説明

モータ制御装置

【課題】ノースマーカ信号が出力されるごとにリセットされるカウンタのカウント値に基づいて回転子の回転数を算出するモータ制御装置において、算出周期の長さや回転子の角速度の大きさなどによらずに、精度よく回転子の回転数を算出する。
【解決手段】第1カウンタ41は、R/Dコンバータ24から出力されるモータの回転子の回転角度に関するパルス信号30,32をカウントする。第1カウンタ41は、ノースマーカ信号が出力されるごとにカウント値がリセットされる。角度算出部42は、第1カウンタ41のカウント値に基づいてモータ10の回転子の回転角度を算出する。第2カウンタは、A相パルス信号30をカウントするカウンタであり、第1上限カウント値より大きい第2上限カウント値に達するごとにカウント値がリセットされる。回転数算出部46は、第2カウンタ41のカウント値に基づいて回転子の回転数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転子の回転に応じてレゾルバデジタル変換器から出力される回転子の回転角度に関するパルス信号に基づいてモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてモータ(電動機)を備える電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電動車両は、モータの回転子の角度(位置)を検出し、検出された角度に基づいてモータに供給される電流を制御するモータ制御装置を備える。この種の分野を始め、回転子の角度を検出する分野では、特許文献1に開示されているように、レゾルバからの信号に基づいて回転子の角度を検出するレゾルバデジタル変換器が用いられることがある。
【0003】
レゾルバは、いわゆるトランスの原理を利用したセンサであり、回転子の角度に応じた交流信号を出力する。レゾルバデジタル変換器は、交流信号に基づいて回転子の所定回転ごとに同期したパルス信号を出力するとともに、基準角度(例えば0度)に位置するタイミングでピークを有するパルス信号を基準角度信号(ノースマーカ信号)として出力する。
【0004】
回転子の角度は、レゾルバデジタル変換器から出力される交流信号に基づくパルス信号のカウント値に基づいて算出することができる。例えば、時刻Tnとその時刻Tnにおけるカウント値Cn、および次回の算出周期における時刻Tn+1とその時刻Tn+1におけるカウント値Cn+1とにより、ΔC=Cn+1−Cn、およびΔT=Tn+1−Tnを算出して、さらにΔC/ΔTを算出することでモータの回転子の回転数を算出し、その回転数を時間で積分することで、回転子の角度を算出することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−308888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モータ制御装置は、レゾルバ変換器から出力される交流信号に基づくパルス信号をカウントするためのカウンタを備える。カウンタのカウント値は、例えば図5Aに示すように、ノースマーカ信号が出力されるごとに、つまり、回転子が1回転するごとにリセットされる。よって、算出周期において回転子が1回転以内であれば、カウント値はリセットされないため、カウント値に基づいて回転子の回転数を求めても大きな誤差は生じない。しかし、図5Bのように、算出周期内に回転子が1回転以上した場合、カウント値は算出周期内で少なくとも1回はリセットされてしまう。よって、そのようなカウント値に基づいて回転子の回転数を求めると、無視できない誤差が生じる。つまり、ノースマーカ信号が出力されるごとにリセットされるカウンタのカウント値に基づいて回転子の回転数を算出する場合、例えば算出周期の長さや回転子の角速度の大きさによっては算出された回転数に誤差が生じることがある。
【0007】
本発明は、ノースマーカ信号が出力されるごとにリセットされるカウンタのカウント値に基づいて回転子の回転数を算出するモータ制御装置において、算出周期の長さや回転子の角速度の大きさなどによらずに、精度よく回転子の回転数を算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るモータ制御装置は、レゾルバデジタル変換器から出力されるモータの回転子の回転角度に関するパルス信号をカウントする第1カウンタであって、前記回転子の電気角1周期の間に出力される前記パルス信号の数に基づいて定められる第1上限カウント値に達するごとにカウント値がリセットされる第1カウンタと、前記第1カウンタのカウント値に基づいて前記回転子の回転角度を算出する角度算出部と、前記パルス信号をカウントする第2カウンタであって、前記第1上限カウント値より大きい第2上限カウント値に達するごとにカウント値がリセットされる第2カウンタと、前記第2カウンタのカウント値に基づいて前記回転子の回転数を算出する回転数算出部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るモータ制御装置は、レゾルバデジタル変換器から出力されるモータの回転子の回転角度に関するパルス信号をカウントする第1カウンタであって、前記回転子の電気角1周期に対応するタイミングで前記レゾルバデジタル変換器から出力される基準角度信号に基づいてカウント値がリセットされる第1カウンタと、前記第1カウンタのカウント値に基づいて前記回転子の回転角度を算出する角度算出部と、前記基準角度信号のパルス幅に基づいて前記回転子の回転数を算出する回転数算出部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るモータ制御装置の1つの態様によれば、前記モータは、電動車両の駆動用モータであって、算出された前記モータの回転子の回転数に基づいて前記電動車両の車速を算出し、算出された車速に基づいて前記車両の車速を所定の設定値に自動的に保持するクルーズ制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、算出周期の長さや回転子の角速度の大きさなどによらずに、精度よくモータの回転子の回転数を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に示す実施形態について、以下図面を用いて説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る電動車両の概略構成を示す図である。図1に示す電動車両は、駆動源としてのモータ10を備える。電子制御ユニット(ECU)40は、モータの駆動を制御する制御装置であり、ECU40がインバータ12を制御して、インバータ12にバッテリ14からの電力を供給し、インバータ12は供給された電力により三相交流電流を出力し、駆動用モータ10に供給する。また、本実施形態に係る電動車両は、一定の設定速度で自動的に走行するいわゆるオートクルーズ制御を行うクルーズ制御部47をECU40内に備える。
【0014】
モータ10は、回転子と固定子とを含む永久磁石型の同期モータである。モータ10にはレゾルバ22が取り付けられる。インバータ12は、インバータ駆動制御部43からスイッチング制御を受け、所定トルクでモータ10を駆動させる。
【0015】
モータ10に取り付けられたレゾルバ22からはモータ10の回転子の回転に応じたsin信号とcos信号が出力され、sin信号およびcos信号は、R/Dコンバータ24に入力される。なお、レゾルバ22は、回転子の固定子に対する電気角が1回転で一周期分のsin信号とcos信号を出力する。ここで、回転子の固定子に対する機械角の1回転は、電気角の4回転に相当する。
【0016】
R/Dコンバータ24には更に基準正弦波26が入力される。R/Dコンバータ24は、sin信号、cos信号、および基準正弦波26に基づいて、回転子の回転角度に比例するA相パルス信号30、A相パルス信号30に対して1/4周期の位相差を有するB相パルス信号32、および回転子の基準角度を示すノースマーカ信号34を出力する。A相パルス信号30およびB相パルス信号32は、上記の通り、1/4周期だけ位相がずれており、本実施形態では、R/Dコンバータ24は、回転子が1回転する間に、A相パルス信号30およびB相パルス信号32をそれぞれ4096個ずつ出力する。
【0017】
第1カウンタ41は、R/Dコンバータ24からA相パルス信号30、B相パルス信号32、ノースマーカ信号34の入力を受ける。第1カウンタ41は、A相パルス信号を常時監視し、A相パルス信号が「L」レベルから「H」レベルに反転した際に、B相パルス信号が「H」レベルであれば、カウンタをインクリメントする。一方、第1カウンタ41は、A相パルス信号が「L」レベルから「H」レベルに反転した際に、B相パルス信号が「L」レベルであれば、カウンタをデクリメントする。さらに、第1カウンタ41は、ノースマーカ信号34が入力されるごとに、あるいは、カウント値が上限値である4096に達するごとに、回転子が1回転したと判断してカウンタの値を一旦リセットする。
【0018】
角度算出部42は、単位時間あたりの角度移動量に基づいてモータ10の回転子の角度を算出し、インバータ駆動制御部43に出力する。より具体的には、角度算出部42は、タイマ44から時刻Tnを取得するとともに、第1カウンタ41から時刻Tnにおけるカウント値Cnを取得し、メモリ(レジスタ)に格納する。次いで、角度算出部42は、所定の算出周期(例えば、250ns)後に、タイマ44から時刻Tn+1を取得するとともに、第1カウンタ41から時刻Tn+1におけるカウント値Cn+1を取得し、メモリに格納する。その後、角度算出部42は、メモリに格納された時刻およびカウント値に基づいて、単位時間あたりの角度移動量を算出する。つまり、角度算出部42は、ΔC/ΔT=(Cn+1−Cn)/(Tn+1−Tn)を算出する。その後、角度算出部42は、角度移動量の時間積分値に基づいて回転子の角度を算出する。
【0019】
インバータ駆動制御部43は、角度算出部42から入力されたモータ10の回転子の角度、およびアクセル開度やブレーキ踏度などの各種操作情報に基づいて、モータ10に対するトルクを算出し、算出されたトルクをモータ10が出力できるようにインバータ12を制御する。
【0020】
また、クルーズ制御部47は、車両が一定の設定速度で走行できるように車両を制御するオートクルーズ制御を実行する。クルーズ制御部47は、回転数算出部46が算出したモータ10の回転子の回転数に基づいて車両の速度を算出し、車両の速度を制御する。
【0021】
ところで、一般にオートクルーズ制御は、アクセル開度の調整により行われる。アクセル開度の調整は、通常の走行でドライバの足操作により行われる場合と同じように行われることが望ましい。そこで、オートクルーズ制御時におけるアクセル開度の調整は、ドライバの足操作により行われる場合を想定して、例えば50ms程度の間隔で車両の速度を検出し、その検出結果に基づいて行われることが望ましい。一方、インバータ12を介してモータ10に供給される電流を調整する場合、モータ10の角度に応じて調整する必要があり、モータ10の角度を精度よく算出するには、比較的短い算出周期、例えば100μs程度を算出周期として順次モータ10の角度を算出することが望ましい。つまり、モータ10に供給する電流を調整する際のパラメータとして用いるモータ10の回転子の角度を算出する場合と、車両の車速を算出する際のパラメータとして用いる回転数を算出する場合とでは最適な算出周期が異なる。
【0022】
ここで、第1カウンタ41のカウント値は、上記の通り、回転子が1回転するごとにリセットされてしまう。モータ10の角度を算出するには100μs程度で順次角度を算出しているため、算出周期内においてカウンタがリセットされることはほとんどない。しかし、50ms程度の算出周期で回転子の回転数を算出する場合、50ms内の間にカウンタがリセットされてしまうことがある。
【0023】
そこで、本実施形態では、ノースマーカ信号によってカウンタがリセットされない第2カウンタ45を別途設けて、回転数算出部46は、第2カウンタ45のカウント値に基づいてクルーズ制御に必要な回転子の回転数を求める。なお、回転数算出部46は、例えば、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク装置等の記憶装置(以下、単に記憶装置と称す)に記憶されたプログラムを中央処理装置(CPU(Central Processing Unit))が実行することで機能し、第2カウンタ45は、回転数算出部46として機能するCPUに内蔵された16bit(0〜65535)〜32bit(0〜4.3×10)のカウンタを用いることができる。
【0024】
第2カウンタ45は、R/Dコンバータ24からA相パルス信号30、B相パルス信号32の入力を受ける。第2カウンタ45は、第1カウンタ41と同様に、A相パルス信号を常時監視し、A相パルス信号が「L」レベルから「H」レベルに反転した際に、B相パルス信号が「H」レベルであれば、カウンタをインクリメントする。一方、第1カウンタ41は、A相パルス信号が「L」レベルから「H」レベルに反転した際に、B相パルス信号が「L」レベルであれば、カウンタをデクリメントする。しかし、第2カウンタ45は、第1カウンタ41とは異なり、ノースマーカ信号の入力はされず、ノースマーカ信号によってカウンタがリセットされない。よって、図2に示すように、第2カウンタ45は、算出周期内で回転子が1回転以上しても、つまり、カウンタが回転子1回転分のカウント(4096)を行った後も、カウンタがリセットされない。
【0025】
回転数算出部46は、上記のような第2カウンタ45におけるカウント値に基づいてモータ10の回転子の回転数を算出周期ΔT(=48ms)ごとに算出する。なお、回転数算出部46は、角度算出部42が回転数を算出する手順と同様に、ΔC/ΔT=(Cn+1−Cn)/(Tn+1−Tn)を算出することで、回転子の回転数を算出することができる。
【0026】
以上、本実施形態では、ノースマーカ信号が入力されるごとにリセットされない第2カウンタ45のカウント値に基づいてモータ10の回転子の回転数を算出し、その回転数を用いてクルーズ制御を行う。よって、本実施形態によれば、モータ10の回転子の回転数をより精度よく算出することができる。
【0027】
なお、上記の実施形態では、ノースマーカ信号によっては第2カウンタ45のカウント値をリセットしないとして説明した。しかし、第2カウンタ45にノースマーカ信号を入力し、ノースマーカ信号が少なくとも2回以上の所定の上限値に達するごとにカウント値をリセットしてもよい。例えば、回転数算出部46として16bitのCPUを用いる場合には、所定の上限値としては最大で「16」を設定することができる。つまり、16bitのCPUを用いる場合には、第2カウンタ45は、電気角16回転分のパルス信号をカウントすることができる。
【0028】
続いて、本実施形態の変形例について、以下図面を用いて説明する。
【0029】
図3は、本変形例に係る電動車両の概略構成を示す図である。図3において、第2カウンタ45の代わりに、パルス幅測定部48を備える点で、上記の実施形態とは異なる。
【0030】
本変形例において、パルス幅測定部48には、R/Dコンバータ24からノースマーカ信号が入力され、ノースマーカ信号の出力される間隔(パルス幅P)を測定し、測定したパルス幅Pを回転数算出部46に出力する。回転数算出部46は、パルス幅Pに基づいてモータ10の回転子の回転数を算出する。ここで、ノースマーカ信号は、モータ10の回転子の電気角1回転に対して1回出力されるパルス信号である。よって、図4に示すようにノースマーカ信号の出力される間隔(パルス幅P)を測定することで、回転子が電気角1回転するのに要する時間を求めることができる。つまり、回転数算出部46は、1/Pを算出することでモータ10の回転子の回転数を算出することができる。
【0031】
本変形例によれば、ノースマーカ信号によってリセットされる第1カウンタ41のカウント値を用いることなく、モータ10の回転子の回転数を算出することができる。
【0032】
なお、上記の実施形態および変形例では、クルーズ制御のパラメータとして、回転数算出部46において算出された回転数を用いる場合を例に説明した。しかし、回転数算出部46において算出された回転数は、クルーズ制御のパラメータ以外の用途にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係る電動車両の概略構成を示す図である。
【図2】ノースマーカ信号の出力タイミングと第2カウンタのカウント値のリセットタイミングについて説明するための図である。
【図3】変形例に係る電動車両の概略構成を示す図である。
【図4】ノースマーカ信号のパルス幅について説明するための図である。
【図5A】ノースマーカ信号の出力タイミングと従来のカウンタのカウント値のリセットタイミングについて説明するための図である。
【図5B】ノースマーカ信号の出力タイミングと従来のカウンタのカウント値のリセットタイミングについて説明するための図である。
【符号の説明】
【0034】
10 モータ、12 インバータ、14 バッテリ、22 レゾルバ、24 R/Dコンバータ、26 基準正弦波、30 A相パルス信号、32 B相パルス信号、34 ノースマーカ信号、41 第1カウンタ、42 角度算出部、43 インバータ駆動制御部、44 タイマ、45 第2カウンタ、46 回転数算出部、47 クルーズ制御部、48 パルス幅測定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルバデジタル変換器から出力されるモータの回転子の回転角度に関するパルス信号をカウントする第1カウンタであって、前記回転子の電気角1周期の間に出力される前記パルス信号の数に基づいて定められる第1上限カウント値に達するごとにカウント値がリセットされる第1カウンタと、
前記第1カウンタのカウント値に基づいて前記回転子の回転角度を算出する角度算出部と、
前記パルス信号をカウントする第2カウンタであって、前記第1上限カウント値より大きい第2上限カウント値に達するごとにカウント値がリセットされる第2カウンタと、
前記第2カウンタのカウント値に基づいて前記回転子の回転数を算出する回転数算出部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
レゾルバデジタル変換器から出力されるモータの回転子の回転角度に関するパルス信号をカウントする第1カウンタであって、前記回転子の電気角1周期に対応するタイミングで前記レゾルバデジタル変換器から出力される基準角度信号に基づいてカウント値がリセットされる第1カウンタと、
前記第1カウンタのカウント値に基づいて前記回転子の回転角度を算出する角度算出部と、
前記基準角度信号のパルス幅に基づいて前記回転子の回転数を算出する回転数算出部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータは、電動車両の駆動用モータであって、
算出された前記モータの回転子の回転数に基づいて前記電動車両の車速を算出し、算出された車速に基づいて前記車両の車速を所定の設定値に自動的に保持するクルーズ制御部、
を備える請求項1または2に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2008−259347(P2008−259347A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100156(P2007−100156)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】