説明

レンズ成形装置およびレンズ成形方法

【課題】高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形装置およびレンズ成形方法を実現する。
【解決手段】本発明に係るレンズ成形装置100は、金型1、絶縁基板2、ステージ3、電源4、スイッチ5、およびUV照射装置6を備える。絶縁基板2上には、誘電体樹脂8が供給され、金型1の転写面1aを誘電体樹脂8に押し当てることにより、誘電体樹脂8にレンズ形状を転写する。このとき、電源4によって金型1に電圧を印加して、金型1と絶縁基板2との間に電界を形成すると、静電引力により、誘電体樹脂8は、上端が細い尖形の状態で、金型1の転写面1aに引き寄せられる。これにより、転写面1aと誘電体樹脂8との間に気泡が入り込みにくくなるので、高精度なレンズ形状を誘電体樹脂8に転写することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な形状を有するレンズを高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形装置およびレンズ成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レンズを製造する最も一般的な技術として、例えば特許文献1に記載のような、研磨加工による方法が用いられている。特許文献1には、研磨皿を予め加工すべきレンズ形状と相反関係をなす形状に加工しておき、この研磨皿をガラス素材に押し当て、砥粒を研磨皿とガラス素材との隙間に供給してこすり合わせる方法が開示されている。
【0003】
また、光学系の高性能化が要求されるのにともなって、レンズ加工の高精度化とともに、非球面形状のレンズ加工技術が重要となっている。しかしながら、特許文献1に記載の研磨加工方法では、非球面のレンズ形状に加工することは困難である。そのため、各種光学的収差、例えば球面収差、コマ収差、非点収差等を補正するために、複数枚のガラスレンズを組み合わせる必要があり、製造コストが非常に高いという問題があった。
【0004】
これに対し、例えば特許文献2には、ガラスレンズ母材に樹脂層を接合することにより、偏肉性が大きく、非球面量を大きくすることができるハイブリッドレンズが開示されている。図16は、特許文献2に記載のハイブリッドレンズ200を示す断面図である。ハイブリッドレンズ200は、球面ガラスレンズ母材202の一面側又は両面に、外面形状が非球面の樹脂層203が接合された構造を有する。球面ガラスレンズ母材202は、凸レンズ、凹レンズのいずれでもよい。レンズの有効径の範囲内での樹脂層203の最大厚みTmaxは、1mm〜10mm、好ましくは2〜8mmの範囲である。このように、ハイブリッドレンズ200は、厚みのある樹脂層203を有し、偏肉性が大きく、非球面量を大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−203744号公報(1987年9月8日公開)
【特許文献2】特開2005−60657号公報(2005年3月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献2に記載の技術では、ハイブリッドレンズ200の非球面量を大きくするために、ガラスレンズ母材202および樹脂層203を形成する樹脂材料が必要となる。そのため、収差補正に必要なレンズ枚数が増加し、コストが高くなってしまう。また、特許文献2に記載の技術では、非球面量が大きい非球面レンズなどの複雑な形状を有するレンズを製造することが難しい。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、複雑な形状を有するレンズを、高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形装置およびレンズ成形方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係るレンズ成形装置は、基板と、前記基板上に誘電体を供給する供給手段と、前記誘電体にレンズ形状を転写するための転写面を有するモールドと、前記転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写手段と、前記転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化手段と、を有するレンズ成形装置において、前記モールドと前記基板との間に電界を形成する電界形成手段を備えることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、供給手段によって基板上に供給された誘電体に、レンズ形状を転写するための転写面を有するモールドが転写手段によって押し当てられることにより、誘電体にレンズ形状が転写され、さらに、硬化手段によって誘電体が硬化されることによりレンズが成形される。ここで、電界形成手段によって、モールドと基板との間に電界が形成されるので、静電引力により、誘電体が転写面に引き寄せられる。このとき、誘電体の形状は、転写面に向かう上端が細い尖形となるため、転写面を誘電体に押し当てる際に、転写面と誘電体との間に気泡が入り込みにくくなる。これにより、高精度なレンズ形状を誘電体に転写することができる。また、電界の形成により発生する静電引力は、転写面の中心が最も強いので、転写面が誘電体に押し当てられた状態では、誘電体は、転写面の中心部に向かって引き寄せられ、モールドの側面に誘電体が付着することはない。そのため、モールドの側面に誘電体が付着したまま誘電体を硬化させた場合に、レンズ形状の周囲に形成される凸部分を削る作業が不要となる。したがって、複雑な形状を有するレンズを、高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形装置を実現することができる。
【0010】
本発明に係るレンズ成形装置では、前記電界形成手段は、前記モールドと前記基板との間に直流電圧を印加する直流電源であってもよい。
【0011】
本発明に係るレンズ成形装置では、前記電界形成手段は、前記モールドと前記基板との間に交流電圧を印加する交流電源であってもよい。
【0012】
本発明に係るレンズ成形装置では、誘電体にレンズ形状を転写するための第1の転写面を有する第1のモールドと、誘電体にレンズ形状を転写するための第2の転写面を有し、当該第2の転写面が前記第1の転写面と対向している第2のモールドと、前記第1の転写面上に前記誘電体を供給する供給手段と、前記第2の転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写手段と、前記第2の転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化手段と、を有するレンズ成形装置において、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に電界を形成する電界形成手段を備えることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、供給手段によって第1のモールドの第1の転写面上に供給された誘電体に、第2のモールドの第2の転写面が転写手段によって押し当てられることにより、誘電体にレンズ形状が転写され、さらに、硬化手段によって誘電体が硬化されることにより、両面レンズが成形される。ここで、電界形成手段によって、第1のモールドと第2のモールドとの間に電界が形成されるので、静電引力により、誘電体が第2の転写面に引き寄せられる。このとき、誘電体の形状は、第2の転写面に向かう上端が細い尖形となるため、第2の転写面を誘電体に押し当てる際に、第2の転写面と誘電体との間に気泡が入り込みにくくなる。これにより、高精度なレンズ形状を誘電体に転写することができる。また、電界の形成により発生する静電引力は、転写面の中心が最も強いので、転写面が誘電体に押し当てられた状態では、誘電体は、転写面の中心部に向かって引き寄せられ、モールドの側面に誘電体が付着することはない。そのため、モールドの側面に誘電体が付着したまま誘電体を硬化させた場合に、レンズ形状の周囲に形成される凸部分を削る作業が不要となる。したがって、複雑な形状を有するレンズを、高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形装置を実現することができる。
【0014】
本発明に係るレンズ成形装置では、前記電界形成手段は、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に直流電圧を印加する直流電源であってもよい。
【0015】
本発明に係るレンズ成形装置では、前記電界形成手段は、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に交流電圧を印加する交流電源であってもよい。
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明に係るレンズ成形方法は、基板上に誘電体を供給する供給工程と、前記誘電体にレンズ形状を転写するための転写面を有するモールドの前記転写面を、前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写工程と、前記転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化工程と、を有するレンズの成形方法において、前記転写面を前記誘電体に押し当てるときに、前記モールドと前記基板との間に電界を形成する電界形成工程を有することを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、供給工程において基板上に誘電体が供給され、転写工程において、レンズ形状を転写するための転写面を有するモールドが押し当てられることにより、誘電体にレンズ形状が転写され、さらに、硬化工程において誘電体が硬化されることによりレンズが成形される。ここで、上記方法は、モールドと基板との間に電界を形成する電界形成工程を有しており、電界形成工程では、静電引力により、誘電体が転写面に引き寄せられる。このとき、誘電体の形状は、転写面に向かう上端が細い尖形となるため、転写面を誘電体に押し当てる際に、転写面と誘電体との間に気泡が入り込みにくくなる。これにより、高精度なレンズ形状を誘電体に転写することができる。したがって、複雑な形状を有するレンズを、高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形方法を実現することができる。
【0018】
本発明に係るレンズ成形方法は、誘電体にレンズ形状を転写するための第1の転写面を有する第1のモールドの前記第1の転写面上に前記誘電体を供給する供給工程と、誘電体にレンズ形状を転写するための第2の転写面を有し、当該第2の転写面が前記第1の転写面と対向している第2のモールドの前記第2の転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写工程と、前記第2の転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化工程と、を有するレンズの成形方法において、前記第2の転写面を前記誘電体に押し当てるときに、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に電界を形成する電界形成工程を有することを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、供給工程において第1のモールドの第1の転写面上に誘電体が供給され、転写工程において、第2のモールドの第2の転写面が押し当てられることにより、誘電体にレンズ形状が転写され、さらに、硬化工程において誘電体が硬化されることにより両面レンズが成形される。ここで、上記方法は、第1のモールドと第2のモールドとの間に電界を形成する電界形成工程を有しており、電界形成工程では、静電引力により、誘電体が第2の転写面に引き寄せられる。このとき、誘電体の形状は、第2の転写面に向かう上端が細い尖形となるため、第2の転写面を誘電体に押し当てる際に、第2の転写面と誘電体との間に気泡が入り込みにくくなる。これにより、高精度なレンズ形状を誘電体に転写することができる。したがって、複雑な形状を有するレンズを、高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形方法を実現することができる。
【0020】
本発明に係るレンズ成形方法では、前記電界の形成は、前記硬化工程の間も継続されることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、誘電体が転写面により密着するので、さらに高精度なレンズ形状を成形することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係るレンズ成形装置は、基板と、前記基板上に誘電体を供給する供給手段と、前記誘電体にレンズ形状を転写するための転写面を有するモールドと、前記転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写手段と、前記転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化手段と、を有するレンズ成形装置において、前記モールドと前記基板との間に電界を形成する電界形成手段を備えている。また、本発明に係るレンズ成形方法は、基板上に誘電体を供給する供給工程と、前記誘電体にレンズ形状を転写するための転写面を有するモールドの前記転写面を、前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写工程と、前記転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化工程と、を有するレンズの成形方法において、前記転写面を前記誘電体に押し当てるときに、前記モールドと前記基板との間に電界を形成する電界形成工程を有している。したがって、複雑な形状を有するレンズを、高精度かつ低コストで成形可能なレンズ成形装置およびレンズ成形方法を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るレンズ成形装置の構成を示す断面図である。
【図2】上記レンズ成形装置において、絶縁基板上に誘電体樹脂を供給した状態を示す断面図である。
【図3】上記レンズ成形装置において、誘電体樹脂が絶縁基板と金型の転写面との間に位置するようにセットした状態を示す断面図である。
【図4】上記レンズ成形装置において、金型と絶縁基板との間に電界を形成した状態を示す断面図である。
【図5】上記レンズ成形装置において、金型の転写面が誘電体樹脂に押し当てられた状態を示す断面図である。
【図6】上記レンズ成形装置において、片面レンズが形成された状態を示す断面図である。
【図7】(a)は、金型と絶縁基板との間に電界が形成されたときの、金型、誘電体樹脂および絶縁基板の帯電状態を示す図であり、(b)は、金型と絶縁基板との間に電界が形成されたときの、金型、誘電体樹脂および絶縁基板に作用する力を示す図である。
【図8】金型と絶縁基板との間に電界が形成されたときの電気力線を示す図である。
【図9】金型の側面に誘電体樹脂が付着した状態を示す断面図である。
【図10】(a)は、金型の転写面の中心と誘電体樹脂の中心とがずれている状態を示す断面図であり、(b)は、金型と絶縁基板との間に電界を形成することにより、誘電体樹脂が転写面の中心に向かって引き寄せられた状態を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態の変形例に係るレンズ成形装置の構成を示す断面図である。
【図12】本発明の実施形態の他の変形例に係るレンズ成形装置の構成を示す断面図である。
【図13】本発明の実施形態のさらに他の変形例に係るレンズ成形装置の構成を示す断面図である。
【図14】本発明の実施形態のさらに他の変形例に係るレンズ成形装置の構成を示す断面図である。
【図15】(a)〜(e)は、本発明の実施例におけるレンズ成形工程を示す写真である。
【図16】従来のハイブリッドレンズを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の一形態について、図1〜図14に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0025】
図1は、本実施形態に係るレンズ成形装置100の構成を示す断面図である。レンズ成形装置100は、金型1、絶縁基板2、ステージ3、電源4、スイッチ5、およびUV照射装置6を備えており、絶縁基板2上に供給される誘電体樹脂からレンズを成形する装置である。
【0026】
金型1は、特許請求の範囲に記載のモールドに相当する。金型1は、絶縁基板2の上方に設けられ、誘電体樹脂にレンズ形状を転写するための転写面1aを有している。転写面1aは、絶縁基板2に対向しており、転写面1aの中心部には、非球面形状の凹部が形成されている。絶縁基板2は、ステージ3上に載置される。ステージ3には、中央部に円形の穴が設けられており、当該穴の下方にUV照射装置6が設けられている。
【0027】
金型1は、スイッチ5を介して電源4に接続されている。本実施形態では、電源4は、直流電源であり、スイッチ5がONすることにより、金型1に直流電圧を印加することができる。一方、ステージ3は、接地されている。
【0028】
続いて、レンズ成形装置100におけるレンズの成形工程について、図2〜図6を参照して説明する。
【0029】
まず、図2に示すように、ディスペンサ7を用いて、絶縁基板2上に誘電体樹脂8を供給する。誘電体樹脂8は、UVを照射されることにより硬化する光硬化樹脂である。この工程は、特許請求の範囲に記載の供給工程に相当し、ディスペンサ7は、特許請求の範囲に記載の供給手段に相当する。
【0030】
続いて、図3に示すように、誘電体樹脂8が絶縁基板2と金型1の転写面1aとの間に位置するようにセットする。この状態で、図示しない金型1の支持装置によって、金型1を下方に移動させる。なお、この支持装置は、特許請求の範囲に記載の転写手段に相当する。
【0031】
続いて、図4に示すように、スイッチ5をONにして、金型1に直流電圧を印加する。このとき、後述するように、金型1と絶縁基板2との間には電界が形成され、静電引力により、誘電体樹脂8が金型1の転写面1aに引き寄せられる。また、UV照射装置6によって誘電体樹脂8にUVが照射される。なお、電源4およびUV照射装置6は、それぞれ特許請求の範囲に記載の電界形成手段および硬化手段に相当する。
【0032】
金型1をさらに下降させることにより、図5に示すように、金型1の転写面1aが誘電体樹脂8に押し当てられ、転写面1aに誘電体樹脂8が密着する。これにより、誘電体樹脂8にレンズ形状が転写される。この状態で、UV照射装置6によって誘電体樹脂8にUVが照射されることにより、誘電体樹脂8が硬化する。
【0033】
誘電体樹脂8を十分に硬化させた後、図6に示すように、スイッチ5をOFFして、金型1を上昇させる。これにより、非球面形状を有する片面レンズ18が形成される。
【0034】
本実施形態では、図4に示すように、金型1を誘電体樹脂8に接近させる際に、金型1と絶縁基板2との間に電界を発生させる。このとき、誘電体樹脂8の形状は、上端が細い尖形となるため、誘電体樹脂8が金型1の転写面1aに最初に接触する時点における接触面積を非常に小さくすることができる。その後、誘電体樹脂8と転写面1aとの接触部分は、最初の接触位置からその周囲に徐々に広がるため、転写面1aを誘電体樹脂8に押し当てる際に、転写面1aと誘電体樹脂8との間に気泡が入り込みにくくなる。したがって、金型1と絶縁基板2との間に電界を発生させることなく誘電体樹脂8にレンズ形状を転写する場合に比べて、高精度なレンズ形状を誘電体樹脂8に転写することができる。
【0035】
光学系の高性能化にともない、レンズ形状には、nmオーダーの精度が要求される。しかしながら、非球面量が大きいレンズや、コバ形状が複雑なレンズを成形する場合、金型1と絶縁基板2との間に電界を印加せずに、転写面1aを誘電体樹脂8に押し当てると、転写面1aと誘電体樹脂8との間に、μmオーダーの気泡が無数に発生していた。これに対し、本実施形態では、転写面1aと誘電体樹脂8との間に気泡がほとんど発生しないので、光学系の高性能化に対応可能なレンズを成形できる。
【0036】
また、形成されるレンズの厚みやサグ量が大きい場合、金型1と絶縁基板2との間に電界を印加しない状態では、重力や表面張力の作用により、誘電体樹脂8が転写面1aに沿って追従しにくいため、転写面1aの形状を誘電体樹脂8に転写することが難しい。これに対し、本実施形態では、金型1と絶縁基板2との間に電界を形成することにより、誘電体樹脂8の重力および表面張力よりも大きな静電引力を発生させるため、誘電体樹脂8が転写面1aに引き寄せられ、転写面1aの形状を誘電体樹脂8に高精度に転写することが可能となる。
【0037】
電界を形成するタイミングに関して、本実施形態では、図4〜図5に示すように、金型1が下降し始めてから誘電体樹脂8の硬化が完了するまでの間、電界を形成していたが、これに限定されない。例えば、転写面1aに誘電体樹脂8が接触してから、誘電体樹脂8が転写面1aに密着するまでの間のみ、電界を形成してもよい。なお、本実施形態のように、UV照射時も、電界の形成を継続することで、誘電体樹脂8が転写面1aにより密着するので、さらに高精度なレンズ形状を成形することができる。
【0038】
また、UVを照射するタイミングに関して、図5に示すように、誘電体樹脂8が転写面1aに完全に密着してから、UVを照射してもよい。
【0039】
続いて、金型1と絶縁基板2との間に電界が形成されたときに、誘電体樹脂8の形状が尖形となるメカニズムについて説明する。
【0040】
図7(a)は、金型1と絶縁基板2との間に電界が形成されたときの、金型1、誘電体樹脂8および絶縁基板2の帯電状態を示す図であり、図7(b)は、金型1と絶縁基板2との間に電界が形成されたときの、金型1、誘電体樹脂8および絶縁基板2に作用する力を示す図である。なお図7では、簡略化のため、誘電体樹脂8の形状を矩形としている。
【0041】
図7(a)に示すように、金型1には電源4によって直流電圧が印加されるため、正に帯電する。また、誘電体樹脂8は絶縁体であるため、誘電分極によって、誘電体樹脂8の金型1と対向する部分(上側)は、負に帯電し、誘電体樹脂8の金型1と対向する部分と反対側の部分(下側)は、正に帯電する。同様に、絶縁基板2の誘電体樹脂8との接触面は、負に帯電し、絶縁基板2の誘電体樹脂8との接触面と反対側の面は、正に帯電する。これにより、金型1は陽極として機能し、絶縁基板2は陰極として機能する。
【0042】
このように、金型1と誘電体樹脂8の上側とが、逆の極性に帯電しているため、図7(b)の上方向矢印に示すように、誘電体樹脂8を金型1に引き寄せる静電引力が発生する。なお、誘電体樹脂8にUVを照射すると、硬化収縮により下方向矢印および横方向矢印に示す収縮力が発生する。しかしながら、この収縮力は、静電引力に比べて小さいため、結果的には誘電体樹脂8が金型1に引き寄せられる。
【0043】
なお、形成する電界の強さは、電界によって発生する静電引力が、重力と誘電体樹脂8の収縮力との和よりも大きくなるように、誘電体樹脂8の誘電率に合わせて適宜設定すればよい。
【0044】
図8は、金型1と絶縁基板2との間に電界が形成されたときの電気力線を示している。電気力線は、金型1の転写面1aの中心において最も強くなり、中心から離れるほど弱くなる。そのため、図4に示すように、誘電体樹脂8は、転写面1aの凹部に向かって先細りした形状となる。
【0045】
なお、金型1と絶縁基板2との間に電界を発生させずに、転写面1aを誘電体樹脂8に押し当てた場合、図9の円内に示すように、金型1の側面に誘電体樹脂8が付着することがある。この状態で、誘電体樹脂8を硬化させると、レンズ形状の周囲に凸部分が形成されるため、後の工程で、この凸部分を削る必要があった。
【0046】
ここで、図8に示すように、金型1の側面では、電気力線が長くなるので、金型1の側面における静電引力は、金型1の転写面1aにおける静電引力に比べ弱くなる。そのため、転写面1aが誘電体樹脂8に押し当てられた状態では、誘電体樹脂8は、転写面1aの中心部に向かって引き寄せられ、金型1の側面に誘電体樹脂8が付着することはない。これにより、図9に示すような、レンズ形状の周囲に形成された凸部分を削る必要がないので、金型1の側面に誘電体樹脂8が付着した場合に比べ、誘電体樹脂8の材料を30%程度節約できる。したがって、材料のマージンが広がり、製造コストを低減させることができる。
【0047】
また、レンズ成形装置100では、誘電体樹脂8を供給する位置が多少ずれていても、高精度にレンズ形状を誘電体樹脂8に転写することができる。図10(a)は、金型1の転写面1aの中心と誘電体樹脂8の中心とが、距離Rだけずれている状態を示す断面図である。この状態であっても、図10(b)に示すように、スイッチ5をONして金型1と絶縁基板2との間に電界を形成することにより、誘電体樹脂8が転写面1aの中心に向かって引き寄せられるので、誘電体樹脂8を転写面1aに密着させることができる。このように、本実施形態では、誘電体樹脂8を供給する位置がずれていても、誘電体樹脂8のセルフアライメントが可能となっている。具体的には、金型1の転写面1aの中心と誘電体樹脂8の中心とのずれに相当する距離Rが、誘電体樹脂8の直径の1/3程度以下であれば、誘電体樹脂8を転写面1aに密着させることができる。
【0048】
続いて、本実施形態の変形例について、図11〜図14を参照して説明する。
【0049】
図11は、本実施形態の変形例に係るレンズ成形装置110の構成を示す断面図である。レンズ成形装置110は、図1に示すレンズ成形装置100において、金型1を金型11に置き換えた構成である。金型11の転写面11aには、凸部が形成されている。これにより、誘電体樹脂8に凹形状を転写することができる。
【0050】
図12は、本実施形態の他の変形例に係るレンズ成形装置120の構成を示す断面図である。レンズ成形装置120は、図1に示すレンズ成形装置100において、金型1を金型21に置き換えた構成である。金型21の転写面21aには、複数の凹部がアレイ状に形成されている。これにより、複数の凸面を備えるレンズを成形することができる。
【0051】
図13は、本実施形態のさらに他の変形例に係るレンズ成形装置130の構成を示す断面図である。レンズ成形装置130は、図1に示すレンズ成形装置100において、金型1を金型31に置き換えた構成である。金型31の転写面31aには、複数の凸部がアレイ状に形成されている。これにより、複数の凹面を備えるレンズを成形することができる。
【0052】
図14は、本実施形態のさらに他の変形例に係るレンズ成形装置140の構成を示す断面図である。レンズ成形装置140は、図13に示すレンズ成形装置130において、絶縁基板2およびステージ3を金型41に置き換え、金型41が接地された構成である。なお、金型31および金型41は、それぞれ特許請求の範囲に記載の第2のモールドおよび第1のモールドに相当する。
【0053】
レンズ成形装置140では、金型41の転写面41aに誘電体樹脂8が供給される。その後、金型41の転写面41aと金型31の転写面31aとを対向させて、金型31の転写面31aを誘電体樹脂8に押し当て、誘電体樹脂8にUVを照射する。このとき、スイッチ5をONにして、金型31と金型41との間に電界を形成する。これにより、誘電体樹脂8は、転写面31aに密着するので、高精度なレンズ形状を有する両面レンズを成形することができる。
【実施例】
【0054】
本発明に係るレンズ成形装置によって、高精度なレンズ形状を有するレンズが成形できることを確認するため、試作品を用いて実験を行った。試作品では、絶縁基板として石英ガラス基板を使用し、金型と石英ガラス基板との間に電界を形成するための電界形成手段として、6kvの直流電源を使用した。
【0055】
図15(a)〜(e)は、本実施例におけるレンズ成形工程を示す写真である。
【0056】
図15(a)に示すように、石英ガラス基板上に誘電体である光硬化樹脂を供給する。続いて、図15(b)に示すように、金型の転写面を光硬化樹脂と対向させて、金型を下降させると同時に、金型に6kvの直流電圧を印加する。これにより、石英ガラス基板と金型との間に電界が形成され、光硬化樹脂は、転写面の中心に引き寄せられる。
【0057】
このとき、図15(c)に示すように、光硬化樹脂の形状は、上端が細い尖形となっていることが確認できる。続いて、図15(d)に示すように、光硬化樹脂と転写面との接触部分が、転写面の中心から外側に向かって広がり、図15(e)に示すように、光硬化樹脂と転写面全体とが密着する。また、図15(e)では、光硬化樹脂が金型の側面には付着していないことが分かる。
【0058】
〔実施形態の総括〕
上記の実施形態では、金型に電圧を印加し、絶縁基板を接地することにより、金型と絶縁基板との間に電界を形成していたが、これに限定されない。例えば、金型を接地し、絶縁基板に電圧を印加してもよい。また、図14に示すレンズ成形装置140では、金型31を接地し、金型41に電圧を印加する構成としてもよい。
【0059】
上記の実施形態では、金型と絶縁基板との間に直流電圧を印加することにより、金型と絶縁基板との間に電界を形成していたが、金型と絶縁基板との間に交流電圧を印加することにより、金型と絶縁基板との間に電界を形成する構成としてもよい。
【0060】
上記の実施形態では、誘電体樹脂にレンズ形状を転写するためのモールドとして、金型を使用したが、電界を形成するための電極として機能する材料であれば、金型に限定されない。
【0061】
上記の実施形態では、誘電体樹脂にUVを照射することによって誘電体樹脂を硬化させていたが、これに限定されない。例えば、誘電体樹脂を加熱することによって誘電体樹脂を硬化させる構成や、誘電体ガラスを冷却することによって誘電体ガラスを固化させる構成としてもよい。
【0062】
上記の実施形態では、誘電体が光硬化樹脂である場合について説明したが、これに限定されず、例えば、誘電体として溶融ガラスを用いてもよい。この場合、高温環境下で電界を形成することにより、溶融ガラスを金型の転写面に密着させることができ、その後、溶融ガラスを冷却して硬化させることにより、レンズを成形することができる。
【0063】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、モールドを用いて誘電体に特定の形状を転写する技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 金型(モールド)
1a 転写面
2 絶縁基板(基板)
3 ステージ
4 電源(電界形成手段)
5 スイッチ
6 UV照射装置(硬化手段)
7 ディスペンサ(供給手段)
8 誘電体樹脂(誘電体)
11 金型(モールド)
11a 転写面
18 片面レンズ(レンズ)
21 金型(モールド)
21a 転写面
31 金型(第2のモールド)
31a 転写面(第2の転写面)
41 金型(第1のモールド)
41a 転写面(第1の転写面)
100 レンズ成形装置
110 レンズ成形装置
120 レンズ成形装置
130 レンズ成形装置
140 レンズ成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に誘電体を供給する供給手段と、
前記誘電体にレンズ形状を転写するための転写面を有するモールドと、
前記転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写手段と、
前記転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化手段と、
を有するレンズ成形装置において、
前記モールドと前記基板との間に電界を形成する電界形成手段を備えることを特徴とするレンズ成形装置。
【請求項2】
誘電体にレンズ形状を転写するための第1の転写面を有する第1のモールドと、
誘電体にレンズ形状を転写するための第2の転写面を有し、当該第2の転写面が前記第1の転写面と対向している第2のモールドと、
前記第1の転写面上に前記誘電体を供給する供給手段と、
前記第2の転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写手段と、
前記第2の転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化手段と、
を有するレンズ成形装置において、
前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に電界を形成する電界形成手段を備えることを特徴とするレンズ成形装置。
【請求項3】
前記電界形成手段は、前記モールドと前記基板との間に直流電圧を印加する直流電源であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ成形装置。
【請求項4】
前記電界形成手段は、前記モールドと前記基板との間に交流電圧を印加する交流電源であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ成形装置。
【請求項5】
前記電界形成手段は、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に直流電圧を印加する直流電源であることを特徴とする請求項2に記載のレンズ成形装置。
【請求項6】
前記電界形成手段は、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に交流電圧を印加する交流電源であることを特徴とする請求項2に記載のレンズ成形装置。
【請求項7】
基板上に誘電体を供給する供給工程と、
前記誘電体にレンズ形状を転写するための転写面を有するモールドの前記転写面を、前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写工程と、
前記転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化工程と、
を有するレンズの成形方法において、
前記転写面を前記誘電体に押し当てるときに、前記モールドと前記基板との間に電界を形成する電界形成工程を有することを特徴とするレンズの成形方法。
【請求項8】
誘電体にレンズ形状を転写するための第1の転写面を有する第1のモールドの前記第1の転写面上に前記誘電体を供給する供給工程と、
誘電体にレンズ形状を転写するための第2の転写面を有し、当該第2の転写面が前記第1の転写面と対向している第2のモールドの前記第2の転写面を前記誘電体に押し当てて前記誘電体にレンズ形状を転写する転写工程と、
前記第2の転写面が押し当てられた前記誘電体を硬化させてレンズを成形する硬化工程と、
を有するレンズの成形方法において、
前記第2の転写面を前記誘電体に押し当てるときに、前記第1のモールドと前記第2のモールドとの間に電界を形成する電界形成工程を有することを特徴とするレンズの成形方法。
【請求項9】
前記電界の形成は、前記硬化工程の間も継続されることを特徴とする請求項7または8に記載のレンズの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−73300(P2011−73300A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227533(P2009−227533)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】