モータ制御装置
【課題】回転センサに故障が生じたときでも、モータの駆動を継続することができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】センサ故障判定部25は、レゾルバ2の故障の有無を判定する。レゾルバ2に故障が生じていない通常時は、レゾルバ2の出力を用いて、モータ1が駆動される。レゾルバ2の故障時には、位置推定部60が演算する推定回転位置を用いて、センサレス制御によって、モータ1が駆動される。また、センサレス制御が行われる場合において、低速域用位置推定部61によってロータ回転位置の推定が行われる低速域では、目標電流上限値が、一定以上のロータ位置推定精度が得られる値に制限される。
【解決手段】センサ故障判定部25は、レゾルバ2の故障の有無を判定する。レゾルバ2に故障が生じていない通常時は、レゾルバ2の出力を用いて、モータ1が駆動される。レゾルバ2の故障時には、位置推定部60が演算する推定回転位置を用いて、センサレス制御によって、モータ1が駆動される。また、センサレス制御が行われる場合において、低速域用位置推定部61によってロータ回転位置の推定が行われる低速域では、目標電流上限値が、一定以上のロータ位置推定精度が得られる値に制限される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置に関する。ブラシレスモータは、たとえば、電動パワーステアリング装置における操舵補助力の発生源として利用される。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータを駆動制御するためのモータ制御装置は、一般に、ロータの回転位置を検出するための回転センサの出力に応じてモータ電流の供給を制御するように構成されている。回転センサとしては、たとえば、ロータ回転位置(電気角)に対応した正弦波信号および余弦波信号を出力するレゾルバが用いられる。
回転センサに故障が生じると、ロータ回転位置を一意に特定することができなくなるから、ブラシレスモータの駆動制御を継続できなくなる。そこで、回転センサの故障時には、ブラシレスモータを停止させている。
【0003】
回転センサの故障には、回転センサ自身の故障、回転センサの信号線または給電線の断線故障が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−112282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動パワーステアリング装置においては、モータが停止すれば、操舵補助力が得られなくなるから、操舵フィーリングの悪化は避けられない。したがって、回転センサの故障時においても、可能な限りモータの駆動を継続できることが好ましい。
電動パワーステアリング装置の駆動源としてのモータに限らず、他の用途のブラシレスモータにおいても、回転センサの故障後も、可能な限りモータ駆動を継続することが好ましい。
【0006】
そこで、この発明の目的は、回転センサに故障が生じたときでも、モータの駆動を継続することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(1)を制御するためのモータ制御装置(10,10A)であって、前記ロータの回転位置を検出する回転センサ(2)と、この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段(12,12A)とを含む、モータ制御装置を提供する。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
【0008】
この構成によれば、回転センサに故障が生じると、回転センサの正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様でモータが制御される。これにより、回転センサの故障時における、いわゆる延命制御が可能になり、モータの回転を継続することができる。
具体的には、請求項1記載の発明では、前記制御手段は、前記モータに供給すべき目標電流値を設定する目標電流値設定手段(15,33)を含み、この目標電流値設定手段は、前記回転センサの正常時よりも前記回転センサの故障時の方が低くなるように定められた上限値以下の範囲で目標電流値を設定するものである。
【0009】
この構成によれば、回転センサの故障時には、目標電流値の上限値が低く設定される。そのため、回転センサを用いない手法によるロータ回転位置の推定を行いやすくなり、その結果、モータの駆動を継続することができる。
より具体的には、請求項2に記載されているように、前記モータ制御装置は、ステータに対してセンシング信号を注入するセンシング信号注入手段(65)と、センシング信号に対応するモータの応答(電流応答または電圧応答)を検出するモータ応答検出手段(68)と、モータ応答検出手段によって検出されたモータ応答からロータ回転位置を推定する位置推定手段(69)とをさらに含むものであってもよい。そして、前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記位置推定手段によって推定されたロータ回転位置に基づいて、前記モータを制御するものであってもよい。
【0010】
この構成の場合に、目標電流値の上限値が低く抑えられることによって、センシング信号に対するモータの応答を検出しやすくなる。それに応じて、ロータ位置の推定精度を高めることができるので、精度よく推定されたロータ位置に基づいてモータを駆動することができる。
前記センシング信号は、二相固定座標の原点まわりに回転する大きさ一定の回転電圧ベクトルを形成する信号であってもよい。この場合に、モータ応答検出手段は、センシング信号注入時のモータ電流を検出する電流応答検出手段であることが好ましい。
【0011】
センシング信号およびそれに対するモータ応答を用いたロータ位置推定では、最初のロータ推定位置が得られるまでにタイムラグが生じるから、制御開始初期には、位置不定期間が生じる。そこで、回転センサによる検出位置に基づくモータ制御から推定位置に基づくモータ制御への移行初期には、移行直前に回転センサが検出した回転位置を初期値として位置推定演算を行うことが好ましい。
【0012】
請求項3記載の発明に係るモータ制御装置は、前記モータの誘起電圧に基づいて当該誘起電圧のゼロクロス点および前記ロータの回転速度を求め、これらのゼロクロス点および回転速度に基づいてロータの位相を推定する手段(35,36,37)をさらに含む。そして、前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記推定されたロータの位相に基づいて、前記モータを矩形波駆動する。
【0013】
この構成によれば、モータの誘起電圧に基づいて、この誘起電圧のゼロクロス点およびロータの回転速度が求められ、これらに基づいてロータの位相が推定される。そして、この推定された位相に基づいて、モータの矩形波駆動が行われる。こうして、回転センサ故障後の延命制御を行うことができる。
モータの誘起電圧が得られないときには、モータの相電流(目標電流値)をゼロとすればよい。これにより、外力が与えられたときに、モータがスムーズに回転し、それに応じて誘起電圧が生じる。この誘起電圧から、そのゼロクロス点およびロータ回転速度を推定できるので、その後は、モータを回転駆動することができる。
【0014】
モータに加えられる外力は、たとえば、電動パワーステアリング装置においては、車両の操向のための操作部材から与えられてもよい。つまり、ステアリング操作によってモータが回転すると、それに応じて誘起電圧が生じるので、この誘起電圧を利用して、モータの矩形波駆動を行うことができる。
回転センサの故障は、既知の手段によって検出可能である。たとえば、回転センサの出力信号が伝送される信号線を電源電圧にプルアップまたはグランド電位にプルダウンしておき、回転センサの出力信号が導出されなくなったときに、当該信号線に電源電圧またはグランド電位が現れるようにしておけばよい。これにより、信号線の電位が電源電圧またはグランド電位に固定されたことに基づいて、回転センサ(信号線の断線および短絡故障を含む)の故障を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図2】モータの構成、ならびに高周波電圧ベクトルおよび電流ベクトルの回転を説明するための図である。
【図3】駆動回路の構成を説明するための電気回路図である。
【図4】図4Aおよび図4Bは、通電パターン駆動部が生成する制御信号の一例を示す波形図である。
【図5】前記参考形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】この発明の第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図8】高周波電圧ベクトルの印加によるロータ位相角推定動作を説明するための図である。
【図9】位置推定部の構成を説明するためのブロック図である。
【図10】低速域用位置推定部の構成例を説明するためのブロック図である。
【図11】高速域用位置推定部の構成例を示すブロック図である。
【図12】外乱オブザーバおよびこれに関連する構成の一例を説明するためのブロック図である。
【図13】基本目標電流値の制限を説明するための特性図である。
【図14】前記第2の実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図15】この発明の第3の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図16】前記第3の実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この電動パワーステアリング装置は、車両のステアリングホイールに加えられる操作トルクを検出するトルクセンサ7と、車両の速度を検出する車速センサ8と、車両の舵取り機構3に操舵補助力を与えるモータ1と、このモータ1を駆動制御するモータ制御装置10とを備えている。モータ制御装置10は、トルクセンサ7が検出する操作トルクおよび車速センサ8が検出する車速に応じてモータ1を駆動することによって、操舵状況に応じた適切な操舵補助を実現する。モータ1は、たとえば、三相ブラシレスモータであり、図2(a)に図解的に示すように、界磁としてのロータ50と、U相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53を含むステータ55とを備えている。モータ1は、ロータの外部にステータを配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを配置したアウターロータ型のものであってもよい。
【0017】
モータ制御装置10は、電流検出部11、信号処理部としてのマイクロコンピュータ12、および駆動回路13を有する。このモータ制御装置10に、モータ1内のロータの回転位置を検出するレゾルバ2(回転センサ)とともに、前述のトルクセンサ7および車速センサ8が接続されている。
電流検出部11はモータ1のステータ巻線51,52,53を流れる電流を検出する。より具体的には、電流検出部11は、3相(U相、V相およびW相)のステータ巻線51,52,53における相電流をそれぞれ検出する電流検出器11u,11v,11wを有する。
【0018】
マイクロコンピュータ12は、プログラム処理(ソフトウェア処理)によって実現される複数の機能処理部を備えている。これらの複数の機能処理部には、基本目標電流値演算部15、dq軸目標電流値演算部16、dq軸電流演算部17、d軸偏差演算部18d、q軸偏差演算部18q、dq軸電圧指令値演算部19、電圧指令値座標変換部20、PWM(パルス幅変調)制御部21、位置算出部22、通電パターン駆動部24、センサ故障判定部25、切換え部26、トルク判定部27、トルク方向判定部28、偏差演算部29およびPI制御部30などが含まれている。
【0019】
駆動回路13は、インバータ回路で構成され、PWM制御部21または通電パターン駆動部24からの制御信号が、切換え部26から与えられるようになっている。この制御信号によって制御されることにより、駆動回路13は、車載バッテリ等の電源(図示せず)からの電力を、モータ1のU相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53に供給する。
【0020】
位置算出部22は、レゾルバ2の出力信号に基づいて、モータ1のロータ50の回転位置(電気角)θを算出する。
基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7により検知される操作トルクと、車速センサ8により検出される車速とに基づいて、モータ1の基本目標電流値I*を演算する。基本目標電流値I*は、たとえば、操作トルクの大きさが大きいほど大きく、車速が小さい程大きくなるように定められる。
【0021】
基本目標電流値演算部15により演算された基本目標電流値I*はdq軸目標電流値演算部16に入力される。dq軸目標電流値演算部16は、d軸方向の磁界を生成するためのd軸目標電流値Id*と、q軸方向の磁界を生成するためのq軸目標電流値Iq*とを演算する。ただし、d軸とは、モータ1のロータ50の有する界磁の磁束方向に沿う軸であり、q軸とは、d軸およびロータ回転軸に直交する軸である。dq座標平面はロータ50の回転方向に沿う平面であり、d軸およびq軸は、ロータ50とともに回転する回転座標系を規定する(図2参照)。dq軸目標電流値演算部16における演算は公知の演算式を用いて行うことができる。
【0022】
電流検出部11から出力される相電流Iu,Iv,Iw(以下、まとめていうときには「三相検出電流Iuvw」という。)はdq軸電流演算部17に入力される。dq軸電流演算部17は、位置算出部22によって算出された回転位置θに基づいて、相電流Iu,Iv,Iwを座標変換することにより、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iq(モータ電流値としての検出電流値)を演算する。dq軸電流演算部17における演算は公知の演算式を用いて行うことができる。
【0023】
d軸偏差演算部18dは、d軸目標電流値Id*とd軸電流Idとの間の偏差(d軸偏差)δIdを求める。同様に、q軸偏差演算部18qは、q軸目標電流値Iq*とq軸電流Iqとの間の偏差(q軸偏差)δIqを求める。
dq軸電圧指令値演算部19は、d軸偏差δIdに対応するd軸電圧指令値Vd*とq軸偏差δIqに対応するq軸電圧指令値Vq*とを求める。
【0024】
電圧指令値座標変換部20は、位置算出部22によって算出された回転位置θに基づいて、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*の座標変換を行い、U相ステータ巻線51、V相ステータ巻線52およびW相ステータ巻線53にそれぞれ印加すべき印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。電圧指令値座標変換部20における演算は公知の演算式を用いて行えばよい。
【0025】
PWM制御部21は、印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するデューティ比を有するパルス信号である各相のPWM制御信号を生成する。このPWM信号が切換え部26を介して駆動回路13に与えられることにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*に対応する電圧が駆動回路13から各相のステータ巻線51,52,53に印加され、ロータ50の回転力が発生する。
【0026】
通電パターン駆動部24は、120度通電方式による所定の通電パターンに従ってモータ1を駆動するための制御信号を生成する。通電パターン駆動部24は、PWMデューティ設定部24aを備えている。通電パターン駆動部24は、PWMデューティ設定部24aによって設定されたデューティでパルス幅変調された矩形波駆動信号を生成する。
センサ故障判定部25は、レゾルバ2の故障の有無を判定する。たとえば、センサ故障判定部25は、レゾルバ2の信号線2aに導出される信号を監視することによって、レゾルバ2の故障、信号線2aの断線故障、信号線2aの接地故障を検出することができる。より具体的には、レゾルバ2とモータ制御装置10との間の信号線2aをプルアップ抵抗を介して電源電位に接続したり、プルダウン抵抗を介して接地電位に接続したりする構成をとることができる。この場合、信号線2aが断線すると、当該信号線2aには、レゾルバ2からの信号(正弦信号または余弦信号)が導出されなくなり、代わりに、当該信号線2aは、電源電位または接地電位に固定される。そこで、センサ故障判定部25は、信号線2aが電源電位または接地電位に固定されているかどうかを判定することで、レゾルバ2の故障(信号線の故障を含む)の有無を判定することができる。むろん、レゾルバ2の故障検出には、その他の公知の方法を適用してもよい。
【0027】
切換え部26は、センサ故障判定部25が故障なしと判定している通常状態においては、PWM制御部21からの制御信号を駆動回路13に供給する。一方、センサ故障判定部25が故障ありと判定している故障状態においては、切換え部26は、通電パターン駆動部24が生成する制御信号を駆動回路13に供給する。
トルク判定部27は、トルクセンサ7によって検出される操作トルクの大きさを所定のトルク閾値(たとえば、7Nm)と比較し、その比較結果を通電パターン駆動部24に与える。トルク閾値は、通電パターン駆動部24によって所定の通電パターンでモータ1を駆動するときに、脱調が生じるおそれのない範囲で可能な限り大きな値に定められる。
【0028】
トルク方向判定部28は、トルクセンサ7によって検出される操作トルクの方向が右回りトルクか、左回りトルクかを判定し、その判定結果を通電パターン駆動部24に与える。ただし、右回り方向とは、舵取り車輪を右方向に転舵させる方向に対応し、左回り方向とは、舵取り車輪を左方向に転舵させる方向に対応するものとする。
偏差演算部29は、基本目標電流値演算部15によって設定される基本目標電流値I*と、UVW/dq座標変換部17が生成するq軸電流値Iqを変換部31で変換して得られる相電流振幅(検出電流値)I(後述の式(2)参照。I=−√(2/3)Iq)との偏差δI(=I*−I)を求める。
【0029】
PI制御部30は、偏差δIに対する比例積分制御を行うことによって、印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を求める。
通電パターン駆動部24に備えられたPWMデューティ設定部24aは、PI制御部30によって演算される印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じたPWMデューティを設定する。
【0030】
図3は、駆動回路13の具体的な構成を説明するための電気回路図である。モータ1のU相ステータ巻線51、V相ステータ巻線52およびW相ステータ巻線53に対して、U相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwが駆動回路13から与えられるようになっている。
駆動回路13は、U相に対応した直列回路40Uと、V相に対応した直列回路40Vと、W相に対応した直列回路40Wとを備え、これらが電源(車載バッテリ。図示せず)に対して並列に接続されている。直列回路40Uは、ハイサイドパワースイッチング素子41Uと、ローサイドパワースイッチング素子42Uとを直列に接続し、これらの間の接続点43Uをモータ1のU相ステータ巻線51に接続して構成されている。同様に、直列回路40Vは、ハイサイドパワースイッチング素子41Vと、ローサイドパワースイッチング素子42Vとを直列に接続し、これらの間の接続点43Vをモータ1のV相ステータ巻線52に接続して構成されている。また、直列回路40Wは、ハイサイドパワースイッチング素子41Wと、ローサイドパワースイッチング素子42Wとを直列に接続し、これらの間の接続点43Wをモータ1のW相ステータ巻線53に接続して構成されている。切換え部26からのPWM制御信号は、必要に応じて増幅されて、パワースイッチング素子41U,42U;41V,42V;41W,42Wの各ゲートに与えられるようになっている。
【0031】
dq軸電圧指令値演算部19は、正弦波駆動のための電圧指令値Vd*,Vq*を生成し、それに応じた制御信号がPWM制御部21から生成される。したがって、PWM制御部21が生成した制御信号が切換え部26から駆動回路13に供給されるときには、モータ1のU相、V相およびW相ステータ巻線51,52,53に正弦波状の相電流Iu,Iv,Iwが流れるように、モータ1が正弦波駆動される。
【0032】
図4Aおよび図4Bは、通電パターン駆動部24が生成する制御信号の一例を示す波形図であり、図4Aは、モータ1から右回り方向のトルクを発生させるべきときの波形(通電パターン)を示し、図4Bはモータ1から左まわり方向のトルクを発生させるべきときの波形(通電パターン)を示す。
通電パターン駆動部24は、各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wに対して、それぞれ120度の電気角の期間に渡って、PWMパルスからなる制御信号を出力する。各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41WにPWMパルスが与えられる120度の期間は、120度ずつ位相がずれている。つまり、ハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wは、120度ずつ位相がずらされた各120度の期間に、循環的にPWM制御される。このPWM制御される各120度の期間に、PWMデューティに応じた電圧がモータ1の各相に印加される。
【0033】
一方、各相のローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wは、各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41WがPWM制御される期間から電気角で60度シフトされた120度の期間に渡ってオン状態とされ、残余の期間はオフ状態とされる。したがって、各相のローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wがオン状態となる120度の期間は、120度ずつ位相がずれている。つまり、ローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wは、120度ずつ位相がずらされた各120度の期間に、循環的にオン状態となる。
【0034】
各相において、ハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wおよびローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wのいずれもがオフ状態とされる期間には、対応する相のステータ巻線には誘起電圧のみが現れる。
図4Aに示す右回り通電パターン波形では、U相駆動波形に対して120度だけV相駆動波形の位相が遅れ、V相駆動波形に対して120度だけW相駆動波形の位相が遅れているのが分かる。これに対して、図4Bに示す左回り通電パターン波形では、W相駆動波形に対して120だけV相駆動波形の位相が遅れ、V相駆動波形に対して120度だけU相駆動波形の位相が遅れているのが分かる。
【0035】
図5は、マイクロコンピュータ12が所定の制御周期毎に繰り返し実行する制御内容を説明するためのフローチャートである。マイクロコンピュータ12は、トルクセンサ7、車速センサ8、レゾルバ2および電流検出部11の各出力信号を取り込む(ステップS1)。基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7が検出した操作トルクおよび車速センサ8が検出した車速に基づいて、基本目標電流値I*を演算する(ステップS2)。一方、センサ故障判定部25は、信号線2aに導出される信号に基づいて、レゾルバ2の故障の有無を判定する(ステップS3)。
【0036】
レゾルバ2に故障がなければ(ステップS3:NO)、通常の制御が実行される(ステップS4)。より具体的には、dq軸目標電流値演算部16によってd軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*が設定される。また、電流検出部11が検出する三相検出電流Iuvwが、dq軸電流演算部17で座標変換され、d軸検出電流Idおよびq軸検出電流Iqが求められる。d軸偏差演算部18dおよびq軸偏差演算部18qは、d軸電流偏差δId(=Id*−Id)およびq軸電流偏差δIq(=Iq*−Iq)をそれぞれ求める。dq軸電圧指令値演算部19は、電流偏差δId,δIqに対するPI(比例積分)演算等を行うことにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を生成する。これらが電圧指令値座標変換部20において座標変換されることによって、UVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が生成される。これらの電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するPWM制御信号がPWM制御部21によって生成される。切換え部26は、このPWM制御信号を駆動回路13に供給する。dq軸電流演算部17および電圧指令値座標変換部20における座標変換演算のために、位置算出部22によって算出される回転位置θが用いられる。
【0037】
一方、センサ故障判定部25によって、レゾルバ2に故障が生じていると判定されると(ステップS3:YES)、トルク判定部27は、操作トルクが所定のトルク閾値(たとえば、7Nm)以下かどうかを判定する(ステップS5)。操作トルクがトルク閾値以下であれば(ステップS5:YES)、トルク方向判定部28は、トルクセンサ7の出力信号に基づいて、操作トルクの方向が右回り方向か左回り方向かを判定する(ステップS6)。操作トルク方向が右回り方向であれば、通電パターン駆動部24は、右回り通電パターン(図4A参照)に従う矩形波駆動信号を生成し(ステップS7)、操作トルク方向が左回り方向であれば、通電パターン駆動部24は、左回り通電パターン(図4B参照)に従う矩形波駆動信号を生成する(ステップS8)。
【0038】
このとき、PWMデューティ設定部24aは、PI制御部30によって求められた電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するデューティを設定する。この設定されたデューティでパルス幅変調されたPWM制御信号が通電パターン駆動部24から生成されることになる。切換え部26は、このPWM制御信号を駆動回路13に供給する。つまり、図4Aおよび図4Bに示されているように、各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wが、120度ずつ位相がずれた各120度の期間に循環的にPWM制御され、この各120度の期間において、前記設定されたデューティに応じた電圧がモータ1の各相に印加される。
【0039】
一方、操作トルクがトルク閾値を超えている場合(ステップS5:NO)には、通電パターン駆動部24は、制御信号を生成しない。これにより、モータ1が停止される。操作トルクがトルク閾値を超えるほど大きいときには、一定の通電パターンでの駆動では、モータ1が脱調するおそれがある。そこで、この参考形態では、通電パターン駆動部24によって所定の通電パターンでモータ1を駆動するときには、操作トルクがトルク閾値以下であることを条件としている。換言すれば、トルク閾値は、図4Aおよび図4Bに示す所定の通電パターンによる駆動でモータ1の脱調を生じさせることなく正常に駆動することができる範囲で可能な限り大きな値に定められている。
【0040】
以上のように、この参考形態によれば、レゾルバ2に故障が生じた場合には、通電パターン駆動部24が生成する所定の通電パターンの矩形波駆動信号によって、120度通電方式による矩形波駆動が行われる。これにより、モータ1の回転を継続することができるので、舵取り機構3に対して操舵補助力を与えることができる。
また、レゾルバ2が正常のときには正弦波駆動が行われるのに対して、レゾルバ2に故障が生じているときには、矩形波駆動が行われるので、故障時には、トルクリップルが生じることになる。これにより、運転者に対して、異常発生を報知することができ、早期修理を促すことができる。
【0041】
図6は、この発明の第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。この図6において、前述の図1に示された各部に対応する部分には、同一の参照符号を付して示す。この実施形態は、誘起電圧検出部35、回転速度推定部36および位相推定部37が備えられており、トルク判定部27およびトルク方向判定部28が備えられていない点が、前述の参考形態とは異なる。
【0042】
誘起電圧検出部35は、モータ1の各相の誘起電圧を所定のサンプリング周期毎に測定する。より具体的には、各相のステータ巻線51,52,53に電圧が印加されない期間(各相のハイサイドおよびローサイドのパワースイッチング素子がいずれもオフとなる期間。図4Aおよび図4B参照)に、当該巻線に誘導される電圧を検出する。
回転速度推定部36は、誘起電圧検出部35によって検出される誘起電圧から、ロータの回転速度を推定する。たとえば、隣接する2つのサンプリング点での誘起電圧の変化を正弦波にフィッティングすることによって、ロータ回転速度を推定することができる。
【0043】
位相推定部37は、誘起電圧検出部35によって検出される誘起電圧および回転速度推定部36によって推定されるロータ回転速度に基づいて、ロータの位相(電気角)を推定する。具体的には、所定のサンプリング周期で検出される誘起電圧を正弦波にフィッティングすることによって、誘起電圧の正負が切り換わるゼロクロス点を推定できる。こうして推定されるゼロクロス点からの経過時間およびロータ回転速度に基づいて、ロータの位相が推定される。この推定された位相に基づいて、通電パターン駆動部24は、相切換えタイミングを求める。通電パターン駆動部24は、求められた相切換えタイミングに基づいて、各相の矩形波駆動信号の立ち上げおよび立ち下げを行う。より具体的には、図4Aおよび図4Bに示されているように、60度毎の位相で駆動回路13のパワースイッチング素子のオン/オフパターンを切り換える。
【0044】
このように、この実施形態によれば、レゾルバ2の故障時には、オフ相の誘起電圧から推定されるゼロクロス点およびロータ回転速度に基づいてロータの位相が推定され、この推定されたロータの位相に基づいて、120度通電方式の矩形波駆動により、モータ1を駆動することができる。したがって、レゾルバ2が故障した後においても、モータ1を継続して駆動することができ、操舵補助を継続できる。しかも、参考形態とは異なり、操作トルクによる制限もない。
【0045】
レゾルバ2の故障時において、モータ1が回転していないときには、誘起電圧検出部35は誘起電圧を検出することができない。この場合には、切換え部26をPWM制御部21側に切り換えるとともに、基本目標電流値演算部15によって、基本目標電流値I*=0に設定すればよい。そして、基本目標電流値I*がゼロに維持されている状態でステアリングホイールが操作されると、モータ1が外力によって回転される結果、誘起電圧が生じる。そこで、所定値以上の誘起電圧が誘起電圧検出部35によって検出されたことに応答して、切換え部26を通電パターン駆動部24側に切り換えればよい。これにより、その後は、通電パターン駆動部24が生成するPWM制御信号によって、モータ1を制御できる。
【0046】
図7は、この発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この図7において、前述の図1に示された各部に対応する部分には、同一の参照符号を付して示す。
モータ制御装置10Aは、マイクロコンピュータ12Aと、このマイクロコンピュータ12Aによって制御され、モータ1に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)13と、モータ1の各相のステータ巻線51〜53に流れる電流を検出する電流検出部11とを備えている。
【0047】
マイクロコンピュータ12Aは、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本目標電流値演算部15と、dq軸目標電流値演算部16と、PI(比例積分)制御部19Aと、電圧指令値生成部19Bと、γδ/αβ座標変換部20Aと、αβ/UVW座標変換部20Bと、PWM制御部21と、UVW/αβ座標変換部17Aと、αβ/γδ座標変換部17Bと、偏差演算部18と、位置算出部22と、回転速度演算部23と、センサ故障判定部25と、制限部33と、位置推定部60と、センシング信号発生部65と、切換え部66とを備えている。
【0048】
基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7により検知される操作トルクと、車速センサ8により検出される車速とに基づいて、モータ1の基本目標電流値I*を演算する。基本目標電流値I*は、たとえば、操作トルクの大きさが大きいほど大きく、車速が小さい程大きくなるように定められる。
制限部33は、センサ故障判定部25によってレゾルバ2の故障が生じていると判定されたときに、基本目標電流値I*に対して制限を加える。
【0049】
dq軸目標電流値演算部16は、基本目標電流値I*に基づいて、モータ1のロータ磁極方向に沿うd軸電流成分の目標値(d軸目標電流値Id*)と、d軸に直交するq軸電流成分の目標値(q軸目標電流値Iq*)とを生成する。以下、これらをまとめていうときには、「目標電流値Idq」という。
モータ1のU相、V相およびW相に与えるべき電流(正弦波電流)の振幅を表す基本目標電流値I*を用いると、d軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*は、次式(1)(2)のように表される。
【0050】
【数1】
したがって、dq軸目標電流値演算部16は、d軸目標電流値Id*=0を生成する一方で、トルクセンサ7によって検出される操作トルクに応じたq軸目標電流値Iq*を生成する。
【0051】
電流検出部11は、モータ1のU相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwを検出する(以下、これらをまとめていうときには「三相検出電流Iuvw」という)。その検出値は、UVW/αβ座標変換部17Aに与えられる。
UVW/αβ座標変換部17Aは、三相検出電流Iuvwを、二相固定座標系(α−β)上での電流IαおよびIβ(以下、これらをまとめていうときには「二相検出電流Iαβ」という。)に座標変換する。二相固定座標系(α−β)とは、ロータ50の回転中心を原点として、ロータ50の回転平面内にα軸およびこれに直交するβ軸を定めた固定座標系である(図2参照)。座標変換された二相検出電流Iαβは、αβ/γδ座標変換部17Bに与えられる。
【0052】
αβ/γδ座標変換部17Bは、二相検出電流Iαβを、制御上のロータ回転位置θ^(以下、「制御回転位置θ^」という。)に従う二相回転座標系(γ−δ)上での電流IγおよびIδ(以下、これらをまとめていうときには「二相検出電流Iγδ」という。)に座標変換する。二相回転座標系(γ−δ)は、制御回転位置θ^にロータ50がある場合に、ロータ磁極方向に沿うγ軸と、このγ軸に直交するδ軸とによって規定される回転座標系である。制御回転位置θ^に誤差がなく、実際のロータ回転位置と一致しているとき、二相回転座標系(d−q)と二相回転座標系(γ−δ)とは一致する。制御回転位置θ^は、位置算出部22または位置推定部60によって演算され、切換え部66によって選択されたロータ回転位置である。
【0053】
二相検出電流Iγδは、偏差演算部18に与えられるようになっている。この偏差演算部18は、d軸目標電流値Id*に対するγ軸電流Iγの偏差、およびq軸目標電流値Iq*に対するδ軸電流Iδの偏差を演算する。これらの偏差がPI制御部19Aに与えられてそれぞれPI演算処理を受ける。そして、これらの演算結果に応じて、電圧指令値生成部19Bによって、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*(以下、これらをまとめていうときには「二相電圧指令値Vγδ」という。)が生成されて、γδ/αβ座標変換部20Aに与えられる。
【0054】
γδ/αβ座標変換部20Aは、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を、二相固定座標系(α−β)の電圧指令値であるα軸電圧指令値Vα*およびβ軸電圧指令値Vβ*(以下、これらをまとめていうときには「二相電圧指令値Vαβ」という。)に座標変換する。この二相電圧指令値Vαβは、αβ/UVW座標変換部20Bに与えられる。
【0055】
αβ/UVW座標変換部20Bは、α軸電圧指令値Vα*およびβ軸電圧指令値Vβ*を三相固定座標系の電圧指令値、すなわち、U相、V相およびW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(以下、これらをまとめていうときには「三相電圧指令値Vuvw」という。)に変換する。
PWM制御部21は、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じて制御されたデューティ比の駆動信号を生成して駆動回路13に与える。これにより、モータ1の各相には、該当する相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じたデューティ比で電圧が印加されることになる。
【0056】
このような構成によって、舵取り機構3に結合された操作部材としてのステアリングホイール(図示せず)に操作トルクが加えられると、これがトルクセンサ7によって検出される。そして、その検出された操作トルクおよび車速に応じた目標電流値Idqがdq軸目標電流値演算部16によって生成される。この目標電流値Idqと二相検出電流Iγδとの偏差が偏差演算部18によって求められ、この偏差をゼロに導くようにPI制御部19AによるPI演算が行われる。この演算結果に対応した二相電圧指令値Vγδが電圧指令値生成部19Bによって生成され、これが、座標変換部20A,20Bを経て三相電圧指令値Vuvwに変換される。そして、PWM制御部21の働きによって、その三相電圧指令値Vuvwに応じたデューティ比で駆動回路13が動作することによって、モータ1が駆動され、目標電流値Idqに対応したアシストトルクが舵取り機構3に与えられることになる。こうして、操作トルクおよび車速に応じて操舵補助を行うことができる。電流検出部11によって検出される三相検出電流Iuvwは、座標変換部17A,17Bを経て、目標電流値Idqに対応するように二相回転座標系(γ−δ)で表された二相検出電流Iγδに変換された後に、偏差演算部18に与えられる。
【0057】
回転座標系と固定座標系との間での座標変換のためには、ロータ50の回転位置(位相角、すなわち電気角)θが必要である。この回転位置を表す制御回転位置θ^が、レゾルバ2の出力を用いて位置算出部22で生成されるか、または位置推定部60での推定演算によって推定されるようになっている。そして、いずれかによって演算された制御回転位置θ^が、切換え部66から、αβ/γδ座標変換部17Bおよびγδ/αβ座標変換部20Aに与えられるようになっている。
【0058】
回転速度演算部23は、切換え部26から所定の制御周期毎に与えられる制御回転位置θ^の差分Δθ^を求めることにより、ロータ50の回転速度ω^(=Δθ^)を演算する。この回転速度ωは、制限部33および位置推定部60において用いられる。
センシング信号発生部65は、ロータ50の停止時および極低速回転時(250rpm以下)においてロータ50の回転位置θを推定するために、モータ1に探査信号(センシング信号)を印加するセンシング信号印加手段として機能する。このセンシング信号発生部65は、モータ1の定格周波数に比較して十分に高い周波数(たとえば、200Hz)の高周波正弦電圧(図8(b)参照)を、センシング信号として、モータ1のU相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53に印加するための電圧指令値を生成し、PWM制御部21に与える。より具体的には、ロータ50の回転を引き起こすことのない程度のデューティ比の高周波電圧の印加によって、V−W相通電、W−U相通電およびU−V相通電を順次繰り返させることにより、ロータ50の回転中心まわりで空間的に回転する高周波電圧ベクトルを印加する。この高周波電圧ベクトルは、ロータ50の回転中心を原点とする固定座標であるαβ座標の原点まわりに定速回転する一定の大きさの電圧ベクトルである(図2(a)参照)。
【0059】
センシング信号発生部65は、ロータ50の停止時および極低速回転時において、前述のような高周波電圧の印加のための指令値を生成してPWM制御部21に与える。ロータ50の回転が十分に速くなると(たとえば、250rpmを超えると)、センシング信号発生部65は、高周波電圧指令の発生を停止する。
図9は、位置推定部60の構成を説明するためのブロック図である。位置推定部60は、モータ1に流れるモータ電流と、モータ1に印加されるモータ電圧とに基づいて、ロータ50の回転位置を推定するものである。この位置推定部60は、低速域用位置推定部61と、高速域用位置推定部62と、推定位置切換え部63とを備えている。
【0060】
低速域用位置推定部61は、モータ1の停止時および極低速回転時(たとえば、0〜100rpm)におけるロータ50の位置推定に適合するように設計されており、UVW/αβ座標変換部17Aが出力する二相検出電流Iαβと、γδ/αβ座標変換部20Aが生成する二相電圧指令値Vαβとに基づいて、ロータ50の回転位置を推定する。以下、低速域用位置推定部61によって推定されるロータ回転位置を「低速推定回転位置θL」という。
【0061】
高速域用位置推定部62は、モータ1の高速回転時(たとえば、200rpm以上)におけるロータ50の位置推定に適合するように設計されており、UVW/αβ座標変換部17Aが出力する二相検出電流Iαβと、γδ/αβ座標変換部20Aが生成する二相電圧指令値Vαβとに基づいて、ロータ50の回転位置を推定する。以下、高速域用位置推定部62によって推定されるロータ回転位置を「高速推定回転位置θH」という。
【0062】
推定位置切換え部63は、回転速度演算部23によって求められる回転速度ωに基づいて、低速推定回転位置θLおよび高速推定回転位置θHのいずれかを選択し、制御回転位置θ^として出力する。位置推定部60には、低速域用位置推定部61によって求められた低速推定回転位置θLと、高速域用位置推定部62によって求められた高速推定回転位置θHとをロータ回転速度ωに応じて内分して内分推定回転位置θMを求める内分処理部がさらに備えられていてもよい。この場合には、推定位置切換え部63は、低速推定回転位置θL、高速推定回転位置θHおよび内分推定回転位置θMのうちのいずれか一つを回転速度ωに基づいて選択して出力する。
【0063】
図10は、低速域用位置推定部61の構成例を説明するためのブロック図である。低速域用位置推定部61は、高周波応答抽出部68と、ロータ位置推定部69とを備えている。高周波応答抽出部68には、UVW/αβ座標変換部17Aが出力する二相検出電流Iαβが与えられるようになっている。高周波応答抽出部68は、たとえば、ハイパスフィルタであり、センシング信号発生部65が発生するセンシング信号(高周波電圧)の周波数に対応した周波数成分をUVW/αβ座標変換部17Aの出力信号から抽出するフィルタ処理を実行する。ロータ位置推定部69は、高周波応答抽出部68によって抽出される高周波成分と、二相電圧指令値Vαβとに基づいて、ロータ回転位置を推定する。
【0064】
具体的には、センシング信号発生部65からのセンシング信号の印加によって、図2(a)に示すように、αβ座標の原点まわりにロータ50の回転方向に沿って回転する高周波電圧ベクトル(大きさは一定)が形成される。高周波電圧ベクトルは、ロータ50の回転速度に対して十分に高速に回転する電圧ベクトルである。この高周波電圧ベクトルの印加に伴って、U,V,W相のステータ巻線51,52,53に電流が流れる。この三相の電流の大きさおよび方向をαβ座標上で表した電流ベクトルは、原点まわりに回転することになる。
【0065】
ロータ50のインダクタンスは、d軸方向とq軸方向とで異なる値をとる。そのため、電流ベクトルの大きさは、d軸に近い方向の場合に大きく、q軸に近い方向の場合に小さくなる。その結果、図2(b)に示すように、電流ベクトルの終点は、αβ座標上において、ロータ50のd軸方向を長軸とする楕円形の軌跡54を描く。
したがって、電流ベクトルの大きさは、ロータ50のN極方向およびS極方向において極大値を有する。すなわち、電圧ベクトルの大きさが図8(b)のように変化するのに対して、電流ベクトルの大きさは、図8(a)に示すように、その1周期中に、2つの極大値を有する。この場合、電圧ベクトルの大きさが十分に大きければ、ステータの磁気飽和の影響により、ロータ50のN極側の方がS極側よりもインダクタンスが小さくなり、N極方向の電流ベクトルの大きさが最大値をとることになる(曲線L1参照)。
【0066】
そこで、十分に大きな高周波電圧ベクトルを印加してN極に対応した電流ベクトルの極大を特定しておき、その後は、大きさを小さくした高周波電圧ベクトルを印加し、電流ベクトルの極大値に基づいて、ロータ50の位相を推定することができる。より具体的には、大きさが最大値をとるときの電流ベクトルのα軸成分Iαおよびβ軸成分Iβ(すなわち、二相検出電流Iαβ)により、低速推定回転位置θLは、θ=Tan-1(Iβ/Iα)として求めることができる。
【0067】
ただし、この実施形態では、低速推定回転位置θLは、電流ベクトルの大きさが極大値をとるときの二相電圧指令値Vα*,Vβ*を用いて、次の(3)式に従って求められるようになっている。これは、高周波電圧ベクトルは大きさが一定であるので、演算が容易であり、演算結果も正確だからである。
θL=Tan-1(Vβ*/Vα*)…(3)
図11は、高速域用位置推定部62の構成例を示すブロック図である。高速域用位置推定部62は、信号処理部70と、ロータ位置推定部73とを備えている。
【0068】
信号処理部70は、二相電圧指令値Vαβの高周波成分を除去する低域通過フィルタで構成された電圧フィルタ71と、二相検出電流Iαβの高周波成分を除去する低域通過フィルタで構成された電流フィルタ72とを有している。
ロータ位置推定部73には、信号処理部70によって信号処理(フィルタリング)された後の二相電圧指令値Vαβおよび二相検出電流Iαβが与えられるようになっている。ロータ位置推定部73は、モータ1の数学モデルであるモータモデルに基づき、モータ1の誘起電圧を外乱として推定する外乱オブザーバ75と、この外乱オブザーバ75が出力する推定誘起電圧から高周波成分を除去する低域通過フィルタで構成された推定値フィルタ76と、この推定値フィルタ76が出力する推定誘起電圧(フィルタリング後の値)に基づいて、ロータ50の高速推定回転位置θHを生成する推定位置生成部77とを有している。そして、信号処理部70の電圧フィルタ71によってフィルタリングされた二相電圧指令値Vαβと、電流フィルタ72によってフィルタリングされた二相検出電流Iαβとが、ロータ位置推定部73の外乱オブザーバ75にそれぞれ入力されるようになっている。
【0069】
図12は、外乱オブザーバ75およびこれに関連する構成の一例を説明するためのブロック図である。モータ1の数学モデルであるモータモデルは、たとえば、(R+pL)-1と表すことができる。ただし、Rは電機子巻線抵抗、Lはαβ軸インダクタンス、pは微分演算子である。モータ1には、二相電圧指令値Vαβと誘起電圧Eαβ(α軸誘起電圧Eαおよびβ軸誘起電圧Eβ)とが印加されると考えることができる。
【0070】
外乱オブザーバ75は、二相検出電流Iαβを入力としてモータ電圧を推定する逆モータモデル(モータモデルの逆モデル)78と、この逆モータモデル78によって推定されるモータ電圧と二相電圧指令値Vαβとの偏差を求める電圧偏差演算部79とで構成することができる。電圧偏差演算部79は、二相電圧指令値Vαβに対する外乱を求めることになるが、図12から明らかなとおり、この外乱は誘起電圧Eαβに相当する推定値E^αβ(α軸誘起電圧推定値E^αおよびβ軸誘起電圧推定値E^β(以下、まとめて「推定誘起電圧E^αβ」という。)になる。逆モータモデル78は、たとえば、R+pLで表される。
【0071】
このように、この実施形態では、外乱オブザーバ75は、二相固定座標系の電圧指令値Vαβおよび検出電流Iαβを用いて推定誘起電圧E^αβを求める構成であるので、モータ1の回転速度の影響を受けることなく誘起電圧を推定できる。これにより、回転速度変動の生じやすい電動パワーステアリング装置に使用されるモータ1のロータ回転位置推定精度の向上に寄与できる。
【0072】
推定値フィルタ76は、たとえば、a/(s+a)で表される低域通過フィルタで構成することができる。aは、設計パラメータであり、この設計パラメータaにより、推定値フィルタ76の遮断周波数ωcが定まる。
誘起電圧Eαβは、次の(4)式で表すことができる。ただし、KEは誘起電圧定数、θはロータ回転位置、ωはロータ回転速度である。
【0073】
【数2】
したがって、推定誘起電圧E^αβが求まれば、次の(5)式に従って、高速推定回転位置θHが求まる。この演算が、推定位置生成部77によって行われるようになっている。
【0074】
【数3】
低速域用位置推定部61による位置推定のためには、モータ電流の応答からセンシング信号成分が抽出される必要がある。しかし、モータ電流には、トルクを発生させるための電流成分(トルク電流成分)が含まれているから、トルク電流成分が大きいときには、センシング信号成分の抽出効率が悪くなる。その結果、位置推定精度が悪くなる。
【0075】
そこで、この実施形態では、レゾルバ2に故障が生じて位置推定部60によるロータ位置推定を行う場合には、低速域用位置推定部61による位置推定が行われる低回転速度領域において目標電流値を制限するようにしている。
具体的には、センサ故障判定部25によってレゾルバ2の故障が生じたと判定されると、制限部33の働きによって目標電流値の上限値(以下、「目標電流上限値」という。)が図13に示すように制限される。モータ1の回転速度ωが所定の閾値ω1以下の低速領域において、目標電流上限値が、第1上限値I1に制限される。閾値ω1よりも大きな閾値ω2以上の高速領域においては、目標電流上限値は、第1上限値I1よりも大きな第2上限値I2とされている。ただし、閾値ω2よりも大きな所定速度ω3以上の回転速度領域では、モータ1の逆起電力のためにモータ電流が低下するので、それに応じて、回転速度ωの増加に伴ってリニアに減少する特性で目標電流上限値が定められており、この特性に従って基本目標電流値演算部15における基本目標電流値I*の設定が行われる。
【0076】
閾値ω1,ω2の間の遷移領域では、回転速度ωの増加に伴って、第1上限値I1から第2上限値I2までリニアに増加するように、目標電流上限値が定められる。制限部33は、閾値ω2以下の回転速度領域において、通常時(図13の破線参照)よりも低い目標電流上限値を定めるものである。
たとえば、閾値ω1以下の低速領域におけるロータ位置の推定は低速域用位置推定部61によって行われ、閾値ω2を超える速度領域(中・高速領域)におけるロータ位置の推定は、高速域用位置推定部62によって行われる。
【0077】
したがって、低速域用位置推定部61による位置推定が行われるときには、目標電流上限値が第1上限値I1とされる。これにより、モータ電流の応答からセンシング信号成分を効率的に抽出することができる状態に維持することができるから、低速域における位置推定精度を確保することができる。
レゾルバ2に故障が生じていない通常時には、閾値ω2以下の領域の目標電流上限値は、図13において破線で示すように第2上限値I2に定められる。すなわち、制限部33による制限は行われず、基本目標電流値演算部15は、第2上限値I2を上限として基本目標電流値I*を定める。
【0078】
なお、制限部33による目標電流上限値の制限は、図13において二点鎖線L11で示す特性に従って行われてもよい。すなわち、目標電流上限値をいずれの回転速度においても第1上限値I1以下に制限するようにしてもよい。
図14は、マイクロコンピュータ12Aが所定の制御周期毎に繰り返し実行する処理を説明するためのフローチャートである。マイクロコンピュータ12Aは、トルクセンサ7、車速センサ8、レゾルバ2、および電流検出部11の各出力信号を取り込む(ステップS11)。基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7が検出した操作トルクおよび車速センサ8が検出した車速に基づいて、基本目標電流値I*を演算する(ステップS12)。一方、センサ故障判定部25は、信号線2aに導出される信号に基づいて、レゾルバ2の故障の有無を判定する(ステップS13)。
【0079】
レゾルバ2に故障がなければ(ステップS13:NO)、切換え部66によって、位置算出部22が算出する制御回転位置θ^(レゾルバ出力による制御回転位置)が選択されて(ステップS14)、レゾルバ2の出力信号を用いながら基本目標電流値I*に基づいてモータ1を駆動する通常の制御が実行される(ステップS15)。より具体的には、dq軸目標電流値演算部16によってd軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*が設定される。また、電流検出部11が検出する相電流Iuvwが、座標変換部17A,17Bで座標変換され、γ軸電流Iγおよびδ軸電流Iδが求められる。偏差演算部18は、d軸電流偏差δId(=Id*−Iγ)およびq軸電流偏差δIq(=Iq*−Iδ)を求める。PI制御部19Aは、電流偏差δId,δIqに対するPI(比例積分)演算等を行い、このPI演算に基づいて、電圧指令値生成部19Bによって、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*が生成される。これらが座標変換部20A,20Bにおいて座標変換されることによって、UVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が生成される。これらの電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するPWM制御信号がPWM制御部21によって生成される。αβ/γδ座標変換部17Bおよびγδ/αβ座標変換部20Aにおける座標変換演算には、レゾルバ2の出力信号に基づいて位置算出部22によって算出される制御回転位置θ^が用いられる(ステップS14)。
【0080】
一方、センサ故障判定部25によって、レゾルバ2に故障が生じていると判定されると(ステップS13:YES)、切換え部66によって、位置推定部60が演算する制御回転位置θ^(推定回転位置)が選択され(ステップS16)、さらに、制限部33による制限処理が行われる(ステップS17,S18)。すなわち、基本目標電流値演算部15によって演算された基本目標電流値I*が目標電流上限値(図13参照。回転速度ωに応じた値)以上かどうかが判断される(ステップS17)。基本目標電流値I*が目標電流上限値未満であれば(ステップS17:NO)、基本目標電流値I*をそのまま用いる。すなわち、位置推定部60が演算する制御回転位置θ^を用いつつ、基本目標電流値I*に基づいてモータ1が制御される(ステップS15)。これに対して、基本目標電流値I*が目標電流上限値以上であるときには(ステップS17:YES)、制限部33の働きによって、基本目標電流値I*に目標電流上限値が代入される(ステップS18)。したがって、目標電流上限値に基づいて、位置推定部60が演算する制御回転位置θ^を用いつつ、モータ1が制御される。
【0081】
位置推定部60の推定位置切換え部63は、回転速度演算部23が求めるモータ回転速度ωが閾値ω1以下のときには、推定位置切換え部63は、低速域用位置推定部61によって推定された低速推定回転位置θLを出力する。また、モータ回転速度が閾値ω1を超えているときには、推定位置切換え部63は、高速域用位置推定部62よって推定された高速推定回転位置θHを出力する。
【0082】
このように、この実施形態では、レゾルバ2に故障が発生したときには、位置推定部60によって求められる推定回転位置を制御回転位置θ^として用いたセンサレス制御(レゾルバ2の出力信号を用いずに行うモータ制御)に切り換えられる。これにより、レゾルバ2が故障した後にも、モータ1の駆動を継続でき、操舵補助力を舵取り機構3に与えることができる。また、センサレス制御が行われる場合において、低速域用位置推定部61によってロータ回転位置の推定が行われる低速域では、目標電流上限値が、一定以上のロータ位置推定精度が得られる値I1に制限されるようになっている。これにより、低速域においても、ロータ回転位置を精度よく推定することができるので、モータ1をスムーズに回転させることができる。これにより、良好な操舵フィーリングを実現できる。
【0083】
低速域用位置推定部61によるロータ回転位置の推定には、ある程度の時間が必要である。すなわち、低速域用位置推定部61を用いたセンサレス制御のためには、センシング信号発生部65からセンシング信号を発生させ、それに対するモータ電流の応答を検出し、それに基づいてロータ回転位置を演算する一連の処理が必要となる。これらの処理のために、制御開始初期には、位置不定期間が生じる。この問題は、レゾルバ2の故障が検出されてセンサレス制御に移行した直後の期間において、その直前にレゾルバ2の出力信号から得られた制御回転位置θ^を、センサレス制御のための初期値として用いることによって解決できる。
【0084】
高速域用位置推定部62による位置推定処理では、モータ1の誘起電圧を用いているので、速やかにロータ回転位置を推定できる。したがって、センサレス制御に移行した直後におけるロータ回転速度ωが閾値ω1以下の場合(低速域用位置推定部61による演算が行われる場合)に限って、レゾルバ2の出力に基づいて最後(故障判定直前)に演算された制御回転位置θ^をセンサレス制御の初期値として用いることとしてもよい。
【0085】
図15は、この発明の第3の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この図15において、前述の図7に示された各部に対応する部分には、同一の参照符号を付して示す。
この実施形態では、位置推定部60Aには、低速域用位置推定部が備えられておらず、誘起電圧に基づいてロータ回転位置を推定する高速域用位置推定部62だけが備えられている。また、レゾルバ2の故障時の制御態様を定めるための制御則決定器80が備えられている。
【0086】
ロータが停止しているか、またはロータ回転速度が低い場合には、誘起電圧が小さいので、ロータ位置を推定することができない。そこで、この実施形態では、誘起電圧が小さいときには、目標電流値をゼロとし、ステアリングホイールの回転によってモータ1から誘起電圧が発生したときに、この誘起電圧に基づいてロータ回転位置を推定するようにしている。
【0087】
図16は、マイクロコンピュータ12Aの働きを説明するためのフローチャートである。この図16において、前述の図14に示された各ステップと同様の処理が行われるステップは、図14中の符号と同符号を付して示す。
マイクロコンピュータ12Aは、トルクセンサ7、車速センサ8、レゾルバ2、および電流検出部11の各出力信号を取り込む(ステップS11)。基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7が検出した操作トルクおよび車速センサ8が検出した車速に基づいて、基本目標電流値I*を演算する(ステップS12)。一方、センサ故障判定部25は、信号線2aに導出される信号に基づいて、レゾルバ2の故障の有無を判定する(ステップS13)。
【0088】
レゾルバ2に故障のない通常時には(ステップS13:NO)、レゾルバ2の出力信号を用いて位置算出部22が演算する制御回転位置θ^が切換え部66によって選択される(ステップS14)。そして、この制御回転位置θ^を用いつつ基本目標電流値I*に基づいて、モータ1の制御が実行される(ステップS15)。
一方、センサ故障判定部25によって、レゾルバ2に故障が生じていると判定されると(ステップS13:YES)、切換え部66は、位置推定部60Aの推定演算によって求められる制御回転位置θ^(推定回転位置)を選択する(ステップS16)。
【0089】
また、制御則決定器80は、基本目標電流値演算部15から生成される基本目標電流値I*をゼロとする(ステップS20)。これにより、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、モータ1の誘起電圧に等しくなる。そこで、制御則決定器80は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(誘起電圧)からモータ1の誘起電圧を求める(ステップS21)。そして、制御則決定器80は、求めた誘起電圧を所定の閾値Vthと比較する(ステップS22)。この閾値Vthは、外乱オブザーバ75(図11参照)による誘起電圧の推定が可能な下限値に近い値とされる。
【0090】
誘起電圧が閾値Vthよりも大きいときには(ステップS22:YES)、制御則決定器80は、高速域用位置推定部62によってロータ回転位置の推定を行わせるとともに(ステップS23)、基本目標電流値演算部15には、操作トルクおよび車速に応じた基本目標電流値I*を演算させる(ステップS24)。この演算を省いて、ステップS12で求めた基本目標電流値I*をそのまま用いてもよい。こうして求められた基本目標電流値I*に基づいて、高速域用位置推定部62によって演算された制御回転位置θ^を用いつつ、モータ1の制御が行われる(ステップS15)。
【0091】
誘起電圧が閾値Vth以下のときには(ステップS22:NO)、高速域用位置推定部62によるロータ回転位置推定演算は行われず、基本目標電流値I*がゼロに維持される。すなわち、基本目標電流値I*をゼロとした状態で、モータ1の駆動が行われる(ステップS15)。これにより、モータ1が操舵抵抗となることを回避できる。
基本目標電流値I*がゼロに維持されている状態でステアリングホイールが操作されると、モータ1が外力によって回転される結果、誘起電圧が生じる。この誘起電圧が閾値Vthを超えると(ステップS22:YES)、高速域用位置推定部62によって制御回転位置θ^が演算され(ステップS23)、この演算された制御回転位置θ^に基づいてモータ1が駆動されることになる(ステップS15)。このとき、基本目標電流値I*は、操作トルクおよび車速に応じた有意値に設定される(ステップS24)。
【0092】
このようにして、この実施形態によれば、レゾルバ2が故障した後でも、高速域用位置推定部62による位置推定が可能な大きさの誘起電圧が生じている限りにおいて、モータ1を駆動することができ、舵取り機構3に対して操舵補助力を与えることができる。
以上、この発明の3つの実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の第2の実施形態(図7)では、基本目標電流値を制限するようにしているが、モータ1に供給される実電流を制限するようにしても同様の効果が得られる。
【0093】
また、前述の第2の実施形態において、センシング信号が三相電圧指令値VUVWに重畳しているが、電圧指令値生成部19Bが生成する電圧指令値Vγδまたはγδ/αβ座標変換部20Aが生成する二相電圧指令値Vαβにセンシング信号を重畳する構成としてもよい。
さらにまた、前述の実施形態では、電動パワーステアリング装置の駆動源としてのモータ1を制御するために本発明が適用された場合について説明したが、この発明は、電動パワーステアリング装置以外の用途のモータ制御にも適用することができる。
【0094】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
特許請求の範囲に記載した発明以外にも、この明細書および図面の記載から、以下のような特徴が抽出され得る。
A1.ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(1)を制御するためのモータ制御装置(10,10A)であって、前記ロータの回転位置を検出する回転センサ(2)と、この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段(12,12A)とを含む、モータ制御装置である。なお、括弧内の英数字は前述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、同じ。
【0095】
この構成によれば、回転センサに故障が生じると、回転センサの正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様でモータが制御される。これにより、回転センサの故障時における、いわゆる延命制御が可能になり、モータの回転を継続することができる。
2.前記モータが、車両の舵取り機構に転舵力を付与する転舵用モータ(1)であり、前記制御手段は、前記回転センサの故障時に、車両の操向のための操作部材に加えられる操作トルクが一定値以下であることを条件に、所定の通電パターンで前記モータを駆動するものである(24,S5〜S8)、A1項に記載のモータ制御装置。
【0096】
転舵用モータは、操作部材に加えられる操作トルクに応じた転舵力を舵取り機構に付与する。したがって、操作部材に大きな操作トルクが加えられると、それに応じて、転舵用モータには大きな電流が供給され、大きな転舵トルクが転舵用モータから発生する。回転センサによる正確な回転位置が検出されていないときには、所定の通電パターンによるモータ駆動で大きなトルクを発生させようとすると、モータが脱調するおそれがある。そこで、この発明では、操作部材に加えられる操作トルクが一定値以下であることを条件に、所定の通電パターンによって、モータを駆動するようにしている。こうして、回転センサの故障時において、脱調が生じない条件下で、所定の通電パターンを用いて、モータの駆動が継続される。
【0097】
A3.前記制御手段は、前記モータに供給すべき目標電流値を設定する目標電流値設定手段(15,33)を含み、この目標電流値設定手段は、前記回転センサの正常時よりも前記回転センサの故障時の方が低くなるように定められた上限値以下の範囲で目標電流値を設定するものである、A1に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、回転センサの故障時には、目標電流値の上限値が低く設定される。そのため、回転センサを用いない手法によるロータ回転位置の推定を行いやすくなり、その結果、モータの駆動を継続することができる。
【0098】
より具体的には、前記モータ制御装置は、ステータに対してセンシング信号を注入するセンシング信号注入手段(65)と、センシング信号に対応するモータの応答(電流応答または電圧応答)を検出するモータ応答検出手段(68)と、モータ応答検出手段によって検出されたモータ応答からロータ回転位置を推定する位置推定手段(69)とを含むものであってもよい。
【0099】
この構成の場合に、目標電流値の上限値が低く抑えられることによって、センシング信号に対するモータの応答を検出しやすくなる。それに応じて、ロータ位置の推定精度を高めることができるので、精度よく推定されたロータ位置に基づいてモータを駆動することができる。
前記センシング信号は、二相固定座標の原点まわりに回転する大きさ一定の回転電圧ベクトルを形成する信号であってもよい。この場合に、モータ応答検出手段は、センシング信号注入時のモータ電流を検出する電流応答検出手段であることが好ましい。
【0100】
センシング信号およびそれに対するモータ応答を用いたロータ位置推定では、最初のロータ推定位置が得られるまでにタイムラグが生じるから、制御開始初期には、位置不定期間が生じる。そこで、回転センサによる検出位置に基づくモータ制御から推定位置に基づくモータ制御への移行初期には、移行直前に回転センサが検出した回転位置を初期値として位置推定演算を行うことが好ましい。
【0101】
A4.前記モータの誘起電圧に基づいて当該誘起電圧のゼロクロス点および前記ロータの回転速度を求め、これらのゼロクロス点および回転速度に基づいてロータの位相を推定する手段(35,36,37)をさらに含み、前記制御手段は、前記推定されたロータの位相に基づいて、前記モータを矩形波駆動するものである、A1に記載のモータ制御装置。
【0102】
この構成によれば、モータの誘起電圧に基づいて、この誘起電圧のゼロクロス点およびロータの回転速度が求められ、これらに基づいてロータの位相が推定される。そして、この推定された位相に基づいて、モータの矩形波駆動が行われる。こうして、回転センサ故障後の延命制御を行うことができる。
モータの誘起電圧が得られないときには、モータの相電流(目標電流値)をゼロとすればよい。これにより、外力が与えられたときに、モータがスムーズに回転し、それに応じて誘起電圧が生じる。この誘起電圧から、そのゼロクロス点およびロータ回転速度を推定できるので、その後は、モータを回転駆動することができる。
【0103】
モータに加えられる外力は、たとえば、電動パワーステアリング装置においては、車両の操向のための操作部材から与えられてもよい。つまり、ステアリング操作によってモータが回転すると、それに応じて誘起電圧が生じるので、この誘起電圧を利用して、モータの矩形波駆動を行うことができる。
回転センサの故障は、既知の手段によって検出可能である。たとえば、回転センサの出力信号が伝送される信号線を電源電圧にプルアップまたはグランド電位にプルダウンしておき、回転センサの出力信号が導出されなくなったときに、当該信号線に電源電圧またはグランド電位が現れるようにしておけばよい。これにより、信号線の電位が電源電圧またはグランド電位に固定されたことに基づいて、回転センサ(信号線の断線および短絡故障を含む)の故障を検出できる。
【符号の説明】
【0104】
1…モータ、2…レゾルバ、10,10A…モータ制御装置、12,12A…マイクロコンピュータ、50…ロータ、55…ステータ
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置に関する。ブラシレスモータは、たとえば、電動パワーステアリング装置における操舵補助力の発生源として利用される。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータを駆動制御するためのモータ制御装置は、一般に、ロータの回転位置を検出するための回転センサの出力に応じてモータ電流の供給を制御するように構成されている。回転センサとしては、たとえば、ロータ回転位置(電気角)に対応した正弦波信号および余弦波信号を出力するレゾルバが用いられる。
回転センサに故障が生じると、ロータ回転位置を一意に特定することができなくなるから、ブラシレスモータの駆動制御を継続できなくなる。そこで、回転センサの故障時には、ブラシレスモータを停止させている。
【0003】
回転センサの故障には、回転センサ自身の故障、回転センサの信号線または給電線の断線故障が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−112282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動パワーステアリング装置においては、モータが停止すれば、操舵補助力が得られなくなるから、操舵フィーリングの悪化は避けられない。したがって、回転センサの故障時においても、可能な限りモータの駆動を継続できることが好ましい。
電動パワーステアリング装置の駆動源としてのモータに限らず、他の用途のブラシレスモータにおいても、回転センサの故障後も、可能な限りモータ駆動を継続することが好ましい。
【0006】
そこで、この発明の目的は、回転センサに故障が生じたときでも、モータの駆動を継続することができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(1)を制御するためのモータ制御装置(10,10A)であって、前記ロータの回転位置を検出する回転センサ(2)と、この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段(12,12A)とを含む、モータ制御装置を提供する。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
【0008】
この構成によれば、回転センサに故障が生じると、回転センサの正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様でモータが制御される。これにより、回転センサの故障時における、いわゆる延命制御が可能になり、モータの回転を継続することができる。
具体的には、請求項1記載の発明では、前記制御手段は、前記モータに供給すべき目標電流値を設定する目標電流値設定手段(15,33)を含み、この目標電流値設定手段は、前記回転センサの正常時よりも前記回転センサの故障時の方が低くなるように定められた上限値以下の範囲で目標電流値を設定するものである。
【0009】
この構成によれば、回転センサの故障時には、目標電流値の上限値が低く設定される。そのため、回転センサを用いない手法によるロータ回転位置の推定を行いやすくなり、その結果、モータの駆動を継続することができる。
より具体的には、請求項2に記載されているように、前記モータ制御装置は、ステータに対してセンシング信号を注入するセンシング信号注入手段(65)と、センシング信号に対応するモータの応答(電流応答または電圧応答)を検出するモータ応答検出手段(68)と、モータ応答検出手段によって検出されたモータ応答からロータ回転位置を推定する位置推定手段(69)とをさらに含むものであってもよい。そして、前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記位置推定手段によって推定されたロータ回転位置に基づいて、前記モータを制御するものであってもよい。
【0010】
この構成の場合に、目標電流値の上限値が低く抑えられることによって、センシング信号に対するモータの応答を検出しやすくなる。それに応じて、ロータ位置の推定精度を高めることができるので、精度よく推定されたロータ位置に基づいてモータを駆動することができる。
前記センシング信号は、二相固定座標の原点まわりに回転する大きさ一定の回転電圧ベクトルを形成する信号であってもよい。この場合に、モータ応答検出手段は、センシング信号注入時のモータ電流を検出する電流応答検出手段であることが好ましい。
【0011】
センシング信号およびそれに対するモータ応答を用いたロータ位置推定では、最初のロータ推定位置が得られるまでにタイムラグが生じるから、制御開始初期には、位置不定期間が生じる。そこで、回転センサによる検出位置に基づくモータ制御から推定位置に基づくモータ制御への移行初期には、移行直前に回転センサが検出した回転位置を初期値として位置推定演算を行うことが好ましい。
【0012】
請求項3記載の発明に係るモータ制御装置は、前記モータの誘起電圧に基づいて当該誘起電圧のゼロクロス点および前記ロータの回転速度を求め、これらのゼロクロス点および回転速度に基づいてロータの位相を推定する手段(35,36,37)をさらに含む。そして、前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記推定されたロータの位相に基づいて、前記モータを矩形波駆動する。
【0013】
この構成によれば、モータの誘起電圧に基づいて、この誘起電圧のゼロクロス点およびロータの回転速度が求められ、これらに基づいてロータの位相が推定される。そして、この推定された位相に基づいて、モータの矩形波駆動が行われる。こうして、回転センサ故障後の延命制御を行うことができる。
モータの誘起電圧が得られないときには、モータの相電流(目標電流値)をゼロとすればよい。これにより、外力が与えられたときに、モータがスムーズに回転し、それに応じて誘起電圧が生じる。この誘起電圧から、そのゼロクロス点およびロータ回転速度を推定できるので、その後は、モータを回転駆動することができる。
【0014】
モータに加えられる外力は、たとえば、電動パワーステアリング装置においては、車両の操向のための操作部材から与えられてもよい。つまり、ステアリング操作によってモータが回転すると、それに応じて誘起電圧が生じるので、この誘起電圧を利用して、モータの矩形波駆動を行うことができる。
回転センサの故障は、既知の手段によって検出可能である。たとえば、回転センサの出力信号が伝送される信号線を電源電圧にプルアップまたはグランド電位にプルダウンしておき、回転センサの出力信号が導出されなくなったときに、当該信号線に電源電圧またはグランド電位が現れるようにしておけばよい。これにより、信号線の電位が電源電圧またはグランド電位に固定されたことに基づいて、回転センサ(信号線の断線および短絡故障を含む)の故障を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図2】モータの構成、ならびに高周波電圧ベクトルおよび電流ベクトルの回転を説明するための図である。
【図3】駆動回路の構成を説明するための電気回路図である。
【図4】図4Aおよび図4Bは、通電パターン駆動部が生成する制御信号の一例を示す波形図である。
【図5】前記参考形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】この発明の第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図8】高周波電圧ベクトルの印加によるロータ位相角推定動作を説明するための図である。
【図9】位置推定部の構成を説明するためのブロック図である。
【図10】低速域用位置推定部の構成例を説明するためのブロック図である。
【図11】高速域用位置推定部の構成例を示すブロック図である。
【図12】外乱オブザーバおよびこれに関連する構成の一例を説明するためのブロック図である。
【図13】基本目標電流値の制限を説明するための特性図である。
【図14】前記第2の実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図15】この発明の第3の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図16】前記第3の実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、参考形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この電動パワーステアリング装置は、車両のステアリングホイールに加えられる操作トルクを検出するトルクセンサ7と、車両の速度を検出する車速センサ8と、車両の舵取り機構3に操舵補助力を与えるモータ1と、このモータ1を駆動制御するモータ制御装置10とを備えている。モータ制御装置10は、トルクセンサ7が検出する操作トルクおよび車速センサ8が検出する車速に応じてモータ1を駆動することによって、操舵状況に応じた適切な操舵補助を実現する。モータ1は、たとえば、三相ブラシレスモータであり、図2(a)に図解的に示すように、界磁としてのロータ50と、U相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53を含むステータ55とを備えている。モータ1は、ロータの外部にステータを配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを配置したアウターロータ型のものであってもよい。
【0017】
モータ制御装置10は、電流検出部11、信号処理部としてのマイクロコンピュータ12、および駆動回路13を有する。このモータ制御装置10に、モータ1内のロータの回転位置を検出するレゾルバ2(回転センサ)とともに、前述のトルクセンサ7および車速センサ8が接続されている。
電流検出部11はモータ1のステータ巻線51,52,53を流れる電流を検出する。より具体的には、電流検出部11は、3相(U相、V相およびW相)のステータ巻線51,52,53における相電流をそれぞれ検出する電流検出器11u,11v,11wを有する。
【0018】
マイクロコンピュータ12は、プログラム処理(ソフトウェア処理)によって実現される複数の機能処理部を備えている。これらの複数の機能処理部には、基本目標電流値演算部15、dq軸目標電流値演算部16、dq軸電流演算部17、d軸偏差演算部18d、q軸偏差演算部18q、dq軸電圧指令値演算部19、電圧指令値座標変換部20、PWM(パルス幅変調)制御部21、位置算出部22、通電パターン駆動部24、センサ故障判定部25、切換え部26、トルク判定部27、トルク方向判定部28、偏差演算部29およびPI制御部30などが含まれている。
【0019】
駆動回路13は、インバータ回路で構成され、PWM制御部21または通電パターン駆動部24からの制御信号が、切換え部26から与えられるようになっている。この制御信号によって制御されることにより、駆動回路13は、車載バッテリ等の電源(図示せず)からの電力を、モータ1のU相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53に供給する。
【0020】
位置算出部22は、レゾルバ2の出力信号に基づいて、モータ1のロータ50の回転位置(電気角)θを算出する。
基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7により検知される操作トルクと、車速センサ8により検出される車速とに基づいて、モータ1の基本目標電流値I*を演算する。基本目標電流値I*は、たとえば、操作トルクの大きさが大きいほど大きく、車速が小さい程大きくなるように定められる。
【0021】
基本目標電流値演算部15により演算された基本目標電流値I*はdq軸目標電流値演算部16に入力される。dq軸目標電流値演算部16は、d軸方向の磁界を生成するためのd軸目標電流値Id*と、q軸方向の磁界を生成するためのq軸目標電流値Iq*とを演算する。ただし、d軸とは、モータ1のロータ50の有する界磁の磁束方向に沿う軸であり、q軸とは、d軸およびロータ回転軸に直交する軸である。dq座標平面はロータ50の回転方向に沿う平面であり、d軸およびq軸は、ロータ50とともに回転する回転座標系を規定する(図2参照)。dq軸目標電流値演算部16における演算は公知の演算式を用いて行うことができる。
【0022】
電流検出部11から出力される相電流Iu,Iv,Iw(以下、まとめていうときには「三相検出電流Iuvw」という。)はdq軸電流演算部17に入力される。dq軸電流演算部17は、位置算出部22によって算出された回転位置θに基づいて、相電流Iu,Iv,Iwを座標変換することにより、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iq(モータ電流値としての検出電流値)を演算する。dq軸電流演算部17における演算は公知の演算式を用いて行うことができる。
【0023】
d軸偏差演算部18dは、d軸目標電流値Id*とd軸電流Idとの間の偏差(d軸偏差)δIdを求める。同様に、q軸偏差演算部18qは、q軸目標電流値Iq*とq軸電流Iqとの間の偏差(q軸偏差)δIqを求める。
dq軸電圧指令値演算部19は、d軸偏差δIdに対応するd軸電圧指令値Vd*とq軸偏差δIqに対応するq軸電圧指令値Vq*とを求める。
【0024】
電圧指令値座標変換部20は、位置算出部22によって算出された回転位置θに基づいて、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*の座標変換を行い、U相ステータ巻線51、V相ステータ巻線52およびW相ステータ巻線53にそれぞれ印加すべき印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。電圧指令値座標変換部20における演算は公知の演算式を用いて行えばよい。
【0025】
PWM制御部21は、印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するデューティ比を有するパルス信号である各相のPWM制御信号を生成する。このPWM信号が切換え部26を介して駆動回路13に与えられることにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*に対応する電圧が駆動回路13から各相のステータ巻線51,52,53に印加され、ロータ50の回転力が発生する。
【0026】
通電パターン駆動部24は、120度通電方式による所定の通電パターンに従ってモータ1を駆動するための制御信号を生成する。通電パターン駆動部24は、PWMデューティ設定部24aを備えている。通電パターン駆動部24は、PWMデューティ設定部24aによって設定されたデューティでパルス幅変調された矩形波駆動信号を生成する。
センサ故障判定部25は、レゾルバ2の故障の有無を判定する。たとえば、センサ故障判定部25は、レゾルバ2の信号線2aに導出される信号を監視することによって、レゾルバ2の故障、信号線2aの断線故障、信号線2aの接地故障を検出することができる。より具体的には、レゾルバ2とモータ制御装置10との間の信号線2aをプルアップ抵抗を介して電源電位に接続したり、プルダウン抵抗を介して接地電位に接続したりする構成をとることができる。この場合、信号線2aが断線すると、当該信号線2aには、レゾルバ2からの信号(正弦信号または余弦信号)が導出されなくなり、代わりに、当該信号線2aは、電源電位または接地電位に固定される。そこで、センサ故障判定部25は、信号線2aが電源電位または接地電位に固定されているかどうかを判定することで、レゾルバ2の故障(信号線の故障を含む)の有無を判定することができる。むろん、レゾルバ2の故障検出には、その他の公知の方法を適用してもよい。
【0027】
切換え部26は、センサ故障判定部25が故障なしと判定している通常状態においては、PWM制御部21からの制御信号を駆動回路13に供給する。一方、センサ故障判定部25が故障ありと判定している故障状態においては、切換え部26は、通電パターン駆動部24が生成する制御信号を駆動回路13に供給する。
トルク判定部27は、トルクセンサ7によって検出される操作トルクの大きさを所定のトルク閾値(たとえば、7Nm)と比較し、その比較結果を通電パターン駆動部24に与える。トルク閾値は、通電パターン駆動部24によって所定の通電パターンでモータ1を駆動するときに、脱調が生じるおそれのない範囲で可能な限り大きな値に定められる。
【0028】
トルク方向判定部28は、トルクセンサ7によって検出される操作トルクの方向が右回りトルクか、左回りトルクかを判定し、その判定結果を通電パターン駆動部24に与える。ただし、右回り方向とは、舵取り車輪を右方向に転舵させる方向に対応し、左回り方向とは、舵取り車輪を左方向に転舵させる方向に対応するものとする。
偏差演算部29は、基本目標電流値演算部15によって設定される基本目標電流値I*と、UVW/dq座標変換部17が生成するq軸電流値Iqを変換部31で変換して得られる相電流振幅(検出電流値)I(後述の式(2)参照。I=−√(2/3)Iq)との偏差δI(=I*−I)を求める。
【0029】
PI制御部30は、偏差δIに対する比例積分制御を行うことによって、印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を求める。
通電パターン駆動部24に備えられたPWMデューティ設定部24aは、PI制御部30によって演算される印加電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じたPWMデューティを設定する。
【0030】
図3は、駆動回路13の具体的な構成を説明するための電気回路図である。モータ1のU相ステータ巻線51、V相ステータ巻線52およびW相ステータ巻線53に対して、U相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwが駆動回路13から与えられるようになっている。
駆動回路13は、U相に対応した直列回路40Uと、V相に対応した直列回路40Vと、W相に対応した直列回路40Wとを備え、これらが電源(車載バッテリ。図示せず)に対して並列に接続されている。直列回路40Uは、ハイサイドパワースイッチング素子41Uと、ローサイドパワースイッチング素子42Uとを直列に接続し、これらの間の接続点43Uをモータ1のU相ステータ巻線51に接続して構成されている。同様に、直列回路40Vは、ハイサイドパワースイッチング素子41Vと、ローサイドパワースイッチング素子42Vとを直列に接続し、これらの間の接続点43Vをモータ1のV相ステータ巻線52に接続して構成されている。また、直列回路40Wは、ハイサイドパワースイッチング素子41Wと、ローサイドパワースイッチング素子42Wとを直列に接続し、これらの間の接続点43Wをモータ1のW相ステータ巻線53に接続して構成されている。切換え部26からのPWM制御信号は、必要に応じて増幅されて、パワースイッチング素子41U,42U;41V,42V;41W,42Wの各ゲートに与えられるようになっている。
【0031】
dq軸電圧指令値演算部19は、正弦波駆動のための電圧指令値Vd*,Vq*を生成し、それに応じた制御信号がPWM制御部21から生成される。したがって、PWM制御部21が生成した制御信号が切換え部26から駆動回路13に供給されるときには、モータ1のU相、V相およびW相ステータ巻線51,52,53に正弦波状の相電流Iu,Iv,Iwが流れるように、モータ1が正弦波駆動される。
【0032】
図4Aおよび図4Bは、通電パターン駆動部24が生成する制御信号の一例を示す波形図であり、図4Aは、モータ1から右回り方向のトルクを発生させるべきときの波形(通電パターン)を示し、図4Bはモータ1から左まわり方向のトルクを発生させるべきときの波形(通電パターン)を示す。
通電パターン駆動部24は、各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wに対して、それぞれ120度の電気角の期間に渡って、PWMパルスからなる制御信号を出力する。各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41WにPWMパルスが与えられる120度の期間は、120度ずつ位相がずれている。つまり、ハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wは、120度ずつ位相がずらされた各120度の期間に、循環的にPWM制御される。このPWM制御される各120度の期間に、PWMデューティに応じた電圧がモータ1の各相に印加される。
【0033】
一方、各相のローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wは、各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41WがPWM制御される期間から電気角で60度シフトされた120度の期間に渡ってオン状態とされ、残余の期間はオフ状態とされる。したがって、各相のローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wがオン状態となる120度の期間は、120度ずつ位相がずれている。つまり、ローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wは、120度ずつ位相がずらされた各120度の期間に、循環的にオン状態となる。
【0034】
各相において、ハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wおよびローサイドパワースイッチング素子42U,42V,42Wのいずれもがオフ状態とされる期間には、対応する相のステータ巻線には誘起電圧のみが現れる。
図4Aに示す右回り通電パターン波形では、U相駆動波形に対して120度だけV相駆動波形の位相が遅れ、V相駆動波形に対して120度だけW相駆動波形の位相が遅れているのが分かる。これに対して、図4Bに示す左回り通電パターン波形では、W相駆動波形に対して120だけV相駆動波形の位相が遅れ、V相駆動波形に対して120度だけU相駆動波形の位相が遅れているのが分かる。
【0035】
図5は、マイクロコンピュータ12が所定の制御周期毎に繰り返し実行する制御内容を説明するためのフローチャートである。マイクロコンピュータ12は、トルクセンサ7、車速センサ8、レゾルバ2および電流検出部11の各出力信号を取り込む(ステップS1)。基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7が検出した操作トルクおよび車速センサ8が検出した車速に基づいて、基本目標電流値I*を演算する(ステップS2)。一方、センサ故障判定部25は、信号線2aに導出される信号に基づいて、レゾルバ2の故障の有無を判定する(ステップS3)。
【0036】
レゾルバ2に故障がなければ(ステップS3:NO)、通常の制御が実行される(ステップS4)。より具体的には、dq軸目標電流値演算部16によってd軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*が設定される。また、電流検出部11が検出する三相検出電流Iuvwが、dq軸電流演算部17で座標変換され、d軸検出電流Idおよびq軸検出電流Iqが求められる。d軸偏差演算部18dおよびq軸偏差演算部18qは、d軸電流偏差δId(=Id*−Id)およびq軸電流偏差δIq(=Iq*−Iq)をそれぞれ求める。dq軸電圧指令値演算部19は、電流偏差δId,δIqに対するPI(比例積分)演算等を行うことにより、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を生成する。これらが電圧指令値座標変換部20において座標変換されることによって、UVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が生成される。これらの電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するPWM制御信号がPWM制御部21によって生成される。切換え部26は、このPWM制御信号を駆動回路13に供給する。dq軸電流演算部17および電圧指令値座標変換部20における座標変換演算のために、位置算出部22によって算出される回転位置θが用いられる。
【0037】
一方、センサ故障判定部25によって、レゾルバ2に故障が生じていると判定されると(ステップS3:YES)、トルク判定部27は、操作トルクが所定のトルク閾値(たとえば、7Nm)以下かどうかを判定する(ステップS5)。操作トルクがトルク閾値以下であれば(ステップS5:YES)、トルク方向判定部28は、トルクセンサ7の出力信号に基づいて、操作トルクの方向が右回り方向か左回り方向かを判定する(ステップS6)。操作トルク方向が右回り方向であれば、通電パターン駆動部24は、右回り通電パターン(図4A参照)に従う矩形波駆動信号を生成し(ステップS7)、操作トルク方向が左回り方向であれば、通電パターン駆動部24は、左回り通電パターン(図4B参照)に従う矩形波駆動信号を生成する(ステップS8)。
【0038】
このとき、PWMデューティ設定部24aは、PI制御部30によって求められた電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するデューティを設定する。この設定されたデューティでパルス幅変調されたPWM制御信号が通電パターン駆動部24から生成されることになる。切換え部26は、このPWM制御信号を駆動回路13に供給する。つまり、図4Aおよび図4Bに示されているように、各相のハイサイドパワースイッチング素子41U,41V,41Wが、120度ずつ位相がずれた各120度の期間に循環的にPWM制御され、この各120度の期間において、前記設定されたデューティに応じた電圧がモータ1の各相に印加される。
【0039】
一方、操作トルクがトルク閾値を超えている場合(ステップS5:NO)には、通電パターン駆動部24は、制御信号を生成しない。これにより、モータ1が停止される。操作トルクがトルク閾値を超えるほど大きいときには、一定の通電パターンでの駆動では、モータ1が脱調するおそれがある。そこで、この参考形態では、通電パターン駆動部24によって所定の通電パターンでモータ1を駆動するときには、操作トルクがトルク閾値以下であることを条件としている。換言すれば、トルク閾値は、図4Aおよび図4Bに示す所定の通電パターンによる駆動でモータ1の脱調を生じさせることなく正常に駆動することができる範囲で可能な限り大きな値に定められている。
【0040】
以上のように、この参考形態によれば、レゾルバ2に故障が生じた場合には、通電パターン駆動部24が生成する所定の通電パターンの矩形波駆動信号によって、120度通電方式による矩形波駆動が行われる。これにより、モータ1の回転を継続することができるので、舵取り機構3に対して操舵補助力を与えることができる。
また、レゾルバ2が正常のときには正弦波駆動が行われるのに対して、レゾルバ2に故障が生じているときには、矩形波駆動が行われるので、故障時には、トルクリップルが生じることになる。これにより、運転者に対して、異常発生を報知することができ、早期修理を促すことができる。
【0041】
図6は、この発明の第1の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。この図6において、前述の図1に示された各部に対応する部分には、同一の参照符号を付して示す。この実施形態は、誘起電圧検出部35、回転速度推定部36および位相推定部37が備えられており、トルク判定部27およびトルク方向判定部28が備えられていない点が、前述の参考形態とは異なる。
【0042】
誘起電圧検出部35は、モータ1の各相の誘起電圧を所定のサンプリング周期毎に測定する。より具体的には、各相のステータ巻線51,52,53に電圧が印加されない期間(各相のハイサイドおよびローサイドのパワースイッチング素子がいずれもオフとなる期間。図4Aおよび図4B参照)に、当該巻線に誘導される電圧を検出する。
回転速度推定部36は、誘起電圧検出部35によって検出される誘起電圧から、ロータの回転速度を推定する。たとえば、隣接する2つのサンプリング点での誘起電圧の変化を正弦波にフィッティングすることによって、ロータ回転速度を推定することができる。
【0043】
位相推定部37は、誘起電圧検出部35によって検出される誘起電圧および回転速度推定部36によって推定されるロータ回転速度に基づいて、ロータの位相(電気角)を推定する。具体的には、所定のサンプリング周期で検出される誘起電圧を正弦波にフィッティングすることによって、誘起電圧の正負が切り換わるゼロクロス点を推定できる。こうして推定されるゼロクロス点からの経過時間およびロータ回転速度に基づいて、ロータの位相が推定される。この推定された位相に基づいて、通電パターン駆動部24は、相切換えタイミングを求める。通電パターン駆動部24は、求められた相切換えタイミングに基づいて、各相の矩形波駆動信号の立ち上げおよび立ち下げを行う。より具体的には、図4Aおよび図4Bに示されているように、60度毎の位相で駆動回路13のパワースイッチング素子のオン/オフパターンを切り換える。
【0044】
このように、この実施形態によれば、レゾルバ2の故障時には、オフ相の誘起電圧から推定されるゼロクロス点およびロータ回転速度に基づいてロータの位相が推定され、この推定されたロータの位相に基づいて、120度通電方式の矩形波駆動により、モータ1を駆動することができる。したがって、レゾルバ2が故障した後においても、モータ1を継続して駆動することができ、操舵補助を継続できる。しかも、参考形態とは異なり、操作トルクによる制限もない。
【0045】
レゾルバ2の故障時において、モータ1が回転していないときには、誘起電圧検出部35は誘起電圧を検出することができない。この場合には、切換え部26をPWM制御部21側に切り換えるとともに、基本目標電流値演算部15によって、基本目標電流値I*=0に設定すればよい。そして、基本目標電流値I*がゼロに維持されている状態でステアリングホイールが操作されると、モータ1が外力によって回転される結果、誘起電圧が生じる。そこで、所定値以上の誘起電圧が誘起電圧検出部35によって検出されたことに応答して、切換え部26を通電パターン駆動部24側に切り換えればよい。これにより、その後は、通電パターン駆動部24が生成するPWM制御信号によって、モータ1を制御できる。
【0046】
図7は、この発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この図7において、前述の図1に示された各部に対応する部分には、同一の参照符号を付して示す。
モータ制御装置10Aは、マイクロコンピュータ12Aと、このマイクロコンピュータ12Aによって制御され、モータ1に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)13と、モータ1の各相のステータ巻線51〜53に流れる電流を検出する電流検出部11とを備えている。
【0047】
マイクロコンピュータ12Aは、CPUおよびメモリ(ROMおよびRAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本目標電流値演算部15と、dq軸目標電流値演算部16と、PI(比例積分)制御部19Aと、電圧指令値生成部19Bと、γδ/αβ座標変換部20Aと、αβ/UVW座標変換部20Bと、PWM制御部21と、UVW/αβ座標変換部17Aと、αβ/γδ座標変換部17Bと、偏差演算部18と、位置算出部22と、回転速度演算部23と、センサ故障判定部25と、制限部33と、位置推定部60と、センシング信号発生部65と、切換え部66とを備えている。
【0048】
基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7により検知される操作トルクと、車速センサ8により検出される車速とに基づいて、モータ1の基本目標電流値I*を演算する。基本目標電流値I*は、たとえば、操作トルクの大きさが大きいほど大きく、車速が小さい程大きくなるように定められる。
制限部33は、センサ故障判定部25によってレゾルバ2の故障が生じていると判定されたときに、基本目標電流値I*に対して制限を加える。
【0049】
dq軸目標電流値演算部16は、基本目標電流値I*に基づいて、モータ1のロータ磁極方向に沿うd軸電流成分の目標値(d軸目標電流値Id*)と、d軸に直交するq軸電流成分の目標値(q軸目標電流値Iq*)とを生成する。以下、これらをまとめていうときには、「目標電流値Idq」という。
モータ1のU相、V相およびW相に与えるべき電流(正弦波電流)の振幅を表す基本目標電流値I*を用いると、d軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*は、次式(1)(2)のように表される。
【0050】
【数1】
したがって、dq軸目標電流値演算部16は、d軸目標電流値Id*=0を生成する一方で、トルクセンサ7によって検出される操作トルクに応じたq軸目標電流値Iq*を生成する。
【0051】
電流検出部11は、モータ1のU相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwを検出する(以下、これらをまとめていうときには「三相検出電流Iuvw」という)。その検出値は、UVW/αβ座標変換部17Aに与えられる。
UVW/αβ座標変換部17Aは、三相検出電流Iuvwを、二相固定座標系(α−β)上での電流IαおよびIβ(以下、これらをまとめていうときには「二相検出電流Iαβ」という。)に座標変換する。二相固定座標系(α−β)とは、ロータ50の回転中心を原点として、ロータ50の回転平面内にα軸およびこれに直交するβ軸を定めた固定座標系である(図2参照)。座標変換された二相検出電流Iαβは、αβ/γδ座標変換部17Bに与えられる。
【0052】
αβ/γδ座標変換部17Bは、二相検出電流Iαβを、制御上のロータ回転位置θ^(以下、「制御回転位置θ^」という。)に従う二相回転座標系(γ−δ)上での電流IγおよびIδ(以下、これらをまとめていうときには「二相検出電流Iγδ」という。)に座標変換する。二相回転座標系(γ−δ)は、制御回転位置θ^にロータ50がある場合に、ロータ磁極方向に沿うγ軸と、このγ軸に直交するδ軸とによって規定される回転座標系である。制御回転位置θ^に誤差がなく、実際のロータ回転位置と一致しているとき、二相回転座標系(d−q)と二相回転座標系(γ−δ)とは一致する。制御回転位置θ^は、位置算出部22または位置推定部60によって演算され、切換え部66によって選択されたロータ回転位置である。
【0053】
二相検出電流Iγδは、偏差演算部18に与えられるようになっている。この偏差演算部18は、d軸目標電流値Id*に対するγ軸電流Iγの偏差、およびq軸目標電流値Iq*に対するδ軸電流Iδの偏差を演算する。これらの偏差がPI制御部19Aに与えられてそれぞれPI演算処理を受ける。そして、これらの演算結果に応じて、電圧指令値生成部19Bによって、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*(以下、これらをまとめていうときには「二相電圧指令値Vγδ」という。)が生成されて、γδ/αβ座標変換部20Aに与えられる。
【0054】
γδ/αβ座標変換部20Aは、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を、二相固定座標系(α−β)の電圧指令値であるα軸電圧指令値Vα*およびβ軸電圧指令値Vβ*(以下、これらをまとめていうときには「二相電圧指令値Vαβ」という。)に座標変換する。この二相電圧指令値Vαβは、αβ/UVW座標変換部20Bに与えられる。
【0055】
αβ/UVW座標変換部20Bは、α軸電圧指令値Vα*およびβ軸電圧指令値Vβ*を三相固定座標系の電圧指令値、すなわち、U相、V相およびW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(以下、これらをまとめていうときには「三相電圧指令値Vuvw」という。)に変換する。
PWM制御部21は、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じて制御されたデューティ比の駆動信号を生成して駆動回路13に与える。これにより、モータ1の各相には、該当する相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じたデューティ比で電圧が印加されることになる。
【0056】
このような構成によって、舵取り機構3に結合された操作部材としてのステアリングホイール(図示せず)に操作トルクが加えられると、これがトルクセンサ7によって検出される。そして、その検出された操作トルクおよび車速に応じた目標電流値Idqがdq軸目標電流値演算部16によって生成される。この目標電流値Idqと二相検出電流Iγδとの偏差が偏差演算部18によって求められ、この偏差をゼロに導くようにPI制御部19AによるPI演算が行われる。この演算結果に対応した二相電圧指令値Vγδが電圧指令値生成部19Bによって生成され、これが、座標変換部20A,20Bを経て三相電圧指令値Vuvwに変換される。そして、PWM制御部21の働きによって、その三相電圧指令値Vuvwに応じたデューティ比で駆動回路13が動作することによって、モータ1が駆動され、目標電流値Idqに対応したアシストトルクが舵取り機構3に与えられることになる。こうして、操作トルクおよび車速に応じて操舵補助を行うことができる。電流検出部11によって検出される三相検出電流Iuvwは、座標変換部17A,17Bを経て、目標電流値Idqに対応するように二相回転座標系(γ−δ)で表された二相検出電流Iγδに変換された後に、偏差演算部18に与えられる。
【0057】
回転座標系と固定座標系との間での座標変換のためには、ロータ50の回転位置(位相角、すなわち電気角)θが必要である。この回転位置を表す制御回転位置θ^が、レゾルバ2の出力を用いて位置算出部22で生成されるか、または位置推定部60での推定演算によって推定されるようになっている。そして、いずれかによって演算された制御回転位置θ^が、切換え部66から、αβ/γδ座標変換部17Bおよびγδ/αβ座標変換部20Aに与えられるようになっている。
【0058】
回転速度演算部23は、切換え部26から所定の制御周期毎に与えられる制御回転位置θ^の差分Δθ^を求めることにより、ロータ50の回転速度ω^(=Δθ^)を演算する。この回転速度ωは、制限部33および位置推定部60において用いられる。
センシング信号発生部65は、ロータ50の停止時および極低速回転時(250rpm以下)においてロータ50の回転位置θを推定するために、モータ1に探査信号(センシング信号)を印加するセンシング信号印加手段として機能する。このセンシング信号発生部65は、モータ1の定格周波数に比較して十分に高い周波数(たとえば、200Hz)の高周波正弦電圧(図8(b)参照)を、センシング信号として、モータ1のU相、V相およびW相のステータ巻線51,52,53に印加するための電圧指令値を生成し、PWM制御部21に与える。より具体的には、ロータ50の回転を引き起こすことのない程度のデューティ比の高周波電圧の印加によって、V−W相通電、W−U相通電およびU−V相通電を順次繰り返させることにより、ロータ50の回転中心まわりで空間的に回転する高周波電圧ベクトルを印加する。この高周波電圧ベクトルは、ロータ50の回転中心を原点とする固定座標であるαβ座標の原点まわりに定速回転する一定の大きさの電圧ベクトルである(図2(a)参照)。
【0059】
センシング信号発生部65は、ロータ50の停止時および極低速回転時において、前述のような高周波電圧の印加のための指令値を生成してPWM制御部21に与える。ロータ50の回転が十分に速くなると(たとえば、250rpmを超えると)、センシング信号発生部65は、高周波電圧指令の発生を停止する。
図9は、位置推定部60の構成を説明するためのブロック図である。位置推定部60は、モータ1に流れるモータ電流と、モータ1に印加されるモータ電圧とに基づいて、ロータ50の回転位置を推定するものである。この位置推定部60は、低速域用位置推定部61と、高速域用位置推定部62と、推定位置切換え部63とを備えている。
【0060】
低速域用位置推定部61は、モータ1の停止時および極低速回転時(たとえば、0〜100rpm)におけるロータ50の位置推定に適合するように設計されており、UVW/αβ座標変換部17Aが出力する二相検出電流Iαβと、γδ/αβ座標変換部20Aが生成する二相電圧指令値Vαβとに基づいて、ロータ50の回転位置を推定する。以下、低速域用位置推定部61によって推定されるロータ回転位置を「低速推定回転位置θL」という。
【0061】
高速域用位置推定部62は、モータ1の高速回転時(たとえば、200rpm以上)におけるロータ50の位置推定に適合するように設計されており、UVW/αβ座標変換部17Aが出力する二相検出電流Iαβと、γδ/αβ座標変換部20Aが生成する二相電圧指令値Vαβとに基づいて、ロータ50の回転位置を推定する。以下、高速域用位置推定部62によって推定されるロータ回転位置を「高速推定回転位置θH」という。
【0062】
推定位置切換え部63は、回転速度演算部23によって求められる回転速度ωに基づいて、低速推定回転位置θLおよび高速推定回転位置θHのいずれかを選択し、制御回転位置θ^として出力する。位置推定部60には、低速域用位置推定部61によって求められた低速推定回転位置θLと、高速域用位置推定部62によって求められた高速推定回転位置θHとをロータ回転速度ωに応じて内分して内分推定回転位置θMを求める内分処理部がさらに備えられていてもよい。この場合には、推定位置切換え部63は、低速推定回転位置θL、高速推定回転位置θHおよび内分推定回転位置θMのうちのいずれか一つを回転速度ωに基づいて選択して出力する。
【0063】
図10は、低速域用位置推定部61の構成例を説明するためのブロック図である。低速域用位置推定部61は、高周波応答抽出部68と、ロータ位置推定部69とを備えている。高周波応答抽出部68には、UVW/αβ座標変換部17Aが出力する二相検出電流Iαβが与えられるようになっている。高周波応答抽出部68は、たとえば、ハイパスフィルタであり、センシング信号発生部65が発生するセンシング信号(高周波電圧)の周波数に対応した周波数成分をUVW/αβ座標変換部17Aの出力信号から抽出するフィルタ処理を実行する。ロータ位置推定部69は、高周波応答抽出部68によって抽出される高周波成分と、二相電圧指令値Vαβとに基づいて、ロータ回転位置を推定する。
【0064】
具体的には、センシング信号発生部65からのセンシング信号の印加によって、図2(a)に示すように、αβ座標の原点まわりにロータ50の回転方向に沿って回転する高周波電圧ベクトル(大きさは一定)が形成される。高周波電圧ベクトルは、ロータ50の回転速度に対して十分に高速に回転する電圧ベクトルである。この高周波電圧ベクトルの印加に伴って、U,V,W相のステータ巻線51,52,53に電流が流れる。この三相の電流の大きさおよび方向をαβ座標上で表した電流ベクトルは、原点まわりに回転することになる。
【0065】
ロータ50のインダクタンスは、d軸方向とq軸方向とで異なる値をとる。そのため、電流ベクトルの大きさは、d軸に近い方向の場合に大きく、q軸に近い方向の場合に小さくなる。その結果、図2(b)に示すように、電流ベクトルの終点は、αβ座標上において、ロータ50のd軸方向を長軸とする楕円形の軌跡54を描く。
したがって、電流ベクトルの大きさは、ロータ50のN極方向およびS極方向において極大値を有する。すなわち、電圧ベクトルの大きさが図8(b)のように変化するのに対して、電流ベクトルの大きさは、図8(a)に示すように、その1周期中に、2つの極大値を有する。この場合、電圧ベクトルの大きさが十分に大きければ、ステータの磁気飽和の影響により、ロータ50のN極側の方がS極側よりもインダクタンスが小さくなり、N極方向の電流ベクトルの大きさが最大値をとることになる(曲線L1参照)。
【0066】
そこで、十分に大きな高周波電圧ベクトルを印加してN極に対応した電流ベクトルの極大を特定しておき、その後は、大きさを小さくした高周波電圧ベクトルを印加し、電流ベクトルの極大値に基づいて、ロータ50の位相を推定することができる。より具体的には、大きさが最大値をとるときの電流ベクトルのα軸成分Iαおよびβ軸成分Iβ(すなわち、二相検出電流Iαβ)により、低速推定回転位置θLは、θ=Tan-1(Iβ/Iα)として求めることができる。
【0067】
ただし、この実施形態では、低速推定回転位置θLは、電流ベクトルの大きさが極大値をとるときの二相電圧指令値Vα*,Vβ*を用いて、次の(3)式に従って求められるようになっている。これは、高周波電圧ベクトルは大きさが一定であるので、演算が容易であり、演算結果も正確だからである。
θL=Tan-1(Vβ*/Vα*)…(3)
図11は、高速域用位置推定部62の構成例を示すブロック図である。高速域用位置推定部62は、信号処理部70と、ロータ位置推定部73とを備えている。
【0068】
信号処理部70は、二相電圧指令値Vαβの高周波成分を除去する低域通過フィルタで構成された電圧フィルタ71と、二相検出電流Iαβの高周波成分を除去する低域通過フィルタで構成された電流フィルタ72とを有している。
ロータ位置推定部73には、信号処理部70によって信号処理(フィルタリング)された後の二相電圧指令値Vαβおよび二相検出電流Iαβが与えられるようになっている。ロータ位置推定部73は、モータ1の数学モデルであるモータモデルに基づき、モータ1の誘起電圧を外乱として推定する外乱オブザーバ75と、この外乱オブザーバ75が出力する推定誘起電圧から高周波成分を除去する低域通過フィルタで構成された推定値フィルタ76と、この推定値フィルタ76が出力する推定誘起電圧(フィルタリング後の値)に基づいて、ロータ50の高速推定回転位置θHを生成する推定位置生成部77とを有している。そして、信号処理部70の電圧フィルタ71によってフィルタリングされた二相電圧指令値Vαβと、電流フィルタ72によってフィルタリングされた二相検出電流Iαβとが、ロータ位置推定部73の外乱オブザーバ75にそれぞれ入力されるようになっている。
【0069】
図12は、外乱オブザーバ75およびこれに関連する構成の一例を説明するためのブロック図である。モータ1の数学モデルであるモータモデルは、たとえば、(R+pL)-1と表すことができる。ただし、Rは電機子巻線抵抗、Lはαβ軸インダクタンス、pは微分演算子である。モータ1には、二相電圧指令値Vαβと誘起電圧Eαβ(α軸誘起電圧Eαおよびβ軸誘起電圧Eβ)とが印加されると考えることができる。
【0070】
外乱オブザーバ75は、二相検出電流Iαβを入力としてモータ電圧を推定する逆モータモデル(モータモデルの逆モデル)78と、この逆モータモデル78によって推定されるモータ電圧と二相電圧指令値Vαβとの偏差を求める電圧偏差演算部79とで構成することができる。電圧偏差演算部79は、二相電圧指令値Vαβに対する外乱を求めることになるが、図12から明らかなとおり、この外乱は誘起電圧Eαβに相当する推定値E^αβ(α軸誘起電圧推定値E^αおよびβ軸誘起電圧推定値E^β(以下、まとめて「推定誘起電圧E^αβ」という。)になる。逆モータモデル78は、たとえば、R+pLで表される。
【0071】
このように、この実施形態では、外乱オブザーバ75は、二相固定座標系の電圧指令値Vαβおよび検出電流Iαβを用いて推定誘起電圧E^αβを求める構成であるので、モータ1の回転速度の影響を受けることなく誘起電圧を推定できる。これにより、回転速度変動の生じやすい電動パワーステアリング装置に使用されるモータ1のロータ回転位置推定精度の向上に寄与できる。
【0072】
推定値フィルタ76は、たとえば、a/(s+a)で表される低域通過フィルタで構成することができる。aは、設計パラメータであり、この設計パラメータaにより、推定値フィルタ76の遮断周波数ωcが定まる。
誘起電圧Eαβは、次の(4)式で表すことができる。ただし、KEは誘起電圧定数、θはロータ回転位置、ωはロータ回転速度である。
【0073】
【数2】
したがって、推定誘起電圧E^αβが求まれば、次の(5)式に従って、高速推定回転位置θHが求まる。この演算が、推定位置生成部77によって行われるようになっている。
【0074】
【数3】
低速域用位置推定部61による位置推定のためには、モータ電流の応答からセンシング信号成分が抽出される必要がある。しかし、モータ電流には、トルクを発生させるための電流成分(トルク電流成分)が含まれているから、トルク電流成分が大きいときには、センシング信号成分の抽出効率が悪くなる。その結果、位置推定精度が悪くなる。
【0075】
そこで、この実施形態では、レゾルバ2に故障が生じて位置推定部60によるロータ位置推定を行う場合には、低速域用位置推定部61による位置推定が行われる低回転速度領域において目標電流値を制限するようにしている。
具体的には、センサ故障判定部25によってレゾルバ2の故障が生じたと判定されると、制限部33の働きによって目標電流値の上限値(以下、「目標電流上限値」という。)が図13に示すように制限される。モータ1の回転速度ωが所定の閾値ω1以下の低速領域において、目標電流上限値が、第1上限値I1に制限される。閾値ω1よりも大きな閾値ω2以上の高速領域においては、目標電流上限値は、第1上限値I1よりも大きな第2上限値I2とされている。ただし、閾値ω2よりも大きな所定速度ω3以上の回転速度領域では、モータ1の逆起電力のためにモータ電流が低下するので、それに応じて、回転速度ωの増加に伴ってリニアに減少する特性で目標電流上限値が定められており、この特性に従って基本目標電流値演算部15における基本目標電流値I*の設定が行われる。
【0076】
閾値ω1,ω2の間の遷移領域では、回転速度ωの増加に伴って、第1上限値I1から第2上限値I2までリニアに増加するように、目標電流上限値が定められる。制限部33は、閾値ω2以下の回転速度領域において、通常時(図13の破線参照)よりも低い目標電流上限値を定めるものである。
たとえば、閾値ω1以下の低速領域におけるロータ位置の推定は低速域用位置推定部61によって行われ、閾値ω2を超える速度領域(中・高速領域)におけるロータ位置の推定は、高速域用位置推定部62によって行われる。
【0077】
したがって、低速域用位置推定部61による位置推定が行われるときには、目標電流上限値が第1上限値I1とされる。これにより、モータ電流の応答からセンシング信号成分を効率的に抽出することができる状態に維持することができるから、低速域における位置推定精度を確保することができる。
レゾルバ2に故障が生じていない通常時には、閾値ω2以下の領域の目標電流上限値は、図13において破線で示すように第2上限値I2に定められる。すなわち、制限部33による制限は行われず、基本目標電流値演算部15は、第2上限値I2を上限として基本目標電流値I*を定める。
【0078】
なお、制限部33による目標電流上限値の制限は、図13において二点鎖線L11で示す特性に従って行われてもよい。すなわち、目標電流上限値をいずれの回転速度においても第1上限値I1以下に制限するようにしてもよい。
図14は、マイクロコンピュータ12Aが所定の制御周期毎に繰り返し実行する処理を説明するためのフローチャートである。マイクロコンピュータ12Aは、トルクセンサ7、車速センサ8、レゾルバ2、および電流検出部11の各出力信号を取り込む(ステップS11)。基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7が検出した操作トルクおよび車速センサ8が検出した車速に基づいて、基本目標電流値I*を演算する(ステップS12)。一方、センサ故障判定部25は、信号線2aに導出される信号に基づいて、レゾルバ2の故障の有無を判定する(ステップS13)。
【0079】
レゾルバ2に故障がなければ(ステップS13:NO)、切換え部66によって、位置算出部22が算出する制御回転位置θ^(レゾルバ出力による制御回転位置)が選択されて(ステップS14)、レゾルバ2の出力信号を用いながら基本目標電流値I*に基づいてモータ1を駆動する通常の制御が実行される(ステップS15)。より具体的には、dq軸目標電流値演算部16によってd軸目標電流値Id*およびq軸目標電流値Iq*が設定される。また、電流検出部11が検出する相電流Iuvwが、座標変換部17A,17Bで座標変換され、γ軸電流Iγおよびδ軸電流Iδが求められる。偏差演算部18は、d軸電流偏差δId(=Id*−Iγ)およびq軸電流偏差δIq(=Iq*−Iδ)を求める。PI制御部19Aは、電流偏差δId,δIqに対するPI(比例積分)演算等を行い、このPI演算に基づいて、電圧指令値生成部19Bによって、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*が生成される。これらが座標変換部20A,20Bにおいて座標変換されることによって、UVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が生成される。これらの電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するPWM制御信号がPWM制御部21によって生成される。αβ/γδ座標変換部17Bおよびγδ/αβ座標変換部20Aにおける座標変換演算には、レゾルバ2の出力信号に基づいて位置算出部22によって算出される制御回転位置θ^が用いられる(ステップS14)。
【0080】
一方、センサ故障判定部25によって、レゾルバ2に故障が生じていると判定されると(ステップS13:YES)、切換え部66によって、位置推定部60が演算する制御回転位置θ^(推定回転位置)が選択され(ステップS16)、さらに、制限部33による制限処理が行われる(ステップS17,S18)。すなわち、基本目標電流値演算部15によって演算された基本目標電流値I*が目標電流上限値(図13参照。回転速度ωに応じた値)以上かどうかが判断される(ステップS17)。基本目標電流値I*が目標電流上限値未満であれば(ステップS17:NO)、基本目標電流値I*をそのまま用いる。すなわち、位置推定部60が演算する制御回転位置θ^を用いつつ、基本目標電流値I*に基づいてモータ1が制御される(ステップS15)。これに対して、基本目標電流値I*が目標電流上限値以上であるときには(ステップS17:YES)、制限部33の働きによって、基本目標電流値I*に目標電流上限値が代入される(ステップS18)。したがって、目標電流上限値に基づいて、位置推定部60が演算する制御回転位置θ^を用いつつ、モータ1が制御される。
【0081】
位置推定部60の推定位置切換え部63は、回転速度演算部23が求めるモータ回転速度ωが閾値ω1以下のときには、推定位置切換え部63は、低速域用位置推定部61によって推定された低速推定回転位置θLを出力する。また、モータ回転速度が閾値ω1を超えているときには、推定位置切換え部63は、高速域用位置推定部62よって推定された高速推定回転位置θHを出力する。
【0082】
このように、この実施形態では、レゾルバ2に故障が発生したときには、位置推定部60によって求められる推定回転位置を制御回転位置θ^として用いたセンサレス制御(レゾルバ2の出力信号を用いずに行うモータ制御)に切り換えられる。これにより、レゾルバ2が故障した後にも、モータ1の駆動を継続でき、操舵補助力を舵取り機構3に与えることができる。また、センサレス制御が行われる場合において、低速域用位置推定部61によってロータ回転位置の推定が行われる低速域では、目標電流上限値が、一定以上のロータ位置推定精度が得られる値I1に制限されるようになっている。これにより、低速域においても、ロータ回転位置を精度よく推定することができるので、モータ1をスムーズに回転させることができる。これにより、良好な操舵フィーリングを実現できる。
【0083】
低速域用位置推定部61によるロータ回転位置の推定には、ある程度の時間が必要である。すなわち、低速域用位置推定部61を用いたセンサレス制御のためには、センシング信号発生部65からセンシング信号を発生させ、それに対するモータ電流の応答を検出し、それに基づいてロータ回転位置を演算する一連の処理が必要となる。これらの処理のために、制御開始初期には、位置不定期間が生じる。この問題は、レゾルバ2の故障が検出されてセンサレス制御に移行した直後の期間において、その直前にレゾルバ2の出力信号から得られた制御回転位置θ^を、センサレス制御のための初期値として用いることによって解決できる。
【0084】
高速域用位置推定部62による位置推定処理では、モータ1の誘起電圧を用いているので、速やかにロータ回転位置を推定できる。したがって、センサレス制御に移行した直後におけるロータ回転速度ωが閾値ω1以下の場合(低速域用位置推定部61による演算が行われる場合)に限って、レゾルバ2の出力に基づいて最後(故障判定直前)に演算された制御回転位置θ^をセンサレス制御の初期値として用いることとしてもよい。
【0085】
図15は、この発明の第3の実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。この図15において、前述の図7に示された各部に対応する部分には、同一の参照符号を付して示す。
この実施形態では、位置推定部60Aには、低速域用位置推定部が備えられておらず、誘起電圧に基づいてロータ回転位置を推定する高速域用位置推定部62だけが備えられている。また、レゾルバ2の故障時の制御態様を定めるための制御則決定器80が備えられている。
【0086】
ロータが停止しているか、またはロータ回転速度が低い場合には、誘起電圧が小さいので、ロータ位置を推定することができない。そこで、この実施形態では、誘起電圧が小さいときには、目標電流値をゼロとし、ステアリングホイールの回転によってモータ1から誘起電圧が発生したときに、この誘起電圧に基づいてロータ回転位置を推定するようにしている。
【0087】
図16は、マイクロコンピュータ12Aの働きを説明するためのフローチャートである。この図16において、前述の図14に示された各ステップと同様の処理が行われるステップは、図14中の符号と同符号を付して示す。
マイクロコンピュータ12Aは、トルクセンサ7、車速センサ8、レゾルバ2、および電流検出部11の各出力信号を取り込む(ステップS11)。基本目標電流値演算部15は、トルクセンサ7が検出した操作トルクおよび車速センサ8が検出した車速に基づいて、基本目標電流値I*を演算する(ステップS12)。一方、センサ故障判定部25は、信号線2aに導出される信号に基づいて、レゾルバ2の故障の有無を判定する(ステップS13)。
【0088】
レゾルバ2に故障のない通常時には(ステップS13:NO)、レゾルバ2の出力信号を用いて位置算出部22が演算する制御回転位置θ^が切換え部66によって選択される(ステップS14)。そして、この制御回転位置θ^を用いつつ基本目標電流値I*に基づいて、モータ1の制御が実行される(ステップS15)。
一方、センサ故障判定部25によって、レゾルバ2に故障が生じていると判定されると(ステップS13:YES)、切換え部66は、位置推定部60Aの推定演算によって求められる制御回転位置θ^(推定回転位置)を選択する(ステップS16)。
【0089】
また、制御則決定器80は、基本目標電流値演算部15から生成される基本目標電流値I*をゼロとする(ステップS20)。これにより、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、モータ1の誘起電圧に等しくなる。そこで、制御則決定器80は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(誘起電圧)からモータ1の誘起電圧を求める(ステップS21)。そして、制御則決定器80は、求めた誘起電圧を所定の閾値Vthと比較する(ステップS22)。この閾値Vthは、外乱オブザーバ75(図11参照)による誘起電圧の推定が可能な下限値に近い値とされる。
【0090】
誘起電圧が閾値Vthよりも大きいときには(ステップS22:YES)、制御則決定器80は、高速域用位置推定部62によってロータ回転位置の推定を行わせるとともに(ステップS23)、基本目標電流値演算部15には、操作トルクおよび車速に応じた基本目標電流値I*を演算させる(ステップS24)。この演算を省いて、ステップS12で求めた基本目標電流値I*をそのまま用いてもよい。こうして求められた基本目標電流値I*に基づいて、高速域用位置推定部62によって演算された制御回転位置θ^を用いつつ、モータ1の制御が行われる(ステップS15)。
【0091】
誘起電圧が閾値Vth以下のときには(ステップS22:NO)、高速域用位置推定部62によるロータ回転位置推定演算は行われず、基本目標電流値I*がゼロに維持される。すなわち、基本目標電流値I*をゼロとした状態で、モータ1の駆動が行われる(ステップS15)。これにより、モータ1が操舵抵抗となることを回避できる。
基本目標電流値I*がゼロに維持されている状態でステアリングホイールが操作されると、モータ1が外力によって回転される結果、誘起電圧が生じる。この誘起電圧が閾値Vthを超えると(ステップS22:YES)、高速域用位置推定部62によって制御回転位置θ^が演算され(ステップS23)、この演算された制御回転位置θ^に基づいてモータ1が駆動されることになる(ステップS15)。このとき、基本目標電流値I*は、操作トルクおよび車速に応じた有意値に設定される(ステップS24)。
【0092】
このようにして、この実施形態によれば、レゾルバ2が故障した後でも、高速域用位置推定部62による位置推定が可能な大きさの誘起電圧が生じている限りにおいて、モータ1を駆動することができ、舵取り機構3に対して操舵補助力を与えることができる。
以上、この発明の3つの実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の第2の実施形態(図7)では、基本目標電流値を制限するようにしているが、モータ1に供給される実電流を制限するようにしても同様の効果が得られる。
【0093】
また、前述の第2の実施形態において、センシング信号が三相電圧指令値VUVWに重畳しているが、電圧指令値生成部19Bが生成する電圧指令値Vγδまたはγδ/αβ座標変換部20Aが生成する二相電圧指令値Vαβにセンシング信号を重畳する構成としてもよい。
さらにまた、前述の実施形態では、電動パワーステアリング装置の駆動源としてのモータ1を制御するために本発明が適用された場合について説明したが、この発明は、電動パワーステアリング装置以外の用途のモータ制御にも適用することができる。
【0094】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
特許請求の範囲に記載した発明以外にも、この明細書および図面の記載から、以下のような特徴が抽出され得る。
A1.ロータ(50)と、このロータに対向するステータ(55)とを備えたモータ(1)を制御するためのモータ制御装置(10,10A)であって、前記ロータの回転位置を検出する回転センサ(2)と、この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段(12,12A)とを含む、モータ制御装置である。なお、括弧内の英数字は前述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、同じ。
【0095】
この構成によれば、回転センサに故障が生じると、回転センサの正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様でモータが制御される。これにより、回転センサの故障時における、いわゆる延命制御が可能になり、モータの回転を継続することができる。
2.前記モータが、車両の舵取り機構に転舵力を付与する転舵用モータ(1)であり、前記制御手段は、前記回転センサの故障時に、車両の操向のための操作部材に加えられる操作トルクが一定値以下であることを条件に、所定の通電パターンで前記モータを駆動するものである(24,S5〜S8)、A1項に記載のモータ制御装置。
【0096】
転舵用モータは、操作部材に加えられる操作トルクに応じた転舵力を舵取り機構に付与する。したがって、操作部材に大きな操作トルクが加えられると、それに応じて、転舵用モータには大きな電流が供給され、大きな転舵トルクが転舵用モータから発生する。回転センサによる正確な回転位置が検出されていないときには、所定の通電パターンによるモータ駆動で大きなトルクを発生させようとすると、モータが脱調するおそれがある。そこで、この発明では、操作部材に加えられる操作トルクが一定値以下であることを条件に、所定の通電パターンによって、モータを駆動するようにしている。こうして、回転センサの故障時において、脱調が生じない条件下で、所定の通電パターンを用いて、モータの駆動が継続される。
【0097】
A3.前記制御手段は、前記モータに供給すべき目標電流値を設定する目標電流値設定手段(15,33)を含み、この目標電流値設定手段は、前記回転センサの正常時よりも前記回転センサの故障時の方が低くなるように定められた上限値以下の範囲で目標電流値を設定するものである、A1に記載のモータ制御装置。
この構成によれば、回転センサの故障時には、目標電流値の上限値が低く設定される。そのため、回転センサを用いない手法によるロータ回転位置の推定を行いやすくなり、その結果、モータの駆動を継続することができる。
【0098】
より具体的には、前記モータ制御装置は、ステータに対してセンシング信号を注入するセンシング信号注入手段(65)と、センシング信号に対応するモータの応答(電流応答または電圧応答)を検出するモータ応答検出手段(68)と、モータ応答検出手段によって検出されたモータ応答からロータ回転位置を推定する位置推定手段(69)とを含むものであってもよい。
【0099】
この構成の場合に、目標電流値の上限値が低く抑えられることによって、センシング信号に対するモータの応答を検出しやすくなる。それに応じて、ロータ位置の推定精度を高めることができるので、精度よく推定されたロータ位置に基づいてモータを駆動することができる。
前記センシング信号は、二相固定座標の原点まわりに回転する大きさ一定の回転電圧ベクトルを形成する信号であってもよい。この場合に、モータ応答検出手段は、センシング信号注入時のモータ電流を検出する電流応答検出手段であることが好ましい。
【0100】
センシング信号およびそれに対するモータ応答を用いたロータ位置推定では、最初のロータ推定位置が得られるまでにタイムラグが生じるから、制御開始初期には、位置不定期間が生じる。そこで、回転センサによる検出位置に基づくモータ制御から推定位置に基づくモータ制御への移行初期には、移行直前に回転センサが検出した回転位置を初期値として位置推定演算を行うことが好ましい。
【0101】
A4.前記モータの誘起電圧に基づいて当該誘起電圧のゼロクロス点および前記ロータの回転速度を求め、これらのゼロクロス点および回転速度に基づいてロータの位相を推定する手段(35,36,37)をさらに含み、前記制御手段は、前記推定されたロータの位相に基づいて、前記モータを矩形波駆動するものである、A1に記載のモータ制御装置。
【0102】
この構成によれば、モータの誘起電圧に基づいて、この誘起電圧のゼロクロス点およびロータの回転速度が求められ、これらに基づいてロータの位相が推定される。そして、この推定された位相に基づいて、モータの矩形波駆動が行われる。こうして、回転センサ故障後の延命制御を行うことができる。
モータの誘起電圧が得られないときには、モータの相電流(目標電流値)をゼロとすればよい。これにより、外力が与えられたときに、モータがスムーズに回転し、それに応じて誘起電圧が生じる。この誘起電圧から、そのゼロクロス点およびロータ回転速度を推定できるので、その後は、モータを回転駆動することができる。
【0103】
モータに加えられる外力は、たとえば、電動パワーステアリング装置においては、車両の操向のための操作部材から与えられてもよい。つまり、ステアリング操作によってモータが回転すると、それに応じて誘起電圧が生じるので、この誘起電圧を利用して、モータの矩形波駆動を行うことができる。
回転センサの故障は、既知の手段によって検出可能である。たとえば、回転センサの出力信号が伝送される信号線を電源電圧にプルアップまたはグランド電位にプルダウンしておき、回転センサの出力信号が導出されなくなったときに、当該信号線に電源電圧またはグランド電位が現れるようにしておけばよい。これにより、信号線の電位が電源電圧またはグランド電位に固定されたことに基づいて、回転センサ(信号線の断線および短絡故障を含む)の故障を検出できる。
【符号の説明】
【0104】
1…モータ、2…レゾルバ、10,10A…モータ制御装置、12,12A…マイクロコンピュータ、50…ロータ、55…ステータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータを制御するためのモータ制御装置であって、
前記ロータの回転位置を検出する回転センサと、
この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記モータに供給すべき目標電流値を設定する目標電流値設定手段を含み、
この目標電流値設定手段は、前記回転センサの正常時よりも前記回転センサの故障時の方が低くなるように定められた上限値以下の範囲で目標電流値を設定するものである、モータ制御装置。
【請求項2】
前記ステータに対してセンシング信号を注入するセンシング信号注入手段と、
前記センシング信号に対応するモータの応答を検出するモータ応答検出手段と、
前記モータ応答検出手段によって検出されたモータ応答からロータ回転位置を推定する位置推定手段とをさらに含み、
前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記位置推定手段によって推定されたロータ回転位置に基づいて、前記モータを制御するものである、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータを制御するためのモータ制御装置であって、
前記ロータの回転位置を検出する回転センサと、
この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段と、
前記モータの誘起電圧に基づいて当該誘起電圧のゼロクロス点および前記ロータの回転速度を求め、これらのゼロクロス点および回転速度に基づいてロータの位相を推定する手段とを含み、
前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記推定されたロータの位相に基づいて、前記モータを矩形波駆動するものである、モータ制御装置。
【請求項1】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータを制御するためのモータ制御装置であって、
前記ロータの回転位置を検出する回転センサと、
この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記モータに供給すべき目標電流値を設定する目標電流値設定手段を含み、
この目標電流値設定手段は、前記回転センサの正常時よりも前記回転センサの故障時の方が低くなるように定められた上限値以下の範囲で目標電流値を設定するものである、モータ制御装置。
【請求項2】
前記ステータに対してセンシング信号を注入するセンシング信号注入手段と、
前記センシング信号に対応するモータの応答を検出するモータ応答検出手段と、
前記モータ応答検出手段によって検出されたモータ応答からロータ回転位置を推定する位置推定手段とをさらに含み、
前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記位置推定手段によって推定されたロータ回転位置に基づいて、前記モータを制御するものである、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
ロータと、このロータに対向するステータとを備えたモータを制御するためのモータ制御装置であって、
前記ロータの回転位置を検出する回転センサと、
この回転センサの正常時には当該回転センサの出力信号に基づいて前記モータを制御する一方で、前記回転センサの故障時には前記正常時の制御態様に対して制限を加えた制御態様で、前記回転センサの出力信号を用いずに、前記モータを制御する制御手段と、
前記モータの誘起電圧に基づいて当該誘起電圧のゼロクロス点および前記ロータの回転速度を求め、これらのゼロクロス点および回転速度に基づいてロータの位相を推定する手段とを含み、
前記制御手段は、前記回転センサの故障時には、前記推定されたロータの位相に基づいて、前記モータを矩形波駆動するものである、モータ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−59258(P2013−59258A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−282985(P2012−282985)
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2008−164560(P2008−164560)の分割
【原出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2008−164560(P2008−164560)の分割
【原出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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