説明

リチウムイオンキャパシタ

【課題】エネルギー密度及び出力密度が高く、かつ高い耐電圧とともに、高容量、高エネルギー密度及び低内部抵抗を有するリチウムイオンキャパシタを提供する。
【解決手段】(1)リチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質からなる正極とリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質からなる負極を備えており、かつ、電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液を備えたリチウムイオンキャパシタであって、(a)負極及び/又は正極とリチウムイオン供給源との電気化学的接触によってリチウムイオンが負極及び/又は正極にドーピングされ、(b)正極と負極を短絡させた後の正極の電位が2.0V以下であり、(c)前記正極及び/又は負極が、表裏面を貫通する多数の孔を有し、かつこれらの貫通孔の内接円の平均直径が100μm以下である金属箔からなる金属箔からなる集電体を有することを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極、及び電解質としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解液を備えたリチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、グラファイト等の炭素材料を負極に用い、正極にLiCoO等のリチウム含有金属酸化物を用いた所謂リチウムイオン二次電池は高容量であり有力な蓄電装置として、主にノート型パソコンや携帯電話の主電源として実用化されている。リチウムイオン二次電池は、電池組立後、充電することにより正極のリチウム含有金属酸化物から負極にリチウムイオンを供給し、更に放電では負極のリチウムイオンを正極に戻すという、いわゆるロッキングチェア型電池であり、高電圧及び高容量、高安全性を有することを特長としている。
【0003】
一方、環境問題がクローズアップされる中、ガソリン車にかわる電気自動車用又はハイブリッド自動車用の蓄電装置(メイン電源と補助電源)の開発が盛んに行われ、また、自動車用の蓄電装置として、これまでは鉛電池が使用されてきた。しかし、車載用の電気設備や機器の充実により、エネルギー密度、出力密度の点から新しい蓄電装置が求められるようになってきている。
【0004】
かかる新しい蓄電装置としては、上記のリチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタが注目されている。しかし、リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いものの出力特性、安全性やサイクル寿命には問題を残している。一方、電気二重層キャパシタは、ICやLSIのメモリーバックアップ用電源として利用されているが、一充電当たりの放電容量は電池に比べて小さい。しかし、瞬時の充放電特性に優れ、数万サイクル以上の充放電にも耐えるという、リチウムイオン二次電池にはない高い出力特性とメンテナンスフリー性を備えている。
【0005】
電気二重層キャパシタはこうした利点を有してはいるが、従来の一般的な電気二重層キャパシタのエネルギー密度は3〜4Wh/l程度で、リチウムイオン二次電池に比べて二桁程度小さい。電気自動車用を考えた場合、実用化には6〜10Wh/l、普及させるには20Wh/lのエネルギー密度が必要であるといわれている。
【0006】
こうした高エネルギー密度、高出力特性を要する用途に対応する蓄電装置として、近年、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの蓄電原理を組み合わせた、ハイブリッドキャパシタとも呼ばれる蓄電装置が注目されている。ハイブリッドキャパシタでは、通常、正極に分極性電極を使用し、負極に非分極性電極を使用するもので、電池の高いエネルギー密度と電気二重層の高い出力特性を兼ね備えた蓄電装置として注目されている。一方、このハイブリッドキャパシタにおいて、リチウムイオンを吸蔵、脱離しうる負極をリチウム金属と接触させて、予め化学的方法又は電気化学的方法でリチウムイオンを吸蔵、担持(以下、ドーピングともいう)させて負極電位を下げることにより、耐電圧を高くしエネルギー密度を大幅に大きくすることを意図したキャパシタが提案されている。(特許文献1〜特許文献4参照)
【0007】
この種のハイブリッドキャパシタでは、高性能は期待されるものの、負極にリチウムイオンをドーピングさせる場合に、全負極に対して金属リチウムを貼り付けることを必要とすることや、あるいはセル内の一部に局所的にリチウム金属を配置させ負極と接触させることも可能であるが、ドーピングが極めて長時間を要することや負極全体に対する均一性のあるドーピングに問題を有し、特に、電極を捲回した円筒型装置や、複数枚の電極を積層した角型電池のような大型の高容量セルでは実用化は困難とされていた。
【0008】
しかし、この問題は、セルを構成する負極集電体及び正極集電体の表裏に貫通する孔を設け、この貫通孔を通じてリチウムイオンを移動させ、同時にリチウムイオン供給源であるリチウム金属と負極を短絡させることにより、セルの端部にリチウム金属を配置するだけで、セル中の全負極にリチウムイオンをドーピングできることの発明により、一挙に解決するに至った(特許文献5参照)。なお、リチウムイオンのドーピングは、通常、負極に対して行なわれるが、負極とともに、又は負極の代わりに正極に行う場合も同様であることが特許文献5に記載されている。
【0009】
かくして、電極を捲回した円筒型装置や、複数枚の電極を積層した角型電池のような大型のセルでも、装置中の全負極に対して短時間にかつ負極全体に均一にリチウムイオンがドーピングでき、耐電圧が向上することによりエネルギー密度が飛躍的に増大し、電気二重層キャパシタが本来有する大きな出力密度と相俟って、高容量のキャパシタが実現する見通しが得られた。
【0010】
しかし、かかる高容量のキャパシタを実用化するためには、更に、高い耐電圧とともに、高容量、高エネルギー密度及び低内部抵抗を有することが要求されている。
【特許文献1】特開平8−107048号公報
【特許文献2】特開平9−55342号公報
【特許文献3】特開平9−232190号公報
【特許文献4】特開平11−297578号公報
【特許文献5】国際公開WO98/033227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、正極活物質がリチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質であり、かつ負極活物質がリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質であり、負極及び/又は正極をリチウムイオン供給源と電気化学的に接触させて、予め負極にリチウムイオンをドーピングする方式のリチウムイオンキャパシタにおいて、高いエネルギー密度と高い出力密度を有するとともに、集電体の改良により電極の生産性の高いキャパシタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、正極と負極を短絡させた後の正極及び負極電位が2.0V以下となるように、予め、負極及び/又は正極に対してリチウムイオンをドーピングさせたリチウムイオンキャパシタにおいては、正極及び/又は負極に使用される集電体の特性が、得られるキャパシタのエネルギー密度、及び内部抵抗、更には電極の生産性にも大きく関係し、該集電体として、好ましくは、金属箔に特定の処理を施すことにより得られる、特定のサイズを有する多数の貫通孔を有する金属箔から構成された集電体を使用することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、従来、リチウムイオンキャパシタにおける電極の集電体としては、エキスパンドメタル、パンチドメタルなどの有孔性、又は無孔性のシート状金属体が使用されている。有孔性の金属体の場合、その貫通孔の平均径は通常1〜2mm程度である。しかし、本発明者の研究によると、正極と負極を短絡させた後の正極及び負極電位が2.0V以下となるように、予め、負極及び/又は正極に対してリチウムイオンをドーピングさせたリチウムイオンキャパシタでは、電極の集電体は、多数の貫通孔を有し、かつこれらの貫通孔の内接円の平均直径が100μm以下であるほど小さい集電体、なかでも、エッチング処理、レーザー処理、好ましくは電解エッチング処理により得られる集電体を有する場合、電極の生産性が向上するとともに得られるキャパシタのエネルギー密度、及び内部抵抗が改善されることが判明した。
【0014】
一方、リチウムイオンキャパシタの集電体において、従来、電極活性成分を含むスラリー状物を塗布又は浸漬により集電体に担持せしめる際、貫通孔の径が大きいためにダイコーターなどを必要とし、ある場合には、下塗りなどを必要とした。更に、通常、垂直方向に引き上げながら塗布するために強度上の問題から生産性が低かった。しかし、上記のような小さい径の貫通孔を有する集電体の場合には、電極活性成分を含むスラリー状物の集電体への担持は、コンマ−コーターなどにより容易に行うことができ、必ずしも下塗りや垂直方向の塗布は要求されないために電極の生産性も問題にならないことも判明した。
【0015】
かくして、本発明は、以下の要旨を有することを特徴とするものである。
(1)リチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質からなる正極とリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質からなる負極を備えており、かつ、電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液を備えたリチウムイオンキャパシタであって、(a)負極及び/又は正極とリチウムイオン供給源との電気化学的接触によってリチウムイオンが負極及び/又は正極にドーピングされ、(b)正極と負極を短絡させた後の正極の電位が2.0V以下であり、(c)前記正極及び/又は負極が、表裏面を貫通する多数の孔を有し、かつこれらの貫通孔の内接円の平均直径が100μm以下である金属箔からなる集電体を有することを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
(2)負極活物質が、正極活物質に比べて、単位重量あたりの静電容量が3倍以上を有し、かつ正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きい上記(1)に記載のリチウムイオンキャパシタ。
(3)集電体が、電解エッチングにより多孔化されるアルミニウム箔及び/又は銅箔である上記(1)又は(2)に記載のリチウムイオンキャパシタ。
(4)集電体が、レーザーにより多孔化されるアルミニウム箔及び/又は銅箔である上記(1)又は(2)に記載のリチウムイオンキャパシタ。
(5)正極活物質が、活性炭、導電性高分子、又は芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体のいずれかである上記(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ。
(6)負極活物質が、黒鉛、難黒鉛化炭素、又は芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、予め負極及び/又は正極にリチウムイオンをドーピングするリチウムイオンキャパシタであって、特に、エネルギー密度、及び内部抵抗の点で優れた特性を有するキャパシタが提供される。
【0017】
加えて、本発明におけるリチウムイオンキャパシタにおける正極及び/又は負極を製造する場合の電極活性成分を含むスラリー状物の集電体への担持は、コンマコーターなどにより容易に行うことができ、必ずしも下塗りや垂直方向の塗布は要求されないために電極の生産性も高い。
【0018】
本発明において、正極及び/又は負極の集電体として、好ましくは、レーザー処理、エッチング処理、なかでも、電解エッチング処理により、上記金属箔に処理を施すことにより得られる、特定の大きさの貫通孔を有する金属箔から構成された集電体を使用することにより、キャパシタが何故に上記の特性が改良されるかのメカニズムについては、必ずしも明らかではないが、次のように推定される。
【0019】
電極活物質は一般的に導電性が低いため、高い導電性を持つ多孔性の金属シートや金属箔を集電体として用い、その上に電極活物質を薄く塗工することにより抵抗を低くしている。しかし、貫通孔を有する金属シート(箔)の場合、貫通する孔の部分の電極層には金属による集電効果が無いため、貫通孔のサイズが小さい場合に比べて内部抵抗は高いと考えられる。しかし、本発明者の研究によると、集電体として多孔性の金属箔を使用する場合、貫通孔は、その内接円の平均直径が100μm以下であれば、それ以上サイズが小さくても内部抵抗は下がらない。加えて、本発明のごとく、負極及び/又は正極に対してリチウムイオンを予めドーピングさせたリチウムイオンキャパシタでは、リチウムイオンのドーピングの際には、集電体が貫通孔を有することが必須であり、そのためにはできるだけ大きいサイズの貫通孔を要求するが、この点からしても、集電体の貫通孔のサイズは、上記の範囲までのサイズがあれば、それ以上サイズが大きくなくても悪影響がない。
【0020】
また、多孔性の集電体に塗布する正極及び負極スラリーは平均粒径が1〜10μm程度の電極活物質が有機溶剤または水により分散されたものであり、その粘度は100〜10000cps程度であり、特にダイ方式による塗布では200〜500cpsと低粘度で使用されている。したがって、従来の如き、貫通孔のサイズが1mm以上を有するエキスパンドメタルではスラリーが漏れてしまうが、本発明のリチウムイオンキャパシタにおける集電体のように貫通孔のサイズが上記の範囲である場合には電極スラリーが塗布される際に、スラリーの漏れが起こらず、コンマコーターなどにより簡易な手段によっても塗工が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のリチウムイオンキャパシタは、正極、負極、及び、電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機電解液を備え、正極活物質がリチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質であり、かつ負極活物質がリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質である。ここで、「正極」とは、放電の際に電流が流れ出る側の極であり、「負極」とは放電の際に電流が流れ込む側の極をいう。
【0022】
本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極及び/又は正極に対するリチウムイオンのドーピングにより正極と負極を短絡させた後の正極の電位が2.0V以下にされていることが必要である。負極及び/又は正極に対してリチウムイオンのドーピングされていないキャパシタでは、正極及び負極の電位はいずれも3Vであり、正極と負極を短絡させた後の正極の電位は3Vである。なお、本発明で、正極と負極を短絡させた後の正極の電位が2V以下とは、以下の(A)又は(B)の2つのいずれかの方法で求められる正極の電位が2V以下の場合をいう。即ち、(A)リチウムイオンによるドーピングの後、キャパシタセルの正極端子と負極端子を導線で直接結合させた状態で12時間以上放置した後に短絡を解除し、0.5〜1.5時間内に測定した正極電位。(B)充放電試験機にて12時間以上かけて0Vまで定電流放電させた後に正極端子と負極端子を導線で結合させた状態で12時間以上放置した後に短絡を解除し、0.5〜1.5時間内に測定した正極電位。
【0023】
また、短絡後の正極電位が2.0V以下というのは、リチウムイオンがドーピングされたすぐ後だけに限られるものではなく、充電状態、放電状態あるいは充放電を繰り返した後に短絡した場合等、いずれかの状態で短絡後の正極電位が2.0V以下となることである。
【0024】
正極電位が2.0V以下になるということに関し、以下に詳細に説明する。上述のように活性炭や炭素材は通常3V(Li/Li)前後の電位を有しており、正極、負極ともに活性炭を用いてセルを組んだ場合、いずれの電位も約3Vとなるためセル電圧は約0Vとなり、短絡しても正極電位はかわらず約3Vである。また、正極に活性炭、負極にリチウムイオン二次電池にて使用されている黒鉛や難黒鉛化炭素のような炭素材を用いた、いわゆるハイブリッドキャパシタの場合も同様であり、いずれの電位も約3Vとなるためセル電圧は約0Vとなり、短絡しても正極電位はかわらず約3Vである。正極と負極の重量バランスにもよるが充電すると負極電位が0V近傍まで推移するので、充電電圧を高くすることが可能となるため高電圧、高エネルギー密度を有したキャパシタとなる。一般的に充電電圧の上限は正極電位の上昇による電解液の分解が起こらない電圧に決められるので、正極電位を上限にした場合、負極電位が低下する分、充電電圧を高めることが可能となるのである。しかしながら、短絡時に正極電位が約3Vとなる上述のハイブリッドキャパシタでは、正極の上限電位が例えば4.0Vとした場合、放電時の正極電位は3.0Vまでであり、正極の電位変化は1.0V程度と正極の容量を充分利用できていない。更に、負極にリチウムイオンを挿入(充電)、脱離(放電)した場合、初期の充放電効率が低い場合が多く、放電時に脱離できないリチウムイオンが存在していることが知られている。これは、負極表面にて電解液の分解に消費される場合や、炭素材の構造欠陥部にトラップされる等の説明がなされているが、この場合正極の充放電効率に比べ負極の充放電効率が低くなり、充放電を繰り返した後にセルを短絡させると正極電位は3Vよりも高くなり、更に利用容量は低下する。すなわち、正極は4.0Vから2.0Vまで放電可能であるところ、4.0Vから3.0Vまでしか使えない場合、利用容量として半分しか使っていないこととなり、高電圧にはなるが高容量にはならないのである。
【0025】
ハイブリッドキャパシタを高電圧、高エネルギー密度だけでなく、高容量そして更にエネルギー密度を高めるためには、正極の利用容量を向上させることが必要である。
【0026】
短絡後の正極電位が3.0Vよりも低下すればそれだけ利用容量が増え、高容量になるということである。2.0V以下になるためには、セルの充放電により充電される量だけでなく、別途リチウム金属から負極にリチウムイオンを充電することが好ましい。正極と負極以外からリチウムイオンが供給されるので、短絡させた時には、正極、負極、リチウム金属の平衡電位になるため、正極電位、負極電位ともに3.0V以下になる。リチウム金属の量が多くなる程に平衡電位は低くなる。負極材、正極材が変われば平衡電位も変わるので、短絡後の正極電位が2.0V以下になるように、負極材、正極材の特性を鑑みて負極に担持させるリチウムイオンの調整をすることが必要である。
【0027】
本発明において、予め負極及び/又は正極にリチウムイオンをドーピングし、正極と負極を短絡させた後の正極の電位を2V以下にすることにより、正極の利用容量が高くなるため高容量となり、大きいエネルギー密度が得られる。リチウムイオンの供給量が多くなるほどに正極と負極を短絡させた時の正極電位は低くなりエネルギー密度は向上する。更に高いエネルギー密度を得る上では1.5V以下、特には1V以下が更に好ましい。正極及び/又は負極に供給されたリチウムイオンの量が少ないと正極と負極を短絡させた時に正極電位が2Vよりも高くなり、セルのエネルギー密度は小さくなる。
【0028】
本発明で、リチウムイオンのドーピングは、負極と正極の片方あるいは両方いずれでもよいが、例えば正極に活性炭を用いた場合、リチウムイオンのドーピング量が多くなり正極電位が低くなると、リチウムイオンを不可逆的に消費してしまい、セルの容量が低下する等の不具合が生じる場合がある。このため、負極と正極にドーピングするリチウムイオンは、それぞれの電極活物質を考慮し、これらの不具合を生じないようにするのが好ましい。本発明では、正極のドーピング量と負極のドーピング量を制御することは工程上煩雑となるため、リチウムイオンのドーピングは好ましくは負極に対して行われる。
【0029】
本発明のリチウムイオンキャパシタでは、特に、負極活物質の単位重量当たりの静電容量が正極活物質の単位重量当たりの静電容量の3倍以上を有し、かつ正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きくする場合、高電圧且つ高容量のキャパシタが得られる。また、それと同時に、正極の単位重量当たりの静電容量に対して大きな単位重量当たりの静電容量を持つ負極を用いる場合には、負極の電位変化量を変えずに負極活物質重量を減らすことが可能となるため、正極活物質の充填量が多くなりセルの静電容量及び容量が大きくなる。
【0030】
なお、本発明において、キャパシタセル(以下、単にセルもいう)の静電容量及び容量は次のように定義される。セルの静電容量とは、セルの単位電圧当たりセルに流れる電気量(放電カーブの傾き)を示し、単位はF(ファラッド)である。セルの単位重量当たりの静電容量とはセルの静電容量に対するセル内に充填している正極活物質重量と負極活物質重量の合計重量の除で示され、単位はF/gである。また、正極又は負極の静電容量とは、正極あるいは負極の単位電圧当たりセルに流れる電気量(放電カーブの傾き)を示し、単位はFである。正極あるいは負極の単位重量当たりの静電容量とは正極あるいは負極の静電容量をセル内に充填している正極あるいは負極活物質重量の除で示され、単位はF/gである。
【0031】
更に、セル容量とは、セルの放電開始電圧と放電終了電圧の差、即ち電圧変化量とセルの静電容量の積であり単位はC(クーロン)であるが、1Cは1秒間に1Aの電流が流れたときの電荷量であるので本発明においては換算してmAh表示する。正極容量とは放電開始時の正極電位と放電終了時の正極電位の差(正極電位変化量)と正極の静電容量の積であり単位はCまたはmAh、同様に負極容量とは放電開始時の負極電位と放電終了時の負極電位の差(負極電位変化量)と負極の静電容量の積であり単位はCまたはmAhである。これらセル容量と正極容量、負極容量は一致する。
【0032】
本発明のリチウムイオンキャパシタにおいて、予め負極及び/又は正極にリチウムイオンをドーピングさせる手段は特に限定されない。例えば、リチウムイオンを供給可能な、金属リチウム等のリチウムイオン供給源をリチウム極としてキャパシタセル内に配置できる。リチウムイオン供給源の量(リチウム金属等の重量)は、所定の負極の容量が得られる量だけあればよい。この場合、負極とリチウム極は物理的な接触(短絡)でもよいし、電気化学的にドーピングさせてもよい。リチウムイオン供給源は、導電性多孔体からなるリチウム極集電体上に形成してもよい。リチウム集電体となる導電性多孔体としては、ステンレスメッシュ等のリチウムイオン供給源と反応しない金属多孔体が使用できる。
【0033】
上記のような本発明における大容量の多層構造のリチウムイオンキャパシタセルでは、正極及び負極にそれぞれ電気を受配電する多孔性を有した正極集電体及び負極集電体が備えられるが、かかる正極集電体及び負極集電体が使用され、かつリチウム極が設けられるセルの場合、リチウム極が負極集電体に対向する位置に設けられ、電気化学的に負極にリチウムイオンを供給することが好ましい。本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極及び/又は正極にリチウムイオンをドーピングするリチウム極をセル中の局所的に配置した場合もリチウムイオンのドーピングが均一に行うことができる。従って、正極及び負極を積層若しくは捲回した大容量のセルの場合も、最外周又は最外側のセルの一部にリチウム極を配置することにより、スムーズにかつ均一に負極にリチウムイオンをドーピングできる。セル内に配置されたリチウム供給源との電気化学的接触によりドーピングする場合のリチウムとは、リチウム金属あるいはリチウム−アルミニウム合金のように、少なくともリチウムを含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質をいう。
【0034】
上記における正極及び/又は負極の集電体としては、表裏面を貫通する多数の孔を有し、該孔が直径100μmの球を通過させないサイズを有する金属箔からなる集電体が使用される。金属箔としては、一般にリチウム系電池の集電体に提案されている種々の材質を用いることができる。例えば、正極集電体にはアルミニウム、ステンレス等が好ましく、また、負極集電体にはステンレス、銅、ニッケル等が好ましい。
【0035】
本発明において、集電体を構成する金属箔の厚みは、好ましくは5〜100μm、特に好ましくは15〜50μmを有するシート状であるのが好適である。かかる金属箔は、表裏面を貫通する多数の孔を有し、これらの貫通孔は、その内接円の平均直径が100μm以下であることが必要である。この貫通孔のサイズは重要であり、内接円の平均直径が100μmを越えるほど大きい場合には、電極層の集電効果が得られず抵抗が高くなったり、塗工においては塗工面からスラリーが裏面へ漏れ出すことから簡便な塗工が困難になってしまう。なかでも、貫通孔は、その内接円の平均直径が直径50μm以下であるのが好ましく、特には、平均直径10μm以下あるのが好適である。貫通孔のサイズの下限は特に制限されないが、好ましくは予めドーピングするリチウムイオンや電解液の拡散がスムーズに行われるよう、その内接円の平均直径が0.5μm以上であるのが好ましい。なお、本発明において、貫通孔の内接円の平均直径は、レーザー顕微鏡や工具顕微鏡などにより、集電体の表面観察を行い、貫通孔に内接円をフィッティングさせることによって求められる。
【0036】
本発明における上記貫通孔の形状は、断面が円形、楕円形、矩形、菱形、スリット形など任意形状であってもよいが、なかでも、円形、楕円形、矩形が好ましい。貫通孔は、金属箔の厚み方向に沿って同一のサイズや形状を有する必要はなく、異なるサイズ、形状を有することができる。
【0037】
また、金属箔は多数の貫通孔を有するが、好ましくは規則的な幾何学模様を有する貫通孔を均一に有することが好ましい。金属箔は、気孔率として、好ましくは10〜79%特に好ましくは20〜60%を有することが好適である。なお、本発明における気孔率は、{1―(集電体重量/集電体真比重)/(集電体見かけ体積)}の比を百分率に換算して得られるものと定義される。
【0038】
上記貫通孔を有する金属箔からなる本発明の集電体を製造する手段は特に限定されない。なかでも、本発明では、エッチング処理、特に電解エッチング処理、レーザー処理などが好ましい手段として挙げられる。上記のエッチング処理、特に電解エッチング処理としては、既知の方法が使用できるが、エッチング媒体としては、塩酸などの酸が使用できる。また、電解エッチングの際の条件として、電流波形、液の組成、温度によりエッチング形状がかわるので、目的とする形状になるよう適宜最適化が必要である。また、レーザー処理としては、好ましくは周波数が9.3μmのCOレーザーが使用されるが、その他にもYAGレーザー、UVレーザーなどが使用できる。
【0039】
本発明において、上記の集電体に担持される、正極活物質は、リチウムイオンと、例えばテトラフルオロボレートのようなアニオンを可逆的に担持できる物質からなる。かかる正極活物質としては、種々のものが使用できるが、活性炭、又は芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって、水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体(PAS)が好ましい。
【0040】
正極活物質の粒度は、例えば、50%体積累積径(D50ともいう)が2μm以上であり、好ましくは2〜50μm、特に2〜20μmが好適である。また、平均細孔径が好ましくは10nm以下であり、比表面積が好ましくは600〜3000m/g、特には1300〜2500m/gであるのが好適である。
【0041】
本発明において、集電体に正極活物質粉末を担持させる場合、バインダー、及び必要に応じて使用される、導電性粉末を水系又は有機溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーを集電体に塗布することにより行われるのが好ましい。ここで使用されるバインダーとしては、例えば、SBR、NBR等のゴム系バインダーや、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂を用いることができる。バインダーの使用量は、負極活物質の電気伝導度、電極形状等により異なるが、負極活物質100重量部に対して2〜40重量部の割合で加えることが適当である。上記の導電材としては、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等が挙げられる。導電材は、正極活物質の電気伝導度、電極形状等により異なるが、正極活物質100重量部に対して好ましくは2〜40重量部、特に好ましくは5〜10重量部使用されるのが好適である。
【0042】
正極活物質粉末、バインダー、及び必要に応じて使用される導電材からスラリーは、上記の金属箔からなる集電体に塗布される。本発明では、上記したように、この際、金属箔の有する貫通孔の口径が小さいので、コンマコーター、ロールコーター、ドクターブレードなどの簡易な手段により容易に塗布することができる。下塗りなども必要でなく、単一の塗布により均一な厚みを有する塗膜が得られるが、必要に応じて多数回塗りを行い、更なる塗膜の物性を改善することもできる。また、金属箔への塗布は、従来のごとく、金属箔を垂直方向に引き上げながら行うことは要求されず、水平方向などでも実施できる。このようにして、金属箔の好ましくは両面に上記のスラリーを塗布し、次いで、乾燥し、プレスすることにより、好ましくは50〜500μm、特に好ましくは、100〜300μmの正極層を有する正極が製造できる。
【0043】
一方、本発明で負極を構成する負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に担持できる物質から形成される。好ましい負極活物質としては、黒鉛、難黒鉛化炭素、ハードカーボン、コークス等の炭素材料、上記正極活物質としても記載したポリアセン系物質(PAS)等を挙げることができる。これらの炭素材料及びPASは、フェノール樹脂等を炭化させ、必要に応じて賦活され、次いで粉砕したものが用いられる。
【0044】
負極活物質として使用する上記PASはアモルファス構造を有することから、リチウムイオンの挿入・脱離に対して膨潤・収縮といった構造変化がないためサイクル特性に優れ、またリチウムイオンの挿入・脱離に対して等方的な分子構造(高次構造)であるため急速充電、急速放電にも優れるので好適である。PASの前駆体である芳香族系縮合ポリマーとは、芳香族炭化水素化合物とアルデヒド類との縮合物である。芳香族炭化水素化合物としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール等の如き、いわゆるフェノール類を好適に用いることができる。例えば、下記式
【0045】
【化1】

(ここで、x及びyはそれぞれ独立に、0、1または2である)で表されるメチレン・ビスフェノール類であることができ、あるいはヒドロキシ・ビフェニル類、ヒドロキシナフタレン類であることもできる。なかでも、フェノール類が好適である。
【0046】
また、上記芳香族系縮合ポリマ−としては、上記のフェノール性水酸基を有する芳香族炭化水素化合物の1部をフェノール性水酸基を有さない芳香族炭化水素化合物、例えばキシレン、トルエン、アニリン等で置換した変成芳香族系縮合ポリマー、例えばフェノールとキシレンとホルムアルデヒドとの縮合物を用いることもできる。更に、メラミン、尿素で置換した変成芳香族系ポリマーを用いることもでき、フラン樹脂も好適である。
【0047】
本発明でPASは次のようにして製造される。即ち、上記芳香族系縮合ポリマーを、非酸化性雰囲気下(真空も含む)中で400〜800°Cの適当な温度まで徐々に加熱することにより、水素原子/炭素原子の原子比(以下H/Cと記す)が0.5〜0.05、好ましくは0.35〜0.10の不溶不融性基体となる。この不溶不融性基体を、非酸化性雰囲気下(真空も含む)中で、350〜800°Cの温度まで、好ましくは400〜750°Cの適当な温度まで徐々に加熱することにより、上記H/Cを有し、例えば賦活処理を行うことにより600m/g以上のBET法による比表面積を有する不溶不融性基体を得ることもできる。
【0048】
上記の不溶不融性基体は、X線回折(CuKα)によれば、メイン・ピークの位置は2θで表して24°以下に存在し、また該メイン・ピークの他に41〜46°の間にブロードな他のピークが存在する。即ち、上記不溶不融性基体は、芳香族系多環構造が適度に発達したポリアセン系骨格構造を有し、かつアモルファス構造を有し、リチウムイオンを安定にドーピングすることができる。
【0049】
本発明で負極活物質粒度は、D50が0.5〜30μm、好ましくは0.5〜15μmであり、特には0.5〜6μmが好適である。また、本発明の負極活物質粒子は、比表面積が好ましくは0.1〜2000m/gであるのが好適であり、好ましくは0.1〜1000m/gであり、特には0.1〜600m/gが好適である。
【0050】
上記の負極活物質と、上記の金属箔からなる集電体を使用して負極を製造する手段は上記正極における場合と同様な手段が使用できる。即ち、負極活物質粉末、バインダー及び必要に応じて使用される、導電性粉末を水系又は有機溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーを集電体に塗布することにより行われる。使用されるバインダーや導電性粉末の同様のものが使用できる、また、それらの使用量の正極の場合と同様である。なお、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、正極及び負極のいずれも上記の特定の金属箔からなる集電体を使用して形成するのが好ましいが、必要に応じて、正極及び負極のいずれか一方のみに使用してもよい。
【0051】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタにおける、非プロトン性有機溶媒電解質溶液を形成する非プロトン性有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。更に、これら非プロトン性有機溶媒の二種以上を混合した混合液を用いることもできる。
【0052】
また、上記の単一あるいは混合の溶媒に溶解させる電解質は、リチウムイオンを生成しうる電解質であれば、あらゆるものを用いることができる。このような電解質としては、例えばLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(CSO、LiN(CFSO等が挙げられる。上記の電解質及び溶媒は、充分に脱水された状態で混合され、電解質溶液とするのであるが、電解液中の電解質の濃度は、電解液による内部抵抗を小さくするため少なくとも0.1モル/l以上とすることが好ましく、0.5〜1.5モル/lの範囲内とすることが更に好ましい。
【0053】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタとしては、特に、帯状の正極と負極とをセパレータを介して捲回させる捲回型セル、板状の正極と負極とをセパレータを介して各3層以上積層された積層型セル、あるいは、板状の正極と負極とをセパレータを介した各3層以上積層物を外装フィルム内に封入したフィルム型セル等の大容量のセルに適する。これらのセルの構造は、国際公開WO00/07255号公報、国際公開WO03/003395号公報、特開2004−266091号公報等により既に知られており、本発明のキャパシタセルもかかる既存のセルと同様な構成とすることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはもちろんである。
【0055】
実施例1
(負極1の製造法)
厚さ0.5mmのフェノール樹脂成形板をシリコニット電気炉中に入れ、窒素雰囲気下で500℃まで50℃/時間の速度で、更に10℃/時間の速度で660℃まで昇温し、熱処理し、PASを合成した。かくして得られたPAS板をディスクミルで粉砕することにより、PAS粉体を得た。このPAS粉体のH/C比は0.21であった。
次に、上記PAS粉体100重量部と、ポリフッ化ビニリデン粉末10重量部をN−メチルピロリドン80重量部に溶解した溶液とを充分に混合することによりスラリーを得た。該スラリーを厚さ18μmの銅箔片面に固形分にして約7mg/cm程度になるようにドクターブレードを用いて塗布し、乾燥、プレス後PAS負極1を得た。
【0056】
(正極1の製造法)
市販の比表面積が1950m/g活性炭粉末100重量部とポリフッ化ビニリデン粉末10重量部をN−メチルピロリドン100重量部に溶解した溶液とを充分に混合することによりスラリーを得た。該スラリーをカーボン系導電塗料をコーティングした厚さ20μmのアルミニウム箔片面に固形分にして約7mg/cm程度になるように、ドクターブレードを用いて塗布し、乾燥、プレス後正極1を得た。
【0057】
(正極1の単位重量当たりの静電容量測定)
上記正極を1.5×2.0cmサイズに切り出し、評価用正極とした。正極と対極として1.5×2.0cmサイズ、厚み200μmの金属リチウムを厚さ50μmのポリエチレン製不織布をセパレータとして介し模擬セルを組んだ。参照極として金属リチウムを用いた。電解液としては、プロピレンカーボネートに、1モル/lの濃度にLiPFを溶解した溶液を用いた。
充電電流1mAにて3.6Vまで充電しその後定電圧充電を行い、総充電時間1時間の後、1mAにて2.5Vまで放電を行った。3.5V〜2.5V間の放電時間より正極1の単位重量当たりの静電容量を求めたところ92F/gであった。
【0058】
(負極1の単位重量当たりの静電容量測定)
上記負極を1.5×2.0cmサイズに4枚切り出し、評価用負極とした。かかる負極を使用し、また、対極として1.5×2.0cmサイズ、厚み200μmの金属リチウムを厚さ50μmのポリエチレン製不織布をセパレータとして介し模擬セルを組んだ。参照極として金属リチウムを用いた。電解液としては、プロピレンカーボネートに、1モル/lの濃度にLiPFを溶解した溶液を用いた。
充電電流1mAにて負極活物質重量に対して280mAh/g、350mAh/g、400mAh/g、500mAh/g分のリチウムイオンを充電し、その後1mAにて1.5Vまで放電を行った。放電開始後1分後の負極の電位から0.2V電位変化する間の放電時間より負極1の単位重量当たりの静電容量を求めた。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

ここでの充電量は負極に流れた充電電流の積算値を負極活物質重量にて割った値であり、単位はmAh/gである。
【0060】
(負極2の製造法)
LW:SW:W=1.3:0.65:0.136であり、厚さ26μm、気孔率54%、貫通孔の内接円の平均直径が0.73mmの銅製エキスパンドメタル(日本金属工業株式会社製)の両面に対して、上記負極1のスラリーをダイコーターにて1m/分の速度にて垂直塗布して成形し、プレス後負極全体の厚さ(両面の負極電極層厚さとエキスパンドメタルの厚さの合計)が152μmの負極2を得た。
【0061】
(正極2の製造法)
厚さ50μm、気孔率30%であり、貫通孔の内接円の平均直径が2μmのアルミニウム製電解エッチング箔の片面に対し、上記正極1のスラリーをロールコーターにより、5m/分の速度にて水平塗布した。乾燥後さらにロールコーターにてもう片面にも5m/分の速度にて水平塗布した。乾燥後プレスして正極全体の厚さ(両面の正極電極層厚さとアルミニウム箔の厚さの合計)が310μmの正極2を得た。
【0062】
(電極積層ユニットの作製)
厚さ148μmの負極2と、厚さ310μmの正極2を6.0×7.5cm(端子溶接部を除く)にカットし、セパレータとして厚さ35μmのセルロース/レーヨン混合不織布を用いて、正極集電体、負極集電体の端子溶接部がそれぞれ反対側になるよう配置し、正極、負極の対向面が20層になるように、また積層した電極の最外部の電極が負極となるように積層した。最上部と最下部はセパレータを配置させて4辺をテープ留めし、正極集電体の端子溶接部(10枚)、負極集電体の端子溶接部(11枚)をそれぞれ巾50mm、長さ50mm、厚さ0.2mmのアルミニウム製正極端子及び銅製負極端子に超音波溶接して電極積層ユニットを得た。尚、正極は10枚、負極は11枚用いた。正極活物質重量は負極活物質重量の1.4倍である。
【0063】
(セル1の作製)
リチウム極として、リチウム金属箔(82μm、6.0×7.5cm、200mAh/g相当)を厚さ80μmのステンレス網に圧着したものを用い、該リチウム極を最外部の負極と完全に対向するように電極積層ユニットの上部および下部に各1枚配置し三極積層ユニットを得た。尚、リチウム極集電体の端子溶接部(2枚)は負極端子溶接部に抵抗溶接した。
上記三極積層ユニットを6.5mm深絞りした外装フィルムの内部へ設置し、外装ラミネートフィルムで覆い三辺を融着後、電解液としてエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびプロピレンカーボネートを重量比で3:4:1とした混合溶媒に、1モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた後、残り一辺を融着させ、フィルム型キャパシタを4セル組み立てた。尚、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり400mAh/g相当である。
【0064】
(セルの初期評価)
セル組み立て後20日間放置後に1セル分解したところ、リチウム金属はいずれも完全に無くなっていたことから、負極活物質の単位重量当たりに660F/g以上の静電容量を得るためのリチウムイオンが予備充電されたと判断した。負極の静電容量は正極の静電容量の7.2倍となる。
【0065】
(セルの特性評価)
2000mAの定電流でセル電圧が3.6Vになるまで充電し、その後3.6Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、200mAの定電流でセル電圧が1.9Vになるまで放電した。この3.6V−1.9Vのサイクルを繰り返し、10回目の放電においてセル容量及びエネルギー密度を評価した。結果を表2に示す。ただし、データは3セルの平均である。
【0066】
【表2】

【0067】
上記測定終了後に正極と負極を短絡させ正極の電位を測定したところ、0.95V程度であり、2.0V以下であった。正極と負極を短絡させた時の正極電位が2.0V以下になるよう負極および/または正極に予めリチウムイオンを担持させることにより、高いエネルギー密度を有したキャパシタが得られた。
【0068】
(比較例1)
(正極3の製造法)
LW:SW:W=1.0:0.52:0.143であり、厚さ38μm、気孔率45%、貫通孔の内接円の平均直径が0.58mmのアルミニウム製エキスパンドメタル(日本金属工業株式会社製)両面に上記正極1のスラリーをダイコーターにて1m/分の速度にて垂直塗工して成形し、乾燥することによりプレス後正極全体の厚さ(両面の正極電極層厚さとエキスパンドメタルの厚さの合計)が281μmの正極3を得た。
【0069】
(セル2の作製)
正極3を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルム型キャパシタを各4セル組み立てた。尚、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり400mAh/g相当であり、正極活物質重量は負極活物質重量の1.4倍である。
セル組み立て後20日間放置後に1セル分解したところ、リチウム金属はいずれも完全に無くなっていたことから、負極活物質の単位重量当たりに660F/gの静電容量を得るためのリチウムイオンが予備充電されたと判断した。負極の静電容量は正極の静電容量の7.2倍となる。
2000mAの定電流でセル電圧が3.6Vになるまで充電し、その後3.6Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、200mAの定電流でセル電圧が1.9Vになるまで放電した。この3.6V−1.9Vのサイクルを繰り返し、10回目の放電においてセル容量及びエネルギー密度を評価した。結果を表3に示す。ただし、データは3セルの平均である。
【0070】
【表3】

【0071】
上記測定終了後に正極と負極を短絡させ正極の電位を測定したところ、0.95V程度であり、2.0V以下であった。正極と負極を短絡させた時の正極電位が2.0V以下になるよう負極および/または正極に予めリチウムイオンを担持させることにより、高いエネルギー密度を有したキャパシタが得られたが、内部抵抗は実施例1よりも大きな値となった。また、実施例1のように、貫通孔の内接円の平均直径が100μm以下である電解エッチング箔を用いた正極は、塗工速度が速く、生産性に優れることがわかる。
【0072】
(比較例2)
(正極4の製造法)
LW:SW:W=1.0:0.52:0.143であり、厚さ38μm、気孔率45%、貫通孔の内接円の平均直径が0.58mmのアルミニウム製エキスパンドメタル(日本金属工業株式会社製)両面に非水系のカーボン系導電塗料(日本アチソン株式会社製:EB−815)をスプレー方式にてコーティングし、乾燥することにより導電層が形成された正極用集電体を得た。全体の厚み(集電体厚みと導電層厚みの合計)は52μmであり貫通孔はほぼ導電塗料により閉塞された。上記正極1のスラリーを2m/分の速度にてロールコーターにて該正極集電体の片面に水平塗工して成形し、乾燥後さらにロールコーターにてもう片面にも2m/分の速度にて水平塗工し、乾燥することによりプレス後正極全体の厚さ(両面の正極電極層厚さと両面の導電層厚さとエキスパンドメタルの厚さの合計)が312μmの正極4を得た。
【0073】
(セル3の作製)
正極4を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルム型キャパシタを各4セル組み立てた。尚、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり400mAh/g相当であり、正極活物質重量は負極活物質重量の1.4倍である。
セル組み立て後20日間放置後に1セル分解したところ、リチウム金属はいずれも完全に無くなっていたことから、負極活物質の単位重量当たりに660F/gの静電容量を得るためのリチウムイオンが予備充電されたと判断した。負極の静電容量は正極の静電容量の7.2倍となる。
【0074】
2000mAの定電流でセル電圧が3.6Vになるまで充電し、その後3.6Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、200mAの定電流でセル電圧が1.9Vになるまで放電した。この3.6V−1.9Vのサイクルを繰り返し、10回目の放電においてセル容量及びエネルギー密度を評価した。結果を表4に示す。ただし、データは3セルの平均である。
【0075】
【表4】

【0076】
上記測定終了後に正極と負極を短絡させ正極の電位を測定したところ、0.95V程度であり、2.0V以下であった。正極と負極を短絡させた時の正極電位が2.0V以下になるよう負極および/または正極に予めリチウムイオンを担持させることにより、高いエネルギー密度を有したキャパシタが得られた。また、正極集電体としては比較例1と同様のアルミニウム製エキスパンドメタルを用いたが、導電塗料により導電層を形成したことにより、内部抵抗は比較例1よりも大幅に低減されたが、導電層を形成するための下塗り工程が必要であることから、実施例1よりも生産性が劣ることがわかる。
【0077】
(実施例2)
(正極5の製造法)
電解コンデンサーに用いられる、電解エッチングにより表面に凹凸を付与した厚さ50μmのアルミニウム箔にレーザーにより50μmの貫通孔を開けた。貫通孔の内接円の平均直径は50μmであった。かかるアルミニウム箔の開口率30%であった。該多孔性アルミニウム箔に対し、上記正極1のスラリーをロールコーターにて該多孔化アルミニウム箔の片面に5m/分の速度にて水平塗工して成形し、乾燥後さらにロールコーターにてもう片面にも5m/分の速度にて水平塗工し、乾燥後プレスして正極全体の厚さ(両面の正極電極層厚さと正極集電体厚さの合計)が295μmの正極5を得た。
【0078】
(セル4の作製)
正極5を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルム型キャパシタを各4セル組み立てた。尚、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり400mAh/g相当であり、正極活物質重量は負極活物質重量の1.4倍である。
セル組み立て後20日間放置後に1セル分解したところ、リチウム金属はいずれも完全に無くなっていたことから、負極活物質の単位重量当たりに660F/gの静電容量を得るためのリチウムイオンが予備充電されたと判断した。負極の静電容量は正極の静電容量の7.2倍となる。
2000mAの定電流でセル電圧が3.6Vになるまで充電し、その後3.6Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、200mAの定電流でセル電圧が1.9Vになるまで放電した。この3.6V−1.9Vのサイクルを繰り返し、10回目の放電においてセル容量及びエネルギー密度を評価した。結果を表5に示す。ただし、データは3セルの平均である。
【0079】
【表5】

【0080】
上記測定終了後に正極と負極を短絡させ正極の電位を測定したところ、0.95V程度であり、2.0V以下であった。正極と負極を短絡させた時の正極電位が2.0V以下になるよう負極および/または正極に予めリチウムイオンを担持させることにより、高いエネルギー密度を有したキャパシタが得られた。また、レーザーにより内接円の平均直径が50μmの貫通孔を付与した集電体を用いても、簡易な塗工方法が可能であり、塗工速度も高められることから、生産性が高く好ましい。
【0081】
多孔箔に精度よく塗工する場合、比較例1に示した正極3の製造法のように、ダイコーターを用いた垂直方向へ集電箔を流す方式や、比較例2に示したように一旦導電性塗料をスプレー方式やダイコーターによる垂直塗工により貫通孔を導電層により閉塞させ、コンマコーターによる水平塗工が一般的であった。しかしながら、この方式は塗工機の高さが建屋の制限を受けること、自重により集電体が切れやすくなることから、乾燥ゾーンを長くできず、塗工スピードが遅い欠点があった。一方、実施例1および実施例2に示したように、貫通孔の内接円の平均直径が0.5〜100μmと小さい集電体を用いた場合、集電体の片面にスラリーを塗工した際にも、裏面へのスラリーの漏れがないためコンマコーターでの水平塗工が可能となる。更には塗工スピードを上げることが可能となり、生産性が格段に向上するため好ましい。また、電解エッチングによる貫通孔の付与は、集電体表面積が高くなるため、あらかじめ導電層を形成させなくても内部抵抗の低いセルが得られることから、さらに好ましい。
【0082】
(実施例3)
(負極3の製造法)
厚さ18μmの銅箔(日本製箔株式会社製)にレーザーにより、内接円の平均直径が80μmの貫通孔を開け、負極集電体としての開口率30%の多孔化銅箔を得た。該多孔化銅箔に対し、上記負極1のスラリーをロールコーターにて該多孔化銅箔の片面に5m/分の速度にて水平塗工して成形し、乾燥後さらにロールコーターにてもう片面にも5m/分の速度にて水平塗工し、乾燥後プレスして負極全体の厚さ(両面の負極電極層厚さと負極集電体厚さの合計)が151μmの負極3を得た。
【0083】
(セル5の作製)
負極3を用いる以外は実施例1と同様にしてフィルム型キャパシタを各4セル組み立てた。尚、セル内に配置されたリチウム金属は負極活物質重量当たり400mAh/g相当であり、正極活物質重量は負極活物質重量の1.4倍である。
セル組み立て後20日間放置後に1セル分解したところ、リチウム金属はいずれも完全に無くなっていたことから、負極活物質の単位重量当たりに660F/gの静電容量を得るためのリチウムイオンが予備充電されたと判断した。負極の静電容量は正極の静電容量の7.2倍となる。
2000mAの定電流でセル電圧が3.6Vになるまで充電し、その後3.6Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、200mAの定電流でセル電圧が1.9Vになるまで放電した。この3.6V−1.9Vのサイクルを繰り返し、10回目の放電においてセル容量及びエネルギー密度を評価した。結果を表6に示す。ただし、データは3セルの平均である。
【0084】
【表6】

【0085】
上記測定終了後に正極と負極を短絡させ正極の電位を測定したところ、0.95V程度であり、2.0V以下であった。正極と負極を短絡させた時の正極電位が2.0V以下になるよう負極および/または正極に予めリチウムイオンを担持させることにより、高いエネルギー密度を有したキャパシタが得られた。
正極および負極ともに貫通孔の内接円の平均直径が0.5〜100μmと小さい集電体を用いることにより、両極の生産性が向上することから、更に好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のリチウムイオンキャパシタは、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの駆動用または補助用蓄電源として極めて有効である。また、電動自転車、電動車椅子などの駆動用蓄電源、ソーラーエネルギーや風力発電などの各種エネルギーの蓄電装置、あるいは家庭用電気器具の蓄電源などとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、実施例1で使用したキャパシタセルの構造を示す概略図である。 1:正極、 1’:集電体(正極)、 2:負極、 2’:集電体(負極)、 3:セパレータ 4:リチウム金属 4’:集電体(リチウム金属) 5:導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的に担持可能な物質からなる正極とリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質からなる負極を備えており、かつ、電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液を備えたリチウムイオンキャパシタであって、(1)負極及び/又は正極とリチウムイオン供給源との電気化学的接触によってリチウムイオンが負極及び/又は正極にドーピングされ、(2)正極と負極を短絡させた後の正極の電位が2.0V以下であり、(3)前記正極及び/又は負極が、表裏面を貫通する多数の孔を有し、かつこれらの貫通孔の内接円の平均直径が100μm以下である金属箔からなる集電体を有することを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
負極活物質が、正極活物質に比べて、単位重量あたりの静電容量が3倍以上を有し、かつ正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きい請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
集電体が、電解エッチングにより多孔化されたアルミニウム箔又は銅箔である請求項1又は2に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
集電体が、レーザーにより多孔化されたアルミニウム箔又は銅箔である請求項1又は2に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
正極活物質が、活性炭、又は芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体である請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
負極活物質が、黒鉛、難黒鉛化炭素、又は芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であって水素原子/炭素原子の原子比が0.50〜0.05であるポリアセン系骨格構造を有するポリアセン系有機半導体である請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−141897(P2007−141897A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329455(P2005−329455)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】