説明

レゾール型フェノール樹脂、その製造方法および用途

【課題】低温接着性に優れ、120℃程度の低温で厚みが15mm以上の厚物合板を製造することができ、さらに合板の生産性等にも優れるレゾール型フェノール樹脂、その製造方法および用途を提供する。
【解決手段】
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、THF可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャート上の面積比率において、1核体および2核体の含有量が6%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾール型フェノール樹脂、その製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合板用接着剤として、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア・ホルムアルデヒド樹脂に代表されるアミノ樹脂接着剤や、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂接着剤が用いられている。従来のフェノール・ホルムアルデヒド樹脂接着剤(以下、フェノール樹脂接着剤という)は、アミノ系樹脂接着剤と比較して、接着性、耐久性、安定性に優れているものの、合板を製造する際の熱圧締(プレス)に際し、高温・長時間を要し、このために作業性の低下、プレス後の製品の厚み減り、表面劣化の原因となっている。
【0003】
このようなフェノール樹脂接着剤の課題を解決するものとして、特許文献1には、4核体以上のフェノール樹脂成分が40重量%以上で、かつモノメチロールフェノール成分を5重量%以上含有するレゾール型フェノール・ホルムアルデヒド樹脂に、イソシアネート化合物を配合して得られたフェノール樹脂接着剤組成物が提案されている。
【0004】
特許文献2には、ホルムアルデヒド(F)とフェノール(P)のモル比(F/P)を2.2〜3.0で反応させる第1段階反応と、第1段階反応終了後、モル比を1.4〜1.8に調整し、反応させる第2段階反応からなるフェノール樹脂接着剤100重量部に、イソシアネート化合物5〜20重量部と、ポリフェノール分70%以上のタンニンを3〜15重量部添加して得られたフェノール樹脂接着剤組成物が提案されている。
【0005】
特許文献1、2に記載のフェノール樹脂接着剤組成物によれば、1.8mm厚の単板5枚(5ply)を、120℃、20秒/mmで加熱加圧して合板を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−254066号
【特許文献2】特開2001−279214号
【特許文献3】米国特許公報2464207号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bender,H.L.,Farnham,A.G.,Guyer,J.W.,Apel,F.N.,Gibb.T.B.:Ind.Engng.Chem.44,1619(1952)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、近年、原木として輸入されるラーチの価格高騰、さらに入手の困難性から、合板材料として国産杉の利用が考えられている。杉は含水量が高いため、従来の樹脂を用いて合板を製造する場合、絶乾状態(含水率6%以下程度)の単板を用いる必要があった。しかしながら、乾燥不足などにより単板の含水量を所定の量に低減することができず、合板製造時のプレス工程における加熱温度により単板中の水が蒸気となってパンクと呼ばれる剥離を引き起こすことがあった。また、杉は比重が小さいため、プレス工程における加熱温度が高いと、厚みの減少が顕著であった。
【0009】
上記のような特許文献1または2に記載のフェノール樹脂接着剤組成物を用いて、厚み9mm(1.8mm厚の単板を5枚)および厚み12mm(縦芯1.8mm3枚、糊芯3.5mmを2枚)程度の積層単板から合板を作成する場合、剥離は抑制される。しかしながら、厚みが15mm以上の厚物合板を作成する場合には、生産性を考慮して、130℃〜135℃程度の高温または、合板特性の安定のために長時間プレスする必要があり、依然としてプレス後の製品(合板)の厚みの減少や、剥離の発生に改良の余地があった。さらに、特許文献1または2に記載のフェノール樹脂接着剤組成物は、合板作成時において、特に、植林木や国産杉の様にホルムアルデヒド放散量が高くなる樹種を使用した場合のホルムアルデヒド放散量の低減や、さらに保存安定性において改善の余地があった。
また、杉は乾燥しにくく、含水率を低くするために、単板を製造する際に乾燥時間等が長くなるため、合板の製造コストや製造率の点に改良すべき点があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に示すことができる。
[1]テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャート上の面積比率において、1核体および2核体の含有量が6%以下であるレゾール型フェノール樹脂。
【0011】
[2]ハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールを含む[1]に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【0012】
[3]テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャート上の面積比率において、5核体以上のハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールを70%以上含む[1]または[2]に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【0013】
[4]フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて測定され、芳香環中のC=C結合に由来するピーク強度に対する、メチロール基から誘導されるC=O結合に由来するピーク強度が0.5以上、1以下である[1]乃至[3]のいずれかに記載のレゾール型フェノール樹脂。
【0014】
[5]アルカリ土類金属塩からなる触媒の存在下で、アルデヒド類をフェノール類に対するモル比で0.7以上、1.5以下となる量で反応させ、オルソメチロールフェノールを調製し、次いで、酸性条件下において前記オルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を調製し、次いで、アルカリ性触媒の存在下、前記ハイオルソノボラック型フェノール樹脂をアルデヒド類と反応させてレゾール化して得られるレゾール型フェノール樹脂。
【0015】
[6]前記アルカリ土類金属塩は、酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウムまたは酢酸亜鉛である[5]に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【0016】
[7]アルカリ土類金属塩からなる触媒の存在下で、アルデヒド類をフェノール類に対するモル比で0.7以上、1.5以下となる量で反応させ、オルソメチロールフェノールを調製する工程と、
酸性条件下において前記オルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を調製する工程と、
アルカリ性触媒の存在下、前記ハイオルソノボラック型フェノール樹脂をアルデヒド類と反応させてレゾール化する工程と、
を含むレゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【0017】
[8]前記アルカリ土類金属塩は、酸化マグネシウム、酢酸マグネシウムまたは酢酸亜鉛である[7]に記載のレゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【0018】
[9][1]乃至[6]のいずれかに記載のレゾール型フェノール樹脂を含む合板用接着剤。
【0019】
[10]少なくとも2つの木製単板が[9]に記載の合板用接着剤を介して接着されている合板。
【0020】
[11]前記木製単板を、前記合板用接着剤を介して接着する際の加熱条件が、20秒/mm以上、30秒/mm以下、110℃以上、125℃以下である[10]に記載の合板。
【0021】
[12]前記木製単板の含水率が、10重量%以上、20重量%以下である[10]または[11]に記載の合板。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、低温接着性に優れているので、120℃程度の低温でのプレス工程により厚みが15mm以上の厚物合板を製造することができる。これにより、高温での長時間プレスにより合板を生産する場合に比べて、単板の歩減りが小さくなるので、使用する単板の厚さをより薄く設定することができる。そのため、原木から得られる単板の取得率を向上させることができる。さらに、プレス工程における厚みの減少を抑制することができ、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0023】
また、単板が絶乾状態でなくても合板を作成することができるので、単板の含水率を10重量%〜20重量%程度に設定することができる。そのため、単板の乾燥時間等を短縮することができ、さらに単板含水10重量%〜20重量%の単板を絶乾状態とすると、300mm当たり10mm程度収縮するため、幅方向の単板の取得率が3%程度向上する。したがって、合板の製造コストや製造効率を改善するとともに、合板の生産性を向上させることができる。また本発明のレゾール型フェノール樹脂は、ホルムアルデヒド放散量が低減され、さらに保存安定性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1により得られるレゾール型フェノール樹脂と比較例1により得られるフェノール樹脂のGPC測定の結果を示すチャートである。
【図2】実施例2により得られるレゾール型フェノール樹脂と比較例1により得られるフェノール樹脂のGPC測定の結果を示すチャートである。
【図3】実施例1により得られるレゾール型フェノール樹脂と比較例1により得られるフェノール樹脂のFT−IR測定の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体的に説明する。
<レゾール型フェノール樹脂>
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、ポリマー成分と、1核体および2核体とを含んでなり、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャート上の面積比率において、1核体および2核体を6%以下の量で含む。
【0026】
本発明において、レゾール型フェノール樹脂は、分子量が1000を越えるポリマー成分と、4核体から分子量1000以下であるオリゴマー成分、モノマーであるフェノール類から誘導される1核体〜3核体等とを含む。1核体は、モノマーであるフェノール類、メチロール基を少なくとも1つ以上有するメチロール基含有フェノール類等を含む。2核体としては1核体が2つ結合した化合物、3核体としては1核体が3つ結合した化合物を挙げることができる。
【0027】
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、1核体および2核体を6%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下の量で含む。なお、冷熱時における速硬化(乾燥性)の抑制および接着性付与の観点から、下限値は0.1%とすることができる。
【0028】
本発明のレゾール型フェノール樹脂に含まれるポリマー成分は、ハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールからなることが好ましい。ハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールは、数平均分子量1700以上、2000以下である。
また、フェノールのOH基に対するメチレン基の結合位置を示すオルソ結合とパラ結合とのメチレン基数の比(O/P結合比)が0.3〜1.0の範囲である。メチレン基数の比は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて測定され、パラ位に置換したC−H結合に由来するピーク強度(1)、オルト位に置換したC−H結合に由来するピーク強度(2)に基づき、式:(2)/((1)×1.3)により算出される。
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、5核体以上のハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールを70%以上、好ましくは80%以上含む。5核体以上の高分子量成分の含有量は、THF可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャートの面積から算出することができる。
【0029】
このようなレゾール型フェノール樹脂は、低温接着性により優れているので、120℃程度の低温でのプレス工程により厚みが15mm以上の厚物合板を製造することができる。
【0030】
さらに、低温での加熱により接着性を付与することができるので、プレス工程における厚みの減少を抑制することができ、製品の歩留まりを向上させることができる。また、単板が絶乾状態でなくても合板を作成することができるので、単板の乾燥時間等を短縮することができ、さらに長さ方向および幅方向の収縮を抑制することができる。これにより、合板の製造コストや製造効率を改善するとともに、合板の生産性を向上させることができる。
【0031】
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて測定された、芳香環中のC=C結合に由来するピーク強度aに対する、メチロール基から誘導されるC=O結合に由来するピーク強度bの比b/aが0.5以上、1以下、好ましくは0.6以上、1以下である。
【0032】
このように、メチロール基が従来のフェノール樹脂と比較して少ないので、保存安定性に優れるとともに、メチロール分解によるホルマリンの放散が抑制される。
【0033】
<レゾール型フェノール樹脂の製造方法>
本発明のレゾール型フェノール樹脂の製造方法は、以下の工程を含む。
(a)アルカリ土類金属塩からなる触媒の存在下で、アルデヒド類をフェノール類に対するモル比で0.7以上、1.5以下となる量で反応させ、オルソメチロールフェノールを得る工程
(b)酸性条件下においてオルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を得る工程
(c)アルカリ性触媒の存在下、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂をアルデヒド類と反応させてレゾール化する工程
以下、工程順に説明する。
【0034】
(工程(a))
工程(a)においては、アルカリ土類金属塩からなる触媒の存在下で、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを、以下の反応モル比(F/P)で反応させてオルソメチロールフェノールを得る。
反応モル比(F/P)は0.7以上、1.5以下、好ましくは0.9以上、1.2以下である。
【0035】
従来のフェノール樹脂接着組成物においては、反応を促進させてノボラック型フェノール樹脂を得る観点から、反応モル比(F/P)2〜3程度で反応を行い、そしてアルカリ条件下でレゾール化を行っていた。しかしながら、本発明者が鋭意検討した ところ、上記の反応モル比(F/P)の範囲でフェノール類とアルデヒド類と反応させてオルソメチロールフェノールを得、そしてオルソメチロールフェノールの初期縮合物を得た後にレゾール化を行ったところ、1核体および2核体の含有量を制御性よく低減できることを見出した。そして、この方法により得られたレゾール型フェノール樹脂からなる接着剤は、低温接着性に優れ、上記の効果を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0036】
アルカリ土類金属塩としては、酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウムまたは酢酸亜鉛等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。これらのアルカリ土類金属塩を触媒として用いることにより、フェノール類のオルト位にメチロール基を有するハイオルソ構造を導入することができる。中性域で反応させた方が、モノマー成分およびダイマー成分の含有量に対する制御性に優れるため、アルカリ土類金属塩として酸化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0037】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
フェノール類としては、フェノール、
o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、
2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、
o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、
フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、
p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および
1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、
レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0039】
具体的には、まず、水、アルカリ土類金属塩、フェノール類およびアルデヒド類を加え、88℃以上、還流条件以下の温度範囲で、10分以上、60分間以下撹拌下で反応させる。なお、反応時の溶液のpHは6以上8以下である。
アルカリ土類金属塩からなる触媒は、溶解性の観点からフェノールに対するモル比(アルカリ土類金属塩/フェノールモル比)で0.001以上、0.0025以下で用いる。
【0040】
(工程(b))
次いで、工程(a)で得られた溶液を酸性とし、オルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を得る。
溶液を酸性にするには、酢酸、蟻酸、サリチル酸等が用いられる。これらの酸は比較的pHの高い酸であり、pHの低いシュウ酸等は縮合反応が急激に進むのに対し、反応の制御性に優れるため好ましい。pHは4以上6以下の酸性とし、88℃以上、還流条件以下の温度範囲で、10分以上、120分間撹拌する。これにより、オルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。
【0041】
(工程(c))
工程(c)においては、アルカリ性触媒の存在下、工程(b)で得られた初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂をアルデヒド類と反応させてレゾール化する。
触媒としては、通常水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基触媒が使用される。
【0042】
触媒として水酸化ナトリウムを使用する場合、その触媒量は、水溶性を良好とするため、水酸化ナトリウムとフェノールとのモル比(以下、水酸化ナトリウム/フェノールモル比という)は0.1以上が望ましく、さらに上限値としては0.8以下が望ましい。このモル比が0.1未満ではフェノール樹脂の硬化が遅くなり、0.8を超えると接着剤層の耐水性が低下するようになる。この観点から上記範囲で触媒量を決定することができる。フェノール類とアルデヒド類を反応させるときの反応条件としては、特に限定されるものではないが、通常還流下もしくは75℃以上の温度で所定の粘度になるまで縮合反応させるのが好ましい。
【0043】
工程(c)の終点としては、B型粘度計で測定した25℃における粘度は樹脂固形分が40%の場合に200mPa以上、450mPa以下であることが好ましい。樹脂固形分が40%である溶液の粘度が200mPa未満となる場合、フリーフェノールの縮合が不十分であり、450mPaを超えると低分子量のメチロールフェノールの含有量が0.1重量%を下回るために速硬化性が付与されない。上記の粘度まで反応を継続することにより、THF可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャートにおいて、1核体および2核体の含有量が6%以下であるレゾール型フェノール樹脂を得ることができる。
【0044】
<合板用接着剤>
本発明の合板用接着剤は、上記のレゾール型フェノール樹脂を含む。
レゾール型フェノール樹脂に、水、小麦粉、炭酸カルシウムなどの充填剤、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの硬化助剤、ポリフェノール成分70%以上のタンニンなどを配合することにより糊液(合板用接着剤)が調製される。
【0045】
<合板>
本発明の合板は、少なくとも2つの木製単板の間に上記の合板用接着剤を塗布し、次いで最外層に位置する前記単板を面方向に加熱加圧して得られる。
【0046】
本発明の合板用接着剤は、レゾール型フェノール樹脂を含むため低温接着性に優れているので、120℃程度の低温でのプレス工程により厚みが15mm以上の厚物合板を製造することができる。具体的には、加熱時間20秒/mm以上、30秒/mm以下の条件において、熱盤設定温度110℃以上、125℃以下にて、厚みが15mm〜28mm程度の厚物合板を製造することができる。
【0047】
さらに、本発明のレゾール型フェノール樹脂を含む合板用接着剤は、上記の温度範囲で接着性を付与することが可能なので、高温でのプレス工程における厚み減りが抑制されており、製品の歩留まりが向上する。
【0048】
また、本発明のレゾール型フェノール樹脂を含む合板用接着剤は、木製単板の含水率が、10重量%以上、20重量%以下であっても合板の製造に用いることができる。このように、単板が絶乾状態でなくても合板を作成することができるので、単板の乾燥時間等を短縮することができ、さらに乾燥による幅方向の収縮を抑制し、単板の取得率を3%程度向上させることができる。これにより、合板の製造コストや製造効率を改善するとともに、合板の生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例に基づき説明する。
[実施例1]
フェノール94重量部、43%ホルマリン76.7重量部(F/Pモル比:1.09)を水100重量部に添加し、さらに酸化マグネシウム0.08重量部を添加した後、90℃にてpH6.5〜7.5の範囲で50分間反応させた。そして、酢酸を加えて溶液のpH4.5〜6の範囲でさらに90分間反応させてノボラックフェノールの低縮合物を製造した。そして、溶液を50℃に冷却した後、43%ホルマリン87.3重量部、30%苛性ソーダ30重量部を加え、90℃に昇温し、B型粘度計による25℃での反応液の粘度が350mPa・sになるまで反応させた。そして、反応液を冷却しながら30%苛性ソーダを62.5重量部加え、さらに反応温度70〜80℃にて、25℃にて反応液の粘度が370mPa・sとなるまで反応させ、レゾール型フェノール樹脂を得た。さらに、水を10重量部、尿素を5重量部加えた。
【0050】
[実施例2]
ノボラックフェノールを製造する工程及び、反応液の粘度が350mPa・sとなるまでの工程は実施例1と同様に行った。そして、溶液を50℃に冷却した後、43%ホルマリン87.3重量部、30%苛性ソーダ30重量部加え、90℃に昇温し、B型粘度計による粘度が250mPa・sになるまで反応させた。その後、反応液を冷却しながら、30%苛性ソーダを62.5重量部加え、さらに反応温度70〜80℃にて、25℃にて反応液の粘度が250mPa・sになるまで反応させ、レゾール型フェノール樹脂を得た。更に、水を10重量部、尿素を5重量部加えた。
【0051】
[比較例1]
フェノール94.1重量部と37%ホルマリン210.8重量部(F/Pモル比:2.6)及び30%水酸化ナトリウム水溶液を47重量部(水酸化ナトリウム/フェノールのモル比:0.35)仕込み、還流条件下で、ゲル浸透クロマトグラフィーによる4核体以上のフェノール樹脂成分が70%となるまで反応させた。70℃まで冷却後、フェノール94.1重量部、37%ホルマリン81.1重量部(F/Pモル比:1.8、1次P/2次Pモル比:1.0)及び30%水酸化ナトリウム水溶液47重量部(水酸化ナトリウム/フェノール比:0.35)仕込み、85℃にて樹脂中の遊離フェノールが3%になるまで反応させた。冷却後、水の添加によりフェノール樹脂のB型粘度計による25℃での粘度を約2.0ポイズとなるように調整し、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求めた4核体以上のフェノール樹脂成分を61%、モノメチロールフェノール成分を6%含有するレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0052】
実施例1および比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂のテトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャートを図1、実施例2および比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂のTHF可溶分のGPCチャートを図2に併せて示す。GPCチャート上の面積比率において、実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂は、1核体(フェノール、モノメチロールフェノール、ジメチロールフェノール)および2核体の低分子量成分の含有量が2.0%であった。5核体以上のハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールは、リテンションタイム18〜27のピークから、75%であった。
【0053】
実施例2で得られたレゾール型フェノール樹脂は、1核体(フェノール、モノメチロールフェノール、ジメチロールフェノール)および2核体の低分子量成分の含有量が5.5%以下であった。比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂は、6.5%であった。5核体以上のハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールは、リテンションタイム18〜27のピークから、70%であった。GPC測定条件を以下に示す。
【0054】
装置 :HLC−8120(東ソー株式会社製)
検出器:RI
カラム:TSK−GEL G1000H(東ソー株式会社製)の1連およびTSK−GEL G2000H(東ソー株式会社製)の2連
温度 :40℃
溶媒 :THF
流速 :1.0ml/分
試料 :濃度1重量%の試料を50μl注入
【0055】
実施例1および比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂(尿素添加前)のFT−IRチャートを図3に示す。FT−IR測定は、(製品番号AVATAR:320、Nicolet社製)を用いて行った。実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂は、芳香環中のC=C結合に由来するピーク強度に対する、メチロール基から誘導されるC=O結合に由来するピーク強度が0.764であった。また、比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂は、ピーク強度が1.14であり、実施例1のレゾール型フェノール樹脂のメチロール結合量は、比較例1のレゾール型フェノール樹脂のメチロール結合量の70%程度に低減されていることが確認された。
また、実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂は、パラ位に置換したC−H結合に由来するピーク強度(1)、オルト位に置換したC−H結合に由来するピーク強度(2)に基づき、式:(2)/((1)×1.3)で表されるオルソ/パラ比が0.58であった。比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂のオルソ/パラ比は、0.57であり、オルソ/パラ比は同等であった。
【0056】
実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂100重量部、水11重量部、小麦粉12重量部、炭酸カルシウム17重量部を混合してレゾール型フェノール樹脂組成物を調製し、この組成物の保存安定性を確認した。保存安定性試験は30℃の恒温槽内に保管し、所定の日数経過後に取り出してB型粘度計で粘度を測定した。結果を表1に示す。また、比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂100重量部、水11重量部、小麦粉14重量部、炭酸カルシウム17重量部を混合してレゾール型フェノール樹脂組成物を調製し、この組成物の保存安定性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例3]
実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂を用い、表2の組成にて、粘度(B型粘度計、25℃)を15ポイズに調整された糊液(合板用接着剤)を得た。
【0059】
[比較例2]
比較例1で得られたレゾール型フェノール樹脂を用い、表2の組成にて粘度(B型粘度計、25℃)を15ポイズに調整された糊液(合板用接着剤)を得た。
【0060】
実施例3及び比較例2により得られた糊液を使用し、単板は、2.3mm、3.1mm厚の北洋ラーチ材を使用し、3.1mm厚のラーチ材を糊板とした。原板は絶乾状態(含水率4%以下)とし、糊板も絶乾状態とし、5plyにて合板を作製した。成形条件は、以下のように実施した。
【0061】
・糊液塗工量:32g/尺角、
・冷圧条件:体積時間15分、冷圧時間30分、圧締圧力1mPa
・熱圧条件:熱盤設定温度125℃、熱圧時間3分30秒(16秒/mm)、熱圧時間3分55秒(17.9秒/mm)
得られた合板の仮接着性、ホルムアルデヒド放散量、常態接着性を測定し、スチーミング繰り返し試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0062】
接着強度の測定方法はJIS記載の試験法(JIS K6802 木材引張せん断接着強さ)、ホルムアルデヒド放散量の測定方法は、JAS記載の試験法(ホルムアルデヒド放散量試験)に準じて測定した。スチーミング繰り返し試験は、JAS木材編記載の試験法に準拠して行った。常態接着性は、300mm角の糊板3.5mm(北洋ラーチ)の木表側に、表2の組成で調製された糊液18gを塗布し、更に300mm角の原板1.8mmを木表側を直交にあわせ、5分間冷圧締した。その後、1.8mmの原板をバネ秤にてピール強度(N/mm)を測定することにより数値化した。
【0063】
【表2】

【0064】
また、実施例3及び比較例2により得られた糊液を使用し、単板は、2.3mm、3.1mm厚の杉材を使用し、3.1mm厚の杉材を糊板とした。糊板は含水率15%、20%とし、糊板以外の単板は絶乾状態(含水率6%以下)とした。冷圧締後木口からの水分の蒸発を最小限に抑えるために木口を耐熱テープでシールし、熱圧締することにより、5plyにて合板を作製した。成形条件は、熱圧温度を115℃、120℃、125℃とし、熱圧時間は25秒/mmとした以外は、上記と同様に実施した。成形性、接着性、ホルムアルデヒド放散量(F放散量)を以下の方法により評価した。結果を表3に示す。
【0065】
・成形性
目視により観察し、以下の基準にて判断した。
○:良好、×:パンクにより剥離
・接着性
JAS規格の特類合板のスチーミング繰り返しに従って、以下の基準にて判断した。
○:特類の接着の程度を満たす
△:剥離の発生はないが特類の接着の程度を満たさない
×:剥離サンプルが認められる
・ホルムアルデヒド放散量
JAS規格のホルムアルデヒド放散量試験方法により測定し、以下の基準にて判断した。
◎:0.15mg/L以下
○:0.15mg/Lを超え、0.3mg/L以下
△:0.3mg/Lを超え、0.4mg/L以下
×:0.4mg/Lを超える
【0066】
【表3】

【0067】
なお、実施例2のレゾール型フェノール樹脂を含む糊液(合板用接着剤)においても、実施例3の糊液と同等の結果が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャート上の面積比率において、1核体および2核体の含有量が6%以下であるレゾール型フェノール樹脂。
【請求項2】
ハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールを含む請求項1に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【請求項3】
テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャート上の面積比率において、5核体以上のハイオルソノボラック型フェノール樹脂のレゾールを70%以上含む請求項1または2に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【請求項4】
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて測定され、芳香環中のC=C結合に由来するピーク強度に対する、メチロール基から誘導されるC=O結合に由来するピーク強度が0.5以上、1以下である請求項1乃至3のいずれかに記載のレゾール型フェノール樹脂。
【請求項5】
アルカリ土類金属塩からなる触媒の存在下で、アルデヒド類をフェノール類に対するモル比で0.7以上、1.5以下となる量で反応させ、オルソメチロールフェノールを調製し、次いで、酸性条件下において前記オルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を調製し、次いで、アルカリ性触媒の存在下、前記ハイオルソノボラック型フェノール樹脂をアルデヒド類と反応させてレゾール化して得られるレゾール型フェノール樹脂。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属塩は、酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化カルシウムまたは酢酸亜鉛である請求項5に記載のレゾール型フェノール樹脂。
【請求項7】
アルカリ土類金属塩からなる触媒の存在下で、アルデヒド類をフェノール類に対するモル比で0.7以上、1.5以下となる量で反応させ、オルソメチロールフェノールを調製する工程と、
酸性条件下において前記オルソメチロールフェノールを縮合させて、初期縮合物であるハイオルソノボラック型フェノール樹脂を調製する工程と、
アルカリ性触媒の存在下、前記ハイオルソノボラック型フェノール樹脂をアルデヒド類と反応させてレゾール化する工程と、
を含むレゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ土類金属塩は、酸化マグネシウム、酢酸マグネシウムまたは酢酸亜鉛である請求項7に記載のレゾール型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載のレゾール型フェノール樹脂を含む合板用接着剤。
【請求項10】
少なくとも2つの木製単板が請求項9に記載の合板用接着剤を介して接着されている合板。
【請求項11】
前記木製単板を、前記合板用接着剤を介して接着する際の加熱条件が、20秒/mm以上、30秒/mm以下、110℃以上、125℃以下である請求項10に記載の合板。
【請求項12】
前記木製単板の含水率が、10重量%以上、20重量%以下である請求項10または11に記載の合板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−1402(P2011−1402A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143508(P2009−143508)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(503299789)株式会社サンベーク (5)
【Fターム(参考)】