レンズアンテナ装置
【課題】安価でしかも高感度な受信を実現することが可能なレンズアンテナ装置を提供する。
【解決手段】電波ビームを集束する単一の球体レンズを略2等分した半球レンズ55を電波反射板54上に載置してなる半球型レンズアンテナ5と、半球型レンズアンテナ5の向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板54に対する反射角を調整可能な角度調整手段と、半球レンズ55により集束された電波ビームを受信するアンテナ素子6とを備え、アンテナ素子6は、誘電体挿入物63が挿入されたホーンアンテナ61からなることを特徴とする。
【解決手段】電波ビームを集束する単一の球体レンズを略2等分した半球レンズ55を電波反射板54上に載置してなる半球型レンズアンテナ5と、半球型レンズアンテナ5の向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板54に対する反射角を調整可能な角度調整手段と、半球レンズ55により集束された電波ビームを受信するアンテナ素子6とを備え、アンテナ素子6は、誘電体挿入物63が挿入されたホーンアンテナ61からなることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶や飛行機等の移動体に搭載して、人工衛星や地上局からの電波を受信する移動体通信用のレンズアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電波ビームを集束可能な球体レンズを利用して、球体レンズの半球面上の所定位置にアンテナ素子を配置し、球体レンズの中心方向にアンテナ素子の指向性を合わせることにより、所定方向に電波ビームを形成するレンズアンテナ装置が提案されている。このレンズアンテナ装置は、アンテナ素子の位置を球体レンズの球面上を任意に移動させるだけで、電波ビームを好みの方向へ指向させることができる。
【0003】
図8は、一般的なルーネベルグ半球レンズを用いたレンズアンテナ装置100の概略を示している。このレンズアンテナ装置100は、電波ビームを集束する半球レンズ101と、半球レンズ101の2分断面に取り付けられ、半球レンズ101内に入射される電波を反射する電波反射板102と、電波を送受信するためのアンテナ素子103とを備えている。
【0004】
このようなレンズアンテナ装置100により、電波を受信する際において、到来してきた電波Pは、この半球レンズ101によりその進行方向が折り曲げられて電波反射板102へ到達する。そして、この電波Pは電波反射板102により反射されてアンテナ素子103に集束されることになる。電波Pの方向が変化した場合においても、かかる電波Pの集束位置にアンテナ素子103を合わせることにより、これを受信することが可能となる。
【0005】
従って、このレンズアンテナ装置100は、パラボラアンテナ装置等のように、電波の到来方向が変わるたびにアンテナ全体を回転駆動させる必要が無くなり、駆動系を小型化できるという利点がある。
【0006】
従来のレンズアンテナ装置としては、例えば特許文献1に示すように、半球レンズの周面に沿って平行に架設されるガイドレールを設け、放射器をこのガイドレール上で任意の位置に自走させることにより、電波ビームの集束位置を捉える技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1の開示技術では、同心の球面に誘電率の異なる誘電体を積層させた半球レンズを使用することを前提としている。このため、半球レンズの製造期間が長期化し、またその製造コストが上昇してしまうという問題点があった。また、この特許文献1の開示技術では、上述のようなガイドレールや自走手段を配設する必要があることから、電力の消費量が過大になるという問題点もあった。また、この特許文献1の開示技術では、入射された電波が、多層で構成された半球レンズを通過する過程で、大きく減衰してしまうという問題点があった。即ち、この特許文献1の開示技術では、半球レンズに入射された電波が電波反射板を反射して放射器を介して捕捉されるまでの過程で、より高感度な受信を実現することができないという問題点があった。
【0008】
ちなみに、この電波ビームの集束位置を放射器としてのアンテナ素子により捉えるためには、放射器の位置を調整することに加え、例えば特許文献2、3に示すように半球型レンズアンテナの向きを機械的に制御する方法も提案されている。しかしながら、この特許文献2、3に示す開示技術は、感度な受信に注力した技術ではなく、また半球型レンズアンテナの向きの制御を、放射器の位置調整と併用して行わなければならず、結局のところ電力の消費量の低減を図ることができないという問題点があった。
【0009】
特許文献4では、上述した特許文献1の構成に加えて、更にアンテナ部に傾斜センサを取り付け、アンテナの水平度が規定範囲から外れた場合に全ての制御を停止させることが可能なレンズアンテナ装置が提案されている。このレンズアンテナ装置では、アンテナが傾いたときに、放射器の位置が電波の焦点から一時的にずれ、受信が不安定になるのを防止することが可能となる。しかしながら、この特許文献4の開示技術も特許文献1と同様に、ガイドレールや自走手段を配設する必要があることから、電力の消費量が過大になるという問題点を解決することができなかった。
【0010】
また、特許文献5に開示されているレンズアンテナ装置は、電波反射板上に載置された半球レンズの向きを機械的に調整する機構が設けられている。この特許文献5の開示技術では、上述のようなガイドレールや自走手段を配設する必要も無くなり、システム全体を安価に構成することが可能となり、ひいてはRF損失を低減させ、システムの寿命を延ばすことが可能となる。
【0011】
しかしながら、この特許文献5の開示技術では、半球レンズとして、互いに誘電率の異なる多層で構成されたルーネベルグレンズを使用する必要があることから、製造コストが増加してしまうという問題点がある。この特許文献5の開示技術において、製造コストを下げる観点から、仮に単一の半球レンズを使用すると、利得が低くなり、より高感度な受信を実現することができないという問題点が出てくる。
【0012】
また、この半球レンズ以外に、アンテナ素子自体の改良も進んできている。例えば特許文献6に開示のアンテナでは、ホーンアンテナの開口の内部に浮かせて取り付けられた誘電体からなる、少なくとも一つの挿入物を備える。このような挿入物を備えることにより、E−平面とH−平面の放射パターンを均一に構成することが可能となる。
【0013】
しかしながら、この挿入物は、開口中心に対して回転対称とならない。このため、高い軸比でしかも偏波損失を起こすことなく、偏波利用可能なアンテナとして構成することが困難になるという問題点があった。
【0014】
また、この特許文献6に示すアンテナ素子を製造するためには、特別な製造技術が必要となり、製造コストが高価になるという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−005951号公報
【特許文献2】米国特許7212169号
【特許文献3】特開2005−167402号公報
【特許文献4】特開2007−006266号公報
【特許文献5】米国特許3848255号
【特許文献6】特開2005−137010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、安価でしかも高感度な受信を実現することが可能なレンズアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上述した課題を解決するために、一層からなる半球レンズを電波反射板上に載置し、レンズアンテナの向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板に対する反射角を調整可能とし、更に、半球レンズにより集束された電波ビームを受信する誘電体挿入物が挿入されたホーンアンテナを備えるレンズアンテナ装置である。
【0018】
即ち、本願請求項1記載のレンズアンテナ装置は、電波ビームを集束する単一の球体レンズを略2等分した半球レンズを電波反射板上に載置してなる半球型レンズアンテナと、上記半球型レンズアンテナの向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板に対する反射角を調整可能な角度調整手段と、上記半球レンズにより集束された電波ビームを受信するアンテナ素子とを備え、上記アンテナ素子は、誘電体挿入物が挿入されたホーンアンテナからなることを特徴とする。
【0019】
本願請求項2記載のレンズアンテナ装置は、請求項1記載の発明において、上記電波反射板は、上記半球レンズの断面よりも径大の円盤形状であることを特徴とする。
【0020】
本願請求項3記載のレンズアンテナ装置は、請求項1記載の発明において、上記半球レンズにおける断面と上記電波反射板の間には、板状レンズが介装されていることを特徴とする。
【0021】
本願請求項4記載のレンズアンテナ装置は、請求項1記載の発明において、上記半球レンズは、その断面周縁を外側に突出させた突出部を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上述した構成からなる本発明では、半球レンズとして、単一の球体レンズを略2等分したものとして構成しており、互いに誘電率の異なる誘電体を多層に亘り積層させた場合と比較して電波の減衰を減少させることが可能となり、より高感度な受信を実現することができ、更にはレンズの作製コストを抑えることが可能となる。また、特にこの半球レンズを一層で構成することにより形成される葉巻形のフォーカス分布も、上述の如き形態でホーンアンテナに挿入された誘電体挿入物により捕捉することができ、利得の低下を抑えることが可能となる。
【0023】
また、本発明を適用したレンズアンテナ装置では、放射器の位置調整手段を特段設ける必要もなくなり、電力の消費量を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るレンズアンテナ装置が適用される移動体通信システムの例を示す図である。
【図2】移動体に設けられたレンズアンテナ装置の構成を示す図である。
【図3】レンズアンテナ装置の詳細な構成について説明するための図である。
【図4】アンテナ素子の構成について説明するための図である。
【図5】レンズアンテナ装置に適用される半球型レンズアンテナの各構成例を示す図である。
【図6】図5に示す各サンプルに対して放射指向性パターンをシミュレートした結果を示す図である。
【図7】本発明と従来技術について放射指向性パターンをシミュレートした結果を示す図である。
【図8】一般的なルーネベルグ半球レンズを用いたレンズアンテナ装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、人工衛星や地上局からの電波を受信する移動体通信用のレンズアンテナ装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係るレンズアンテナ装置1が適用される移動体通信システム2の例を示している。この移動体通信システム2は、飛行機等の移動体3と、地上に設置された地上局50との間で移動体通信を実現するものである。移動体3の例としては、飛行機以外に船舶や車両、人工衛星、ヘリコプター等を適用してもよい。また、この移動体3は、あくまで地上局50との間のみで通信を行う場合に限定されるものではなく、移動体3同士で通信を行うものであってもよい。この移動体3は、地上局50又は他の移動体3と通信する際において、移動体3の一部に設けられたレンズアンテナ装置4を介して電波を送受信することになる。
【0027】
図2(a)は、移動体3内に設けられたレンズアンテナ装置4を示している。このレンズアンテナ装置4は、移動体3に対して保持具8を介して取り付けられた半球型レンズアンテナ5と、半球型レンズアンテナ5により集束された電波ビームを受信するアンテナ素子6と、このアンテナ素子6に接続された通信部7とを備えている。図2(b)は、移動体3外に設けられ、レドーム9によって風圧から保護されるレンズアンテナ装置4を示している。
【0028】
半球型レンズアンテナ5は、例えば図3に示すように、アンテナ素子6の中心軸と一致するy軸に向けて長手方向が延長されている保持具8に取り付けられたアーム51と、アーム51の先端に回転自在に取り付けられた電波反射板54と、電波反射板54上に設置された半球レンズ55とを備えている。
【0029】
アーム51は、アーチ形状からなり、その中央部は、回転駆動機構52を介して保持具8に取り付けられている。回転駆動機構52は、図示しないモータ、ギア等で構成され、アーム51をy軸中心として任意に回転可能としている。アーム51の先端には、回転駆動機構53を介して電波反射板54が取り付けられている。この回転駆動機構53も、図示しないモータ、ギア等で構成され、図中x軸中心として任意角度に回転可能とされている。ちなみに、この回転駆動機構52、53を組み合わせることにより、電波反射板54ひいてはこれに載置されている半球レンズ55の向きを機械的に調整することが可能となる。
【0030】
電波反射板54は、半球レンズ55の断面よりも径大の円盤形状からなる。その理由として、受信すべき電波が半球レンズ55にいかなる角度で入射された場合においても、これを確実に捕捉するためである。実際にこの電波反射板54のサイズは、利得とサイドロープを含む要求されるアンテナ特性の許容範囲から決定されることになる。
【0031】
電波反射板54に載置された半球レンズ55は、電波ビームを集束可能な単一の球体レンズを略2等分したものである。即ち、この半球レンズ55は、同心の球面に誘電率の異なる誘電体を積層して構成したものではなく、あくまで単一の誘電体を1層に亘って構成したものである。このような1層からなる半球レンズ55に入射された電波は、図3に示す分布59に示すように、ポイントフォーカスではなく、葉巻形にフォーカスされることになる。分布59は、実際のアンテナにおける誘電体挿入物63に一致すべきであり、ここでは、明確にするためにあえて分離して示している。
【0032】
アンテナ素子6は、図4に示すようにホーンアンテナ61と、ホーンアンテナ61における開口62に挿入された誘電体挿入物63とを備えている。ちなみに、この誘電体挿入物63は、円盤状のレドーム64を介してこの開口62内のほぼ中心位置において固定されている。
【0033】
ホーンアンテナ61は、金属又は導電材料から構成され、その内面が軸yを中心とした円錐形状となるように構成されている。また、このホーンアンテナ61は開口62において最も拡径された形状とされ、基端部66に進むにつれて徐々に縮径化されることになる。また、このホーンアンテナ61は、基端部66が導波管67に接続されてなる。
【0034】
誘電体挿入物63は、楕円体形状で構成されてなり、低い誘電損失からなる誘電率が1以上の材料で構成される。なお、この誘電体挿入物63の形状は、楕円体に限定されるものではなく、直方体形状で構成されていてもよいし、長手方向に延長されている形状であればいかなるものであってもよい。但し、この誘電体挿入物63の長手方向は、ホーンアンテナ61の開口62から基端部66に配向するようにして固定されている必要がある。
【0035】
レドーム64は、ホーンアンテナ61の開口62を閉塞するようにして接合されている。このレドーム64は、電波透過性を有するとともに熱伝導率の低い、樹脂等の材料で構成されている。
【0036】
なお、レンズアンテナ装置4は、例えば図2(b)に示すように、保持具8、半球型レンズアンテナ5、アンテナ素子6をレドーム9により覆うようにしてもよい。このレドーム9を構成する材料は、レドーム64と同様である。
【0037】
通信部7は、このアンテナ素子6からの出力信号が供給され、これを高周波増幅するとともに、低域周波数の信号へ周波数変換等を行う。
【0038】
上記構成からなるレンズアンテナ装置4では、地上局50又は他の移動体3から送信されてきた電波は、半球レンズ55の表面から入射される。このとき、球体レンズであれば電波はレンズ内で集束することになるが、本実施形態では、球体レンズを2等分した半球レンズ55を使用し、これを電波反射板54上に載置している。このため、半球レンズ55により集束される電波は電波反射板54により、半球レンズ55の断面で反射される。このため、半球レンズ55への入射電波は、球体レンズの場合とは面対称の経路をとる。この半球レンズ55により形成される上述した分布59からなる葉巻形のフォーカスにアンテナ素子6を配置することにより、この電波を受信することができる。また、この状態でアンテナ素子6から電波を送信することにより、地上局50や他の移動体3に対して電波を送信することが可能となる。このアンテナ素子6から電波を送信する際において、電波は半球レンズ55内において上述した経路と逆方向になる。
【0039】
なお本発明を適用したレンズアンテナ装置4では、アーム51をy軸、x軸を中心として任意に回転させることにより、電波反射板54ひいてはこれに載置されている半球レンズ55の向きを任意に調整することが可能となる。このため、半球型レンズアンテナ5の向きを調整することにより、葉巻形のフォーカス位置を任意の位置へ制御することが可能となる。本発明ではこれを利用し、電波の到来方向がいかなる場合においても、その焦点がアンテナ素子6に位置するように、半球型レンズアンテナ5の向きを調整する。例えば図2に示すように、電波の到来方向が、実線で示される方向から、点線で示される方向へと変化する場合においても、半球型レンズアンテナ5の向きを機械的に制御することより、その焦点位置をアンテナ素子6側へと確実に導くことが可能となる。送信されてくる電波の方向が常に変化する移動体通信システム2において、上述した機能を実現できる本発明は特に有用となる。
【0040】
なお、本発明を適用したレンズアンテナ装置4は、上述した実施の形態に限定されるものではない。図5(a)〜(d)は、レンズアンテナ装置4に適用される半球型レンズアンテナ5の各構成例を示している。
【0041】
図5(a)は、半球レンズ55について、その断面周縁を外側に突出させた突出部71を更に設けた例を示している。この突出部71は、断面三角形状に構成されてなり、外側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されている。ちなみに、この突出部71は、半球レンズ55と一体化されていてもよいし、半球レンズ55と別々に作製してこれを事後的に接合するようにしてもよい。また、この突出部71の断面形状は、断面三角形状に限定されるものではなく、いかなる形状であってもよい。
【0042】
なお、この図5(a)の点線は、半球レンズ55について、球体レンズを略2等分した断面に相当する。即ち、この半球レンズ55は、突出部71の高さ分に応じて厚みを増加させているが、これで限定されるものではなく、いかなる厚みで構成されていてもよい。また、この半球レンズ55は、突出部71の高さ分に応じて厚みを増加させることなく、球体レンズを略2等分した断面を電波反射板54に直接的に接合するものであってもよい。
【0043】
図5(b)は、半球レンズ55と、電波反射板54の間に板状レンズ72を介装させた例を示している。板状レンズ72は、球体レンズを略2等分した半球レンズ55の断面に接合されている。このため、半球レンズ55から電波反射板54に至るまでの板厚が増加した外観形状となる。ちなみに、この板状レンズ72の径は、半球レンズ55の断面とほぼ同一とされている。この板状レンズ72の代替として、半球レンズの厚みを増加させるようにしてもよい。
【0044】
図5(c)は、上述した図3において説明したものと同様に、球体レンズを略2等分した半球レンズ55と、この半球レンズ55の断面よりも径大の円盤形状からなる電波反射板54で構成した例を示している。
【0045】
図5(d)は、球体レンズを略2等分した半球レンズ55と、この半球レンズ55の断面と同一径の円盤形状からなる電波反射板54で構成した例を示している。
【0046】
なお、上述した図5(a)〜(d)では、レンズアンテナ装置4を構成するアンテナ素子6として、必ずホーンアンテナ61に誘電体挿入物63を挿入する場合を例に挙げている。これに対して、図5(e)に示す比較例では、この誘電体挿入物63の構成を省略したホーンアンテナからなるアンテナ素子81を適用し、半球型レンズアンテナとしては、上述した図5(d)と同様に、球体レンズを略2等分した半球レンズ55と、この半球レンズ55の断面と同一径の円盤形状からなる電波反射板54で構成している。
【0047】
以下、これら図5(a)〜(e)に示す構成について実際にサンプルを作製し、それぞれについて放射指向性パターンをシミュレートした結果について説明をする。以下では、図5(a)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルAとし、図5(b)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルBとし、図5(c)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルCとし、図5(d)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルDとし、図5(e)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルEとする。
【0048】
作製した各サンプルA〜Eは、半球レンズ55の直径は、5波長とした。また、半球レンズ55並びに、誘電体挿入物63の誘電率εrは1.7とした。更にサンプルAについては、突出部71の形状を断面三角形状とし、突出量並びに高さを0.35波長とし、また半球レンズ51における厚みをこの突出部71の高さ分に応じて増加させている。サンプルBについては、板状レンズ72の板厚を0.35波長とした。
【0049】
図6にこのような形状からなる各サンプルA〜Eに対して、それぞれ30GHzの円偏波を入射させ、放射指向性パターンをシミュレートした結果を示す。図6における角度0°は、ホーンアンテナ6における電波の反射点であり、角度90°は、ホーンアンテナ6のY軸に対して90°における電波の反射点である。この図6の結果から、放射パターンにおけるピーク利得が特にサンプルA、Bにおいて高くなる傾向が見られ、その次にサンプルC、Dが続く結果となった。そして、放射パターンにおけるピーク利得が最も低くなるのがサンプルEであった。従って、本発明例としてのサンプルA〜Dは、比較例としてのサンプルEよりも放射特性が優れることが分かる。
【0050】
その理由として、単一の誘電体を1層に亘って構成した半球レンズ55では、点フォーカスとならず、あくまで葉巻形のフォーカスが形成される。サンプルA〜Dによれば、誘電体挿入物63をホーンアンテナ61に挿入していることから、当該誘電体挿入物63でこの葉巻形のフォーカス分布を効果的に捕捉することが可能となる。特にこの誘電体挿入物63の長手方向は、ホーンアンテナ61の開口62から基端部66に配向するようにして固定されている。このため、形成される葉巻形のフォーカス分布を捉える上で好適となる。
【0051】
ちなみに、サンプルAとBとの間では、特に中心付近から離れた角度において、サンプルAの放射特性が優れることが分かる。またサンプルCは、サンプルDよりも全体的に放射特性が優れていることが分かる。このため、半球型レンズアンテナとして最も望ましい形状は、サンプルAの構成であり、次にサンプルB、サンプルC、サンプルDの順で続くことになる。
【0052】
このように、本発明を適用したレンズアンテナ装置1では、半球レンズ55として、単一の球体レンズを略2等分したものとして構成しており、互いに誘電率の異なる誘電体を多層に亘り積層させた場合と比較して電波の減衰を抑えることが可能となり、より高感度な受信を実現することができ、更にはレンズの作製コストを抑えることが可能となる。また、特にこの半球レンズ55を一層で構成することにより形成される葉巻形のフォーカス分布も、上述の如き形態でホーンアンテナ61に挿入された誘電体挿入物63により捕捉することができ、利得の低下を抑えることが可能となる。
【0053】
また、本発明を適用したレンズアンテナ装置1では、放射器の位置調整手段を特段設ける必要もなくなり、電力の消費量を低減させることが可能となる。
【0054】
本発明の有効性を更に論じるため、更なる形態として、直径が8波長からなり、突出部71が0.35波長の高さからなる半球レンズ55がある。図7は、その発明と、従来仕様の放射パターンをシミュレートしたピーク利得の結果を示している。従来仕様は、レンズの誘電率は2.5であり、通常のホーンアンテナで構成される。
【0055】
図7の結果に示すように、本発明は、90°において26.5dBicであり、従来仕様は、75°において26.5dBicであった。本発明におけるレンズの重量は、25グラムである。そして、従来仕様のレンズの重さは、41グラムである。本発明は、広い角度範囲において要求される26.5dBicを満たすことができ、しかも40%の重量減を実現することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 レンズアンテナ装置
2 移動体通信システム
3 移動体
4 レンズアンテナ装置
5 半球型レンズアンテナ
6 アンテナ素子
7 通信部
8 保持具
9、64 レドーム
50 地上局
51 アーム
52 回転駆動機構
53 回転駆動機構
54 電波反射板
55 半球レンズ
61 ホーンアンテナ
62 開口
63 誘電体挿入物
66 基端部
67 導波管
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶や飛行機等の移動体に搭載して、人工衛星や地上局からの電波を受信する移動体通信用のレンズアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電波ビームを集束可能な球体レンズを利用して、球体レンズの半球面上の所定位置にアンテナ素子を配置し、球体レンズの中心方向にアンテナ素子の指向性を合わせることにより、所定方向に電波ビームを形成するレンズアンテナ装置が提案されている。このレンズアンテナ装置は、アンテナ素子の位置を球体レンズの球面上を任意に移動させるだけで、電波ビームを好みの方向へ指向させることができる。
【0003】
図8は、一般的なルーネベルグ半球レンズを用いたレンズアンテナ装置100の概略を示している。このレンズアンテナ装置100は、電波ビームを集束する半球レンズ101と、半球レンズ101の2分断面に取り付けられ、半球レンズ101内に入射される電波を反射する電波反射板102と、電波を送受信するためのアンテナ素子103とを備えている。
【0004】
このようなレンズアンテナ装置100により、電波を受信する際において、到来してきた電波Pは、この半球レンズ101によりその進行方向が折り曲げられて電波反射板102へ到達する。そして、この電波Pは電波反射板102により反射されてアンテナ素子103に集束されることになる。電波Pの方向が変化した場合においても、かかる電波Pの集束位置にアンテナ素子103を合わせることにより、これを受信することが可能となる。
【0005】
従って、このレンズアンテナ装置100は、パラボラアンテナ装置等のように、電波の到来方向が変わるたびにアンテナ全体を回転駆動させる必要が無くなり、駆動系を小型化できるという利点がある。
【0006】
従来のレンズアンテナ装置としては、例えば特許文献1に示すように、半球レンズの周面に沿って平行に架設されるガイドレールを設け、放射器をこのガイドレール上で任意の位置に自走させることにより、電波ビームの集束位置を捉える技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1の開示技術では、同心の球面に誘電率の異なる誘電体を積層させた半球レンズを使用することを前提としている。このため、半球レンズの製造期間が長期化し、またその製造コストが上昇してしまうという問題点があった。また、この特許文献1の開示技術では、上述のようなガイドレールや自走手段を配設する必要があることから、電力の消費量が過大になるという問題点もあった。また、この特許文献1の開示技術では、入射された電波が、多層で構成された半球レンズを通過する過程で、大きく減衰してしまうという問題点があった。即ち、この特許文献1の開示技術では、半球レンズに入射された電波が電波反射板を反射して放射器を介して捕捉されるまでの過程で、より高感度な受信を実現することができないという問題点があった。
【0008】
ちなみに、この電波ビームの集束位置を放射器としてのアンテナ素子により捉えるためには、放射器の位置を調整することに加え、例えば特許文献2、3に示すように半球型レンズアンテナの向きを機械的に制御する方法も提案されている。しかしながら、この特許文献2、3に示す開示技術は、感度な受信に注力した技術ではなく、また半球型レンズアンテナの向きの制御を、放射器の位置調整と併用して行わなければならず、結局のところ電力の消費量の低減を図ることができないという問題点があった。
【0009】
特許文献4では、上述した特許文献1の構成に加えて、更にアンテナ部に傾斜センサを取り付け、アンテナの水平度が規定範囲から外れた場合に全ての制御を停止させることが可能なレンズアンテナ装置が提案されている。このレンズアンテナ装置では、アンテナが傾いたときに、放射器の位置が電波の焦点から一時的にずれ、受信が不安定になるのを防止することが可能となる。しかしながら、この特許文献4の開示技術も特許文献1と同様に、ガイドレールや自走手段を配設する必要があることから、電力の消費量が過大になるという問題点を解決することができなかった。
【0010】
また、特許文献5に開示されているレンズアンテナ装置は、電波反射板上に載置された半球レンズの向きを機械的に調整する機構が設けられている。この特許文献5の開示技術では、上述のようなガイドレールや自走手段を配設する必要も無くなり、システム全体を安価に構成することが可能となり、ひいてはRF損失を低減させ、システムの寿命を延ばすことが可能となる。
【0011】
しかしながら、この特許文献5の開示技術では、半球レンズとして、互いに誘電率の異なる多層で構成されたルーネベルグレンズを使用する必要があることから、製造コストが増加してしまうという問題点がある。この特許文献5の開示技術において、製造コストを下げる観点から、仮に単一の半球レンズを使用すると、利得が低くなり、より高感度な受信を実現することができないという問題点が出てくる。
【0012】
また、この半球レンズ以外に、アンテナ素子自体の改良も進んできている。例えば特許文献6に開示のアンテナでは、ホーンアンテナの開口の内部に浮かせて取り付けられた誘電体からなる、少なくとも一つの挿入物を備える。このような挿入物を備えることにより、E−平面とH−平面の放射パターンを均一に構成することが可能となる。
【0013】
しかしながら、この挿入物は、開口中心に対して回転対称とならない。このため、高い軸比でしかも偏波損失を起こすことなく、偏波利用可能なアンテナとして構成することが困難になるという問題点があった。
【0014】
また、この特許文献6に示すアンテナ素子を製造するためには、特別な製造技術が必要となり、製造コストが高価になるという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−005951号公報
【特許文献2】米国特許7212169号
【特許文献3】特開2005−167402号公報
【特許文献4】特開2007−006266号公報
【特許文献5】米国特許3848255号
【特許文献6】特開2005−137010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、安価でしかも高感度な受信を実現することが可能なレンズアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上述した課題を解決するために、一層からなる半球レンズを電波反射板上に載置し、レンズアンテナの向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板に対する反射角を調整可能とし、更に、半球レンズにより集束された電波ビームを受信する誘電体挿入物が挿入されたホーンアンテナを備えるレンズアンテナ装置である。
【0018】
即ち、本願請求項1記載のレンズアンテナ装置は、電波ビームを集束する単一の球体レンズを略2等分した半球レンズを電波反射板上に載置してなる半球型レンズアンテナと、上記半球型レンズアンテナの向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板に対する反射角を調整可能な角度調整手段と、上記半球レンズにより集束された電波ビームを受信するアンテナ素子とを備え、上記アンテナ素子は、誘電体挿入物が挿入されたホーンアンテナからなることを特徴とする。
【0019】
本願請求項2記載のレンズアンテナ装置は、請求項1記載の発明において、上記電波反射板は、上記半球レンズの断面よりも径大の円盤形状であることを特徴とする。
【0020】
本願請求項3記載のレンズアンテナ装置は、請求項1記載の発明において、上記半球レンズにおける断面と上記電波反射板の間には、板状レンズが介装されていることを特徴とする。
【0021】
本願請求項4記載のレンズアンテナ装置は、請求項1記載の発明において、上記半球レンズは、その断面周縁を外側に突出させた突出部を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上述した構成からなる本発明では、半球レンズとして、単一の球体レンズを略2等分したものとして構成しており、互いに誘電率の異なる誘電体を多層に亘り積層させた場合と比較して電波の減衰を減少させることが可能となり、より高感度な受信を実現することができ、更にはレンズの作製コストを抑えることが可能となる。また、特にこの半球レンズを一層で構成することにより形成される葉巻形のフォーカス分布も、上述の如き形態でホーンアンテナに挿入された誘電体挿入物により捕捉することができ、利得の低下を抑えることが可能となる。
【0023】
また、本発明を適用したレンズアンテナ装置では、放射器の位置調整手段を特段設ける必要もなくなり、電力の消費量を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るレンズアンテナ装置が適用される移動体通信システムの例を示す図である。
【図2】移動体に設けられたレンズアンテナ装置の構成を示す図である。
【図3】レンズアンテナ装置の詳細な構成について説明するための図である。
【図4】アンテナ素子の構成について説明するための図である。
【図5】レンズアンテナ装置に適用される半球型レンズアンテナの各構成例を示す図である。
【図6】図5に示す各サンプルに対して放射指向性パターンをシミュレートした結果を示す図である。
【図7】本発明と従来技術について放射指向性パターンをシミュレートした結果を示す図である。
【図8】一般的なルーネベルグ半球レンズを用いたレンズアンテナ装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、人工衛星や地上局からの電波を受信する移動体通信用のレンズアンテナ装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係るレンズアンテナ装置1が適用される移動体通信システム2の例を示している。この移動体通信システム2は、飛行機等の移動体3と、地上に設置された地上局50との間で移動体通信を実現するものである。移動体3の例としては、飛行機以外に船舶や車両、人工衛星、ヘリコプター等を適用してもよい。また、この移動体3は、あくまで地上局50との間のみで通信を行う場合に限定されるものではなく、移動体3同士で通信を行うものであってもよい。この移動体3は、地上局50又は他の移動体3と通信する際において、移動体3の一部に設けられたレンズアンテナ装置4を介して電波を送受信することになる。
【0027】
図2(a)は、移動体3内に設けられたレンズアンテナ装置4を示している。このレンズアンテナ装置4は、移動体3に対して保持具8を介して取り付けられた半球型レンズアンテナ5と、半球型レンズアンテナ5により集束された電波ビームを受信するアンテナ素子6と、このアンテナ素子6に接続された通信部7とを備えている。図2(b)は、移動体3外に設けられ、レドーム9によって風圧から保護されるレンズアンテナ装置4を示している。
【0028】
半球型レンズアンテナ5は、例えば図3に示すように、アンテナ素子6の中心軸と一致するy軸に向けて長手方向が延長されている保持具8に取り付けられたアーム51と、アーム51の先端に回転自在に取り付けられた電波反射板54と、電波反射板54上に設置された半球レンズ55とを備えている。
【0029】
アーム51は、アーチ形状からなり、その中央部は、回転駆動機構52を介して保持具8に取り付けられている。回転駆動機構52は、図示しないモータ、ギア等で構成され、アーム51をy軸中心として任意に回転可能としている。アーム51の先端には、回転駆動機構53を介して電波反射板54が取り付けられている。この回転駆動機構53も、図示しないモータ、ギア等で構成され、図中x軸中心として任意角度に回転可能とされている。ちなみに、この回転駆動機構52、53を組み合わせることにより、電波反射板54ひいてはこれに載置されている半球レンズ55の向きを機械的に調整することが可能となる。
【0030】
電波反射板54は、半球レンズ55の断面よりも径大の円盤形状からなる。その理由として、受信すべき電波が半球レンズ55にいかなる角度で入射された場合においても、これを確実に捕捉するためである。実際にこの電波反射板54のサイズは、利得とサイドロープを含む要求されるアンテナ特性の許容範囲から決定されることになる。
【0031】
電波反射板54に載置された半球レンズ55は、電波ビームを集束可能な単一の球体レンズを略2等分したものである。即ち、この半球レンズ55は、同心の球面に誘電率の異なる誘電体を積層して構成したものではなく、あくまで単一の誘電体を1層に亘って構成したものである。このような1層からなる半球レンズ55に入射された電波は、図3に示す分布59に示すように、ポイントフォーカスではなく、葉巻形にフォーカスされることになる。分布59は、実際のアンテナにおける誘電体挿入物63に一致すべきであり、ここでは、明確にするためにあえて分離して示している。
【0032】
アンテナ素子6は、図4に示すようにホーンアンテナ61と、ホーンアンテナ61における開口62に挿入された誘電体挿入物63とを備えている。ちなみに、この誘電体挿入物63は、円盤状のレドーム64を介してこの開口62内のほぼ中心位置において固定されている。
【0033】
ホーンアンテナ61は、金属又は導電材料から構成され、その内面が軸yを中心とした円錐形状となるように構成されている。また、このホーンアンテナ61は開口62において最も拡径された形状とされ、基端部66に進むにつれて徐々に縮径化されることになる。また、このホーンアンテナ61は、基端部66が導波管67に接続されてなる。
【0034】
誘電体挿入物63は、楕円体形状で構成されてなり、低い誘電損失からなる誘電率が1以上の材料で構成される。なお、この誘電体挿入物63の形状は、楕円体に限定されるものではなく、直方体形状で構成されていてもよいし、長手方向に延長されている形状であればいかなるものであってもよい。但し、この誘電体挿入物63の長手方向は、ホーンアンテナ61の開口62から基端部66に配向するようにして固定されている必要がある。
【0035】
レドーム64は、ホーンアンテナ61の開口62を閉塞するようにして接合されている。このレドーム64は、電波透過性を有するとともに熱伝導率の低い、樹脂等の材料で構成されている。
【0036】
なお、レンズアンテナ装置4は、例えば図2(b)に示すように、保持具8、半球型レンズアンテナ5、アンテナ素子6をレドーム9により覆うようにしてもよい。このレドーム9を構成する材料は、レドーム64と同様である。
【0037】
通信部7は、このアンテナ素子6からの出力信号が供給され、これを高周波増幅するとともに、低域周波数の信号へ周波数変換等を行う。
【0038】
上記構成からなるレンズアンテナ装置4では、地上局50又は他の移動体3から送信されてきた電波は、半球レンズ55の表面から入射される。このとき、球体レンズであれば電波はレンズ内で集束することになるが、本実施形態では、球体レンズを2等分した半球レンズ55を使用し、これを電波反射板54上に載置している。このため、半球レンズ55により集束される電波は電波反射板54により、半球レンズ55の断面で反射される。このため、半球レンズ55への入射電波は、球体レンズの場合とは面対称の経路をとる。この半球レンズ55により形成される上述した分布59からなる葉巻形のフォーカスにアンテナ素子6を配置することにより、この電波を受信することができる。また、この状態でアンテナ素子6から電波を送信することにより、地上局50や他の移動体3に対して電波を送信することが可能となる。このアンテナ素子6から電波を送信する際において、電波は半球レンズ55内において上述した経路と逆方向になる。
【0039】
なお本発明を適用したレンズアンテナ装置4では、アーム51をy軸、x軸を中心として任意に回転させることにより、電波反射板54ひいてはこれに載置されている半球レンズ55の向きを任意に調整することが可能となる。このため、半球型レンズアンテナ5の向きを調整することにより、葉巻形のフォーカス位置を任意の位置へ制御することが可能となる。本発明ではこれを利用し、電波の到来方向がいかなる場合においても、その焦点がアンテナ素子6に位置するように、半球型レンズアンテナ5の向きを調整する。例えば図2に示すように、電波の到来方向が、実線で示される方向から、点線で示される方向へと変化する場合においても、半球型レンズアンテナ5の向きを機械的に制御することより、その焦点位置をアンテナ素子6側へと確実に導くことが可能となる。送信されてくる電波の方向が常に変化する移動体通信システム2において、上述した機能を実現できる本発明は特に有用となる。
【0040】
なお、本発明を適用したレンズアンテナ装置4は、上述した実施の形態に限定されるものではない。図5(a)〜(d)は、レンズアンテナ装置4に適用される半球型レンズアンテナ5の各構成例を示している。
【0041】
図5(a)は、半球レンズ55について、その断面周縁を外側に突出させた突出部71を更に設けた例を示している。この突出部71は、断面三角形状に構成されてなり、外側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されている。ちなみに、この突出部71は、半球レンズ55と一体化されていてもよいし、半球レンズ55と別々に作製してこれを事後的に接合するようにしてもよい。また、この突出部71の断面形状は、断面三角形状に限定されるものではなく、いかなる形状であってもよい。
【0042】
なお、この図5(a)の点線は、半球レンズ55について、球体レンズを略2等分した断面に相当する。即ち、この半球レンズ55は、突出部71の高さ分に応じて厚みを増加させているが、これで限定されるものではなく、いかなる厚みで構成されていてもよい。また、この半球レンズ55は、突出部71の高さ分に応じて厚みを増加させることなく、球体レンズを略2等分した断面を電波反射板54に直接的に接合するものであってもよい。
【0043】
図5(b)は、半球レンズ55と、電波反射板54の間に板状レンズ72を介装させた例を示している。板状レンズ72は、球体レンズを略2等分した半球レンズ55の断面に接合されている。このため、半球レンズ55から電波反射板54に至るまでの板厚が増加した外観形状となる。ちなみに、この板状レンズ72の径は、半球レンズ55の断面とほぼ同一とされている。この板状レンズ72の代替として、半球レンズの厚みを増加させるようにしてもよい。
【0044】
図5(c)は、上述した図3において説明したものと同様に、球体レンズを略2等分した半球レンズ55と、この半球レンズ55の断面よりも径大の円盤形状からなる電波反射板54で構成した例を示している。
【0045】
図5(d)は、球体レンズを略2等分した半球レンズ55と、この半球レンズ55の断面と同一径の円盤形状からなる電波反射板54で構成した例を示している。
【0046】
なお、上述した図5(a)〜(d)では、レンズアンテナ装置4を構成するアンテナ素子6として、必ずホーンアンテナ61に誘電体挿入物63を挿入する場合を例に挙げている。これに対して、図5(e)に示す比較例では、この誘電体挿入物63の構成を省略したホーンアンテナからなるアンテナ素子81を適用し、半球型レンズアンテナとしては、上述した図5(d)と同様に、球体レンズを略2等分した半球レンズ55と、この半球レンズ55の断面と同一径の円盤形状からなる電波反射板54で構成している。
【0047】
以下、これら図5(a)〜(e)に示す構成について実際にサンプルを作製し、それぞれについて放射指向性パターンをシミュレートした結果について説明をする。以下では、図5(a)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルAとし、図5(b)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルBとし、図5(c)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルCとし、図5(d)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルDとし、図5(e)の構成からなる半球型レンズアンテナ5をサンプルEとする。
【0048】
作製した各サンプルA〜Eは、半球レンズ55の直径は、5波長とした。また、半球レンズ55並びに、誘電体挿入物63の誘電率εrは1.7とした。更にサンプルAについては、突出部71の形状を断面三角形状とし、突出量並びに高さを0.35波長とし、また半球レンズ51における厚みをこの突出部71の高さ分に応じて増加させている。サンプルBについては、板状レンズ72の板厚を0.35波長とした。
【0049】
図6にこのような形状からなる各サンプルA〜Eに対して、それぞれ30GHzの円偏波を入射させ、放射指向性パターンをシミュレートした結果を示す。図6における角度0°は、ホーンアンテナ6における電波の反射点であり、角度90°は、ホーンアンテナ6のY軸に対して90°における電波の反射点である。この図6の結果から、放射パターンにおけるピーク利得が特にサンプルA、Bにおいて高くなる傾向が見られ、その次にサンプルC、Dが続く結果となった。そして、放射パターンにおけるピーク利得が最も低くなるのがサンプルEであった。従って、本発明例としてのサンプルA〜Dは、比較例としてのサンプルEよりも放射特性が優れることが分かる。
【0050】
その理由として、単一の誘電体を1層に亘って構成した半球レンズ55では、点フォーカスとならず、あくまで葉巻形のフォーカスが形成される。サンプルA〜Dによれば、誘電体挿入物63をホーンアンテナ61に挿入していることから、当該誘電体挿入物63でこの葉巻形のフォーカス分布を効果的に捕捉することが可能となる。特にこの誘電体挿入物63の長手方向は、ホーンアンテナ61の開口62から基端部66に配向するようにして固定されている。このため、形成される葉巻形のフォーカス分布を捉える上で好適となる。
【0051】
ちなみに、サンプルAとBとの間では、特に中心付近から離れた角度において、サンプルAの放射特性が優れることが分かる。またサンプルCは、サンプルDよりも全体的に放射特性が優れていることが分かる。このため、半球型レンズアンテナとして最も望ましい形状は、サンプルAの構成であり、次にサンプルB、サンプルC、サンプルDの順で続くことになる。
【0052】
このように、本発明を適用したレンズアンテナ装置1では、半球レンズ55として、単一の球体レンズを略2等分したものとして構成しており、互いに誘電率の異なる誘電体を多層に亘り積層させた場合と比較して電波の減衰を抑えることが可能となり、より高感度な受信を実現することができ、更にはレンズの作製コストを抑えることが可能となる。また、特にこの半球レンズ55を一層で構成することにより形成される葉巻形のフォーカス分布も、上述の如き形態でホーンアンテナ61に挿入された誘電体挿入物63により捕捉することができ、利得の低下を抑えることが可能となる。
【0053】
また、本発明を適用したレンズアンテナ装置1では、放射器の位置調整手段を特段設ける必要もなくなり、電力の消費量を低減させることが可能となる。
【0054】
本発明の有効性を更に論じるため、更なる形態として、直径が8波長からなり、突出部71が0.35波長の高さからなる半球レンズ55がある。図7は、その発明と、従来仕様の放射パターンをシミュレートしたピーク利得の結果を示している。従来仕様は、レンズの誘電率は2.5であり、通常のホーンアンテナで構成される。
【0055】
図7の結果に示すように、本発明は、90°において26.5dBicであり、従来仕様は、75°において26.5dBicであった。本発明におけるレンズの重量は、25グラムである。そして、従来仕様のレンズの重さは、41グラムである。本発明は、広い角度範囲において要求される26.5dBicを満たすことができ、しかも40%の重量減を実現することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 レンズアンテナ装置
2 移動体通信システム
3 移動体
4 レンズアンテナ装置
5 半球型レンズアンテナ
6 アンテナ素子
7 通信部
8 保持具
9、64 レドーム
50 地上局
51 アーム
52 回転駆動機構
53 回転駆動機構
54 電波反射板
55 半球レンズ
61 ホーンアンテナ
62 開口
63 誘電体挿入物
66 基端部
67 導波管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波ビームを集束する単一の球体レンズを略2等分した半球レンズを電波反射板上に載置してなる半球型レンズアンテナと、
上記半球型レンズアンテナの向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板に対する反射角を調整可能な角度調整手段と、
上記半球レンズにより集束された電波ビームを受信するアンテナ素子とを備え、
上記アンテナ素子は、誘電体挿入物が挿入されたホーンアンテナからなること
を特徴とするレンズアンテナ装置。
【請求項2】
上記電波反射板は、上記半球レンズの断面よりも径大の円盤形状であること
を特徴とする請求項1記載のレンズアンテナ装置。
【請求項3】
上記半球レンズにおける断面と上記電波反射板の間には、板状レンズが介装されていること
を特徴とする請求項1記載のレンズアンテナ装置。
【請求項4】
上記半球レンズは、その断面周縁を外側に突出させた突出部を更に有すること
を特徴とする請求項1記載のレンズアンテナ装置。
【請求項1】
電波ビームを集束する単一の球体レンズを略2等分した半球レンズを電波反射板上に載置してなる半球型レンズアンテナと、
上記半球型レンズアンテナの向きを機械的に制御することにより電波ビームの電波反射板に対する反射角を調整可能な角度調整手段と、
上記半球レンズにより集束された電波ビームを受信するアンテナ素子とを備え、
上記アンテナ素子は、誘電体挿入物が挿入されたホーンアンテナからなること
を特徴とするレンズアンテナ装置。
【請求項2】
上記電波反射板は、上記半球レンズの断面よりも径大の円盤形状であること
を特徴とする請求項1記載のレンズアンテナ装置。
【請求項3】
上記半球レンズにおける断面と上記電波反射板の間には、板状レンズが介装されていること
を特徴とする請求項1記載のレンズアンテナ装置。
【請求項4】
上記半球レンズは、その断面周縁を外側に突出させた突出部を更に有すること
を特徴とする請求項1記載のレンズアンテナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−34754(P2010−34754A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−193337(P2008−193337)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193337(P2008−193337)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
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