説明

リニア圧縮機の制御方法

【課題】ピストンの位置検出器が不要で、演算処理を行うプロセッサの負担が小さく、かつ電気的ノイズの影響を受けにくく高精度な制御を行える、リニア圧縮機の制御方法を提供する。
【解決手段】シリンダとピストンとリニアモータと電源部と制御部とを備えるリニア圧縮機の制御方法1であって、特定周波数の基本波形uを生成する基本波形発生ステップ(2)と、3つ以上の異なる電圧測定位相で電圧の瞬時値を測定し電圧波形vの振幅及び位相を求める電圧測定演算ステップ(3)と、3つ以上の異なる電流測定位相で電流の瞬時値を測定し電流波形iの振幅及び位相を求める電流測定演算ステップ(4)と、該電圧波形v及び該電流波形iに基づいて前記ピストンの変位波形xまたは振幅を求める変位演算ステップ(5)と、該基本波形uを補正する基本波形補正ステップ(6)と、交流電力の前記電圧または前記電流を決定し供給する電力供給ステップ(電源部7)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス圧縮や蒸気圧縮あるいは極低温冷凍などに用いられるリニア圧縮機に関し、より詳細にはリニアモータで駆動するピストンの変位測定方法及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータにより駆動される圧縮機は、クランク機構で駆動される圧縮機と異なりピストンの動作範囲が可変となっており、動作範囲に応じて圧縮比やガス吐出量などの基本的な特性量が変化する。したがって、負荷状況に応じて最も効率の高い運転を行い、また上死点や下死点におけるシリンダ端との衝突を回避するために、ピストンの変位を測定し制御することがとりわけ重要である。ピストンの変位を実測する技術は、例えば特許文献1のリニアモータ駆動往復機構の制御装置に開示されている。この制御装置は、変位検出器と上死点検出手段とモータ制御手段とを備え、往復出力部(ピストン)の変位を離散位置データとして求め、変位の時間的変動を正弦波で近似して上死点位置を検知している。
【0003】
しかしながら、変位検出器を備えると、取付スペースが必要となって圧縮機の大型化を招くとともに、コストも上昇する。さらに、高温高圧の条件下で使用される検出器自体の信頼性の問題もある。このため、変位検出器を用いず、代わりにリニアモータに供給される電圧及び電流を測定し、演算によってピストンの変位を求める技術が、特許文献2及び特許文献3に開示されている。
【0004】
特許文献2に開示される自由ピストン圧縮機のピストン位置の測定方法では、検出された電圧及び電流からピストンの速度を計算し、速度を微分及び積分することで加速度及び変位を計算し、さらにこれらの諸量を用いて端部変位(上死点位置)を計算している。また、特許文献3に開示されるリニアコンプレッサ駆動装置は、リニアモータに交流電圧及び交流電流を出力するインバータと、共振周波数情報出力手段と、電圧検出手段及び電流検出手段と、インバータ制御器と、タイミング検知手段と、ピストン速度演算手段とを備え、ピストン速度の最大振幅を算出する、とされている。そして、出力電流の微分値がゼロあるいは振幅が最大となる位相タイミングや、出力電流の位相が90°や270°になる位相タイミングを、特定位相タイミングとして検知し、このときの出力電圧及び出力電流の瞬時値に基づいて最大振幅を算出するようにしている。さらに、ピストンのストローク情報や下死点情報、上死点情報、中心位置情報を算出する態様も記載されている。
【特許文献1】特許第3469779号公報
【特許文献2】特許第3413658号公報
【特許文献3】特許第3511018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の変位検出器を不要とした特許文献2の測定方法では、電圧と電流とを継続的に検出するとともに、逐次微分処理及び積分処理を行う必要がある。この微分処理は、電気的ノイズの影響を受けやすく、得られる加速度が不正確になりがちであり、特に高周波成分を含み継続時間の短いパルス状のノイズでは影響が顕著になる。さらに、微分器や積分器をアナログ回路で実現すると回路構成は複雑化し、ディジタル回路で実現すると演算処理を行うプロセッサの負担の増大につながる。
【0006】
また、特許文献3において、出力電流の微分値がゼロとなる位相タイミングを検知し特定位相タイミングとする態様は、負荷状況の変動や電気的ノイズに影響されると、特定位相タイミングにピストン速度が最大になるとは限らず、算出誤差を生じるおそれがある。出力電流の振幅が最大となる位相タイミングや、90°や270°になる位相タイミングを検知する態様も同様で、算出誤差を生じるおそれがある。さらに、出力電流を継続的に測定し、増減変化を監視して特定位相タイミングを検知する処理は、プロセッサにとって大きな負担となっている。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、ピストンの位置検出器が不要で、演算処理を行うプロセッサの負担が小さく、かつ電気的ノイズの影響を受けにくく高精度な制御を行える、リニア圧縮機の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のリニア圧縮機の制御方法は、ガスを収容するシリンダと、該シリンダ内を往復動して該ガスを圧縮するピストンと、該ピストンを駆動するリニアモータと、該リニアモータに特定周波数の正弦波状の交流電力を供給する電源部と、該交流電力の電圧または電流を制御する制御部と、を備えるリニア圧縮機の制御方法であって、前記制御部は、基本波形を生成する基本波形発生手段と、前記リニアモータに供給される前記電圧の瞬時値を測定するとともに得られた電圧値を用いて演算を行う電圧測定演算手段と、前記リニアモータに供給される前記電流の瞬時値を測定するとともに得られた電流値を用いて演算を行う電流測定演算手段と、該電圧及び該電流の演算結果に基づいて前記ピストンの変位を求める変位演算手段と、該ピストンの該変位に基づいて該基本波形を補正する基本波形補正手段と、を備え、該基本波形発生手段により、前記特定周波数の基本波形を生成する基本波形発生ステップと、該電圧測定演算手段により、該特定周波数の1周期内の3つ以上の異なる電圧測定位相で該電圧の瞬時値を測定し、電圧波形の振幅及び位相を求める電圧測定演算ステップと、該電流測定演算手段により、該特定周波数の1周期内の3つ以上の異なる電流測定位相で該電流の瞬時値を測定し、電流波形の振幅及び位相を求める電流測定演算ステップと、該変位演算手段により、得られた該電圧波形及び該電流波形に基づいて該ピストンの変位波形または振幅を求める変位演算ステップと、該基本波形補正手段により、該ピストンの該変位波形または該振幅に基づいて該基本波形を補正する基本波形補正ステップと、前記電源部により、補正後の該基本波形に基づいて前記交流電力の前記電圧または前記電流を決定し、前記リニアモータに供給する電力供給ステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明は、リニアモータに供給される電流と電圧を継続的に測定し逐次処理を行う従来の方法に代え、交流電力の1周期内に高々3回電圧及び電流を測定するだけでピストンの変位を求め、演算を行うプロセッサの負担を軽減するとともに耐ノイズ性を向上したことを要旨とする。本発明では、正弦波状に変化する交流電力によって駆動されるピストンは時間に対して正弦波状に往復振動変位することに着目し、3回の測定結果から得られる連立方程式を解いてピストンの変位波形または振幅を求めるようにしている。
【0010】
本発明に用いるリニア圧縮機の基本的構成、すなわちシリンダ及びピストン、リニアモータ、電源部は従来と同様とすることができ、例えば、本願出願人が特開2006−207472に開示したリニア圧縮機を応用することができる。詳述すると、シリンダ内にはガスを収容するとともに、往復動可能にピストンを配設することができる。さらに、ピストン側に設けられた永久磁石と、シリンダ側に設けられコイルとでリニアモータを構成することができ、電源部からコイルに正弦波状の電圧または電流を供給して駆動することができる。電源部は、物理的な構造によって定まるピストンの往復動の固有振動数に近い特定周波数を有し、さらに振幅を調整できることが好ましく、例えば、商用周波数電源または直流電源と、インバータとを組み合わせて構成することができる。固有振動数は厳密にはガスの圧力などに依存して若干変動するが、共振特性は一般的な圧縮機ではあまり尖鋭でないことから、特定周波数は一定値としても実用上支障ない。また、電源部には、電圧源と電流源のいずれも適用することができ、以降では電圧源として説明する。
【0011】
本発明の制御方法を実施するため、制御部に基本波形発生手段、電圧測定演算手段、電流測定演算手段、変位演算手段、基本波形補正手段、を備えることができる。制御部の各手段は、個別に形成することもできるが、アナログ回路とディジタル回路とマイクロプロセッサと処理ソフトウェアとを組み合わせ、複合一体化して構成することもできる。なお、以降の制御部の各手段の説明は一例であって、後述の各ステップを行うことのできる同等の手段と置き換えてもよい。
【0012】
基本波形発生手段は、制御部で行う処理の基準タイミングすなわち位相基準を示す基本波形を生成する手段であり、前述の特定周波数の正弦波状の信号を出力するアナログ回路や、内蔵タイマから特定周波数を作り出すディジタル回路で構成することができる。さらに、基本波形は、電源部が参照する波形とすることもでき、所望する振幅の大きさや重畳させる直流分の情報を付加することができる。この振幅の大きさは、往復動するピストンの変位量を決め、直流分は変位中心のシフト量を決めることになる。
【0013】
電圧測定演算手段は、リニアモータに供給される電圧の瞬時値を測定するとともに演算を行う手段である。電圧測定演算手段は、リニアモータの端子電圧を測定に好適な電圧レベルに変換して検出するアナログ検出器と、電圧レベルの瞬時値をディジタル情報の電圧値に変換した後に演算を行うディジタル演算部とで構成できる。アナログ検出器には例えば計器用変圧器を用いることができ、ディジタル演算部は例えばA/D変換器とマイクロプロセッサを組み合わせて構成することができる。そして所望する演算は、マイクロプロセッサ内のソフトウェアにて実現することができる。
【0014】
電流測定演算手段は、電流の瞬時値を測定するとともに演算を行う手段であり、アナログ検出器とディジタル演算部とで構成することができる。アナログ検出器には、例えば直列に挿入される既知抵抗を用い、リニアモータに流れる電流を測定に好適な電圧レベルに変換することができる。ディジタル演算部は、電圧の場合と同様に構成することができる。
【0015】
また、電圧を測定する電圧測定位相と、電流を測定する電流測定位相とが異なる場合には、ディジタル演算部は共用とすることができる。この態様では、ディジタル演算部のA/D変換器の入力側に切替器を設けて、電圧と電流とを交互に測定することができる。なお、切替器の切替制御や測定位相の指示は、マイクロプロセッサから行うことができる。
【0016】
変位演算手段は、電圧及び電流の演算結果に基づいてピストンの変位を求める手段であり、マイクロプロセッサ内のソフトウェアで所定の演算を行うことにより実現することができる。また、基本波形補正手段は、ピストンの変位に基づいて基本波形を補正する手段であり、マイクロプロセッサからの指令や情報により動作するアナログ回路、例えばゲイン調整部や直流分調整部を有する回路で形成することができる。
【0017】
本発明のリニア圧縮機の制御方法は、基本波形発生ステップ、電圧測定演算ステップ、電流測定演算ステップ、変位演算ステップ、基本波形補正ステップ、電力供給ステップ、の6ステップを有している。このうち、電圧測定演算ステップと電流測定演算ステップとは並行して実施することができ、その他のステップは記載した順序にしたがって実施することができる。一連のステップを繰り返して実施することにより、リニア圧縮機の連続的な運転を制御することができる。
【0018】
基本波形発生ステップは、基本波形発生手段により、特定周波数を有する基本波形を生成するステップである。
【0019】
前記基本波形発生ステップで、前記基本波形として正弦波あるいは略正弦波に直流分の重畳した波形を生成する、ことが好ましい。例えば、数1に示される基本電圧波形u(t)を生成することが好ましい。
【0020】
【数1】

【0021】
数1で、tは時間、u(t)は時間tにおける電圧の瞬時値、U0は基本電圧振幅、Piは180°(弧度法では円周率3.14)、fは特定周波数、wは角周波数、UDは基本電圧直流分、をそれぞれ示している。基本電圧波形u(t)は初期位相をもたず、位相基準を示している。
【0022】
電圧測定演算ステップは、電圧測定演算手段により、特定周波数の1周期内の3つ以上の異なる電圧測定位相で電圧の瞬時値を測定し、電圧波形の振幅及び位相を求めるステップである。いま、リニアモータに供給される正弦波状の電圧波形v(t)が直流分を有する場合を考えると、一般的に図1及び数2で表される。
【0023】
【数2】

【0024】
数2で、V0は電圧振幅、A0は基本電圧波形u(t)に対する電圧位相、VDは電圧直流分、をそれぞれ示す未知の定数量である。
【0025】
ここで、図1に示されるように、時刻t=0と、その位相A1後、及び位相A2後(ただし、A1及びA2は0°よりも大で360°よりも小さく、かつ異なる値)、の3つの電圧測定位相で電圧v(t)の瞬時値を測定し、V3、V1、V2の電圧値が得られた場合を考える。3組の電圧測定位相と得られた電圧値とを数2に代入してやれば、3つの独立した方程式が得られ、この三元連立方程式を解くことにより、数3に示すように未知の定数量を求めることができる。
【0026】
【数3】

【0027】
同様に、電流測定演算ステップにおいても、時刻t=0と、その位相B1後、及び位相B2後(ただし、B1及びB2は0°よりも大で360°よりも小さく、かつ異なる値)、の3つの電流測定位相で、リニアモータに供給される電流i(t)の3つの瞬時値I3、I1、I2を測定することにより、同じ形の数4で表される電流振幅I0、基本電圧波形u(t)に対する電流位相B0、電流直流分ID、を求めることができる。
【0028】
【数4】

【0029】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップにおいて、ディジタル測定及びディジタル演算を行う、ことが好ましい。数3及び数4を用いて電圧波形及び電流波形の振幅及び位相を求める演算は、アナログ領域では実現が難しく、ディジタル領域で行うことが好ましい。
【0030】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、3つ以上の異なる前記電圧測定位相または前記電流測定位相を、90°または180°の間隔で設定する、ようにしてもよい。数3及び数4をみればわかるように、数式には三角関数が含まれるので、電圧測定位相A1及びA2や電圧測定位相B1やB2を90°または180°とすることにより、三角関数の値が0や±1となって、演算が容易となる。さらに、近接する位相で測定した場合よりも電圧や電流の瞬時値が大きく変化するため、演算時の誤差が減少して信頼性の高い演算結果を得ることができる。
【0031】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、前記電圧波形または前記電流波形に重畳する直流分をも求める、ようにしてもよい。数3及び数4では、電圧及び電流の直流分VD、IDも一緒に求めることができる。
【0032】
なお、電圧測定演算ステップ及び電流測定演算ステップにおいて、1周期内で4回以上の測定を行い、3つの測定値を適宜選択して演算するようにしてもよい。また、上述の例では、電圧及び電流の最初の測定を時間t=0で行っているが、任意の時刻に行うこともできる。ただし、任意の時刻における基本電圧波形u(t)の位相を求める必要があるので、演算が煩雑化する。さらに、電流と電圧の測定は、同一周期内で行うことが好ましいが、時間的な隔たりの小さな別の周期で行うようにしても実用上支障ない。
【0033】
変位演算ステップは、変位演算手段により、得られた電圧波形及び電流波形に基づいてピストンの変位波形または振幅を求めるステップである。電圧波形v(t)が数3で、電流波形i(t)が数4でそれぞれ求められているとき、ピストンの変位波形x(t)は数5によって求められる。
【0034】
【数5】

【0035】
数5で、Cは電気/機械伝達係数、Rはリニアモータのコイルの直流抵抗、Lはコイルのインダクタンス、XDは電流直流分IDの関数として表される変位中心のシフト量、をそれぞれ示している。これらの量は、前もって実測あるいは実験的に求められた定数である。
【0036】
数5は時間的に変化するピストンの変位を示しており、この式からピストンの振幅Xを求めることができ、数6で表される。
【0037】
【数6】

【0038】
基本波形補正ステップは、基本波形補正手段により、得られたピストンの変位波形または振幅に基づいて基本波形を補正するステップである。数5の変位波形x(t)や数6の振幅Xが、ピストン及びシリンダの寸法諸元や特性からみて好ましければ特に補正を行う必要はない。ピストンが往復動する振幅Xが過不足する場合や、変位中心が偏っている場合には、補正を行うことになる。すなわち、振幅Xの過不足に対しては基本電圧波形u(t)の振幅U0を小さくあるいは大きくするように例えばゲイン調整部でゲインを調整し、変位中心を適正化するために例えば直流分調整部で直流分UDの大きさを調整する。
【0039】
前記基本波形補正ステップにおいて、前記基本波形の振幅のみを補正する、ようにしてもよい。通常変位中心の偏りはわずかであるため、簡易な方法としては基本電圧波形u(t)の振幅U0のみを補正するようにしてもよい。
【0040】
電力供給ステップは、電源部により、補正後の基本波形に基づいて交流電力の電圧または電流を決定し、リニアモータに供給するステップである。
【0041】
前記電力供給ステップにおいて、補正後の前記基本波形に比例した波形あるいは略比例と等価な波形の前記電圧または前記電流を供給する、ことが好ましい。補正後の基本電圧波形に比例した波形、一般的には増幅した波形の電圧v(t)をコイルに供給することにより電流i(t)が流れ、ピストンの往復動の変位が調整される。
【0042】
さらに次のタイミングには、供給された電圧v(t)及び電流i(t)が測定されて、基本電圧波形u(t)の補正にフィードバックされ、繰り返してフィードバック制御が行われることにより、好ましい運転状態が維持される。
【0043】
以下、耐ノイズ性を付与して測定精度を一層向上した態様について説明する。
【0044】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、各前記電圧測定位相または各前記電流測定位相の付近で複数回の測定を行って平均値を求め前記電圧または前記電流の前記瞬時値とする、ようにしてもよい。電圧または電流の瞬時値の測定において、複数個の測定値の算術平均値を求めることにより、ノイズに影響された不適正な測定値に起因する誤差を低減することができる。また、測定値中の最大値と最小値を除外して平均値を求める手法によれば、一過性ノイズの影響を取り除くことができる。
【0045】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、ローパスフィルタを介して前記電圧または前記電流の前記瞬時値を測定する、ようにしてもよい。特定周波数よりも大きなカットオフ周波数をもつローパスフィルタを介した測定を行うことで、高周波成分を含むノイズの影響を低減することができる。切替器により電圧と電流とを交互に測定する態様では、切替器とA/D変換器との間にローパスフィルタを設けるようにしてもよい。
【0046】
前記リニアモータと前記電源部との間に、変圧器及び直列接続されたインダクタンス及び並列接続されたコンデンサのうち少なくとも一つが配設されている、ことでもよい。電源ラインに、変圧器やインダクタンス、コンデンサを配設することにより、外部から侵入あるいは電源部自体が誘起するノイズそのものを低減することができ、測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0047】
上述の本発明のリニア圧縮機の制御方法によれば、リニアモータに供給される電流及び電圧を1周期内に高々3回測定するだけで、ピストンの変位波形または振幅を求めてフィードバック制御することができるので、ディジタル測定及びディジタル演算を継続的に行う必要がなくプロセッサの負担は小さい。また、瞬時値を測定する方式であるため、パルス状の電気的ノイズに遭遇して影響を受ける危険性が小さく、高精度な制御を行うことができる、
さらに、複数回の測定を行って電圧及び電流の平均値を求める態様やローパスフィルタを介した測定を行う態様、リニアモータと電源部との間に変圧器やインダクタンス、コンデンサを配設する態様では、耐ノイズ性が一層向上し、測定精度が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明を実施するための最良の形態を、図2〜図4を参考にして説明する。図2は、本発明の実施例の制御方法を適用するリニア圧縮機の構造を説明する側面断面図である。図2に示されるように、リニア圧縮機9は略軸対称形状であり、密閉容器部91、シリンダ部92、ピストン部93、リニアモータを形成する固定子部94と可動子部95、図略の電源部及び制御部、で構成されている。
【0049】
密閉容器部91は、内部の密閉された耐圧性の筐体であり、リニア圧縮機9の主枠となっている。密閉容器部91は、図中左側が閉じ右側が開いた筒状の容器円筒部911と、容器円筒部911の図中右側を密封するように配置された円環状の頂壁部912と、で形成されている。シリンダ部92は、ガスを収容するとともに、内部に往復動するピストン部93を擁する部位である。シリンダ部92は、シリンダ内筒部とシリンダ蓋部925とで形成されている。詳述すると、シリンダ内筒部は、頂壁部913の内周が軸方向図中左側に向けて筒状に延設されて形成されており、太径のシリンダ本体部922と細径のロッド貫通部923とに分かれている。シリンダ本体部922の内周側には筒状のシリンダライナ924が配設され、シリンダライナ924の図中右端には円板状のシリンダ蓋部925が配設されて、シリンダ室を区画している。シリンダ蓋部925の軸心には、図中右方向に向けて圧力導出管926が配設され、ガスが圧縮されて生じる圧力波が出力されるようになっている。ピストン部93は、シリンダ室内に配設されて図中左右に往復動するピストン本体931と、ピストン本体931の軸心から図中左方向に延設されロッド貫通部923によって密閉かつ往復動可能に支持される操作ロッド932と、で形成されている。
【0050】
リニアモータを形成する固定子部94は、密閉容器部91の容器円筒部911の内周に配設固定されている。すなわち、固定子部94は、容器円筒部911の内周に軸方向に並べて配設された3個のドーナツ状のコイル941、942、943と、コイル間に配設された2個の強磁性体944、945と、で形成されている。一方、リニアモータを形成する可動子部95は、ピストン部93に固定されて、ともに往復動するように形成されている。すなわち、可動子部95は、ピストン部93の操作ロッド932の図中左端にボルト951で固定されロッド貫通部923の外周側に折り返されて配置される円筒状のヨーク952と、ヨーク952の外周に配設されたドーナツ状の永久磁石953と、永久磁石953の両軸方向に配設された強磁性体954、955と、で形成されている。さらに、可動子部95の右端と密閉容器部91の頂壁部912との間に軸方向にコイルスプリング956が嵌設され、可動子部95の左端と密閉容器部91の容器円筒部911との間に軸方向にコイルスプリング957が嵌設され、可動子部95及びピストン部93が軸方向に弾性保持されている。
【0051】
ここで、コイル941、942、943と永久磁石953とは対向配置されている。したがって、コイル941、942、943は、図略の電源部から交流電力が供給されて電磁石として作用し、磁気力により可動子部95及びピストン部93を往復駆動するようになっている。固定子部94側の強磁性体944、945、及び可動子部95側の強磁性体954、955は、磁気力を強める作用を有している。また、可動子部95は、2つのコイルスプリング956、957の機械弾性と、ピストン室のガス弾性と、コイル941、942、943及び永久磁石永による電磁弾性と、によって弾性保持され、これらの総合的な作用によって固有振動数が定まっている。
【0052】
本発明の実施例のリニア圧縮機の制御方法は、図略の電源部から図2のコイル941、942、943に供給される電圧及び電流を測定し、かつ制御するものであり、アナログ回路とディジタル回路及びマイクロプロセッサを組み合わせた制御部によって、実現されている。図3は、実施例の制御方法1を説明する機能ブロック図であり、図3を参考にして、制御部の機能すなわち制御方法を順番に説明してゆく。
【0053】
実施例の制御方法1の基本波形発生ステップでは、まず、時間信号発生手段21により、極めて短い一定時間間隔毎に基準となる時間信号を生成する。次いで基本波形発生手段2により、位相基準を示すとともに電源部7が供給する交流電力の基となる正弦波状の基本電圧波形u(t)を生成する。基本波形発生ステップでは、変位波形情報設定手段22により基本電圧振幅U0と特定周波数fを前もって設定しておくことができる。また、必要に応じて重畳する基本電圧直流分UDを設定するようにしてもよい。
【0054】
次の電圧測定演算ステップでは、まず、電圧測定タイミング出力手段31により、基本電圧波形u(t)の特定周波数fの1周期内の3つの異なる電圧測定位相を決め、タイミング信号を電圧測定演算手段3に伝送する。電圧測定演算手段3は、コイル941、942、943に供給されている電圧v(t)を測定する電圧測定手段32と、測定された電圧をディジタル電圧値に変換する電圧値出力手段33と、電圧波形v(t)を演算する電圧演算手段34と、で形成されている。電圧測定手段32は、常時アナログ電圧測定を行っている。電圧値出力手段33は、電圧測定タイミング出力手段31からのタイミング信号によって動作し、アナログ電圧の瞬時値をA/D変換し、電圧演算手段に受け渡す。電圧演算手段34は、3組の電圧測定位相及び電圧値を数3に代入して、電圧波形v(t)を演算する。すなわち、電圧振幅V0と、基本電圧波形に対する電圧位相A0と、電圧直流分VDと、を求めるようになっている。
【0055】
電流測定演算ステップは、電圧測定演算ステップと並行して進められる。まず、電流測定タイミング出力手段41により、基本電圧波形u(t)の特定周波数fの1周期内の3つの異なる電流測定位相を決め、タイミング信号を電流測定演算手段4に伝送する。電流測定演算手段4が、電流測定手段42と、電流値出力手段43と、電流演算手段34と、で形成されているのは電圧測定演算手段3と同様であり、数4により電流波形i(t)すなわち電流振幅I0と、基本電圧波形に対する電流位相B0と、電流直流分IDと、を求めるのも同様である。
【0056】
電圧波形v(t)及び電流波形i(t)が求められると次に変位演算ステップとして、変位演算手段5の演算式特定手段51により、数5を用いてピストン部93の変位波形の演算式x(t)が特定される。すなわち、時間t以外の諸量が定数として求められる。なお、電気/機械伝達係数C、リニアモータのコイルの直流抵抗R、コイルのインダクタンスL、電流直流分IDによる変位中心のシフト量XD、の各量は、前もって実験的に求め、制御部内に格納しておく。次いで、変位波形演算手段52により、時間的に変化するピストン部93の変位波形x(t)を求めて、基本波形補正手段6に伝送する。
【0057】
次に基本波形補正ステップとして、基本波形補正手段6により、基本波形発生手段2から出力された基本電圧波形u(t)を補正して、電源部7に出力する。補正に際しては、時間的に変化するピストン部93の変位波形x(t)を参照して、基本電圧波形の振幅U0及び直流分UDの大きさを補正する。
【0058】
最後に電力供給ステップとして、電源部7により、補正後の基本電圧波形に比例した交流電力の電圧v(t)をリニアモータのコイル941、942、943に供給する。交流電力の測定及びフィードバック制御を繰り返して行うことにより、ピストン部93の往復動の振幅Xの大きさ及び変位中心のシフト量が調整されて、適正に保たれる。
【0059】
なお、簡易な制御方法として、変位波形演算手段52で数6によりピストン部93の振幅Xのみを求め、基本波形補正手段6で基本電圧波形u(t)の振幅U0のみを補正するようにしてもよい。
【0060】
以降では、実施例の制御方法1の妥当性を検証した検証試験結果について、図4を参照して説明する。図4は、図2とは異なる寸法諸元で構成されたリニア圧縮機に、図3の制御方法1を適用したときの検証試験結果を示す図である。図中の横軸は時間tを示し、縦軸は(1)が供給電圧の連続実測値、(2)が供給電圧の演算値、(3)が供給電流の連続実測値、(4)が供給電流の演算値、(5)がピストン変位の連続実測値、(6)がピストン変位の演算値、の波形をそれぞれ示している。(1)(3)(5)の連続実測値は、別途測定器を使用して連続的に測定を行った実測値であり、(2)(4)(6)の演算値は、図3の制御方法1により求めた波形を図示したものである。また、供給電圧の特定周波数f1=29.4Hzは、ほぼピストン変位の固有振動数として試験を行っている。
【0061】
図4から判るように、3つの瞬時値から演算で求めた供給電圧及び供給電流の波形(2)及び(4)は、連続実測値(1)及び(3)に良く一致している。さらにピストン変位においては、演算による波形(6)は連続実測値(5)に概ね重なっており、精密に変位を演算できていることが判明した。なお、検証試験は、固有振動数からずれた周波数f2=25Hzでも行っており、同様の一致を確認している。
【0062】
以上説明したように、実施例の制御方法によれば、変位測定器を用いることなく、かつリニアモータのコイル941、942、943に供給される電圧及び電流を1周期内に3回測定するだけで、ピストン部93の変位を正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】直流分を有する正弦波状の電圧波形v(t)を一般的に説明する図である。
【図2】本発明の実施例の制御方法を適用するリニア圧縮機の構造を説明する側面断面図である。
【図3】本発明の実施例の制御方法を説明する機能ブロック図である。
【図4】リニア圧縮機に図3の実施例の制御方法を適用したときの検証試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1:制御方法
2:基本波形発生手段
21:時間信号発生手段 22:変位波形情報設定手段
3:電圧測定演算手段
31:電圧測定タイミング出力手段 32:電圧測定手段
33:電圧値出力手段 34:電圧演算手段
4:電流測定演算手段
41:電流測定タイミング出力手段 42:電流測定手段
43:電流値出力手段 44:電流演算手段
5:変位演算手段
51:演算式特定手段 52:変位波形演算手段
6:基本波形補正手段
7:電源部
9:リニア圧縮機
91:密閉容器部 92:シリンダ部
93:ピストン部 94:固定子部
941〜943:コイル 95:可動子部
953:永久磁石
u(t):基本電圧波形
v(t):リニアモータのコイルに供給される電圧波形
i(t):リニアモータのコイルに供給される電流波形
x(t):ピストン部の変位波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを収容するシリンダと、該シリンダ内を往復動して該ガスを圧縮するピストンと、該ピストンを駆動するリニアモータと、該リニアモータに特定周波数の正弦波状の交流電力を供給する電源部と、該交流電力の電圧または電流を制御する制御部と、を備えるリニア圧縮機の制御方法であって、
前記制御部は、基本波形を生成する基本波形発生手段と、前記リニアモータに供給される前記電圧の瞬時値を測定するとともに得られた電圧値を用いて演算を行う電圧測定演算手段と、前記リニアモータに供給される前記電流の瞬時値を測定するとともに得られた電流値を用いて演算を行う電流測定演算手段と、該電圧及び該電流の演算結果に基づいて前記ピストンの変位を求める変位演算手段と、該ピストンの該変位に基づいて該基本波形を補正する基本波形補正手段と、を備え、
該基本波形発生手段により、前記特定周波数の基本波形を生成する基本波形発生ステップと、
該電圧測定演算手段により、該特定周波数の1周期内の3つ以上の異なる電圧測定位相で該電圧の瞬時値を測定し、電圧波形の振幅及び位相を求める電圧測定演算ステップと、
該電流測定演算手段により、該特定周波数の1周期内の3つ以上の異なる電流測定位相で該電流の瞬時値を測定し、電流波形の振幅及び位相を求める電流測定演算ステップと、
該変位演算手段により、得られた該電圧波形及び該電流波形に基づいて該ピストンの変位波形または振幅を求める変位演算ステップと、
該基本波形補正手段により、該ピストンの該変位波形または該振幅に基づいて該基本波形を補正する基本波形補正ステップと、
前記電源部により、補正後の該基本波形に基づいて前記交流電力の前記電圧または前記電流を決定し、前記リニアモータに供給する電力供給ステップと、
を有することを特徴とするリニア圧縮機の制御方法。
【請求項2】
前記基本波形発生ステップにおいて、前記基本波形として正弦波あるいは略正弦波に直流分の重畳した波形を生成する、請求項1に記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項3】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップにおいて、ディジタル測定及びディジタル演算を行う、請求項1または2のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項4】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、3つ以上の異なる前記電圧測定位相または前記電流測定位相を、90°または180°の間隔で設定する、請求項3に記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項5】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、前記電圧波形または前記電流波形に重畳する直流分をも求める、請求項3または4のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項6】
前記基本波形補正ステップにおいて、前記基本波形の振幅のみを補正する、請求項1〜5のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項7】
前記電力供給ステップにおいて、補正後の前記基本波形に比例した波形あるいは略比例と等価な波形の前記電圧または前記電流を供給する、請求項1〜6のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項8】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、各前記電圧測定位相または各前記電流測定位相の付近で複数回の測定を行って平均値を求め前記電圧または前記電流の前記瞬時値とする、請求項3〜7のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項9】
前記電圧測定演算ステップ及び前記電流測定演算ステップの少なくとも一方において、ローパスフィルタを介して前記電圧または前記電流の前記瞬時値を測定する、請求項1〜8のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。
【請求項10】
前記リニアモータと前記電源部との間に、変圧器及び直列接続されたインダクタンス及び並列接続されたコンデンサのうち少なくとも一つが配設されている、請求項1〜9のいずれかに記載のリニア圧縮機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−196320(P2008−196320A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29448(P2007−29448)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】