説明

レーザ光を用いた透明板の表面と内部へのマーキング

【課題】 同一の装置で透明板の表面と内部にマーキングする方法と、その実施に用いられる露光装置と、その露光装置を使って、今迄市場では見られなかった表面と内部にマーキングした新しいタイプのマーキング透明板を提供する。
【解決手段】レーザ光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノミラー15を備えたガルバノ14とガルバノミラー17を備えたガルバノ16からなるガルバノメータを用いて偏向し、fθレンズ1を介して所望位置に走査するレーザビームスキャナとを設け、且つ前記fθレンズ1とワーク2間に挿入・退避自在の透明な平行平面板3を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明板、詳しくは、透明ガラス板または透明プラスチック板の表面と内部へのマーキングを行う方法とその実施に用いられるレーザ光を用いた露光装置とマーキングされた透明板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板(ワーク)の表面のレジストに2Dコード等を露光するレーザ光を用いた露光装置と、ガラス基板の内部に所謂インナーマーキングという形でマーキングする露光装置は存在していた。
【0003】
しかし、同一の装置でガラス表面と内部にマーキングする露光装置は存在していなかった。それは表面と内部とで焦点位置が違う為に、同一装置で行う事は不可能と考えられていたからである。
【0004】
従って、表面と内部にマーキングを施したガラス基板もこの世の中には存在しなかった。
【特許文献1】特開平9−103893号公報
【特許文献2】特許第3029045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、同一の装置で透明ガラス板または透明プラスチック板等の透明板の表面と内部にマーキングする方法とその実施に用いられる露光装置を提供することを第1の目的とし、第2の目的はその露光装置を使って、今迄市場では見られなかった表面と内部にマーキングした新しいタイプのマーキング透明板を提供しようとするものである。
【0006】
前記第2の目的は、例えばガラス基板(ワーク)の表面と内部に、数字、文字、アルファベット、記号、図形、マーク、2Dコード等のデータを同一の露光装置でマーキングすることにより、狭い余白に2倍のデータ量を簡単且つ経済的にマーキングすることが出来、そして表面と内部にマーキングされたワークは、アクシデントにより一方のデータが消えても大丈夫なようにすることが可能となり、データの安全性を確保することができ、また、内部にマーキングするデータを、表面にマーキングしたデータを検出する装置では、検出されないものとすることにより偽造防止機能を持ったワークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、請求項1記載の発明は、透明板の表面のマーキングは、レーザ光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノメータを用いて偏向し、fθレンズを介して所望位置に走査するレーザビームスキャナを備えた露光装置によりマーキングし、透明板の内部のマーキングは前記露光装置のfθレンズと透明板間に透明な平行平面板を挿入してマーキングを行うことを特徴とする透明板の表面と内部へのマーキング方法である。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、レーザパワーを可変にしたことを特徴とする透明板の表面と内部へのマーキング方法である。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、透明板の内部へのマーキングは、パルス幅が10−8秒より短いレーザを使用することを特徴とする透明板の表面と内部へのマーキング方法である。
【0010】
請求項4記載の発明は、レーザ光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノメータを用いて偏向し、fθレンズを介して所望位置に走査するレーザビームスキャナとを有し、且つ前記fθレンズとワーク間に挿入・退避自在の透明な平行平面版を配置したことを特徴とするマーキング装置である。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、レーザパワーを可変にしたことを特徴とするマーキング装置である。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項4または5記載の発明において、パルス幅が10−8秒より短いレーザを使用することを特徴とするマーキング装置である。
【0013】
請求項7記載の発明は、表面と内部に同一または異なる数字、文字、アルファベット、記号、図形、マーク、2Dコード等のデータをマーキングしたことを特徴とする透明ガラスまたは透明プラスチックから成るマーキング透明板である。
【0014】
請求項8記載の発明は、表面と内部に同一または異なる数字、文字、アルファベット、記号、図形、マーク、2Dコード等のデータをマーキングし且つパルス幅が10−8秒より短いレーザを用いて、内部マーキングしたデータの一部又は全部を肉視出来ない状態にしたことを特徴とする透明ガラスまたは透明プラスチックから成るマーキング透明板である。
【0015】
図1及び図2は請求項1記載の発明の要部の構成及び作用効果を示す模式図で、図1は例えばガラス基板2の表面にマーキングする場合、図2は挿入、退避自在の透明な平行平面板3をfθレンズ1’とガラス基板2の間に配置してガラス基板2の内部にマーキングする場合の状態を示すものである。
【0016】
尚、これら図1と図2は本発明に係るレーザマーキング露光装置の従来の装置とは異なる要部のみを示したもので、レーザ光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノメータで偏向させ、fθレンズ1’を介して所望位置に走査するレーザビームスキャナは公知の装置と同様なので省略している。
【0017】
従って、図1に示す状態では、従来装置と同様に、ガラス基板2の表面にマーキングすることができる。
【0018】
図2はfθレンズ1’とガラス基板2の間にガラス又はプラスチック製の透明な平行平面板3を挿入した場合で、このように平行平面板3を挿入すると、レーザ光Lの焦点位置が平行平面板3による分だけ下方に移動するので、平行平面板3の厚みや屈折率を選択することにより、ガラス基板2の内部にマーキングすることができる。尚、レジスト塗布ガラス基板にマーキングする場合はレーザパワーを低下させることは勿論である。
【0019】
図2に示したものは平行平面板3が1枚の場合であるが、屈折率或いは厚さの違うものを複数枚備え、その複数枚の平行平面版を適切に選択することにより、ガラス基板2の表面からのマーキング位置(距離)を選択することができる。
【0020】
ここで、前記平行平面板を配置する位置に制限はないが、レーザ光の移動範囲の狭いfθレンズに近い位置の方が平行平面板の大きさが小さいもので済むので、fθレンズに近い位置に設けることが好ましい。
【0021】
マーキングに使用するレーザは1064nmの波長のNd−YAGレーザ又は、第2高調波の532nm、又は第3高調波の355nm、または第4高調波の266nmや、193nmのエキシマレーザ(ArF)あるいは249nmのエキシマレーザ(KrF)の波長のレーザを使用する。ガラスへのレーザ光の吸収率は波長λに大きく依存し、特に紫外光の方が、より強力に吸収される。即ち波長が短いほうがシャープなマーキングが可能となる。
【0022】
よって、シャープなマーキングを行う場合はNd−YAGレーザの第4高調波(266nm)や193nmのエキシマレーザ(ArF)や249nmのエキシマレーザ(KrF)が効果的である。
【0023】
加工面のシャープさはパルスの幅によっても違ってきて、ns(ナノ秒)といわれる10−7秒から10−9秒よりも短いps(ピコ秒)といわれる10−10秒から10−12秒のレーザを用いた方が加工境界面が綺麗である。
【0024】
プラスチック製ワークへの加工は波長10.6μmのCOレーザが、最もよく吸収されるので、プラスチック製ワークにマーキングする場合はCOレーザを使用すると良い結果が得られる。
【0025】
本発明の場合は、プラスチックが透明である必要があるのでワークとしてはアクリルやポリカーボネイトのような非結晶性のプラスチックを用いる。
【0026】
従って、前記第3高調波或いは第4高調波の短波長レーザで1パルス10−8秒以下のものを使用して目視不能な小さいコードをマーキングすることにより、専用の読取装置のみを持ち、前記目視不能のマーキングの書込みの手段を知らない模造者には真正のマーキング透明板の模倣ができないので、模造品対策にも使用できるものである。
【0027】
小さいコードを使用するには公知のようにレーザを用いたスポット径Wは、W=1.27λf/Dで表されるので、小さいスポット径を得るためには短い波長と短い焦点距離、大きな径の入射ビームが必要なことがわかる。ここでλは波長、fは焦点距離、Dは入射ビーム径を示す。
【0028】
fとDは設計的に選択可能であるのでλを小さくするためにNd−YAGレーザの第3高調波である355nm或いは第4高調波である266nmの波長を使用する。
【0029】
勿論、小さいコードにとらわれず、スポットを横に重ねることにより大きなスポット径にして、大きなコードを作成することもできるし、最初から大きなスポット径になるようなfとDを設計的に選択することもできるのは勿論である。
【0030】
また、高いピークパワーと短いパルス持続時間を持つ長短レーザパルスにより、熱拡散などの熱影響が生じる前に、材料はすばやくイオン化されて蒸発するため、レーザパルスがエネルギーを材料中に蓄える短い時間内に、ターゲットの照射された領域内のエネルギーが周囲に伝播して失われることがないので、加熱とイオン化が、ほぼ照射領域だけに局所化されるためガラス基板内部でターゲット部分でのクラックの発生が抑えられる。そのためパルス幅としては10−8秒以下のレーザを用いて30μm以下の小さいスポットを周りにクラックを発生させずに得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
前記請求項1記載の発明によると、1台の露光装置で、透明板(ワーク)の表面と内部へのマーキングを行うことができる露光装置を提供することが出来、しかもワーク内部へのマーキングの際の焦点距離の変更を行うことが、ズームレンズ等を用いるものに比し、適確で品質の良いマーキングを行うことが出来るばかりでなく、焦点距離変更機構を簡単且つ安価に提供することができる。
【0032】
また、請求項2記載の発明によれば、レーザパワーが小さくて済むレジスト塗布ガラス基板のマーキングをする場合などに対応することができる。
【0033】
また、請求項3記載の発明によれば、偽造防止に紙幣などに入れる透かし効果のあるマーキングを行うことができる。
【0034】
また、請求項4記載の発明によれば、ワークの表面と内部へのマーキングを行うことが出来る露光装置を提供することができる。
【0035】
また、請求項5記載の発明によれば、レーザパワーが小さくて済むレジスト塗布ガラス基板のマーキングなどに対応出来る露光装置を提供することができる。
【0036】
また、請求項6記載の発明によれば、偽造防止に紙幣などに入れる透かし効果のあるマーキングが出来る露光装置を提供することができる。
【0037】
また、請求項7記載の発明によれば、マーキングした情報量を従来の2倍の透明板を提供することができ、また表面と内部に同じデータをマーキングした場合は、アクシデントにより一方のデータが消えても支障のない透明板を提供することができる。
【0038】
また、請求項8記載の発明によれば、偽造防止用や発行者が必要な隠した情報をマーキングした透明板を提供することができる。
【実施例1】
【0039】
図3は、実施例の概略構成を表す斜視図で、図示を省略したレーザ光を発するレーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノ14に取付けたガルバノミラー15に入射させ、反射されたレーザ光をガルバノ16に取付たガルバノミラー17により下方に反射させたfθレンズ1と透明な平行平面板3を介してガラス基板2(ワーク)に照射させ、内面のマーキングを行う。
【0040】
ワーク2の表面のマーキングを行う場合は、透明な平行平面板3を側方へ移動退避させる。
【0041】
図4及び図5は1枚の平行平面板3をfθレンズ1とガラス基板2間に挿入・退避させる場合の実施例を示すもので、透明な平行平面板3を平行平面板押さえ9で取りつけたホルダ4をベース5に回動自在に設け、ホルダ4の軸10を歯車6,7を介してステッピングモータ8で回転させるようにしたものである。尚、11は前記歯車7を取りつけたステッピングモータ8の軸である。
【0042】
平行平面板3は、平行平面板3をfθレンズの視野内に挿入した場合、レーザ光がワーク2の内面に焦点を結ぶような厚さまたは屈折率のガラスまたはプラスチックを使用している。
【0043】
前記特許第3029045号公報に開示されるインナーマーキング方法及び、装置では、垂直に立っている瓶のようなものの内面に対するマーキングを想定しているため、マーキング用ビームの高さ方向の焦点移動手段としてステッピングモータを用い、また、焦点距離側にはズームレンズで焦点を合わせるという方法を取っている。
【0044】
しかしながら、焦点距離の変更をズームレンズで行う方法は、集光性能が落ちることと、制御装置が高価になるという問題がある。
【0045】
ところが、本発明によれば、平行平面板の簡単な操作による位置決めで、ガラス基板内面にマーキングできると共に、ガラス基板表面にもマーキングができ、データの安全性に有効であるばかりでなく、模造品対策にも非常に有効な方法を提供するものである。
【実施例2】
【0046】
前記実施例は、1枚の平行平面板3を用いた場合であるが、厚さや屈折率の違う平行平面板を用いる場合は、複数の平行平面板を重ねて設け、その中の1枚を選択して回動させる構造や、フィルムプロジェクターのフィルム送り装置のように、一列に並設した平行平面板をスライドさせる構造、あるいは、ターレット式フィルターのような構造にする。
【0047】
これらの複数の平行平面板変更装置を用いれば、比較的簡単な機構及び制御でガラス基板2の表面と内面にマーキングすることができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ワーク表面にマーキングする場合の本発明の要部構成を示す模式図
【図2】ワーク内部にマーキングする場合の本発明の要部構成を示す模式図
【図3】本発明実施例の要部構成を示す斜視図
【図4】本発明実施例における平行平面板の移動装置の一部截断側面図
【図5】図4の平面図
【符号の説明】
【0049】
1,1’ fθレンズ
2 ガラス基板
3 平行平面板
4 ホルダ
5 ベース
6,7 歯車
8 ステッピングモータ
9 平行平面板押え
10,11 軸
12 待機位置
13 挿入位置
14,16 ガルバノ
15,17 ガルバノミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明板の表面のマーキングは、レーザ光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノメータを用いて偏向し、fθレンズを介して所望位置に走査するレーザビームスキャナを備えた露光装置によりマーキングし、透明板の内部のマーキングは前記露光装置のfθレンズと透明板間に透明な平行平面板を挿入してマーキングを行うことを特徴とする透明板の表面と内部へのマーキング方法。
【請求項2】
レーザパワーを可変にしたことを特徴とする請求項1記載の透明板の表面と内部へのマーキング方法。
【請求項3】
透明板の内部へのマーキングは、パルス幅が10−8秒より短いレーザを使用することを特徴とする請求項1または2記載の透明板の表面と内部へのマーキング方法。
【請求項4】
レーザ光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられたレーザ光をガルバノメータを用いて偏向し、fθレンズを介して所望位置に走査するレーザビームスキャナとを有し、且つ前記fθレンズとワーク間に挿入・退避自在の透明な平行平面版を配置したことを特徴とするマーキング装置。
【請求項5】
レーザパワーを可変にしたことを特徴とする請求項4記載のマーキング装置。
【請求項6】
パルス幅が10−8秒より短いレーザを使用することを特徴とする請求項4または5記載のマーキング装置。
【請求項7】
表面と内部に同一または異なる数字、文字、アルファベット、記号、図形、マーク、2Dコード等のデータをマーキングしたことを特徴とする透明ガラスまたは透明プラスチックから成るマーキング透明板。
【請求項8】
表面と内部に同一または異なる数字、文字、アルファベット、記号、図形、マーク、2Dコード等のデータをマーキングし且つパルス幅が10−8秒より短いレーザを用いて、内部にマーキングしたデータの一部又は全部を肉視出来ない状態にしたことを特徴とする透明ガラスまたは透明プラスチックから成るマーキング透明板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−704(P2009−704A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162606(P2007−162606)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000139366)株式会社ワイ・イー・データ (39)
【Fターム(参考)】