説明

ランタニドイオンを含有する発光性化合物

【課題】可視光を励起光とし、励起波長の調節が容易なランタニド発光性化合物の提供。
【解決手段】式(I)で表される化合物。Met−COG−ChHet(I)(Metはランタニドイオンを含んでなる基、COGはランタニドイオンに直接結合する複素環基、ChHetはCOGと共役する複素環を含有する基を表す。)COGは例えば一般式(III)で表される基である。(BはChHetの基に結合する結合手、A〜AはNまたは=C(−R)−、R及びR〜RはH又は置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はランタニドイオンを含有する発光性化合物に関し、詳しくは、微量成分の標識技術分野、フラットパネルディスプレイ分野、照明用材料分野、繊維・衣料分野で有用な新規な発光性化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタニド錯体の発光は極めて大きなストークスシフトを有しており、濃度消光が起りにくいことや、遅延蛍光と呼ばれる長い励起寿命を有するなど、通常の発光性有機色素には見られないような際だった特徴を有していることが知られている。このような特徴をもとに、ユーロピウムやテルビウムに代表される可視域に発光スペクトルを有するランタニド錯体化合物の利用に関しては、これまで数多くの提案がなされている。例えば、非特許文献1及び特許文献1には標識用化合物が、特許文献2にはカラーディスプレイ用のカラーフィルタへの応用が開示されている。
【0003】
従来のランタニド錯体の励起波長は紫外域であり、これまでに知られているものの大部分は、350nmよりも短波長の励起極大を有するものであった。励起波長が紫外域であることは、励起光源が限定されることになり、多くの場合、高価な光源を使用せざるを得ない問題がある。
【0004】
さらに、生体微量成分の検出や生体イメージング用途においては、高エネルギーの紫外光は生体や検出対象物質に損傷を与える問題が指摘されている。また、生体中には紫外域に吸収を有する成分が多数存在することや、光の散乱の観点から、波長が長いほど散乱を受けにくくなるため、励起光としては紫外域よりは可視域の方が深さ方向の情報を得るのに適していると言われている。
【0005】
カラーディスプレイ用カラーフィルタへの応用に関して、液晶ディスプレイ用途においては、通常の偏光板は紫外光のほとんどを透過しないため、カラーフィルタに到達する光のうち利用可能な部分は可視域にほぼ限定される。また、有機ELディスプレイ用の色変換フィルタ用途としては、紫外光発光を利用することも可能ではあるが、一般的には素子寿命の観点から青色光発光の方が有利であり、青色光を緑色光や赤色光へと変換することが目的となる。この場合、励起光は可視域の光が使用されることになる。
【0006】
前述のように、これまでに知られているランタニド錯体のほとんどは励起波長が紫外域にあるため上記応用を目的とする場合、可視光またはその近傍で励起可能なランタニド錯体を開発することが強く望まれている。
【0007】
非特許文献2には溶液中で402nmに励起極大を有するユーロピウム錯体が記載されており、発光量子収率も高いことが記載されている。しかし、この化合物はその類縁体の合成が容易ではないことが知られており、励起波長の調節自由度が極めて低い欠点があった。
【特許文献1】特開2003−325200号公報
【特許文献2】特開2001−143869号公報
【非特許文献1】「月刊 マテリアルインテグレーション」,(株)ティー・アイ・シィー,2004年3月,第17巻,第3号
【非特許文献2】「アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション」,2004年,第43巻,5009頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、より安価で入手容易な光源として可視光あるいはその近傍の波長の励起光を利用可能にし、かつ励起波長の調節を容易にする一連のリガンド色素群および一連の発光性ランタニド錯体化合物群を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記の手段によって達成された。
[1]下記一般式(I)で表される発光性化合物。
一般式(I)
Met−COG−ChHet
(式中、Metはランタニドイオンを含んでなる基を表し、COGはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに直接結合する複素環基を表し、ChHetは複素環を含有し、好ましくはCOGと共役する基を表す。)
[2]前記一般式(I)中のCOGで表される基が下記一般式(II)で表される基であることを特徴とする[1]項に記載の発光性化合物。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。ZはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに対して結合する原子または原子団を1つ以上有する基を表す。)
[3]前記一般式(II)で表される基が下記一般式(III)または(IV)で表される基であることを特徴とする[2]項に記載の発光性化合物。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表し、A1、A2、A3及びA4はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R6〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
[4]前記一般式(I)中のChHetで表される基が下記一般式(V)で表される基であることを特徴とする[1]項に記載の発光性化合物。
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R14、R15及びR16は水素原子または置換基を表し、R14とR15、R15とR16及びR14とR16は互いに結合して環を形成してもよい。nは0、1又は2を表す。Gは5又は6員の含窒素複素環を形成するのに必要な原子群を表し、さらに該含窒素複素環は縮合環を形成していてもよい。また、R14、R15又はR16と結合して環を形成してもよい。)
[5]前記一般式(II)中、A1及びA2の少なくとも一方が窒素原子を表すことを特徴とする[2]項に記載の発光性化合物。
[6]Metで表される基に含まれるランタニドイオンがネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム及びジスプロシウムからなる群から選択される金属のイオンであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の発光性化合物。
[7]Metで表される基に含まれるランタニドイオンがユーロピウムイオン又はテルビウムイオンであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の発光性化合物。
[8]一般式(II−b)で表されるリガンド色素。
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、B’は複素環を含有する基を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。Z’はランタニドイオンを含んでなる基に含まれるランタニドイオンに対して結合する原子または原子団を1つ以上有する基を表す。)
[9]一般式(III−b)または(IV−b)で表されるリガンド色素。
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、B’は複素環を含有する基を表し、A1、A2、A3及びA4はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、B’は複素環を含有する基を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R6〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【発明の効果】
【0024】
本発明の発光性化合物は、従来のランタニド錯体では利用できなかった可視光あるいはその近傍の波長の励起光を利用することができる、すなわち安価で入手容易な光源を使用することができる。また、本発明のリガンド色素はランタニドイオンのリガンドとして用いられる以外にも、色素として既知の様々な用途に用いることができる。例えば、本発明のリガンド色素は高い分子吸光係数とシャープな吸収スペクトル、高い蛍光強度を有することから微量成分の検出や蛍光インクなどの分野に使用することができる。
【0025】
本発明の化合物は発光を利用する様々な分野において応用が可能である。特にこれまで困難とされてきた可視域の光源により励起が可能なため、微量成分の標識・検出分野や液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ分野において、利用範囲を拡大することができる。また、照明用材料分野においては照明光の色調調節などに応用が可能である。また、大きなストークスシフトを利用して従来にない色味を呈する繊維を作製することも可能であり、衣料やファッションの分野でも新たなシーズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の発光性化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である。
一般式(I)
Met−COG−ChHet
式中、Metはランタニドイオンを含んでなる基を表し、COGはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに直接結合する複素環基を表し、ChHetは複素環を含有する基を表す。ここで、ChHetは、COGと共役することが好ましい。
【0027】
Metで表される基に含まれるランタニドイオンは特に限定されないが、好ましくはネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム及びジスプロシウムからなる群から選択される金属のイオンであり、より好ましくはユーロピウムイオン又はテルビウムイオンである。
【0028】
Metで表される基はランタニドイオン自体であってもよいし、COG−ChHet以外のランタニドイオンに結合する基を含んでいてもよい(この場合の結合する基を結合基Jとする)。Metが結合基Jを含んでいる場合、結合基Jの例としてはホスフィン類(例としてはトリフェニルホスフィン、トリオクチルホスフィンなど)、ホスフィンオキシド類(例としてはトリフェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシドなど)、アミン類(例としてはトリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミンなど)、ジケトン類(ジベンゾイルメタン、テノイルトリフルオロアセトン、アセチルアセトン、3−ヘプタフルロブチリルカンファーなど)、カルボン酸類(酢酸、プロピオン酸、安息香酸など)、イミド類(ビスノナフルオロ−1−ブタンスルホンイミド、ベンゼンスルホンイミド、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンイミド、トリフルオロメタンスルホンイミドなど)、エーテル類(ジメトキシエタン、ジエチレングリコール、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテルなど)、チオエーテル類(ジメチルスルフィド、1,4,8,11−テトラチアシクロテトラデカンなど)やこれらを合わせ持ったものであってもよく、環状あるいは鎖状であってもよく、クラウンエーテル、クリプタンドあるいはカリックスアレーンとして知られているような大環状のものであってもよい。
【0029】
ランタニドイオンの価数は0価、1価、2価、3価または4価であってもよく、ランタニドイオンに複数の結合基が結合する場合にはそれぞれが同一であっても、異なっていてもよい。ランタニドイオンとの結合様式は共有結合、イオン結合または配位結合であってもよく、複数の結合が存在する場合には結合様式は同一であっても異なっていてもよい。
以上の結合基Jに含まれる水素原子以外の原子数は1〜60であることが好ましく、1〜45であることがより好ましく、3〜40が最も好ましい。
【0030】
Metで表される基とCOGで表される基とは直接結合するが、この結合様式は共有結合、イオン結合、配位結合などいずれの結合様式でもよく、1ヶ所以上の配位結合を有していることが好ましい。
【0031】
一般式(I)中、COGはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに直接結合する複素環基を表す。COGで表される基は下記一般式(II)で表される基であることが好ましい。
【0032】
【化8】

【0033】
式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表す。
1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表す。A1及びA2のうち少なくとも一方が窒素原子を表すことが好ましい。
1は水素原子または置換基を表す。R1が置換基を表す場合、好ましくは置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シリル基、アルコキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アシル基、スルホニル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基またはカルボキシル基であり、より好ましくは置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、ハロゲン原子またはシアノ基である。
1に関して、水素原子以外の原子数は1〜30が好ましく、1〜20がより好ましく、1〜10が最も好ましい。
【0034】
ZはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに対して結合する原子または原子団を1つ以上有する基を表す。このような基としては置換されたアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アルコキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アカルバモイルオキシ基またはウレイド基などが好ましく、さらに好ましくは置換されたアルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシ基またはアミノ基である。
該置換基ZとMetに含まれるランタニドイオンとの結合様式は共有結合、イオン結合または配位結合のいずれでもよい。
ランタニドイオンに結合する原子または原子団としてはアミンの窒素原子、含窒素複素環の窒素原子、含イオウ複素環のイオウ原子、含酸素複素環の酸素原子、エーテル結合の酸素原子、チオエーテル結合のイオウ原子、カルボン酸の酸素原子、1,3−ジケトンの酸素原子、オキシムの酸素原子および/または窒素原子、尿素結合の酸素原子および/または窒素原子、アミド結合の酸素原子および/または窒素原子、チオ尿素結合のイオウ原子および/または窒素原子、イミンの窒素原子などが好ましく、アミンの窒素原子、含窒素複素環の窒素原子、含イオウ複素環のイオウ原子、エーテル結合の酸素原子、チオエーテル結合のイオウ原子、カルボン酸の酸素原子、1,3−ジケトンの酸素原子がより好ましい。
Zに関して、水素を除いた原子数は1〜60が好ましく、1〜45がより好ましく、1〜35が最も好ましい。
【0035】
一般式(II)で表される基は、下記一般式(III)または(IV)で表される基であることがより好ましい。
【0036】
【化9】

【0037】
式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表す。
1、A2、A3及びA4はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水
素原子または置換基を表す。R1の例は前述のR1と同じである。
2〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R2〜R5が置換基を表す場合、好ましい例としては置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シリル基、アルコキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アシル基、スルホニル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基またはカルボキシル基であり、より好ましくは置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基またはハロゲン原子であり、一般式(II)でZで表される基として述べた置換基もより好ましい例として挙げることができる。
2〜R5に関して、水素を除いた原子数は1〜60が好ましく、1〜45がより好ましく、1〜35が最も好ましい。
【0038】
【化10】

【0039】
式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表す。
1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R1の例は前述のR1と同じである。
6〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R6〜R13が置換基を表す場合、好ましい例としては置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、シリル基、アルコキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アシル基、スルホニル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基またはカルボキシル基であり、より好ましくは置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基またはハロゲン原子であり、一般式(II)でZで表される基として述べた置換基もより好ましい例として挙げることができる。
6〜R13に関して、水素を除いた原子数は1〜60が好ましく、1〜45がより好ましく、1〜35が最も好ましい。
一般式(II)、(III)または(IV)で表される基において、複素環に含まれる窒素原子のうち孤立電子対を有するものはランタニドイオンに対して結合していてもよく、ランタニドイオンに対して結合していることがより好ましい。一般式(III)のR2〜R5および一般式(IV)のR6〜R13はランタニドイオンに対して結合する基を有していてもよく、この中ではR3、R5、R6および/またはR10がランタニドイオンに対して結合する基を有していることが好ましい。これらの基がランタニドイオンに結合する基を有している場合、その結合基として、該結合が共有結合である場合にはアリール基、ヘテロアリール基、エチニル基、該結合が配位結合である場合には孤立電子対を有する原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子、リン原子またはセレン原子など)、該結合がイオン結合である場合にはカルボキシルアニオン、スルホンアミドアニオン、スルホンイミドアニオン、フェノキシドアニオン、ホスホン酸アニオンなどの陰イオンを含有していることが好ましい。
【0040】
一般式(I)中、ChHetは複素環を含有する基を表す。ChHetで表される基が含有する複素環に含まれるヘテロ原子としては、好ましくは窒素原子、ホウ素原子、イオウ原子、酸素原子、リン原子、セレン原子であり、より好ましくは窒素原子、ホウ素原子、イオウ原子、酸素原子である。ChHetで表される基が含有する複素環としては含窒素複素環であることが最も好ましい。
ChHetで表される基とCOGで表される基との結合様式は共有結合が好ましく、さらにCOGで表される基とChHetで表される基とはπ結合によって共役していることが好ましい。
ChHetで表される基は下記一般式(V)で表される基であることが好ましい。
【0041】
【化11】

【0042】
式中、R14、R15及びR16は水素原子または置換基を表し、R14とR15、R15とR16及びR14とR16は互いに結合して環を形成してもよい。ここで、置換基とは、アルキル基、アリール基、カルボアミド基、スルホンアミド基、アルキオチオ基、複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基及びこれらの組合からなる群から選択される置換基を示す。nは0、1又は2を表す。Gは5又は6員の含窒素複素環を形成するのに必要な原子群を表し、さらに該含窒素複素環は縮合環を形成していてもよい。また、R14、R15又はR16と結合して環を形成してもよい。
以下にGとして好ましい複素環の例を挙げる。以下の例においては複素環の骨格を表すものであり、部分的に飽和された骨格として用いられてもよく、ヘテロ原子の位置はそれぞれの環系で適宜選択が可能であり、縮合環については任意の位置で縮合してもよい。また、これらの環の組み合わせで表される環であってもよい。
ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、チオフェン、フラン、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、セレナゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、テトラジン、オキサジン、チアジン、オキサジアジン、チアジアジン、ピロロピロール、インドール、ピロロピラゾール、ピロロイミダゾール、ピロロトリアゾール、ピロロテトラゾール、チエノピロール、ピロロオキサゾール、チエノピロール、ピロロオキサゾール、ピロロチアゾール、ピロロピリジン、ピロロピリミジン、ピロロピラジン、ピロロピリダジン、ピロロトリアジン、ピロロテトラジン、ピロロオキサジン、ピロロチアジン、ピロロオキサジン、ピロロチアジアジン、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾセレナゾール、キノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、ベンゾトリアジン、ベンゾオキサジン、ベンゾチアジン、ピラゾロピラゾール、ピラゾロオキサゾール、ピラゾロチアジアゾール、ピラゾロピリジン、ピラゾロピリミジン、ピラゾロピラジン、ピラゾロピリダジン、ピラゾロトリアジン、ピラゾロオキサジン、ピラゾロチアジン、ピラゾロチアジアジン、イミダゾロピラゾール、ピラゾロトリアゾール、ピラゾロテトラゾール、チエノピラゾール、フロピラゾール、ピラゾロオキサゾール、イミダゾロイミダゾール、イミダゾロトリアゾール、イミダゾロテトラゾール、チエノイミダゾール、フロイミダゾール、イミダゾロオキサゾール、チエノイミダゾール、イミダゾロオキサジアゾール、イミダゾロチアジアゾール、イミダゾロセレナゾール、イミダゾロピリジン、イミダゾロピリミジン、イミダゾロピラジン、イミダゾロピリダジン、イミダゾロトリアジン、イミダゾロオキサジン、イミダゾロチアジン、イミダゾロオキサジアジン、イミダゾロチアジアジン、トリアゾロトリアゾール、チエノトリアゾール、フロトリアゾール、トリアゾロオキサゾール、トリアゾロチアゾール、トリアゾロオキサジアゾール、トリアゾロチアジアゾール、トリアゾロピリジン、トリアゾロピリミジン、トリアゾロピラジン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロトリアジン、トリアゾロオキサジン、トリアゾロチアジン、トリアゾロオキサジアジン、トリアゾロチアジアジン、テトラゾロオキサゾール、テトラゾロチアゾール、テトラゾロピリジン、テトラゾロピリミジン、テトラゾロピラジン、テトラゾロピリダジン、テトラゾロオキサジン、テトラゾロチアジン、チエノチオフェン、チエノフラン、チエノオキサゾール、チエノチアゾール、チエノオキサジアゾール、チエノチアジアゾール、チエノセレナゾール、チエノピリジン、チエノピリミジン、チエノピラジン、チエノピリダジン、チエノトリアジン、チエノテトラゾール、チエノオキサジン、チエノチアジン、チエノオキサジアジン、チエノチアジアジン、フロオキサゾール、フロチアゾール、フロオキサジアゾール、フロチアジアゾール、フロピリジン、フロピリミジン、フロピラジン、フロピリダジン、フロトリアジン、フロオキサジン、フロチアジン、オキサゾロオキサゾール、チアゾロオキサゾール、オキサゾロオキサジアゾール、オキサゾロチアジアゾール、オキサゾロピリジン、オキサゾロピリミジン、オキサゾロピラジン、オキサゾロピリダジン、オキサゾロトリアジン、オキサゾロオキサジン、オキサゾロチアジン、オキサゾロオキサジアジン、オキサゾロチアジアジン、チアゾロチアゾール、チアゾロオキサジアゾール、チアゾロオキサジアゾール、チアゾロセレナゾール、チアゾロピリジン、チアゾロピリミジン、チアゾロピラジン、チアゾロピリダジン、チアゾロトリアジン、チアゾロオキサジン、チアゾロチアジン、チアゾロオキサジアジン、チアゾロチアジアジン、ジチオール、ジオキソール、ベンゾジチオール、ベンゾジオキソール。
ChHetに関して、水素を除いた原子数は6〜70が好ましく、6〜55がより好ましく、10〜45が最も好ましい。
【0043】
以下にChHetで表される基の基本骨格の具体例(置換基を有していてもよい)を挙げるが本発明の範囲はこれら具体例に限定されるものではない。なお、以下のChHetで表される基の例の中でRは水素以外の基を表し、波線結合は幾何異性体のいずれか一方、あるいはその混合物であることを表し、#はCOGで表される基に結合することを表す。
【0044】
【化12】

【0045】
【化13】

【0046】
【化14】

【0047】
【化15】

【0048】
次に本発明の具体的な化合物例を挙げて本発明をさらに詳しく示すが、本発明の範囲はこれら具体例に限定されるものではない。なお、本具体例において、Mはランタニドイオンを表す。
【0049】
【化16】

【0050】
【化17】

【0051】
【化18】

【0052】
【化19】

【0053】
【化20】

【0054】
【化21】

【0055】
【化22】

【0056】
【化23】

【0057】
【化24】

【0058】
【化25】

【0059】
次に、本発明の一般式(I)で表される化合物の製造法について説明する。
本発明の一般式(I)で表される化合物は一般的にMetとCOG−ChHetとを反応させることによって合成される。まず、COG−ChHet部分の合成は一般にCOG部分とChHetをカップリングさせることによって合成が可能である。まず、ランタニドリガンドを形成し、その後にランタニド錯体へ誘導する。本発明の化合物の合成に関して、上記カップリング反応以外の部分も含めて、「アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション」,2004年,43巻,5009頁、特開平7−267927号公報などに記載の方法を参考にすることができる。また、本発明のランタニドリガンドは可視光やその近傍の波長領域に吸収を有する色素であるという観点から、種々の色素合成に関する文献を参考にすることができる。色素部分の製造については「カラーケミカル事典(機能性色素の総合事典)」,飛田満彦著,有機合成化学協会刊、「染料便覧(新版)」,有機合成化学協会刊(1974年)、「写真色素概論」,木村恒行著,工業図書刊(1997年)、「Chemistry of Heterocyclic Compounds, Vol.18: Cyanine Dyes and
Related Compounds」,F. M. Hamer著,Wiley刊などや引用の文献を参考にすることができる。ランタニドイオンとの結合を形成する部分の製造に関しては、「クラウンエーテルとクリプタンドの化学」,Reed Izatt著,化学同人(京都)刊(1979年)、「中・大環状天然物合成の新展開」,日本化学会編,学会出版センター刊(1981年)、「金属キレート化合物」,A. E. Martell,Melv Calvin著,共立出版刊(1960年)、「キレート化学」,上野景平著,南江堂刊、「実験化学講座(第5版)21」,日本化学会編,丸善刊(2004年)や引用の文献を参考にすることができる。ランタニド化合物一般の製造および取り扱いについては「希土類の科学」,足立吟也編著,(株)化学同人刊の14〜18章に詳しく記載されており、引用文献も含めて参考にすることができる。上記文献記載の方法や後述の実施例を参考にすることでさらに広い範囲の化合物を製造することが可能である。一般式(II)であらわされる化合物のBとそれ以外の部分(以下Cと称する)との結合の形成反応については、大別して2種類の結合方法をとることができる。1つはCが求核置換可能な基(離脱基)を有し、Bがエナミン構造を有し、この両者による求核置換反応を行う方式である。もう一つはCが求核性を有する炭素アニオンを有し、Bが求核置換可能な基(離脱基)を有するもので、この両者による求核置換反応を行う方式である。いずれの方法も本発明の化合物の製造に好ましく用いることができる。一般式(III)で表される化合物に関する製造手段としてはハロゲン化アジン類とアゾール類を用いて置換反応を行い、3環性化合物とし、ついでエナミン構造を有する複素環化合物(一般的にメチレンベースと呼ばれる)を反応する方法、あるいはハロゲン化アジン類とエナミン構造を有する複素環化合物を最初に反応させたのちに、アゾール類によって置換反応を行う方法が一般に用いられ、本発明の化合物に関してはいずれも好ましく用いることができる。一般式(IV)で表される化合物の製造手段としても基本的戦略においては一般式(III)で表されるものと同様であるが、2個のピリジン環と中心のアジン環の間に炭素−炭素結合を形成する必要がある点で異なっている。この結合を形成する際には種々の炭素−炭素結合形成反応を用いることができるが、一般的な例として、グリニャール反応やパラジウムを触媒として用いた炭素−炭素結合反応(鈴木カップリング反応など)などが好ましく用いられる。
【0060】
本発明の前記一般式(I)で表される化合物を使用する際には様々な溶媒に溶解させることができる。水、アルコール類、ヘキサン、トルエン、エステル類、エーテル類、アミン類などの低極性有機溶媒、ニトリル類、アミド類、スルホン類、スルホキシド類などの極性有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、フッ化炭化水素などのハロゲン系溶媒など、必要に応じて選択することができ、またこれらの混合溶媒も同様に好ましく用いることができる。
【0061】
本発明の化合物はバインダに混合して使用することができる。バインダの例としては、ゼラチン、カラギーナンなどの天然高分子やポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシドなどの合成高分子を用いることもできる。また、パターニングなどの目的で各種レジスト類も用いることができる。バインダに混合する際には上記溶媒に溶解して混合することも、また直接バインダに混練することもできる。
【0062】
励起波長は紫外領域から可視領域にわたって広く用いることができる。可視光あるいはその近傍が励起波長として好ましい。励起波長の範囲は、用途によって異なるが、励起光源として好ましい例として、発光ダイオード、半導体レーザ、太陽光、一般室内用照明灯、液晶ディスプレイ用バックライト、有機EL発光、無機EL発光、ハロゲンランプ等が挙げられ、これらを光源と想定した場合には、360nm〜700nmの範囲に励起極大を有することが好ましく、より好ましくは360nm〜600nmであり、最も好ましい範囲としては390nm〜550nmである。2光子励起を行うことも好ましく使用できるが、この場合には以上の好ましい励起波長のおよそ2倍の波長の励起光を用いることができる。また、アップコンバージョン法として知られているような、異なっていてもよい2波長の励起光を用いて、高次の励起状態を生成する方法も使用することができる。
励起方法は連続的な光照射を行っても、パルス状の励起を行ってもよい。
【0063】
本発明の別の実施態様は上記一般式(II−b)(III−b)または(IV−b)で表されリガンド色素である。一般式(II−b)(III−b)(IV−b)中、B’は複素環を含有する基を表し、複素環としては一般式(I)におけるChHetが含有する複素環と同様で、好ましい範囲も同様である。また、式中A〜A、及びR〜R13はそれぞれ一般式(II)〜(IV)におけるのと同じ意味である。また、式中、Z’はランタニドイオンを含んでなる基のランタニドイオンに対して結合する原子または原子団を1つ以上有する基を表す。
本発明の「リガンド色素」は、可視光あるいはその近傍の波長の光を吸収し、かつランタニドイオンに対して結合する能力を有する色素であり、好ましくは、一般式(I)におけるCOG−ChHetの部分に相当する構造を有する化合物である。
例えば、一般式(I)で表される化合物のCOGとMetとの結合が共有結合の場合には、本発明のリガンド色素は、一般式(I)で表される化合物におけるランタニド原子を水素で置換したCOG−ChHetの部分に相当する構造を有する化合物である。また、上記COGとMetとの結合が配位結合の場合、すなわち窒素原子、酸素原子またはイオウ原子等の孤立電子対がランタニドイオンに結合している場合には、本発明のリガンド色素は、孤立電子対を含むCOG−ChHetの部分に相当する構造を有する化合物である。また、上記COGとMetとの結合がイオン結合の場合にはランタニドイオンを水素またはランタニドイオン以外のイオン(例えばアンモニウムイオン、1族元素イオン、2族元素イオン、スルホニウムイオンまたはホスホニウムイオン)で置換したCOG−ChHetの部分に相当する構造を有する化合物である。
【0064】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
実施例1
<例示化合物(2)リガンド部分の製造>
(1−1)2−メチルオキサゾロ〔4,5−b〕ピリジンの合成
2−アミノ−3−ヒドロキシピリジン15g(136ミリモル)にオルト酢酸エチル80mLを添加し、触媒量のp−トルエンスルホン酸を加え、4時間120℃で反応した。冷却後、トリエチルアミンを加えてp−トルエンスルホン酸を中和した後、エバポレータで減圧留去を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。
収量12.0g、収率65.8%
【0066】
(1−2)ヨウ化2,4−ジメチルオキサゾロ〔4,5−b〕ピリジニウムの合成
上記(1−1)で合成した化合物10g(74.6ミリモル)をアセトン70mLに懸濁し、ヨウ化メチル10mLを加えて5時間加熱還流した。冷却後、析出した結晶を濾取し、アセトンで洗浄したのち、乾燥した。
収量16.5g、収率80.1%
【0067】
(1−3)例示化合物(2)のリガンド部分の製造
上記(1−2)で合成した4級塩2.8gと塩化シアヌル1.9gを脱水テトラヒドロフラン100mLに懸濁し、水冷下でN−エチルジイソプロピルアミン2mLをゆっくり滴下した。1時間反応後、ジメチルアセタミド30mLと3,5−ジメチルピラゾール10gを加え、テトラヒドロフランを減圧留去した。80℃で2時間加熱を行い、冷却後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。さらに得られた固形物をジメチルホルムアミドに溶解し、酢酸エチルを加えて晶析した。
収量0.53g、収率12.8%
物性データ
マススペクトル:416.2(M+H)+
nmrスペクトル(重DMSO):7.83(1H,t)、7.5−7.6(1H,d(2種類))、6.84−6.94(1H,t(2種類))、6.15−6.2(2H,s(2種類))、5.34(1H,s(2種類))、3.9−4.0(3H,s(2種類))、2.7−2.9(6H,s(2種類))、2.20(6H,s)
nmrスペクトルにおける2種類の存在はオレフィン部分のE,Z異性体の約1:1混合物のためである。
【0068】
実施例2
<例示化合物(4)の製造>
(2−1)2,3,3,−トリメチル−3H−ピロロ〔2,3−b〕ピリジンの合成
2−ヒドラジノピリジン10gに3−メチル−2−ブタノン20mLを加え、80℃で1時間加熱した。生成した水と過剰の3−メチル−2−ブタノンを減圧下にて留去し、1gの塩化亜鉛を添加して200℃で3時間加熱した。この混合物を減圧蒸留し、さらにヘキサンから再結晶して目的物を得た。
収量4.6g、収率31.0%
【0069】
(2−2)ヨウ化2,3,3,7−テトラメチル−3H−ピロロ〔2,3−b〕ピリジニウムの合成
上記(2−1)で得られた化合物4g(25ミリモル)をアセトン40mLに溶解し、ヨウ化メチル4mLを加えて1時間加熱還流した。冷却後、析出した結晶を濾取し、アセトンで洗浄、乾燥して目的物を得た。
収量6.5g、収率86.0%
【0070】
(2−3)例示化合物(4)のリガンド部分の製造
上記(2−2)で合成した4級塩5g(16.5ミリモル)に水30mLとトルエン50mLを加えて水冷下で撹拌した。この混合物に水酸化カリウム3gを加え、20分撹拌したのち、分液して有機相を取り出した。この有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、トルエンを減圧留去した。残留物にジメチルアセタミド35mLを加え、氷冷下、塩化シアヌル2.7gを加えて1時間反応した。ついで、この反応液に3,5−ジメチルピラゾール12gを加えて、80℃で3時間反応した。
酢酸エチル100mLを加え、冷却すると結晶が析出した。この結晶を濾取し、酢酸エチルで洗浄し、さらにジメチルホルムアミドに溶解し、酢酸エチルを加えて晶析した。濾取後、乾燥して目的物を得た。
収量1.3g、収率17.8%
物性データ
マススペクトル:442.1(M+H)+
nmrスペクトル(重クロロホルム):7.11(1H,d)、7.03(1H,d)、6.35(1H,t)、6.03(2H,s)、5.75(1H,s)、3.94(3H,s)、2.85(6H,s)、2.32(6H,s)、1.38(6H,s)
【0071】
(2−4)例示化合物(4)の製造
「アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション」,2004年,43巻,5009頁に記載の方法に従って、上記(2−3)で合成した例示化合物(4)のリガンド部分とランタニド部分とを脱水テトラヒドロフランに等モル溶解、反応させ、錯体形成後、溶媒を留去した。ついで残留物を脱水ジエチルエーテルに溶解し、n−ヘキサンを加えて析出した固体を濾取し、ヘキサンで洗浄し、乾燥を行い、例示化合物(4)を得た。
物性データ
nmrスペクトル(重クロロホルム):24.6(3H,s)、11.8(1H,s)、7.08(1H,d)、7.00(1H,d)、6.83(3H,s)、6.39(1H,dd)、6.07(3H,s)、5.14(3H,s)、4.72(6H,s)、4.14(3H,s)、1.01(6H,s)
【0072】
実施例3
<例示化合物(9)リガンド部分の製造>
(3−1)例示化合物(9)のリガンド部分の製造
臭化2,3−ジヒドロ−1H−ベンゾ〔d〕ピロロ〔2,1−b〕チアゾリウム(特開昭40−13759号公報を参考にして合成)2.56g(10ミリモル)と塩化シアヌル1.9gを脱水テトラヒドロフラン90mLに懸濁し、室温でN−エチルジイソプロピルアミン4mLをゆっくり滴下した。1時間反応後、ジメチルアセタミド30mLと3,5−ジメチルピラゾール15gを加え、テトラヒドロフランを減圧留去した。80℃で2時間加熱を行い、冷却後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。さらに得られた固形物をジメチルホルムアミドに溶解し、酢酸エチルを加えて晶析した。
収量0.70g、収率15.8%
物性データ
マススペクトル:443.2(M+H)+、465.1(M+Na)+
nmrスペクトル(重DMSO):7.83(1H,d)、7.40(1H,t)、7.24(1H,d)、7.15(1H,t)、6.19(2H,s)、4.37(2H,t)、3.44(2H,t)、2.73(3H,s)、2.67(3H,s)、2.26(3H,s)、2.22(3H,s)
【0073】
実施例4
<例示化合物(30)の製造>
(4−1)2,4,6−トリス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)−1,3,5−トリアジンの合成
18.4gの塩化シアヌルを100mLのジメチルアセトアミドに溶解し、室温で69.2gの3,5−ジメチルピラゾールを添加した。ついで反応温度を80℃として2時間反応した。
冷却後、反応液を水に注ぎ、析出した結晶を濾取し、ジメチルホルムアミドから再結晶した。収量21.0g、収率57.9%
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):6.11(3H,s)、2.81(9H,s)、2.33(9H,s)
【0074】
(4−2)例示化合物(30)のリガンド部分の製造
5,6−ジクロロ−1,2−ジメチル−3−エチル−1H−ベンズイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩3.93gを50mLのジメチルスルホキシドに溶解し、3.63gの上記(4−1)で合成した2,4,6−トリス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)−1,3,5−トリアジンをこれに添加した。この混合物に3mLの1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−7−ウンデセンを加え、70℃で1時間反応した。冷却後、反応液に水を加え、析出した結晶を濾取した。この結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、得られた結晶をジメチルホルムアミドに溶解し、酢酸エチルを添加して結晶を析出させた。減圧濾過後、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒で洗浄し、乾燥して目的物を得た。収量2.9g、収率56.8%
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):7.30(1H,s)、7.20(1H,s)、6.01(2H,s)、5.22(1H,s)、4.11(2H,q)、3.83(3H,s)、2.67(6H,s)、2.33(6H,s)、1.34(3H,t)
【0075】
(4−3)例示化合物(30)の製造
実施例2の(2−4)の方法と同様にして例示化合物(30)を得た。
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):24.1(3H,bs)、11.6(2H,s)、7.32(1H,s)、7.14(1H,s)、6.87(3H,d)、6.13(3H,dd)、5.35(3H,d)、4.02(6H,bs)、3.76(1H,s)、3.57(2H,q)、2.86(3H,s)、1.08(3H,bs)、0.77(3H,t)、0.43(3H,bs)
【0076】
実施例5
<例示化合物(32)の製造>
(5−1)例示化合物(32)のリガンド部分の製造
419mgの6−クロロ−5−シアノー1,3−ジエチル−2−メチル−1H−ベンズイミダゾリウムp−トルエンスルホナートと363mgの実施例4の(4−1)で合成した2,4,6−トリス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)−1,3,5−トリアジンを8mLのジメチルスルホキシドに懸濁し、0.5mLのテトラメチルグアニジンを加えて、80℃で30分間反応した。
冷却後、水を加えて析出した結晶を減圧ろ過を行い、得られた結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。さらに、メタノールと酢酸エチルの混合溶媒から再結晶を行い、目的物を得た。収量287mg、収率55.7%
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):7.34(1H,s)、7.21(1H,s)、6.04(2H,s)、5.31(1H,s)、4.53(2H,q)、4.39(2H,q)、2.70(6H,s)、2.33(6H,s)、1.31(3H,t)、1.28(3H,t)
【0077】
(5−2)例示化合物(32)の製造
上記(5−1)で製造された例示化合物(32)のリガンド部分を用い、実施例2の(2−4)の方法と同様にして例示化合物(32)を得た。
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):23.95(3H,bs)、11.63(2H,s)、7.34(1H,s)、7.25(1H,s)、6.89(3H,d)、6.15(3H,dd)、5.33(3H,d)、4.17(6H,s)、3.97(1H,s)、3.72−3.68(4H,m)、1.21(3H,bs)、0.64(3H,t)、0.56(3H,t)、0.36(3H,bs)
【0078】
実施例6
<例示化合物(36)の製造>
(6−1)2−クロロ−4,6−ビス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)−1,3,5−トリアジンの合成
36.8gの塩化シアヌルを250mLのアセトンに溶解し、水冷下にて76.9gの3,5−ジメチルピラゾールを5分割添加した。この後、2時間加熱環流を行い、35℃まで冷却して減圧濾過を行った。ろ液を0℃に冷却し、析出した結晶を減圧濾過し、目的物を得た。収量25.5g、収率42.0%
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):6.11(2H,s)、2.76(6H,s)、2.32(6H,s)
【0079】
(6−2)例示化合物(36)のリガンド部分の製造
291mgのヨウ化2,3−ジメチルチエノ〔2,3−d〕チアゾリウムと310mgの上記(6−1)で合成した2−クロロ−4,6−ビス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)−1,3,5−トリアジンを5mLのジメチルスルホキシドに溶解し、0.5mLのトリエチルアミンを加え、30℃で2時間反応を行った。冷却後、水を加えて析出した固形物をろ過で取り出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。得られた固形物を酢酸エチルから再結晶して目的物を得た。収量88mg、収率20.2%
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):7.05(1H,d)、6.97(1H,d)、6.06(1H,s)、6.03(1H,s)、6.01(1H,s)、3.62(3H,s)、2.73(3H,s)、2.70(3H,s)、2.37(3H,s)、2.33(3H,s)
【0080】
(6−3)例示化合物(36)の製造
「アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション」,2004年,43巻,5009頁に記載の方法に従って、上記(6−2)で合成した例示化合物(36)のリガンド部分とランタニド部分とを脱水テトラヒドロフランに等モル溶解、反応させ、錯体形成後、溶媒を留去した。ついで残留物を脱水ジエチルエーテルに溶解し、n−ヘキサンを加えて析出した固体を濾取し、ヘキサンで洗浄し、乾燥を行い、例示化合物(36)を得た。
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):23.8−23.7(3H,bs)、11.7(1H,s)、11.5(1H,s)、7.20(1H,d)、7.00(1H,d)、6.97(3H,d)、6.12(3H,dd)、5.30(3H,d)、4.62(1H,s)、4.44(3H,s)、4.23(3H,s)、3.29(3H,s)、 1.26(3H,s)、0.31(3H,s)
【0081】
実施例7
<例示化合物(40)の製造>
(7−1)例示化合物(40)の製造
実施例6の(6−2)に示した方法と同様にして、p−トルエンスルホン酸2,3−ジメチルベンゾチアゾリウムと実施例6の(6−1)で合成した2−クロロ−4,6−ビス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)−1,3,5−トリアジンを用いて例示化合物(40)のリガンド部分を合成し、実施例2の(2−4)に記載の方法と同様にして例示化合物(40)を得た。
nmrスペクトルデータ(重クロロホルム):24.0(3H,bs)、11.8(1H,bs)、11.7(1H,bs)、7.75(1H,d)、7.3−7.2(2H,m)、6.90(1H,d)、6.86(3H,d)、6.12(3H,dd)、5.28(3H,d)、4.97(1H,s)、4.49(3H,bs)、4.31(3H,bs)、3.82(2H,q)、1.26(3H,s)、1.08(3H,t)、0.24(3H,bs)
【0082】
実施例8
<発光性の評価>
本発明の化合物を0.01ミリモル、ポリメチルメタクリレート(和光純薬工業(株)製)50mgをクロロホルムに溶解し、10mLとし、これを溶液Aとした。
0.7mm厚のガラスプレートに赤色のトランサー(富士写真フイルム製)をコートし、これをフィルタBとした。
同様に緑色フィルタをコートしたものを作製し、これをフィルタCとした。
【0083】
溶液Aをスピンコーターを用いてフィルタBおよびフィルタCのそれぞれに対して、トランサーをコートした面側に厚さ3.2μmとなるようにコートしたのち、自然乾燥を行った。フィルタBから得られたものをフィルタD、フィルタCから得られたものをフィルタEとした。
【0084】
フィルタDとフィルタEのそれぞれに対して、青色LED(日亜化学工業(株)製、465−470nm発光)を用いて塗布面側から垂直に光照射を行い、反対面側から波長変換された光を測定した。測定は、島津製作所製、RF5300PC(商品名)を用いて輝度測定を行った。比較として比較化合物1(「アンゲバンテ・ヘミー・インターナショナル・エディション」,2004年,43巻,5009頁に記載)および比較化合物2「月刊 マテリアルインテグレーション」,第17巻,第3号(2004年3月)((株)ティー・アイ・シィー)に記載)を用い、比較化合物1の変換光の光度を100としたときの相対値を示した。結果を表1に示す。
【0085】
【化26】

【0086】
【化27】

【0087】
【表1】

【0088】
表1の結果から明らかなように、比較化合物では汎用の光源である青色LED(約470nm)では十分な強度の発光を示さないのに対して、本発明の化合物は約470nmの可視光で励起され、強い発光を示すことが分かった。この結果から本発明の化合物が色変換フィルタ用途に利用できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される発光性化合物。
一般式(I)
Met−COG−ChHet
(式中、Metはランタニドイオンを含んでなる基を表し、COGはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに直接結合する複素環基を表し、ChHetは複素環を含有する基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)中のCOGで表される基が下記一般式(II)で表される基であることを特徴とする請求項1記載の発光性化合物。
【化1】

(式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。ZはMetで表される基に含まれるランタニドイオンに対して結合する原子または原子団を1つ以上有する基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(II)で表される基が下記一般式(III)または(IV)で表される基であることを特徴とする請求項2記載の発光性化合物。
【化2】

(式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表し、A1、A2、A3及びA4はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【化3】

(式中、BはChHetで表される基に結合する結合手を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R6〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(I)中のChHetで表される基が下記一般式(V)で表される基であることを特徴とする請求項1記載の発光性化合物。
【化4】

(式中、R14、R15及びR16は水素原子または置換基を表し、R14とR15、R15とR16及びR14とR16は互いに結合して環を形成してもよい。nは0、1又は2を表す。Gは5又は6員の含窒素複素環を形成するのに必要な原子群を表し、さらに該含窒素複素環は縮合環を形成していてもよい。また、R14、R15又はR16と結合して環を形成してもよい。)
【請求項5】
前記一般式(II)中、A1及びA2の少なくとも一方が窒素原子を表すことを特徴とする請求項2記載の発光性化合物。
【請求項6】
Metで表される基に含まれるランタニドイオンがネオジム、サマリウム、ユーロピウ
ム、ガドリニウム、テルビウム及びジスプロシウムからなる群から選択される金属のイオ
ンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光性化合物。
【請求項7】
Metで表される基に含まれるランタニドイオンがユーロピウムイオン又はテルビウム
イオンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光性化合物。
【請求項8】
一般式(II−b)で表されるリガンド色素。
【化5】

(式中、B’は複素環を含有する基を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。Z’はランタニドイオンを含んでなる基に含まれるランタニドイオンに対して結合する原子または原子団を1つ以上有する基を表す。)
【請求項9】
一般式(III−b)または(IV−b)で表されるリガンド色素。
【化6】

(式中、B’は複素環を含有する基を表し、A1、A2、A3及びA4はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【化7】

(式中、B’は複素環を含有する基を表し、A1及びA2はそれぞれ独立に窒素原子または=C(−R1)−を表し、R1は水素原子または置換基を表す。R6〜R13はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)

【公開番号】特開2006−299230(P2006−299230A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356942(P2005−356942)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】