説明

レーザはんだ付け装置及びレーザはんだ付け方法

【課題】レーザ光の影響を受けることなくプリント基板の電極温度を正確に計測する。
【解決手段】温度計測に用いる赤外線センサと、加熱に用いるレーザ発振器と、前記レーザ発信器から出力されたレーザ光をはんだ付け対象物に集光するレーザ出射ヘッドと、前記赤外線センサの計測結果に基づいてレーザ発振器の出力を制御する制御装置とを備え、前記赤外線センサの波長は1.5〜2.5μmであり、レーザ光の波長が1μm未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザを熱源とするはんだ付け装置及びはんだ付け方法に係り、特に、プリント基板に電子部品などの微小或いは熱ストレスに弱い部品をはんだ付けする場合に、適用されて安定したはんだ付けが実現出来る装置ならびに方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザを熱源とするはんだ付けや溶接は、従来から行われており、これらを安定して行う方法や装置については、例えば、以下の特許文献1、特許文献2に記載されている。
これらの文献では、加熱手段としてのレーザ発振器と、赤外線による非接触式の温度センサ、及びこれらを制御するコントローラを持ち、接合部分の温度をリアルタイムで検知して最適な温度条件になるようにレーザの出力を制御することで、容易に、かつ高品質の接合が実現できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2006/093264号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開2007−190576号公報(第2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、加熱に用いるレーザ光の波長は1.6μm以下、温度計測に用いる赤外線の波長を1.2μm以上としているが、これら2つの波長に重なる部分があるため照射したレーザ光の反射光を赤外線センサが捕らえてしまい、加熱部分の温度を正確に計測することができないという問題がある。
特許文献2には波長に関する記述は特にないが、一般的に加熱手段として用いられるYAGレーザ(波長1.064μm)や炭酸ガスレーザ(波長9〜11μm)の場合も、使用する赤外線センサによっては同じ理由で加熱部分の温度を正確に計測することはできない。
【0005】
また、特許文献1、特許文献2ともに赤外線センサの応答速度に関する記述がないが、例えば、電子部品などの熱容量が小さく、かつ、熱ストレスに弱い部品のはんだ付けではレーザ照射時間は数十ms〜数百msのパルスであり、電極温度を最適温度に保つためには、10ms程度の時間間隔でレーザパワーを変化させる必要があり、応答速度の遅い赤外線センサではリアルタイムに温度計測をすることができない。
さらに、特許文献1、特許文献2ともに、加熱部分の温度を計測するためにはんだから放出される赤外線を用いているが、プリント基板のはんだ付けにおいて基板の炭化や電極剥離などの不良を防ぐためには、プリント基板の電極温度を測ることが重要であり、はんだの温度を測っても不良を防ぐことはできない。
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、加熱手段として用いられるレーザの影響を受けることなく、プリント基板の電極温度を、速く、かつ正確に計測し、基板の炭化や電極剥離などの不良のないはんだ付け装置及びはんだ付け方法を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーザはんだ付け装置は、加熱部分の温度計測に用いる赤外線の波長が1.5〜2.5μm、応答速度が1ms以下である赤外線センサと、加熱手段として用いるレーザ光の波長が1μm未満であるレーザ発振器を備えるようにしたものである。
また、この発明に係るレーザはんだ付け方法は、温度計測に用いる赤外線センサと、加熱に用いるレーザ発振器と、計測結果に基づいてレーザ発振器の出力を制御する制御装置とを備え、プリント基板上の電極温度を計測してレーザの出力などを制御するようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るレーザはんだ付け装置によれば、温度計測に用いる赤外線の波長が1.5〜2.5μmであり、加熱手段として用いるレーザ光の波長が1μm未満であるため、照射したレーザ光の反射光を赤外線センサが捕らえることがなく、加熱部分の温度を正確に計測することができる。
また、温度計測に用いる赤外線センサの応答速度が1ms以下であるため、電子部品などの熱容量が小さく、かつ、熱ストレスに弱い部品をはんだ付けする場合でも、電極温度をリアルタイムで検知して最適な温度条件になるようにレーザの出力を制御することができ、電極の剥離や電子部品の破壊といった不良が発生しない。
さらに、この発明に係るレーザはんだ付け方法によれば、はんだの温度でなく、プリント基板の電極温度を計測するようにしているため、基板の炭化や電極剥離などの不良を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1によるレーザはんだ付け装置を示す図である。
【図2】本発明によるレーザはんだ付け装置におけるはんだ付け方法を説明する図で、初期のレーザパワーが大きい場合を示す。
【図3】本発明によるレーザはんだ付け装置におけるはんだ付け方法を説明する図で、レーザパワーが一定の場合を示す。
【図4】本発明によるレーザはんだ付け装置におけるはんだ付け方法を説明する図で、最適なレーザはんだ付け条件の場合を示す。
【図5】本発明の実施の形態2によるレーザはんだ付け装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は本発明のレーザはんだ付け装置の好ましい代表的な実施の形態を例示したものである。図1において、レーザ発振器1は、そのレーザ光源に半導体レーザを使用して波長は0.808μmである。レーザ発振器1から出力されたレーザ光は光ファイバ2を通ってレーザ出射ヘッド3に導かれる。レーザ出射ヘッド3の内部のレンズによってプリント基板11の電極12に集光されたレーザ光は電子部品9が接続される電極12を加熱する。
一方、糸はんだ7は、はんだ供給器8によって供給される。はんだ供給器8は制御装置6から、はんだの供給タイミングや供給速度の指令を受けて糸はんだ7をプリント基板11の電極12に供給する。
このとき電極12から放射される赤外線は赤外線センサ5で捕らえる。赤外線センサ5には、例えば長波長タイプの電子冷却式型InGaAs(インジウム・ガリウム・砒素)を検出素子に用いる。この素子の実効波長は1.8〜2.5μm、応答速度は0.3msである。
【0010】
また、電子部品9などのはんだ付け対象物の熱容量が小さく、かつ、熱ストレスに弱い部品をはんだ付けする場合、その電極サイズも小さいため、赤外線センサはスポット径の小さいものが望ましい。例えば、電極幅が0.8mmの場合、スポット径はそれ以下、すなわち位置合わせのための余裕を考慮して、できれば直径(Φ)0.6mm程度のものが適当である。
赤外線センサ5で計測された温度は制御装置6に送られる。制御装置6の内部では、その対象物の最適温度と計測された温度に基づいて、レーザ発振器1の出力を制御するようにプログラムされている。
【0011】
次に、レーザ光によって電極温度が上昇してはんだ付けが行われる時の温度計測の例を図2に示す。
電子部品などの熱容量が小さく、かつ、熱ストレスに弱い部品をはんだ付けする場合、レーザ照射時間は数十ms〜数百msのパルスであり、さらにその中で2個以上のブロックに分けてパワーを変化させる必要がある。これは、以下のような理由のためである。
はんだ付けの初期は供給される糸はんだが少なくレーザのパワーは電極にのみ集中するため、初期に大きなパワーを投入すると電極部分の温度が一気に上昇し、基板の炭化や電極剥離などの不良が発生する(図2)。
【0012】
これに対して、中盤から後半にかけては糸はんだが供給されて熱容量が大きくなるのに加えて、はんだのぬれ広がりによって基板や電子部品に熱が伝わっていくため、レーザのパワーが初期から一定のままだと電極の温度が下がってしまい、いわゆる「いもはんだ」と言われるぬれ広がりが不十分な仕上がりになってしまう(図3)。
【0013】
そこで、はんだ付けを行う電極温度をリアルタイム計測して最適温度を保つ、すなわち、はんだのぬれ広がりの状態に合わせて過不足のないようにレーザパワーを制御することで、良好なはんだ付けを行うことができる(図4)。
レーザ照射時間は数十ms〜数百msのパルスであり、電極温度を最適温度に保つためには10ms程度の時間間隔でレーザパワーを変化させる必要があり、赤外線センサの応答速度は1ms以下である必要がある。
図4に示すように、照射の初期はレーザパワーを控え、中盤から後半にかけての熱容量が大きくなる時期にはレ−ザパワーを強くするとともに、10ms程度の時間間隔でレーザパワーの強さを制御している。
【0014】
このように、温度計測に用いる赤外線の波長が1.5〜2.5μmである赤外線センサと、加熱手段として用いるレーザ光の波長が1μm未満であるレーザ発振器を備えることによって、照射したレーザ光の反射光を赤外線センサが捕らえることなく、電極温度を正確、かつ、リアルタイムで検知して最適な温度条件になるようにレーザの出力を制御することができ、容易に、かつ高品質の接合が実現できる。
なお、レーザ発振器は、その波長が1μm未満であればよく、レーザ光源は半導体レーザに限る必要はなく、他のレーザ光源も使用できる。同様に、赤外線センサは、その波長が1.5〜2.5μmで応答速度が1ms以下であればよく、検出素子をInGaAsに限定するものではない。
【0015】
実施の形態2.
図5は本発明のレーザはんだ付け装置の別の実施の形態を例示したものである。なお、図1において説明した構成要素については同じ符号で示して説明を省略する。
図5に示す装置と図1に示す装置との相違点は、赤外線センサ5の前にフィルタ4を設けた点にある。すなわち、電極12から放射される赤外線はフィルタ4を透過して赤外線センサ5で捕らえるようにしている。このフィルタ4は、例えば1.5μm未満の赤外線は遮断し、1.5μm以上の赤外線を透過するものである。
このフィルタを使用すれば、赤外線センサが1.5μmより短い波長の赤外線に対しても感度が有る場合でも1.5μm未満の赤外線は赤外線センサには到達しないので、実施の形態1と同様にレーザ光の影響を排除することができる。これによって得られる効果もまた、実施の形態1と同様である。
【符号の説明】
【0016】
1 レーザ発振器、2 光ファイバ、3 レーザ出射ヘッド、4 フィルタ、5 赤外線センサ、6 制御装置、7 糸はんだ、8 はんだ供給器、9 電子部品、11 プリント基板、12 電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度計測に用いる赤外線センサと、加熱に用いるレーザ発振器と、前記レーザ発信器から出力されたレーザ光をはんだ付け対象物に集光するレーザ出射ヘッドと、前記赤外線センサの計測結果に基づいてレーザ発振器の出力を制御する制御装置とを備え、前記赤外線センサの実効波長は1.5〜2.5μm、応答速度が1ms以下であり、かつ、レーザ光の波長が1.0μm未満であることを特徴とするレーザはんだ付け装置。
【請求項2】
温度計測に用いる赤外線センサと、前記赤外線センサの直前に設けられ、1.5μm未満の赤外線は遮断し、1.5μm以上の赤外線を透過するフィルタと、加熱に用いるレーザ発振器と、前記レーザ発信器から出力されたレーザ光をはんだ付け対象物に集光するレーザ出射ヘッドと、前記赤外線センサの計測結果に基づいてレーザ発振器の出力を制御する制御装置とを備え、レーザ光の波長が1.0μm未満であることを特徴とするレーザはんだ付け装置。
【請求項3】
温度計測に用いる赤外線センサと、加熱に用いるレーザ発振器と、前記レーザ発信器から出力されたレーザ光をプリント基板の電極に集光するレーザ出射ヘッドと、前記赤外線センサの計測結果に基づいてレーザ発振器の出力を制御する制御装置とを備え、プリント基板上の電極温度を前記赤外線センサで計測してレーザの出力を制御することを特徴とするレーザはんだ付け方法。
【請求項4】
赤外線センサの実効波長は1.5〜2.5μm、応答速度が1ms以下であり、かつ、レーザ発信器のレーザ光の波長が1.0μm未満であることを特徴とする請求項3記載のレーザはんだ付け方法。
【請求項5】
レーザ照射時間は数十〜数百msとし、照射の初期はレーザパワーを控え、中盤から後半にかけての熱容量が大きくなる時期にはレーザパワーを強くするとともに、10ms程度の時間間隔でレーザパワーを制御するようししたことを特徴とする請求項3または請求項4記載のレーザはんだ付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−260093(P2010−260093A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114232(P2009−114232)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】