ラダー型フィルタ及びその製造方法並びにデュプレクサ
【課題】ストンリー波による応答を抑圧でき、フィルタ特性が良好なラダー型フィルタを提供する。
【解決手段】15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板2上に、IDT電極7、IDT電極を覆う酸化ケイ素層10、その上に酸化ケイ素層10よりも音速の速い誘電体層11が形成された三媒質構造の弾性境界波共振子を用いて直列腕共振子及び並列腕共振子が構成されており、複数の弾性境界波共振子が、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成されている第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)であり、ψ2が10°以上である第2の弾性境界波共振子とを有し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕であるラダー型フィルタ。
【解決手段】15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板2上に、IDT電極7、IDT電極を覆う酸化ケイ素層10、その上に酸化ケイ素層10よりも音速の速い誘電体層11が形成された三媒質構造の弾性境界波共振子を用いて直列腕共振子及び並列腕共振子が構成されており、複数の弾性境界波共振子が、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成されている第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)であり、ψ2が10°以上である第2の弾性境界波共振子とを有し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕であるラダー型フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の弾性波共振子を用いて構成されたラダー型フィルタに関し、特に、複数の三媒質構造の弾性境界波共振子を用いたラダー型フィルタ及びその製造方法並びにデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
空洞を有するパッケージを必要としないため、弾性表面波素子に比べて、弾性境界波素子が注目されている。例えば下記の特許文献1には、弾性境界波素子の一例として三媒質構造の弾性境界波共振子が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の弾性境界波共振子では、圧電基板上に、櫛型電極すなわちIDT電極が形成されている。櫛型電極を覆うように圧電基板上に酸化ケイ素膜からなる誘電体膜が形成されている。そして、酸化ケイ素膜上に酸化ケイ素より音速の速い材料からなる誘電体層が形成されている。この誘電体層は、例えば、ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムまたは酸化アルミニウムからなることが好ましい旨が記載されている。特許文献1では、このような弾性境界波共振子を複数用いて構成されたラダー型フィルタが開示されている。
【0004】
特許文献1に記載のラダー型フィルタでは、上記三媒質構造の弾性境界波素子において、酸化ケイ素膜の温度係数の符号が圧電基板の温度係数の符号と反対とされ、それによって、温度特性を良好とすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−279609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、三媒質構造の弾性境界波共振子を用いた場合、利用するモードであるSH波の応答の近くにスプリアスであるストンリー波の応答が現れることがわかった。そのため、ラダー型フィルタのフィルタ特性が劣化するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、三媒質構造の弾性境界波共振子を用いたラダー型フィルタであって、スプリアスであるストンリー波の応答を抑制することができ、従ってフィルタ特性が良好なラダー型フィルタ、並びに該ラダー型フィルタの製造方法、該ラダー型フィルタを用いたデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであって、前記直列腕共振子及び並列腕共振子が、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板と、前記圧電基板上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記圧電基板上に形成された酸化ケイ素層と、前記酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素層よりも音速の速い誘電体層とを備える弾性境界波共振子からなり、前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性境界波共振子が、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成されている第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)であり、ψ2が10°以上である第2の弾性境界波共振子とを有し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である、ラダー型フィルタが提供される。
【0009】
本発明に係るラダー型フィルタのある特定の局面では、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である。
【0010】
本発明に係るラダー型フィルタのさらに他の特定の局面では、前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である。
【0011】
本発明に係るデュプレクサは、相対的に通過帯域が高周波数側にある第1バンドパスフィルタと、相対的に通過帯域が低周波数側にある第2のバンドパスフィルタとを有するデュプレクサであって、前記第2のバンドパスフィルタが本発明に従って構成されたラダー型フィルタからなる。
【0012】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法は、直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタの製造方法であって、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板上にIDT電極、IDT電極を覆うように圧電基板上に形成された酸化ケイ素層、並びに酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素よりも音速の速い誘電体材料からなる誘電体層とを形成して、前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する複数の弾性境界波共振子を形成する工程とを備え、前記複数の弾性境界波共振子として、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成した第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)である第2の弾性境界波共振子とを形成し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である。
【0013】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法のある特定の局面では、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である。
【0014】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法のさらに他の特定の局面では、前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のラダー型フィルタによれば、第1,第2の弾性境界波共振子を用いたラダー型フィルタにおいて、ψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるようにされており、さらに、ψ2が10°以上であり、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕であるため、ストンリー波スプリアスを抑制することができ、それによって第1,第2の弾性境界波共振子の双方においてリターンロスを低減することができる。従って、ラダー型フィルタのフィルタ特性を改善することが可能となる。
【0016】
本発明に係るデュプレクサは、第2のバンドパスフィルタが、本発明のラダー型フィルタからなるため、デュプレクサにおいて、第2のバンドパスフィルタのフィルタ特性を改善することができる。
【0017】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法によれば、圧電基板上に構成される複数の弾性境界波共振子を形成するに際し、ψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成し、さらに、ψ≧10°であり、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である上記第1,第2の弾性境界波共振子を形成するため、第1,第2の弾性境界波共振子の双方においてストンリー波スプリアスを抑制してリターンロス特性を改善することができる。従って、フィルタ特性の良好なラダー型フィルタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタの電極構造を示す模式的平面図である。
【図2】(a)は、本発明の一実施形態で用いられている直列腕共振子S1の模式的断面図であり、(b)は伝搬角ψを説明するための図である。
【図3】基準品の波長であるλ基準に対し、λ/(λ基準)=0.85と波長を変化させた場合の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図4】基準品の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図5】基準品の波長であるλ基準に対し、λ/(λ基準)=1.10と波長を変化させた場合の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図6】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=0°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図7】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=10°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図8】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=20°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図9】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=30°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図10】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=0°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図11】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=10°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図12】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=20°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図13】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=30°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図14】(a)は基準品の弾性境界波共振子のデューティである(duty基準)に対するデューティ比率がduty/(duty基準)=0.80である弾性境界波共振子のリターンロス特性を示し、(b)はそのインピーダンス特性を示す図である。
【図15】基準品の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図16】基準品である弾性境界波共振子のデューティである(duty基準)に対し、duty/(duty基準)=1.20である弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図17】基準品の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図18】伝搬角ψ=10°としたことを除いては、図17に示した基準品と同様に構成された弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図19】伝搬角ψ=20°としたことを除いては、図17に示した基準品と同様に構成された弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図20】伝搬角ψ=30°としたことを除いては、図17に示した基準品と同様に構成された弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図21】弾性境界波共振子の波長比率であるλ/(λ基準)とリターンロス特性の変化率との関係を示す図である
【図21A】LiNbO3のカット角が15°または30°の場合のλ/(λ基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である
【図22】弾性境界波共振子の基準品のデューティである(duty基準)に対するデューティ比率duty/(duty基準)とリターンロス変化率との関係を示す図である。
【図22A】LiNbO3のカット角が15°または30°の場合のデューティ比率duty/(duty基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である。
【図23】波長λ=0.90、0.95または1.0の場合の伝搬角ψとリターンロス変化率との関係を示す図である。
【図24】デューティ比が0.8、1.0または1.2である場合の伝搬角とリターンロス変化率との関係を示す図である。
【図25】15°YカットLiNbO3、20°YカットLiNbO3または30°YカットLiNbO3の各圧電基板を用いた場合の伝搬角とストンリー波の比帯域変化率との関係を示す図である。
【図26】本発明の実施形態において、並列腕共振子及び直列腕共振子の波長λ1,λ2と、伝搬角とストンリー波の電気機械結合係数との関係を示す図である。
【図27】ストンリー波の応答が最も小さくなる場合の弾性境界波共振子の波長比率λ/(λ基準)と伝搬角との関係を示す図である。
【図28】比較のために用意した並列腕共振子及び直列腕共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図29】本発明の一実施形態で用意した並列腕共振子及び直列腕共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図30】本発明の一実施形態のラダー型フィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図31】本発明が適用されるデュプレクサの一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタの電極構造を証明するための模式的平面図である。ここでは、後述の酸化ケイ素層及び誘電体層は省略している。
【0021】
ラダー型フィルタ1は、圧電基板2上に、図示の電極構造を形成することにより構成されている。
【0022】
本実施形態では、圧電基板2は、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる。
【0023】
なお、LiNbO3のオイラー角(φ,θ,ψ)のφ=(90°+カット角)の関係にある。
【0024】
ラダー型フィルタ1では、入力端子3と出力端子4とを結ぶ直列腕において、複数の直列腕共振子S1〜S6が互いに直列に接続されている。直列腕共振子S2,S3間の接続点5とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に並列腕共振子P1が配置されている。同様に、直列腕共振子S4,S5間の接続点6とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に、並列腕共振子P2が配置されている。また、出力端子4とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に並列腕共振子P3が配置されている。
【0025】
直列腕共振子S1〜S6及び並列腕共振子P1〜P3は、いずれも、SH波を利用した三媒質構造の弾性境界波共振子からなる。従って、ラダー型フィルタ1は、複数の弾性境界波共振子を用いて構成されている。
【0026】
三媒質の弾性境界波共振子の構造を、直列腕共振子S1を代表して説明することとする。図2(a)は、直列腕共振子S1の模式的正面断面図である。圧電基板2上に、IDT電極7と、IDT電極7の両側に配置された反射器8,9とが形成されている。
【0027】
IDT電極7及び反射器8,9は、Au、Cu、Al、Pt、Ta、W、Niまたはこれらを主体とする合金などの適宜の導電性材料からなる。IDT電極7及び反射器8,9は、これらの金属を主体とする金属膜を複数の積層した積層金属膜により形成されていてもよい。
【0028】
IDT電極7及び反射器8,9を覆うように、酸化ケイ素層10が形成されている。酸化ケイ素層10上には、酸化ケイ素層よりも音速の速い誘電体層11が形成されている。
【0029】
なお、酸化ケイ素としては、SiO2に限らず、SiOx(xは整数)の内の適宜の酸化ケイ素を用いることができる。
【0030】
また、上記誘電体層11を構成する誘電体材料としては、酸化ケイ素層10よりも音速が速い誘電体層11を形成し得る適宜の誘電体材料を用いることができる。このような誘電体材料としては、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイアモンドライクカーボン(DLC)などを挙げることができる。
【0031】
他の直列腕共振子S2〜S6及び並列腕共振子P1〜P3も、同様の三媒質構造の弾性境界波共振子である。
【0032】
本実施形態のラダー型フィルタの特徴は、直列腕共振子S1〜S6及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性境界波共振子が、下記の第1,第2の弾性境界波共振子を有することにあり、それによって、直列腕共振子S1〜S6及び並列腕共振子P1〜P3の双方においてストンリー波スプリアスを抑制することができ、リターンロス特性を改善することができる。従って、後述するように、ラダー型フィルタのフィルタ特性を改善することができる。これを、以下において詳細に説明する。
【0033】
ラダー型フィルタでは、並列腕共振子の共振周波数f1が直列腕共振子の共振周波数f2よりも低くされている。すなわち、並列腕共振子のIDT電極のピッチで定まる波長λ1は、直列腕共振子のIDT電極のピッチで定まる波長λ2よりも長くされている。
【0034】
他方、三媒質構造のSH波を利用した弾性境界波共振子においては、ストンリー波スプリアスがSH波の応答の近くに現れる。従って、このようなスプリアスが、各弾性境界波共振子のインピーダンス特性やリターンロス特性を低下させ、ラダー型フィルタのフィルタ特性を低下させる。従って、このようなスプリアスを抑制し得るように各弾性境界波共振子を形成することが必要となる。
【0035】
しかしながら、並列腕共振子P1〜P3と直列腕共振子S1〜S6とでは、共振周波数が異なるため波長またはデューティが異なる。従って、並列腕共振子P1〜P3において、ストンリー波スプリアスを抑圧するように構成した場合、直列腕共振子S1〜S6においてストンリー波スプリアスを抑制することができない。逆に、直列腕共振子S1〜S6においてストンリー波スプリアスを抑圧するように設計した場合、並列腕共振子P1〜P3においてストンリー波スプリアスを充分に抑圧することができない。
【0036】
これに対して、本実施形態のラダー型フィルタ1では、並列腕共振子P1〜P3及び直列腕共振子S1〜S6のいずれにおいても、ストンリー波スプリアスを抑圧し、リターンロス特性やインピーダンス特性を改善することができる。
【0037】
本願発明者らは、15°〜30°YカットLiNbO3からなる圧電基板2を用い、圧電基板2上に酸化ケイ素層10及び誘電体層11を形成してなる三媒質構造の弾性境界波共振子においては、弾性境界波の伝搬方位に相当するψを変化させれば、ストンリー波スプリアスの大きさが変化することを見出した。本実施形態のラダー型フィルタの製造方法では、上記圧電基板を用意した後、圧電基板上にIDT電極、IDT電極を覆うように酸化ケイ素層10及び誘電体層11を形成して直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する複数の弾性境界波共振子を形成するにあたり、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成した第1の並列腕共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)である第2の直列腕共振子とを形成し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕となるように、直列腕共振子及び並列腕共振子を形成する。それによって、並列腕共振子においてはλ1及びduty1が上記のように設定されるので、上記ストンリー波スプリアスが効果的に抑圧され、リターンロス特性が改善される。
【0038】
他方、上記伝搬角を図2(b)を参照して説明する。図2(b)は、直列腕共振子S1の伝搬角ψ2を示す模式的平面図である。伝搬角ψ2とは、弾性境界波の伝搬方向Cと、圧電基板の結晶X軸方向Bとのなす角度をいうものとする。ψ2が大きすぎると、上記説明から明らかなように、IDT電極7において、伝搬方向Cに沿って伝搬する表面波を充分に励振させることが困難となる。従って、弾性境界波を十分な効率で励振するには、ψ2は40°以下であることが好ましい。
【0039】
直列腕共振子S1〜S6においては、ψ2が特定の範囲とされていることによって、ストンリー波スプリアスが抑制され、リターンロス特性が改善される。すなわち、並列腕共振子P1〜P3においては、ψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となる条件で設計されているのに対し、直列腕共振子S1〜S6においては、伝搬角ψ2を除いては、ストンリー波の応答が現れる設計パラメーターが用いられているものの、伝搬角ψ2が上記特定の範囲とされることにより、ストンリー波による応答が抑圧されている。これによって、ラダー型フィルタのフィルタ特性が改善される。これを、図3〜図30を用いて説明する。
【0040】
図3〜図5は、以下の仕様で弾性境界波共振子を形成し、IDT電極のピッチで定められる波長を変化させた場合のリターンロス特性の変化を説明するための図である。より具体的には、25°YカットLiNbO3基板上に、Ptの材料からなるIDT電極7及び反射器8,9を0.029λとなる厚みに形成し、酸化ケイ素層10として0.6λの厚みとなるようにSiO2膜を成膜した。さらに、SiO2膜上に、1.0λの厚みのSiNからなる膜を成膜し、誘電体層11を形成した。
【0041】
この弾性境界波共振子において、伝搬角ψ=0となる弾性境界波共振子を基準品とした。この基準品における波長をλ基準とすることとする。
【0042】
これに対して、IDT電極のピッチで定められる波長をλ基準に対して変化させたことを除いては、同様に構成された弾性境界波共振子について、リターンロス特性を測定した。図3は、λ/(λ基準)=0.85の場合の結果を、図4はλ基準すなわち基準品のリターンロス特性を、図5はλ/(λ基準)=1.10の場合の結果を示す。
【0043】
図3〜図5において、矢印Aがストンリー波による応答を示す。図3〜図5から明らかなように、上記弾性境界波共振子において、波長λが変化すると、ストンリー波による応答の大きさが大きく変化することがわかる。
【0044】
他方、図6〜図9、波長λについてはλ/(λ基準)=0.95と一定にし、伝搬角ψを変化させた場合のストンリー波による応答の変化を説明するための図である。
【0045】
図6では、伝搬方位ψ=0°の場合の特性が示されている。これに対して、図7では、ψ=10°、図8ではψ=20°、図9ではψ=30°とされている。図6〜図9から明らかなように、矢印Aで示すストンリー波による応答の大きさが、伝搬角ψが変化するにつれて大きく変化していることがわかる。
【0046】
また、図10〜図13は、図6〜図9と同様にして伝搬角ψを変化させた場合のインピーダンス特性の変化を示す図である。図10〜図13から明らかなように、矢印Aで示すストンリー波による応答の大きさが、インピーダンス特性曲線上においても変化していることがわかる。
【0047】
なお、図3〜図5では、リターンロス特性の変化を示し、λ/(λ基準)を変化させた場合のインピーダンス特性の変化については示さなかったが、図6〜図9と、図10〜図13との関係と同様に、λ/(λ基準)を変化させた場合、リターンロス特性だけでなく、インピーダンス特性曲線上においても、同じくストンリー波による応答が現れ、その大きさは変化している。
【0048】
すなわち、図3〜図13から明らかなように、ストンリー波による応答の大きさは、波長λ及び伝搬角ψにより変化することがわかる。
【0049】
また、図14〜図16は、基準品のデューティに対し、デューティを変化させた場合のストンリー波による応答の変化を説明するための図である。図14(a)〜(b)は、基準品に対し、duty/(duty基準)=0.80とした場合のリターンロス特性及びインピーダンス特性を示す。いずれにおいても、矢印Aで示すストンリー波による応答が現れていることがわかる。
【0050】
図15では、デューティが(duty基準)である場合のリターンロス特性を示し、図16は、デューティがduty/(duty基準)=1.20の場合のリターンロス特性を示す。
【0051】
図14〜図16から明らかなように、デューティを変化させた場合にも、ストンリー波による応答の大きさが変化することがわかる。
【0052】
図17〜図20は、上記基準品において、すなわちデューティを基準品のデューティとし、伝搬角ψを0°、10°、20°または30°とした場合の弾性境界波共振子のリターンロス特性をそれぞれ示す図である。図17〜図20から明らかなように、伝搬角ψを0°、10°、20°または30°と変化させた場合、ストンリー波による応答の大きさが大きく変化することがわかる。
【0053】
図3〜図20の結果から明らかなように、25°YカットLiNbO3からなる圧電基板を用いた上記三媒質構造の弾性境界波共振子においては、波長λ、デューティ及び伝搬角ψが変化すると、ストンリー波による応答の大きさが大きく変化し、リターンロス特性やインピーダンス特性が大きく変化することがわかる。
【0054】
そこで、本願発明者らは、上記λ/(λ基準)を様々に変化させ、またduty/(duty基準)及び伝搬角についても様々に変化させ、弾性境界波共振子のリターンロスの変化率を求めた。結果を図21〜図23に示す。
【0055】
図21は、上記のようにして作製した多数の弾性境界波共振子においてλ/(λ基準)と、基準品すなわち(λ基準)の場合に対するリターンロスに対するリターンロスの変化率との関係を示す図である。また、図21Aは、カット角が15°または30°のLiNbO3からなる圧電基板を用いたことを除いては同様にして求めたλ/(λ基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である。
【0056】
図22は、上記のようにして作製した多数の弾性境界波共振子におけるduty/(duty基準)と、(duty基準)の基準品のリターンロスに対するリターンロスの変化率を示す図である。また、図22Aは、カット角が15°または30°のLiNbO3からなる圧電基板を用いたことを除いては同様にして求めた(duty)/(duty基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である。
【0057】
図21,図21A,図22及び図22Aから明らかなように、λやデューティを変化させた場合、リターンロスの変化率やストンリー波の比帯域が2次関数的に変化し、極小点が現れることがわかる。なお、図21,図21A,図22及び図22Aでは、上記基準品として、リターンロスまたはストンリー波の比帯域が最も小さい条件を採用した。すなわち、(λ基準)及び(duty基準)は、上記弾性境界波共振子においてリターンロスまたはストンリー波の比帯域が最も小さいものを基準品として採用し、それぞれ、λやデューティが変化させた場合のリターンロスまたはストンリー波の比帯域の変化率を表わした。
【0058】
図23及び図24は、カット角25°のLiNbO3からなる圧電基板を用いた上記実験結果を別の角度からまとめた内容をそれぞれ示す図である。図23では、λ=0.90、0.95または1.0の場合、伝搬角と、伝搬角ψ=0°の基準品のリターンロスに対するリターンロスの変化率を示す。図23に示すように、λが0.90、0.95及び1.0のいずれの場合においても、伝搬角ψが0°から増加するにつれて、リターンロス変化率が小さくなることがわかる。
【0059】
従って、伝搬角ψ=0°のときリターンロスが極小となるように基準品を設計しておけば、波長λを変化させた場合であっても、伝搬角ψを大きくすることにより、特に10°以上、より好ましくは20°以上とすることにより、リターンロス変化率を小さくすることができ、リターンロスの大きさを基準品に近づけ得ること、すなわちリターンロスを小さくし得ることがわかる。
【0060】
図24は、デューティが0.8、1.0または1.2の場合の伝搬角ψと、duty基準品すなわちduty=1.0の場合の基準品のリターンロスに対するリターンロスの変化率を示す図である。
【0061】
図24から明らかなように、デューティが0.8、1.0または1.2のいずれの場合においても、伝搬角ψが30°以上であれば、リターンロス変化率を小さくすることができ、従って、基準品においてリターンロスを小さくしておけば、基準品と同様に、デューティ比を変化させた場合であってもリターンロスを小さくし得ることがわかる。
【0062】
従って、図21〜図24から明らかなように、基準品において、ストンリー波による応答を抑制し得るようにリターンロスが極小値となるように基準品を設計しておけば、基準品からλまたはデューティを変化させたとしても、伝搬角ψをψ=0°よりも大きく、10°以上または30°以上とすることにより、リターンロス変化率を小さくして、リターンロスを小さくし得ることがわかる。
【0063】
図25は、カット角が15°、20°または30°のLiNbO3基板におけるストンリー波の比帯域変化率と伝搬角との関係を示す図である。図3〜図24の結果を得るのに用意した弾性境界波共振子と同様に、ただし、カット角のみ15°、20°または30°と変化させ、上記と同様にして、伝搬角ψと、ストンリー波による応答との関係を求めた。ここでは、縦軸は、リターンロス変化率ではなく、ストンリー波の比帯域とした。
【0064】
図25から明らかなように、カット角が15°、20°または30°のいずれにおいても、伝搬角ψを10°以上、より好ましくは20°以上とすることにより、ストンリー波の応答の大きさは、伝搬角が10°未満の場合に比べて著しく小さくし得ることがわかる。
【0065】
図26は、伝搬角ψが0°及び25°の場合のIDT電極のピッチで定まれる波長λとストンリー波の応答に相当する電気機械結合係数との関係を示す図である。
【0066】
前述したように、ストンリー波による応答の大きさは、波長λにより変化し、伝搬角ψの大きさによっても変化する。そして、伝搬角が0°または25°のいずれの場合においても、波長の変化により、ストンリー波による応答の大きさは2次関数的に変化し、ある波長において極小点を有する。また、伝搬角0°の場合と、伝搬角25°の場合において、ストンリー波による応答が極小となる値は変化する。
【0067】
そこで、並列腕共振子P1〜P3を、基準品として形成し、並列腕共振子P1〜P3の伝搬角ψ=0°、λ/(λ基準)=1.0とする。このλ基準を図26の横軸の波長λ1とする。この場合、並列腕共振子P1〜P3においてストンリー波による応答は最も小さくなる。
【0068】
直列腕共振子については、例えばψ=25°の場合、図26の破線で示すように、IDTの波長に従ってストンリー波による応答の大きさが変化するので、ストンリー波による応答が最も小さい波長λ2となるように直列腕共振子S1〜S6を構成することにより、直列腕共振子S1〜S6においても、ストンリー波による応答を最も小さくすることができる。
【0069】
なお、図26では、伝搬角ψ=25°の曲線を用い、λ2を決定したかのように説明したが、ラダー型フィルタでは、λ1及びλ2については、求められる通過帯域により決定される。従って、ラダー型フィルタ1の製造に際しては、並列腕共振子P1〜P3における波長λ1に対し、直列腕共振子S1〜S6の波長λ2は要求される通過帯域により決定されることになるが、該λ2においてストンリー波の応答が小さくなるように、逆に、直列腕共振子S1〜S6の伝搬角ψを設定すればよい。これを、図27を参照して説明する。
【0070】
図27は、波長λにおいて、ストンリー波による応答が極小値となる伝搬角と、λ/λ基準との関係を示す図である。図27に示すように、λがλ基準に対して変化した場合、各λにおいてストンリー波による応答が極小値となる伝搬角が変化することがわかるが、図27に従って、求められる通過帯域に応じたλに対し、伝搬角を選択すれば、λにおいてストンリー波による応答を小さくし得ることがわかる。
【0071】
本実施形態のラダー型フィルタの製造方法では、図21〜図27に示した結果に示したように並列腕共振子P1〜P3を基準品とし、並列腕共振子P1〜P3において伝搬角ψ=0°とし、その他の条件をストンリー波による応答が極小値となるように並列腕共振子P1〜P3を形成する。そして、直列腕共振子S1〜S6については、求められる通過帯域に応じて定まる波長に応じ、ストンリー波による応答が極小値となるように図27に従って伝搬角を求め、該伝搬角となるように直列腕共振子S1〜S6を形成する。そのため、直列腕共振子S1〜S6においても、ストンリー波による応答を著しく小さくすることができ、結果としてラダー型フィルタのフィルタ特性を高めることができる。これを、図28〜図30により明らかにする。
【0072】
図30は、上記実施形態のラダー型フィルタのフィルタ特性を示す図である。図30から明らかなように、通過帯域内において、ほとんどリップルが現れていないことがわかる。
【0073】
図29は、このラダー型フィルタのフィルタ特性を得るのに用いた直列腕共振子S1及び並列腕共振子P1のインピーダンス特性を示す図である。実線が並列腕共振子P1のインピーダンス特性を、破線が直列腕共振子S1のインピーダンス特性を示す。並列腕共振子P1及び直列腕共振子S1のいずれにおいても、帯域内においてすなわち1835〜1935MHz付近においてリップルがほとんど見られないことがわかる。なお、並列腕共振子P2及びP3は、並列腕共振子P2,P3と同様に形成した。直列腕共振子S2〜S6は、直列腕共振子Sと同様にして形成した。
【0074】
なお、本実施形態と並列腕共振子を同様にして構成し、但し、伝搬角ψを変化しなかった場合の並列腕共振子及び直列腕共振子のインピーダンス特性を図28に比較のために示す。図28に示すように、並列腕共振子のインピーダンス特性上にはストンリー波によるリップルは現れていないが、伝搬角ψ=0°である直列腕共振子では、矢印Aで示すストンリー波による応答が大きなリップルとして現れていることがわかる。
【0075】
従って、前述したように、並列腕共振子P1〜P3を基準とし、ストンリー波による応答が極小値になるように構成し、他方、直列腕共振子については伝搬角を調整することにより、直列腕共振子S1〜S6においても、ストンリー波による応答を効果的に抑圧し、良好なフィルタ特性を実現し得ることがわかる。
【0076】
なお、図30では直列腕共振子の伝搬角ψ=27°とされていたが、並列腕共振子を基準となる第1の弾性境界波共振子、直列腕共振子を第2の弾性境界波共振子として調整対象の弾性境界波共振子とした場合、以下の関係を満たせばよい。
【0077】
第1の弾性境界波共振子の波長λ1、伝搬角をψ1、デューティを(duty1)とし、λ1及びduty1は、ψ1=0°においてストンリー波による応答が極小値にあるように設定されているものとする。他方、第2の弾性境界波共振子の波長λ2、伝搬角をψ2、デューティを(duty2)とした場合、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕とすればよく、より好ましくは、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕とすれば、上記実施形態と同様に、ラダー型フィルタのフィルタ特性を効果的に高めることができる。
【0078】
なお上記実施形態では、並列腕共振子の波長λ1を基準品とし、直列腕共振子の伝搬角ψ2をストンリー波による応答が小さくなるように調整したが、前述したようにストンリー波による応答は、デューティにも依存する。従って、並列腕共振子のデューティを(duty1)とし、これを基準として直列腕共振子S1〜S6の(duty2)に応じて、直列腕共振子の伝搬角ψ2をストンリー波による応答が小さくなるように直列腕共振子を設定してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、並列腕共振子P1〜P3の波長λを基準とし、直列腕共振子S1〜S6の伝搬角ψを変更して、ストンリー波による応答を抑圧したが、逆に、直列腕共振子の波長S1〜S6またはデューティを基準とし、並列腕共振子P1〜P3の伝搬角をストンリー波による応答が小さくなるようにしてもよい。すなわち、基準となる第1の弾性境界波共振子を、直列腕共振子S1〜S6としてもよい。
【0080】
また、好ましくは、上記実施形態のように、全ての並列腕共振子P1〜P3を同一、かつ直列腕共振子S1〜S6を上記のように同一としてもよいが、ストンリー波による応答抑圧効果は低くなるものの、複数の直列腕共振子の全てにおいて必ずしも伝搬角を調整せずともよい。すなわち、複数の直列腕共振子の内少なくとも1個の直列腕共振子について、並列腕共振子を基準として伝搬角をストンリー波の抑圧が最も小さくなるように調整してもよい。
【0081】
逆に、直列腕共振子を基準とする場合においても、少なくとも1つの並列腕共振子の伝搬角を調整すればよい。従って、本発明においては、直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性境界波共振子において、上記第1の弾性境界波共振子を基準とし、少なくも1つの第2の弾性境界波共振子の伝搬角を調整すればよい。
【0082】
また、複数の直列腕共振子S1〜S6において、伝搬角ψを全て同一にする必要も必ずしもない。
【0083】
並列腕共振子P1〜P3においても、全ての並列腕共振子P1〜P3を基準品とする必要はなく、少なくとも1つの並列腕共振子P1〜P3の伝搬角ψ0°から異ならせてもよい。
【0084】
上記実施形態では、ラダー型フィルタにつき説明したが、本発明はこのようなラダー型フィルタを有するデュプレクサに好適に用いることができる。すなわち、図31に示すように、通過帯域が相対的に高周波数側にある第1のバンドパスフィルタと、相対的に通過帯域が低周波数側にある第2のバンドパスフィルタ32とを有するデュプレクサ33において、上記第2のバンドパスフィルタ32として、本発明のラダー型フィルタを好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
1…ラダー型フィルタ
2…圧電基板
3…入力端子
4…出力端子
5…接続点
6…接続点
7…IDT電極
8,9…反射器
10…酸化ケイ素層
11…誘電体層
32…第2のバンドパスフィルタ
33…デュプレクサ
P1〜P3…並列腕共振子
S1〜S6…直列腕共振子
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の弾性波共振子を用いて構成されたラダー型フィルタに関し、特に、複数の三媒質構造の弾性境界波共振子を用いたラダー型フィルタ及びその製造方法並びにデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
空洞を有するパッケージを必要としないため、弾性表面波素子に比べて、弾性境界波素子が注目されている。例えば下記の特許文献1には、弾性境界波素子の一例として三媒質構造の弾性境界波共振子が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の弾性境界波共振子では、圧電基板上に、櫛型電極すなわちIDT電極が形成されている。櫛型電極を覆うように圧電基板上に酸化ケイ素膜からなる誘電体膜が形成されている。そして、酸化ケイ素膜上に酸化ケイ素より音速の速い材料からなる誘電体層が形成されている。この誘電体層は、例えば、ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムまたは酸化アルミニウムからなることが好ましい旨が記載されている。特許文献1では、このような弾性境界波共振子を複数用いて構成されたラダー型フィルタが開示されている。
【0004】
特許文献1に記載のラダー型フィルタでは、上記三媒質構造の弾性境界波素子において、酸化ケイ素膜の温度係数の符号が圧電基板の温度係数の符号と反対とされ、それによって、温度特性を良好とすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−279609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、三媒質構造の弾性境界波共振子を用いた場合、利用するモードであるSH波の応答の近くにスプリアスであるストンリー波の応答が現れることがわかった。そのため、ラダー型フィルタのフィルタ特性が劣化するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、三媒質構造の弾性境界波共振子を用いたラダー型フィルタであって、スプリアスであるストンリー波の応答を抑制することができ、従ってフィルタ特性が良好なラダー型フィルタ、並びに該ラダー型フィルタの製造方法、該ラダー型フィルタを用いたデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであって、前記直列腕共振子及び並列腕共振子が、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板と、前記圧電基板上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記圧電基板上に形成された酸化ケイ素層と、前記酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素層よりも音速の速い誘電体層とを備える弾性境界波共振子からなり、前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性境界波共振子が、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成されている第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)であり、ψ2が10°以上である第2の弾性境界波共振子とを有し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である、ラダー型フィルタが提供される。
【0009】
本発明に係るラダー型フィルタのある特定の局面では、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である。
【0010】
本発明に係るラダー型フィルタのさらに他の特定の局面では、前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である。
【0011】
本発明に係るデュプレクサは、相対的に通過帯域が高周波数側にある第1バンドパスフィルタと、相対的に通過帯域が低周波数側にある第2のバンドパスフィルタとを有するデュプレクサであって、前記第2のバンドパスフィルタが本発明に従って構成されたラダー型フィルタからなる。
【0012】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法は、直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタの製造方法であって、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板上にIDT電極、IDT電極を覆うように圧電基板上に形成された酸化ケイ素層、並びに酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素よりも音速の速い誘電体材料からなる誘電体層とを形成して、前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する複数の弾性境界波共振子を形成する工程とを備え、前記複数の弾性境界波共振子として、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成した第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)である第2の弾性境界波共振子とを形成し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である。
【0013】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法のある特定の局面では、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である。
【0014】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法のさらに他の特定の局面では、前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のラダー型フィルタによれば、第1,第2の弾性境界波共振子を用いたラダー型フィルタにおいて、ψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるようにされており、さらに、ψ2が10°以上であり、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕であるため、ストンリー波スプリアスを抑制することができ、それによって第1,第2の弾性境界波共振子の双方においてリターンロスを低減することができる。従って、ラダー型フィルタのフィルタ特性を改善することが可能となる。
【0016】
本発明に係るデュプレクサは、第2のバンドパスフィルタが、本発明のラダー型フィルタからなるため、デュプレクサにおいて、第2のバンドパスフィルタのフィルタ特性を改善することができる。
【0017】
本発明に係るラダー型フィルタの製造方法によれば、圧電基板上に構成される複数の弾性境界波共振子を形成するに際し、ψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成し、さらに、ψ≧10°であり、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である上記第1,第2の弾性境界波共振子を形成するため、第1,第2の弾性境界波共振子の双方においてストンリー波スプリアスを抑制してリターンロス特性を改善することができる。従って、フィルタ特性の良好なラダー型フィルタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタの電極構造を示す模式的平面図である。
【図2】(a)は、本発明の一実施形態で用いられている直列腕共振子S1の模式的断面図であり、(b)は伝搬角ψを説明するための図である。
【図3】基準品の波長であるλ基準に対し、λ/(λ基準)=0.85と波長を変化させた場合の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図4】基準品の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図5】基準品の波長であるλ基準に対し、λ/(λ基準)=1.10と波長を変化させた場合の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図6】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=0°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図7】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=10°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図8】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=20°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図9】基準品の波長であるλ基準に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=30°の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図10】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=0°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図11】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=10°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図12】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=20°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図13】基準品の波長(λ基準)に対する波長比率λ/(λ基準)=0.95かつ伝搬角ψ=30°の弾性境界波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図14】(a)は基準品の弾性境界波共振子のデューティである(duty基準)に対するデューティ比率がduty/(duty基準)=0.80である弾性境界波共振子のリターンロス特性を示し、(b)はそのインピーダンス特性を示す図である。
【図15】基準品の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図16】基準品である弾性境界波共振子のデューティである(duty基準)に対し、duty/(duty基準)=1.20である弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図17】基準品の弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図18】伝搬角ψ=10°としたことを除いては、図17に示した基準品と同様に構成された弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図19】伝搬角ψ=20°としたことを除いては、図17に示した基準品と同様に構成された弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図20】伝搬角ψ=30°としたことを除いては、図17に示した基準品と同様に構成された弾性境界波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図21】弾性境界波共振子の波長比率であるλ/(λ基準)とリターンロス特性の変化率との関係を示す図である
【図21A】LiNbO3のカット角が15°または30°の場合のλ/(λ基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である
【図22】弾性境界波共振子の基準品のデューティである(duty基準)に対するデューティ比率duty/(duty基準)とリターンロス変化率との関係を示す図である。
【図22A】LiNbO3のカット角が15°または30°の場合のデューティ比率duty/(duty基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である。
【図23】波長λ=0.90、0.95または1.0の場合の伝搬角ψとリターンロス変化率との関係を示す図である。
【図24】デューティ比が0.8、1.0または1.2である場合の伝搬角とリターンロス変化率との関係を示す図である。
【図25】15°YカットLiNbO3、20°YカットLiNbO3または30°YカットLiNbO3の各圧電基板を用いた場合の伝搬角とストンリー波の比帯域変化率との関係を示す図である。
【図26】本発明の実施形態において、並列腕共振子及び直列腕共振子の波長λ1,λ2と、伝搬角とストンリー波の電気機械結合係数との関係を示す図である。
【図27】ストンリー波の応答が最も小さくなる場合の弾性境界波共振子の波長比率λ/(λ基準)と伝搬角との関係を示す図である。
【図28】比較のために用意した並列腕共振子及び直列腕共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図29】本発明の一実施形態で用意した並列腕共振子及び直列腕共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図30】本発明の一実施形態のラダー型フィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図31】本発明が適用されるデュプレクサの一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るラダー型フィルタの電極構造を証明するための模式的平面図である。ここでは、後述の酸化ケイ素層及び誘電体層は省略している。
【0021】
ラダー型フィルタ1は、圧電基板2上に、図示の電極構造を形成することにより構成されている。
【0022】
本実施形態では、圧電基板2は、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる。
【0023】
なお、LiNbO3のオイラー角(φ,θ,ψ)のφ=(90°+カット角)の関係にある。
【0024】
ラダー型フィルタ1では、入力端子3と出力端子4とを結ぶ直列腕において、複数の直列腕共振子S1〜S6が互いに直列に接続されている。直列腕共振子S2,S3間の接続点5とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に並列腕共振子P1が配置されている。同様に、直列腕共振子S4,S5間の接続点6とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に、並列腕共振子P2が配置されている。また、出力端子4とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に並列腕共振子P3が配置されている。
【0025】
直列腕共振子S1〜S6及び並列腕共振子P1〜P3は、いずれも、SH波を利用した三媒質構造の弾性境界波共振子からなる。従って、ラダー型フィルタ1は、複数の弾性境界波共振子を用いて構成されている。
【0026】
三媒質の弾性境界波共振子の構造を、直列腕共振子S1を代表して説明することとする。図2(a)は、直列腕共振子S1の模式的正面断面図である。圧電基板2上に、IDT電極7と、IDT電極7の両側に配置された反射器8,9とが形成されている。
【0027】
IDT電極7及び反射器8,9は、Au、Cu、Al、Pt、Ta、W、Niまたはこれらを主体とする合金などの適宜の導電性材料からなる。IDT電極7及び反射器8,9は、これらの金属を主体とする金属膜を複数の積層した積層金属膜により形成されていてもよい。
【0028】
IDT電極7及び反射器8,9を覆うように、酸化ケイ素層10が形成されている。酸化ケイ素層10上には、酸化ケイ素層よりも音速の速い誘電体層11が形成されている。
【0029】
なお、酸化ケイ素としては、SiO2に限らず、SiOx(xは整数)の内の適宜の酸化ケイ素を用いることができる。
【0030】
また、上記誘電体層11を構成する誘電体材料としては、酸化ケイ素層10よりも音速が速い誘電体層11を形成し得る適宜の誘電体材料を用いることができる。このような誘電体材料としては、ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイアモンドライクカーボン(DLC)などを挙げることができる。
【0031】
他の直列腕共振子S2〜S6及び並列腕共振子P1〜P3も、同様の三媒質構造の弾性境界波共振子である。
【0032】
本実施形態のラダー型フィルタの特徴は、直列腕共振子S1〜S6及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性境界波共振子が、下記の第1,第2の弾性境界波共振子を有することにあり、それによって、直列腕共振子S1〜S6及び並列腕共振子P1〜P3の双方においてストンリー波スプリアスを抑制することができ、リターンロス特性を改善することができる。従って、後述するように、ラダー型フィルタのフィルタ特性を改善することができる。これを、以下において詳細に説明する。
【0033】
ラダー型フィルタでは、並列腕共振子の共振周波数f1が直列腕共振子の共振周波数f2よりも低くされている。すなわち、並列腕共振子のIDT電極のピッチで定まる波長λ1は、直列腕共振子のIDT電極のピッチで定まる波長λ2よりも長くされている。
【0034】
他方、三媒質構造のSH波を利用した弾性境界波共振子においては、ストンリー波スプリアスがSH波の応答の近くに現れる。従って、このようなスプリアスが、各弾性境界波共振子のインピーダンス特性やリターンロス特性を低下させ、ラダー型フィルタのフィルタ特性を低下させる。従って、このようなスプリアスを抑制し得るように各弾性境界波共振子を形成することが必要となる。
【0035】
しかしながら、並列腕共振子P1〜P3と直列腕共振子S1〜S6とでは、共振周波数が異なるため波長またはデューティが異なる。従って、並列腕共振子P1〜P3において、ストンリー波スプリアスを抑圧するように構成した場合、直列腕共振子S1〜S6においてストンリー波スプリアスを抑制することができない。逆に、直列腕共振子S1〜S6においてストンリー波スプリアスを抑圧するように設計した場合、並列腕共振子P1〜P3においてストンリー波スプリアスを充分に抑圧することができない。
【0036】
これに対して、本実施形態のラダー型フィルタ1では、並列腕共振子P1〜P3及び直列腕共振子S1〜S6のいずれにおいても、ストンリー波スプリアスを抑圧し、リターンロス特性やインピーダンス特性を改善することができる。
【0037】
本願発明者らは、15°〜30°YカットLiNbO3からなる圧電基板2を用い、圧電基板2上に酸化ケイ素層10及び誘電体層11を形成してなる三媒質構造の弾性境界波共振子においては、弾性境界波の伝搬方位に相当するψを変化させれば、ストンリー波スプリアスの大きさが変化することを見出した。本実施形態のラダー型フィルタの製造方法では、上記圧電基板を用意した後、圧電基板上にIDT電極、IDT電極を覆うように酸化ケイ素層10及び誘電体層11を形成して直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する複数の弾性境界波共振子を形成するにあたり、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成した第1の並列腕共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)である第2の直列腕共振子とを形成し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕となるように、直列腕共振子及び並列腕共振子を形成する。それによって、並列腕共振子においてはλ1及びduty1が上記のように設定されるので、上記ストンリー波スプリアスが効果的に抑圧され、リターンロス特性が改善される。
【0038】
他方、上記伝搬角を図2(b)を参照して説明する。図2(b)は、直列腕共振子S1の伝搬角ψ2を示す模式的平面図である。伝搬角ψ2とは、弾性境界波の伝搬方向Cと、圧電基板の結晶X軸方向Bとのなす角度をいうものとする。ψ2が大きすぎると、上記説明から明らかなように、IDT電極7において、伝搬方向Cに沿って伝搬する表面波を充分に励振させることが困難となる。従って、弾性境界波を十分な効率で励振するには、ψ2は40°以下であることが好ましい。
【0039】
直列腕共振子S1〜S6においては、ψ2が特定の範囲とされていることによって、ストンリー波スプリアスが抑制され、リターンロス特性が改善される。すなわち、並列腕共振子P1〜P3においては、ψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となる条件で設計されているのに対し、直列腕共振子S1〜S6においては、伝搬角ψ2を除いては、ストンリー波の応答が現れる設計パラメーターが用いられているものの、伝搬角ψ2が上記特定の範囲とされることにより、ストンリー波による応答が抑圧されている。これによって、ラダー型フィルタのフィルタ特性が改善される。これを、図3〜図30を用いて説明する。
【0040】
図3〜図5は、以下の仕様で弾性境界波共振子を形成し、IDT電極のピッチで定められる波長を変化させた場合のリターンロス特性の変化を説明するための図である。より具体的には、25°YカットLiNbO3基板上に、Ptの材料からなるIDT電極7及び反射器8,9を0.029λとなる厚みに形成し、酸化ケイ素層10として0.6λの厚みとなるようにSiO2膜を成膜した。さらに、SiO2膜上に、1.0λの厚みのSiNからなる膜を成膜し、誘電体層11を形成した。
【0041】
この弾性境界波共振子において、伝搬角ψ=0となる弾性境界波共振子を基準品とした。この基準品における波長をλ基準とすることとする。
【0042】
これに対して、IDT電極のピッチで定められる波長をλ基準に対して変化させたことを除いては、同様に構成された弾性境界波共振子について、リターンロス特性を測定した。図3は、λ/(λ基準)=0.85の場合の結果を、図4はλ基準すなわち基準品のリターンロス特性を、図5はλ/(λ基準)=1.10の場合の結果を示す。
【0043】
図3〜図5において、矢印Aがストンリー波による応答を示す。図3〜図5から明らかなように、上記弾性境界波共振子において、波長λが変化すると、ストンリー波による応答の大きさが大きく変化することがわかる。
【0044】
他方、図6〜図9、波長λについてはλ/(λ基準)=0.95と一定にし、伝搬角ψを変化させた場合のストンリー波による応答の変化を説明するための図である。
【0045】
図6では、伝搬方位ψ=0°の場合の特性が示されている。これに対して、図7では、ψ=10°、図8ではψ=20°、図9ではψ=30°とされている。図6〜図9から明らかなように、矢印Aで示すストンリー波による応答の大きさが、伝搬角ψが変化するにつれて大きく変化していることがわかる。
【0046】
また、図10〜図13は、図6〜図9と同様にして伝搬角ψを変化させた場合のインピーダンス特性の変化を示す図である。図10〜図13から明らかなように、矢印Aで示すストンリー波による応答の大きさが、インピーダンス特性曲線上においても変化していることがわかる。
【0047】
なお、図3〜図5では、リターンロス特性の変化を示し、λ/(λ基準)を変化させた場合のインピーダンス特性の変化については示さなかったが、図6〜図9と、図10〜図13との関係と同様に、λ/(λ基準)を変化させた場合、リターンロス特性だけでなく、インピーダンス特性曲線上においても、同じくストンリー波による応答が現れ、その大きさは変化している。
【0048】
すなわち、図3〜図13から明らかなように、ストンリー波による応答の大きさは、波長λ及び伝搬角ψにより変化することがわかる。
【0049】
また、図14〜図16は、基準品のデューティに対し、デューティを変化させた場合のストンリー波による応答の変化を説明するための図である。図14(a)〜(b)は、基準品に対し、duty/(duty基準)=0.80とした場合のリターンロス特性及びインピーダンス特性を示す。いずれにおいても、矢印Aで示すストンリー波による応答が現れていることがわかる。
【0050】
図15では、デューティが(duty基準)である場合のリターンロス特性を示し、図16は、デューティがduty/(duty基準)=1.20の場合のリターンロス特性を示す。
【0051】
図14〜図16から明らかなように、デューティを変化させた場合にも、ストンリー波による応答の大きさが変化することがわかる。
【0052】
図17〜図20は、上記基準品において、すなわちデューティを基準品のデューティとし、伝搬角ψを0°、10°、20°または30°とした場合の弾性境界波共振子のリターンロス特性をそれぞれ示す図である。図17〜図20から明らかなように、伝搬角ψを0°、10°、20°または30°と変化させた場合、ストンリー波による応答の大きさが大きく変化することがわかる。
【0053】
図3〜図20の結果から明らかなように、25°YカットLiNbO3からなる圧電基板を用いた上記三媒質構造の弾性境界波共振子においては、波長λ、デューティ及び伝搬角ψが変化すると、ストンリー波による応答の大きさが大きく変化し、リターンロス特性やインピーダンス特性が大きく変化することがわかる。
【0054】
そこで、本願発明者らは、上記λ/(λ基準)を様々に変化させ、またduty/(duty基準)及び伝搬角についても様々に変化させ、弾性境界波共振子のリターンロスの変化率を求めた。結果を図21〜図23に示す。
【0055】
図21は、上記のようにして作製した多数の弾性境界波共振子においてλ/(λ基準)と、基準品すなわち(λ基準)の場合に対するリターンロスに対するリターンロスの変化率との関係を示す図である。また、図21Aは、カット角が15°または30°のLiNbO3からなる圧電基板を用いたことを除いては同様にして求めたλ/(λ基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である。
【0056】
図22は、上記のようにして作製した多数の弾性境界波共振子におけるduty/(duty基準)と、(duty基準)の基準品のリターンロスに対するリターンロスの変化率を示す図である。また、図22Aは、カット角が15°または30°のLiNbO3からなる圧電基板を用いたことを除いては同様にして求めた(duty)/(duty基準)とストンリー波の比帯域との関係を示す図である。
【0057】
図21,図21A,図22及び図22Aから明らかなように、λやデューティを変化させた場合、リターンロスの変化率やストンリー波の比帯域が2次関数的に変化し、極小点が現れることがわかる。なお、図21,図21A,図22及び図22Aでは、上記基準品として、リターンロスまたはストンリー波の比帯域が最も小さい条件を採用した。すなわち、(λ基準)及び(duty基準)は、上記弾性境界波共振子においてリターンロスまたはストンリー波の比帯域が最も小さいものを基準品として採用し、それぞれ、λやデューティが変化させた場合のリターンロスまたはストンリー波の比帯域の変化率を表わした。
【0058】
図23及び図24は、カット角25°のLiNbO3からなる圧電基板を用いた上記実験結果を別の角度からまとめた内容をそれぞれ示す図である。図23では、λ=0.90、0.95または1.0の場合、伝搬角と、伝搬角ψ=0°の基準品のリターンロスに対するリターンロスの変化率を示す。図23に示すように、λが0.90、0.95及び1.0のいずれの場合においても、伝搬角ψが0°から増加するにつれて、リターンロス変化率が小さくなることがわかる。
【0059】
従って、伝搬角ψ=0°のときリターンロスが極小となるように基準品を設計しておけば、波長λを変化させた場合であっても、伝搬角ψを大きくすることにより、特に10°以上、より好ましくは20°以上とすることにより、リターンロス変化率を小さくすることができ、リターンロスの大きさを基準品に近づけ得ること、すなわちリターンロスを小さくし得ることがわかる。
【0060】
図24は、デューティが0.8、1.0または1.2の場合の伝搬角ψと、duty基準品すなわちduty=1.0の場合の基準品のリターンロスに対するリターンロスの変化率を示す図である。
【0061】
図24から明らかなように、デューティが0.8、1.0または1.2のいずれの場合においても、伝搬角ψが30°以上であれば、リターンロス変化率を小さくすることができ、従って、基準品においてリターンロスを小さくしておけば、基準品と同様に、デューティ比を変化させた場合であってもリターンロスを小さくし得ることがわかる。
【0062】
従って、図21〜図24から明らかなように、基準品において、ストンリー波による応答を抑制し得るようにリターンロスが極小値となるように基準品を設計しておけば、基準品からλまたはデューティを変化させたとしても、伝搬角ψをψ=0°よりも大きく、10°以上または30°以上とすることにより、リターンロス変化率を小さくして、リターンロスを小さくし得ることがわかる。
【0063】
図25は、カット角が15°、20°または30°のLiNbO3基板におけるストンリー波の比帯域変化率と伝搬角との関係を示す図である。図3〜図24の結果を得るのに用意した弾性境界波共振子と同様に、ただし、カット角のみ15°、20°または30°と変化させ、上記と同様にして、伝搬角ψと、ストンリー波による応答との関係を求めた。ここでは、縦軸は、リターンロス変化率ではなく、ストンリー波の比帯域とした。
【0064】
図25から明らかなように、カット角が15°、20°または30°のいずれにおいても、伝搬角ψを10°以上、より好ましくは20°以上とすることにより、ストンリー波の応答の大きさは、伝搬角が10°未満の場合に比べて著しく小さくし得ることがわかる。
【0065】
図26は、伝搬角ψが0°及び25°の場合のIDT電極のピッチで定まれる波長λとストンリー波の応答に相当する電気機械結合係数との関係を示す図である。
【0066】
前述したように、ストンリー波による応答の大きさは、波長λにより変化し、伝搬角ψの大きさによっても変化する。そして、伝搬角が0°または25°のいずれの場合においても、波長の変化により、ストンリー波による応答の大きさは2次関数的に変化し、ある波長において極小点を有する。また、伝搬角0°の場合と、伝搬角25°の場合において、ストンリー波による応答が極小となる値は変化する。
【0067】
そこで、並列腕共振子P1〜P3を、基準品として形成し、並列腕共振子P1〜P3の伝搬角ψ=0°、λ/(λ基準)=1.0とする。このλ基準を図26の横軸の波長λ1とする。この場合、並列腕共振子P1〜P3においてストンリー波による応答は最も小さくなる。
【0068】
直列腕共振子については、例えばψ=25°の場合、図26の破線で示すように、IDTの波長に従ってストンリー波による応答の大きさが変化するので、ストンリー波による応答が最も小さい波長λ2となるように直列腕共振子S1〜S6を構成することにより、直列腕共振子S1〜S6においても、ストンリー波による応答を最も小さくすることができる。
【0069】
なお、図26では、伝搬角ψ=25°の曲線を用い、λ2を決定したかのように説明したが、ラダー型フィルタでは、λ1及びλ2については、求められる通過帯域により決定される。従って、ラダー型フィルタ1の製造に際しては、並列腕共振子P1〜P3における波長λ1に対し、直列腕共振子S1〜S6の波長λ2は要求される通過帯域により決定されることになるが、該λ2においてストンリー波の応答が小さくなるように、逆に、直列腕共振子S1〜S6の伝搬角ψを設定すればよい。これを、図27を参照して説明する。
【0070】
図27は、波長λにおいて、ストンリー波による応答が極小値となる伝搬角と、λ/λ基準との関係を示す図である。図27に示すように、λがλ基準に対して変化した場合、各λにおいてストンリー波による応答が極小値となる伝搬角が変化することがわかるが、図27に従って、求められる通過帯域に応じたλに対し、伝搬角を選択すれば、λにおいてストンリー波による応答を小さくし得ることがわかる。
【0071】
本実施形態のラダー型フィルタの製造方法では、図21〜図27に示した結果に示したように並列腕共振子P1〜P3を基準品とし、並列腕共振子P1〜P3において伝搬角ψ=0°とし、その他の条件をストンリー波による応答が極小値となるように並列腕共振子P1〜P3を形成する。そして、直列腕共振子S1〜S6については、求められる通過帯域に応じて定まる波長に応じ、ストンリー波による応答が極小値となるように図27に従って伝搬角を求め、該伝搬角となるように直列腕共振子S1〜S6を形成する。そのため、直列腕共振子S1〜S6においても、ストンリー波による応答を著しく小さくすることができ、結果としてラダー型フィルタのフィルタ特性を高めることができる。これを、図28〜図30により明らかにする。
【0072】
図30は、上記実施形態のラダー型フィルタのフィルタ特性を示す図である。図30から明らかなように、通過帯域内において、ほとんどリップルが現れていないことがわかる。
【0073】
図29は、このラダー型フィルタのフィルタ特性を得るのに用いた直列腕共振子S1及び並列腕共振子P1のインピーダンス特性を示す図である。実線が並列腕共振子P1のインピーダンス特性を、破線が直列腕共振子S1のインピーダンス特性を示す。並列腕共振子P1及び直列腕共振子S1のいずれにおいても、帯域内においてすなわち1835〜1935MHz付近においてリップルがほとんど見られないことがわかる。なお、並列腕共振子P2及びP3は、並列腕共振子P2,P3と同様に形成した。直列腕共振子S2〜S6は、直列腕共振子Sと同様にして形成した。
【0074】
なお、本実施形態と並列腕共振子を同様にして構成し、但し、伝搬角ψを変化しなかった場合の並列腕共振子及び直列腕共振子のインピーダンス特性を図28に比較のために示す。図28に示すように、並列腕共振子のインピーダンス特性上にはストンリー波によるリップルは現れていないが、伝搬角ψ=0°である直列腕共振子では、矢印Aで示すストンリー波による応答が大きなリップルとして現れていることがわかる。
【0075】
従って、前述したように、並列腕共振子P1〜P3を基準とし、ストンリー波による応答が極小値になるように構成し、他方、直列腕共振子については伝搬角を調整することにより、直列腕共振子S1〜S6においても、ストンリー波による応答を効果的に抑圧し、良好なフィルタ特性を実現し得ることがわかる。
【0076】
なお、図30では直列腕共振子の伝搬角ψ=27°とされていたが、並列腕共振子を基準となる第1の弾性境界波共振子、直列腕共振子を第2の弾性境界波共振子として調整対象の弾性境界波共振子とした場合、以下の関係を満たせばよい。
【0077】
第1の弾性境界波共振子の波長λ1、伝搬角をψ1、デューティを(duty1)とし、λ1及びduty1は、ψ1=0°においてストンリー波による応答が極小値にあるように設定されているものとする。他方、第2の弾性境界波共振子の波長λ2、伝搬角をψ2、デューティを(duty2)とした場合、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕とすればよく、より好ましくは、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕とすれば、上記実施形態と同様に、ラダー型フィルタのフィルタ特性を効果的に高めることができる。
【0078】
なお上記実施形態では、並列腕共振子の波長λ1を基準品とし、直列腕共振子の伝搬角ψ2をストンリー波による応答が小さくなるように調整したが、前述したようにストンリー波による応答は、デューティにも依存する。従って、並列腕共振子のデューティを(duty1)とし、これを基準として直列腕共振子S1〜S6の(duty2)に応じて、直列腕共振子の伝搬角ψ2をストンリー波による応答が小さくなるように直列腕共振子を設定してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、並列腕共振子P1〜P3の波長λを基準とし、直列腕共振子S1〜S6の伝搬角ψを変更して、ストンリー波による応答を抑圧したが、逆に、直列腕共振子の波長S1〜S6またはデューティを基準とし、並列腕共振子P1〜P3の伝搬角をストンリー波による応答が小さくなるようにしてもよい。すなわち、基準となる第1の弾性境界波共振子を、直列腕共振子S1〜S6としてもよい。
【0080】
また、好ましくは、上記実施形態のように、全ての並列腕共振子P1〜P3を同一、かつ直列腕共振子S1〜S6を上記のように同一としてもよいが、ストンリー波による応答抑圧効果は低くなるものの、複数の直列腕共振子の全てにおいて必ずしも伝搬角を調整せずともよい。すなわち、複数の直列腕共振子の内少なくとも1個の直列腕共振子について、並列腕共振子を基準として伝搬角をストンリー波の抑圧が最も小さくなるように調整してもよい。
【0081】
逆に、直列腕共振子を基準とする場合においても、少なくとも1つの並列腕共振子の伝搬角を調整すればよい。従って、本発明においては、直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性境界波共振子において、上記第1の弾性境界波共振子を基準とし、少なくも1つの第2の弾性境界波共振子の伝搬角を調整すればよい。
【0082】
また、複数の直列腕共振子S1〜S6において、伝搬角ψを全て同一にする必要も必ずしもない。
【0083】
並列腕共振子P1〜P3においても、全ての並列腕共振子P1〜P3を基準品とする必要はなく、少なくとも1つの並列腕共振子P1〜P3の伝搬角ψ0°から異ならせてもよい。
【0084】
上記実施形態では、ラダー型フィルタにつき説明したが、本発明はこのようなラダー型フィルタを有するデュプレクサに好適に用いることができる。すなわち、図31に示すように、通過帯域が相対的に高周波数側にある第1のバンドパスフィルタと、相対的に通過帯域が低周波数側にある第2のバンドパスフィルタ32とを有するデュプレクサ33において、上記第2のバンドパスフィルタ32として、本発明のラダー型フィルタを好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
1…ラダー型フィルタ
2…圧電基板
3…入力端子
4…出力端子
5…接続点
6…接続点
7…IDT電極
8,9…反射器
10…酸化ケイ素層
11…誘電体層
32…第2のバンドパスフィルタ
33…デュプレクサ
P1〜P3…並列腕共振子
S1〜S6…直列腕共振子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであって、
前記直列腕共振子及び並列腕共振子が、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板と、前記圧電基板上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記圧電基板上に形成された酸化ケイ素層と、前記酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素層よりも音速の速い誘電体層とを備える弾性境界波共振子からなり、
前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性境界波共振子が、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成されている第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)であり、ψ2が10°以上である第2の弾性境界波共振子とを有し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である、ラダー型フィルタ。
【請求項2】
〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である、請求項1に記載のラダー型フィルタ。
【請求項3】
前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である、請求項1または2に記載のラダー型フィルタ。
【請求項4】
相対的に通過帯域が高周波数側にある第1バンドパスフィルタと、相対的に通過帯域が低周波数側にある第2のバンドパスフィルタとを有するデュプレクサであって、前記第2のバンドパスフィルタが請求項1〜3のいずれか1項に記載のラダー型フィルタからなる、デュプレクサ。
【請求項5】
直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタの製造方法であって、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板を用意する工程と、
前記圧電基板上にIDT電極、IDT電極を覆うように圧電基板上に形成された酸化ケイ素層、並びに酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素よりも音速の速い誘電体材料からなる誘電体層とを形成して、前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する複数の弾性境界波共振子を形成する工程とを備え、
前記複数の弾性境界波共振子として、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成した第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)である第2の弾性境界波共振子とを形成し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である、ラダー型フィルタの製造方法。
【請求項6】
〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である、請求項5に記載のラダー型フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である、請求項5〜6のいずれか1項に記載のラダー型フィルタの製造方法。
【請求項1】
直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタであって、
前記直列腕共振子及び並列腕共振子が、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板と、前記圧電基板上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記圧電基板上に形成された酸化ケイ素層と、前記酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素層よりも音速の速い誘電体層とを備える弾性境界波共振子からなり、
前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性境界波共振子が、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成されている第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)であり、ψ2が10°以上である第2の弾性境界波共振子とを有し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である、ラダー型フィルタ。
【請求項2】
〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である、請求項1に記載のラダー型フィルタ。
【請求項3】
前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である、請求項1または2に記載のラダー型フィルタ。
【請求項4】
相対的に通過帯域が高周波数側にある第1バンドパスフィルタと、相対的に通過帯域が低周波数側にある第2のバンドパスフィルタとを有するデュプレクサであって、前記第2のバンドパスフィルタが請求項1〜3のいずれか1項に記載のラダー型フィルタからなる、デュプレクサ。
【請求項5】
直列腕共振子と並列腕共振子とを有するラダー型フィルタの製造方法であって、15°〜30°YカットLiNbO3基板からなる圧電基板を用意する工程と、
前記圧電基板上にIDT電極、IDT電極を覆うように圧電基板上に形成された酸化ケイ素層、並びに酸化ケイ素層上に積層されており、かつ前記酸化ケイ素よりも音速の速い誘電体材料からなる誘電体層とを形成して、前記直列腕共振子及び並列腕共振子を構成する複数の弾性境界波共振子を形成する工程とを備え、
前記複数の弾性境界波共振子として、波長がλ1、伝搬角がψ1、デューティが(duty1)であり、λ1及びduty1がψ1=0°においてストンリー波の応答が極小値となるように構成した第1の弾性境界波共振子と、波長がλ2、伝搬角がψ2、デューティが(duty2)である第2の弾性境界波共振子とを形成し、〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0°≦ψ1<ψ2〕である、ラダー型フィルタの製造方法。
【請求項6】
〔λ1≠λ2かつ0°≦ψ1<10°≦ψ2〕または〔(duty1)≠(duty2)かつ0≦ψ1<30°≦ψ2〕である、請求項5に記載のラダー型フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記第1の弾性境界波共振子が並列腕共振子であり、前記第2の弾性境界波共振子が直列腕共振子である、請求項5〜6のいずれか1項に記載のラダー型フィルタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図21A】
【図22】
【図22A】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図21A】
【図22】
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【図23】
【図24】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2010−278830(P2010−278830A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130009(P2009−130009)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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