説明

モータ制御装置

【課題】 電流指令等のモータ駆動信号を使用して温度を推定する温度推定部を具備し、モータやインバータ回路等の熱的保護を行なうモータ制御装置において、熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれを従来よりも抑制することによって、正確に熱的保護を行なう。
【解決手段】 モータ制御装置20は、モータ4を駆動させる駆動信号に基づいて熱的保護対象物の温度の推定値を算出する温度推定部7と、モータ制御装置20の電源オフ時間の長さを計測する電源オフ時間確認部9と、電源オフ時間における熱的保護対象物の温度推定値を算出する推定値変更部10とを備える。推定値変更部10には電源オフ時間における熱的保護対象物の放熱曲線が記憶され、この放熱曲線に、電源が切られた時点における熱的保護対象物の温度の推定値と電源オフ時間の長さとを当てはめることにより、リスタート時の熱的保護対象物の温度の推定値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流指令等のモータ駆動信号を用いてモータやインバータ回路等の熱的保護対象物の温度を推定する温度推定部を備え、当該温度推定部が推定した温度に基づいて熱的保護対象物の熱的保護を行なうモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータの温度を計測し、計測値が予め定めた閾値に達したときにモータへの通電を遮断することによりモータの過熱を防止するモータ制御技術が知られている。
【0003】
この技術においては、電流指令等のモータ駆動信号からモータ温度の推定値を演算する、いわゆる電子サーマル方式が広く採用されている。
【0004】
図5は、従来の電子サーマル方式によるモータ制御装置の一例を示すブロック図である。この図においてモータ制御装置20の速度制御部1には、図示されていない上位制御部(位置制御など)にて算出された速度指令V*が送られる。
【0005】
また、速度制御部1には、モータの位置検出を行うエンコーダ5の位置検出値に基づいて変換部6が算出した速度帰還Vが送られる。速度制御部1はこれら入力された速度指令V*と速度帰還VについてPI制御等の演算を行ない、電流指令I*を算出し、電流制御部2に送る。次に、電流制御部2は、インバータ回路3から出力された電流値である電流帰還Iと、速度制御部1から送られた電流指令I*とに基づいて、インバータ作動指令Sを算出する。インバータ回路3では、インバータ作動指令Sに基づき、モータ4を駆動制御する。
【0006】
また、温度推定部7では、速度制御部1が出力した電流指令I*を参照し、この電流指令I*に基づき、モータ温度の推定を行なう。電流制御部2ではこの推定した温度が予め設定された閾値に達した場合、モータ4への通電を遮断する。これによりモータ4の過熱を防ぐことができる。
【0007】
ここで、前述したモータ制御装置では、モータ制御装置の電源が切られるとそれまでのモータ温度の推定値が失われる。したがって再度電源を入れたとき(リスタート時)にはモータが完全に放熱した状態として温度の推定を開始する。しかし実際には例えば電源を切った時から次回電源が入る時までの間(電源オフ時間)が短い場合など、モータに熱が残っている場合がある。このような場合に、モータの実際の温度と温度推定値にずれが発生し、正確に熱的保護を行なうことができないという問題がある。
【0008】
リスタート時におけるモータの実際の温度と温度推定値とのずれを抑制する技術として、例えば特許文献1においては、電源が切られた時点における温度推定値を保持し、保持した温度推定値をリスタート時の初期値として温度の推定を行なっている。
【0009】
また特許文献2においては、電源オフ時間における熱的保護対象の温度低下を反映させるための補正係数を使用している。すなわち、電源が切られた直後の温度推定値を保持するとともに、0から1の間の値を取る補正係数を複数用意し、電源オフ時間の長さに応じて所定の補正係数を選択する。そして保持された温度推定値に選択された補正係数を掛け、これにより得られた値をリスタート時の初期値として温度の推定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−253577号公報
【特許文献2】国際公開第2003/047950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に開示された技術によれば、電源オフ時間が長い場合にはモータ等の熱的保護対象物の放熱が進んでしまうから、リスタート時における初期値である、電源が切られた時点の温度推定値と、熱的保護対象物の実際の温度との間にずれが発生してしまう。
【0012】
また、特許文献2においては補正係数の値は電源オフ時間の長さのみによって選択される。つまり特許文献2においては熱的保護対象物の温度低下の割合は電源オフ時間の長さのみによって定まることを前提としている。しかし実際には熱的保護対象の温度が高い場合と低い場合とでは、その後の温度低下の割合は異なる。したがって電源オフ時間の長さのみに基づいて一律に補正係数を決めると実際の熱的保護対象における温度低下が正しく反映されずに実際の温度と温度推定値との間にずれが発生する場合があった。
【0013】
そこで、本発明は、熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれを従来よりも抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、モータを駆動させる駆動信号に基づいて熱的保護対象物の温度の推定値を算出する温度推定部を備え、前記温度推定部が算出した熱的保護対象物の温度の推定値に基づいて熱的保護対象物の過熱を防止するモータ制御装置であって、前記モータ制御装置の電源が切られてから再度電源が入るまでの電源オフ時間の長さを計測する時間計測部と、電源オフ時間における熱的保護対象物の温度の時間変化を表す放熱曲線が記憶され、前記モータ制御装置の電源が切られた時点における前記熱的保護対象物の温度の推定値と前記電源オフ時間の長さとを前記放熱曲線に当てはめることにより、再度前記モータ制御装置の電源が入れられた時の熱的保護対象物の温度の推定値を算出し、当該推定値を、前記温度推定部における熱的保護対象物の温度の推定値の初期値として設定する推定値変更部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明により、電源オフ時間における熱的保護対象物の放熱曲線に沿ってリスタート時の初期値を決定するので、従来よりも熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】温度推定値の変更方法の一例を示す図である。
【図3】温度推定値の変更方法の別の例を示す図である。
【図4A】熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を示すデータ図である。
【図4B】熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を示すデータ図である。
【図4C】熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を示すデータ図である。
【図4D】熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を示すデータ図である。
【図5】従来技術を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明のモータ制御装置の一例を示すブロック図である。なお、図5に示した従来例と同一要素には同一番号を付してあり、その説明は省略する。
【0018】
まず、モータ制御装置20の構成について説明する。モータ制御装置20は、図示しない位置制御部とモータ4との間に接続されている。
【0019】
さらにモータ制御装置20は、図示しない位置制御部から速度指令V*を受け取る速度制御部1を備えている。この速度制御部1は変換部6にも接続され、この変換部6からは速度帰還Vが送信される。変換部6はエンコーダ5に接続され、エンコーダ5はモータ4に接続されている。
【0020】
速度制御部1は電流制御部2および温度推定部7に接続されている。電流制御部2は他にもインバータ回路3、温度推定部7、電流検出回路12に接続されている。また温度推定部7は温度推定値保持部8および温度推定値設定部11に接続されている。この温度推定値保持部8と温度推定値設定部11との間には温度設定値変更部10が接続され、温度設定値変更部10は電源オフ時間確認部9にも接続されている。ここで、上述した温度推定部7、温度推定値保持部8、電源オフ時間確認部9、温度設定値変更部10、温度設定値設定部11はモータ4やインバータ回路3等の熱的保護対象物の温度を管理する温度管理装置13として機能する。なお、モータ制御装置20の電源オフ期間中に温度管理装置13が作動できるように、温度管理装置13はモータ制御装置20の電源(図示せず)とは別にバックアップ用の電源(図示せず)から電力の供給を受けている。
【0021】
以上、モータ制御装置20の構成について説明した。次に、モータ制御装置20が行うモータ制御について説明する。速度制御部1は図示しない位置制御部から速度指令V*を受け取る。さらに速度制御部1は変換部6からモータの現在速度を示す速度帰還Vを受け取る。ここで、速度帰還Vはモータ4に接続されたレゾルバ等のエンコーダ5の信号をもとに変換部6において算出される。
【0022】
速度制御部1は、速度指令V*および速度帰還Vに基づいてPI制御等の演算を行い、モータ駆動信号である電流指令I*を算出して電流制御部2および温度推定部7に送る。ここで、速度制御部1では電流指令I*を算出する過程でトルク指令値が生成されており、電流指令I*を電流制御部2に送ると共に、温度推定部7に電流指令I*と比例関係にあるトルク指令値を送っても良い。
【0023】
電流制御部2には電流指令I*の他にも、インバータ回路3からモータ4に供給される電流を測定する電流検出回路12から電流帰還Iが送られる。電流制御部2は電流指令I*と電流帰還Iに基づいてPI制御等の演算を行い、インバータ回路3を作動させるインバータ作動指令Sをインバータ回路3に送る。インバータ回路3ではインバータ作動指令Sに基づいてインバータ回路3内のスイッチング回路が作動し、図示しない電源から送られた電流を電流指令I*の波形となるように整形する。整形後の電流はモータ4に供給される。
【0024】
さらに温度管理装置13の温度推定部7はモータ4等の熱的保護対象物の温度の推定値を算出し、当該推定値を電流制御部2に送っている。電流制御部2はこの推定値と予め定めた閾値とを比較し、推定値が閾値に達したときに電流指令I*を遮断する。これにより熱的保護対象物の過熱が防止される。なお、電流制御部2が直接電流指令I*を遮断する代わりに、図示されていない上位制御部に対して速度指令V*の送信を中断するように通知することにより、間接的に電流指令I*を遮断するようにしてもよい。
【0025】
温度推定値保持部8は、温度推定部7が推定した温度推定値を常時バックアップし、電源オフ時間、すなわちモータ制御装置20の電源が切られた時から次に電源が入る時(リスタート時)までの間においても温度推定値を保持する。なお、電源オフ時間に温度推定値を保持する手段としては、不揮発性メモリに記憶させてもよいし、モータ制御装置20の電源(図示せず)とは別にバックアップ専用の電源(リチウム電池等)を用いてもよい。
【0026】
電源オフ時間確認部9は、電源オフ時間の長さを計測、確認する時間計測部として機能する。なお、電源オフ時間の長さを確認する手段としては、モータ制御装置20の電源(図示せず)とは別に専用の電源(リチウム電池等)で動作する時計を内蔵させてもよいし、電源オン/オフ時に電波で標準時刻を受信してもよい。
【0027】
温度推定値変更部10には、電源オフ時間における熱的保護対象物の温度低下の時間変化を示す放熱曲線が記憶されている。ここで、この放熱曲線について説明する。熱的保護対象物の電源オフ時間における温度低下の割合は、外界との温度差が大きいときに高くなり、温度差が小さいときには低くなる。つまり電源オフ時間において熱的保護対象物が放熱していくとき、温度の時間変化の軌跡は、温度低下の割合が単一である直線ではなく、曲線となる。以下では、この曲線を放熱曲線と呼ぶ。後述するように、本実施形態では熱的保護対象物の放熱曲線を取得し、温度推定値変更部10に記憶させている。
【0028】
温度推定値変更部10は、モータ制御装置20の電源が切られた時点における熱的保護対象物の温度の推定値を温度推定値保持部8から取得すると共に、電源オフ時間確認部9が確認した電源オフ時間の長さを取得し、取得したこれらの値を放熱曲線に当てはめることによってリスタート時の熱的保護対象物の温度の推定値を算出する。算出された推定値は温度推定値設定部11に送られる。温度推定値設定部11は、温度推定値変更部10が算出した推定値をリスタート時における熱的保護対象物の温度の初期値として温度推定部7に設定する。さらに温度推定値変更部10が算出した推定値は温度推定値保持部8に記憶される。これにより温度推定値保持部8の温度推定値が更新される。なお、図1の説明では、速度制御部1を温度推定部7に接続して温度推定部7に電流指令I*を入力しているが、電流検出回路12を温度推定部7に接続して、電流指令I*に代えて、電流帰還Iをモータ駆動信号として温度推定部7に入力してもよい。また速度制御部1が温度推定部7に電流指令I*と比例関係にあるトルク指令値を送っている場合には電流指令I*に代えてトルク指令値をモータ駆動信号として扱ってもよい。
【0029】
次に、温度管理装置13が熱的保護対象物の温度推定値を演算する過程について図2を用いて説明する。まず、モータ制御装置20の電源が入っている時間における温度推定値の算出方法について説明する。温度推定値の演算式は、熱的保護対象物の等価回路を考えることにより導くことができる。例えば、ある任意の時間における温度推定値θ[t]は、前回の温度推定値をθ[t−1]、電流をi[t]、電流制限値(モータ4やインバータ回路3等の仕様から決定される電流値であり、モータ制御装置20として許容しうる最大の電流を示す)をILとすれば、以下の式が成り立つ。
【0030】
(数1)
θ[t]=β(i[t]/IL−θ[t−1])+θ[t−1]
【0031】
ここでβは0<β<1の値を取る熱時定数を意味し、熱的保護対象物固有の定数である。例えば、βを予め実測等によって求めておく。
【0032】
上述した数式1に基づき、温度推定部7ではモータ制御装置20の電源が入っている時間における熱的保護対象物の温度を推定している。次に、電源オフ時間における熱的保護対象物の温度推定値について考える。上記数式1において、電源オフ時間は電流が0であるため、i[t]=0とすれば、数式1は下記数式2のようになる。
【0033】
(数2)
θ[t]=(1−β)θ[t−1]
【0034】
これは等比数列の漸化式の形と同様であり、下記数式3に書き直すことができる。
【0035】
(数3)
θ[t]=(1−β)tθ[0]
【0036】
ここで、θ[0]はモータ制御装置20の電源が切られた時点における熱的保護対象物の温度推定値を示している。上記数式3に示されるように、電源オフ時間における熱的保護対象物の温度の時間変化は、電源オフ時間tを変数とする指数関数として表されることが理解される。温度推定値変更部10は、この数式3を熱的保護対象物の放熱曲線の関数として記憶し、さらに電源が切られた時点における熱的保護対象物の温度の推定値と電源オフ時間の長さとを数式3に当てはめることにより、熱的保護対象物のリスタート時の初期値を算出している。具体的には、温度推定値変更部10には図示しないROM等の記憶装置にこの数式3が記憶され、または数式3における電源オフ時間の長さと温度推定値との組み合わせが記憶されている。この数式3にモータ制御装置20の電源が切られた時点における熱的保護対象物の温度の推定値および電源オフ時間の長さtが入力される。その後、温度推定値変更部10は入力された電源オフ時間の長さtにおける熱的保護対象物の温度推定値θ[t]を算出し、温度推定値設定部11はこれを熱的保護対象物のリスタート時の初期値に設定する。
【0037】
また、電源オフ時間における熱的保護対象物の放熱曲線は以下のように求めることもできる。すなわち、図3に示すように、電源オフ時間の長さと熱的保護対象物の温度の実測値との関係から予め放熱曲線を求め、この放熱曲線に電源が切られた時点の熱的保護対象物の温度推定値と電源オフ時間の長さとを当てはめることにより、電源オフ時間における温度推定値を決定することができる。
【0038】
まず、電源オフ時間における熱的保護対象物の放熱曲線を予め実測等によって求め、時間と温度との関係を示すデータテーブルとして温度推定値変更部10に記憶させておく。または実測後回帰分析等により放熱曲線の関数を求め、温度推定値変更部10に記憶させておく。温度推定値変更部10は、熱的保護対象物の放熱曲線において、モータ制御装置20の電源が切られた時点の温度推定値θ[0]に対応する時間t1を求める(ステップ1)。次に、時間t1から電源オフ時間tだけ経過した時間t2を求める(ステップ2)。すなわち、t2=t1+tである。次に、温度推定値変更部10は時間t2に対応する温度推定値θ[t]を求める(ステップ3)。ステップ3で求めた温度推定値θ[t]がモータ制御装置20の電源が切られた時点から電源オフ時間tだけ経過した時の温度推定値である。温度推定値変更部10はこのようにして得られた温度推定値を温度推定値設定部11に送る。温度推定値設定部11はリスタート時における熱的保護対象物の温度推定値の初期値として温度推定値変更部10から送られた推定値を温度推定部7に設定する。
【0039】
以上、本実施形態における熱的保護対象物の温度の推定値の算出方法および当該推定値に基づくモータ制御について説明した。次に、本実施形態におけるモータ制御を行った際における、熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を図4B、Dに示す。なお、比較例として図4Aに特許文献1における熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を示し、図4Cに特許文献2における熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値との関係を示す。
【0040】
ここで、図4A−Dにおいて、実線が実際の温度を示し、破線が温度推定値を示している。さらに図4A、Bにおいてa点はモータ制御装置20の電源が入れられた時点を示し、b点は電源が切られた時点を示し,c点は再度電源が入れられた時点を示している。
【0041】
まず、図4A(特許文献1)と図4B(本実施形態)とを参照する。図4Aに示されているように、電源が切られた時点の温度推定値を保持する特許文献1の技術の場合、電源オフ時間(b点−c点間の時間)が短い時には、リスタート時における熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれが小さいが、電源オフ時間(b点−c点間の時間)が長い時には、熱的保護対象物の放熱が進むため、熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれが大きくなってしまう。
【0042】
これに対して、熱的保護対象物の放熱曲線に沿ってリスタート時の初期値を求める本発明の場合、電源オフ時間(b点−c点間の時間)が短い時でも長い時でも、ともに、熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれを小さくすることができる。その結果、従来よりも正確に熱的保護を行なうことができる。
【0043】
次に、図4C(特許文献2)と図4D(本実施形態)とを比較する。特許文献2のモータ制御においては、電源オフ時間における温度低下の割合を示す補正係数が電源オフ時間の長さのみによって一律に定められている。図4Cでは任意の電源オフ時間t1に応じて補正係数0.1を与えている。しかし、熱的保護対象物は上述した放熱曲線に沿って低下するので、実際には熱的保護対象物の温度によって温度低下の割合は変化する。たとえば熱的保護対象の温度が高いときには温度低下の割合が大きく、温度が低いときには温度低下の割合は小さい。したがって電源オフ時間の長さのみに応じて一律に補正係数を定めた場合、電源が切られた時点の熱的保護対象物の温度によっては熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれが大きくなってしまう場合がある。
【0044】
これに対して本実施形態では、温度推定値変更部10が、電源オフ時間の長さと、電源が切られた時点における温度推定値とを放熱曲線に当てはめることによってリスタート時の温度推定値を算出している。その結果、図4Cと図4Dとを比較すれば明らかなように、電源が切られた時点における温度推定値が高い時でも低い時でも熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれが小さくなっていることが理解される。
【0045】
以上説明した様に、本発明では、電源オフ時間における熱的保護対象物の放熱曲線に基づいてリスタート時の温度推定値を決めているため、熱的保護対象物の実際の温度と温度推定値とのずれを従来よりも抑制することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 速度制御部、2 電流制御部、3 インバータ回路、4 モータ、5 エンコーダ、6 変換部、7 温度推定部、8 温度推定値保持部、9 電源オフ時間確認部、10 温度推定値変更部、11 温度推定値設定部、12 電流検出回路、13 温度管理装置、20 モータ制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させる駆動信号に基づいて熱的保護対象物の温度の推定値を算出する温度推定部を備え、前記温度推定部が算出した前記熱的保護対象物の温度の推定値に基づいて前記熱的保護対象物の過熱を防止するモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置の電源が切られてから再度電源が入るまでの電源オフ時間の長さを計測する時間計測部と、
電源オフ時間における前記熱的保護対象物の温度の時間変化を表す放熱曲線が記憶され、前記モータ制御装置の電源が切られた時点における前記熱的保護対象物の温度の推定値と前記電源オフ時間の長さとを前記放熱曲線に当てはめることにより、再度前記モータ制御装置の電源が入れられた時の前記熱的保護対象物の温度の推定値を算出し、当該推定値を、前記温度推定部における前記熱的保護対象物の温度の推定値の初期値として設定する推定値変更部と、
を備えたことを特徴とする、モータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−109814(P2011−109814A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262475(P2009−262475)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】