説明

リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液のパーティクル数経時安定化方法及びレジスト残渣剥離剤組成物

【課題】リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有する組成物におけるパーティクル数を経時安定化する方法、及び、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有し、しかもパーティクル数が経時安定化されたレジスト残渣剥離剤組成物を提供する。
【解決手段】液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられるリン酸及び/又はリン酸塩含有組成物におけるパーティクル数経時安定化方法であって、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液に、マルトールを含有させる、パーティクル数経時安定化方法、及び、パーティクル数経時増加が抑制されたレジスト残渣剥離剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体集積回路、液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられるリン酸及び/又はリン酸塩含有組成物におけるパーティクル数経時安定化方法に関する。詳細には、半導体基板上又は液晶用基板上に金属配線を形成するときに使用されるレジスト残渣剥離剤組成物であって、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有する組成物等におけるパーティクル数経時増加を抑制する方法、及び、パーティクル数経時増加が抑制されたレジスト残渣剥離剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、液晶パネルの半導体素子回路等の製造に用いられるフォトレジスト残渣を基板上から剥離する際に、剥離剤組成物が用いられる。例えば、半導体素子回路又は付随する電極部の製造は、以下のように行われる。シリコン、ガラス等の基板上にCVDやスパッタ等により形成された金属膜や絶縁膜上にフォトレジストを均一に塗布し、これを露光、現像処理してレジストパターンを形成する。つぎに、パターン形成されたフォトレジストをマスクとして上記金属膜や絶縁膜を選択的にエッチングする。その後、不要となったフォトレジスト残渣を剥離剤組成物を用いて剥離・除去する。これらの操作を繰り返すことにより多層配線形成が行われる。ここで上記金属膜や絶縁膜としては、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタンナイトライド、銅、タンタル、アモルファスシリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜、窒化シリコン等が用いられ、これらは単層又は複数層にて基板上に形成される。
【0003】
従来、フォトレジスト残渣の剥離や金属膜や絶縁膜のエッチングには、有機アミン、無機アルカリ、有機酸、無機酸等の化合物を単独又は2種以上を組合せて水に溶解し、必要に応じて、有機溶剤や添加物を配合した組成物が用いられている。
【0004】
なかでも、リン酸水溶液は、半導体製造工程における窒化シリコンのエッチングに広く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。また、例えば、フッ化物及びリン酸又はリン酸塩を含有する、タンタル付着物を除去するエッチング用組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
ところで、特許文献3には、工業的に製造されたリン酸中に不可避的に含有される非水溶性の不純物微粒子について記載されており、このような微粒子はパーティクルと称されることが当業者に知られている。
【0006】
一方、リン酸水溶液は、その原因は未解明であるが、経時的に液中のパーティクル数が増加することが知られている。すなわち、液中のパーティクルが経時的に、おそらくは生成して、あるいは成長して、計測数が増加するので、貯蔵中に液中のパーティクル計測数が増加してしまうことになる。従って、リン酸水溶液を使用した剥離剤を使用する際、剥離剤の貯蔵中に液中で生成しまたは成長して増加した計測可能粒径パーティクルが半導体製造工程や液晶パネルの電子回路製造工程において品質に影響を与える懸念がある。
【0007】
また、マルトールが剥離剤組成物に使用されることは知られており、例えば、特許文献4にはマルトールの使用されたアミン系レジスト剥離剤組成物が開示されている。しかしながら、リン酸含有水溶液でのマルトール配合例は知られていない。
【0008】
半導体製造工程や液晶パネルの電子回路製造工程においてパーティクルが品質に影響を与えることを防止するために、従来、クリーンルームの設置や、剥離剤や洗浄剤における高純度リン酸の使用や、剥離剤組成物をフィルターを通過させて液中のパーティクルを除去する等の対処手法は知られているが、さらに、経時に液中パーティクルが増加することを防止するべく、レジスト残渣剥離や金属膜や絶縁膜のエッチングに用いられるリン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有する組成物のパーティクルを安定化することが要請される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−363611号公報
【特許文献2】特開2006−57130号公報
【特許文献3】特開2006−321677号公報
【特許文献4】特開2008−286881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有する組成物におけるパーティクル数を経時安定化する方法、及び、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有し、しかもパーティクル数が経時安定化されたレジスト残渣剥離剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液中の、パーティクルの経時的な粒子数増加を、該水溶液にマルトールを含有させることにより、抑制する、該水溶液のパーティクル数経時安定化方法である。
本発明の別の態様は、リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させたレジスト残渣剥離剤組成物である。
本発明のさらに別の態様は、リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させた、パーティクル数が経時安定化されたレジスト残渣剥離液を準備する工程、並びに、前記レジスト残渣剥離液用いて半導体基板上又は液晶用ガラス基板上のレジスト残渣を剥離除去する工程、を含むレジスト残渣除去方法である。
本発明のさらに別の態様は、リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させた、パーティクル数が経時安定化された組成物を準備する工程、並びに、前記組成物を用いて半導体基板上又は液晶用ガラス基板上の膜をエッチングする工程、を含むエッチング方法である。
【発明の効果】
【0012】
上述の構成により、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液におけるパーティクルの経時増加を抑制することができる。本発明の方法を適用して製造したレジスト残渣剥離液は、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を含有する組成物中のパーティクルが安定化されており、経時液中パーティクル数増加が抑制されている。本発明の液中パーティクル数経時安定化法を用いることで、特にパーティクルが品質に大きな影響を与える半導体又は液晶用の電子回路等の製造工程等において、レジスト残渣剥離液やエッチング液のパーティクル数の増加を抑え、パーティクル数の充分に少ないものを使用可能となり、品質向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液に、マルトールを含有させて、パーティクルの経時的な粒子数増加を抑制することにより、該水溶液のパーティクル数を経時安定化させる。パーティクル数が経時安定化されると、パーティクル数、実際には計測可能粒径の粒子数の、経時的な増加が、マルトールを含有しない場合と比較して、抑えられる。リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液に不純物として含まれるパーティクルにはシリカ、砒素、アンチモン、鉄、マンガン、ナトリウム、アルミニウム等が含まれているとの指摘がある(例えば、特許文献3参照。)が、必ずしも充分に解明されているとは言えず、本発明においては、このような態様に限定することを意図するものではない。
【0014】
パーティクル数の経時安定化は、例えば、計測方法が許すなら、0.2μm以上の粒径を有するパーティクル数を計測した計測値の経時増加が、マルトールを含有させることにより、マルトールを含有しない場合と比較して、抑制されることにより、評価することができる。
【0015】
パーティクル数の計測は、例えば、パーティクルカウンターで測定する方法、あるいは孔径既知のメンブランフィルターで濾過した後、電子顕微鏡(SEM)により一定面積内のパーティクルを計数する方法等により行うことができる。パーティクルカウンターは、例えば、レーザー光束中に設置したサファイア製セル中を被験液体を流し、微粒子による光遮断信号を測定するものであり、測定は、被験液体の代わりに超純水中に標準粒子を分散させた液体を用いた場合の光遮断信号を測定することにより、予め検量線を作成しておき、被験液体を流したときの光遮断信号から検量線により粒子数を求める方法が一般的に採用されている。パーティクルカウンターで測定される粒径は、一般には0.2μm以上である場合が多い。
【0016】
パーティクル数の計測においては、例えば、粒径0.5μm以上のパーティクルの経時の増加率を求めることができる。経時間隔としては、例えば、10日経過後、15日経過後、30日経過後等が好ましい。
【0017】
パーティクル数の計測において、被験液の温度は、組成物の貯蔵時の条件を考慮して、常温(20〜30℃、より具体的には、例えば、20℃、24℃、25℃、26℃、30℃等である。)であってよいが、更に高い温度(例えば、40℃、50℃等。)であってもよい。
【0018】
本発明の方法によれば、増加率は、例えば、常温における30日経過後に100%以下、さらには50%以下、さらには10%以下、さらには2%以下、さらには0%又はそれ以下である。
【0019】
リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液中のパーティクル数を経時安定化させるには、マルトールを含有させる。マルトールの含有量としては、組成物中に微量添加されていれば良く、経済的な観点から上限は5重量%が好ましい。下限は0.001重量%が好ましい。0.001〜3重量%がより好ましく、0.005〜1重量%がさらに好ましい。
【0020】
リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液は、その用途としてはとくに限定されないが、例えば、レジスト残渣剥離剤組成物であってもよく、あるいはエッチング液組成物であってもよい。
【0021】
リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液がレジスト残渣剥離剤組成物やエッチング液組成物である場合、リン酸及び/又はリン酸塩は、組成物中に0.1〜85重量%含まれることが好ましい。より好ましくは1〜50重量%である。リン酸又はリン酸塩の濃度が0.1%未満の場合は、レジスト残渣除去性又はエッチング速度が低下する傾向にある。
【0022】
レジスト残渣剥離剤組成物、エッチング液組成物においては、さらに、フッ化物を含有してもよい。フッ化物としては、例えば、フッ化水素酸、フッ化水素酸塩(例えば、フッ化アンモニウム等)を挙げることができる。
【0023】
フッ化物を含有させる場合は、組成物中に0.0001〜10重量%含まれることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜5重量%である。フッ化物の含有量が0.0001重量%未満の場合は、レジスト残渣除去性やエッチング性が低下する傾向にあり、10重量%を超える場合は、金属材料や絶縁膜へのダメージが大きくなる傾向にある。
【0024】
リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液に、マルトールを含有させて、該水溶液のパーティクル数を経時安定化させた組成物の使用の態様としては、リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させた、パーティクル数が経時安定化されたレジスト残渣剥離液を準備する工程、並びに、前記レジスト残渣剥離液用いて半導体基板上又は液晶用ガラス基板上のレジスト残渣を剥離除去する工程、を含むレジスト残渣除去方法が挙げられる。
【0025】
また、リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させた、パーティクル数が経時安定化された組成物を準備する工程、並びに、前記組成物を用いて半導体基板上又は液晶用ガラス基板上の膜をエッチングする工程、を含むエッチング方法を挙げることができる。
【0026】
本発明の組成物は、調製後にパーティクル数が経時安定化されており、パーティクルカウンターで測定した場合に経時のパーティクル数の増加がマルトールを含有させることにより抑制されているので、製造工程において組成物を準備する工程において、パーティクル数の経時増加を抑制することが可能で、調製時の低パーティクル数を維持した組成物を準備することができる。
【0027】
次に、半導体基板又は液晶用ガラス基板を用いて半導体素子を作製する場合を例に挙げ、本発明の組成物の使用方法の一例を説明する。例えば、基材上にCVD、スパッタリング等によりアルミニウム合金等の金属膜やSiO等の絶縁膜を形成する。次いで、その上にフォトレジストを成膜し、フォトマスクを載置して露光し、現像等の処理を行い、パターン形成を行なう。パターン形成されたフォトレジストをエッチングマスクとして金属薄膜をエッチングする。その後、アッシングによりレジストを灰化する。灰化した際に残留するレジスト残渣を、本発明の組成物を用いて剥離・除去する。具体的には、灰化後の基板を、本発明の組成物に浸漬することにより、フォトレジスト残渣が溶解・剥離し、除去される。浸漬温度は通常24〜120℃、好ましくは24〜40℃、浸漬時間は10秒〜30分である。このようにして、表面に配線等が形成された半導体素子が製造される。製造された素子においては、パーティクルの残存がなく、回路短絡等の欠陥のない、高信頼性の製品が得られる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1、比較例1
表1に示す組成物を作成し、ポアサイズが0.05μmのポリエチレン製フィルターを用いてろ過を行い、クリーンポリ容器(ポリエチレン製)に充填を行った。さらにクリーン容器に小分けを行い、リオン製液中パーティクルカウンターで液中パーテイクル数を測定し、初期パーティクル値とした。測定は粒径0.2μm以上の粒子数、0.3μm以上の粒子数、0.5μm以上の粒子数をそれぞれ求めた。例えば、実施例1において、初期パーティクル値は、0.2μm以上の粒子数が251個/mLであり、そのうち、0.3μm以上の粒子数が52個/mLであり、さらにそのうち、0.5μm以上の粒子が4個/mLであった。表中、DIW(Deionized water)は脱イオン水を意味する。
【0030】
クリーンルーム内で24℃で密栓保管し、半月(15日)後と1ヵ月(30日)後に上述と同等にクリーンポリ容器に小分けを行い、液中パーティクルカウンターを用いて液中パーティクル数を測定し、経時後のパーティクル値とした。30日経過後の値の初期値に対する増加率を示した。
実施例1の結果を表2に示した。比較例1の結果を表3に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
計測の結果、マルトールを添加していない比較例1では1ヵ月後に、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上の、いずれのサイズのパーティクルも大幅な増加が見られたのに対し、マルトールを微量添加した実施例1の組成物においては、30経過後のパーティクル増加は見られなかった。なお、実施例1で見られるパーティクル数減少は、粒子数の減少を示すよりもむしろ、被験液調製に伴うサンプルのバラツキによる測定誤差に基づくと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液中の、パーティクルの経時的な粒子数増加を、該水溶液にマルトールを含有させることにより、抑制する、該水溶液のパーティクル数経時安定化方法。
【請求項2】
0.2μm以上の粒径を有するパーティクル数を計測した計測値の経時増加が、マルトールを含有させることにより抑制される請求項1記載の方法。
【請求項3】
粒径0.5μm以上のパーティクルの常温における30日経過後の粒子数増加率が100%以下である請求項2記載の方法。
【請求項4】
マルトールを0.001〜5重量%配合する請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液は、レジスト残渣剥離剤組成物である請求項1〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させたレジスト残渣剥離剤組成物。
【請求項7】
さらに、フッ化物を含有する、請求項6記載のレジスト残渣剥離剤組成物。
【請求項8】
マルトールの含有量が、0.001〜5重量%である請求項6又は7記載の組成物。
【請求項9】
リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させた、パーティクル数が経時安定化されたレジスト残渣剥離液を準備する工程、並びに、前記レジスト残渣剥離液を用いて半導体基板上又は液晶用ガラス基板上のレジスト残渣を剥離除去する工程、を含むレジスト残渣除去方法。
【請求項10】
リン酸及び/又はリン酸塩と水とを含有し、さらにマルトールを含有させた、パーティクル数が経時安定化された組成物を準備する工程、並びに、前記組成物を用いて半導体基板上又は液晶用ガラス基板上の膜をエッチングする工程、を含むエッチング方法。

【公開番号】特開2012−58602(P2012−58602A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203488(P2010−203488)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】