説明

ラダー型SAWフィルタ

【課題】 圧電基板上に複数のSAW共振子を配置して構成するラダー型SAWフィルタの減衰傾度を急峻にする手段を得る。
【解決手段】 圧電基板上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配して形成するSAW共振子を、複数個配設して構成するラダー型SAWフィルタにおいて、前記IDT電極及び前記グレーティング反射器の電極指幅LとスペースSとの関係を0.55≦L/(L+S)≦0.75としたラダー型SAWフィルタである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はラダー型SAWフィルタに関し、特に通過域近傍の減衰傾度を改善したラダー型SAWフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、SAWデバイスは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話器等に多く用いられている。携帯電話器等のRF段に用いらるSAWフィルタの1種に、同一圧電基板上に一端子対弾性表面波共振子(以下、SAW共振子と称す)複数個を並、直列に配置した所謂ラダー型SAWフィルタである。ラダー型SAWフィルタの特徴は、他の電子部品に比べてQ値の高いSAW共振子のみで構成するため、低挿入損失であると共に、急峻な減衰傾度のフィルタを実現できることから、近年、携帯電話等のRFフィルタとして広く用いられるようになった。
【0003】図5は、ラダー型SAWフィルタを形成するSAW共振子1個の構成を示す電極パターンの平面図であり、圧電基板11上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極12とその両側にグレーティング反射器13a、13bを配置してSAW共振子を構成したものである。IDT電極12はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし形電極により構成され、IDT電極12の一方のくし形電極は入力端子とし、他方のくし形電極は出力端子として用いる。
【0004】図5(b)に示すラダー型SAWフィルタは、圧電基板11上に表面波の伝搬方向に沿って、図5(a)に示すSAW共振子と同様なSAW共振子5個(14〜18)を互いに影響を及ぼさない距離を置いて配置し、それらを並列、直列、並列、・・と順次ラダー構造になるように信号線19、アース電極20及びアース線21を用いて接続したものである。
【0005】図5(b)に示すラダー型SAWフィルタの電気的等価回路を、圧電共振子(SAW共振子も圧電共振子の1種)を表す符号を用いて模式的に表すと、図6R>6に示すラダー型回路となる。即ち、図5(b)に示した各素子のうち、SAW共振子14、18は入出力端子に対し直列アームに、SAW共振子15、16、17は並列アームに接続されている。図6に示す各SAW共振子の周波数と電気的諸定数とをフィルタ理論に従って設定し、適当に終端すれば、有極構成の帯域濾波器として機能することは良く知られている。
【0006】SAWデバイスの改良は年々急速に進展しており、例えば特開平9−167936に開示されているように、タンタル酸リチウム(LiTaO3)基板上にラダー型SAWフィルタを形成する際の挿入損失、減衰傾度等は、基板の切断方位と電極膜厚とに大きく依存することが開示されている。即ち、電極膜厚H/λ(λは励起される表面波の波長)が0.07≦H/λ≦0.1、基板の切断方位Yが38°≦Y≦44°の条件を満たすようにラダー型SAWフィルタを形成すると、挿入損失が低損失になると共に、通過域近傍の減衰傾度が急峻なラダー型SAWフィルタが得られることが記述されている。
【0007】図7は、圧電基板に42°Y-X LiTaO3を用い、電極にアルミニウム合金の膜厚H/λを0.08、IDT電極対数を100対、反射器の本数をそれぞれ100本、電極指の交差幅Wを30λ、共振周波数を880MHz帯としたSAW共振子5個を図6に示すように並直列に接続したフィルタの濾波特性をシミュレーションによりもとめた図で、フィルタ特性について阻止域を含めて図示したものBと、通過域のみを拡大して図示したものAが重ね書きされている。拡大したフィルタ特性のロス(Loss)は右側の縦軸に、周波数(Freq.)は下段の数値に対応している。尚、ハッチングで示すAsは通過域の規格を示し、Bsは減衰域の規格を示している。尚、電極指幅(ライン幅)Lと電極指間スペースSの寸法(以下、スペース幅と称す)とを等しく設定している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、米国のAMPS方式では900MHz帯の周波数を用い、送受の周波数間隔が20MHzであり、比帯域が4.5%のRFフィルタが必要であるに対し、新たなPCS方式では周波数帯が1.9GHz帯に移行したにも拘わらず送受の周波数間隔が20MHzのままであり、RFフィルタとして比帯域4.0%と狭帯域かつ通過域近傍の減衰傾度は従来のものに比べてより急峻にする必要が生じている。上記のラダー型SAWフィルタでは、新しい規格を満たすことが極めて難しいという問題があった。本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、減衰傾度を改善したラダー型SAWフィルタを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明においては、IDTの電極指幅Lとスペース幅Sとの関係を吟味した結果、以下のようにすれば目的を達成し得ることを見出した。即ち、請求項1記載の発明は、圧電基板上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配してなるSAW共振子を複数個配設して構成するラダー型SAWフィルタにおいて、IDT電極及びグレーティング反射器の電極指幅LとスペースSとの関係を0.55≦L/(L+S)≦0.75としたことを特徴とするラダー型SAWフィルタである。請求項2記載の発明は、切断角度θが38°≦θ≦44°のタンタル酸リチウム基板を用いたことを特徴とする請求項1記載のラダー型SAWフィルタである。
【0010】
【発明の実施の形態】以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係るラダー型SAWフィルタの構成を示す平面図であって、圧電基板1上に図5で説明したようなSAW共振子5個(SAW共振子2〜6)を配し、リード電極7及び複数の電極パッド8a〜eを用いて、並、直列に接続してラダー型SAWフィルタを構成したものである。それぞれのSAW共振子2〜6は互いに影響を及ぼさない距離を隔して配置されている。また、電極パッド8aと入力端子IN、電極パッド8bと出力端子OUTとをワイヤボンディングを用いて電気的に接続し、電極パッド8c〜8eはそれぞれ接地してラダー型SAWフィルタを構成する。
【0011】ラダー型SAWフィルタの挿入損失、通過域近傍の減衰傾度を改善するには、フィルタを構成しているSAW共振子の特性、例えば電気的等価抵抗R、容量比γ等を改善する必要がある。そこで発明者は、SAW共振子の断面図の一部を示す図2のように、電極指幅(ライン幅)Lとスペース幅Sとを定義したとき、両者の和に対する電極指幅Lの比、即ちライン占有率L/(L+S)とSAW共振子の電気的等価抵抗R及び容量比γの関係を求めるべく、種々実験を重ねた。尚、同図においてλは一波長に相当し、Hは電極膜の厚みであり、一般にSAW共振子の膜厚をH/λで表現する。圧電基板に42°Y-X LiTaO3を用い、電極にアルミニウム合金の膜厚H/λを0.08、IDT電極対数を100対、反射器の本数をそれぞれ100本、電極指の交差幅Wを30λとし、周波数は900MHz帯とした。ライン占有率L/(L+S)を0.3から0.7まで0.1きざみで変化させ、その時の円線図と共振特性とを測定して、共振周波数fs、反共振周波数fa、容量比γ、等価抵抗R及びスプリアスを測定した。
【0012】図2(b)、(c)に示した円線図及び共振特性は測定した一例であり、点αは共振周波数、点βは反共振周波数を示している。図3(a)、(b)は、以上の測定から得られたデータを、それぞれ容量比γと電気的等価抵抗Rとに分け、ライン占有率L/(L+S)に対してプロットした図である。図3(a)から容量比γはライン占有率L/(L+S)が約0.47のとき最小値となることが分かる。また、図3(b)からライン占有率の増加につれて電気的等価抵抗Rは概ね減少する傾向にある。
【0013】発明者は容量比γが小さく、等価抵抗Rも小さいSAW共振子を用いてラダー型SAWフィルタを構成した場合に、挿入損失が小さく、通過域近傍の減衰傾度が急峻になると考え実験してきたが、容量比γが最小値よりも少し大きな値のSAW共振子を用いてラダー型SAWフィルタを構成したところ、通過域帯域幅は容量比γが最小なものと同等で、通過域近傍の減衰傾度はむしろ急峻になることを見出した。
【0014】そこで、上記のことを確認すべく圧電基板に42°Y-X LiTaO3を用い、電極にアルミニウム合金の膜厚H/λを0.08、IDT電極対数を100対、反射器の本数をそれぞれ100本、電極指の交差幅Wを30λ、共振周波数を880MHz帯としたSAW共振子5個を図6のにように並直列に接続したフィルタの濾波特性を、前記のSAW共振子の容量比γ、電気的等価抵抗R等の実験値を用いて、シミュレーションによって求めた。図4は、SAW共振子の容量比γが最小値より少し大きな値を呈するライン占有率0.7に設定した場合の濾波特性を示した図で、フィルタ特性について阻止域を含めて図示したものBと、通過域のみを拡大して図示したものAが重ね書きされている。拡大したフィルタ特性のロス(Loss)は右側の縦軸に、周波数(Freq.)は下段に数値に対応している。尚、ハッチングを施したAsは通過域の規格、Bsは減衰域の規格を示したものである。図4と図7とから明らかなように、ライン占有率が0.7を用いたラダー型SAWフィルタの方が通過域近傍の減衰傾度が急峻であることが分かる。
【0015】さらに、図4、7を詳細に検討すると最小損失から1.5dB減衰した所の通過帯域幅は両者ともほぼ同じ値を示すが、30dB減衰した所の帯域幅はライン占有率0.7を用いたラダー型SAWフィルタの方が、ライン占有率0.5のフィルタより約7%ほど狭くなっていることが分かった。即ち、ライン占有率を0.7に設定したラダー型SAWフィルタの方がライン占有率を0.5に設定したフィルタより通過域近傍の減衰傾度が急峻になるということである。さらに、容量比γ、電気的等価抵抗R等に実験値を用い、ライン占有率をパラメータにしてラダー型SAWフィルタの濾波特性をシミュレーションにより求めたところ、ライン占有率L/(L+S)が0.55≦ L/(L+S) ≦0.75の関係を満たすときにライン占有率0.5とした従来のフィルタより減衰傾度が改善されることが分かった。
【0016】以上の説明では圧電基板上に配列したSAW共振子のIDT電極及びグレーティング反射器のライン占有率を同じ比で変化させた場合について、通過域近傍の減衰傾度が改善される関係を求めたが、ライン占有率を変化させると共振周波数も変化するため、グレーティング反射器が形成するストップバンドの中心地をフィルタの帯域幅に対して最適になるようにグレーティング反射器の波長を調整することはいうまでもない。
【0017】また、以上の説明では、タンタル酸リチウム基板の切断角度θを42度を用いた場合について説明したが、切断角度が38°≦θ≦44°の範囲の切断角度を用いても上記と同様な結果が得られた。また、電極膜厚H/λについて0.08の場合について説明したが、この値に限ることなく0.07≦ H/λ≦0.1の範囲に設定したものについても同様な結果が得られた。
【0018】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成したので、通過域近傍の減衰傾度を急峻にすることが可能となった。従って、本発明になるフィルタを1.9GHz帯の携帯電話等のRFフィルタに用いれば通信品質の優れた携帯電話が実現できるという優れた効果を奏す。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るラダー型SAWフィルタの構成を示す平面図である。
【図2】(a)ライン占有率を説明する図、(b)円線図、(c)共振特性を示す図である。
【図3】(a)ライン占有率L/(L+S)と容量比γとの関係を示す図、(b)ライン占有率L/(L+S)と電気的等価抵抗Rとの関係を示す図である。
【図4】本発明に係るラダー型SAWフィルタの濾波特性を示す図である。
【図5】(a)SAW共振子の構成を示す図、(b)ラダー型SAWフィルタの構成を示す図である。
【図6】ラダー型SAWフィルタの電気的等価回路である。
【図7】従来のラダー型SAWフィルタの濾波特性を示す図である。
【符号の説明】
1・・圧電基板
2、3、4、5、6・・SAW共振子
7・・リード電極
8a、8b、8c、8d、8e・・電極パッド
L・・電極指幅(ライン幅)
S・・スペース
λ・・波長
H・・電極膜厚
α・・共振点
β・・反共振点
A・・通過域特性
B・・減衰域特性
As・・通過帯域の規格
Bs・・減衰域の規格

【特許請求の範囲】
【請求項1】 タンタル酸リチウム基板上に表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配してなるSAW共振子を複数個配設して構成するラダー型SAWフィルタにおいて、前記IDT電極及び前記グレーティング反射器の電極指幅LとスペースSとの関係を0.55≦L/(L+S)≦0.75としたことを特徴とするラダー型SAWフィルタ。
【請求項2】 切断角度θが38°≦θ≦44°のタンタル酸リチウム基板を用いたことを特徴とする請求項1記載のラダー型SAWフィルタ。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2000−151355(P2000−151355A)
【公開日】平成12年5月30日(2000.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−314241
【出願日】平成10年11月5日(1998.11.5)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】