に基づいて同定指令を生成する同定指令部とを備えたモータ制御装置において、前記制限条件は、ピークトルク、加速度上限、速度上限、可動範囲であり、前記イナーシャ同定部は、異なる加速度の少なくとも2種類以上の速度指令を生成し、前記速度指令ごとに加速時ピークトルクと一定速度時の定速トルクの差の加速トルクを算出し、前記2種類以上の加速トルクを加速度で除算して平均し、イナーシャを同定することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、位置指令とモータ位置から速度指令を生成する位置制御部とを備えたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のモータ制御装置において、位置指令を微分して速度フィードフォワード指令を生成する速度フィードフォワード部を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、イナーシャを同定するイナーシャ同定部と、前記制限条件に基づいて同定指令を生成する同定指令部とを備えるので、動作が制限される機械系のイナーシャを同定するモータ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態として図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
本発明の実施例を図1、図2、図5を用いて説明する。図5は本発明の構成を示すブロック図である。図5において、21は速度制御部、22はモータ駆動部、23は速度生成部、24はイナーシャ同定部、25は同定指令部、26はモータ、27はエンコーダである。次に簡単に動作について説明する。動作には通常動作モードとイナーシャ同定モードがある。通常動作モードでは、速度制御部21は上位システムから与えられる速度指令とモータ速度の差をPID処理をしてトルク指令を生成する。モータ駆動部22はトルク指令を電流指令に変換し、電流指令とモータ電流の差をPID処理をして電圧指令を生成し、電圧指令を電力増幅してモータを駆動する。速度生成部23はエンコーダが生成するモータ位置の時間差分をとってモータ速度を生成する。イナーシャ同定モードでは、上位システムからの速度指令は無視して、同定指令部25の速度指令で動作する。同定指令部25は、少なくとも1種類以上の加速度の異なる速度指令を生成し、速度制御部へ出力する。イナーシャ同定部は24は、速度指令のプロファイルから加速度をもとめ、加速時のトルク指令から定速時のトルク指令を減算して加速度で除算しイナーシャを求める。同定指令部25は任意の速度プロファイルを生成できるので、機械の制限があっても制限条件を満足することができる。
図6は図5の構成に、位置制御部と速度フィードフォワード部を加えたものである。図6において、28は位置制御、29は速度フィードフォワード部である。
図1は速度指令と加速度の一例を表す。図1においてVは速度指令、αは加速度である。加減速時間を一定とした台形の指令について、加速度を変化させて3種類生成したものである。図2は図1の速度指令を用いたときの速度応答とトルク波形を表す。図2においてτmaxは一定速に到達する前のピークトルク、τconは一定速度時に生じる損失トルクである。
【0008】
本発明のイナーシャの同定法は以下のとおりである。図1に示すような速度指令を与える。一定速に到達する直前のピークトルクτmaxと一定速度時に生じる損失トルクτconをそれぞれ実測する。ピークトルクには、一定速度時に生じる損失トルクが含まれている。よって、ピークトルクから損失トルクを差し引いた加速分トルク値τaccを求める。
τacci = τmaxi ― τconi (i=1、2、3) ・・・(1)
図3のように速度をV2、V3と変化させ、一方向のみについて行う。
(1)式で求めたτaccを用いてイナーシャJを算出する。
J1 = (τacc1 ― τacc2)/(α1 − α2)
J2 = (τacc2 ― τacc3)/(α2 − α3)
J3 = (τacc3 ― τacc1)/(α3 − α1)
J = (J1 + J2 + J3)/3
・・・(2)
【実施例2】
【0009】
次に本発明の実施例をさらに具体化した例を示す。加速度の制限値αmaxが3000rpm/s、速度の制限値Vmaxが300rpm、可動範囲の制限値Pmaxがモータ1000回転であるとする。制限値と(3)式を用いて指令を生成する。
αmax = Vmax/ T1
Pmax = (T1 + T2)× Vmax × 2
・・・(3)
(3)式において、加減速時間T1[s]と一定速時間T2[s]は可変である。制限値内で生成した指令は、例えば速度指令250rpm、加減速時間0.5[s]、一定速時間1.0[s]、加速度500rpm/s、可動範囲12回転となる。この指令を図1の最大速度指令V3とし,その3分の1の速度をV1,3分の2の速度をV2とする。
図3に前記条件で行ったシミュレーションの応答波形を示す。イナーシャの真値は5倍、速度ループゲインは251[rad/sec]である。図4にイナーシャ値1、2、5、10、20、50倍について行ったシミュレーションの結果を示す。同定値が真値にほぼ近い値であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明は、ロボットや工作機械等の制御装置だけでなく、家電や自動車において重量やイナーシャを計測する場合にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の速度指令と加速度の一例
【図2】図1の指令を用いたときのシミュレーションの速度応答とトルク波形
【図3】実施例2にて行ったシミュレーションの応答波形
【図4】実施例2にて行ったシミュレーションのイナーシャ同定結果
【図5】本発明の構成を示すブロック図
【図6】本発明の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0012】
1 加速度 α1
2 速度指令 V1
3 加速度 α2
4 速度指令 V2
5 加速度 α3
6 速度指令 V3
7 速度指令V1のときのピークトルク τmax1
8 速度指令V1のときの一定速度時に生じる損失トルク τcon1
9 速度指令V2のときのピークトルク τmax2
10 速度指令V2のときの一定速度時に生じる損失トルク τcon2
11 速度指令V3のときのピークトルク τmax3
12 速度指令V3のときの一定速度時に生じる損失トルク τcon3
13 トルク
14 速度応答
15 イナーシャ真値
16 イナーシャ計算値
21 速度制御部
22 モータ駆動部
23 速度生成部
24 イナーシャ同定部
25 同定指令部
26 モータ
27 エンコーダ
28 位置制御部
29 速度フィードフォワード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作に制限条件がある機械を駆動するモータのモータ制御装置であって、速度指令とモ−タ速度によりトルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令からモータを駆動するモータ駆動部と、イナーシャを同定するイナーシャ同定部と、前記制限条件に基づいて同定指令を生成する同定指令部とを備えたモータ制御装置において、
前記制限条件は、ピークトルク、加速度上限、速度上限、可動範囲であり、
前記イナーシャ同定部は、異なる加速度の少なくとも2種類以上の速度指令を生成し、前記速度指令ごとに加速時ピークトルクと一定速度時の定速トルクの差の加速トルクを算出し、前記2種類以上の加速トルクを加速度で除算して平均し、イナーシャを同定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御装置において、位置指令とモータ位置から速度指令を生成する位置制御部とを備えたことを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータ制御装置において、位置指令を微分して速度フィードフォワード指令を生成する速度フィードフォワード部を備えたことを特徴とする請求項2記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−259640(P2007−259640A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82979(P2006−82979)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】