説明

モールド樹脂及び樹脂モールド方法

【課題】シート状のモールド樹脂であって、溶融時間が長くかかることなく、また、樹脂モールドする際に空気溜まりが生じないモールド樹脂及び樹脂モールド方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂モールド方法は、上型と下型とから構成され、前記下型に樹脂溜まりが形成されているモールド樹脂金型を準備する工程と、前記下型の前記樹脂溜まりに、シート状で、かつ、厚み方向に凹凸が設けられているモールド樹脂1Aを供給する工程と、前記モールド樹脂を加熱して、溶融する工程と、前記上型によって被成型品を保持し、前記上型で保持したまま、前記樹脂溜まり内の溶融された前記モールド樹脂に前記被成型品を浸漬し、圧縮成型する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド樹脂及び樹脂モールド方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の小型薄型化の要求に対応するためにBGA(ボールグリッドアレイ)型半導体装置が普及している。このような小型薄型化された半導体装置では、半導体チップの搭載や、ワイヤボンディングの精度が高くなる一方、製造コストの低減も重要になっている。
【0003】
搭載された半導体チップの平面を覆うモールド樹脂の厚さが薄く、かつ長い距離をワイヤボンディングする半導体装置の場合、低コストの細いワイヤを利用するとモールドする際にワイヤが流れ、その結果接触不良が発生するなどの問題があった。
そのため、樹脂モールド方法として、従来から広く利用されていたトランスファモールド方式(金型の側面からモールド樹脂を注入する方式)に代わり、以下に説明するコンプレッションモールド方式(圧縮成型方式)が採用されるようになった。
【0004】
図9及び図10は、従来のコンプレッションモールド方式による樹脂モールド方法の一例を示すものである。
まず、図9に示すように、顆粒状のモールド樹脂21を樹脂カセット22から計量供給ホッパー23に投入し、1回のモールド作業に必要な樹脂量を計量し、樹脂搬送トレイ24に供給する。
次に、図10に示すように、樹脂搬送トレイ24をモールド樹脂金型の下型25に設けられた樹脂溜まり26の上へ移動し、樹脂搬送トレイ24に設けられたシャッター27を開き、顆粒状のモールド樹脂21を樹脂溜まり26へ撒布する。
その後、樹脂溜まり26内に配置された顆粒状のモールド樹脂21を加熱し、溶融する。
モールド樹脂21が溶融された後に、図示略の被成型品を図示略のモールド樹脂金型の上型によって保持し、上型を下型25に向けて降下させることで、樹脂溜まり26内の溶融されたモールド樹脂21に被成型品を浸漬し、圧縮成型することで樹脂封止する(特許文献1、2)。
【0005】
ところで、このような顆粒状のモールド樹脂21を用いた場合には、モールド樹脂21を樹脂溜まり26に供給するまでの搬送プロセスが長く、搬送機器類の設置費用やメンテナンス作業が増大するといった不都合があった。
また、顆粒状のモールド樹脂21を撒布する際に、樹脂溜まり26全面に均一に撒布しにくく、樹脂厚が樹脂溜まり26の位置によってばらついたり、溶融時間の長時間化を招いたりするという不都合もあった。
【0006】
このような不都合を解決する方法として、図11に示すように、モールド樹脂31の形状をシート状にし、吸着治具32で吸着し、モールド樹脂金型の下型25の樹脂溜まり26に搬送する方法が提供されている(特許文献3)。
【0007】
なお、シートの形状に工夫を凝らす技術として、特許文献4に記載されているような技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−120880号公報
【特許文献2】特開2008−221622号公報
【特許文献3】特開2007−307843号公報
【特許文献4】特開平3−114734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来のシート状のモールド樹脂31を用いた樹脂モールド方法では、溶融時間が長くかかるという問題及び封止樹脂中にボイドが発生するという問題があることを、本願発明者は明らかにした。
【0010】
すなわち、シート状のモールド樹脂31は、同一樹脂量の顆粒状のモールド樹脂21に比べて表面積が小さく、熱吸収性が悪いため、溶融時間が長くかかるという問題があった。
また、図11に示すように、シート状のモールド樹脂31を吸着治具32によって吸着する際、静電気等の影響を受け、2枚目のモールド樹脂31が1枚目のモールド樹脂31に張り付いたままになることがある。この結果、図12に示すように、モールド樹脂31をモールド樹脂金型の下型25の樹脂溜まり26に搬送した際に、位置ずれmが生じ、隙間33に空気溜まりができ、封止樹脂中にボイドが発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、以下の構成を採用した。
本発明の樹脂モールド方法は、上型と下型とから構成され、前記下型に樹脂溜まりが形成されているモールド樹脂金型を準備する工程と、前記下型の前記樹脂溜まりに、シート状で、かつ、厚み方向に凹凸、貫通孔又は凸条部が設けられているモールド樹脂を1又は2以上供給する工程と、前記モールド樹脂を加熱して、溶融する工程と、前記上型によって被成型品を保持し、前記上型で保持したまま、前記樹脂溜まり内の溶融された前記モールド樹脂に前記被成型品を浸漬し、圧縮成型する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、シート状のモールド樹脂は、厚み方向に凹凸、貫通孔又は凸条部が設けられた構成となっている。この結果、凹凸、貫通孔又は凸条部が設けられていない場合よりも、表面積が増大することとなり、溶融時間の短縮を図ることができる。
また、厚み方向に凹凸が設けられた結果、モールド樹脂を2以上供給する場合、1枚目のモールド樹脂と2枚目のモールド樹脂とが、静電気によって張り付くことがなくなり、モールド樹脂を樹脂溜まりに搬送した際に、位置ずれが生じることを少なくすることができる。
【0013】
また、厚み方向に貫通孔が設けられた結果、モールド樹脂を樹脂溜まりに搬送した際に、位置ずれが生じて、空気溜まりが発生したとしても、貫通孔を通じて、当該空気を排出することができるので、封止樹脂中にボイドが発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は、本発明の第1の実施形態であるモールド樹脂の概略構成を示す平面図で、図1(b)は、図1(a)のA−A’間断面図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態である樹脂モールド方法の概略を示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態である樹脂モールド方法の概略を示す斜視図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第2の実施形態であるモールド樹脂の概略構成を示す平面図で、図4(b)は、図4(a)のB−B’間断面図である。
【図5】図5(a)は、本発明の第2の実施形態であるモールド樹脂の概略構成を示す平面図で、図5(b)は、図5(a)のC−C’間断面図である。
【図6】図6(a)は、本発明の第2の実施形態であるモールド樹脂の概略構成を示す平面図で、図6(b)は、図6(a)のD−D’間断面図である。
【図7】図7(a)は、本発明の第3の実施形態であるモールド樹脂の概略構成を示す平面図で、図7(b)は、図7(a)のE−E’間断面図で、図7(c)は、図7(a)のF−F’間断面図である。
【図8】図8(a)は、本発明の第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせたモールド樹脂の概略構成を示す平面図で、図8(b)は、図8(a)のG−G’間断面図である。
【図9】図9は、従来の樹脂モールド方法の概略を示す斜視図である。
【図10】図10は、従来の樹脂モールド方法の概略を示す斜視図である
【図11】図11は、従来のモールド樹脂を吸着する際の様子を示す斜視図である。
【図12】図12は、従来のモールド樹脂をモールド樹脂金型の下型に供給した際の様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態であるモールド樹脂及び樹脂モールド方法について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1(a)及び図1(b)に示すように、本発明の第1の実施形態であるモールド樹脂1Aは、平面視略矩形で所定の厚みを有するシート状の形状をしており、一面1aに厚み方向に凹部2や凸部3が設けられた構成となっている。すなわち、本実施形態のモールド樹脂1Aは、厚み方向に凹凸が設けられた構成となっている。
【0016】
凹部2や凸部3の大きさ、深さ、形状、及び形成方法は特に限定しないが、凹部2bや凸部3bのように、小さな構成である方が表面積が大きくなるので望ましい。
また、凸部3aに凹部2cを設けたり、凹部2aに凸部3cを設けたりしても構わない。
また、図1では、一面1aにのみ凹部2や凸部3を設けているが、他面1bに設けても構わず、一面1aと他面1bの両面に設けても構わない。
なお、モールド樹脂1の材質としては、被成型品を樹脂モールドすることができるのならばどのようなものでも構わず、従来から知られたものを用いることができる。
【0017】
次に、図2及び図3を用いて、被成型品として配線基板4を例にして、本実施形態のモールド樹脂1Aを用いた樹脂モールド方法について説明する。
まず、上型5と下型6とから構成され、下型6に樹脂溜まり7が形成されているモールド樹脂金型を準備する。
上型5は、他面5bに配線基板4を保持することができる構成となっている。
下型6は、所定の厚みを有し平面視略矩形の構造をしており、一面6aに周辺部分を除いた略全面にわたって凹部である樹脂溜まり7が形成された構成となっている。
【0018】
次に、吸着治具8によって、シート状のモールド樹脂1Aを吸着させる。吸着治具8としては、モールド樹脂1Aを吸着することができるのであるのならば、どのようなものであっても構わず、例えば、真空吸着治具を用いることができる。
【0019】
次に、モールド樹脂1Aが吸着治具8に吸着された後、吸着治具8をモールド樹脂金型の下型6に設けられた樹脂溜まり7の上へ移動し、吸着治具8の吸着を解くことによって、樹脂溜まり7にモールド樹脂1Aを供給する。供給するモールド樹脂は、1又は2以上であれば良い。
その後、モールド樹脂金型の下型6を加熱することで、樹脂溜まり7内に配置されたモールド樹脂1Aを加熱し、溶融する。
【0020】
モールド樹脂1Aが溶融された後に、被成型品である配線基板4を封止したい面を下側にして、モールド樹脂金型の上型5の他面5bに保持する。その後、配線基板4を上型5で保持したまま、樹脂溜まり7内の溶融されたモールド樹脂1Aに配線基板4を浸漬する。その状態のまま、モールド樹脂金型の上型5と下型6に、互いに密着する方向に圧力を加え、圧縮成型することで被成型品である配線基板4の一面を樹脂封止する。
以上のようにして、被成型品を樹脂モールドする。
【0021】
本実施形態では、シート状のモールド樹脂1Aが、厚み方向に凹凸が設けられた構成となっている。この結果、凹凸が設けられていない場合よりも、表面積が増大することとなり、溶融時間の短縮を図ることができる。
【0022】
また、厚み方向に凹凸が設けられた結果、1枚目のモールド樹脂1Aと2枚目のモールド樹脂1Aとが、静電気によって張り付くことがなくなり、モールド樹脂1Aを樹脂溜まり7に搬送した際に、位置ずれが生じることを少なくすることができる。
【0023】
また、樹脂モールドする際に、シート状のモールド樹脂1Aを用いているので、顆粒状のモールド樹脂と比較して樹脂厚が、樹脂溜まり7の位置によってばらつくということを防ぐことができる。
また、吸着治具8を用いてモールド樹脂1Aを搬送するので、搬送機器類の設置費用を削減することができ、メンテナンス作業も向上する。
【0024】
[第2の実施形態]
図4(a)及び図4(b)に示すように、本発明の第2の実施形態のモールド樹脂1Bは、平面視略矩形で所定の厚みを有するシート状の形状をしており、厚み方向に貫通孔9が設けられた構成をしている。
貫通孔9はモールド樹脂1Bを厚み方向に貫通しているのであれば、どのような大きさ、数、位置であっても構わない。但し、モールド樹脂1Bを吸着させる吸着治具が真空吸着治具であるのならば、吸着治具が吸着する吸着部位10は、空気が漏洩しないように平面状に形成しておくことが好ましい。
なお、本実施形態のモールド樹脂1Bを用いた樹脂モールド方法は、第1の実施形態と同様である。
【0025】
本実施形態では、シート状のモールド樹脂1Bが、厚み方向に貫通孔9が設けられた構成となっている。この結果、貫通孔9が設けられていない場合よりも、表面積が増大することとなり、溶融時間の短縮を図ることができる。
【0026】
また、厚み方向に貫通孔9が設けられた結果、モールド樹脂1Bを樹脂溜まり7に搬送した際に、位置ずれが生じて、空気溜まりが発生したとしても、貫通孔9を通じて、当該空気を排出することができるので、封止樹脂中にボイドが発生するのを防止することができる。
また、吸着治具8によってモールド樹脂1Bを樹脂溜まり7に供給する際、樹脂溜まり7は温度が高温になっていることがあり、樹脂溜まり7からの放射熱の影響を受けてモールド樹脂1Bが、溶けたり反りかえったりし、予定外の位置にモールド樹脂1Bが供給されることがある。その結果、空気溜まりが発生したとしても、貫通孔9を通じて、当該空気を排出することができるので、封止樹脂中にボイドが発生するのをより防止することができる。
【0027】
また、第1の実施形態と同様に、樹脂モールドする際に、シート状のモールド樹脂1Bを用いているので、顆粒状のモールド樹脂と比較して樹脂厚が、樹脂溜まり7の位置によってばらつくということを防ぐことができる。
また、吸着治具を用いてモールド樹脂を搬送するので、搬送機器類の設置費用を削減することができ、メンテナンス作業も向上する。
【0028】
なお、貫通孔9は、図5(a)及び図5(b)に示すように格子状に設けられていても、図6(a)及び図6(b)に示すようにハニカム状に設けられていても構わない。
【0029】
[第3の実施形態]
図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示すように、本発明の第3の実施形態であるモールド樹脂1Cは、平面視略矩形で所定の厚みを有するシート状の形状をしており、一面1aの周辺近傍に凸条部11が周回するように設けられた構成となっている。
なお、本実施形態は、第1の実施形態又は第2の実施形態の変形例であり、同様の部分については説明を省略する。
また、図7においては、モールド樹脂1Cの中央近傍は平面状に形成されているが、実際には、第1の実施形態ないし第2の実施形態と同様の構造をしている。具体的には、凹部2や凸部3が設けられたり、貫通孔9が設けられたり、凹部2や凸部3が設けられ、かつ、貫通孔9が設けられたりした構成となっている。
【0030】
凸条部11は、吸着治具によってモールド樹脂1Cを吸着させた際に、自重で歪まないのであれば、どのような大きさ、高さ及び形状に設計しても構わない。
【0031】
本実施形態では、モールド樹脂1Cの一面1aに凸条部11が設けられた結果、凸条部11が設けられていない場合よりも、表面積が増大することとなり、溶融時間の短縮を図ることができる。また、凸条部11が設けられた結果、モールド樹脂1Cの硬質性が増すこととなる。これにより、モールド樹脂1Cの搬送方法として、真空吸着治具を用いる代わりにベルトコンベア等を用いることができるようになる。
【0032】
なお、凸条部11の大きさ、高さ及び形状は、上記実施形態に限定されるものではなく、モールド樹脂1Cの一面1aの周辺近傍に二重に周回して設けたり、一面1aの全面にわたって波型状に設けたりしても構わない。
【0033】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、図8(a)及び図8(b)に示すように、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせても構わない。その場合は、モールド樹脂1Dに設けられた凸部3に貫通孔9を設けたり、凹部2に貫通孔9を設けたりしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、モールド樹脂に関するものなので、被成型品を樹脂モールドして製造する製造業において幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1A,1B,1C,1D,21,31・・・モールド樹脂、2,2a,2b,2c・・・凹部、3,3a,3b,3c・・・凸部、5・・・モールド樹脂金型の上型、6・・・モールド樹脂金型の下型、7・・・樹脂溜まり、9・・・貫通孔、11・・・凸条部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状で、かつ、厚み方向に凹凸が設けられていることを特徴とするモールド樹脂。
【請求項2】
一面に凸条部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のモールド樹脂。
【請求項3】
厚み方向に貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモールド樹脂。
【請求項4】
シート状で、かつ、厚み方向に貫通孔が設けられていることを特徴とするモールド樹脂。
【請求項5】
一面に凸条部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のモールド樹脂。
【請求項6】
上型と下型とから構成され、前記下型に樹脂溜まりが形成されているモールド樹脂金型を準備する工程と、
前記下型の前記樹脂溜まりに、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のモールド樹脂を1又は2以上供給する工程と、
前記モールド樹脂を加熱して、溶融する工程と、
前記上型によって被成型品を保持し、前記上型で保持したまま、前記樹脂溜まり内の溶融された前記モールド樹脂に前記被成型品を浸漬し、圧縮成型する工程と、を有することを特徴とする樹脂モールド方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−221430(P2010−221430A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68696(P2009−68696)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】