説明

モータ制御装置

【課題】コンバータ手段により電源電圧の昇圧がなされてモータ手段の駆動が行われる場合において、急激に電源電圧が上昇または下降した場合であっても、モータ手段におけるうなり音の発生や、駆動電流の急激な上昇などを低減させること。
【解決手段】モータ制御装置は、電源電圧を昇圧してモータ手段を駆動するためのコンバータ電圧を生成するコンバータ手段21と、コンバータ手段21の駆動制御を行うことによりコンバータ電圧の値を変動させる制御手段20と、電源電圧の値を検出する電源電圧検出手段28とを有している。制御手段20は、電源電圧検出手段28により検出された電源電圧の値に基づいて当該電源電圧の値の変動を検出し、検出された電源電圧の値の変動量に応じて、コンバータ手段21により昇圧されるコンバータ電圧の値を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関し、より詳細には、電源電圧を昇圧してモータ手段を駆動するためのコンバータ電圧を生成するコンバータ手段を備えたモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮空気を利用した釘打機等の駆動工具を建築現場で利用する場合には、駆動工具に対して圧縮空気を供給するエアコンプレッサを設置する必要がある。エアコンプレッサは、モータ部を駆動させることによって圧縮空気生成部で圧縮空気を生成し、生成させた空気をタンク部に貯留することによって、所定圧力の圧縮空気を駆動工具に供給する構造となっている。
【0003】
今日のエアコンプレッサでは、モータ部の駆動量を制御部で制御する構造となっており、エアコンプレッサがモータ制御装置としての機能を備えている。一般的な制御部には、コンバータ回路とインバータ回路とが設けられており、コンバータ回路によるPAM制御とインバータ回路によるPWM制御とを併用することによって、モータ部の駆動量を調節して、迅速かつ安定した圧縮空気の供給することが可能となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的に、制御部は、モータ部の回転数や駆動電流の値など応じて制御量を決定し、コンバータ回路またはインバータ回路に対して制御命令を出力することによってタンク部に貯留される空気の圧力を一定に保っている。
【特許文献1】特開昭59−181973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エアコンプレッサは、一般的なコンセント(交流電源)用のプラグを備えており、プラグをコンセントに接続することによって、モータ部を駆動させるための駆動電力の供給を受ける構造となっている。作業現場でエアコンプレッサを使用する場合、同一コンセントに複数の電動工具を接続して使用することがあるため、コンセントに対する電動工具の接続数の変化などにより、エアコンプレッサに供給される電源電圧が急激に変化してしまう場合があり得る。
【0006】
例えば、エアコンプレッサに供給される電源電圧が急激に上昇した場合、電源電圧の上昇に伴ってコンバータ回路により昇圧されるコンバータ電圧も上昇し、このコンバータ電圧の上昇によりモータ部の回転数が急激に上がってうなり音を発生するおそれがある。制御部では、このようなうなり音の発生を低減させるために、コンバータ回路に対してコンバータ電圧を低減させるための制御命令を出力するが、上述したように、制御部は、モータ部の回転数等に応じて制御量を決定するため、急激に上昇したモータの回転数を検出した後にモータ部の回転数を低減させるための制御量(より詳細には、モータ部の回転数を低減させることを目的としてコンバータ電圧を低減させる旨の制御量)を算出して出力することになる。このため、制御命令の出力を迅速に行うことができず、回転数上昇に伴ううなり音の発生を効果的に抑制することができないという問題があった。
【0007】
一方で、エアコンプレッサに供給される電源電圧が急激に低下した場合、コンプレッサでは出力状態(電力値W)を一定に保とうとするため、電源電圧の低下に伴って駆動電流(一次電流)の値が急激に上昇してしまう。一方で、駆動電流が所定値以上となった場合、制御部は、駆動電流の値が所定値以下になるようにコンバータ電圧を低減させる命令を、コンバータ回路に対して出力するが、制御命令に伴ってコンバータ回路のコンバータ電圧を急激に上昇させると、このコンバータ電圧の急激な上昇により駆動電流が今度は急激に低減されてしまい、結果として駆動電流に対してオーバーシュートが生じてしまうおそれがあった。
【0008】
このように駆動電流に対してオーバーシュートが発生し、一時的に電流値が上昇すると、駆動電流の上昇に伴い電源のブレーカ機能が働いて駆動電力の遮断が生じるおそれがあるという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、コンバータ手段により電源電圧の昇圧がなされてモータ手段の駆動が行われる場合において、急激に電源電圧が上昇または下降した場合であっても、モータ手段におけるうなり音の発生や、駆動電流の急激な上昇などを低減させることが可能なモータ制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るモータ制御装置は、電源電圧を昇圧してモータ手段を駆動するためのコンバータ電圧を生成するコンバータ手段と、該コンバータ手段の駆動制御を行うことにより前記コンバータ電圧の値を変動させる制御手段と、前記電源電圧の値を検出する電源電圧検出手段と有し、前記制御手段は前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧の値に基づいて当該電源電圧の値の変動を検出し、検出された前記電源電圧の値における変動量に応じて、前記コンバータ手段により昇圧されるコンバータ電圧の値を制御することを特徴とする。
【0011】
このように、本発明に係るモータ制御装置では、制御手段が、電源電圧の値の変動を検出し、検出された電源電圧の値における変動量に応じて、コンバータ手段により昇圧されるコンバータ電圧の値を制御するので、従来のようにモータ手段の回転数に基づいてコンバータ手段の制御を行う場合に比べて迅速にコンバータ手段を制御することができ、より適切にモータ手段の駆動制御を行うことが可能となる。
【0012】
また、上記したモータ制御手段の前記制御手段が、前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧の値に基づいて前記電源電圧の値の急激な上昇を検出した場合に、前記コンバータ手段を制御して、前記モータ手段の回転数が上昇する前に前記コンバータ電圧の値を低減するものであってもよい。
【0013】
このように、本発明に係るモータ制御装置では、制御手段が、電源電圧の値の急激な上昇を検出した場合に、コンバータ手段を制御して、モータ手段の回転数が上昇する前にコンバータ電圧の値を低減するので、モータ手段の回転数が急激に上昇する前にモータ手段の回転数を低減する制御を行うことできる。従って、電源電圧が急激に上昇した場合であっても、モータ手段における急激な回転数上昇を回避することができ、回転数の急激上昇に伴うモータ手段のうなり音発生を効果的に抑えることができる。
【0014】
また、制御手段が、コンバータ手段を制御して、モータ手段の回転数が上昇する前にコンバータ電圧の値を低減するので、電源電圧の上昇に伴うコンバータ電圧の上昇を抑制することが可能になると共に、コンバータ電圧を収束させるための期間を短くすることが可能となる。
【0015】
さらに、上述したモータ制御手段の前記制御手段が、前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧の値に基づいて前記電源電圧の値の急激な低下を検出した場合に、前記コンバータ手段を制御して前記コンバータ電圧の値を緩やかに上昇させるものであってもよい。
【0016】
このように、本発明に係るモータ制御装置では、制御手段が、電源電圧の値の急激な低下を検出した場合に、コンバータ手段を制御して、コンバータ電圧の値を緩やかに上昇させるため、コンバータ電圧の急激な変動が抑制され、コンバータ電圧の急激な変動に応じて発生する一次電流のオーバーシュート現象を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るモータ制御装置によれば、制御手段が、電源電圧の値の変動を検出し、検出された電源電圧の値における変動量に応じて、コンバータ手段により昇圧されるコンバータ電圧の値を制御するので、従来のようにモータ手段の回転数に基づいてコンバータ手段の制御を行う場合に比べて迅速にコンバータ手段を制御することができ、モータ手段におけるうなり音の発生や、駆動電流の急激な上昇などを低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るモータ制御手段を、その一例としてエアコンプレッサを参照し、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、エアコンプレッサの概略構成を示したブロック図である。エアコンプレッサ(モータ制御装置)1は、タンク部2と、圧縮空気生成部3と、モータ部(モータ手段)4と、制御回路部(制御手段)5とによって概略構成されている。
【0020】
タンク部2は、圧縮空気を貯留するための貯留タンク8を有している。貯留タンク8には、圧縮空気生成部3により生成された一定圧力の圧縮空気が蓄えられており、通常3.5MPa〜4.3MPa程度の圧力に維持されている。
【0021】
貯留タンク8には、複数の圧縮空気取出口9が設けられている。本実施の形態においては、高圧の圧縮空気を取り出すための高圧取出口9aと、常圧の圧縮空気を取り出すための常圧取出口9bとが設けられている。各取出口9a、9bには、それぞれの取出口9a、9bより得られる圧縮空気を所望の圧力に減圧させるための減圧弁10a、10bが設けられており、高圧取出口9aでは、減圧弁10aによって取り出される圧縮空気の圧力が1.5MPa〜2.50MPa程度に減圧され、常圧取出口9bでは、減圧弁10bによって取り出される圧縮空気の圧力が0.7MPa〜1.5MPa程度に減圧される。
【0022】
貯留タンク8内の圧縮空気は、上述したように通常3.5MPa〜4.3MPa程度の圧力に維持されるため、高圧取出口9aから取り出される圧縮空気も常圧取出口9bから取り出される圧縮空気も、上述した所望の圧力を減圧弁10a、10bによって維持することが可能となる。また、各取出口9a、9bには、減圧弁10a、10bにより減圧された圧縮空気を釘打機等の駆動工具に供給するために、エアホース(図示省略)を着脱することが可能となっている。
【0023】
圧縮空気生成部3は、シリンダ内に設けられるピストンを往復運動させ、シリンダの吸気弁からシリンダ内に引き込まれた空気を圧縮することによって圧縮空気を生成する構造を備えている。圧縮された空気は、連結パイプ14を介してタンク部2の貯留タンク8へと供給される。
【0024】
モータ部4は、圧縮空気生成部3のピストンを往復運動させるための駆動力を発生させる役割を有している。モータ部4には、駆動力を発生させるためのステータ16とロータ17とが設けられている。ステータ16には、U相、V相、W相の巻線16a、16b、16cが形成されており、これらの巻線16a〜16cに対して電流を流すことによって回転磁界が形成される。
【0025】
ロータ17は、永久磁石によって構成されており、ステータ16の巻線16a、16b、16cを流れる電流によって形成される回転磁界により、ロータ17の回転が行われる。また、モータ部4には、ロータ17の回転を検出するための回転数検出部18が設けられている。回転数検出部18には、ホールICが設けられており、このホールICを用いてロータ17における磁界の変化を検出することによってロータ17の回転数を検出する。
【0026】
制御回路部5は、図2に示すように、マイクロプロセッサ(MPU:Micro Processing Unit、制御手段)20と、コンバータ回路(コンバータ手段)21と、インバータ回路22とによって概略構成されている。
【0027】
コンバータ回路21は、整流回路24と昇圧回路25と平滑回路26とにより概略構成されており、このコンバータ回路21によっていわゆるPAM(Pulse Amplitude Modulation)制御が実行される。ここで、PAM制御とは、コンバータ回路21によって出力電圧のパルスの高さを変化させることにより、モータ部4の回転数を制御する方法である。一方で、インバータ回路22では、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)制御が実行される。PWM制御とは、出力電圧のパルス幅を変化させてモータ部4の回転数を制御させる方法である。
【0028】
PAM制御は、PWM制御に比べて、モータ部4における低回転時の効率低下が少なく、電圧を上げることによって高回転にも対応することが可能であるという特性を有しているため、高出力時および定常運転時に主として用いられる制御方法である。一方で、PWM制御は、起動時や電圧低下時などにおいて主として用いられる制御方法である。マイクロプロセッサ20は、エアコンプレッサ1の運転状態に応じて、コンバータ回路21によるPAM制御とインバータ回路22によるPWM制御とを好適に切り替えて制御を実行する。
【0029】
コンバータ回路21の整流回路24および平滑回路26は、エアコンプレッサ1の駆動源となる交流電源29を整流・平滑することによって直流電圧に変換する役割を有している。昇圧回路25の内部には、スイッチング素子25aが設けられており、マイクロプロセッサ20の制御命令に応じて直流電圧の振幅制御を行う役割を有している。昇圧回路25は、マイクロプロセッサ20のPAM指令を受けた昇圧コントローラ27を介して制御されている。
【0030】
なお、コンバータ回路21と交流電源29との間には、電源電圧検出部(電源電圧検出手段)28と電源電流検出部30とが設けられている。電源電圧検出部28で検出される電圧値は、コンバータ回路21の昇圧回路25等を経て電圧値が昇圧される前の一次電圧(以下、この電圧を電源電圧という)の値であり、電源電圧値は交流電源29の電圧値を示している。従って、電源電圧検出部28において電圧値を検出することによって、交流電源29より供給される電源電圧の変化を検出することが可能となっている。電源電圧検出部28により検出された電圧値は、マイクロプロセッサ20に出力される。
【0031】
一方で、電源電流検出部30で検出される電流値は、交流電源29により供給される一次電流(駆動電流)の値を示したものであり、電源電流検出部30において電圧値を検出することによって、交流電源29より供給される一次電流の変化を検出することが可能となっている。電源電流検出部30により検出された電流値は、マイクロプロセッサ20に出力される。
【0032】
インバータ回路22は、コンバータ回路21によって変換された直流電圧のパルスを一定周期で正負変換させるとともに、パルス幅を変換させることによって直流電圧を擬似的な正弦波を備える交流電圧に変換する役割を有している。このパルス幅を調整することによって、上述したようにモータ部4の回転数制御を行うことが可能となる。マイクロプロセッサ20は、インバータ回路22に対する出力値の調整を行うことによって、モータ部4の駆動量を制御する。
【0033】
なお、インバータ回路22とコンバータ回路21との間には、コンバータ電圧検出部31が設けられている。コンバータ電圧検出部31で検出される電圧値は、昇圧回路25等により電源電圧(一次電圧)値が昇圧された後の電圧(以下、この電圧をコンバータ電圧という)値を示している。従って、コンバータ電圧検出部31において電圧値を検出することによって、昇圧された電源電圧(一次電圧)値、即ちモータ部4の駆動のためにモータ部4へと供給される電圧値の変化を検出することが可能となっている。コンバータ電圧検出部31により検出された電圧値は、マイクロプロセッサ20に出力される。
【0034】
マイクロプロセッサ20は、コンバータ回路21およびインバータ回路22の駆動制御を行うことによって、タンク部2の圧縮空気の圧力を3.5MPa〜4.3MPaに安定させるための制御手段である。マイクロプロセッサ20は、演算処理ユニット(CPU:Central Processing Unit)、ワークメモリ等の一時記憶領域として利用されるRAM(Random Access Memory)、後述する制御処理プログラム(例えば、後述する図3および図6の処理に関するプログラム)や後述する処理タスク(例えば、後述する400μsecの時間経過(計時)判断を行う計時タスク)等が記録されるROM(Read Only Memory)等の機能が、1チップのLSIにより実現されたものである。なお、マイクロプロセッサ20は、ROMに記録される上述した計時タスクに基づき、計時判断処理を行うことが可能となっている。
【0035】
マイクロプロセッサ20には、回転数検出部18によって検出されたモータ部4(より詳細にはロータ17)の回転数情報(駆動回転数の情報)、電源電圧検出部28で検出された電源電圧値(交流電源29の電圧値の情報)、電源電流検出部30で検出された一次電流値(交流電源29の電流値の情報)、および、コンバータ電圧検出部31で検出されたコンバータ電圧値(モータ部4に供給される駆動電圧値)が入力される。
【0036】
一方で、マイクロプロセッサ20は、制御情報(PAM指令、PWM指令)をコンバータ回路21およびインバータ回路22に対して出力することが可能な構成となっている。コンバータ回路21およびインバータ回路22では、マイクロプロセッサ20によって出力された制御情報(PAM指令、PWM指令)に基づいて、モータ部4の駆動制御を実行する。
【0037】
マイクロプロセッサ20は、昇圧コントローラ27にPAM指令を出力することによって、昇圧コントローラ27を介して昇圧回路25のスイッチング素子25aを制御して、コンバータ回路21の駆動制御を行う。また、同様に、マイクロプロセッサ20は、インバータ回路22に対してPWM指令を出力することによってインバータ回路22の制御を行う。
【0038】
但し、上述したように、PAM制御は高出力時および定常運転時に主として用いられる制御方法であり、PWM制御は、起動時や電圧低下時などにおいて主として用いられる制御方法である。このため、マイクロプロセッサ20は、エアコンプレッサ1の起動時に、電源電圧(一次電圧)の値を所定の電圧値まで昇圧させた後に、インバータ回路22の出力量(Duty)を0%から100%へと徐々に増加させることによって、エアコンプレッサ1(モータ部4)の駆動状態を立ち上げる制御を行う。
【0039】
そして、インバータ回路の出力値が100%に達したことを条件に、モータ部4の制御方法をPWM制御からPAM制御に移行し、PAM制御により安定したモータ部4の制御を行う。次に、モータ部4の制御がPAM制御に完全に移行した後に(即ち、いわゆるフルPAM制御により制御が行われる状態において)、交流電源29の電圧値(電源電圧(一次電圧)値)が上昇した場合および下降した場合におけるマイクロプロセッサ20の制御処理について説明する。
【0040】
[交流電源の電圧値が急激に上昇した場合]
図3は、交流電源29の電圧値が急激に上昇した場合におけるマイクロプロセッサ20の制御処理を示したフローチャートである。
【0041】
まず、マイクロプロセッサ20は、ROMに記録される計時タスクに基づき、前回電源電圧の電圧値を取得したときから400μsecの時間が経過したか否かの判断を行う(ステップS.1)。マイクロプロセッサ20は、400μsecの時間が経過していないと判断する場合(ステップS.1においてNoの場合)、再度ステップS.1に示す計時判断処理を繰り返し実行する。
【0042】
400μsecの時間が経過したものと判断した場合(ステップS.1においてYesの場合)、マイクロプロセッサ20は、電源電圧検出部28より電源電圧を検出してRAMの所定領域に記録(格納)する(ステップS.2)。
【0043】
そして、マイクロプロセッサ20は、所定時間に電源電圧の最小値があったか否かを判断し(ステップS.3)、所定時間に電源電圧値の最小値がない場合(ステップS.3においてNoの場合)には、ステップS.1に示す計時判断処理に移行する。一方で、電源電圧の最小値があった場合(ステップS.3においてYesの場合)、マイクロプロセッサ20は、所定時間内のピーク値の平均値、例えば、上位3つのうち1位を除外し2位と3位のピーク値平均値を電源電圧のピーク値平均値として算出する(ステップS.4)。
【0044】
次に、マイクロプロセッサ20は、RAMの所定領域に記録される前回の電源電圧のピーク値平均値を読み出し(取得し)(ステップS.5)、読み出された前回の電源電圧のピーク値平均値を用いて、今回算出された電源電圧のピーク値平均値から前回算出された電源電圧のピーク値平均値を減算した値が、10V以上であるか否か、つまり
(今回の電源電圧のピーク値平均値)―(前回の電源電圧のピーク値平均値)≧10V
が成立するか否かを判断する(ステップS.6)。
【0045】
マイクロプロセッサ20は、減算した電源電圧値の差が10V以上でない場合(ステップS.6においてNoの場合)、PAM指令の電圧値を変更することなく、ステップS.1に示す計時判断処理に移行する。一方で、減算した電源電圧値の差が10V以上であった場合(ステップS.6においてYesの場合)、マイクロプロセッサ20は、減算された電源電圧の差に応じてPAM指令の電圧値を減算し(ステップS.7)、PAM指令をコンバータ回路に出力する(ステップS.8)。
【0046】
ここで、マイクロプロセッサ20が、コンバータ回路21およびインバータ回路22に対して制御を行う場合、すべての制御量を相対的な数値に換算して制御を行う。減算された電源電圧の差がAC10Vである場合におけるマイクロプロセッサ20での制御量は、「43」という相対的な数値で表される。マイクロプロセッサ20では、この電源電圧AC10Vに該当する制御量「43」に基づいて、コンバータ電圧を低減させるために設定するPAM指令の電圧値を相対的な数値で算出する。本実施の形態に係るマイクロプロセッサ20では、制御量「43」を10倍した値、つまり「430」をPAM指令の電圧値を決定する制御量として算出し、算出された制御量に該当する電圧値にPAM指令の電圧値を変更する。本実施の形態に示す場合では、制御量「430」に対応するPAM指令の電圧値として、0.55V(後述する図5参照)が算出され、マイクロプロセッサ20では、PAM指令の電圧を0.55Vに設定して、コンバータ回路21に対してPAM指令を出力する。
【0047】
マイクロプロセッサ20は、コンバータ回路21にPAM指令を出力した(ステップS.8)後、今回算出された電源電圧のピーク値平均値をRAMの所定領域に記録(格納)する(ステップS.9)。このようにして記録された電源電圧のピーク値平均値は、次回の処理において前回の電源電圧のピーク値平均値として読み出され、処理に利用される。その後、マイクロプロセッサ20は、ステップS.1に示す計時判断処理を繰り返し実行する。
【0048】
図4は、上述した電源電圧の変動に基づいてコンバータ電圧の制御をしない場合を示したグラフであり、図5は、上述した電源電圧の変動に基づいてコンバータ電圧の制御を行う場合を示したグラフである。なお、図4および図5には、電源電圧(一次電圧)、コンバータ電圧、モータ部4の回転数、PAM指令の状態変化が示されている。
【0049】
図4および図5において、電源電圧は、電源電圧検出部28により検出された電圧値を示しており、フルPAM制御状態において安定してモータ部4が駆動されている場合(以下、安定状態という)における電源電圧値はAC80Vとなる。コンバータ電圧は、コンバータ電圧検出部31により検出された電圧値を示しており、安定状態におけるコンバータ電圧はDC200Vとなる。モータ部4の回転数は、回転数検出部18により検出された回転数を示しており、安定状態における回転数は3300回転(rpm)となる。
【0050】
さらに、PAM指令は、マイクロプロセッサ20によりコンバータ回路21の昇圧コントローラに対して出力される制御情報を電圧値によって示している。PAM指令は、1.55Vを基準電圧とし、この電圧値に対する設定電圧値の上下に応じてコンバータ回路21の制御を行う構成となっている。具体的には、基準電圧値よりも低い値に電圧値を変更した場合には、コンバータ回路21における出力(コンバータ電圧の値)が低減されて、モータ部4の回転数が低下することになる。また、基準電圧値よりも高い値に電圧値を変更した場合には、コンバータ回路21における出力(コンバータ電圧の値)が増加されて、モータ部4の回転数が上昇することになる。
【0051】
図3に示す電源電圧に対応したコンバータ電圧の制御処理が行われていない場合、図4に示すように、電源電圧変動時において電源電圧が上昇(例えば、AC80VからAC110Vへと30V上昇)すると、電源電圧の昇圧により電圧値が設定されるコンバータ電圧が、この電源電圧の上昇に伴って瞬時に上昇(例えば、DC200VからDC242Vへと42V上昇)する。電源電圧変動時においてコンバータ電圧が上昇すると、このコンバータ電圧に基づいて駆動されているモータ部4の回転数がコンバータ電圧の上昇から僅かに遅れて(例えば0.1sec)上昇(例えば、3300回転から3800回転へと500回転上昇)する。このようにモータ部4の回転数が急激に上昇したことに伴い、モータ部4からうなり音等が発生してしまう。
【0052】
一方で、マイクロプロセッサ20では、モータ部4の回転数上昇を回転数検出部18より検出することによって、つまり、回転数が急激に上昇してうなり音が発生し始めたころ(例えば、電源電圧変動時から0.15sec経過後)の回転数を検出することによって、コンバータ電圧を低減させるための演算処理を開始し、算出した演算結果に基づいてPAM指令の電圧値を設定する。このようにPAM指令の電圧値を修正して設定する処理は、モータ部4の回転数が上昇し始めてから(例えば、電源電圧変動時から0.15sec経過後)行われるため、回転数が上昇を開始する前から効果的にモータ部4の駆動制御を行うことができない。
【0053】
マイクロプロセッサ20が、設定されたPAM指令の電圧値に基づいてコンバータ回路21の制御を行うことにより、このPAM制御に基づいてコンバータ電圧が低減されて電圧値DC200Vへと収束し、この収束に伴ってモータ部4の回転数が低減されて回転数3300回転に収束する。
【0054】
但し、回転数の収束は、回転数変動に基づいて制御量が決定されるPAM制御に従って実現されるため、回転数の上昇開始から回転数がもとの回転数に収束するまで一定の時間(例えば、5sec)の経過が必要とされる。また、PAM制御により行われるコンバータ電圧値の変更制御は、モータ部4の回転数がもとの回転数(3300回転)に収束するまで継続して続けられるため、回転数がもとの回転数に収束するまでの時間(例えば、5sec)だけ続けられる。
【0055】
さらに、PAM指令における電圧値の設定は、回転数の変動状態に応じて設定されるため、結果として回転数を徐々に低減させる制御量が決定されやすくなる(例えば、基準電圧値である1.55Vから、0.5Vだけ低い値となる1.05Vの値に設定される。)。マイクロプロセッサ20では、モータ部4の回転数がもとの回転数に収束した後に、PAM指令の電圧値を初めの電圧値(1.55V)に戻すことになる。
【0056】
一方で、図3に示す電源電圧に対応したコンバータ電圧の制御処理が行われる場合、図5に示すように、電源電圧変動時において電源電圧が上昇(例えば、AC80VからAC110Vへと30V上昇した場合)すると、マイクロプロセッサ20が電源電圧の上昇を、8msec毎の平均電源電圧値の検出・比較処理(図3に示すステップS.1〜S.6)により瞬時に判断する。このように、マイクロプロセッサ20が、電源電圧検出部28を介して瞬時に電源電圧値上昇を判断することによって、モータ部4の回転数が上昇する前に、電源電圧値の上昇を判断することができる。
【0057】
マイクロプロセッサ20では、上昇した電源電圧の値に基づいて、瞬時に電源電圧の値を低減させる処理を行う。このとき、マイクロプロセッサ20は、PAM指令の電圧値を迅速かつ大幅に低減(例えば、PAM指令の電圧値を1.55Vから0.55Vへ1.0Vだけ低減)させる。このように瞬時にPAM指令の電圧値を大幅に低減することによって、電源電圧値の上昇に伴って上昇し始めていたコンバータ電圧の上昇を最小限にすることができる。本実施の形態に係るエアコンプレッサ1では、図4に示すように42Vだけ上昇していたコンバータ電圧値を図5に示すように10V程度の上昇に留めることができる。
【0058】
このマイクロプロセッサ20によるPAM指令の電圧低減処理により、コンバータ電圧の上昇を最低限に抑えることができるため、コンバータ電圧の上昇抑制によりモータ部4の回転数上昇を最低限に抑えることが可能となる。本実施の形態に係るエアコンプレッサ1では、図4に示すように500回転上昇していたモータ部4の回転数を、図5に示すように100回転程度の上昇に留めることができる。このようにモータ部4の回転数上昇を抑制することができるため、うなり音などの発生を抑制することが可能となる。
【0059】
また、迅速にPAM指令の電圧低減処理を行うことにより、コンバータ電圧および回転数の上昇を低減することができるので、もとのコンバータ電圧値および回転数に状態が収束するまでの時間を、従来に比べて短縮することが可能となる。例えば、従来の場合は、図4に示すように、コンバータ電圧および回転数がもとの状態に収束するまで5sec程度の時間がかかっていたが、図3に示した処理を行うことによって本発明に係る制御方法を適用することにより、図5に示すように、コンバータ電圧および回転数がもとの状態に収束する時間を0.5sec程度に短縮することが可能となる。
【0060】
[交流電源の電圧値が急激に降下した場合]
次に、交流電源の電圧値が急激に降下した場合におけるマイクロプロセッサ20の制御処理を、図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0061】
まず、マイクロプロセッサ20は、ROMに記録される計時タスクに基づき、前回電源電圧の電圧値を取得してから400μsecの時間が経過したか否かの判断を行う(ステップS.11)。マイクロプロセッサ20は、400μsecの時間が経過していないと判断する場合(ステップS.11においてNoの場合)、再度ステップS.11に示す計時判断処理を繰り返し実行する。
【0062】
400μsecの時間が経過したものと判断した場合(ステップS.11においてYesの場合)、マイクロプロセッサ20は、電源電圧検出部28より電源電圧値を検出してRAMの所定領域に記録(格納)する(ステップS.12)。
【0063】
そして、マイクロプロセッサ20は、所定時間に電源電圧の最小値があったか否かを判断し(ステップS.13)、所定時間に電源電圧の最小値がない場合(ステップS.13においてNoの場合)には、ステップS.11に示す計時判断処理に移行する。一方で、電源電圧の最小値があった場合(ステップS.13においてYesの場合)、マイクロプロセッサ20は、所定時間内のピーク値の平均値、例えば、上位3つのうち1位を除外し2位と3位のピーク値平均値を電源電圧のピーク値平均値として算出する(ステップS.14)。
【0064】
次に、マイクロプロセッサ20は、RAMの所定領域に記録される前回の電源電圧のピーク値平均値を読み出し(ステップS.15)、読み出された前回の電源電圧のピーク値平均値を用いて、今回算出された電源電圧のピーク値平均値から前回算出された電源電圧のピーク値平均値を減算した値が、−10V以下であるか否か、つまり
(今回の電源電圧のピーク値平均値)―(前回の電源電圧のピーク値平均値)≦−10V
が成立するか否かを判断する(ステップS.16)。
【0065】
マイクロプロセッサ20は、減算した電源電圧値の差が―10V以下でない場合(ステップS.16においてNoの場合)、PAM指令の電圧値を変更することなく、ステップS.11に示す計時判断処理に移行する。
【0066】
一方で、減算した電源電圧値の差が―10V以下であった場合(ステップS.16においてYesの場合)、マイクロプロセッサ20は、減算された電源電圧の差に応じてPAM指令の電圧値を減算し(ステップS.17)、PAM指令をコンバータ回路21に出力する(ステップS.18)。
【0067】
ここで、PAM指令の電圧値を減算する場合、マイクロプロセッサ20は、一次電流のオーバーシュート状態を抑制するために、比較的僅かだけ電圧値を低減させ、さらに低減された電圧値の低減時間を比較的長めに設定する。つまり、マイクロプロセッサ20は、緩やかなコンバータ電圧の変動処理を実現することにより一次電流の急激かつ大幅な変動を抑制することを目的として、PAM指令の電圧値設定を僅かに減少し(ゲイン減少を僅かにし)、かつ、低減させた電圧値をある程度の期間だけ継続する。
【0068】
具体的にマイクロプロセッサ20は、減算した電源電圧値の差が―10V以下であった場合(ステップS.16においてYesの場合)にPAM指令により設定される電圧の出力ゲインを2/3〜1/8に変更(例えば、後述する図8に示すグラフに示すように、PAM指令の基準となる電圧値が1.55Vである場合には、電圧値を0.2V低減させて1.35Vに変更)し、変更された出力ゲインをしばらくの間だけ維持した後に、出力ゲインを初めのゲインに戻す。
【0069】
マイクロプロセッサ20は、コンバータ回路21にPAM指令を出力した(ステップS.18)後、今回算出された電源電圧のピーク値平均値をRAMの所定領域に記録(格納)する(ステップS.19)。このようにして記録された電源電圧のピーク値平均値は、次回の処理において前回の電源電圧のピーク値平均値として読み出され、処理に利用される。その後、マイクロプロセッサ20は、ステップS.11に示す計時判断処理を繰り返し実行する。
【0070】
図7は、上述した電源電圧の変動に基づいてコンバータ電圧の制御をしない場合を示したグラフであり、図8は、上述した電源電圧の変動に基づいてコンバータ電圧の制御を行う場合を示したグラフである。
【0071】
なお、図7および図8には、電源電圧(一次電圧)、コンバータ電圧、モータ部4の回転数、PAM指令の状態変化に加えて、一次電流の状態変化が示されている。図7および図8に示す一次電流は、電源電流検出部30により検出された電流値を示しており、安定状態における一次電流値は14.5Aとなる。電源電圧(一次電圧)、コンバータ電圧、モータ部4の回転数、PAM指令に関しては、上述した図4および図5と同様であるが、図7および図8に示すグラフでは、電源電圧における安定状態の電圧値をAC110Vとし、モータ部4における安定状態の回転数を2000回転とする。
【0072】
図6に示す電源電圧に対応したコンバータ電圧の制御処理が行われていない場合、図7に示すように、電源電圧変動時において電源電圧が低下(例えば、AC110VからAC80Vへと30V低下)すると、この電源電圧の低下に伴ってコンバータ電圧が、瞬時に低下(例えば、DC200VからDC158Vへと42Vだけ低下)する。電源電圧変動時においてコンバータ電圧が低下すると、このコンバータ電圧に基づいて駆動されているモータ部4の回転数がコンバータ電圧の低下に応じて低下(例えば、2000回転から1800回転へと200回転低下)する。
【0073】
なお、コンバータ電圧の低下によりモータ部4の回転数が低下するまでの反応は、コンバータ電圧の上昇によりモータ部4の回転数が上昇する場合に比べて迅速に行われる。これば、モータ部4の回転数を上昇させる場合には、コンバータ電圧が上昇しても、タンク部2内圧力の負荷などの影響により瞬時に回転数を上昇することが困難であるためである。一方で、モータ部4の回転数を低下させる場合には、コンバータ電圧が上昇させる場合よりも、タンク部2内圧力の負荷などの影響が低いため、コンバータ電圧の低下に従って瞬時に回転数が低減されることになる。
【0074】
このように、回転数がコンバータ電圧の低下に応じて迅速に低下するので、マイクロプロセッサでは、回転数検出部18により検出される回転数に基づいて、モータ部4の回転数の低減を迅速に判断することが可能となる。そして、マイクロプロセッサ20では、検出されたモータ部4の回転数の低下に基づいて、コンバータ電圧を上昇させるための演算処理を開始し、算出した演算結果によってPAM指令の電圧値を設定する。
【0075】
一方で、電源電圧の電圧値が低下した場合、マイクロプロセッサ20では、エアコンプレッサ1の出力状態(電力値W)を一定に保とうとするため、電源電圧の低下に伴って一次電流の値が急激に上昇してしまう。このように一次電流が急激に上昇した場合、マイクロプロセッサ20では、一次電流を所定値、本実施の形態に係るエアコンプレッサ1では、14.5Aに維持するようにしてPAM指令の電圧値を設定する。
【0076】
このため、マイクロプロセッサ20では、一次電流の上昇を急速に低減させるべく、PAM指令の電圧値を大きく低減(例えば、図7に示すように1.0V低減させて0.55Vに設定)し、低下したコンバータ電圧を急激(例えば、2secの期間内)に上昇回復させる。このようにコンバータ電圧が急激に上昇されることにより、今度は、一次電流の値が急激に低減されてしまい、結果として一次電流に対してオーバーシュート(例えば、3secの期間に一次電流値が10Aだけ上下変動)が生じてしまっていた。このような一次電流のオーバーシュートが発生すると、一次電流の上昇に伴い電源のブレーカ機能が働いて駆動電力の遮断が生じるおそれがあった。
【0077】
一方で、図6に示す電源電圧に対応したコンバータ電圧の制御処理が行われる場合、図8に示すように、電源電圧変動時において電源電圧が低下(例えば、AC110VからAC80Vへと30V低下)すると、この電源電圧の低下に伴ってコンバータ電圧が、瞬時に低下(例えば、DC200VからDC158Vへと42Vだけ低下)する。電源電圧変動時においてコンバータ電圧が低下すると、このコンバータ電圧に基づいて駆動されているモータ部4の回転数がコンバータ電圧の低下に応じて低下する。
【0078】
このように、回転数がコンバータ電圧の低下に応じて迅速に低下することにより、マイクロプロセッサ20では、回転数検出部18により検出される回転数に基づいて、モータ部4の回転数の低減を迅速に判断することが可能となる。そして、マイクロプロセッサ20では、検出されたモータ部4の回転数の低下に基づいて、コンバータ電圧を上昇させるための演算処理を開始し、算出した演算処理によってPAM指令の電圧値を設定する。
【0079】
このとき、マイクロプロセッサ20は、上述した一次電流のオーバーシュート現象を抑制するために、PAM指令の設定を僅かな電圧値だけ減少させることによって緩やかにコンバータ電圧の上昇が行われるように設定する。本発明に係るエアコンプレッサ1では、図8に示すように、PAM指令の電圧値を基準電圧値である1.55Vから0.2Vだけ低減させて1.35Vに設定し、この設定状態を5.5secだけ継続する。
【0080】
このようにPAM指令が設定されることにより、低下したコンバータ電圧を上昇回復させて安定させる(本実施の形態では、もとの電圧値よりも15V低い値である185Vに上昇回復させる)までの時間(例えば、5sec)が、図7に示すコンバータ電圧の上昇安定までの時間(例えば、2sec)よりも長い時間となってしまうが、急激にコンバータ電圧が上昇しないため、一次電流が急激に上昇および下降してオーバーシュート現象を生じてしまうことを抑制することができる。具体的には、図7に示すように10A上昇していた一次電流を、図8に示す場合には、3A程度に低減させることが可能となる。従って、一次電流のオーバーシュート現象の発生を効果的に抑制することができ、一次電流の上昇に伴う電源のブレーカ機能の稼働を抑制することが可能となる。
【0081】
なお、上述したように、PAM指令の電圧値の低減を僅かにすることにより、回転数の低減が、図7に示す場合(2000回転から1800回転へと200回転低下)よりも大きくなってしまう(2000回転から1650回転へと350回転低下)が、この回転数の低減は、基準となるモータ部4の回転数がもともと低い回転数(2000回転)であることから、回転数の減少数が増加しても、うなり音などが発生しにくい。このため、回転数の減少数が増加しても、一次電流のオーバーシュート抑制の方がより好ましい効果を奏することになる。
【0082】
以上説明したように、本実施の形態に係るエアコンプレッサ1では、電源電圧の電圧値を検出し、検出された電圧値の急激な上昇または下降に応じてPAM指令の設定を行うので、モータ部4の回転数変動に伴ううなり音の発生を抑制し、また一次電流におけるオーバーシュート現象の発生を抑制することが可能となる。
【0083】
具体的に、電源電圧が急激に上昇した場合、マイクロプロセッサ20は、電源電圧の上昇を検出した直後であって、モータ部4の回転数の上昇が生じていないときに、コンバータ電圧を大きく低減させる旨のPAM指令を設定してコンバータ回路21に出力する。このPAM指令により、コンバータ回路21におけるコンバータ電圧を迅速に低減させ、モータ部4における回転数が急激に上昇する前にモータ部4の回転数を低減する制御を行うことできるので、モータ部4の回転数の上昇を抑制し、回転数の急上昇に伴ううなり音の発生を効果的に抑えることができる。
【0084】
さらに、マイクロプロセッサ20は、コンバータ回路21に対して、迅速にコンバータ電圧を低減させる旨のPAM指令を出力することができるので、コンバータ電圧の上昇率を抑制することができるとともに、コンバータ電圧を収束させるための期間を短くすることが可能となる。
【0085】
また、電源電圧が急激に低下した場合、マイクロプロセッサ20は、電源電圧の低下を検出した直後に、コンバータ電圧を上昇させる旨のPAM指令を設定してコンバータ回路21に出力する。このPAM指令において、マイクロプロセッサ20は、PAM指令の設定を、コンバータ電圧値が緩やかに上昇するように設定する。この設定により、コンバータ電圧の急激な変動が抑制され、コンバータ電圧の急激な変動に応じて発生する一次電流のオーバーシュート現象を抑制することが可能となり、一次電流の上昇に伴う電源のブレーカ機能の稼働を抑えることが可能となる。
【0086】
以上、本発明に係るエアコンプレッサ1について図面を用いて詳細に説明したが、本発明に係るエアコンプレッサは、上述した実施の形態に限定されるものではない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0087】
例えば、図4および図5に示したグラフでは、安定状態における電源電圧値をAC80Vとし、安定状態におけるコンバータ電圧をDC200Vとし、安定状態における回転数を3300回転(rpm)とし、PAM指令の基準電圧値を、1.55Vとしたが、安定状態におけるそれぞれの値は上述した設定値に限定されるものはなく、適宜変更することが可能である。
【0088】
また、同様に、図7および図8に示したグラフでは、安定状態における電源電圧値をAC110Vとし、安定状態におけるコンバータ電圧をDC200Vとし、安定状態における回転数を2000回転(rpm)とし、安定状態における一次電流値を14.5Aとし、PAM指令の基準電圧値を、1.55Vとしたが、安定状態におけるそれぞれの値は上述した設定値に限定されるものはなく、適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施の形態に係るエアコンプレッサの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係るエアコンプレッサの制御回路部を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態に係るマイクロプロセッサにより電源電圧が上昇した場合に行われる処理を示したフローチャートである。
【図4】従来の処理方法に基づいて電源電圧が上昇した場合に変動する電源電圧、コンバータ電圧、回転数およびPAM指令の状態変化を示した図である。
【図5】図3に示した処理方法に基づいて電源電圧が上昇した場合に変動する電源電圧、コンバータ電圧、回転数およびPAM指令の状態変化を示した図である。
【図6】本実施の形態に係るマイクロプロセッサにより電源電圧が低下した場合に行われる処理を示したフローチャートである。
【図7】従来の処理方法に基づいて電源電圧が低下した場合に変動する電源電圧、コンバータ電圧、回転数、一次電流およびPAM指令の状態変化を示した図である。
【図8】図6に示した処理方法に基づいて電源電圧が低下した場合に変動する電源電圧、コンバータ電圧、回転数、一次電流およびPAM指令の状態変化を示した図である。
【符号の説明】
【0090】
1 …エアコンプレッサ(モータ制御装置)
2 …タンク部
3 …圧縮空気生成部
4 …モータ部(モータ手段)
5 …制御回路部(制御手段)
8 …(タンク部の)貯留タンク
9 …圧縮空気取出口
9a …(圧縮空気取出口の)高圧取出口
9b …(圧縮空気取出口の)常圧取出口
10a、10b …減圧弁
14 …連結パイプ
16 …(モータ部の)ステータ
16a、16b、16c …(ステータの)巻線
17 …ロータ
18 …(モータ部の)回転数検出部
20 …マイクロプロセッサ(制御手段)
21 …コンバータ回路(コンバータ手段)
22 …インバータ回路
24 …(コンバータ回路の)整流回路
25 …(コンバータ回路の)昇圧回路
25a …(昇圧回路の)スイッチング素子
26 …(コンバータ回路の)平滑回路
27 …昇圧コントローラ
28 …電源電圧検出部(電源電圧検出手段)
29 …交流電源
30 …電源電流検出部
31 …コンバータ電圧検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧を昇圧してモータ手段を駆動するためのコンバータ電圧を生成するコンバータ手段と、
該コンバータ手段の駆動制御を行うことにより前記コンバータ電圧の値を変動させる制御手段と、
前記電源電圧の値を検出する電源電圧検出手段と
を有し、
前記制御手段は前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧の値に基づいて当該電源電圧の値の変動を検出し、検出された前記電源電圧の値における変動量に応じて、前記コンバータ手段により昇圧されるコンバータ電圧の値を制御すること
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧の値に基づいて前記電源電圧の値の急激な上昇を検出した場合に、前記コンバータ手段を制御して、前記モータ手段の回転数が上昇する前に前記コンバータ電圧の値を低減すること
を特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧の値に基づいて前記電源電圧の値の急激な低下を検出した場合に、前記コンバータ手段を制御して前記コンバータ電圧の値を緩やかに上昇させること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−148028(P2009−148028A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320803(P2007−320803)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000006301)マックス株式会社 (1,275)
【Fターム(参考)】